フィジカルAIブームで産業用ロボットはどう変わるか:ラストワンインチ、ROIの壁、中国勢の追い上げ

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概要

ものづくり太郎は、フィジカルAIが流行語になるなかで産業用ロボット(産ロボ)がこれからどうなるのか、どのメーカーが優位に立つのかを論じている。話者の立場ははっきりしている。フィジカルAIは産ロボの適用範囲を広げる可能性がある。ただし、サイクルタイムとコストの壁は高い。そして日本の産ロボメーカーにとって本当の脅威は、低価格帯から伸びてくる中国メーカーだという。動画の中盤では、提供元であるブリヂストンのソフトロボットハンド「TETOTE」も紹介された。

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世界4強とフィジカルAIへの各社の動き

話者はまず、産業用ロボットの世界4強として安川電機、ファナック、美的集団に買収されたKUKA、ソフトバンクが買収したABBを挙げる。これとは別に「日本4強」を独自に定義している。ファナック、川崎重工、ソフトバンクによる買収で日本企業になったABB、安川電機の4社である。

フィジカルAIについて、話者はNVIDIAが中心にいると見ている。NVIDIAはFoxconn、ABBロボティクス、メルセデス・ベンツ、BYD、日産、現代、Uber、シーメンス、ダッソーなど各国の企業と協業している。人型ロボットでも中国・韓国・米国・日本の企業と組んでいる。フィジカルAIを作るプラットフォームの裏には常にNVIDIAがいるため、フィジカルAIが流行るほどNVIDIAが儲かる構図になっている、というのが話者の整理である。ジェンスン・フアンの来日時には日本の電子部品・半導体関連企業のトップが居酒屋に集まり、その店では「ジェンスン・フアンパッケージ」が売られるほど話題になった、という余談もあった。

ファナックについては、以前は閉じた企業という印象だったが「オープン」を掲げる戦略に転じた、と話者は述べる。NVIDIAとの協業を打ち出し、GoogleやNVIDIAとの提携をほぼ毎月のように発表しているという。話者が展示会で撮影した例では、Geminiを使ったGoogleとの協業があった。インターフェースに指示を出すと、ロボットが物を掴んで持ってくるといった柔軟な動作ができる。ほかにも、話者の記憶では予知保全に関するAWSとの取り組みや、NVIDIAのロボット訓練環境「Isaac Sim」を使った仮想空間でのトレーニングも発表されている。話者はこの状況を、ファナックが「フィジカルAIと言えばうちだ」と言わんばかりに力を入れている、と表現した。

産ロボと人型ロボットは用途がまったく違う

では、フィジカルAIで産ロボはどこまで活用できるのか。話者によれば、これまで産ロボの市場は自動車メーカーやTier1あたりまでだった。フィジカルAIによって投資対効果(ROI)の壁を突破できれば、市場が広がる可能性がある。

フィジカルAIには人型と産ロボ系の二つがある。話者は両者を明確に分けて考えるべきだと強調する。産ロボは高速・高精度で、大量生産に圧倒的に向く。人より速く、位置精度も繰り返し精度も出る。メンテナンスも年1回程度で動き続ける。量産は産ロボの土俵であり、フィジカルAIによってその守備範囲がさらに広がる可能性がある、というのが話者の見方だ。

人型ロボットは非常に汎用的で、一部の人間の作業を代替することを狙っている。しかし、どの産業から適用するかが決まっておらず、産ロボの代わりにはなりえないと話者は述べる。将来、人間を超えるような人型ロボットが出てきて柔軟に対応できるようになれば、産ロボの代わりになるかもしれない。ただ、それはまだずっと先の話であり、現状では両者の使いどころはほとんど違う、と話者は念を押した。

サイクルタイムの壁

適用範囲が広がったとしても、次にサイクルタイムの壁がある。AIでロボットを動かせるようになっても、動作が遅くて目標のタクトタイムに届かなければ、スループットの面で導入する意味がない。話者は、「黄色いものを持ってきて」といった指示をAIがその場で判断してこなす動画を例に挙げた。そうしたことができるようになっても、タクトタイムに合わない可能性はまだ十分にあると指摘している。

「タスクAI」が難しい理由

話者は、フィジカルAIと呼ばれているもののほとんどは「タスクAI」だと説明する。AIが自分で考えて処理していくものである。従来の産ロボは、動きを教え込み(ティーチング)、決められた動作を繰り返す。タスクAIは、どんなワークが来るか、どんな環境かが毎回違う状況に対応しなければならない。

例として話者は、Apple製の変換アダプターを取り上げた。人間はこれを簡単に掴めるが、それ自体がすごいことだという。アダプターが手の上にあるのか机の上にあるのかでXYZの位置はまったく違う。下にある物の材質も違う。垂直に立っているのか、バラ積みされているのかでも掴み方が変わる。「ベアリングを取って」「シリンダーを取って」と言われたときに、状況に応じてその都度動作を適応させるのが非常に難しい。この適応動作を指して、タスクAIと呼んでいる。

一方、Unitreeの人型ロボットが踊っている映像はすごく見える。しかし話者によれば、あれは教え込んだ動作を再生しているだけである。

データがないことと、VLMからVLAへの壁

タスクAIが難しい根本的な理由として、話者はデータの不足を挙げる。ChatGPT、Claude、Geminiなどの大規模言語モデルは、世界中のWeb上の文字情報を吸い上げて構築された。これに対して、物理的な作業には学習の元になる情報がない。

話者はこれを二段階で説明する。まずビジョン・ランゲージ・モデル(VLM)で、「これはApple製の変換アダプターだ」と動画や画像から認識する段階である。ここは進んできている。例としてNVIDIAの「VSS」が挙げられた。これまで理解できなかった動画を要約できるようになり、サーバーラックの組み立て工程のような作業を動画から認識できるようになりつつある。

難しいのはその先で、実際にロボットを動かすビジョン・ランゲージ・アクション・モデル(VLA)である。板金の曲げ加工を例にすれば、図面データを読み込み、金属をどう挿入するかといったアクションにつなげなければならない。状況に応じて人と同じように金属を掴んで処理させる技術はまったく確立されていない、と話者は言う。ここが今後の競争領域になる。つまり、フィジカルの世界でChatGPTのようなモデルを作り出す競争が起きているというのが話者の見立てだ。

話者はこれを「ラストワンインチ」の問題として整理した。ワークの位置までは既存の制御で行けても、最後にどう掴むかというワンアクションをどう構築するかが非常に重要になる。新しい開発が次々と出てきて、競争は激化すると見ている。工場のラインで使えるようになるのは、まだだいぶ先の話だという。

ROIの壁と「1タスク300万円」

話者が最大の課題と考えるのは、冒頭のROIの壁を越えられるかどうかである。既存の産ロボや協働ロボットにAIやAIエージェント、ビジョンを載せたとしても、既存の人より安く、タクトタイム内に収まらなければ導入されない。

しかも産ロボは、そもそも超量産工程にはすでに大量に入っている。仮にラストワンインチを考えられるロボットが出てきても、それが入るべき汎用的な作業がどれほどあるのか、と話者は問う。AIが載る分、価格も高くなる。パレタイジングのような作業では、既存のソリューションがすでに複雑なケースに対応し始めている。

そのほかの領域で、産ロボや協働ロボットに柔軟なハンドとタスクAIを組み合わせる場合、既存の価格と大差ない水準で実現する必要がある。話者の目安は、3直分の人件費と比べて人より安くすることで、1タスクあたり300万円程度で実現しないと難しいだろうという。最終的には汎用的なタスクAIや製造業特化型のものが出てきてこの世界は広がっていくと話者は予想する。同時に、既存の産ロボの側でも進化が起きていると述べ、話はハンドの紹介へ移る。

既存の産ロボ向けソフトハンド「TETOTE」

動画中盤は、ブリヂストン ソフトロボティクス ベンチャーズの提供によるロボットハンド「TETOTE」の紹介である。話者はまず課題を示す。日本の既存生産ラインにはスペースの制約があり、安全柵を設けてロボット用のスペースを新たに作ることが難しい。さらに、さまざまなワークや作業に対応するにはハンドをいちいち交換しなければならない。TETOTEはこれを一つのハンドで解決する、というのが紹介の趣旨だ。

動画で示されたモデルは4種類である。

  • スタンダードモデル:可搬重量約3kg、ハンドサイズ約160mm
  • スリムモデル:ハンド重量500g、サイズ100mm角程度
  • ストロングモデル6:可搬重量6kg、サイズ約160mm
  • ストロングモデル12:可搬重量12kg。アルミダイカストなど持ちにくいワークにも対応

特徴として挙げられたのは、非常に柔らかくワークを傷つけないことだ。空気圧で動作し、給気すると閉じ、排気すると開く。話者は実機で自分の手を掴ませ、痛くないことを示した。カプラーで接続するだけで簡単に付け替えられ、軽量である点も実演している。紹介された用途は、ちょっとした物を掴む、狭い隙間に入り込む、紙や部品箱をピックする、箱を寄せるといった作業だ。小物から12kgまで、ハンドを交換せずに扱えるという。

発想の元はブリヂストンのゴムの技術である。話者は、空気を入れると伸縮するゴムチューブを見せ、ふにゃふにゃのチューブに空気を入れると強い力が出ることを実演した。このチューブからヒントを得て作られたため、軽量なのに把持力が高い、と話者は説明している。

展示会での説明:自動車産業のどのワークに向くか

話者はロボット展のブリヂストンのブースで、TETOTEの責任者に各サイズの対象顧客を尋ねた。最大のモデルは15kg近くまで持てるとされ、エンジンを扱う自動車メーカーや部品メーカー向けだという。形状の違うワークにもフィットするので、一つのハンドで対応できると説明された。次のモデルはドアパネルのように薄くて長く大きい物向け。小型のモデルはコネクターのような小物向けで、アイシン、東海理化、デンソーといった企業が例に挙がった。小型ながら3kgまで持てるモデルは、バランスが良いと紹介された。

カバーの材質は変更でき、シリコンのカバーや耐油性のカバーも使える。エッジが鋭い部品やバリのある部品でも切れないという。耐久性をよく聞かれるが、外側のカバーを交換すれば使い続けられる、と責任者は答えた。話者はこれを受けて、アルミダイカスト、シート関連部品、スイッチ部品、トランスミッションやエンジン関連部品、インパネなど、傷が気になる自動車部品の用途を挙げ、特にトヨタグループや愛知県刈谷地方の企業に呼びかけた。

中国メーカーの急成長

動画の後半で、話者は今後の日本の産ロボの展望に移る。日本の産ロボメーカーが備えるべき相手は中国だという。話者が示したデータでは、Estunがついにファナックを抜いた。EstunのCAGR(年平均成長率)は19%で、別のメーカーは33%、Inovanceも伸びている。Efortはやや伏線状態とのことだが、55.8%伸びた企業もあるという。中国勢を抜きには産ロボを語れない水準になっている、と話者は述べる。

背景として話者が挙げるのは中国市場の大きさである。世界の産業用ロボット市場で最大なのは中国で、日本の市場は世界で2〜3番目でありながら、中国と比べると圧倒的に小さい。中国メーカーは巨大な国内市場で量産効果を得られる。中国は2015年に策定した国家戦略「中国製造2025」の重点10分野にロボットを含めた。2040年には労働人口が1億5400万人不足するとも言われる。話者は、中国にとってロボット産業の育成は国の生命線になるだろうと見ている。中国の導入台数は年間30万台で、2030年には60万台と言われているという。

中国での営業の実態として、話者は中国人から聞いた話を紹介した。「労働者はサボるが、弊社のロボットは文句を言わず、サボらず、24時間働く」という売り方をしており、安全面でもロボットの方が良いとして置き換えが進んでいる。ロボットを国の中核に据えているため、共産党の役人に対して導入実績を見せる体裁としても産ロボが売れている、という事情も話者は挙げた。

日本が負けるいつものパターン

話者は、日本が負けるパターンはいつも同じで、低価格製品を出せずに下から突き上げられることだと言う。日本企業は欧米を向いてビジネスをしている。例えばアメリカの自動車販売価格は700万円程度で、日本の倍ほどになる。高価格・高品質の市場に特化してきたため、あえて廉価版を作ることができない、と話者は評する。

例として話者は、デジカメとガラケーを挙げた。ハイスペック化を進め、ガラケーに800万画素のカメラを載せるような磨き込みを続けたが、スマートフォンという破壊的イノベーションについていけず市場が壊滅した。日本は既存製品の磨き込みやティーチングレス化のような高付加価値化に長けている。しかし、低スペックでもまあまあの製品が出てきて駆逐される同じことが産ロボでも起きないか、と話者は問う。命題は、中国に合わせたスペックを作り込めるかどうかだという。

フィジカルAIに対応して高付加価値化を進め、タスクAIを実装したとしても、既存の産ロボの導入費用より安くなければ使われない。だから下に向けて対応するのか、本当に高付加価値の領域でやっていけるのかという問いが重要になる、と話者は述べる。

現地で見た「In China for China」と川崎の廉価版

話者がこう考える理由は、中国の無錫や上海のR&Dセンターを訪れた経験にある。ある企業では、中国市場向けの製品を中国人が開発し中国で展開する「In China for China」が加速しており、現地で行うスピードが重要だと語られていた。別の企業は「China for Global」を掲げていた。中国でスペックインした製品は、スペックコントロールが最適化されているのでグローバルでも売れる、という考え方だという。

話者は川崎重工も訪問しており、川崎は廉価版を投入して対抗していたと紹介する。3割程度価格を抑えた、まあまあの性能の製品を出しているという。話者によれば、無駄なスペックは確かに存在する。米国市場で求められる位置精度や、意図した軌跡を正確に通る制御のような性能は、中国向けにはあまり必要ないことがある。中国市場に合わせた製品を戦略的に出していくということだ。

産ロボ市場で日本メーカーは約半分を占めているが、中国メーカーは国内市場の強みを生かして猛追してくる。ファナック、エプソン、安川電機には対中国戦略が必ず必要になる、と話者は述べる。

QCD+VSIの6項目で考える

話者は、産ロボのビジネスを製造・SIer・メンテナンスの組み合わせとして捉える。そのうえで、どこで付加価値をつけるかをQCD(品質・コスト・納期)とVSI(バリエーション・サービス・インテグレーション)の6項目で整理した。

品質は、標準・オプション・カスタマイズのどのスペックを用意し、耐久性や性能をどこに置くかの問題で、自社の設備投資やサプライチェーン管理にも関わる。コストもスペックコントロールの問題で、どのスペックにするかで売れる市場が決まり、量産効果の最大値も決まる。納期は産ロボではそれほど重要ではないと話者は見ている。最後はロボットシステムインテグレーターが構築するからだ。中国のような超量産では同じラインを何本も引くので、ソフトウェアで作り込んだものを横展開すれば問題ないという。

最重要とされたのは、バリエーションとサービスである。バリエーションは、顧客が選びたい仕様に絞り込んで展開するスペックコントロールそのものだ。サービスについて、話者はInovanceの例を挙げた。顧客が三菱電機やオムロンのPLCを使っていれば、その制御情報をもらってInovanceの製品で動く状態に代理で作り替えて提供する。わからない点は遠隔操作で教える。その結果、Inovanceでいいという判断になり、中国の低価格帯に劇的に入り込んでいるという。システムの立ち上げやすさをどう作るか、現地のSIerをどう支援するかが問われる、と話者は述べる。

これら6項目で廉価版を戦略的に作り分け、地域別に投入する必要がある。話者は日本の工場ビジネスを、言い方は良くないがと断ったうえで「植民地」的だと批判した。工場をコストセンターとして扱い、同じものを中国に作って「あとは作っておけばいい」というやり方では持たない。川崎のように地域に合わせたスペックを作り込まなければ難しいだろう、という。

結論:5年後を見据えた意思決定と、ラストワンインチのハンド

話者の結論はこうだ。中国勢を無視して既存の高付加価値領域だけで戦えば、一時的な延命になる可能性がある。少なくとも5年後を見据え、「中国はおそらくこれだけ伸びるから、こう意思決定する」というシナリオを策定しなければ、力をつけた中国の産ロボメーカーにやられてしまうだろう。

そのうえで話者は、フィジカルAIやタスクAIが産ロボとどう絡むかという論点に立ち返る。ラストワンインチの戦いはフィジカルAIでも、既存の産ロボが入っている現場でも起きており、そこではフレキシブルなハンドが必要になるのではないか、と述べて締めくくった。フィジカルAIがROIとタクトタイムの壁を越えられるのか、日本メーカーが中国向けのスペックを作り込めるのかは、動画の中では答えの出ていない問いとして残されている。