鉄の「錆」で100時間蓄電を目指すOre Energy:冶金学の研究を電力インフラ事業にする道筋

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概要

FoundXの番組「FoundX Review Startup IdeaCast」は、海外スタートアップのアイデアをAIで整理・分析して紹介している。今回取り上げたのは、オランダ発の長期エネルギー貯蔵(LDES)スタートアップ、Ore Energyだ。番組冒頭では、情報はAIで整理しているため古い内容や誤りを含む可能性があり、事実を重視する場合は各自で一次情報を確認してほしいという断り書きが述べられた。

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解説役がこの企業を選んだ理由は二つある。番組でLDESをあまり扱ってこなかったこと。そして、鉄と空気という単純な材料で電池をつくり、再生可能エネルギーが抱える課題に正面から取り組んでいる点を面白いと感じたことだ。以下、番組での解説と、聞き手とのやり取りの順に内容を整理する。

全体像:鉄・水・空気で最長100時間の蓄電

番組の説明によれば、Ore Energyは鉄・水・空気を使い、鉄が錆びる反応を利用して最長100時間の電力貯蔵を目指している。目標として掲げるのは、再生可能エネルギーを制約なく使える世界だ。

なぜ今この事業なのか。解説役は欧州の事情を挙げた。風力発電が増えると、風のない日が数日続いたときに電力が足りなくなる。逆に強風が続くと電力が余り、出力抑制で捨てられる。この両方が起きており、社会問題になっているという。これに加えて、レアメタルを特定の国に頼る地政学リスクから抜け出すことも急務になっている。

解説役が面白いと見るのは二点だ。一つは、金属が錆びるという本来は弱点である現象を、蓄電という価値に反転させたこと。もう一つは、欧州域内で100%調達できることをあえて武器にしていることである。

聞き手は「100時間」という仕様の根拠を尋ねた。解説役によれば、100時間あれば天気の悪い日が2〜3日続いても街の電力をまかなえるという。そうなればバックアップ用の火力発電所を休止し、長期的には廃止することもできる。そのために必要な部品という位置づけだと説明した。

課題:リチウムイオン電池では埋めにくい「複数日ギャップ」

想定顧客は電力会社だけではない。AIの普及で電力消費が急増しているデータセンターも含まれる。

電池ならリチウムイオン電池を使えばよいという考えもありうる。しかし解説役によれば、リチウムイオン電池は数時間の蓄電なら費用対効果が高い一方、蓄電時間を延ばして容量を増やすほどコストが跳ね上がる。数日にわたる再生可能エネルギーの不足、いわゆる「マルチデイ・ギャップ」は、既存技術では埋めきれていない空白地帯になっているという。

聞き手がデータセンターも顧客なのかと確認すると、解説役は大手テック企業の目標を挙げた。大手テック企業は「24時間365日カーボンフリーの電力でAIを動かす」という厳しい目標を掲げており、国によってはそれを課すところもあるという。そのため、夜間や無風時にも再生可能エネルギー由来の電力を確保したいという需要がある。

解決策:鉄が錆び、また鉄に戻る

技術の仕組みについて、解説役は特許情報もAIに読み込ませたが、詳しいところは書かれていなかったと断ったうえで、全体像を説明した。放電時には鉄が錆びることで電子が出てくるので、それを電気として使う。充電時には錆から酸素を奪って鉄に戻す。

材料が単純なので、リチウムの約10分の1のコスト構造で構築できるという。最長100時間の充放電が可能で、発火リスクも低い。リチウムもコバルトも使わないため、欧州域内のサプライチェーンで完結できる。

番組が紹介したトラクションは二つある。フランスの最大級の電力会社の研究所で100時間の稼働に成功したこと。そして、オランダのエネルギー小売会社と1GWhの大規模契約を獲得したことだ。

聞き手は、コストが10分の1ならもっと早く普及していてもおかしくないのではと問いかけた。解説役の答えはこうだ。鉄空気電池には、充電時に水素が発生してエネルギーが逃げてしまうこと、錆びた鉄が元に戻りにくくなることという化学的な壁があり、それが実用化を難しくしてきた。創業者たちが取り組み、解決したのはまさにこの部分だという。

市場環境:欧州のエネルギー安全保障と制度づくり

市場の大きな流れとして解説役が挙げたのは、ロシア産ガスへの依存からの脱却と、中国の電池サプライチェーンからの自立である。市場規模は三段階で整理された。

  • 当面の獲得対象:欧州の先進的な電力会社とデータセンター
  • 対象となる市場:風力・太陽光の比率が高い欧州の電力系統
  • 最大の市場:世界の複数日にまたがる長期エネルギー貯蔵市場

さらに、イギリスやイタリアなどでは、長期蓄電に対する政府の補助金や容量市場のメカニズムが始まりつつあり、制度面でも市場がつくられようとしているという。

欧州でこうした技術が広がる背景について、解説役はガス価格の乱高下を挙げた。ガス価格の変動が経営を直撃するリスクを経験したことで、自国内の風力や太陽光で発電した電気を余さず使い切ることが経営上の課題になったという。

聞き手は、EUなら送電網を太くして国境を越えて電力を融通することもできるのではと質問した。解説役は、それも長期的には可能で、送電網の拡張自体は重要だと認めた。ただし計画から建設まで10〜20年かかり、住民の反対運動も起きやすい。これに対して蓄電池は数年で設置できるので、時間の面で優位があると説明した。

ビジネスモデル:40フィートコンテナ型のモジュール販売

Ore Energyの基本モデルは、モジュール化したコンテナ型バッテリーシステムの販売だ。製品は40フィートコンテナ型で、顧客は電力会社、再生可能エネルギー発電事業者、大規模データセンターである。

解説役が重視したのはコスト構造の違いだ。リチウムやレアメタルに依存する既存の電池は、量産しても素材原価が下限として残る。鉄・水・空気のようにありふれた材料なら素材原価をかなり低く抑えられるので、量産工場で製造コストを下げるほど粗利が良くなるポテンシャルがある。長時間帯の蓄電では、従来技術の10分の1の単位コストを実現できるというのが同社の特徴だという。

聞き手が「レゴブロックのようなものか」と尋ねると、解説役はその通りだと答えた。最近の番組ではコンテナ型をよく紹介していると前置きしつつ、40フィートコンテナを1モジュールとして並べることで、MWh級からGWh級まで顧客の需要に合わせて規模を拡大できる設計になっていると説明した。

聞き手はさらに、材料の原価がほぼゼロでも建設にはコストがかかるので、資金ショートのリスクはないのかと問うた。解説役は、そこはこの種のハードウェア系企業にとって大きな壁だと認めた。そのうえで、同社は工場を建てる前に1GWhという大口顧客の契約を獲得し、それをてこに金融機関から融資を引き出しやすい状態をつくっていると述べた。

戦略:「100%欧州完結」をコストではなく安全保障の論理で使う

同社は、2035年までに化石燃料によるバックアップ発電所を置き換え、鉄空気電池を標準インフラにするというビジョンを持っている。

解説役が注目したのは、調達と製造を100%欧州内で行うという方針だ。これはコストダウンのためだけではなく、エネルギー安全保障という物語にもなる。アジアのサプライチェーンに依存しないため、各国の補助金や政策の波に乗りやすいという利点もある。

聞き手は、他国の競合が中国産の安い部品で同様の製品をつくってきたら負けるのではないかと指摘した。解説役は、価格だけの勝負ならありうると認めた。そのうえで、ここで地政学的な要素が効いてくると説明した。インフラに関わる重要設備について、各国政府が域内での製造割合を調達要件に組み込む動きがあるという。そうなれば価格だけの競争にはならず、それが一種の参入障壁(モート)として働くのではないかという見立てだ。

ロードマップ:ラボから系統、そして量産へ

ロードマップについて、解説役は研究発のスタートアップによくある典型的なパターンだと評した。

  1. 技術実証:ラボで実証したあと、実際の電力網につないで機能実証を完了させる段階。現在はここにあたる。
  2. 量産体制の確立:工場での量産体制を整え、2028年に最初の大型納入(400MWh)を実現する。
  3. 拡張と標準化:欧州全域の電力会社やデータセンターへ展開する。

ラボからいきなり工場に進むのではない。科学的に証明し、実際の電力網で耐久試験をしてから工場建設に移る。こうして一段ずつ不確実性を潰していく王道のステップだという。

聞き手は、ラボと実際の系統接続では何が違うのかを尋ねた。解説役によれば、最大の違いは屋外の厳しい環境にさらされることだ。天候によって異常が起きないか、電力網の電圧変動に耐えられるか、系統接続の規制をクリアできるか。実験室では再現できない、現実の「ノイズ」に耐えられることを証明する過程になるという。同社はオランダの実証フィールド「The Green Village」を活用し、産官学連携で系統連系テストをスピード感をもって実施したとされ、解説役はこれをリソースをうまく活用した例として挙げた。

競合:Form Energy、そして下がり続けるリチウムイオン電池

同社の領域は、長時間・低コスト・豊富な素材という組み合わせだ。米国には評価額が20億ドルを超える先行企業Form Energyがある。解説役によれば、Ore Energyはあえて欧州に集中することで、地政学的なモートに特化しているという。

技術面のモートは冶金学の特許だ。解説役が自身でも調べたところ、鉄空気電池の課題を解決するため、従来は液体(電解液)に添加物を混ぜる方法が取られてきた。これに対して同社は、添加剤に頼らず、鉄そのものの微細構造を制御して効率を上げる技術を使っているという。

聞き手は、撮影の少し前にForm Energyが7億5000万ドル(750ミリオン)程度の追加資金調達を発表していたことに触れた。そのうえで、リチウムイオン電池の価格が本当に下がるとLDESは厳しくなるという話も聞くがどうか、と尋ねた。解説役は、リチウムイオン電池の価格は下がってきており、大きな脅威だと認めた。100時間のような長時間領域なら鉄の原価の安さでまだ勝負できると踏んでいるものの、実際にどうなるかは難しいポイントだとして、明確な結論は示さなかった。

市場参入:助成金と共同実証で最初の信頼をつくる

ハードウェア企業にとって、最初のトラクションをどうつくるかは難所だ。解説役によれば、Ore Energyは欧州のイノベーション資金を使ってこれを乗り越えた。

初期のターゲットは欧州の電力会社と研究機関だ。課題として狙ったのは、変動の大きい再生可能エネルギーに伴う送電網の混雑と、複数日にわたる無風状態でガス発電に頼らざるを得ない状況である。MVPとしては40フィートコンテナサイズの充放電式プロトタイプを提供し、100時間の充放電ができるかどうかの検証に特化したという。欧州の助成金を活用した共同実証を通じて信頼を獲得し、実環境でサイクル運転に成功したあと、1GWh級の商業契約を締結した。お墨付きと実証データをもとに契約を勝ち取るという王道の進め方だと解説役は評した。

聞き手は、40フィートコンテナでMVPを実証したメリットを尋ねた。解説役がまず挙げたのは、巨大な工場を建てずに済み、そのリスクを避けられたことだ。40フィートコンテナは大きいので、もっと小さくできなかったのかとも思うと解説役は率直に述べた。ただ、小さなモジュールという単位で熱管理やソフトウェア制御のバグを洗い出せる。モジュールが完成すれば、あとは数を増やして並べるだけという別の勝負に切り替えられる。それがメリットだったのではないかという見方だ。

起業の経緯:デルフト工科大学の腐食研究から

CEOはトルコ出身の人物で、デルフト工科大学で金属の腐食、つまり錆を研究していたという。本来、錆は望ましくない状態で防ぐべきものだ。それを逆手に取って蓄電の仕組みとして使ったことが、事業の原点になっている。

チームは腐食科学の専門家だけでなく、ビジネスやオペレーションの人材を最初から加えていたという。初期には助成金を活用し、ラボ環境で鉄空気電池の化学反応や材料科学を検証した。

聞き手は、以前の回でもデルフトの名前が出たことに触れ、よく名前を聞く大学だと述べた。解説役によれば、欧州でも有数の工科大学で、インキュベーション施設や事業化支援プログラム、スピンオフ支援があり、同社もそれらを活用したのではないかという。ただし、同様の仕組みは日本にもあるので、何が違うのだろうという疑問も口にしており、答えは出していない。

技術的な壁:水素発生を「鉄の構造」で解く

開発で直面した壁についても、解説役は改めて説明した。鉄空気電池には、充電時に水素が発生してエネルギー効率と寿命が落ちるという課題が昔からあった。多くの研究者は電解液に添加剤を入れることで対処しようとしてきた。Ore Energyはそのアプローチを捨て、焼き入れなどによって鉄そのものの微細な構造を変える冶金学的なアプローチを取った。解説役は、これが根本的な解決を図る大きなブレークスルーになっていると紹介した。

聞き手が添加剤による方法の限界を尋ねると、解説役は次のように答えた。添加剤は充放電を繰り返すうちに劣化・消耗してしまう。インフラには10年、20年使える長寿命が求められるため、添加剤では対応しきれないという。

資金調達と量産工場への移行

資金調達も王道の流れだという。初期は欧州イノベーション会議(EIC)などのグラントで研究段階のリスクを吸収した。その後、2025年に2000万ドルのシード資金を、2026年に4300万ドルのシリーズAを調達し、累計は6100万ドルを突破したと解説役は述べた。今後はこの資金で量産拠点を建設し、受注残である1GWhを納入していくフェーズに入る予定だという。

聞き手は、4300万ドル(約60億円)が工場建設に対してどの程度の規模なのかを尋ねた。解説役の見立てでは、本格的な量産には足りないが、工場を立ち上げる初期の検証ラインには足りると見込まれているようだという。今後は顧客からの前受金や、プロジェクトファイナンスを組み合わせていくのではないかと予想した。

日本で展開するなら:出力抑制、離島、データセンター、鉄鋼業

番組では、日本で展開する場合の事業機会も検討した。AIによる整理では、次のような場所がターゲットになりうるという。九州など太陽光の出力抑制が激しい地域。ディーゼル発電に頼る離島。オフグリッドで運用したい環境。また、データセンターに直接併設し、再生可能エネルギー100%のAI拠点を誘致するという案も挙がった。

日本の勝ち筋としてAIが挙げたのは、鉄鋼・冶金産業との連携だ。日本製鉄やJFEのように冶金のノウハウを持つ企業と組めば、後発でも性能で世界をリードできるポテンシャルがあるのではないかという。

聞き手は、日本は国土が狭いとよく言われるが、コンテナ型バッテリーを置く場所はあるのかと問うた。解説役は、40フィートコンテナはかなり大きく、リチウムイオン電池よりも面積を取るので、都市部は難しいだろうと答えた。候補として挙げたのは、耕作放棄地をまとめた土地、閉鎖されたゴルフ場、火力発電所の跡地といった大きな土地だ。ただし、どこまで置けるか、再生可能エネルギー側のニーズがどこまであるかは不確かだとしている。

まとめ:錆・地政学・基礎研究を事業価値に変える

解説役は、Ore Energyの面白さを三点に整理した。

一つ目は、嫌われものの腐食を蓄電へと逆転させたこと。二つ目は、制約を競争力に変えたこと。リチウムを持たないという地政学的な弱点を、鉄を使うことで「100%欧州で完結する」というモートに変えた。三つ目は、基礎研究のビジネス化だ。冶金学は非常にレガシーな学問だというが、そこでのブレークスルーが最新の電力インフラにおける強力なモートになり、大きなインフラ事業を生み出しうる。

アイデアを考えるヒントとして解説役が示したのは、最先端のITだけでなく、自国に眠る既存の素材産業や基礎研究、レガシー技術と、現代の大きなペイン(課題)との接点を探ってみると面白いのではないか、という視点だった。

最後に聞き手は、Form Energyが先行するなかで「まだ追いつける」と考えて取り組んでいることに、勇気づけられる感じがすると感想を述べた。解説役はこれに応じて、同社は正面からの勝負を避けているだけでなく、技術的な違いをつくり、それを知財でも守ろうとしている点が面白いと語った。後発でもまだやれることはあるのではないか、という言葉で番組は締めくくられた。