プリント基板のアートワークでEMIはどこまで変わるのか――50MHz実験基板で「効く対策・効かない対策」を実測する

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概要

テクノフロンティア2026のイチケンラウンジでは、「電動化・ADAS時代の車載EMC最前線」をテーマに12の対談が行われた。本記事で扱うのはそのうちの1本、「基板アートワーク設計で変わるEMI ~効く・効かない対策を実測で確かめる~」である。聞き手はイチケン、話し手はプリント基板の設計・製造を手がける株式会社オンテックの講師だ。

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このセッションの問いは、基板設計の現場で「定説」とされているアートワーク上のノイズ対策が、放射ノイズの実測値として本当に効いているのかである。講師は簡単な実験基板を何種類も作って測定した。その結果、定説どおりのものもあれば、直感に反するものもあった。講師は結果の理由について、確証がないものは「私見」「予想」と断ったうえで説明している。

登壇者と実験基板の条件

オンテックは大阪に本社を置き、プリント基板の設計・製造・実装を社内で一貫して行う。ほかにシステムソリューション事業としてFA関係の製品も開発している。講師は小学5年でアマチュア無線の免許を取り、大阪・日本橋で部品を買ってラジオを組み立てていたという。平成元年に当時のオーエヌ電子株式会社(現オンテック)に入社し、最初はブラウン管テレビのアートワーク設計を担当した。当時は製図台に向かい、紙と鉛筆で設計していたそうだ。20年ほど前からは基板のシミュレーション業務が中心になり、基板シミュレーションの専門サイト「simulation-pcb.com」も運営している。

講師によれば、アートワークの違いがノイズに効くかどうかを製品レベルで確かめるのは難しい。そこで今回は、シミュレーションではなく実測とアートワークの関係を示すことにした。実験基板の回路はごく単純で、50MHzの発振器1つに22Ωのダンピング抵抗と5pFの容量負荷をつけただけのものだ。電源は単三乾電池4本の電圧をリニアレギュレータで3.3Vに落とす構成で、電源側からはノイズが出ないことを想定している。電源基板は共通にしておき、実験基板だけをバージョン違いで作って差し替えながら比較した。

測定対象は放射ノイズである。今回のセッションは車載メーカーの参加者が多かったが、紹介された結果は民生規格の3m法・10m法で測ったものだった。

配線長は短いほどノイズが少ないのか

最初のテーマは、信号線は短いほどノイズが少ないという一般的なイメージの検証である。一方の基板では、50MHz発振器のクロック信号を約130mmのマイクロストリップラインで配線した。もう一方の基板では、部品を最小間隔で隣接させて配線をごく短くした。

測定すると、短い方がややノイズが大きいという、イメージとは逆の結果になった。講師はこの理由について、信号線の影響よりも電源配線が長くなっている部分の影響が大きいのではないかと推測している。

ミアンダ配線の方がノイズが少なかった

次は、まっすぐ引いた約140mmのマイクロストリップラインと、蛇行させて約293mmまで伸ばしたミアンダ配線の比較である。直感的にはミアンダ配線の方がノイズが多そうに見えるが、実測では意外にもミアンダ配線の方が少なかった。

講師は「厳密にこうとは言い切れない」と前置きしたうえで、私見として次のように説明した。ミアンダ配線では隣り合う配線に互い違いの向きで電流が流れ、向かい合う部分で磁束が打ち消し合う。その結果、放射ノイズが減ったのではないか、という見方である。イチケンが50MHzという前提での結果かと確認すると、講師は周波数がもっと高くなれば結果が変わる可能性はあると答えた。

バイパスコンデンサーは「通り抜け」で配線すべきか

電源系のテーマでは、まずバイパスコンデンサーの配線を扱った。よく言われるのは、ICの電源ピンからバイパスコンデンサーを経由し、そこからスルーホールで電源層に落とす「通り抜け」構造にすることだ。比較用の基板では、電源ピンからバイパスコンデンサーまでの距離は同じにして、グランドビアの位置だけを変えた。つまり、通り抜け構造になっていない状態を作った。

こちらは予想どおりで、通り抜けていない方がはるかにノイズが多かった。ここでいうノイズは、発振回路から電源側にどれだけノイズが伝わったかを反映している。講師は、バイパスコンデンサーを手前に置かないと電源経路にノイズが漏れるためだと見ている。イチケンは、バイパスコンデンサーはなるべく近くに最短経路で置くという定説どおりだとまとめた。

通り抜け構造にしても改善しなかった例

続いて、ノイズの多かった配置を通り抜け構造に作り直し、改善するかを確かめた。結果はあまり良くならなかった。

原因について講師は「まだ確認できていない」と断っている。仮説は二つある。一つは、電源ピンと電源ビアの距離が近く、そこでクロストークが起きている可能性だ。もう一つは、グランド側の経路が通り抜けになっていないことが怪しいという見方である。これを確かめる次の実験基板は設計中で、秋ごろに発表したいと講師は話した。そのうえで、配線が長くなる場合や容量結合するほど近い場合には、パスコンを通り抜けない方が良い設計になることもありうると述べた。ただし今回のケースに限った結果であり、一概には言えないとも付け加えている。

パスコンを裏面に置くとき――ビアでの通り抜けとπ型フィルター

パスコンはICと同じ面に置くべきかという定説も検証した。同じ面に置いた基板と裏面に置いた基板を比べると、予想どおり裏面の方がノイズレベルは悪化した。講師は、ビアのインダクタンスがかなり影響していると考えている。これに加えて、通り抜け構造になっていないことも一因だと見ている。

そこで裏面配置のまま、いったんスルーホールを打ってバイパスコンデンサーを通してから電源配線につなぐ通り抜け構造にしてみた。するとノイズは5dBほど下がり、講師は通り抜け構造の効果は非常に大きいと評価した。部品面に置けない場合でも、ビアを使って通り抜け構造にすれば良い結果が得られる可能性がある。ただし講師は、これは理論上の話で、BGAパッケージなどでは電源ビアを余分に打つスペースはまったくないだろうとも指摘した。

その場合の選択肢として試したのが、裏面配置にCLCのπ型フィルターを追加し、その後に電源へ接続する方法である。これは劇的に効いた。

ただし、このときのフィルター配置はかなり場所を取っていた。アートワーク設計では面積を小さくするために部品を詰めて配置しがちである。そこでコンパクトな配置も試したところ、規制値を超えるほどではないものの、ノイズはやや悪化した。イチケンの読みでは3〜4dBほどの上昇である。講師は理由として、ノイズの多い電流が流れている部分がフィルター通過前のきれいな部分に隣接しており、そこからクロストークでノイズが伝わって放射しているのではないかと推測した。講師の結論は、面積との取り合いになるが、余裕があれば理想的なレイアウトにするのが良いというものだ。コンパクトにせざるを得ない場合でも、π型フィルターなしでバイパスコンデンサーを置くよりはるかに良い性能が出るだろうと述べている。

パスコンを並列にすると良くなるか

一般には、小さい定数と大きい定数のコンデンサーを並列にすることが多い。今回の実験では、同じ定数の0.1μFを2つ並列にした。結果はかなり効果があったと講師は評価している。

定数の異なるコンデンサーの並列については、講師がシミュレーション結果を示して注意を促した。1000pFと0.1μFを並列にした場合のインピーダンスカーブを見ると、0.1μFを2つ並べた場合よりも悪くなる帯域が出てくる。小さい定数のコンデンサーは高い周波数に効くと思われがちだが、同じサイズの部品ではESRが大きくなるため、期待したほどの結果にならないという。期待どおりのインピーダンスを得たいなら、PI解析などを使って定数を調整する必要があると講師は述べた。イチケンが、解析なしで0.1μFと1nFを「ポン付け」してインピーダンスを下げるのは難しいのかと尋ねると、講師は同じ定数を並列にする方が手っ取り早く確実だと答えた。

並列数を3個、4個と増やした場合については、インダクタンス成分が2個なら半分、3個なら3分の1になるだけで、だんだん効果が薄くなると説明した。付ければ付けるほど良くなるわけではない。

電源ラインの共振対策コンデンサー

電池から発振器までの長い電源配線に、共振対策として並列にコンデンサーを4つ入れた場合も試した。はんだ面に配置してノイズが多かったパターンと比べたところ、かなり良くなった。講師は、共振解析をしている人もいるだろうが、この対策はかなり効果があると見ている。

定数の決め方を聞かれると、講師は「適当でいい」と答えた。0.1μFで十分効果が出るとみており、シミュレーションで見る限り定数を変えても大きな差は出ないという。ただしESLについては、低いものを選んだ方が効果は大きいとした。

信号線のガードリングと内層配線

ここからは信号系のテーマである。まず50MHzのクロック配線を、グランドのガードリングで端から端までぐるりと囲んだ場合を測った。細いガードリングだったが、ノイズはしっかり下がった。イチケンの読みでは約4dBの改善で、講師も「結構効いている」という印象を持ったと述べている。

次に、配線を内層に入れればノイズが下がるという定説を確かめた。シールディングした表層配線と、上下をグランドに挟まれたストリップライン構造でL3層に入れた配線を比べた。確かに良くはなったが、講師の印象は「期待しているほどではない」というものだった。一部の周波数ではガツンと下がったものの、ピークが出ている周波数ではそれほど差がなかった。

これに関連してイチケンは、以前PS5を分解した経験を話した。CPUとDDRメモリをつなぐ配線が、PS5の世代によって表層にあったり内層にあったりしたという。講師は、今回の結果はあくまで50MHz帯のものだと応じた。DDR4やLPDDR4クラスになると内層に入れた方が良いという話もあり、実際そうだろうとも述べている。

グランドビアは多いほど良いのか

シールディングした配線の表層にグランドをベタで貼ったものと、シールド部分に15mmピッチでグランドビアを追加したものを比較した。一般にはノイズが下がりそうなイメージがあるが、結果はむしろ少し悪くなった。さらに5mmピッチでビアを大量に打つと、わずかだがさらに悪化した。

講師はこれも「確かなことは言えない」としたうえで、予想を述べた。グランドビアを多く打つとビアの垂直方向に同じ向きの電流が流れ、磁界が反発し合う向きになるため悪化するのではないか、というものだ。

イチケンが信号品質で見れば結果は違うのではと尋ねると、講師は20GHzまでの透過特性をシミュレーションした結果を示した。ビアがないものとあるものでは、ビアの多い方が明らかに高周波での損失が小さい。この基板は50Ωでインピーダンスコントロールしていないため反射は多いが、それでもビアを多く打った方が損失は少ないという。つまり信号品質の面ではビアは多い方が良いと講師は考えている。

放射ノイズの差が1dB程度なら、ビアを打って信号品質を上げた方がよいのではないか。イチケンのこの問いに対し、講師は周波数やアプリケーション次第だと答えた。RF系ならビアを多く打つ方が良いだろうが、今回の50MHzのようなクロック周波数では、神経質にビアを打ちまくる必要はないという考えである。

スリットまたぎと橋渡しパターン

グランドプレーンのスリットをまたいで配線するとノイズが増えるという定説は、実測でもそのとおりだった。ノイズはかなり増えた。

対策として、スリットをまたぐ箇所の部品面側に、グランドの配線を橋渡しのように設けた。するとノイズはかなり下がり、スリットまたぎのない配線と同等程度になった。グランド全体を埋めなくても、この程度の橋渡しで十分効果があったことを、イチケンは意外な結果だと評した。

直角配線は本当にノイズを出すのか

最後の実験は直角配線である。講師によれば、配線を直角に曲げるとコーナーで電子がぶつかってノイズが出る、と書いた本を見たことがあるという。「そんなことはないだろう」と思って実験基板を作ったそうだ。直角に曲げたパターンと、Rをつけてなだらかに曲げたパターンを比べると、差はほとんどなかった。イチケンの読みでは0.5〜1dB程度である。

信号品質については、講師は高い周波数では問題になりうると説明した。直角部分でインピーダンスが下がり、反射が大きくなる可能性があるからだ。また、直角配線には製造時にエッチング液が溜まって歩留まりが悪くなるという弊害もある。講師は直角配線を推奨しているわけではないと強調した。今回の実験で示したかったのは、この程度の周波数なら直角にしてもノイズが増えることはない、という点だという。Rをつけるべき帯域を聞かれると、講師はシミュレーションで見た感覚だと断ったうえで、10GHzあたりより上では直角が問題になり、それ以下では問題にならないのではないかと答えた。

EMIとシグナルインテグリティが衝突したとき

まとめとしてイチケンは、放射ノイズで見ると定説どおりの結果もあれば、そうでない結果もあったと振り返った。例えばグランドビアはEMC性能をあまり変えなかったが、信号品質は上げていた。このことから、EMIとシグナルインテグリティは切り離せない関係にあると感じたという。

そのうえで、両者がぶつかったときの優先順位を講師に尋ねた。講師は難しい問題だとしつつ、次のように答えた。信号品質は性能を担保するうえで非常に重要なので、信号品質を優先し、EMIは別の箇所で対策するのが一つの手である。一方で、EMIを先に対策しておくと後々楽になることもある。結局は物によるというのが講師の答えだった。通り抜け構造にしても改善しなかったケースの原因については、次の実験基板で検証する予定で、結論はまだ出ていない。