地熱発電の「掘った後」を工場で量産する──Critical Energyのモジュール型タービン戦略

YouTubeで開く ↗
概要

FoundXの番組「FoundX Review Startup IdeaCast」は、海外スタートアップのアイデアをAIで整理・分析して紹介している。今回取り上げたのは米国のCritical Energyである。番組の冒頭では、AIで整理した情報のため古い情報や誤りを含む可能性があり、事実関係は各自で一次情報を確認してほしいと断っている。

15分で読めます

Critical Energyは、地熱発電所の地上にある発電設備をコンテナ型の製品として提供する。地熱というと「どう掘るか」に注目が集まりやすい。しかし同社は、掘った後の地上設備、つまりタービンなどがボトルネックになると考えた。紹介役のホストが選んだ理由は、前回の分析回で話題になった「次に来るニーズに対応する」事業の例に当てはまるからだという。創業者はSpaceX出身で、ロケット用のターボポンプを極限環境で作れるなら、地上の発電用タービンもコンテナサイズに収められるはずだ、という発想から会社が始まったと紹介された。

24時間稼働のクリーン電源と、地上設備の遅れ

背景として紹介役が挙げたのは、AIデータセンターの急増である。太陽光や風力では賄えない、24時間稼働するクリーン電源の価値が上がっている。その解決策として、番組が以前取り上げたFervo Energyに代表される次世代地熱、特にシェールガスの水平掘削技術を応用した地熱が注目されており、掘削技術は急速に進歩している。一方で、穴を掘れても地上の発電設備が追いつかないのではないか、という問題意識がCritical Energyの出発点になっている。

聞き手のホストは、日本のメーカーが強いイメージがあるが、地上設備が追いつかないのは本当なのかと尋ねた。紹介役によれば、掘削は石油・ガス業界のリグや作業員を転用できる。それに対して地熱用タービンはまだニッチな市場で、大きなサプライチェーンや量産体制ができていない。このため市場が追いつかない状況にあるという。

井戸は1カ月、発電設備は2年

課題の中心は時間差である。最新技術を使えば、井戸は数週間から1カ月で掘れるという。一方、熱を取り出して発電する地上設備は、設計・調達・建設に約2年かかる。プロジェクトファイナンスの観点では、井戸に巨額の資金を投じた後、発電して収益が見込めるまで2年間待つことになり、これが大きな問題になる。

加えて、地熱の井戸は掘ってみないと正確な温度や蒸気量が分からない。それでも既存のプロセスでは、巨大な専用設備を事前に発注しなければならない。その結果、設備が大きすぎる、あるいは小さすぎるというミスマッチのリスクが生じる。

なぜ2年もかかるのかという質問に対し、紹介役は次のように説明した。現場ごとの温度や流量に合わせて一から設計し、部品を世界中から調達し、現地で基礎工事から組み立てまで行う。つまり一品物の建設プロジェクトになっているためだという。大手タービンメーカーもこの問題には気づいているようだが、すでに大規模プロジェクトに最適化したビジネスモデルを築いている。そのため「小さく作って早く届ける」方向にはジレンマがあり、舵を切れていないのではないか、というのが紹介役の見方である。

発電所を「建設物」から「製品」へ

Critical Energyの解決策は、一品物の発電所を製造物に変えることだ。設備を工場で95%完成させた状態で出荷し、現地での作業を据え付けと配管・配線の接続だけにする。目標は最短2週間での設置である。発電方式には有機ランキンサイクル、およびそれに類するバイナリー発電を採用しているという。

現在はロサンゼルスの施設で人工の熱源を使い、50kWのプロトタイプを稼働させている。これで技術が成り立つことを示したうえで、シード資金を調達した。

SpaceXでの経験がどう生きているのかという質問に、紹介役は推測として二つの点を挙げた。一つは、複雑な流体・熱システムを限られた容積、この会社の場合はコンテナに高密度に統合するパッケージング技術。もう一つは、金属3Dプリンターを使ったターボ機械の高速な試作・製造のノウハウである。さらに、同社の採用情報を見ると、機械設計、熱流体力学、電力システムなど、ハードウェアのフルスタックエンジニアを募集している。紹介役は、すべてを内製して統合しようとする姿勢にもSpaceX的なカルチャーがうかがえると述べた。

市場規模と2.5MWモジュールの量産構想

市場規模について番組は、TAMとして技術的な地熱発電ポテンシャルを扱い、全世界の全エネルギーを賄えるほどの非常に大きな数字(字幕では「42」)を紹介した。ただし現実的なターゲットであるSAMは、米国データセンターのクリーン電源需要で、15〜17GWとされる。

同社のビジョンは、1台2.5MWのモジュールから始め、最終的に年間300GWの生産能力を持つプラットフォームになることだ。聞き手が「2.5MWの小さなモジュールで300GWということは、かなりの数を作ることになる」と指摘すると、紹介役も同意した。自動車を作るように発電所を大量生産する領域に持ち込むことが、同社の狙いだと説明した。

ブロックを積むように並列で増設する

ビジネスモデルの特徴は拡張性にある。クラウドのサーバーを増設するように、コンテナをブロックのように並列につないで容量を増やす。顧客側から見ると、井戸を1本掘って予想以上に蒸気が出たら、タービンをもう1台追加発注する、という柔軟な意思決定ができる。Critical Energy側は、毎回違うサイズのタービンを設計する代わりに、同じ2.5MWモジュールをひたすら量産すればよい。学習曲線が効き、利益率の改善も狙える。聞き手は、Fervoの回で語られた地下側のモジュール化と同じことを、地上設備でもやろうとしているのだと受け止めた。紹介役も、単価を下げていく狙いがあるのだろうと応じた。

並列化の技術的ハードルについては二点が挙げられた。複数ユニットを協調して制御するソフトウェアと、流体を各ユニットに均等に配分するための配管設計である。紹介役は、モジュール群全体を最適に動かす制御システムが競争力の源泉になりうると述べた。また、ITインフラがメインフレームから分散型クラウドへ移ったことを、熱のインフラ産業で起こそうとしている、と理解すると分かりやすいと説明した。

地熱から工場排熱、データセンター、SMRへ

紹介役が個人的に面白いと感じたのが、プラットフォーム戦略である。同社は地熱企業になることではなく、「熱と電力のユニバーサルなインターフェース」になることを目指している。フェーズ1でコンポーネントを統合し、フェーズ2で標準モジュールを展開し、フェーズ3で地熱以外の市場へ横展開する。具体的な対象は、工場の排熱、データセンターの自家発電用ガスタービンの排熱、そして将来的には小型モジュール炉(SMR)などの先進原子力の熱である。熱源が何であれ、流体を温めてタービンを回すという地上設備の基本構造は同じだ、という点を生かす考え方だ。

これに対してホスト2人は「本当にできるのか」という疑問を率直に口にした。熱源ごとに温度などの条件がかなり違うのではないか、という指摘である。紹介役は、条件は大きく変わると認めたうえで、次のように説明した。コアとなるタービンや発電機は共通化する。熱源から熱を受け取る熱交換器や、循環させる流体の種類を調整して対応するのではないか。ただしこれは推測だと断っている。

横展開するなら、なぜ最初に地熱を選んだのかという問いも出た。紹介役はこれも推測としつつ、地熱には「クリーンなベースロード電源」という物語の強さがあり、ESG資金や気候変動系VCから資金を集めやすかったことが理由の一つかもしれない、と述べた。

50kWから2.5MWへ──出力50倍の壁

ロードマップでは、同社は現在フェーズ1を終えた段階にある。概念実証を済ませ、50kWのデモ機で実証した。次のフェーズ2は今年から来年にあたり、紹介役はここがかなり難しいポイントだと見ている。出力を50kWから2.5MW、つまり50倍に引き上げる必要がある。さらに、設置場所を試験施設から自然環境の厳しい実際の地熱サイトに移し、長時間稼働させなければならない。50倍にするといっても単に大きくすればよいわけではない。振動、熱膨張、ベアリングの耐久性など、これまでとは異なる物理的な課題が出てくるという。これを乗り越えれば、2.5MW機を量産するフェーズ3に進む想定だ。

フェーズ2でトラブルが起きたらどうなるのか、と聞き手は尋ねた。紹介役は、ハードウェアスタートアップにとって初号機での致命的なトラブルは命取りになりうると答えた。そこで同社は二つの手を打っているという。一つは、実証場所として未知の新規掘削サイトではなく、温度や流量が分かっている既存の地熱サイトを選び、掘削側と自社設備側のどちらに問題があるのかを切り分けられるようにすること。もう一つは、リスクと資本支出を抑えるために、ターボ機械の部品加工をパートナー企業に委託することだ。内製化は最初から全面的に進めるのではなく、段階的・選択的に進める戦略だという。

競合との違い:完全標準化と米国内サプライチェーン

地熱タービンの分野には、すでにOrmatやTurbodenといった既存企業があり、モジュール式の設備も持っているという。それに対するCritical Energyの差別化は、設備製造に特化し、完全標準化に振り切っている点にある。紹介役によれば、既存企業はプロジェクト開発から運転までを垂直統合したり、案件ごとに最適設計を行うゼネコン的な動きを得意としている。その反面、意思決定が重くなりがちだ。Critical Energyは、SpaceX流のアジャイルな設計、米国を拠点とした短いサプライチェーン、そして発電所を建設ではなく製造するという思想によって、スピードとコストで勝つことを狙っている。

聞き手が「米国拠点のサプライチェーンは米国企業にとって良いのかもしれない」と言うと、紹介役は、地熱用ターボ機械の多くが現在米国外で製造されていることを挙げた。インフレ抑制法などの政策的な追い風を考えると、「メイド・イン・アメリカ」は強い武器になりうるという。

既存の地熱サイトで地下と地上のリスクを分ける

参入戦略について、紹介役は既存サイトを初号機の設置先に選んだ理由を改めて説明した。新しい要素を一気に詰め込みすぎて失敗の原因が分からなくなる、という「よくある罠」を避けるためだという。次世代地熱(EGS)はまだ発展途上で、地下の掘削に失敗するリスクもある。新規サイトで実証して発電量が少なかった場合、地下の流量が足りなかったのか、地上タービンの性能が悪かったのかを切り分けられない。温度と流量が分かっている既存サイトを選べば、地下のリスクを減らし、自社製品の性能と耐久性の検証に集中できる。

では、既存サイトのオーナーはなぜ実績のないスタートアップの設備を受け入れたのか。紹介役によれば、既存サイトの中には、昔掘ったが今は使われていない井戸や、老朽化して更新が必要な設備があるという。アンカー顧客として、無償に近いテスト条件で最新設備を導入できるなら、オーナーにもメリットがあったのではないか、と紹介役は推測した。

創業経緯:SpaceXの7年とVCでの1年間の調査

創業者のSpencer Jacksonは、SpaceXで7年間働いた後、気候変動に向き合いたいと考えた。ただしすぐに起業したわけではない。字幕では「ノステラベンチャーズ」と聞き取れるVCで、EIR(客員起業家)として1年間エネルギー市場をじっくり調査した。そこで本当のボトルネックを探った結果、掘削技術は進歩したが地上の熱変換設備がボトルネックになる、という構造的な問題に行き着いたという。これに「40MWのターボポンプをロケットに詰め込めるなら、MW級の発電機(字幕では「22MW」)もコンテナに収められるのではないか」という自身の経験からの発想が合わさり、創業に至ったと紹介された。チームは、宇宙業界での経験を合計すると50年以上になるエンジニア集団で、宇宙開発で培った回転機械や熱流体力学のノウハウを応用している。

聞き手は、ロケットは数分から数日しか動かないのに対し、発電所は20年間動き続ける必要があり、設計思想がかなり違うのではないかと指摘した。紹介役はこれに同意した。航空宇宙では限界まで軽量化して出力を大きくすることが重視されるが、産業機械では耐久性、保守性、コストダウンが求められる。設計思想そのものをシフトしなければならず、チームにアンラーニングが求められるポイントだと述べた。

ハードウェア開発の壁と高速化の工夫

同社は初期にハードウェアの壁に当たったという。仮説・設計・テスト・学びのループは、ソフトウェアなら1日から数週間で回せるが、ハードウェアでは数カ月から年単位かかる。同社も部品調達の遅れや、複数回の大幅な設計見直しによって時間がかかったと語られている。ソフトウェアならコードを変えれば済むが、ハードウェアでは部品を組み合わせたときの干渉や熱膨張による歪みなど、物理的な統合が難しかったという。

今後の壁として挙げられているのは環境のギャップである。これまでのテストはロサンゼルスの工場で行われてきた。実際のフィールドは泥やガスが出る環境であり、そこに移行すればまたトラブルが起きるだろう、と整理されている。

ループを速く回す工夫としては、金属3Dプリンターを多用し、タービンブレードのような複雑な部品を金型なしで高速に試作している。また、部品コストを原材料費で割る「イディオット・インデックス」というSpaceX的な指標を使い、設計を最適化しているという。紹介役自身は、この値が小さいほど良いのか、どちら向きの指標だったかを番組中で確かめきれていなかった。

2200万ドルのシード調達と2027年の初号機

資金面では、2026年6月に発表されたシードラウンドで、エクイティ1900万ドルとデット300万ドル、計2200万ドルを調達したという。使途は三つ。エンジニアリングチームの拡充、製造工場とテスト設備の立ち上げ、そして2027年に2.5MWの初号機を実サイトで稼働させることである。

2200万ドルでどこまで進めるのかという質問に、紹介役は、2.5MW機の量産まではおそらく難しいと答えた。今回の資金は、コンテナサイズの2.5MW機を1台、現場で動かして証明するためのもので、実質的にはR&Dとプロトタイプの段階にあたるとの見方である。量産に進むには、次以降のラウンドで数億ドル規模の調達が必要になるだろうと述べた。

日本市場への応用:温泉熱、工場排熱、データセンター併設

番組では、日本市場への応用もAIに考えさせている。日本は世界第3位の地熱資源量を持つが、国立公園の規制、温泉との調整、コストの高さが壁になり、開発が進んでいない。そこで、モジュール化のアプローチをアレンジした案が三つ挙げられた。

一つ目は温泉熱に特化した案である。既存温泉の余剰熱を使う20〜100kWの小型バイナリー発電で、既存プレイヤーは多いものの、温泉設備を止めずに設置できる超小型パッケージが求められるのではないか、とされた。二つ目は工場排熱の活用で、温泉権が絡まない中温の工場排熱を対象にし、工場の稼働を止めずに後付けできる施工技術が鍵になるという。三つ目はデータセンター併設型で、地方の地熱発電所の隣にデータセンターを置けば、送電網の空き容量を気にせず電気を直接使えるのではないか、という案である。

聞き手は、Critical Energyのようなコンテナサイズの海外製モジュールが日本に入ってくることはないのかと尋ねた。紹介役は、ありうるとしつつも、そのまま持ち込むのは難しいだろうと答えた。高圧ガス保安法や電気事業法といった厳しい規格・認定があり、日本独自の耐震基準や、道路が狭いことによる輸送の壁もあるため、ローカライズが必要になるとの見方である。

他業界にも使える三つのポイント

最後に番組は、他の業界にも使えるポイントを三つにまとめた。一つ目は「イノベーションの次を狙う」こと。多くの人が新技術、今回でいえば地下の掘削に熱狂しているときに、それが普及した後にボトルネックとなるインフラや周辺設備、今回でいえば地上のタービンに目を向ける。二つ目は「プロジェクトをプロダクトへ変える」こと。毎回現場で作り上げる属人的な一品物の建設を、工場で反復生産できる標準モジュールとして再定義できないかを考える。三つ目は「段階的なスケールで不確実性をならす」こと。最初から完璧で大きなシステムを作るのではなく、小さくても連結可能なモジュールを作ることで、顧客の投資リスクと自社の技術リスクを段階的に下げられる、とAIは整理している。事業を考えるヒントとしては、注目している市場で発注から稼働までに時間がかかっている前後の工程をマッピングし、そこに次の事業機会がないかを探すことが挙げられた。

聞き手は、一つ目と二つ目は分析回で話していた内容そのものであり、良い事例だと感想を述べた。紹介役は、横展開の構想をかなり面白いと感じていると話した。SMRにまで本当に展開できるのかは分からないとしながらも、タービンが共通しているならできるのかもしれないとも思う、と述べた。そして、個別の用途から始めて横展開していく発想は応用できると締めくくった。