シート数課金から「完了した仕事」へ:成果を納品する事業はどう設計するか

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概要

FoundX Review Startup IdeaCastの戦略解説パートとして、解説者と聞き手の富田が「成果提供型アプローチ」を取り上げた回である。ソフトウェアや設備を渡して終わるのではなく、顧客が経済的に評価できる成果そのものを納品する事業は、何を再設計しなければならないのか。スタートアップはどこまで成果の責任を負うべきなのか。解説者は、成果に課金することより、成果を定義し、測定し、実行する能力を高めることが競争力になるという立場で議論を進めた。

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なお番組の冒頭では、AIを使って情報を整理しているため誤りを含む可能性があること、個別企業の評価や投資判断を目的としたものではなく、事例から考え方を引き出すことが目的であることが断られている。以下で紹介する企業の取り組みも、番組内で話者が紹介した内容である。

成果提供型アプローチとは何か

解説者の定義では、成果提供型アプローチとは、顧客にソフトウェアや設備、ハードウェアを渡すだけでなく、完了した業務、削減された費用の一部、短縮された時間など、顧客が経済的に評価できる成果を納品していくアプローチの総称である。

解説者は、これを単なる「成果連動型の価格設定」とは区別している。製品を導入したのに使われず成果が出ない、施策が実行されない、複数の事業者の間で責任が分かれてしまう、といった理由で、製品を納品しても成果につながらないことはよくある。それなら成果が出るところまで自分たちでやってしまおう、という発想であり、解説者はバーティカルインテグレーション(垂直統合)に近いものだと表現した。番組ではこれを「道具ではなく、顧客の経済的な結果を設計して納品するスタートアップ戦略」とまとめている。

なぜ今このアプローチを取り上げるのか

取り上げた理由として解説者が挙げたのはAIの流れである。Sequoiaがサービスに関するエッセイを出して話題になったことに触れつつ、AIが助言にとどまらず、自分で問い合わせを解決して納品する、費用の最適化を実行する、現場の制御まで担う、という方向に進んでいると解説者は見ている。その結果、課金の単位がシート単位、つまり人の単位から、完了した仕事の単位へと徐々に変わりつつある。

成果連動型の考え方は従来ハードウェア寄りの領域で見られたが、この変化によってソフトウェア系にも関わってくるのではないか。そのため、幅広く使えるアプローチとして紹介したいと解説者は述べた。

何を再設計しなければならないのか

成果を売ろうとするとき、何を設計し直す必要があるのか。解説者は一言で言えば「事業境界の根本的な再設計」だと説明する。何を成果と呼び、それをどう表明し、どう証明するのか。誰が実行し、誰がリスクを負い、そこから誰が学ぶのか。これらを一つのシステムとして組み直すことがポイントだという。

具体的には、まず時間、金額、成功率など、顧客にとっての経済的な結果を定義して納品する。それに合わせて支払いの仕組みも設計し直す。支払いの根拠となる成果の証拠として、認定や納品基準、検収基準も定める。さらに、自社が責任を持つ範囲を見直す。製品だけを制御するなら納品すれば終わりだったが、成果が出るかどうかまで責任を持つなら、顧客との工程の切り分けを再設計しなければならない。最後に、成果を納品する過程で学習し、次に生かす仕組みを作る。

解説者は、製品は分かりやすいが成果は分かりにくいと指摘する。だからこそ基準を測定し、顧客に「成果が出た」と納得してもらうところまでやる必要があり、それが難しい部分でもあるという。

スタートアップはどこまで成果責任を負うべきか

富田は、成果が出なかった場合に責任を負うのはスタートアップには重いのではないかと問うた。解説者は重いことを認めつつ、初期から最終的な成果をすべて保証する必要はないと答えている。

例として挙げたのが、以前番組で紹介したMonumentalである。ロボットでレンガを積むスタートアップで、まずレンガを積むこと自体から始め、最終的には建築物全体へ広げていくという、一部から始める進め方ができる。Monumentalはサブコントラクターとして現場に入っているため、契約上の範囲をきちんと縛っておくことも一つのポイントだと解説者は指摘した。

AI系の例としては、有人対応と導入・運用を一体化し、30日以内の立ち上げや品質の保証へと保証範囲を広げているスタートアップがあるという。解説者が挙げたのはCrescendo AIで、AIネイティブのコンタクトセンターとして、有人オペレーターの代わりに自社でコンタクトセンターの運用を担っている。同じ領域にはAdaのような企業もあるが、Crescendoは事業の境界を広げ、成果に対して課金する形を取っていたと解説者は説明する。AIの品質、立ち上げ期間、顧客満足度に関する保証もしているようで、コールセンターの成果といっても、電話を受けることだけでなく、品質や立ち上げ期間、運用範囲まで広げて提供するやり方もあり得ると解説者は見ている。

このアプローチが効く四つの問題構造

次に解説者は、従来の製品販売ではなぜ成果を提供できなかったのか、どのような問題構造にこのアプローチが効くのかを整理した。AIに整理させたポイントとして、四つが挙げられた。

一つ目は価値と課金単位のずれである。従来のシート単位のSaaSでは、顧客が得る価値がシート数に比例して増えるわけではなかった。AIによる自動化が入ると、成果に応じて支払ってもらう料金体系が可能になる。解説者は、SaaSの時価総額が下がっているのは、シート単位で稼いでいたものが成果単位に移ると利益が悪化すると想定されているからだろうと述べたうえで、逆に言えば、AIをうまく使えば成果単位の新しいビジネスモデルで攻められると見ている。

二つ目は実装の空白である。ソフトウェアを納品しても実際に使われているかは別問題であり、使われたとしても顧客に経済的な価値が生まれたかはさらに別問題だった。トレーニングを提供するベンダーもいたが、解説者によれば、今はそこをAIやロボットが巻き取り、サービスまで提供することで空白を埋められるようになりつつある。

三つ目は、スタートアップ側の弱みである信用不足だ。これまでスタートアップは、信用を補えるだけのプロダクトを作り込む必要があった。しかし顧客にとって、Monumentalの例のようにレンガが積まれればプロセスはどうでもいいという状況なら、成果を納品することで信用不足を補いやすくなると解説者は述べる。

四つ目は責任主体の分断である。設計、施工、運用の主体が分散している対象に対して成果を納品する形を取ると、責任主体が分かりやすくなる。そこにスタートアップが入り込める余地があるという。

解説者は、四つすべてが当てはまる必要はなく、どれがボトルネックになっているかが分かれば、このアプローチが効くかどうかの判断材料になると述べた。

最優先は「実装の空白」

四つに優先順位はあるのかという富田の問いに、解説者はまず実装の空白だと答えた。ソフトウェアが納品されても使われていない、成果に結びついていない、顧客の現場で運用の変更が必要なため導入が進まない、という状況は狙いやすく、そうした市場や顧客の状況は多いのではないかと見ている。逆に、課金単位を変えるだけでは、顧客が実行しなければ成果は増えず、かえって費用が減るだけになる可能性があるので注意が必要だという。

例として挙げられたのがクラウドFinOpsのProsperOpsである。解説者の説明によると、ProsperOpsはクラウドの割引の最適化を自動で運用し、実際の削減額に応じてその一部を受け取るコストセービングシェアのモデルを取っている。単に「こうすればいい」と推奨するだけでは実装の空白が生まれるが、AWSなどの割引契約を継続的に自動で組み替え、削減まで自社で担うことで空白を小さくしている。コンサルティング会社が在庫管理の最適化をして削減分の一部を受け取るようなやり方のAI版だと解説者はたとえた。

以前番組で取り上げたPointfiveは、検知や修正の支援、請求データの検証を行うのに対し、ProsperOpsは削減額を料金の単位に結びつけている。解説者は、ダッシュボードを販売する一般的なソフトウェアビジネスだったものが、AIが入ることでビジネスモデルごと変わりつつある例だと位置づけた。

AIとは別の文脈として、米国の価値ベースの手術医療のスタートアップCarrum Healthも紹介された。病院、医師、周辺費用をばらばらに請求するのではなく、一つのケアのエピソードとして引き受け、手術する医療機関の選定から手術までを包括的な価格で提供し、保証をつけているという。顧客が欲しいのは手術を受けることではなく病気を治すことであり、その成果を単位に契約するのは一つのやり方だと解説者は述べた。関連資料として、2025年に書かれた「Unbundling the BPO」という記事も紹介された。BPO(ビジネスプロセスアウトソーシング)をAIで巻き取れるのではないかと論じたものだという。

成立条件:価値の大きさ、測定可能性、制御可能性

このアプローチはどこでも使えるわけではない。解説者は成立条件として三つを挙げた。

第一に、経済的な価値が大きいこと。価値が小さい領域では、成果を上げても契約コストが高くつき、採用されにくい。一件あたりの損失、遅延、削減可能な費用が極めて大きいところで成果を納品し、削減分などを受け取るのが重要だという。

第二に、客観的に測定可能であること。結果を測れ、それが自社の介入によって生じたと顧客と合意でき、帰属がはっきりしている必要がある。一定期間内に、請求データやシステムを使って客観的かつ監査可能な形で成果を確認できる領域でないと、後で揉めそうだと解説者は述べた。

第三に、制御可能性である。自社が成果を左右する主要因を担保できるかどうか。外部要因が大きすぎると成果にぶれが出やすく、それがリスクになる。ロボットやAIを使えばここまでは制御でき、一定の成果を出せるという範囲がある領域が向いていると解説者は見ている。

富田は、価値が大きく測定もでき、制御もできそうなのに、このやり方を使わない方がいいケースはあるかと尋ねた。解説者が挙げたのは医療である。外部要因が多く、「治ります」と言って治らなかったら大変なことになる。また、成果保証の範囲を広げると売りやすくはなるが、制御すべき要因がどんどん増えていくので難しい面があるという。

この点でよく見られる例として、解説者はロボティクス・アズ・ア・サービスを挙げた。米国のFormicはロボットを売らず、設計、設置、監視、保守を含めてロボットを定額の時間料金で提供し、稼働保証もつけている。顧客の設備投資(CAPEX)と専門人材の不足を引き受け、運用まで担う形であり、出力や成果に近い課金をしていると解説者は説明した。関連してNFXが昨年出した記事「Pricing the AI Workforce」では、料金モデルは自律性と帰属可能性の2軸で選ぶべきだとしているという。

SaaSとの違い、そしてリスクは優位になるのか

解説者は、SaaSとアウトカムベース(成果ベース)の違いを項目ごとに整理した。提供するものは、SaaSでは作業を効率化する道具やワークフローだが、成果ベースでは完了した業務や保証された節約額である。ドリルではなく穴を売るという比喩で説明された。課金単位は、席数やAPI利用量から、解決済みチケット数や契約の完了件数など、顧客が本当に欲しいものの単位へ変わる。実装の責任範囲も、SaaSでは「設定して運用してください」だったのが、成果ベースではベンダー側が技術と運用を統合して実行する。リスクは、SaaSでは顧客が成果の未達リスクを負うが、成果ベースではベンダーが負い、場合によっては初期投資や設備費用も背負う。資本特性としては、SaaSは資本効率が高い一方で代替されやすく、成果ベースは資本集約的になるが、深く統合されれば代替が難しくなる、という整理だった。

ただし解説者自身は、資本集約性は単に負担であって優位の源ではないとし、成果ならむしろ代替可能なのではないかという気もすると留保している。どこまで深く統合されるか次第だという。

富田は、リスクを持つことが既存企業と比べた競争優位になるのかを尋ねた。解説者の答えは、リスクを取ること自体は優位ではなく、リスクを解決できれば優位になる、というものだった。リスクを正確に選び、それを予防・解決できるようにしておき、価格に反映する。うまく解決できるからお金をいただける、という構造ができて初めて優位になると解説者は考えている。

例として挙げられたのが、セキュリティ系のCoalitionである。保険に加えて、継続的なサイバーリスク管理、予防、事故対応を組み込み、損失が発生する前に介入できる手段を提供している。自社の技術でリスクを緩和できるので、結果的に保険事業として採算が合うようになっている、と解説者は見ている。さらにセキュリティ運用を統合しているため、リスクが顕在化した場合も含めてデータを学習に使い、次に生かせるという点もあるという。

一方、企業向けAIエージェントのSierraは成果を掲げているが、すべてを成果単位にしているわけではないようだと解説者は紹介した。合意した仕事の完了に課金し、エスカレーションは多くの場合無料にする一方、案内や振り分けには会話単位の料金をかける、という混合型の支払いの仕組みを現状取っているという。成果課金と従量課金の境界を業務ごとにどう設定するかがポイントになると解説者は述べた。

事業設計の四要素:測定・実行・リスク・資本

成果提供に移るには複数の変更が必要だが、すべてを同時に最大化するわけではない。解説者は、測定、実行、リスク、資本という設計変数をスライダーのように調整していくものとして説明した。

測定は特に重要だという。どこを基準線とするか、つまり反実仮想(導入しなかった場合にどうなっていたか)を置かないと、何が起こったのかを定義できない。成果ベースにすればよいのではなく、成果が測定され、そのサービスがなかったらこうなっていた、と示せるようにしておくことがポイントになる。

実行のレイヤーでは、ソフトウェアの提供だけなのか、BPO的に運用まで担うのか、現場の施工まで統合するのかを決める。冒頭で触れた垂直統合の話と同様に、自社がコントロールでき、実行でき、かつ顧客の成果を左右する工程だけを持つよう考えるべきであり、すべての作業を無制限に内製化する必要はないと解説者は述べた。そうするとビジネス上も大きなリスクを背負う可能性があるという。

リスクのレイヤーでは、案件の選別、返金や保証の上限をどこに設定するかを考える。返金上限を決めるだけでなく、保証の対象となる顧客の状況、用途、環境を定義しておかないと、無制限に成果を求められる可能性がある。解説者は、受託企業によくある「どこまでやるの問題」が成果型にも入り込み得ると指摘した。成果は製品のように分かりやすいものではないからだ。

資本については、顧客から前払いを受けるのか、自社で設備資産を持ってサービスとして提供するのか、といった選び方があるという。

実行範囲をどこまで広げるか

富田は、実行範囲はどこまで広げるべきかを改めて尋ねた。解説者は、自社が制御でき成果を出せる範囲をどう決めるかによって、成果の出しやすさが決まると答えた。加えて、組織負担の増加も考慮すべきだという。多くを自社で持てば社内のコミュニケーションを含めて複雑になり、固定費も増え、例外対応も増える。成果に関わる工程を多く持つほど改善はしやすいが、その複雑性や負担をどこまで引き受けるかで判断が変わる、という整理だった。

例として、クラウドFinOpsのnOpsが挙げられた。クラウド費用の監視、コミットメントの最適化、リソースの自動化を提供し、削減額を基準にした課金方式を取っている。分析ツールとともに権限を得て、反復的な費用最適化を実行する。測定と実行ができる範囲を決め、リスクはある程度限定し、設備は基本的に持たない、という選択だと解説者は説明した。

関連資料として、Bessemerが今年出したAIの価格設計とマネタイズに関するプレイブックも紹介された。指標、予測可能性、限界費用などを説明しているという。解説者は、成果課金は魅力的に見えるが、AIの推論費用や人の介入といった変動費がかかるため、最低利用量、コミットメント、超過料金などを契約に盛り込んでおかないと、後でコストが爆発する可能性もあると注意を促した。

制御点と現場データが学習ループを作る

なぜ成果を上げ続けることができるのか。解説者の説明の起点は「制御点の獲得」である。自社で工程を持つことで、実装や運用のデータが手に入る。単にプロダクトを納品するだけ、SaaSを提供するだけでは得られない、どう運用すれば成功し何が失敗するのかという現場のデータを蓄積できる。それによってAIモデルを改善したりファインチューニングしたり、標準化を進めたり、ロボットの性能を上げたりできる。その結果、予測精度が向上して価値を獲得しやすくなり、よい利益率で成果を納品できるようになる、という循環である。

解説者は、何件処理したかといった抽象的で一般的な計量データではなく、案件の選別、介入方法、価格などの細かいデータが取れていて、意思決定の改善につながっているかを見る必要があると述べた。失敗データも必ず出てくるので記録して次の成功に生かすこと、反実仮想を用意して顧客に成果を分かりやすく示すことも大事だという。そして、このループを回すための仕組みづくりがポイントだと解説者は考えている。

反実仮想をどう設計するか

富田は、研究のように対照群を置くことはビジネスではまずできないとして、反実仮想をどう設計すればよいのかを尋ねた。解説者も、完璧な対照群があれば別だがビジネスでは難しいと認めたうえで、介入前の基準線を用意する、類似の期間に何が起こったかを見る、介入しなかったグループがどうなったかを見る、再発時の取り消し率を使う、といった方法で、顧客との間で合意可能なエビデンスを作っていくやり方を挙げた。

似た事例として解説者が「最近面白かった」と挙げたのがIntercomである。SaaSからAI企業へと大きく舵を切ったとされ、AIエージェントのFinでは、解決、手続き、引き継ぎなどの成果を定義し、失敗した場合や一定条件で問題が再発した場合には課金しない、あるいは取り消すというルールを用意しているようだと紹介した。会話数だけでなく結果を判定して請求に結びつけている例だという。関連して、Bessemer Venture Partnersが今年7月に出したアウトカムに関する記事では、AIネイティブサービスを、業務を実行して成果を所有し、データと工程を通じて粗利を改善していく企業として評価すべきだと述べているという。

四つの実装パターン

解説者は実装パターンを四段階で整理した。

  1. 出力課金:成果の手前にある明確な出力に課金し、監査と保証の複雑さを抑える。レビューが完了した文書や解決済みの問い合わせなど、アウトカムよりアウトプットに近いものが単位になる。
  2. 共有節約:削減額や利益の増分の分け前を受け取る。基準線をどこに引くかで大きく変わるが、医療費やクラウド費用が削減できたらその分配を受ける、といった形がある。
  3. 成果保証:固定料金だが、未達の場合に返金やペナルティを負う。顧客にとっては安心で導入しやすくなる一方、自社にとっては予測がしにくくなり、ペナルティを負う可能性もある。
  4. フルスタック:技術と運用を担うだけでなく、調達、設備投資、資金、保守、再配置まですべて自社で持ち、顧客は生み出された結果にだけ支払う。

富田は、顧客にとってはフルスタックになるほど導入しやすいのかと尋ねた。解説者は、契約が複雑になる面も正直あると答えた。顧客の初期負担は下がり、設備投資を避けられるメリットはあるが、長期契約、データの提供、設備へのアクセス、利益の分配といった条件が入ってくる。顧客側にツールを使いこなせる人材がいるなら、成果報酬よりツールが欲しいとなるかもしれない。事業者側も、長期で回収しなければならない、設備の性能や現場の保守の責任を負う、場合によっては金利も負う、という負担を抱えることになる。金融まで含めて自社で手がけるスタートアップもいくつかあるので見てみるとよい、と解説者は付け加えた。

成果を測ることと、成果に課金することは分けられる

ここで代表例として取り上げられたのがAdaのピボットである。解説者の説明では、Adaはかつて解決したチケット件数に対して課金しており、パターン1に近い形だった。ところがAIで解決できる件数が急増した結果、顧客の請求額が大きく跳ね上がり、監査のコストも膨らんだ。そこで現在はハイブリッドモデルに移行し、成果の測定は維持しつつ、課金は予測可能な会話ボリュームの事前購入、つまりクレジットを先に買っておく形に変えたという。解説者は、ChatGPTやGeminiも最近そうした課金になったことに触れている。

ここから解説者が引き出したのは、成果を測ることと、成果に対して全額を課金することは分けるべき場合もある、という考えである。顧客にとって予算の予測可能性は重要で、成果の証明とは別の目的だという。

富田は、成果課金をやめることと成果提供型を続けることは両立するのかと尋ねた。解説者は、事業の境界を分け、料金方式も分けていく形になるのではないかと答えた。例として挙げたのが顧客対応AIエージェントのDecagonである。Decagonは会話単位の課金と解決単位の成果課金の二つを提供しており、多くの顧客は予測可能な会話課金を選んでいるという。解決課金では、人にエスカレーションした会話を課金対象外にしているようだ。同じ製品を提供していても、顧客の業務や予算に応じて課金方式を選べるようにしている例であり、支払い単位だけでなく、実行、検収、改善の責任に応じて境界を引き、料金を分けていくことになるのだろうと解説者は述べた。

法律業務、FinOps、エネルギーの事例

他の産業の事例として、解説者はまずCrosbyを挙げた。法律業務をAIツールとして売るのではなく、弁護士を含む法律事務所として文書レビューを固定料金で提供している。ソフトウェア販売を避け、自らを法律事務所と定義し、契約レビューに対して固定課金をしている点が特徴だと説明された。

以前取り上げたPointfiveは、クラウドの無駄を検知するだけでなく、修正の実行から請求データの検証まで手がけ、推奨をダッシュボードで示すだけで終わらずに実行とのあいだを埋める、実装の空白を埋めるパターンだと位置づけられた。

エネルギー分野のRedaptiveは、顧客の初期負担をなくし、設備を自社で保有して、実現した省エネに基づいて課金するエネルギー・アズ・ア・サービスを提供している。責任主体の分断を防ぎ、実世界のデータを担保に金融を統合していることも特徴だという。解説者は、それぞれが先に挙げた原理を使い分けている例だとまとめた。

フルスタックの難しさ

富田は、Redaptiveのように物理的な設備まで含めてフルスタックにすると難しい点もありそうだと尋ねた。解説者によれば、自社で制御できる範囲や成果への制御可能性は上がる一方で、設備の故障、施設の稼働率、見込んだほど成果が出ないといった問題があり得るうえ、ローンや在庫の責任も持つことになるので、不確実性が上がりやすい。

先に触れたFormicのようなロボティクス・アズ・ア・サービスも同様で、設備投資は自社持ちになるため、ロボットが余っている時期は苦しいといった問題がある。ほかにも、ロボットを売らずに物理業務そのものを請け負うNimbleのような企業もある。ロボット系はどこからどこまでを自社でやるかを特に考えるべきだと解説者は述べた。関連資料として、Battery Venturesの記事が紹介された。物理産業のAI企業は、ソフトウェアだけでなく専用ハードウェアとその運用を束ねることで、データの取得やワークフローの制御を握れるのではないかと論じているという。

最初の一歩:ミクロな課題、基準線、コンシェルジュ型MVP

では最初に何をすべきか。解説者はステップとして次の四つを紹介した。

  1. ミクロな課題を特定し、特に一件あたりの損失が大きく、数週間で測定可能な単一のボトルネックに絞る。
  2. 基準線を決めて顧客と合意する。介入前の費用、時間、成功率を客観的に把握して記録し、どこまで変わったかで料金を決める。
  3. コンシェルジュ型のMVPを使う。システムが未完成でも、「オズの魔法使い」型MVPのように裏側に手作業を挟み、これをAIで自動化すればお金がもらえる、という状態を作る。
  4. ハイブリッド料金で学ぶ。初期は例えばプラットフォームの固定費に限定的な成果ボーナスを加える形で資金を回す。

創業初日から最終成果をすべて保証するのではなく、段階を踏んで広げていくのが最初の一歩だと解説者は述べた。自動化する順序も重要で、頻度が高く、原価が大きく、判断規則が安定しているところから入るのがよいという。初期の顧客も、単に関心を示してくれる企業ではなく、基準線が分かるデータと現場の権限を持つ企業を選ぶことがポイントになる。

富田は、人手で提供すると受託のようになってしまうのではないか、どの段階まで手作業を続けるべきかと尋ねた。解説者は、受託になってしまう可能性は非常に高いと認めたうえで、何を標準化し、何を学びたいのかを最初に明確にし、本当に自動化できそうな部分を選んでおくことが大事だと答えた。人手の比率、例外の種類、処理時間を計測し、次のサイクルでAIを使って速く回せるかを確かめる。同じ人が同じ判断を手作業で3か月ほど繰り返しているなら、その学習が製品に移っていないということなので気をつけた方がよい、というのが解説者の目安である。

仮説を検証する指標

成果提供型の仮説が正しいかどうかを何で判断するのか。解説者は四つの指標を挙げた。見積もり誤差が下がっているか。提案・推奨した改善案が実際に顧客環境にデプロイされた割合、つまり実装完了率が上がっているか。売上総額ではなく、推論費用や人件費を差し引いた案件の粗利率が上がっているか。そして、請求から入金までの期間が短くなっているか。最後の指標は、顧客が信頼して支払ってくれているかを示すものだという。

富田は、売上や継続率より見積もり誤差を優先する理由を尋ねた。解説者の答えは、それが成果型の契約に固有のリスクだからというものだった。受注時に将来の原価や成果の確率を見誤ると、売上が増えるほど損失が拡大することがあり得る。ProsperOpsのようなコストセービングのシェアでも、削減額を過大に予測してしまえば、顧客の価値も自社の売上も下振れする。だから見積もり誤差をきちんと見ておく必要があるという。

小さな制御点から隣接市場、事業基盤へ

大きな事業へ育てる道筋として、解説者はフェーズに分けて考えることを勧めた。ミクロな課題を確認し、自社が制御できる最小の制御点を見つけ、改善と反復を重ねて単位を構築する。次に隣接領域へ拡張し、最後に事業基盤を狙う。その基盤には金融的な機能も入ってくるかもしれないという。

富田は、起業家を見ていて、最初の市場からどう拡張するかを選ぶのが難しそうだと感じているとして、隣接市場の選び方を尋ねた。解説者は、能力が共通するところから入ることが大事だと答えた。違う能力が必要な領域に行くと、それまでの学習や標準化を持ち越せない。データの形式、実装の手順、規制などが共通している領域を見ておくとよいという。

拡張が進んだ先に何が生まれるのかについて、解説者は三つのモート(堀)を挙げた。一つ目はリスク選別の能力である。どの顧客の、どの用途の、どの環境なら成果が出るのかが分かっていくので、事業を積み上げやすくなる。二つ目は標準化された実装ノウハウで、例外処理を分類し、立ち上げ期間を短くし、人の介入を減らして、現場へのデプロイを速くできる。三つ目は資本コストの優位で、確かな成果データに基づいて、債務、保険、設備の金融を低コストで調達できる有利な条件を引き出せるようになる。こうしたモートを徐々に作り、高くしていけるのではないかと解説者は見ている。

富田はさらに、顧客の要望に応えつつ標準化するとき、どこまでをカスタマイズとし、どこからを例外とするのかを尋ねた。解説者は、SaaSと似た考え方でよいと答えた。複数の顧客で同じ要望が出ていれば、共通の成果として改善し標準化できないかを考える。要望を、標準機能、設定で対応するもの、専門サービス、対象外に分類する。カスタマイズした場合は、その売上だけでなく、次の顧客にどれだけ再利用できたかの比率を見る。そうすれば、受託でも単なるカスタマイズでもない何かにつながるのではないかという。

まとめ:成果の測定と課金を分け、実行能力を高める

最後に解説者は、このアプローチの要点を三つにまとめた。

一つ目は、成果の測定と課金の単位を切り離すことである。成果は顧客にとっての価値の証明として厳密に測るが、金額をすべて成果報酬にする必要はなく、戦略上の自由度を持っておくとよい。料金は固定費、従量、コミットメント、成果を組み合わせればよいという。

二つ目は、自社が制御できる最も下流の中間成果を狙うことである。顧客の価値に十分近く、外部要因が大きすぎないものを選ぶことがポイントだとした。

三つ目は、真の競争優位は保証ではなく実行能力にあるという点である。保証は導入のハードルを下げるうえで重要だが、それだけではなく、リスクを正しく選別し、実装の空白を埋め、実行の精度を上げていく。こうした泥臭いシステムの改善こそがモートになるのではないか、と解説者は締めくくった。

振り返りで富田は、最初に成果をきちんと定義し、どう測るかを顧客と一緒に決めて認識を揃えることが大きなポイントだと感じたと述べた。そのためには顧客の業務を深く知る必要があり、かなり入り込むところから始めるので、リーンスタートアップ的な進め方とも共通する部分があるのではないかという。解説者はこれを受けて、コンシェルジュ型MVPのように、ソフトウェアではなくサービスも加えて成果として提供するやり方は、日本でBPOとして売られてきたものにAIを加える形とも重なると述べた。そのうえで、一般的な成果報酬型に限らずビジネスモデルを柔軟に考えられるとし、番組で紹介した記事を読むとAIのプライシングの考え方が見えてくるのではないか、と個人的な見方を添えている。