ヒューマノイドは物流現場で使えるか 国際物流総合展で見たフィジカルAI実装の現在地

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概要

フィジカルAIの実装はどこまで進んでいるのか。PIVOTの取材班は、この問いを確かめるために国際物流総合展を訪れた。会場を一緒に回ったのは、早稲田大学教授でAIロボット協会(AIRoA)理事長の尾形哲也氏である。尾形氏は「フィジカルAI」という言葉が広まる前からロボットとAIを研究してきた。Mujin、Geek+、川崎重工業の展示を見た尾形氏は、物流がフィジカルAIを試す場として重要だと評価した。一方で、人型ロボットが現場で本格的に使われるまでにはまだ距離があるとも語った。

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なぜ物流が「最初の業界」なのか

最初に話を聞いたのはMujinの担当者である。担当者は、Mujinを「ロボット界の共通OSを作っている会社」と紹介した。展示では、上部のカメラ(ビジョンシステム)と手元の多数のセンサーで、ロボットが周囲の状況を認識していた。1個20〜30kgある重い箱を前に、ロボットは1個ずつ取るか、2個まとめて取るか、3個いけるかを自分で判断し、どう積み込むかも考え続けている。置いた後も、どこに何をどれだけ置いたかを把握している。

担当者によれば、従来のロボットは「鉄の塊」であり、動作を一つずつ教え込み、教え終わったらそれを繰り返すだけだった。工場は大量生産で同じものが流れてくるので、それで対応できる。しかし物流では、毎日何万種類もの荷物が届く。教えた動作だけでは足りない。周囲には何百台ものAGV(床を走る搬送ロボット)があり、どの荷物をどのタイミングで運ぶかもソフトウェアで制御しなければならない。展示されていたアーム自体は安川電機やファナックなどのメーカー製で、Mujinはそれらを統合するソフトウェアを担っている。

担当者の見方では、物流は品種が非常に多いため、ティーチング型のロボットではそもそも入れない業界である。だからこそ、フィジカルAIを最初に導入する業界として物流を選んだのだという。

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Geek+の物流向けヒューマノイド

尾形氏が合流して最初に足を止めたのは、Geek+のヒューマノイドだった。尾形氏は、実際の製品を並べる物流展でヒューマノイドが展示されるのは日本ではかなり珍しく、少し驚いたと話した。

Geek+のCEO加藤氏によれば、同社はもともと床を走るAGVを作る会社で、中国で創業して10年になる。AGVは世界で約6万6000台を供給しており、その発展形としてヒューマノイドを今年から生産している。日本では取材前日に販売を始めたばかりだった。年内に全世界で100台を生産して売り切り、その後に大量生産へ移る計画だという。

デモでは、ワーキングステーションから出てくるコンテナの中から、ヒューマノイドが受信したデータに従って該当の商品をつかみ、バスケットに入れていた。ピッキングと仕分けの作業である。バスケットにはそれぞれAさん、Bさん、Cさんといった注文が割り当てられており、必要な商品をそこに入れていく。タオルを両手で一つずつ取る場面もあった。商品を入れ終えたバスケットはAGVが受け取って運んでいく。ヒューマノイドは単独で動くのではなく、周囲のロボットと組み合わせて使う設計になっている。

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汎用グリッパーとリトライ、尾形氏の評価

尾形氏は、仕分けの最後の工程はこれまでどうしても人間が担ってきた部分だと指摘した。そのうえで、この機体がかなり汎用的なグリッパーでさまざまな商品をつかもうとしている点を独特だと評価した。通常の産業ロボットは、つかむ対象に合わせて専用のグリッパーを作る。このヒューマノイドは明らかに多様な商品を扱うことを意識しており、ヒューマノイドの理想的な使い方の一つではないかと述べた。

加藤氏によれば、人の形をしているのは、人間が作業している現場にそのまま入るためである。人間が5本の指でつかむ動きを覚えさせ、指先には圧力センサー、手先にはカメラを付けて、どの程度の力でどこを持てば落ちないかを学びながらピッキングする。落とした場合はリトライしてもう一度取る。なぜつかめなかったのか、どうすればつかめたのかというデータが溜まり、システムが改良されていく仕組みだという。

尾形氏が特に注目したのは動きの速さだった。人型のような複雑なロボットを入れると、その部分が全体のボトルネックになりやすい。尾形氏は、失敗しても自分でリカバリーできるリトライこそフィジカルAIで最も面白い点だと述べた。リトライを含めても、このロボットはおそらくボトルネックにならない速度を保っていると見ていた。

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車輪を選んだ理由と「そもそも人がいない」という導入動機

このヒューマノイドの足元は二足ではなく車輪である。加藤氏は、倉庫は比較的平らな床が多く、二足歩行にするとバッテリー消費が非常に大きくなると説明した。24時間365日稼働させるには消費エネルギーを抑える必要があり、この設計にしたという。二足歩行のヒューマノイドとは用途が違うという位置づけである。

聞き手が「人間がやった方が早いのでは」と尋ねると、加藤氏は人手不足の深刻さを挙げた。年末に派遣スタッフを100人発注しても、実際に来るのは10人程度だという。出荷が最も増える時期に作業員がいなくて出荷できない状態は最悪であり、もはやお金の問題ではなく、事業を伸ばすために不可欠になっていると語った。人の半分の速度でも24時間動くので、結果として3倍程度の作業量になるという話も出た。

日本での反応について、加藤氏は前日からすでに注文が入っていると述べた。先進的な企業は費用対効果よりも、導入すると現場がどう変わるのか、自分たちが何を変えなければならないのかを学ぶPOC(概念実証)に積極的だという。物流に特化したヒューマノイドは他にないため、引き合いは強いとした。学習データについては、世界各地で1日に数十万から数百万のピックがあり、中国ではすでに100台規模のPOCを実際の顧客のもとで行っている。現場のデータが常に入ってくる状態だと説明した。

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ヒューマノイド以外の自動化:シャトルと高層保管

Geek+のブースでは、パレットを動かす新型のシャトルシステムも動いていた。加藤氏の説明では、従来の大型自動倉庫はスタッカークレーンが大きく動く方式で、1台が止まると全体が止まる設計だった。新システムは各パレットの下をRGV(四角いAGVのような搬送機)がレール上で走るため、1台が止まっても全体は止まらず、停止リスクが分散される。ジャングルジムのような構造で縦揺れにも横揺れにも強く、地震の多い日本に合った耐震設計だという。

コンテナ単位で高い位置まで保管できる設備もあった。こうした設備がない倉庫では、ドライバーがフォークリフトで荷物を差して上げ下ろししているが、属人性が高く、フォークリフトのドライバーも今は雇えないと加藤氏は話す。設備は1時間に数百の荷物を出し、1〜2人では対応できない量になるという。加藤氏は、人がボトルネックになるという尾形氏の指摘が、まさにこうした技術の進化に欠かせないポイントだと応じた。

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残る課題は「箱に入れる」部分とハンド

懸念点を問われた尾形氏は、全体のシステムは完成度が非常に高いとしたうえで、人型ロボットの部分にはまだチャレンジングな要素が残ると答えた。いろいろなものを扱えるということは、裏を返せばいろいろなものを扱わなければならないということでもある。物がきれいに箱に入っていれば完成度の高いシステムが作れるが、箱に入れる工程そのものが難しい。今後、非常に重い商品や複雑な形状の商品が出てきたときにどうするかという問題は出てくるだろう、と尾形氏は見ている。

加藤氏も、現在3本指のハンドについて、中国側の開発陣と、人間の手に近づけた方が動作の再現性が高まるため改良が必要だと話していると明かした。尾形氏は、ハンドが一番難しい部分だと強調した。学習するロボットの売りは、同じハンドでも学習によってさまざまな物に対応できるはずだという点にある。その究極の形は人間の手になる。ただし非常に難しいので、現実的な落としどころをどこに置くかはこれから議論が分かれるところだという。

尾形氏は人間の5本指について、進化がたどり着いた一つの過程であり最適ではないと考えている。それでも、とても柔らかいものをつかめる一方で、指で懸垂ができるほどの力も出せる。そのうえ一番壊れやすい部位でもある。そうした難しい部位が実際に使われる段階に来たことは、昔から研究してきた者として驚きであり、感慨深いと語った。

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ロボットの定義から見た物流と、屋外への広がり

物流展に来たのは初めてだという尾形氏は、活気のある非常にアクティブな領域だと改めて感じたと話した。会場でヒューマノイドがまだ少ない点については、箱の中身を出し入れする工程で、さまざまな形の物を扱うために人型が入ってくるのではないかという見方を示した。

尾形氏によれば、ロボットの定義で最も大事なのは「現実世界を物理的に変える」ことである。情報を伝え合うだけでなく、物理世界に存在し、動くことで世界に影響を与える。組み立てや操作もそれに当たるが、物を物理的に動かす物流はその定義に非常によく当てはまる分野だという。

扱う物が箱で、床が平らな屋内という点で、物流はフィジカルAIの試金石ではないかという聞き手の問いに、尾形氏は同意した。そのうえで、扱う物の形は今後変わるだろうし、平らな場所だけでよいのかという問題もあると付け加えた。人間の生活空間はある程度バリアフリーだと期待できるが、屋外はそうはいかない。屋外配送ではドローンを使うのか、脚が必要なのかという選択が出てくる。脚はバッテリーを大量に消費するため重い物の運搬には向かないと考えられてきたが、この1年で急速に進歩しているので、届けるのが大変な場所に脚のあるロボットが物を届けるという展開も十分あり得る、と尾形氏は述べた。

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中国は「使う側」として強い

中国語の説明が並ぶブースの前で、尾形氏は中国が「ものすごく強い」と話した。産業ロボットを作る面では日本もまだ頑張っているが、ユーザー、つまり使う側としては中国が圧倒的に強いという。ロボットの活用量が大きく増えており、産業ロボットでは技術的にも日本とほとんど遜色がなく、人型ロボットの活用では明らかに中国が先行していると言わざるを得ない、というのが尾形氏の見方である。

会場にはパレットを運ぶ人型ロボットの展示もあった。聞き手が「人がやった方が早そう」と率直に言うと、尾形氏は、中のパンフレットを取れたらすごいと応じ、将来はそうした動作も見せられるのではないかと話した。

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なぜ展示会にヒューマノイドが少ないのか

テレビでは運動会で走るヒューマノイドなども目にするのに、なぜこうした場には少ないのか。尾形氏は、24時間動き続けられるか、どれだけ信頼できるかという水準まで持っていくには、まだ少し距離があるからだと答えた。ただしポテンシャルはすでにそれなりに示されている。1年で非常に進化しており、今がピークではなくまだ伸びる、と尾形氏は見ている。今後必要になるのは、実装に向かう「思い切りの良さ」と、この技術をどう使うかを考えることであり、それが進めばこうした場でももっと見られるようになるだろうと述べた。

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日本の勝ち筋は「環境に合わせる」側への転換

日本の勝ち筋を問われた尾形氏は、勝てるかどうかは分からないと前置きした。フィジカルAIの文脈で中国が強いのは分かっていることだが、産業ロボットや物流用ロボットについては日本がずっと強みを持ってきたという事実がある。それをどうAIと組み合わせるかがポイントだという。

尾形氏の説明では、従来の産業ロボットは同じことを正確に速く繰り返すものであり、日本はロボットに合わせて工場や物流の現場を作ること、つまりロボットと環境をインテグレートし、「ロボットフレンドリーな環境」を作ることに長けていた。一方のフィジカルAIは、データを大量に集めればロボット向けに設計されていない環境でも、人のすぐ近くでも、屋外でも動けることが売りになる。方向性は逆だが、使う部品は同じであり、ロボットがぶつかる問題もおそらく似ている。産業ロボットで強い会社がAIという技術を手に入れ、うまく融合できるかどうかが、米国と中国にキャッチアップするうえで大事なポイントになると尾形氏は述べた。

人用の環境に人型ロボットを入れてAIで学習させるというストーリーが、速さと正確さを要求される世界にどこまで入れるのか。それが一つの関心事だと尾形氏は付け加えた。

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川崎重工業の「模倣学習」デモ

続いて訪れたのは川崎重工業のブースである。尾形氏は川崎重工業を、産業ロボットと人型ロボットという2つの柱を長く手がけてきた会社だと紹介した。人型ロボットは今回展示されていなかった。

産業ロボットの技術責任者である吉川氏によれば、展示は物流倉庫の入り口と出口を担うソリューションである。パレットで入荷した荷物を降ろし(デパレタイズ)、仕分けたうえで、スーパーやドラッグストアに配送する6輪台車に店舗ごとに積み付ける。上部の3台のカメラが各パレットを見ている。物流倉庫ではSKU(品目)が何万種類もあり、AIを使わない従来方式では認識しきれない。AIで学習させたビジョンで箱を認識し、どう運ぶかの指示までロボットに与えているという。

難しいのは、箱の中身を一つずつ取り出すピッキングである。従来は対象物を撮影し、どこをつまむかを人がパソコン上で指定するアノテーションが必要だった。吉川氏によれば、これは画像1枚につき少なくとも1〜2分かかり、膨大な種類と枚数が必要になる。今回のデモでは、ロボットのハンドと同じ形をした手持ちの器具で人が実際につまむ。その様子を画像として記録し、そのまま学習データにする。1回のつまみ動作は2〜3秒で終わるため、吉川氏はこれまでの学習作業に比べて30〜40倍の効率になるとみている。1つの対象物につき約100回データを取れば、これまでの実績ではロボットがつかめるようになるという。器具と学習ソフトはいずれも同社が自作したものである。

学習後のロボットは、人が端の物を斜めに取りに行けば、アームを斜めにして同じように動く。人が真ん中や先端などいろいろなつまみ方をしておけば、ロボットもそれに応じてつまむ。デモ中に透明な物をつかみ損ねる場面もあったが、ロボットはいったん戻ってやり直した。同じ箱の中に、ペットボトルのような硬い物から歯磨き粉のような柔らかい物までが入っていた。

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尾形氏が「がっつりのフィジカルAI」と評した理由

尾形氏はこのデモを「がっつりのフィジカルAI」と評した。この種のデバイスはもともと米国で作られたもので、尾形氏は後に、よく「UMI」と呼ばれるデバイスの発展版だと説明している。人がアノテーションをしても、それで本当につかめる保証はない。人が実際につかんだデータなら、つかめるデータを確実に集められる。

ポイントは手先の接触にあると尾形氏は言う。物体をどうつかんでいるのか、摩擦はどうか、その場所を持って転ばないかずれないかは分からず、シミュレーションで再現するのも非常に難しい。そこでリアルなデータを集め、手先の位置と方向だけをしっかり記録しておけば、その再現は産業ロボットの小手森のものである。箱の中身を扱う部分こそフィジカルAIで一番面白いところだと尾形氏は強調した。こうしたデバイスは尾形氏自身の研究室も含めて世界中でさまざまなバージョンが作られ、データ収集の競争が起きている。遠隔操作で教える方法などもあるが、数秒で1つのデータが取れる速さが、この手法が世界中で流行している理由だという。尾形氏は、川崎重工業が独自に取り組んでいることは知らなかったと話し、実用レベルにだいぶ近いと改めて感じたと述べた。

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人型を出さない理由と、指先の難しさ

なぜ物流展では人型ロボットを出さないのか。吉川氏は、人型はソーシャル系の用途を中心に開発しており、物流分野ではまだ自動化の余地が大きいため、今売れるものを出していると説明した。人型が実用として売れる段階にはもう少し時間がかかり、その段階が来たら出展するという。

他社が人型を出していることについて問われると、吉川氏は、実用化には壊れないことも必要だとしたうえで、人型を使う意味として指が非常に重要だと考えていると答えた。箱を運ぶような手のひらでできる作業は、人型でなくても自動化できる。指先を使う作業はもう一段難しく、そこまで自動化できれば世の中の自動化は何倍も進むだろう。ただし、そこにはまだ時間がかかるというのが吉川氏の現状認識である。

尾形氏は、このデモを産業ロボットと人型を「つなぐ」技術だと見ている。模倣学習は人間を模倣するものなので、究極的には人型ロボットに行き着き得る。模倣学習は尾形氏自身の専門でもあり、両方の技術を持つ川崎重工業が将来それらを統合することに期待を示した。一見してこれがフィジカルAIだと分かる人はほとんどいないだろうが、専門家なら一目で意味が分かる展示だとも語った。

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箱から「箱の中身」へ

取材の最後に尾形氏は、来場前後で印象がどう変わったかを語った。物流展といえば、大きく重い箱を速く正確に回していくイメージだった。実際には、その箱にも多くのバリエーションがあって学習が必要だった。さらに、箱の中身に手を出すという段階が出てきた点が大きいと尾形氏は述べ、この領域にはまだ多くの余地があると改めて感じたと締めくくった。人型ロボットが物流現場で24時間の稼働と信頼性を満たせるのか、ハンドの現実的な形をどこに定めるのかは、会場で見えた次の課題として残されている。