設備ではなく「電力が届くまでの時間」を売る:Critical Loopに見る米国送配電網ボトルネックの攻め方

YouTubeで開く ↗
概要

FoundXの「Startup IdeaCast」は、海外スタートアップをAIで分析し、起業を考える人向けに紹介する番組である。今回取り上げたのは米国のエネルギー・インフラ領域のスタートアップ「Critical Loop」だ。紹介役のホストは、この会社の面白さを二つ挙げる。一つは、蓄電池や太陽光発電を売るのではなく、事業開始までに電力を待つ時間を短くすることを売っている点。もう一つは、ハードウェア自体よりも、それらを束ねて制御するソフトウェアに事業の核を置いている点である。番組は冒頭で、情報をAIで整理しているため古い情報や誤りを含む可能性があり、正確さが必要なら各自で一次情報を確認してほしいと断っている。

21分で読めます

本題の前には、日本のスタートアップ・エコシステムにおけるハラスメント調査についての雑談があった。本記事ではそこから順に扱う。

冒頭の話題:スタートアップ・エコシステムのハラスメント調査

ホストが紹介したのは、東京大学が英語のプレスリリースで公表した調査だ。東大や慶應などの研究者が、日本のスタートアップ・エコシステムにおけるハラスメントを調べたものである。

ホストが興味深いと感じた点は二つある。まず、過去のスタートアップ界隈ではセクハラが問題になったことがあったが、この調査ではセクハラよりパワハラを受けた割合のほうが高かった。次に、パワハラを受ける割合に男女差がほとんどなかった。ホストはここから、スタートアップをやっていれば誰でもパワハラを受けうるので、防いでいかなければならないと受け止めた。

支援者の立場として気にかけたのは、ハラスメントを受けた人がネットワーキングイベントや支援組織の利用といった外部との関わりを避けるようになる、という報告である。FoundXは避けられる側にあたるため、初期の段階からきちんと介入・ケアする必要があるとホストは話した。人を紹介する際に注意は払っているが、いくら注意しても足りない部分だという認識も示している。

一方で、この調査は2015年以降に創業した約1.3万社を対象とし、回答は約470社、回答率はおよそ4%だった。そのためホストは、数値の割合をそのまま事実と言い切るのは難しいと考えている。ただ、ハラスメントが実際にあったことや、どのような傾向が見られたかは参考になるという評価だ。聞き手のホストも、セクハラもパワハラも問題であり、ハラスメントを受けた人がネットワーキングや支援を避けるようになれば、エコシステム全体に悪影響が出ると応じた。二人は、ハラスメントを許さない姿勢を明示すること、自分たち自身も気をつけることを確認して本題に入った。

Critical Loopの全体像:「Time-to-Power」を売る会社

「ループ」という社名からリサイクル企業を連想しがちだが、そうではないとホストは説明する。Critical Loopは米国のエネルギー・インフラ領域のスタートアップで、送配電網のボトルネックという構造的な問題に対し、モジュール型の解決策を提供している。中核は、電力フローを最適化するソフトウェア制御である。

ホストによれば、この会社の事業を一言で表すと「産業・インフラ向けのTime-to-Power」になる。電力供給までにかかる時間を数年から数週間に縮めるため、モジュール型のマイクログリッドと制御ソフトを提供している。単に蓄電池を販売する業者ではなく、事業開始に必要な電力供給の待機時間を短縮するサービスを売っている点を、ホストは起業を考える人にとって参考になる部分として強調した。

「なぜ今なのか」について、ホストは次のように説明する。AIによるデータセンター需要の増加、EV化、製造業の国内回帰によって、米国の電力需要は大きく伸びている。一方で送配電網の増強は大きく遅れており、商用運転開始までの待機時間の中央値は4年を超えるところまで悪化しているという。

聞き手がなぜ送配電網の増強にそれほど時間がかかるのかを尋ねると、ホストは三つの要因を挙げた。インフラ自体が老朽化して更新が必要なこと、環境アセスメントが必要なこと、そして接続申請が大量に増えていてその審査がボトルネックになっていることだ。では数週間でどう電力を供給するのかという問いには、既存の電力網の空き容量を使い、足りなくなるピーク時をモジュール型の蓄電池で補う仕組みだと答えた。大規模な工事が要らないので、供給までの期間を短くできるという説明である。

課題:1,400GWの接続待ち

ターゲット顧客は三つある。業務用に多数のEVを充電するEVフリート充電事業者、データセンターの開発者、そして工場や航空宇宙の試験施設の運営者だ。

これらの顧客が抱えるのは、今すぐ電力が必要なのに系統に接続できないという問題である。番組の調べでは、全米で約1,400GWの発電が接続待ちの状態にある。最適な事業用地を見つけても18カ月から5年の電力待ちが発生し、機会損失が生まれている。待機時間は長くなる傾向にあり、2000〜2007年の中央値は約2年だったのに対し、2018〜2024年は4年を超えた。現在は5年近いという指摘もあるという。

既存の代替手段にも限界がある。ただ待つ場合は事業の成長が止まる。オフグリッドの発電設備を自前で作る場合は設備投資が大きくなり、排ガス規制が厳しいため許認可のハードルも高い。

聞き手が1,400GWの規模感を尋ねると、ホストは米国の既存発電容量が2026年1月時点で約1,300GWだと説明した(最初に1,800GWと言い、すぐ訂正している)。つまり接続待ちの量が既存の発電容量を上回っており、インフラ側の処理能力がパンクした状態だという。聞き手はオフグリッド発電について、原発を動かす話も出ていると触れた。ホストは、ディーゼルなどのオフグリッド発電は設備費がかかるうえ、州によってはカリフォルニアのように環境規制が厳しく許可を得るのが難しいと述べ、そこまでやるのかという話になると付け加えた。

解決策:既存系統と蓄電池・発電機のハイブリッド、制御の「Signus」

Critical Loopは完全なオフグリッドを作るのではなく、既存の系統電力に太陽光発電、蓄電池、発電機を組み合わせる。ホストが差別化の要と見ているのは、単一メーカーの蓄電池に依存せず、複数メーカーの機器を束ねるハードウェア非依存の統合制御技術である。

この制御を担うのが「Signus」コントローラーで、役割は大きく三つあるという。一つ目は、オフピーク時に充電しピーク時に放電すること。二つ目は、系統から引き込む電力の上限を監視して、それを超えないよう制限すること。三つ目は、機械学習を使ってリアルタイムに最適化することである。

トラクションとしてホストは二つの事例を挙げた。一つはEV充電施設で、長い電力待ちを短縮したというもの(字幕では期間の数字が聞き取りにくい)。もう一つは航空宇宙の試験施設で、2MWhの設備の設置を1日で完了させたという例である。

UL 3141認証が意味するもの

SignusはUL 3141という認証を業界でいち早く取得しており、これが顧客への安全性のアピールになっているとホストは紹介した。聞き手がこの認証の重要性を尋ねると、ホストは次のように説明した。UL 3141は電力制御システム向けの安全規格で、施設の電力負荷、蓄電、発電、送配電網からの電力供給をリアルタイムに安全に連携・制御するシステムの性能と要件を定めている。これを取得していれば、マイクログリッドが送配電網に接続する際、事前に合意した電力の上限を決して超えないことを証明できる。その結果、電力会社からの信頼を担保できるという。

複数メーカーの機器を組み合わせる利点についても質問が出た。ホストによれば、同社は特定のバッテリーメーカーの供給不足や価格高騰のリスクを避けられること、つまりその時点で最もよい条件で調達できるサプライチェーンの柔軟性をメリットと考えている。

市場規模と三つの成長ドライバー

同社が狙うのは「Speed-to-Power」の市場である。番組の調べでは、TAMは米国全体の商工業用エネルギー貯蔵市場で約428億ドル。SAMは、5〜100MWhクラスの電力をすぐに必要とするミドルマーケット。当面の目標となるSOMは、2026年までにEVやデータセンターなどペインの強い案件を中心に約100MWhを導入することだという。

市場成長のドライバーとしてホストは三つを挙げた。一つ目はAI需要によるデータセンターの急増。二つ目は物流や商用車で産業用EVの充電施設が広がっていること。三つ目はカリフォルニア州公益事業委員会(CPUC)が推進する「フレキシブル・サービス・コネクション(FSC)」の制度化である。

FSCについてホストは次のように説明した。配電系統の容量制約のために需要家が希望する容量をフルに受電できない場合でも、系統の安全を保てる範囲で時間帯や条件に応じた容量制限を受け入れれば、通常より早く接続・通電できる制度だ。足りない分は需要家側の蓄電池、太陽光、バックアップ発電機で補える。電力会社にとっての懸念は、顧客が約束した電力の上限を本当に守れるかどうかにある。ここでSignusの安全規格が効いてくる。認証を持つCritical Loopは上限を守れることを示せるため、この制度が追い風になっているというのがホストの見立てだ。

聞き手は、AIデータセンター需要に加えてこうした制度が入ってきたからこそ生まれたビジネスだと受け止めた。ホストはこれに同意したうえで、Critical Loop自身もこの制度づくりに関わっていると補足した。

ミドルマーケットを競合が狙わない理由について、ホストは次のように説明する。大手は数百MWh級の超大型案件に集中しがちである。中規模の案件は現場ごとに複雑な制御が必要で参入障壁が高いため、見過ごされやすいという。

二つのビジネスモデル:EaaSと長期サービス契約

同社はSignusを単体で売るのではなく、蓄電池や発電機などのハードウェアと組み合わせた統合型マイクログリッド・プラットフォームとして提供している。収益モデルは二つある。

一つ目はEnergy-as-a-Service(EaaS)である。顧客は初期投資ゼロで導入でき、設備はCritical Loopが保有し、顧客は継続的にサービス利用料を払う。二つ目は長期サービス契約型で、顧客が設備を購入して税制優遇なども受け、Critical Loopは遠隔でのオーケストレーションや運用・保守・制御で継続課金を得る。

聞き手は、EaaSで設備を自社保有するのは資金面で重いのではないかと尋ねた。ホストはその難しさを認めたうえで、同社はエクイティだけでなくプロジェクトファイナンスやデットも活用して調達していると答えた。長期契約型の「オーケストレーション」の中身については、電力料金の安い時間帯に蓄電して高い時間帯に放電するスケジュール管理や、電力網の異常を検知して瞬時にバックアップへ切り替える運用を24時間体制で行うことだと説明した。

垂直統合というポジショニングと長期ビジョン

ホストによれば、同社の戦略上の立ち位置は、ハード、ソフト、契約設計を束ねた統合型プラットフォームにある。純粋なソフトウェア専業でも発電事業者でもない、中間のポジションだ。内製と外部調達も切り分けており、蓄電池のセルなどのハードウェア部品は外部の複数社から調達して柔軟性を確保している。一方、差別化の核となるハードウェア統合層とソフトウェア・制御層は完全に内製し、ブラックボックスにしている。

10〜20年後の理想像として、同社は単なる電池ベンダーではなく、電力アクセスを設計から運用まで一気通貫で担う「電力インフラのOS」的な運用者を目指しているという。聞き手が「一言では言いにくいビジネスだ」と言うと、ホストは、自分も「一言で言うと何なのか」と思いながら調べていたと笑った。

聞き手はさらに、ソフトウェア専業のSaaSにしたほうが利益率は高いはずなのに、なぜそうしなかったのかと尋ねた。ホストの説明はこうだ。粗利率は確かに高くなるが、その場合、現場での複雑なハードウェア統合を顧客やインテグレーターに丸投げすることになる。そうなると、顧客にとって最大の価値であるTime-to-Power、つまりすぐに電気が使えることを保証できなくなる。だからその道を避けたのだという。

「電力インフラのOS」の具体的な意味を問われると、ホストは自分も具体的にはイメージしきれていないと前置きした。そのうえで、分散した多数の蓄電池や発電機が同社のソフトウェア上でつながり、電力会社からの要請に応じて地域全体の電力バランスを自動で最適化する状態、つまりVPP(仮想発電所)の頭脳のような存在を指しているようだと説明した。

3フェーズのロードマップ

ビジネスの中身は複雑だが、ロードマップは分かりやすいかもしれない、とホストは言う。

フェーズ1は創業から現在までで、PMFの獲得に集中した段階だ。EV充電や航空宇宙試験など、電力接続までの時間が長く機会損失が特に大きい顧客に絞り、数日から数週間で電力を供給して止まらないという実績を、厳しい制約のもとで積み上げた。

フェーズ2は2026年に向けた標準化とルールメイキングの段階である。UL 3141の取得によるシステムの標準化や、蓄電池メーカーとの提携による供給網の確保を進めている。さらにカリフォルニア州公益事業委員会への政策提言を通じてFSCの制度化に直接関わり、自社に有利な市場環境を作っているという。

フェーズ3は拡張と全米展開の段階で、調達した資金をもとにカリフォルニア州外への進出や、AIデータセンターなどハイパースケール市場への拡大を狙っている。

聞き手は、AIデータセンター銘柄かと思ったが最初からデータセンター市場を狙ったわけではないのか、と確認した。ホストによれば、データセンターは規模が大きすぎて導入までの意思決定サイクルが長く、初期のトラクションとPMFを早く確かめたいスタートアップには不向きだと同社は考えたという。政策提言やルールメイキングに深く関わるメリットについては、業界全体のためという面はもちろんあるとしたうえで、自社製品の仕様がそのまま業界標準として採用される可能性が高まり、後発の競合に対する参入障壁になりやすい点を挙げた。

競合マップとモート、弱点

番組が示したポジショニングマップは、縦軸に提供するアセットの重さ、横軸にターゲットの規模を取っている。大規模・ハード重視がVoltaGrid、小〜中規模・ハード重視がScale Microgrid、ソフトウェアのみの提供がCamus Energyで、Critical Loopはこれらがカバーしきれない中間に位置づけられる。ホストは「それはどういうポジションなのかという気もする」と率直に述べつつ、隙間を突いているようだと説明した。

各社の中身もホストは紹介した。VoltaGridは主に大規模データセンターやAI企業を対象に、天然ガス発電を中心としたマイクログリッドを提供している。Scale Microgridはデータセンターや大学、病院などを対象に、垂直統合型のマイクログリッド開発と運用保守を行っている。Camus Energyはソフトウェアの提供が中心で、アセットは軽く、ハード統合よりも制御や系統との協調に軸を置いているという。

Critical Loopのモートとしては、UL 3141認証を持つ自律制御、メーカーに依存しないハード統合力、導入スピードの速さ、移設できるモジュール設計、規制当局や電力会社との連携が挙げられた。一方で弱点として、複数の機器を統合しているため、長期的には保守が複雑になる懸念があると番組は見ている。

聞き手は、VoltaGridのような大規模プレイヤーがミドル層に降りてくる可能性を尋ねた。ホストは可能性はあると認めつつ、VoltaGridはガス発電でアセットが重い事業をしているのに対し、Critical Loopは既存の系統電力を「ハック」する事業なので、構造的に噛み合わず、競合を避けられると同社は考えていると説明した。保守の複雑さへの対策としては、Signusの制御を内製し、クラウド経由で全モジュールの稼働状況を監視・遠隔制御することで、物理的な保守の手間をソフトウェアで吸収しようとしているという。ただしホストは、それがどこまで実現できるかは今後の課題だと付け加えた。

参入戦略:経済的なペインが最も大きい顧客から

ホストが面白いと感じたのは初期ターゲットの選び方だ。同社は「環境によいから」という理由で買う顧客ではなく、系統の都合で事業が止まり、その停止コストに困っているため支払い意欲の高い顧客に絞った。具体的にはEVフリート、工場、航空宇宙の試験設備など、経済的なボトルネックの解消を最優先する層である。

MVPは、ゼロから巨大なオフグリッド発電所を作るのではなく、既存系統の空き容量を最大限使い、足りない分だけを補うハイブリッド構成で製品化した。初期顧客にはスピードを武器に直接販売し、実際に稼働したという実績をてこに広げていった。

聞き手がこの初期市場だけで十分スケールするのかと尋ねると、ホストは「多分難しい」と答えた。初期市場だけでも数千万ドル規模はあるそうだが、ここで実績と信頼を作り、それを使って本命のデータセンター市場へ進みたいというのが同社の考えだという。PMFの指標も、ユーザー数ではなく、現場で事業を絶対に止めないこと、そして電力会社から承認を得ることという厳しい基準に置いていたとホストは紹介した。

チーム:SpaceXの設計思想を地上の電力インフラへ

ホストが特に面白いと感じたのは、創業チームが電力業界の出身ではない点である。CEOはSpaceXのチーフエンジニアとして、有人ロケット級の高性能ハードウェアとフェイルセーフを含む絶対的な安全性に携わってきた人物だという。CTOは元Palantir、COOはUberなどを経て、財務や事業オペレーションのスケーリングを担ってきたとされる。ホストは、宇宙船の高度な自律制御と絶対的な安全性という設計思想を地上の電力インフラに移植した点がこのチームの特徴だと述べた。

聞き手は、電力の専門家がチームにあまりいないことは弱点なのか強みなのかと問いかけた。ホストは、「待つのは当たり前だから仕方ない」という業界の常識に縛られない点は強みになると見る。一方で規制やルールは厳しいので、おそらく電力会社出身者などをアドバイザーとして迎えているのではないか、と推測を述べた。

聞き手はさらに、SpaceX出身者の知見はシステムを止めないための冗長化設計、異常検知、フェイルオーバーなどに生きそうだが、Palantir出身者の知見はどこに生きるのかと尋ねた。ホストは、各現場の稼働データ、天候、電力網の負荷をリアルタイムに統合・解析し、最も経済的で安全な充放電のタイミングを予測するAIアルゴリズムづくりに生かされているそうだと答えた。技術の中核であるSignusの制御に関わる部分だという理解である。

創業初期の学び:統合作業の複雑さと規制を中心に据える設計

ホストによれば、同社の創業初期の最大の学びは、現場でのハードウェア統合作業が想像以上に複雑だったことだ。市販のバッテリーとインバーターを組み合わせるだけではスケーラビリティがないと気づき、ハードウェア非依存のSignusコントローラーを自社で内製する方針に切り替えたという。

また、UL 3141などの規制対応を製品完成後に追いかけるのではなく、初期段階からプロダクト仕様の中心に据えた。規制への適合そのものをモートに変えるアプローチである。その結果、2023年の創業から数年で50MWh規模の導入を終え、カリフォルニア州の制度設計に影響を与える立場にまで成長したとホストは紹介した。

統合作業のどこが複雑だったのかという質問に対し、ホストは次のように答えた。蓄電池、太陽光発電、電力会社の系統は、通信規格も安全基準もそれぞれ異なる。それらを連携させ、しかもミリ秒単位で制御する必要があったことが複雑さの背景だという。創業数年で制度設計に関われた理由については、州政府自身も電力網のパンクをペインとして抱えており、同社が実際にハードウェアを動かして解決したトラクションを示したことで、専門家として意見を求められる立場になったのではないか、とホストは推測している。

資金調達と急成長、そのリスク

番組の調べでは、同社は2026年4月にシリーズAで2,600万ドル(約39億円)を調達し、エクイティとデットを合わせた累計調達額は4,900万ドルに達した。投資家には、インフラ・エネルギー投資に強いConifer Infrastructure Partnersと、ディープテックに強いHanoverが参加しているという。調達成功の要因としてホストは、気候変動対策を掲げるのではなく、「電力への接続が産業の成長を止めている」という経済的なボトルネックの解消を示した点を挙げた。

成長の数字として、従業員数は直近1年で8人から35人に増え、2026年には100MWhの稼働を目標とする成長フェーズに入っているという。聞き手がインフラ系ファンドも投資している点に注目すると、ホストは、EaaSモデルではハードウェア資産を保有する必要があるため、安定したリターンを好むインフラ投資家と相性がよかったのではないかという見方を紹介した。

100MWh目標のリスクについては、需要側は十分にあるとしたうえで、供給側がボトルネックになりうるとホストは指摘した。バッテリーメーカーから安定した供給を確保できるか、そして現場で設置するエンジニアを十分に確保できるかという点である。

日本への応用:ノンファーム型接続と三つの参入案

日本でも再生可能エネルギーの導入拡大に伴い、ノンファーム型接続のルール整備が進んでいる。ホストは、米国と同じく、系統接続や工事に時間がかかる高圧需要家の間で早く受電したいというニーズが高まっていると紹介した。ただし海外のシステムをそのまま持ち込むのは難しい。優位性になりうるのは、日本特有の電力会社との協議や保安要件をクリアする実務オペレーションそのものをモートにすることかもしれない、という見方である。

AIの分析からは三つの案が出されたという。一つ目は「暫定受電ハック」で、工場の増設やEV拠点など系統増強を待てない企業向けに、需要家側の制御と蓄電池の導入パッケージを提供する。二つ目は「実装OS特化」で、ハードウェアには汎用の海外製品を使いつつ、日本の厳しい保安要件や受変電設備にローカライズしたソフトウェアに特化する。三つ目は「サブスクリプション型EaaS」で、ハードウェアを売るのではなく、導入の時短、非常時のバックアップ、遠隔運用をすべてセットにして月額サービスとして提供する。

聞き手が日本のノンファーム型接続と米国の柔軟接続の違いを尋ねると、ホストは基本的な概念は似ていると答えた。系統の空き容量の範囲で接続を認め、混雑時には出力を制限するという仕組みが共通している。そのため、この仕組みが広がれば制御ソフトの需要も増えるかもしれない、という見立てである。

学び:待ち時間という価値の見つけ方

番組のまとめとして、Critical Loopの事例から学べる点が三つ示された。一つ目は、設備や蓄電池を売るのではなく、事業開始の遅れを防ぐTime-to-Power、つまり時間の価値を売っていること。二つ目は、規制や電力会社の実務を後から対応する条件として扱わず、最初からプロダクト要件の中心に組み込み、競争力にまで昇華させたこと。三つ目は、宇宙産業や防衛のように絶対に止まってはいけない領域で培った高信頼性のノウハウを、電力というレガシー産業の課題解決につなげたことである。実践できるアクションとしてホストは、自分たちの業界で、設備や技術が足りないのではなく待ち時間や制度的なラグが価値を毀損している場所を探し、それをハックできないか考えることを挙げた。

最後に聞き手は、時間価値を売るという点は以前番組で紹介したエグザバット(字幕表記のまま)にも近く、モノやサービスではなく待ち時間を減らすための時間を売るという発想は参考になると感想を述べた。一方で、価値は明確でも事業の中身が複雑で理解しづらく、その複雑さがある意味でモートになっているのではないかとも話した。ホストも、何を売っているのかを徹底的に調べても分かったような分からないような気持ちだったと振り返った。そのうえで、モートになっているとすればおそらく制御の部分であり、何にでも対応できるという複雑さそのものがモートなのかもしれないと応じた。

聞き手は、規制に関わり、ソフトを作り、ハードを買い、エネルギーを供給し、ときにはサービスとして提供するという組織内部の複雑さをどうデザインしていくかは、それ自体が大変だろうと想像を述べた。ホストも役割が多くマネジメントは大変だろうと同意し、今後形が変わっていく可能性も十分あるとして、その行方が気になるスタートアップだと締めくくった。