製造業のM&Aで何が起きているのか セイワホールディングス野見山社長が語る仲介の仕組みと「資金抜き取り」の手口

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概要

後継者不足を理由に、製造業でも会社の売却や買収が増えている。ものづくり太郎チャンネルは、M&Aを毎月のように手がけるセイワホールディングスの野見山勇大社長と対談した。テーマは、売り手と買い手がそれぞれ騙されないためにM&Aの「作法」をどう理解すればよいかである。野見山社長は、仲介業界が玉石混交になっていると指摘する。そのうえで、初めてのM&Aでは大手を選ぶ方が安全だと述べ、売り手のオーナーが資金を抜き取られる悪質な事例についても具体的に説明した。

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20社を買収したセイワホールディングス

セイワホールディングスは名古屋で上場した企業で、野見山社長によればグロース市場では約2年ぶりの上場だった。事業の柱は中小企業のM&Aで、これまでに約20社をグループに迎えている。ものづくり太郎は、買収後の利益が平均で倍になっていると紹介し、書店に並ぶM&A本の著者より実績がある本物だと持ち上げた。

ものづくり太郎自身も会社のオーナーであり、M&A仲介会社から「御社に興味を持っている企業がいます」という連絡がひっきりなしに来るという。ただし相手の企業名を尋ねても具体的な答えは返ってこない。こうした業界には失敗例も多いはずだという問題意識から、今回の対談を企画したと説明している。

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3000社を超える仲介会社と報酬の仕組み

野見山社長によると、日本では案件の大半を仲介会社が扱っており、M&Aを専業とする登録会社は3000社を超えたとされる。以前は存在しなかった業態に多くの人が参入したため、質にばらつきが出ている。

仲介会社は、売り手と買い手をマッチングし、成約すれば双方から手数料を受け取る。案件の掘り起こしには、後継者不足に悩む会社への電話、ダイレクトメッセージ、セミナーへの招待、ウェブ広告などを使う。問い合わせがあれば面談し、M&Aを進めることになれば、手元の買い手候補リストと照らし合わせて一社ずつ提案していく。ものづくり太郎はこれを「ドブ板営業」と表現した。

会計士や金融機関のネットワークも強い案件ルートだという。会計士は顧問先の決算を見ているため、売却を考えそうな会社が分かる。月10万円程度の顧問料を得ていても、顧問先がなくなれば収入を失う。一方で紹介した案件が成約し、手数料が2000万円だった場合、紹介者には20〜30%、つまり400万〜600万円が入ると野見山社長は説明した。

日本の仲介会社は最低報酬を2000万円前後に設定していることが多く、売り手と買い手の双方から受け取れば合計4000万円規模になる。報酬の目安は株価の5%程度で、株価5億円なら2500万円、10億円なら5000万円になる。規模が10億円、20億円と大きくなるにつれて料率は4%、3%と下がる「レーマン方式」がとられる。野見山社長は、仲介会社が5億円程度を基準に置き、その5%や4%にあたる額を最低報酬にしたのではないかと推測している。

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企業価値はどう決まるか

企業価値の算定方法は複数あるが、主なものは2つだと野見山社長は言う。1つ目は純資産をもとにする方法で、土地・建物や有価証券を時価で洗い替えて評価する。2つ目は利益をもとにする方法で、M&Aでは利益の3〜7倍程度の価格がつくことが多いという。利益が1億円なら3億〜7億円となり、5億円程度がついてもおかしくない。売上10億円規模の製造業なら5億円程度の評価になる可能性もあると話した。

ものづくり太郎は、自分がM&Aを検討した時の経験を語った。工場を見に行くと、多くが赤字で1億円ほどの借金を抱えているのに、企業価値は4000万円だと言われた。なぜそこまで強気なのかという問いに、野見山社長はいくつかの理由を挙げた。売り手は受け取った代金から仲介手数料を払う必要がある。また、退職金をもらえない代わりに1000万〜2000万円は手元に残したいと考える。そのため、会計上は1円の価値しかない会社でも、4000万〜5000万円を希望するケースは多いかもしれないという。

セイワが買う会社、買う理由

セイワホールディングスが買収する会社は、営業利益がきちんと出ている会社が多い。ただし赤字企業を買うこともある。昨年は2700万円の赤字を出していた会社を譲り受け、今年も1件あった。

判断の根拠は、黒字化できる見込みがあるかどうかだ。現場で工程の流れや人の生産性を見て、改善の余地を探る。グループには似た業種の会社が多いため、材料費率や外注比率を比べ、どこを内製に取り込めるか、どこを下げられるかを検討する。そのうえで財務モデルを組み、見込みを判断する。野見山社長は、他社は手を出したがらないが自社のプラットフォームなら伸ばせる、自分たちにしかできないM&Aをしたいと語った。それが日本のためになると考えているからだという。

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仲介会社の選び方と売却の流れ

仲介会社の選び方について、野見山社長は、若く経験の浅い担当者が増えているため基本的には大手を選ぶ方が安全だと答えた。ただし大手でも担当者によって力量の差は大きい。M&Aには金融知識、法律知識、業界知識が欠かせない。製造業を理解していなければ、そもそも進めるべき案件かどうかも判断できない。契約関係も複雑で、多くの案件を経験していなければ適切な助言は難しいという。

売り手側の流れはこうだ。まず仲介会社と仲介契約を結ぶ。マッチングが進むと、関心を持つ3〜5社の買い手と面談する。気に入った相手からは「3億円」「4億円」といった提案書が出る。たとえば5社と面談して2社が4億円と3億円を提示した場合、どちらを選ぶかは売り手が決める。

高い方が選ばれるとは限らない。1円でも高く売りたいオーナーなら4億円を選ぶ。しかし日本では会社を家族のように大事にするオーナーが多く、会社がより発展しそうな3億円の相手を選ぶこともよくあるという。従業員は買収後も同じ職場で働き続けるため、オーナーが彼らのことを考えるケースも多いと野見山社長は述べた。

新興の仲介会社については、初めてのM&Aではあまり選ばない方がよいという考えだ。担当者の良し悪しを見極められるうちはよいが、そうでなければ質を担保できない。大手には教育カリキュラムやチェックリストが整っている会社が多いからだ。ただし、新興を選ぶのがダメだとまでは言わないと付け加えた。

安く買うための交渉と「アーンアウト」

買い手が安く買うにはどうすればよいかという質問に、野見山社長は、オーナーが求めるものは価格だけではないと答えた。健康上の理由などで3カ月後には退きたい人もいれば、人材を派遣してほしい人もいる。相手の優先順位に合わせて何を提供できるかによって、価格差があっても納得してもらえる可能性がある。たとえば従業員の給与を10%上げると約束すれば、その費用負担は将来にわたって続く。単に安く買ったのではなく、互いに納得できる取引になるという。

価格の折り合いがつかない場合の手法として、アーンアウトも紹介された。買い手が10億円と見て、売り手が27億円だと主張するのはよくある話で、情報の非対称性は双方にある。そこでいったん10億円で買い、3年後に売り手の言っていた業績が達成されたら残りの17億円を支払う、という契約を結ぶことができる。

こうした手法をすべて理解していなければならないため、仲介の仕事は難しい。それでも稼げる業界であるため参入者が多く、優秀な人も残念な人もいる。報酬体系も成約へのインセンティブが強く、たとえば基本給400万円に1件成約ごとに1000万円といった形になる。ものづくり太郎は、落としどころを何通り提示できるかが仲介者の腕だとまとめ、野見山社長も同意した。

経営者保証とその外し方

M&Aの失敗がニュースになる理由について、野見山社長はまず売り手の情報不足を挙げた。ほとんどの売り手にとってM&Aは初めてで、実績のある担当者を信じるしかない。その担当者が適切に動けば問題は起きないが、そうでないことが少なくない。

問題になりやすい論点の一つが経営者保証だ。会社の信用が十分でない段階で銀行から借りると、社長個人が保証人になることが多い。話は少し脱線するが、野見山社長によると、現在は国のガイドラインで経営者保証を外す方向が確定している。経営者のリスクが大きすぎると事業が成長しない、という考え方によるものだ。数年間しっかり黒字で、借入金を10年程度で返済できる水準なら、ガイドラインに沿って保証なしを求められるという。付き合いのある銀行が1行だけだと難しいかもしれない。しかし、たとえば3000万円の借入について他の金融機関に借り換えを相談し、「個人保証は入れたくない」と前提を示して交渉すれば、外しやすくなると説明した。

M&Aでは経営権が移るため、売り手の保証を買い手に付け替えるか外すかを必ず取り決める。この条項は必須だという。オーナー社長の側にも、保証から逃れたいから売りたいという動機がある。

資金を抜いて姿を消す手口

悪質な買い手は、この経営者保証を外すと約束する。そのうえで買収後、グループ方針として「資金に余裕を持っておいた方が安心だから、あと4000万円借りよう」と子会社に指示する。借入金1億円、現金3000万円の会社なら、現金は7000万円に増える。次に「とりあえず6500万円を送金してくれ、困ったら返す」と親会社に資金を移させる。

野見山社長によると、大手でも子会社に現金を残さない運用は実際にある。持ち逃げを防ぐというガバナンス上の理由もあり、表向きは筋が通って見える。ただし、追加で借りる必要はそもそもない。最初は給料日に300万円を貸してくれと頼めば戻してくれる。しかし半年後に賞与資金として500万円を求めると、今は持ち合わせがないから立て替えておいてくれと言われ、8月にまとめて返すと先延ばしにされる。最終的には姿を消してしまう。

最も有名な例として野見山社長が挙げたのが、ルシアンホールディングスだ。同社は37社を買収し、同じ手口で資金だけを抜いて逃げたという。製造業でも起きたのかというものづくり太郎の問いに、野見山社長は「微妙なんですけど」と前置きしたうえで、ダイヤモンド・オンラインの記事で製造業の事例が報じられていると紹介した。ものづくり太郎は、製造業は大手との取引で秘密保持契約や反社会的勢力の排除条項が必ず入るほどガバナンスの厳しい世界なのに、それでも見抜けなかったことに驚いていた。

37社も買収していれば、仲介会社は同じ買い手と何度も関わっていたはずだ。記事でも、仲介業者は分かっていて紹介したのではないかという疑いが取り上げられている。一方で仲介会社は契約上、成約後のことは当事者間の問題で関知しないという立場をとる。この点も大きな問題になった。現在、大手の仲介会社はこの論点を必ず確認項目に入れているという。事件が起きれば社会的責任を問われ、上場企業として株価が暴落するからだ。野見山社長は、分からないときは大手がよいという理由の一つにこの点を挙げた。

なぜ売り手は騙されるのか

売り手が騙される理由について、野見山社長はまず、耳当たりのよい言葉をかけられることを挙げた。M&Aの経験が何十件もあり、この会社は素晴らしいから一緒に目指そう、と言われるのだという。被害は、株価がとても低く評価されている会社で起きている。借金7000万円に対して現金3000万円しかない赤字の会社は、1円で株式を100%売却するような状況になる。再生の見込みもなく赤字を垂れ流しているなら、1円で引き受けてくれる相手が現れれば頼みたくなる。そこで現金3000万円を抜かれ、あるいは2000万円を借り増しさせられて5000万円を抜かれる。しかも経営者保証はそのまま残る。

こうした事態が起きた背景として、野見山社長は、仲介会社が買い手をしっかり審査する慣行がこれまであまりなかったと指摘した。買ってくれればよいという発想だったのだ。上場企業であれば財務は開示されていて、どれだけ資金があり潰れそうかどうかも分かる。しかし非上場の買い手は調べる余地が乏しい。帝国データバンクや東京商工リサーチで与信調査をする会社もあるが、ほとんどは実施していないと野見山社長は見る。ものづくり太郎は、帝国データバンクの情報もヒアリングに基づくため誤っていることがあると付け加えた。

状況は変わりつつある。大手の仲介会社では、買い手の決算書を必ず確認するといった手順が組まれるようになった。セイワホールディングスが新たな会社を検討する際にも、過去の案件で個人保証がどう扱われたかを確認される流れになっているという。それでも野見山社長は、詐欺師はいなくならないと話す。売り手のオーナーが不幸になり、従業員は働く場所を失う。ある動画では、買収された介護施設が3カ月後に閉鎖された事例が紹介されていた。近くに通える施設がほかになく、その料金なら払えるという利用者にとって、居場所が丸ごと失われる。資金を抜かれた会社には再建の余地がなく、破産するしかないと二人は述べた。

野見山社長の付き合い方と今後の見通し

野見山社長自身は、大手の仲介会社、法人や金融関係のルート、最近できた新しい仲介会社とも取引している。毎月のように買収を進めながら、自ら現場を見て財務も確認しているという。

今後について野見山社長は、事業承継ができずに売却される会社は増えるだろうと予想する。だからこそ信頼できる相手に相談できるかが大事だという。仲介会社はあくまで成約して報酬を得る仕事であり、職業倫理をいくら掲げても不適切な人が紛れ込むことは避けられない。信用がますます重要になる仕事だというのが野見山社長の見方だ。ものづくり太郎が「大手が勝つ」と言うと、野見山社長は同意しつつも補足した。大手から独立した人たちが5〜10人程度で運営する、中堅の優れたプロフェッショナルチームも意外と生き残るだろうという。

セイワホールディングスのグループには、めっき、表面処理、溶接の会社があり、祖業は高速道路の看板の溶接だった。最近は高速道路に設置する安全ポールのメーカーもグループに加わったとリリースしている。野見山社長は、ものづくりで光るものを持ちながら事業承継に悩む会社があれば積極的に検討すると話し、相談を受け付けると述べた。

業界団体という提案

終盤、ものづくり太郎は、製造業のM&Aを多く手がける企業による中立な業界団体を作ってはどうかと提案した。仲介会社の業界団体はすでにある。野見山社長は、上場企業としての立場からも、業界のガバナンスを整備し働きかける団体を作ってもよいかもしれないと応じた。ただし具体的な計画は示されなかった。対談は、不幸な事例を一つでも減らすよう働きかけていく必要があるという認識と、製造業のM&Aは今後増えるので十分に気をつけてほしいという呼びかけで締めくくられた。