混迷するアメリカ社会と広がる虚無感:中間選挙を前にした米国民の本音

YouTubeで開く ↗
概要

アメリカでは政治的な分断や経済的な閉塞感が高まり、国民の間に強い不満と疲弊が広がっている。第2次トランプ政権の動向や中間選挙への関心が集まる一方で、一般市民の間では「右も左も期待できない」という虚無主義(ニヒリズム)が急速に浸透しつつある。

9分で読めます

本記事では、日本在住のアメリカ人であるニック氏とタントリス氏が、司会の岸谷蘭丸氏とともに、米国民が抱く怒りの矛先、トランプ政治への失望、社会保障制度を巡る課題、そして今後の日米関係について語り合った内容を整理する。


4:01

若年層を襲う経済的困窮と「アメリカンドリーム」の終焉

現代のアメリカにおいて、特に30歳以下の若年層が直面している最大の問題は、生活費や住宅価格の高騰である。タントリス氏によれば、ベビーブーマー世代は資産や不動産を所有しており、その資産価値の上昇によって恩恵を受けている。一方で、普通に働いている若者は住宅を購入することすらできず、「これからのアメリカンドリームがまったく見出せない」という強い不満を抱えている。

ニック氏もこの世代間格差を指摘する。1946年から1964年生まれのベビーブーマー世代の時代はアメリカ経済が絶好調であり、2年ほど働けば家を買うことができ、大学にも現在よりはるかに入りやすかった。スタンフォード大学やカリフォルニア大学バークレー校のような難関校であっても、当時は今ほどの過酷な競争はなかったと振り返る。対照的に、現在の20代から30代は親と同居せざるを得ない若者が多く、ニック氏の周囲でも実家暮らしの友人が大半を占めているという。

こうした経済的打撃により、若者の間では外に出ずDiscordで友人と話したり、ゲームに没頭したりして心を閉ざす人が増えている。かつてバイデン政権下で議論されたポリティカル・コレクトネス(ポリコレ)や表現規制への反発よりも、日々の激しいインフレで「生活が成り立たない」という切実な問題が最優先事項になっているとタントリス氏は分析する。

5:29

政治への疲弊が生んだ「虚無主義」

過酷な現実を前に、国民の間では怒りを通り越して「虚無主義(ニヒリズム)」が広がっている。ニック氏は自身も政治に対して無関心になったと明かし、バイデン氏や民主党への不満があったものの、トランプ氏になっても状況は根本的に変わらなかったと語る。政治家が受け取る資金の出所や政策の本質はどちらも大差がなく、期待すること自体に疲れてしまったという。

アメリカ人の約64%が政治家に疲弊しているという調査結果に触れつつ、タントリス氏は「これからのアメリカ人は日本人のようになっていくのではないか」と述べる。かつてのように熱心に政治的議論(ディベート)を交わすのではなく、「政治はもう終わった、その話はもういい」と諦めの境地に至る国民が増えている。

ニック氏も同様に、投票のたびに分厚い冊子を読んで複雑な法案内容を精査する労力をかけるくらいなら、YouTube活動に集中したり子どもの宿題を手伝ったりするほうがよほど有意義だと感じるようになったと明かす。共和党と民主党の違いを見出すことができず、どちらを選んでも変わらないのであれば、最初から投票に行かないという選択をする有権者が増えているのが現状である。

7:37

トランプ政権への失望:「反体制」から「既得権益」への変質

2016年の大統領就任時、ドナルド・トランプ氏は「キャリア政治家ではない」「自前の資金を持つビリオネアだから他国や企業に操られない」というアウトロー的な存在として熱狂を生んだ。ヒラリー・クリントン氏に対しても歯に衣着せぬ発言を浴びせ、労働者階級の代弁者として既成事実を破壊するロックスターのような勢いがあった。

しかし、2024年の再選以降のトランプ氏に対して、タントリス氏やニック氏は「普通のキャリア政治家になってしまった」と失望を口にする。かつてのような切れ味のある発言は影を潜め、SNSの投稿もスタッフが作成したような無難で退屈なものに変わったという。

さらに政策面でも、掲げていた約束が果たされていない点が批判されている。物価の高騰は収まらず、国民全員に5,000ドルを給付するといった非現実的なバラマキ公約を掲げる姿勢は「単なる買収のようでくだらない」と切り捨てられている。

もっとも大きな亀裂を生んでいるのが対外政策、特に中東問題への関与である。トランプ氏は「もう終わりなき戦争(Forever War)は始めない」と主張していたにもかかわらず、イランやイスラエルを巡る情勢に深くコミットしている。アメリカ国内では「トランプはアメリカファーストではなく、イスラエルファーストになってしまった」とみなす保守派が増えており、熱心な親イスラエル派以外の保守層がトランプ支持から離反する原因になっている。著名な国際政治学者ジョン・ミアシャイマー氏の議論を引き合いに出し、巨額の支援資金の使途が不透明なまま対外支援を続ける現体制は、自国の困窮に苦しむ一般国民の理解を得られなくなっている。

また、政財界の暗部を暴くと期待されていた「エプスタイン文書」の全面公開が進まなかったことも、トランプ氏が既存の腐敗した政府システム側に取り込まれたと失望される一因となった。

19:08

崩壊する医療インフラと社会主義への関心

経済的困窮とともに米国民を苦しめているのが、高額すぎる医療制度である。タントリス氏は、日本に来て風邪を引いた際、自己負担が怖くて病院に行くのをためらった経験を語る。アメリカでは無保険者や不十分な保険しかない場合、診察だけで1,000ドル(約15万円)以上の請求を受けるリスクがあり、破産を恐れて救急車すら呼べない人が多い。多くの国民は、タイレノールのような強力な鎮痛剤を大量に服用して耐えるしかない状態に置かれている。

ニック氏も学生時代に高熱で倒れた際、搬送先の病院の看護師から「インフルエンザごときで来るな」と罵倒され、雑な注射によって数年間痛みが残る後遺症を負った体験を明かした。救急車を呼べずに配車アプリのUberを使って自力で病院へ行くといった事態は、日常茶飯事となっている。

この問題の根深さを象徴する出来事として、2024年に大手保険会社のCEOがルイージ・マンジョーネ容疑者に射殺された事件が挙げられた。容疑者を擁護・支持する声が若者を中心に巻き起こった現象について、タントリス氏は「40年前のジミー・カーターとロナルド・レーガンの討論会でも全く同じ医療改革が議論されていた。何十年経っても労働者階級の医療費問題が解決されないため、国民は『日頃の行いが悪かったのだから同情できない』とうんざりしている」と分析する。

こうした状況下で、かつてはタブー視されていた「民主的社会主義(ソーシャル・デモクラシー)」への関心が若者の間で高まっている。しかし、アメリカで皆保険制度のようなインフラが定着しにくい理由について、ニック氏は「日本は同質性が高く互いに支え合う意識を持ちやすいが、人種・宗教・価値観がバラバラなアメリカでは『なぜ自分と何の関係もない他人のためにお金を払わなければならないのか』という反発が勝ってしまう」と指摘する。

タントリス氏もこれに同意し、東洋的な儒教精神(相手を思いやる文化)とは対照的に、アメリカは弱肉強食の文化であると語る。1950年代の冷戦期に「ソ連のような共産主義になってはならない」と徹底的に刷り込まれた結果、国民を救うための基礎的な社会インフラの整備ですら「社会主義への傾倒」として拒絶される、極端な個人主義が形成されてしまったと指摘する。

25:23

極端な個人主義の限界と、富裕層優遇のシステム

議論は、アメリカ社会が内包する「勝者と敗者(ウィナーとルーザー)」を分断する教育・社会構造へと及んだ。少数のイノベーター(スティーブ・ジョブズやイーロン・マスクのような存在)を生み出すために、大多数の脱落者を容認する競争システムについて、タントリス氏は「アメリカンドリームは富裕層が権力を維持するための蜃気楼にすぎない」と断言する。

現実には、上位1%から10%の富裕層が親からの遺産相続やコネクション(親がハーバード卒なら子も入りやすい仕組みなど)を通じて利益を独占している。労働者階級は「努力すれば報われる」と信じ込まされているが、インフレ下では株式や不動産などの資産に投資できる人間だけが勝ち組になり、普通の給与労働を続ける者は取り残される仕組みになっている。

トランプ氏がこの構造にメスを入れることはできず、支持率も低迷している。国家としての経済力や国際的影響力が低下した結果、政権が打てる有効な手立てはほとんど残されていない。

31:32

混迷のアメリカから距離を置く選択と、日本の自立

将来への希望が見出せない中で、一般の人々はどう生きるべきなのか。タントリス氏は「自分は遠くから笑いながら客観的に見つめる」と述べ、国家への過度な帰属意識を手放す姿勢を示した。ニック氏の弟は、社会に絶望した末にモンタナ州の僻地に農場を開き、動物を育てながら地域住民と物々交換で暮らす生活を選び、以前よりもはるかに幸福そうに暮らしているという。

また、AI技術の急速な進展についても懸念が示された。学校現場では課題を生成AIに任せる生徒が急増し、既存の教育システムが機能不全に陥りつつある。バーニー・サンダース上院議員やテック企業の首脳陣がAIの発展ペースを落とすべきだと警鐘を鳴らすものの、開発を止めれば中国に覇権を奪われるというチキンレース状態にあり、歯止めは利かない。

こうしたアメリカの内情を踏まえ、ニック氏は日本に対する提言を残している。自身が日本国籍を取得していない立場であることを前置きした上で、「アメリカの国益と日本の国益は決して同一ではない。アメリカは国内の分断が進み、極めて不安定な国家になっているため、日本がこの先もアメリカに依存し続けるのは危険である。日本は自前の防衛力を強化し、他国に頼らず自立する道を真剣に考えるべきだ」と語った。

12:24

中間選挙の展望:下院の民主党奪還と政権の更なる停滞

動画の締めくくりとして、近づく中間選挙の行方が予想された。

タントリス氏とニック氏の見立てでは、上院については共和党が有利な選挙区が多いため多数派を維持する可能性が高い。しかし、下院については民主党が過半数を奪還する公算が大きいとみている。

下院を民主党が握った場合、トランプ大統領に対する弾劾手続きの開始や、政権が進める法案の徹底的な阻止が可能になる。実際に大統領を辞任に追い込むことは困難であるとしても、政権運営は極めて煩雑になり、トランプ政権の政策実行力はさらに麻痺することになる。

アメリカ社会が右と左の極端な対立を深め、国民の多くが無力感に苛まれる中で行われる中間選挙は、根本的な問題の解決をもたらすのではなく、さらなる政治の機能不全と社会の混迷を浮き彫りにする通過点にすぎないという見解で議論は結ばれた。