米中首脳会談は「パフォーマンス」だったのか ファクトシートの食い違い、「同盟国」発言、AIと出国制限をめぐる三者の議論

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概要

9月24日に開かれた米中首脳会談については評価が割れている。「中身がなかった」「トランプ大統領が失敗した」という見方もあれば、「習近平国家主席こそ何も得られなかった」という見方もある。この回では、ジャーナリストの峯村健司氏が司会を務め、東京財団主席研究員の柯隆氏、神田外語大学教授の興梠一郎氏と会談の実像を検証した。

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三人に共通するのは、会談は雰囲気づくりと「関係安定」の演出が中心で、米中双方とも実質的な成果は少なかったという見立てである。ただし、中身がないから軽視してよいとは考えていない。とくに峯村氏は、第二次世界大戦をめぐる「同盟国」発言や大国間の取引を思わせる動きを、国際秩序の変化の兆しとして警戒している。

「パフォーマンス」に終わった会談と、出せなかった共同声明

峯村氏に一言で評価を求められた柯隆氏は「パフォーマンス」と答えた。形式面は面白く、トランプ氏のもてなしぶりは目を引いた。しかし米中双方が得た果実は少なく、柯氏はその表れとして共同声明が出なかった点を挙げた。

記者会見がなかったことについて、柯氏は、習氏が原稿なしの受け答えを苦手としており、中国国内でも近年は総理が記者会見をしなくなったと指摘する。この政権が記者会見をしないことは前提として考えるべきで、注目すべきは共同声明を出せるかどうかだった。柯氏は、双方が相手に要求を出したものの応じてもらえず、共同声明は「出さなかった」のではなく「出せなかった」と見ている。

峯村氏は、2015年の習氏訪米時にホワイトハウスのローズガーデンでの共同記者会見を現場で取材した経験を紹介した。オバマ大統領(当時)から南シナ海の人工島造成やサイバーでの情報窃取をやめるよう公然と求められ、習氏はずっと不機嫌な表情を浮かべていたという。

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ファクトシートの食い違いが示す「取れなかったもの」

峯村氏は、米中それぞれの発表内容が大きく食い違っている点に注目した。ホワイトハウスのファクトシートには、中国がレアアースに対処すること、石炭の購入などが盛り込まれている。一方、中国外交部の発表にはこうした言葉が見当たらない。違法薬物の扱いも微妙に異なる。米中両軍の危機対応に関する覚書への署名は中国側の発表にだけ載っている。「スーパーインテリジェンス」をめぐる対話に習氏も同意したとアメリカ側は説明しているが、中国側の発表には一言も出てこない。

興梠氏は「このファクトシートがすべて」だと述べた。貿易については28日により詳しい文書が出るとされているが、大枠はファクトシートの方向性で決まっているという見立てだ。そのうえで、双方が最も欲しかったものを一つずつ確認していった。

中国が最も欲しかったのは、アメリカによる「台湾独立に反対する」という表明だった。しかしアメリカのファクトシートには台湾問題への言及がない。中国側の発表でも、習氏が一方的に、アメリカが独立に反対することを「希望する」と述べただけで、トランプ氏がそれにどう応じたかは空白になっている。半導体の輸出規制緩和も中国の要望だったとみられるが、エヌビディアの半導体などをめぐる規制解除は全く盛り込まれなかった。

アメリカが最も欲しかったレアアースについても、「引き続き取り組む」「出荷を適切な水準に戻すことを目標とする」という表現にとどまった。興梠氏によれば、これは継続協議の段階であり、中国は「売ります」とは言っていない。石炭をアメリカから輸入するという項目はアメリカ側の文書にあるが、中国側は触れていない。興梠氏は、互いに最も関心のあった個別テーマは先送りされたと総括した。

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「関税引き下げで合意」報道への疑問

興梠氏が問題視したのは、日本を含む一部の報道が「関税引き下げで合意」と伝えたことだ。英文を確認すると、両国は約300億ドル相当の非機微品目、つまり衣料品のような敏感でない品目について、より有利な関税待遇を与えるための「勧告(リコメンデーション)」で意見が一致したにすぎない。両国が設置した「ボード・オブ・トレード」という組織が、引き下げた方がよいと勧告する段階だという。

興梠氏は、見出しだけを読むとうまくいったように見えるが、リコメンデーションは「軽い」と述べた。代わりに今回のキーワードになっているのが「建設的な戦略的安定」といった関係安定の言葉であり、首脳同士にとってはそれ自体に価値がある。そのための視覚的な演出が今回の会談の最大の目的だった、というのが興梠氏の見方である。

ワシントンで聞いた「接遇ばかり」の準備と、履行されない5月合意

峯村氏は会談直前までワシントンに滞在し、トランプ政権の関係者と話してきた。関係者によれば、中国とのやり取りはほとんどが接遇の調整だった。レッドカーペットを敷いてほしい、このワインを使ってほしいといった要望で、今回は1972年のニクソン訪中時に使われたワインが出されたという。そうした細かい話ばかりで実質(サブスタンス)がなかったと、関係者は嘆いていたという。

実質が伴わなかった最大の理由として、峯村氏が経済官僚から聞いたのは、5月の合意がほとんど履行されていないことだった。ボーイング機200機や農産物を購入するとしたが、実行されたのは大豆の一部程度にとどまる。最も大きいのはレアアースで、あれほど開放すると言ったのに、実際に計算すると5〜6割程度しか出していないという。

これに対して柯氏は、中国は「守らない」のではなく「守れない」のだと反論した。半導体のバリューチェーンの中で中国が唯一握っているのがレアメタルであり、これを手放せば次の交渉で使えるカードがなくなる。航空機についても、柯氏によれば中国の三大航空会社である中国国際航空、東方航空、南方航空はいずれも上半期に大きな赤字を出している。ボーイングに発注したのは短距離用の737型で、日中の地方空港を結ぶ直行便が止められている状況では、買っても格納庫に収めるしかない。柯氏は、今回中国側の経営者が誰も同行しなかった点も挙げた。当初は大規模な経済人の同行が取り沙汰されたが、中国側は何も言っておらず、トランプ氏が「間もなく大きな合意ができる」と語り、それを米メディアが増幅していただけだと柯氏は見る。ベッセント財務長官と中国側の閣僚協議が終わった後も記者に何も語らなかった時点で、実質的な交渉は終わっていたという。

自動車と直行便に見えたトランプ氏と現場のギャップ

興梠氏は、トランプ氏の発言と米国内の現場との間に構造的なずれがあると指摘した。トランプ氏は当初、中国企業がアメリカで車を作ってくれればよいという趣旨の発言をしていた。しかしアメリカ政府も軍も自動車業界も、BYDなどの参入を嫌がっている。上院ではコネクテッドカーを全面的にブロックする安全保障上の法案が進んでいる。中国製EVにはすでに100%を超える関税が課され、他の品目でも50%程度かかっているが、今後は関税の問題ではなくなる。中国メーカーはアメリカで生産できず、コネクテッドカーであれば輸出すらできなくなる可能性がある。ソフトウェアや通信機能を搭載しているため、有事に遠隔で止められるといった事態も想定される安全保障の問題として扱われているからだ。

峯村氏も、トランプ氏自身は前のめりでミシガンでの生産のような話までしていたが、議会や閣僚が押しとどめたと聞いていると述べた。

直行便についても同じ構図がある。興梠氏によれば、習氏は直行便の増便を求めたが、アメリカの航空業界はこぞって反対した。米国の航空会社はロシア上空を飛べずに遠回りを強いられるのに対し、中国の航空会社はロシア上空を通れるため、競争上不利になるからだ。直行便が増えなければ機材の需要も増えず、ボーイングの購入の話にも響く。大統領が気楽に語る一方で、現場ではすでに対立の構図ができあがっていると興梠氏は述べた。

「建設的戦略安定関係」は形を変えたG2か

峯村氏が気にかけたのは、米中双方のファクトシートに「建設的戦略安定関係を構築する」という文言が盛り込まれたことだ。5月の時点では中国が一方的に使っていた言葉だったが、今回はアメリカもそれに乗った。峯村氏は、中国から見れば形を変えたG2を取ったことになるのではないかと問題提起した。

興梠氏は、中身はなくフレーズだけだと応じつつ、中国は「キャッチフレーズの国」だと付け加えた。峯村氏がワシントンで聞いた反応も、表面的な話ならいくらでもどうぞ、レッドカーペットならいくらでも敷いてやる、というものだった。国務省も経済官僚も同じ受け止めだったという。それでもなぜそこまで中国に気を使うのかと尋ねると、返ってきた答えはレアアースだった。峯村氏によれば、関係者はみなレアアースの輸出規制が効いていることを認め、在庫が減りつつあることへの焦りから、5月以降の供給拡大に期待していた。日本も同じ状況にあるという。

レアアースという中国のカードはいつまで有効か

柯氏は、習氏はレアアースのカードを絶対に手放さないと見る。習氏が最も欲しいのは半導体製造装置で、それが手に入らない以上、レアメタルだけを渡すことはない。一方で、あと3年ほどで中国以外でも大々的に精錬が始まり、そうなれば中国以外でどれだけの割合を生産できるかが焦点になると柯氏は述べた。

興梠氏は、3年もかからないかもしれないと応じた。日米でアクションプランを作り、フランスやオーストラリアも巻き込んで、採掘・精製・加工からレアアースフリー技術、リサイクルまでを一体で進めている。日本は精錬に関する特許を多く持っており、アメリカもようやくその価値を再認識し始めたと興梠氏は見る。峯村氏も、ワシントンで日本の評価が高まっていると感じたという。

興梠氏はさらに、最低価格制度に注目した。これまで投資家や業界は中国産の安値に太刀打ちできないため、経済合理性の観点から参入を避けてきた。しかし高値で買い取る仕組みができれば資金も集まる。当初は10年かかると言われた脱中国依存の期間は、これだけ真剣に取り組めば短くなるはずで、中国がこのカードをいつまで使えるかは疑問だという。峯村氏は、だからこそ習政権は日本に苛立っているのだろうと述べ、G7でのレアアース備蓄の議論に中国が敏感に反応していたことを挙げた。

日米首脳会談・電話会談と、ルビオ国務長官の「ピン止め」

峯村氏は、米中首脳会談の直前に行われた日米首脳会談と、その後の電話会談が有効だったと評価する。意味がなかったとする専門家もいるが、日米両政府の関係者によると、短い時間の中で日本側が台湾の重要性やレアアースについてしっかり打ち込んだという。5月のように台湾をディールの対象にするかのような発言をトランプ氏がしなかったのは、その一つの効果だと峯村氏は見ている。会談を短時間で切り上げたように見えた点についても、時間は決まっており、国務長官が主導的に動いて会談時間を確保したと聞いているという。

興梠氏がそれ以上に重視したのは、その前に開かれた日米外相会談の共同声明だった。一方的な現状変更の試みへの反対は従来通りだが、台湾について、適切な国際機関への台湾の意味ある参加への支持を明確に打ち出した。米中首脳会談の直前にこの文言が出たことは大きく、しかも中国は抗議していないと興梠氏は指摘する。拡大抑止にも言及しており、国務省レベルの既定路線として、大統領が替わっても続くものだと見ている。

峯村氏がこの声明について関係者に尋ねたところ、トランプ氏は読んでいないという答えだった。それでも構わないと峯村氏は言う。アメリカは簡単に中国に寄るわけではないというメッセージを出すことで、「ピン止め」の役割を果たしたからだ。峯村氏は、国務長官と国家安全保障担当大統領補佐官を兼務するのはキッシンジャー以来であり、ルビオ氏を過小評価してはならないと述べた。日米首脳会談でもルビオ氏の存在感は大きかったと国務省関係者から聞いており、少し前まで目立たなかった同氏の影響力が最近増していると感じるという。

柯氏は、高市政権発足直後の対米外交は「トゥー・スロー」で、チームワークが見えず首相が一人で走っているように見えたと振り返る。そのうえで、9月の国連総会出席にあわせたトランプ氏との会談は良かったと評価した。あまり早く会ってもトランプ氏はすぐ忘れてしまうからだという。会談後に電話会談を行った点について、高市首相はぶら下がり取材で「電話をいただいた」と述べており、アメリカ側からかけて報告を受けたのだろうと柯氏は見ている。峯村氏は、首脳会談の中で終わったら電話することを両首脳が合意していたと補足した。柯氏は高市政権のオペレーションが徐々に成熟していると評価し、峯村氏は安倍元首相も重視していたように、首脳電話会談をもっと増やすべきだと述べた。

24:46

「第二次大戦の同盟国」発言をどう受け止めるか

高市首相が国連総会で国連憲章の敵国条項の廃止に言及し、中国が反発した件について、柯氏は、国内の一部に「何の意味もない」「中国を刺激しただけ」とする声があることを「深読みしすぎ」と退けた。最初に言っておかなければいつまでも終わらないからだという。

これと対になる形で、トランプ氏と習氏はスピーチの中で、第二次世界大戦で米中は同盟国であり共に日本と戦ったと述べた。柯氏は、だから高市首相が何を言っても無駄だという議論は筋が通らないと言う。時系列で並べれば同盟は過去の話であり、トランプ氏は現在の米中が同盟だとは言っていない。柯氏によれば、習氏は国内の愛国主義・ナショナリズムに訴える言い方をせざるを得ず、トランプ氏は中間選挙までの2カ月をなんとか乗り切ろうとしている。問題は11月の中間選挙後にトランプ氏がどういう顔を見せ、習氏がどう応じるかであり、この「微妙な2カ月」を見極める必要があるという。

峯村氏はこれとは異なり、この発言を深刻に受け止めるべきだと主張した。当時戦ったのは中華民国だから大したことはない、昔の話だから笑っておけばよい、という受け止めには同意しない。中国は歴史を改ざんしてでも、現在の日本を「新型軍国主義」と結びつけようとしているからだ。

峯村氏が根拠に挙げたのは、トランプ氏のスピーチの読み方だった。10年近くトランプ氏を見てきて、完全な棒読みを見たのは初めてだという。これまで「ジー」のように発音していた習氏の名前を今回は「シー」と正しく発音し、彭麗媛夫人の「ポン」も正確だった。練習してきた様子だったという。米政府関係者によれば、このスピーチは米中の事務レベルで詰めたものだった。つまり思いつきやアドリブではなく、政府間の共通認識として「同盟国」と述べたことになり、その文言はファクトシートにも載ったと峯村氏は言う。5月にもトランプ氏は同様の発言をしていたが、今回はそれを受ける形で習氏が日本の侵略やファシズムと戦ったと述べ、セットになっている点を峯村氏は重く見る。

柯氏から「では何に注意すればよいのか」と問われると、峯村氏はこう説明した。ロシアや北朝鮮と共に日本の軍国主義を非難し、高市政権は軍国主義を復活させようとしていると主張するだけならどうでもよい。しかし「アメリカも言った」となると国際世論に火がつきかねない。日本は、戦後の日米同盟の方がはるかに長いこと、当時戦ったのは中華人民共和国ではないことといった歴史的事実をきちんと発信すべきであり、台湾がこの点で反論していることも大事だという。敵国条項についても、1995年や2005年には中国自身が時代遅れだとして削除に賛成していたと指摘すべきだと述べた。出演者らは、毛沢東がかつて北方領土を日本の領土と認めていたこと、尖閣諸島についても国連の調査で石油埋蔵の可能性が分かる以前は中国が異を唱えていなかったこと、田中角栄首相との会談で周恩来がこの問題に触れないとしたことにも言及し、こうした経緯は多くの日本人ですら知らないと語った。

日本の情報発信の弱さ

柯氏は、国際会議での発言だけでは不十分だと主張し、日本はG7の中で唯一、多言語での情報発信をしていないと繰り返し批判してきたと述べた。高市首相は総務大臣を務めた経験があるのだから、なぜやらないのかという。柯氏は毎日、VOAやフランスの国際放送を見ており、専門家へのインタビューを多言語に翻訳して配信しているのに日本はやっていないと指摘した。VOAはトランプ政権下で解体されたのではと峯村氏が問うと、柯氏はかなり復活しており、ドイツのドイチェ・ヴェレも含めて毎日15分程度のニュースを多言語で流していると答えた。

峯村氏も、海外発信には予算がついているもののコンサルに丸投げされることが多く、NHKの英語放送も弱いと認めた。誰が担うべきかという問いには、やはり国・政府だろうと答えている。

台湾の国防部長が語った「米軍の介入」を前提としない作戦計画

峯村氏は、5月にトランプ氏がFOXテレビのインタビューで台湾への武器売却を交渉カードになりうると示唆した件に触れた。この発言はその後削除されたが、台湾の人々には大きな動揺が広がっていた。峯村氏はワシントンの後に台湾を訪れ、顧立雄国防部長にインタビューした。5月のトランプ氏の発言を見たか、台湾はカードだと言われて、そんな国を信用できるのか、と尋ねると、顧部長は少しむっとした様子を見せつつ、台湾のいかなる統合作戦計画にも米軍による介入や支援という言葉は一言もないと言い切ったという。

峯村氏はこの発言に二つの意味を見る。一つは、台湾でアメリカは有事に助けてくれないのではないかという「疑米論」が、行くたびに想像以上に広がっていることだ。興梠氏は、中国が戦略的にそれを流していると付け加え、峯村氏もそれが最大の要因だと同意した。アメリカが介入しないとなった瞬間に負けるわけではない、備えはできている、という国内向けのメッセージである。もう一つは、自分たちで頑張れと言うトランプ氏に対して、台湾には自ら守る意思があると示すメッセージだという。

中間選挙後のシナリオと日本の備え

中間選挙で共和党が負けた場合の対中政策について、柯氏は、話を聞いたアメリカ人らの見方として、トランプ氏に不利な状況なのは間違いないが、共和党がほぼ負けるとまでは言い切れない段階だと述べた。共和党がそれほど負けなければトランプ氏の力は保たれ、完全に負けてレームダック化すれば、トランプ氏は開き直って暴れる可能性がある。柯氏は、習氏はトランプ氏の足元を見ているはずであり、中国がそれぞれのケースでどう出てくるかを想定し、日本もプランA・B・Cを急いで用意すべきだと主張した。

峯村氏も、日本の官僚や政治家から「中間選挙までしのげば民主党が勝ってトランプ氏はおとなしくなる」という声を聞くが、むしろ止めるものがなくなってより危うくなると考えている。

F-35部品の香港誤配送と安全保障のガバナンス

柯氏は、日本のオールドメディアがほとんど報じていない話として、オーストラリアがアメリカから購入したF-35の重要部品2点が、ロッキード・マーティンでの修理のためアメリカに送られるはずが、香港に届いてしまった件を紹介した。輸送はUPSが担当し、いったんソウルを経由したが、積み替えの段階で香港に回ったという。誰も気づかず、最終的にオーストラリア政府が調べて気づき、国防総省に連絡してアメリカが慌てているという。柯氏は人為的なミスではないと考えているが、韓国から香港に渡った経緯は分かっておらず、ステルスに関わるデータが中国側に漏れたかどうかも不明だという。

柯氏は、アメリカ内部のガバナンスが想像以上に混乱している表れだと見る。台湾がF-35を買えないのも、売れば即座にデータが漏れるからだと述べた。峯村氏は日本も他人事ではなく、スパイ防止法を含む法整備が必要だと応じ、柯氏は経済安全保障だけでなく伝統的な安全保障の重要性も強調した。

「スーパーインテリジェンス対話」と蒸留攻撃

今回の数少ない合意とされるのが、AIを「スーパーインテリジェンス」と呼び、その対話を行うという項目だ。柯氏は名前を変えても中身は同じで意味がないと切り捨て、会談前にAnthropicが明らかにした話の方が重要だと述べた。柯氏は、DeepSeekなどの中国製AIが大きな話題になった当初から過大評価だと考えていた。数学には長けているものの、実際の計算能力、つまりGPUが足りないからだ。去年1月の発表時には使っていないと主張していたが、FBIに容疑者が何人も逮捕されていることから、その説明は事実ではなかったと柯氏は見る。さらに中国側が混乱している理由として、軍や公安の監視カメラ映像までがクラウドにアップロードされ、Anthropicのモデルに読み込まれていたことを挙げた。

興梠氏は自身のチャンネルでこの件を調べて解説したという。FBIを含む米政府3機関がレポートを出し、被害はAnthropicだけではなく、Anthropicは独自に公表した。手口はいわゆる「蒸留」で、「先生モデル」の出力から「学生モデル」を作る。蒸留自体は正規に契約してAPIを利用していれば問題ない。しかし今回は世界中で多数の偽アカウントを作り、1億件規模の質問を投げて、先生モデルにそっくりなモデルを作っていた。規約違反であり、開発費をかけずに済む。同時に、投げ込んだデータを通じて軍事情報や公安のウイグルでの活動などがAnthropic側に漏れていたと興梠氏は説明した。

峯村氏は、トランプ氏がそれを分かったうえで、アメリカのスーパーインテリジェンスは中国とはレベルが違うと示したのではないかと述べた。一方で習氏は、AIは適切に管理して発展させるべきで、人間の管理下に置かなければならないと強調した。興梠氏は二人ともAIを分かっていないと述べ、AIエージェントが勝手に動いて敵でないものを攻撃すれば本当に戦争になると懸念を示した。会談では、米軍がAIを使ってイラン近くの船舶を攻撃した事例も話題に上った。峯村氏によれば、今回は安全保障上のインシデントについて両国間で通報する仕組みを作ることになったが、これは軍事ホットラインの応用版にすぎない。中国は有事にホットラインに出ないため、意味がないと峯村氏は見る。さらに峯村氏は、人間を超える存在、つまり共産党を超える存在を最も恐れているのは習氏の方であり、体制としてAIを抑え込む方向に向かうだろうと予想した。

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9月15日施行の出入国管理規定とAI開発への影響

興梠氏は、シンガポールで登記していたAI企業の買収を中国が認めなかった件を挙げ、米中が人材や技術を囲い込む段階に入っていると述べた。話題は9月15日から始まった新たな出入国管理規定に移った。

規定を読んだ柯氏によれば、国外で国家転覆にあたるような発言をしたと見なされた中国人が帰国すると、在外公館から連絡を受けた地方政府が、地方の空港で対応できる仕組みになっているという。執行権が地方政府にあるため、同じ行為でもある空港では過剰に対応される可能性があると柯氏は懸念する。峯村氏は、地方政府にはノルマがあり、日本担当などの担当も決まっていると述べた。興梠氏は、外国人は入国拒否、中国人は出国制限という形になり、とくに技術者には明確に制限がかかると指摘した。アメリカ国籍を持つ中国系研究者が拘束され出国できなくなっている件が今回の米中協議でも話題になったことや、AI企業の関係者もパスポートを取り上げられていることにも触れた。

峯村氏は、以前は国家安全部の人間が行っていた取り調べや携帯電話の確認を、規定変更後は税関職員でも行えるようになり、知人の間でも端末の提示を求められる例が増えていると語った。柯氏は、国内がパニックに近い状況にある今、あえて中国に入るのは得策ではなく、落ち着くのを待つべきだと述べた。

長期的な影響について柯氏は、中国のAIもロボットも開発が相当遅れると見る。オープンイノベーションには海外の研究者との交流が欠かせないが、出国できず外部と遮断されれば疲弊していく。興梠氏は、シリコンバレーにいる優秀な中国系人材が帰国しなくなることの影響が大きいと述べ、峯村氏は国家の安全を優先しすぎる政権の限界だと評した。

APECとG20、大国間協調への警戒と中国の対日姿勢

締めくくりに峯村氏は、ルビオ国務長官が「両首脳はあと2回会う」と明言したことに触れた。11月に深圳で開かれるAPECと、マイアミで開かれるG20である。峯村氏が特に注目するのはAPECで、中間選挙の約2週間後に開かれるからだ。加えて今回のファクトシートでは、トランプ氏がロシア・中国と軍備管理協議を進めると表明した。中国側の発表には載っておらず、トランプ氏の言いっぱなしの可能性もあるが、峯村氏はこれを嫌な兆候と見る。トランプ氏、習氏、プーチン大統領がいずれも大国同士で物事を決めればよいと考える帝国主義的な発想を持っており、大国間競争から大国間協調の時代に入りつつあるのではないかと峯村氏は以前から論じてきた。APECがその舞台になる可能性を検討すべきだという。

興梠氏は、米中首脳が会うこと自体は象徴的なもので、実質は関税やレアアースの協議がどこまで進むか次第だと述べた。むしろ関心があるのは日中関係で、2014年の北京APECで習氏が仏頂面のまま安倍首相と握手した場面を振り返り、ホスト国の中国が高市首相をどう遇するかに注目しているという。峯村氏は、日本側もさすがに招待されない事態は想定していないようだとし、焦点は日中首脳会談が実現するかどうかだが、自身はないと見ていると述べた。柯氏は、こうした場面での振る舞いは国の力量が問われるもので、中国が大国かどうか試されると語った。制裁対象だったルビオ氏について、中国が漢字の当て字を変え、「別人」として扱っている件も話題になった。

柯氏は、習政権の対日姿勢は変わったと見ている。高市政権には最低限の礼遇はしても、それ以上はしない。その一方で、日本の議員団を2回受け入れ、経済団体の訪中を受け入れ、日本の大学生を国費で招くなど外堀を埋めている。高市政権は長くてもあと4年程度と見て、その後に親中派・知中派の政権が誕生するよう準備しているのではないかという。東京と大阪で開かれた国慶節のパーティーについて、峯村氏は参加者から去年より参加者が多かったと聞いたと述べた。柯氏は、高市政権とは対立を続けつつ友好的な人々とは関係を深める「二本立て」の戦略だと分析した。峯村氏も、当初は高市政権を追い込む狙いだったが中期戦に切り替えたと見ている。一方で柯氏は、中国側は日本の世論を読めておらず、昔の「友好人士」の枠組みのままで動いていると指摘した。

峯村氏は最後に、会談そのものは大したものではなかったが、米中が「同盟国」を語り始めたことや大国間の動きを見ると、国際秩序が大きく変わりうるきっかけになったと述べた。日本も対策を講じる必要があり、英語や中国語を含む多言語での発信が弱いという柯氏の指摘をあらためて受け止めたとして議論を閉じた。中間選挙後のトランプ氏の出方と、それに習氏がどう応じるかは、APECとG20を前にまだ見えていない。