連続起業家はなぜ「雇われ」に戻り、COOになったのか:バトンズ海山龍明氏が語るキャリアとM&Aの実務

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概要

海山龍明氏は、M&A BANKへの出演回数が最も多い一人だとされる。Deloitteを経て起業し、自ら立ち上げた事業を何度も売却した。その後、株式会社Wizにプロ経営者として迎えられ、現在は上場企業である株式会社バトンズの取締役COOを務めている。聞き手の島袋直樹氏が最初に投げかけたのは、事業を売却して資金も得た連続起業家が、なぜ給与も決まっていない状態でサラリーマンとして組織に入り、そこで出世できたのかという問いである。対談はそこから、バトンズの事業、M&A後の統合(PMI)の失敗例、個人向けM&Aコーチング、社内でのAI活用へと進んだ。

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「売って、雇われに戻る」という選択

海山氏がM&A BANKに初めて出演したのは2017年か2018年ごろである。当時は正社員数人の会社の代表で、ウェブサイト売買プラットフォーム「UREBA(ウレバ)」の運営者として登場した。その後、UREBAを含む自身の事業を何度か売却し、そのたびに番組に出演した。いくつか売った後にやることがなくなり、「次は決まっていない」と番組で話したところ、社員1000人規模の株式会社Wizからヘッドハンティングを受け、プロ経営者として入社した。海山氏は、今の自分があるのはM&A BANKのおかげだと振り返る。

島袋氏はこの経歴を、今の若手起業家が目指している道を3年ほど早く歩んだものだと評価する。事業を作って早めに売却し、連続起業でもう一度売る。その後は上場準備中の会社にサラリーマンとして加わり、取締役COOまで出世した、という見方だ。海山氏は運が良かったと応じた。最初の売却は2019年ごろで、そこから数年にわたって売却を続けた。当時は売却する人自体が少なく、連続起業家もあまりいなかった。売却した人はリタイアやFIREを選ぶことが多く、雇われに戻る人はほとんどいなかったという。

バトンズの事業と規模

バトンズは創業9年目の会社で、本社は品川にある。売り手、買い手、M&Aの専門家アドバイザーが登録し、プラットフォーム上で案件を掲載してマッチングし、成約までを進める事業を運営している。

島袋氏は、ユーザーから見るとTRANBIとの違いが分かりにくいと率直に尋ねた。海山氏は、インターネット上に事業や会社を掲載し、マッチングしてオンラインで完結させるという点では同じだと認める。違いとして挙げたのは、案件の幅と規模である。小規模な案件が多数ある一方で、数十億円規模の案件もあり、M&A BANK自身も10億円以上の案件をバトンズで成約させたという。上位のプラットフォーム数社と比べて、案件登録数、成約数、ユーザー登録数のすべてで5年連続1位を獲得していると海山氏は説明した。新規の売却相談は月に1000件前後あり、そのうち800〜900件ほどが掲載される。自分で買いたくなる案件もあるかと聞かれると、「めちゃめちゃいい案件」も多く、社内でもそうした話はよく出ると答えた。

公園を歩き続けた半年と、入社の決め手

海山氏は29歳で最初の売却をし、30歳、31歳と売却を重ねた。金銭面では目標にしていたラインが見えてきた。それでもまだ31歳で、次に何をするかに悩んだ。海山氏によると、多くの売却経験者がこの悩みにぶつかり、お金を使ってセミFIREをした結果、心を病んでしまう人も多い。海山氏自身もその例に漏れず、売却後は毎朝5時か5時半に起きて公園を1時間ほど散歩する生活を半年ほど続けたという。ロックアップ期間中だったので業務はあったが、何年も続けたいと思える大きな目標は失っていた。

散歩をしながら考え続けて、海山氏は二つのことに気づいた。一つは、誰かの期待を背負い、プレッシャーの中で頑張ること以外にあまりやりがいを感じないこと。もう一つは、すべての責任を自分で負い、しかも余剰資金で事業をすると熱量を持てないことだ。期待されてプレッシャーがかかる環境で、長距離走ではなく短距離走を繰り返せる仕事がしたい。これが雇われに戻ろうと考えた理由だった。

転職先としては、ヘッドハンターを通じて上場企業やスタートアップなど30社ほどと話をした。判断の軸は二つあった。一つは、上場前のスタートアップの方が目的がはっきりしていて、ハードルも高いので頑張りやすいこと。もう一つは、自分のM&Aの経験と、Webマーケティング会社を経営してきたIT領域の経験の掛け合わせが合っていたことだ。この二点からバトンズを選んだ。

報酬については意外な答えが返ってきた。給与が決まらないまま入社しており、入社初日に現在の代表がホワイトボードの前で「海山の給与をいくらにしようか」と話し合ったほどだという。ストックオプションの話もしなかった。周囲からは高い報酬とストックオプションをもらって入ったと思われがちだが、面白そうだから飛び込んだだけで、売却やプロ経営者時代の報酬と比べると金額は大きく下がったと話す。島袋氏は、当時は日本M&Aセンターが株式の3分の1ほどを持っていたので、ストックオプションを出すのも難しかったのではないかと補足した。

半年から1年で役割が変わる働き方

組織に戻った起業家の多くは活躍できないか、すぐに独立してしまう。島袋氏はそういう印象を持っていると言い、なぜ出世できたのかを尋ねた。海山氏は、自分がこれまで売却した事業はすべて立ち上げから1年以内に売却したもので、急速に伸ばすことに快感を覚える「短距離走者」なのだと説明する。

バトンズでの最初のミッションはマーケティングで、SEOでM&A関連のキーワードでバトンズを上位にすることだった。もともとSEOの分野で仕事をしてきたこともあり、半年ほどでメガキーワードを含む主要なキーワードの多くで1位を取った。その後、マーケティングに強い人材が入社したので、海山氏は事業づくりの担当に移った。続いて売り手支援グループの執行役員に任命され、売上を前年比で何倍にするかを目標に売り手支援チームを立ち上げた。今年の4月からは新規事業部を担当している。役職も同じように変わってきた。執行役員として入社し、半年ほどで取締役CMOになり、その後に営業部門を見るようになってCOOに就いた。同じ会社にいても、仕事の内容は半年から1年ごとに大きく変わり、上場を経て会社のフェーズも変わった。そのため飽きることはまったくないという。

島袋氏はこれを聞いて、イグジット経験者をうまく活かしている会社は短期間でプロジェクトを変えているという印象があると語った。起業家には飽きっぽい人が多いので、短期で目標を達成して次の新しい仕事に移る形が合っている、という見方である。

元起業家がぶつかる「報連相」の壁

大きな組織で出世するためのポイントを聞かれると、海山氏は予算の達成や事業の立ち上げは当然だとしたうえで、起業経験者の多くがぶつかる壁は「報連相」だと答えた。経営者は物事を自分で決められる立場にいるので、誰かに報告する習慣がない人が多い。雇われた経験がないまま起業した人にはそもそも報連相という発想がなく、管理されるのを嫌う人も少なくない。

一方、組織で役割を任されると、上司や期待をかけてくれる人が周囲にいる。そうした人にこまめに報連相をするからこそ、一定の裁量を任せてもらえる。そのうえで、宣言した通り、あるいは期待の120%ほどの結果を出せば、次々と新しいチャンスが回ってくる。雇われる側に求められる基本を、経営者や起業家の経験がある人がきちんとこなせるかどうかが分かれ目だと海山氏は述べた。

3年で組織は2倍以上に

海山氏の入社時、バトンズの社員は60人ほどだった。3年後の今は約120人、業務委託を含めると約150人で、組織は2〜2.5倍になった。もともと離職の少ない家族的な会社だったが、毎月3人ほどが入社する急拡大のフェーズに移った。その速さと規模は、自分で起業したときには感じたことのない面白さだったという。

拡大の理由について、海山氏はユーザー数の増加に加えて営業組織の構造を挙げた。バトンズの営業部門は細かく分かれている。売り手を支援するグループ、バトンズを使う専門家(M&Aアドバイザー)を支援するグループ、金融機関からの紹介を受けるグループ、買い手を支援するグループなどがあり、それぞれの部門で新しいサービスが次々と生まれる。それが収益になり、そこに人員を補充する形でも組織が大きくなってきた。市場の拡大と新規サービスによる拡大の掛け合わせだった、と海山氏は整理した。

ロールアップと「不人気案件」を狙う買い手

島袋氏は、M&A BANKは基本的に売り手の味方で、売却の話は1400本以上の動画でほぼ取り尽くしたと語った。そのうえで、今は買収を繰り返すロールアップ、つまり買収力を高めることが重要だと考えていると話し、バトンズでロールアップをしている会社があるかを尋ねた。

海山氏によると、そうした会社は最近特に増えており、何社も買収し続けている会社と面談する機会が多い。業種はさまざまで、規模が数億円以上の会社には上場を狙う会社やファンド的に動く会社もある。一方で、もっと小規模に店舗事業だけを買い続け、赤字でも一定の条件がそろえばすべて買うという買い手もいる。ロールアップといえば、ファンドがプロ経営者を入れ、調達した資金で数十億円規模の買収を重ねるイメージがあった。しかし今は、より小さな規模や特定業種に絞った形のロールアップが増え、それを繰り返す会社や個人も増えているという。

不人気な案件の中にも良い案件はあるのかという問いには、「あります」と即答した。具体的な業種は迷惑がかかるので伏せたうえで、飲食や理美容のように3〜5年で多くの店が赤字になって撤退する業界を例に挙げた。店長やオーナーは料理を作れる、髪を切れるといった技能はあっても経営は苦手なことが多い。そこでマーケティングや経営のノウハウを持つ会社が、自分たちが買えば立て直せる可能性があるとして買収している。業種を絞って、不人気な案件や赤字の事業を買う会社が増えていると海山氏は見ている。

島袋氏がフランチャイズ本部ばかりを買う会社はあるかと聞くと、海山氏はそこまでの例は把握していないと答えた。ただし、フランチャイズ本部を運営している会社からの売却相談は非常に多いという。自分で1店舗を始めてうまくいき、やりたいという人に任せて広げてきたものの、フランチャイズの総合サイトへの掲載方法やロイヤリティ管理、加盟者を集めるマーケティングが分からず、本部としての機能を果たせないまま拡大が止まっている、という相談だ。島袋氏は自分が買いたいと冗談交じりに身を乗り出していた。

買収の成否を分けるのは「人」への向き合い方

島袋氏は、買収がうまい経営者は倍率の計算よりも、相手の懐に入る力が強いのではないかと問いかけた。海山氏は「めちゃくちゃ大事」と同意する。ほとんどの会社や事業は人で動いている。雇用を継続できても、モチベーションが下がれば一人ひとりの力は0.7倍、0.5倍になり、業績も落ちていく。逆に、買収をきっかけに皆で盛り上がる未来を作り、1.2倍の力を引き出せれば業績は伸びていく。このことを分かっているかどうかが非常に重要だと海山氏は述べた。

印象に残っている例として、海山氏は歴史のある東京の会社が大阪の会社を買収した案件を挙げた。買収側の会長は85〜90歳近い高齢だった。従業員に買収を伝えられるのはDay1以降で、その時点で従業員は、何が変わるのか、社長はどうなるのか、誰が新しく来るのかと動揺する。そのタイミングで、会長はわざわざ新幹線で大阪へ行き、準備を重ねたスピーチを従業員の前で熱弁した。今の雇用環境は維持し、それどころか給与も上げていくと伝えたという。自分たちに向き合ってくれる、この事業の中で一体になれると感じさせる演出が大事だと海山氏は語る。島袋氏も、自身が初めて会社を売ったとき、名古屋からスーツ姿で来た買い手に「島袋さん、ぜひ」と言われた瞬間にすべてが決まったと振り返った。

海山氏はさらに、膝を突き合わせることの重要性を挙げた。海山氏はこの1年強で7件の売却を支援しており、スタートアップのM&Aが多いため、売り手のオーナーが残るケースがほとんどだという。インセンティブを設計したうえで、ロックアップで何年か残る形だ。そうなると、買い手がどれだけ寄り添えるかが非常に重要になる。買ったら放置するのは論外だが、上から「言うことを聞け」と入り込みすぎてもうまくいかない。伴走者として、月次の定例会はもちろん、買った会社に足しげく通い、メンバーと1on1やランチをして一体感を作っていく必要があるという。島袋氏が「契約してお金を振り込めばM&Aというわけではない」とまとめると、海山氏は同意した。そうした買い方をする会社もあるが、売り手のオーナーの気持ちが折れたり、事業をやめてしまったりするケースが多いという。

よくある失敗:制度をいきなり買い手に合わせる

失敗例として海山氏が挙げたのは、買った側の会社の制度にいきなり合わせることだ。分かりやすいのは会計で、計上基準も経費のルールも違うと、もともといた経理担当者の負担がまったく変わってしまう。法務面でも、それまで問題なかったことがコンプライアンス上急に認められなくなる。ある程度は仕方がない部分もあるが、どう統合していくかは事前にすり合わせておく必要があるという。

最も失敗が多いと海山氏が考えるのは人事制度である。評価の仕方や給与体系を買い手側の制度にがらりと変えると、失敗することが多い。従業員はもとの制度の中で自分のキャリアを思い描いて頑張ってきた。そこに、業種も顧客も違う事業に合わせた評価制度を当てはめると、現場の実態に合わない。どれだけ頑張っても認められない、キャリアアップが見えないと感じて辞めてしまう。そういうケースをよく見るという。

島袋氏はこれに強く共感した。ピラティスのフランチャイズで、別の加盟企業を買収したときのことだ。同じ事業でも会計システムや人事評価制度が違い、すぐに統合したことを反省していると明かした。どれくらいの期間を空けるべきかという問いに、海山氏は買い手と売り手によるとしたうえで、個人的な考えとして、最初の3か月ほどは急激な変化を起こさない方がよいと答えた。まずはコミュニケーションを取り、お互いの理解を深める。営業やチャネルの追加のような上乗せの施策は構わないが、もとの仕組みを変えるのは30〜90日ほど置いてから徐々に進める、という考えだ。

島袋氏が半年ほど置いた方がよいのではと返すと、海山氏はゆっくり変えるのはその通りだと認めつつ、実際には待ち続けるのもつらく、早く統合したくなるものだと指摘した。よく言われる「100日プラン」は100日で統合を進めるものが多いが、実際はケースバイケースで、100日以内に終わらせるという目標だけで進めると失敗することもあるという。島袋氏は、最初の100日は人を理解するためのコミュニケーションに使い、システムの変更はその後に徐々に進めればよいのではないか、と自分なりに受け止めた。

バトンズの使い方:実名開示依頼は「軽く、数多く」

島袋氏はバトンズの「裏技」も尋ねた。海山氏は当たり前の話になると前置きして、仲介会社から紹介を受ける場合との違いを説明した。仲介会社経由では、企業概要やノンネームシートを受け取り、興味があれば伝えて面談に進む。その時点で興味を示した案件については、買い手も買う確率をそれなりに高く見積もっているはずだという。

一方、バトンズでは、掲載を見て興味を持った段階で実名開示の依頼を送る。これは仲介会社に興味を伝えるよりもずっと軽い行為である。最終的に成約する会社は、平均で30〜50件ほど実名開示依頼を送っているという。中には、意向表明に近いレベルにならないと依頼してはいけないと考える人や、失礼に当たると心配する人が多いが、少しでも興味があれば話を聞いてみるという姿勢の方が成功していると海山氏は話す。ノンネームの情報だけでは判断できないので、話してみるところがスタートラインだという認識が重要だ。M&Aに慣れた会社の中には、専任の担当者を置き、その人の名義でアカウントを作って100〜200件の実名開示依頼を送り、その中から買いに行く会社もある。数をしっかり追うことが大事だという。

売り手にとってのバトンズと仲介会社の違い

売り手がバトンズに依頼する場合と仲介会社に依頼する場合の違いについても説明があった。売り手が自分で掲載して進めるプランでは、売り手の手数料は0円で、買い手からのみ最低35万円(金額に応じて変動)を受け取る。仲介会社は片側だけで最低数百万円、両側合わせて数千万円になることもあるので、それと比べると大幅に安くM&Aを進められる可能性がある。

バトンズがサポーターとして支援に入るプランもあり、この場合の動きは仲介会社に近い。バトンズは基本的に売り手側のアドバイザーを務め、買い手側にはバトンズを使っている仲介会社がアドバイザーとして入る。仲介会社が持つ買い手ネットワークにも当たれるので、仲介会社とは共存関係にあるという。海山氏によると、主要な仲介会社はほぼバトンズを使っている。そのため、バトンズの35万社のネットワークと提携先の買い手ネットワークの両方に幅広く当たれる点が特徴になる。手厚く支援するプランの手数料は最低200万円からで、金額によって変わる。片側のアドバイザーなので、手数料は小さめに抑えていると説明した。

成約報酬を取らない個人向けコーチング

海山氏は、個人の買い手向けに始めたコーチングプログラムを紹介した。これまで個人からも成約時に手数料を受け取ってきた。しかし個人は法人と比べて資金も知識も乏しく、買ったものの失敗する人が非常に多い。そこで、M&Aや経営の知識がゼロの状態から参加してもらい、12か月間伴走しながら、案件探し、案件の見方や分析、論点の整理までを支援するプログラムを作った。成約時に報酬を受け取らないモデルなので、結果として買わなくてもよいという。

プログラムはすでに始まっており、2か月に1回の募集で、6月開始の回は10名、8月の回もおそらく10名、10月の回も9月には埋まる見込みだという。毎月募集しても埋まりそうなほど反響があると海山氏は話す。参加者は、将来大きくなりたいという人、すでに経営をしていて新たな手段として学びたい人、MBA保有者、大企業でグローバルな経営に携わってきた人、コンサルタントなど多様だ。内容は、M&Aや経営に関する細かな動画を数百本用意したうえで、週1回の1on1を行う。参加者がどんな人生設計をしているかに合わせて選ぶべき案件を一緒に考え、ビジネスモデルごとのM&Aの論点や、買った後に起こりうることを踏まえて事前に何を調べるべきか、契約書に何を盛り込むべきかを、一人ひとりに助言していく。

海山氏はこのモデルを作った理由を二つ挙げた。一つは、会社員として働いてきた人は経営をしたことがないのに、借入をして5000万円、数千万円といった大きな買い物をすることがある点だ。成功確率が数%変わるだけでも、リターンは大きく違ってくる。もう一つはプラットフォームとしての事情である。Amazonやメルカリでは、買った人の8〜9割以上が満足しているだろう。しかしM&Aの成功率は一般に3〜4割と言われる。法人なら新規事業として見れば悪くない確率だが、個人が失敗すると、本人も周囲も「M&Aをやったが失敗した」で終わり、次につながらない。成約報酬だけで回すと、買った後にうまくいかない人が増える。プラットフォームは成約だけでなく成功した人が増えなければ伸びない、というのが海山氏の考えだ。

島袋氏は、個人でスナックを2軒買ったことがあると明かした。ママのロックアップとマネジメントが非常に難しく、当時は勢いで買ってしまった。飲食ではこういうことが起こりうると事前に教えてもらえれば、自分には向いていないと判断できたはずだという。海山氏は、バトンズには長年の個人M&A支援から、何を見落としてどんな結末になったか、どんな手を打てば成功につながったかというノウハウが蓄積されていると応じた。M&Aは3回やってようやく一人前と言われるが、個人は3回もできず、1回失敗すれば終わってしまう。だからこそ、初期の段階でインプットする必要があると課題意識を語った。

今後のキャリアと、手つかずの会員ネットワーク

今後について、海山氏はバトンズで仕事を続けたいと述べた。上場を経て、社内での自分のフェーズが変わった感覚があるという。これまでは上場という明確な目標があり、SEOで7位だったキーワードを1位にする、売り手支援の売上を何倍にするといった改善型の仕事が中心だった。4月から新規事業担当になり、一歩引いてバトンズの持つリソースを見渡したとき、「めちゃめちゃおもろい」と感じたという。

M&Aは本来、何らかの目的を達成するための手段である。買い手には人材が欲しい、新規事業を展開したいといった目的があり、個人には起業したい、人生を変えたい、余剰資金を何かに使いたいといった目的がある。資産運用という選択肢もありうる。バトンズはM&Aを軸に会員を集めてきたが、会員のニーズは実際にはもっと多様なはずだと海山氏は見ている。そこに向けた新規事業はこれまであまり手がけてこなかった。M&Aを考えているのでモチベーションが高く、資金を持っている人の登録率も高い。そうした会員ネットワークがほぼ手つかずで残っているのは、連続的に事業を作ってきた人間にとってこれ以上ない環境だと語った。

島袋氏は自分の「勝手な妄想」として、スクール事業で優秀な経営者を集め、1年間伴走する中で見込みのある人に資金と事業をつけ、ロールアップを進めるのではないかと水を向けた。海山氏は「ちょっと言えない」と笑いつつ、案としては十分ありうると述べた。登録者には海外MBAを持つエリートや、サーチファンドが対象にするような個人も多い。ただ、サーチファンドに踏み出すほどのフットワークはなく、いつか起業したいと思いながら行動に移せない人も多い。そこに出資や案件探しを提供する可能性があるという。

もう一つのアイデアとして、海山氏は買い手法人と個人のマッチングを挙げた。バトンズには10万以上の買い手法人が登録しているが、社内にM&A担当者がいないことが多い。買収後に相手の会社へ入り込んで経営を担う人材が社内にいないケースも、海山氏の経験上多いという。一方、いずれM&Aを通じて独立したいと考える個人の登録者は、資金が足りない、案件が見つからないという課題を抱えている。資金も案件もあるが担い手がいない法人と、担い手になりうる個人を結びつけるのは面白い、と個人的な考えを語った。二人は最後に、こうした構想が実際に動いているという事実はなく、あくまでそれができる環境にあるという話だと念を押した。

AIによる案件資料作成の効率化

最後の話題はAI活用である。バトンズはITプラットフォームとして社内に数十人のエンジニアを抱え、自社開発でツールを提供しようとしている。具体例として海山氏が挙げたのは次の二つだ。一つは、案件登録の際にウェブサイトや概要を入力すると、ほぼ自動でノンネームシートができて掲載できる機能。もう一つは、企業概要書(IM)を作るAIである。基礎的な情報や面談の書き起こしデータを読み込ませると、全体の7割ほどができあがる。決算書をOCRで読み取った数値の入力や、強み・弱みの分析も含まれるという。この機能は外部の専門家にも提供しており、社内でも使っている。これまで何日もかかっていたIMの作成が数時間で終わるようになり、業務の効率化につながっていると海山氏は述べた。料金はプランによって異なるという。