9月の米中会談で見落とされている論点:中国が狙う「原則」とアメリカが得た実利
PIVOT 公式チャンネル2026年9月の米中首脳会談について、防衛省防衛研究所上席研究官の高橋杉雄氏がPIVOTで解説した。報道では「米中は第二次世界大戦の同盟国だった」という文言が注目を集めた。高橋氏はこの会談を二つの面から読む。一つは、中国が「建設的戦略的安定性」というキャッチフレーズで米中関係の土台となる原則を固めようとしている点である。もう一つは、ホワイトハウスの発表を見るとアメリカ側もかなりの実利を得ている点である。
ウクライナは「副業」、本来の専門は米軍と現代戦
高橋氏はロシアのウクライナ侵攻以降、テレビでの戦況解説で広く知られるようになった。ただ本人によれば、ウクライナは「どちらかというと副業に近い」という。本来の専門は戦略論で、軍事力を分析している。軍事力を見るには米軍を見る必要があり、米軍の戦争を追ううちに現代戦全般を扱うようになった。その流れでウクライナについてコメントを求められた、という経緯である。
アメリカを見ていれば対中戦略も避けて通れない。戦略を考えるには軍事だけでなく政治も必要になるため、ブッシュ政権の後半ごろから米中関係を継続して追ってきたという。高橋氏は、ウクライナよりも米軍やイランの話のほうが自分としては話しやすいとも述べた。
会談の頻度は「関係が良い」ことを意味しない
今回の会談は5月の会談から4か月ぶりで、間隔の短さが目立つ。高橋氏はこれを関係良好の表れとは見ない。むしろ、リーダー同士で話さなければ物事が進まない状態の裏返しだという。
習近平は共産党という強固な組織の上に立つリーダーだが、トップダウンの性格が強い。トランプは文字通りトップダウンの人物である。そのため実務レベルで交渉を進めても、上の意向を仰がなければ決められない事項がおそらく非常に多い。だから機会があれば首脳同士で会ってもらおう、という判断になっているのではないか、と高橋氏は推測する。
トップ同士で決めることのリスク
トップ同士で決めることのリスクとして、高橋氏は二点を挙げた。
一つ目は手続きの問題である。首脳会談は通常、実務レベルで積み上げてきたものに最後にリーダーが署名する場である。しかし積み上げとは無関係に首脳が合意してしまうと、巨大な官僚組織を抱える国では「上でこんなことになってしまったのか」という事態が起こりうる。
二つ目はトランプ政権特有の問題である。トランプは自らを取引のプロ、ディールメーカーだと考えており、実際にそれでうまくいっている面もある。一方で、本来は別々のテーブルで議論する経済と安全保障を一つのテーブルに載せる傾向がある。高橋氏は、まだ確認されていないという前提を付けたうえで、経済・貿易と台湾を取引するのではないかという懸念がずっと存在していると指摘した。聞き手は、本来なら経済・貿易の専門家と防衛の専門家がそれぞれ政策を積み上げていくはずだと応じた。
具体的成果はまだないが、中国は欲しいものを取りにきている
今回の会談の評価について、高橋氏はもう少し待つ必要があるとした。通商関係の詳細がまだ出ていないためで、現時点では具体的な成果はないという。
ただし、中国側には取りたかったものがあった。それが「建設的戦略的安定性」という言葉である。この言葉は5月の会談の際にも出ていた。
高橋氏によれば、中国はアメリカなど大国との関係をキャッチフレーズで定めようとする。これは空虚なスローガンではない。日本人の感覚では、個別の論点は各論として詰め、キャッチフレーズはマーケティングのように流行りそうな言葉を選ぶものだと考えがちである。中国の場合は逆で、キャッチフレーズが示す原則がまず土台にある。台湾、通商、AIといった個別テーマは、その土台の上に浮かぶ各論にすぎない。土台で全体の方向を決めてから各論を決める、というやり方をとるという。
高橋氏はこの発想を、中国在住の人から聞いた話で説明した。アパートを借りていて、契約書に書かれていない修理を頼みたくなったとする。そのとき「これは貸主と借主の関係なのだから、それは大家さんの役目でしょう」と原則から主張すると、「分かった、やるよ」となるのだという。高橋氏は、大きな概念を重視するのは中国人の行動パターンなのかもしれないと述べ、中国はこの種の原則をアメリカとの間で決めたかったのだと説明した。
「建設的戦略的安定性」の中身と勢力圏の問題
中国が決めたいことを高橋氏は「すごくざっくり言えば」と断ったうえで説明した。中国の勢力圏にアメリカが手を出さない、ということである。中国は過去10年ほど、手を変え品を変えてこれを追求してきた。建設的戦略的安定性はその最新版だという。
アメリカがこれに同意したという証拠は、アメリカ側からは出ていない。一方で中国側は、互いの核心的利益を尊重すること、互いのやろうとしていることを尊重することについて合意した、と発信している。高橋氏は、この言葉がかなり既成事実化しつつあると見る。
意味をざっくり訳せば、アメリカの勢力圏でアメリカがすることは中国は邪魔しない、中国の勢力圏で中国がすることはアメリカも邪魔しないでほしい、ということになる。そうなると次に問題になるのは、どこが勢力圏なのかである。中国は当然、台湾を自国の勢力圏と考えている。アメリカは少なくともさまざまな文書で、第一列島線、つまり台湾・日本・フィリピンまでは譲らないとしている。どこで線を引くかについてはまったく一致しておらず、アメリカ側に譲る気もない、と高橋氏は述べた。
アメリカが加えた「公平性」と「互恵性」
それでもアメリカは、建設的戦略的安定性というラベルそのものは否定していない。存在は認めたうえで、そこに公平性(原文ではフェアネス)と互恵性(原文ではレシプロシティ、相互性)を入れることを強調した。
トランプ政権がレシプロシティと言う場合、その意味は貿易赤字を減らせということだと高橋氏は説明する。アメリカは現在の貿易関係を自国に不利だと考えている。それを公平な形、アメリカにとって有利な形に戻すという意図でこの言葉を入れた、と見ているのが現状だという。
ところが中国側の発表では、アメリカの主張を取り込んだ形で「平等・尊重・互恵」が建設的戦略的安定性の中に位置づけられている。平等とは対等に交渉すること、尊重とは相手の利益や法制度を踏まえること、互恵とは双方の利益になることだと説明されている。高橋氏の見方では、中国はアメリカの原則を取り込みつつ、自分がずっと主張してきた形に換骨奪胎し、自国に有利な形で発信している。
「第二次世界大戦の同盟国」はどう使われうるか
この構図の中で、今話題になっている「アメリカと中国は第二次世界大戦のとき同盟国だった」という文言も読むべきだと高橋氏は言う。まず相手の利益を尊重し、双方の利益になることをしようという原則が先に決まっている。その原則からすれば、日本の軍国主義は中国の利益に反するのだから、アメリカはその中国の利益を尊重するはずだ、という言説が少なくともロジックとしては使えるようになる。
だから各論だけを見てはいけない。全体の土台がどうセットされているかがポイントだ、と高橋氏は強調した。聞き手はこれを、中国発のフレーズにアメリカがトッピングを加え、それを中国が自国流にさらに解釈し直した構図だと整理した。
日本は中国の土俵に乗らず、フレームを変える
日本にとっての意味について、高橋氏はまず、中国の土俵に乗るのはあまり好ましくないと述べた。実は日中の間にもキャッチフレーズがある。安倍政権のときに打ち出された「戦略的互恵関係」である。これは中国の成長が日本にとっても利益になりうることを認めた言葉で、当時中国は非常に歓迎したという。つまり日本は日本で、すでに使える言葉を持っている。ただ中国は自分に都合よく解釈していくので、その解釈に負けないことが大事だと高橋氏は言う。
そのうえで、現状ではとにかくアメリカとの関係が重要だとした。「米中は同盟国だった」という文言には、当時の中国は中華民国だろうという指摘が出ている。これについて高橋氏は「私の考えですが」と前置きしたうえで、そのツッコミにあまり意味はないと述べた。共産党も日本と戦っていなかったわけではないし、その文句は基本的に台湾が言うべきことで、日本がどうこう言うことではないという理由からである。
日本がすべきなのは、かつて手ごわい敵だった相手が今は現状の国際秩序を守るために手を取り合っている、かつての最強の敵が最強の味方になった、というストーリーで枠組みを変えていくことだと高橋氏は主張する。ヘグセス国防長官が日本を訪れた際にも、まさにかつての敵が今は頼れる味方になっていると語っていた。高橋氏は、そういう形でフレームを変えていくことが今の日本に必要だと述べた。
日中関係は短期的には動かしにくい
では日中関係はどうするべきか。高橋氏によれば、中国の安全保障戦略上の最大の課題は日本ではなく台湾である。中国にとって今必要なのは、台湾を孤立させ、台湾有事になった際の勝算を少しでも高めることだ。そのためには日米同盟が弱体化されなければならない。中国はそのためにさまざまな手を打っていると考えるべきであり、短期的に日本の側から日中関係を動かせる可能性はあまりない、と高橋氏は見る。
今後、日中の首脳が顔を合わせる場面での対応についても触れた。そのときは日本がすでに持っている「戦略的互恵関係」の話に切り替えればよいという。両国は戦略的互恵関係にあるのだから今の平和な東アジアは大事だろう、この平和を守りながら互恵関係を築いていこう、と議論を未来志向に変えていく。それが日本のとるべきナラティブ戦略だと高橋氏は述べた。
見落とされがちな点:アメリカは「取るものを取っている」
会談から数日がたち各メディアで振り返りが出ているが、あまり論じられていない重要な点はあるか。聞き手のこの問いに、高橋氏はホワイトハウスのファクトシートを挙げた。これを見るとアメリカ側が相当取るものを取っているという。
もちろん、自分はこれだけ勝ち取ったと示すために書いている面はあると高橋氏も認める。それでも、フェンタニルなど薬物をめぐる合意や、中国がアメリカ産の石炭を購入する合意など、トランプ政権にとって経済的に有利な項目が並んでいる。これだけを素直に見れば、アメリカのほうが有利な合意を取ったようにも見える。逆に言えば、実利をそこで取っているので、昔の同盟関係に触れるくらいは構わないとアメリカ側が考えた可能性もある、と高橋氏は推測した。
さらにファクトシートでは、米中がかつて同盟国だったという記述の次に、アメリカの前方展開戦力は戦後一貫してアジアの平和と安定を保ってきた、という一節が続いている。これは中国が一貫して反対してきた主張である。中国は、前方展開は冷戦の名残であり米軍は減らすべきだ、なくなるべきだと言ってきた。その主張と正反対の記述をわざわざ同盟の文言と並べて書いているところに、高橋氏はアメリカもかなり気を使いながら情報戦をしていると見る。
関心が第二次世界大戦の同盟国の部分に集中しすぎているので、もう少し広く目を配ってバランスシートを評価する必要がある、と高橋氏は述べた。トランプ自身は、一対一の勝負では勝ったと思っているかもしれないという。
年内の日程と今後の焦点
今後はAPECやG20など、年末にかけて首脳が顔を合わせる機会が続く。高橋氏によれば、北京での会談から4か月後にワシントンで会談したように、相互訪問を4か月以内に行うのは30年ぶりである。1年に3回の首脳会談は、多国間の場を含めれば10年ほど前にも例があるが、4回となるとやはり珍しい。
これは先に述べたとおり、リーダー同士で決めなければならないことが増えているため会い続ける必要がある、ということだと高橋氏は説明する。加えて、世界の二大国が多国間会議で同じ場にいながら会わないのはかえって不自然なので、会わざるをえない面もあるという。
今後の焦点として高橋氏は二つを挙げた。一つは建設的戦略的安定性の中身である。両国は大枠では合意したが各論では合意していない。中国が一方的に発信している解釈に対して、アメリカがどうカウンターしていくかが一つのポイントになる。もう一つは経済関係である。通商の休戦協定は結局2か月の延長にとどまり、年明けにはすぐ期限が来る。それをどう扱うかが大きな論点になるだろう、と高橋氏は述べた。
皆さん、こんにちは。PIVOTの小手森です。今回は米中会談の振り返りを、高橋さんをゲストに見ていきたいと思います。よろしくお願いいたします。
よろしくお願いします。
高橋先生、PIVOTに出ていただくのは初めてなんですけど、結構テレビとかでウクライナ侵攻の時にお見かけしたイメージがあるんですが、実は米中にも詳しいってことなんですか?
実はというか、私、元々ウクライナはどちらかというと副業に近くて。
そうなんですね。失礼しました。
はい。元々の専門は抑止論で軍事力を見ていて、軍事力を見ると米軍を見なきゃいけなくなるので、米軍の戦争を見てるうちに現代戦全般を見ていて、その現代戦の中でウクライナについてコメントを求められて、ウクライナの話をしていたんです。
なるほど。その中では、じゃあこのアメリカの対中戦略みたいなのも。
そうですね。ですからアメリカを見ると当然、対中戦略というのが必要になりますし、そうなってくると軍事だけじゃなくて政治も必要になってくるので、それこそオバマ政権というか、ブッシュ政権の後半ぐらいからずっとウォッチはしていたので、むしろその、そうなってるんですけど、ウクライナよりも米軍の方が私は話はしやすいんですよね。イランなんかもそうなんですけど。
なるほど。その上で、現在のこの米中関係をどう見るか、とりわけ今回のこの9月の米中会談をどう見るかなんですけど、そもそも5月から4か月ぶりの開催ってことで、この間もすごい短いじゃないですか。これだけ頻繁に会ってるっていうのは、関係がいいってことなんですか?
頻繁に会ってるっていうのは、特に米中の関係で言えば、リーダー同士で話さないと進められない状態になってるってことの裏返しなんだと、むしろ思いますね。
逆に。
ええ。習近平は共産党という非常に強固な組織の上に立ってるリーダーですけども、非常にトップダウンが強いと。トランプは文字通りトップダウンの人ですから、実務で進めていても結局、上の意向を仰がないと進められないことは多分ものすごく多くて。だったらもう機会を捉えて会ってもらおうっていうことになってるんじゃないかと思いますね。
ある意味、もちろんトップダウンだから決まることもあると思うんですけど、それによる、トップ同士で決めることによるリスクみたいなのってあるんですか?
はい、ありますね。やっぱり普通、首脳会談っていうのは、積み上げてきたものを最後にリーダーがサインするっていうことが普通なんですけれども、積み上げたものと無関係に上が合意しちゃうことが、ある種のリスクとしてはあって。そうなると、国ってものすごく大きな官僚組織ですから、「上でこんなになっちゃったの?」っていうことは起こるかもしれないっていうことは1つありますし。
あともう1つは、特にこのトランプ大統領の特徴はディールメーカー、自分は取引のプロだと思っているわけで、実際それでうまくいってることもあるわけですけど、例えば経済と安全保障、普通は別のテーブルで議論することを1つのテーブルに載せて。だから、すごく心配されてるのは、まだ確認されてないという前提ですけど、経済、貿易と台湾を取引するんかっていうのは、大きな心配としてはずっとあるってことですかね。
本来だったら経済の専門家、貿易の専門家が積み上げていく政策があって、防衛の専門家が積み上げていく政策があるわけですもんね。
はい。
なるほど。その上で、今回のこの9月の会談はどう振り返りますか?
難しいなと思っているのは、まだ多分もう少し評価を待つ必要があると思うんです。通商関係の詳細がまだ出てきてないのであれなんですけれども、現状で言えば具体的な成果はまだないです。具体的な成果はないんですけど、中国側が自分たちが取りたかったものがあるんです。それが建設的戦略的安定性といったり。
なんか聞きますね。それ、5月の時もそういうキーワード出てますね。
そうですね。中国というのは、アメリカとか大国との関係をキャッチフレーズで決めようとするんですよ。
キャッチフレーズを作りたがる。
作りたがるんです。これ、ただの空虚なキャッチフレーズじゃなくて、そのキャッチフレーズの精神に基づいて各論を決めていこう。日本人だと各論は各論で詰めていって、キャッチフレーズはマーケティング、流行りそうな言葉を選んだりするじゃないですか。そうじゃなくて、もうそのキャッチフレーズの原則が土台としてあって、例えば台湾とか通商とかAIとか、それはその土台に浮かんでる各論でしかなくて。その土台がどう、全体を決めた上で各論を決めていくっていうやり方を取るんですよね。
面白いですね。
ええ。これ、中国に住んでる人から聞いたんですけど、例えばアパートを借りてる時に、その契約に書いてないけど、ちょっと修理してもらいたいこととかがあった時に、契約に書いてないんですけど、「いや、だってこれは貸主と店子の関係なんだから、それは大家さんがやることでしょ」というふうに原則から行くと、「分かった、分かった、やるよ」みたいな感じになるそうで。
なるほど。その大きな概念っていうのが大事なんですね。
はい。だから結構、意外と中国人の行動パターンなのかもしれないんですけど、それを決めたかった。
へえ。アメリカとの間で。
はい。特に決めたいのは、中国は自分の勢力圏にアメリカが手を出さない、すごくざっくり言っちゃうとね、ってことを決めたいんですよ。これ、過去10年ぐらいずっと手を変え品を変えやってきていて、今言ってる建設的戦略的安定性というのは最新バージョン。
ちょっと言葉で聞いても分かりづらいんですけどね。
ええ。それをアメリカが同意したというエビデンスは、アメリカからは出てないんですけど、中国側が、自分たちの核心的利益を尊重するとか、お互いの利益を尊重するとか、やろうとしてることを尊重するとか、そういうことについて合意してるんだっていうふうに、中国側から今、情報発信してるんで、そこがかなり既成事実になってきているということは1つあるのかなと思いますね。
ちょっとこの字面だけ見て分かりづらい、この建設的戦略的安定性とか、これはじゃあざっくり訳すると、「中国のやることを邪魔しないで」みたいな感じですか?
はい。そうですね。ざっくり言うとそうです。だから、アメリカの勢力圏でアメリカがやることは邪魔しません。中国の勢力圏で中国がすることは邪魔しないでください。次の問題は、じゃあどこが勢力圏なんですかっていう話になるんですけど、中国は当然、台湾は自分の勢力圏だと思っていると。アメリカは少なくともいろんな文書では第一列島線、つまり台湾、日本、フィリピンまでは譲らないと言っているので、どこで譲らないかってことについては全く一致がされてなくて、そこについて譲る気は米側にもないということではあります。
ただ、なんとなく建設的戦略的安定関係、安定性も、別にアメリカは否定してないわけです。
してないです。そのラベルとしてあることは認めていて、アメリカが強調したのは、この建設的戦略的安定性に公平性と互恵性を入れようと。公平、原文ではフェアネスですね。互恵性は原文ではレシプロシティ、相互性ですね。トランプ政権がレシプロシティっていう時というのは、貿易赤字を減らせよっていう意味なので、はっきり言えば貿易関係がアメリカにとって不利だと思ってますから、それを元に戻すんだと。アメリカ有利というか、公平な形にするんだっていうことをアメリカは入れたというように考えているっていうのが現状。
中国側から出たリリースでは、平等、尊重、互恵っていうのが、アメリカの主張を入れた形で、その建設的戦略的安定性の中に入ってきていて。例えば、平等っていうのは対等に交渉することだとか、尊重というのは相手の利益や法制度を踏まえることだとか、互恵というのは双方の利益になることだとか。基本的に中国がずっと言っている形でアメリカの原則を取り込んだというか、換骨奪胎して自分に有利な形で発信をしてきていると。
これ、例えば今ちょっと話題になってる、アメリカと中国は第二次世界大戦の時に同盟国だったという言葉が入ってるというのがあるわけですけれども。この辺り、例えば双方の利益になるようなことをちゃんとやりましょうという原則をまず決めているので、この原則から言えば、当然、日本の軍国主義というのは中国の利益に反するんだから、中国の利益に反することはアメリカは尊重するよねっていうような言説で、少なくともロジックとしては使えるようになってくるということなんです。だからこれ、本当に各論だけ見ちゃ駄目で、その全体の土台がどうセットされてるかっていうところがポイントになります。
元々は中国から出てきたフレーズ。それに対してアメリカからのトッピングみたいなのが来て、それをでも中国流にまたさらに解釈して。これはじゃあ日本にとって何を意味するんですか?
日本にとってということで言うと、この中国の土俵に乗るのはあまり得策ではない。実は日中の間にもキャッチフレーズってあるんですよ。
それ、戦略的互恵関係って言って、安倍政権の時に、これはウィンウィン関係になりましょうっていうことで、やっぱりこれも中国の成長はアメリカ、日本にとっても利益になることがあるんだっていうことを認めてるんですよ。だから当時、中国は非常に歓迎したんですけれども、そういう意味で僕らは僕らであるんですよ。ただ結局、中国は中国側で自分に都合のいいように解釈していくので、そこの解釈に負けないことが大事なんですが、今の感じで言うと、とにかくアメリカとの関係が重要であると。
アメリカとの関係で言うと、これは私の考えですけれども、アメリカと中国は昔、同盟国だった。「いや、でもその時の中国って中華民国でしょ」っていうツッコミをされてるわけですけど、私はそこのツッコミにあまり意味があると思ってなくて。別に共産党と戦ってなかったわけじゃないですし。あと、その文句は基本的には台湾が言うべきことであって、僕らがどうこう言うべきではないと。
むしろ僕たちで言えば、アメリカとの関係は、かつての手強い敵だった相手が今は現状の国際秩序を守るために手を取り合って協力してるんだっていう、かつての最強の敵が最強の味方になってるんだっていうストーリーで枠を変えていくべきで。ヘグセス国防長官が硫黄島に来た時は、まさに、かつての敵が今、頼りになる味方になってると言っているので、そういう形でフレームを変えていくことが今、僕たちには必要かなと思いますね。
なるほど。その日米の関係として訴えていくべき姿がそれだとしたら、日中はどうしていくべきなんですかね?
今の中国から見た安全保障戦略上の最大の課題は、日本じゃなくて台湾なわけですよ。台湾を孤立させることで、台湾有事になった時に勝算を少しでも上げていくことというのが、中国の今、必要なことで。そのためには日米同盟が弱体化されなければいけない。そのためにいろんなことをやってきていると考えるべきなので、短期的に見て今、日本の方から日中関係を動かせる可能性っていうのは、あまりないんだと思いますね。
なるほど。でもこの先、多分、日中の首脳とかが顔を合わせる場面みたいなのはありましたよね。そこではどういう動きになってくる。
その時は僕らがすでに持っているキャッチフレーズである、戦略的互恵関係に帰ればいいんです。要するに、我々は戦略的互恵関係にあるんだから、今の平和な東アジアは大事でしょ。今の平和な東アジアを守りながらウィンウィン関係を作っていきましょうっていうふうに、その議論をとにかく未来志向に変えていくっていうのが、僕たちの取るべきナラティブ戦のやり方だと思いますね。
なるほど。非常にクリアになりました。ありがとうございます。結構、この米中会談が先週終わって数日たって、振り返りみたいなのってテレビとか新聞とか、いろんなところでも出てると思うんですけど、あまりまだ論じられてないなみたいな、意外と注目されてないけど大事みたいな点って何かありますか?
ホワイトハウスのファクトシートを見た時に、米側が相当、取るもの取ってるんですよね。
へえ。
情報とそういうことありますけど。もちろん、自分はこれだけ勝ち取ったんだってことを言うためにいろいろと出てるんだと思うんですけど、例えばフェンタニル、薬物についてのいろんな合意でありますとか、アメリカの石炭を中国が買うという合意でありますとか。全体で見た時に、アメリカが、あるいはトランプ政権にとって経済的に有利になるようなものが並んでいるので、あれだけ素で見ると、これ結構アメリカの方が有利な合意を取ったんじゃないかというようには見えると。
逆に言えば、そこで取ってるんで、昔の歴史について同盟関係だったっていうのはいいんじゃないっていうように思った可能性もあるし。さらにもう1つ、ホワイトハウスのファクトシートの、中国とアメリカは昔同盟だったっていう次に、アメリカの前方展開戦力は戦後ずっと、アメリカのためにアジアの平和と安定を保ってきたっていう一節があって、これは中国がもう一貫して反対してることなんです。反対してるし、これはもう冷戦の名残だから、米軍は減らすべきだ、なくなるべきだと言ってきているので、それをわざわざつなげて書いているということは。
確かに、にらまれる側ですもんね、自分からしたら。
はい。だからそこは、アメリカも相当気を使いながら情報戦をやってきてるなと。だからその辺り、若干、第二次世界大戦の同盟国のところにフォーカスが行っちゃっていて、もうちょっと広く目を配った上でバランスシートを評価する必要があるかなと思いますね。
じゃあ、意外と取るところ取ってるってところは注目した方が。
そうですね。だからそこは、トランプ自身としては、自分は1対1の勝負では勝ったんだと、もしかしたら思ってるかもしれないですね。
なるほど。この先のAPECだったりG20だったり、また機会がありますけど、この年末にかけての日程っていうのはどう見てますか?
北京でやって4か月後にワシントンでやったって、これ相互訪問型で4か月以内にやったって、30年ぶりなんですよね。
すごいですね。
ええ。1年間に3回っていうのは、多国間の場を入れると10年ぐらい前にあるんですけど、4回となるとやっぱりそれもまた珍しいと。これはある意味で言うと、やはり先ほど申し上げたように、リーダー同士で決めなきゃいけないことがすごく増えているから会い続けなきゃいけない。あと、実際、世界の2大国が多国間会議でその場にいるのに、会わないことっていうのは逆に不自然ではあるので、その意味で会わなきゃいけない部分はあるんだとは思うんですけど。
今まだ両国の間で、大枠は合意しています、各論で合意していませんっていうところに、もう1回戻りますけど、建設的戦略的安定性の中身があるので。その中身、中国が一方的に発信したことに対してアメリカがどうカウンターしていくのかということが1つポイントになりますし。あと経済関係、例えば例の通商の休戦協定が結局2か月延長ということで、またすぐ年明けには期限が来ますから、それをどうするかっていうのが多分、大きくなってくるんですかね。
ありがとうございます。なかなかこの外交の用語って字面だけ見てても分からないところを、うまく翻訳してくださって、大変になりました。ありがとうございました。
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