介入と利上げでも円安が止まらない理由 加藤出氏が語る日銀、ベッセント発言、長期金利

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概要

今年は日米協調介入、レートチェック、日銀による2度の利上げがあった。先日の日米首脳会談ではトランプ大統領も円安への懸念を示している。円高につながりそうな出来事が続いたにもかかわらず、為替市場は再び円安に戻りつつある。何が起きているのかを、MCのDJ Nobby氏が東短リサーチのチーフエコノミスト、加藤出氏に聞いた。加藤氏は現状を「通貨危機と言ってもいいぐらい」円が弱い状況だとみる。そのうえで、円安が止まらない構造的な要因と金融政策上の要因、米国側の事情、そして個人がとるべき備えについて説明した。

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短期金融市場を見てきたエコノミスト

加藤氏は日銀ウォッチャーとして約38年、金融政策を見てきた。所属する東短リサーチのグループは短資市場、つまり短期金融市場(海外でいうマネーマーケット)で取引の仲介をしている。短期金融市場は金融機関どうしが短い期間でお金を貸し借りする市場で、最も取引が多いのは今日から明日までの1日だけ貸し借りするオーバーナイト物だという。グループには為替取引の仲介、国債売買の仲介、金利デリバティブの仲介を手がける会社もある。

東短リサーチはその調査部門にあたり、金融機関や機関投資家など市場のプロに情報を提供している。最も多い問い合わせは日銀の今後の動きについてだ。ロンドンやニューヨークの同業ネットワークも使い、FRBやECBの動向も分析している。レポートのほか、地方の金融機関を回って勉強会や講演会も行っているという。

「通貨危機的」と言える理由

加藤氏が現状を通貨危機的と表現する根拠は、介入しても円安が止まらないことだ。政府がこの春以降に行った介入の額は非常に大きい。米国に協調介入してもらい、そのイメージでなんとか支えているのが実情だと加藤氏は述べる。円安圧力の背景には、長期的で構造的な要因と、近年加わった金融政策由来の要因が重なっているという。

加藤氏は2020年初めを100とした名目実効為替レートのグラフを示した。主要通貨のうち100を下回って推移しているのは円だけで、3割ほど下落している。比較のために挙げたのが英ポンドだ。2022年のいわゆるトラス・ショックでは、財源なき減税策を発表した英国の財政が疑われ、ポンドが大きく売られた。ただし減税策は数週間で撤回され、ポンドは元に戻った。これに対して円は持続的に下がり続けており、加藤氏は円の中期的な下落と比べると「トラス・ショックも可愛く見えちゃう」と話した。

円相場の流れについて、加藤氏は次のように整理した。2024年7月には利上げ前倒し観測と介入が重なり、米国の景気不安も出て急に円高が進んだ。2024年夏から2025年夏まではトレンドがはっきりしないボックス的な動きだった。昨年秋ごろから再び円安がはっきりしてきた。これは高市政権の財政政策や、政府側に日銀の利上げをけん制するムードがあることを、市場が円安材料として評価した結果だという。

1ドル158円で換算した日米の価格比較も示された。東京ドームの生ビールは900円だが、ロサンゼルスのドジャー・スタジアムでは3,000円台になる。加藤氏は観戦した日に大谷選手がホームランを打ったので2杯目を頼みたかったが、合計6,000円台になるので思いとどまったという。周りの米国人は平気で何杯も飲んでいたそうだ。

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マイナスの実質金利がお金を円から押し出す

円安の背景として、加藤氏は長期的には日本の競争力低下があると指摘する。それに加えて近年大きいのが、日銀の金融緩和からの修正が遅く慎重すぎることだという。

加藤氏は主要中央銀行の政策金利、インフレ率、両者の差である実質政策金利を並べたグラフを示した。日本の政策金利は1.25%。インフレ率は2種類載せている。昨年末のガソリン暫定税率廃止や各種補助金が表面上のインフレを抑えているため、日銀が特殊要因を除いて計算した数値も示しており、こちらは2.6%だ。ちょっと前までデフレと言われていた日本も、いつの間にかそこそこのインフレになっている。政策金利からインフレ率を引いた実質政策金利は、日本はまだマイナスだ。

預金金利も政策金利に連動するため、預金の実質金利もマイナスになる。元本が実質的に目減りするので、お金は株式市場や外貨建て金融商品に流れやすい。加藤氏は、実質金利が低い状態が続く限り円安は止まりにくいと述べた。

本来、円安がここまで続いているなら実質金利をプラス方向に持っていく必要がある。しかし日本の政策金利は過去約30年間0.5%以下が続いてきたため、急に上げるとあちこちでトラブルが起きそうだと慎重に進めてきた。加藤氏はその慎重さが行き過ぎたとみている。最近はFRBもECBも利上げを再開したため、日銀が9月に利上げしても金利差がなかなか縮まらない。さらに日銀が利上げすると国債金利も上がるため、政府との関係が難しくなる。そこでためらうと実質金利のマイナスが縮まらず、円安基調が止まりにくいという構図だ。

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OIS市場が織り込む「来年半ばに2%」

今後の利上げについて、加藤氏は円OIS(オーバーナイト・インデックス・スワップ)市場の織り込み度を示した。OIS市場は、事実上日銀の政策金利の先行きを予想する市場だ。日銀が0.25%ずつ利上げする前提で、収録前日時点の数字は次のとおり。

  • 1.5%への利上げ:10月会合で41%。9月18日の決定会合直後は20%もなかった。12月では100%を超える。
  • 1.75%への利上げ:12月で11%、来年3月で112%。
  • 2%への利上げ:来年6月で94%、7月ならほぼ完全に織り込み。
  • 来年12月までには2.25%も織り込んでいる。

つまり市場は来年半ばに政策金利が2%に達すると見ている。加藤氏によれば、織り込みはこの1週間でかなり前倒しされ、7月末と比べると相当進んだ。

加藤氏は前倒しの理由として、まず米国が協調介入という珍しい行動に出たことを挙げる。米国のベッセント財務長官は円安の原因を日銀の金利が低すぎることだと見ており、実際にそうした発言を繰り返している。一方で加藤氏は、日銀は言われたから利上げするわけではないとも述べた。日銀は7月の段階から物価の上振れリスクをはっきり心配し始めていたという。

日銀が挙げる要因は三つある。一つ目はイラン戦争以降の中東要因による価格上昇だ。卸売・企業部門の川上ではすでにはっきり起きており、川下の消費者物価にも転嫁が始まった。この秋以降さらに強まりそうだと日銀は見ている。二つ目は世界的なAI関連投資ブームで、当面は需要を押し上げて物価を上げそうだ。三つ目は円安で、日本企業は数年前と違い、仕入れコストの上昇を我慢せずすぐに価格転嫁する傾向がある。

こうした説明は以前からやんわりとされていた。ただ7月下旬の市場では、高市政権が利上げをけん制しそうななかで日銀が本当に利上げできるのかと疑われていた。協調介入で米国が実際に口を出してきたことで、日銀は思い通りに、あるいは思っている以上に利上げしなければならなくなるのではないかと受け止められ、織り込みが前倒しになったと加藤氏は説明する。

MCが米国のイラン戦争の長期化を指摘すると、加藤氏も同意した。ここ数週間で戦争がこじれそうだという見方が強まり、物価上昇懸念とFRBの利上げがさらに続くかもしれないという観測が出てきた。それに押される形で、日銀も利上げを迫られるという織り込みが強まったという。

金利差は縮まらない 「数カ月前なら140円台もあった」

MCは、このペースで利上げが進めば日米金利差はかなり縮まるのではないかと尋ねた。加藤氏の答えは否定的だった。米国も来年にかけて3回ほどの利上げが織り込まれており、日銀が2%まで上げても並行して動くだけだという。

加藤氏は、数カ月前に日銀が利上げ姿勢を明確に打ち出し、市場がこの程度の利上げを予想していれば、かなり円高に戻っていただろうと述べた。そのときなら140円台に行っていたかもしれないという。実際には追い込まれる形の利上げになっており、市場はそれをあまり評価しない。利上げの終着点(ターミナルレート)は少なくとも2.25%、2.5%に届くかどうかという織り込みだ。以前なら日銀がそこまで上げる姿勢を見せれば十分円高になったはずだが、今は2.25〜2.5%でどれほど円高になるのかという見方をされているという。

一方で、欧米が利上げするなかで日銀が上げなければ金利差は開いてしまう。加藤氏は、FRBが10月に利上げする可能性が高まるほど、日銀も追随せざるを得なくなると見る。

日銀自身の温度感について、加藤氏は9月18日の決定会合直後の情報発信は10月利上げを匂わせるものではなかったと振り返る。「柔軟に」という言い方で10月を否定はしなかったが、市場に織り込ませるほど踏み込んだ発言でもなかった。今後のカギは10月14日の米国消費者物価指数の発表だ。それを経て米国の利上げが確定的になればECBもおそらく利上げする。そのとき日銀が10月に動かなければ、11月に入ってから円安が進みやすい。日銀は10月利上げという選択肢を残しておきたいはずなので、10月初めに予定される植田総裁の講演で、9月18日の会見より踏み込み、「決まってはいないがあり得る」程度のニュアンスを出す可能性があると加藤氏は述べた。

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行き過ぎた円安の痛み:中小企業と家計

円安そのものは悪いことなのか、とMCは問う。加藤氏は、ある程度の円安は輸出大手の収益にプラスで、訪日観光客の増加も国内観光業のメリットになると認める。ただ、行き過ぎると別の問題が出る。

中小製造業は海外から資材を輸入し、国内の大手企業に納品していることが多い。大手がコスト上昇を受け入れて値上げに応じてくれればよいが、現実にはそうとは限らず、中小企業は板挟みになりやすい。家計にとっても、食料自給率とエネルギー自給率が世界的に低い日本では、円安が進みすぎると生活コストが上がる。それを上回る賃上げがあればよいが、急には難しい。さらに日本は年金受給世帯が4割近くある。年金は事後的にはインフレに応じて増えるはずだが、タイムラグがあるため不安は大きいだろうと加藤氏は話した。

具体例として、2020年初めから最近までのトウモロコシ先物価格の変化率を通貨建てごとに比べたグラフが示された。日本円建てが圧倒的に上がっている。トウモロコシは主に飼料に使われるため、上昇はさまざまな食品価格に波及しやすい。米WTI原油を通貨建て別に見ても、円建てが突出して上昇していた。

MCは、数字のわりに実感としてはそこまで上がっていないようにも見え、中間の企業が吸収しているのではないかと問うた。これに対し加藤氏は、帝国データバンクによる主要食品メーカーの値上げ品目数の調査を示した。3カ月ごとの集計で、2026年7〜9月は1万品目近くまで急増している。中東要因や円安を背景に、企業が苦しみながらも価格転嫁を進めている表れだという。10月は下期入りで値上げが多い時期でもあり、今年の10月も値上げは多そうだと加藤氏は見る。

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補助金で抑えたガソリン価格の裏側

ガソリン1リットルあたりの小売価格を円換算した国際比較では、日本はレギュラー約170円と最低水準だった。中東で何が起きても170円に上限をはめたような状態で、そのために膨大な補助金が使われている。産油国でもなく円安でもあるのに一番安いのは、それだけ財政資金を投入して抑え込んでいるからだと加藤氏は指摘する。裏返せば、財政状況がじわじわ悪化していくことになる。

MCが10月以降の電気・ガス代補助の終了にも触れると、加藤氏は物価がさらに上がりそうだと応じた。日銀が算出する特殊要因除きのインフレ率は現在2.6%だが、遠からず3%に乗ると見る。年が明ければ昨年末のガソリン暫定税率廃止の効果もはげ落ちるため、特殊要因を除かない素のインフレ率も3%を超えるだろう。インフレであることが数字の上でもはっきり見えてくると加藤氏は述べた。

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利上げを控えると長期金利はかえって上がる

政府の財政を考えれば急激な利上げはよくない、という意見もある。加藤氏は難しい問題だとしたうえで、二つの金利を分けて説明した。日銀が利上げすれば短い年限の国債金利は連動して上がり、政府の利払いは増える。一方、20年・30年といった長い年限の金利は、市場が見る経済や財政の先行きで決まる。日銀が政府に言われて適切な利上げをしないと市場が考えれば、インフレ率が目標の2%を超えていくという予想が織り込まれる。その結果、利上げしないことでかえって長期金利が上がってしまう。だから結局はインフレに応じた金利運営をせざるを得ない、というのが加藤氏の見方だ。

加藤氏は各国のイールドカーブ(金利曲線)を示した。日本は翌日物金利が先日の利上げで1.2%台なのに対し、30年国債利回りは4.2%近い。翌日物と30年物の金利差は、日本が主要国で最も大きい。日本に匹敵するのはフランスだ。フランスでは極右政権が勝てば財政をばらまくのではないかという懸念から、長期国債金利が上がっている。加藤氏によれば、イールドカーブの傾斜は先行きのインフレが収まりにくいと見られるときと、財政への信認が低下したときにつきやすく、日本では両方が重なっているという。

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スイスとの対比:財政ルールと中銀の独立性

対照的な例として加藤氏が挙げたのがスイスだ。翌日物金利はほぼゼロ、30年金利は0.6%程度で、長い年限ほど日本との差が圧倒的に大きい。加藤氏は、これはスイスの財政への信認が極めて高いからだと説明する。スイスには原則として財政赤字を禁じるような仕組みがある。景気が悪いときや経済危機のときは国債を発行して赤字にしてもよいが、経済が回復したら前に作った借金を返済し、国の借金を極力減らすよう求められる。中央銀行の独立性も非常に高く、利上げに政府が口を出すことはないという。

インフレ率も低いため、スイスフランは上昇してきた。かつてスイスフランと日本円は二大安全通貨と呼ばれ、危機のときは「有事のスイスフラン、日本円」だった。今ではすっかり明暗が分かれたと加藤氏は述べた。

各国の最低賃金を円換算した比較も示された。日本は東京都が約1,200円、全国平均が約1,100円。スイスの都市は東京の4倍近い。スイスは時給が突出して高く、スイスフラン高の影響もある。ロサンゼルスも業種によっては最低賃金が高い。これだけ差があれば国内物価の水準も違ってくる。外国人観光客は日本に来て安いと楽しむ一方、日本では円安で生活コストが上がり、給料が追いつかず苦しい人も出てくる。加藤氏は、ここまで円安が進むとさすがにバランスを欠いていると評した。

31:36

ベッセント財務長官の発言はどう強まったか

加藤氏は、ベッセント財務長官が昨年夏から日銀に遠回しに利上げを求めてきたと指摘し、その発言を時系列で示した。

昨年8月13日には、日銀は「ビハインド・ザ・カーブ」(対応が遅れている)に陥っており、利上げでインフレを制御する必要があると述べた。金融政策の話だが、真意は利上げで円安を止めろということだったと加藤氏は読む。当時はまだ直接「円安を止めろ」とは言っていなかった。昨年10月29日の発言は、日本政府が日銀に政策余地を与える意思を持つことが、インフレを抑え、為替の過度なボラティリティを避けるうえで鍵になる、という趣旨だった。加藤氏によれば、これは日本政府が日銀の利上げを許さないからインフレかつ円安になっている、という意味だ。この頃はまだ円安や水準には触れず、「過度なボラティリティ」とオブラートに包んでいた。

その後、いら立ちが強まるにつれて発言は直接的になった。9月1日にはリフレ政策をやめるべきだと述べた。9月8日には「私が胴元だ」と発言した。私は日本が何をしようとしているかをよく知っている、君たちが望むなら俺に対抗して賭けてみろ、という趣旨だ。加藤氏は、特別な情報を持っていると言うカジノの胴元とは取引したくないと冗談を交えつつ、ほとんど内政干渉ではないかという言い方で、本来は大変な発言だと評した。ただし、言っている内容は意外に正しい、日銀はもう少し利上げしたほうがよいとも付け加えた。

33:56

ベッセント氏の焦りの背景

ベッセント氏がここまで言うのは、政権内でトランプ大統領に相当追い詰められているからではないか、と加藤氏は推測する。最大の要因は米国の長期金利上昇で、トランプ大統領がこれに怒り、ベッセント氏になんとかしろと言っているのだろうという。

加藤氏はつながりを次のように説明する。円安が進むと日本政府は巨額の円買い介入をする。実際には介入の後で米国債を売却して資金を手当てすることになり、円安が進むと米国債に売り圧力、つまり金利上昇圧力がかかる。米国としてはそれを止めたい。もう一つは貿易面だ。トランプ政権は関税を引き上げて貿易収支を改善しようとしているのに、日本だけが突出して通貨安になれば抜け道になってしまう。この二つが合わさって、日銀にはもっと利上げを、高市政権にはリフレ的な政策をやめて日銀が利上げしやすくするよう求めている、というのが加藤氏の見立てだ。こう考えると、直近の協調介入やその後も続く日米当局者の円安けん制発言とも辻褄が合う。

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世界的な長期金利上昇とAI投資、「責任ある積極財政」

長期金利の上昇は世界的な現象で、加藤氏はその一因としてAI関連投資の規模を挙げる。テック企業の社債発行額が非常に大きく、それが米国債を押し出している。教科書的なクラウディングアウトは、政府が国債を大量発行すると民間の社債が押し出されて金利が上がるというものだ。今起きているのはその逆で、信用力の高いテック企業が大規模に社債を発行するため、米国債の金利を高くしないと買い手がつかない。そうした環境では、米国債より信用度の低い日本国債にはなおさら上昇圧力がかかりやすいという。

加えて高市政権は「責任ある積極財政」を掲げている。加藤氏によれば、実際には支出の抑制も効いているが、あえて積極財政というキャッチフレーズをつけているため長期金利が上がりやすくなる。今さらそれを撤回することもできない。加藤氏は、積極財政の基本方針は変えないにしても、長期的な財政の健全性に配慮する姿勢を見せたり、これまで日銀の利上げにかけてきたけん制を見直したりすれば、円安一辺倒ではなく円高方向への修正が効く可能性もあると述べた。

先日の内閣改造では経済分野の主要メンバーは変わらなかった。ただ最近になって、高市政権はリフレ政策をやっているわけではないという説明が出てきた。加藤氏は、これはベッセント氏に水面下で言われたのかもしれないと推測する。その説明を受けて、円相場は一時156円台をつけた。言葉だけでなく実際にインフレ抑制の方向へ向かい、高市政権では激しい緊縮は考えにくいにしても財政を多少健全化の方向に舵を切れば、円安トレンドがしばらく止まる可能性はあると加藤氏は見ている。

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160円を超えると米国にも打つ手は少ない

加藤氏が危ういと見ているのは、再び160円を超えるような円安になった場合だ。ベッセント氏は「胴元」などと強い言葉を使っているが、実は打てる手はそれほど多くないという。

7月末の協調介入は、ふたを開けてみればわずか5億ユーロほどだった。しかも米国が持っていたユーロを売って円を買うという変則的な形だった。通常、米国がドル売り介入をするときは短期国債を発行してドルを調達するが、そうすると議会から、なぜ円のためにやるのかと突っ込まれる。後で面倒なことになるため、手持ちのユーロを円に替えることでお茶を濁した、と加藤氏は説明する。

ベッセント氏が言及したFRBのFIMAレポも、加藤氏は使いにくいと見る。日本政府が保有する米国債をFRBに差し出してドルを借り、それで介入する仕組みだが、これまで使われたことがない。金利を払う必要があるうえ、借りたドルはいずれ返さなければならない。返すにはドル買い・円売り介入が必要になり、それはいつやるのかという問題が出てくる。

こうした事情から、大幅な円安局面が来ると当局にできることは少ない。だから米国はその手前でなるべく円安を抑えたい。トランプ大統領に円安はけしからんと言わせるのも、市場を警戒させておくためだと加藤氏は見る。FRBが10月に利上げし、日銀が動かず円安が進みそうな状況になれば、ベッセント氏はまた強く日銀に利上げを迫るだろうという。

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個人はどう備えるか:預金の目減りと変動金利型住宅ローン

MCは最後に、米国の中間選挙も控えるなかで今の金利・為替の状況をひっくり返すのは難しそうだとして、住宅や株を買う個人はどう考えるべきかを尋ねた。

加藤氏はまず、普通預金はこの5年で実質的に元本が十数%目減りしている状況だと指摘した。それは当面続きそうなので、預金からリスク性資産への資金シフトはまだ続き得るという。注目点は政府の金利に対するスタンスだ。政府がけん制して日銀に利上げさせたくないという姿勢が続けば、一時的に円高に振れても、またじわじわ円安が進むかもしれないという視点が必要だと述べた。インフレが目標の2%前後で止まればよいが、円安が止まらなければ上振れする恐れもあり、インフレヘッジとして株を持とうとする人も出てくるだろうという。

長い目で見ると、アルゼンチン、ベネズエラ、トルコのように激しいインフレに見舞われた国でも株価はとりあえず上がっている、と加藤氏は述べた。インフレを差し引くと実際にどれだけ上がったかは別問題だが、インフレ下ではリスク資産の価格が上がりやすい面はある。ただし短期的には変動するので、そこは各自の判断だとした。

住宅ローンについては、日本の政策金利の推移が示された。日本は長く0.5%以下が続き、ゼロやマイナスの時期もあったが、昨年末にかけて上がり始め、今ようやく1.25%まで来た。海外ではこの間、金利が上がったり下がったりしていた。住宅ローン利用者の実態調査では、変動型の比率が2006年7月には十数%しかなかった。当時はゼロ金利時代だったが、1991年頃には8%といった金利もあり、高金利の記憶が残っていたため、変動金利を怖がって固定期間のあるローンが選ばれていたのだろうと加藤氏は推測する。低金利が長く続くうちに金利は動かないような気がしてしまい、変動型の比率が大変高くなった。

しかし加藤氏は、日銀はインフレに応じて金利を上げていかなければ円安が止まらなくなるので、今後も上がっていくと見る。少なくとも2%に行く可能性があり、それでも円安が止まりにくい場合は2.5%程度もあり得るという。MCが、変動金利で借りている人はヘッジとして株を持つなどの備えを考えるべきかと確認すると、加藤氏はいろいろ考えていく必要があると答えた。そして、円安によるインフレで実質金利がマイナスになっていることが、さまざまな地殻変動を起こしていると述べて話を締めくくった。