Netflix『ダウンタイム』の疋田先生はなぜ顔を出さないのか:美容外科医が読み解く「シャドードクター」の実態

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概要

Netflixの美容整形ドラマ『ダウンタイム』の登場人物を解説するシリーズの第2回である。今回取り上げるのは、中川家の礼二が演じる疋田先生だ。話者の美容外科医・高須幹弥氏は、作中で「シミ取りおじさん」「シャドードクター」「ダークサイドの人間」と呼ばれるこの人物がどういう立場の医師なのかを、美容クリニックの実務に照らして説明する。中心になる問いは、腕のある医師がなぜ顔と名前を隠して働くのか、という点である。後半では、シャドードクターという慣行そのものと、それが特に韓国で社会問題になっている背景にも話を広げている。

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視聴者に人気の疋田先生と「シミ取りおじさん」という呼び名

話者によれば、疋田先生は視聴者の間で人気のあるキャラクターで、その理由として多くの人が礼二の演技を挙げている。仕事の合間に喫煙所でタバコを吸いながら沼田先生を飲みに誘う場面などについて、「いい味を出している」「たまらなく好きだ」という声が多いという。

一方で作中の疋田先生は、看護師や受付の女性から「シミ取りおじさん」と呼ばれ、少し馬鹿にされた扱いを受けている。本人も自分をシャドードクター、ダークサイドの人間だと称している。話者はこの3つの呼び名がそれぞれ何を意味するのかを順に説明していく。

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美容クリニックの「指名」と「フリー」の仕組み

前提として話者は、美容クリニックの医師は通常、顔と名前をホームページに出すと説明する。現在はほとんどの医師がXやInstagram、YouTube、TikTokなどのSNSを運用しており、患者の大部分は症例写真や口コミ、医師の発信から人間性を調べたうえで医師を指名して来院する。

ただし、医師を指名しない「フリー」の患者も一部にいる。多くのクリニックはフリーの患者向けのコースを用意しており、最近特に多いのが顔全体のシミ・ほくろ取りのような比較的安い施術だという。安い施術で患者を呼び込み、そのうちの何人かをより高額な施術につなげる。この集客用の施術は医師指名不可であることが多い。

疋田先生は顔と名前を公開しておらず、SNSもやっていないため指名が入らない。そのためピコレーザーやCO2レーザーでシミ・ほくろを取る、指名不可の集客用施術の担当医になっている可能性が高いと話者は見る。作中で「ピコレーザーぐらいしかできない」と言われ、「シミ取りおじさん」と軽んじられているのはこの立場のためだ、というのが話者の解釈である。それでも本人は相応の給料をもらっており、「この世界は言われた通りのことをやっていれば金が儲かる」という趣旨のことを口にしている。

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腕は確か:リン先生の代わりに執刀するシャドードクター

疋田先生には医学部・大学での勤務経験があるようだが、形成外科専門医を持っているかどうかは、話者が調べた限りでは不明だという。ただしリン先生が信頼を置くシャドードクターであり、手術の腕はそれなりに良いと話者は見ている。

その根拠として挙げるのが、池さんの鼻尖縮小手術の場面である。静脈麻酔で眠らせている間に、執刀医がリン先生から疋田先生に入れ替わる。池さんは、幼なじみであり自分の目を失明させた相手でもあるリン先生に手術してもらったと思い込んでいる。これがシャドードクターという形態であり、リン先生が大事な患者の手術を任せている以上、技術は信頼されているのだろうと話者は推察する。

また作中で疋田先生は、長女は医学部で留年中、次女は医学部を目指して浪人中、三女は引きこもり中だと語っている。3人の娘の学費などでお金がかかるため、美容クリニックで稼ぎつつシャドードクターを引き受けているのだろうと話者は読んでいる。

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沼田先生との共通点:後ろめたい事情と顔出しの関係

では、なぜ疋田先生は顔を出さないのか。話者は、シミ取り専門であっても、あるいは良くないことではあるがシャドードクターであっても、顔と名前と経歴を出せばよいと自分も思う、と言う。SNSが苦手なだけならやらなければよいが、それだけなら顔を出しても構わないはずだ。技術があるならなおさら、顔と名前を出したほうが患者の信頼を得られる。ホームページの医師紹介にすら載せないのは不自然であり、何か特別な事情、つまり後ろめたいことがあると推察されるという。

比較対象として話者が挙げるのが沼田先生である。沼田先生は以前勤めていた大きな病院で、豊胸手術のバッグを取り出して救急処置をした後に戻さず、それに怒った患者が自殺してしまった。病院と揉めた末に遠山美容クリニックに就職したが、その時点でネットで炎上し、顔と名前が晒されていた。技術はあるのでシャドードクターなどの要員として雇われた、という経緯である。リン先生自身もイップスで手が震え、全身麻酔の手術や池さんの手術ができないため、代わりに執刀する医師が必要だった。疋田先生や沼田先生はその要員だというのが話者の整理だ。

評判の悪い医師を表に出すと、「事故を起こした医師を雇っているとんでもないクリニックだ」という悪評がネットで広まる。そのため顔と名前を隠し、シャドードクターやフリー患者向けの医師として雇うのだと話者は説明する。ただし、シミ取りの施術でも本来は顔と名前を出して治療すべきであり、作中で偽名を使っているのか、別の医師が診察だけしてマスク姿の疋田先生が処置しているのかは分からない、とも付け加えている。

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可能性1:過去の死亡事故で名前が報じられた

話者が考える一つ目の可能性は、過去に死亡事故を起こしたことである。現実にも、美容クリニックで脂肪吸引による死亡事故が起き、遺族が訴訟を起こし、警察の捜査が入って医師の顔と名前が公表される例がある。その情報はネットに永久に残り、名前を検索すれば事故のニュースが出てくる。

美容医療の死亡事故で多いのは、話者によれば脂肪吸引、豊胸手術、骨切り手術、全身麻酔の手術などだ。ただし多くの場合は遺族と示談して金銭で解決し、ニュースにはならない。報道されるのは実際に起きている死亡事故のごく一部であり、ほかにも植物状態でICUに入ったままの人や、人工呼吸器管理で入院・自宅療養している人もいると話者は述べる。報道に至るのは、遺族と揉めて示談がまとまらなかった場合や、事件性があって警察の捜査が入り、それをマスコミが嗅ぎつけた場合だという。

さらに話者は、事故が美容整形とは限らないとも指摘する。疋田先生はもともと大学病院などで形成外科、一般外科、心臓外科などに勤務し、保険診療の中で死亡事故を起こした可能性もある。例として、ある医師の手術で多数の被害者が出て事件として報道され、顔と名前が公表されたケースに触れている。話者によれば、普通の病院の外科や救急での死亡事故は、美容整形よりも圧倒的に数が多い。もともと病気を抱えたハイリスクな患者を手術しているためだ。それでも大部分は示談になり、ニュースになるのは事件性がある場合、同様の事故が続いた場合、裁判になった場合に限られる。疋田先生も大学病院で事故を起こして報道され、病院を辞めたが、腕が良いのでリン先生が自分の手術を任せるために雇った、という筋も考えられると話者は言う。

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可能性2:性犯罪で報道された

二つ目の可能性として話者が挙げるのは、性犯罪で報道され、顔と名前が公表されたケースである。現実の例として、美容外科医が女子高生をカラオケボックスに誘って酒を飲ませ、わいせつ行為をして動画を撮影し逮捕された件や、女性を自宅に連れ込んで薬物を飲ませる事件を挙げる。多いのは、クリニック内で手術の名目で全身麻酔をかけ、眠っている間に性的暴行をして撮影し、発覚して逮捕されるパターンだという。美容外科、美容皮膚科、一部の歯科医でもそうした犯罪があると話者は述べる。

話者の見方では、性犯罪も報道されて顔と名前が出るのはごくわずかで、ほとんどは示談や被害者の泣き寝入りで事件化しない。そのうえで話者は、医師は他の職業に比べて性癖が過激な人の比率が高いという持論を語る。日常的に医療行為として女性の体を見ているために通常の行為では興奮しにくくなり、犯罪に走るのではないか、特に美容外科ではそうだ、という推測である。さらに、研修後すぐ美容医療に進む「直美」の医師には、早く遊びたい・早く稼ぎたいという動機の人が多く、性犯罪を起こす確率が高いのではないかとも述べている。もちろん直美でない医師でも性犯罪を犯す例はある、と断ったうえでの見解である。

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結局、理由は分からない

ただし話者は、これらはあくまで可能性であり「分からない」と繰り返している。ドラマの後半では、疋田先生の顔と名前がパネルに出ている場面があり、もう隠さなくてよくなったのかもしれないとも言う。後ろめたいことは何もなく、単に照れ屋で顔と名前を絶対に出したくない医師という可能性もある。ただ、美容外科で腕が良ければ普通は顔と名前を出すので、なぜシャドードクターなのかはよく分からない、というのが話者の結論である。

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韓国で深刻化するシャドードクター問題

後半で話者は、シャドードクターという慣行そのものを取り上げる。これは社会問題になっているが、日本より韓国で圧倒的に深刻だという。韓国は人口あたりの美容整形の件数が多い整形大国で、話者の感覚では日本の倍ほどだ。その結果、過当競争になり、医師の間で勝ち組と負け組の格差が大きく開いている。

勝ち組の医師は腕が良く、SNSやメディア、広告で発信していて人気があり、指名予約で枠が埋まってしまう。一方、同じ大きなクリニックの中にも、指名がまったく入らず暇を持て余している医師がいる。経営者から見ると、人気医師で集客し、全身麻酔で眠らせている間に、人気のない医師にシャドードクターとして手術させるのが一番儲かる。

話者はこれを明らかに詐欺だと断じる。患者は人気医師に手術してほしくて、場合によっては指名料や特別料金まで払っているのに、眠っている間に別の医師が手術するからだ。代わりに執刀するのは、手術が下手そうでもやることがない医師だったり、新人医師の練習台にされたりする。疋田先生のように、たまたま腕は良いが顔を出せない医師が担当する場合もあるかもしれないが、一般には指名した医師より技術の劣る医師がシャドードクターになることが圧倒的に多い、と話者は述べる。

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量産型の鼻中隔延長と、帰国後の修正手術

韓国のシャドードクターによる手術の典型として話者が挙げるのが、鼻中隔延長である。鼻先をしっかり出す場合、本来は患者自身の胸を切開して肋軟骨を採取し、板状にしてオープン法で移植する。ピノキオのように硬く鼻先を突き出すデザインが一部の女性の間で流行っており、それが得意な医師に指名が集まるという。

しかし毎回肋軟骨を採るのは手間と時間がかかり、気胸などのリスクもある。そこで、保存された他人の死体の軟骨を使えば自家肋軟骨を採らずに済む。韓国ではこの軟骨を使った鼻中隔延長を、シャドードクターが全身麻酔で、マニュアル通りのデザインで短時間に大量にこなすケースが多いと話者は言う。ただし他人の軟骨は生体親和性が低く、徐々に吸収されて鼻が潰れていくほか、感染のリスクも高い。悪質な韓国のクリニックでは、シャドードクターによるこの手術で鼻が潰れたり感染したりする失敗が多く、日本人患者が帰国後に「思っていたのと違う」となり、日本で修正手術を受けて余分な費用がかかる例もあるという。

話者は、日本にも韓国にも腕の良い誠実な医師もいれば、腕が悪い医師や悪徳な医師もいて、どちらもピンからキリまでだと付け加える。日本にもぼったくりの悪徳クリニックは多い。そのうえで、日本人が韓国の美容整形の「カモ」になり、シャドードクターの犠牲になることもあるとの見方を示す。

最後に話者は、シャドードクターが手術したことを患者は最後まで知らないのがほとんどだと指摘する。一方でクリニック内部の人間はみな知っており、内部告発によって社会問題化することがよくある、と述べて解説を締めくくっている。