発熱で出力を下げるUSB充電器をどう検証するか:サーマルスロットリング対応の試験装置を自作

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概要

最近の小型・高出力なUSB充電器には、本体が熱くなると動作中に出力電力を下げる「サーマルスロットリング」を備えたものが多い。電子工作チャンネル「イチケン」の話者は、これまで多くのUSB充電器の出力と温度上昇を検証してきた。しかし、この機能を持つ充電器は従来の実験方法では正しく評価できなくなった。そこで話者は、充電器と通信しながら負荷を追従させる検証装置を自作した。動画は、なぜサーマルスロットリングが必要になったのかを充電器の歴史と発熱の仕組みから説明し、その後に自作装置の仕組みと実測結果を紹介している。

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GaNパワー半導体がUSB充電器市場を変えた

話者によれば、USB充電器が広く使われ始めたのはスマートフォンが登場した頃で、初期は5V・1A程度で充電する製品が多かった。スマートフォンの普及とバッテリーの大容量化に伴い、急速充電器が登場した。

話者が業界の流れを大きく変えたと見るのは、Ankerが2019年11月頃に投入した急速充電器である。この製品は、内部のパワー半導体に従来のシリコンではなく窒化ガリウム(GaN)を採用していた。話者の説明では、GaNの採用により、価格を大きく上げずに小型で大容量のUSB充電器を作れるようになった。これをきっかけにGaN充電器の市場は拡大した。話者が動画でベンチマークとしてよく使う「Anker Nano II」シリーズ(2021年5月頃発売)も、GaN充電器の中でかなりのベストセラーになったという。その後も市場では競争が続き、マルチポート化やケーブル内蔵型の製品も登場している。

小型・高出力化の先に残る発熱の問題

話者は、USB充電器に求められる性能の中で特に重要なのは「小型で大電力を扱えること」だと述べる。旅行や仕事で持ち歩く場面を考えれば、充電器はなるべく小さいほうがよい。また、USB充電器をACアダプター代わりに使う例も増えており、大容量モバイルバッテリーやノートパソコンを充電するには大電力を出せる充電器が必要になる。

こうして小型化と高出力化が進むと、次に問題になるのは充電器自体の発熱である。話者は「結局このような製品って、どこまでいっても熱」だと言う。SiからGaNに変わったときは発熱が減ったので小型化・高出力化が可能になった。しかし、GaN製品が普及して小型大電力の製品として洗練されてくると、また熱の問題が出てくる、というのが話者の見方である。

熱はどこから出て、何が問題になるのか

USB充電器の役割は、コンセントの交流電圧を充電用の直流電圧に変換することだ。この変換の過程で内部の電子部品に電力損失が生じ、その損失は最終的に熱になる。話者によれば、GaNを採用した最近の充電器はかなり優秀で、変換効率は90%台前半のことが多い。それでも残りの数%はすべて熱になる。

話者は具体例として、変換効率90%の充電器が100Wで充電している場合を挙げた。このとき充電器では11Wの損失が発生する。話者はこの11Wを「かなり大きい」と評し、手のひらに収まる程度のサイズの充電器では表面温度が60℃や70℃を超えることもあると説明した。高温になると内部部品の寿命が縮んで故障リスクが高まる。さらに人が触る製品なので、やけどの危険もある。したがって、小型化と高出力化を両立するには、損失を減らして発熱を抑えることと、出た熱をどう逃がすかが重要になる。

損失を減らすか、出力を一時的に下げるか

話者はここで、発熱を減らす側に焦点を当てる。損失を小さくするには高性能な部品を使えばよい場合が多いが、そうすると製品価格が跳ね上がる。この観点から話者は、シリコンから価格を大きく上げずに性能を高められたGaNを、USB充電器の進化を支えたブレイクスルーだったと振り返る。

熱、価格、小型・高出力という要素のバランスを取るのは非常に難しく、メーカー各社はこの課題と戦っている。ただ話者は、この課題自体が次の技術的ブレイクスルーなしには解決しにくいものだと考えている。そのため最近では各メーカーが戦い方を変えており、その一つがサーマルスロットリングによる過熱保護だという。

サーマルスロットリングとは、充電器の温度が上がったときに、出力可能な電力を一時的に1段階下げる動作である。出力を下げれば損失、つまり発熱も減るので、充電器を過熱から守れる。話者は実例として、Appleもこの動作をするUSB充電器を発売していると紹介した。

従来の検証方法が通用しなくなった理由

このチャンネルでは、充電器がどれだけの電力を出せるか、そのときどれだけ温度が上がるかを中心に検証を続けてきた。しかし話者は、最近の充電器ではこの実験方法が通用しなくなってきたと言う。原因はサーマルスロットリングである。

従来の方法は、電力を固定して負荷をかけるものだった。この方法では、内部温度が上がって出力を制限したときの充電器の正しい挙動を捉えられない。今の充電器を正確に評価するには、充電器と双方向に通信しつつ、スロットリング動作に追従する試験方法が必要になった、というのが話者の結論である。

USB PDの通信とSource Capabilities

装置の説明に入る前に、話者はUSB PDの通信を整理している。充電器をスマートフォンやパソコンにつなぐと、充電を始める前に、充電器(SOURCE側)と充電される機器(SINK側)の間で通信が行われる。このときSOURCE側は「Source Capabilities」を送る。これは何V・何Aまで供給できるかを示すデータで、話者が例示した充電器では5V・3A、9V・3A、15V・3A、20V・2.25Aといった上限が並んでいた。

SINK側はこれを受け取り、その範囲内で希望する電圧と電流を決める。もしSINK側がSource Capabilitiesを無視して過大な電流を引こうとすると、SOURCE側は安全のために出力を遮断する。

話者の説明では、サーマルスロットリングとは充電中にこのSource Capabilitiesを変えることである。スロットリングしたいとき、充電器は出力可能な電力を小さくしたSource Capabilitiesを再送し、以後はその範囲でしか電力を供給しない。

従来の検証ではSINK側に電子負荷を使い、常に100%の負荷をかけていた。すると充電器はスロットリングを試みても、電子負荷側はその変更を読み取れない。結果として負荷は過大なままになり、出力が遮断されてしまう。一方、パソコンの給電や充電といった実際の使用環境では、機器は引き下げられたSource Capabilitiesに従うので、出力は遮断されず給電が続く。つまり従来の方法は、スロットリング時のSource Capabilitiesの変更を無視していたことになる。そこで電子負荷だけの検証方法をやめ、アップデートする必要が出てきた。

自作した検証装置の仕組み

話者が作ったのは、充電器の通信を読み取りながら動作する検証装置である。この装置は充電器と通信しながら、常にSource Capabilitiesの上限の電力を消費し続けるように動く。

これまでスロットリングのある充電器を検証する際は、大容量モバイルバッテリーやゲーミングノートPCを負荷として使っていた。しかしその方法では人がほぼ付きっきりで監視する必要があり、実験効率が非常に悪く、再現性にも限界があった。新しい装置では通信、負荷の制御、記録をすべて自動で行えるため、ほぼ放置したまま実験を終えられるという。

システム全体は、電源、計測器、電子負荷、パソコン、そして今回開発したボードで構成される。ボードはPDトリガーデバイスとマイコンからなり、充電器からの通信を受け取ってマイコンで処理する。ボード、電子負荷、パソコンが協調し、Source Capabilitiesの上限電力を常に充電器から引き続ける仕組みだ。動作の詳細は長くなるため、メンバーシップ限定動画で公開する予定だと話者は述べている。

使い方は充電器を接続するだけである。装置がSource Capabilitiesを読み取り、最大電力となる条件を自動で選んで電子負荷で電流を引き始める。実演では出力電圧20V、最大電流3.25Aを引いており、温度も同時に測定しながら狙いどおりに動作していた。

3つの条件での比較結果

話者は同じ65W級の充電器について、3つの条件の結果を示した。

1つ目は自作ボードを使った測定である。負荷をかけ始めて30分ほど経つとサーマルスロットリングが起き、Source Capabilitiesの電流上限が下がった。受信したSource Capabilitiesを見ると、最初は20V・3.25A(65W)が最大だったが、温度上昇によるスロットリング後は20V・2.75A(55W)が最大になった。電子負荷はSource Capabilitiesが再送された後、消費電力を65Wから55Wに落としており、充電器と協調して動作していた。

2つ目は、ボードを使わず電子負荷を直結した従来の方法である。充電器は23分ほどでスロットリングをかけようとした。しかし電子負荷はそれを無視して65Wを引き続けた。本来SINK側は電力を落とすはずだがそうならなかったため、充電器の出力は遮断された。

3つ目は、実際にノートパソコンを充電したときのグラフである。27分付近で充電器がスロットリングに入り、出力電力を下げた。話者は、このグラフと自作ボードを使った場合の結果がほとんど同じであることから、開発した装置はうまく動作していると判断している。

さらに話者は、さまざまな充電器を試験して分かったこととして、SINK側の機器はSource Capabilitiesの上限ぎりぎりまで電力を使うことはほとんどなく、90%程度で使うことが多いようだと付け加えた。

今後の検証に向けて

話者は今回、発熱によって出力を下げるサーマルスロットリングの仕組みを整理し、スロットリングが起きても充電器を検証できる環境を構築した。今後のUSB充電器の検証はこのボードを使って進める予定で、240W版の装置も現在開発中だという。