JR九州×SBIの金融参入は地銀に何をもたらすか:BaaSと預金争奪の行方

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概要

JR九州がSBIグループと組み、金融スーパーアプリ「JQ BANK」を共同開発して2027年度中に提供すると発表した。PIVOTの速報解説では、『捨てられる銀行』シリーズの著者で経済ジャーナリストの橋本卓典氏が、この提携の意味を読み解いた。中心となる問いは二つある。鉄道会社が金融に乗り出す流れはどこまで広がるのか。そして、強力な新規参入者を前に地方銀行はどう戦えばよいのか。橋本氏は、今回の提携は預金の集め方という競争の前提を変え、地銀の再編を促す余波を生みうると見ている。

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民営化した旧国営会社が自前の経済圏を目指す流れ

聞き手は、橋本氏がこのニュースが出る前から地方の鉄道会社を地域金融の「台風の目」として挙げていたことに触れ、今回の提携は既定路線だったのかと尋ねた。橋本氏は大きな流れとして説明する。民営化した旧国営会社は自力で生きていかなければならず、自前の経済圏を築こうとするのは当然だという。

その手段として今回使われるのが BaaS(バンキング・アズ・ア・サービス)だ。銀行が銀行でない事業者に銀行機能を提供し、鉄道会社は銀行ではないまま、その機能を自社の看板で提供する。橋本氏は、銀行側と鉄道側の思惑が一致したこの流れはJRにとどまらず、私鉄にも続いていくと見る。さらに、これが預金の集め方という競争の考え方そのものを変えるため、既存の金融機関、とくに地銀の再編や、預金が集まらないことによる再編といった余波を多くもたらすと述べた。

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なぜJR九州で効果が大きいのか:非運輸収入6割という構造

JR九州の取り組みが先進的なのかという問いに対し、橋本氏はまず、JR東日本がすでにBaaSで金融を提供し、JR西日本も2027年度に始める予定であることを挙げ、JR九州の参入も一つの流れの中にあると位置づけた。

そのうえで、JR各社の収益構造の違いを説明した。橋本氏によれば、JR東日本とJR西日本は運輸収入と非運輸収入がおおむね半々で、利益も半々程度のイメージだ。JR東海はドル箱路線を持つため運輸が約8割を占め、非運輸の貢献は2割程度にとどまる。これに対してJR九州は運輸が4割で、非運輸への依存度が6割あるという。

橋本氏は、非運輸への依存度が高いことは顧客接点が非常に多いことだと言い換えられると述べる。ホテルや流通などで顧客との接点が多いところにBaaSを持ち込めば、効果も大きいはずだという見立てだ。今後注目する対象としてはJR北海道とJR四国を挙げ、運輸収入が8割のJR東海も、長期的には非運輸で収益の柱をどう作るかが課題になるため、この動きが広がる可能性は大いにあると語った。

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組み込み型金融の歴史と、人口減少に縛られるインフラ企業

日本の鉄道会社は小売や不動産に手を広げてきたが、これからの本丸は金融なのか。この問いに対し、橋本氏は金融サービスを本業に組み込む考え方自体は古いと説明する。自動車ディーラーで組める自動車ローンがその例で、「組み込み型金融」と呼ばれる概念は昔からあった。ただ、かつては紙の書類を処理して審査していた。

転機として橋本氏が挙げるのは、2007年のiPhone登場以降の流れだ。2010年代に欧州で、銀行以外の事業者にも金融を扱わせてよいのではないかという考えから、APIで銀行システムに接続して銀行機能を使わせる規制緩和が広がった。日本でも2017年の改正銀行法でこれが大きく広がり、BaaSの流れが生まれたという。

橋本氏は、この流れが鉄道だけでなく、ガス会社や電力会社、通信会社にも及ぶと見る。これらの業種は顧客接点が非常に多い一方で、人口減少の制約をどうしても受ける。どれだけ所得のある人でもガスの使用量が2倍や3倍になることはないだろう、と橋本氏は例を挙げた。人口の制約を受けるインフラ系の企業が、BaaSを利用する側、あるいは提供する側として金融サービスに参入する流れは今後も続くというのが橋本氏の見方だ。

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SBIが証券まで持ち込む「フル金融サービス」の意味

JQ BANKはどれほど強力なアプリになるのか。橋本氏はまず日本のBaaSの経緯を振り返った。法改正は2017年だが、トップランナーとして早くから取り組んだ例として、2020年に金融サービスを始めたJALを挙げる。その提供元は住信SBIネット銀行で、同行は現在ドコモに買収されて名称が変わっている。住信SBIネット銀行はまさにSBIの力を使ってBaaSを展開していたが、SBIはそれをドコモに売却した。そのSBIが、今度はSBI新生銀行としてJR九州と組むという構図だ。

橋本氏が驚いたと話すのは、提供範囲の広さである。BaaSは本来、預金や送金といった銀行機能の提供を指すが、SBIは証券会社を持っているため、今回は証券機能も盛り込むという。そうなると、これまでBaaSではできなかった暗号資産や証券なども含めたフルの金融サービスになる。橋本氏は、BaaSという概念が銀行だけのものではなくなってきていることを、今回の件は示していると述べた。

楽天も楽天証券を持っていることを踏まえ、橋本氏は総合金融サービスが今後の主戦場になるかもしれない、その可能性を感じさせる提携だと評価した。

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楽天銀行の例に見る、BaaS提供銀行の預金調達力

地銀にとっては強力なライバルの誕生と言えるのか。橋本氏は、2024年に楽天銀行がJR東日本と組んで立ち上げた「JRE BANK」を例に説明した。利用者はJRE BANKに口座を開いて預金しているつもりでも、その預金はBaaS提供元である楽天銀行の預金として紐付けられる。

橋本氏によれば、楽天銀行は現在、毎年1兆円程度預金を伸ばしている。上位の地銀でも前年度比の積み上がりは1000億円程度で、2000億円もないだろうと橋本氏は比較し、楽天銀行の伸びを「脅威的」と表現した。しかも楽天銀行はBaaSを貸し出すことで使用料も受け取っている。

対照的に、地銀を含む既存の銀行は、3カ月で何%といった定期預金キャンペーンで金利を上乗せし、コストを払って預金を集めている。BaaS提供銀行は利用料を受け取りながら自動的に預金を集めているため、預金の調達コストは「勝負にならない」ほど次元が違う、と橋本氏は言う。

調達コストの差は運用面の収益にも響く。橋本氏は日銀当座預金を例に挙げた。日銀が利上げを始めたため、当座預金に預ければ金利が得られる。しかし地銀と楽天銀行が同じように日銀に預けても、調達コストがまったく違うため、収益への効果は大きく異なる。個人預金は預金全体の6割程度を占めるとされ、そこにBaaSによる預金の吸い上げ効果が働けば、地銀は預金を調達できなくなる、というのが橋本氏の懸念だ。利上げで銀行株は高いが、その中でも預金調達力と調達コストで優劣がつくと見る。

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勘定系システムがBaaS参入の分かれ目になる

では既存銀行はBaaSに参画できるのか。橋本氏は、BaaSへの参画とは銀行の勘定系システムに外部からAPIで接続させることだと説明する。昔からのメインフレームの勘定系システムは、そもそも外部に情報を渡す設計になっておらず、内部の情報を利活用する前提でも作られていない。そのため、クラウドやオープン系など、APIと相性のよいシステムを構築している銀行が強くなるという。

橋本氏は、預金調達力、システム戦略、どこと組むのか、自らBaaS提供元になれるのか、といった点が金融業界を見るうえでの大きな着眼点になると語った。

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JR九州はどれだけ預金を集められるか

JR九州の新事業がどれだけ預金を集められるかについて、橋本氏は発表内容を記憶に基づいて振り返った。JR九州には会員や予約アプリ、ポイントシステムがあり、会員数は500万〜600万程度の話だったと思うという。そのうえで口座数の目標は数十万口座といった規模だったはずだとし、最初はまだ小さいと見る。

それでも橋本氏は、世代の入れ替わりに注目する。デジタルネイティブの若い世代にとって、夕方6時以降に引き出すと手数料を取られる、送金や振り込みにも手数料がかかるといった既存銀行の仕組みは「罰ゲーム」のように映るという。これに対し、JR九州のポイント「JRキューポ」が金融の利用に応じて貯まり、それをホテルで使ったり、投資信託の購入に充てたりできるという話もあったと橋本氏は紹介した。日々の鉄道利用が資産形成につながるなら、若い世代やビジネスパーソンを中心にじわじわ広がる可能性は大いにある、というのが橋本氏の見立てだ。

聞き手が、一つのアプリですべてまとめてできるものは少ないと指摘すると、橋本氏はそこがSBIの面白いところで、トータルの金融サービスを担える点が大きいと応じた。楽天でもポイントで投資信託を買えるが、今回はあらゆる金融の活動が紐付けられ、ポイントが大きく貯まる仕組みになるのではないかと橋本氏は推測する。外食や、アミュプラザのような駅ビルでの流通も含めて、九州での消費拡大につながるのではないかと述べた。

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東京と地方で異なる使われ方、先発組への波及

聞き手は、東京に住んでいればNISAを楽天証券やSBI証券で運用するのが普通だが、地方ではこうした新しいバンクで資産運用もポイントもまとめて済ませる方が便利だと考える人が多そうだと問いかけた。橋本氏は同意し、結局はSBIのプラットフォームを使っているので、SBI証券を使っているのと同じようなものだと説明した。

東京でも人は日々鉄道に乗り、駅ビルで買い物をする。それらはJRE POINTにはなっているが、それが全部SBIの投資信託などに換えられるようになれば、考え方も変わってくるだろうと橋本氏は言う。そのため、後発のJR九州に対し、先発組であるJR東日本が証券領域に入ってくる可能性も当然あると見る。楽天も黙っていないのではないか、とも付け加えた。

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地銀の選択肢:裏方銀行か、法人預金での生き残りか

強力なライバルが現れる中で地銀はどう対抗すべきか。橋本氏は、地銀にとって非常に難しい戦いになると答えたうえで、いくつかの道を示した。

一つは、地銀自らがBaaS提供元になる道だ。橋本氏はその可能性もなくはないと考える。ただし前述の通り、勘定系がメインフレームでは難しく、クラウドやオープン系のシステムを構築している銀行に限られる。そうした銀行が、鉄道に限らず地域のインフラ会社などにBaaSを提供すれば、いわば「裏方銀行」として、顧客接点の多い事業者に金融サービスを供給し、自らは裏方に徹することになる。それができるかどうかが問われるという。橋本氏は、規模の勝負に向かう銀行と分かれていくだろうとも述べた。

もう一つは、地域の顧客に密着する道だ。橋本氏によれば、今回のようなBaaSの主な狙いは法人預金ではない。そのため、法人預金の獲得が伝統的な銀行にとって最後の生命線になると見る。単に金利を取ってお金を貸すのではなく、経営改善のアドバイス、販路拡大や業務改善といったコンサルティング的な支援ができる銀行が、法人預金をどう取り込むか。事業承継や、海外では主流だというファミリービジネスにいかに入り込めるかが鍵になると橋本氏は語った。

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なぜ地銀ではなく東京のSBIと組んだのか

九州出身の聞き手は、JR九州には九州の優秀な人材が集まり、県境に縛られず九州全域をカバーできるという二つの強みがあると指摘した。橋本氏も同意しつつ、裏事情はまだ取材できていないと断ったうえで、SBIと組んだ点が面白いと語った。

九州にはふくおかフィナンシャルグループがあり、その傘下のデジタルバンク「みんなの銀行」もBaaSを提供している。JR九州はそこを活用せず、東京のSBIと組むことで、より大きく構えた形になった。橋本氏は、どこか一つの地銀と組めば、たとえば鹿児島銀行や肥後銀行を擁する九州フィナンシャルグループをまともに敵に回すことになると指摘し、地域の事情を考えればSBIを選んだのは「なるほど」と思えると述べた。

橋本氏はまた、JR九州にとって新幹線はドル箱路線だろうが、在来線は赤字のところが多いと見る。その穴を埋め、収益を拡大するために、東京の大手で証券まで扱えるSBIと組んだのは面白く、地銀が選ばれなかったこと自体も興味深いと語った。聞き手は、金融がJR九州にとって今後を担う主力事業になりうるとまとめた。

ドコモの転身が示す、提供される側から提供する側への道

最後に橋本氏は、本題からは少し外れるとしつつ、ドコモの動きに注目したいと述べた。ドコモはもともとJRと同じくBaaSの提供を受ける側だった。ところが、危機を感じたのか旨みがあると見たのか、住信SBIネット銀行を買収し、自らBaaS提供元の銀行に転じた。

橋本氏は、同じような動きが通信以外にも起きるのかを問いかける。鉄道会社や電力、ガスといったインフラ系、交通系の企業が、金融サービスを続ける中でBaaS提供元になっていくのか、それともあくまでBaaSの提供を受ける側の事業として続けるのか。その経営戦略は非常に見物だ、というのが橋本氏の結びの言葉だった。