投資2兆円でも発電はまだ先:大場紀章氏が語る核融合の現在地点

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概要

ものづくり太郎チャンネルに、ポスト石油戦略研究所の大場紀章氏が出演した対談の後編である。前編では中東情勢と石油供給を扱った。後編のテーマは核融合で、世界で約2兆円の投資が集まる一方、実際には何がどこまでできているのかを聞いている。大場氏は投資熱の背景に超伝導技術の進歩とAI向け電力需要があると説明する。ただし、世界のエネルギー供給を担うほどの確信は持っていないという立場を明確にしている。

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前編のおさらい:石油供給をめぐる混乱

冒頭では前編の内容を簡単に振り返っている。ニュースとして最も大きかったのは中東から石油が来なくなったことだと大場氏は言う。それ以外にも、ウクライナがロシアの石油精製設備の約3分の1を破壊した例が挙がった。ロシアの原油をインドが輸入し、ガソリンやディーゼルに精製してまた輸出するという流れがあり、その生産設備にも攻撃の影響が及んだと説明している。こうした石油の話から少し離れて、後編は核融合を扱う。

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核融合の基本:核分裂との違い

ものづくり太郎氏は以前、入門書を読んで核融合の解説動画を作っている。大場氏はこの動画を、知識ゼロの人にとっては非常に勉強になる内容だと評価した。一方で、核融合への期待値についてはいろいろな評価があるだろうと付け加え、自身の見方が楽観的ではないことをにおわせた。

ものづくり太郎氏の説明では、核融合の原材料は水に由来する。原子同士を融合させて別の元素を作り、そのときに出るエネルギーで水を沸騰させてタービンを回す。ただし出てくるエネルギーがあまりに大きいため、物質の容器に直接閉じ込めることはできない。そこで高温のプラズマを磁場の中に閉じ込め、継続的な発電を目指している。

核分裂は逆の現象である。ウランやプルトニウムのような大きな原子の原子核が割れるときにエネルギーが出る。大場氏は鉄が最も安定な元素だと説明した。鉄より軽い元素は融合するとエネルギーが出て、鉄より重い元素は分裂するとエネルギーが出る。ものづくり太郎氏が「みんな鉄を目指していく」とまとめると、大場氏は最後はみんな鉄に落ち着くと応じた。宇宙の終わりは鉄になるという考え方もあるが、本当かどうかは分からないとも述べている。

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ブームの起点は超伝導線材

最近の核融合ブームについて、大場氏はきっかけを作ったのはある意味で日本であり、その鍵は超伝導体だと話す。超伝導体は電気抵抗がゼロになるため、リング状にして一度電流を流すと流れ続ける。ただし常温では成立せず、極低温まで冷やすエネルギーが必要になる。ここまでのものづくり太郎氏の理解を、大場氏はその通りだと認めた。

それまでの核融合開発の中心は、フランスで建設中の国際プロジェクト「ITER(イーター)」だった。大場氏によれば、ITERは唯一実現性のある核融合プロジェクトとされてきた。しかし、その前提にある超伝導技術は「めちゃくちゃ脆弱」だったという。ITERが使うのは金属系の超伝導体で、強く冷やさなければならず、強い磁場もあまり出せない。

構想から時間がたつ間に、新しい超伝導体が実用化に近づいた。1980〜90年代に日本が開発を進めた超伝導の電線である。発明はアメリカだったと思うと大場氏は述べている。素材は焼き物、つまりセラミックだった。

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水銀からセラミックへ:超伝導体の変遷

大場氏は超伝導体の歴史もたどった。最初の発見は100年以上前で、水銀を冷やしていたら突然電気抵抗がなくなった。その後さまざまな金属を冷やしたところ、多くが超伝導になることが分かった。ただし強く冷やす必要があるため、より高い温度で超伝導になる物質が探されるようになった。合金の次に試されたのがセラミックである。セラミックはもともと電気を通さない材料だが、冷やすと比較的高い温度で超伝導になることが分かった。

実用化されているセラミック超伝導体の転移温度は90K台、約マイナス180度だという。液体窒素はマイナス196度なので、液体窒素で冷やせば超伝導状態を保てる。大場氏はこの点が非常に大きいと強調した。昔の金属系超伝導体はマイナス270度近くまで冷やす必要があり、液体ヘリウムを使う大がかりな冷却が必要だったからだ。

問題は、セラミックを電線にすることの難しさだった。焼き固めた材料は曲げると割れてしまい、加工も難しい。セラミック超伝導体は80年代ごろに見つかったが、電線にする研究が長く続いた。フジクラや住友電工などの電線メーカーが取り組み、金属のフィルムでサンドイッチする構造にセラミックを付着させる方法で開発を進めた。電線として使えるようになったのは2020年前後だと大場氏は説明している。

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1メートル級の装置という設計思想の転換

この新しい高温超伝導の線材を使えば、それほど冷やさずに強い磁場を出せる。ITERは人が何十人、何百人も入るほど巨大な設備だが、新しいコイルを使えば核融合装置を1メートル程度まで小さくできることが計算上は分かっている、と大場氏は言う。

大場氏はこれを、日本の超伝導線材が実用化に近づいたことで設計思想が全く変わった革命だと位置づける。そこにアメリカのMITなどが目をつけ、いけるかもしれないという見方が広がって、2020年代に一度ブームが起きた。ものづくり太郎氏はこれを聞いて、日本はまたいいところだけ持っていかれるのではないかと懸念を口にしている。

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レーザー核融合の「4倍」が投資家を動かした

磁場で閉じ込める方式とは別に、レーザー核融合という方式もある。小さな球の中に重水素と三重水素を入れ、あらゆる方向から同時にレーザーを当てる。瞬間的に1億気圧ほどの状態になり、その瞬間だけ核融合が起きる。ものづくり太郎氏がエネルギーをどう取り出すのかと尋ねると、大場氏は笑いながら、それはまた今度考えよう、まずは核融合を起こそうという段階だと答えた。

それでもこの方式が重要なのは、核融合の成績としてはこちらのほうが良いからだ。大場氏によれば、2022年ごろにアメリカで行われたレーザー核融合の実験で、入力したレーザーエネルギーの約4倍の熱が出た。ただし、最終的にタービンを回して発電しなければ意味がない。大場氏はこの結果を「実用性とは関係ない実験結果」としている。それでも投資家が沸き立ち、何千億円という資金がつくようになった。

日本はその間もITERなどを地道に続けてきた。国の予算は数十億円規模である。アメリカで装置を小さくできるという話とレーザーで4倍のエネルギーが出たという話が重なり、投資家が一気に資金を投じた、と大場氏は振り返る。その後、金利上昇などで投資は一度絞られたという。

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再注目の理由はAIデータセンター

いま再び核融合が注目されている理由について、大場氏はMicrosoftとGoogleがデータセンター向けの電力契約を核融合企業と結んだことを挙げる。ものづくり太郎氏は、AI時代にはエネルギーがボトルネックになると言われていると応じた。現状の電源はガスなどが中心で、原子力のさらに次を目指す動きだと受け止めている。最初に実現した企業が圧倒的に強くなり、AIをいくらでも使えるようになるという期待がある、という見方で二人は一致した。

その結果、世界の核融合への投資額は140億ドル、約2兆円に達したと大場氏は言う。ものづくり太郎氏が、誰もエネルギーを取り出してタービンを回していないのに2兆円の市場になっていると驚くと、大場氏は「タービンどころじゃない」と答えた。エネルギー収支がプラスになったのは先ほどのレーザー核融合だけだという。

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10年以上遅れるITER

ITERの現状について、大場氏は厳しい見方を示した。ITERはまだ何も動いておらず建設中で、2024年にはほぼ全面的に壊れていることが判明し、作り直している最中だという。どこが壊れているのかという問いには「ほぼ全部」と答え、ひびが入っていることなどが分かったと説明した。当初は2025年にファーストプラズマの予定だったが、現在は2034年ごろとされ、10年近く遅れている。

さらに大場氏は、ITERのコンセプトが高温超伝導以前の設計思想のままである点を問題視する。そこまで大きく作る必要はないかもしれないのに、そのまま進めているため、他に先を越される可能性があるという。ものづくり太郎氏も、規模が大きいとプロジェクトも大きくなって制御が難しく、改善のサイクルを回しにくいと指摘した。一方で、1メートル級の装置ができれば本当に夢の核融合になると期待を示している。

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プラズマ閉じ込めとエネルギー収支の壁

大場氏によれば、磁場閉じ込め方式で問われているのは、タービンを回す以前に、プラズマをどれだけの時間閉じ込められるかである。発電するには永続的に閉じ込めなければならない。現状は1000秒程度だという。

エネルギー収支で見ると、プラズマの維持に使うエネルギーをどれだけ上回ったかという指標でも、1を超えたかどうかという水準にとどまる。これはあくまでプラズマ維持に限った比較で、全体のエネルギーに換算すればマイナスになる。熱から発電への変換でさらに目減りする。この指標はアルファベットのQで表すQ値と呼ばれる。

ものづくり太郎氏が「本当に夢ですね」と言うと、虫眼鏡でお湯を沸かして火力発電所ができそうだと言っているようなレベルだという例えが出た。それでも原理的にできそうなら資金を出すという投資家が次々につき、大きな産業になった。二人はこれをAIと同じようなバブルだと表現した。大場氏は現在60社近くある事業者のうち、生き残れるのは1〜2社ではないかと見ている。

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シリコンバレーの挑戦文化と投資家の説得

ものづくり太郎氏は、サンフランシスコで開かれた核融合関連のイベントに参加した経験を語った。参加者は投資家や起業家が中心で、まだそういう段階だという印象を受けたという。大場氏は、技術が分からない投資家をどう納得させるかという戦いになっていると応じた。

一方でものづくり太郎氏は、ベイエリアには挑戦者が次々に集まる点がすごいと評価する。約1カ月半前に訪れたTenstorrentでは、ジム・ケラー氏の「NVIDIAを俺が倒す」というような姿勢に触れたという。ほとんど失敗すると思ったらやらない、というマインドではだめで、少しでも可能性があるところに張り、それが世の中のためになるという考えで動いている。ものづくり太郎氏はこれをアメリカ特有の文化と捉えた。中国の深センにも行ったが、エネルギッシュではあるものの文化は違い、アメリカには知能が集まる風土があると比較している。

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「無理とは言えない」が、統合のハードルは高い

大場氏は、現段階で核融合が世界のエネルギー供給を担うという確信は全く持っていないと明言した。そのうえで、誰かがいきなり最初に実現してしまう可能性は無理とは言えないとも述べている。例として、超伝導コイルを開発したある事業者は、コイルはできて磁場も作れた、あとはプラズマの閉じ込めだけだと語っており、そこまでできるのかという受け止めが広がっていると紹介した。

これに対しものづくり太郎氏は、エンジニアリングでは各技術要素を重ね合わせ、実際に動かさなければならない点が難しいと指摘した。大場氏もそのハードルは高いと認めている。現在、2027年や2028年までの実現にコミットしている事業者がいくつかあり、それが失敗すれば一気に冷え込むかもしれない。逆にイーロン・マスクのような化け物が出てくるかもしれず、世の中は分からないと大場氏は話す。

ものづくり太郎氏はAIを引き合いに出した。3年ほど前には来ないと言う人もいたが、結局ここまでの産業になった。利益モデルができていないと批判する人もいるが、ならばこれだけの資金調達をやってみろという話だと述べている。大場氏は、机上ではできると言われているものの、実際には夢のエネルギーから抜け出せておらず、実はほとんど進歩していないとまとめた。

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安全性と放射性廃棄物

ものづくり太郎氏は、核融合は核分裂と違って安全なエネルギーだと指摘した。反応は自然に止まるため、連鎖反応がない。大場氏も、いわゆる炉心溶融のようなことは起きにくいと同意した。ただし中性子が大量に出るため、周囲の材料はすべて放射性廃棄物になる。それは仕方がないとしたうえで、暴走の危険がなく、大きなエネルギーを取り出せる可能性がある点が魅力だと二人は確認した。

現在地点について、ものづくり太郎氏は、まず超高温を作り、それを閉じ込めることが難しいという段階だと整理した。発電に至るにはさらに2つほどの段階がある。熱を取り出すことと、その熱で水を沸騰させてタービンを回すことである。後者は既存の技術でできている、と大場氏は補足した。

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日本の強みはジャイロトロン

日本で核融合がこれほど話題になっている理由として、大場氏はもう一つジャイロトロンを挙げた。プラズマに使う電子管という部品で、作れるのは日本とロシアだけだという。核融合のプロジェクトが立ち上がって投資が集まると、各社が実験用に日本のジャイロトロンを買う。そのため一部の日本企業が沸き立っていると大場氏は説明する。

対談の最後に、ものづくり太郎氏は核融合の現在地点を追いたかったと述べ、反論がある人の声も歓迎するとした。2兆円の資金と大手IT企業の電力契約が集まる一方、プラズマ閉じ込めのエネルギー収支はようやく1前後にとどまる。その中で2027〜28年を目標に掲げる事業者が成果を出せるのかどうかは、未解決の問いとして残された。