9月の米中会談で見落とされている論点:中国が狙う「原則」とアメリカが得た実利

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概要

2026年9月の米中首脳会談について、防衛省防衛研究所上席研究官の高橋杉雄氏がPIVOTで解説した。報道では「米中は第二次世界大戦の同盟国だった」という文言が注目を集めた。高橋氏はこの会談を二つの面から読む。一つは、中国が「建設的戦略的安定性」というキャッチフレーズで米中関係の土台となる原則を固めようとしている点である。もう一つは、ホワイトハウスの発表を見るとアメリカ側もかなりの実利を得ている点である。

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ウクライナは「副業」、本来の専門は米軍と現代戦

高橋氏はロシアのウクライナ侵攻以降、テレビでの戦況解説で広く知られるようになった。ただ本人によれば、ウクライナは「どちらかというと副業に近い」という。本来の専門は戦略論で、軍事力を分析している。軍事力を見るには米軍を見る必要があり、米軍の戦争を追ううちに現代戦全般を扱うようになった。その流れでウクライナについてコメントを求められた、という経緯である。

アメリカを見ていれば対中戦略も避けて通れない。戦略を考えるには軍事だけでなく政治も必要になるため、ブッシュ政権の後半ごろから米中関係を継続して追ってきたという。高橋氏は、ウクライナよりも米軍やイランの話のほうが自分としては話しやすいとも述べた。

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会談の頻度は「関係が良い」ことを意味しない

今回の会談は5月の会談から4か月ぶりで、間隔の短さが目立つ。高橋氏はこれを関係良好の表れとは見ない。むしろ、リーダー同士で話さなければ物事が進まない状態の裏返しだという。

習近平は共産党という強固な組織の上に立つリーダーだが、トップダウンの性格が強い。トランプは文字通りトップダウンの人物である。そのため実務レベルで交渉を進めても、上の意向を仰がなければ決められない事項がおそらく非常に多い。だから機会があれば首脳同士で会ってもらおう、という判断になっているのではないか、と高橋氏は推測する。

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トップ同士で決めることのリスク

トップ同士で決めることのリスクとして、高橋氏は二点を挙げた。

一つ目は手続きの問題である。首脳会談は通常、実務レベルで積み上げてきたものに最後にリーダーが署名する場である。しかし積み上げとは無関係に首脳が合意してしまうと、巨大な官僚組織を抱える国では「上でこんなことになってしまったのか」という事態が起こりうる。

二つ目はトランプ政権特有の問題である。トランプは自らを取引のプロ、ディールメーカーだと考えており、実際にそれでうまくいっている面もある。一方で、本来は別々のテーブルで議論する経済と安全保障を一つのテーブルに載せる傾向がある。高橋氏は、まだ確認されていないという前提を付けたうえで、経済・貿易と台湾を取引するのではないかという懸念がずっと存在していると指摘した。聞き手は、本来なら経済・貿易の専門家と防衛の専門家がそれぞれ政策を積み上げていくはずだと応じた。

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具体的成果はまだないが、中国は欲しいものを取りにきている

今回の会談の評価について、高橋氏はもう少し待つ必要があるとした。通商関係の詳細がまだ出ていないためで、現時点では具体的な成果はないという。

ただし、中国側には取りたかったものがあった。それが「建設的戦略的安定性」という言葉である。この言葉は5月の会談の際にも出ていた。

高橋氏によれば、中国はアメリカなど大国との関係をキャッチフレーズで定めようとする。これは空虚なスローガンではない。日本人の感覚では、個別の論点は各論として詰め、キャッチフレーズはマーケティングのように流行りそうな言葉を選ぶものだと考えがちである。中国の場合は逆で、キャッチフレーズが示す原則がまず土台にある。台湾、通商、AIといった個別テーマは、その土台の上に浮かぶ各論にすぎない。土台で全体の方向を決めてから各論を決める、というやり方をとるという。

高橋氏はこの発想を、中国在住の人から聞いた話で説明した。アパートを借りていて、契約書に書かれていない修理を頼みたくなったとする。そのとき「これは貸主と借主の関係なのだから、それは大家さんの役目でしょう」と原則から主張すると、「分かった、やるよ」となるのだという。高橋氏は、大きな概念を重視するのは中国人の行動パターンなのかもしれないと述べ、中国はこの種の原則をアメリカとの間で決めたかったのだと説明した。

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「建設的戦略的安定性」の中身と勢力圏の問題

中国が決めたいことを高橋氏は「すごくざっくり言えば」と断ったうえで説明した。中国の勢力圏にアメリカが手を出さない、ということである。中国は過去10年ほど、手を変え品を変えてこれを追求してきた。建設的戦略的安定性はその最新版だという。

アメリカがこれに同意したという証拠は、アメリカ側からは出ていない。一方で中国側は、互いの核心的利益を尊重すること、互いのやろうとしていることを尊重することについて合意した、と発信している。高橋氏は、この言葉がかなり既成事実化しつつあると見る。

意味をざっくり訳せば、アメリカの勢力圏でアメリカがすることは中国は邪魔しない、中国の勢力圏で中国がすることはアメリカも邪魔しないでほしい、ということになる。そうなると次に問題になるのは、どこが勢力圏なのかである。中国は当然、台湾を自国の勢力圏と考えている。アメリカは少なくともさまざまな文書で、第一列島線、つまり台湾・日本・フィリピンまでは譲らないとしている。どこで線を引くかについてはまったく一致しておらず、アメリカ側に譲る気もない、と高橋氏は述べた。

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アメリカが加えた「公平性」と「互恵性」

それでもアメリカは、建設的戦略的安定性というラベルそのものは否定していない。存在は認めたうえで、そこに公平性(原文ではフェアネス)と互恵性(原文ではレシプロシティ、相互性)を入れることを強調した。

トランプ政権がレシプロシティと言う場合、その意味は貿易赤字を減らせということだと高橋氏は説明する。アメリカは現在の貿易関係を自国に不利だと考えている。それを公平な形、アメリカにとって有利な形に戻すという意図でこの言葉を入れた、と見ているのが現状だという。

ところが中国側の発表では、アメリカの主張を取り込んだ形で「平等・尊重・互恵」が建設的戦略的安定性の中に位置づけられている。平等とは対等に交渉すること、尊重とは相手の利益や法制度を踏まえること、互恵とは双方の利益になることだと説明されている。高橋氏の見方では、中国はアメリカの原則を取り込みつつ、自分がずっと主張してきた形に換骨奪胎し、自国に有利な形で発信している。

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「第二次世界大戦の同盟国」はどう使われうるか

この構図の中で、今話題になっている「アメリカと中国は第二次世界大戦のとき同盟国だった」という文言も読むべきだと高橋氏は言う。まず相手の利益を尊重し、双方の利益になることをしようという原則が先に決まっている。その原則からすれば、日本の軍国主義は中国の利益に反するのだから、アメリカはその中国の利益を尊重するはずだ、という言説が少なくともロジックとしては使えるようになる。

だから各論だけを見てはいけない。全体の土台がどうセットされているかがポイントだ、と高橋氏は強調した。聞き手はこれを、中国発のフレーズにアメリカがトッピングを加え、それを中国が自国流にさらに解釈し直した構図だと整理した。

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日本は中国の土俵に乗らず、フレームを変える

日本にとっての意味について、高橋氏はまず、中国の土俵に乗るのはあまり好ましくないと述べた。実は日中の間にもキャッチフレーズがある。安倍政権のときに打ち出された「戦略的互恵関係」である。これは中国の成長が日本にとっても利益になりうることを認めた言葉で、当時中国は非常に歓迎したという。つまり日本は日本で、すでに使える言葉を持っている。ただ中国は自分に都合よく解釈していくので、その解釈に負けないことが大事だと高橋氏は言う。

そのうえで、現状ではとにかくアメリカとの関係が重要だとした。「米中は同盟国だった」という文言には、当時の中国は中華民国だろうという指摘が出ている。これについて高橋氏は「私の考えですが」と前置きしたうえで、そのツッコミにあまり意味はないと述べた。共産党も日本と戦っていなかったわけではないし、その文句は基本的に台湾が言うべきことで、日本がどうこう言うことではないという理由からである。

日本がすべきなのは、かつて手ごわい敵だった相手が今は現状の国際秩序を守るために手を取り合っている、かつての最強の敵が最強の味方になった、というストーリーで枠組みを変えていくことだと高橋氏は主張する。ヘグセス国防長官が日本を訪れた際にも、まさにかつての敵が今は頼れる味方になっていると語っていた。高橋氏は、そういう形でフレームを変えていくことが今の日本に必要だと述べた。

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日中関係は短期的には動かしにくい

では日中関係はどうするべきか。高橋氏によれば、中国の安全保障戦略上の最大の課題は日本ではなく台湾である。中国にとって今必要なのは、台湾を孤立させ、台湾有事になった際の勝算を少しでも高めることだ。そのためには日米同盟が弱体化されなければならない。中国はそのためにさまざまな手を打っていると考えるべきであり、短期的に日本の側から日中関係を動かせる可能性はあまりない、と高橋氏は見る。

今後、日中の首脳が顔を合わせる場面での対応についても触れた。そのときは日本がすでに持っている「戦略的互恵関係」の話に切り替えればよいという。両国は戦略的互恵関係にあるのだから今の平和な東アジアは大事だろう、この平和を守りながら互恵関係を築いていこう、と議論を未来志向に変えていく。それが日本のとるべきナラティブ戦略だと高橋氏は述べた。

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見落とされがちな点:アメリカは「取るものを取っている」

会談から数日がたち各メディアで振り返りが出ているが、あまり論じられていない重要な点はあるか。聞き手のこの問いに、高橋氏はホワイトハウスのファクトシートを挙げた。これを見るとアメリカ側が相当取るものを取っているという。

もちろん、自分はこれだけ勝ち取ったと示すために書いている面はあると高橋氏も認める。それでも、フェンタニルなど薬物をめぐる合意や、中国がアメリカ産の石炭を購入する合意など、トランプ政権にとって経済的に有利な項目が並んでいる。これだけを素直に見れば、アメリカのほうが有利な合意を取ったようにも見える。逆に言えば、実利をそこで取っているので、昔の同盟関係に触れるくらいは構わないとアメリカ側が考えた可能性もある、と高橋氏は推測した。

さらにファクトシートでは、米中がかつて同盟国だったという記述の次に、アメリカの前方展開戦力は戦後一貫してアジアの平和と安定を保ってきた、という一節が続いている。これは中国が一貫して反対してきた主張である。中国は、前方展開は冷戦の名残であり米軍は減らすべきだ、なくなるべきだと言ってきた。その主張と正反対の記述をわざわざ同盟の文言と並べて書いているところに、高橋氏はアメリカもかなり気を使いながら情報戦をしていると見る。

関心が第二次世界大戦の同盟国の部分に集中しすぎているので、もう少し広く目を配ってバランスシートを評価する必要がある、と高橋氏は述べた。トランプ自身は、一対一の勝負では勝ったと思っているかもしれないという。

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年内の日程と今後の焦点

今後はAPECやG20など、年末にかけて首脳が顔を合わせる機会が続く。高橋氏によれば、北京での会談から4か月後にワシントンで会談したように、相互訪問を4か月以内に行うのは30年ぶりである。1年に3回の首脳会談は、多国間の場を含めれば10年ほど前にも例があるが、4回となるとやはり珍しい。

これは先に述べたとおり、リーダー同士で決めなければならないことが増えているため会い続ける必要がある、ということだと高橋氏は説明する。加えて、世界の二大国が多国間会議で同じ場にいながら会わないのはかえって不自然なので、会わざるをえない面もあるという。

今後の焦点として高橋氏は二つを挙げた。一つは建設的戦略的安定性の中身である。両国は大枠では合意したが各論では合意していない。中国が一方的に発信している解釈に対して、アメリカがどうカウンターしていくかが一つのポイントになる。もう一つは経済関係である。通商の休戦協定は結局2か月の延長にとどまり、年明けにはすぐ期限が来る。それをどう扱うかが大きな論点になるだろう、と高橋氏は述べた。