Noon Energyは100時間蓄電をどう実現しようとしているのか:出力と容量を分けるLDESの戦略

YouTubeで開く ↗
概要

FoundXの番組「Startup IdeaCast」は、海外スタートアップのアイデアをAIで整理・分析し、起業を考える人の参考にする番組である。今回は、長時間エネルギー貯蔵(LDES:Long Duration Energy Storage)に取り組む米国のNoon Energyを取り上げた。番組の冒頭で、目的は「この会社が成功するかどうか」を判定することではなく、アイデアを考える際の参考情報を提供することだと説明している。また、AIで情報を整理しているため古い情報や誤りが含まれる可能性があり、事実を重視する場合は一次情報を確認してほしいとも断っている。

22分で読めます

解説役がこの会社を選んだ理由は二つある。最近Metaと大型契約を結んだこと、そしてLDESの企業は数多くあるのに番組ではあまり紹介してこなかったことだ。解説役がNoon Energyを面白いと考える点も二つに整理される。一つは、AIデータセンターの電力需要の急増という課題に蓄電の側から取り組んでいること。もう一つは、既存技術を少しずつ改善するのではなく、出力と容量を物理的に分離するアーキテクチャを採用していることである。以下、聞き手の富田氏とのやり取りに沿って議論を整理する。

再エネを「24時間365日使える電源」にする

Noon Energyは、再生可能エネルギーを24時間365日使える電源に変える「ウルトラLDES」を自社のポジショニングとして掲げている。システムは、出力を担う「パワーブロック」と、エネルギー容量を担う「タンク」の二つに分かれている。解説役によれば、同社のウェブページを見ても両者は分けて描かれていて、タンクを簡単に積み増していけるような設計になっている。

この構造では、出力(kW)を増やしたければパワーブロックを増やし、蓄電時間を長くしたければタンクのモジュールを追加すればよい。解説役は、こうした拡張性とそれに伴うコスト構造を、このアーキテクチャの面白い点として挙げた。

なぜAIデータセンターがLDESの顧客になるのか

富田氏は、AIデータセンターがLDESの顧客になる理由を尋ねた。解説役がまず挙げたのは、プレミアム価格を払ってくれることだ。データセンターは電力が一瞬でも止まると事業が止まるため、停電の許容度が極めて低い。そのため電力の確実性に対する支払意思が高い。

二つ目の理由は、系統接続や送電網の増強の遅れである。解説役によると、特に米国ではこの遅れが大きく、電力を待つことで事業の立ち上げが遅れてしまう。LDESを導入すれば送電網の増強や系統接続を待たずに済むのではないか、という期待がある。ただしこれは、火力を使うのではなく再エネを使いたいという前提があっての話だと解説役は補足した。一方で、現在主流のリチウムイオン電池では数日単位の低発電期間をカバーしにくい。その保険としてLDESがデータセンターで求められ始めている、というのが解説役の見立てである。

資金力の高さも理由に挙がった。解説役は、さまざまなグリーン系スタートアップが今AIデータセンターに向かっているのも、この点が大きいのではないかと述べている。

リチウムイオン電池では足りない理由

では、なぜリチウムイオン電池ではだめなのか。解説役は、LDESの議論でよく言われる点として説明した。リチウムイオン電池は8時間程度の蓄電なら非常に強いが、100時間級になると対応が難しいとされている。さらに、資本コスト、設置面積、希少金属の使用、火災リスクといった問題も指摘されている。

これに対しNoon Energyは、容量側を安価なタンクと媒体で増やせる設計を取っている。解説役は、この設計も含めて、Metaのような顧客がリチウムイオン電池よりNoonを使う方がよいと判断した面があったのではないかと推測している。

顧客ごとに異なる課題と「最初はAIデータセンター」

解説役は、Noon Energyが想定するターゲットを三つに分けて整理した。

  • データセンター事業者:非常に高い停電コストと、電力確保のスピード(スピード・トゥ・パワー、タイム・トゥ・パワー)が課題。約100時間を超えるような貯蔵は既存の電池では対応できないという、コスト面の壁がある。
  • 産業施設:再エネの導入が急務とされるなかで、安定電源が必要になる。クリティカルマテリアル(希少金属)への過度な依存を避けたいというボトルネックがある。
  • マイクログリッドや離島などディーゼル燃料に依存する地域:燃料価格、輸送、CO2、レジリエンスが課題。設置面積の制約がボトルネックになる。

ただし解説役は、顧客ごとに購買プロセスや購買の目的が違う点にも注意を促した。全てを同時に攻めると、営業やプロダクト要件が分散してしまう。アーキテクチャはある程度柔軟に対応できるものの、まずはAIデータセンターを狙うのだろう、というのが解説役の見方である。

離島やマイクログリッドについて、富田氏は電力供給以外に何が重視されるのかを尋ねた。解説役は、燃料輸送のリスク、騒音、保守、災害時のレジリエンスを挙げた。LDESが入れば再エネを使え、長時間の蓄電で燃料依存を減らせるので、リスクヘッジになる。ただし初期の設備投資(CAPEX)、メンテナンス、現地サポートの問題は、離島では課題になるだろうとも述べている。

炭素に貯めて酸素で電気に戻す仕組み

解決策の技術面では、パワーブロックは電気エネルギーと化学エネルギーを変換する部分にあたる。容量を増やしたいときにパワーブロックを増やすのではなく、タンク側でエネルギー容量を伸ばせることが、コスト課題への答えだとされている。

充電時には、エネルギーを炭素ベースの媒体に貯める。放電時には、空気中の酸素を取り込んで電気に戻す。主な材料は炭素と酸素なので、環境面の問題も少ないとされる。ただし解説役は、実際のシステムには炭素と酸素だけでなく、さまざまなシステム材料や触媒が使われているはずで、「メインが炭素と酸素」という理解が正確だろうと補足している。

同社が特に打ち出しているのが省スペース性である。固体炭素を使った高エネルギー密度により、リチウムイオン電池と比べて2〜3倍、フロー電池と比べて20倍から100〜200倍のコンパクトさを主張しているという。また、クリティカルマテリアルの使用量をリチウムイオン電池の1%未満に抑えている。解説役は、この点が持続可能性や経済安全保障の面でもポイントになると述べた。

なぜこれまで実現しなかったのか

富田氏が「この電池はとても強く見えるが、なぜこれまで誰も取り組んでこなかったのか」と尋ねると、解説役は次のように答えた。原理が単純でも、化学反応、セル材料、熱管理、効率、耐久性、システム制御が難しいとされてきた。

Noon Energyの創業者は、宇宙で使われていた技術に関わっていた人物である。火星探査機の酸素生成装置MOXIE由来の知見や、固体酸化物系の技術を応用することで、初めて実現できたとされている。解説役は、同社の技術的な優位は材料が安いことだけでなく、システム全体として安定して動かせるかどうかにあるのではないかと見ている。

実証の現状とMeta案件

実証は、コンテナ型モジュールで数千時間の運転と、200時間を超える蓄電容量の実験に成功したとされている。解説役はこれを大きなマイルストーンとして評価した。一方で、商用化には量産、保証、認証、保守が重要になると指摘している。今後はMWh単位での商業運用になるため、まずMetaとの25MW/2.5GWhの初期プロジェクトを最後まで完遂できるかがポイントになるという。

富田氏がこの規模感を尋ねると、解説役は、100時間の貯蔵を想定すると25MWを100時間出し続けられる規模だと説明した。研究段階の実証から商用インフラへの大きな飛躍であり、性能、コスト、納期、保守の約束が守られるかを証明する場になる。ラボから市場へ移る段階での大きな節目だ、というのが解説役の見方である。ただし、これまでの実証の何倍の規模になるのかは分からないとも述べている。

市場:高価格を払う顧客から入る

市場規模について、解説役は2030年までにTAMが5000億ドルに達するという見通しを紹介した(発言の一部は聞き取りにくい)。SAM・SOMとしては、AIデータセンターのバックアップ電源、産業向けのビハインド・ザ・メーター市場、遠隔地のマイクログリッドを最初に狙うとされている。

市場のドライバーとしては三つが挙げられた。一つ目はデータセンターによる電力消費の急増である。二つ目は系統接続の大幅な遅延で、新しい発電・蓄電プロジェクトの接続待ちが長期化し、独自電源やオンサイト電源のニーズが高まっている。三つ目は各国の脱炭素や再エネ100%の義務化の流れである。企業は再エネを調達するだけでなく、常時使える電源を求めている。解説役は、同社が電力市場全体ではなく、高価格を払う顧客から入ろうとしている点を重要視している。

データセンターに何を提供するのかという富田氏の質問に対し、解説役は次のように整理した。データセンター事業者は、発電源の確保に加えて、系統接続、土地、冷却、契約といった多くの課題を解決しようとしている。Noon Energyは、再エネの発電源と組み合わせて電源を常時化する部分を担う。おそらく事業者は再エネの調達契約を結び、短時間蓄電のバッテリーも入れたうえで、Noonのような長時間蓄電を組み合わせて常時電源化を図るのだろう、と解説役は推測している。

離島市場はVCスケールするのか

富田氏は、離島やマイクログリッドは規模が小さいが、Noonにとってどんな意義があるのかと問うた。解説役は、その市場だけではVCが求める規模にはなかなか届かないだろうと答えた。日本は離島が比較的多いので日本については分からないとしつつも、離島だけではそれほど大きくならないという見方である。

一方で、燃料輸送コストやディーゼル依存が大きい場所では、高価格を払ってくれる可能性はある。解説役は、離島で課題を解決して実績を作り、現在のデータセンターのような大きな市場へ進み、さらにその先で系統用の長時間蓄電を狙う、という流れもあり得るかもしれないと述べた。

ビジネスモデルとコスト目標

同社が想定するのは、再エネ発電所からNoonのシステムを通して、需要家や支払者に電力を供給するモデルだ。需要家にはデータセンターのほか、再エネのIPPやマイクログリッド運営者が含まれる。収益の形としては、機器販売、長期サービス契約、電力供給契約、ストレージ・アズ・ア・サービスなど複数の可能性がある。ただし、実際にどの形で売っているのかはケースによる。解説役は、Metaについてはおそらく供給契約だろうとしつつ、普段どのように販売しているかはまだ分からないと述べた。富田氏が「何を売るかは模索中なのか」と確認すると、解説役は、初期は大口顧客との共同実証や予約契約を通じて進めているようだが、今後の事業モデルはまだ模索中だろうと答えた。

ユニットエコノミクスの目標として、システムコストは1kWhあたり20ドル未満、LCOS(均等化貯蔵コスト)は1kWhあたり0.05ドルを掲げている。解説役はこれを非常に野心的な数値だと評した。米エネルギー省(DOE)の「Long Duration Storage Shot」も10時間以上の長時間貯蔵でLCOS 0.05ドル/kWhを目標にしており、Noonはこの水準を狙っていることになる。

富田氏がなぜこれほど低いコストが可能なのかを尋ねると、解説役は同社の主張として、希少金属を使わず、炭素・酸素系の豊富な材料を使うのでタンク側を安く増やせることを挙げた。高価な変換装置であるパワーブロックには一定のお金がかかるが、容量は安い媒体で増やせる。そのため、蓄電時間を100時間、200時間と伸ばすほど、kWhあたりの追加コストはフラットに近づいていく。さらに、タンクの製造で学習曲線を描いてコストを下げていくことも可能だろう、と解説役は見ている。

ただし解説役は、CAPEXはそれなりに大きくなるだろうと指摘する。最終的なLCOSには、効率、稼働率、劣化、保守、設置工事、保証といった要素も効いてくるとの留保を付けた。

セルではなくアーキテクチャで戦う

戦略面では、同社はハードウェアとインフラを提供する形を取っている。解説役が面白いと強調したのは、セルの性能競争ではなく、アーキテクチャの変更によって、再エネを常時電源化するインフラレイヤーを狙っている点である。

富田氏が、なぜアーキテクチャを変えることが強みにつながるのかを尋ねた。解説役はまず、セル単位の改善も不可能ではないが、既存大手の資本やスケールの優位に負けやすい傾向があると説明した。一方でアーキテクチャを変えれば、コスト構造そのものが変わる可能性がある。長時間化したときにタンクを安く増やせばスケールメリットが効くという構造を作ることで、新興企業でも戦えるようになる。その代わりにシステム統合の難しさが上がる。「これまで実現しなかった理由」もそこにあり、同社はまさにその難しさで勝負しているビジネスだというのが解説役の整理である。

外部活用の面では、Metaのような超大型需要家とMOUや予約契約を結び、それをテコに実証と量産を進めようとしている。巨大な予約を後ろ盾にして初期投資のリスクを下げ、スケールさせるという戦略だ。10〜20年後には、ディーゼルなど化石燃料のバックアップをLDESに置き換え、天候に左右される再エネを24時間365日のベースロード電源に変えることを目指しているという。

富田氏は、この壮大な目標と現在のAIデータセンター事業がどうつながるのかを尋ねた。解説役は、データセンターの常時電力需要は、いわば小さな範囲での24時間365日電源化の実証であり、これを大きくしていけば電力システム全体の常時電源化につながる、という見方ではないかと答えた。需要が急増している領域の方が新技術は入りやすい。そこで実績を作り、産業用途やグリッド向けに広げていけるだろうという。

ロードマップ:サイエンスリスクの払拭から量産へ

同社は2018年創業とされる。2018年から2023年の5年間にラボスケールから約50倍のスケールアップを行い、100時間級のコンテナ実証に成功して、まずサイエンスリスクを払拭した。続くフェーズ2では、資金調達を進めながら、化学反応やコストの最適化に取り組んでいる。その中でMetaとの25MW/2.5GWhの初期パイロットを契約し、完遂に向けて進めている。並行して、商用量産の確立とユニットエコノミクスの証明に取り組んでいるのが現在の段階だという。

2028年以降は、海外展開、Metaとの供給契約の本格的な履行(発言では「100GW」、競合の節では「最大1GWを超える大型予約合意」と述べられている)、そしてデータセンター向けから系統・産業用途への展開が想定されている。解説役は、停電が許されず資金力のある市場に最初に入り、性能要件の厳しい顧客で証明してから大きな市場へ広げるという流れを、ディープテックのGo-to-Market戦略として典型的なものだと評した。

フェーズ3で想定されるリスク

富田氏は、Meta案件をクリアした後の拡張フェーズにどんなリスクがあるかを尋ねた。解説役が挙げたのは次のような点である。スケールアップするとラボとは性能が変わり、性能が未達になるおそれがある。コストパリティの実現も難しいかもしれない。製造の失敗や遅延、途中での資金不足もあり得る。

さらに、同社はあくまで蓄電のスタートアップである。系統に接続するにせよ太陽光パネルを自前で設置するにせよ、発電側の許認可が遅れれば蓄電側にも影響が出る。リチウムイオン電池がさらに安く高性能になれば勝てなくなる、という懸念もLDES界隈でよく言われていると解説役は述べた。加えて、データセンター向けに作った性能と、系統向けや海外、産業用途で求められる仕様やビジネスモデルは異なるので、その調整が最終的に必要になるという。

競合との違いと、解説役自身の調査の限界

競合の筆頭はリチウムイオン電池だが、ほかにも鉄フロー電池のESS、Energy Dome、鉄空気電池のForm Energy、「オールエナジー」と聞こえる企業などが挙げられた。差別化として、Noonは放電時間が長く、省スペース性が高いとされている。解説役は、この比較が同社に都合のよい見せ方になっている面も認めている。

同社の強み(モート)として、解説役は五つを紹介した。

  1. 技術:火星探査(MOXIE)由来の知見と特許
  2. 供給網:クリティカルマテリアルに依存せず、地政学リスクが低い
  3. 空間:固体炭素による省スペース性。データセンターや産業施設では土地や設置面積に制約があるため効いてくる
  4. 構造:出力と容量の分離による限界費用の低下。経済性に直結する
  5. 顧客:Metaとの最大1GWを超える大型予約合意による先行優位

ただし解説役は、技術や特許を調べてみたところ実はあまり見つからず、自分の調べ方が悪かったのかもしれないが1件しか見当たらなかったと明かした。どのような技術を持っているのかは、もっと詳しく調べるべきだとしている。

富田氏が、リチウムイオン電池の長時間化に勝てないということはないのかと尋ねると、解説役は次のように答えた。リチウムイオン電池が100時間級まで届くかは分からないが、そこまではいかないのではないか。コスト構造も違うので、他の技術にもまだ余地があるという見立ては成り立つ。それでも、リチウムイオン電池の価格低下や8時間を超える放電時間の伸びは脅威として捉えるべきだという。

参入戦略とMVPの設計

参入先は、GPUは確保したものの系統接続待ちで電力を確保できていない、スピード・トゥ・パワーの問題を抱えるAIデータセンターである。MVPとしては、100kW・10MWhで100時間稼働するコンテナ型機を提供している。これは分離アーキテクチャが成立することを証明するための最小構成だという。

MVPのサイズがMeta案件に比べて小さい理由を富田氏が尋ねると、解説役は、どう決めたのかは正直分からないと前置きしたうえで推測を述べた。100kW×100時間で10MWhとなり、100時間級の容量を示せることが一つの理由ではないか。また、パワーブロックとタンクのモジュール設計が機能するかを確かめるのに適したサイズとして選ばれたのではないか、という。

PMFに向けては、長時間の実働データ、システムレベルの往復効率(ラウンドトリップ効率、50%超が目標とされる)が必要になる。解説役は、B2Bハードウェアでは「ユーザーが気に入ったか」やUXだけではなく、厳しい現場条件で第三者が確認できる十分な性能を出せるかが問われると強調した。

火星技術というストーリーが大手企業の獲得に効いたのかという富田氏の問いには、慎重に答えている。初期のブランド作りや注意を引く面では効いたかもしれないが、今のウェブページには「Mars」はあまり出てこない気がするという。最終的には現場の性能、保証、コストで判断されるので、特定の補助金を取りに行く場面では効くかもしれないものの、ストーリーはあくまで入り口程度に見ておいた方がよい、というのが解説役の個人的な見解である。ARPA-Eなど政府系のグラントの獲得や、トップ企業への直接提案にはこのストーリーを活用してきたようだとも述べている。

創業:火星の酸素生成技術を逆回転させる

創業者のクリス氏は、NASAの火星酸素生成プロジェクトMOXIEに携わっていた人物で、2018年に会社を設立した。着想は、火星のCO2から酸素を生成する技術を逆回転させれば、地球の長時間蓄電に応用できるのではないか、という発見だったという。解説役はこれを、極端な環境で磨かれた技術を地球の大きな課題に応用するパターンとして位置づけた。

創業初期には、シリコンバレーのプログラム「Cyclotron Road」に採択され、国立研究所のラボ施設とビジネスリソースを使って初期検証と事業計画づくりを進めた。初期チームは材料化学、電気化学、エネルギーシステムに特化したR&Dの専門家で構成され、人数は多くなかった。顧客への営業より先に、原理が成立し本当に拡張できるかを示すことにほぼ全振りしていたという。解説役は、科学的なリスクを抱えるディープテックでは、顧客に話を聞きに行くだけでなく、物理的に実現可能かをきちんと検証することが大事なのだろうと述べた。

富田氏は、宇宙技術を地球で転用するのはよくある話だが、乗り越えるべき壁はどこにあるのかと尋ねた。解説役は、一番大きいのは事業モデルの再設計だろうと答えた。宇宙では一品物でコストが高くても許されるかもしれないが、地球上で事業を成立させるには保守や量産を考えなければならず、システム設計自体も変わってくる。今回は技術を逆回転させて使っているので、そもそも別物だという面もあるかもしれないという。

富田氏は、これまで番組で紹介した企業には最初からビジネス人材がいたケースが多かったと指摘した。解説役は、Noonの場合は最大のリスクが技術リスクだったため、技術者だけで進めたのだろうと答えた。ビジネス面の助言はCyclotron Roadで得ていたと思われる。顧客開拓、資金調達、製造に進む段階で商業化人材を加えていった様子がうかがえるという。

初期の歩み:グラントでの検証とVC資金への移行

初期の仮説は、再エネを主流にするには、リチウムイオンとは異なるアーキテクチャの低コストな長時間蓄電が不可欠だというものだった。グラントを活用して試作機を作り、14カ月で50倍のスケールアップを達成したとされる(ロードマップの説明では2018〜2023年の5年間で約50倍とも述べられている)。反応が成立するか、繰り返し動くか、スケールできるかを確認し、その後コンテナ型モジュールでの数千時間運転と200時間超の容量の実機実証に成功した。机上の空論から、物理的に動くものへ移ったわけである。

資金面では、まず公的資金を土台にした。ARPA-Eのグラント、NSFのSBIR Phase II(約100万ドル)、さらに8.76百万ドルの補助金を獲得した。これらを使い、100kW・10MWhのLDESを既存の設備と組み合わせて最大100時間の容量を実証したとされる。解説役は、VC資金を入れる前に公的資金で初期の開発リスクを検証した点に注目した。その後、2021年にシードで約300万ドル、2023年にシリーズAで2800万ドルを調達し、R&Dから初期商業化・量産化のフェーズへギアを切り替えた。2025年にはCEOと商業化担当のEVPが加わり、会社全体のKPIが技術の証明から商業プロジェクトへと明確に変わった、と整理されているという。

解説役は、最初の5年の研究期間は長いと感じつつも、投資家がリスクを取れるだけの証拠をその期間に積み上げたのだと評価した。ただし50倍にスケールアップしても、商用スケールとはまだ桁が違う。2800万ドルで十分かという富田氏の問いには、量産や大型商用案件には十分ではなく、追加資金が必要になるだろうと答えている。商用化前にVCが投資した理由については、証拠の積み重ねに加え、市場が巨大でAIデータセンターの需要も来ているため、技術さえ成立すればインパクトが大きいという計算が働いたのだろうと推測した。

日本で同じアイデアに取り組むなら

AIが提案した日本での案として、解説役は三つを紹介した。

  1. 離島グリッド:日本は離島が比較的多いので、市場規模には上限があるものの可能性はあるかもしれない。
  2. 地方データセンター:出力抑制が入る地域で、余剰の再エネをLDESに貯める需要が出てくるかもしれない。ただし系統接続や都市規制の壁がある。
  3. 産業用の排熱・CO2活用:既存工場のインフラを活用できるかもしれないが、企業ごとの個別設計の手間をどう吸収するかが課題になる。

日本独自の強みとして、解説役はセラミックス技術、熱制御、精密加工を挙げた。今回の技術は固体酸化物セルや高温の熱管理が関わる領域なので、こうした技術を生かす余地があるという。一方で、日本では電力制度、系統接続、PPA、補助金などの外部環境が米国とは異なる。熱の制御、実装コストや運用コストの低減なども含めて考える必要があるとも述べた。

富田氏が「完全に同じことをやるのは難しそうだ」と感想を述べると、解説役も同意した。技術的に単純な模倣は難しく、需要も違う。米国ではデータセンター需要が急激に立ち上がっているが、日本は米国ほどではないだろう。逆に言えば、違う技術や違う攻め方ができるかもしれないという。

結論:極限環境技術の転用と、構造を変える発想

最後に解説役は、Noon Energyから学べる点を三つにまとめた。

一つ目は極限環境技術の転用である。火星という極端な制約下で磨かれた技術が、地球の課題をブレイクスルーするきっかけになるかもしれない。

二つ目はボトルネックの物理的な分離である。出力と容量を分けるアーキテクチャの変更が、劇的なコスト削減につながる可能性がある。性能を少し改善するのではなく、コストの原因を分解して別々に最適化し、モジュール化・製造業化していくことで、一品物とは異なるコスト構造を作れるかもしれない。

三つ目は、サイエンスリスクの低減にグラントを使うことである。同社は5年間いわば「潜って」研究開発を続けた。その前にVC資金を入れていたら、VCのファンド期限とは合わなかっただろうと解説役は見ている。

そのうえで解説役は、宇宙に限らず、海や防衛など極端な制約がある分野の技術を地上の大きな課題に転用することを考えてみるのは、面白い思考実験になるのではないかと提案した。富田氏は、アーキテクチャを変えてコスト構造を改善し、他の技術に勝つという考え方はLDES以外でも応用できそうだと感想を述べた。解説役も、性能だけで戦うのではなく構造自体を変えにいく方が、スタートアップとしては面白いと応じて議論を締めくくった。