恐竜絶滅から宇宙の始まりまで:VAIENCEの「もしも」と謎20話
VAIENCE バイエンスこの動画は、科学系チャンネルVAIENCEの複数エピソードを約4時間にまとめたものである。恐竜、古代遺跡、エネルギー、宇宙開発、極地、天体、宇宙の起源まで約20のテーマを扱う。どの回も「もし〜したらどうなるか」「〜はなぜ〜なのか」という問いを立て、架空の「バイエンススーツ」やキャラクターの「ミスター・バイエンス」を使った思考実験で現場を体験させる形をとる。そのうえで研究結果や諸説を紹介し、通説にどこまで根拠があるのかを検討する。以下では、各回で語られた主張・根拠・留保を順に整理する。
恐竜が絶滅していなかったら
最初の回は、多くの文化に竜の伝承がある理由について、恐竜の化石を竜の骨と誤認したという説を紹介するところから始まる。
動画の説明では、約6600万年前に直径10km〜数十kmと推定される小惑星が現在のメキシコ・ユカタン半島付近に衝突し、地球の生物種の約75%が絶滅したと考えられている。メキシコ湾を高さ1.5kmの津波が襲ったという説や、衝突地点から1800km以上離れた場所でも気温が平均155℃、場合によっては500℃を超えたと推定する研究も紹介される。その後、硫黄を含む塵が地球を覆って気温が急低下し、植物が枯れた。草食動物、次いで肉食動物が餓死し、大量の食料を必要とする大型種が多かった恐竜は絶滅した、というのが有力説だとされる。
ただし動画は、鳥類は恐竜から分岐したものであり、厳密には恐竜は絶滅していないとも指摘する。そのため「恐竜が絶滅しなかった世界とは、今の世界そのもの」になる。それでは面白くないとして、ミスター・バイエンスに小惑星の軌道を変えてもらう思考実験に進む。
衝突がなければどうなったか。動画は、恐竜は衝突前から衰退していたという説や、インドで起きていた地球史上まれな規模の火山活動が影響したという説がある一方で、6600万年前の時点で恐竜は全大陸に進出し、種類は過去最高に達していたとする研究もあると紹介する。そのうえで、衝突がなければ恐竜の勢いを完全に止めることはできなかった可能性が高いと述べる。
大きく変わるのは鳥類と哺乳類の進化だという。両者が生き延びた理由として、穴を掘って隠れられたこと、食べ物の種類が豊富で飢餓の時代を乗り越えられたことが挙げられる。そして恐竜が空けた生態的地位を埋めるように多様化した。水鳥のような生態だったと推定されるハルシュカラプトルの例から、恐竜はかつて現在の鳥類や哺乳類の役割も担っていたとされる。さらに哺乳類は近縁の哺乳形類と激しく競争していて、絶滅後の環境激変で勝利したという説もあるため、衝突がなければどちらが勝ったかは分からないという。
人類のような知能を持つ生物が生まれたかについて、動画は、高度な知能はエネルギーを大量に消費するため必ずしも有利ではないと考える科学者が多いと述べ、疑問が残るとする。仮に誕生していた場合の特徴として、色覚が挙げられる。多くの哺乳類が2色しか識別できないのは夜行性時代の名残(夜行性ボトルネック)であり、鳥類や爬虫類は4色、人類は3色である。恐竜が昼を支配する世界の人類は2色覚にとどまり、視界は色あせたものになるかもしれない、と推測する。一方で、人類は象・ライオン・カバなど危険な動物と隣り合わせで暮らしてきたので、狩り尽くされて絶滅するほどではないだろうとも述べる。
恐竜絶滅の日に何が起きたのか
続く回は、中生代と新生代を分けるK-Pg境界の「その日」を体験させる構成である。当時は二酸化炭素濃度が高く、平均気温は現在より5〜10℃高かったとされ、恐竜は南極大陸を含む全大陸に進出していた。
衝突の証拠として示されるのが、世界中の地層に残るイリジウムである。イリジウムは重いため地球形成時に地下へ沈み、地表にはほとんど存在しないが、小惑星には比較的多く含まれる。また、チョウザメなど当時の魚の骨には季節ごとの成長差による年輪のような模様があり、衝突層から出た化石の分析から、衝突は北半球の春だったと分かっているという。
一方で、未解明の点も残る。小惑星の大きさの推定は10km〜数十kmと幅があり、衝突エネルギーもTNT換算で数千万〜1億メガトンと定まっていない。動画は広島の原爆が0.015メガトン、ツァーリ・ボンバが50メガトンであることと比べ、桁違いの規模だったことだけは確かだとする。
衝突直後の様子は次のように描かれる。太陽の数倍明るい火球が出現し、1800km離れた場所でも気温は100℃を超えた。海への衝突で生じた津波は最大1500mと予想され、海岸線から100km以上の内陸に達し、太平洋沿岸でも10mを超えたという試算がある。宇宙まで巻き上げられた土砂は世界中に降り注ぎ、大気を圧縮しながら再突入して熱を発した。その総エネルギーはTNT換算で2000万メガトンという説があり、北アメリカや、衝突地点の反対側にあたるオーストラリア・インドで大規模な山火事が起きたと考えられている。
動画は、この小惑星が「最悪の位置に最悪の形で」落ちたと強調する。クレーターの地盤密度から45〜60度の浅い角度で衝突した可能性が高く、この角度では岩盤がより多く大気中に放出される。さらに浅い海の海底には硫酸カルシウムを主成分とする石膏が多く、硫黄を含む塵が大量に巻き上げられた。これが成層圏で反応して太陽光を遮り、山火事の煤も加わった。1000億トンの硫黄が放出されて気温が20℃以上下がり、異常気象が30年ほど続いたという説もある。シミュレーションでは、植物が枯れて食料危機が半年続けば食物連鎖が崩壊するとされる。
なぜ恐竜が絶滅し他の動物が生き残ったかについて、動画は人類はまだはっきりした答えを持っていないと述べる。恐竜側の説として、体が大きく温血で多くの食物を必要とした、卵生のため成体と幼体でサイズや生態系での役割が大きく異なり環境変化に弱かった、などが挙げられる。生き残った側については、植物の種を食料にできた、死骸の大量発生で菌類が繁殖し免疫力の強い哺乳類が有利だった、などの説が紹介される。
最後に動画は、SF作家ラリー・ニーヴンの「恐竜が絶滅したのは宇宙開発を進めなかったからだ」という言葉を引く。10km級の小惑星衝突は100年あたり1万分の1という試算があり、現在の技術では観測できても軌道を変えられない、と締めくくる。
ポイント・ネモ:陸から最も遠い海
ポイント・ネモは、世界の海で陸地から最も遠い地点である。1992年にクロアチア系カナダ人の測量技師フルヴォイェ・ルカテラ氏がプログラムで算出したもので、現地を訪れたわけではない。名前はラテン語で「誰でもない」を意味するネモと、『海底二万マイル』のネモ船長にちなむ。2018年の研究では、位置はおよそ南緯49度・西経123度とされる。最寄りの陸地はデュシー島、モトゥ・ヌイ島、マーハー島で、いずれも約2700km離れている。動画は日本の宮古島から稚内までの直線距離(約2720km)を半径とする円を例に挙げ、その内側に陸地がまったくない孤独さだと説明する。最も近い人間は、イースター島の住民か、上空約400kmを通る国際宇宙ステーションの乗組員ということになる。
とはいえ、世界一周ヨットレースは近くを通り、少数ながら貨物船も付近を航行するため、訪れた人がいないわけではない。船での最短到達記録は15日10時間37分とされる。荒れやすい南太平洋を抜けると、南太平洋環流の内側で風も波も穏やかになる。水温は年間平均7℃、水深は約4kmあり、泳ぐのは勧められないという。
生物についても、環流と陸からの遠さのため海水の栄養が乏しく、プランクトンが少なく、マリンスノーも少ない。海底の微生物は環流の外側の1000分の1〜1万分の1程度しかおらず、「地球上の海で最も死んでいる場所」と表現されることもあるという。一方で、熱水噴出孔の周辺には太陽光に依存しない生態系があり、「イエティクラブ」と呼ばれる甲殻類キワが見つかっている。また、ここは役目を終えた人工衛星を落とす場所でもあり、旧ソ連のミールなどが落下した。国際宇宙ステーションも2031年に付近へ落とす計画があるため、「人工衛星の墓場」とも呼ばれる。
ジンベエザメに食べられたら
世界最大の魚ジンベエザメは、一般に10m前後、最大で20m程度になる。動画はまず生殖様式を取り上げる。多くの魚は体外受精だが、ジンベエザメはオスがクラスパーと呼ばれる生殖器を挿入する体内受精を行い、クラスパーは2本ある。1995年に台湾で見つかった母ザメの例からは、受け取った精子を貯蔵し、少しずつ使って妊娠を繰り返している可能性が示されたという。
本題の「食べられるか」について、動画の答えは否である。ジンベエザメはプランクトン食で、性格も穏やかだ。口の中には8000本以上の小さな歯があるが、米粒より小さく退化しており、大きな人間が入っても吐き出されるだけだという。
そこで思考実験として、ミスター・バイエンスを1cm程度に縮め、オキアミに乗せて飲み込ませる。海水ごと吸い込まれたプランクトンは鰓耙で濾し取られ、濃縮されて直径数cmしかない細い食道へ送られる。胃ではオキアミが分解される。ジンベエザメは海面の餌を吸い込むために体を垂直に立てて泳ぐので、食事中の胃の中は揺れ続けることになる。腸には消化吸収の効率を上げるための螺旋状のひだがあり、中を漂う者はそこにぶつかりながら進む。さらに、肛門から腸を裏返して出し、未消化物を洗い出す行動もあるという。これを乗り越えれば、最後は総排泄腔から便とともに排出されて旅が終わる。
モアイ像はなぜ作られたのか
イースター島は、最も近い有人島(人口50人未満のピトケアン島)まで約2000km離れている。動画によれば、モアイ像は西暦1200年頃から作られ始め、最盛期は1500年頃という説が有力である。多くは島の火山の火口付近の柔らかい岩から削り出された。頭だけに見える像も大半は上半身が土に埋まっているだけで、かつてはサンゴと黒曜石の目がはめ込まれていたと考えられている。平均的な大きさは高さ約4m・重さ約10tで、高さ約10m・重さ80tに迫るものもある。
運搬方法ははっきりしていないが、頭にロープを掛け、立てたまま左右に揺らして運んだという学説がある。比較的小さな像なら18人程度で長距離を動かせるという。これは「モアイは歩いて台座まで移動した」という先住民の言い伝えともよく一致するとされる。
建造理由については、信仰と政治の両面から説明される。モアイは祖先を具現化したもので、正式な方法で作ると霊的な力が宿ると考えられていたため、住民を見守るように内陸を向けて建てられた。畑に豊穣をもたらすと信じられていたが、実際に岩を削ることで周囲の土壌に肥料分が加わり、作物がよく取れた可能性があるという研究も最近報告されているという。政治面では、東京23区の4分の1ほどの島に少なくとも2つの勢力が並存していた。モアイは権力者の象徴だった可能性があり、多くの専門技術者を動員して作らせること自体が支配者の力を示す役割を果たしたとされる。
後半では、よく知られた「文明崩壊説」が検討される。21世紀初めに唱えられた仮説によると、モアイ作りのために森林を伐採しすぎて土壌が流出し、食料危機と人口激減が起き、信仰も忘れ去られた。これは地球全体の環境問題への警告として語られ、日本の教科書の題材にもなった。
しかし動画は、この説に反論が多いことを紹介する。森林があったこと、人間の上陸後に消えたこと、1500年頃に降水量が減った可能性は事実としても、先住民の子孫の遺伝子を調べた研究では極端な人口減少は考えにくく、西洋人の到来まで人口は緩やかに増えていた可能性が高いという。モアイや台座が18世紀まで作られていたという説もある。社会を崩壊させたのは西洋人がもたらした疫病と奴隷狩りだとする説では、1860年代に1000人以上が連れ去られ、1870年代には先住民が100人程度しか残らなかったとされる。森林の消失も、人間とともに上陸したネズミの影響のほうが大きかったというのが近年の主流だという。動画は、筋が通って見える説明でも事実かどうかを確認する必要があると述べ、過去を単純化せずに学ぶことが未来の選択肢を広げると結んでいる。
ギザの大スフィンクス
大スフィンクスは全長73m、高さ20mで、数百万個の石を積んだピラミッドと違い、ギザ台地の一枚岩の石灰岩から削り出されている。岩は地質的に3層に分けられ、足は下層、胴体は柔らかい岩と硬い岩が交互に重なる中間層、頭は硬い上層から作られている。動画は、細かい加工が必要な頭部に風化しにくい硬い層を使った点に職人の工夫を見る。一方、胴体は風化が進んでいる。中間層の岩は前に建設予定だった2つの神殿の石材にも使われたが、神殿は未完成のまま放置されたという。
約4500年の間、スフィンクスは砂に埋もれては掘り出されることを繰り返した。19世紀初頭の絵では肩まで砂に埋まっている。胴体の風化から降水量を推定し、7000年以上前の建造だと主張する科学者もいるが、ほとんどの考古学者には相手にされておらず、三大ピラミッドと同時期とする説が主流である。
建造者はカフラー王とする説が主流で、その根拠がいくつか挙げられる。顔がカフラー王に似ていると言われること(ただし父のクフ王に似ているとする人もおり、これだけでは不十分)。カフラー王のピラミッドがスフィンクスの真後ろにあること。春分と秋分の日没時に、前の神殿から見るとスフィンクスの肩とピラミッドの裾の位置に日が沈むこと。
後の時代の関わりも紹介される。約3400年前のトトメス4世は大修復を行い、3.6mの石碑を建てた。碑文には、王子時代にスフィンクスの陰で昼寝をしていると、太陽神がスフィンクスの姿で現れ、掘り出せば王にしてやると告げたと記されている。王位継承順位が第1位ではなかったトトメス4世が、即位の箔付けに利用したと考えられている。石の髭を付けたとも考えられ、1817年に前足付近で髭の一部が見つかった。
失われた鼻については、ナポレオン軍の砲撃説は、18世紀前半にすでに鼻のない絵があることから時代が合わないとされる。有力なのは14世紀後半説で、農民が豊穣を祈って供え物をしたことに怒ったイスラム教徒が鼻を削ったという。
カルダシェフ・スケール
宇宙文明の発展度をエネルギー消費量で測る提案は、旧ソ連の天文学者ニコライ・カルダシェフが1964年に行った。どんな文明も物理法則は無視できず、エネルギー変換効率は100%にならないので、排出されたエネルギーを観測すれば他の文明を探せる、というのがカルダシェフの主張だった。
元の尺度は3段階で、タイプ1は当時の地球に近い文明、タイプ2は恒星のエネルギーを利用する文明、タイプ3は銀河規模のエネルギーを得る文明である。ただしタイプ1の基準は1964年の地球に合わせたもので現在とは差があり、タイプ2も恒星によって値が大きく変わる。カルダシェフ自身も論文で暫定的な尺度だと明記していたという。現在よく使われるのは、カール・セーガンが提案した「消費電力(W)の対数から6を引き10で割る」式である。この式では10の16乗Wでタイプ1となる。
この式に当てはめると、地球に届く太陽エネルギーをすべて使う文明は約1.1、現在の人類は0.7を少し超える程度で、タイプ1にはエネルギーを約500倍に増やす必要がある。それでも世界のエネルギー消費は毎年1〜2%伸びており、2371年にタイプ1に達するとした研究があるという。動画は、化石燃料を積極的に使えば早まるかもしれないが、その場合は気候変動による文明崩壊を心配したほうがよいと付け加える。
タイプ2はタイプ1の100億倍のエネルギーを使う。太陽の全エネルギーを使うと2.0をわずかに超える。こうした文明は恒星の周りにダイソン球のような構造物を作ると想定され、それは「クリスマスツリーのオーナメントのように」光っているはずだという天文学者の表現や、赤外線源を探せば発見できるというフリーマン・ダイソンの主張が紹介される。タイプ2にとって存続の危機は近くの超新星爆発くらいしかないとされる。タイプ3(10の36乗W)はそれすら防げ、恒星の数が減った遠い未来にはブラックホールの周りにダイソン球を作る可能性もあるという。
ただし、タイプ3でも光速の壁は越えられない。天の川銀河の直径は約10万光年ある。提案されているのは、到達した恒星系の資源で自分の複製を作りながら広がる自己複製宇宙機で、50万年ほどで銀河全体を覆えると推定されている。動画は最後に、未熟な文明を見つけた機械が衛星上で休眠し、その文明が衛星に到達したら起動する、というロボットが月で眠っている可能性もゼロではない、という空想で締めくくる。
核戦争が起きたら
冒頭で動画は、2022年時点で世界に約1万3000発の核兵器があると推定されていると述べる。核戦争寸前の例として取り上げるのは1962年のキューバ危機である。米軍に爆雷で追われていたソ連潜水艦は核兵器を積んでおり、士官3名全員の賛成で発射できる体制だった。艦長ともう1名が賛成したが、ワシリー・アルヒーポフが断固拒否した。エアコンが故障し高温となった艦内で激論が交わされた末に拒否が通り、潜水艦は浮上したという。
動画は、一度でも核を使えば報復の連鎖は避けられないと考える専門家が多いとする。ロシアには自動報復システム、通称「死の手」があるとされ、アメリカにも即応体制がある。
具体例として紹介されるのは、プリンストン大学が2019年に発表したシミュレーション「プランA」である。ロシアがドイツ・ポーランド国境付近の軍事拠点に1発を撃ち、NATOが1発で報復する。次にロシアが300発、NATOが180発を撃ち、約3時間で死傷者は260万人。米国がロシアの核関連施設に600発を撃ち、ロシアも米本土へ撃ち返して、45分で340万人。最終局面では双方が相手の大都市を狙い、45分で8530万人。合計で約5時間のうちに死者3410万人、負傷者5740万人と推定されている。
この数字が想像より小さく見える理由として、動画は3点を挙げる。最終段階まで都市を狙わない想定であること、NATOとロシアに限定した戦争であること、核爆発による直接の死傷者だけを数えていることである。より深刻なのは都市火災の煤だという。2019年のコロラド大学の研究では、1億5000万トンの煤が数年間上空に留まり、北半球の多くで気温が20〜30℃下がり、核戦争後5年間の食料生産(カロリーベース)は中国・フランス・ロシア・英国・米国で97%以上、国によっては99%以上減少するという結果が出ている。真っ先に困るのは日本・韓国など食料自給率の低い国で、爆発そのものより飢餓で亡くなる人のほうが多いだろうとする。オゾンが75%程度減るという試算もある。動画は、2022年1月に米・露・中・仏・英の首脳が核戦争防止の共同声明を出したことに触れ、それが口先だけで終わらないことを願うと結ぶ。
核融合発電が実用化されたら
核融合は、同じ重量の燃料あたりで化石燃料の2000万〜1億倍のエネルギーを生むという試算がある。二酸化炭素を出さず、燃料は水から取り出せる可能性があり、反応を止めやすいため重大事故の可能性も低いと考えられている。
難しさの根本は、正の電荷を持つ原子核同士の反発である。地球上で核融合を起こすには少なくとも1億度が必要とされ、それに耐える固体はない。そのため、プラズマを強力な磁場に閉じ込める磁場閉じ込め方式と、燃料ペレットにレーザーで衝撃波を起こす慣性閉じ込め方式が研究されている。前者では1997年に欧州のJETがエネルギー比0.67を達成し、日本も参加するITERが後継として開発中である。後者では2022年に米国の国立点火施設(NIF)が1.5倍を達成したと報じられ、民間企業の参入も相次いでいる。
それでも動画は、実用化のハードルはまだ高いとする。発生エネルギーを電力に変える効率は100%にならず、磁場閉じ込め方式の比率には磁石のエネルギーが含まれていない。これらを差し引いたうえで経済的に成り立つかが問題だという。
実用化された場合の影響としては、まず気候対策には間に合わないと指摘する。産業由来の二酸化炭素の半分ほどは発電や暖房によるものだが、1.5℃目標のためには2030年までに43%削減が必要で、早くても数十年後に実現する核融合では遅すぎるという。また、核融合そのものは長寿命の放射性廃棄物を生まないが、燃料によっては大量の中性子が出て、周囲を囲う物質が放射化する恐れがある。一方で、重水素のみを使う方式が実用化されれば燃料は海水から取れるので、石油や水をめぐる争いが減り、海水淡水化も現実的になるかもしれない。動画は、ITERがある参加国の侵略行為によって今後の貢献が危ぶまれていることにも触れ、核融合によって争いが減ればその後の人類の発展に期待できる、と述べる。
永久機関が完成したら
1812年、フィラデルフィアのチャールズ・レドヘファーは「永久機関」を公開して見物料を取ったが、詐欺だった。動画はまず物理学での仕事(力×移動距離、1kgを1m持ち上げると約9.8J)とエネルギー(仕事をする能力)を定義する。そのうえで、永久機関を「外部からのエネルギー供給なしに、外部へ永久に仕事をする装置」と定義する。風力は太陽エネルギーに由来するので該当せず、宇宙で慣性運動する物体もエネルギーを取り出せば減速するので該当しない。ダ・ヴィンチも重りを使った車輪の構想を練っていたが、成功例はない。熱力学第一法則(エネルギー保存)と第二法則(熱は高温から低温へ流れる)に反するからだと説明される。
それでも思考実験として完成させると、永久機関でさらに永久機関を作ることで、燃料なしに無制限のエネルギーが得られる。海水の淡水化や輸送は容易になる。鉛やビスマスに炭素やネオンの原子核を高速で衝突させれば一定確率で金ができるので、資源不足も解決に向かう。
動画が強調するのは、影響が宇宙全体に及ぶ点である。エネルギーを無から生み出せれば、エネルギーと等価な物質も増える。現在有力な宇宙の未来はビッグフリーズだが、数十億年以上先には増えた物質の重力が膨張に打ち勝ち、宇宙が収縮に転じる可能性も考えられるという。
サハラ砂漠を太陽光パネルで覆ったら
サハラ砂漠は面積約900万km²で、日本の約24倍にあたる。中心部や東寄りでは年間降水量0.5mmの地域もある。年間日照時間は日本の1600〜2400時間に対して3600時間以上、場所によっては4000時間以上で、太陽光発電に向いている。太陽光パネルの効率も長く10%台だったが、2022年時点で20%超が主流になり、価格も大きく下がったという。
太陽光1kW/m²、効率20%、年間3600時間と仮定すると、年間648万TWhになる。高温による効率低下(1℃あたり0.4〜0.5%)や、砂で1か月後に効率が19%下がるというデータを考慮して半分にしても324万TWhで、人類の年間消費量(仮に17万3000TWh)を大きく上回る。
しかし動画は、話はそう単純ではないと続ける。2016年の研究をもとにすると製造時の排出は1kWhあたり二酸化炭素換算で約20gで、サハラ全体では約1.5兆トン、現在の人類の排出量の約37年分になるという。また、砂よりパネルのほうが太陽光を吸収するため、周囲が温まる。サハラの最大50%を置き換えたシミュレーションでは、地球の平均気温が0.4℃程度上がり、北半球の高緯度では2℃を超える場所もあり、アマゾンの降水量が年間数百mm減るとされる。さらに、サハラは多くの国にまたがり、政情不安やテロの懸念もある(2016年にアルジェリアのガス施設が攻撃された例)。現地の資源を他地域のために使うことへの反発も多いという。動画は、実現には技術だけでなく社会の変革が必要だと結論づける。
モンティセロ・ダムの「グローリーホール」
カリフォルニア州ナパ郡のモンティセロ・ダムには、水位が一定以上になると水を流し込む巨大なダム穴があり、朝顔の英名にちなんで「グローリーホール」と呼ばれる。狭い峡谷で他の放流設備を置く場所がなく、建設中に川を迂回させた水路に接続して作られた。最も広い部分の直径は22mで世界最大級である。
吸い込まれた人は、1997年の女性1人だけだという。周囲の呼びかけに応じずに近づき、20分ほど縁につかまった末に落下した。ただし動画は、この穴がむやみに危険なわけではないとも述べる。穴が機能するのは過去60年で25回程度(最後は2019年)で、周囲には遊泳禁止の規制線がある。事故当日の水位は10cm以下と推定され、女性は自ら落ちたという噂もあるという。
思考実験では、雨を降らせて水位を最大にし、毎秒137万リットルが流れ込む状態にする。流線形の穴は音を立てず、近づくまで静かに見えるが、水面が斜面になった地点に入れば吸い込まれるのは確定する。内部は直径22mから最も細い8.5mまで狭まり、落差60m、傾斜84度。世界一高いウォータースライダー(高さ51m、傾斜60度)とは比べものにならない。その後は水平の迂回トンネルに叩きつけられて命を落とすという。水が流れていない時期、このトンネルは地元の若者がスケートボードの練習に使っている。2019年には吸い込まれた鵜が放水路の出口から弾丸のように飛び出したと報じられた。水はパタ・クリークに注ぎ、1997年の女性の遺体も下流で見つかっている。
スペースシャトルはなぜ廃止されたのか
2011年7月21日のアトランティス号の着陸で、スペースシャトルは30年・135回のミッション、総飛行距離約8億7000万kmの運用を終えた。後継機はなく、アメリカは宇宙飛行士を送る手段を失った。シャトルは、翼のある軌道船、2基の固体燃料補助ロケット、オレンジ色の外部燃料タンクで構成され、ハッブル宇宙望遠鏡の打ち上げと修理、国際宇宙ステーションの建設などの実績を残した。
動画は、直接の理由を3つ挙げる。1つ目は費用である。NASAは1970年代初め、年50回前後、1回1500万ドルで打ち上げられると議会に説明していた。しかし実際には、形がすべて異なる約2万4000枚の耐熱タイルの手作業交換、エンジンの分解検査、海に落ちた補助ロケットの回収と洗浄が必要で、外部タンクは使い捨てだった。年間飛行回数は1985年の9回が最高で、平均は4〜5回。1回あたりの費用は稼働期間で約12億ドル、停止期間を含めると15億ドルになったという試算がある。
2つ目は安全性である。1986年のチャレンジャー号は、補助ロケットの継ぎ目のOリングが低温で硬化したことが原因で、技術者が反対したにもかかわらず打ち上げが強行され、73秒後に爆発した。2003年のコロンビア号は、断熱材の落下が翼前縁のRCCパネルを損傷して帰還時に空中分解した。断熱材の落下はほぼ毎回起きていたのに、管理部門は許容可能なリスクとして放置していたと調査委員会は結論づけている。
3つ目は政治判断である。2004年1月、ブッシュ大統領が宇宙探査ビジョンを発表し、ISS完成とともにシャトルを退役させて月・火星計画に資源を振り向ける方針を示した。当時、シャトルはNASA予算の約4分の1を占めていた。
根本的な原因として動画が挙げるのは1970年代の政治事情である。アポロの成功後で国威発揚の動機が薄れ、ベトナム戦争で財政が悪化していた。NASAが本来構想していたのは、両段とも滑走路に戻る完全再利用の2段式宇宙船だったが、開発費を大きく削られ、「何も作らないか、妥協して作るか」の選択で後者を取った。その結果、止められない固体燃料ロケットが採用され、巨大すぎて一度に運べないために継ぎ目が生まれ、それがチャレンジャー号事故の原因になった。打ち上げ頻度が落ちるとコストが上がり、現場がさらに逼迫するという悪循環に陥ったという。
動画はチャレンジャー号事故報告書の「成功する技術のためには、現実が広報に優先しなければならない。自然を騙すことはできない」という一文を引き、予算という経済的側面もまた現実だと付け加える。最後に、2026年4月2日(日本時間)に打ち上げられたアルテミス2のSLSロケットの4基のRS-25エンジンのうち3基がシャトルで使われたものだったことに触れ、シャトルのエンジンはまだ宇宙を飛んでいると結ぶ。
地底都市を作ったら
導入では、埼玉県春日部市の首都圏外郭放水路(地下50m)を例に、人類はすでに地下に巨大施設を作れると述べる。実際に人が住んだ例として、トルコのデリンクユ地下都市(最深部85m以上、2万人収容、数千年前から1920年代まで使用、主に避難所)と、オーストラリアのクーバーペディ(人口2000人前後、半数以上が「ダグアウト」と呼ばれる地下住居に住む)が紹介される。
最大の利点は温度の安定である。地下は1kmごとに約25℃上がるが、それより十分浅ければ年間を通じて快適な温度が保たれる。クーバーペディでは地上が冬2〜3℃、夏50℃超になるのに対し、ダグアウトは19〜25℃に自然に保たれ、地上に住むと電気代が非現実的になるという。世界のエネルギー消費の10〜15%は室温調節に使われるとされるので、節約効果は大きい。地下は小型モジュール炉の設置場所の候補としても挙げられている。
問題も多い。換気が難しく(デリンクユには換気口が50か所以上ある)、岩盤から出る放射性気体ラドンが地上の数倍に達して肺がんのリスクを高める。湿気でカビが増えやすく、乾燥したクーバーペディと違って日本では大きな問題になる。建設費は地上の高層ビルの約2倍という試算があり、火災時には煙が早く広がり、洪水には極めて弱い。日光がないことも深刻で、セロトニンやビタミンDの不足からうつ、骨や睡眠の異常を招く恐れがあるという。
一方で、地上の混雑緩和、地下農業や小型モジュール炉の実証に加え、宇宙線が届きにくい環境という利点もある。ダークマター検出実験に使う銅などの部材は、宇宙線による放射化を避けるため地下で製造・保管されるので、地底都市があれば安く作れ、天文学の進歩につながる可能性があるという。
南極に行ったら
南極大陸は約2億年前、南米・アフリカ・インド・オーストラリアなどとゴンドワナ大陸を形成しており、温暖で森林が広がる時期もあった。分離後に南極周極流が形成されると他の海からの熱が遮られ、遅くとも3000万年前には現在の姿に向かったという。
現在は、アルゼンチン、チリ、オーストラリア、ニュージーランドからの観光船で主に南極半島(南緯63度付近で、グリーンランドの北端より極に近い)へ行けるほか、南極点まで飛ぶ飛行機のプランもある。入念な準備をすれば生還は難しくないという。
準備なしの場合として、動画はまず南極半島を挙げる。真夏の平均最高気温は1℃、最低は−2℃だが、風速40m/sに達することもあり(80m/s超の記録もある)、体感温度は大きく下がる。冬は最高気温でも−10℃を下回り、極夜で真っ暗になる。内陸は氷床のため標高が高く、南極点は標高約2830m、冬の平均気圧は約675hPaで、極端な低温による大気の収縮のため、それより約900m高い富士山頂に匹敵する。年平均気温は−49℃、観測史上最高でも−12℃程度。地球観測史上の最低気温−89.2℃は、南極点から約1300km離れた標高3488mのボストーク基地で記録された。衛星観測では地表付近で−98℃という値もあり、風を加えれば体感−100℃を下回っても不思議ではないという。
人体への影響については、血管収縮による凍傷、低い気圧による酸素不足、湿度0.03%という乾燥による脱水が重なり、数分で凍傷になってもおかしくないと説明される。医師によれば、−40℃以下では人体は機能するように作られておらず、一つの判断ミスが命取りになる。研究では、−50℃ではよほどの厚着でない限り数時間で体温が30℃を下回るとされる。動画は、20世紀前半の探検で倒れた人々の遺体が今も南極で眠っていることに触れて終わる。
青木ヶ原樹海に入ったら
青木ヶ原樹海は富士山の北西に約30km²広がる森で、上から見ると木々が海のように波打って見えることから名付けられたとされる。864年に始まった貞観の大噴火の溶岩が「せの海」という湖を埋め、その名残が精進湖と西湖である。パイオニア植物に続いて樹木が育ったが、硬い溶岩に根を張れないため、今も根が地表をうねっている。
自殺の名所というイメージは、1960年頃に発表された松本清張の小説『波の塔』がきっかけとされる。現在は正確な人数は公表されておらず、自治体は訪問者への声かけを行っている。2020年度には346人に声をかけたという。
遊歩道を歩くだけなら危険はなく、苔やシダ、ギンリョウソウなどの植物、溶岩の内部が流れ出てできた洞窟を楽しめる。富岳風穴は夏でも平均3℃である。しかし遊歩道を外れると、凹凸の激しい地面と360度同じような森に囲まれる。2025年にはキノコ採りの男性がわずか10分で迷い、警察に救助された。動画は、2009年に発表された研究を紹介する。ドイツの森やサハラ砂漠で被験者を歩かせると、太陽や月が見えれば比較的まっすぐ進めたが、曇りや目隠しの条件では直径20m未満の範囲で不規則に回り、平均で100mも離れられなかった。樹海は木々で太陽や富士山が見えにくく、足元の凹凸で方向感覚もずれていくため、この弱点が出やすいという。
一方、「コンパスが狂う」というのは迷信だとする。溶岩の磁性鉱物に近づければ針は影響を受けるが、正しく持てば十分使える。携帯電話も基地局整備が進み、以前ほど深刻ではない。動画が本当の危険として挙げるのは、パニックによる判断の喪失(救助隊を避けるような動きをする例もある)と、ツキノワグマや猛スピードで駆ける鹿などの野生動物である。動画は、樹海の怖さは得体の知れないものではなく、自然の中で人間の弱さがむき出しになることだと述べる。そして、溶岩の後に命が根付いた生命力の象徴として見てほしいと結ぶ。
1億年前の火星と、海を失った理由
現在の火星は、気圧が地球の1%以下で、大気の大部分は二酸化炭素、表面には生物が長く耐えられない放射線が降り注ぐ。動画は時代を遡りながら火星の姿を追う。
1億年前の火星は現在とあまり変わらない。ただし高さ20km超のオリンポス山ではまだ小規模な活動が続いていたと考えられる。また、土壌の過塩素酸塩、特に過塩素酸カルシウムは水の凝固点を約−75℃まで下げうるため、塩分の濃い水が短期間存在した可能性がある。火星由来の隕石から1億7000万年前以降に液体の水で変質した鉱物が見つかったという研究もあり、蜃気楼のようにはかない水を目撃できるかもしれないという。
20億〜30億年前も気圧は現在とほぼ同じだが、地下に眠っていた水が火山活動で噴き出し、大洪水が起きた。流量は最大毎秒10億m³で、アマゾン川(最大約30万m³)の3000倍以上とされる。
37億〜43億年前には、北半球をほぼ覆う海が存在し、深さは最大1.6km以上あったと考えられる。40億年前には少なくとも0.5気圧の大気があったとする研究もあり、金星・地球と並んで青い惑星が3つあった可能性があるという。しかし、太陽風の粒子が大気の分子にエネルギーを与えて宇宙へ逃がす現象が数億年続いた結果、大気が薄くなって海は蒸発した。水蒸気は紫外線で分解され、軽い水素は宇宙に逃げ、残った酸素は鉄と反応して赤錆になった。青から赤への変化は約39億〜30億年前に進んだとされる。
地球との違いは磁場である。多くの科学者は、磁場の維持には液体金属のコアと温度差による対流が必要だと考えている。地球では、固体の内核が成長する際に軽い成分が外核に押し出され、浮力による対流が生じている。火星は直径が地球の約半分、質量が約10分の1で冷えやすいうえ、コアを毛布のように覆う液体の層が内外の温度差を小さくしたと考えられ、磁場は約39億年前に止まったという。動画は、地球も数十億年後には膨張する太陽によって水を失うと考えられていると述べる。
ブラックホール
動画はまず、ブラックホールは「宇宙に開いた穴」ではないと断る。太陽の約8倍以上の質量を持つ恒星が燃料を使い果たすと、鉄のコアが潰れて超新星爆発を起こし、残ったコアがブラックホールになることがある。中性子星同士の衝突でも生まれうる。ビッグバン直後に直接できた原始ブラックホールという説もあるが、まだ見つかっていない。
脱出速度は地球が秒速約11km、太陽が約600kmで、ブラックホールでは光速を超える。見つかっているのは太陽の数倍〜100倍程度の恒星ブラックホールと、数十万倍以上の超大質量ブラックホールで、その中間は確実には見つかっていないという。事象の地平面の内側からは何も戻れない。回転しない場合、その半径はシュワルツシルト半径と呼ばれ、太陽質量なら約3kmである。動画は東京駅を中心に東京タワーや両国国技館あたりまでの範囲に太陽の質量が収まるイメージだと説明する。地平面は表面ではなく、通過しても何も感じない可能性が高いという。
太陽を同じ質量のブラックホールに置き換えても、惑星の軌道は変わらない。しかし太陽の5倍程度の恒星ブラックホールに足から近づくと、中心から20km(地平面から5km)の地点では、1mmの差で地球重力の1万7000倍もの潮汐力が生じ、体は引き伸ばされる(スパゲッティ化)。一方、超大質量ブラックホールでは潮汐力はわずかで、地平面を何事もなく越えられる。内部では、一般相対性理論の記述上、中心へ向かうことが時間の進行のように避けられないものになり、最終的に特異点に至ると予測される。
特異点では計算上密度が無限大になるが、多くの科学者は一般相対性理論が適用範囲を超えているだけだと考えている。候補として、時空に最小単位があるとするループ量子重力理論(特異点の先がホワイトホールにつながると考える物理学者もいる)や、弦理論のファズボール仮説が紹介される。ただし、どれも観測による裏付けはない。
観測史としては、1964年に白鳥座のX線源が見つかり、1971年に伴星の揺れから見えない重い天体の存在が判明した。2019年にはイベント・ホライズン・テレスコープがM87中心の太陽の約65億倍の超大質量ブラックホール(シュワルツシルト半径180億km)を撮影した。最も近いGaia BH1は約1560光年先にあり、太陽の9〜10倍の質量で、太陽に似た星と地球・太陽間ほどの距離で静かに回っている。超新星爆発の後にこれほど整った連星が残るのは説明が難しく、動画は、ブラックホールの誕生や進化について人類はまだ分かっていないことが多いのかもしれないとする。ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)は、宇宙誕生から7億年程度の銀河に不釣り合いに大きな超大質量ブラックホールを見つけており、銀河とともに成長したという従来の仮説は修正を迫られているという。
最後にホーキング放射が紹介される。蒸発にかかる時間は、恒星ブラックホールで10の67乗年、超大質量ブラックホールで10の100乗年程度と予測されている。恒星がなくなった遠い未来には、物体を投げ込んでエネルギーを取り出すことが理論上可能なブラックホールが、生命の最後の拠り所になるかもしれないと動画は述べる。
24の太陽系外惑星
この回は物語を付けずに、6000個以上の確認済み惑星(候補は8000個以上)から24個を紹介する。動画はここから、太陽系が宇宙の標準ではないことが見えてくるとする。
最初に取り上げられるのは、1992年にパルサー「リッチ」の周りで見つかった最初期の系外惑星ポルターガイスト(PSR B1257+12 c)である。毎秒約160回転するパルサーの規則正しい信号のずれから発見された。次に、最も近いプロキシマ・ケンタウリb(4.2光年)。2016年にハビタブルゾーン内で見つかったが、極紫外線は地球の30倍、X線は250倍を浴びている可能性がある。LHS 1140 bは質量の9〜19%が水と推定され、昼側だけが凍らない「目玉」のような世界の可能性がある。ティーガーデン星bは地球とほぼ同じ大きさ・質量で、地球類似性指標が最高水準にある。ケプラー37bは直径が地球の約0.3倍で、動画では2025年時点で最小の系外惑星とされる。
極端な環境の例も続く。かに座55番星eは表面が溶岩に覆われ、昼側で3000℃を超える可能性がある。かつての「ダイヤモンド惑星」説は現在では退けられているという。ホットジュピターの例として、HD 189733 bはケイ素を含むガラスが秒速2000mの風で横殴りに降る青い惑星、WASP-76bは鉄が蒸発して雲になり鉄の雨が降る惑星、TrES-2bは石炭より光を反射しない理由が説明できない黒い惑星として紹介される。密度の対比として、WASP-127bは1cm³あたり0.1gと発泡スチロール並み、TOI-4603bは約14gと鉛を超える。WASP-12bは恒星の重力でラグビーボール状に引き伸ばされ、300万〜500万年後に飲み込まれると推定されている。グリーゼ436bは彗星のように水素の尾を引く。
天文学上の意味を持つ惑星もある。ペガスス座51番星bは主系列星で初めて見つかった惑星で、恒星のすぐ近くにガス惑星はできないという当時の理論を覆した。GJ 1214bは太陽系にない「ミニ・ネプチューン」の代表例とされる。グリーゼ900bは公転に地球の126万年以上かかり、市民科学によって発見された。ケプラー1625bは系外衛星候補を持ち、自由浮遊惑星PSO J318.5−22には主星がない。さらに、ケプラー16bは連星を回る「タトゥイーン」、HD 100546 bはギネス記録上最大の系外惑星である。J1407bは巨大な環を持つとされたが、その存在自体が疑問視されるようになった。
最後に紹介されるのは、JWSTが直接撮影したWD 1202−232 bである。白色矮星の周りで、太陽が白色矮星になった後の木星・土星と似た軌道を回っており、太陽の寿命が尽きた後も木星や土星は残るかもしれないと動画は述べる。
宇宙はどう生まれ、どこへ向かうのか
締めくくりの回は宇宙の起源を扱う。アインシュタインは1917年に静的な宇宙を前提とした論文を書いたが、1929年にハッブルが膨張を示した。時間を遡れば宇宙は超高温・超高密度になるというのがビッグバン理論で、年齢は約138億年とされる。
ただし動画は、誕生の瞬間は分かっていないと強調する。例えとして、子どもが毎年大きくなるという法則だけで遡れば「人は無から生まれた」という誤った結論に達してしまうことを挙げる。一般相対性理論や標準模型が初期宇宙にも成り立つかは分からず、10の−43乗秒より前は全く分かっていないという。
その後は時代順に説明される。大統一時代には重力以外の3つの力が一つだった。続くインフレーションでは、ごく短時間に宇宙が10の26乗倍(一説には10の40乗倍)以上に膨張し、現在の観測可能な宇宙は直径10cm程度になった。理由は不明だが、宇宙背景放射の特徴から、これに似た現象が起きた可能性が高いとされる。電弱時代を経てクォーク時代に4つの力が分かれた。物質と反物質は対消滅したが、約20億個に1個の割合で物質が多かったため現在の宇宙が残った。その理由も分かっていないという。ハドロン時代(約1秒まで)、レプトン時代(約3分まで)を経て、ビッグバン元素合成で水素やヘリウムの原子核ができたが、20分ほどで核融合は止まった。約38万年後、約3000℃まで冷えて原子ができると光が直進できるようになり(宇宙の晴れ上がり)、これが宇宙背景放射になった。その均一さはインフレーションの有力な証拠だとされる。
暗黒時代のうち誕生から約1000万〜1700万年の間は0〜100℃で、気圧さえあれば液体の水が存在できた。動画は、そのとき生命が生まれ、塵に混じって地球に届いたとするパンスペルミア説にも触れる。1億〜5億年後にはダークマターの網の目に沿って銀河ができ、太陽の数百倍の第1世代の星が超新星爆発で重元素をばらまいた。太陽は誕生から約90億年後にできた第3世代の星とされる。同じ頃から宇宙の膨張は加速に転じた。その原因として考えられたのがダークエネルギーだが、正体は分かっていない。
未来として有力なのは、加速膨張が続き、1兆〜100兆年後に星が燃え尽き、10の100乗年後にはダークマターと少量の電子が飛び交うだけになるビッグフリーズである。ビッグリップやビッグクランチの可能性も残る。動画は、すべてはまだ理解されていないダークマター、ダークエネルギー、宇宙の法則次第であり、世界がどう生まれどこへ向かうのかという探究はまだ続く、と結んでいる。
多くの文化では巨大な爬虫類や竜の存在がいにしえの伝承として残っています。例えばアメリカ大陸とアジアなど文化的交流などなかったと考えられる文化でも同じモチーフの伝承が存在しているのは不思議に思いませんか?その理由については諸説ありますが、かつて栄華を極めた恐竜の化石を竜の骨だと勘違いしたという説も存在します。全ての大陸にまで進出していた恐竜は絶滅してもなお人類に影響を及ぼしているようです。
それでは、もし恐竜が絶滅を回避していたら、世界はどのような様子になっていたのでしょうか?映画のように人類が狩り尽くされてしまうのか?それとも人間たちは恐竜を乗りこなしているのでしょうか?今回は恐竜が絶滅していなければどうなるのかについてご紹介したいと思います。
恐竜の絶滅のきっかけとなったのは、およそ6600万年前に衝突した小惑星だと言われることがあります。その小惑星の直径は10kmから数十km程度と推定されており、現在のメキシコ・ユカタン半島付近に衝突。結果として地球上の生物種のうち実に75%が絶滅してしまったと考えられています。また一説にはメキシコ湾を高さ1.5kmにもなる津波が襲い、地球の反対側でも高さを超えたとされています。
もちろん地球の生物種の75%が絶滅するような隕石がもたらす影響は津波だけではありません。衝突直後には核爆発と同じように直径数十kmにもなる火球が出現。さらに衝突の衝撃により大量の岩石が宇宙空間に放出され、それが地球の重力に引かれて大気中に再突入する際に大量の熱が発生。衝突の位置から1800km以上離れた場所でも気温が平均155°、場合によっては500°を超えたと推定する研究が存在します。現在の中央アメリカ一帯が一瞬にして死の大地と化してしまったようです。
その後も衝突により硫黄を含む塵が大量に空気中に放出されて地球全体を覆い、世界全体の気温が急低下。前年と比較して10度も気温が低下した場所もあったようです。太陽光が十分に届かないことで多くの植物が枯れ、多くの草食動物、そして草食動物を餌にしていた肉食動物もやがては餓死してしまったと考えられています。その影響は数年以上続いたと考えられ、当時大型種が多かった恐竜は多くの食べ物が必要だったため、恐竜は絶滅してしまったという説が有力です。
それでは、もし恐竜の絶滅が起こらなかったら地球は現在と比べてどのように変わっているのでしょうか?と言いたいところですが、実は厳密な意味では恐竜は絶滅などしていません。というのも現在の地球に生息する鳥類は恐竜から分岐したと考えられ、恐竜という単語は恐竜から進化した全ての生物種を含むと定義されています。つまり鳥類は全て恐竜ということになります。恐竜が絶滅しなかった世界とは今あなたが暮らしている世界そのものなのです。とはいえ鳥のことを悪く言うつもりはありませんが、この答えでは少しつまらないでしょう。
ミスターバイエンスに過去へタイムスリップしてもらい、地球に衝突するはずであった小惑星の軌道を変えていただきます。もし6600万年前の小惑星衝突が発生していなかったら、どのような世界になったのでしょうか?その時の人類はどのような暮らしになるのでしょうか?恐竜は小惑星の衝突とは無関係に6600万年前時点では衰退していたという説が存在します。また小惑星衝突の数十万年前から現在のインドでは地球史上稀に見るほどの火山活動が発生しており、それが恐竜の絶滅に影響したとも考えられています。一方で6600万年前の時点で恐竜は全ての大陸に進出し、多少の息切れのような兆候は見えていたものの、恐竜の種類は過去最高に達していたとする研究も存在し、小惑星の衝突なしではその勢いを完全に止めることはできなかった可能性が高いでしょう。
そうなると大きく歴史が変わるのが鳥類と哺乳類の進化です。小惑星衝突後、これらの2つの種類の動物が生き延びられたのは、衝突直後には穴を掘って隠れることができたことと、元々食べ物の種類が比較的豊富だったため、その後続いた飢餓の時代を生き延びることができたためであると考えられています。塵の雲がようやく晴れ、恐竜がいなくなった大地に踏み出した彼らは、恐竜が開いた穴を埋めるように多くの種類に進化していきました。
仮に恐竜の大量絶滅が発生しなかったら、この爆発的とも言える進化は発生しなかったかもしれません。例えばハルシュカラプトルと呼ばれる小型の肉食恐竜はまるで水鳥のような生態をしていたと推定されるなど、現在鳥類や哺乳類が占めている役割も恐竜が占めていたことがあったようです。このような状況では現在の地球と比較すると鳥類と哺乳類の存在感は小さくなると予想しても不自然ではないでしょう。
また恐竜が闊歩していた時代には、哺乳類は進化論的には親戚にあたる哺乳形類との激しい競争にさらされていたようです。哺乳類が爆発的に数を増やしたのは、恐竜絶滅後の激変した環境により哺乳形類との生存競争に勝利した後だとする説も存在するほどです。もし恐竜が絶滅していなかったら、哺乳類と哺乳形類の戦いにどちらが勝利していたかは定かではありません。もしかすると哺乳形類から進化した生物が現在まで生き延びているかもしれませんね。
では、この世界では人類のように高度な知能を持つ生物は誕生していたのでしょうか?一般的には高度な知能は大量のエネルギーを消費するため、必ずしも生存競争には有利に働かないと考える科学者が多く、多くの哺乳類が恐竜や哺乳形類に怯えるような生活をしていたら、現在の地球と同じように人類のような高度な知能を持つ哺乳類が誕生していたかは疑問視されています。
しかしもし仮にこの世界でも人類が誕生していたら、現在の人類とどのような違いがあるのか気になるでしょう。当時の哺乳類はネズミのように体は小さく、夜行性の種類が多かったと推測されています。かつて夜行性であったことの影響は現在に至るまで残っており、ほとんどの哺乳類は現在も2色しか色を認識することができません。これは光が少ない夜に活動していたため、色を認識するより少ない光を認識できた方が生存に有利だったためと推定されています。この現象は夜行性ボトルネックとも呼ばれることがあります。
その一方で鳥類や爬虫類は4色。日中活動する分には、例えば生い茂る葉っぱの表を見分けることができるなどの利点があるのですが、鳥目という言葉があるように光が少ない場所は比較的苦手です。人類はどうかと言うと、ご存知の通り3色。これは深緑の背景に対して赤い果物を見分けることができると生存に有利だったからという説が有力です。しかしここでは日中は恐竜が支配する世界。つまり仮に人類が誕生していたとしても、現在より夜行性動物の側面が強く、他の多くの哺乳類のように2色しか見分けられない可能性が考えられます。この世界の人類の視界は現在の人類と比べてどこか色褪せたものに映るかもしれません。
またそもそも人類がこの世界では恐竜の餌にしかならないのではないかという心配については、ゾウやライオン、カバなど、実は現実のあなたたち人間も危険な動物と隣り合わせで暮らしてきたという事実があります。恐竜も危険なのは間違いありませんが、さすがに狩り尽くされて人類が絶滅するというほどにはならないでしょう。
もしこの世界でも人類が生き延びていたのであれば、まるで映画に登場する恐竜のテーマパークのような巨大な恐竜が暮らす動物園に人々が群がることも考えられます。もしくは人類が誕生することもなく恐竜の天下が今でも続いているのかもしれません。
1つの時代の終焉、そして新時代に移行するプロセスは一般的には緩やかにゆっくりと進行します。移り変わりが激しい現代社会に暮らす人間であればともかく、この地球の歴史上、時代の境界線は明確ではないことがほとんどです。
しかしその数少ない例外が、およそ6600万年前に存在するK-Pg境界。これは地球の歴史で中生代と新生代を分ける境界線です。ここでは1億5000万年以上栄華を極めた恐竜を含む地球上の全生命のおよそ75%が絶滅したと考えられています。多くの科学者はその日地球に小惑星が落下し、それが大量絶滅の一因だったと考えています。いわば恐竜絶滅の日、地球の歴史を動かしたその運命の日には何が起きたのでしょうか?地球の長い歴史の中でも稀に見る大事件。あなたにその地獄を体験させてあげましょう。今回は恐竜絶滅の日には何が起きたのかについてご紹介したいと思います。
6600万年前の地球は現在よりも大気中の二酸化炭素濃度が高く、平均気温は5°から10°程度高かったようです。そのため恐竜は南極大陸を含めた全ての大陸に進出しており、繁栄の度合いが伺えます。この時期に生息していたその他の有名な動物といえば翼竜、アンモナイト、ワニなど。後に人間へと進化する哺乳類もかつては恐竜の影に隠れていたと考えられていましたが、近年においては実は様々な種類に進化していたという説も存在します。
そんなある日、現在のメキシコのユカタン半島沖に小惑星が衝突したと考えられています。それは世界中の地層を見れば明らかで、イリジウムという元素が多量に含まれています。イリジウムという元素に聞き馴染みはないかもしれませんが、それは地球の地表ではほとんど存在しないためです。イリジウムは重いため地球が形成された際に下に沈んでしまったと考えられています。一方小惑星には比較的多くのイリジウムが含まれています。巨大な小惑星が地球に衝突した場合、その年代に相当する地層に大量のイリジウムが残されるため、科学者たちはそれを手がかりに小惑星が衝突した日のことを細かく知ることが可能です。
例えば当時のチョウザメは季節によって成長速度が異なっていたため、骨の断面には年輪のような模様が観測されることが分かっています。ちょうど小惑星が衝突した地層から発掘されたチョウザメの化石を解析することで、この小惑星は北半球の春に衝突したということが分かっています。
しかし全てのことが明らかとなっているわけではありません。例えば小惑星の大きさの予想は10kmから数十kmと大きな開きがあります。必然的に衝突の総エネルギーもTNT換算で数千万メガトンから1億メガトンと正確な数値は分かっていません。しかし例えば広島を壊滅させた原爆は0.015メガトン。人類最大の核爆弾であるツァーリ・ボンバでさえ50メガトンということを考えると、この小惑星は文字通り桁違いの破壊力を持っていたことだけは間違いないでしょう。
人類が経験したことのないほどの大爆発。一体その運命の日はどのような様子だったのでしょうか?バイエンススーツを装着して実際に体感しに行くことにしましょう。
小惑星が衝突した瞬間、太陽より数倍も明るい火球が出現します。火球の温度は数千度にも達し、周囲の生物を一瞬で焼き払ってしまいます。仮に衝突場所から1800km離れていたとしても気温は100°を超えたと予想されており、現在の中央アメリカは死の地帯と化してしまったと考えられています。
落下場所が海であったため、想像を絶する量の水が押しのけられました。その結果発生するのは巨大な津波です。津波はたとえ高さ0.5mであったとしても危険を伴うもの。しかしこの小惑星の衝突により発生した津波は、なんと最大1500mとも予想されています。これほどまでに大きな津波となると内陸部にも甚大な被害を及ぼします。一説には海岸線から100km以上離れた場所にも津波が押し寄せ、全てを飲み込んでいったと予想されています。その津波は世界中に広がっていき、太平洋沿岸でも10mを超えたという試算もあるほどです。
そして津波の被害が落ち着いた後も地獄は続きます。小惑星の衝突により一部宇宙空間にまで巻き上げられた大量の土砂。そのうち大きいものが再び地上に降ってきます。これは火球のように落下地点から近い場所のみに影響するものではなく、全世界で空から細かい石が降ってきたと予想されています。ただただ石が降ってくるという生易しいものではありません。宇宙空間から落下してくるそれは、地球の大気を圧縮しながら大気圏に突入するため、大量の熱を発生します。一説にはその総エネルギー量はTNT換算で2000万メガトン。これは地球全土に対し6km四方に1個ずつ1メガトンの核爆弾を爆発させるのと同じエネルギーです。これにより地球全土で気温が急上昇。一部の地域では植物が自然発火してしまうほどだったと考えられています。特に小惑星の落下地点の近くにある北アメリカ、そして放出された土砂が集まりやすい地球の反対側、オーストラリアやインドでは大規模な山火事が発生したと考えられています。
これだけではまだ生き延びた恐竜もいたでしょうし、時間が経てば恐竜が復活する可能性もあったでしょう。しかしこの小惑星は最悪の位置に最悪の形で落下してしまったのです。
まず現在海の底に存在するクレーターの部分の地面の密度から、小惑星は45°から60°という浅い角度で衝突した可能性が高いと考えられています。この角度では海底面を構成する岩盤をより多く大気中に放出することが分かっています。さらに落下した場所は浅い海であり、その海底には石膏という鉱物が多く含まれていました。石膏とは主に硫酸カルシウムで構成されています。すなわち小惑星の衝突により硫黄を多く含む土砂や塵が大量に大気中に巻き上げられたということになります。硫黄は大気中の酸素と反応して二酸化硫黄となり、それがさらに成層圏で紫外線や水と反応して黒い雲へと変化します。また多発的に発生した山火事も大気にすすなどの黒い粉末を大量に排出します。これらの影響により地上へ届く太陽光が大幅に減少してしまったと考えられています。
一説には1000億tもの硫黄が大気中に放出され、世界の気温が20°以上低下。異常気象は30年ほど続いたとのこと。寒さだけではなく太陽光が断たれたということは光合成も止まるため、全世界で食料危機が発生しました。特に植物が枯れることによる食料危機は半年も続けば一気に食物連鎖が崩壊することがシミュレーションで分かっています。試算によっては数年ほど太陽光が地表まで届かなかったとされるため、これは既存の生態系を完全に破壊するには十分な出来事でしょう。
このような状況でなぜ恐竜が絶滅し、他の動物が生き残ったのでしょうか?この問いに関しては人類ははっきりとした答えをまだ出せていません。恐竜は体が大きい上に他の爬虫類と違い食べ物を多く必要とする温血動物であったという説。また変わったところでは、恐竜は卵を産むため大人と子供でサイズが大きく異なることが原因として挙げられることもあります。同じ種でも大人と子供で生態系の中で異なる役割を果たすようになったため、環境の変化に弱くなったとのこと。
逆に哺乳類や恐竜の一種でもある鳥類はなぜ生き残ったのでしょうか?これにも様々な説がありますが、食料として植物の種を活用できたためという説や、生物の亡骸が大量発生したことにより菌類が大繁殖し、免疫力が比較的強い哺乳類が生き延びやすかったなどの説が存在します。このようにほとんどの科学者はこの日に小惑星が落下したことは間違いないと考えていますが、それが恐竜含めて大量絶滅にどう絡んでいるかについては未だに議論が続いているようです。
一方で恐竜が絶滅したことに対して明らかなこともあります。アメリカのSF作家ラリー・ニーヴン氏の言葉を借りると、恐竜が絶滅したのは彼らが宇宙開発を進めていなかったからだと。10kmほどの小惑星が衝突する確率は100年あたり1万分の1という試算があり、決して0ではない上にいつかは必ず衝突してしまうでしょう。さらに現在の人間の科学力では10kmの小惑星を観測できたとしても、それを地球と衝突しないようにする技術はありません。人類が恐竜と異なり絶滅を回避したいのであれば、宇宙開発、スーツの購入にも力を入れるべきでしょう。さもなければかつて体験したことのないほどの火球、津波、山火事、食料危機にさらされることになるかもしれませんので。
美しき生命の星、地球。皆さんはこの青い星を宇宙から眺めている時にある疑問が湧いてこないでしょうか?それは太平洋のど真ん中には何があるのだろうと。陸から究極に離れたこの場所には実は名前が付けられています。その名はポイントネモ。ポイントネモは世界の海の中で最も陸地から遠い地点です。灯台下暗し、これまで様々な天体に落下してきましたが、ここを見逃していたようです。好奇心旺盛な皆様はもちろん気になりますよね。
ポイントネモとはどのような世界なのでしょうか?到達することはできるのでしょうか?今回はポイントネモに行くとどうなるのかについてご紹介したいと思います。冒頭紹介したようにポイントネモは地球の海の中で最も陸地から離れた場所。
1992年にクロアチア系カナダ人の測量技師フルヴォイェ・ルカテラ氏により発見されましたが、ルカテラ氏は実際にポイントネモを訪れたわけではありません。なんと世界中全ての海岸線から最も遠い場所をプログラムによって求めただけ。そのため厳密には発見と呼ぶのもおかしいかもしれません。ルカテラ氏はその場所をラテン語で無人を意味するネモという単語と、小説『海底二万マイル』に登場するネモ船長にちなんでポイントネモと名付けました。
正確な距離の計算は実は複雑になるため諸説ありますが、2018年の研究によるとポイントネモのおよその位置は南緯49°、西経123°。オセアニアのニュージーランドと南米のチリの間に位置しています。ポイントネモから最も近い陸地は、北にあるデューシー島、北東にあるモトゥ・ヌイ島、そして南にある南極大陸沖のマハー島という3つの島であり、それぞれの島からちょうど2700km程度離れています。
どの島の名前も聞いたことがないとお考えでしょう。それもそのはず。デューシー島とマハー島は直径が3kmにも満たない無人島であり、モトゥ・ヌイ島はモアイで有名なイースター島のすぐ南西にある直径200m程度の小さな島です。つまりポイントネモに最も近い人間は、2700km以上離れたイースター島に住んでいる数千人の人間か、時折上空400kmに来る国際宇宙ステーションの乗組員ということになります。日本で例えるなら、沖縄県の宮古島から北海道の稚内までの直線距離がおよそ2720kmなので、宮古島と稚内の距離を半径としてぐるっと一周させた空間内に人間どころか陸地さえ一切存在しないような孤独を味わえるということです。
イースター島でさえ絶対の孤島と表現されることがあるので、さらにそこから2700km以上離れているポイントネモに到達した人間などいないと思うかもしれません。しかし世界を一周するようなヨットレースではポイントネモのすぐ近くを通りますし、極めて少数ながら貨物船は日常的に付近の海を航行します。意外にもポイントネモを訪れた人間の数は少なくないと言えるでしょう。
とは言ってもゼロと言ってもいいほど人は訪れません。現代社会に疲れたあなたは1人になれる時間をお探しでしょう。そのため今回は大サービス、バイエンススーツを使用してポイントネモまで送り届けてあげましょう。ああ、遠慮はいりませんよ。
ということで早速ポイントネモに向けて出発します。多くの場合はおよそ3300km離れた南米チリか、およそ4700km離れたニュージーランドから出発することになります。
ポイントネモへの最短到達記録は船で15日と10時間37分。出発すると荒れることが多い南太平洋の上を船で2週間以上かかる旅が待っています。荒波に揉まれながら船旅を続けると、あるところから風も波も落ち着くようになります。地球の自転の影響でニュージーランドから南極大陸、そして南米大陸を反時計回りに渦を巻くような海流、南太平洋環流が存在し、その環流の内側に風や海流が届くことは少なく、穏やかな海が広がりやすいのです。
目指すべきポイントネモは南太平洋環流の中心付近に位置します。そして言い忘れていましたが、ポイントネモへの最短到達記録は船の場合は先ほどご紹介した15日と10時間37分ですが、バイエンススーツの場合はおよそ0秒。
ポイントネモに到着したようです。とはいえその場所に何か目印になるものがあるわけではありません。あるものは見渡す限りの海。地球の丸みの影響で、たとえ望遠鏡を覗いたとしても陸地を見ることはありえないでしょう。都会の喧騒も荒れ狂う波もポイントネモでは全くの無縁。あなたは地球上でこれ以上ないほどの孤独を体験することができます。
少し退屈になりましたか?海があるので海水浴と行きたいところですが、残念ながらこれはお勧めできません。ポイントネモの緯度は南緯49°。北海道の稚内が北緯45°なので、北半球と南半球の違いはあれど、ポイントネモは日本の最北端より高緯度に位置するということになります。ポイントネモの水温は平均7°であり、1年を通じてもさほど変化しません。さらに水深はおよそ4kmとされるため、海の中で足をつくなど夢のまた夢。どうしても海に入りたいなら、低温用の分厚いウエットスーツと、海の木と重さないようにダイビング用の器具を装着するしかないでしょう。ここは地球上で陸地から最も遠い場所。仮に溺れそうになっても助けが来る可能性はほぼゼロに等しいのです。
しかしここまでして海に入ったとしても生き物は非常に少なく、見るものは少ないでしょう。環流の影響と陸地から遠く離れていることにより、ポイントネモの海水は栄養素が乏しく、その結果プランクトンの数が少ないことが分かっています。プランクトンの数が少ないということは、捕食する他の動物も少ないということになります。よってポイントネモでは動物やプランクトンの死骸が雪のように落下するマリンスノーも少なく、深さ4kmの海は海面から海底まで生き物が少ないのです。実際ポイントネモの海底では、環流の外に位置する海底よりも生息する微生物の数が1000分の1から1万分の1程度しかいないことが分かっています。そのためポイントネモは地球上の海で最も死んでいる場所だと表現されることもあります。
海底にわずかに存在する微生物は熱水噴出孔などに集中していると考えられ、太陽光に全く依存しない生態系が存在することが明らかになっています。例えばキワという、全身が毛に覆われていることからイエティクラブという異名を持つ甲殻類がこの付近の海底で見つかっています。
他に海底に存在するものは人間が落下させた人工衛星の破片です。陸地から限りなく遠いこの場所は役目を終えた衛星を落下させるのに適した場所であり、実際旧ソ連のミールという宇宙ステーションを始め、多くの衛星が落下してきています。現在運用中の国際宇宙ステーションも2031年にはこの付近の海に落下する計画になっており、海底の金属片が少し増えることになるでしょう。このことからポイントネモは人工衛星の墓場との異名も持つのです。
そう聞くとどこか気味悪く感じてきませんか?ですよね。なので私は帰っておきますね。もちろん帰りは自力で帰ってくださいね。ではでは。
皆さんは世界一大きな魚と聞くと何を思い浮かべるでしょうか?シロナガスクジラ?いや、それは魚じゃない。ホホジロザメ?うーん、ちょっと惜しい。答えはジンベエザメ。最大で20m程度まで成長するこの魚は、読んで字のごとくサメの一種であり、そして肉食魚でもあります。サメといえばその通り名は海のギャング。以前皆様に体験していただいたように、他の生物を食らい尽くす獰猛な狩人であり、ターゲットにされるのはあなたたち人間も例外ではありません。
ここまで聞くと、好奇心の塊である皆様にはこのような疑問が生じるのではないでしょうか。世界一大きな魚であるジンベエザメに人が食べられたら、どれほど悲惨なことになってしまうのだろうと。あの大きなお口に吸い込まれるとどうなるのでしょうか?今回はジンベエザメに食われるとどうなるのかについてご紹介したいと思います。
まずはこの物語の主役となるジンベエザメについて詳しく見てみましょう。ジンベエザメは世界最大の魚であり、一般的には10m前後まで成長します。平べったい顔に小さな目、そして大きなお口が特徴的です。灰色の体には白い斑点模様が散りばめられており、これが海の青色に実に映えます。日本でもいくつかの水族館で見ることができますし、YouTubeでも多くの動画がアップされているので、皆様も1度は見たことがあるのではないでしょうか。
何がすごいってこのジンベエザメ、その生殖様式が非常にユニーク。ほとんどの魚は卵生と呼ばれる、メスが卵を体外に産み、オスがそれに精子をかけることで受精をします。いわゆる体外受精方式です。その一方でジンベエザメは、メスの生殖器にオスがクラスパーと呼ばれる生殖器を挿入し、体内受精を行います。要するにジンベエザメは人間などの哺乳類と同じように交尾をし、妊娠する、そんな魚なのです。ちなみにオスのクラスパー、つまりペニスはなんと2本も存在します。その理由には諸説ありますが、腹びれが進化してできたので2本あるとの説が有力。
またメスも変わった特性を持ち、1995年に台湾で見つかったお母さんジンベエザメの例によると、その体内にオスから受け入れた精子を貯蔵し、この精子を少しずつ使って何回も妊娠を繰り返している可能性が示されています。精子貯蔵型時間差妊娠システムとでも呼ぶべき不思議な生殖行動です。オスにとっては最愛の妻が一途な思いを貫いてくれるという意味で嬉しいですが、その一方で2人で愛の時間を交わす回数が減ってしまうため、少し切ない気もするでしょう。
さて、大きな体と謎の生活様式を持つジンベエザメですが、この世界最大の魚に人が飲み込まれるとどうなるのでしょうか?
まずはそもそも論として人間が飲み込まれる危険性があるのかという点ですが、非常に残念。まずもってこれはありえません。なぜかと言うと、ジンベエザメの食事は基本的にプランクトンであり、加えて穏やかな性格であるため、人間が食べられるとは考えにくいのです。ちなみにプランクトンと言うと微生物の一種だと勘違いする人も多いのですが、ここで言うプランクトンとはオキアミに代表される遊泳能力を持たない小さな生き物を指しますのでご注意。
ジンベエザメは食事の際にその大きな口で周りの海水ごとプランクトンを吸い込みます。もし何かの間違いでこれに吸い込まれたとしても、ジンベエザメに凶暴な牙はありません。口の中に小さな歯が8000本以上あり、これが危険といえば危険ですが、すでに退化していて米粒より小さいので噛み砕かれる心配はないでしょう。1mを大きく超える人間が間違えて口の中に入っても、なんかでかいの来た、これいつものオキアミと違う、となって吐き出されるのがおちです。
さて困りました。このままでは皆様が知りたい、ジンベエザメに食われるとどうなるのかに答えが出ません。タイトル詐欺になってしまいます。そんなわけでここは少しミスターバイエンスに無理をしてもらい、1cm程度まで縮んでもらうことにしましょう。これならちょうどジンベエザメの大好物であるオキアミの背中に乗れますので、そのまま彼はジンベエザメの体内に侵入することが可能。見てください。彼はわけも分からずどんどんと小さくなっています。なんじゃこれは。
1cmまで縮んだミスターバイエンス。彼は全長およそ3cmのオキアミ初号機にまたがり、無数のオキアミ軍団と共にジンベエザメの口へ飲み込まれようとしています。その後の彼を待ち受ける運命を共に追いかけていきましょう。
ジンベエザメは濾過摂食と呼ばれる食事法を取り、まずは周りの海水とプランクトンを一緒に吸い込みます。そして口の中の海水とプランクトンは、エラの奥にある鰓耙と呼ばれる器官で濾過されます。その結果、餌であるプランクトンだけが濾し取られ、ギュッと濃縮された状態で食道へと流し込まれます。そのためオキアミ号に乗った彼は、今や喉の奥で他のオキアミ軍団に押しつぶされ、もみくちゃにされながら、なす術もなく食道へと落ちていくことでしょう。ジンベエザメの食道はとても細く、その直径は数cmしかありません。10cmサイズの彼にとってもそこは狭くて暗いトンネルであり、しかも周りはオキアミだらけでベトベトです。誰のせいか知りませんが、今日の彼はついていないようです。
食道のトンネルを抜けると、次は消化酵素の海に到着します。皆さんご存知の胃と呼ばれる器官であり、摂取した食物はここで胃液によりバラバラに分解されます。彼が乗ってきたオキアミ号ももはやボロボロで原型をとどめていません。ちなみにジンベエザメは海面付近の餌を効率よく吸い込むために自身の体を海中で垂直に立ち上げて、立ち泳ぎの姿勢を取ります。そのため食事中のジンベエザメの胃の中は直下型大地震の連続で、いつも大揺れといった感じです。これはもう船酔いどころの騒ぎではないでしょう。
胃でもみくちゃにされて消化物の海に放り出された彼は、続いて腸へと漂流します。そこは腸液と呼ばれるアルカリ性の消化液の海です。胃を通り抜けた消化物はここでその構成成分へとさらに分解され、最終的に体内へ取り込まれます。オキアミ号も、そして無数のオキアミ軍団も、今やただの栄養素として体液の海に溶け込んでしまいました。彼にできることはと言うと、腸液の流れに身を任せてこの旅の出口を目指すだけとなります。ただしその道中も決して楽ではありません。ジンベエザメの腸は消化吸収の効率化を目的として螺旋状のひだが張り巡らされています。そのため腸液を漂う彼は螺旋状の壁に行く手を阻まれ、転げ回りながらそのゴールを目指すのです。
その様子はまるで人間ピンボール。あっちにぶつかってこっちにぶつかって、彼はボロ雑巾のような姿。さらにここでもう1つ、さらなる不運が彼を襲います。ジンベエザメは腸洗いと呼ばれる非常にアクロバティックな行動を取ることがあります。これは肛門から腸をプリンと出して、その表と裏をひっくり返した状態で海中にさらし、未消化の食材を腸から洗い出す行為です。ここで振り落とされてしまうと、ここまで耐えに耐えてきた彼の旅はその志半ばで終わってしまいます。それだけは絶対に避けてもらわなければなりません。給料分だけはしっかりと働いてもらいます。彼にはぜひここで気を抜くことなく、腸内の螺旋にでもしがみついてもらい、この苦難を乗り越えていただきましょう。
時は流れ、腸の最後尾にまでたどり着いた彼は、腸内で消化吸収されることなく最後まで残った残りかす、要するにうんこの中に1人紛れ込んでいます。そして彼の目の前には、ついにこの旅のゴールである総排泄腔という名の肛門、つまりアヌスが広がっています。長旅お疲れ様。うんことなってこの物語を終えるのです。
イースター島。それはまさに絶対の孤島と呼ぶにふさわしい小さな島です。イースター島は他の陸地から極端に離れており、最も近い有人島はおよそ2000km離れた人口50人に満たないピトケアン島。これは東京から石垣島までの距離に匹敵します。そんなイースター島はとある石像の存在で有名です。そう、それはモアイ像。どこかユーモラスな見た目をしたそれらの像は、この小さな島の先住民の手によって数多く作られ、中には高さおよそ10m、重さ80tに迫るものもあります。現代技術など存在しなかった当時、これらのモアイを作り上げ、台座の上まで移動させた上、直立させるというのは簡単なことではありません。なぜ先住民はそこまでしてモアイ像を作ったのでしょうか?そして現代のあなたたち人類に何を伝えようとしているのでしょうか?今回はモアイ像はなぜ作られたのかについてご紹介したいと思います。
イースター島の歴史についてはっきりと分かっていない部分も多いですが、モアイ像は西暦1200年頃から作られ始め、最盛期は1500年頃だったという説が有力です。ほとんどの像が島の東部に位置するかつての火山口にあった柔らかい岩を削って作られた後、それぞれの場所に移動されています。多くの人がモアイ像と聞くと頭だけの像を思い浮かべるかもしれません。しかし、足までしっかり作ってあるモアイも存在しますし、頭だけのように見えるモアイも土に埋まっているだけで、上半身も作ってあるものがほとんどです。さらにモアイ像には目がないというイメージがあるかもしれませんが、かつてはサンゴと黒曜石などでできた目がはめられていたと考えられています。
そして先ほど紹介した通り、モアイ像は人よりはるかに大きく、平均して高さがおよそ4m、重さがおよそ10tにもなるようです。このような巨大な像を先住民たちはいかにして何kmも移動させたのでしょうか?これに関しては未だにはっきりとした結論が出ていませんが、ある学説においては、モアイの頭の周りにロープをくくり付け、モアイを立てた状態で左右に揺らしながら移動させていたと考えられています。この方法では比較的小さな像であれば18人という比較的少人数でも長い距離を移動させることが可能とのことで、モアイ像は歩いて台座に移動したという先住民の言い伝えともよく一致します。
先住民たちはなぜこのような苦労をしてまで多くのモアイ像を作り続けたのか気になりますよね。これは信仰と政治、両方の側面に理由があると考えられています。まずモアイ像とは何かと言うと、遠い昔の彼らの先祖が具現化したものという説が有力です。さらにモアイ像が正式な方法で作られると霊的な力が宿ると考えられていました。そのため多くのモアイ像は島民たちを見守るように内陸に向けて建てられました。このようにモアイは島を守る守り神のような存在であり、人々の信仰のために立てられたと考えられます。
信仰と侮るなかれ。モアイ像を作ることで畑に豊作をもたらすと信じられていたようですが、これは本当に効果があったと主張する研究が最近報告されています。モアイを構成している岩は元は火山であったものです。その岩を人間が削ることによりその周辺の土壌に肥料をもたらし、実際に作物がよく取れるようになった可能性があるというのです。
一方でモアイを作るのは単なる信仰の対象を作るというだけではなく、政治的な意図も多分に含んでいたようです。イースター島は東京23区の4分の1ほどしかない小さな島ではありますが、少なくとも2つの勢力が同時に存在していたと考えられています。さらにモアイ像は先住民の先祖の中でも特に権力を持った者の象徴である可能性も指摘されています。モアイ像を作るためには、ただでさえ専門技術を持った複数の人間の協力が必要です。その結果作り出されたのが、かつて人々を導いた長であり、豊作をもたらす存在であり、人々の信仰の対象となるもの。存在そのものが為政者の政治力を維持する役割も果たすというわけです。
このように先住民たちにとって重大な意味を持っていたモアイ像。しかし、少なくとも18世紀の後半には多くのモアイが崩されており、先住民たちは残っているモアイも無視していたことが記録に残っています。あれほど信仰と政治力の象徴であったモアイに一体何があったのでしょうか?これに対し21世紀の初めの頃、ある仮説が唱えられました。それは、かつてイースター島には森林が生えていた。しかし人間の活動、とりわけモアイを作るための活動により過剰に森林を伐採し始めた。やがて島から木がなくなると雨により土が流れ出し、作物の生産量が大幅に低下。島を抜け出すためのカヌーすら作ることができず、島全体に食料危機が発生。人口が極端に低下し、モアイ像に対する信仰も飢饉の中忘れ去られたことで、西洋人がイースター島を見つけた頃には荒廃した文明ととうに捨て去られた石像しか残っていなかった、というものです。
これはイースター島という小さな島の話ではありますが、地球全体の話へと拡張することもできます。イースター島と同じく人類が地球の環境を変えていることは紛れもない事実です。そして地球はある程度であれば回復する力を持ちますが、人間の活動により環境に負荷をかけ続けると、やがては戻らなくなってしまう時が来るでしょう。かつてのイースター島と同じように、地球から逃げ出すことも地球外から資源を持ってくることも容易なことではありません。このままでは人類全体もイースター島と同じように食料危機が発生し、現在の社会は崩壊してしまうのではないかと。
イースター島で発生した環境破壊を起因とする社会の崩壊。そしてそれを地球全体の話へと拡張し、イースター島は地球と人類の未来を予測しており、モアイ像はその象徴であるという論調。この考え方は一時期主流であり、日本の教科書の題材にもなっていたほどですが、この説には異論が多数存在するということはご存知でしょうか?
確かにイースター島にはかつて森林が存在したというのは事実であり、人間が上陸してから森林が消えたということも事実でしょう。さらに西暦1500年頃にイースター島の降水量が減った可能性も指摘されており、森林の減少に寄与したことも間違いないでしょう。しかし例えば、イースター島の先住民を先祖に持つ人間の遺伝子を調査した研究では、人口の極端な減少が発生したとは考えにくく、むしろ西洋人がイースター島に上陸するまで人口は少しずつ増え続けていた可能性が高いと結論づけられています。それどころかモアイやその台座も18世紀まで作られていたという説も存在します。
その説によると、イースター島の社会を崩壊させたのは18世紀にイースター島に上陸した西洋人。彼らが疫病を広め、さらに島の先住民を奴隷として連れて行ったため、社会が崩壊してしまったというものです。例えば1860年代には1000人以上の先住民が奴隷として強制的に島から移動させられ、1870年代には先住民は100人程度しか残っていなかったと言います。
また島から森林が消えてしまったのは人間が木を伐採し続けたからだという説も、実態は少し異なっているというのが近年主流となっています。実は人間がイースター島に初めて上陸した際、ネズミも一緒に上陸しており、人間の活動
そのものよりネズミの影響の方が森林を減らしたと考えられています。イースター島から森林が消えたのは人間の影響というのは間違っていないかもしれませんが、イースター島の人間が考えなしに木を伐採したからというのは少し語弊があるようです。
このように一見して筋が通った説明であるように感じることも、本当にそれが事実かどうかをしっかりと確認する必要があるでしょう。
イースター島に残されたモアイ像は本当に環境破壊と文明崩壊の象徴なのか。人間の環境破壊により地球規模の危機が発生すること自体は間違いないかもしれませんが、それは果たしてイースター島でかつて起きたこととつながるのか。モアイ像は今日も無言で島に立ち続けています。過去を単純化せず、イースター島の人々が辿った道を冷静に学ぶこと。それこそが未来に向けてあなたたち自身の選択肢を広げる鍵になるのかもしれません。
エジプト、ギザ台地。そこには雄大なピラミッド群に混じり、ある巨大な石像が佇んでいます。半分はライオン、半分は人の体をしたその石像は、人類の営みを静かに見守りながら数千年もの時を過ごしてきました。ギザの大スフィンクス。それはただの石像だと呼ぶにはあまりにも大きく、あまりにも謎めいています。その姿と配置から何らかの意図を持って建造されたことは明白。しかしその意図の真実を巡っては今もなお意見が交わされています。
ギザの大スフィンクスは一体どのような役割を担っていたのでしょうか?そして古代エジプトの王たちはこの像に何を託したのでしょうか?今回はスフィンクスの謎についてご紹介したいと思います。
大スフィンクスの全長は73m、高さは20m。スフィンクスの背後にある大ピラミッドは数百万個の石のブロックを積み上げて作っているのに対し、大スフィンクスはギザ台地を構成する巨大な1枚岩を削って作っています。この1枚岩から削り出すという建造方法は、古代エジプトの高度な石工技術と社会制度を物語っています。
以前のバイエンスでも紹介した通り、3大ピラミッドが作られた時代、およそ4500年前のエジプトには、現代の建築物には必要不可欠な重機はおろか製鉄技術すら存在しませんでした。大多数の考古学者はスフィンクスも同じ時代に作られたと考えていますが、なぜそれにも関わらず古代エジプトの人々はこの巨大な石像を作り上げることができたのでしょうか?それは現代水準から見て極めて原始的な道具を使いながら石を狙った形に彫る高度な職人が存在し、その職人を多数動員することができたことを意味します。
実際スフィンクスを構成する岩を分析してみると、その技術の高さが明らかとなります。スフィンクスは石灰岩の1枚岩からできていますが、細かく見ると部位ごとに石灰岩の種類が異なります。地質学的には三層に分類されることが多く、足は下の層、胴体は中間の層、頭は上の層から削られています。このような地層が形成されたのは、数千万年前のこの地域の海の動きが関係しています。足を形成する下の層はかつての海底。そこから時代が進み流れる水が多くなると、泥や粘土を巻き上げ、柔らかい岩と硬い岩が交互に続く中間の層を形成しました。最後に水流が少ない環境に戻ると堆積物の密度が高くなるため、硬い岩からなる上の層が形成されていったのです。その後海が完全に引いたことにより、この地層が完成しました。
硬い岩は加工しにくいですが風化しにくいという特徴があります。そのため古代の職人は細かい加工が必要な頭の部分を上の層から削り出しました。逆に胴体は比較的柔らかい中間の層からできているため、現代では風化が進んでいることが見て取れます。しかしこの部分は柔らかい層と硬い層が交互に存在するため、スフィンクスの前に建設予定だった2つの神殿のための石材としてはうってつけです。残念ながら神殿は未完成のまま放置されたようですが、スフィンクスの材料だけ見ても様々な工夫が見られるため、何かしらの事情はあったと見るのが自然でしょう。
しかし数千年という時間はあまりにも長すぎました。4500年という長い歴史の中で、スフィンクスは幾度となく放置され、砂に埋もれては発掘され、損傷しては修復されるということが繰り返されています。例えば19世紀初頭のスフィンクスの絵では、肩まで砂に埋まった姿が描かれています。またスフィンクスの手足に当たる部分のうちほとんどは、記録も残っていないほど古い時代の石膏で覆われていることが明らかになっています。
今となっては、スフィンクスが何のために作られたのか、そして誰によって作られたのかさえ、記録が時代と共に消えてしまいはっきりとは分かっていません。中には胴体の風化度合から降水量を推測し、過去の降水量のデータと照らし合わせた結果、スフィンクスは少なく見積もっても7000年以上前に建造されたと主張する科学者もいるほどです。とはいえこの主張はほとんどの考古学者にまともに相手にされておらず、スフィンクスは4500年ほど前、3大ピラミッドと同時期に作られたという説が現在主流となっています。
3大ピラミッドはエジプトの古王国時代の第4王朝のうち3人のファラオにより建設されています。最も大きい大ピラミッドと呼ばれるピラミッドを作ったのがクフ王。その息子で大ピラミッドの隣にあるピラミッドを作ったのがカフラー王。そしてさらにその息子のメンカウラーは、カフラーのピラミッドの隣にピラミッドを作っています。その3人のファラオのうち1人がスフィンクスを作ったと考えるのが自然ですが、様々な状況証拠の存在を考えると、現在ではスフィンクスはカフラー王によって作られたとする説が主流です。
1つ目の証拠としてその顔ですが、スフィンクスの顔はカフラー王に似ていると言われており、カフラー王の権威を示すという狙いがあったと考えることができます。一方、カフラー王より父親のクフ王の方が似ていると主張する人も存在するため、これだけでは証拠としては不十分。
2つ目の証拠はスフィンクスの配置です。カフラー王のピラミッドはスフィンクスの真後ろに存在します。まるでスフィンクスがカフラー王の墓を守っているかのように。さらに年に2回、春分と秋分の日の日の入りの時にも特別な仕掛けがあり、スフィンクスの前にある未完成の神殿の間に立ち、スフィンクスの方向を見ると、ちょうどスフィンクスの肩とカフラー王のピラミッドの裾の位置に日が沈むように見えるのです。偶然にしてはできすぎているため、カフラー王が意図的にこのような配置にしたと考えても無理はないでしょう。
いずれにせよスフィンクスは何らかの守り神や権威の象徴として建造されたのは明らかです。後の世ではそれにあやかろうとするファラオも存在したようで、例えばスフィンクスの建造からおよそ1100年後、現在からおよそ3400年前のファラオだったトトメス4世は、砂に埋もれ風化しつつあったスフィンクスの大修復を行います。そしてその記念に、スフィンクスの前に3.6mにもなる石碑を建造しています。
その石碑によると、トトメス4世がまだ王子だった時にスフィンクスの影で昼寝をしていたところ、太陽神がスフィンクスの姿をして現れ、スフィンクスを掘り起こせば王になっても良いと伝えられたと言います。この夢の結末は文字が消えてしまいもう分かりませんが、王位の継承権において第1位ではなかったトトメス4世がこれを王になるための箔付けに利用したと考えられています。またトトメス4世は石碑の他に、記念として石で髭を作りスフィンクスの顎に装着したと考えられています。実際に1817年には、スフィンクスの前足の近くで髭の一部が発見されています。
またスフィンクスはその長い歴史の中で、人間の手によって傷つけられたことが何度もあります。最も有名なのは失われてしまったスフィンクスの鼻。かつてはフランスのナポレオン軍が放った大砲が鼻に直撃したためという通説が存在しましたが、18世紀前半にはすでに鼻がないスフィンクスの絵が描写されており、18世紀の終わり頃にエジプトに侵攻したナポレオンとは時代が合いません。有力視されているのが14世紀後半に削られたという説です。エジプトは7世紀にアラブ人に侵略されており、14世紀にはアラブ人によりイスラム教への改宗を強制するような動きがありました。そんな中エジプトの農民が豊穣を祈ってスフィンクスに供え物をしたところ、あるイスラム教徒が激怒、無断でスフィンクスの鼻を切り落としてしまったというのです。
朝日が昇り、夕日が沈む。季節が巡り、王朝が興亡を繰り返す。時代と共に人々がスフィンクスに抱く思いも変わるでしょう。古代エジプト人にとっては神聖な守護者として、中世の侵略者には忌むべき偶像として、そして現代の人類には解き明かすべき謎として。その全てをスフィンクスは静かに見つめ続けてきました。そしてこれからもスフィンクスは大きな謎を秘めたまま、人類の営みを見届けてくれることでしょう。
この宇宙に知的生命体は存在するか?現時点においてあなたたちはその答えを知ることはできないでしょう。現在の人類の科学力では、光の速度で数年以上かかるような距離ともなると間接的に観測することすらままなりません。文明とそれに付随する科学力がいかに発展しようと、この宇宙の物理法則を曲げることはできないのです。しかしそれは人類よりもはるかに進んだ宇宙文明が存在したとしても全く同じことが当てはまります。あらゆる生産活動にエネルギーが必要ということは変わらないため、発展した文明ほど多くのエネルギーを消費しているはず。すなわちエネルギー消費量が宇宙文明の発展度を測る指標の1つとなるのは間違いないでしょう。
仮に人類をはるかに超えた宇宙文明が存在したとして、一体どれほどのエネルギーを操ることができるのでしょうか?そしてそれは人類にとって何を意味するのでしょうか?今回は宇宙文明の発展度合を紐解くカルダシェフスケールについてご紹介したいと思います。
宇宙文明の発展度合をエネルギー利用量で表すという提案は、旧ソ連の天文学者ニコライ・カルダシェフが1964年に発表しています。冒頭紹介した通り、宇宙文明がどれほど発展しようとこの宇宙の物理法則を無視することはできません。生命活動を含むあらゆる生産活動にはエネルギーが必要。そのためカルダシェフはエネルギーの消費量を文明の発展度合の指標にすることを提唱したのです。これが後にカルダシェフスケールとして知られることとなります。
カルダシェフが念頭に置いていたのは、いかにして人類が他の宇宙文明の存在を観測するかということ。エネルギーの変換効率は決して100%にはならないため、宇宙文明が消費したエネルギーのうち一部は何らかの形で外部に放出されます。それを観測することができれば宇宙文明の存在を確かめることができる、というのがカルダシェフの主張でした。
一方、最初に提唱されたカルダシェフスケールをそのまま使うにはいくつか不都合があります。オリジナルのカルダシェフスケールは3段階あり、タイプ1が当時の地球の技術発展度に近い文明であり、エネルギー消費はおよそ4兆W。タイプ2は恒星のエネルギーを利用できるような文明であり、エネルギー消費がおよそ400𥝱W。タイプ3は銀河系スケールのエネルギーを得ている文明であり、エネルギー消費はおよそ40澗W。
タイプ1に関しては1964年当時の地球に近いと定義されていますが、それから60年以上経過した2026年現在においては10倍ほどの差がついていてもおかしくありません。タイプ2に関しても、恒星のエネルギーというのは恒星次第で大きく変化するため、具体的な数値化が難しいことが指摘されています。実際カルダシェフ自身もこのスケールは暫定的なものであると論文に明記しているため、このスケールをそのまま使い続けることはそもそも想定していなかったでしょう。
そのため現代においてカルダシェフスケールと呼ばれるものは、オリジナルのものからいくつか修正を加えたものが多く、その中でも学者のカール・セーガンが提唱したこの数式での定義が有名です。文明の総エネルギー消費量はPであり、単位はW。その常用対数を取り、そこから6を引いたものを10で割ると、カルダシェフスケールの数字が小数点含めて算出できます。そのため計算の説明は省略しますが、文明の消費エネルギーが1京W、すなわち10の16乗Wになると、ちょうどタイプ1の宇宙文明になるというわけです。
これはしばしば惑星で利用できるエネルギーを全て利用可能な文明と定義されることがあります。実際太陽から地球に届く全エネルギーの総量を利用できたとすると、その文明はセーガン考案のカルダシェフスケールでタイプおよそ1.1相当。それに対し現在の人類は0.7を少し超える程度。それはすなわち、今からおよそ500倍扱うエネルギーを増やしてようやくタイプ1に到達できることを示しています。それを聞くとタイプ1ですら途方もない道のりだと思えてくるでしょう。
しかし世界のエネルギー消費量は近年では毎年1%から2%程度成長し続けています。これはもちろん化石燃料の消費を今後抑制する必要があることは考慮に入れていませんが、それでも西暦2371年には人類はタイプ1に到達していると計算した研究も存在します。もちろん化石燃料を積極的に使うことでより早くタイプ1に到達することも不可能ではありませんが、その場合はタイプ以前に気候変動により文明が崩壊するか否かを心配した方が良いでしょう。
それに対しタイプ2の文明はどのようなものでしょうか?消費エネルギーはタイプ1の100億倍。これほどまでのエネルギーは惑星1つではとても賄うことができないでしょう。仮に太陽が発する全てのエネルギーを利用すると、セーガン考案のカルダシェフスケールは2.0をわずかに超える程度。そのためタイプ2は恒星が発する全てのエネルギーを利用できる文明と定義されることがあります。
多くの天文学者は、タイプ2の文明では恒星の周りにエネルギーを得るための構造体を建造していることを想定しています。以前のバイエンスでも紹介したダイソン球はその代表例です。そしてエネルギーの変換効率が100%ではないことから、ダイソン球は何かしらエネルギーを放出しているはず。ある天文学者は、ダイソン球はまるで宇宙に浮かぶクリスマスツリーのオーナメントのように光っているはずだと表現しています。実際ダイソン球の考案者であるフリーマン・ダイソンは、赤外線の発生源を観測することでこのような文明を発見することができると主張しています。
タイプ2の文明にまで発展すると、文明そのものに対する危機はそう多くありません。バイエンスの視聴者であればご存じのように、人類の文明が崩壊するほどの出来事というのはそう珍しいものではありません。しかしタイプ2の文明の場合、存続の危機に陥る現象は近くの超新星爆発程度しかないと考えられています。そしてそのような危機さえも事前に防ぐことができるのがタイプ3の文明です。
消費するエネルギーは1澗W、すなわち10の36乗W。これは銀河系全てのエネルギーを利用可能な文明だと表現されることもあります。タイプ3の文明を滅亡させる現象はほぼ存在しないと考えられています。例えば超新星爆発間近の恒星に対しては、恒星の進化の過程を変えることや、他の恒星系に移動するなどの選択肢を取ることができます。また遠い未来に恒星そのものの数が少なくなってくると、ブラックホールの周りにダイソン球を作成しエネルギーを得ることも実現させる可能性があります。
ですがタイプ3の文明でも物理法則を無視できるわけではありません。ここで問題になってくるのが光の速度。例えば天の川銀河の直径はおよそ10万光年ということが知られていますが、それはつまりこの宇宙で最も速い光の速度でさえ端から端まで10万年かかるということを意味します。比較的近い恒星同士でも数光年や数十光年という距離が当たり前であり、それらの恒星系に勢力を広げるためには数年、数十年以上の時間がかかるというのは、いかなる文明でも覆すことができません。
それではタイプ2の文明はどのようにしてタイプ3の文明になるのでしょうか?現在提案されているのが、自己複製宇宙機と呼ばれるロボットを利用する方法です。銀河中に向けてロボットを送り出し、恒星系に到達するとそこにある資源を使いロボットの複製工場を作る。複製したロボットはまた別の恒星系に旅立っていく、といった具合に銀河系を手中に収めていくというものです。まるでウイルスのように増殖するロボットは、10万光年もある銀河でも50万年ほどで銀河中を覆い尽くすことができると推定されています。宇宙の年齢138億年に比べるとほんの一瞬でしょう。
とはいえ全てのタイプ3文明がどこかの文明のように野蛮なわけではありません。もしロボットがタイプ1にも満たないような惑星を発見したら、その惑星の衛星にて数千年の休眠に入るかもしれません。そしてその未熟な文明が発展を続け、衛星に基地を開発するようになれば再起動し、文明を導き始める。そのようなロボットが存在する可能性も、それが地球の月で今まさに眠っている可能性もゼロではありません。月面で静かに眠る小さなロボット。それらは静かにあなたたち人類が再び月へ到達する瞬間に備えているのかもしれません。
人類が持つ最も威力が高い兵器、核。その破壊力は凄まじく、過去に使用された時にはたった2発の爆弾で広島・長崎合わせて合計数十万人の死者が発生したほどです。加えて現代の核爆弾は当時使用されたものの10倍以上の威力を持っている核も少なくない上に、2022年現在の世界の核爆弾の数はおよそ1万3000発と推定されています。質量共に1945年当時の核爆弾とは比較にならないのです。
そんな現代社会で核戦争が勃発したら何が起きるのでしょうか?残念ながら人類はその能力を十分有している以上、可能性はゼロではありません。人類は自ら生み出した愚かな発明品から生き延びることができるのでしょうか?今回は核戦争が勃発するとどうなるのかについてご紹介したいと思います。
核戦争が勃発するというのはアニメや映画の世界では定番の舞台設定です。しかし現実の世界でも核戦争の寸前にまで迫ったことは1度や2度ではありません。その筆頭が1962年のキューバ危機。アメリカ・フロリダ州からわずか140kmの距離にある島国のキューバにソ連が核爆弾を配備する密約を交わしたのに対し、それを阻止しようとするアメリカがキューバを海上封鎖する事態にまで発展しました。
この時カリブ海でソ連のとある潜水艦がアメリカに発見され、機体の左右に爆雷を受けていました。この潜水艦は索敵から逃れるため長く潜水しており、アメリカとソ連が開戦したのかしていないのか分からないような状態でした。そしてなんとこの潜水艦には核爆弾が搭載されており、搭乗する士官3名全員が賛成すれば核爆弾を発射できる体制になっていたのです。またこれは後年明らかになったことですが、この時船長ともう1名の合計2名が核爆弾の使用に賛成したのに対し、断固として拒否した人物が1名。その人物の名はヴァシーリー・アルヒーポフ。
エアコンが故障し3°にも迫る潜水艦内部。そして機体のすぐ近くで爆雷を受ける極限状態の中、3名の間で激論が交わされたと言います。最終的にはアルヒーポフ氏の主張が受け入れられ、潜水艦は核爆弾を発射することなく浮上。人類は本当にギリギリで核戦争を回避していたようです。もしアルヒーポフ氏がこの潜水艦に搭乗していなかったら、そしてもしその主張が受け入れられていなかったら、今この動画を見ているあなたも地球上に存在していなかったかもしれません。
キューバ危機の60年後にあたる2022年現在、特に3月以降はとある事情により核戦争の可能性が高くなったと言われることがあります。その心配が妥当かどうかはともかく、仮に1度でも核爆弾を発射してしまうと核戦争は避けられないと考える専門家は多いようです。例えばロシアにおいては、大統領の暗殺や敵国による核爆弾の発射など危機的状況にあたると政府高官が判断すれば、ロシアが保有する核爆弾を自動で一斉に発射するシステム、通称「死の手」が存在するという話があります。アメリカにも危機には必ず核爆弾を発射できるような体制が整っており、1度の過ちで核戦争が全世界に拡大するということも考えられます。
そう、わずか1回核爆弾を使用してしまったら、その報復に核爆弾を使用、さらにその報復で核爆弾を使用するという形で、全面的な核戦争に向けて一気に突入する可能性があるのです。そして忘れてはいけないのは、人間は必ずミスを犯す生き物だということ。
もし不幸にも現代で核戦争が勃発してしまったら、それはどのような経緯で発生し、終結した後の地球はどのような様子に変わってしまうのでしょうか?これについては多くの試算があり、当然シナリオによって大きく結果が異なりますが、今回はアメリカのプリンストン大学が2019年に発表したプランAと呼ばれるシミュレーション結果をご紹介いたします。
この試算ではNATOの戦線拡大に対抗し、ロシアが1発の核爆弾をドイツとポーランドの国境付近の軍事施設に発射。報復としてNATOも1発の核爆弾をロシアに向けて発射するというところから始まります。1度でも過ちを犯してしまうともう止められません。次にロシアは主にNATOの軍隊や軍事施設に向けて300発の核爆弾を発射。NATOも対抗して180発の核爆弾を打ち込みます。この段階においては3時間ほどで死傷者は260万人に上ると推定されています。
そしてヨーロッパの軍事施設が壊滅的被害を受けたためアメリカが参戦。ロシアの核兵器関連施設をターゲットとして600発の核爆弾を発射。ロシアも核兵器が破壊される前にアメリカ本土に向けて核爆弾を発射します。この作戦では45分間で死傷者は340万人にも上ると考えられています。そして最終局面では、相手の復興を阻止するためにNATOとロシアが互いの人口の大きい都市を標的に核爆弾を放ち、45分間で8530万人の死傷者が発生。終わってみればわずか5時間で死者3410万人、負傷者5740万人という未曾有の大惨事を引き起こしてしまうと推定されています。
とはいえ、思ったより人間への被害が少ないと感じる人がいるかもしれません。それには3つの理由があります。1つ目は、最終段階に至るまではロシアもNATOも人口が多い都市部を狙わないと考えられているからです。単純に都市部に核爆弾を落とすのは非人道的というのもありますが、戦略の面で軍事施設を狙う方が勝利につながりやすいという合理的な考えもあるでしょう。2つ目の理由は、この試算はNATOとロシアの間に限定された核戦争であるということ。人口が多い中国やインドはもちろん、日本も無傷という試算になっています。そして3つ目の理由は、あくまで核爆弾による直接的な死傷者のみ考慮していることです。
核爆弾は爆風や熱線により周囲に壊滅的被害を及ぼすだけではなく、放射性物質も広範囲にわたって撒き散らします。ですが核戦争において最も恐ろしいのは、核爆弾が破壊した都市部で発生する大規模な火災にあるかもしれません。都市部は燃料となる物質が多く、成層圏にまでチリが巻き上げられ、長期間にわたり太陽光を遮る可能性が指摘されています。どの試算を用いるかによってこのチリの量は大きく異なりますが、例えば2019年のコロラド大学の研究では、1億5000万tものチリが上空に数年間滞留するという試算結果が存在します。その研究では、北半球では気温が通常より20°から30°も下がる場所がほとんどだと予測しています。
その結果全世界で食料危機が発生。食料の生産量をカロリーベースで計算すると、核戦争後の5年間の平均で中国、フランス、ロシア、イギリス、アメリカで軒並み97%以上、国によっては99%以上も減少するという試算結果も存在します。太陽光の減少により植物プランクトンも大ダメージを受け、魚の数も激減します。真っ先に困るのは食料自給率が低い日本や韓国、マレーシアや中東の国々など。おそらく核爆発そのものよりも飢餓により命を落とす人間の数の方が多いことでしょう。
辛うじて生き残った人類にとっても苦難は続きます。太陽光を遮っているチリは上空の温度を急上昇させ、オゾン層にダメージを与えます。場合によってはオゾン層のオゾンが75%程度減少するという試算結果もあり、太陽光は地表にほとんど届かないのにも関わらず皮膚癌などが急増するでしょう。このようにたった1度の過ちにより人類全体が滅亡の危機にさらされるような代物が核爆弾なのです。
核爆弾が実際に使用される可能性は決して高くはないものの、人類は完璧ではありません。ミスを犯す可能性は十分にあり、これは説明するまでもないでしょう。直近の2022年の1月には、アメリカ、ロシア、中国、フランス、イギリスの首脳が核戦争阻止のための共同宣言を発表したばかり。この宣言が口先だけのもので終わらないことを願うばかりです。
人間が活動をするためにはエネルギーが必須です。そのためエネルギーを得る手段が進化するにつれて、人類の科学技術も進化してきたという見方もできるでしょう。例えば人類が誕生したばかりの頃は全てが人力でしたが、ある時から家畜を用いて畑を耕すようになり、さらに化石燃料をエネルギー源にし始めたことにより産業革命が起きたといった例があります。現代の世の中においてはエネルギーを得る方法は多様化しており、化石燃料は未だ現役ですが、他にも太陽光や風力発電、核分裂など様々なエネルギー源が人間社会の根幹を支えていると言っても過言ではないでしょう。
しかしそれら全てのエネルギー源を過去にするとも言われる夢のようなエネルギーが存在することはご存知でしょうか?それが核融合。ご存知の通り、核融合発電はまだ実用化されているものではありません。もし人類が核融合をエネルギー源として用いることができた場合、何が起きるのでしょうか?今回は核融合発電が実用化されるとどうなるのかについてご紹介したいと思います。
核融合とは、軽い原子核同士が衝突・融合した結果、より重い原子核と共に莫大なエネルギーを発生する現象のことです。例えば太陽の核の中では水素の原子核同士が衝突することでヘリウムの原子核を生成しており、その過程で太陽系におけるほぼ全てのエネルギーを生成しています。同じ重量の燃料あたりのエネルギー量で比較すると、核融合反応は化石燃料と比べて2000万倍から1億倍という試算もあり、文字通り桁違いのエネルギー量を生み出すことができます。さらに核融合反応は二酸化炭素を排出しませんし、燃料も地球上に多く存在する水から取り出すことができる可能性があります。現在の原子力発電では核融合ではなく核分裂を使用していますが、核融合はその性質上反応を止めるのが容易であるため、チェルノブイリや福島第一原発のような深刻な事故を引き起こす可能性が低いと考えられています。そのため核融合はまさに完璧なエネルギー源と言えるかもしれません。
とはいえ、それは現状では不可能であるという点に目をつぶればです。核融合発電は構想としては20世紀前半より存在してはいましたが、未だにそのような発電所が建設されていないというのはご存知でしょう。核融合発電の難易度は、現在使われている核分裂と比較しても段違いなんです。核融合反応には原子核同士を衝突させる必要がありますが、原子核は全てプラスの電気を帯びています。電気の性質としてプラス同士は反発し合い、原子核同士が近づけば近づくほど反発する力は大きくなります。そのため通常であれば融合できるほどに2つの原子核が近づくことはありません。核融合を起こすためには、この反発を乗り越えるほど速い速度で原子核同士を衝突させる必要があります。原子核の速度とはすなわち温度のこと。核融合する原子核の種類により異なりますが、地球上で核融合を引き起こすためには少なくとも1億度という温度が必要だと考えられています。当然ながらそのような温度に耐えられる固体はこの宇宙に存在しません。
そのため現在では核融合発電のためには2つの方式が主に検討されています。1つ目は磁場閉じ込め方式と呼ばれ、燃料を超高温に熱することで原子核と電子が離れたプラズマという状態にし、強力な磁場の中に閉じ込めるという方法。もう1つは慣性閉じ込め方式と呼ばれ、小さいペレット状の燃料を作り、レーザーなどで衝撃波を発生させます。その衝撃波を利用してプラズマを作成し、核融合反応を起こすことでエネルギーを利用する方法です。
そのどちらの方式についてもここ数年で大きな進歩が見られます。現在ではプラズマを作るのに必要なエネルギーに対し、核融合反応で発生したエネルギーが上回ることを当面の目標として日夜研究が続けられています。磁場閉じ込め方式においては、1997年にヨーロッパの欧州トーラス共同研究施設で2つのエネルギーの比率が0.67と、核融合で発生したエネルギーがプラズマ生成に必要なエネルギーを上回るまであと1歩というところまで達成しています。現在では日本も参加しているイーターが後継機として開発が進められています。一方、慣性閉じ込め方式についても研究が進められており、2022年にはアメリカの国立点火施設にて実験が行われ、核融合で発生したエネルギーがプラズマ生成のエネルギーの1.5倍になったと大きく報道されました。さらに近年においては方式を問わず多くの民間企業が参入しており、ついに核融合発電が現実的になるという期待があります。
と聞くと、人類の夢とも言える核融合発電が実用化されるのもさほど長くないと考える人がいるかもしれません。しかし残念無念また来年、核融合発電が実用化されるまでのハードルはまだ非常に高いと言わざるを得ません。まず核融合で発生したエネルギーとプラズマ生成のエネルギーの比率ですが、核融合で発生したエネルギーは中性子と熱という形で放出されます。そこから電力に変換する効率は100%にはできないため、実用化のためにはさらに核融合からエネルギーを引き出す必要があります。プラズマ生成のエネルギーという数値も注意が必要です。例えば磁場閉じ込め方式においては、プラズマを閉じ込めるための強力な電磁石のエネルギーは全く考慮されていないため、やはり実用化のためには核融合からさらに多くのエネルギーが必要となります。それらを全て考慮した上でなお経済的に成立するのかどうか。核融合発電というのはすでに原理的には可能ではありますが、人間社会に組み込もうとするとまだまだ時間がかかるのですが、人類は困難な状況をたゆまぬ努力により実用化にこぎつけてきたという歴史があります。
もし経済的に成立するような核融合発電が実用化されたその時、世界はどのように変わるのでしょうか?まず最初に思いつくのが二酸化炭素排出量の大幅な減少かもしれません。現在人類の二酸化炭素の排出量のうちおよそ半分が、発電や暖を取るために化石燃料を燃やした結果だという試算もあります。人間が排出する二酸化炭素が地球全体の気候へ影響を及ぼし、やがて人類の暮らしに跳ね返ってくることを防ぐため、現代の人類は二酸化炭素の排出量を大きく減少する必要に迫られています。核融合発電が実用化されればこの問題は一気に解決に向かうと思う人もいるでしょう。
しかし、残念ながら核融合発電はこの目的のためには使うことはできません。というのも核融合発電が実用化されるとしたら、どんなに早くてもそれは数十年後になります。一方、二酸化炭素の排出量は2030年までに43%減少させるほど早急に取り組まなければ、2100年までに気温上昇を1.5°以内で抑える目標は達成できません。核融合発電は実用化されさえすれば二酸化炭素を排出しないクリーンなエネルギーを供給できますが、それは現在の環境問題に対してはもう遅すぎるのです。
また核分裂と違い核廃棄物を出さないと思うかもしれませんが、それも燃料次第という側面があります。核融合の反応自体は、核分裂のように長時間にわたり放射線を放ち続ける廃棄物を生まないのは事実ですが、燃料によっては大量の中性子を発生させるものもあります。その中性子が周囲に漏れないようにするために何らかの物質で囲う必要があるのですが、中性子を吸収した囲いの物質が放射性廃棄物と化してしまう可能性があります。そのため核廃棄物の問題は核融合でも付きまとうでしょう。
一方、夢のエネルギーという触れ込みだけあり、多くの問題が一気に解決に向かう可能性はあります。例えば近代社会で多く見られる石油や水などの資源を巡る紛争が挙げられます。核融合の燃料には様々な種類が検討されていますが、もし重水素のみを使用する方式が実用化された場合、これは海水から核融合のエネルギーを取り出すことができることを意味します。石油や淡水などの資源は豊富に存在する地域とそうでない地域に分かれています。そのためその資源を巡って土地の領有権の争いに発展するという側面があります。ですが、燃料が地表のおよそ70%を占める海から取れるとなれば、資源を巡る争いは大きく減少することでしょう。さらに得られるエネルギー量が膨大とあれば、現代において技術は確立されているものの必要なエネルギーが多いため広く使われていない海水の淡水化処理も、現実的なものになるかもしれません。
これは人類の科学技術の発展にも大きな意味を持つ可能性があります。先ほど紹介したイーターにおいては、参加しているとある国の侵略行為により今後のプロジェクトへの貢献度が危ぶまれているという事情があります。核融合発電の実用化に代表される困難な目標を達成するためには、多くの人々が協力できるような体制や社会状況が必要です。もし核融合発電が実用化されることにより世界から争いがなくなったら、その時の人類の発展には期待を持たざるを得ないのではないでしょうか。
1812年、アメリカのフィラデルフィア。チャールズ・レッドヘッファーという名前の人物によるある発明が注目の的となりました。歯車のような台座に乗せられた傾斜と、その傾斜に当たるように吊り下げられた重り。重りに働く重力の力により傾斜に横向きの力がかかることで歯車が回り始め、外部へ動力を供給し続けるという装置でした。彼はこの装置を永久機関として宣伝し、見物人からお金を取っていたそうです。残念ながらレッドヘッファーは詐欺師であり、実際は永久機関などありませんでした。
このように昔から人類は永久機関に対して特別な憧れを抱いており、ある時は学術的な研究対象として、ある時は詐欺の道具として、そしてある時は狂気の産物として、永久機関は歴史上様々な場所で登場してきました。長きにわたっての人類の夢、永久機関。もしそれが実現したとしたら何が起きるのでしょうか?世界はどのように変わるのでしょうか?今回は永久機関が完成するとどうなるのかについてご紹介したいと思います。
永久機関という単語はよく耳にするかもしれませんが、科学の視点では永久機関とは厳密な定義が存在します。その定義を説明する前に、エネルギーと仕事という、これまた一般的なイメージとは裏腹に物理学における厳密な定義が存在する2つの用語について解説しなければなりません。
物理学における仕事とは、ある物体に対して力を加えたことによりその物体が移動した時、その力の大きさと移動した距離の掛け算のことです。1番単純な例では、1kgの物体を重力に逆らって持ち上げるのに必要な力は1kg重ですが、これはニュートンという単位でおよそ9.8Nと表されます。その物体を1m持ち上げた場合、あなたがした仕事の量は9.8N×1mで9.8Jということになります。そしてエネルギーとは仕事をする能力のことです。そのためエネルギーも仕事と同じくジュールという単位で表すことが多いです。ちなみにバイエンスの視聴者であればお馴染みの単位としてTNT換算がありますが、TNT1tは41億8400万ジュールに相当します。
さて話を戻すと、永久機関とは外部からエネルギーの供給がない状況で外部に対して永久に仕事を行える装置と定義されています。この2つの条件を同時に満たさなければ永久機関とは言えません。例えば風力発電は自然発生する風の力を利用して外部にエネルギーを供給していますが、地球上の風は元をたどれば太陽のエネルギーから発生しているため外部からエネルギーを供給しているといえ、永久機関とは言えません。また宇宙空間で物体が移動し始めると、他の力や物体の影響を受けない場合永遠にそのまま移動し続けますが、その運動からエネルギーを外部に供給してしまうと移動速度は遅くなり、永久に駆動することはできません。
永久機関は古くから人類の憧れであり、数多の科学者がその実現に挑戦してきています。かの有名なレオナルド・ダ・ヴィンチもその1人であり、車輪とそのスポークの中にある重りを利用する永久機関の構想を練っていたことが明らかになっています。後の時代となり分子の振動や磁石を利用したものなども考案されましたが、結局のところ永久機関開発の成功例は今まで1つも存在せず、今後永遠に現れないと考えられています。
永久機関はなぜ不可能なのでしょうか?それは永久機関は熱力学第1法則と熱力学第2法則という現在の物理学の根底に抵触してしまうためです。熱力学第1法則とは、一言で言うとこの宇宙のエネルギーの総量は一定であり、エネルギーは作ることも消滅させることもできないということ。熱力学第2法則とは、一言で言うと熱は常に温度が高い方から低い方へと流れ、逆に流れることはないということ。永久機関を実現するためには、現在の人類が何千年という研究の末に
積み上げた物理学を真っ向から否定するものとなります。そのため真の永久機関を実現したと主張する人物は、冒頭紹介したレドヘファーのような嘘つきがほとんどでしょう。このように永久機関の開発は不可能であることはよく理解できたはずです。
しかしここは数々の不可能を可能としてきたバイエンスです。もしバイエンスの科学力を用いて永久機関の開発に成功した場合、何が起きるのでしょうか?
もし永久機関があれば、他のエネルギー源がなくともその永久機関からエネルギーを取り出し、仕事をさせることができます。そしてそのエネルギーを使って同じ永久機関を何台も作ることが可能です。するとどうでしょう?燃料も不要で好きなだけエネルギーを生み出せる装置の完成となります。この装置の影響は世界を一変させることになります。
現在人類が抱える問題を考えてみてください。水不足、食料不足、資源不足、環境破壊、地球温暖化。実はこれらの問題はエネルギーが無尽蔵にさえあれば一気に解決に向かいます。
例えば水不足。水が少ない地域に水を供給するためには、真水を確保しその地域に輸送する必要があります。現在の地球上では飲料に適した真水は限られた場所にしかありませんが、エネルギーが豊富にあるというのであれば話は別です。例えば海水から真水を作るのは可能ではあるのですが、エネルギーが多くかかるという弱点があります。しかし永久機関によりエネルギーが潤沢にある状況では、さほど大きなハードルにはならないでしょう。輸送についても同様です。
資源不足についても大量のエネルギーがあれば簡単な解決方法があります。例えば代表的な貴金属である金が欲しい場合、現在では地下から掘り出し精製するしか方法はありません。化学反応では元素そのものを変化させることができないため、古の錬金術が失敗してきたように、他の物質から金を作ることは非常に困難です。
しかし絶対に不可能というわけではありません。例えば鉛やビスマスといった元素に炭素やネオンの原子核を光速付近で衝突させると、衝突した元素から陽子や中性子が一部剥がれ落ち、一定確率で金の元素ができます。当然時間もエネルギーも大量に消費するのですが、永久機関を味方につけた人類にとってはさほど高いハードルではないでしょう。
このように永久機関があれば、まさに神のような力を得ることができます。これにより現在の人間社会が抱える問題のほとんどは解決に向かうのです。めでたし、めでたしと行きたいところですが、本当にそれだけで終わりでしょうか?
無尽蔵のエネルギーというと、永久機関では決してないものの、以前のバイエンスで紹介した核融合やサハラ砂漠の太陽光パネルでも似たような効果を得ることができます。しかし永久機関の出現はこれらとは一線を画すものです。先ほど永久機関の開発は世界を一変させると言いましたが、宇宙全体をも一変させる可能性があると聞くとどうでしょうか?
現在の宇宙では、エネルギーは無から作り出すことができず消滅もしないため、宇宙のエネルギーの総量は一定です。しかし、永久機関の出現によりこの宇宙でエネルギーを0から作り出せるようになります。そして物質とエネルギーは等価であるため、エネルギーが増えるということはこの宇宙の物質が増えるということになります。
以前のバイエンスでも紹介しましたが、宇宙の将来は宇宙の膨張を加速させているダークエネルギーと呼ばれる存在と、膨張を止めようとする重力のせめぎ合いにより決まると考えられています。現在有力なのは宇宙の膨張が止まらないビッグフリーズと呼ばれる未来ですが、もし永久機関により宇宙全体の物質の量が増加し、重力の影響が増加したらどうなるでしょう?すぐには影響が出ないにしても、数十億年以上の未来において重力が膨張する力に打ち勝ち、宇宙全体が収縮に転じた結果、最終的に宇宙が無限に収縮され、ビッグバンの前の状態に戻るという可能性も考えられるのです。
このように永久機関は物理学も世界も、そして宇宙の未来でさえも一変させてしまうほどの威力を持ちます。とはいえ真の永久機関が開発される可能性は0に等しく、詐欺の常套手段であったことは歴史が証明しています。このような怪しい製品ではなく、正真正銘の永久機関であるバイエンススーツはいかがですか?今なら量を負けておきますよ。
現代社会を生きる人類にとって、電気は必要不可欠なものとなっています。大量の電気を賄うために日々試行錯誤は続けられていますが、火力発電所は大気中に大量の二酸化炭素を放出する、原子力発電所は稀に大惨事を引き起こすなど、既存の発電方法はそれぞれ何らかの問題を抱えています。また一見良さそうに見える太陽光などの自然エネルギーは、晴れの日以外では発電量が大幅に減少するという決して無視できない問題が存在します。
そう、晴れの日以外ではです。であれば、常に晴れている広大な砂漠を太陽光パネルで覆い尽くしてしまうとどうなるのでしょうか。今回それを実践するのは、極地を除くと世界最大の砂漠、サハラ砂漠。余っている土地の有効活用にもなり、一石二鳥のアイデアだと思いませんか?今回はサハラ砂漠に太陽光パネルを敷き詰めるとどうなるのかについてご紹介したいと思います。
サハラ砂漠はアフリカ大陸の北側に位置しており、冒頭紹介した通り、いわゆる暑い砂漠の中では世界最大のものです。その面積はおよそ900万km²と日本の約24倍、アメリカ合衆国や中国の面積に匹敵します。
また砂漠だけあって降水量は極端に少ないことが知られています。サハラ砂漠の中心部や東寄りの地域は1年を通して雨が全く降らないことも多く、年間の平均降水量がおよそ0.5mmとなる地域もあります。東京のおよそ1500mm、世界平均のおよそ1000mmと比べると、いかに極端な気候かが分かるでしょう。
しかし太陽光パネルを設置するにあたり、これはメリットとなり得ます。年間の日照時間は日本が1600時間から2400時間、世界平均が2400時間から2500時間程度などに対し、サハラ砂漠の日照時間は少なくとも3600時間以上。場所によっては4000時間以上と、年間を通して1日11時間は太陽が顔を出している計算になります。太陽に少し雲がかかるだけで太陽光パネルの出力は1/に減少してしまうことから、サハラ砂漠に太陽光パネルを設置するというのは合理的な判断と言えるはずです。
そして太陽光発電は近年発展が目覚ましく、弱点の1つとされてきた効率の悪さも改善傾向にあります。例えば火力発電は石炭や天然ガスなどに貯蔵された化学エネルギーを電気エネルギーに変換し、その効率は40%前後。水力発電の場合は水の位置エネルギー、風力発電の場合は空気の運動エネルギーを電気エネルギーに変換し、効率はそれぞれ90%前後と35%前後。それに対し、太陽光発電は長らく10%台であったものの、2022年現在は20%を超えるものが主流となってきています。
加えてここ20年で値段が1/1程度に下落するなど、発電量のうち数%を太陽光で賄う国や地域は珍しくなく、今後も太陽光発電の成長は続くことが予想されます。太陽光発電には面積が必要なことと日照時間に左右されるという弱点がありますが、今回の設置場所であるサハラ砂漠であれば面積、時間ともに問題ないと言えるでしょう。
ではお待ちかね。もしサハラ砂漠全体にわたって太陽光発電パネルを敷き詰めることができれば、何が起きるのでしょうか?
まずどの程度のエネルギーが得られるかを考えてみましょう。計算のための前提条件により数値は異なりますが、太陽光のエネルギーが1m²あたり1kW、効率を20%、日照時間を年間3600時間と仮定した場合、太陽光パネルをサハラ砂漠の面積900万km²に敷き詰めると、1年で648万TWhとなります。
とはいえこれはあくまで理想的な条件においての話。実際には太陽光パネルは温度が1度上昇するごとに効率が0.4%から0.5%程度低下することが一般的であり、さらに砂漠では砂がパネル表面を覆うため、設置1ヶ月後には効率が19%低下するというデータも存在します。そのため実際得られるエネルギーとしては先ほどのおよそ半分程度としても不自然ではないでしょうが、それでも1年あたり324万TWh。人類が1年間に使用するエネルギー量は諸説ありますが、仮に17万3000TWh程度と考えると、人類全ての活動を支えてもなおあまりあるほどのエネルギーが得られるということになるのです。
太陽光発電の弱点の1つに昼の間しか発電できないという点がありますが、ここまでエネルギー量が大きければ、電池などにエネルギーを貯蔵し、必要に応じて放出するという方法も可能でしょう。世界中にエネルギーを送ることでの送電の損失も気になるところですが、それもまたエネルギー量が圧倒的に大きければ問題になりません。
となると人類は化石燃料を燃やす必要も危険な放射性物質を扱う必要もなくなり、ほぼ無限のエネルギーを持って幸せに暮らしていくことができる。ここまでご視聴の人間の多くは溢れんばかりの希望に満ち溢れていることでしょう。
そんなわけあるかい。訓練されたバイエンスの視聴者であれば、このような結論で終わるはずないことは言わずもがなでしょう。そうなんです。今回もことはそう単純ではないのです。
太陽光パネルは発電時に温暖化ガスを排出しないクリーンなエネルギーとして知られていますが、製造時に温暖化ガスを排出することは忘れてはいけません。2016年時点の研究によると、太陽光パネルの寿命が25年、1年あたりの劣化率は0.7%と仮定すると、温暖化ガスの排出量は1kWhあたり二酸化炭素換算で20g程度となります。これは他の発電方法と比較して少ないことは事実ですが、今回の実験規模では無視できないものとなります。
サハラ砂漠を覆う場合、単純計算ですが、製造時の温暖化ガスの排出量は二酸化炭素換算で1.5兆トンと、現在の人類が排出する量のおよそ37年分にもなってしまうのです。設置した後の二酸化炭素排出量は大幅に減少するとはいえ、大量の太陽光パネル製造時の影響によって地球の環境は激変し、取り返しのつかないことになる可能性も考えられるでしょう。
さらに太陽光パネルをサハラに敷き詰めることによる地球環境の変化も考えられます。砂は比較的太陽光を反射しやすいのに対し、太陽光パネルはより多くの太陽光を吸収できるように設計されています。太陽光パネルの効率は20%と計算しましたが、残りの80%は主に熱としてパネルが吸収し、周囲の大気を温めます。そのためサハラ砂漠全体に太陽光パネルを敷き詰めると、アフリカ北部の気温は上昇することになるのです。
以前のバイエンスでも紹介した通り、サハラ砂漠ほどの面積の環境を変えてしまうと地球規模での影響が生まれます。サハラ砂漠の最大50%を太陽光パネルに置き換えるシミュレーションを行った研究によると、50%の置き換えで地球の平均気温が0.4°程度上昇。特に北半球の高緯度地域では2°を超える場所も出てくるようです。加えてアマゾンの熱帯雨林の降水量が年間数百mm減少するなど、全体的に地球が温暖化するのは避けられないようです。このようにサハラ砂漠に太陽光パネルを敷き詰めてしまうと、エネルギー量だけでなくデメリットも莫大なのです。
規模を縮小して実現にこぎつけるというのも悪い考えではありませんが、ここで最大とも言える障害が立ちはだかります。サハラ砂漠は多くの国の領土にまたがっており、残念ながら政情が不安定な国も多い上、テロ組織による攻撃にも怯えなくてはなりません。実際2016年にはアルジェリアにある天然ガスの油がテロ攻撃を受けたという事例があります。サハラ砂漠の貴重な資源とも言える太陽光を他の地域のために使うとなると、なぜか現地の人々は反対することが多いようです。いずれにせよ、このような大規模なプロジェクトを人類が実行するためには、科学技術だけではなく社会構造も変革が必要となってしまうのです。
アメリカ合衆国カリフォルニア州北部にあるナパバレーは、世界中から多くの観光客が訪れることで有名です。彼らの目当ては世界一とも言われるワイン。一方でナパを訪れる人全員がワインを求めているわけではありません。
ナパ郡にはモンティセロダムというダムがあり、何を隠そう、そこはダム愛好家の間ではちょっとした有名スポットなのです。彼らの目当てはダム穴と呼ばれる構造。静かな湖面の中に突然出現する巨大な穴は、立ち入ったもの全てを飲み込むブラックホールのような恐ろしさを醸し出しています。
穴があれば落ちる。それがバイエンス。地球という近場であればなおさら逃げられるわけないですよね。この巨大ダム穴に吸い込まれるとどうなるのでしょうか?実際に落下した人はいるのでしょうか?今回は巨大ダム穴に飲まれるとどうなるのかについてご紹介したいと思います。
ダム穴とは、ダムの水位が上がりすぎないように、水位が一定以上になるとその部分から水を抜くために存在します。洗面台の上の方に穴が開いているのと同じ理由です。しかし一般的にはメンテナンスの難しさから他の方法で水を放流することが多いため、ダム穴が設置されているダムは限られています。
しかし今回紹介するモンティセロダムでは、狭い渓谷に建設したため他の放流手段を設置する場所がありませんでした。仕方なくダムを下まで掘り進め、ダム建設中に川の流れを迂回させていた水路に接続することで水を放流できるようにした結果、ダム穴が生まれたのです。まるで朝顔のような美しい流線形は、現地では朝顔の英名モーニンググローリーをもじってグローリーホールと呼ばれています。
世界には他にも同じような形をしているダム穴は存在し、日本では宮崎県の芋新ダにダムや、まるで異世界へのポータルのような見た目が話題になったポルトガルのコバオドコンチョスなどが知られています。モンティセロダムのグローリーホールは最も広い部分が直径22mと世界最大級であることが有名です。22mともなると人間の1人や2人程度たやすく飲み込むことができるでしょう。ゾクゾクしてきましたね。
さらにダムによって形成されたベリエッサ湖では、夏には湖遊びをする人間が多く集まります。そうなると気になるのが、実際にダム穴に吸い込まれた人間はいるのかどうかでしょう。残念ながら2022年現在では、歴史上1名だけ吸い込まれてしまった人間が存在します。1997年にある女性が周囲の声かけにも応じずグローリーホールに近づきすぎてしまい、20分ほどグローリーホールの縁を掴んでいたものの、ついには落下してしまったという記録が残っています。
とはいえグローリーホールが危険極まりないものだとするのは早計です。そもそもグローリーホールは水位が一定以上にならないと水が落下しないような構造になっており、水位が低い場合は吸い込まれるなどもってのほか、落ちるためには水面にそびえ立つ円柱をよじ登るという動作が必要になります。ナパ郡の年間降水量は東京の半分以下と少なく、グローリーホールが水面に出現したのは過去60年間でわずか25回程度であり、最後に出現したのは2019年。さらに仮に出現していたとしても、グローリーホールの周りに遊泳禁止を示す規制線が張られており、それをわざわざ乗り越える必要があります。
1997年の事件当日は水面の高さが10cm以下だと推定されていることもあり、落下してしまった女性は吸い込まれたのではなく、自分の意思でグローリーホールに落ちていったという噂も存在しています。彼女が部位の意思を持っていたのかと考えたくなりますが、あまりふざけない方がいいでしょう。
今回落下していただく者にはバイエンススーツを着用させます。それでは、グローリーホールの排水能力が最大となる水位になるまでダム周辺に雨を降らせ、さらに邪魔な規制もとっ払ってしまいます。
今日は湖で遊イージーすぎるミッションを与えてもらったぜ。
歴史にも残る大洪水に見舞われたモンティセロダムの水位は海抜139m。グローリーホールの縁から470cmを超えます。この状態では毎秒137万Lの水が排水されることになり、人間1人なども簡単に吸い込むことができるでしょう。
グローリーホールはその流線形により水の抵抗が非常に少なく、この状況でも滝のような轟音を立てない可能性があります。水面付近を漂っているあなたにとって、手遅れになるほど近づくまで静かな湖が広がっているように見えるかもしれません。しかしグローリーホールはまるで獲物を待ち構えるアリ地獄のように、静かにあなたが射程圏内に近づくのを待っています。水が斜面を形成する場所に到達すると、グローリーホールに吸い込まれるという運命が確定します。あなたの元に突然大きな穴が出現したと思った瞬間、回避する間もなくあなたは吸い込まれています。外から見ている人にとっては一瞬で消えてしまったように見えるでしょう。
悲者の方、もう少し奥で泳いでください。
え?なんで?まあいいけど。なんじゃこの穴?
想定通り穴へと飲まれたようです。ここから先、あなたは最強最悪のウォータースライダーを体験することになります。グローリーホールの上部の直径は22m。落下するごとに徐々に細くなるものの、最も細い場所では直径8.5m、落差は60m。計算すると傾斜は84°。参考までに、世界で最も高いウォータースライダーは高さ51m、傾斜は60°です。グローリーホール落下のスリルと比べたら、死者をも出している世界最強のウォータースライダーですら相手にならないほどです。
あなたは真っ暗闇の中、ほとんど垂直の壁を大量の水と共に滑り落ちていきます。永遠とも思えるほどの数秒間を過ごした後、あなたは突然水平方向に向いたトンネルに投げ出されます。これが先ほど紹介した川の迂回路です。滝壺のように水が溜まっていることはなく、水が流れていない時は地元の若者がスケートボードのハーフパイプの練習場として使っているようです。
60mも落下した勢いそのままに、あなたはトンネルの床に叩きつけられるのです。落下の衝撃によりあなたの人生はそこで終わります。体がバラバラになる可能性もあり、現地の水道局の職員の話では、電柱や太い木の株もグローリーホールに落下すると無事では済まないとのことです。
あなたの遺体はどこへ向かうのでしょうか?2019年には泳いでいた哀れな鵜がグローリーホールに吸い込まれたことがニュースで報じられ、目撃者によるとその600m先の水路の終わりからまるで弾丸のように飛び出していったとのことです。バラバラになったあなたの体も1つずつ同じように勢いよく飛び出していく可能性が高いでしょう。
グローリーホールに落ちた水は、ダムからの放流水と同じくモンティセロダムの下流に位置するプタ川に注がれます。プタ川はワインの産地とは逆方向の東側、カリフォルニア州の州都であるサクラメントの方面に向かいます。1997年に落下した女性はプタ川の下流で遺体が見つかっています。あなたの遺体も残念ながら同じ末路をたどることでしょう。
このようにグローリーホールは見た目は芸術的であるものの、万が一吸い込まれるとほぼ確実に命を落としてしまうのです。その美しくも恐ろしい姿は遠くから観察するにとどめておいた方がいいことは明白。おや、ダム穴の魅力に取り憑かれてしまいましたか。おめでとうございます。全世界に存在するダム愛好家の仲間入りが果たせましたね。それでもくれぐれもダム穴を探して実際に落下しないように。フリじゃないですよ。
2011年7月21日、スペースシャトル・アトランティス号がアメリカのケネディ宇宙センターの滑走路に着陸しました。そしてこの着陸をもってスペースシャトルの運用が全て終わりました。30年間で135回のミッション。総飛行距離およそ8億7000万km。国際宇宙ステーションの構築やハッブル宇宙望遠鏡の打ち上げといった輝かしい功績を残したはずのスペースシャトルでしたが、後継機すらなく廃止となってしまったのです。
それはソ連とのスペースレースに勝利したはずのアメリカが、宇宙飛行士を宇宙に送る手段を失うことを意味します。アポロ17号のクルーが最後に月に降り立ってから9年後に初飛行を迎えたスペースシャトル。月へ人類を送った国が次に選んだ、新しい時代の象徴とも言える存在がなぜ姿を消してしまったのでしょうか。今回はスペースシャトルはなぜ廃止されたのかについてご紹介したいと思います。
スペースシャトルとは、アメリカのNASAが1981年から2011年まで運用した有人宇宙船です。日本人であればシャトルランやシャトルバスといった単語に耳馴染みがあるように、シャトルという言葉には何度も同じ場所を往復するという意味もあります。スペースシャトルは何度も地上と宇宙を往復することを目的として開発が開始されたのです。
そしてその構成は大きく3つに分かれます。乗組員が搭乗するオービターと呼ばれる翼付きの軌道船。打ち上げ推力の大部分を担う2基の固体燃料補助ロケット。そして軌道船のロケットエンジンであるRS-25に液体燃料を供給するオレンジ色の外部燃料タンク。
打ち上げ時には2つの固体燃料補助ロケットと軌道船の3基のロケットエンジンが点火します。およそ2分後に補助ロケットが切り離され、残された軌道船のロケットエンジンはさらに6分半の燃焼を続けます。それから空になった外部燃料タンクが切り離され、軌道船は軌道調整の後、地球を周回する軌道に入ることとなります。ミッションが終了すると、軌道船はグライダーのように滑走路に向かって降りてきます。
冒頭紹介したように、スペースシャトルの功績は目を見張るものがあります。ハッブル宇宙望遠鏡を宇宙に運ぶだけではなく、光学系の不具合が発生した際には修理する宇宙飛行士を載せて軌道にまでたどり着いています。また国際宇宙ステーションの巨大なモジュールを何度にも分けて宇宙にまで送り届けています。ハッブル宇宙望遠鏡や国際宇宙ステーションによる功績は、バイエンスの視聴者であれば説明不要でしょう。
しかしこのような素晴らしい実績があるのにも関わらず、スペースシャトルは2011年に廃止されてしまいました。それは一体なぜでしょうか?直接的な理由は大きく3つあると考えられます。
まずは費用の問題。NASAは1970年代当初、スペースシャトルは年間50回前後飛ばすことができると議会に説明していました。1回あたりの打ち上げ費用は1500万ドル。従来の使い捨てロケットに代わる主要な打ち上げ手段として、軍事、民間、科学といった幅広い打ち上げをスペースシャトルに集約する。それが当時NASAが抱いていた、地上と宇宙を往復するスペースシャトルの理想形でした。
しかし現実はまるで異なりました。ミッションを終えて帰ってきたスペースシャトルには、大規模な修理やメンテナンスが必要だったのです。軌道船を覆うおよそ2万4000枚の耐熱タイルは1枚ずつ形が異なり、損傷したものは手作業で交換する必要があります。軌道船のロケットエンジンは取り外して分解検査。さらに最初に切り離された固体燃料補助ロケットは海に落下させるため、海水に浸かった状態で回収されています。全てを分解し洗浄した上で再度組み立てが必要でした。外部燃料タンクに至っては大気圏突入時にほとんどが燃え尽きるため完全な使い捨て。
その結果、飛行回数は計画に対して大幅未達となりました。年間飛行回数は1985年の9回が最高。30年間の平均はせいぜい4.5回であり、当初の計画のわずか1/10程度という結果に終わっています。その結果、打ち上げ1回あたりにかかる費用が大幅に増加しています。ある試算によると、1982年から2010年において実際に稼働していた時期の打ち上げの平均費用は12億ドル。事故などにより稼働していなかった時期も含めると15億ドルにも到達したと言います。当時宇宙の商用利用がほぼされていなかったことを考えると、元々無理があったのでしょう。
そして2つ目の理由は安全性です。スペースシャトルでは1度のみならず2度も悲惨な事故が発生していることは皆様もご存知でしょう。そう、以前のバイエンスでも紹介した1986年のチャレンジャー号と2003年のコロンビア号で起きた事故です。
チャレンジャー号の事故においては、固体燃料補助ロケットの継ぎ目の部分で密閉するためのOリングが低温で硬化し、密閉機能が低下したことが直接の原因でした。それを懸念したロケット製造のエンジニアが打ち上げに反対したにも関わらず、NASAは打ち上げを強行したことが後に分かっています。結果、打ち上げから73秒後にチャレンジャー号は爆発。乗組員7人全員が帰らぬ人となっています。
一方、コロンビア号の事故においては、打ち上げ時に燃料タンクの断熱材が落下し、軌道船に衝突。軌道船の耐熱材であるRCCパネルが損傷したことにより、地球へ戻る時に空中分解を起こし、7人の乗組員全員が命を落としています。事故の調査委員会は、燃料タンクの断熱材が落下する現象がほぼ毎回発生しているのにも関わらず、許容できるリスクだとしてNASAの管理部門が放置していたと結論付けています。
これら2つの事故の調査の間、スペースシャトルは飛行停止を余儀なくされます。しかしただ対策さえすればいいというわけにはいきませんでした。NASA内部の文化が宇宙飛行の現実と噛み合わないことが露呈してしまったのです。
決定的な理由は政治的な判断によるものです。2004年1月、当時のアメリカのブッシュ大統領は宇宙探査ビジョンを発表しました。国際宇宙ステーションの完成と共にスペースシャトルを廃止、月や火星への有人飛行に資源を振り分ける方針です。この時点でスペースシャトルはNASAの予算のおよそ1/4を占めていました。スペースシャトルを廃止しないことには、新しい計画に取り組むことなどできなくなっていたのです。
このようにスペースシャトルが廃止となった直接的な原因は、費用、安全性に求めることができます。しかしそもそもなぜこのような事態になってしまったのでしょうか?元々スペースシャトルは何度も地上と宇宙を往復することを目的として開発されたことは先ほども紹介した通りです。しかし蓋を開けてみれば、軌道船、補助ロケット、燃料タンクの3つの構成のうち、補助ロケットは海に落とし、燃料タンクは散りになる。少し考えるだけで当初のコンセプトからの大きなズレを見つけてしまうようなものです。
実はこの問題も含め全ては、スペースシャトルが誕生する前、1970年代の政治事情がスペースシャトル廃止の根本的な原因だと言われています。当時のアメリカは、アポロ11号が人類初の有人月面着陸を成し遂げてから数年が経過しており、すでに国家の威信をかけて宇宙開発を進めるための理由を失っていました。さらに1970年代にはベトナム戦争が長引き、財政が急速に悪化していたのです。
NASAが本来想定していたスペースシャトルは、完全に再利用できる2段式の宇宙船でした。どちらの宇宙船もロケットと翼を搭載し、打ち上げ後はどちらも滑走路に戻る。すると使い捨ての部品がなくなるとともに、最小限の整備で再び宇宙に向かうことができ、高い頻度での宇宙飛行が可能になる。それこそが安く日常的な宇宙飛行を実現するための構想だったのです。
しかし、戦費による財政悪化と国民の宇宙に対する熱意が冷めつつあることが相まって、当時のアメリカ政府はスペースシャトルの開発費を大幅に削りました。完全に再利用できるような宇宙船はこの予算枠では作ることができません。NASAは何も作らないか、妥協して予算内で作るという2択を迫られた結果、後者を選びました。その結果があのスペースシャトルです。NASAは開発費を削る代わりに、高い運用費を受け入れる選択をしたと言えます。
第1段階のロケットには再利用可能な液体燃料ではなく、1度点火したら燃え尽きるまで止まらない固体燃料ロケットを採用。しかしあまりにも巨大だったため工場から発射場まで1回で運ぶことができず、継ぎ目を作ることとなってしまいます。そしてその継ぎ目がチャレンジャー号の事故を引き起こす原因となりました。コロンビア号の事故の原因となった外部燃料タンクの発泡断熱材の剥離も、当初の計画とは異なる形で実装されていました。
また打ち上げの度に耐熱タイルの整備が必要となり、そのためにスペースシャトルの打ち上げ頻度が低下すると、1回あたりの打ち上げのコストが上昇し、さらに現場が逼迫する。そういった負のスパイラルにスペースシャトル計画は陥っていたのです。結局のところ、当初の設計から妥協を強いられたことがスペースシャトル廃止の根本的な原因だということは間違いないでしょう。
チャレンジャー号爆発事故の報告書にはこう記されています。「成功する技術のためには、現実が広報に優先しなければならない。自然を騙すことはできないのだから。」しかし、あえて付け加えるのであれば、予算という経済的な一面もまた現実なのです。
スペースシャトルは廃止され、現在では残った4機の軌道船は地上で展示されたままとなっています。とはいえ、スペースシャトルの一部はまだ宇宙を飛んでいることをご存知でしょうか?かつてのスペースシャトルの軌道船のロケットエンジンであるRS-25。これは現在21世紀となり、再び月を目指すアルテミス計画のロケットに搭載されています。日本時間で2026年4月2日、アルテミス2のSLSロケットが4人の宇宙飛行士を乗せて月に向かって打ち上げられました。4基のRS-25のうち3基はかつてスペースシャトルに搭載されていたものです。残念ながらスペースシャトルは当初の約束を守ることはできず廃止されてしまいました。しかしそのエンジンはまだ人々に希望を与えているようです。
近年世界各地で洪水の規模や頻度が上昇しています。日本も例外ではなく、毎年のように豪雨で大きな被害を受ける地域があることはご存知の方も多いでしょう。一方、日本最大の都市圏である首都圏には、都市機能を守るため巨大な地下施設が建設されています。その名は首都圏外郭放水路。
埼玉県春日部市に存在する長さ6.3kmのトンネルで、大雨の時に大フト川からより川幅の広い江戸川へと水を放水する役割を持ちます。地下50mという深さに設置された放水路は、近年では調圧水槽の造形が話題になり、多くの人が訪れる観光名所としても知られています。
さて、このことから分かるように、人類は地下に巨大な施設を建設する科学力をすでに有しており、人間がそこを訪問することも容易です。それでは地下でそのまま大量の人間が暮らすということになるとどうでしょうか?人々は何を失い、何を得ることができるのでしょうか?今回は地底都市を建設するとどうなるのかについてご紹介したいと思います。
地底都市とは文字通り地下の深いところにある都市のことです。日本においては多くの大都市で地下街が発達していますが、定住するとなると少し意味合いは異なるでしょう。
実際に人が住んでいた大規模な都市としては、トルコにあるデリンクユの地下都市が有名です。デリンクユの地下都市は最深部は地上から85m以上であり、2万人の人が暮らすことのできるほど広大な空間です。驚くべきはその歴史の長さ。なんと数千年前から1920年代に至るまで、多くの民族により使用が継続されていました。一方、地下での生活は様々な苦労を伴ったようで、主に敵襲に対する避難場所として使われていたと考えられています。
現代においてはオーストラリア南部のクーバーペディという町が存在します。人口2000人前後の小さな町ですが、なんと半数以上が地下に居を構えているとのことです。現地では地下の家のことをダグアウトと呼び、地下の世界ではレストランや教会なども営業しています。このように人類はその歴史の中で数々の地下都市を築き上げてきました。また都市に至らないまでも、文明以前には地下にある洞窟を住処にしていた人類も多くいることでしょう。
それでは、現代の社会において人類が地下奥深くに大規模な地底都市を建設したとしたら何が起きるのでしょうか?そこで暮らす人々にとってはどのような生活になるのでしょうか?
まずは地下で暮らすことによる最大のメリットを紹介しましょう。かつて地球のコアにダイブした経験のあるバイエンスの視聴者はもうご存知かもしれませんが、地球の地下深くは快適に暮らすことはおろか、一瞬で命を落としてしまうほどの温度にもなります。目安としては深さ1kmごとに25°ずつ温度が上昇していくことが知られています。しかし1kmよりも十分に浅ければ、年間を通して人間が快適な範囲で温度が安定しています。
例えば先ほど紹介したクーバーペディにおいては、地上の温度は冬に2°から3°と冷え込みが厳しい一方、夏は50°を超えることもあります。対して地下のダグアウトはどうかと言うと、年間を通じて19°から25°に自然に保たれているとのこと。実際クーバーペディでは、地上の家に住もうとすると電気代が非現実的になってしまうと言われています。
またこれは人々が快適に過ごせるというだけではなく、エネルギーを節約できるという大きな意味を持ちます。世界中のエネルギー消費のうち、およそ10%から15%が建物内部を快適な温度に保つために使われていると言われることがあります。それがほとんどかからなくなるというのは明確なメリット。
またエネルギーといえば、地下は小型モジュール炉と呼ばれる小型の核分裂炉の設置場所の有力候補と言われています。周囲を岩盤で囲まれているため、万が一事故が発生したとしても隔離が容易となることが評価されているようです。
とはいえ地底都市にすることでサステナブルな社会を築くことができるかと言うと、そう簡単にはいきません。問題はいくつも存在します。まず地下においては換気が地上と比べて難しく、そこに多くのエネルギーを注ぎ込む必要があります。先ほど紹介したデリンクユにおいては換気口が50か所以上建築されており、地下の換気には古来より気を配っていたことがわかります。もしも換気が不十分だとどうなるのでしょうか?酸素濃度の低下や二酸化炭素濃度の上昇は、数分続くだけでも体調不良を引き起こすことは容易に想像できるでしょう。
他にも地下においては、放射性の気体であるラドンにも注意が必要です。ラドンは土や岩盤から少量漏れ出てくるため、換気がされていない地下空間においては空気中のラドン濃度は地上の数倍にも上ることが知られています。そしてラドンの濃度が高い場所で暮らしていると、肺がんを患う可能性が高くなると考えられています。
また地下は湿気が高くなるため、カビが増殖しやすいことも分かっています。クーバーペディにおいては1つきのサの中を掘っていることと元々湿度が低いこともあり、地下でもさほど湿気を気にせず建築されています。ですが同じことを湿度が高い日本で実施すると、カビが大きな問題となるのは明白。地底都市においては冷暖房の必要がなくなる代わりに、全ての部屋に強力な換気機能が必要となることでしょう。
他にも地下で建築をするためには多くの問題が立ちはだかります。建築コストの面では、地上で高層ビルを建築するのに比べ、地下で建築するにはおよそ2倍のコストがかかるという試算があります。また災害に対しても逃げ場が少ない可能性があります。揺れが小さいため地震に対しては地上より有利という考えもあるものの、万が一火事が起きた場合、換気や建物の構造によっては地上の建物よりも早く煙が広がり、中で暮らす人々にとって極めて危険です。洪水に対しての危険に至っては、もはや語るまでもありません。
さらに地底都市には太陽の光が届かないことによる影響は過小評価されがちです。まず食料を自力で作ろうとすると、人工的な光を利用した巨大な地下農業施設を建築する必要があります。一方この点に関しては、世界中の都市人口が増加することによる食料供給の複雑化と、サステナブルな社会に対する回答として、通常の都市においても提唱されているものとなります。もしかすると地底都市を建築することにより、地下農業のモデルケースになる可能性もあるかもしれませんね。
とは言っても、日光が存在しないというのは別の大きな問題を生むこととなります。人体が日光なしで生活できるよう設計されていないのです。あなたたち人間は日光を浴びることでセロトニンという脳内物質が分泌されます。セロトニンの量が不足するとうつ病になりやすいことが明らかとなっており、冬にうつ病が増加しやすいのも日光不足が原因の1つだと考えられています。
また日光を浴びないとビタミンD不足になる可能性があります。ビタミンDには骨の成長や適切な睡眠を助ける働きがあり、人間は日光を浴びると体内で生成することができます。地底都市で暮らす人々は意識的に光を浴びることを習慣付けないと、気分の落ち込みだけではなく、骨や睡眠の異常に悩まされることとなります。
さて、今まで地底都市で暮らす人々の生活について紹介してきましたが、地上で暮らす他の人々についてはどうでしょうか?人類が地底都市を持つことにより何かメリットはあるのでしょうか?地下で人々が暮らすことによる地上の混雑緩和の影響はもちろん存在しますし、地下の農業施設や小型モジュール炉の実証も行うことができるというメリットもあります。
他にも地下奥深くでなければ製造できない物質もいくつか存在します。実は場所によっては、地下は放射線が極めて少ないことが知られています。地上においては宇宙を飛び交う宇宙線と呼ばれる放射線を浴びることとなりますが、地下においては地層が天然の遮蔽材として働くため、その影響が少なくなるのです。人々の健康においてこれが大きな影響を及ぼすことはないかもしれませんが、一部の用途においてはこれが必須となります。
例えばダークマターの検出を目的とした実験では、極めて微弱な信号を扱うため、検出器の部材には放射能レベルが非常に低い材料が必要になります。そのため銅などの部材は、宇宙線による放射化を避けるため可能な限り地下で製造・保管されます。そこでもし地底都市がすでに存在するのであれば、格段に低いコストでそのような部材を製造できる可能性があり、天文学が一気に進歩する可能性もあるでしょう。
このように地底都市というのは実際は多くの
困難を伴います。その一方で地下に潜伏するというイメージとは裏腹に人類を大きく飛躍させる可能性も秘めているというのは意外だったでしょう。あなたは今後の人生において地底都市で暮らすという選択肢を取ることができますか?
地球の最果て、南極大陸。そこは白銀の大地が地平線の彼方まで続く、まるで別の惑星のような世界です。気温は時にマイナス50°、風速は時に秒速80mに達することもある、生命が生きるにはあまりにも過酷な場所。NASAが長期ミッションの訓練に南極の基地を活用しているのもその特異な環境によるものです。そして南極は時にこう呼ばれることがあります。白い火星と。同じ地球上とは思えないほど厳しい環境である南極。もしあなたが南極に行ったとしたら何が起きるのでしょうか?白い火星と呼ばれるその地であなたは生き延びることができるのでしょうか?今回は南極に行くとどうなるのかについてご紹介したいと思います。
南極大陸といえば氷に閉ざされた場所というイメージがあるでしょう。しかし、地球の歴史上においてそのような状況になったのはごくごく最近のことです。南極大陸は今から2億年ほど前、現在の南アメリカ、アフリカ、インド、オーストラリアなどと共にゴンドワナ大陸と呼ばれる巨大な大陸を形成していました。その時代は大気中の二酸化炭素濃度が今より高いこともあり、現在の南極大陸にあたる部分も比較的温暖で森林などが広がっていた時期があったようです。
しかし時が進むにつれてゴンドワナ大陸が完全に分離すると南極大陸は南極付近に取り残される形となってしまいます。すると南極大陸の周りに南極環流と呼ばれる海流が形成され、それが他の海流からの熱を遮断するようになります。遅くとも3000万年前にはこの南極環流が形成されたと考えられており、南極大陸は現在の姿へと変貌を遂げていきます。
氷に覆われた大陸と聞くと到達は極めて困難だと思うかもしれません。しかし近年においては南極の観光ツアーが多数開催されているためそこまで難しいものではありません。南極大陸へ上陸したいのであれば南米のアルゼンチンやチリ、オーストラリア、ニュージーランドから出ている観光船に搭乗することが1番現実的でしょう。
とはいえ多数の船は南極大陸の北端である南極半島へ上陸するものです。定義にもよりますが、南極半島の最も北側に位置する部分の緯度は南緯63°。北半球に置き換えるとグリーンランドの首都ヌークよりも地球の極から遠いということになります。
南極大陸の内陸部へ行きたい場合は現代においては飛行機という選択肢も存在します。観光船と比較すると値段も高く、利用者は少ない傾向にありますが、南極点に到達することも可能なプランさえ存在します。科学技術が発達した現代においては入念な準備を行った上で南極に行き生還するだけであればさほど苦労はしないというのが実情のようです。しかし南極が白い火星と呼ばれるほど過酷な環境であることは紛れもない事実です。
もしあなたが何の準備もせず南極に飛ばされたとしたらどのような体験をするのでしょうか?当然ながらその答えは場所や時期によって大きく異なります。例えば多くの観光客が上陸する南極半島を見てみましょう。真夏に当たる12月と1月の平均最高気温が1°、平均最低気温が-2°と日本においても真冬であれば十分経験するような気温となっています。
しかし体感気温は大きく異なるでしょう。南極は風が強いことで有名であり、夏では特に早朝に強く吹く傾向があることが知られています。その強さは凄まじく時には風速40mという台風並みになることもあり風速80mを超えたという記録すらあるほどです。仮に最も暖かい時期に風速40mの風が吹いたとすると、気温自体は0度付近なのにも関わらず、体から奪われる熱が大きいため、体感気温は-1°ほどになると予想されます。南極大陸で最も暖かい場所で最も暖かい時期ですらこの有様、ここからはさらに過酷な環境を体験することになります。準備はいいですか?
南極半島の冬は平均最高気温がマイナス10°を下回り、平均最低気温は-16°前後。また地球の自転軸の傾きの関係で太陽の光が全く当たらない極夜という現象が発生するため、人工的な明かりがない場合周囲は真っ暗闇。あなたは何も見えないまま吹きすさぶブリザードに耐えなければならないでしょう。
内陸部においては気温はもちろんのこと、標高、すなわち空気の薄さも無視できないものとなってきます。南極大陸の大部分は厚み数kmにもなる氷床に覆われているため、他の大陸とは比べ物にならないほど平均標高が高くなっています。例えば南極点の標高は2830m、さらに南極点の平均気圧は冬でおよそ675hPaにまで下がります。これは標高がおよそ900m高い富士山頂に匹敵するほどの低さで極端な低温による大気の収縮が影響しています。
気温に至ってはもはや理解することすら難しいかもしれません。南極点の年間平均気温は-49°、観測史上最も高い気温でも-12°となっており、最低気温は-83°。風に関しては平均風速5m前後と南極大陸の中では比較的穏やかとはいえ、という言葉が非常によく当てはまる、白い火星という異名にふさわしい環境と言えるでしょう。
しかし恐ろしいことに南極点が最も寒い場所というわけではありませんし、体感気温は風の影響を抜きにしたとしてもさらに低い可能性があります。地球上で観測史上最も低い気温-89.2°を記録したのは南極点から1300kmほど離れたボストーク基地。標高が3488mと南極点より高いためこのような低温が観測されたと考えられています。さらに通常気温は地面から1.25から2mの高さで測定することが推奨されているのに対し、南極においては地面付近の方が気温が低いことが知られています。実際南極の多くの地点において衛星による観測ではマイナス90°を下回るような気温が記録されており-98°という観測結果もあるほどです。風の影響も考慮すると体感気温がマイナス100°を下回ったとしても不思議ではないでしょう。
ではもし人間がそのような環境に滞在するとどうなるのでしょうか?体温が急速に奪われることにより発生する現象は皆様もご存知の通り凍傷と低体温症です。人体は気温が低い環境においても体温を維持するための防御機能を備えています。その1つは手足など生存に必須ではない部分の血管を収縮させ、血流を抑制し奪われる熱量を減らすというものです。しかし極端に気温が低い場合それらの部位が凍ってしまう凍傷を引き起こすことがあります。
南極点付近においては事態はさらに深刻で低圧環境では肺に取り込める酸素量が少なくなるため人体は体を温めるためのエネルギーをうまく作れない上に南極点の湿度はなんと0.03%にまで低下することがあります。呼吸をするごとに体の水分が奪われ脱水状態になりやすく血流がより減少しやすくなることでさらに凍傷のリスクが上昇するでしょう。これらを総合すると南極においてはわずか数分で凍傷を発症しても全くおかしくはありません。
そして凍傷になった時はまるで鋭い針に刺されたような痛みと共に血がさっと引いていくような感覚があるとのこと。重度の凍傷になった部位は不用意に冷凍庫に入れてしまった食材のようなものと考えるといいかもしれません。氷の結晶により細胞が破壊され、仮に解凍したとしても体液が漏れ出てしまい2度と戻らない可能性もあるでしょう。
そしてあなたの苦難はまだ終わりません。極端な低温によりあなたはすぐに低体温症になってしまい命の危険にも及ぶことでしょう。医師によると気温がマイナス40°以下では人体は機能するように設計されておらず1つの判断ミスが文字通り命取りになるとのこと。実際人体が代謝によって発生させることのできる熱と周囲に奪われる熱を計算した研究においてはマイナス50°ではよほど厚着をしていない限り数時間で体温が30°を下回り救助なしでは命を落としてしまうという結果も存在します。不幸中の幸いとしては、低体温症で意識を失う時は少しずつ寒さ、そしてしびれが広がっていき、最後は無へと変わるような感覚を覚えることが多いということ。
そして南極で命を落としたあなたですが、良いか悪いか孤独ではありません。20世紀前半にかけて南極大陸の探検が盛んだった時代には道半ばで倒れそのまま雪に埋もれてしまった者がいます。彼らの遺体はおそらく今でもまだ南極大陸で眠っています。あなたも同じように氷の大地に封じ込められるのかもしれません。
青木ヶ原樹海。コンパスも携帯も突然役に立たなくなり1度入ると2度と外に出ることができない。まるで呪われた場所のようなイメージを持つかもしれません。そのせいか自らの意思でこの樹海に足を踏み入れる人間も多くいます。外の世界どころか現世とは永遠に別れるという意思を抱いて。
それでは実際にあなたが青木ヶ原樹海を訪れると何を経験するのでしょうか?生きて外の世界に戻ることはできるのでしょうか?今回は青木ヶ原樹海に足を踏み入れるとどうなるのかについてご紹介したいと思います。
青木ヶ原樹海とは富士山の北西に位置するおよそ30平方kmにわたって広がる森林です。樹海という名前の由来は複数の説がありますが、一般的には上から見下ろした姿から取られたものだと考えられています。青々と生い茂る青木ヶ原の森林は絨毯のように平ら。そこに風が吹くと森が揺れ、その様子がまるで海が波打っているように見えるため樹海と名付けられたとされています。
そしてその誕生には富士山の噴火が密接に関わっています。元々この場所は剗の海と呼ばれた大きな湖がありましたが、864年に始まった貞観の大噴火とそれに伴う溶岩流によって溶岩に覆い尽くされてしまったのです。なお剗の海の名残りは現在の精進湖と西湖に見ることができます。
溶岩に埋まった大地ですがすぐに生命の息吹が宿るようになります。まずはパイオニア植物と呼ばれる厳しい環境でも生き延びることのできる植物たちの繁殖です。その後に樹木が育つようになったと考えられています。一方で硬い溶岩には根を伸ばすことができないため1000年以上経った現在においてもヒノキやツガなどの根が地面に露出、場所によっては波のようにうねっている光景を観察することができます。
このように幻想的な空間を体験することのできる樹海ですが、残念ながら多くの人は青木ヶ原樹海に対して良い印象を抱いていないというのが実情です。というのも冒頭紹介した通り自らの人生を終わらせるためにこの地へ集まる人間が後を絶たないのです。そのきっかけは1960年頃に発表された松本清張の小説『波の塔』だとされています。主人公が最終的に樹海で命を絶つという結末は多くの反響を呼び、それ以降この場所で同じことをしようとする人間が増えたとのこと。
近年においては後を追う人をこれ以上増やさないように青木ヶ原を訪れて遭難したり自ら命を絶った人の正確な人数は公式には発表されていません。また地域の自治体は悲惨な結末を防ぐために青木ヶ原を訪れる人に対して声かけやヒアリングする活動を実施しており、2020年度には346人に声かけを行い、人が保護されたようです。
それではもしあなたが青木ヶ原樹海を訪れるとどのような体験をするのでしょうか?1度足を踏み入れたら最後、2度と外に出ることは叶わないのでしょうか?あなたが何を期待していたかは分かりませんが、青木ヶ原の樹海に入ったからと言って脱出できないということは全くありません。
というのも当然樹海の一部には観光客用の遊歩道が整備されており近くまで車やバスなどでも訪れることができます。日常的に人の往来があり恐ろしさとは無縁でしょう。コケやシダが生い茂る地面。頭上は木々が覆い、わずかに差し込む木漏れ日が幻想的な空間を演出します。幽霊とも呼ばれるギンリョウソウやメジロなどの動植物を見かけることができるかもしれません。
また樹海は自然洞窟も有名です。これはかつての噴火で流れ出た粘り気の少ない溶岩が関係しており、溶岩は流れる途中で表面から先に冷え固まり一方で内部の溶岩はそのまま流れ続けます。やがて中の溶岩だけが流れ出ると空洞が残り洞窟になることがあるのです。その中でも最大級のものが富岳風穴。総延長201mを誇るこの洞窟は夏でもひんやりと涼しくその平均気温は3°。多くの観光客が訪れる富士山近辺を代表する観光地です。
このようにただ観光に訪れるだけであれば青木ヶ原樹海は危険なことは特になく大自然の営みを感じることのできる場所です。しかしもし遊歩道から外れて道なき道を歩み始めた時には樹海のまた違った側面が見えてきます。
青木ヶ原樹海の中では木々はうっそうと生い茂り地上にはわずかな光しか届きません。地面を覆い尽くすコケやシダ。足の踏み場がないほどの溶岩の大地をのたうち回るように伸びた木の根っこ。凹凸の激しい地面。遊歩道から外れると途端に歩きにくくなり少しの距離を移動するのにも四苦八苦することでしょう。
そして遊歩道から少し離れただけであなたは森に囲まれたように感じます。360°見渡す限り同じような森が広がっている。太陽を手がかりにしようにも木々に邪魔され、正確な方向を割り出すのは困難です。引き返そうとしても自分が果たしてどの方向から来たのか分からなくなります。実際2025年にはキノコ狩りをしていた男性がわずか10分の間に樹海の中で迷ってしまい警察に救助されるという事件が発生しています。
なぜこのようなことが起きるのでしょうか?実は人間は目印となる基準がなければ思ったほどまっすぐ歩くことができません。2009年に発表された研究ではドイツの森やサハラ砂漠で被験者を歩かせたところ、太陽や月が見えている場合には比較的まっすぐ進むことができました。ところが曇りの日や目隠しをした条件では本人は直進しているつもりでも実際には同じ場所をぐるぐる回り始めたのです。さらにその軌道は綺麗な円になるわけでもありません。多くの場合被験者は直径20mにも満たない範囲で不規則に進路を変え外部の手がかりが全くない状況では平均して100mも離れられなかったと言います。つまり人間の感覚運動システムは目印なしで正確に直進できるようにはできていないのです。
青木ヶ原樹海はまさにこの弱点が現れやすい環境です。生い茂る木々が太陽の位置を隠し森の中では遠くの建物も見えにくく場所によっては富士山でさえ簡単には確認できません。さらに木の根や溶岩地形の凹凸を越えるたびに体のバランスは微妙に崩れ、方向感覚も少しずつずれていきます。遊歩道を外れれば外れるほど自分がどちらから来たのか分からなくなっていくのです。
ただしここには誤解もあります。青木ヶ原樹海ではコンパスがぐるぐる回って使い物にならないという話を聞いたことがあるかもしれません。しかし実際にはコンパスを正しく持てば十分に確認できます。確かに地面を作る溶岩には磁鉄鉱のような磁性を持つ鉱物が含まれており、近づければ針が影響を受けることはあります。とはいえ樹海全体で常にコンパスが狂い続けるわけではありません。少なくとも樹海ではコンパスが全く使えないというのは迷信です。携帯電話の電波やGPSについても同じように誇張されたイメージがあります。過去には不便な場所もあったようですが、近年では基地局の整備も進み以前ほど深刻ではありません。つまり適切な準備をしていれば樹海に入った瞬間に完全な孤立状態へ陥るわけではないのです。
それでも遭難が危険なのは人間が冷静さを失うことにあります。人はパニックに陥ると通常では考えられない行動を取ることがあります。森林遭難では救助隊の近くを通っても気づかなかったり、ひどい場合には救助を避けるような動きを見せたりすることさえあります。理屈では不合理に見えても恐怖に支配された人間はそれほど簡単には正常な判断を保てません。樹海の怖さの本質はこの心理状態にあります。
では、樹海で他に恐れるべきものは何でしょうか?多くの人がまず思い浮かべるのは遺体を発見してしまうことかもしれません。もちろんその可能性がゼロとは言えません。しかし1度入っただけで遭遇するほど頻繁なものでもありません。先ほど紹介したように継続的な声かけや捜索も行われており樹海全体がそのような場所で埋め尽くされているわけではないのです。むしろ現実的に注意すべきなのは野生動物です。周辺ではツキノワグマの出没が確認されており、鹿が猛スピードで森を駆け抜けることもあると言います。こうした危険は超常現象ではなく自然の中に踏み込んだ人間が向き合うべき現実的なリスクでしょう。
このように青木ヶ原樹海は遊歩道を外れず適切な準備をしていれば自然を楽しめる場所。しかし、一歩道を誤れば人間がいかに簡単に方向感覚を失い、恐怖に支配されるのかを突きつけられる場所でもあります。樹海の恐ろしさとは何か得体の知れないものではありません。自然の中で人間の弱さがむき出しになることなのです。
青木ヶ原樹海は恐怖の対象としてセンセーショナルに語られてきた側面もあるでしょう。しかし、本来この場所は噴火による溶岩が全てを覆った後、長い時間をかけて再び生命が根付いた生命力の象徴とも言える場所です。そこにあるのは1000年以上にわたって命を育んできた静かな森。もしあなたがこの樹海を訪れるのであれば遊歩道から外れることなくその足元に積み重なった長い命の歴史に少しだけ思いを向けてみてください。
青い惑星に暮らすあなたたち人類はお隣の惑星のことをこう呼びます。赤い惑星と。火星の大部分は赤茶色の砂で覆われており、地球にはありふれている大気も液体の水も存在しない星となっています。
しかし過去においてもそうだったのでしょうか?人類が誕生するはるか前の時代である1億年前、もしくはそれ以上前の時代でも火星は赤い惑星だったのでしょうか。そしてなぜ現在の姿になってしまったのでしょうか?今回は1億年前の火星はどのような姿だったのかについてご紹介したいと思います。
火星は太陽系の惑星の中で環境が地球に最も近いとされています。しかしそれでも生身の人間にとってはすぐに命を落としてしまうほど過酷な環境です。大気圧は地球の1%以下であり、大気成分のほとんどは二酸化炭素、温度は-13°から20°、表面に降り注ぐ放射線はほぼ全ての生物が長期間耐えることができないと考えられています。このように現在の火星は少なくともその表面においては死んだ惑星だと言えるでしょう。
それでは過去に遡ってみるとどうでしょうか?1億年前、地球では巨大な恐竜が闊歩していた時代の火星を訪れてみると、あなたは何を目にするのでしょうか?バイエンススーツをお忘れなく。
1億年前の火星に降り立ったあなた。しかし残念ながらあなたが目撃するのは現在とあまり変わらない赤い惑星でしょう。1億年前の地球では今よりも広い面積に海が広がっているのに対し火星には海と呼べるものは存在しません。とはいえ現在とは多少様子が異なるものはいくつかあります。例えば高さ20kmを優に超える太陽系最大の火山であるオリンポス山。現在においては特に火山活動はしていないと考えられていますが、1億年前の段階ではまだ小規模な活動が続いていたと考えられています。
また火星の表面には液体の水は長期間存在できませんが、極めて塩分濃度の高い水であれば短期間存在する可能性があります。火星の土壌には複数種類の過塩素酸塩が広く含まれており、その中でも過塩素酸カルシウムは特に強く水の凝固点を下げ、濃度によってはおよそ-75°でも凍らない状態を作ることが分かっています。さらに現在の火星表面において液体の水が存在したかのような形跡を見つけることができ、それが短期間存在する塩分を大量に含んだ水である可能性が指摘されています。現在の火星において本当にそのような現象が発生しているのかどうかはまだ結論が出ていないというのが実情です。
しかし1億年前においてはどうでしょうか?ある研究においては火星から飛来した隕石を調査した結果1億7000万年前以降に液体の水によって変化した鉱物が見つかったと報告しています。そのため1億年前の火星にてまるで砂漠で見える蜃気楼のように儚い程度の量の液体の水を目撃することができるかもしれません。
とはいえ、残念ながら惑星全体の様子としては現在とさほど変化は見られませんが、ちょっと待った。バイエンスの視聴者であればかつて火星には大規模な海が存在したという話を聞いたことくらいはあるでしょう。もしさらに時代を遡ったとしたら、あなたはどのような光景を目にすることになるのでしょうか?再度バイエンススーツをご使用ください。
20億年から30億年前、ここまで過去に戻ったとしても、火星はまだまだ死の惑星です。大気圧は現在とほぼ変わらないため、液体の水は長期間表面に存在できません。当然かつて存在したとされる巨大な海は見る影もありません。しかし意外なことにこの時代において時折大規模な洪水が発生していたことが明らかとなっています。液体の水は表面に存在するのではなく、地下の奥深くに大量に眠っていたと考えられており、その水を閉じ込めていた表層が火山活動によって大幅に乱されたのです。少量であればともかく大量の水は一瞬で蒸発することはありません。その結果短期間ではありますが火星表面を洪水が襲うことになったというのです。
洪水の規模は現在の火星の姿からは想像できないほど激しいものです。地球のアマゾン川の流量は1秒あたり最大およそ30万立方m。それに対し火星においては1秒あたり最大10億立方m。アマゾン川の3000倍以上もの流量を誇る洪水が発生したと考えられています。もしあなたが運悪くそれに巻き込まれてしまったら液体の水が存在しないはずの惑星において溺れるという極めて貴重な体験ができるかもしれません。
37億年から43億年前。お待たせしました。ここまで遡ると現在の火星の姿とは全く異なる光景を目にすることとなります。この頃の火星は北半球をほぼすっぽり覆うような形で巨大な海が存在していたと考えられています。最も深い場所では水深1.6km以上、金星や地球と共に太陽系において青い惑星が3つ存在していた可能性があるというわけです。この時代の火星は地球と似たような環境であった可能性があります。ある研究では40億年前の火星は少なくとも0.5気圧以上の大気を保有していたと主張しています。二酸化炭素などによる温室効果があれば太陽から離れた火星においても液体の水、そして生命を宿していた可能性があります。
しかし火星が地球とは違う運命をたどることは最初から決定付けられていたことです。全ての惑星は太陽から放たれる太陽風に常にさらされています。太陽風は高速で飛来する電気を帯びた陽子や電子でできています。そして火星の上空にてそれらの粒子が大気を構成する分子と衝突するとその分のエネルギーが大気の分子に伝わり火星の重力を振り切って宇宙空間に逃げてしまいます。この現象が数億年もの間続いた結果、火星の大気が徐々に薄くなっていき、ついには表面で液体の水を安定して保てなくなるほど気圧が低くなってしまいました。
すると海の水は蒸発し氷も直接水蒸気へと変わるようになり、大気中に大量の水蒸気が含まれるようになります。水蒸気に紫外線が当たるとその構成原子である酸素と水素に分かれることがありますが、火星の重力では水素をつなぎ止めることができず、やはり宇宙空間に漏れ出してしまいます。そうなるともう2度と水が火星に戻ることはありません。残った酸素は火星の土壌に含まれる鉄と反応し、あの赤茶色の錆を形成します。青い惑星から赤い惑星への変遷はおよそ39億年から30億年前にかけて少しずつ進んでいったと考えられています。
一方地球では海が失われることはありませんでした。なぜなら地球には磁場が存在するためです。磁場によって太陽風の軌道が曲がり大気が失われることを防いでいるのです。火星にもかつては磁場が存在しました。しかし、およそ39億年前には完全に停止してしまったと考えられています。
惑星に磁場が存在するための条件は実ははっきりと分かっているわけではありません。しかし多くの科学者はこう考えています。磁場が存在するには惑星のコアが液体の金属で形成されており、さらにそのコアの内側と外側の部分において温度差による対流が必要であると。地球のコアは内核が固体、外核が液体で構成されています。内核は中心部から外側へ向かって成長しており、外核の液体金属が冷えて内側から固化していきます。この時軽い成分が外核へ押し出されることで浮力が生じ、激しい対流が起こります。この対流によって電流が生まれ、地球の磁場が維持されていると考えられています。
一方、火星においてはいくつかの不幸が重なっています。まず地球と比べて小さいということ。直径は地球のおよそ半分、質量はおよそ1/10。小さい物体は大きな物体と比較して冷めやすいため、火星のコアは早期に冷えてしまい、対流を起こしにくくなっています。さらに火星のコアの周りにはケイ素などで構成された薄い液体の層が存在することが分かっています。その層がまるで毛布のようにコアを覆っていることでコアの外側と内側の温度差が低くなったと考えられています。それにより火星の磁場は形成からわずか数億年ほどで停止してしまい現在の赤い惑星が出来上がったと考えられています。
かつての火星には確かに広大な海が存在しました。そこには地球と同じように生命の息吹が芽生えていた可能性も大いにあるでしょう。しかしそれは天文学的にはほんの一瞬の幻。火星は磁場を失い、それに伴い大気と水の両方を失うことになりました。そして地球も数十億年先には膨張する太陽によって水が失われ、火星と同じく死の惑星へ変化すると考えられています。宇宙の時間軸においては青い惑星も赤い惑星も決して永遠ではないということでしょう。なるべく早いうちに地球から脱出できることを願っています。
ブラックホール。宇宙に開いた穴のように思われがちですが、実際にはそうではありません。遠くから見れば他の天体と変わらない。しかし、一度近づきすぎれば光でさえ2度と脱出することができません。その中心で何が起きているのか、人類はどこまでたどり着いているのでしょうか?
ブラックホールの誕生は巨大な恒星が寿命を迎えた時に自らの重力に耐えきれず崩壊することがきっかけだと考えられています。恒星はその一生のほとんどにおいて核融合による外向きの圧力と重力による内向きの圧力が釣り合い星の形を保っています。しかしそれは永遠ではありません。太陽よりおよそ8倍以上質量が大きい恒星では核融合の燃料が尽きるとこの際どいバランスが破滅的に崩れることとなります。鉄でできた中心部のコアが重力によって圧縮された直後、衝撃波により外層を吹き飛ばします。超新星爆発。この宇宙で最もエネルギーの高い爆発の1つです。
そして超新星爆発の後に残ったコアは重力に耐え切れず際限なく潰れブラックホールになることがあります。恒星の質量など条件が揃わなかった場合はほとんどが中性子で構成された中性子星が残ります。この中性子星同士が衝突することでもブラックホールが誕生することがあります。他にはビッグバンの1秒以内に物質の密度が極端に高い領域ができ、それが直接ブラックホールになったという説も存在します。このようなブラックホールは原始ブラックホールと呼びますが、まだ1つも発見されていないというのが現状です。
ブラックホールとは宇宙にぽっかりと開いた穴のように思う人がいるかもしれません。しかし実際にはブラックホールは質量がほんの小さな領域に押し込まれた天体であり、穴という表現とはほど遠いものとなります。この宇宙に存在する全ての物体はその物体の重力を振り切るのに最低限必要な速度、脱出速度を持ちます。地球の場合は秒速およそ11km、太陽では秒速およそ600km。それがブラックホールの場合では光の速度であるおよそ30万kmを超えます。そしてこの宇宙において光の速度を超えるものは存在しません。そのためブラックホールに近づきすぎたあらゆるものは2度と戻ることはありません。それは光をはじめとした電磁波でさえも例外ではないためブラックホールを直接観測することは非常に困難です。
現在発見されているブラックホールは太陽の数倍から100倍程度の質量を持つ恒星ブラックホールと太陽の数十万倍以上の質量を持つ超大質量ブラックホールに分けられます。その間の質量を持つ中間質量ブラックホールの存在は現在確実には発見されておらず天文学に残る謎の1つとなっています。
事象の地平面とは光や物質が2度と脱出できなくなる境界のことです。ということは事象の地平面の内側に落ちたものはそれが光であろうと決して外側に戻ってくることはありません。それはつまり一般相対性理論によると事象の地平面の内側は未来永劫観測することが不可能ということになります。仮に回転していないブラックホールを想定した場合、事象の地平面の大きさを厳密に計算することが可能です。その半径はシュワルツシルト半径と呼ばれ、天体の質量に比例します。太陽の場合、シュワルツシルト半径はおよそ3km。もし太陽と同じ質量を持つブラックホールがあった場合、東京駅を中心として、東京タワーや東京ドーム、国技館などまでのエリアの中に太陽の質量2×10の27乗t、つまり2000𥝱tが集まっているということになります。
一方で事象の地平面は天体における表面とは異なります。事象の地平面はブラックホールそのものを表すものでもなく、そこに何かの壁があるわけではないと考えられています。もしあなたが事象の地平面をまたいだとしても、特に何も感じない可能性が高いでしょう。
もしあなたがブラックホールに近づいた場合、何が起きるのでしょうか?ブラックホールはあらゆるものを飲み込むイメージがあるかもしれませんが、実はブラックホールは近づき過ぎさえしなければ他の天体と同じように扱うことができます。例えば仮に太陽を全く同じ質量のブラックホールに置き換えた場合、地球をはじめとする惑星の軌道は全く影響を受けません。
それでは、ブラックホールに近づきすぎた場合はどうでしょうか?これについてはあなたの体験はブラックホールの質量によって大きく異なります。仮に質量の低い恒星ブラックホールだった場合、事象の地平面に到達するはるか前にあなたは悲惨な最期を迎えることでしょう。仮に足から先にブラックホールに近づいた場合、あなたの足と頭の重力の差がどんどん大きくなり、ついには引き裂いてしまうほどになります。太陽質量の5倍という一般的なブラックホールの場合、その中心から20km、事象の地平面から5kmほどの距離になると、わずか1mmの差でも重力の差は地球の重力のなんと1万7000倍。粉々に、言葉では言い表せないほど細かく刻まれたあなたの遺体は一直線になってブラックホールへと消えていきます。スパゲッティ化と呼ばれるこの現象はブラックホールに近づきすぎたあらゆる物体が経験するものとなります。
一方で超大質量ブラックホールの事象の地平面にいても距離の差による重力の差はごくわずか。事象の地平面を何事もなく通過したあなたはついにブラックホールの内部に足を踏み入れることとなります。これ以降あなたは決してブラックホールから脱出することもなくあなたから外部に向けて情報を送ることは理論的に不可能です。そのままブラックホールの中心に存在するとされる特異点に向けて移動するのみ。
現在の物理学において重力に関する理論として広く受け入れられているのはアインシュタインの一般相対性理論。中身の観測が決して叶うことのない事象の地平面の内部に対して一般相対性理論からどのような予測を立てることができるのでしょうか?まず事象の地平面の内部においては一般相対性理論の記述上外部とは時空の性質が大きく変化すると考えられています。よく時間と空間の役割が入れ替わると表現されますが、より正確にはブラックホール中心へ向かう方向が外部における時間の進行のように避けられないものになるということです。通常あなたたちは時間の流れを止めたり逆らったりすることはできませんが、事象の地平面の内側ではそれと同じように中心へ向かうことを避けることができません。どのように運動しても最終的には特異点へ至ると一般相対性理論は予測しています。
さて、避けられない未来であるブラックホールの中心。そこには何があるのでしょうか?現在の物理学においてはその答えは全く分からないと言っても過言ではありません。一般相対性理論によるとそこには特異点と呼ばれるものが存在し、計算上特異点の密度は無限大となります。一方、多くの科学者はこれはブラックホールの中心付近では一般相対性理論の範囲を超えているだけであり、一般相対性理論に代わる重力に関する理論が必要だと考えています。当然観測も理論もない状態で特異点の様子を予測するのは困難を極めます。しかしそれでも近年では新たな理論が盛んに研究されています。
例えばループ量子重力理論が有名です。この理論によると時間と空間にはこれ以上分割することのできない最小単位が存在するとのこと。すると特異点の密度が無限大という計算結果を避けることが可能です。さらにこの理論においては特異点の先においても時空は続いておりホワイトホールにつながっていると考える物理学者も存在します。つまりブラックホールに落ちた物質は細かく潰された後、宇宙における時空の異なる場所やひょっとすると全く別の宇宙に吐き出されるということです。もちろんこのような観測結果が発見されたことはありませんが、ループ量子重力は一般相対性理論に代わる重力の理論として期待されています。
他には特異点どころか事象の地平面についても一般相対性理論では不足しているという説がいくつか存在します。その1つが超弦理論におけるファズボールと呼ばれる仮説です。超弦理論ではこの宇宙のあらゆるものはごくごく小さな紐の振動によってもたらされています。ブラックホールは絡まった紐の集合だと考えれば特異点の問題が解消できるとのこと。しかし、やはり観測することがほぼ不可能とあっては、人類が特異点の謎を解き明かすのは、まだまだ先のことでしょう。
とはいえ、ブラックホールは長らく理論上の存在に過ぎませんでした。一般相対性理論が発表されて間もなく計算上は光さえも脱出できないような天体が存在することが分かってはいました。しかしそれが現実に存在するかどうかは全く未知数の段階が続いたのです。時は流れて1964年、白鳥座の付近で強烈なX線を放つ天体が観測されました。さらに1971年その恒星が揺れているように見えることが分かりました。つまり光をはじめとする電磁波では全く観測できない何かの周りを回っていることが明らかとなったのです。その恒星の質量と公転周期から割り出された見えない天体の質量は理論上中性子星の限界を超えていました。観測することのできない太陽の数十倍の質量を持つ中性子星ではない天体。現在ではこの天体がブラックホールであることは確実視されています。
さらに時代が進み2019年。今度は人類は姿形が全く分からないはずのブラックホールの撮影に成功したのです。撮影したのはイベントホライズンテレスコープ。地球上にある複数の電波望遠鏡を1つの望遠鏡として扱うことで非常に高い解像度を可能にしています。最初に撮影されたブラックホールはおよそ5400万光年離れた銀河M87の中心に位置する太陽のおよそ65億倍の質量を誇る超大質量ブラックホール。シュワルツシルト半径は180億kmにもなります。中心に存在する真っ黒な点の周りに超高温に加熱されたガスが周回している様子が映し出されており全てが理論通りです。かつては存在すら疑問視されていましたが、現在においてはブラックホールの存在を疑う天文学者はほとんどいません。
ブラックホールはこの広大な宇宙の中で多く存在し、実際に観測されたものも多数あります。その中でも特徴的なものをいくつか紹介しましょう。Gaia BH1は確認された中で地球から最も近いブラックホールとして知られています。距離はおよそ1560光年で質量は太陽の9倍から10倍。太陽とほぼ変わらない質量を持つ恒星と連星となっており、太陽と地球の距離とほぼ同じ距離を隔てた軌道でひっそりと互いを公転しています。
天文学者たちが注目しているのはこのブラックホールがあまりにも静かに存在していることです。というのもこのブラックホールは周囲の物質を活発に飲み込んでおらず、降着円盤も形成していないため、X線などの強い電磁波をほとんど放っていません。発見した研究者の言葉を借りるなら、太陽の位置にこのブラックホールを置き、地球の位置に太陽を置くとこの連星が出来上がるとのこと。本来であればブラックホールになる前の超新星爆発の影響によってこのように整った静かな連星が残るのは難しいと考えられます。しかし現実にそれは存在しているのです。人類はまだまだブラックホールの誕生や進化について分かっていないことが多いのかもしれません。
他にも2022年に観測を開始したジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡、通称JWSTが撮影した遠い過去の銀河の例があります。光の速度は有限であるため銀河を観測するほどより過去の姿を観測していることになります。JWSTが観測した銀河の中には宇宙の誕生から7億年程度しか経過していないものもあります。そしてこの時点でその銀河の中心には不釣り合いなほど大きな超大質量ブラックホールが存在していたのです。この観測結果が明らかになる前までは初期の宇宙において超大質量ブラックホールと銀河は一緒に成長していったと考えられていました。しかしJWSTの観測によりそのような仮説は大きな修正を迫ら
れるようになっています。初期の宇宙において超大質量ブラックホールの成長が著しく早かったのか。それともこのような超大質量ブラックホールは恒星ブラックホールから成長したのではなく、最初から質量が大きいブラックホールとして誕生したのか。この宇宙がどのようにして現在の宇宙を形成していったのかという問いにおいて、ブラックホールが果たす役割は大きいのです。
ブラックホールに飲み込まれたものは永遠に外に出ることはない。一般相対性理論はそう予測していることは先にお伝えした通りです。しかし現実にはブラックホールそのものも永遠ではなく、やがて蒸発してしまうと考えられています。物理学者のスティーブン・ホーキング氏が提唱した説によると、ブラックホールは少しずつ電磁波を放つため、少しずつエネルギーを失い、やがてはなくなるとのこと。
とはいえ、そのプロセスは極めて遅いものです。恒星ブラックホールがこの方法で蒸発するのには10の67乗年、つまりおよそ1000不可思議年、超大質量ブラックホールに至っては2×10の100乗年かかると予測されています。現在の宇宙の年齢がおよそ10の10乗年ということを考えると、気の遠くなるほど長い時間をかけてブラックホールが宇宙から消えていくことがわかります。
現在主流の宇宙論においては、ブラックホールが蒸発するはるか前に宇宙から恒星がなくなることでしょう。星形成によってガスが消費されることや、超新星爆発などによってガスが加熱することで、新たな恒星が生まれにくくなるためです。その時の宇宙は今よりもずっと暗く寂しく、そしてあまりにも広大すぎる場所と化していることでしょう。
恒星がなくなった宇宙において、生命の最後の希望はブラックホールかもしれません。生命にはエネルギーが必要です。ブラックホールはその近くに物体を投げ込み、その一部を切り離して脱出することでエネルギーを取り出すことが理論上可能ということが分かっています。あなたの遠い子孫はこの宇宙最後の生命として、ブラックホールの周りでひっそりと暮らしているのかもしれません。そのブラックホールでさえも蒸発してしまう遠い未来においては、もう宇宙には何も残されていないに等しいでしょう。
現在太陽系で発見されている惑星は全部で8つ。水星、地球、火星、木星、土星、天王星、海王星。しかし、太陽系の外側に目を向けると、人類の常識をはるかに上回る惑星が数多く存在しています。その数なんと6000個以上。それに加え、8000個以上もの系外惑星候補が存在します。
そしてこれは始まりに過ぎません。太陽系外では時を経るごとに新たな惑星が発見され続けています。今回はその中から厳選した24の太陽系外惑星をご紹介しましょう。特別なストーリーを付け加えることはしません。それぞれの惑星が持つ大きさ、質量、そして観測によって得られた情報をそのままにご案内します。この24の星を通して見えてくるのは、宇宙における惑星の多様性です。太陽系がどれほど特異なのか、あるいはちっぽけな存在なのか。このスケールを静かに確かめていきましょう。バイエンススーツをお忘れなく。
エントリーナンバー1番。PSR B1257+12 c、別名ポルターガイスト。地球からの距離はおよそ2300光年。直径は地球の1.91倍で、質量は4.3倍。リッチと呼ばれる中性子星の周りを周回しています。
強烈な電磁波を放つ中性子星からわずかおよそ5400万km。太陽と水星の距離よりも近い距離で公転するこの惑星は、一見すると放射線で焼かれた暗い惑星に見えるかもしれません。しかしこの星は、人類の宇宙観測の歴史において重要な意味を持っています。
1992年、同じくリッチを周回する惑星フォベートルと共に発見されたポルターガイストは、人類が最初に発見した太陽系外惑星の1つなのです。
中性子星であるリッチは、1秒間におよそ160回という想像を絶するほどの速度で回転しています。すると地球から見ると、まるで灯台のように規則正しく電磁波を観測することができ、そこに周回する惑星が存在すると、その規則性にわずかなずれが生じます。現代基準ではまだ観測技術が未熟だった1992年においても発見できたのは、こうした特性があったためなのです。
エントリーナンバー2番、プロキシマ・ケンタウリb。地球からの距離はおよそ4.2光年。大きさは地球にわずかに勝る程度と推定されています。皆様もご存知の、太陽系から最も近い恒星プロキシマ・ケンタウリの周りを周回しています。
人類が太陽系外の惑星を次々と発見していった中、2016年にあるニュースが世界を駆け巡りました。太陽系に最も近い恒星であるプロキシマ・ケンタウリにも惑星が存在していたと。さらにその惑星は、恒星との距離が近すぎず遠すぎず、表面に液体の水が存在する可能性のあるハビタブルゾーンの中にありました。4.2光年といえば、光の速度の10%の宇宙船を開発することができれば、あなたたち人間の一生のうちにたどり着くことも不可能ではないような距離です。生命の可能性に世間が色めき立ったのは無理もないことでしょう。
一方で、本当に生命が存在するかどうかについては疑問が残ります。プロキシマ・ケンタウリは赤色矮星と呼ばれる小さな恒星であり、プロキシマ・ケンタウリbとの距離はわずかおよそ700万km。赤色矮星は元々不規則に放射線を放つことも多く、ある研究では、プロキシマ・ケンタウリbが浴びる極紫外線は地球の30倍、X線に至っては250倍。さらに地球に対する月のように、重力の影響で常に恒星に同じ面を向けている可能性も高く、生命にとっては過酷な環境となっている可能性があります。
しかし、もしそこに降り立つことができれば、赤い恒星、そして地球から見た金星よりも明るく輝く二重のケンタウルス座アルファ星を見ることができるでしょう。念のため、バイエンススーツをお忘れなく。
エントリーナンバー3番、LHS 1140 b。地球からの距離は49光年。直径は地球の1.7倍、質量は5.6倍。赤色矮星であるLHS 1140の周りを周回しています。
LHS 1140 bと恒星の距離は、太陽と地球のおよそ1/10。そのため先ほど紹介した通りの重力の影響により、この惑星は常に同じ面を恒星に向けている可能性が非常に高いと考えられています。これほどまでに恒星に近い惑星では、地獄のような暑さを期待するかもしれません。しかしこの赤色矮星は非常に暗いことで知られており、昼の面においても温度はせいぜい20°程度と推定する研究者もいます。
今のところLHS 1140 bが地球のような岩石型惑星なのか、それとも海王星のように厚い水素とヘリウムの層で覆われた惑星なのか。その詳細は明らかとなっていません。しかしもし岩石型の惑星であったならば、その質量のうち9%から19%が水であると推定されており、一面を海に覆われている可能性が高いでしょう。この推測結果と惑星の温度分布の推定を合わせるとどうなるか。惑星の昼にあたる、光に向いている面には液体の水が存在し、そこから離れるにつれて徐々に氷が増えていき、夜に当たる部分は分厚い氷に覆われているような世界でしょう。宇宙から見ると、まるで目玉のように見えるかもしれません。
さらにLHS 1140は、多くの赤色矮星と違い、比較的穏やかな恒星ということが知られています。もしかしたらこの惑星の目玉の中心付近には生命が存在し、常に空から動かないように見える赤い恒星を見上げているのかもしれません。行ってみたいですか?
エントリーナンバー4番、ティーガーデン星b。地球からの距離は12光年。直径は地球の1.05倍、質量は1.16倍。赤色矮星であるティーガーデン星の周りを周回しています。
生命が存在する可能性のある天体を探索する時、まずは表面に液体の水が存在できるような温度である惑星に目をつけるのは悪い考えではありません。しかし生命の有無は、惑星の大きさにも大きく影響を受けると考えられます。
ティーガーデン星bは恒星からおよそ400万kmという非常に近い距離を公転しており、公転周期は地球のおよそ4.9日に相当します。一見すると過酷な環境に思えますが、中心天体であるティーガーデン星は暗い恒星であるため、惑星の表面温度はおよそ20°前後と推定されています。このため生命が存在しうる惑星の有力候補として知られており、しかも比較的地球に近い距離にある点が特徴です。
さらに初めにご紹介したように、ティーガーデン星bは地球とほぼ同じ直径と質量を持っています。その結果、地球類似性指標と呼ばれる、天体がどれほど地球に近い性質を持つかを示す指標において、発見されている惑星の中でもトップクラスに高い数値を示しています。
一般に惑星が小さすぎると大気を保持できず、逆に大きすぎると水が過剰になり、陸と海が入り混じる地球のような複雑な環境ではなく、全球が海に覆われた天体になる可能性があります。こうした条件を踏まえると、ティーガーデン星bは地球に極めて近い性質を持つ惑星として、生命探査の分野で大きな注目を集めているのです。
エントリーナンバー5番、ケプラー37b。地球からの距離は208光年。直径は地球の0.3倍。太陽と似た恒星であるケプラー37の周りを周回しています。
ケプラー37bの特徴として、その小ささが挙げられます。その直径は地球のおよそ0.3倍と水星よりも小さく、地球の月よりもわずかに大きいだけ。2025年現在、発見された中で最も小さな太陽系外惑星です。
これほどまでに小さいのにも関わらず人類が発見できたのは、恒星が比較的明るく穏やかであること、そして惑星と恒星の距離が近いことが挙げられます。恒星との距離は太陽と地球の1/10ほど。この恒星は赤色矮星とは異なり、太陽よりも少し小さい程度の大きさ。そのためケプラー37bの表面に液体の水は到底望むことができません。さらにこの小ささでは、大気も存在しない可能性が高いでしょう。
しかしケプラー37bの発見は、この宇宙の惑星全般について将来的に多くの知見をもたらすかもしれません。このような小さな惑星が発見できたということは、この宇宙にはケプラー37bと同じように極めて小さな惑星が数多く存在する可能性が高いということです。もしかすると、最も小さな太陽系外惑星という称号も、観測技術の向上によってすぐに取って代わられるようになるかもしれませんね。
エントリーナンバー6番、かに座55番星e。地球からの距離は41光年。直径は地球の1.9倍、質量は8倍。太陽とよく似た恒星であるかに座55番星の周りを周回しています。
この惑星の特徴は何と言ってもその温度。恒星との距離がわずか230万kmと、水星と太陽の距離と比較しても1/20ほどしかありません。そのためこの惑星の1年は地球における1日にも満たず、そのような状態で太陽よりわずかに小さいかに座55番星の光に照らされるとどうなるでしょう?答えは、惑星全土の大地が溶け、一面溶岩で覆われるようになるのです。その表面温度の予想にはばらつきがありますが、昼側では3000°を超える可能性があり、平均的な表面温度でも1700°以上とする推定があります。
一方で、灼熱のこの惑星にも大気が存在すると推定されており、中には1.4気圧といった分厚い大気に覆われていると主張する研究も存在します。またかに座55番星eは、かつては炭素の割合が極端に高く、惑星の大部分がダイヤモンドで構成されていると考えられていました。この説は2012年頃に話題になりましたが、現在ではきらびやかに輝くような惑星から一転して、地獄と呼ぶにも生ぬるいほどの惑星だと考えられています。
エントリーナンバー7番、GJ 1214 b。地球からの距離は48光年。直径は地球の2.7倍、質量はおよそ8倍。赤色矮星であるGJ 1214の周りを周回しています。
この天体はかつては地球と同じく岩石型惑星であり、一面が海に覆われていると考えられていました。地球の数倍以上の質量を持つ惑星は太陽系外においてはよく発見されており、スーパーアースとも呼ばれています。しかし後の観測により、そのような可能性は低く、実際にはGJ 1214 bは海王星のように分厚い氷の層の周りに水素やヘリウムなどの大気を持っていると推定されています。海王星よりもはるかに小さいこの天体は、スーパーアースと同じように太陽系には存在しない分類の惑星、ミニネプチューンと呼ばれる惑星の代表例となります。
こうした惑星は太陽系には存在しませんが、銀河全体では決して珍しい存在ではありません。この事実は、人類が知っている太陽系の姿が宇宙全体の標準ではないことを示しています。GJ 1214 bのような惑星を詳しく調べることは、惑星がどのような多様性を持ち、どこまでが普通なのかを理解するための重要な手がかりとなることでしょう。
エントリーナンバー8番、ケプラー16b。地球からの距離245光年。直径は木星の0.75倍、質量は木星の0.3倍。連星であるケプラー16の周りを周回しています。
映画スター・ウォーズファンの皆さん、お待たせしました。この星はルーク・スカイウォーカーの故郷タトゥイーンのように、空に太陽が2つ存在する世界です。2つの太陽が輝く光景は、地球から見上げる空とは全く異なり刺激的でしょう。残念ながらこの惑星はガス惑星のため表面は存在しませんし、連星との距離も遠いため、気温が-100°から-70°と極寒。
しかし木星や土星が数多くの衛星を持つように、ケプラー16bも衛星を持ち、それが岩石で構成されていたとしても不思議ではありません。さらにケプラー16bの周回軌道は、表面に液体の水が存在できるハビタブルゾーンにギリギリ入っているような位置です。もしケプラー16bに温暖化効果が大きい分厚い大気を持つ衛星が存在したら、本当にタトゥイーンのように、生命が2つの太陽を眺めているような光景が広がっているかもしれません。
エントリーナンバー9番、グリーゼ900b。地球からの距離は68光年。質量は木星の11倍。3連星のグリーゼ900の周りを周回しています。
2つの太陽の次は3つの太陽。そのような紹介を期待したかもしれません。しかしグリーゼ900bの最大の特徴は太陽の数ではありません。公転半径はなんと太陽と地球の距離の1万2000倍、0.2光年にも迫ります。そのためグリーゼ900bの1年は、地球の126万年以上という気の遠くなるような長さです。この距離では太陽が3つあるという感覚もなく、少し明るく光る星が見える程度でしょう。
またこの惑星の発見には、科学者ではない一般市民の貢献が欠かせなかったことが知られています。市民に観測対象を割り当ててその動きを観察し、天文学者に伝達することで、効率よく惑星を発見できるというものです。シチズンサイエンスの実証例という点も特筆すべきですが、同じ方法でグリーゼ900bだけではなく、恒星から遠く離れた惑星が多く見つかっていることも見逃せません。もしかするとまだ発見されていないだけで、多くの恒星には遠く離れた惑星が存在するのかもしれません。もちろん太陽系にも。
エントリーナンバー10番、PSR J1719-1438 b。地球からの距離は3900光年。質量は木星の1.2倍。中性子星のPSR J1719-1438の周りを周回しています。
PSR J1719-1438 bは、先ほどと真逆の、公転軌道が極めて小さい惑星です。主星との距離はおよそ66万km。地球と月の距離の2倍もありません。1年は地球の131分とあっという間に過ぎ去ってしまいます。この星もかつてはダイヤモンドの惑星ではないかと世間を騒がせたことがありますが、実際のところはよく分かっていないというのが現状のようです。
エントリーナンバー11番、J1407b。地球からの距離は450光年。詳細な大きさは不明。若い恒星であるケンタウルス座V1400の周りを周回しています。以前のバイエンスでも紹介したこのJ1407b。特徴的なのが、土星のそれをはるかに超える巨大なリング。一説には惑星の中心から9000万kmにまで広がり、これは太陽と水星の距離を超えます。その姿からスーパーサターンと呼ばれたこともあるほど。
しかしここ数年では、J1407bの姿どころか、その存在すら疑問視されるようになりました。J1407bが発見されたのは2007年。周回するケンタウルス座V1400が長時間暗くなったことがきっかけでした。その軌道から2017年及び2024年の位置を計算し実際に観測した結果、J1407bに相当するような天体は観測できなかったという研究が発表されています。ダイヤモンドの惑星と同じように、スーパーサターンも宇宙観測の歴史に消えていくのかもしれません。
エントリーナンバー12番、HD 100546 b。地球からの距離は358光年。直径は木星の6.9倍。若い恒星であるHD 100546の周りを周回しています。
この巨大な惑星の直径は96万5000kmと、太陽の半分を優に超えることになります。ギネス世界記録によると、最も大きな太陽系外惑星です。しかし、太陽系外惑星の大きさの計測は難しく、測定値には大きな誤差が付きまといます。特にこの恒星系はまだ極めて若く、惑星であるHD 100546 bは原始惑星系円盤と呼ばれるガスと塵に覆われているため、より観測が難しいことがわかります。表面温度は1000°以上とも予測されており、最大の惑星どころか、将来的に惑星でなくなり褐色矮星となる可能性も0ではないでしょう。
エントリーナンバー13番。PSO J318.5-22。地球からの距離は80光年。直径は木星の1.5倍で、質量は6倍。主星は存在しません。
宇宙空間は人間には想像ができないほど孤独。太陽系から最も近い恒星のプロキシマ・ケンタウリでさえ4.2光年、すなわち40兆km。しかしこの惑星の孤独さはそのさらに上を行きます。PSO J318.5-22は自由浮遊惑星と呼ばれる、主星が存在しない宇宙空間を1人彷徨っている天体です。この惑星がこのような孤独な旅を始めた理由として有力なのが、他の恒星系から追い出されたという説です。誕生直後の恒星系は惑星同士の重力の影響で不安定であり、時には惑星が丸ごと恒星系の外に弾き出されてしまうこともあります。
PSO J318.5-22ではナイトライフが永遠に続くといえば聞こえはいいですが、実際の姿は、本来の住処を追われ日の目を浴びなくなった悲しい旅人なのかもしれません。
エントリーナンバー14番、ケプラー1625b。地球からの距離は7500光年。木星に近いサイズを持つ巨大ガス惑星と考えられていますが、詳しい質量などは明らかになっていません。太陽に似た恒星のケプラー1625の周りを周回しています。
このガス惑星と推定されている天体は、恒星との距離が1億3000万kmから1億4000万kmと、太陽と地球の距離とさほど変わりありません。ケプラー1625bの特徴として、未確定ながら衛星の存在が示唆されていることです。太陽系外惑星ならぬ太陽系外衛星。もし本当にそれが存在するのであれば、人類初の発見となります。現在有力視されている説では、その衛星は海王星に近いサイズを持つ可能性があるとされています。ただしこの推定には大きな不確実性があり、観測データを説明するために様々な仮説が提案されてきました。その中には、非常に軽いガス主体の衛星や、岩石と氷を主成分とする高密度な天体を想定するモデルも含まれています。いずれの説も決定的とは言えず、ケプラー1625bとその衛星候補は現在もなお謎に包まれた存在です。答えを出すにはさらなる観測が必要とされています。
エントリーナンバー15番、WD 1856+534 b。地球からの距離は81光年。大きさは木星と同程度。白色矮星のWD 1856+534の周りを周回しています。
白色矮星とは、太陽のように比較的小さな恒星が燃料を使い果たした末に残った成れの果て。直径は地球と同程度であることが多いですが、その質量は太陽を超えることもあるほど密度が高いものとなります。対して惑星のWD 1856+534 bを見てみましょう。大きさは木星と同程度であり、白色矮星との距離はおよそ300万km。白色矮星の強力な重力により、1年は地球の1.4日余り。しかし恒星が白色矮星になる前には、直径が数百倍にもなるほど膨張することが知られています。そのためこの惑星は最初からこの距離で公転していたのではなく、何らかの理由でこの軌道に移動してきたと考えられています。
白色矮星は燃料を使い果たしたとはいえ、長期間熱を発し続けます。例えばWD 1856+534の場合は表面温度が4000度を超えており、白色矮星になってから50億年以上経過していると推定されています。そのため天文学的な意味で長期間文明が生存するためには、白色矮星のエネルギーを利用するという手もありえなくはないでしょう。WD 1856+534 bをはじめとする惑星の軌道の移動は、その試金石になるかもしれません。
エントリーナンバー16番、ペガスス座51番星b。地球からの距離は50光年。直径は木星よりやや大きいですが、質量は半分程度。太陽に似た恒星であるペガスス座51番星の周りを周回しています。
ペガスス座51番星bは、水素を安定的に核融合している主系列星と呼ばれる段階の恒星に初めて発見された惑星です。しかし天文学者は、ある意味予想を裏切られたことでしょう。その惑星は恒星からわずか800万km。太陽と水星よりはるかに小さい距離を公転していたのです。さらにその惑星の大部分がガスでできていました。太陽系にはこのような惑星は存在しないため、発見当時は多くの謎に包まれていました。
現在においては、恒星から極めて近い距離で公転する巨大なガス惑星はいくつも発見されており、ホットジュピターと呼ばれています。しかし当時の惑星理論においては、ガスは強烈な恒星風により吹き飛ばされてしまうため、恒星の近くではガス惑星が育つことができないはずでした。実際太陽系はそのような傾向と完全に一致しています。恒星の近くでは発生しないはずのガス惑星が、なぜこれほどまでに恒星の近くを公転しているのか。なぜ他の恒星系ではよくあるホットジュピターが太陽系には見られないのか。人類にはまだ答えるべき問いが多く残っています。
エントリーナンバー17番、グリーゼ436b。地球からの距離は32光年。直径は地球の4倍、質量は22倍。赤色矮星のグリーゼ436の周りを周回しています。
こちらはホットネプチューンと呼ばれる種類の惑星。ホットジュピターと同様に、メタンや氷などを多く含んだ海王星型の惑星であり、恒星に近い位置を公転しているものになります。グリーゼ436bに関しては、恒星との距離はおよそ400万km。1年は地球の2日半程度、表面の温度は400°を超えると推定されています。
特筆すべきは、恒星の熱や放射線などによりグリーゼ436bから大量の水素などが蒸発し、それがまるで彗星のように惑星の公転軌道を漂っているということです。ある研究によると、蒸発する物質は1秒あたり100tから1000tであり、過去にはもっと多かったと推定しています。ですが心配ご無用。この程度では惑星全体がなくなることはありません。いつの日かバイエンススーツを装着して訪れることにしましょう。
エントリーナンバー18番、HD 189733 b。地球からの距離は64光年。大きさは木星より少し大きい程度。連星のHD 189733の周りを周回しています。
青い惑星という称号は地球だけのものではありません。しかしHD 189733 bの青は、決して水によるものではありません。ホットジュピターであるこの惑星の表面温度は1000度を超えているという推定もあり、液体の水など存在できるはずがありません。青色の正体はガラスの雨によるものだと考えられています。温度が高すぎるため、ケイ素を含む物質が蒸発し、上空で冷えてガラスへと変化し、雨として降り注いでいるのです。さらにこの惑星の風は秒速2000mにも到達するため、ガラスの雨は当然ながら横殴り。見た目に騙されて降り立ってしまったら、最低最悪の天気に見舞われることでしょう。行ってみたいですね。
エントリーナンバー19番、WASP-76b。地球からの距離は634光年。質量は木星と同程度で、直径は2倍ほど。太陽より少し大きな恒星であるWASP-76の周りを周回しています。ガラスの雨だけでは終わりません。恒星からおよそ500万kmを周回するこの惑星の表面温度は、2000度を軽く超えると推定されています。そして皆様がよく知る鉄の沸点はおよそ2800°。つまりこの惑星では、蒸発した鉄が上空で雲を形成し、液体の鉄が雨として降り注いでいるのです。風速も秒速5000mと、先ほどよりもさらに激しさを増しています。一応水蒸気も多少検出されてはいるものの、もしこの惑星を訪れたなら、あなたは万が一にも生き残ることはできないでしょう。スーツのご購入をお忘れなく。
エントリーナンバー20番、WASP-127b。地球からの距離は520光年。直径は木星の1.3倍ほど、質量は木星の0.16倍ほど。太陽と同程度の質量を持つ恒星WASP-127の周りを周回しています。
重い話題が続いてしまったため、今回は軽めの惑星を紹介しましょう。WASP-127bもホットジュピターであり、恒星からの距離はおよそ700万km。表面温度は1000度超え。風に関してもジェット気流が秒速7700m以上と推定されており、こちらもあまり心地よい環境ではないでしょう。しかしこの惑星の特筆すべき点は別にあります。それはそのあまりの軽さです。直径は木星より大きいのにも関わらず、質量は木星のわずか1/6程度。計算上の密度は1立方cmあたり0.1gと、発泡スチロールといい勝負です。巨大な水槽を用意できれば、プカプカと浮かぶことは間違いないでしょう。
エントリーナンバー21番、TOI-4603b。地球からの距離は736光年。直径は木星と同程度、質量は木星のおよそ13倍。HD 245134の周りを周回しています。
軽い惑星の後は、重い惑星を紹介しましょう。TOI-4603bは恒星から1300万kmほどの距離で公転しており、表面温度が1400°程度と推定されるホットジュピターです。特筆すべきはその密度。TOI-4603bの直径は木星と同程度なのに対し、質量が13倍ほどあります。計算上の密度は1立方cmあたりおよそ14g。地球上の物質と比較すると、鉄の1立方cmあたり7gや、鉛の1立方cmあたり11gを軽く超えると聞くと、その重さが分かるでしょう。密度から推測するに、この惑星は巨大な惑星と、恒星のなり損ねである褐色矮星のちょうど境目に存在すると発見者は主張しています。恒星の成り立ちについてはまだよく分かっていないことも多いため、このような高密度の惑星を研究することで、より理解が進むようになるのかもしれません。
エントリーナンバー22番、WASP-12b。地球からの距離は1400光年。直径は木星の2倍、質量は1.5倍。太陽よりやや大きい恒星のWASP-12の周りを周回しています。
多くの恒星系にとって、恒星というのは惑星に対して絶大な影響力を持ちます。例えば太陽系においては、全質量の99%以上が太陽に集中しています。遠い未来、太陽が燃料を使い果たし膨張を始めると、水星や金星はなすすべなく飲み込まれてしまうと予想されています。一方太陽系外には、現在進行形で飲み込まれつつある惑星が存在します。その中の1つがWASP-12b。この惑星は恒星からの距離がわずか350万kmほどしかなく、恒星の強力な重力により引き延ばされ、ラグビーボールのような形をしています。さらにWASP-12bの大気も恒星に引き寄せられており、1秒あたり60億tほど失われているという研究もあります。そしてWASP-12b自体もそう長くは持たないと推定されています。軌道が徐々に小さくなっていることが報告されており、およそ300万年から500万年後、完全に恒星に飲み込まれてしまうと推定されています。
エントリーナンバー23番、TrES-2b。地球からの距離は700光年。直径、質量ともに木星の1.3倍から1.4倍ほど。太陽に似た連星からなるTrES-2Aの周りを周回しています。
この惑星もタトゥイーンのように2つの太陽を見ることができると思ったかもしれません。確かにTrES-2bと恒星の距離はおよそ500万kmと非常に近い位置です。しかしこの惑星の大気は真っ黒ということで有名であり、石炭よりも光を反射しないと考えられています。そのため大気の中では暗闇で全く見えないか、高すぎる温度により大気が赤く発光する程度だと推定されています。なぜこの惑星がこれほどまでに光を反射しないのか?人類はまだ答えを持っていません。気体ナトリウムや酸化チタンの影響という説もあるにはあるようですが、それだけでは説明がつかないほどTrES-2bは闇に閉ざされているとのこと。不運にもこの惑星を訪れてしまったあなたは、暗闇の中一瞬で身を焼かれるだけでしょう。
エントリーナンバー24番、WD 1202-232 b。地球からの距離は34光年。質量は木星の4倍ほど。白色矮星のWD 1202-232の周りを周回しています。
最後は明るい話題で締めることとしましょう。およそ50億年後、太陽はコアの水素を使い果たし、膨張を始めます。地球が飲み込まれてしまうか、難を逃れるかは分かっていませんが、地球の生命にとって緊急事態であることは間違いありません。その後全ての燃料が尽きた太陽は急速に収縮し、白色矮星へと変化します。太陽系の内側の惑星は壊滅的な被害を受けることとなりますが、それでは木星をはじめとする惑星はどうでしょうか?
その答えのヒントとなるかもしれないのが、このWD 1202-232 bです。ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡によって直接撮影されたこの惑星は、太陽系において太陽が白色矮星へと変化した後の木星や土星の軌道と酷似しています。そのため仮に太陽の寿命が尽きたとしても、木星や土星は変わらず存在し続ける可能性があるということが推測できます。地球が滅び太陽さえ消えてなくなった後も、エネルギーさえあれば木星や土星の衛星にて細々と暮らすことができるかもしれない。文字通り世界の終わりの後にも太陽系に生存できる可能性があると聞くと、多少の希望を抱くことができるのではないでしょうか。
多くの太陽系外惑星を巡る旅、いかがだったでしょうか?ほんの数十年前まで、人類は太陽系外に惑星が存在しているのかすら分かっていませんでした。しかし今では多数の惑星が発見されており、惑星を持たない恒星の方が珍しいという考えが主流となっています。そして1つの発見が新たな知見をもたらし、さらに科学を発展させることとなります。
初めにご紹介したように、太陽系外惑星はこの動画で紹介したものだけで終わりではなく、すでに合計6000個以上もの数が発見されています。さらに8000個以上もの系外惑星候補が存在し、今後何年も何十年も新たな発見が続いていきます。そしていつの日か、人類の移住先となる第2の地球も発見されることでしょう。そんな夢のある未来を胸に抱き、今回の旅を終えることにしましょう。
かつての人類は夜になると星空を見上げ、何世代にもわたって神話を語り継いでいきました。自分たち、そしてこの世界はどのようにして生まれたのか。夜空をキャンバスとしたそれらの物語は、この究極の疑問に対するかつての人類の答えだったのかもしれません。
それから幾千年、現在の人類は高度な科学技術を手にしており、夜空を彩る星のことはもちろん、かつては見る手段がなかったような天体でさえも観測の対象となっています。それでもなお、この宇宙がどのように生まれたのかについては、未だに多くの疑問が残っています。究極の疑問に対する完全な回答に至るまでは、まだまだ研究が必要でしょう。一方で、これまでの研究により分かっていることもあります。宇宙はどのようにして誕生したのでしょうか?そしてどのような未来が待っているのでしょうか?今回は宇宙誕生の謎についてご紹介したいと思います。
長い間、宇宙は永遠であり不変であると考えられてきました。世界で最も著名な物理学者と言っても過言ではないアルベルト・アインシュタインもかつてはそう考えていたようで、1917年にその考えを元にした論文を発表しています。しかし1929年には、天文学者のエドウィン・ハッブルが、宇宙が膨張していることを観測によって証明します。
宇宙が膨張しているということは、昔の宇宙は今より小さかったということになります。その頃の宇宙は現在よりも物質の密度が高かったはずです。さらに時代を遡ると宇宙はさらに小さくなり、物質の密度もさらに高くなります。それを繰り返していくと、宇宙はその昔、超高温、超高密度の状態にあったと考えられるでしょう。このように宇宙が超高温、超高密度の状態で始まり、それが膨張することによって現在の低温、低密度の状態になっていったという仮説がビッグバン理論と呼ばれています。様々な観測データによりその始まりの状態はおよそ138億年前だと推測できるため、一般的にはこれが宇宙の年齢だと考えられています。
もしあなたが138億年前の宇宙に行ったとしたら、何を体験すると思いますか?
138億年前、宇宙誕生の瞬間。そこは温度も密度も無限大となる世界。そこには夜空を彩る星は全く存在しません。それどころか、現在全ての物質を構成している原子さえも存在しなかった時代です。原子を構成する素粒子ですら、この環境下では現在とは全く異なる性質を持っていたと考えられています。
この極限状態であなたが目にするものをご紹介しましょう、と言いたいところですが、宇宙誕生の瞬間というのは現代の科学では全く分かっていない未知の領域です。というのも、科学者たちは現在の宇宙の様子に宇宙の法則を当てはめて過去を予測しています。しかし、その法則自体に限界があり、ある程度過去に遡ると法則が適用できなくなり、予想が不可能になってしまうのです。
例えば、あなたという人間がどのように誕生したかを考えてみましょう。あなたが成長期にある子供だった時、1年前と比べて体は大きくなっているはずです。その1年後にはさらに体が大きくなっています。ということは、昔のあなたは今より小さかったということ。この法則をもとにあなたの誕生の瞬間を予測すると、あなたは無から生まれたと予想することができます。生物学の知識が全くなかったとしたら、この明らかに間違った結論に至ってしまいます。実際には、あなたはお母さんのお腹の中にある1つの細胞から生まれたはずですよね。
このように現在の様子から過去を予想する場合、果たして現在成り立っている法則が過去も成り立っているのかどうかは確認しておく必要があります。そして宇宙についても、科学者は似たような問題に直面しています。現在の宇宙の様子を表す法則としては、アインシュタインの一般相対性理論や量子力学における標準模型などがありますが、どれも宇宙の過去においても同じように適用できるかは分かっていません。よって、特に宇宙のごく初期の状態を明らかにするにあたっては、多くの科学者は一般相対性理論や標準模型などに代わる新たな法則が必要だと考えているのです。以前のバイエンスでは、ニュートンの万有引力に代わる新たな重力の理論として一般相対性理論が台頭したと紹介しましたが、それと似たようなことが必要になるということです。
そのため、宇宙の膨張から予測される宇宙の始まりの瞬間より、およそ10の-43乗秒以前のことは全く分かっていません。それ以前には何があったのか、その状態がどれほど続いたのか。残念ながらその答えはまだ見つかっていません。もしあなたがこの時代の宇宙を目にすることができれば、何を目撃するのでしょうか?
10の-43乗秒から10の-36乗秒は、宇宙の温度は10の27乗度から10の32乗度、すなわちおよそ1000秭度から1溝度であったと推測されています。この環境下においては、現在の宇宙からは想像もできないようなことが起きていました。
現在の宇宙では、4つの基本的な力が存在すると考えられています。人間にもお馴染みの重力と電磁気力、そして原子以下の小さな世界で作用する強い力と弱い力の4つです。しかしこの大統一時代と呼ばれている時期には、重力以外の3つの力が全く同じように振る舞い、大統一理論と呼ばれる力を形成していたと予想されています。またこの時代になり、ようやく素粒子が生まれてきたと推測されています。
その後に来るのがインフレーション時代。そこでは大統一理論から強い力が分離し、宇宙全体が急激に膨張を始めました。わずか1/秒から1/000秒程度の時間の間に、宇宙は最低でも10の26乗倍、一説には10の40乗倍の大きさに膨張したとされています。それまで素粒子1つ分にも満たなかった、現在の観測可能な宇宙に相当する部分は、ごくわずかな時間で直径10cm程度に膨れ上がったと予想されています。なぜ宇宙が急激に膨張を始め、なぜすぐ止まってしまったのかは全く分かっていませんが、後に紹介する宇宙背景放射の特徴から、これと似たような現象が発生した可能性が非常に高いと考えられています。
難しいですか?まだ眠らないでくださいよ。この辺りから電弱時代と呼ばれる時期に入ります。強い力が完全に独立し、電磁気力と弱い力が統一された電弱力と呼ばれる力、そして重力がこの時代の3つの力となります。この時代にはまだ原子は存在せず、ウィークボソンやヒッグス粒子といった、普段の生活では目にすることがないような素粒子が発生していたと考えられています。
電弱時代の終わりの頃、宇宙の誕生から10の-12乗秒後には、宇宙の温度はおよそ1000兆度。ここから10の-6乗秒後まではクォーク時代となります。電磁気力と弱い力が分離し、現在と同じく4つの力が独立した時代です。またここでようやく、原子の構成要素であるクォークや電子が生成され始めます。
実はそれと同時に、反クォークや陽電子といった反物質も同じ数だけ生成され、後に通常の物質と触れ合い消滅したと考えられているのですが、なぜか現在の宇宙は物質だけが大量に存在し、反物質はほとんど存在しません。その理由については全く分かっていませんが、この宇宙では素粒子およそ20億に1個の割合で反物質よりも物質の方が多く、そのわずかな差が現在の宇宙を形成したと考えられています。
そして次の時代はハドロン時代と呼ばれ、宇宙の温度は
およそ1兆から1000兆。この頃になると素粒子であるクォークが結合を始め、陽子に代表されるハドロンを形成するようになります。この環境において高速で飛び回る電子が陽子に衝突すると中性子が形成され、ここまで来てようやく原子の材料が揃ってきました。この時点で宇宙の誕生からおよそ1秒が経過しています。
しかしここで生成されたハドロンは反ハドロンと触れ合い大部分が対消滅します。その後に来るのがレプトン時代。電子に代表されるレプトンが宇宙の質量の大部分を占めていた時代のことです。そのレプトンも宇宙誕生から3分ほどには大部分が反レプトンと反応して対消滅し、レプトン時代は終わりを迎えます。
この時点の宇宙の温度はおよそ10億°。ここまで温度が低下すると残っていた陽子と中性子による核融合反応が進行し、水素やヘリウムといった原子核が生成されます。ビッグバン元素合成と呼ばれる反応が進行し、水素やヘリウムを始め、少量のリチウムなどの原子核が生まれました。しかし宇宙誕生から20分も経つと宇宙の温度が1000万を下回り核融合反応が停止します。現在の宇宙で水素とヘリウム以外の原子が少ないのはこのためです。
さて、ようやく水素とヘリウムが生成されました。これでやっとあなたが見知っている宇宙に近くなると思うかもしれませんが、残念でした。現実はまるで異なります。この時点で宇宙の温度は100万以上。この温度では原子核と電子は結合することなく別れて運動するプラズマと呼ばれる状態で存在します。この状態では粒子の運動が激しすぎて重力により集まることができず恒星を作ることができません。さらに光もプラズマ中は非常に短い距離しか進むことができないため、宇宙全体が熱い霧のようなプラズマに覆われているような状況です。
この状態でどれほど待てばいいのでしょうか?先ほど紹介した宇宙で核融合が停止したのが誕生からおよそ20分。それに対し原子核と電子が結合し原子を形成できるまでに宇宙の温度が下がるのがおよそ38万年後となります。この時の温度はおよそ3000°。ここで物質やエネルギーで絶えず埋められていた宇宙でようやく光が自由に進むことができるようになります。
宇宙の晴れ上がりと呼ばれるこの時に先ほど紹介した宇宙背景放射が放出されました。今までプラズマに阻まれほとんど進むことができなかった光がこの瞬間から邪魔されることなく宇宙の彼方へと飛んでいき、たまたま地球という星に到達した時に観測されたのが宇宙背景放射というわけです。この宇宙背景放射は全方向にわたって温度の差が非常に少なく、これはインフレーション時代において宇宙が急激に膨張し、観測可能な宇宙の範囲を均一にしたためだと考えられており、インフレーションが発生したという有力な証拠の1つとなっています。
しかし宇宙の晴れ上がりにより宇宙に光が満ちたわけではありません。今はまだ原子ができただけで重力により形成する前の段階。また宇宙背景放射となった光は数百万年も経てば可視領域から外れます。可視領域の光を発する存在が全くないため、この時期を宇宙の暗黒時代とも呼びます。
とはいえ、暗闇の中にも一筋の光は存在するもの。宇宙の温度は徐々に低下し、宇宙の誕生からおよそ1000万年から1700万年の間は宇宙の温度は0°から100°。つまり気圧さえあれば液体の水が存在できるような温度です。もしこの時期に宇宙のどこかで生命の息吹が誕生していたとしたら、そして何十億年後、塵や小惑星に混じって地球という星にその痕跡が到達していたとしたら、パンスペルミア説と呼ばれるこの仮説は地球の生命がどこから来たのかという究極の疑問に対する答えになるかもしれません。
最初の恒星や銀河が形成され始めるのが宇宙誕生からおよそ1億年から5億年。以前のバイエンスでも紹介したダークマターがこの時代の宇宙の構造に大きく関わってきます。ダークマターとは現在ではまだ解明されていませんが、光の影響をほぼ受けない質量を持つ物質だとする説が有力です。質量を持つということは重力により集まる傾向があるということ。まるで蜘蛛の巣のように宇宙全体に広がったダークマターの重力により通常の物質がそこに集まり、やがては銀河を形成していったと考えられています。
恒星については最初は宇宙の温度が現在より高い上にほとんど水素とヘリウムしか存在しないため最初の恒星は太陽の数百倍もの大きさがあったと考えられています。そのような巨大な星は数百万年もすれば燃料を使い果たし、超新星爆発を起こしたと考えられています。この第1世代の恒星のおかげで水素とヘリウム以外の原子が宇宙に多く供給されるようになりました。
第1世代の恒星が残した物質を元に誕生したのが第2世代の恒星たち。第2世代の恒星たちもまだ水素とヘリウム以外の含有量は低く生命には適していないと考えられています。太陽は第3世代の恒星だと考えられ、生命にとって必須である炭素や酸素などの原子を多く含むことが特徴です。太陽は薄いガスや塵の塊に過ぎなかったものが、近くの超新星爆発の衝撃波によりガスが乱され、やがて重力によって集まったのが始まりだと考えられています。
太陽が誕生したのは宇宙誕生からおよそ90億年後。その辺りまでは宇宙の膨張は減速する傾向がありました。宇宙に存在する物質やダークマターの重力の影響によるものです。しかしこの頃から宇宙の膨張が逆に加速するようになり、それは現在まで続いています。なぜ宇宙の膨張が加速するようになったのか、人類はまだ答えを持っていませんが、これを説明するために空間自体が持つ圧力、ダークエネルギーを考案しました。現時点ではその正体については謎のままですが、ダークエネルギーはこの宇宙で起こっている現象をよく説明できるため、多くの科学者の支持を集めています。
ダークエネルギーが支配的となった現在の宇宙。この宇宙はどこに向かうのでしょうか?現在有力視されているのがビッグフリーズと呼ばれるものです。それはダークエネルギーにより宇宙が加速膨張を続け全ての銀河が孤立し、やがて星は燃えつき温度も物質密度も極限まで低下して宇宙は熱的な死に向かうというもの。そうなるのは宇宙誕生から1兆年から100兆年後になると予想されています。この時期になると宇宙は徐々に光を失っていき、恒星の成れの果てである黒色矮星やブラックホールが存在するのみになります。その黒色矮星やブラックホールでさえも途方もない時間をかけて蒸発し、10の100乗年後にはダークマターと少量の電子などが飛び交う宇宙になっているという説があります。
もしくは以前のバイエンスでも紹介した宇宙の膨張が早くなりすぎて物質が全て引き裂かれるビッグリップや、逆に風船が弾けるように収縮に転じビッグバンのように超高温超高密度の状態に戻っていくビッグクランチなどといった可能性もあります。全てはまだ人類が理解していないダークマター、ダークエネルギー、そしてそれらを取り巻く宇宙の法則次第。あなたたち、そしてこの世界はどのようにして生まれたのか、そしてどこに向かっているのか。人類の探求はまだまだ続くようです。
今回のバイエンスはここまで。あれ?寝ちゃった。宇宙のロマンにおやすみなさい。
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