M&Aの孤独とどう付き合うか:島袋直樹と小林正憲が語る「サードプレイス」の効用

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概要

会社の売却は、外に相談しにくく、先の見通しも立ちにくい。M&A BANKの島袋直樹と小林正憲は、この孤独にどう向き合うかを話し合った。小林の見立ては、売却交渉が何度も破談しても島袋が精神的に崩れなくなった理由は、家族でも仕事でもない「サードプレイス」を大事にしていることにある、というものだ。対談はそこから、遊びと経営の関係、資本を持つ者が有利になるという島袋の時代認識、二人が運営するコミュニティでの事例へと進んだ。

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売却はなぜ孤独なのか

小林はまず、M&Aは孤独だと切り出す。最近は売却の相談が増えているが、相談者を見ていると、売却を進める経営者は精神的に不安定になりやすいという。島袋自身も、以前「売却するときは必ずメンヘラになる」と話していた。

小林はその理由をいくつか挙げる。上場企業に売る場合は情報を開示できず、決まった範囲の外に話を出せない。結果として、対話の相手はアドバイザーくらいしかいなくなる。島袋は、自分の会社がいつ、どんな相手に、どんな条件で買われるのかをイメージしにくいことも孤独の一因だと付け加える。

交渉の不安定さも大きい。手を挙げた相手から突然「いらない」と言われる。面談の感触がよくても、トップ面談の後に断られる。小林によれば、デューデリジェンスに入っても突破するのは3割ほどと言われており、いいところまで進んでから破談になるのは珍しくない。

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何度破談しても崩れない島袋の変化

小林が注目したのは、いま島袋が売却を進めている事業だ。破談の回数を尋ねられた島袋は、もう覚えていないと答える。小林が3〜4回かと聞くと、もっと多いという。意向表明が出た後に破談になったこともある。島袋は「意向表明とか信じてない」と笑い、手元に届いてもひとまず置いておく程度に受け止めているという。

以前は売却のたびに不安定になると言っていた島袋が、最近はそうなっていない。小林はその理由を考え、島袋がサードプレイスを重視しているからだと結論づけた。島袋は家族も仕事も大事にしているが、それとは別に趣味をきちんと持っている。小林が挙げた例は、前十字靭帯を切ってもスキーを続けたことだ。手術から9カ月後にはイタリアで滑っていたという。小林はこれを「頭おかしい」と冗談めかしつつ、メンタルを保つには、家族でも仕事でもない場所を重視して暮らすことが非常に重要だと述べる。島袋も、これはM&Aに限らない話かもしれないと応じた。

「趣味のために事業を成功させる」という島袋の論理

島袋は、これが自分の悩みでもあると明かす。経営者には、高い目標を掲げてストイックに走り続けるタイプが多い。周りにもそういう人がいる。だが自分はそうではなく、趣味がとても大事なのだという。

島袋が説明する順序はこうだ。趣味を続けるにはお金が要る。周囲に迷惑をかけずに趣味をやるには、お金で解決できる状態が必要になる。そのためには事業を成功させなければならない。事業を成功させるには優秀な人が必要で、優秀な人に集まってもらうには、ちゃんとした事業を作らなければならない。小林は「意外とロジックがちゃんとしている」と評した。

島袋は、自分は志が特に高いわけではないと言う。それでも、志の高い経営者より自分のほうが結果的にうまくいっていると感じることがたまにあるそうだ。小林は、島袋は幸福度も高そうだと言う。M&A BANKの初期の動画から全部見ているが、今の島袋のほうが幸福そうに見えるという。島袋は「あの時も高かった」と返し、お金はポイントのようなもので、使えば使うほど戻ってくると笑った。

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小林のサードプレイス:シーシャバー

年代の話にもなった。小林は、体力的に充実しているのは30代後半あたりまでで、それ以降に心の状態を保つにはサードプレイスがないとやっていけないのではないか、と話す。

小林自身のサードプレイスは、ウェルネスエクスアジアに入る前から経営しているシーシャバーだ。そこには経営者がよく集まるという。家族でも職場でもない場所で、これまで接点のなかった歯医者、銀行員、証券マン、M&A仲介会社の人などと友人になった。

話はやがて仕事につながることもある。小林が歯医者の友人から医院を買いたいと相談されたり、M&A仲介会社の人と協業できないかを話したりする。ただ、始まりはあくまで友人付き合いだという。小林は、この場が自分の人生の潤いになり、仕事の活力にもなっていると話す。島袋はそこでイベントを開こうと提案し、小林も貸し切りにできると応じた。

意識しないとサードプレイスは作れない

小林は、サードプレイスは意識して作らないと手に入らないと強調する。仕事は忙しく、家族にも時間を使う。ファーストプレイスとセカンドプレイスは誰でも持っているが、サードプレイスを持てるかどうかは意識次第だろう、というのが小林の見方だ。

島袋は、サードプレイスを作るのが好きなほうだという。やりたいことのアイデアはいくらでも出てくるが、カレンダーの日数が足りない。小林は、島袋はアイデアが尽きないうえにお金も惜しまず使うので危ないと茶化す。島袋は、自分が稼いでいるのはそこにお金を使いたいからだと気づいた、と話した。

具体例として島袋が挙げたのは、シンガポールから車でマレーシアに渡り、2〜3時間ほどの場所でカジキマグロが釣れるという話だ。9〜10月ごろが時期で、シンガポールで通っている美容師に教わり、動画を見て行きたくなったという。トゥモローランドのフェスにも行くつもりだ。島袋は、やりたいことが「渋滞している」と表現した。

旅や遊びが仕事に効く理由

島袋は、旅をしているほうが結果的に仕事がうまくいっていると感じている。小林は、精神状態が安定することに加えて、そこで生まれる発想が事業につながるのだろうと推測する。島袋は、旅先の人たちからはバイアスのない状態で話を聞けることも大きいのかもしれないと話す。小林も、利害のないフラットな関係で聞いた意見やアイデアがビジネスに生きるのだろうと応じた。

島袋は生活の半分ほどを海外で過ごしている。海外で会う人たちが、自分にとってのリフレッシュになっているのかもしれないという。東京や日本で会う経営者は皆優秀で志も高い。ただ、どこかでスイッチを入れておかないと持っていかれそうな感覚が、島袋にはあるという。小林は、日本人は忙しすぎるからかもしれないと応じた。島袋は、会話が結局ビジネスの話に行き着き、「上場が」「M&Aが」と語り合うのではない空間を作ったほうがいい、と話した。

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「r>g」が強まっているという島袋の時代認識

ここで島袋は話題を少し変え、最近シンガポールで会った、事業売却で大きな資産を得た人との会話を紹介する。そこで話したのは、先にある程度の資産を持った人が勝つ世の中になった、ということだった。努力して積み上げていくよりも、先にまとまった金融資産を持って運用するほうが有利で、そうでない人は追いつけなくなるのではないか、と島袋は言う。

島袋はその背景として、AIとロボットによる変化を挙げる。「マスク」の名前を出し、2035年ごろにはロボットが人の労働を代替して労働生産性が大きく上がるという見方に触れた。島袋の見立てでは、すでに新人に任せる仕事が減っており、AIの登場で一部のバックオフィス業務も置き換わりつつある。働く人が相対的に少なくなり、ベテランや経験を積んだ人が圧倒的に優位になっていくという。

新規事業も同じだと島袋は言う。以前は、小さな資本で賢い人が挑戦し、大きく当てる余地があった。今は、大手や資金を持つ人がAIを使って失敗しない設計図を作り、力で回していく状況が出てきている。そのため新規事業やベンチャーはかなり難しくなっているのではないか、と島袋は考えている。そうなると、先に数億円を持ち、それを運用して増やすほうがリターンは大きい。島袋はこれを、資本収益が労働を上回るという意味の「r>g」と説明し、それが「スーパーr>g」になっているらしいと話した。

例に挙がったのは、M&A BANKに出演した栗山氏だ。島袋によれば、栗山氏は会社を約8億円で売却し、運用で5億円ほどになった段階を経て、いまは20億円ほどになっているという。お金を増やすという意味では、事業をするより運用のほうが効率的だ、というのが島袋の主張である。

売却後の人生と、先にサードプレイスを持つこと

お金だけ持っても人生は面白くない、うつになる、と言う人もいる。これに対して島袋は、約8年間売却経験者を見てきた実感として、そうではないと話す。そうした局面が一時的に訪れることはあるが、皆きちんと回復し、人生をとても楽しそうに過ごしているという。どちらかといえば事業や働くことには飽きているが、お金は大きく増えている、というのが島袋の観察だ。

小林はこれを受けて、仕事の充実よりも、第3の場所や趣味を持っている人のほうが幸せで、結果として仕事もまたやりたくなるのだろうとまとめる。一時的に落ち込んでから回復した人は、売却前にはサードプレイスがなく、時間ができてから見つけたのかもしれない、と小林は推測する。だからこそ、仕事をしながら探しておくことが重要だという。島袋も、売ると決めたら早く売ったほうがいいし、同時にサードプレイスもきちんと作っておくことが大事だと述べた。

サロンは「結果的なサードプレイス」になっているか

終盤、二人は自分たちが運営するM&A BANKサロンについて話した。島袋は、M&Aの学びを目的としたこの場が、結果的に会員のサードプレイスになっていると位置づける。小林によれば、新規会員向けの食事会を開いており、会員にはユニークな人が多いという。

学びの面では、月1回のオフラインセミナーと月2回のウェビナーを開いている。売却に向けた準備や、買い手が着目するポイントを、二人や専門の税理士・弁護士が解説する。小林によれば、今年は売手側アドバイザーとして4件の売却を支援した。売却が完了して開示済みの企業には、売り手と買い手がそろって登壇してもらう。売り手がなぜ売ろうと思ったのか、買い手がなぜその会社を選んだのかを掘り下げて聞くという。

小林は、会員との定例面談で起きた例も紹介した。ある経営者から売却の相談を受けたが、数字を読み解くと業績が悪かった。そこで一度予算と事業を立て直してから売ることにしたところ、業績が1年前の倍になった。すると本人が、仕事が面白くなったので今は売りたくないと言い出したという。島袋は、伸びてくると売りたくなくなるものだと応じ、小林は島袋の著書のタイトル「会社は伸びてるときに売りなさい」を引いて笑った。その後の面談は、予算の立て方、部下の育成、経営合宿の進め方といった経営相談の場になっている。小林はこの関係を「伴走」と表現した。

最近は、会社の買収や出資を検討している会員からの相談も増えている。焼肉店や人材会社を買おうと思うがどうか、といった具体的な内容だ。島袋は、こうした判断は「ノールック」でやりがちで、自分にも失敗経験がたくさんあると話した。小林は、売手専属アドバイザーとして売り手がどう見せるかを知っている立場から、買う側にも助言できると述べる。

遊びのコミュニティとしての側面

小林は、サロンには真面目な事業の話だけでなく、「経営者の遊び」としてのコミュニティ形成の面もあると話す。翌月にはモンゴルへ行き、ゲルに泊まる予定だという。会員の一人がモンゴルに行こうと言い出したのがきっかけで、10人以上が集まった。タイ行きも人気だったという。島袋はシンガポールでの開催を求め、小林は来年から定期開催する予定だと答えた。ゴルフクラブの会員に頼んで少人数で回る案も出た。小林は、イベントの話になると島袋の口が滑らかになると冗談を言っている。

小林によれば、イベントや飲み会に毎回顔を出す会員もいて、その一人は「本当にいいサードプレイスを見つけた」と話していたという。売却の孤独を和らげる場所を持てているかどうか。二人が冒頭から語ってきたこの問いに、その会員の言葉で応える形で対談は締めくくられた。