「手元で曲がる変化球は存在しない」――打者の視点から見た球の軌道と、山本由伸が打たれにくい理由

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概要

PIVOT BASEBALLのこの回では、セイバーメトリクスを専門とするDELTA社長の岡田友輔が「手元で曲がるボールは存在しない」というテーマでデータを紹介した。元ヤクルト監督の高津臣吾、スポーツライターの西尾典文、元NHKアナウンサーの西川典孝が議論に加わった。岡田は、物理的には変化球は投げた瞬間から曲がり始めていると説明する。そのうえで、それでも「手元で曲がった」と感じるのはなぜかを、打者の視点から解き明かそうとした。

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変化球は最初から曲がっている

テーマを聞いた西川は、自分は実況で「手元で曲がった」と何度も言ってきたが、それは間違いだったのかと反応した。

岡田が根拠として挙げたのは、メジャーリーグの分析の土台を築いた物理学者アラン・ネイサンの知見である。ボールは投げた瞬間から曲がっており、変化量は少しずつ大きくなっていく。曲がり方は途中で多少変わるものの、ある地点で急に「グッ」と曲がることはない。グラフにすれば、途中で折れ曲がるような軌道にはならないという。

出演者の一人は、フォークは途中から急に落ちるように見えると疑問を出した。これに対し、横から見れば急な変化にはなっていないことが分かるが、打者からはそう見えていないのだろう、というやり取りがあった。

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「手元で曲がる」と感じる理由① 遠近感

岡田は、打者が手元での変化を感じる理由を二つ挙げた。一つ目は遠近感である。ボールが投手の近くにある段階では変化量が小さく、しかも遠くに見えるので変化が分かりにくい。ボールが打者に近づくにつれて実際の変化を感じ取れるようになるため、急に大きく曲がったように見える。

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「手元で曲がる」と感じる理由② 斜めの視点

二つ目は、斜めの視点が軌道の見え方を変えることだ。中継のセンターカメラは投球をほぼ真正面から映している。一方で打者は、打席から斜め上の角度でボールを見なければならない。そのため、視聴者が感じる軌道と打者が感じる軌道はまったく違う、と岡田は説明する。

真正面から見れば、スライダーやスイーパーは横へスライドしていくように見える。しかし右打者の視点では、外へ逃げていく横の変化が「奥行き」の変化に変わってしまう。曲がっていても、ストレートと同じ線上で前後に位置がずれているだけのように見え、両者の軌道が重なってしまうのである。

具体例として、岡田は大谷翔平のストレート(赤)とスイーパー(薄い黄色)の軌道を右打者の視点で示した。軌道の途中には、打者が振るかどうかを決めるポイントが点で示されている。ここで振り始めないとバットが間に合わないという地点だ。捕手の後方から見れば両球種の違いは明らかだが、右打者の視点では、この時点でストレートかスイーパーかを見分けられない。視点を片側から手元に近づけていくと、横の曲がりが奥行き方向に圧縮され、本来は曲がっている球がストレートと同じような位置に収まって見える様子が示された。

打者の構えの高さ、つまり背の低い打者や低く構える打者なら違うのかという質問も出た。岡田は、打者はホームベースの片側から斜めに見るしかないので、高さはあまり関係ないと答えている。比較対象として、正面から見る球審との違いにも触れられた。

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左打者には同じ球がまったく違って見える

視点を左打者に移すと、見え方は大きく変わる。同じ大谷のスイーパーでも、左打者からは投げられた直後から曲がる球だと分かる。出演者からは「さっきとデータをいじっていないのか」と確認が入るほどの違いだった。岡田は、左打者が「見やすい」と言うのはまさにこの軌道の差によるもので、球種を判別しやすくなるためだと説明する。

出演者の一人は、右のサイドスロー投手は左打者に打たれやすく、左打者を抑えるにはスライダーだけでは厳しく逆方向に曲がる球が必要だ、とよく言われる話を持ち出した。岡田はこれに応じて、シンカー(オレンジ系の軌道)を示した。左打者から見るとストレートとほぼ同じ軌道に見えるが、到達点は違う。軌道の面から見れば、左打者にとってはこの球の方が見分けにくく厄介だという。岡田は、投手が右打者と左打者で球種の割合を変えるのは、こうした見え方の差も一因だろうと述べた。

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投手は打者から見た自分の球を知らない

高津の反応は、投手ならではのものだった。投手側から見た「曲がった」「落ちた」という軌道はよくイメージできる。しかし審判や打者の視点からの軌道は見たことがなく、まったく分からなかったという。現役中はずっと自分のシンカーを見てみたい、捕手として受けてみたいと思っていたそうだ。投手にはそう言う人が多いという話も出た。

岡田は、それが今はできるようになっていると説明する。打者にとってどう見えているか、どんな変化なら見えにくいか、どの球があると打者が苦しくなるかを可視化できる。そうした機能を持つマシンもあるという。高津は、打者にこう見えていると分かるだけでも大きいと話した。そうすれば「もう少し腕を下げたらどうなるか」といった発想が生まれ、納得して取り組めるので「多分うまくなる」と述べている。

岡田によれば、現在は投手が裏方のアナリストと相談しながら、変化をこうした方がよいという方向で改善を重ねている。山本由伸がシンカーやカッターを加えたのも、その改善の一環だろうと岡田は見ている。

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軌道以外の情報――癖とリリースポイント

一方で、手元で曲がるように見える投手もいれば、早く分かってしまう投手もいる。これについて岡田は、軌道が最初から違うことに加えて、別の要素もあるとした。リリース前の手の出方、リリースポイント、癖といった情報である。プロの打者はこれらから「この球が来るのではないか」と予測している。今回のデータは投げられたボールだけのものだが、投げる前の情報はスコアラーやスカウトが目を凝らして違いを見る部分だ。それが軌道の情報と組み合わされば、打者は球種を確信して打てる可能性が高まる。岡田は、シーズンを通じてこうした駆け引きが続いていたのだろうと述べた。

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山本由伸の球種は打者からほぼ区別できない

続いて、山本由伸の全球種を打者視点で表示した。球種は4シーム、スプリット、カッター、シンカー、スライダー、カーブである。画面を見た出演者から「何これ」と声が上がった。カーブ以外は、打者からはほとんど見分けがつかない。

カーブだけは判別しやすいが、岡田はこれをタイミングをずらすための球と位置づけている。カーブ以外の球種は、どこで、どちらに曲がるかが分からない。

捕手視点に切り替えると、各球種がストレートに対してどれだけ変化しているかがはっきりする。打者視点ではほぼ同じ軌道に見えていた球が、ストレートのつもりで振ると大きくずれる位置に到達している。岡田はコースにも注目を促した。4シームは真ん中のやや高めに集まり、変化球はゾーンの中の良いところに投げ分けられている。右打者がストレートだと思って振れば、実際には別の球種が来ているという状態になる。出演者は、あの位置からアウトローに来るスライダーや、カーブの落差の大きさにも驚いていた。

左打者にとっても見にくさは同じだという。カーブは比較的分かりやすいものの、それ以外の球種はストレートと非常によく似た軌道をたどる。岡田は、判別しようとしても非常に難しい投手であることがこのデータから感じ取れるはずだと述べた。

これを受けて西川は、野球をやったことがない人は「なんで打てないんだ」「なんであんなワンバウンドの球を振るんだ」と思うかもしれないと話した。しかしこれを見れば仕方ないと分かるはずだという。高津は「あと30年早く出してくれたら、もっとうまくなれたと思う」と笑った。

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高津と潮崎のシンカー、そして「威力型」の投手

話題は高津自身のシンカーに移った。出演者の一人は、当時の高津のシンカーと潮崎哲也のシンカーは非常に特殊だったと振り返る。潮崎のシンカーは一度浮き上がってから落ちる昔のドロップのような変化で、高津のものは変化が比較的小さかったという。高津は、自分の球はオフスピードの性質が強く、「来そうで来ない」球だったと述べる。打者がストレートだと思っていると、ボールが来ずに落ちるという性質である。

岡田は、抑え方はこれだけではないとも指摘した。ボールの威力だけで、同じコースに投げ続ければ抑えられる投手もいる。スキーンズらがその例として名前が挙がった。コントロールがそれほど良くなくても威力で抑えられる投手もいれば、山本のような抑え方もある。出演者からは、江川卓が高校・大学時代に全力で投げればバットに当てられなかったと語っていた話も紹介された。そうした投手はこうしたことをあまり考えないのでは、という問いに、岡田は威力だけで勝負するタイプも十分いると応じた。

14:26

ナックルは「別次元」

ナックルはどうなるのかという問いに対し、岡田はナックルは絶滅しかけていると前置きしたうえで、軌道で勝負する球ではないと説明した。無回転のボールを状況に合わせて投げるもので、来た球がどう変化するかは投手自身にも分からない。コントロールできないことで勝負しているような球なので、今回の議論とは別次元の話になるという。

データ野球の時代だからこそ、データが当てはまらない投手が無双するのではないか、という声も出た。これに対し岡田は、ナックルは投げてみないと分からない球だと述べる。むしろ今の投手は、自分の投球の再現性が比較的高い。どういう球をどの程度コントロールして投げられるかを把握する方向に、どんどんシフトしているという。

岡田はさらに、指導の変化にも触れた。以前は「ストレートは外角低めに」と一律に言われていた。今はボールの特性によっては高めに投げた方がよい場合もある。自分の武器をどこに投げれば最も打者を抑えられるかという研究が広まり、投手それぞれの持ち球に応じた使い方や育成ができる時代になっている、と岡田は述べた。

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「手元で曲がる」という感覚は間違いではない

改めて「手元で曲がる球は存在しない」と言われても、出演者たちは「でもそう見える」と食い下がった。スカウトもよく「変化が早い」と言うし、「キュッと曲がるスライダー」「ドローンと曲がるスライダー」という表現もある。

岡田はその感覚は間違いなく正しいと認めた。打者は途中まで同じ軌道として認識しているため、突然変化したように感じる。それを実現できていることこそが投手の技量だ、というのが岡田の整理である。ただし物理的に見れば、急に曲がっているわけではない。

16:59

ABSの判定精度は誰が高いか

最後に岡田は、視点に関わる話題としてABS(自動ボール・ストライク判定)の成功率を紹介した。最も確率が高いのはボールに一番近い捕手だった。打者は斜め上からの視点なので確率が下がり、投手は距離が遠いため最も低い。岡田は、ストライクゾーンの判定に関しては、フロントは投手になるべく任せたくないと考えているだろうと推測した。

一方で、捕手でも数字は58%程度にとどまり、出演者からは思ったほど高くないという反応が出た。投手側の話としては39%という数字も挙げられた。高津は、投げる側は「今のはストライクだったのでは」と思うものだと話し、自分に有利なように、ボール半個ほど広いゾーンで見ていたと笑った。

ボールカウントによる判定の偏りも話題になった。3ボールからはゾーンが広がり、2ストライクからは狭くなる傾向がデータにも表れていたという。岡田によれば、これは審判の評価システムが整うにつれて減ってきており、ロボット審判の割合が高まればさらになくなっていくだろうとする。

高津はプレー経験のある韓国の例を挙げた。韓国では判定がすべてABSなので、審判は機械の判定をそのままコールするだけだ。フレーミングが意味を持たないため、「今のがストライクなのか」と思うような捕球でもストライクになる。打者は文句を言えず、ロボットがストライクと言っているのだから自分の見方が間違っている、と受け止めるしかないという。

番組の最後に岡田は、今シーズンの日本人選手は歴代でもトップクラスの活躍を見せたとして、日本の野球界にとって非常に良いシーズンだったと述べた。