アルミ削り出し筐体でUSB充電器は冷えるのか:表面は下がっても、熱は内部で詰まっていた
イチケン / ICHIKENUSB充電器の分解検証動画を出すたびに、「金属筐体に入れればもっと冷えるのではないか」というコメントが視聴者から多く寄せられていたという。この動画では、その疑問に答えるため、市販の65W USB充電器の中身をアルミ製の筐体に移し替え、純正のプラスチック筐体と温度や出力を比較している。話者の結論は「冷えるようにはなるが、思ったほどは冷えない」というものだ。その理由を熱回路で検討したうえで、実際の製品に金属筐体が使われない理由も考察している。
用意した2種類のアルミ筐体
筐体は2種類作られた。1つ目は冷却フィンを付けず、元の充電器の外観をほぼそのまま再現したシンプルな形状で、ビーズブラストとアルマイト処理を施している。2つ目は本体にできるだけ多くの冷却フィンを付けて表面積を増やした形状で、こちらは表面処理をせず削り出したままにしている。表面積はフィンなしが69.4cm²、フィン付きが341.4cm²で、フィンを付けるだけでおよそ5倍になる。
材質はアルミである。話者は銅でも面白いと考えたが、価格がかなり高くなるためアルミを選んだ。どちらもJLCPCBのグループが運営するCNC切削サービス「JLCCNC」で加工しており、価格はフィンなしが1個33ドル、フィン付きが1個100ドルだった。話者は、フィン付きは5軸加工機でないと作れない形状だろうと述べ、この価格を「衝撃的な安さ」と評している。
回路を移し替える工作:絶縁とポッティング
プラスチック筐体のままでは熱伝導に影響するため、充電器から内部回路だけを取り出してアルミ筐体に入れる。ただし、そのまま入れると回路の高電圧部分が金属筐体に触れ、ショートしたり、使う人が感電したりするおそれがある。そこでアルミ筐体の内側全面にカプトンテープを貼って絶縁した。カプトンテープの熱伝導率は0.16W/m·K程度で、熱抵抗が増えるぶん放熱には不利になる。話者は、安全のためにはやむを得ないと説明している。
元の充電器に付いていた熱伝導シリコンはある程度剥がしてから回路を筐体に収めた。この状態では回路とアルミの間に空気が入り、熱がほとんど伝わらない。そこで信越化学工業の熱伝導シリコンポッティング材「KE-1285P」を注入した。複雑な形状の隙間に入り込ませるには粘度が低い材料がよいと考え、流動性の高いこの製品を選んだという。USB端子まわりなどポッティング材を入れたくない部分には、先にシリコングリスを詰めている。
ポッティング材はA剤とB剤を同量ずつ混ぜて作る。専用の脱泡装置がないため、真空パック用の器具で簡易的に脱泡し、シリンジで充填した。隙間にも行き渡るよう、細い管で直接流し込む工夫もしている。室温では硬化に時間がかかるため、ホットプレートで約1時間加温した。温度を上げれば早く固まるが、内部の電解コンデンサを壊すおそれがあるので、100℃を超えない程度に抑えている。
硬化後、ポッティング材は加熱前より全体的に盛り上がっていた。盛り上がった部分には気泡がいくつか見られ、話者は脱泡が不十分で内部の気泡が膨らんだ可能性が高いとみている。脱泡はしっかり行うべきだったと振り返っている。
実験条件
純正品、フィンなしアルミ筐体、フィン付きアルミ筐体の3台を同時に動かした。負荷は充電器の最大出力である65Wとし、表面に熱電対を貼って温度を測りながら、出力電力も同時に記録した。
なお、どの充電器でもサーマルスロットリングに合わせて電子負荷を手動で調整したため、グラフ上の電力は0W、65W、55Wを行き来している。話者はこれが異常な動作ではないと断っている。
純正品:80℃でスロットリング
純正品は実験開始直後から65Wで動作し、同時に温度も上がり始めた。約30分後に表面温度が80℃に達したところで、充電器の過熱保護(サーマルスロットリング)が働き、出力は55Wに下がった。話者によれば、これは充電器として正常な動作である。出力を絞ると電力損失、つまり発熱が減るため、その後は温度が徐々に下がり、最終的に72℃程度で落ち着いた。途中で温度が一時的に下がっている箇所は、表面に黒体テープを貼るなどした影響だという。
フィンなしアルミ筐体:表面は67℃でもスロットリング
フィンなしのアルミ筐体でも、開始直後から温度が上がり、30分経過後に出力が55Wへ下がるスロットリングが起きた。最高温度は67℃で、プラスチック筐体より13℃近く低い。その後長時間動かしても温度はほとんど変わらず、67℃で平衡した。話者は、アルミ筐体にしたからといってスロットリングがなくなるほどには冷えないようだと述べ、この理由を後半で考察している。
フィン付きアルミ筐体:最終的に65Wで運転を継続
フィン付きも同様に温度が上がり、30分経過後にスロットリングが働いた。このときの表面温度は54℃だった。ただしスロットリング状態は続かず、すぐに65Wのフル出力に戻っている。65分経過時にも再びスロットリングが起きたが、これもすぐに復帰した。その後はスロットリングなしで65W運転を続けられ、最高表面温度は63℃だった。
表面温度が低いのにスロットリングが起きた理由について、話者は次のように推測している。熱が伝わるまでの時定数が大きいため内側と外側の温度差が大きく、表面はまだ低くても内部はかなり高温になっていたのではないか、という見立てである。
3台の比較と自然対流の限界
3台を並べると、最高温度と平衡時の温度はどちらも純正品が最も高く、フィンなしアルミ、フィン付きアルミの順に低くなった。話者が注意を促すのは出力条件の違いだ。純正品とフィンなしは55Wに下がっているのに対し、フィン付きは65Wで安定して動いている。つまりフィン付きは最も厳しい条件で最も低い温度を示しており、広い表面積が放熱に効いていると話者は評価している。
一方で、スペック表で比べると別の見方も出てくる。フィンなしアルミの表面積は純正品とあまり変わらないのに、表面最高温度は13℃下がった。それでもスロットリングは起きた。フィン付きは表面積が4〜5倍に広がったにもかかわらず、表面温度は話者が思ったほどには下がっていない。話者はこれを自然対流による放熱だったためと考え、風を当てて強制的に熱を奪わなければ温度はそれほど下がらないことを改めて確認できた、と述べている。
熱回路で見る「内部」のボトルネック
後半では、フィンなしアルミ筐体で表面温度が低いのにスロットリングが起きた理由を掘り下げている。話者の仮説は、表面と内部の温度差がかなり大きく、内部は高温のままだったというものだ。工作時の映像を見返すと、ポッティング材を充填するために回路とアルミの間の距離をやや多めに取っていた。この距離が熱伝導を妨げたのではないか、と話者は考えている。
これを確かめるため、話者は熱回路を描き、いくつかの仮定を置いて各部の熱抵抗を計算した。左端を室温24℃、右端を発熱する回路部分とし、回路の温度を100℃と仮定する。発熱量Qは充電器本体の電力損失として5.2Wとした。熱は回路からシリコンポッティング材(R_SP)、カプトンテープ(R_TP)、アルミ筐体(R_AL)の順に通って室温へ逃げる。熱抵抗は大きいほど熱を伝えにくい。同じ形状でもプラスチックは高く、アルミは低くなる。
計算の流れは次のとおりである。まず実験結果から、アルミ筐体の熱抵抗は8.3℃/Wと求まる。カプトンテープはテープ1枚程度ではそれほど温度差がつかないだろうと考え、温度差を5℃と仮定すると、熱抵抗は0.96℃/Wになる。ポッティング材とカプトンテープの境界の温度は、表面の67℃に5℃を足した72℃となる。残るポッティング材部分の熱抵抗は5.4℃/Wと求まる。
この結果から話者は、アルミ筐体と空気の間の熱抵抗が支配的なのと同じ程度に、シリコンポッティング材も放熱に大きく影響していると指摘する。アルミ筐体にフィンを付けて外側の放熱を強化しても、内部で熱がうまく伝わっていなければ放熱できない、ということになる。
使ったポッティング材の熱伝導率は0.8W/m·Kで、電子部品によく使われる一般的なサーマルグリス(0.84W/m·K)とほぼ同じである。参考として、筐体に使ったアルミ6061の熱伝導率は170W/m·K程度だ。ポッティング材部分の熱抵抗を下げるには、熱が伝わる距離を短くするか、熱伝導率の高い材料を使う必要がある。今回であれば、回路の熱源とアルミ筐体の距離をできるだけ縮め、その隙間をポッティング材で隙間なく埋めるべきだったが、それができていなかったのだろう、というのが話者の見立てである。
強制空冷と内部構造の最適化の試算
話者はさらに、2つの改善策について熱源温度を試算している。強制空冷でヒートシンク(筐体)の熱抵抗が半分になったと仮定すると、熱源温度は78℃まで下がる。自然空冷のまま内部構造を最適化し、ポッティング材部分の熱抵抗を半分にできたとすると、熱源温度は86℃まで下がる。話者は、これを踏まえるとポッティング材を充填する部分の構造を最適化するほうが費用対効果は高そうだと述べている。
また、熱伝導率の高いポッティング材もあるにはあるが、粘度が高くなりがちで、狭い空間に充填するのはかなり難しいとも付け加えている。
製品に金属筐体が使われない3つの理由
最後に話者は、実際の製品で金属筐体が採用されない理由として、コスト、絶縁、接触温度の3点を挙げている。
コストについては、金属部品を使う以上当然高くなる。今回は削り出しだったため特に高く、フィン付きは1個100ドルかかった。鋳物で作る方法も考えられるが、最終的な形を整えるにはCNCでの切削が必要になるため、やはり高くつくだろうと話者はみている。プラスチック筐体と比べるとコストが大きく跳ね上がり、現実的な選択肢ではなさそうだという。
絶縁については、プラスチックは絶縁体なので人が触れても電流は流れず、感電しない。一方で金属は導体であり、回路の電圧がかかった部分と筐体が接触すると、外装に触れた人が感電するおそれがある。金属筐体にするなら接地線をつないでアースを取る必要があり、充電器の設計としてはあまり現実的でないと話者は述べる。
接触温度については、実験中に話者が金属筐体の充電器を触ったところ、触れないほど熱く感じたという。一方、表面温度がより高い無改造のプラスチック筐体は、長時間触っていられた。話者はこれを材料の熱伝導率の違いで説明している。100℃のサウナにはぎりぎり耐えられても、100℃のお湯に入れば大変なことになる。空気は熱を伝えにくく、水は伝えやすいからだ。充電器でも、プラスチックは熱伝導率が低いため、触れた部分の温度が下がっても周囲から熱が伝わりにくい。金属は触れた部分が冷えても周囲からすぐに熱が補われるため、熱く感じる。
素材ごとの温度上限はJIS C 62368-1で定められており、人が操作のために触れる部分では金属が70℃、プラスチックが87℃とされている。金属筐体にしても自然空冷であり、内部の発熱量は変わらないので、温度を下げるのは実はかなり難しい。そのため実際の製品では、金属では接触温度の上限に収められず、上限の緩いプラスチック筐体が使われているのではないか、と話者は推測している。
結論
話者の結論は、金属筐体に入れれば冷えるようにはなるが、思ったほどは冷えない、というものだ。金属筐体でしっかり冷やすには、フィンなどで表面積を増やすか、表面積を増やさないなら強制空冷するか内部の熱伝導を最適化する必要があり、内部構造まで含めて装置全体で熱設計をしなければならない。さらにコスト、絶縁、接触温度を考えると、金属筐体のUSB充電器はあまり現実的ではない、と話者は締めくくっている。
こんにちは。今日はUSB充電器を改造すると冷えるようになるかを検証します。
以前からUSB充電器の分解検証動画で、視聴者の方からUSB充電器を金属筐体の中に収めたらもっと冷えるのではないかというコメントをたくさんもらっています。では実際にやってみようということで、このような金属筐体を作りました。
この中にUSB充電器を入れて動かすと一体どれくらい温度が下がるのか、そして放熱にどれくらい効いてくるのかを検証していきます。その前に今日のスポンサーの紹介です。どうぞ。
プリント基板を安く作るのならJLCPCBがおすすめです。最近特に多層基板の製造を頑張っていて、皆さんにもぜひ6層基板を使ってほしいとのことです。中国で非常に大規模で作っているので、価格はかなり安いです。6層100×100mm基板で5枚35ドル。高密度設計で必須となるPad-on-Viaが最近無料で使えるようになりました。6層基板用のクーポンも配布しているので、皆さんもぜひ色々と試してみてください。
こちらが今回作った金属筐体です。この中にUSB充電器を入れます。今回は2種類作りました。
1つ目は冷却フィンなどをつけていないシンプルな構造のものです。本当に充電器の外観そのままっていう感じですよね。こちらには表面処理もやっています。ビーズブラストとアルマイト処理です。
2つ目は本体になるべくたくさんの冷却フィンを取り付けて表面積を増やしたものです。こちらは特に表面処理などはやらずに削ったままにしています。
それぞれの表面積は、小さい方が69.4cm²、冷却フィン付きが341.4cm²です。このようなフィンを付けるだけで表面積5倍くらいになるんですね。
材質はアルミです。銅などで作ってみても面白いと思うのですが、価格が結構高くなってしまいますので今回はアルミにしています。
ちなみにこれらは全てCNC加工で作ったのですが、スポンサーのJLCグループがやっているJLCCNCというCNC切削加工サービスを使いました。フィンなしは1個33ドル、フィン付きは1個100ドルです。特にフィン付きの方は5軸加工機を使わないとできないようなものかと思います。結構衝撃的な安さかと思うのですが、どうでしょうか。
ここからはUSB充電器をアルミの中に入れていく工作パートです。この中にUSB充電器を入れます。プラスチックの筐体そのままでは熱伝導に影響するので、USB充電器の内部回路だけ取り出して、これをこの中にスポッと入れていきます。
ただ金属筐体にそのまま入れてしまうと、充電器回路の高電圧の部分と金属筐体が触れて、回路がショートまたは使う人間が感電する可能性があります。そのためカプトンテープを使って少し工作します。
このカプトンテープをアルミ筐体の内側に貼り付けていきます。テープの熱伝導率は0.16W/m・K程度です。熱抵抗が高くなることで放熱には不利になってしまいますが、安全に使うためなので仕方ないですね。このように内側全面にカプトンテープを貼ることができました。
ここに充電器の中身を入れていきます。もともと充電器に付いていた熱伝導シリコンはある程度剥がしておきました。この充電器を中にスポッと入れてしまいます。
この状態では充電器とアルミが密着しておらず、間に空気が入っていて熱が全く伝わらない状況です。そのため新たに熱伝導シリコンポッティング材を注入していきます。
今回は信越化学工業の熱伝導ポッティング材KE-1285Pを用意しました。このような複雑な形状のところに入っていくポッティング材としては、粘度が低いものがよさそうです。このポッティング材は粘度が低くて流動性が高いので、よく充填できそうです。
シリコンポッティング材を入れていくのですが、あまり入って欲しくないところがあります。このようなUSB端子のところです。そのようなところにはシリコングリスを充填していきます。
ポッティング材を作っていきます。A剤とB剤があって、同じ分量ずつ取ります。これをよく混ぜていきます。少しビーカーが小さすぎましたね。
脱泡する装置を持っていないので簡易的ではあるのですが、このような真空にするパックのものを使って脱泡していきます。できてるかな。
その後シリンジにポッティング材を詰めて、USB充電器の方に充填していきます。隙間にも入っていくように細い管で直接流したりしました。このようにポッティング材を充填できました。
室温で放置していると固まるまでものすごく時間がかかってしまうので、ホットプレートで加温してすぐ固めてしまいます。ホットプレートの温度ですが、だいたい100℃いかないぐらいで1時間程度加熱します。温度上がると固まるのも早くなるのですが、あまり上げると中に入ってる電解コンデンサが壊れるかもしれないので、だいたい100℃以下ぐらいでこのまましばらく放置です。
このようにシリコンポッティング材は固まりました。加熱前と比べてポッティング材が全体的に盛り上がっているように見えます。脱泡が不十分で中の気泡が膨らんでしまった可能性があります。実際盛り上がってしまった部分を見てみると、気泡がいくつかあります。ポッティング材自体の脱泡が足りていなかったみたいです。これについてはしっかりと脱泡しておくべきでしたね。
ここからは実際に充電器として動作させて、温度がどれくらいまで上昇するのかを確認していきます。このようなセットアップで、純正品、アルミ筐体のフィンなし、アルミ筐体のフィンありの3種類同時に実験を行いました。負荷は充電器の最大出力である65Wを取るようにしています。温度の測定はこのように表面に熱電対を張り付けて行いました。今回は温度とUSB充電器の出力電力を同時に測定します。
こちらが測定結果です。こちらは何も改造していない純正品の状態での温度と出力電力のグラフです。グラフの横軸が実験を開始してからの経過時間、左の縦軸が充電器の表面温度、右の縦軸が充電器の出力電力です。
USB充電器は実験開始直後から出力電力65Wで動作しています。それと同時に充電器の温度も上がり始めます。実験開始から30分ほど経過すると充電器の温度もかなり上がってきて、表面温度は80℃となりました。この時点で充電器の機能としてのサーマルスロットリングによる過熱保護が動作して、充電器の出力電力は55Wまで低下しました。これはこの充電器の正常な動作です。
今回は全ての充電器でサーマルスロットリングに合わせて手動で電子負荷を調整した影響で、電力が0W、65W、55Wと行ったり来たりしていますが正常です。
サーマルスロットリングが動作した後は温度は徐々に低下していきます。電力を絞った分、充電器の電力損失、つまり発生する熱が少なくなったからです。最終的に表面温度は72℃程度に落ち着きました。途中温度が下がったりするところがありますが、これは表面に黒体テープを貼ったりしたものが影響しています。
次はフィンなしのアルミ筐体に充電器を収めたときの結果です。こちらも実験開始直後から温度上昇し始めて、30分経過後に出力電力が55Wまで低下するサーマルスロットリング動作となりました。アルミ筐体になったからといって、サーマルスロットリングがなくなるほど温度が下がるというわけではなさそうです。これについては後で考察します。
最高温度は67℃なので、プラスチック筐体と比べると13℃近く温度は低下しています。その後長時間動作させても温度変化はほとんどなく、67℃で平衡しました。
次はフィンありのアルミ筐体に充電器を収めたときの結果です。こちらも同様に実験開始直後から温度上昇し始めて、30分経過後にサーマルスロットリングによる過熱保護となりました。このときの表面温度は54℃です。ただずっとサーマルスロットリング状態を維持しているわけではなくて、すぐに復帰してフルパワー65Wでの動作を再開しています。
このような動作となった理由をいろいろ考えてみたのですが、これは熱が伝わるまでの時定数が結構大きいので、内側と外側で温度差が大きく、表面の温度は低いのですが、内側については実は結構温度上がっていたのではないかと予想しています。
そのまま動作継続して65分経過時に再びサーマルスロットリング動作となりましたが、またすぐに65W出力可能な状態に復帰しています。その後は特にサーマルスロットリングなどは起きずに、フルパワー65Wで運転継続できました。最高表面温度は63℃となり、フィンが放熱にかなり効いていることが分かります。
そしてこちらのグラフ、今回実験した3台の温度推移をまとめたものです。最高温度と平衡時の温度は純正品が一番高く、その次にフィンなしのアルミ筐体、そして温度が一番低いのはフィンありのアルミ筐体となりました。
ここで注意してほしいのは、純正品とフィンなしのアルミ筐体はサーマルスロットリングによって出力電力は55Wまで低下していますが、フィンありのアルミは65Wで安定的に動作していることです。そのためフィンありのものが動作条件的に一番厳しいものとなっています。フィンをつけたことによって他の2つと比べて表面積はかなり広くできているので、放熱がうまくできているというわけです。
こうやって見てみると、筐体の素材の違いやフィンあり・なしでどれくらい冷えるのかがよく分かります。
スペック表で比較してみるとこのようになります。表面積の部分を見てみると、実はアルミのフィンなしは純正品と比べて表面積はそこまで変わっていないです。それでも表面の最高温度は純正品と比べると13℃低下しています。表面は結構冷えているのですが、なぜかサーマルスロットリングは起きてしまいました。
アルミフィンありのものは他のものと比べると表面積は4倍~5倍くらい広くなっていますが、表面温度は思ったほど低下していないです。今回の実験では自然対流による放熱だったので、そこまで温度が下がらなかったのではないかということです。やはり冷却は風を当てて強制的に熱を奪っていかないと、実は温度はそこまでは下がらないというのを今回の実験で改めて確認できました。
先ほどの実験で一部考察しておきたい点がありましたので、再度確認していきます。フィンなしのアルミ筐体の温度測定の実験です。表面温度は純正のプラスチックのものと比べると低く抑えることができていたので、サーマルスロットリングが起こらないかなと思っていたのですが、なぜか起きてしまいました。
この理由として、実は内部の温度は高いままだったのではないかと考えています。つまり表面温度と内部温度の差がかなり大きくなっていたということです。
工作時の映像から抜き出していますが、ポッティング材を充填するために充電器とアルミの距離を少し多めに作っています。いろいろ考察した結果、この距離の長さが熱伝導を妨げているのではないかと考えています。
こちらがいわゆる熱回路と呼ばれるものです。こちらの図でいろいろ仮定を置いてみて、今回使ったカプトンテープだったり、シリコンポッティング材、あとはアルミの筐体がどれくらい熱を通しにくいかの熱抵抗を計算していきます。
一番左が室温24℃、一番右が今回発熱している充電器の温度です。今回は充電器の回路部分の温度が100℃と仮定しました。その発熱源が出している熱はQで表されて、今回は5.2Wとしています。この5.2Wというのは、充電器本体が出している電力損失、つまり熱です。そのQという熱がどんどん伝わっていきます。熱が熱抵抗を通っていって、室温のところまで伝わっていく、そのような図になります。
このRsᴘはシリコンポッティング材の熱抵抗、Rᴛᴘはカプトンテープの熱抵抗、そしてRᴀʟがこのアルミ筐体の熱抵抗です。この熱抵抗は大きいほど熱を伝えにくいです。例えば同じ形状でも、プラスチックは熱抵抗は高いですし、アルミを使っている素材などでは熱抵抗は低くなります。
これを使って考えてみると、まず実験結果からアルミ筐体の熱抵抗が分かります。8.3℃/Wです。
次はカプトンテープ部分です。テープ1枚貼ったくらいではそこまで温度差はできないだろうということで、温度差は5℃と仮定しています。そうしますとカプトンテープの熱抵抗は0.96℃/Wです。
そうしますとシリコンポッティング材とカプトンテープがくっついているところの温度が分かるわけです。先ほど仮定した温度差が5℃ですので、シリコンポッティング材とカプトンテープが接触しているところの温度は72℃となります。そうしますとシリコンポッティング材部分の熱抵抗が分かって、5.4℃/Wとなるわけです。
このように見てみると、アルミ筐体と空気の間の熱抵抗も支配的ですが、それと同じくらいシリコンポッティング材も放熱に支配的な影響を与えることが分かります。そのため、いくら頑張ってアルミ筐体にフィンをつけて放熱を頑張ったとしても、結局は内部で熱がうまく伝わっていないから放熱できていないということになります。
ここで今回使ったシリコンポッティング材のスペックをもう一度よく確認してみます。このポッティング材の熱伝導率は0.8W/m・Kです。この数字が大きいほど熱がよく伝わります。このようなよく見かけるタイプの電子部品に塗るサーマルグリスも熱伝導率は0.84W/m・Kなので、今回使ったポッティング材はそれと同じぐらい熱を伝えます。参考までに今回使ったアルミは6061なので、熱伝導率は170W/m・Kぐらいです。
ポッティング材部分の熱抵抗を下げるには、基本的には熱が伝わっていく距離を短くするか、熱伝導率の高いポッティング材を使う必要があります。つまり今回の場合、しっかりと熱を外側に伝えていくには、回路の熱源部分とアルミ筐体の距離をなるべく短くして、そこにポッティング材を隙間なく充填する必要があったわけです。今回はそれができていなかったのではないかということです。
こちらは強制空冷した場合と、シリコンポッティング材部分を最適化した場合の熱源温度を試算したものです。強制風冷する場合、ヒートシンクの熱抵抗が半分になったと仮定すると、熱源温度は78℃まで低下します。自然空冷のままで内部構造を最適化し、ポッティング材部分の熱抵抗を半分にできたとすると、熱源温度は86℃まで低下します。こう考えてみると、ポッティング材を充填する部分の構造を最適化した方が費用対効果は高そうです。
ちなみに熱伝導率の高いポッティング材もあることにはあるのですが、そのようなものは粘度が高くなりがちで、狭い空間に充填するのは結構大変です。
ここからは実際の製品で、なぜ金属筐体が採用されないのかを考えてみます。3つぐらい理由があります。コスト・絶縁・接触温度です。
まずコストについてです。熱伝導率の高い金属部品で作りますので、当然ながらコストは上がります。特に今回は削り出しでやりましたので、コストは高くつきました。こちらのフィン付きのものは1個100ドルかかっています。鋳物などを使って金属筐体は作れるかとは思うのですが、最終的に形を整えるためにCNCマシンで削ったりする必要があるので、やはりコストは高くつきそうです。そう考えると金属筐体はプラスチック筐体と比べてコスト爆上がりで、あまり現実的な選択肢ではなさそうです。
次は絶縁についてです。樹脂筐体の場合を考えてみると、当然人が触れてもプラスチックは絶縁体なので電流は流れないですし、感電もしません。一方で金属筐体は導体です。電気回路部分の電圧が出ている部分と金属筐体が接触していると、この外装の金属部分を触ったときに感電する可能性があります。金属筐体にすると、アースを取るために接地線を繋ぐ必要があるので、充電器としてはあまり現実的な設計ではなさそうです。
そして最後は接触温度です。今回実験中に金属筐体の充電器を触ってみたのですが、実は触れないぐらい熱く感じます。逆に無改造のプラスチック筐体の方が表面温度は高いのですが、長時間触ることができました。これは材料の熱伝導率の違いが効いています。
例えると、温度100℃のサウナの中に入ってもギリギリ耐えられるくらいの熱さですが、100℃のお湯の中に入るととんでもないことになってしまうのと同じです。これは空気の熱伝導率が低く、熱を伝えにくいです。一方で水は熱伝導率が高く、熱をよく伝えやすいです。
充電器の場合も金属とプラスチックを比べてみると、プラスチックの方が熱伝導率は低いので、触れてもそこまで熱くは感じません。このように2つ握ってみると、プラスチックの方は熱伝導率が低いので、触ったところは温度が下がるのですが、他の部分の熱が伝わって来にくいです。一方で金属の方はどうかというと、触れた部分の温度が下がると他の部分から熱がすぐ伝わってきてしまうので、熱く感じるわけです。
このような素材ごとの温度の上限はJIS C 62368-1で決まっています。人が操作のために触れる部分の温度の上限は、金属の場合では70℃、プラスチックの場合は87℃です。
いくら金属筐体を使っているからといって、自然空冷であり、中で発生している熱の量は変わっていませんので、温度を下げるのは実は結構難しいです。そのため実際の製品では金属を使うと接触温度の範囲内に収めることができないので、接触温度の上限が緩いプラスチック筐体を使っているのではないでしょうか。
というわけで今日はUSB充電器を金属筐体の中に入れたら冷えるようになるかを検証してきました。結論としては、冷えるようにはなるのですが、思ったよりは冷えません。内部の構造をしっかりと考えて、装置全体で熱設計をしていく必要があります。
金属筐体でしっかりと冷やすのであったら、フィンなどをつけて本体表面積を増やす必要がありますし、表面積を増やさないのであったら、強制風冷するか、もしくは内部の熱伝導を最適化する必要がでてきます。あとはコストや絶縁、接触温度なども考えると、金属筐体のUSB充電器というのはあまり現実的ではないかなと思いました。
というわけで、もしこの動画が役に立ちましたら、高評価・チャンネル登録よろしくお願いします。何か気になることがありましたら、ぜひコメントも残してみてください。それでは最後まで動画のご視聴ありがとうございました。
記事公開
