「AIを入れても仕事が減らない」のはなぜか 北の達人・木下勝寿社長が語る、置き換えではなく作り替える発想

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概要

生成AIを導入したのに業務が変わらない、最終判断や対応は結局人が時間をかけている。新R25の番組で、聞き手はこうした悩みを北の達人コーポレーション代表取締役社長の木下勝寿氏に投げかけた。木下氏は資本金1万円で1人で起業し、化粧品などのネット通販事業で東証プライム上場まで育てた経営者だと紹介されている。

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木下氏の答えの中心は、既存の業務をそのままAIに置き換えようとするから行き詰まる、というものだ。AIが今できることを前提に仕事の組み立て方を変えるべきだと木下氏は主張する。後半では、番組提供元であるラクスの問い合わせ自動応対システム「楽楽自動応対」(旧メールディーラー)を、10年以上使ってきたユーザーとしての経験を交えて語った。

自分の仕事をAIに置き換えると「7割」で止まる

木下氏はまず、AIについては「まだ答えがない」ことが大前提だと述べた。AIにできることは日々変わっているため、話せるのは現時点での使い方だという。

そのうえで木下氏が指摘したのは、多くの人が自分のやっている業務をAIに置き換えようとする点だ。自分がやれば10の出来になる仕事をAIにやらせても、今はまだ7や6、よくても8にとどまることが多い。そこから微調整をしているうちに「最初から自分でやった方が早い」となるケースが現状では多い、と木下氏は見ている。

だから、そうした業務には今はAIを使わない方がいいかもしれない、というのが木下氏の考えだ。いずれ使えるようになるとは思うが、そこを使えるようにする努力は自分ではなく、OpenAIやGeminiの開発側がやってくれる。利用者は今AIにできることに特化した方がよいという。

今AIで得をする2つの領域

木下氏は、今AIが役立つ領域を大きく2つに分けた。

1つ目は、自分がほとんどやったことのない仕事だ。こうした仕事をAIに頼むと、少なくとも自分よりはましな結果が出る。アイデア出しなら、これまで自分では10個ほどしか出なかったものが、投げかけ方次第で20〜30個出てくる。ゼロから自分でやるよりAIの方がよい部分はたくさんあり、そこは積極的に使えばよいという。

2つ目は、自分がやれば10だがAIでは7しか出ない仕事だ。ここでは7の品質で十分なものを大量に作り、これまでやっていなかったことができないかを考える。

具体例として木下氏は広告制作を挙げた。大ヒットする広告は、今もはっきり人間でなければ作れない。一方で小ヒット程度の広告なら、AIでもかなり作れる。これまでは誰もが大ヒットを狙い、うまくいかずに小ヒットが出てくるという流れだった。AIで小ヒット広告を作れるなら、それを大量に作って出していけば、合計では大ヒット広告を上回るという考え方ができる。

北の達人でも、大ヒット広告の制作ではAIは人間のサポートという位置づけだが、小ヒット広告はAIをベースに作る体制を作っているという。また新人がAIを使うことで、ベテランには遠く及ばないものの、新人にしては良いものを作れるようになっていると木下氏は話した。

同じことを何度も教える手間をAIが引き受ける

木下氏は、同じことを何度も言うのが「すごく嫌い」だという。社員を多く抱えているため、1人には1回言えば済んでも、新しい人が入るたびに同じ説明が必要になる。これまでもシステムで仕組み化してきたが、それがAIでもできるようになってきた。

例として木下氏が挙げたのは、広告表現で必要になる薬機法や景品表示法の知識だ。本に書いてあるレベルではなく、もう少しテクニカルな部分を教える必要があったが、AIを使うことで表現の可否をある程度自動で判別できるようになり、非常に便利になったという。

壁は「すぐ諦める」こと

AI活用で壁にぶつかった経験を聞かれると、木下氏は自分自身が使う中ではあまりないと答えた。むしろ気になるのは、メンバーが少し使ってうまくいかないとすぐに諦めてしまうことだという。

木下氏はメンバーの気持ちも分かると言う。普段手作業でしている仕事をAIに置き換えても、すぐに同じレベルや使えるレベルにはならない。プロンプトの調整に時間がかかる間は手作業の仕事が止まり、このまま進めていいのか、本当にできるようになるのかと不安になって元のやり方に戻ってしまう。それでも頑張ってやり続けることが大事だと木下氏は述べた。

7割の品質で新しい市場を作る

木下氏は、置き換えが難しい理由を価格の例で説明した。手作業でレベル10のものを作り、1万円で売っているとする。AIでは7しか出ないとなれば、多くの人は「やっぱり無理だ」と判断する。しかし7のものは、原価から考えれば2,000円程度で売れる。7の品質で満足する客に2,000円で10社に売れば、売上は2万円になる。

ホームページ制作でも同じだという。100%最高のものを作ろうとすれば100万円かかるが、7割程度のレベルなら5万円でできるとなれば、「5万円でいい」という客はたくさんいるはずで、そこに市場ができる。クリエイティブ、ライティング、LP制作のように品質が0か100かではなく段階的なものは、品質が100%でなくても一定のニーズがあると木下氏は見る。

木下氏によれば、既存のものをそのまま置き換えるのではなく、AIでできることをベースにしたビジネスモデルを組む必要がある。ただ、その意識がまだ変わっていないため、なかなか使われない面があるという。聞き手はこれを「AIなら何でもやってくれる、全部やらせればいいという考えがまず間違っている」とまとめた。

ペルソナを3人立てて意見を聞く

北の達人では、商品企画でもAIをかなり使っているという。木下氏が意外なAIの強みとして挙げたのが、ペルソナを使って意見を聞く方法だ。

「こんな商品を作ろうと思うがどうか」とAIそのものの人格に聞くのではなく、例えば45歳の女性のペルソナを3人作らせ、その3人に商品への意見を出してもらう。すると「もう少しこうなると使いやすい」といった意見が出てくる。ペルソナ同士の話し合いで課題が見えてきたら、その課題を別のAIに渡し、今度は商品開発の専門家という設定で解決策を考えさせる。

木下氏は、これで答えまで出るかというと正直そこまでではないと留保した。それでも1人で考えるよりはかなり幅広い観点で考えられるようになるという。人数については3人程度がよいと一般的に言われており、同社も3人で運用している。4人以上にすると1人ひとりのペルソナが薄くなる感覚があると話した。

業務はSlackではなくメールで回す

業務フローのどこでAIを使うかという話題で、木下氏は「メールはめちゃくちゃ大事」と答えた。自身もメールを書く際には、まず言いたいことを書いたうえで、相手に伝わりやすくしたり、トラブル気味のときに感情が出すぎないよう穏やかに書き直したりするのにAIを使っているという。

北の達人では業務を基本的にメールベースで行っている。Slackなどはあまり使っていない。1日に何百件もやり取りする中で、リアルタイムで次々に来られると困るからだ。チャットツールはみんながリアルタイムでやろうとするが、思いつきで何度もやり取りするのではなく、整理した状態で送ってほしい。そのためメールを重用しているという。

メールの苦い経験を聞かれると、木下氏は無駄なメールが大量に混じることを挙げた。名刺交換の後に相手のメールマガジンへ勝手に登録されたり、内容のないメールが届いたりする。木下氏は自らを「フィルタリングの鬼」と称し、無駄なメールが来ないよう、自分宛てのものがきちんと届くよう設定しているという。メールディーラーも、AI機能が加わる前から率先して導入した。業務フローを見ながら設定を調整し、業務の負荷が最小になるようにすることを昔から続けてきたと話した。

顧客対応では時間より質が優先

問い合わせや顧客対応にAIを入れる効果について、木下氏は時間に加えて「クオリティ」を挙げた。組織には新人もベテランもいる。初期のころはとんでもない返信をする人もいて、先輩がチェックして修正してから出していた。AIベースになれば、チェックが必要な文面の最低水準がだいぶ上がると木下氏は見ている。

聞き手は、自分もメールが苦手でGeminiに考えてもらっているが、画面を切り替えていちいち前提を書くのが大変で、結局自分で考えてしまうと打ち明けた。そのうえで、ここから番組は楽楽自動応対の紹介に移った。

メールディーラー時代の課題と共有管理

楽楽自動応対は、長年「メールディーラー」の名で提供されてきたサービスが、AI機能の標準搭載に伴って改称したものだと紹介された。木下氏の会社では10年以上使っており、本人は「多分ヘビーユーザー」だと言う。

導入前の問題について、木下氏は「めちゃくちゃありました」と振り返った。整理されていない時期には、届いたメールを誰がどう対応するかが明確でなく、誰かが対応していると思い込んでいたことがあった。また、対応しようと調べ物をしていたメールを、別の人が未対応だと思って先に処理してしまうこともよくあったという。

今は、分からないことがあれば声をかけて聞く代わりに、各メールに付けたコメントでやり取りしている。注意事項を書き込むなど「バリバリ使っている」そうで、オフィスにいても自宅からでも同じように仕事ができる。木下氏はこの仕組みを「ネット上のコールセンター」のようだと表現し、全員が1か所に集まって対応するので教育もしやすいと述べた。

振り分けについても、同社は以前、注文の問い合わせ用、商品が届かない場合用、届いた後の問い合わせ用などとメールアドレスを分け、客に選んでもらっていた。それが今は自動で振り分けられるようになっていると聞いていると木下氏は話した。自社サイトとECモールの問い合わせを一元管理できる点についても、以前はモールの管理画面を直接開く必要があったと語った。

返信文の自動生成と「何でもできるAI」の使いにくさ

AI機能の1つ目は返信文の自動生成だ。ボタンを押すと、過去のやり取りを分析した返信文と、その根拠となったソースが表示される。木下氏は、何をしていいか分からない新人の教育が劇的に楽になりそうだと述べた。聞き手が、ベテランでなくてもベテランのように返せると言うと、木下氏は、ベテランが書いたメールも学習して反映されるので、使うほど全体のレベルアップにつながりそうだと応じた。

顧客満足度への影響を問われると、木下氏は、顧客サービスでは時間よりも質がまず最優先であり、質が上がること自体が重要だと答えた。そのうえで、それが短時間でできるようになることや、育成期間が短くなることも効果として挙げた。

要点を入力するとそれを汲み取った文章を作るカスタム生成についても、聞き手は、Geminiなどに移さずに画面上で完結する点を評価した。これに対し木下氏は、Gemini、Claude、ChatGPTはユーザーにリテラシーをかなり求めると指摘した。「何でもできる」は、何をしていいか分からないことでもある。業務をベースにしてそこを支援するAIの方がとっつきやすいという見方だ。さらに木下氏は、今は「AIが」と言っているが、2〜3年後にはAIという言葉は使われず、それがデフォルトになっているだろうと予測した。

優先順位の判定と「僕の苦労は何だったのか」

2つ目のAI機能は、感情分析による優先順位の判定だ。怒っている、困っているといった感情を読み取り、至急対応が必要な場合は管理者に通知する。

木下氏は自社でよくある場面を挙げた。金曜の夜にクレームのメールが届き、月曜の朝に対応しようとすると、その間に同じ人から何度もメールが来ていることがある。そうした案件には真っ先に対応する必要があり、事前に分かれば大いに助かるという。さらに、客の温度感で担当を分けられる点も評価した。温度感の高いクレームは最初から責任者が、そこまででないものはベテラン社員が対応するようにすれば、担当者が自分では対応できずに上の人に頼むという流れがなくなる。

起業当初は1人で全メールを見ていた木下氏は、当時これがあれば非常に良かったと振り返った。そして、その種の問題に対して工夫や教育を重ねてきた自分の苦労は何だったのだろうと、笑いながら「若干イラッときた」と語った。現場では、最近入った人はこれが当たり前だと思っているようだが、昔から使っているメンバーからは便利になった、いい時代になったという声があるという。

浮いた時間の使い道について、木下氏は業務フロー自体を組み立て直すことになるだろうと述べた。今はメールと電話で人間が対応しているが、これまでできなかったテレビ電話での対応や、AIを使った対応も考えられる。電話とも連動しているので、これまで実現できなかったサービス水準に上げていけそうだ、と見通しを語った。

早く始めるほどナレッジが溜まる

聞き手は、メール共有管理システム市場での売上シェア連続1位などの実績や、既存のメールディーラー利用者はAI機能を無料でアップデートできる点を紹介した。

製品の強みを改めて問われると、木下氏はナレッジの蓄積を挙げた。自動生成される文面は、自社の過去のメールのやり取りをストックして最適な回答を作るものであり、使い続けるほどナレッジが溜まり精度が上がる。だから長く使っている方が有利で、早く使い始めた方が「絶対勝ち」だと述べた。同社は10年以上使っているので、今から追いつこうとしても無理だと冗談めかして話した。

最後の助言:AIを「頑張る」のではなく、自分を乗せる

AI活用に悩む人への助言として、木下氏は、自分自身が「便利だ」と感じることが一番大事だと語った。最初はなんとなくやらなければいけない感があるものだという。

木下氏の場合、Gmailでスケジュールに関するメールが届いたときに「Googleカレンダーに入れて」と指示すると自動で登録され、これはとても便利だと感じた。そこから、ほかにも何かできるのではないかと考えるようになったという。便利だと思える経験を増やし、「AIって便利やな」と自分を乗せていく。AIを頑張って使うのではなく、面白いから、楽だから使っているという状態に自分をどう持っていくかが重要だ、と木下氏は締めくくった。