識学・安藤広大社長が語る、福島ファイヤーボンズ株の過半数譲渡と「製造業ロールアップ」への軸足移動

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概要

東証グロース市場に上場する識学(証券コード7049)の安藤広大社長が、M&A BANKの島袋直樹氏のインタビューに応じた。話題の中心は、6年間オーナーとして支えてきたBリーグB2所属のプロバスケットボールチーム「福島ファイヤーボンズ」の株式を一部譲渡した経緯である。上場企業として社会貢献性の高い事業をどこまで抱え続けられるのか。安藤氏は財務上の限界を率直に認めたうえで、チームの存続と発展を最優先に据え、投資回収は後回しにしたと説明する。後半では、本業の停滞と、製造業の連続M&Aを新たな柱にする方針が語られた。

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「冷たい会社」という誤解とブランディングの見直し

冒頭、島袋氏はX(旧Twitter)での炎上などが金融機関や取引先からの信用低下につながることはあるかと尋ねた。安藤氏は、自身はそうした経験がないので分からないとしたうえで、別の反省を口にした。識学はこれまで世の中になかった考え方を広めようとしてきたため、尖った表現を使い続けてきた。その結果、熱心な支持層は多くできたが、大半の人には誤解されている部分が非常に大きいという。

安藤氏によれば、実際に識学を学んだ人の感想と、広告や本のタイトルだけを見た人の印象には差がある。後者には「社員に冷たく、社員を道具のように使い、社員も息苦しい会社」というイメージを持つ人が少なくない。そこで今年1年をかけてブランディングを見直し、顧客の声を中心に「そうではない」と伝えていく方針だという。今後打ち出すキーメッセージは「迷いがない環境だから成長できる」であり、識学は迷いなく成長できる環境をつくる仕組みだと発信していきたいと述べた。島袋氏も、識学は感情をなくすものではなくルール設計、仕組みづくりだと受け止めていると応じた。

6年で売上4倍、それでも続けられなかった理由

本題の福島ファイヤーボンズについて、安藤氏はまず6年間の成果を振り返った。買収時に約2億円だった売上は、識学グループからの支援分を除いても8億〜8.5億円程度まで伸び、事業としての成長は果たせたと安藤氏は評価する。

一方で、Bリーグの成長性を見込んで多くの企業が参入しており、競争は激しくなっている。スポーツ興行としてはチームが強くなければならず、興行そのものも魅力的でなければならない。そのため必要な費用は年々増え、識学グループは6年間で合計約15億円を投じてきたという。

今シーズンはチームの成績が良く、福島では大いに盛り上がった。しかしアリーナが完成し、アリーナにふさわしい興行を充実させる必要があったほか、平均観客動員数のハードルもあった。その結果、売上をつくる側に経営資源を十分に割けず、売上の伸びは期待を下回った。今期だけでグループに4億〜5億円程度の赤字負担が生じたと安藤氏は明かした。

しかも、この投資はすぐに終わるものではない。今季は5000人規模のアリーナが満員近くになる試合が続き、「福島のシンボルになる」という目標に近づいた実感があった。一方で、2029年シーズンからBリーグ最上位カテゴリーの「Bプレミア」に参入することもほぼ決まっている。チームへの投資を続けなければ弱くなり、盛り上がりかけた「ふつふつと燃えてきた炎」が消えてしまうのではないか、と安藤氏は懸念した。

識学グループが持ち続けるなら、今後も毎年3億〜4億円の赤字を出しながら投資を続けることになる。安藤氏はそれを難しいと判断した。グループ経営を考えれば、投資を控えて黒字化を目指す経営をせざるを得ない。しかしそれでは、福島のためにやってきたのに、自分たちの都合で福島の成長を止めてしまう。それは正しくないと考え、新しいスポンサーを探すべきだと判断したという。

島袋氏が、上場企業がマイナスを掘ってでも保有し続ける意味を見いだすのは難しいのではと問うと、安藤氏は同意した。地方創生は企業としてやるべきことの一つではある。ただ、識学はグループ利益が昨年ようやく5億円程度出た会社であり、そのうち4億円をチームに使っていた。昨年はたまたまグループ全体の利益が出た年だったので賄えたが、これが原因で3億〜4億円の赤字になることは許されない、と安藤氏は述べた。

全株売却から「一部残す」への方針転換

譲渡の方式は株式の売却である。島袋氏が「全株売却でもよかったのでは」と踏み込むと、安藤氏は経緯を詳しく語った。

それまで売却は選択肢になかった。買い手が見つからないだろうと考えていたからだ。しかし年末ごろ、財務的に苦しい状況のなかで福島の盛り上がりを見て、自分たちと地域の人々が作り上げてきた現状なら十分な価値があると考え、売却に動くことにした。当初は上場企業の社長として15億円の投資回収を最優先に考え、全株売却を優先順位1位の選択肢に据えていたという。

ところが実際に売却の検討を始め、Bリーグのチェアマンとも話をすると、識学グループがここまで福島を支えてきたことへの深い感謝と、「ここまでやってきたのだから、もっと上の景色も一緒に見ていきましょう」という声をもらった。安藤氏自身も、手放すことを考えると、我が子のように育ててきたチームから完全に離れるのは違うと感じた。

そこで考え方を切り替えた。優先順位1位は「2031年にBプレミアで日本一になれる資本体制をつくる」こと。2位は識学の連結子会社から一旦外すこと。投資回収は二の次とした。この方針で新スポンサーを探し始めたという。

島袋氏は初期から現地に足を運んでいたといい、地方の体育館から始まって観客も少なかった時期(コロナの影響もあった)を経て、行政を巻き込んでアリーナをつくり、チームも強くなったタイミングでの話だったと振り返った。そこで識学が抜けると言えば周囲は驚く、という島袋氏の指摘に、安藤氏はそれほど財務的に苦しかったのは事実だと答えた。グループのトップとして責任を感じていたうえ、ファイヤーボンズの社長を務める西田氏も識学の社員である。グループに大きな財務負担をかけていることに西田氏も耐えられなくなるし、自分も株主に説明できなくなる、という思いがあり、多くの人に相談しながら模索したという。

出資比率の変化と新オーナー

譲渡前の株主構成は、創設時に出資した地域の小口株主が11〜12%程度を持ち、残りを識学が保有していた。今回の譲渡後、識学の持ち分は3割を切る程度となり、新しいスポンサーが60数%を持つ。詳しい数字はIRを見てほしいと安藤氏は述べた。

新オーナーは東京の会社で、その背後にいるのは、アパレルのセレクトショップ「フリークスストア」を全国で数十店舗経営していた鹿島氏である。鹿島氏は5年ほど前に同社を売却して大きな資金を得ており、その資金を文化、スポーツ、音楽などに、投資ではなく寄付という形で投じて恩返ししたいと考えていた。出会いのきっかけは、安藤氏の友人が鹿島氏の知人とゴルフをしていた際、安藤氏側の事情が話題に上り、鹿島氏が関心を持つのではないかとなったことだ。2月ごろに紹介を受けたという。

安藤氏によれば、将来的には識学の持ち分を30%弱からさらに段階的に下げ、20%を切るところまで考えてもよいと思っている。そこで一旦利益を確定させることも選択肢の一つだという。地域の株主の持ち分をどう扱うかも含め、ここから議論していく段階だとした。

経営体制は維持、震災復興という原点

チームの経営体制はそのまま維持される。識学は持分法適用会社として関わり、資金面は鹿島氏側が全面的に支える。一方、人材面では識学所属の人間を4名ほど出向させたまま一緒にやっていく想定だという。

安藤氏は、鹿島氏についてぜひ付け加えたいと語った。福島ファイヤーボンズは東日本大震災後、原発事故の影響で子どもたちが外で運動できず、子どもの肥満率が全国1位になったことを受け、バスケットボールで子どもが運動できる場所をつくろうという経緯から生まれたチームである。震災復興のシンボルとして運営してきた。

鹿島氏も個人として被災地にボランティアに入っていた。安藤氏が本気度を感じたエピソードとして挙げたのが、仮設住宅での取り組みである。支援が充実していく一方で、働く場所や仕事がなく、普段会社で交わされるようなコミュニケーションが取れないという課題があった。そこで鹿島氏は仮設住宅の場所を借り、そこに暮らす主婦の方々にミシンで商品を作ってもらい、それをフリークスストアが買い取って店頭で販売していたという。安藤氏は、この人となら一緒にやれると思ったことが決め手の一つだったと述べた。

マジョリティを手放した感想を問われると、安藤氏は「結構楽になりました」と答えた。年4億円なら月割りで3000万〜4000万円の負担が乗っていたことになる。本業が大きく伸びているならともかく、本業も停滞しているなかで、グループのKPIという意味では非常に楽になったという。

横ばいが続くサブスク型の基本サービス

話は本業に移る。島袋氏が注目したのは、開示されている「プラットフォームサービス」の契約社数と月次売上で、契約社数は約1000社、月額売上は1億7000万〜8000万円程度で推移している。島袋氏は、識学がSaaSのようなサービスだったかと疑問を呈した。

安藤氏によれば、かつては識学の理論を教えるだけだったが、現在は学んだ後も導入支援としてコンサルタントが定期面談を行い、クラウドサービスも提供している。これを「識学基本サービス」と呼び、識学の浸透度を測るスコアを顧客と一緒に高めていくサービスとして続けている。

投資家はこの数字をどう見ればよいかという質問に、安藤氏は伸びるのが一番良いと笑ったうえで、ここ1〜2年はほぼ同じ水準で推移してしまっていると認めた。品質改善を重ねて解約率は下がっているが、新規契約社数が伸び悩んでいるためだという。

では今後SaaS型企業に変わっていくのかというと、安藤氏は基本サービスの社数は伸ばしたいが、それをメインの戦略とは考えていないと述べた。組織コンサル事業はもっと伸ばせるかもしれないが、実際この2〜3年は伸びていない。そのため一旦は伸ばすよりも利益率を上げる方向に向かっているという。

製造業の連続M&Aという第二の柱

利益を確保してもう一方で進めるのが、製造業の連続M&A、いわゆるロールアップである。直近のリリースでは、借入によるデットファイナンスで約5億2000万円を調達したことも開示した。安藤氏はこの分野で技術承継機構などが成長している例を挙げ、後継者不足のなかで日本の大切な製造業の技術を残していくには、単純に後継者を見つけるだけでは限界があり、複数の会社を抱えられる会社がM&Aを重ねていく流れになると見ている。

識学の強みとして安藤氏が挙げたのは二つだ。一つは5000社以上のコンサル経験があり、製造業も数多く見てきたこと。もう一つは、4年前から銀行と組んでファンドをつくり、100%近い株式を保有して企業を再生し、売却する事業をやってきた経験である。単に買収するだけでなく、組織を通じて業績を伸ばせる体制があるので、この事業は自社に合っていると考えている。

PMI(買収後の統合)について、島袋氏はサーチファンドのように外部から社長を探すのかと尋ねたが、安藤氏は否定した。識学のコンサルとして数百社を担当した人材が社長に就く場合もあれば、役員として入る場合もある。若手でも識学の文化の中で育った社員を、現場のマネージャークラスとして派遣するモデルだという。

島袋氏は、提言するコンサルと泥臭い実務を伴う経営は違い、その転換は難しいのではないかと指摘した。安藤氏の答えは、事業戦略には口を出さないというものだった。買収先の人々はその道のプロであり、経営のなかで最も経験が必要で難しい部分には関与しない。識学が担うのは組織改善の責任者としての役割と、親会社としての資金繰りの改善である。上場企業の傘下に入ることで銀行の与信も変わり、ファイナンスも受けやすくなる。

島袋氏が人事本部長のような役割かと問うと、安藤氏はもう少し踏み込むと答えた。社長の右腕のようなポジションで会議に同席し、日報も見る。その業界のプロではなくても、どの数字を管理すべきか、どの数字で会議をすべきかについては5000社のノウハウがあるという。安藤氏は、KPIを運用していると言う会社でも、きちんと設計できていないケースは意外に多いと述べ、島袋氏も自社がそうかもしれないと笑った。

実績と「譲るなら識学に」という手応え

ファンドの実績として、安藤氏は開示済みの1社について、約3億円で買収し売却に至った事例に触れた。いずれも識学が組織に入り込んで改善したもので、現在はさらに2社が動いており、うち1社は組織改善が進んで毎月過去最高の売上を更新しているという。

今年に入ってからは1件の買収を公表しているが、水面下でM&A交渉を重ねるなかで、識学には高い競争力があることが分かったと安藤氏は語る。識学の研修を受けるだけなら面倒だと断られることも多い。しかし自分がつくった会社をきちんと残したいと考えたとき、識学のような会社に譲ったほうがよいと判断する経営者が非常に多いことが分かったという。

島袋氏は、自社の経営理念を刷新したら会社が理念に沿って動き出した感覚があったと話し、仕組みがきちんと設計されていればトップがいなくても社員が迷わずに済む点がM&Aにも通じるのではと述べた。安藤氏も、仕組みの側にどんどん寄せていくイメージだと応じた。

最終合意には至っていないので分からないとしながらも、安藤氏は今期中に、公表済みの1社に加えて2〜3社を買収できそうな進捗だと明かした。

PL経営からBS経営へ

M&Aを本格化させると、これまでPL(損益計算書)中心で事業をしてきた会社が、BS(貸借対照表)で事業をしなければならなくなる。そのとき安藤氏が必要だと考えるのは、キャッシュカウとなる事業がしっかり稼げる状態にすることと、不採算事業を現金に変えておくことだ。これが福島ファイヤーボンズ売却の理由の一つでもあったという。

既存事業については、これまで伸ばすために投資し、人を増やし、広告宣伝費をかけてきた。それを「一定伸ばさなくていい」と意思決定することで利益率を上げる作業に切り替える。キャッシュカウをつくりながら、買収した製造業の会社の利益率も上げ、連続M&Aの件数と規模を拡大していく。これがこの数年の識学グループの中心戦略になると安藤氏は説明した。

時価総額は約77億円で、70億円台で推移している。株主は何を見ればよいかという島袋氏の問いに、安藤氏は「M&Aがうまくいくこと」と答えた。識学は一定の規律を持ってM&Aに臨んでおり、複数の買い手候補が競う場面でも、識学の提示額は最も低いか、少なくとも最も高くはないという。自分たちで決めたルールの範囲内でしか金額を出さず、利益が出ている会社を買うので、高値づかみはしない。M&A時の一時費用はかかるが、連結決算に組み込まれた段階で初年度から利益貢献する会社を選んでおり、業績が横ばいでも積み重なれば利益に効いてくる。そのため、M&Aのリリースが出たタイミングに注目してもらい、買収先の業績がほぼそのまま翌期の決算に乗ると判断してもらってよいと述べた。

採用は抑制、多角化への評価

番組視聴者に向けて採用の話を振られると、安藤氏は現在あまり採用していないと答えた。本当に優秀な人が来れば採るかもしれないが、今はスリム化を進めている段階だという。儲からない、これ以上伸びないと判断した事業からは撤退も進める。組織コンサル事業のメイン部分だけなら粗利がほぼ100%の商売で、売上が3.5億〜4億円ある事業だから普通にやれば大きな利益が出る。しかし事業を多角化してさまざまな挑戦をしてきたため、利益体質の会社になっていなかった。それを利益体質にするのが既存事業側の今の取り組みであり、それが片付いてから採用を再開するつもりだという。

島袋氏は、尊敬する経営者から「事業を多角化するな、集中しろ」と言われた経験を紹介した。安藤氏はそれを「本当にその通り」と認めつつ、多角化の一つだった銀行とのファンドの経験が、今回の第二の柱である製造業の連続M&Aを生んだと指摘し、多角化をすべて否定するわけではないと述べた。島袋氏が、失敗しても致命傷を負わなければよいと応じると、安藤氏は致命傷を負わないよう規律を持って撤退することが大事だと付け加えた。

買収対象となる製造業の条件

最後に、識学グループへの参加に関心を持つ地方の製造業経営者に向けて、対象の目安が語られた。識学は基本的に仲介会社を通じてM&Aを行っている。安藤氏が重視するのは売上規模よりも組織体制だという。利益が出ていても、親方の社長と職人3名のように、幹部が社長1人だけという会社は難しい。複数の幹部がいなければ、識学が組織の面からカバーできない場面が出てくるためだ。売上規模でいえば、現時点では5億〜20億円程度のイメージだという。

島袋氏は、事業を継いだ2代目、3代目の経営者のなかにも、このまま続けられるか、伸ばしていけるか不安を抱える人が多いと話し、そうした製造業の経営者に向けて相談を呼びかけて対談を締めくくった。