サバンナには誰が暮らしているのか:捕食者、草食獣、鳥、そして水辺と人間
VAIENCE バイエンスアフリカを北から南へたどると、砂漠、草原、熱帯雨林、再び草原、砂漠と、風景が帯のように移り変わる。動画は、熱帯雨林の両側で草と樹木がせめぎ合う帯をサバンナと呼び、そこに暮らす動物を一種ずつ紹介する。ナイル川やその源流の一つであるビクトリア湖もサバンナと密接に関わるとして、後半では水辺と人間にも話を広げる。紹介の中心にあるのは、よく知られた姿の裏にある、研究で分かった意外な生態である。
ライオン:群れで暮らす唯一のネコ科と、たてがみの代償
ライオンはネコ科でも最大級の動物で、オスは体重250kgに達することがある。動画はサバンナの食物連鎖の頂点に立つ存在と位置づける。ネコ科で唯一群れで暮らすのも特徴で、「プライド」と呼ばれる群れの中心は血縁でつながったメスたちである。メスが狩りの多くを担い、時には役割を分けて連携し、子育ても共同で行う。オスは主に侵入者からプライドを守る。
たてがみについては研究結果が紹介される。オスのたてがみの色の濃さは、栄養状態とテストステロンの高さを示す「看板」の役割を果たしていた。色の濃いオスはメスに好まれるだけでなく、他のオスからも一目置かれ、繁殖できる期間が長く、子の生存率も高い。一方で、濃いたてがみのオスは体表の温度が上がりやすく、暑い季節には精子に異常が出やすく、食べる量も減っていた。そのため暑い地域のライオンほど、短く淡い色のたてがみを持つ傾向があるという。
チーター:勝負を決めるのは最高速度ではない
チーターは速さに特化した体をしている。体重は30〜60kg程度が多く、細身で脚が長く、バネのようにしなやかな背骨を持つ。時速100kmとも言われる陸上最速の称号が有名だ。
ただし、トップスピードで獲物を捕らえるというイメージは現実と必ずしも一致しないと動画は言う。GPSと加速度センサー付きの首輪を使った実験では、確かに最高時速93kmが観測された。しかし実際の狩りの大半は、それよりずっと控えめな速度で行われていた。成否を分けたのは、獲物の向きに合わせて減速し、急カーブし、再び加速する能力だった。最高速度のまま向きを変えようとすると回転半径は50m以上になる。だがチーターは時速60kmから14kmまで1秒で減速でき、その状態なら旋回半径は1.2mまで縮む。
もう一つの特徴は、遺伝的多様性が極めて低いことだ。祖先の個体数が極端に減った時期が、10万年以上前とおよそ1万年前の2回あったためと考えられている。その結果、環境変化や病気に弱い。健康な個体でも精子の形態異常率が80%を超えるなど、保全上の脆弱性を抱えている。
ブチハイエナ:悪役イメージと実像
ブチハイエナは前脚が発達し、肩が高く、背中が後ろへ下がる独特の体型をしている。顎を動かす筋肉と、骨さえ砕く頑丈な奥歯を持つ。見た目に反してイヌの仲間ではない。独立したハイエナ科に属し、むしろネコに近い動物である。
悪役のように描かれがちだが、動画によれば実際は多くの獲物を自力で狩る優秀なハンターである。ある研究では、狩りに参加する個体が1頭から2頭に増えると成功率が20%上昇した。ライオンがブチハイエナの獲物を横取りすることも珍しくないという。
社会構造は複雑で、肉食獣というより猿の群れに近いとさえ言われる。徹底した女尊男卑で、子は生まれた瞬間から母の順位を受け継ぐ。母が高順位なら、年上の大人さえ従える。群れは離合集散を繰り返すが、低い家系に生まれた子は生涯低いまま、高い家系は地位を代々受け継ぐ。根深い階層社会だと動画は述べる。
リカオン:くしゃみによる「投票」
リカオンは細身で脚の長いイヌ科の動物で、体重は20〜35kgほど。丸く大きな耳は体温を逃がすとともに、遠くの音を拾うアンテナの役目を果たす。イヌ科では珍しく前脚の指が4本しかない。下顎の裂肉歯は肉を切るための特殊な形をしている。黒・白・茶のまだら模様は個体ごとに異なり、指紋のように個体を見分けられる。かつてはアフリカ大陸の多くの場所にいたが、現在は生息域が小さく分断され、絶滅危惧種に指定されている。
動画が特に取り上げるのは、狩りに出るかどうかをくしゃみで決めているという発見である。狩りの前、リカオンはくしゃみに似た荒い鼻息を出すことがあり、群れの中でその数が一定を超えると群れが動き出す。ただしこの「一票」は平等ではない。順位の高い個体が始めた場合は少ないくしゃみで群れが動くが、順位の低い個体が始めた場合はより多くのくしゃみが必要だった。それでも十分な数が集まれば、群れの総意が格上の意向を覆すこともあるという。
ジャッカル:生涯つがいと「ヘルパー」
ジャッカルは体重6〜19kgほどの小型のイヌ科で、細身、大きな耳、ふさふさした尾、雑食に適した歯を持つ。いくつかの種のうちセグロジャッカルは、哺乳類では珍しい一夫一妻で、生涯つがいを続ける。あるつがいを追跡した調査では、その子供が後に生まれた弟や妹の世話をすることがあり、それが子の生存率を高めていたという。
アフリカゾウ:サバンナを形づくる存在と、声を聞き分ける能力
陸上最大の動物アフリカゾウは、オスで体重7tに達することがある。動画は、サバンナの生態系全体への影響が極めて大きいキーストーン種だと紹介する。乾季には牙で干上がった川を掘り、多くの生き物が集まる水場をつくる。少し育った木をなぎ倒して芽を食べることも、サバンナが草原の状態を保つ要因の一つになっている。
群れを率いるのは経験豊富な最年長のメスである。人間には聞こえない超低周波の音でもやりとりしている。「ランブル」と呼ばれる低いうなり声は遠くまで届き、2.5km離れた個体が反応することもあるという。ランブルからは個体の識別、繁殖の可能性、さらには精神状態まで伝わっている可能性があるとされる。
さらにアフリカゾウは、人間の言語や声の特徴の微妙な違いを判別し、民族・性別・年齢から最も危険な相手を識別できるという。槍を持つマサイ族の成人男性の声には密集して後退する。一方、農耕民であるカンバ族の男性の声や、同じマサイ族でも女性や少年の声には反応が弱かった。
キリン:重力との戦い
現生の陸上動物で最も背が高いキリンは、大型個体なら優に5mを超え、首だけで2〜3mになることもある。首の骨の数は人間と同じ7個で、一つひとつが平均30cmと極端に長い。
動画はキリンの体を「重力との壮絶な戦い」と表現する。頭は心臓より2m以上高い位置にある。そこまで血液を押し上げるため、血圧は平均でも200mmHgを超え、大型個体や首を真上に伸ばした状態では250mmHgに迫ることもある。水を飲むときは頭が心臓より低くなり、すぐにまた高い位置へ戻る。その高低差は人間の立ちくらみとは比べ物にならない。キリンは頸動脈と椎骨動脈をつなぐ迂回路や、首の静脈の逆流を防ぐ弁を備えている。高血圧への耐性や頑丈な骨をつくる遺伝子も持つ。一方で、ポンプ役の心臓自体は巨体相応の普通のサイズだという。
また、キリンは動物界で最も睡眠時間が短いことでも知られる。野生の大人は1日平均30分の睡眠で過ごしていることが観察されている。
シマウマ:縞模様の有力説は虫よけ
シマウマはウマの仲間で、体長2m以上、体重200kg以上になる。短いたてがみ、硬い草をすりつぶす丈夫な歯、そして名前の由来である白黒の縞を持つ。
縞の理由は長く謎だった。草原でのカモフラージュ説や体温調節説があったが、現在有力なのは虫よけ説だと動画は言う。2022年に発表された研究では、シマウマと無地のインパラを比べると、ハエがまとわりつく回数はほぼ同じなのに、うまく着地できた回数はシマウマでは4分の1以下だった。一方、縞の太さは特に影響しないことも分かった。そのため、種によって縞の太さが違う理由や、顔の周りだけ縞が細い理由など、謎はまだ多く残っている。
ヌー:大移動と、川に還る死骸
体重300kgに迫るウシ科のヌーは、四角い頭、大きく曲がった2本の角、灰色の胴体、黒いたてがみ、あごひげを持つ。餌と水を求めて常に移動しており、1年で800〜1600km移動することもある。
移動を象徴するのが一斉出産だ。出産は雨季の始まりの数週間に集中し、多いときは全体の8割もの子がわずか3週間で生まれる。捕食者が食べきれないほどの数を一度に産むことで、我が子が襲われる確率を薄める狙いがあると考えられている。
大移動は命がけでもある。ケニアを流れるマラ川では、渡河の際の集団溺死が毎年のように起きる。ある調査では、100頭以上が溺れる集団溺死が15年のうち13年で発生していた。ただし動画は、これを無駄死にとは言い切れないとする。調査した年には平均6250頭、1100tのバイオマスがマラ川に入っていた。シロナガスクジラ10頭分に相当する死骸が中規模の川に毎年流れ込む計算になる。骨まで分解されるには7年ほどかかるため、ヌーの死骸は川の生態系の重要な栄養源になっている。
アフリカスイギュウ:多数決と集団防衛
ヌーより一回り大きいアフリカスイギュウは、大型個体で体長3m超、体重900kgになる。オスの角は根元が融合し、頭蓋骨を守る硬い盾となる。
獰猛で危険な動物として知られる一方、社会性は極めて高く、群れは2000頭に達することもある。群れがばらばらにならないよう、民主主義に似た行動を見せる。移動の際、各個体がそれぞれ行きたい方向を向き、最も「得票」の多い方向が採用される。そしてリーダーのメスが群れをその方向へ導く。
防衛も巧みで、危険が迫ると子供を群れの中心に囲い、捕らえられた仲間の悲鳴に応えて助けに向かう。群れがライオンとワニの両方から子供を奪い返したという観察例もある。巨体と盾のような角による防御の前では、百獣の王でも簡単には手を出せないと動画は述べる。
カバとサイ:水辺の化学者と、角ゆえの悲劇
カバは樽のような体で体重5tになることもある。巨大な口と、伸び続ける切歯と犬歯を持つ。目・耳・鼻の穴が頭のてっぺんに並ぶのは、体を沈めたまま周囲をうかがうためだ。血のような赤い汗の正体は、皮膚の下から分泌される酸性の色素である。この色素は紫外線を吸収する日焼け止めとして働き、同時に細菌の増殖を抑える抗菌剤としても働くことが分かっている。
カバは下流の湖の生態系も支えている。夜はサバンナで草を食べ、昼は川で排泄する。その過程で陸から川へ大量のケイ素を運んでいた。ある研究によると、カバは1日あたり400kgのケイ素を運び、湖に流れ込むケイ素の総量の76%に影響している。ケイ素は珪藻の細胞壁の材料で、珪藻は湖の食物網の土台である。そのため、カバが湖の生態系の鍵を握っていると動画は説明する。
サイは鎧のような厚く折り重なった皮膚と立派な角を持つ。角は骨ではなく、人間の髪や爪と同じケラチンでできている。視力は弱いが、嗅覚と聴覚に優れる。サバンナには複数種がいるが、大型のシロサイは最大3.5tになる。その巨体でも人間の手からは逃れられず、角を目的に狩られ続けてきた。とりわけ悲劇的なのが亜種のキタシロサイで、生き残っているのはメス2頭のみであり、動画は絶滅は決定的と言える状況だとする。ただ、保存された精子を使った体外受精などでこの亜種を救おうとする人々もいる。かつて100頭を切るまで減りながら回復した亜種ミナミシロサイの歴史が、わずかな希望になっていると動画は述べる。
インパラ、トムソンガゼル、イボイノシシ:中小型の草食獣の工夫
インパラは体重40〜80kg前後の中型のウシ科で、オスだけが竪琴型の角を持つ。後ろ脚の黒い房の根元には中足腺という匂いの腺がある。動画が注目するのは歯で、下の前歯と犬歯が櫛のように並び、2mmほど動かせる。インパラは仲間と交代で、互いの頭や首をこの櫛のような歯で毛づくろいする。毛づくろいは通常6〜12回、きっちり交互に繰り返される。地位の高い個体が多くしてもらうような不平等はなく、血縁のないオス同士でも対等にやり返し合う。目的は、自分の口が届かない場所からダニを取り除くことだと考えられている。霊長類以外の野生動物では珍しい協力関係である。生後1〜2週間の子供でも行うことから、進化の過程で得た本能的な行動だとうかがえるという。
トムソンガゼルは体重15〜35kg程度の小型のウシ科で、淡い体色に黒い横帯、白い腹、やや後ろに曲がった2本の角を持つ。最高時速70kmに達するが、捕食者に追われると奇妙な動きを見せることがある。4本の脚をピンと伸ばして、その場で高く跳ね上がる「ストッティング」だ。一見すると逃走中にエネルギーを無駄にしているだけに見える。しかし実際には、リカオンは跳ねた回数が少ないガゼルを狙う傾向があった。また、チーターのように忍び寄る捕食者に対してはあまり跳ねない。ここから、ストッティングは捕食者に自分の体力を誇示するためのもので、捕食者側もそれを参考にしていると推測されている。
イボイノシシは体重50〜150kg程度の野生のブタの仲間で、平たい大きな頭、上向きの牙、まばらな剛毛、背中のたてがみ、顔のイボを持つ。イボはオス同士の戦いで顔を守るクッションだと考えられている。顔が大きく脚が長い一方で首が短いため、食事の際は前脚の膝を地面につくような姿勢を取る。雨季は短い草を食べ、乾季には鼻先と牙で地面を掘って根なども食べる。ツチブタが掘って放棄した巣穴を住処として使うこともある。そのとき後ろ向きに入るのは、牙を穴の外に向けて、やってきた捕食者を迎え撃つためだという。
ヒヒ:順位とストレス、そして群れの「文化」
ヒヒは体重10〜30kg程度のサルの仲間で、犬のような鼻先、頑丈な顎、鋭い犬歯を持つ。森のサルに比べて尾の器用さでは劣るが、木登りはできる。サバンナに暮らす霊長類として、人間社会を映す鏡のように長く研究されてきた。
オリーブヒヒの群れを長年追った研究では、安定した群れの低順位オスに高いコルチゾール値と血圧、免疫の低下が見られた。順位が低いほど強いストレスを感じているということだ。一方、別の研究では、群れのトップは2番手よりもはるかに高いストレス状態にあった。動画はこれを、人間社会にも通じる部分があるのではないかと投げかける。
もう一つの例は、人間が長年観察してきたある群れの話である。1983年、ゴミ捨て場の汚染された肉から結核が発生し、そこで食事をしていたオスの半数が死んだ。死んだのは、ゴミ捨て場の資源を独占するほど攻撃的なオスたちで、残ったのは非攻撃的な集団だった。この傾向は10年後にも残っており、低順位のオスでも、一般的な群れの低順位オスほど強いストレスを受けていなかった。オスは思春期に生まれた群れを出るため、当時を生き延びたオスはもういないはずである。つまり、新たに加わったオスたちがその群れ独自の文化を学習して受け継いでいたことになる。
ダチョウ、ヘビクイワシ、ハゲワシ、モモイロペリカン:サバンナの鳥たち
ダチョウは現生最大・最重量の鳥で、背丈2.6m、体重135kgに達することがある。翼は走るときのバランス取りや求愛などに使われる。直径5cmの目は陸上動物で最大で、脳より大きい。最高時速70km、時速50kmなら長時間走り続けられ、一歩で3〜5m進む。群れでは生まれる前から生存競争がある。東アフリカでは2〜7羽のメスが同じくぼみにそれぞれ卵を産み、巣には30〜40個の卵が集まる。しかし1羽が抱ける卵はおよそ20個。リーダーのメスは抱けるだけの数以外をくぼみの外へ押し出し、押し出された卵は死んでしまう。リーダーは自分の産んだ卵を押し出すのは避けているらしいという。
ヘビクイワシは背丈1.2〜1.5mほどで、ワシのような体に、肉食の鳥では最も長い脚を組み合わせた独特の姿をしている。頭には羽ペンに似た冠羽があり、獲物を踏むための短く頑丈な指を持つ。狩りの方法は蹴りである。訓練された個体にゴム製のヘビを蹴らせ、隠した測定器で威力を測った研究では、一撃は体重のおよそ5倍に達し、脚が触れている時間はわずか0.015秒ほどだった。毒ヘビを狩るために、この一瞬の一撃を磨いてきたと考えられている。
ハゲワシは幅広い翼で滑空する大型の猛禽類で、多くの種がサバンナに生息する。頭と首は羽が薄いか裸であることが多く、鉤型のくちばし、鋭い視力、強力な胃酸を持つ。死後数時間で死骸に駆けつけ、その7割ほどを片付けることで、病気の拡散を防いでいると考えられている。羽のない頭は、死骸の内部に突っ込んでも汚れがこびりつきにくく、体温調節にも役立つ。飛翔能力も高く、コートジボワール上空の高度1万1300mで飛行機と衝突した事例は、最も高い高度を飛んだ鳥としてギネス世界記録に認定されている。
モモイロペリカンは翼開長3.4mにもなる大型の水鳥で、伸縮する喉袋、短い脚と水かき、桃色がかった顔と白い羽を持つ。鳥類では珍しく協力して漁をし、何羽ものペリカンが円を描いて魚の群れを閉じ込め、時には浅瀬に誘導する。ところが食べる段階になると協力体制は一気に崩れ、ペリカン同士で魚を奪い合うことも珍しくないという。
サバンナはなぜ森にならないのか
動画はここで、サバンナという環境そのものに目を向ける。サバンナは主に熱帯にある、森でも砂漠でもない草原の環境である。定義にもよるが、アフリカ大陸の中部から南部に多く、地球の陸地のおよそ2割を占めるとされる。
なぜ森にならないのか。答えは雨量だけでは説明できないと動画は言う。ある研究によれば、年間降水量が650mm以上あれば草原に木が生い茂り、やがて森になるはずである。それでも草原が保たれているのは、乾季に起きる火事や、ヌーなどの草食動物が木の芽を食べるためだと考えられている。逆に言えば、それらの影響がなければ、雨の多いサバンナは森に変わってしまう不安定な環境だということになる。
ビクトリア湖とナイル川:新しい湖と、変わった大河
サバンナを潤す水をたどると、アフリカ最大の湖ビクトリア湖に行き着く。熱帯の湖としては世界最大で、淡水湖としては世界で2番目の広さを持つ。しかし湖としての歴史は浅く、およそ1万5000年前に一度完全に干上がったと考えられている。現在の湖は、そこに再び水が満ちてできた比較的新しい湖である。この湖ではシクリッドと呼ばれる熱帯魚が繁栄し、多くの種に分かれた。しかし20世紀になると、人間の手によって次々と絶滅していく。一説では、1992年の時点で300種以上の固有種のうち約200種がすでに絶滅したか絶滅の危機にあった。主な原因は、漁業のために導入された肉食魚ナイルパーチだと言われている。
ビクトリア湖から流れ出た水はナイル川になる。ナイル川には二つの源流がある。ビクトリア湖に発する長い白ナイルと、エチオピアのタナ湖に発する青ナイルだ。短い青ナイルの方が、水の量も運ぶ肥沃な土の量も多い。毎年の氾濫が運ぶ黒い泥が、砂漠に文明を育てたと動画は述べる。
その姿は20世紀に大きく変わった。1970年に完成したアスワン・ハイ・ダムは毎年の氾濫を制御し、安定した水と電力をもたらした。しかしその代償として肥沃な土をせき止めた。完成後、運ばれる土砂の98%以上がダム湖にとどまるようになった。土の供給を断たれたナイルデルタは少しずつ沈み込み、地中海の波に削られて縮み始めている。
ナイルワニとナイルオオトカゲ:水辺の捕食者
ナイルワニは全長6mに達することもある大型の爬虫類で、背中は骨質の板で覆われ、力強い尾を持つ。噛む力は生物界でも最大級である。獲物の大部分は魚だが、時にはヌー、シマウマ、カバまで食べる。一説では、ナイルワニに襲われて命を落とす人は年間最大200人にのぼる。主に川辺で洗濯をしている人が誤って襲われているのではないかと考えられている。一方で、爬虫類には珍しく子育てが手厚い。母親は巣を守り、孵化した子が出られるよう巣の上の土を取り除く。孵化した子を口にそっとくわえて水辺へ運ぶ様子も観察されている。
ナイルオオトカゲは全長最大2mの、アフリカ最大のトカゲである。平たい尾を舵のように使って巧みに泳ぎ、10分以上潜っていられる。魚や鳥のほか、卵や肉も狙う。動画によれば、こうした食性によってナイル川の生態系のバランスを保ち、外来種や疫病の蔓延を防いでいる。そのため、数が生態系全体の指標にもなり、極端に減れば付近の環境破壊などが疑われる。また、シロアリの塚に卵を産みつけることでも知られる。塚の中は温度と湿度が孵化に最適で、卵は6〜9か月ほどそこで過ごすという。
サバンナに暮らす人間:マサイ族
最後に動画は、サバンナに生きるのは野生動物だけではないとして、マサイ族を紹介する。マサイ族はケニアとタンザニアにまたがって暮らす、牛とともに移動する半遊牧の民である。季節の雨を追って牧草地を巡り、草に回復の時間を与えながら、野生動物と長く共存してきた。ただし、国立公園の設立に伴う立ち退きなど、その歴史は平坦ではなく、土地をめぐる問題は今も続いていると動画は指摘する。
動画は、人と草と川と無数の野生動物が互いに影響し合い、支え合う一つの大きなつながりとして、この大地が動いていると述べて締めくくられる。
アフリカを北から南へたどると、砂漠、草原、熱帯雨林、そしてまた草原、砂漠と風景が帯のように移り変わっていきます。その熱帯雨林の両側に広がる、草と樹木がせめぎ合う帯、それがサバンナです。そこにはライオンやゾウ、キリンにシマウマなど、アフリカを代表する動物たちが生息しています。さらに古代文明を支えたナイル川、そしてその源泉となるビクトリア湖もサバンナと密接な関わりがあります。今回は雄大な大草原と、そこに暮らす多種多様な動物たちをご紹介しましょう。
まずは言わずと知れた、ネコ科の中でも最大級の大きさを誇るライオンです。古来より人間社会においてライオンは勇気と力の象徴として扱われてきました。実際オスであれば体重250kgにもなることがあり、サバンナの食物連鎖の頂点に立つと言っても過言ではありません。ライオンはネコ科の中では唯一群れで生活するという特徴もあります。プライドと呼ばれるその群れは、主に血縁でつながったメスたちが群れの中心となります。メスは狩りの多くを担い、時に役割を分けて連携し、子育てまで共同で行います。一方のオスは主に侵入者からプライドを守るために行動します。
ライオンといえば、その立派なたてがみを思い浮かべる人が多いかもしれません。そしてそれに惹かれるのは人間だけではありません。ある研究によると、オスライオンのたてがみの色の濃さは、そのオスの栄養状態と男性ホルモンであるテストステロンの高さを示す看板としての役割がありました。たてがみの色が濃いオスはメスに好まれるだけではなく、同じオスからも一目置かれ、繁殖できる期間が長く、子の生存率も高い。その一方で代償もあります。濃いたてがみを持つオスは体表の温度が上がりやすく、暑い季節には精子に異常が出やすく、食べる量も減っていました。そのため温度が高い地域に生息するライオンは、より短く淡い色のたてがみをたくわえる傾向があることが分かっています。百獣の王といえど、暑さにはかなわないようです。
ライオンと同じ大型のネコ科の動物ではありますが、チーターは速さに特化した設計をされています。体重は30kgから60kg程度のことが多く、細身で足が長い体型であるとともに、バネのようにしなやかな背骨を持ちます。これらの特徴により、時速100kmにもなるという、陸上動物の中で最速という称号が有名です。
一方で、このトップスピードを生かして獲物を捕まえるというイメージは、必ずしも現実に即しているわけではないようです。GPSと加速度センサーをつけた首輪を用いた実験によると、確かに最高時速93kmという数値が観測されました。しかしチーターの実際の狩りの大半は、それよりずっと控えめな速度で行われていたのです。勝負を分けていたのはトップスピードではなく、逃げる獲物の向きに合わせたブレーキと急カーブ、そしてまた加速し直すといった、加速・減速・旋回の能力でした。仮にチーターが最高速度のまま向きを変えようとすると、その回転半径は50m以上。しかしチーターは時速60kmから時速14kmまで1秒で減速することができ、その状態では旋回半径は1.2mにまで減少します。スピードそのものというより、小回りが効く身のこなしでチーターは狩りを成功させています。
またチーターは遺伝的多様性が極めて低いことでも知られています。これは今日のチーターの祖先にあたる個体数が極端に少なくなった時期が2回ほど存在したためだと考えられています。1回目は10万年以上前、そして2回目はおよそ1万年前。このためチーターは環境変化や病気に弱いのはもちろんのこと、健康な個体でさえ精子の形態異常率が80%を超えるなど、保全上の脆弱性を抱えていることは間違いありません。
ブチハイエナは首が発達し、前足が発達し、肩が高く、背中が後ろへ下がる独特な体型をしています。頭は大きく、顎を動かす筋肉と骨さえ砕く頑丈な奥歯を備えています。見た目とは裏腹に、彼らは犬の仲間ではなく独立したハイエナ科。犬よりはむしろ猫に近い動物です。
多くの場面でハイエナはまるで悪役かのように描かれます。しかし実際の姿はどうでしょうか?実はブチハイエナは多くの獲物を自力で狩る優秀なハンターであり、さらにチームワークにも優れています。1997年に発表された研究によると、狩りの成功率は1頭から2頭に増えると20%も上昇するようです。むしろライオンがブチハイエナの獲物を横取りすることも珍しくありません。
さらにブチハイエナの社会構造の複雑さも特筆すべきでしょう。その社会構造は肉食というよりは猿の群れに近いとさえ言われています。そして徹底した女尊男卑も特徴です。子は生まれた瞬間から母の順位を受け継ぎ、母が高順位なら年上の大人さえ従える。群れは離合集散を繰り返し、低い家系に生まれた子は生涯低いまま。高い家系はその地位を代々受け継ぐ、根深い階層社会がそこには存在しています。
リカオンは細身で足の長いイヌ科の動物。体重は20kgから35kgほど。丸く大きな耳は体温を逃がすとともに、遠くの音を拾うアンテナの役目を果たします。イヌ科では珍しく前足の指が4本しかなく、下顎の裂肉歯は肉を切るための特殊な形状をしています。また黒、白、茶のまだら模様は一頭ごとに異なり、指紋のように個体を見分けることができます。
かつてリカオンはアフリカ大陸の多くの場所に生息していましたが、現在ではその生息域は小さく、そして細かく分断されており、絶滅危惧種に認定されています。そんなリカオンが世界を驚かせたのは、群れの仲間とのコミュニケーション方法。実はリカオンは、狩りに出るかどうかをくしゃみによって決めていたことが明らかとなったのです。狩りの前、リカオンはくしゃみに似た荒い鼻息を出すことがあります。そして群れの中でそれがある一定数を超えると、群れは動き出します。まさに人間と同じように清き一票を投じているのです。しかしこの一票は平等ではありません。順位の高い個体が音頭を取ると少ないくしゃみで群れは動きますが、順位の低い個体が始めた場合はより多くのくしゃみが必要でした。それでも十分な数が集まれば、格上の意向を群れの総意が覆すこともあるようです。
ジャッカルは小型のイヌ科で、体重は6kgから19kgほど。細身で足が長く、大きな耳とふさふさした尾を持ち、雑食に適した歯を備えています。ジャッカルの仲間には複数の種が存在しますが、その中でもセグロジャッカルは哺乳類においては珍しい一夫一妻制であり、生涯にわたってつがいになるということが特徴です。さらにあるつがいの個体を追跡したところ、その子供は後に生まれてきた弟や妹の世話や子守りをすることがあり、それが子供の生存率を高めているとのこと。
陸上最大の動物アフリカゾウ。オスは体重7tにも到達することがあります。その巨体だけではなく、長い鼻と大きな耳も特徴的。またサバンナの生態系全体への影響が極めて大きいキーストーン種とも言われます。乾期にはアフリカゾウはその牙を使って枯れた川を掘り、多くの生き物が集う水場を作ることがあります。また少し育った樹木をなぎ倒し、芽も食べるため、サバンナが草原の状態を保っている要因の1つとなっています。
以前のバイエンスでも紹介した通り、ゾウは非常に知能が高い動物。アフリカゾウの群れは経験豊富な最年長のメスに率いられます。そして彼らは人間には聞くことのできない超低周波音を使っていることが分かっています。アフリカゾウが発することのある低い唸り声はランブルと呼ばれ、低い音は遠くまで届く性質があるため、なんと2.5kmも離れた個体が反応することもあるようです。また、ランブルからその個体の識別や繁殖の可能性、精神状態さえも伝わっている可能性もあるとのこと。またアフリカゾウは人間の言語と声の特徴の微妙な違いを判別し、民族、性別、年齢に基づいて最も危険な個体を正しく識別することができます。例えば、槍を持つマサイ族の成人男性の声には密集して後退するのに対し、農耕民族であるカンバ族の男性や、同じマサイ族でも女性や少年の声にはその反応が弱いことが分かっています。
現生の陸生動物で最も背が高いキリン。大型の個体は5mを優に超え、首だけでも2〜3mになることもあります。しかしその首を支えている骨の数は、意外にも人間と同じ7個であることは知っている人も多いでしょう。1つ1つの首の骨が平均30cmと極端に長いだけなのです。
その体は重力との壮絶な戦いを常に強いられています。キリンの頭は心臓より2m以上も高い位置にあります。そこまで血液を押し上げるため、キリンの血圧は極めて高く、平均でも200mmHgを超えます。さらに大型の個体や首を真上に伸ばしていると、血圧が250mmHgにも迫ることがあります。しかし、キリンが水を飲む時はどうでしょうか?頭が心臓より低い位置に行ったかと思いきや、すぐに元の高い位置に戻る。立ちくらみを経験した人もいるかもしれませんが、キリンが経験する高低差は人間とは比べ物になりません。一方、キリンは頸動脈と椎骨動脈をつなぐ迂回路や、首の静脈の逆流を防ぐ弁まで備えています。
キリンは高血圧への耐性や頑丈な骨を生み出す遺伝子を持っていることもあり、その巨体を維持するために様々な部位を進化させてきたと言えるでしょう。その一方で、血液のポンプの役割を果たす心臓は、その巨体相応の普通サイズ。またキリンは動物界の中で最も睡眠時間が少ないことでも有名です。野生においては、大人は1日平均30分の睡眠で乗り切ることが観察されています。
シマウマはウマの仲間であり、体長2m以上、体重は200kg以上になる大型の哺乳類です。短いたてがみに、硬い草をすりつぶす丈夫な歯、そして何より名前の由来にもなっている白と黒の縞模様が特徴的です。実はシマウマがなぜこのような縞を持っているのかは、長らく謎のままでした。草原が多いサバンナの環境に適応したカモフラージュ説。体温調節に役立っているという説。しかし現在有力となっているのは虫よけというものです。2022年に発表された研究によると、シマウマと無地のインパラを比べた時、アブがまとわりつく回数はほぼ同じなのに、シマウマにうまく着地できる回数は1/4以下でした。一方、縞の太さは特に影響しないことも分かったため、シマウマの種類ごとに縞の太さが異なる理由や、顔の周りだけ縞が細い理由など、まだまだその縞には謎が多く残っています。
体重300kgに迫ることもある大型のウシの仲間、ヌー。四角い頭に大きく曲がった2本の角、灰色の胴体に黒いたてがみ、そして顎ひげ。どこかユーモラスな姿ではありますが、ヌーといえばその大移動が有名です。ヌーの群れは餌と水を求めて常に移動しており、1年間で800kmから1600km移動することもあるようです。またその移動を象徴するのが一斉出産です。ヌーは雨季の始まりの数週間に出産が集中し、多い時には全体の8割もの子がわずか3週間の間に生まれます。捕食者が食べきれないほどの数を一度に産むことで、我が子が襲われる確率を薄める狙いがあると考えられています。しかし子供にとっても大人にとっても、この大移動は時に命に関わることがあります。例えばケニアを流れるマラ川では、渡河時にヌーが集団で溺死する光景が毎年のように繰り返されます。ある調査においては、100頭以上が溺れるような集団溺死は15年間中13年で発生しているとのこと。一方でヌーは無駄死にだったかと言うと、そうとも言い切れません。調査した年では平均して6250頭、1100tのバイオマスがマラ川に入っていました。シロナガスクジラ10頭分に相当する量の死骸が、中規模の川に毎年入る。骨まで分解されるのには7年ほどかかるため、ヌーの死骸は川の生態系にとっては重要な栄養源となるのです。
ヌーより一回り大きいのが、ウシの仲間のアフリカスイギュウです。大型の個体は体長3mを超え、体重900kgにもなります。最大の特徴は、オスの角の根元が融合し、頭蓋骨を守る硬い盾となることです。アフリカスイギュウは屈強で危険な動物としても知られていますが、社会性は極めて高いことが分かっています。実際、群れの大きさは2000頭になることもあります。大きな群れがバラバラにならないように、彼らは実は民主主義と似た行動を示すことがあります。群れが移動する時、アフリカスイギュウはそれぞれ行きたい方向に向きます。そして最も得票数の大きかった方向が採用され、リーダーであるメスが群れをその方向へと導きます。また防衛も見事で、アフリカスイギュウは危険が迫ると子供を群れの中心に囲い、捕らえられた仲間の悲鳴に応えて助けに向かいます。実際、群れが子供をライオンとワニの両方から奪い返したという観察結果もあります。その巨体と、盾と化した角による防御の前では、百獣の王でも簡単には手が出せないのです。
カバは樽のような体を持ち、体重5tになることもある巨大な動物です。頭と口が巨大で大きく開き、伸び続ける犬歯と牙を備えます。目、耳、鼻の穴が頭のてっぺんに並ぶのは、体を沈めたまま周囲をうかがうため。カバが極めて危険な動物であることは、バイエンスの視聴者であればすでにご存知でしょう。他には、まるで血のような赤い汗も有名です。その正体は皮膚の下から分泌される酸性の色素。その色素は紫外線を吸収する日焼け止めであると同時に、細菌の増殖を抑える抗菌剤としても働くことが明らかになっています。
またカバは、その生息地から下流にある湖の生態系を支えています。カバは夜にサバンナで草を食べ、昼に川で排泄します。その過程で陸から川へ大量のケイ素を運んでいたことが分かっています。ある研究によると、カバは1日あたり400kgを運搬し、湖に流れ込むケイ素の総量の76%に影響。ケイ素は珪藻の細胞壁の材料で、珪藻は湖の食物連鎖の土台となるため、カバが湖の生態系の鍵を握っているのです。
まるで鎧のような姿をしたサイ。厚く折り重なった皮膚に立派な角。その角は骨ではなく、人間の髪や爪と同じケラチンでできています。視力は弱く、その代わりに嗅覚と聴覚に優れる。サバンナには複数の種類のサイが生息していますが、大型の方となるシロサイは体重が最大3.5tにもなります。しかしその巨体をもってしても、愚かな人間の魔の手から逃れることはできませんでした。その立派な角ゆえに、サイは人間によって狩られ続けてきました。特に悲劇的なのは、シロサイの亜種であるキタシロサイ。現在生き延びているのは母娘の2頭のメスのみ。つまり絶滅は決定的と言えるような状況です。
しかし愚かな人間もいれば、このキタシロサイを救うために奮闘する人間も存在します。彼らは保存した精子を用いた体外受精などの最新技術で、この亜種を絶滅から救おうとしています。かつて100頭を切るまで減りながら回復した亜種ミナミシロサイの歴史が、ほんのわずかな希望を照らしています。
インパラは体重40kgから80kg前後の中型のウシの仲間。細身で、オスだけが竪琴型の優美な角を持ちます。後ろ足の黒い房の付近には中足腺という匂いの腺。そして注目すべきは、下の前歯と犬歯がまるで櫛のように並び、それを2mmほど動かすことができることが挙げられます。その不思議な歯が、インパラの社会生活に大きな影響を与えています。インパラは仲間と交代で、互いの頭や首をその櫛のような歯で舐め合います。この毛づくろいは通常6回から12回、きっちり交互に繰り返されます。しかも興味深いことに、地位の高い個体が特別多くしてもらうといった不平等はなく、血のつながらないオスでも対等に返し合います。その行動の目的は、自分の口が届かない場所からダニを取り除くことだと考えられています。これは霊長類以外の野生動物では珍しい協力関係です。しかも生まれて1週間目や2週間目の子供でさえ毛づくろいをすることがあるため、進化の過程で獲得した本能的な行動ということがうかがえます。
体重15kgから35kg程度の小型のウシの仲間、トムソンガゼルは、淡い体に横に黒い帯、そして白い腹を持ちます。少しだけ後ろに曲がった2本の角が特徴的です。トップスピードは時速70kmにもなるトムソンガゼル。しかし捕食者に追われている時、時折奇妙な動きを見せることがあります。リカオンなどに追われながら、なぜか4本の足をピンと伸ばし、その場で高く跳ね上がる。この行動はストッティングと呼ばれており、一見すると文字通り命がけの逃走中に余計なエネルギーを消費しただけのようにも見えます。しかし実際には、リカオンは飛び跳ねた回数が少ないトムソンガゼルの方を狙う傾向がありました。またチーターのようにこっそりと忍び寄る捕食者に対しては、あまり飛び跳ねないことも分かっています。ここから推測されることは、ストッティングは捕食者に自分の体力を誇示する目的があり、捕食者側もそれを参考にしているということです。
イボイノシシは体重50kgから150kg程度の野生のブタの仲間。大きく平たい頭、上に向かって生える牙、まばらな剛毛と背中のたてがみ、そして何より顔のイボが特徴的です。イボはオス同士の戦いで顔を守るクッションの役割を果たしていると考えられています。イボイノシシの顔は大きく足も長い代わりに首が短いため、食事をする時には、まるで前足の膝を地面につくような体勢を取ることが知られています。雨季は短い草を食べますが、乾期には鼻先と牙で地面を掘り返し、草の根なども食べています。
またイボイノシシは、同じサバンナの動物であるツチブタの巣穴を住処として利用することがあります。サバンナでは、ツチブタが掘り放棄した穴に、イボイノシシが後ろ向きに入る光景がよく観察されています。こうすることでイボイノシシは牙を巣穴の外に向けて、やってきた捕食者を迎え撃つことができます。地元では「ツチブタホテル」とも呼ばれているようです。
ヒヒはサルの仲間であり、体重は10kgから30kg程度。犬のような鼻に頑丈な顎、鋭い犬歯。森で暮らすサルと比べると尻尾の器用さでは劣るようですが、木登り自体は可能なようです。
サバンナに暮らす霊長類であるヒヒは、人間社会を映す鏡として長らく研究されてきました。ヒヒの一種、オリーブヒヒの群れを長年追った研究によると、安定した群れでは低順位のオスで高いコルチゾール値と血圧、そして免疫の低下が観察されました。つまり順位が低いオスほど強いストレスを感じているということです。一方で、頂点に立つのも苦労を伴います。別の研究によると、群れのリーダーは2番手のヒヒよりもはるかに高ストレスだったことが分かっています。順位が低いほどストレスが溜まりやすい。その一方、頂点を守り続けることは想像以上に辛いもの。人間社会にも通じる部分があるのではないでしょうか。他にもヒヒの社会性を示す例があります。
長年人間が観察しているある群れにおいては、1983年にゴミ捨て場の汚染肉から結核が発生し、そこで食事をしていたオスの半数が死亡してしまいました。そして実は、亡くなったのはゴミ捨て場の資源を独占するほど攻撃的なオスたち。残ったのは非攻撃的な集団でした。その後、この集団の傾向は10年後にも残っており、低順位のオスであっても、一般的なヒヒの群れの低順位オスほど強いストレスを受けていませんでした。オスは思春期には育った群れを出るため、当時を生き延びたオスなどいないのにも関わらずです。つまり、新しく加入したオスたちがその群れ独自の文化を学習して受け継いでいたということです。
ダチョウは現生最大にして最重量の鳥類。背丈は2.6m、体重は135kgに到達することがあります。飛べない鳥の代表格とも言え、翼は走る時のバランスを取るためと、求愛や育児のために使われます。直径5cmの目は陸上動物で最大で、なんと脳より大きいほどです。ダチョウは飛ぶことを捨てた代わりに、走ることを極めました。最高速度は時速70kmですが、時速50kmであれば長時間走ることも可能。その長い足で地面を蹴ることで、一歩あたり3mから5m進むことができます。またサバンナで暮らすダチョウの群れでは、生まれる前から生存競争にさらされています。東アフリカでは2羽から7羽のメスが同じくぼみにそれぞれ卵を産み、巣には30個から40個の卵が集まります。しかし1羽が抱ける卵の数はおよそ20個。ダチョウの群れにはリーダーとなるメスがいますが、リーダーは自分が抱けるだけの卵以外をくぼみの外に押し出し、押し出された卵は死んでしまいます。そしてリーダーは、どうやら自身が産んだ卵を押し出すのを避けているとのこと。
ダチョウと同じく大型の陸生の鳥類、ヘビクイワシ。背丈は1.2mから1.5mほどとなり、ワシのような体に、肉食の鳥類の中では最も長い足を組み合わせた独特な姿をしています。頭には羽ペンに似た冠羽、口には鉤型のくちばし、獲物を踏むための短くて頑丈な指を持っています。名前の通り、ヘビクイワシはヘビを捕食することで有名です。その狩りの方法は足で蹴ること。訓練された個体にゴム製のヘビを蹴らせ、隠した測定器でその威力を計測した研究によると、その一撃はヘビクイワシの体重のおよそ5倍の195N。足が触れている時間に至っては、わずか0.015秒ほど。毒ヘビを狩るために、ヘビクイワシは電光石火の一撃を極めていったと考えられています。
ハゲワシは幅広い翼で滑空する大型の猛禽類であり、多くの種類がサバンナに生息しています。名前の由来ともなっていますが、頭と首は羽が薄いか裸であることが多く、鉤型のくちばしと鋭い視力、そして強力な胃酸を持ちます。死肉を漁るハゲワシは、生態系に欠かせない掃除屋です。死後数時間で駆けつけ、死骸の実に7割ほどを片付けることで、病気の拡散を防いでいると考えられています。羽のない頭は、死骸の内部に頭を突っ込んでも汚れがこびりつきにくく、体温調節にも役立つ設計です。またハゲワシの仲間は飛翔能力にも優れていることが知られています。1973年には、コートジボワール上空の高度1万1300mで飛行機と衝突したという事件が発生しました。これは「最も高い高度で飛行した鳥」という項目でギネス世界記録にも認定されています。
モモイロペリカンは翼開長が3.4mにもなる大型の水鳥です。ペリカンの仲間の特徴でもある、くちばしの下の伸縮する喉袋。さらには短い足と水かき、そして桃色がかった顔に白い羽を持っています。モモイロペリカンは鳥類の中では珍しく、協力して漁を行うことが知られています。何羽ものペリカンが円を描くように魚の群れを閉じ込めます。時には浅瀬に誘導することもあるようです。しかしいざ魚を食べる段階となると、協力体制は一気に瓦解。ペリカン同士で魚を奪い合うことも珍しくはないようです。なんじゃそりゃ。
サバンナとは、主に熱帯に存在する、森でも砂漠でもない草原が広がっている自然環境を指します。定義にもよりますが、サバンナはアフリカ大陸の中部から南部に多く存在しており、地球全体で見ても陸地のおよそ2割を占めるとされています。
そんなサバンナですが、なぜサバンナは森にならないのでしょうか?その答えは雨の量だけでは説明がつきません。ある研究によると、年間の降水量が650mm以上だと草原に木が生い茂り、やがては森になってしまうはずです。しかし乾期に発生する火事や、ヌーなどの草食動物が木の芽を食べることにより、草原の姿を保っていると考えられています。逆に言えば、それらの影響がなければ、雨が多いサバンナは森と化してしまうような不安定な環境ということです。
そしてサバンナを潤す水をたどると、アフリカ最大の湖、ビクトリア湖にたどり着きます。熱帯の湖としては世界最大。淡水湖としても世界で2番目の広さ。しかしその広大さとは裏腹に、湖としての歴史は驚くほど浅いことが分かっています。なんとビクトリア湖はおよそ1万5000年前、一度は完全に干上がっていたと考えられています。今あなたたちが目にする湖は、そこに再び水が満ちてできた比較的新しい湖なのです。その広大な湖ではシクリッドと呼ばれる熱帯魚が繁栄し、多くの種類に分岐していきました。しかし20世紀になると、人間の手により次々と絶滅してしまいます。一説によると、1992年の時点で300種以上の固有種のうち、およそ200種がすでに絶滅したか、絶滅の危機に瀕しているとのこと。主な原因は、漁業のために導入された肉食魚のナイルパーチだと言われています。
ビクトリア湖から流れ出た水は、世界中で有名な川、ナイル川を形成します。ナイル川には2つの源流があります。ビクトリア湖に発する長い白ナイル、そしてエチオピアのタナ湖に発する青ナイル。ナイル川の特徴として、より短い青ナイルの方が、水の量も運ぶ肥沃な土の量も多いということです。毎年の氾濫が運ぶ黒い泥が、砂漠に文明を育てたと言っても過言ではありません。そしてこの大河の姿は20世紀に大きく変わりました。1970年に完成したアスワン・ハイ・ダムによる影響です。ダムは毎年の氾濫を制御し、安定した水と電力をもたらしました。しかしその代償として、肥沃な土をせき止めてしまったのです。ダムの完成後は、運ばれる土砂の98%以上がダム湖にとどまるようになりました。土の供給を断たれたナイルデルタは少しずつ沈み込み、地中海の波に削られて縮み始めています。人が大河を制御したことで、数千年続いてきた恵みの形もまた、静かに変わりつつあるのです。
ナイルワニは全長6mに達することもある大型の爬虫類。背中は骨質の板で装甲され、力強い尾を備えます。ワニの例に漏れず、噛む力は生物界でも最大級です。その獲物の大部分は魚となりますが、時にはヌー、シマウマ、そしてカバまで食べてしまいます。人間も例外ではなく、一説にはナイルワニに襲われ、年間最大200人の人が命を落としているとのこと。主に川沿いで洗濯している人が間違えて襲われているのではないかと考えられています。しかしナイルワニは、ただの獰猛なハンターというわけではありません。爬虫類には珍しく、ナイルワニは子育てが手厚いことで知られています。母親は巣を守り、孵化した子が出られるよう巣の上から土を取り除く。さらに孵化した子供を口にそっとくわえて水辺へ運ぶことも観察されています。
全長最大2mのナイルオオトカゲは、アフリカ最大のトカゲです。水中に適した体をしており、平たい尾を舵のように使って巧みに泳ぎ、10分以上も水に潜ることができます。獲物は魚や鳥はもちろんのこと、卵や肉も狙うことが特徴です。ナイルオオトカゲは卵や肉も食べることで、ナイル川の生態系のバランスを保つという重要な役割を担っています。つまりナイルオオトカゲの存在が、外来種や疫病の蔓延を防いでいるということです。またナイルオオトカゲの数が生態系全体の指標にもなります。例えばナイルオオトカゲの数が極端に減少すると、付近の環境破壊などが疑われます。またナイルオオトカゲは、シロアリの塚に卵を産みつけることでも知られています。シロアリの塚は温度や湿度が孵化に最適であり、ナイルオオトカゲの卵は6ヶ月から9ヶ月ほどそこで過ごすようです。
さて、これまで草原から水辺まで、サバンナの生き物を中心に紹介してきました。しかしこの土地に生きるのは野生動物だけではありません。サバンナには古くから人間も生息してきました。その中でも代表的な存在がマサイの人々。マサイ族はケニアとタンザニアにまたがる、牛とともに移動する半遊牧の民です。彼らは季節の雨を追って牧草地を巡り、草に回復の時間を与えながら、野生動物と長く共存してきました。国立公園の設立に伴う立ち退きなど、その歴史は平坦ではなく、土地を巡る問題は今も続いています。
それでも、人と草と川と無数の野生動物たち。この大地は、その全てが互いに影響し合い、支え合う1つの大きなつながりとして動いています。生命の輪とも称されるその雄大な大自然と、そこで起きている絶え間ない命の鼓動。地球という星はまだまだ目が離せません。
今回のバイエンスはここまで。またお会いしましょう。
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