ニデック岸田社長退任、戒田新体制で上場を維持できるか

YouTubeで開く ↗
概要

ニデックの岸田光哉社長が退任し、戒田理夫氏が新社長に就いた。PIVOTの速報解説では、ニデックを継続して取材してきた経済ジャーナリストの井上久男氏が、退任の理由、新しい取締役会の働き、新社長の人物像、監査法人による意見不表明、そして再建の道筋について語った。収録は記者会見の翌日である。井上氏の立場は、戒田氏は「ベストではなくベター」な人選であり、改革には期待しているというものだ。同時に、不正の責任をすべて永守重信氏個人に帰して済ませる見方には疑問を示している。

13分で読めます
0:13

後継者探しは「万が一」の備えだった

岸田社長の退任について、井上氏は「少し驚いた」と言う。8月末の取材で、指名委員会が岸田氏に代わるCEOを探しているという情報はつかんでいた。ただ、その理由までは分からなかった。

前日の会見で取締役会議長が説明したところでは、8月の動きは想定外の事態に備えた後継者プランの一環だった。今回のような事態を見越していたわけではないらしい。井上氏も会見を聞いた印象として、クーデターのようなものではなかったと受け止めている。

議長は取締役会の内部のやり取りを細かくは語らなかったが、経緯の大枠は説明した。9月中旬、当初2,500億円程度とみられていた減損処理が6,000億円を超える見込みだと報告された。これについて社長としての責任があること、さらに財務報告に関して岸田氏に「不適切な言動」があったことの2点を理由に、9月25日の取締役会で岸田氏に辞任を迫った。会社側はこの判断を全会一致だったと説明している。

2:24

「財務報告に関する不適切な言動」は明かされなかった

不適切な言動の中身について、会見で記者は繰り返し質問したが、会社側ははぐらかして答えなかった。井上氏も「本当に分からない」と言う。

そのうえで井上氏は、「全くの推測」と断ったうえで一つの見立てを示した。岸田氏は社長に就く前、車載事業本部長を長く務めていた。関潤氏が社長を辞めた後、関氏が兼任していたこのポストを引き継いでいる。第三者委員会の報告書によれば、車載事業本部などでは本来行うべき減損処理ができていなかった。今回の減損が膨らんだのも関連事業の比重が大きいためだ。そうした事情から、岸田氏が何らかの形で関わり、それをめぐって不適切な動きを見せたのではないか、というのが井上氏の推測である。井上氏は、会見では詳細が一切語られておらず、あくまで推測にすぎないと重ねて述べている。

3:55

社内は岸田体制でまとまっていた

岸田氏に社内で反発する勢力があったのかという問いに、井上氏は否定的だった。井上氏の見る限り、社内はおおむね岸田体制でまとまっていた。岸田氏は年内(12月ごろ)に新しい中期計画を出すと表明していた。上場維持にかかわる内部統制の最終確認書のような書類を10月末までに東京証券取引所へ出す作業も、岸田氏が主導して進めていた。これをやり遂げるために、岸田体制でやっていこうという空気が社内にはあったという。

今年の株主総会でも、岸田氏は90%以上の信任を得ていた。井上氏は、こうした流れの中に急に「不適切な言動」が生じ、事実上の解任に至ったのだろうとみている。

4:52

入れ替わった取締役会

今回の判断は、今年の定時株主総会で大きく入れ替わった新しい取締役会によるものだ。社外取締役が増え、社内出身の取締役は3人になった。

井上氏によれば、永守氏時代の旧体制でも社外取締役は過半数を占めていた。ただし官僚出身者、大学教員、弁護士など、企業での実務経験がない人が多かった。新体制では財務省OBの1人だけが留任し、ほかは企業経営の経験者やゴールドマン・サックス出身者などに替わった。井上氏はこの顔ぶれを、市場との対話ができる知見を持つ人材を選んだものと受け止めている。

井上氏はこの構成をバランスの面でも評価する。会見に出た取締役会議長は日本製鉄の元副社長で、法務部門が長い。新日鉄時代に韓国ポスコを知的財産の問題で訴えた際の中心人物とされ、評判はかなり良いという。会見でははぐらかす場面もあったが、井上氏は「まともな感覚の方」と評している。

7:22

戒田新社長は生え抜き「最後のエース」

新社長の戒田氏について、井上氏は以前からその評判をよく聞いていたという。岸田氏が社長に選ばれた永守氏時代にも、戒田氏がよいのではないかという声が社内にあった。社内の多くの人は今回の事態をまだ想定していなかったとみられる。それでも、万一岸田体制が倒れるようなことがあれば次は戒田氏しかいない、という声が社内やニデックをよく知る役員OBから出ていたのは事実だと井上氏は言う。

「生え抜きで最後のエース」と呼ばれる理由について、井上氏はこう説明する。戒田氏はニデック本体に入社したわけではない。新卒で入ったのは、半導体関連の事業を手がけ、のちに永守氏が買収した会社だった。買収後もその事業を育ててきたので、ニデックの生え抜きと言ってよいという。

正式に社長候補に挙がったかどうかは別として、戒田氏を推す声は以前からあった。特に仕入れ先にファンが多いと井上氏は言う。ニデックといえば、永守氏のイメージからコストに厳しく、仕入れ先にとっては難しい取引相手という印象がある。戒田氏は仕入れ先の話をよく聞き、技術に詳しいこともあってウィンウィンの関係を意識していた。サプライチェーンの頂点という立場を使って「この価格で入れないと取引しない」と迫るような人ではなかった、という声を井上氏は仕入れ先から聞いている。

9:40

永守氏が一目置いた存在、不正への非関与

戒田氏をよく知る人物から井上氏が聞いた話がある。永守氏は役員会議で高い目標を掲げ、達成できない役員を罵倒することもあった。しかし戒田氏が計画も含めて「これはできません」と言うと、永守氏は「戒田君ができないんやったらできへんのや」と言い、その言い分を認めたという。役員に手厳しい永守氏が一目置いていた理由について、井上氏は、買収した会社の生え抜きのエースとして、創業メンバーに準じる扱いをしていたのではないかとみている。

井上氏が大きいと考えるのは、戒田氏が会計不正にも品質不正にも関与していないことだ。会見で第三者委員会のヒアリングを受けたかと問われ、戒田氏は一度も受けていないと答えた。多くの関係者に聞いても、戒田氏はどちらの不正とも関係がないという。井上氏は「半分冗談で、裏は完全には取れていない」と断ったうえで、社内でこれだけヒアリングが行われているのに自分のところには何もなくて寂しい、と戒田氏が漏らしていたという噂も紹介した。

11:42

半導体・AIの知見と、70歳という年齢

戒田氏はすでに経営の側に回っているが、最近まで自分でシステムのプログラムを書くような根っからの技術者だという。これまで関わった事業の関係で半導体やAIの領域にも強い。井上氏は、これからのニデックの事業の中心になる分野に知見を持つ社長だと評価する。現場の情報を大事にする人柄でもあり、仕入れ先の役員でなくても、面白い話を持っている人には「直接俺のところに報告してこい、時間は取る」と言って信頼関係を築いてきたという。

一方で、井上氏は戒田氏を「ベストではなくベター」と表現する。理由は年齢だ。戒田氏は70歳で、これからのニデックの社長業は肉体的にも精神的にも過酷な激務が続くと井上氏は予想する。本人は元気だが、外から見ると年齢が高すぎるのではないかという印象は拭えないという。井上氏は長期政権にはならないとみている。戒田氏自身も会見で、指名委員会と相談しながら後継者を育てることが新社長の大きな役割の一つだと述べていた。

14:45

3回連続の意見不表明、今回の方が重い

当面の最大の問題は、監査法人PwC Japanによる意見不表明である。PwC Japanは理由として、虚偽の説明を行った役職員の一部が財務報告プロセスで責任ある立場を担当している、と説明した。井上氏はこれを、不正会計に関わってきた社員が今も会計作業に携わっており、その人たちが出すデータには信頼性がないので「お墨付き」は与えられない、という意味だと解釈する。

意見不表明はこれで3回連続となる。対象は2025年3月期、2025年4〜9月期の中間決算、2026年3月期だ。前の2回は第三者委員会の結論が出ていないことが理由だった。今回は、内部統制がまだ整っておらず、不正に関わった役職員が重要な仕事を続けていることが理由とされた。理由の質が違うため、井上氏は今回の方が事態として重いとみる。不正に関わった人物が誰かは第三者委員会の調査などで分かっていたはずで、それでも関与させていた点に内部統制の問題があったという見方だ。

ニデック側は、不正に関わった人には支援的な業務はさせても、責任ある業務はさせないようにしていたと説明している。しかし監査法人から見ればそうなっていなかった、と井上氏は言う。そうした役職員を外さなければ監査法人は適正意見を出せないだろう、というのが井上氏の見立てだ。会見で戒田社長は、10月中に適正意見を得られるのではないかとの見通しを示した。人事の是正をどう進めるのかという質問には、代表取締役専務が、20人ほどの配置換えが必要ではないかとの見立てを示している。

18:42

監査法人にも責任の一端がある

監査法人の姿勢は以前より厳しくなっている。ただ井上氏は、過去の監査のあり方そのものも問われるべきだと考えている。PwC Japanは、PwCあらたとPwC京都が統合してできた監査法人だ。ニデックを担当していたのはPwC京都だった。井上氏は第三者委員会の結果が出る前からニデックを取材しており、PwC京都の監査が甘いのではないか、担当の公認会計士が永守氏の言いなりなのではないか、といった証言を幹部やOBから得て記事にしてきた。第三者委員会の報告書にも、ニデック側が監査法人を「組みしやすい相手」と判断していたという趣旨の記述があり、井上氏の取材の感覚と大きくは違わなかったという。

井上氏は、監査法人にもかなりの責任の一端があると見てよいと語る。過去の例として、オリンパスの粉飾決算では金融庁が監査法人に業務改善命令を出した。ニデックの会計不正には金融庁や証券取引等監視委員会が関心を持っていると言われている。井上氏は、金融庁がPwC Japanに何らかの措置を講じる可能性もあるとみている。

さらに井上氏は、永守氏の独裁と、永守氏がつくった企業風土・組織風土が不正を招いたという説明について、分かりやすい一方で、それだけで済ませてよいのかと問題提起する。「組織風土」という曖昧で抽象的な言葉で片づけず、監査法人がどう機能していたのかもきちんと調べるべきだという。永守氏の責任が大きいことは大前提だが、すべてを永守氏のせいにして問題の解決やニデックの再生につながるのか、という疑問を井上氏は持っている。

21:46

分配可能額を超えた配当と自己株取得

今回あらたに開示された問題もある。2021年から2025年にかけて、分配可能額を超える配当や自己株式の取得を行っていたというものだ。井上氏は、法当局の判断次第ではあるが会社法に触れる可能性があり、影響は大きいとみる。

この件ではすでに今年9月、2022年度の配当と自己株取得が分配可能額を超えていて株主に損害を与えたとして、永守氏や永守氏の側近だった元会長に対する株主代表訴訟が起こされている。ニデックは2023年にもこの件を発表しており、外部の調査委員会は悪意はなく単純な計算ミスだったと結論づけていた。当時ニデックは、取締役会で中間配当などを決議した際に監査法人が分配可能額の超過を見落としていた、と説明していた。

これに対し井上氏は、ほかの公認会計士に聞くと分配可能額は監査の対象ではないという話だったと指摘する。どれだけ配当し、どれだけ自己株を取得するかを決めるのは取締役である。会社の資産を不適切に流出させた一義的な責任は当時の取締役にある、というのが井上氏の考えだ。

23:36

事業再編は避けられない

今後の事業について、会見では、収益性が低い事業や課題の多い事業、家電関連の事業を再編・売却し、利益の出るところに経営資源を集中させるという方針が示された。すでにニデックコンポーネンツをファンドに売却すると発表している。井上氏は、子会社の売却はこれからも続き、ニデックが適正に収益を上げられる会社に戻るには事業再編は避けられないと述べる。

背景として井上氏が挙げるのは、永守氏時代の経営のやり方だ。「すぐやる、必ずやる、できるまでやる」という経営理念を実践すれば、リストラをしなくても業績は必ず復活する。そうした考えでグループ経営が行われてきた。しかし中には時代の流れについていけない事業や、中国勢に到底勝てない事業もあった。それを無理に続け、永守氏が求める高い利益目標を達成するために不正が行われた面がある。同じことを繰り返さないためにも、儲からない事業はあっさり再編していくことになるだろうと井上氏はみている。

25:21

日産との共通点

自動車産業を長く取材してきた井上氏は、ニデックと日産には重なる部分がかなりあると言う。一つは拡大路線である。カルロス・ゴーン氏は日産・ルノー・三菱で1,000万台超を目指して過剰な投資をした。攻めの投資として評価できる面もあるが、商品力が伴わなければ生産能力は過剰設備になる。井上氏は、その無謀な拡大戦略が今の日産の停滞を招いたと見る。ニデックでも、永守氏はM&Aと買収後の再生に長けていたが、経営者としての晩年のM&Aはうまくいかなかった。言葉を選ばずに言えば「ババをつかまされた」ような買収があり、買収先が業績の足を引っ張っている。その意味で永守氏の拡大戦略が今のニデックの足かせになっている面があるという。

もう一つはガバナンス改革後の問題だ。日産はゴーン事件の後、社外取締役中心の指名委員会等設置会社になった。その後、社外取締役があらゆる執行に関与し、社外取締役同士の縄張り争いや内紛が起き、改革がかなり遅れた面は否めないと井上氏は言う。ニデックで今そうした事態が起きているわけではない。しかし社外取締役はいま肩に力が入っているはずだ、と井上氏は見る。会社あっての社外取締役であって、社外取締役あっての会社ではない。ニデックが本当に再生するにはどうすればよいかという視点を社外取締役がもう少し持たなければ、「仏作って魂入れず」になるリスクがあると井上氏は指摘した。

28:17

ブレーキ役のいない独裁者:豊臣秀吉の例え

カリスマ経営者が全盛期を過ぎて拡大に走ったとき、ブレーキをかける役がいないとこうなる。佐々木氏のこのまとめに井上氏は同意し、豊臣秀吉を例に挙げた。豊臣兄弟を描く大河ドラマが放映されていることにも触れつつ、秀吉は権力を極め、弟の秀長が亡くなった後、甥の秀次を死に追いやり、自分をいさめる千利休も死なせて「裸の王様」になった。その結果、豊臣政権は事実上一代で滅びた。独裁者をいさめる人がいなければ組織は衰退し、最後には滅びる。井上氏はこれを歴史が示していることだと述べた。

29:18

戒田改革への期待

最後に、戒田氏による改革に期待できるかと問われ、井上氏は「期待している」と答えた。戒田氏は70歳で、長く務めるつもりはないという趣旨の発言をし、「最後のご奉公」のつもりで臨むとも表明している。50年近くニデックに関わってきた戒田氏には、永守氏並みのニデック愛があると井上氏は見る。最後の務めとしてニデックを再生させることに力を尽くしたいという思いがあるはずだという。

私心なく再生に全力を尽くすという意味で、良い方向に向かうのではないか。井上氏はそう述べたうえで、そうならなければニデックは会社として危機に陥るだろうと付け加えた。