待機電力ゼロをうたうBelkinのUSB充電器は本当に省エネか:測定と分解で確かめる

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概要

BelkinのBoostCharger Proシリーズの67W USB充電器は、パッケージに「ゼロ待機電力でエネルギーを節約」と書かれている。イチケンはこの充電器を入手し、他社の充電器と比べて待機電力がどれだけ少ないのか、待機電力を減らしたことでメリットやデメリットが生じるのかを検証した。さらに本体を分解し、低い待機電力を実現する回路構成も調べている。結論を先に言うと、ケーブルを挿していない状態の待機電力は約3mWでほぼゼロだった。一方で、eMarker入りのUSBケーブルを挿したままにすると、待機電力は一般的な充電器と同程度まで増えることも分かった。

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測定方法:歪みの少ない交流電源と電力計

充電器本来の性能を見るため、イチケンは歪みの少ない正弦波を出せる交流電源を用意した。そこに電力計とUSB充電器をつなぎ、100Vを加えて消費電力を測っている。

電力計の一番上には有効電力が表示され、これが充電器の待機電力にあたる。その下に表示される無効電力は、一般家庭の電気料金には関係しないため、今回は扱わない。コンセントから充電器に流れる電流は約0.3mAとごくわずかだった。充電器を挿しただけの状態では電力の値が細かく揺れて定まらないため、時間平均をとって評価した。Belkinの充電器の待機電力は約3.3mWだった。

他社充電器との比較:Belkinが大きく引き離す

イチケンは手持ちのAnker、CIO、UGREEN、Appleなどの充電器も同じ方法で測定した。Belkinの3.38mWは他を大きく引き離して少ない。2番目はAppleの40W充電器で18.2mW、3番目はCIOの充電器で38.8mWだった。一般的な充電器は40〜50mW程度を消費するようだという。

また、定格出力が大きい充電器ほど待機電力も大きくなる傾向が見えたとイチケンは述べる。ただし、それがメーカーごとの設計の違いなのか、USB充電器全般に言えることなのかは分からないとしている。

電気料金への影響は年間数円から数十円

電気料金の単価は東京電力の料金を参考にし、計算しやすい1kWhあたり40円とした。この条件で、待機電力による年間の電気料金はBelkinが1.2円、Appleが6.4円、CIOが13.6円になる。充電器によって数円から数十円の差が出ることになる。

イチケンは、この程度なら待機電力があってもなくても正直気にならない違いだと感想を述べている。そのうえで、待機電力よりも、充電中の電力変換効率の高低のほうが電気料金に効いてくるのではないかと考えた。

変換効率1%の差は待機電力とほぼ同じ規模

電力変換効率は、コンセントからの交流電力を、USB充電に使う直流電力へどれだけ効率よく変換できるかを表す。効率が高いほど充電器本体で生じる損失が小さくなり、全体で必要な電力も少なくなる。

イチケンは、30Wの充電を1日30分、365日続ける条件で試算した。30Wで30分はスマートフォンを80%ほど充電するイメージだという。効率が90%の場合、充電器で生じる損失は3.33Wになり、年間では0.61kWhになる。効率が91%に上がると、損失は2.97W、年間では0.54kWhになる。差は0.07kWhである。

この充電時の損失量を待機電力の年間電力量と比べると、両者はほぼ同じ規模になる。つまり、この使い方では効率が1%上がる効果もそれほど大きくない。しかも、90%台の効率をさらに1%上げるのは実はかなり難しいとイチケンは説明する。効率で見ればわずか1%でも、損失で見れば10%近く減らす必要があるからだ。なお、常に数十Wを給電し続けるような使い方なら、待機電力の影響はほぼ無視でき、充電中の損失や変換効率の高さのほうが重要になると補足している。

Belkin充電器の効率と発熱

Belkin充電器の変換効率も測定した。最高効率は20V出力時の91.4%だった。このクラスの充電器は91〜92%台が多いため、イチケンは「まあまあ良い」と評価している。待機電力を下げたことで効率が落ちるようなデメリットはないという。

サーモグラフィーで測った最高温度は約65℃で、最近のUSB充電器としては標準的な温度上昇とされた。

サーマルスロットリングの有無も調べた。サーマルスロットリングは、充電器が熱くなりすぎないよう、出力できる電力を意図的に下げる機能である。最大出力を引き出し続ける試験では、開始直後から定格の67Wが出力され、同時に表面温度が上がっていった。開始から20分後、表面温度58℃の時点でスロットリングが働き、出力は50Wに下がった。これは表面温度の上がりすぎを防ぎ、内部回路を守るための動作だとイチケンは説明する。その後も温度は上がり続け、約2時間後に68℃で落ち着いた。

見落としていた前提:ケーブルを挿しっぱなしにした場合

ひととおり実験を終えて動画を編集していたとき、イチケンは重要な前提条件を見落としていたことに気づいた。実際の使い方では、充電が終わってもUSBケーブルを抜かずに挿したままにする人が多いはずだ。そこで、ケーブルを挿した状態で待機電力を測り直した。

ケーブルなしでは約3mWだったBelkinの充電器にケーブルを挿すと、待機電力は約10倍の30mW前後に増えた。1時間ほど放置しても下がらなかった。イチケンはこれを「見てはいけないものを見てしまったような気がする」と表現している。

このとき使ったのはeMarkerチップ入りのケーブルだった。eMarkerなしのケーブルに替えると、待機電力は増えなかった。つまり、eMarker入りのケーブルでは待機電力ゼロモードに入らず、eMarkerなしのケーブルならゼロモードに入る。使うケーブルによっては、待機電力が他の充電器と同程度まで増える可能性がある。

他の充電器もeMarker入りケーブルで測り直した。Belkinは3.3mWから約10倍の32.4mWに増えた。一方、もともとある程度の待機電力を消費していた充電器は、ケーブルの有無でほとんど変わらなかった。イチケンは、Belkinはケーブルが挿さると内部回路が動き出してゼロ待機電力モードから抜けてしまい、他の充電器はケーブルがなくても内部回路が動いているのだろうと推測している。ゼロ待機電力の恩恵を受けたいなら、eMarkerなしのケーブルを使うか、使い終わるたびにケーブルを抜くことを勧めている。

メリット・デメリットと評価

メリットは、待機電力が約3mWとほぼゼロになり、1年間コンセントに挿しっぱなしでも電気代が1円程度で済むことだ。デメリットは、ケーブルによっては他の充電器と同じくらい待機電力を消費してしまうことである。イチケンはこれを「割と致命的」と評し、商品のコンセプトを根本から覆しかねないと述べている。

イチケン自身の使用では他に問題は見つからなかった。ただし、Amazonのレビューには、機器の構成によっては勝手に待機電力ゼロモードに入って出力が止まってしまうという報告もあるという。

それでもイチケンは、この試みそのものを高く評価している。1台あたりの待機電力はわずかでも、多くの人が充電器を使えば全体では膨大な量になる。仮にこうした待機電力ゼロモードを義務づければ、1台ごとの効果は小さくても、全体としては大きな効果になると話している。

分解:放熱材とグラファイトシートの状態

外装を外すと、青い柔らかめのシリコンのような素材が見えた。イチケンは、部品同士を熱的につなぐための熱伝導材ではないかとみている。ただし全面に充填されているわけではなかった。USB端子の裏側には熱伝導用と思われるグラファイトシートが貼られていたが、部品に密着しておらず隙間が空いていた。そのため熱伝導にはあまり役立っていないのではないかと指摘している。意図した設計なのか製造上の問題なのかは不明だという。基板は4枚構成だった。

回路構成と主要IC:ルネサス製部品が中心

回路は一般的なフライバックコンバータ系の電源で、日本企業ルネサスの半導体が多く使われていた。ルネサスのWebページに載っている回路構成をほぼそのまま使った形だとイチケンは説明する。

主なスイッチング素子は、2024年にルネサスが買収したTransphormのパワー半導体である。内部では、ノーマリーオフの低電圧Si MOSFETとノーマリーオンのGaN HEMTをカスコード接続し、全体としてノーマリーオフ型のトランジスタとして使えるようにしている。

その隣にはフライバックコンバータコントローラのiW9870がある。2021年にルネサスが買収したDialog Semiconductorの製品のようだという。別の基板には、ルネサス製の2次側同期整流コントローラiW610が載っていた。さらに、2018年にルネサスが買収したIntersilの昇降圧コントローラもあり、2つのUSB-C出力から異なる電圧を出すときに使われる。USB PDコントローラのiW780は2個搭載されていた。これもルネサス製で、型番からもともとはDialog Semiconductorの製品と思われる。

待機電力が低い仕組みと、ケーブルで増える理由

イチケンの分析によれば、待機電力の低さはフライバックコントローラとPDコントローラの組み合わせによって実現されている。ケーブルが挿さっていないことをPDコントローラが検出すると、フライバックコントローラが回路全体を低消費電力の状態に切り替える。回路がほぼ止まった状態になるため、待機電力が非常に小さくなる。もちろん、待機中もIC自体は電力を消費するので、IC自体も低消費電力に設計しておく必要がある。

ケーブルを挿すと待機電力が増える理由は、データシートに手がかりがあった。この2つのICを組み合わせた場合に待機電力が5mW以下になるのは、「USBケーブルが接続されていない状態」と明記されている。つまりこの組み合わせでも、ケーブルをつなげば待機電力ゼロモードから外れる可能性がある。イチケンはこれで謎が解けたとしている。

結論

測定の結果、Belkinの充電器の待機電力は約3mWで、ほぼゼロと言える値だった。ただし、eMarker内蔵のUSBケーブルを接続すると、一般的なUSB充電器と同程度まで増えることも分かった。イチケンは、待機電力を減らすというコンセプトはエコで面白い取り組みだとし、今後このような充電器が増えることに期待を示して検証を締めくくった。