2040年問題を前に、介護はAIとロボットでどこまで変わるのか:ヤマシタ山下和洋と落合陽一の対話

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概要

この番組のテーマは、人手不足が深刻になる介護の現場で、AIとロボットがどこまで役割を担えるのかという問いである。介護用品レンタル大手ヤマシタの代表・山下和洋は、自社で実施した1000人規模の調査を示しながら、在宅介護を支える仕組みとテクノロジーの組み合わせを主張した。メディアアーティストの落合陽一は、ロボット工学やAIの観点から、何が機械に置き換わりやすく、何が人に残るのかを論じた。

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ヤマシタの事業と社内でのAI活用

山下によれば、ヤマシタの主力事業は介護用品のレンタルとリネンサプライの2つで、そこにAIなどのテクノロジーを積極的に取り入れて生産性を高めようとしている。山下は25歳のとき、父親が交通事故で急逝したため、社員約1500人の会社の代表に就いた。業績の厳しかった会社を立て直した経緯を、山下は自身を象徴するエピソードとして紹介した。社員数は現在約3000人に増えている。

社内でのAI活用について山下は、ノーコードによる「市民開発」を続けていると説明した。約500人が取り組み、数百のAIエージェントが動いているが、日常的に使われているのは30ほどだという。山下はこの「日常的に使われるエージェント」の数を増やせば、会社全体の生産性が上がり、人の成長も速くなると考えている。人の多い組織でも生産性を高めやすくなる、というのが山下の見立てである。

2人の付き合いは2015年ごろのイベントにさかのぼる。当時の落合の未来予測は、山下には「高度すぎてよくわからなかった」という。2022年ごろにG1サミットで再会したとき、ちょうどGPT-3.5が登場していた。落合のプロンプトの書き方で回答が変わるのを見た山下は、これからは人間がAIとどう協働するかが大事になると感じ、落合にアドバイザーを依頼した。落合はヤマシタの社員総会に参加したとき、やる気のある社員の多さに驚いたと振り返り、「熱血系」で社員満足度が高そうだと評した。

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2040年問題の数字と現役世代の負担

山下は少子高齢化の深刻さを示す目安として「2040年問題」を挙げた。65歳以上の高齢者が人口の35%になり、要介護認定者は約1000万人に達する。一方で介護現場では職員が57万人不足する見込みだという。生産年齢人口で見ると、2020年少し前の約7500万人が2040年には約6200万人に減り、2070年には約4500万人まで落ち込む。今の延長線上では働き手が半分ほどになるため、社会をどう成り立たせるかが重要な課題だと山下は述べた。

数字だけでは他人事に感じる人も多いのではないか、という司会者の問いに対し、落合は道路工事や介護のように肉体を使って社会を維持する労働から人手不足が厳しくなると指摘した。そのうえで、長期的には賃金体系がかなり変わるのではないかと見通した。山下は日本固有の事情として介護保険料を挙げた。2000年には3000円以下だった保険料が、現在は6000円を超えている。現場ではよく話題になるが、無意識に払っている人も多いのではないかと山下は語った。

病院・施設・在宅のコスト構造と「併用」の考え方

対策として山下がまず挙げたのは、外部環境を正しく理解することだった。一般に最も費用がかかるのは医師や建設コストを含む病院で、次が介護施設、その次が在宅である。こうした費用を国の給付がまかなっていると理解し、在宅で過ごせる環境を整えれば、社会保障費全体を効率化できる。山下は、この全体像を共有するだけでもかなり違うと考えている。

ただし山下は「在宅でなければならない」という考え方には否定的だった。在宅にこだわりすぎると家族が疲弊して働けなくなることもある。難しくなれば施設に頼り、病気になれば早めに病院へ行く。どれか一つに100%頼るのではなく、無理のない持続可能な介護環境をみんなで考えることが大事だと強調した。

介護は突然始まる:住環境の準備と老老介護

在宅を増やせば家族の負担が大きくなりすぎないか、という問いに落合は自身の経験を語った。30代後半から40代半ばになると、家族の介護が必要になる場面がちらほら出てくる。先ごろ亡くなった父親が体調を崩したときも自宅でヘルパーを呼んだが、家の中が不便だったり、ベッドなど色々なものをそろえる必要が出てきたりしたという。知人の父親が脳梗塞で倒れた際も、翌日には手すりがない、階段を上れないといった話になったと落合は付け加えた。

山下はこれを「あるある」だと応じた。介護は突然やって来るため、事前に住環境を整えている人はほとんどいない。工事をすれば1〜2カ月かかるが、レンタルの小さなスロープがあると知っていれば、その日から車椅子で移動できる。しかしその知識がないため、段差のある場所で車椅子を無理に押して腰を痛めるケースが多いという。

山下はさらに在宅介護の課題を2つのパターンに分けて説明した。1つは、40〜50代前後の家族の中で介護を担うキーパーソンが1人しかおらず、その人に負担が集中するケース。もう1つは、年齢の近い夫婦が互いを支える「老老介護」で、支える側の高齢者も腰を痛め、2人とも要介護度が悪化するケースである。後者では、遠方の家族が駆けつけて2人分の介護環境を整えることになり、結局は最初のパターンに戻ることが多いと山下は指摘した。だからこそ、テクノロジーで効率化し、人間は人間にしかできない部分に集中する仕組みが必要だというのが山下の主張である。

落合は国際比較の視点を加えた。日本は最初から介護をアウトソースできる制度が整い、在宅を選ぶ人もサービスを入れながら暮らすことができる。東南アジア諸国はもっと大変そうに見えるが、選択肢があらかじめ示されている点は日本にとって良いことだと落合は述べた。

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1000人調査:ロボットの受容を分けるのは年齢ではなく「自立志向」

介護ロボットがどの程度受け入れられているかを示すデータがほとんどなかったため、ヤマシタは45〜74歳の1000人を対象にウェブアンケートを実施した。山下が最も興味深いと語ったのは、年齢による差がほとんどなかったことだ。40代の方がロボットに前向きだと思われがちだが、実際にはそうではなかった。

大きな差を生んでいたのは「自分のことは自分でしたい」という自立志向の強さである。自立志向の高い人は71%が介護ロボットを使いたいと答え、移乗など体を動かす場面に限ると75%に達した。一方、自立志向の低い人では25%にとどまり、約50ポイントの開きがあった。この傾向は、自分が介護を受ける場合でも、親を介護する場合でも同じだったという。人に迷惑をかけたくないと考える人は、若い世代に限らず65歳以上にも多い。山下はこれを、テクノロジーを導入しやすい土壌があることの表れだと解釈した。

日本はケア機器が得意な国か

落合も、日本はテクノロジーを受け入れやすい国だと述べた。温水洗浄便座を最初に普及させた国であり、衛生用品に技術が入っても違和感なく使っているからだ。中国が安くて良い製品を作るようになった今、日本は「安心して使いやすい」というブランドを崩さないことが大切で、その評価はまだ高いと落合は見ている。

日本がこの分野を得意とする理由を問われた落合は、「難しい」と前置きしたうえで、自動車づくりの蓄積や、陶器、水回り、アクチュエーターのような細かい制御部品を使う製品の得意さを挙げた。例として落合は、家庭用血圧計の世界シェアの5割を日本製品が占めていると紹介した。差別化が難しそうな製品でもシェアを取れているのは精度が高いからだとし、家の中でのヘルスケア製品は「すごく日本人っぽい」と評した。山下も、在宅で気持ちよく過ごせる環境づくりのように微妙な調整が求められる領域は、日本人の得意な細やかなUXと近く、その特性が生きると応じた。

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受け入れられやすい用途と、人に任せたい用途

調査では、用途ごとの受容度にも差が出た。立ち座りや移動の支援、健康状態の見守りといった領域では、テクノロジーを使いたいという回答が約70%に達した。一方、排泄の処理や介護・医療の相談、人生相談などは機械に任せるイメージがわかず、人の方がよいという回答が多かった。ただし山下は、回答者の多くが介護テクノロジーを具体的に知らないと指摘する。「あなたのこの悩みにはこれが当てはまる」と示せば受け入れる人は増えるはずで、技術の進歩によって結果も変わっていくだろうと述べた。

具体例として山下が紹介したのは、富士という会社の移乗支援機器「ハグ」である。介護者が要介護者を「よっこいしょ」と持ち上げてぎっくり腰になるのを防ぐ機器で、介護ロボットが本業ではなかった同社の技術力が生かされ、よく売れているという。もう1つは、お腹に貼ることで膀胱にどれくらい尿がたまっているかがわかるセンサーだ。家族が何度もトイレのタイミングを確認する負担を減らせる。敷くタイプなど様々な形式があるが、こうした製品を知っていれば「この課題にはロボットを使い、当てはまらなければ人がやる」と判断できるようになる。そうした知識が広がれば受容度は大きく変わる、と山下は語った。

落合は「ハグ」を賢い設計だと評価した。重いものを持ち上げるのはアクチュエーターにとって難しく、ヒューマノイドは体を動かすことは得意でもペイロード(可搬重量)を稼げない。人の形をしている必要はなく、車輪がついている方がちょうど良い。富士がもともと電子部品の実装機を作る会社であることにも触れ、こうした企業の技術が介護に使われるのは日本の得意分野らしいと述べた。

ヒューマノイドか、乗り物か

今後の可能性について落合は、ペイロードの大きい作業にはヒューマノイドが出てくるとしつつ、介護で頻繁に発生する「立たせる・座らせる・移動させる」動作は乗り物が解決しそうだと述べた。万能ヒューマノイドが人を抱えて車椅子に乗せ、後ろから押す、という発想も悪くはない。ただ、本人が自分だけで動きたい場面もあるだろう。そう考えると、乗り物系とそれ以外で住み分けが進むのではないか、というのが落合の「直感」である。2つの並行が理想形か、という司会者の確認には、乗る人の主体性がなくならない程度に、と補足した。

18:55

人に残してほしい仕事と、モラベックのパラドックス

調査では、テクノロジーが進んでも人に担ってほしい仕事も尋ねている。上位3つは「機器の安全管理とメンテナンス」「会話の相手」「人生などの相談」だった。安全管理を機械ではなく人にチェックしてほしいという回答が多かったことを、山下は興味深い結果として紹介した。

落合の見方は違った。機器の安全管理やメンテナンスは、むしろAIエージェントが得意な分野だという。目視での確認が必要な場面は残るものの、裏でエラーが起きればエージェントが直すことは普通になりつつある。落合はここでハンス・モラベックの「モラベックのパラドックス」を引いた。人間にとって難しいことは機械には簡単で、機械にとって難しいことは人間には簡単だ、という考え方である。記号推論や数学、理論物理、システムのエラー発見やシステム構築は高度な知的能力とされるが、人間が比較的最近始めたことなので機械には簡単だ。逆に、体を動かす、食事をする、排泄するといったことはコンピューターにはほぼできない。

この観点から落合は、人間の仕事は知的な側から先に機械に置き換わると述べた。会話も人間が始めたのはせいぜい300万年ほど前の比較的新しい能力であり、人生相談も同じだという。本質的に難しく、かつ人にやってほしい領域と、人々の直感との間にはギャップがある。機械が人に寄り添うようになれば「意外と機械でもいい」となる部分が混ざってくるだろう、というのが落合の見立てである。さらに落合は、「人間に安全管理をさせてはだめでしょ」という時代がきっと来ると語った。山下はこれを受けて、会話もメンテナンスもAIが得意な部分はAIに任せ、最後に人がやるべき部分をきちんと設計することが大事だと改めて感じたと述べた。

不安の正体は「使ったことがない」こと

AIやテクノロジーへの否定的な意見について山下は、否定というより、使い方がわからないことや未知のものへの漠然とした不安が大きいと分析した。今回の調査でも具体的な使用場面は説明していない。それでも自立志向の強い人の多くは使いたいと答えていた。まずその人たちに使い方を丁寧に説明し、そこを突破口にすればロボットやAIの導入は進むだろうと山下は見ている。

落合はこれに同意しつつ、実際に自分で触ってみられるかが重要だと付け加えた。問題の多くはやったことがないから生じるものであり、AIも同じだという。使ったことのない人にはAIエージェントのアプリが大層なものに見えるが、実際には質問するとLINEのように返事が返ってくるだけだ。その感覚が伝われば受け止め方は相当変わると落合は述べた。

23:12

在宅介護プラットフォーマー構想

知るきっかけをどこで得ればいいのかという問いに対し、山下は長期ビジョン「2030」で掲げる「在宅介護プラットフォーマー」の構想を説明した。ヤマシタは現在、利用者の家を訪問して状態を調査・アセスメントし、電動ベッドや車椅子などをレンタルしている。レンタルでは対応できない部分は販売や住宅改修(リノベーション)で補い、安全な住環境を整えている。その延長で、今のあなたにはこの介護ロボットが使える、と説明できるはずだと山下は考えている。構想にはロボットに限らず、栄養が不足している人へのサプリメントやプロテイン(高齢者は筋肉が減って転倒しやすい)、定額でのIoTリノベーションの提案なども含まれる。

落合はこれを「御用聞き」にたとえた。今の御用聞き的なAIは、Amazonの商品を薦めたり旅行を予約したりする程度だが、介護用品は「ハグ」のようにマイナーでも必要なものが多く、特化型で特殊だ。しかも申請書を書けば費用が半分になることもある。どの自治体に住んでいるかで条件が変わり、誰かが相談に乗らないとわからない。落合は、これこそAIらしい仕事だと述べた。

同様の事業を狙う競合もいるのではないかという問いに、山下は強みを3つ挙げた。1つ目は、プライバシーの面で重要な家の中に入って提案できること。2つ目は、約40年事業を続けてきたことで、全国にすでに顧客とそのニーズを抱えていること。3つ目は、社会貢献への意識を持つ現場の社員である。取り組みとしては、社員のテクノロジーアレルギーをなくすためのAIエージェント開発と活用推進を挙げた。介護用品レンタルのシェアは急速に伸びており、あと1.5年ほどで1位になるのではないかと山下は見込んでいる。さらにIoTスマートホームを見据えてリノベーション事業を拡大しており、一級施工管理技士や一級建築士、大工も採用している。社内にエンジニアもいるため、内製でリフォームを安く短期間で行い、開発も自前でできる体制が整いつつあると語った。

介護の担い手と道具の変化

介護業界で働く人材の変化について、山下は長期ビジョンの動画をきっかけに、介護にありがちな「ゆっくりで生産性が低い」というイメージとは違う会社だと理解して入社する人が増え、現場の雰囲気や生産性への考え方が変わってきたと述べた。社内のエンジニアからは、テクノロジーが入ってこなかったエッセンシャルワークやブルーカラーの領域は、他業界では当たり前のUIなどを整えるだけで劇的に良くなるため、非常に明るく見えるという声が上がっているという。インパクトを出したいエンジニアにとって、こうした領域は今後ますます魅力的な場所になると山下は見ている。

落合は、道具の方が随分やさしくなったと指摘した。スマートフォンの操作が自然言語でできるようになり、かつては専門業者の仕事だったシステムも、簡単な決済アプリや連絡手段として日常に溶け込み、もはやテクノロジーとすら呼ばれなくなっている。介護は特殊なエッセンシャルワークと思われがちだが、それが当たり前に、気軽にやれる仕事になっていくとよい、と落合は述べた。人が人を支えるのは昔からある普通の産業だとも付け加えた。

求める人材について山下は、AI時代には物事が速く変わるため、その変化を前向きに捉え、自ら変化を作りたい人が向いていると述べた。社内には外資系の金融やヘルスケア、グローバルな家具メーカーなどから転じた人もおり、社会の変化を見据えてこの業界に大きなインパクトがあると考えて入ってきているという。短期ではなく中長期で世界を変えたい人が長く活躍している、と山下は語った。

最後に人に求められる仕事とは

締めくくりに、介護に限らずすべての仕事で最後に人に求められるものは何かが問われた。落合は、人間以外が生み出すものの量が、人間が作るものの無限倍に増えるだろうと述べた。道具を作るコストが限りなく下がれば、人間がスキルや技術の障壁として守ってきたものは一瞬でなくなる。1カ所を掘り続けても価値はすぐに飽和するため、人間は「餌場」を変えながら動き続けなければならない。得意な人は、感度高く問題を見つけ、次々と移りながら解いていくだろう。問題を解く速度は上がり、繰り返しの仕事は減っていく。一点を深掘りするのはAIの方が得意になるので、人間の役割はどう探索するかに移る、というのが落合の見方である。

山下はこれを受けて、勘の良い人はうまく生きていけるが、勘が悪いと全く違う方向に進んでしまうので難しいと感じたと率直に述べた。そのうえで、すべてをAIに決めてもらい、その通りに生きるのが良い人生だとは思わないと語った。仕事に限らず、時間の使い方や、何をしたい人になりたいかを自分で決め、その答えが変化しても楽しめる人が一番幸せになるのではないか。山下はそうメッセージを送りながら、自分もそうなりたいと改めて思ったと述べ、対話を終えた。