大栗博司が語る「ミクロの限界」と宇宙の終わり:重力と量子力学を統合すると何が意味を失うのか
PLAYERS公式経済学者の成田悠輔がホストを務める対談番組に、理論物理学者の大栗博司が出演した。成田が最初に投げかけたのは、宇宙の始まりと終わりについての問いである。その答えを探るうちに、話はミクロの世界で位置が確定しないという議論に進んだ。本記事で扱う後半部分では、この流れを受けて大栗が三つの論点を語る。重力と量子力学を統合すると「より小さな世界」という考え方そのものが成り立たなくなること、宇宙の終わりはダークエネルギーの性質を調べれば原理的に予測できること、そしてこうした基礎研究が人間の生活とどう結びつくかである。
高いエネルギーほど位置が正確に分かる
大栗はまず、量子力学における測定の考え方を振り返る。物の位置や形を調べるには、波を当てて探る必要がある。波長が長いと、山と谷の間の空間を区別できず、物がどこにあってどのくらいの大きさなのかはぼんやりとしか分からない。成田は、細かい波長のほうが細かいものに当たって区別できるということかと確かめ、大栗はそれを肯定した。
波長を短くするにはエネルギーを高くしなければならない。したがって、エネルギーを上げ続ければ位置も物の形もいくらでも正確に分かるはずだ、と考えたくなる。大栗によれば、ここまでが量子力学の世界の話である。
重力を入れるとブラックホールができてしまう
この話は、重力の影響を加えると変わってしまう。大栗はここでアインシュタインの E=mc² を持ち出す。一般向けの解説書では式を一つ書くたびに読者が半分になると言われるが、この式だけは書いてもよいとされている、と冗談を交えながら、エネルギーと質量は同じものだという意味を説明した。
エネルギーを高くするほど、その場所には大きな質量が集まることになる。番組の前半で大栗は、小さな領域に大量の質量が集まるとブラックホールができると説明していた。それを踏まえると、ある程度以上エネルギーを上げれば、観測しようとしている場所にブラックホールができてしまう。現在の加速器のエネルギーではそうはならないが、「究極の加速器」を作ったと仮定する思考実験では、この結論が避けられないという。
ブラックホールの周りには事象の地平線(イベントホライズン)ができる。大栗は映画『インターステラー』にも出てくると触れたうえで、そこより内側に入ったものは外に情報を伝えられないと説明した。つまり、内側のことは不確定という以上に、まったく分からなくなる。さらに、ブラックホールの直径はエネルギーに比例して大きくなる。位置を正確に知ろうとエネルギーを上げて波長を短くしてきたのに、ある段階を超えるとブラックホールが生じ、その内側が見えなくなってしまうのである。
このため大栗は、重力と量子力学を統合すると位置が本質的に不確定になると述べる。ある距離より小さなことは、物理学的に意味のない概念になるということだ。
「観測できないものは存在しない」という物理の考え方
大栗は、この結論の背景にある物理学の基本姿勢も説明した。どんな思考実験を考えても観測する方法が作れないものは、存在しないとみなす。だから、地平線の内側の狭い世界で何が起きているかを議論しても意味がない、というのが大栗の立場である。
これには大きな含意がある。物理学はこれまで、よりミクロな世界に進むことで、より深い基本法則を見つけようとしてきた。大栗はこの歩みを「過去400年」と表現し、重力と量子力学が統合されれば、少なくともミクロに向かう方向ではそれより深い理論はない、と語った。統合がいつ実現するかについて、大栗は番組の前半で長い年月を見込んだ数字を挙げていたようで、ここでも「今から2000年」といった時間の単位に触れている。
大栗は、子どもの頃に誰もが抱く疑問を例に挙げた。物や体を刻み続けたら、いつか刻み終わるのか。どこかに最小の単位があるのか、それとも世界はどこまでも連続なのか。重力と量子力学の性質から考えると、この問いの立て方自体があまり意味を持たなくなる。大栗はこれを「宇宙の玉ねぎ」にたとえた。皮をむいていくと芯があり、それ以上はむけず、それより小さな世界はない。ただし大栗は留保もつけている。理論が完成すれば、そこからさらに深い方向があるかもしれない。また、この「芯」は「これが最初の粒です」と言えるような最小の粒子があるという話とは違う、とも述べた。
時間も同じように不確定になり、宇宙の始まりの問いが意味を失う
ここで話は成田の最初の質問、つまり宇宙の始まりと終わりに戻る。相対性理論は時間と空間を同じように扱う。そのため、空間で起きる問題は時間でも起き、時間という概念も同様に不確定になる。
大栗によれば、ビッグバンの世界は非常に高温・高密度で、時間を遡るほど密度が高くなる。するとある時点で、いま説明した現象が問題になる。そこまで行くと「今何時か」「今どこにいるか」という問いすら意味を持たない。したがって、それより前に宇宙があったのかなかったのかという問いも、その段階で意味を失う。
成田はこれを受けて、そもそも時間や空間という素朴な概念自体に意味があるのかと問い返した。自分の最初の質問は、日常的な時間の流れを思い浮かべて「宇宙の一生」を想像したものだった。しかし突き詰めると、その質問の前提にある時間や空間の考え方そのものが危うく見えてくる、という指摘である。大栗はこれに同意した。空間や時間は、少なくとも現在の宇宙を理解するには便利な枠組みである。しかし宇宙の始まりのような極限状況で意味のある概念かどうかは別の問題であり、いまの議論はそうした概念が具体的に意味を失いうることを示している、と説明した。
宇宙の終わりはダークエネルギー次第
では宇宙の終わりはどうか。大栗の答えは「まだ分からない」である。宇宙がどう膨張し発展していくかはアインシュタイン方程式で決まる。この方程式は、空間や時間の変化を、その中にある物質やエネルギーで説明する。現在の宇宙の進化を決めるうえで重要な要素はダークエネルギーだが、その性質はまだ完全には分かっていない。そしてその性質によって、宇宙の今後が変わる。
大栗は二つのシナリオを挙げた。一つは、宇宙がこのまま膨張を続け、銀河同士の距離が離れ、それぞれの銀河の中の星もしだいに死んでいき、非常につまらない世界になるというものだ。成田はこれを「孤独みたいな世界」と言い換え、大栗はこれがおそらく最もありそうな未来だと述べた。もう一つは、ダークエネルギーの性質によっては膨張が収縮に転じ、ビッグバンのような高温・高密度の世界になって終わるという可能性である。ただし大栗は、普通想定されるダークエネルギーの性質からはありえないだろうと考えている。
遠くを見ることは過去を見ること
どのシナリオが正しいかを知る方法は、原理的には存在すると大栗は言う。現在の宇宙はアインシュタイン方程式で理解できる状況にあるので、ダークエネルギーの性質さえ分かれば、それを未来へ延ばして結果を知ることができる。そしてダークエネルギーの性質は、宇宙のこれまでの進化を詳しく調べれば分かる。
大栗は、宇宙が膨張している最初の証拠としてハッブルの観測を挙げた。遠方の銀河ほど速く遠ざかっており、少なくとも当時の観測精度では、遠ざかる速度が距離に比例していた。ここで重要なのは、遠くの天体の光ほど地球に届くまでに時間がかかるという点である。より遠くの天体の後退速度を測れば、過去に宇宙がどれほどの速さで膨張していたかが分かる。
大栗はこれを歴史研究と比べた。歴史学者は過去を直接見ることができず、古文書を読んだり、さらに古い時代なら石を調べたりする。一方、天体物理学は過去の光を受け取るので、過去を直接見ることができる。望遠鏡の精度を上げて遠くを見るほど、より昔のことが分かる。
その例が、大栗が「一昨年アメリカが打ち上げた」と紹介したジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)である。これを使うと、宇宙で最初期にできた星や銀河が見える。大栗の説明では、星ができたのはおそらく宇宙誕生から数億年後で、その頃の非常に早い星が観測できるという。
大栗はボードに図を描きながら説明を続けた。横軸を宇宙の年齢、縦軸を宇宙のサイズとして、過去の膨張がどう変化してきたか、つまり膨張の加速度がどうなっているかを調べ、アインシュタイン方程式と照らし合わせる。そうすればダークエネルギーの性質がより詳しく分かり、現在から先の曲線がどちらへ向かうかも分かる。JWSTのような観測を行う理由の一つは、過去のダークエネルギーの性質を調べることにある、と大栗は語った。さらに、ダークエネルギーの性質は超弦理論を使って予言できる可能性もあるという。理論的な考察と観測による検証を組み合わせれば、将来のことが分かるというのが大栗の見通しである。
大栗は、過去に比べて将来のほうが割と分かると付け加えた。これからの宇宙ではアインシュタイン方程式が成り立つので、ダークエネルギーの性質さえ分かればよい。一方、宇宙の始まりの側は、量子力学と重力の統合が本当に分からないと理解できない。
マクロの方向に限界はあるのか:修正重力理論の否定
成田は次に、ミクロ方向の限界を聞いたうえで、逆に大きい方向の限界はどうなのかと尋ねた。世界で一番大きなものは膨張している宇宙そのものなのか。それとも、その宇宙を包み込む外側の世界を考える意味はあるのか。
大栗は、そうしたことを考えている人はいるとしながらも、観測で検証できないことには意味がないと答えた。人間は約138億光年より先を見ることができず、その境界を宇宙の地平線と呼ぶ。その先に全然違うドラゴンが住んでいるという理論を作っても検証しようがないので、考えない、という立場である。
一方で、大栗が面白い可能性として紹介したのが、ミクロに行くと理論が深くなるように、マクロに行くと理論が変わる可能性はないか、という発想だ。ダークマターについて最も標準的な考え方は、既知の原子とは別の未知の物質が存在するというものである。これに対し、アインシュタインやニュートンの重力理論は少なくとも太陽系の中で観測・検証されてきた理論にすぎないのだから、もっと遠くでは長距離で重力の理論が変わるのではないか、と考える人たちがいる。これが修正重力理論(モディファイド・グラビティ)である。ただし大栗によれば、最近の精密観測でその大半は否定されている。
その決め手になったのが重力波だった。大栗は、長距離で重力を変更すると、重力波の速度と光の速度が一致しなくなる点が重要だと説明する。その前提として、マクスウェルの話が紹介された。マクスウェルは電気と磁気を統合して電磁場の理論を作り、そこから電磁波が予言された。その速さが光の速さと同じだったことで、光と電磁場が統合された。同じようにアインシュタインも、一般相対性理論を作った際、電磁波のようなものが重力にもあるのではないかと考えた。重力場が重力を伝え、それが波となって宇宙を伝わっていくもの、つまり重力波を予言したのである。
重力波は何十年も前に間接的には検証されていた。そして大栗の説明では「ちょうど10年ちょっと前」に、大栗が所属するカリフォルニア工科大学とMITが共同で進めてきたLIGOという重力波望遠鏡によって直接観測された。最初に捉えたのはブラックホールの合体で生じた重力波だった。その後、中性子星という重い星同士が合体する現象も観測された。この場合は重力波と同時に光も出る。はるか遠方で起きた現象なので、重力波が地球に届いた時刻と、合体で生じた光が届いた時刻を比べれば、両者の速度の違いが分かる。結果はぴったり同じで、大栗によれば、これで修正重力理論のかなりのものは「死んだ」。
大栗はこの結果を踏まえ、マクロの方向に進んで既存理論を修正するのは難しい筋であり、より基本的な法則はミクロの世界に行くことで修正されるという方向で研究が進んでいる、と述べた。ただし留保も添えている。この話は、宇宙のどこでも同じ法則が成り立つとするコペルニクス原理を前提にしている。遠くの世界がまったく違う世界になっている可能性を否定することはできない。しかし、そうした仮定を置いてもほとんど何も言えない。コペルニクス原理に立てば既存の知識から宇宙を予言でき、それを検証できる。科学はそのようにして進んできた、というのが大栗の説明である。
生命や知性は宇宙論のどこに入るのか
番組の終盤、成田は、そもそもこんなことを考えている大栗は何者なのか、という問いを投げかけた。今日の話は、極小から極大までのスケールで異なる力や法則を統合するというものだった。そこでは、1〜2メートルの肉体と日常が押しつけてくる直感や常識をどう乗り越えるかが一つのテーマだった。しかし、それを考えている人間自身は、その日常のど真ん中のスケールで生きている。そこで生命が生まれ、知性が立ち上がっている。今日の話のどこに、生命や知性が生まれることが入ってくるのか、と成田は尋ねた。
大栗の答えは「直接には入ってこない」だった。これもコペルニクス原理の一側面であり、地球やその上の生命、そこから進化した人類は、宇宙の中で中心的な役割を持っていない。大栗は、ここ400年の科学の進歩は人間の存在をだんだんダウングレードしてきたと語る。かつて人間は神の子であり宇宙の中心だと考えられていたが、いまは宇宙の進化の偶然の中で生まれたものだと考えられている。生命や進化がどう起きたかを研究する分野はあるが、それは自分の専門ではない、とも断った。そのうえで、偶然生まれた人間が宇宙の始まりや未来、ミクロの世界まで理解できるのは素晴らしいことだと述べた。
成田が、人間や人間の知性そのものに特別で神秘的な意味はないということかと確かめると、大栗は「ないと思いますね」と答えた。さらに大栗は、番組前半で「2250年経てば統合できる」と言ったことについて、それは楽観的な見方で、できる保証はないと付け加えた。
大栗はここで自宅の犬を例に出した。犬は冷蔵庫の中に食べ物があることは知っているが、冷蔵庫がなぜ冷たくなるのかは絶対に分からないだろう。犬の知性には限界がある。人間の脳も進化の偶然でできたものなので、おそらく同じように壁があり、その先は分からないだろう、と大栗は考えている。したがって、量子力学と重力を統合して究極の統一理論を作るという目標が、人間の脳で達成できるかどうかは明らかではない。
解けるかどうか分からない問題を研究する意味
成田は最後に「しょうもない政治家みたいな質問」と前置きして尋ねた。解けるかどうかも分からない問題を研究して何になるのか、と言われたらどう答えるのか。
大栗は答えが三つあると述べた。一つ目は、宇宙には最も深い真実があり、人間がそれを知ることができるということ自体が素晴らしい、という点である。これは精神的な価値であって、実利的なものではないと大栗自身が認めている。
二つ目は、より実利的な価値である。こうした研究は人間の知のフロンティアであり、宇宙の科学的理解の最先端として、既存技術の極限を狙う。そこから思いがけない形で新しい技術が生まれることはよくあるという。大栗は例として、がん治療などに使われる陽子線をはじめとする放射線技術がこうした研究から生まれたこと、日常的に使われるワールド・ワイド・ウェブも、ヨーロッパの巨大加速器研究所CERNで何千人もの基礎科学の研究者が情報をやり取りするために作られたことを挙げた。最近のAIについても、研究者の多くは理論物理学や数学の基礎研究をしていた人たちだという。技術革新は戦争がもたらすとよく言われてきたが、技術革新のために戦争をするのは問題がある。それに対し、こうした研究は無害なまま技術革新をもたらす、と大栗は評価した。
成田は、日常生活のあらゆるものが今日の理論を使っており、GPSやGoogleマップも相対性理論がなければ使い物にならないと応じた。大栗はこれを受けて、思いがけない発展は基礎研究があって初めて起きるのだと述べた。すでにある科学だけを使い続けるのは化石燃料を使うのと同じで、いずれ枯渇してしまう。だから新しい知識を蓄え続ける必要がある、という考え方である。
成田が、今後の理論がどんな技術や生活につながるか想像することはあるかと尋ねると、大栗はそうした想像はしないと答えた。ただ、三つ目の論点として数学を挙げた。こうした理論は既存にない数学を作っていく。高校や大学で習う微分積分も、もともとニュートンが運動の方程式を作るために考え出したものだった。物理と数学は相性がよく、物理のより深い理論を作ることで新しい数学が生まれることもある、というのが大栗の説明である。
熱力学の第2法則と二酸化炭素回収の限界
大栗は、物理の基本法則が思いがけない形で日常生活に重要になる例として、熱力学の第2法則を詳しく取り上げた。この法則は、19世紀初めの物理学者カルノーが、内燃機関がどのくらい効率よく動けるかを考える中で生まれた。エンジンの効率の原理的な限界を示すものである。
大栗によれば、現在普通に走っているセダン車の効率は、第2法則が許す限界の2割程度だと言われている。1世紀かけて改良してもその程度である。効率を5倍にすることはぎりぎりできるかもしれないが、100倍にすることは理論的にできない。第2法則は、こうした技術的なベンチマークになるという。
大栗はさらに、この法則が気候変動対策にも関わると指摘した。大気中の二酸化炭素が地球温暖化の原因とされ、それを回収する技術が多く研究されている。しかし第2法則から計算すると、1トンの二酸化炭素を回収するにはおよそ10万キロカロリーのエネルギーが必要で、それより少ないエネルギーで回収することは理論的にできないと大栗は説明する。それを下回ろうとするのは、第2種永久機関を作ろうとするのと同じくらい不可能だという。
大栗の試算では、人類はさまざまな活動によって年間およそ350億トンの二酸化炭素を出している。これに1トンあたり10万キロカロリーを掛けると、約3500兆キロカロリーになる。これは、人類が現在消費している電気エネルギーの2割ほどにあたるという。つまり、いま放出している二酸化炭素をすべて回収しようとすれば、人類が作っている電気の2割をそれに充てなければならない。成田は、電気を作る際にも二酸化炭素が出るのだから実際の効率はさらに低くなると指摘し、大栗も同意した。しかも、エンジンの例が示すように、実際の技術は1世紀かけても第2法則の限界の2割程度の効率しか出せていない。大栗は、だからこれは難しいと述べ、物理の基本法則がこうした問題にも深く関係していることを強調した。
科学への信頼をどう作るか
最後に成田は、この価値をどうすれば人々に伝えられるかと問うた。一見暗号のような数式やモデル、つまり人類が数千年かけて考えてきた取り組みが、巡り巡って人間の生活や産業のあらゆるものを形づくっている。しかし、そのことを少しでも認識している人は1%ぐらいではないか。自分では直接理解できなくても、そうしたものなしには今の生活や社会が成り立たない、という信頼を科学や技術に対して作り出すにはどうしたらよいのか。
大栗は、日本はアメリカなどに比べれば科学者への信頼度が高いと思う、と答えた。成田は、今のアメリカの状況を見るとそんな気もしてくるが、日本でさえまだまだだと感じると返した。そのうえで、研究の現場をそのまま届ける番組が少しでも増えればよいと考えて今回の回を設けた、とこの対談の意図を語った。
番組は、成田が「ブラックホールから現れた大先生に、向こう2000数百年間の研究計画について伺った」とまとめ、次回は2000年後にと冗談を向けて終わる。大栗も、理論が完成したら一緒にそれを検証しましょうと応じた。量子力学と重力の統合がいつ、そもそも人間の脳で達成できるのかという問いは、大栗自身が保証はないと認めたとおり、未解決のまま残されている。
宇宙の始まりと終わりの話からスタートして、その議論をするために、物事がミクロでは様々なものが様々な意味で不確定だっていう話をしている流れでここにたどり着いた。
素晴らしいですね。物理学っていうのも大体「そもそも」というところから話を始めるのが好きなので、話が長くなる傾向があって申し訳ないんですけども、ちょっと話を戻しますと、先ほどお話ししたように、より場所を正確に決めようとしたら、より高いエネルギーで測らなければいけないと。
波長が長いと、波に山と谷があってですね。山と谷の間の空間はあんまり区別できないわけですよね。
つまり細かい波長の方が細かいものに当たって区別できる感じ。
そう、そういうことですね。波長が長いと、例えばここに物があった時に、このものがどこにあってどのくらいの大きさかっていうのを測ろうとした時に、ぼんやりとしかわからないわけですね。
こっちに何回当たったからこっちくさい、みたいな感じ。
くさい。そう、そう。ですから波長が短ければ短いほど場所がよくわかる。そのためにエネルギーを高くしなければいけないんですね。そうするとエネルギーをどんどん高くしていくと、どんどん場所が正確に分かる、物の形が正確に分かると思うわけじゃないですか。これがまあ量子力学の世界。
しかしですね、ここまでが量子力学の世界なんですけれども、ここに重力の影響を入れるとこの話が変わってしまうんですね。それはなぜかと言うと、E=mc²を書きましたが、E=mc²ってお聞きになったことあります?
はい。アインシュタインの、世界で一番有名な方程式。
そう、そう、そう。僕は一般向けの解説書を書く時に、式を1個書くと読者が半分になると言われるんですけども、これは書いてもいいというふうに言われているんですけども、エネルギーと質量は同じもんだということなんですね。
これでちょうど1人だけ残ってた視聴者が0になったかもしれない。
それでです。だからエネルギーが高くなるほど質量が重くなると。これEがエネルギーで、mが質量です。Eがエネルギーで、こっちが質量で、だからエネルギーが高くなるほど重くなる。ということは、この辺りがすごく重くなる。
先ほど、ある小さな領域に質量がたくさん集まってくるとブラックホールができるっていう話をしました。ですから、ある程度以上エネルギーが高くなると、重力の効果を入れるとここにブラックホールができてしまう。加速器と呼ばれてるものの中で人工的にブラックホールが作られるかというと、現在の加速器のエネルギーではできないですね。
でも、これは思考実験というんですけども、究極の加速器みたいなのを作ると、そこにブラックホールができて、実はブラックホールの周りにはイベントホライズン、事象の地平線っていうのができてですね、『インターステラー』とかいう映画をご覧になるとそれが出てくるんですけれども、そこより一旦中に入ったものは外に情報を伝えることができないということがあるんですね。
これができてしまうと、ここより中のことは分からない。ですから不確定性以上にですね、もう何も分からなくなっちゃうんですね、ここの中のことはね。ここの中に一旦入ったものはもう取り出せないってことですから。
しかもこのブラックホールの直径っていうのは、エネルギーが高ければ高いほど長くなる、エネルギーに比例して長くなると。そうすると、これまでせっかくエネルギーを高くして波長を短くして、この衝突してる辺りの位置を正確に決めようとしたわけだけれども、ある程度以上エネルギーを上げるとブラックホールができて、ここの中のことが分からなくなってしまうんですね。だから重力と量子力学を統合すると、実は位置が不確定になってしまうということが。
つまりこの地平線の内側のどこにいるかっていうこと、だから位置という概念が失われてしまうんですね。ですから実は量子力学と重力を統合すると、ある距離以下のことっていうのは意味がなくなる、物理学的に意味のない概念になってしまうということなんですね。
ですからこれはいろんなことを意味するわけで、1つは、これまで僕らはよりミクロな世界に行くことで、より基本的な、より深い基本法則を見つけようとしてきたわけですけれども、一旦重力と量子力学が統合されてしまうと、それよりもより深い理論は、少なくともこういう方向にはないというふうに言えるわけですね。それよりもミクロな世界っていうのはないわけです。
すいません、この内側の狭い世界で何が起きてるかってことを議論することに意味は……。
物理では、観測可能でないものは存在しないと。どんな思考実験を考えても、それを観測するような方法が作れない場合は、そういうものはないと考えるっていうのが物理の基本的な考え方なので、ここの中の世界のことを議論するのは意味がないというふうに思います。
これがあるミクロの限界みたいな。
ミクロの限界ですから、そういう意味で、よりミクロな世界に行くことでより深い理論を理解しようっていう、過去400年の物理学の歩みっていうのがそこで終わると。今から2000年後かもしれませんが、終わるというふうに思っているわけですね。
でも誰でも子供の頃感じる疑問の1つは、こういうことじゃないかと思うんですよ。つまりこの世の中にあるものとか体を切っていく、どんどん刻んでいくじゃないですか。そうすると刻み終わることはあるのかっていうことは、誰でも考えることがありますよね。どこかに最小の単位みたいなのがあるのか、それともいくらでも刻めて、やっぱり世界は連続なのかっていう問いは、あまり意味がないってことです?
いやいや、ですからそこはまさに、よく宇宙の玉ねぎって言うんですけども、玉ねぎの皮をむいていくようなもんですよね。それに芯があるっていうことですね。一番芯があって、それよりも皮をむくことはできない、それよりも小さい世界はないという。少なくとも現在僕らが理解している重力や量子力学の性質からして、一旦そこまで理論ができたら、さらに深い方向に行く方向性があるかもしれないけども、少なくともよりミクロな世界に行くということで、より深い理論を見つけるという方向性はそこでなくなるというふうに思われているわけです。
でもそれは、これが最初の粒ですっていう一番小さいものがあるのとも違うわけですよ。……できるかによっていると思うんですけれども。
なるほど。
それが成田さんの最初のご質問、宇宙の始まりと終わりにどう関係してるかっていうと、これは今、空間の中の位置っていうものが、量子力学と重力を統合すると本質的に不確定になるっていうことの1つの説明なんですけれども、相対性理論だと時間と空間っていうのは同じように扱うんですよね。ですから空間で起きる問題っていうのは時間でも起きる。ですから時間という概念も同じように不確定になってしまうんですね。
そうすると、例えば宇宙の始まり、特にビッグバンの世界っていうのは非常に高温高密度で、それをどんどん遡っていくとどんどん高密度になっていくので、ある時点でこういう現象が問題になるわけですね。そこまで行くと、例えば今何時とか今どこにいるのっていう問いすら意味がないですから、例えばそれよりも前に宇宙があったのかなかったのかという問いにも、もうその段階で意味がなくなってしまうわけですね。
ちょっと水分補給。だとすると、そもそも時間とか空間っていう、僕たちが素朴に思いつく概念自体に意味があるんですか?
もちろん先ほどの宇宙の始まりがとか終わりがっていう僕の素人質問は、普通の素人っぽい日常的な時間の流れみたいのをなんとなくイメージした時の、宇宙の一生みたいなものを想像しての質問だったわけですね。それに対する回答を教えていただいたような気がするんですが、でもそれをもっと突き詰めると、そもそもその質問の背後にあった時間っていう考え方とか空間っていう考え方みたいなものそのものが、なんか危うい気がする。
そう、そうです。おっしゃる通りで、もちろん空間や時間っていう概念は、少なくとも現在の僕らの宇宙を理解するために便利な枠組みなんですけども、それが宇宙の始まりのような極限状況で意味のある概念かどうかっていうのは別な問題なわけで、こういう議論っていうのは、具体的にそういう概念が意味がなくなるようなことがあり得るということを表してるわけですよね。
逆に宇宙の終わりについてはどうなんです?
それはね、まだわかんないんですよ。というのはなぜかって言うと、実は先ほど見ましたように、宇宙がどういうふうに発展していくか、膨張していくかっていうのはアインシュタイン方程式で決まってるんですけども、アインシュタイン方程式っていうのは、空間や時間の変化っていうものをその中の物質やエネルギーで説明するんですね。今の宇宙の進化を決める中で重要なエレメントっていうのはダークエネルギーなんですけれども、そのダークエネルギーの性質がまだ完全に分かっていない。その性質次第で今後宇宙がどのように進化していくかが変わるんですね。
1つの可能性としては、今膨張してる宇宙がこのまま膨張していってですね、だんだん銀河との距離が離れていって、その各々の銀河の中の星がだんだん死んでいって、宇宙はものすごいつまんない世界になるっていう可能性が1つあるし、それから……
孤独みたいな世界ですね。
そう、そう、そう。それが多分一番ありえそうな世界ですが、そうではなくって、これはちょっと非常にありえないことだと思うんですけども、ダークエネルギーの性質によっては宇宙の膨張が収縮に転じて、ビッグバンのように高温高密度の世界になって終わるっていう可能性もないわけではない。ただそれは、普通想定してるダークエネルギーの性質からはありえないだろうなと思うんですけれども。
そのあり得るシナリオのどれが正しいかを見出す方法って、原理的にあるんですか?
あるんですね。それはどうやってやるかっていうと、ダークエネルギーの性質をもうちょっとよく知れば、基本的に僕らの今の宇宙っていうのはアインシュタイン方程式で理解できるような状況にあるので、そのダークエネルギーの性質さえ分かれば、それを伸ばしていってどういうふうになるか分かる。ダークエネルギーの性質っていうのは、宇宙のこれまでの進化をより詳しく調べれば分かるんですね。
具体的にどういうことをするかって言うと、先ほど、宇宙が膨張している一番最初の証拠っていうのはハッブルの観測っていうのがあって、遠方の銀河が遠ざかっているっていうことで、少なくともハッブルの頃の観測精度では、遠方の銀河の遠ざかる速度が距離に比例してるっていう関数だったんですね。それから宇宙が一様に膨張してると。でも、より遠くのものを見ると、そこから光が地球に届くのに時間がかかるから、より遠くのものがどのくらいの速さで遠ざかっているかっていうのは、過去に宇宙がどのくらいの速さで膨張していたかを教えてくれるんですよね。そういう宇宙の観測っていうのは素晴らしくてですね。例えば歴史を研究されてる方は、過去のことが直接見えないじゃないですか。
ですから、過去の古文書を読んだりとかですね、もっと昔だったら石を調べたりとかするわけですけど、天体物理学っていうのは過去のことを直接見ることができるんですよね。
そうですね。
過去の光がここまで来るのに時間かかってるわけですから。ということは、望遠鏡の精度を上げて遠くのものを見れば見るほど過去のことが分かる。例えば一昨年アメリカが打ち上げたジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡、JWSTってのがあるんですけど、それを使うと宇宙の始まりに一番最初にできた頃の星や銀河が見えるんですよね。
130何億年前。
だから星ができたっていうのは多分宇宙ができて数億年後なので、その頃のすごい早い星が見えると。
ですからそうすると、ものすごい遠くの銀河がどのくらいの速さで遠ざかってるかを見ると、現在の宇宙の膨張っていうのは距離に比例してるんだけど、これがどういうふうになってたか、こうなってたか。
だからこれが宇宙の年齢ですよね。で、これが膨張、宇宙のサイズ。これがどうなってたかってのが分かると。そうすると、これをアインシュタイン方程式と比較してやると、これがこうなってたか、こうなってたかっていうのを見てやると、今は宇宙の膨張ってのはリニアに来てるわけで、宇宙の膨張の加速度がどうなってるかっていうのを調べてやると、そのダークエネルギーの性質がもっとわかるんですよね。
そうすると、これが現在ですが、その後こうなるかとか、こうなるかとかいうのが分かるというので、ダークエネルギーの性質を調べるために、より遠方の宇宙の様子を調べるということが重要。ですから、先ほど言ったジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡みたいなのをやってる理由の1つっていうのは、そういうことを使って一番過去のダークエネルギーの性質を調べようということですね。
それがより理解が深まれば、その宇宙の終わりがどちらの方向か、もっと精度が高くわかる。
ダークエネルギーの性質っていうのも、超弦理論を使うと予言できるっていう可能性もあって、そういう理論的な考察と、宇宙の観測による検証と両方組み合わせれば将来のことが分かる。でも、過去のことに比べて将来のことっていうのは割と分かるんですよね。というのはなぜかって言うと、この辺ではアインシュタイン方程式は成り立つので、ダークエネルギーの性質さえ分かれば分かると。こっちはもっと難しいですね。こっちは量子力学と重力の統合のことが本当に分かってないとわかんない。
でも今のを伺っていると、もう1つ疑問が湧いてきて、それはマクロ側の限界っていうのは何なんだろうってことなんです。さっきミクロ方向で小さく小さくしていった時の、ある種の限界、芯みたいなものを教えていただいたじゃないですか。逆に大きな方向を見ていった時に、この宇宙が膨張しているとすると、世界で一番大きなものっていうのは、この膨張してる宇宙そのものっていうことになるんでしょうか? それとも、その外側の、宇宙を包み込んでる世界みたいなものを考える意味っていうのがあるんでしょうか?
はい。もちろんそういういろんなことを考えてる人はいるんですけれども、観測的に検証できることじゃないと意味がないわけですよね。ですから少なくとも僕らは138億光年より先のことは見えないわけで、それを宇宙の地平線っていうふうに言っているんですけれども、そこより先に例えば全然違うドラゴンが住んでいるとかですね、そういう理論を作っても、それは検証しようがないので考えないわけですよね。
ただ1つ面白い可能性は、ミクロの世界に行くとより深い理論があるじゃないですか。マクロの世界に行くとさらに理論が変わる可能性はないかっていうことを考える人もいるわけですね。例えば、先ほど言ったダークエネルギーとかダークマターって不思議なもんなので、一番標準的というか定番の考え方は、僕らが知ってる原子だけじゃなくて、知らない物質があって、それがダークマターになってるんだっていうのが一番標準的な考え方なんですけども、例えばアインシュタインの理論とかニュートンの重力理論っていうのは、僕らが少なくとも太陽系の中で観測して検証している理論なので、より遠くの星のところまで行ったら、長距離でニュートンの理論とかアインシュタインの理論が変更を受ける可能性があるんじゃないかっていうことを考える人がいるんですよね。それを修正重力理論、モディファイド・グラビティっていうふうに言ってる。そういうことを考える人もいるんですよ。でも実は最近の精密観測で、そういうもののほとんどは否定されているんですね。
これができるっていうのは面白いんですけども、1つ重要なポイントは、そういう長距離で重力を変更すると、重力の波の速度と光の速度が同じでなくなるっていうことがあるんですよね。
先ほどご説明したように、マクスウェルは電気と磁気を統合して電磁場の理論を作ったんですけれども、それから電磁波が予言されて、それがちょうど光の速さで進んでるってこと、同じだから光と電磁場が統合されたわけです。同じように、アインシュタインが重力の理論、一般相対性理論を作った時に一番最初にやったことの1つは、電磁波みたいなのが重力にもあるんじゃないかって思った。だから重力っていうのも、重力場っていうものが重力を伝えるので、それが波のようになって、重力が波のように変わって宇宙を伝播していくものがあるんじゃないか。
グラビテーショナル・ウェーブという。それを予言したんですね。それが、もう今から何十年も前に間接的には検証されてるんですけども、今からちょうど10年ちょっと前に直接観測ができて、これが僕がいるカリフォルニア工科大学とMITが共同で行ってきたLIGOっていう重力波望遠鏡で、重力波を直接観測することができたんです。
これは巨大ブラックホールが合体する時にできる重力波を観測したんですけども、特に中性子星っていう重い星があってですね、それが合体する時にも重力波が出るんですけども、その時に光も出るんですよね。それはすごい遠方で起きてる。そうすると、その重力波が地球に届いた瞬間の時間と、中性子星同士が合体してできた光が地球に届いた時の時間を比較すると、重力波と電磁波の速度の違いが分かるんですね。
つまり合体した時に重力波も光も発せられてるから、届いた時点を比べると。それは何百万光年も先のことですが、それがばっちり同じで、それで修正重力のかなりのものは死んだんですね。
だから棄却されてしまった。そういう意味で、やはりマクロな方向に行って、これまでの既存の理論を修正するっていうのはなかなか難しい筋ですね。やはりより基本的な法則っていうのは、ミクロな世界に行って修正されるという方向に進んでいると思うんです。もちろん、先ほど言ったみたいに、これは仮定で、例えば今言った僕の話は基本的にコペルニクス原理に立ったもので、より遠くの世界に行ったら全然違う世界になってたっていうことは否定できないんですけれども、でもそういう仮定を置いてもあんまり何も言えないので、そうではなくて、コペルニクス原理を置くと既存のことから宇宙のことが予言できて、それで検証できるので、そういうふうにして科学が進んでるわけですね。
ちなみに番組ホームページではノーカット版の配信もしています。番組が大赤字で大変です。ぜひ皆さんカンパをよろしくお願いします。
でも伺ってきて一番最後に気になった疑問は、こんなことを考えてる大先生は一体何者なんだろうと。というのは、今日すごいミクロからすごいマクロまで、全く違ったタイプの力とか法則の統合みたいな話をしてきたじゃないですか。そこではある意味、この1m、2mの肉体とか日常が僕たちに押し付けてくる直感とか常識みたいなものを、どう乗り越えるかっていうことが1つのテーマだったと思う。
はい、そうだと思います。
しかし同時に、それを考えている僕たちは、その真ん中の、日常ど真ん中のスケールを生きてるわけですよね。そこで生命みたいなものが生まれ、そこに知性みたいなものが立ち上がってるわけじゃないですか。今日話してきたことの中に、生命というものとか知性というものが立ち上がるっていうことはどう入ってくるんですか?
入ってこないですね、直接にはね。ですからやっぱり人間、地球とかですね、コペルニクス原理の側面なんですけども、地球とかその上の生命とか、そこから進化してきた人類っていうのは、宇宙の中で中心的な役割ではないわけですよね。ここ400年の科学の進歩っていうのは、やはり人間の存在をだんだんダウングレードしてきたところがあってですね、それまでは人間は神の子で、宇宙の中心だと思ってきたわけですけれども、そうではなくてですね、宇宙の進化の偶然の中で生まれてきたものだというふうに思われているわけです。もちろん、科学的にそれがどういうふうに起きてできたかっていうのを研究する生物学とか進化の分野もあるんですけども、それは僕がやってることではないので。だから、そういうふうにして生まれた僕たちが、こんな宇宙の始まりとかですね、未来とかですね、ミクロな世界まで理解できるっていうのは、素晴らしいことだなと思いますけど。
そうすると、人間とか人間が持っている知っていうものそのものに、何か特別な神秘的な意味はないと。
ないと思いますね。それからもちろん、先ほど2250年経てばこれ統合ができるって言ったけども、それは非常に楽観的な考え方で、できる保証はないわけですよね。例えば、僕の家で犬を飼ってるんですけども、僕の犬は冷蔵庫の中に食べ物があるってことを知ってるんですけど、でも冷蔵庫がどうして冷たくなるかは、犬には絶対分からないと思うんですよね。だからそういうふうに犬の知性の限界っていうのがあるわけじゃないですか。人間の脳もやはり進化の偶然でできたものなので、おそらく壁があって、そこより先のことは分からないと思うんですよね。ですから、量子力学と重力の統合によって、いわば究極の統一理論を作るっていう目標が人間の脳で達成できるかどうかは、明らかではないですよね。
最後にちょっとしょうもない政治家みたいな質問をさせていただいてよろしいですか? そんな解けるかどうかも分からない問題をやって何になるんですかって言われたら、大先生だとどういう答えになりますか?
3つ答えがあると思うんですね。1つはもちろん、これは僕は宇宙の最も深い真実の1つだと思うんですけども、そういう真実というものが宇宙にはあって、僕らはそれを知ることができるというのは、1つ素晴らしいことだと思うんですよね。それは精神的なもんで、実利的なものではないんですけど、でももっと実利的なこともあるんですね。
例えば、こういう研究っていうのは、人間のある意味、知のフロンティアっていうか、科学的な宇宙の理解の一番最先端で、そういうところの研究っていうのは、しばしば既存の技術の極限を狙うわけですよね。そういうところから新しい技術が起きるっていうことはよくあることなんですね。それも思いがけない方法で。例えば、がんの治療なんかで使われてる陽子線であるとか、色々な放射線技術っていうのはこういう研究の中から生まれてきたものですし、それから例えば僕らが日常的に使ってるインターネット、ワールド・ワイド・ウェブとかああいうものも、実はCERNっていうヨーロッパの巨大加速器研究所で、何千人もの基礎科学の研究者がですね、情報をやり取りするためにそもそもできたものなんですよね。最近のAIなんかでもですね、AIの研究者の多くは、それまで理論物理学や数学の基礎研究をしてきた人たちが、そういう方向に行ってるわけですね。そういうふうに、人間の技術の極限を極めることで新しい技術が進歩する。これまでよく言われてきたのは、戦争が技術革新をもたらすっていうのはよく言われてきたんですけども、でも技術革新のために戦争するのはやっぱりちょっと問題ありますよね。こういうものっていうのは無害なのに技術革新をもたらすので、それは素晴らしいことなんじゃないかなと。
確かに日常生活のあらゆるものが、今日ご説明いただいた理論を使ってますよね。GPSとかGoogleマップみたいなものも、相対性理論がないと使い物にならないし。
ですからやはり、そういう思いがけない発展っていうのは、こういう基礎科学があって初めてできるわけですね。ですから、すでにある科学だけを使っていると、だんだんそれは化石燃料を使っているのと同じことで枯渇してしまうわけで、どんどん新しい知識を貯蔵していく必要があるわけだと。それをこうやっているというのも1つの考え方ね。
ちなみにその43世紀に向けた今後の理論が、こんな思いがけない技術や生活につながったらいいな、みたいな想像ってお持ちになったりする?
いや、それはないですけど、ただ1つ言えるのは、例えば数学だけでもね、こういう理論っていうのはこれまで既存に存在してない数学を作っていくわけなので、例えば僕らが高校、大学で習う微分積分なんていうのも、そもそもニュートンが運動の方程式を作るために考え出したものなんですけども、そういうふうに物理と数学っていうのは相性が良いので、物理のより深い理論を作っていくことで新しい数学ができるっていうこともありますよね。そういう物理の基本的な法則っていうのは、実は思いもかけない形で日常生活に重要なことはよくありますよね。例えば熱力学の第2法則なんてのはご存知ですかね?
はい、ギリギリ。
熱力学の第2法則ってあります。それは元々は内燃機関、エンジンがどのくらい効率的にできるかっていうののためにできたんですけれども、これはカルノとかいう、19世紀の初めの頃の物理学者が考えたんですけども、例えばエンジンの効率の原理的な限界を示しているんですよね。例えば今、普通に走ってるガソリン車っていうのは、この第2法則の限界の2割ぐらいの効率だと言われています。だから1世紀かけても2割ぐらいのところで、でもこれよりも例えばエンジンの効率を5倍にすることはギリギリできるかもしれないけど、100倍にすることは理論的にできないですよね。だからそういう1つの技術的なベンチマークみたいなのはある。
で、実はこの熱力学の第2法則って僕らの世界でもすごく大事で、例えば今、大気中に二酸化炭素がたくさんあるじゃないですか。二酸化炭素があるから地球が温暖化するっていう話があって、それを改善するためにその二酸化炭素を回収しなきゃいけないっていうので、回収技術を研究してるところがたくさんあるんですけど、これものすごい限界があるんですよね。
今の第2法則を使うと、例えば1tの二酸化炭素を回収するのに、およそ10万キロカロリーのエネルギーがいるんですね。それよりも少ないエネルギーで1tの炭素を回収することは理論的にできない。第2法則に反する。第2法則に反することって、例えば第2種の永久機関ができるかどうかっていう話だから、1tの二酸化炭素の回収を10万キロカロリーよりも少なくやろうとするのは、永久機関を作ろうとするのと同じくらい不可能なことなんですね。じゃあ人類は今1年間にどのくらい二酸化炭素を出してるかっていうと、大体350億t出してるんですね、いろんな人間の活動でね。そうすると10万キロカロリーですから、大体3600、3500兆キロカロリーぐらいのエネルギーがないと、人間が放出してる二酸化炭素を吸収できないんですよね。それはどのくらいかって言うと、大体人類が今消費してる電気のエネルギーの2割ぐらい。
だから、現在人類が放出している二酸化炭素を全部吸収しようとしたら、
そしたら、人類が現在作っている電気エネルギーの2割を全部それに使わないといけないんですよ。でも電気を作るのに二酸化炭素を出すわけなので。
実際の効率はそれよりさらに低くなる。
そうそうそう。それで、実際先ほど言ったように、1世紀かけて開発した内燃機関、ガソリン車の効率って第2法則の2割の効率しかないので、これは難しいですよね。ですから、そういう物理の基本法則っていうのは、こういう問題にも実は非常に関係してる。
これを人類に伝えるにはどうしたらいいと思われますか? つまり、こういう一見暗号のような取り組みの歴史が、人間の生活と産業とあらゆるものを形作ってるわけじゃないですか。ですが、そのことをちょびっとでも認識している人類って、多分1%ぐらいなんじゃないかな。
このビデオを最後まで見てくださった方はですね。
残念ながらその人数が0の可能性もありますが、自分は全く直接理解できないかもしれない。だけど、この謎の人物が考えてきたこと。
謎の人物って僕のことですか?
あるいは人類が数千年かけて考えてきた、よくわからない数式とかモデルとか様々な暗号のような情報が、実は巡り巡って自分の生活を支えている。それなしでは今の人類の生活や社会というのはとても成り立たないっていう信念、信頼を科学とか技術に作り出すにはどうしたらいいんだろうなって。
いや、でも日本は、アメリカなんかに比べて科学技術、科学者の信頼度は高いと思いますけどね。
今のアメリカの惨状を見てると、そういう気もしてきますね。でも日本でさえ、まだまだだなっていう感じがして。という意味で、その現場をそのままお届けする番組が少しでも増えたらいいなと。
どうもありがとうございます。
思って、今日こんな不思議な会を設けさせていただいた次第です。
ありがとうございます。本当にありがとうございます。どうもありがとうございます。
ということで、今日はブラックホールから現れた大先生に、向こう2000数百年間の研究計画について伺いました。次回は2000年後にぜひお願いできたらと思います。
はい。完成したら一緒にそれを検証するということで、よろしくお願いします。
またよろしくお願いします。本当にありがとうございました。ありがとうございました。
記事公開
