管理職、長時間労働、リモートワーク、上司、年収は健康と幸福にどう影響するか 佐藤豪竜氏がエビデンスで検証する
TBS CROSS DIG with Bloomberg働き方の常識は、どこまで科学的な根拠に支えられているのか。慶應義塾大学専任講師で社会疫学と医療経済学を専門とする佐藤豪竜氏が、著書『働き方の科学』の内容をもとに、聞き手の市川衛氏とこの問いを議論した。佐藤氏は元厚生労働省の官僚である。管理職の健康リスク、長時間労働と昇進の関係、リモートワークの生産性、「上司ガチャ」の影響、年収と幸福の関係について、データから何が言えるのかを順に語っている。本稿はその前編にあたる。
成功者の経験談に偏った「働き方本」への疑問
佐藤氏は本書の内容を、エビデンスを使って働き方の常識を覆すものだと一言で説明する。世の中には働き方の本が数多くあるが、多くは成功者が自分の経験をもとに語ったものだと佐藤氏は指摘する。市川氏はこれを受けて、「ハードワークすればいい」という主張はハードワークで燃え尽きなかった人が語っている可能性がある、と言い換えた。佐藤氏も同意し、生存者バイアスのかかった本が多いため、エビデンスに基づいて正しい働き方を示したいと考えたと執筆の動機を語った。
1995年以降、管理職の死亡率と自殺率が上昇した
最初の論点は「管理職は罰ゲームか」である。管理職になりたくない若者が増えているという話を市川氏が持ち出すと、佐藤氏は、責任ある仕事にはやりがいがあると自身は感じるものの、データを見る限り正直なところ勧められる働き方ではないと答えた。
佐藤氏が示したのは、専門職、管理職、それ以外の人々について、過去20〜30年の死亡率の推移を比較したグラフである。1995年ごろまでは職位が高いほど死亡率が低く、管理職の死亡率が最も低かった。年収が上がり、権限が増えて余裕ができるためだと理解できる、と佐藤氏は説明する。ところが1995年以降、管理職の死亡率は上昇に転じた。原因として自殺に絞ったグラフでも、95年以降に管理職の自殺率が大きく上がっている。
佐藤氏はこの背景としてバブル崩壊後のリストラを挙げる。管理職の人数が減らされ、少ない管理職で大勢の部下をマネジメントしなければならない状況が95年以降に生まれた、という見立てである。市川氏が、働き方改革で一般社員に残業させにくくなった分を管理職が負担しているという話にも触れると、佐藤氏はパーソル総合研究所などの調査を引いた。働き方改革が進んでいる企業ほど管理職の負担が増えているという、政策の目的とは反する結果が出ているという。佐藤氏は、データだけを見れば管理職は本当に罰ゲームになりつつあるのが現実だと述べた。
ストレスは「仕事の要求度」と「コントロール」で決まる
健康を損ない、自殺率を高める最大の原因はストレスであり、ストレスのかかりやすさは仕事の中身によって異なる。佐藤氏はこれを、カラセック教授が作ったモデルで説明した。仕事の要求度の高低と、自分で決められる度合い(コントロール)の高低で、仕事を4つに分ける考え方である。
要求度が高く、コントロールも高いのが「アクティブ群」で、経営層や医師のように能動的に働く人々がここに入る。市川氏は、裁量はあるがスーパーハードワークをしている経営者のような層だと言い換えた。最もストレスが低い「低ストレス群」は、要求度が低くコントロールが高い仕事である。カラセック教授によれば研究者や芸術家がここに入る。最もストレスが高い「高ストレス群」は、要求度が高いのに自分で決められない仕事だ。佐藤氏は電話オペレーターやウェイターを例に挙げた。決められた時間内に仕事をきっちりこなす必要があるのに、職場のことを自分で決めることはできない仕事だという。
週48時間を超えると昇進確率が上がる
一方で、長時間労働にも「メリット」があることがデータで分かっていると佐藤氏は言う。紹介されたのは、アメリカでMBAを取得するようなエリート層を対象にした調査である。週の労働時間が45時間程度までは、何時間働いても昇進のしやすさはあまり変わらない。しかし週48時間を超えたあたりから昇格確率が急に上がっていく。佐藤氏はこれを、人よりかなり長く働いてやる気を見せることで上司の目に留まり、昇進しやすくなることを表すグラフだと解釈した。
市川氏は、1日8時間・週5日なら40時間なので、かなりの残業をすると昇進確率がぐっと上がるということだと確認した。そのうえで、NHKで働いていた頃を振り返り、バリバリ働く人を周囲も上司も頑張っているから評価しようという文化があったと語り、日本特有の事情があるのかを尋ねた。
メンバーシップ型雇用が長時間労働を生みやすい
佐藤氏は、日本的な要因はかなりあると答えた。欧米のジョブ型雇用では、雇用契約の段階で何をするかが明確に決まっている。日本のメンバーシップ型雇用では、新卒一括採用で入った企業とメンバーシップ契約を結ぶため、あらかじめ職務が与えられていない。その結果、メンバーとしてどれだけ会社に忠誠を尽くし、組織にやる気を示すかで評価されやすくなる。佐藤氏は、これが長時間労働につながる土壌になっていると見る。
市川氏は営業職を例に整理した。ジョブ型なら営業担当として契約をどれだけ取ってきたかで評価される。メンバーシップ型では営業も経理も企画もありうるため、成果よりも頑張りで評価されやすく、「何でもやります」という人材が評価されやすい。ただし市川氏は、アメリカにも長時間働く人はいると指摘した。佐藤氏は、先のグラフの対象であるアメリカのトップ層も、長時間がむしゃらに働いて大きく稼ぐ働き方をしていると認めた。市川氏が、大事なのはそこに裁量があるか、自分でやりたくてやっているかではないかとまとめると、佐藤氏も同意した。
管理職を救う鍵は「時間の柔軟性」
管理職がこれほど大変ならなりたくない、という市川氏の率直な感想に対し、佐藤氏は、管理職は組織を回すうえで絶対に必要なポジションなので改善すべきだと述べた。佐藤氏が必要だと考えるのは柔軟な働き方である。中間管理職がつらいと言われるのは、ポストに見合った裁量や柔軟性が与えられていないことが原因であり、職位が上がったからにはコントロールできる部分を増やすことが重要だという。
佐藤氏は、時間の柔軟性を実現する方法として3つを挙げた。
- 子どもが風邪を引いた、病院に行かなければならないといったときに、業務を誰かと分担できる仕組みを用意すること
- ITを使った情報共有や引き継ぎを標準化すること
- 対人業務で顧客を個人が抱え込まず、チームで担当できる設計にすること
市川氏は、この設計は管理職だけでなく、子育て中の人、特に日本でまだ子育てを担うことが多い女性にとっても大事だと付け加えた。佐藤氏はさらに、メンバーシップ型には別の面もあると指摘した。業務分担や引き継ぎでチームとして回すやり方は、むしろメンバーシップ型のほうがやりやすいのではないか、という見方である。無理にジョブ型へ移行するより、今の制度の中でどう柔軟性を確保するかが重要だと述べた。市川氏も、ジョブ型だと「契約外だからできない」となりがちだが、メンバーシップ型なら「一旦自分がやる」となりやすいと応じ、メンバーシップ型だからこそ可能な幸せな管理職の働き方がありうるという点で二人の意見は一致した。
リモートワークの生産性は「比べ方」が問題になる
時間の柔軟性に関連して、市川氏はリモートワークを取り上げた。コロナ後、MetaやGoogleといった大手企業でも出社回帰が進んでいるが、リモートワークは効率が悪いのか。佐藤氏の答えは、エビデンス上は生産性を下げるどころか、在宅勤務のほうが生産性が上がるというものだった。
佐藤氏は、「在宅勤務だとサボるだろう」という肌感覚には落とし穴があると指摘する。在宅勤務を好む人には、もともと生産性の低い、サボりたい人が集中している可能性がある。そのため、在宅勤務の人と出社の人の生産性を単純に比べても意味がない。コロナで全員が在宅勤務になった前後を比べる研究も多いが、仮に生産性が下がったと分かっても、在宅勤務の影響なのかコロナの影響なのか効果が混ざってしまうという。
では、どう調べればよいのか。佐藤氏は実験をやるしかないと言う。医薬品の効果を確かめるように、ランダムに選んだ一方のグループには在宅勤務をさせ、もう一方には出社させて効果を測る。市川氏は、100人のチームならくじ引きで50人ずつに分けるイメージだと言い換えた。佐藤氏によれば、こうした実験で生産性が下がるどころか上がることがスタンフォード大学の研究で分かっている。
ハイブリッド勤務は離職率を下げ、「少しの出社」で生産性が上がる
健康や仕事の継続についても、佐藤氏はかなり明確な結果が出ていると述べた。従業員の仕事満足度が大きく上がり、結果として離職率がかなり下がるという。佐藤氏が示したグラフは、出社勤務の人と週2回のハイブリッド勤務の人の離職率を比べたもので、ハイブリッドのほうが3割ほど低かった。
市川氏が、週1〜2回だけ出社する働き方はフルリモートと比べてどうかと尋ねると、佐藤氏は同じスタンフォード大学の研究チームが最近論文にした研究を紹介した。それによると、少しだけ出社するほうが生産性は高い。佐藤氏は、出社によって上司や同僚とのコミュニケーションが生まれ、困ったときに誰に相談すればいいかが会話を通じて分かってくるため、それが生産性を底上げしているようだと説明した。
市川氏は、これほど厳密な研究があるのに世の中が出社回帰に向かうのはなぜかと疑問を投げかけた。佐藤氏の答えは、世の中の人がエビデンスよりも自分たちの経験を頼りにしているから、というものだった。だからこの本を書いたのだと佐藤氏は語り、市川氏は管理職や経営層にこそ読んでほしいと応じた。
上司ガチャは給与に影響する:優秀な上司は1on1に時間を割く
次の話題は「上司ガチャ」である。部下は上司を選べず、たまたま来た上司の下で働くことになる。佐藤氏は、どの上司に当たったかによって、将来の給料や健康にまで影響が出ることがエビデンスで分かっていると述べた。
佐藤氏が紹介したのは、100カ国・20万人のホワイトカラーを対象にした最近の論文である。30歳までにマネージャーに昇進するような非常に優秀な上司の下についた部下は、7年後の給与が13%高かった。その理由として、能力の高い上司は部下との1on1ミーティングにかなり長い時間を割いていることが分かってきたという。
市川氏は、出世する上司ほど自分の仕事を優先して部下の育成に気を配らない印象があったと述べた。佐藤氏は、チームの生産性を高めるには部下の適性を上司が知ることが非常に重要だと説明する。ミーティングを通じて、部下がどこで花開くか、どんな適性を持っているかが分かれば、部下は適材適所の部署に異動でき、昇進していく。佐藤氏によれば、このことが最近データで示された。
曖昧な指示が部下のストレスを高め、心疾患リスクにつながる
健康への影響について、佐藤氏はスウェーデンの研究を挙げた。リーダーシップ能力の高い上司の下で働く人は、心疾患のリスクが20%低いというデータである。裏を返せば、決められない、リーダーシップのない上司の下で働くと心疾患のリスクが上がる、と佐藤氏は言う。市川氏は、心疾患はメタボや運動不足によるものだと思っていたと驚きを示した。
佐藤氏は、これはストレスと関係していると考えられると述べ、60年間にわたる515本の研究をまとめた最近のメタ分析を紹介した。部下が最もストレスを感じる状況を明らかにした研究である。市川氏は、無理な仕事を大量に任され、どうしようもないのに助けてもらえない状況を予想した。佐藤氏も当初は、要求度の高さや仕事量の多さが最大の原因だと考えていたという。しかし論文が示したのは、役割が曖昧であることが部下にとって最もストレスフルな状況だということだった。リーダーシップの低い上司が明確な指示を出さないと、部下は何をすればいいのか、どこまでやれば評価されるのかが分からず不安になる。そのストレスが最終的に心疾患につながる、というメカニズムがありそうだと佐藤氏は説明した。
市川氏は、自分も悪気なく「とりあえずやってごらん」と仕事を渡してしまうことがあると振り返った。佐藤氏はこれに対し、山本五十六の「やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、褒めてやらねば人は動かじ」という言葉を思い出してほしいと応じた。まず自分がやってみせ、やらせてみて、褒めることが必要だという趣旨である。
年収と幸福:頭打ちはなく、ただし説明力は1%未満
後半のテーマは「結局いくら稼げば幸せなのか」である。佐藤氏は、最近の研究では稼げば稼ぐほど幸福度が上がることが分かってきていると述べた。
示されたグラフは、横軸がアメリカドル建ての世帯年収、縦軸が幸福度で、もともとの幸福度によって集団を上位15%から下位15%まで5つのグループに分け、それぞれの年収と幸福度の関係を描いたものだ。全体としては、年収が上がるほど幸福度も上がっていく。佐藤氏によれば、年収800万円を超えると幸福度が頭打ちになるという研究が一昔前に出て広く知られたが、同じカーネマン教授がより正確なデータで分析し直したところ、それは間違いだったと分かった。基本的には収入が上がると幸福も上がる、というのが佐藤氏の説明である。
一方、このグラフからは、高所得層ほど幸福度の格差が大きいことも分かる。もともと幸福度の低い人々はある程度で頭打ちになるが、上位15%の人々は年収が上がると加速度的に幸福度が上がっていくという。市川氏は、幸せかどうかは収入以外の要因でも決まるから、こうした関係が出てくるのだろうと推測し、佐藤氏も同意した。佐藤氏によれば、この論文では、収入が個人間の幸福度の違いを説明する割合は1%にも満たないとされている。収入は一定程度必要だが、高所得層ではそれ以外の要素が大きくなる。佐藤氏はその例として、大切な人を亡くすことや病気を抱えることを挙げた。
幸福を感じる瞬間のランキング
佐藤氏は、人がどんな瞬間に幸福を感じるかをランキングにしたデータも紹介した。1位はパートナーと親密な時間を過ごしているとき、2位と3位は演劇やダンス、美術館、博物館、図書館といった文化的な活動、4位はランニングなどのスポーツである。
ワーストの1位は病気で寝込んでいるとき、2位は働いているときや勉強しているときだった。そのほか、介護、待ち時間、通勤、家事、SNSやインターネットなどが下位に並ぶ。市川氏は、世間でよくないと言われているものがやはりよくないとデータで示されていると受け止めた。
これだけを見ると余暇だけ過ごすのがよいようにも見える、という市川氏の問いかけに対し、佐藤氏は、余暇を楽しむにはお金が必要なので嫌な仕事もしなければならず、バランスが重要だと答えた。
グロスマンモデル:健康を「資本」として捉える
そのバランスを示すものとして、佐藤氏は医療経済学で非常に有名な「グロスマンモデル」を紹介した。佐藤氏はこのモデルを、人間にとって最も幸福な1日の過ごし方を教えてくれるモデルだと位置づける。
出発点は、誰にでも平等に与えられている1日24時間である。ただし全員がそのすべてを使えるわけではない。病気で寝込んでいる時間は活動できないため、それを差し引いたものが可処分時間になる。グロスマンモデルでは、この可処分時間を3つの活動に割り振る。
- 労働:所得を得るために必要な活動
- 余暇:労働で得たお金と時間を使って楽しみ、幸福を生み出す活動
- 健康投資:ジムでの運動、十分な睡眠、野菜を食べることなど、時間とお金を使って健康のために行う活動
佐藤氏によれば、このモデルの中核にあるのが「健康資本」という概念である。健康を資本として捉え、投資を行うとストックとして蓄積していく。健康資本が生み出すものは2つある。1つは可処分時間で、健康であれば病気の時間が減り、将来生産的に使える時間が増える。もう1つは幸福そのものだ。佐藤氏が、病気から回復したときに健康の大切さを感じたことがあるだろうと問いかけると、市川氏は、病気になって初めて健康であることがこれほど幸せだったと思ったと応じた。佐藤氏は、それがまさに健康資本が幸福を生み出す働きだと説明した。
労働は幸福を生まないのか
最後に市川氏は、仕事で成果が出ると幸せを感じるので、労働と幸福もつながるのではないかと尋ねた。佐藤氏は、それは比較的まれな人かもしれないと答えた。幸福な瞬間のランキングで労働はワースト2位だったからである。佐藤氏は、グロスマンモデルは非常に単純化したモデルであり、労働を余暇のように楽しんでいる人も一部にはいると認めた。そのうえで、平均的には労働はお金を稼ぐ手段として割り切られている、と述べた。
市川氏は、健康投資が幸福につながるというイメージはあまりなかったので学びになったと締めくくった。前編はここまでで、後編ではグロスマンモデルから導き出される、エビデンスに基づく効率的な1日の過ごし方を取り上げると予告された。
どんな上司に当たったかということによって、将来の給料、健康にも影響が出てくる。非常に優秀な上司が上に来た部下は、7年後の給与が13%も高い。決められない、リーダーシップがないような上司のもとで働いていると、心疾患のリスクが上がってしまう。
実際、リモートワークって効率性が悪いとか、そういうことってあったりするんですか?
エビデンスはですね、むしろ生産性を下げるどころか、在宅勤務の方が生産性が上がる。世の中の人たちが、エビデンスよりも自分たちの経験を頼りにしてるっていうことなんですよね。
1on1 Healthの市川です。今日のテーマは、エビデンスに基づく最高に効率的で幸せな働き方とは、です。ゲストは社会疫学が専門、慶應義塾大学専任講師の佐藤先生です。よろしくお願いします。
よろしくお願いします。
佐藤さんは8月に、この『働き方の科学』、ご自身も本当いらっしゃいらっしゃい。これ、どういう内容なんですか?
一言で言うとですね、エビデンスを使って働き方に関する常識を覆す本です。
常識を覆す。働き方は、結構誤解がまかり通ってる。
そうですね。世の中にたくさん働き方に関する本ってあると思うんですけれども、多くは成功者の方が自分の経験談をもとに語ってることが多いんですよね。
こうやってハードワークしたらいいんだよっていうのは、ハードワークで燃え尽きなかった人が出してるっていう可能性があるってことです。
そういうこと。要は生存者バイアスがかかりまくりの本が結構多くて、ちょっとそこに割って入りたいなと思いまして、エビデンスをもとに、本当の正しい働き方ってどんなもんだろうかというのを書いた本です。
なるほど。佐藤さんは、もともと厚生労働省で官僚として働かれていて、その後、研究者の道に入られたってことなんですけど、ぜひ皆さんに知ってほしい、エビデンスに基づく、効率的で幸せに働こうという方法について、前後編で取り上げていきたいんですけども、まず今回のテーマはこちらです。
管理職は罰ゲーム。上司ガチャで人生が決まるは本当か? 結局いくら稼げば幸せなのか。僕、いくら稼いだら幸せなんだろうって。なんとなく年収1000万稼いだ方がいいとか言うじゃないですか。それって本当だったりするんですか?
そうですね。実は、稼げば稼ぐほど幸せになれるというのは、最近のエビデンスで分かってきています。
結局そうなんですね。その辺りを伺っていきたいと思います。まず、管理職は罰ゲームかってことで、最近、管理職になりたくない若者がすごく増えているって話も聞きますけれども、実際のところ、管理職ってどうなんですか?
そうですね。確かに、こういう責任のある仕事、管理職って私自身はすごいやりがいがあると思うんですが、データを見ていくと、なかなかお勧めできるような働き方ではないかなというふうに、正直なところ思いますね。
それがこちらという。これ、ご解説いただいていいですか?
これはですね、専門職と管理職、それ以外のその他の方々の、過去20年、30年ぐらいの死亡率の推移を見たものなんですね。それで、1995年ぐらいまでは、職の高い方が死亡率が低い、すなわち管理職の方が一番死亡率が低いということだった。
そうです。これはやっぱり管理職になれば、それこそ年収も上がりますし、自分の権限も増えて、余裕ができてくるので、死亡率が低くなるっていうのはなんとなく理解できるんですが、状況が変わったのが1995年以降なんですね。
はっきり違いますね。
そこから管理職の方の死亡率がぐんぐん上がっています。そして右側のグラフはですね、特にこれが何の原因なのかということで、自殺について見たものなんですが、ここで管理職の方の自殺率がかなり95年以降上がってるというのが分かるんですね。
右肩上がりですよ。これは何が起きているんですか?
これはバブル崩壊があって、どんどんリストラが行われたと。それで管理職の方の人数が減らされてしまって、少ない人数で大勢の部下をマネジメントしないといけないという状況が95年以降生まれたんですね。
最近だと働き方改革があって、いわゆる一般の社員はあまり残業させられないから、管理職が残業しなきゃみたいな話も聞きません?
おっしゃる通りで、最近、パーソル総研などが出している調査ですと、働き方改革が進んでる企業ほど管理職の負担が増えているというような、ちょっと政策の目的とは反するような結果が出てきてますよね。
管理職って、ならない方がいいんじゃないかって思っちゃうんですけど。
データだけで見ると、本当に罰ゲームになりつつあるかなというところが現実です。
もう1個、図を用意いただいたんですが、こちらは?
これは、健康を害する、あるいは自殺率が高まってしまうっていう、一番多くの原因がストレスなんですけれども、実は仕事の中身によっても、ストレスがかかりやすい仕事とかかりにくい仕事っていうのがあるということが分かっています。これが、どういう仕事が一番ストレスがかかりやすいかということを、仕事の要求度が低い、高い、それからコントロールが高い、低いところで分けております。
例えば、この図で言うと一番右上のアクティブ群という方々。これはですね、経営層とかお医者さんとか、仕事の要求度自体は高いんだけれども、一方で自分の裁量も高くて、能動的に仕事をされてるような方々を大体表しています。逆にストレスが一番低い群というのが、低ストレス群と書かれているところ。これ、仕事の要求度が低い一方で裁量は高い。例えば、我々研究者みたいな仕事が。このモデルを作ったのはカラセック教授という方なんですけれども、その方が言うには、研究者とか芸術家とか、そういった仕事の方々はこのところに入ってくると言われています。
なるほど。右上のアクティブ群っていうのは、例えば経営者とかですかね。
そうですね。
もう自分の裁量でいろいろできるけど、スーパーハードワークみたいな。
そうですね。
一番ストレスが高いのが?
それが一番右下になります。高ストレス群ということで、仕事の要求度が高い割に自分で決めることができない、コントロールが低い人々ということですね。
例えばで言うと?
例えば、そうですね、電話のオペレーターとか、あるいはウェイターさんとか、そういうかなり決められた時間で仕事をきちっとこなさないといけないんだけれども、自分が職場のことを決められるかと言うと、そうでもないと。そういう仕事ですね。
一方で、長時間労働するということにも、いわばメリットもあるっていうことも分かって。
そうですね。やっぱりこれは、すごく直感的に分かりやすいかなと思うんですけれども、バリバリ働く方っていうのは、働いて昇進をして稼ぎたいっていう方が多いんじゃないかなと思うんですが、実際データでも、長時間労働をすると昇進しやすいということが分かっています。
これはアメリカでMBAを取るような、いわゆるエリート層を対象にした調査なんですけれども、興味深いのはですね、1週間の労働時間が45時間ぐらいまでは、別にそんなに昇進のしやすさって変わらないんですよね。何時間働こうが。様子が変わってくるのが週48時間を超えた辺りから。ここから急に昇格確率が上がっていくと。なのでこれは、人よりかなり長く働くっていうやる気を見せることによって、上司の目に留まって昇進しやすくなるということを表してる、そういうグラフです。
なるほど。週に5日働くとして、1日8時間だと40時間ですから、ある程度やっぱり残業をする。しかもかなり残業をするとなると、ぐっと昇進の確率が上がるってことなんですね。
そうなんですよね。
確かに私も、過去、NHKっていう放送で働いてたんですけれども、やっぱりバリバリ働く人は、周りから見ても上司から見ても、頑張ってるんだから評価してあげなきゃっていうふうな、そういうカルチャーがあったなって思います。これって、日本の会社とか日本文化っていうところがあるんですかね、そういうところ。
かなりあると思いますね。よく言われる話ですけれども、日本の雇用システムってメンバーシップ型って呼ばれてるんですよね。欧米型ですとジョブ型と呼ばれていて、もう雇用契約の段階で、あなたは何しなさいっていうのが明確に決まってるわけです。一方で日本の場合はメンバーシップ型で、新卒で一括採用で、その入った企業とメンバーシップ契約を結ぶと。すると、欧米のようにジョブっていうのがあらかじめ与えられてませんから、メンバーとしていかに会社に忠誠心を尽くすか、組織にやる気を示すかっていうところで評価されやすくなってしまう。それが長時間労働につながるわけですよね。
なるほどね。だからジョブ型、つまりあなたは、仮ですけども営業マンです。営業マンの仕事をしてくださいって言われたら、いかに営業マンとして契約を取ってくるかっていうところで評価されるんだけど、メンバーシップ型だと営業に行くこともあれば、経理をやることもあれば、企画をやることもあるってなると、そこの成果で見るというよりは、どれだけ頑張ってるかみたいなところで評価されやすい。
そう。何でもやりますっていう人材の方が評価されやすいってことですよね。
分かるけど、そのことがむしろ仕事を長時間やんなきゃいけないっていうところにつながっていくってことなんですか?
そういう土壌があると思いますね。
一方で、アメリカとかでも長時間労働してる人はしてますよね。
そうですね。例えばこのグラフ、MBAを取るような方々っていうふうに申し上げたんですけど、アメリカのトップ層は、やっぱりそういう働き方で、どんどん長時間労働して、がむしゃらに頑張って、めちゃくちゃ稼ぐっていうような働き方をしてますね。
だから大事なのは、そこに裁量があるか否かっていうか、自分でやりたいからやってるかっていうところがポイントなんですね。
そうですね。そう思います。
分かりました。ここまで管理職という方向で聞いてたんですけども、僕、聞いてて、やっぱりそうなってくると管理職ってめちゃくちゃかわいそうだなっていうふうに思って、僕、なりたくないよって思うようになっちゃったんですけど、管理職の人って本当に罰ゲームになっちゃうんですけどね、どうにかしようはないんですか?
やっぱり管理職って、組織を回す上で絶対に必要なポジションなので、改善していかないといけないと思うんです。
ですよね。
それに必要なのが、柔軟な働き方ができるっていうことだと思うんです。よく中間管理職がすごくつらいという話がありますけれども、それはやっぱりポストに見合った裁量とか柔軟性が与えられてないってことが原因にあると思うんですよね。なのでそこをちゃんと、職が上がったからには自分でコントロールできる部分を増やしてあげるっていうことが非常に重要なんじゃないかなと。
時間の柔軟性って、どうやったら実現できるのかってこと、3つ挙げていただいてますね。
そうですね。まずは、どうしても例えばお子さんが風邪をひいてしまったとか、病院に行かないといけないとか、そういうときに業務を誰かと分担できる仕組みっていうのが重要になってきます。それから今はかなりITも発達してますので、そういったものを使った情報共有とか引き継ぎが標準化されていること。それから、対人業務ですと顧客がなかなか属人的で、個人で持ってしまうってことも多いかもしれませんが、それをチームで持てるような設計にするっていうことが重要かなと思います。
それこそ管理職だけじゃなくて、いわゆる子育て中の、例えば女性の方。どうしても日本だと子育てを女性が担うっていうところが、まだ実際問題、多いと思うんですけど、そこに関しても大事ですよね、この設計っていうのは。
めちゃくちゃ大事ですよね。それで、先ほどメンバーシップ型、日本型雇用だと長時間労働になりがちだっていうことで申し上げたんですけど、逆に考え方を変えればメンバーシップなので、こういう誰かと業務分担するとか、引き継ぎしてチームで回していくみたいなやり方は、むしろメンバーシップ型の方がやりやすいんじゃないかなと思うんですよね。ですので、ジョブ型がいいんだと無理やりジョブ型にするっていうよりは、今ある制度の中でどう柔軟性を担保していくかってことが重要ですね。
確かにジョブ型だと、俺、営業だし、営業以外のことって僕の契約に入ってないからできないよってなりがちですけど、メンバーシップ型だと、分かったと。一旦そこ、僕がやるからさっていうふうになりやすいですよね、マインド的にも。その意味では、メンバーシップ型だからこそできる幸せな管理職の働き方っていうのもありうるってことなんですかね。
そう思いますね。
さっきの時間の柔軟性っていうところで、リモートワークが最近どうなのかっていうことが結構話題になってて、リモートワークから今、コロナが明けて、例えばMetaとかGoogleとか、ああいったIT企業でも出社回帰っていうのが進んでますが、実際リモートワークって、すごい時間が柔軟ですけど、効率性が悪いとか、そういうことってあったりするんですか?
いえ、エビデンスはですね、むしろ生産性を下げるどころか、在宅勤務の方が。
そうなんですか。
よく肌感覚で言われるのは、在宅勤務してるとどうせサボってるだろうということなんですけれども、でもそれはちょっと落とし穴があります。どういうことかというと、在宅勤務を好む人っていうのが、もともと生産性の低い、要はサボりたい人だけが集中して在宅勤務をしてる可能性っていうのがあるんですね。
なるほど。
ですから、単純に在宅勤務してる人、出社勤務してる人で生産性を比べてもあまり意味がなくて、もともとの生産性の違いがあるかもしれない。
じゃあ差を見なきゃいけないってことですかね。なるほど。
そうですね。例えばよく多い研究だと、コロナでみんな在宅勤務になりました。それで生産性がどう変わりましたかっていう研究もたくさんあるんですけど、生産性が仮に下がりましたっていうのが分かったとして、それは在宅勤務の影響なのか、コロナの影響なのか、何なのか、効果が混ざっちゃうんですよね。
じゃあ、どうやってリモートワークの生産性って調べたらいいんですか?
もうこれはですね、実験をやるしかないんですよ。医薬品の効果を確かめるように、片方のランダムに選ばれた方の群には在宅勤務をさせて、もう片方の群にはさせない、出社をさせる。こういう実験で、ちゃんと効果を測定する必要があります。
だから、在宅勤務したい人、したくない人で分けるんじゃなくて、そうすると好みの影響が出ちゃうから、100人のチームがあるとしたら、くじ引きで50人選んで、あなたはリモートワーク。くじ引きで50人選んで、あなたは出社勤務ってしたら、その2つで比べるとどうなったんですか?
その結果が、生産性が下がるどころかむしろ上がるっていうのが、スタンフォード大学の研究で分かってます。
なるほど。そうか。そして、そういうふうにリモートワークした方が、健康とか仕事を続けられるかみたいな点でも、いい影響があると。
これもかなり明確な結果が出ていて、従業員の仕事満足度が爆上がりします。そして結果的に離職率がかなり下がるということで、このグラフは出社勤務してる方と、あとは週2回のハイブリッド勤務をした方の離職率の違いを見てるんですけど、かなり違いがある。3割ぐらい低いというのが出てますね。
最近、僕の知り合いでも、週に1回もしくは2回は出社するけど、後の日はリモートワークみたいな働き方してる人もいるんですけど、それって、例えばずっとリモートワークと比べてどうなんですか?
そうですね。フルリモートと、あとはちょっとだけ出社がある場合、どっちがいいかっていう研究も、実は同じスタンフォード大学の研究チームが最近論文化してまして、それによると、実はちょっとだけ出社した方が生産性は高いという結果が出てきています。
それ、なんでなんですかね。
やっぱり出社をすることで、上司や同僚とのコミュニケーションが生まれるんですよね。それによって、何か困ったことがあったときに誰に相談すればいいかっていうのが、人と人との会話、コミュニケーションで分かってくる。そういうのが少しまた生産性を底上げするような原因になってるようです。
そこまで聞いて逆に疑問に思ったのが、そこまで結構厳密な研究で、こういう働き方の方が幸せだよと、効率性も上がるよってなってるけど、世の中では出社回帰みたいになっちゃうわけじゃないですか。このギャップ、なんで生まれちゃうんですかね。
そうです。なので、世の中の人たちが、エビデンスよりも自分たちの経験を頼りにしてるっていうことなんですよね。なのでこの本を書いたわけです。
なるほど。だからこそ、これを読んで。
そう、誤解が多すぎるから。
そうなんです。
そうなのか。でも本当にこれ、いわゆる管理職とか、もっと上の経営の方にこそ読んでほしいですね。
そうなんですよね。
ここまで管理職っていう話を結構してきたんですけど、逆にもう1個よく言われるのが、上司ガチャっていうのもあるじゃない。上司が誰になるかっていうことによって、部下側に影響があるって、そういうのっていうのは科学的に分かってるところがあるんですか?
実は今、上司ガチャ、要はカプセルトイのように、なかなか部下は上司を選べない、たまたま来るということなんですが、実はどんな上司に当たったかということによって、その人の将来の給料、さらには健康にも影響が出てくるっていうことが、エビデンスで分かっています。
エビデンスで分かってるんですか? どういう変化が出るんですか?
例えばまず、能力の高い上司がたまたま自分の上に来てくれた場合。これ、最近出た論文で、100カ国で20万人のホワイトカラーを対象にした分析なんですけれども、30歳までにマネージャーに昇進するような非常に優秀な上司が上に来た部下というのは、7年後の給与が13%も高いということが分かっています。
そっか。なんでですか?
それはなぜかって言うと、実際、能力の高い上司というのはですね、部下との1on1のミーティングにかなり長い時間を割いてるってことが分かってきたんですね。
出世する上司ほど、自分の仕事が大事だから、そういう部下の育成に心を配らないような気がするんだけれども、実際はそうじゃないってことですね。
そうですね。チームとして生産性を高めるためには、やっぱり部下がどんな適性を持ってるかっていうのを上司が知ることが非常に重要で、実際、ミーティングをする中で、この部下がどこで花が開くか、どんな適性を持ってるかっていうのが分かることによって、適材適所の部署に部下が異動できると。そして昇進していくっていうことが、実際データで最近示されました。
あと先ほど、健康にも影響があるっておっしゃってましたね。
これもですね、今度はスウェーデンの研究なんですけれども、リーダーシップ能力の高い上司のもとで働いていると、心疾患のリスクが20%低いというデータがあります。
心疾患って、やっぱりメタボとか運動不足とかになると思ってたけど、上司でなっちゃうってことなんですか?
そうなんですよね。なので裏を返すと、決められない、リーダーシップがないような上司のもとで働いていると、心疾患のリスクが上がってしまうということなんですよね。
めちゃめちゃやばいじゃないですか、それ。なんでそうなっちゃうんですか?
それはやはりストレスと関係してると思われます。
なるほどね。
最近、60年間にわたって515本の研究をまとめたメタ分析っていうのが出てきていまして、部下の人が最もストレスを感じる瞬間って何なのかっていうのが、実は明らかになったんですね。何だと思われますか?
何だろう。部下ですよね。僕が今思いついたのは、結構、無理な仕事を大量に任せてきて、自分ではどうしようもないのに助けてくれないみたいなのは、すごいストレス。
そうですね。私も結構最初は、そういう要求度が高いとか、仕事の量が純粋に多いことが一番ストレスの原因になるかと思ってたんですが、実はその論文で分かったことは、役割が曖昧であることが部下にとって一番ストレスフルな状況だってことが示されたんですよね。なので、リーダーシップ能力が低い上司で、明確な指示を与えない。そんな上司が上に来ると、部下は何をやったらいいかが分かんない。どこまでやれば評価されるのかというのが分からなくて、不安になってストレスを感じ、そしてついには心疾患になってしまうと。そういうメカニズムがありそうなんです。
私もたまに悪気になってね、仕事があったときに、とりあえずなんかやるようにやってごらんよって、ちょっと渡しちゃうケースがあるんですけど、あれは良くないってことですね。
そうですね。ちょっと山本五十六の言葉を思い出していただいて。「やってみせ、させてみせ、褒めてやらねば人は……」。
なるほど。自分でまずやってみて、やらせてみて、褒めないと駄目だと。
そういうことですね。
山本五十六さんって、やっぱり理想の上司って感じですよね、そう考えると。なるほど。分かりました。次のテーマに行きたいんですけれども、結局いくら稼げば幸せなのかということで。労働って、もちろんやりがいもあるんだけれども、やっぱり高い収入をもらえたらうれしいし、だからこそ、いろんな転職をしたりとか、長い時間働いてなんとか昇進しようとしたりするじゃないですか。でも一方で、働きすぎて体を壊して死んじゃったら幸せじゃないんですよね。
そうですね。
だから、どこまで稼げば幸せなのかって、これは結論が出てるんですか?
そうですね。最近の研究で、実は稼げば稼ぐほど幸福度が上がるという研究が出てきています。
こちらですか?
そうですね。これ、見方がちょっと難しいと思うので解説をしますと、横軸がアメリカドルの世帯年収を表しています。
どのぐらい稼いでいるかですね。
そうですね。縦軸が幸福です。グラフが5つぐらいに分かれてると思うんですけど、これ、もともとの幸福度が集団全体の中で上位15%の人から15%の人で分けてる、年収と幸福度の関係を分けてるというグラフになります。
そもそも幸せな人か、そもそも不幸せな人かっていうので、5グループに分けてるってことですね。そうすると。
グラフを見て分かるのが、まず全体的な傾向としては、年収が上がれば上がるほど、どんどん幸福度は上がっていくんですね。どこかで年収800万円を超えると幸福度が頭打ちになるんだみたいな研究が一昔前に出て、その話を聞いたことがある方も結構多いんじゃないかなと思うんですが。
私、聞いたことありました。
実は同じカーネマン教授という方が、より正確なデータを使って分析し直すと、それはちょっと実は間違いだったということが分かっています。なので、どこかで頭打ちになるということではなく、基本的には収入が上がると幸福も上がると。
身も蓋もない。やっぱり稼げば稼ぐほどいいんじゃないかってことですよね。
あと、このグラフで言えることは、ただ高所得の人ほど幸福度の格差が大きいということなんですね。つまり、そもそも幸福度の低い人たちというのは、やっぱりちょっと頭打ちになるところがあって、一方で、もともと幸福度が高い上位15%の人たちっていうのは、年収が上がると、ここからさらに加速度的に幸福が上がっていくということがデータで示されています。
これまた身も蓋もない話なんですけど。そう言われて分かったのは、収入が多いから幸せなのかって言うとそうでもなくて、幸せかどうかって収入以外のところでも決まるから、多分こういう関係が出てくるんでしょうね。
おっしゃる通りです。なので、実は高所得、収入が幸福を決めるわけではなくて、実はこの論文で言われていることは、収入というものが幸福度の個人の違いをどれぐらい説明するかと言うと、1%にも満たないということなんですね。
そうなんですか。1%。
はい。なので、基本的に収入って一定程度は必要なんですけれども、じゃあ高所得層になってくると、それが幸福度を決定するかと言うと、それ以外の要素が大きくなってくると。
必ずしも正確じゃない理解かもしれないですけれども、こう見ると、確かに稼げば稼ぐほど全体的に幸せになってくるんだけど、それって幸せの全体からすると、わずかな部分がちょっとずつ増えていってるっていうことで、もっと大きな部分があるんだよっていうこと。
そういうことですね。
それ、どういうことなんですか?
例えば、大切な人を亡くしてしまうとか、自分に病気があるとか、そういうお金以外のことというのが幸福に関わってくるっていうことですね。
そういう中で、面白い研究も教えていただいてます。これ、どういうことですか?
これは、人というのがどういう瞬間に幸福を感じるかっていうのを、ランキング形式でデータを取ってきて表したものなんですね。見ていくと、一番トップがパートナーと親密な時間を過ごしているという時間で、2番目、3番目が演劇とかダンス、あるいは美術館、博物館、図書館といった文化的な活動をしている。4位にスポーツ、ランニングみたいなのが入ってくるということですね。
ワースト10を見ると、確かに良くなさそうなもので。
そうですね。まず圧倒的に不幸な瞬間というのが、病気で寝込んでる瞬間。そしてワースト2が、働いてるとき、勉強してるとき。
そうですか。
という結果が出ております。
その他にも、介護、それから待ち時間、事務、会議、そして通勤、家事、そしてやっぱりSNSとインターネット。やっぱり世に言われてる良くなさそうなものは良くない。
しっかりデータで示されてますね。
面白いですね。だから、仕事はやっぱりしなきゃいけないと。幸せな瞬間って、いわゆる余暇って言うんですかね。自分の趣味をしていたり、大切な人と時間を過ごしていたり、あとはスポーツをしていたりっていう時間を、これだけ見ると増やさなきゃいけないっていうふうに見えますよね。つまり、究極、余暇だけの方がいいんじゃないかみたいな。
ただ余暇を楽しむためには、やっぱりお金が必要ですから。
そうですね。
嫌な仕事もやんないといけないと。要はバランスが重要になってくるっていうことですね。
そのバランスを示したものがあると。教えていただいていいですか?
私、専門が医療経済学というのもあるんですけれども、その医療経済学の中で、グロスマンモデルという非常に有名なモデルがあります。実はこのモデルは、人間が最も幸福な1日の過ごし方を教えてくれるようなモデルになってるんですね。
へえ。どうぞ。
じゃあ、この図の左の方から説明をしますが、出発点は1人1人に平等に与えられてる時間です。これは1日24時間っていうのは、どんな裕福な人でも貧しい人でも平等に与えられてますね。
平等に。
この24時間をフルに全員が使えるかというと、そうではない。つまり病気で寝込んでる時間があると、そこは活動できないわけですから。それを引いたのが可処分時間になります。グロスマンモデルでは、この可処分時間を3つの活動に割り振るというふうにしています。すなわち、1つ目が労働、2つ目が余暇、3つ目が健康投資です。
これ、順番に見ていきますと、1つ目の労働に関しては、繰り返し出てきたように、所得を得るために絶対に必要になってくるというものです。この得られたお金、それから時間を使って、2番目、余暇を楽しむ。すると幸福が生まれます。もう1つ重要なのが、3つ目の健康投資になります。つまり、ジムに通って運動するとか、あるいはちゃんと睡眠を取るとか、おいしい野菜を食べるとか、そういった健康に関する時間とお金を使って行うもの、それが健康投資ですね。
この健康投資を行うとどんなメリットがあるかと言うと、次に出てくる健康資本。実はこれがグロスマンモデルの中核をなす概念でして、健康というものを資本として捉えてるんですよね。つまり、投資を行うと、それがストックとしてどんどん蓄積していくと。これがどういうものを生み出すかと言うと、2つあります。1つ目が可処分時間を生み出す。
つまり、病気になりにくく。
そうです。健康体であると病気の時間が減って、将来の生産的に使える時間が増えますというのが1つ目。2つ目が幸福そのものを生み出すということですね。市川さんも病気、けがをされたときに、そこから回復されたら、やっぱり健康って大事だなって思われたことありますよね。
そうですね。だから逆に、病気になって初めて、健康であったことってこんなに幸せだったんだなって、やっぱり思いますね。
ですよね。それがまさに、この健康資本そのものが幸福を生み出すという働きなんですよね。
なるほど。これ、僕が気になったのは、僕、働いていい結果が出る、何か成果が出ると幸せを感じるんですよね。だから、労働と幸福も別につながるんじゃないかなって思ったんですけど、そうではないですか?
そうですね。結構それはまれな人なのかもしれないです。先ほどの幸福な瞬間ランキングで、労働ってやっぱりワースト2になってましたので。基本的には、これ、非常に単純化したモデルなので、もちろん労働があたかも余暇のように、楽しんでやってらっしゃるっていう方は一部にはいらっしゃると思いますが、平均的には、一般的に見ると、なかなか労働っていうのはあくまでもお金を稼ぐ手段というふうに、割り切って考えられている。
なるほどね。健康投資ってよく言うんですけども、それが幸せっていうものにつながってるっていうイメージはあまりなかったので、それ、結構学びでしたね。
今回ここまで、エビデンスに基づく、効率的で幸せな働き方のベースとなる考え方について伺ってきました。ということで、後編では、このグロスマンモデルから導き出された、エビデンスに基づく最高で効率的な1日の過ごし方ということを伺ってまいります。どうぞよろしくお願いいたします。
よろしくお願いします。
この内容、良いと思っていただいたら、ぜひチャンネル登録、高評価よろしくお願いいたします。今日ありがとうございました。
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