天王星の中心からブラックホールの特異点まで――「もしも」で巡る太陽系と宇宙の19の旅
VAIENCE バイエンスこの動画は、科学解説チャンネル「VAIENCE(バイエンス)」の「もしも」シリーズを約3時間にまとめたものである。架空の「バイエンススーツ」を着た人物が、天王星、海王星、金星などの天体へ次々に落とされる。語り手はその人物をからかいながら、各地の気圧、温度、重力、そして研究でまだ分かっていない点を説明していく。後半は、宇宙の端、ボイド、地球を貫く穴、地球のリング、過去と未来の地球、宇宙エレベーター、宇宙での死、ブラックホールと話題が広がる。スーツは演出上の仕掛けにすぎず、説明の中心は現在の観測や研究が示す環境と、その解釈をめぐる議論である。
天王星と海王星――氷の雲の下にある「熱い氷」の海
天王星は地球から約30億km離れた、内側から7番目の惑星で、太陽系では3番目に大きい。自転軸が公転軸に対して98度傾いているため、太陽の周りを横倒しで転がるように回っている。最上層の雲には硫化水素が含まれており、動画はそれを「おならの匂いがする」と紹介する。1986年、ボイジャー2号は上層から約8万kmのところをわずか6時間で通過し、惑星と衛星、環について大量のデータを集めた。これにハッブル宇宙望遠鏡や地上望遠鏡の観測を合わせて、内部構造の理解が進んだという。
落下の途中では、ゴルフボール大かそれより大きな岩でできた13本の細い環が見える。上層のメタン氷の雲の中は摂氏マイナス220度を下回り、気圧は約0.5気圧である。天王星の重力は地球よりわずかに弱いので、はじめは地球で自由落下するのに近い速度で落ちていく。その下にある暗い硫化水素の氷の雲では、時速900kmに達する風が吹いている。約130km下ると気圧は約10気圧になる。さらに進むと水の氷でできた雲の層があり、稲妻が光る。この層の底近くでは60気圧以上、摂氏50度ほどになり、落下開始から1時間以上、深さは240kmに達する。
その下が「マントル」である。太平洋の2000倍以上の深さがあるほぼ底なしの海で、天王星の60%以上を占めると考えられている。水にメタンやアンモニアが混ざった物質が、高い圧力で押し固められた熱く高密度の流体になっている。やがて体と周囲の密度が等しくなり、落下は止まる。圧力が数千気圧に達するこの領域では、炭素がダイヤモンドの雨として降っていると考えられており、何百万カラットもの大きさになるとも言われる。数週間かけて数千km沈むと、岩石、鉄、見慣れない氷でできた小さな核にたどり着く。
続く海王星は、直径が地球の約4倍で、天王星よりわずかに小さいが質量は上回る。探査機が訪れたのは1989年8月のボイジャー2号の1回だけで、研究の多くは地上望遠鏡によるものなので、内部にはまだ謎が多い。深い青色に見えるのは、上層大気のメタンが赤い光を吸収するためである。環は5本あり、主に塵でできている。重力は地球より14%大きいだけなので、落下速度は地球とあまり変わらない。上層のメタン氷の雲は0.5気圧、マイナス200度以下。約50km下ると、約5気圧のアンモニアと硫化水素の雲に入る。ここでは太陽系最速の風が時速2400km、音速の約2倍で吹いている。約160km下の水の雲では巨大な稲妻が光り、気圧は50気圧を大きく超える。約6400km沈むとマントルに達し、スーツは1万気圧以上に耐えなければならない。ここでも天王星と同じくダイヤモンドの雨が降っていると考えられている。数千km下の核は摂氏5000度超、700万気圧超で、岩石や鉄、氷からなり、ダイヤモンドが積もった層がある可能性もあると動画は述べる。
冥王星――青い空と消えつつある大気
冥王星は2006年に惑星の定義が変わって準惑星になった。直径は地球の5分の1以下で、月の約3分の2しかない。2015年にニューホライズンズが訪れるまでほとんど何も分かっておらず、現在の知識の大半はこの探査機のデータによる。直径約2400kmの冥王星に対し、衛星カロンは直径約1200kmもある。そのため両者は共通の重心の周りを互いに回っており、「二重惑星」と呼ぶ人もいる。冥王星とカロンは互いに常に同じ面を向け合っているので、冥王星の裏側からカロンを見ることはできない。
冥王星の大気圧はごく小さい。大気中のわずかなメタンが太陽の紫外線などと反応してソリンという物質になり、霧を作ると考えられている。霧は高度約200kmから始まり、そこでは約マイナス193度だが、高度20〜30kmでは最高のマイナス173度まで上がる。動画はこれをメタンの温室効果によるものとしている。地表の平均温度はマイナス231度で、重力は弱く、体重60kgの人が約4kgの重さしか感じないと説明される。
地表の景色は落ちた場所で大きく変わる。ハート型の地域では、固体窒素でできた氷河と、標高3000mを超える水の氷の山脈が見える。その隣のクトゥルフ・マキュラは、降り積もったソリンによって焦げ茶色をしている。公転周期は248年で、自転軸は120度傾いているため、数十年も太陽が見えない場所がある。太陽に最も近づいても距離は地球と太陽の約30倍で、最も明るい時間でも地球の日没直後くらいの明るさにしかならない。カロンは地球から見た月の約8倍の大きさに見える。一方で、冥王星の空はメタンなどのガスが光を散乱するため青い。動画は、これを数年前まで誰も知らなかった発見として紹介している。
ただし、この大気は急速に失われているという情報がある。冥王星が最後に太陽に最も近づいたのは1989年で、それ以来遠ざかり続けている。地表の温度が下がると大気の主成分である窒素が凍り、雪のように降り積もる。2030年までに大気が完全になくなるという研究結果もあるという。語り手は、あと約90年待てばカロンによる日食が見られると告げて、主人公を置き去りにする。
金星――灼熱の地表と「生命がいるかもしれない」上空
金星は大きさ、質量、内部構造が地球に似ているため双子と呼ばれることがあるが、共通点はそこまでだと語り手は言う。1950年代には、地球の熱帯のような環境を予想する科学者もいた。実際の環境ははるかに過酷で、地表で最も長く活動した探査機である旧ソ連のベネラ13号でも、記録は127分にとどまる。可視光で見た金星は白い。よく見かける黄色い画像は、レーダー観測データか、紫外線画像に人工的に色をつけたものである。
高度150kmでは温度は0度だが、気圧はほぼない。スーツを外せば15秒以内に意識を失い、3分以内に死に至る。高度90kmではマイナス100度になる。高度70km付近からは、75%以上が硫酸でできていると考えられる雲が広がり、風速100mを超える暴風が吹く。高度60kmでは0度、そこから45km付近までは温度が100度を超えず、気圧も1気圧を少し上回る程度である。このため高度50km付近は、人類の移住先の有力候補の一つとされる。厚い雲が放射線を遮り、硫酸や二酸化炭素から酸素や水を作れるので、巨大な気球のようなコロニーを浮かべる構想があるという。動画は、条件によっては火星を上回るとまで述べている。
生命の可能性については賛否を併記している。2020年には、生命活動以外では大気中に大量に存在しないと考えられていたホスフィンのシグナルが見つかったとして話題になった。しかし現在は、解析方法に誤りがあり、実際は二酸化硫黄だったという見方が主流になりつつある。それでも高度50km付近には紫外線を吸収する正体不明の何かがあり、探索への期待は続いている。一方で、生命には水が少なすぎるという研究や、高温と強い酸性の両方に耐える微生物は地球では見つかっていないという反論もある。
雲の下の高度40km付近では硫酸の雨が降るが、30km付近で蒸発して地表には届かない。地表は460度、90気圧で、大気は二酸化炭素96.5%、窒素3.5%である。鉛や亜鉛も溶け、地表から蒸発した硫化鉛などが温度の低い山頂に雪のように積もる。地表の風は強くても秒速2m程度だが、大気の比重が水の6.5%ほどあるので、風上に向かって歩けないかもしれない。1日は117日あり、昼でも曇りの日程度の明るさしかなく、夜も気温はほとんど下がらない。金星がこうなった理由には、磁場がなく太陽風から水を守れなかったという説や、太陽からのエネルギーが多く水蒸気の温室効果が暴走したという説などがある。地球も太陽の明るさが増すことで十数億年後には金星のようになると考えられており、人類の二酸化炭素排出がそれを早めるかもしれないと語り手は皮肉る。3億〜5億年前に地表全体が塗り替えられた出来事があり、プレートテクトニクスの消失が磁場の消失を招いたという説もあるという。
水星――地味な惑星の意外な居住適性
語り手は水星を「存在感のない惑星」と紹介し、そのうえで評価を覆していく。冥王星が外れた今、水星は太陽系で最も小さい惑星である。半径は約2400kmで、衛星のガニメデ(約2600km)やタイタンより小さい。一方、平均密度は1立方cmあたり5.4gと惑星では地球に次いで高く、質量はそれらの衛星の2倍以上ある。これまで訪れた探査機はマリナー10号、メッセンジャー、ベピコロンボの3機しかない。その理由は優先順位の低さではなく、到達の難しさだと動画は説明する。太陽に近づくと速度が上がってしまい、そのままでは水星を通り過ぎるしかない。そこでスイングバイを繰り返す必要があり、ベピコロンボは地球1回、金星2回、水星6回のスイングバイを経て、打ち上げから7年で周回軌道に入る予定だという。
大気がほぼないので、数十億年前のクレーターも風化せずに残っている。赤道付近は、水星が太陽に最も近く太陽が最も高いときに427度に達する。それでも金星の平均464度には届かない。大気がないので熱が宇宙に逃げるためである。88日続く夜にはマイナス160度を下回り、太陽系で最も表面の温度差が大きい惑星になる。軌道の離心率は全惑星で最も大きく、太陽との距離は4600万kmから7000万kmまで1.5倍変わる。受け取るエネルギーには2.25倍の差があり、遠いときの赤道の最高温度は280度程度と考えられている。自転軸の傾きは0.03度しかないので、極は太陽からほとんどエネルギーを受け取らない。数十億年間日が当たらない場所には、琵琶湖の水量を軽く超える氷が存在することが分かっている。
さらに、地下を1mほど掘ると温度は大きく安定し、中緯度の地下は人間に最適な22度付近を保つと主張する研究がある。重力は地球の38%で、火星とほぼ同じである。氷は農業用水や、分解して燃料・空気に使える。太陽光発電も利用でき、過去の小惑星衝突で金、白金、コバルト、ニッケルが表面近くに眠っている可能性もある。こうした点から、水星の地下は金星の上空と同じく、条件によっては火星をしのぐ候補になりうると動画は述べる。
火星――着陸の難しさと地下に残る可能性
火星の大気圧は地球の1%以下で、気温は最高20度、最低マイナス150度、平均はマイナス60度程度である。純粋な液体の水は存在できず、あるとしても大量の塩を溶かした塩水がわずかに短時間たまるだけである。磁場もないため放射線が降り注ぐ。動画は有人探査計画にも触れ、SpaceXの目標は以前紹介した2026年から、2022年5月時点で2029年に変わったと述べる。
落下の場面で強調されるのは、大気の「中途半端さ」である。パラシュートだけでは減速できないほど薄いのに、突入時の圧縮による加熱は問題になるほどの厚みがある。火星ミッションのおよそ半数が失敗し、その多くが着陸段階のトラブルだという。2018年打ち上げのインサイトは1500度超に耐える熱シールドを備え、着陸直前には逆噴射が必要だった。2004年のスピリットは24個のエアバッグで衝撃を和らげた。主人公にはどちらもなく、時速約1000kmで地面に衝突させられる。空は酸化鉄を含む塵のため普段は薄い黄土色で、夕焼けは太陽の周りだけが青い。地球とは逆の配色である。
表面に生命がいる可能性は低いが、地下は別だと語り手は言う。地下は温度が安定しており、かつての海の水の一部は鉱物と結合して地中に残っているという説がある。深さ1〜100mには大量の氷があり、かつては地下水のネットワークが惑星全体に広がっていた。南極の氷の下には液体の水の湖があると分かっており、火星大気のわずかな酸素でも好気性生物が生きられると推定した研究もある。ただし、火星の土には0.5%以上の過塩素酸塩が含まれる。カリフォルニア州は飲料水中の濃度を1Lあたり6μg以下に制限しており、火星の土はその数万倍以上になる。穴を掘り始めた主人公は、汚染と未知の細菌の恐れから地球へ帰還できなくなる。
火星はいつ赤い惑星になったのか
1億年前の火星も、現在とほぼ同じ赤い惑星だったと動画は説明する。違いとして、高さ20kmを超えるオリンポス山で小規模な火山活動が続いていた可能性がある。また、過塩素酸カルシウムは水の凝固点をマイナス75度付近まで下げる。表面には液体の塩水の跡のような地形があり、今も実際にそうした現象が起きているかはまだ結論が出ていない。火星由来の隕石から、1億7000万年前以降に液体の水で変化した鉱物が見つかったという報告もある。このため1億年前には、蜃気楼のようにはかない量の水が見られたかもしれないという。
20億〜30億年前でも気圧は低かったが、地下深くの水が火山活動で表層を破って噴き出し、大洪水が起きていた。その流量は毎秒最大10億立方mで、アマゾン川の最大約30万立方mの3000倍以上だとされる。37億〜43億年前には、北半球をほぼ覆う海があり、最深部は1.6km以上あった。40億年前に少なくとも0.5気圧以上の大気があったと主張する研究もあり、金星、地球と合わせて青い惑星が3つあった可能性があるという。
変化の原因は太陽風である。粒子が大気分子に衝突してエネルギーを与え、大気が宇宙へ逃げていく。気圧が下がると水は蒸発し、水蒸気は紫外線で水素と酸素に分かれる。水素は火星の重力では引き止められずに逃げ、残った酸素は鉄と反応して赤い錆になる。この変化は39億〜30億年前にかけて進んだと考えられている。地球を守った磁場は、内核が成長するときに押し出された軽い成分が浮力を生み、外核で対流が起きることで維持されている。火星は直径が地球の約半分、質量が約10分の1で冷えやすく、さらに核を毛布のように覆う薄い液体層が内外の温度差を小さくした。そのため磁場は形成から数億年、約39億年前に止まったと考えられている。ただし、惑星に磁場ができる条件そのものがはっきり分かっているわけではない、と動画は断っている。
スペースコロニーと宇宙エレベーター
スペースコロニーは、破局噴火や小惑星衝突、核戦争といった「砂上の楼閣」のような地球のリスクへの備えとして紹介される。英語圏では「コロニー」が帝国主義を連想させるため、スペース・セトルメントなどの呼び方を勧める専門家もいるという。月や火星の基地と比べた利点は2つある。夜がないので太陽光発電を常に使えること(月の夜は2週間続く)、そして重力が小さく出入りが楽なことである。一方で微小重力は、国際宇宙ステーションの飛行士が訓練をしても骨密度や筋肉が落ちるほどの問題になる。そのため多くの構想は回転による遠心力で重力を再現する。1929年のバナール球は直径500mで、毎分1.9回転すれば赤道部で地球並みの重力になる。オニール・シリンダーは直径8km、全長最大32kmで毎分約0.5回転し、居住空間あたりの資材が少なくて済む。スタンフォード・トーラスは直径1.8kmのドーナツ型で毎分1回転し、資材は多いが、ドッキング用の回転しない部分を設けやすい。
最大の障害は資材の調達である。低軌道でも1回の打ち上げで送れるのはせいぜい140tで、国際宇宙ステーションは全長約100mなのに400tを超え、稼働まで10年かかった。そこで月や小惑星に基地を置き、資源を送る方法が考えられている。コロニーの内部は居住区と食料生産区に分け、物質を完全に循環させる。水は放射線を遮る壁にもなる。気候を制御できるので台風も地震もない。回転しない区画は、無重力プールのような観光施設や、欠陥が少なく大きなタンパク質結晶を作る研究に使える。語り手は、やがて住民が地球人とは別の存在を自覚するようになると予想し、それでも太陽の寿命を超えて人類が存続するために必要な一歩だと位置づける。
宇宙エレベーターは、海上基地から静止軌道の基地までケーブルを伸ばし、その上に重りを置いてかごで昇降する構造である。重力と遠心力のつり合いで成り立ち、ロケットのように燃料を使い捨てにしないので輸送コストを大きく下げられると考えられている。ただし課題は多い。鋼鉄やアラミド繊維では強度が足りず、有力なカーボンナノチューブも、2022年時点で作られた最長のものは数十cmしかない。静止軌道までは約3万6000kmある。原子1つ分の欠陥で強度が70%に落ちるというデータや、現実的な強度は理論値の30%程度とする研究もある。風雨、雷、流星物質、放射線を考えれば数倍の余裕が必要で、足りるかどうかは全く分からないという。静止軌道から1万km上に置く場合でも1万t以上の重りが必要になること、かごを動かすには数百m四方の太陽光パネルが要ること、2010年代以降の民間参入でロケットのコストが下がり優位性が薄れていることも挙げられる。
それでも完成すれば、宇宙旅行が一般人に手の届くものになり、振動に弱い精密機器も運べる。例として、ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡が振動試験に多くの時間とコストをかけたことが挙げられる。静止軌道の基地はすでに秒速約3kmで動いているので、ケーブルをさらに伸ばして火星や木星へ直接送り出す構想もある。その研究は、火星への到達時間の短縮と打ち上げ時期の制限の撤廃を主張している。火星や月では現在の技術でも建設可能とする説もあるという。
宇宙の端とボイド――どこまで行っても端はない
私たちは、約138億年かけて届いた光を宇宙の端として観測している。ただし宇宙は膨張しているので、その光を出した場所は現在約465億光年離れている。この光が宇宙マイクロ波背景放射で、ビッグバンから約37万年後、温度が下がって電子と原子核が結びつき、光が自由に進めるようになったときのものである。スーツでそこへ移動しても、景色は地球から見たものとほとんど変わらない。見えている宇宙は全体の一部にすぎず、その「端」は特別な場所ではないからである。
一方向に進み続けても端には着かない、というのが現在の定説だと動画は述べる。空間の曲率が0以下なら宇宙は無限に広がり、0より大きければ球面のように有限だが元の場所に戻ってくる。どちらの場合も端は存在しない。背景放射に見える温度の高い領域と低い領域の見かけの大きさは、理論的な大きさとほぼ一致する。空間が曲がっていれば光も曲がって大きさがずれるはずなので、曲率はほとんど0だと分かる。なぜそうなっているのかは解明されていない。
ボイドは、銀河フィラメントの間に広がる、銀河がきわめて少ない空間である。天の川銀河の直径は約10万光年、ラニアケア超銀河団は約5億光年、それが属するフィラメントは約16億光年ある。ボイドの多くは直径3000万〜3億光年で、10億光年に迫るものもある。コップの中の空気分子は1立方mあたり約2.5×10の25乗個あるのに対し、銀河内の空間は10万〜100万個、銀河の外では1個以下と推定されている。うしかい座ボイドは直径2億5000万光年で銀河が60個しか見つかっていない。天の川銀河周辺の密度を当てはめれば1万個程度あってもおかしくない空間である。2014年の研究は、ボイドが宇宙の体積の77%を占めながら質量は15%程度にすぎないと推定した。
肉眼で見える銀河は、アンドロメダ銀河(約250万光年)が余裕で見え、三角座銀河(約300万光年)が限界に近いことから、せいぜい数百万光年以内だと動画は説明する。ボイドの中心ではどの方向を向いても真っ暗である可能性が高い。ただし、ボイドとそうでない空間は明確に分けられないので、発見が発表されるたびに論争が起きる。天の川銀河自体が直径20億光年のKBCボイドのほぼ中心にあると主張する研究もあるが、反対意見もあるという。
日本からブラジルへ穴を掘って飛び込む
地球の中心は摂氏5200度、360万気圧に達すると考えられている。その中を1万3000kmの穴が通っているという前提で、動画は物理的な問題を順に取り上げる。1つ目はコリオリの力である。東京は時速約1350kmで東へ動いているが、地球の内部ほど回転半径が小さく速度が遅いので、落下する人は東側の壁に時速100km以上で押しつけられる。動画はこれを、地球の自転軸を穴に合わせて「解決」してみせる。
2つ目は空気抵抗である。穴の中の気圧が地表と同じなら、終端速度は時速約200kmにとどまり、1万3000kmを進むには60時間以上かかる。しかも中心へ近づくほど頭上の質量が増えて下向きの重力が弱まり、中心で無重力になり、その先は逆向きに引き戻される。そのため、減衰する振り子のように往復したあと、中心で止まってしまう。
穴を真空にすれば、中心で時速3万5000kmに達し、ブラジルの地表でちょうど速度0になる。内部の密度の変化を考慮すると、所要時間は約38分である。斜めの穴でも、摩擦がなければどの2点間もおよそ40分になる。距離が短いほど重力の向きが穴と直角に近くなって加速が小さくなり、2つの効果が打ち消し合うからだ。最後に語り手は、穴を開ける、自転軸を変える、真空にする、耐熱耐圧スーツを作るという「簡単な4点」を挙げて締めくくる。
地球に土星のような環があったら
土星の環の起源は分かっていない。40億年以上前に土星と同時にできたという説と、1億5000万年前以内にできたという説があり、どちらも決め手に欠ける。どちらにせよ、近づきすぎた天体が引き裂かれた残骸という見方が有力である。初期の太陽系ではそうした出来事が起きやすかったことは、古い起源説の根拠になる。一方で、環の氷は汚れが少なく、数十億年経っていればもっと塵をかぶって暗いはずである。極端な例では約1500万年前に形成されたと予想する研究もある。環の粒は最大でも10m程度で、微小隕石の衝突や、太陽風によるイオン化と磁場による捕捉で、毎秒400〜3000kgずつ失われている。およそ3億年後には消えている可能性があるという。
土星の環(最も内側のD環の内径約6万7000km、E環の外径約48万km)をそのまま地球に移しても、2つの理由ですぐに消える。1つは、水の氷が固体でいられる境界が火星と木星の間にあり、地球の位置では蒸発してしまうこと。もう1つは、地球の重力が弱いので、その距離では粒が集まって衛星になってしまうことである。実際に、巨大衝突でできた環から月が生まれたと考えられている。現実的な地球の環は岩石でできており、内径は最大約1万km、外径は最大約1万8000km程度で、外側は月の重力で濃淡が周期的に変わる構造になるだろうと動画は述べる。
環があれば、夜が真っ暗になることはない。月明かりで産卵時期を決めるサンゴや、星空で方角を知るフンコロガシにとっては一大事だが、初めから環があればそうした生物はそもそも生まれなかったかもしれない。人類にとっては、地上からの天体観測が難しくなり、打ち上げも秒速数kmで飛ぶ粒子を避ける必要が出てくる。見た目の素晴らしさがそれに釣り合うかは微妙で、環は土星の特権のままにしておくのがよいかもしれない、と語り手は結論づける。
ジュラ紀と1億年前の地球
ジュラ紀は約2億年前から1億4500万年前までの時代で、名前はジュラ山脈の地層に由来する。前後の境界は大量絶滅で区切られ、鳥類もこの時代に初めて現れたと考えられている。ティラノサウルスが生きていたのは約6800万年前なので、ジュラ紀よりも現代に近い。ジュラ紀で警戒すべきなのは、全長10mで時速55kmで走れたという予想もあるアロサウルスである。気温は現代より5〜10度高く、氷床はほとんどなかった。一方で二酸化炭素濃度は現在の約400ppmに対して1000〜2000ppmだったという試算があり、1000ppm程度でも知的活動が低下し、めまいや頭痛が起きうるとする研究もある。ただし、この影響についてはっきりした結論はまだ出ていない。最大の問題は食料である。米、麦、トウモロコシ、ジャガイモ、果物などの被子植物がほぼ存在せず、裸子植物やシダだけでは栽培による生活が難しいので、小型の哺乳類や昆虫を狩るしかないという。
1億年前の白亜紀は、酸素濃度が現在と同じか多少高く、二酸化炭素は数百〜1000ppmと、ジュラ紀より過ごしやすい。インドは島で、オーストラリアと南極はつながっていた。南極が独立していなかったため氷に閉ざされておらず、海水面は現在より200mも高かったという説がある。北アメリカ大陸の中央には浅い海ができかけていた。平均気温が30度付近だったという極端な予想もあり、火山活動も活発だった。ステゴサウルスはすでに絶滅し、ティラノサウルスやトリケラトプスはまだ現れていない。代わりに、背中に1.5mの帆を持つ体長14mのスピノサウルス、ティラノサウルスより大きかった可能性のあるギガノトサウルス、体長30〜35mのアルゼンチノサウルスがいた。フラミンゴのような口ばしの翼竜プテロダウストロ、ペリカンのような下顎を持つワニのストマトスクス、爪切りのような口のニジェールサウルスなど、動画は形の奇妙な生物も紹介している。ハチやチョウが受粉を担い始め、それまで少数派だった被子植物が増えていく時期で、イネ科の草原はまだなかった。白亜紀には世界の石油の約60%が生成されたとも考えられている。
恐竜絶滅の日
約6600万年前のK-Pg境界では、生物の約75%が絶滅したとされる。世界中の地層に含まれるイリジウムは、地表にはほとんどないが小惑星には多く含まれており、衝突の証拠になっている。衝突地点はユカタン半島沖である。衝突層から出たヘラチョウザメの化石の骨には年輪のような模様があり、その分析から、衝突は北半球の春だったと分かっている。一方、小惑星の大きさの推定は10kmから数十kmまで幅があり、エネルギーもTNT換算で数千万〜1億メガトンと正確には分からない。広島の原爆は0.015メガトン、史上最大の核爆弾ツァーリ・ボンバでも50メガトンである。
衝突の瞬間には太陽の数倍明るい火球が現れ、1800km離れた場所でも気温が100度を超えたと予想されている。津波は最大1500mともされ、100km以上内陸まで達し、太平洋沿岸でも10mを超えたという試算がある。宇宙まで巻き上げられた土砂が大気に再突入して熱を出し、世界中で気温が急上昇して、植物が自然発火した地域もあったと考えられている。北アメリカや、その反対側のインド、オーストラリアでは大規模な山火事が起きた。さらに、衝突は45〜60度の浅い角度で、石膏(硫酸カルシウム)を多く含む浅い海底に落ちた。これが最悪の条件だったと動画は述べる。大量の硫黄と煤が太陽光を遮り、一説では1000億tの硫黄が放出され、気温が20度以上下がり、異常気象は30年ほど続いた。光合成が止まって食物連鎖が崩れた。
なぜ恐竜だけが絶滅したのかには、はっきりした答えがない。体が大きく食料を多く必要とする恒温動物だったという説や、卵から生まれるので大人と子供の大きさが大きく違い、生態系での役割が分かれていたために弱かったという説がある。鳥類や哺乳類が生き残った理由としても、植物の種を食べられたという説や、死骸で増えた菌類に対して哺乳類の免疫が強かったという説などが挙がる。語り手は作家ラリー・ニーヴンの「恐竜が絶滅したのは宇宙開発を進めていなかったから」という趣旨の言葉を引き、10km級の衝突確率を100年あたり1万分の1とする試算にも触れる。そのうえで、現在の人類には10kmの小惑星をそらす技術がないと指摘する。
1億年後の地球
近い将来では、月の影響で地球の自転が遅くなり、うるう秒でも追いつかなくなって時刻の統一が難しくなるという。約1万5000年後には歳差運動で自転軸の向きが逆転し、北半球の夏と冬の太陽との距離が入れ替わる。季節の差が大きくなり、約1万年前と同じようにサハラ砂漠がサバンナになると推定されている。2万年後には、1986年のチェルノブイリ原発事故の汚染地域全体が問題のない放射線量まで落ち着く。ただし、文明を崩壊させうる破局噴火は5200〜4万8000年周期で起きているとする2017年の研究もある。5万年後には氷河期が来ると予想されているが、二酸化炭素排出でさらに5万年遅れるという試算もある。約6万4000年後には、シリウスが南極星のような位置に来る。
1万年から100万年後の間には、ベテルギウスやアンタレスが超新星爆発を起こし、数か月間満月に匹敵する明るさになるかもしれない。生命に影響が出るのはおよそ30光年以内とされ、この2つは数百光年離れている。ただし、8400光年先のWR104は100万年以内に爆発し、ガンマ線バーストが地球を直撃する可能性が指摘されている。発生の仕組みはよく分かっておらず、当たる可能性は低いと動画は留保をつけている。約129万年後にはグリーゼ710が0.17光年まで近づき、全天で最も明るい恒星になる。これがオールトの雲の彗星の軌道を乱し、一部が内側に飛ばされて地球に衝突する恐れがある。
1000万年後にはアフリカ東部が裂けて大陸が2つに分かれる。それより先の予測はモデルによって大きく異なり、日本とハワイの衝突説もプレートの動きが逆転する場合があるので断言できないという。あるモデルでは、5000万年後にヨーロッパとアフリカが衝突して地中海が消え、ペルシャ湾の位置までヒマラヤのような山脈ができる。南極の氷床が溶けてグリーンランドとともに海面が90m上昇し、8000万年後には現在のハワイ諸島が沈み、2億5000万年後には超大陸パンゲア・ウルティマができるとされる。地球は約50億年後に赤色巨星となった太陽に飲み込まれ、生命は28億年後まで存続できると推定する研究もあるという。
宇宙で死ぬと
コマロフやチャレンジャー号の事故は大気圏内で起きたもので、上空100km以上で人が亡くなった例は1971年のソユーズ11号の3人だけである。帰還時の装置の誤作動で高度168kmで船内の空気が抜け、全員が窒息死した。1965年のボスホート2号では、宇宙服が膨らんでハッチに入れず、飛行士が機転を利かせて空気を抜いて帰還した。ミールでの火災や衝突、2013年のヘルメット内への浸水も危うい例として挙げられる。
NASAは公式には宇宙で死者が出た場合のマニュアルはないとしている。ただし、国際宇宙ステーションへ向かう訓練には、乗組員が死亡した想定の演習がある。遺体の扱いや帰還手段を検討している最中に、「SNSに事故が投稿され、記者から連絡が来た」という情報が追加され、公式発表や家族への連絡まで対応を迫られる。この訓練は関係者に好評だという。ステーション内では遺体が地上と同じように腐敗し、病原菌や臭いが乗組員を脅かす。そのため密閉袋に入れて貨物区画に置き、帰りの便を待つ可能性が高い。宇宙へ捨てることはデブリを増やすので、緊急時以外はありえないとされる。
宇宙服なしで外に出た場合、宇宙空間はマイナス270度でも、熱を伝える物質がないので放射でしか体温は失われない。体温が0度を下回るまで18時間程度かかるという試算がある。液体の水は安定して存在できないので、遺体はやがて凍ったミイラのようになり、半永久的に漂う。数十年かかる恒星間航行で死者が出たときにどうするかは、技術面だけでなく法律や倫理の面でも、まだ誰も答えを持っていない。語り手は、この問題を解決しない限り人類は宇宙規模の文明とは言えないのかもしれないと述べる。
ブラックホールへの落下――恒星質量か超大質量か
ブラックホールは直接観測できないが、見えない何かに引き裂かれた天体や、見えない天体同士の衝突による重力波などから、その存在は確実視されている。十分に離れていれば他の天体と変わらず、太陽を同じ質量のブラックホールに置き換えても惑星の公転は変わらない。
太陽の5倍の質量を持つ、回転していないブラックホールの場合、事象の地平面の半径は約15kmで、東京23区が収まるほどの大きさしかない。100万km離れた地点でも重力は地表の約70倍である。問題は頭と足にかかる重力の差で、身長170cmの人が頭から落ちると、2800kmの地点で差が地球の重力の10倍を超える。ここが人間の生存限界とされる。中心から20kmでは、わずか1mmの差で1万7000倍になり、体は細く引き伸ばされる。これが「スパゲッティ化」である。
一方、天の川銀河の中心にある太陽の430万倍の質量を持つ、いて座A*では、事象の地平面は中心から約1200万kmにあり、そこでの頭と足の重力の差は0.01%程度にすぎない。落下していくと、黒い球体を回る降着円盤が見え、球の上下にも円盤が見える。これは裏側の円盤から出た光が重力で曲げられて届いたものである。円盤は数千度に達し、紫外線や青い光を放つ。回転していない場合、中心から3600万kmが最小安定円軌道で、それより内側では物質は安定して回れない。さらに内側の光子球では、理論上、自分の後頭部から出た光がブラックホールを1周して目に入る。地平面の近くでは時間の進みが極端に遅くなるので、外から見ると落下する人は赤く暗くなり、地平面で止まったように見えたあと消えていく。
回転するブラックホールでは、地平面に「ファイアウォール」と呼ばれる高エネルギー領域があるという説もある。地平面の内側では一般相対性理論の式の上で時間と空間の役割が入れ替わり、中心の特異点へ向かうことは避けられない。脱出しようとすると、かえって到達が早まるという。特異点は計算上は密度が無限大になるが、多くの科学者はそれを計算の産物とみなし、一般相対性理論に代わる別の理論で正しい姿が分かると考えている。特異点が実際にどうなっているのか、現代物理学は答えを持っていない。動画はその未知の場所まで主人公を連れて行き、スパゲッティ化で分解させて旅を終える。
地球からおよそ30億km彼方に存在する青緑色の星、天王星。天王星は内側から7番目の惑星であり、太陽系の中でも木星、土星についで3番目の大きさを誇っています。
天王星は公転軸に対して自転軸が98°も傾いているという特徴があります。これにより天王星は自転軸が横倒しになっており、太陽の周りをゴロゴロと転がるようにして回っているのです。また天王星はおならの匂いがすることでも有名です。これは天王星最上層の雲の上にある大気を構成している要素の1つに硫化水素が含まれているためです。このおならの匂い、嗅ぎに行くべきだと思いませんか?そして天王星の美しい水色の奥底には何があるのでしょうか?そこで今回は天王星に落ちるとどうなるのかについてご紹介したいと思います。
1986年にボイジャー2号が歴史的接近通過フライバイを行った際に、この不思議な惑星について多くのことが分かりました。ボイジャー2号が天王星の上層部から8万km以内を通過したのはわずか6時間。その時間内で天王星及びその衛星と輪っかに関する重要なデータを大量に収集しました。他にもハッブル宇宙望遠鏡やいくつかの地上望遠鏡による観測から分かったことがあります。
これらの貴重なデータを使って内部構造などを含む天王星の様々な特徴を調査した結果、はるか彼方の惑星の謎めいた雲の奥に潜んでいるものについて飛躍的に理解が深まったのです。
では天王星に落下します。もちろんバイエンス製のスーツを着用して。天王星の内部はどうなっているのでしょうか?まず天王星に向かって落下していく間、13本の薄い輪っかを目にすることになります。天王星にも土星のような輪っかがあり、主にゴルフボールサイズかそれより大きい岩によって構成されています。惑星の外観は青緑色ですけれども、ぼんやりかすむ未知の惑星にだんだんと近づくにつれ、渦巻く大気体が見えてくることでしょう。やがてあなたは上層大気の中へ入り、水素やヘリウムと混ざったメタンの氷の雲の中を落ちていきます。
天王星は太陽からかなり離れているため、ほとんど日光が届きません。そのため気温は太陽系の中で最も低く、摂氏-220°を下回ります。この高度では気圧は地球の海水面の半分であるおよそ0.5気圧となっています。そして天王星は密度が低いため、重力は地球よりほんの少しだけ弱いと考えられています。そのため地球に自由落下するのに近いスピードで当初は落ちていくことになります。
最初の雲の層を通り抜けて暗い硫化水素の氷の雲に入っていくまで長くはかかりません。日光が奥まで届かないので、深く落ちていくにつれますます暗くなり、周りを観察することができなくなります。ただ時速900kmに達する猛烈な風が吹き荒れていることが、音や振動を通じて感じることができるでしょう。幸いなことにあなたはバイエンス製スーツを着用しているため、安全に地獄のような深みに落ち続けることができます。
この段階で分厚く暗い高密度の雲の中をおよそ130kmにわたって急降下してきました。あなたが真っ暗なところで1人きりになってしまったと気づく時、太陽の光は遠い記憶のように思えることでしょう。この深さでは圧力はおよそ10気圧に上がっており、気温は快適な摂氏です。しかしこの状態は長く続きません。なぜなら今度は凍った水でできた白い雲がそびえる混沌とした領域に落ちるためです。
ここでは静電気によって発生した稲妻が辺り一帯で光っています。この雲の層の底に近づいていくと圧力が60気圧以上に急上昇し、気温は摂氏50°ほどになります。落下し始めてから1時間以上経ち、天王星の深部へと240kmを旅してきました。あなたは周囲の状況がどんどん過酷になっていくことに気づき始めたことでしょう。
深さが太平洋の2000倍以上あるほぼ底なしの氷の海。この領域はマントルと呼ばれ、天王星の60%以上を占めていると考えられています。ただし地球でよく見る氷とは違い、凍った水にメタンやアンモニアが混じった熱い高密度流体です。熱い氷が存在している理由は、この天王星の高い圧力によってぎゅうぎゅうに押し固められているためです。地球人にとっては珍しい存在ですが、広い宇宙では当たり前に存在するものです。
この壮大なマントルの中を沈んでいくと密度が増していくことに気づくでしょう。やがてあなたの体と周囲の密度が等しくなり、落下が止まり始めます。しかしバイエンス製スーツに搭載されたジェットを使用して先に進むことが可能です。天王星の奥へゆっくりと沈んでいくにつれ、今や数千気圧にもなっている非常に高い圧力のもと、気温は急激に上がり続けていきます。
天王星ではこの凄まじい圧力によって炭素原子が結晶化し、ダイヤモンドの雨が降っていると考えられています。降っているダイヤモンドは何百万カラットという巨大なものであるとも言われており、地球に持ち帰ることができればあなたは億万長者となるでしょう。ですがバイエンス製スーツに帰還機能はないはず。残念ですが先へ進みましょう。何週間もかけて数千kmの距離を沈み続けると、天王星の中心にたどり着くでしょう。
中心には高度に圧縮された岩石や鉄、見慣れない氷で構成された小さな核があります。これにてミッション完了。では私は先に帰還します。さようなら。
身動きが取れない。どうすれば?このボタンは何だ?うお。なんだこれ?間があったのか。これで地球に帰れる。おい、そっちは地球じゃない。海王星じゃないか。
あれからどれほどの時間が経った?初めは恐怖で体が震えていたが、もう今は覚悟を決めている。なぜ俺が落ちるかって?生きて会えたら答えを教えてやる。待たせたな、海王星。
太陽系第八惑星、海王星。この不思議な雰囲気をまとった青い星は直径が地球の約4倍。前回落下した天王星よりもわずかに小さいものの、質量は天王星を上回ります。太陽から極めて遠く離れているため、探査機がこの星を訪れたことは1度しかありません。
その唯一の探査機がボイジャー2号。天王星も訪れたことのあるボイジャー2号は、1989年8月に海王星とその衛星トリトンの近くを通過し、この星の詳細な成分を解き明かすことに成功しました。海王星の研究は主に地上望遠鏡によって行われてきたので、この惑星の内部については未だ多くの謎が残されています。しかしボイジャー2号の探査と地上から集めたデータによって、海王星の構造と組成について解明されている部分もあるのです。
では海王星についての予備知識はこのくらいにして落下を開始しましょう。海王星の奥底には何があるのでしょうか?無事帰還することはできるのでしょうか?今回は海王星に落ちるとどうなるのかについてご紹介したいと思います。
海王星の大気は主に水素とヘリウムによって構成されています。海王星が深い青色である理由は、上層大気にメタンが含まれているためです。メタンが赤い光を吸収し、鮮やかな青色のみを反射した結果、青く見えるのです。では落下しましょうか。当然バイエンススーツを着用しています。天王星にも訪れているため、スーツに損傷がなければいいですが。
海王星に落ちていく際に、あなたは薄い輪を目撃することができるかもしれません。海王星にも木星や土星、天王星と同様に輪が存在しており、5つの輪は主に塵によって構成されています。そしてだんだんと海王星に近づくにつれて、荒れ狂う嵐による壮大な景色が広がっていきます。
海王星の重力は地球より14%大きいだけであるため、当初は地球の大気中を落下するのと同じような速度で落ちていきます。太陽系の外縁にある海王星は太陽からとても遠いため、太陽の光はほとんど届かず、地球の夕暮れ時のような薄暗さに包まれています。まずは高所にあるメタンの氷の結晶でできた白い巻雲の中を落ちていきます。この高度では大気圧が0.5気圧、つまり地球の海水面の半分ほどであり、気温は摂氏-200°を下回る猛烈な寒さです。
50kmほど落ちていくと、約5気圧のアンモニアと硫化水素の雲の層に入ります。海王星では時速2400kmにも達する太陽系で最速の風が吹いており、これは音速の約2倍。バイエンススーツがなければこの暴風により木っ端微塵となっていることは間違いありません。そもそもこの地点までたどり着くこともできないと思いますが。そして海王星は太陽から遠い上、厚い雲に覆われているため、この深さまで届く光はありません。あなたは凍りつく暗闇の中でたった1人、強風がスーツの外側で吹き荒れているのを感じることができます。
長い時間をかけて落下し、海王星の内部へ160kmほど突入しました。真っ暗な周囲で巨大な稲妻がひらめき、そびえ立つ白い水の雲が雷鳴を轟かせながら暴風を巻き起こしているのが見えます。この雲の層を通っていく間に大気圧は50気圧を優に上回るほど高まり、気温は摂氏2°ほどになります。真っ暗な嵐の中を落ちていく中で海王星を訪れたことを後悔するでしょうが、この程度ではまだ大したことはありません。
水でできた氷の雲の底から出ると気圧が激しく上がり、気温は摂氏千度を超えるまで急上昇します。非常に長い間落下し続けて約6400km沈んだところで、謎のマントルの層に到達します。ここではあなたのスーツは1万気圧以上の圧力と摂氏を超える温度に耐えなくてはなりません。この未知の超高温の層は水の氷、メタンの氷、アンモニアの氷でできていますが、強烈な圧力によって高温で高密度の流動体になっています。
この高い圧力の環境では、天王星と同じくダイヤモンドの雨が降っていると考えられています。あなたはこのダイヤモンドを持ち帰りたいでしょうが、今のうちに言っておきます。海王星から無事に帰還しても地球に帰れませんよ。あなたが落ちるべき場所はまだたくさんあります。
そしてこの高密度の領域を長い時間をかけて沈んでいく間、圧力と温度は著しく上昇し続けます。海王星の奥深く数千kmの地点で、あなたはこの星の核に到達します。ここでは摂氏5000度を超える温度と700万気圧を上回る圧力となっています。その表面は岩石や鉄、氷といった地球の物質とほぼ同じものでできていますが、もしかするとダイヤモンドが積もってできた層もあるかもしれません。これにてミッション完了。おめでとうございます。天王星と海王星を落下したものはあなたが初めてです。では私はお先に。
俺には帰還機能ってものがあるんだ。ボタンはどれだ?あ、反応しないじゃねえか。どうなってやがる。ん?お。
最後まで決して諦めない。いかなる窮地でも光が差すもんだ。次はどの星に行こうか?冥王星でもいいな。なんだと?このスピードは何だ?新バイエンススーツを装着した俺は宇宙最強だ。勝負だ。目を押せ。
2020年現在、太陽から約50億km離れた宇宙の彼方に、かつて最も遠く最も小さい惑星とされていた天体が存在しています。その天体こそ、2006年に惑星の定義が変わり準惑星となった冥王星です。冥王星は非常に小さく、直径が地球の1/5以下で、月と比べても2/3ほどしかありません。
またその距離と大きさから観測が非常に難しく、2015年にNASAの無人探査機ニューホライズンズが訪れるまで、ほとんど何も分かっていないような状態でした。現在でも私たちが冥王星について知っていることのほとんどは、ニューホライズンズのデータによるものなのです。
さて、人間が作った探査機で冥王星に突入したものは未だありません。そんな冥王星に人間が落下するとどうなるのでしょうか?今回は新バイエンススーツです。快適な落下を楽しむことはできるのでしょうか?それとも過酷な環境に打ちのめされてしまうのでしょうか?今回は冥王星に落ちるとどうなるのかについてご紹介したいと思います。
冥王星の質量は地球の1/400ほどしかありません。そのため冥王星にはゆっくりと落下することになります。落下していく間、冥王星最大の衛星であるカロンを見ることができるかもしれません。
冥王星の直径が約2400kmであることに対し、カロンの直径は約1200km。衛星にしては不釣り合いなほど大きいカロンは、冥王星に多大な影響を及ぼします。カロンが冥王星の周りを回っているのではなく、冥王星とカロンの間の点の周りを互いに回っているような状態です。このことから冥王星とカロンは2つ合わせて二重惑星に分類する人もいます。
そして冥王星は常に同じ面をカロンに向け、カロンも常に同じ面を冥王星に向けています。そのためカロンから見て冥王星の裏側からは、カロンを見ることは永遠にできません。月の裏側から地球を見ることができないのと同じですね。
さて、冥王星に近づくにつれ、星の霧のような大気と白と茶色のまだら模様の地表が見えてきます。冥王星の大気圧は非常に小さく、地球の1/もありません。その薄い大気の中にわずかに含まれるメタンが太陽からの紫外線などと反応し、ソリンと呼ばれる物質に変化した結果、霧ができると考えられています。
ではその霧の中に突入していきましょう。霧は地表から約200km上空から始まります。この辺りの温度は摂氏-193°ほどで、落下するごとに少しずつ温度が上昇していきます。地表から20kmから30kmほどになると、温度が最高の摂氏-173°に到達します。これは温室効果のメタンの影響によるものと考えられています。
冥王星へのダイブをもう少し楽しみたかった方には残念ですが、早くも地表に到着します。地表の温度は平均で摂氏-231°と、極寒と呼ぶのもおこがましいほど。バイエンススーツは高温への耐性は十分にあるはずですが、低温への耐性はどうでしょう?
そして事前に注意しておきます。急に動くのはお勧めしません。冥王星の重力は地球の約1/16。体重60kgの人間なら4kgほどの重さしか感じないような弱い重力です。ジャンプでもしようものなら……注意が遅かったようです。まあ何かあってもバイエンススーツを装着しているため大丈夫だとは思いますが。
さて、あなたの周りの風景は冥王星のどこに落下したかによって大きく異なります。例えばハート型のトンボー地域に降り立った場合は、辺り一面に広がる固体窒素でできた氷河を見ることができるかもしれません。そこからハートの左側の縁の方向を見ると、標高3000mを超える水の氷でできた山脈を見ることができます。
トンボー地域のすぐ左には、クジラのような形をしたクトゥルフ・マキュラ地域と呼ばれる暗い場所があります。ここに降り立った場合、一面焦げ茶色の地表が目に入ります。これは大気中のメタンなどがソリンとなり降り積もったことによるものです。このように冥王星は場所によって全く異なる景色を見せてくれます。
さて、空を見上げてみましょう。空の景色も降り立った場所はもちろん、時期によっても全く異なります。冥王星の公転周期は248年。つまり太陽の周りを一周するのに248年かかることになります。さらに冥王星の自転軸は120°傾いているため、地球の北極や南極で冬に太陽が昇らなくなるように、数十年もの間太陽が全く見えない場所もあります。
しかし仮に太陽が見える場所に降り立ったとしても、暗いことに変わりはありません。冥王星の軌道は楕円形になっているため、太陽からの距離も時期によって大きく変動しますが、1番近いところでも太陽と地球の距離の30倍ほど。この距離ですと太陽は点にしか見えなくなります。1番明るくなる時間でも冥王星の地表では856ほどとなり、これは地球の日没直後の明るさと同じくらいです。
また最大衛星であるカロンが見える場所に降り立った場合、地球から見た月の8倍ほどの大きさに見えるカロンを観測することができます。明るさは地球から見た月の1/ほどですが、大きな存在感を放つことでしょう。
さて、地球とは似ても似つかないような冥王星の景色ですが、1つだけ地球と似たような部分があります。それが空の色。冥王星の空は青いのです。これはメタンなどのガスが太陽光を散乱させるためで、夕焼け時は特に顕著となります。太陽から50億km離れたこの小さい準惑星に地球に似た青い空が広がっていることは、数年前は誰も知らなかったことです。今までの冒険を思い返しながら、少しばかりこの青い空を堪能しましょう。
実を言うと、ここ数年冥王星の大気が凄まじい勢いで消失しているという情報があります。直近で冥王星が1番太陽に近かったのは1989年。そこから30年以上冥王星は太陽から遠ざかり続けています。冥王星の大気は大部分が窒素ですが、太陽から遠くなっていくと地表の温度が下がり、大気中の窒素が凍り、雪のように地表に降り積もります。その結果大気がどんどん消失していると考えられているのです。2030年までには大気が完全になくなってしまうという研究結果もあるのだとか。
さて、せっかくですが私はそろそろ帰還します。大丈夫です。あなたはこの消えゆく大気と共に冥王星を満喫していってください。時間はたっぷりとあるのですから。ああ、そうそう。あと90年ほど待てば最大衛星のカロンによる日食が起きるそうですよ。地球以外で見ることのできる日食は非常に珍しいものです。冥王星に来たからには是非ご覧になってください。ではごゆっくり。
疲労が蓄積して気を失っていたようだ。カロンによる日食を見たいが、90年間も待てるわけがない。どうしようかな。帰還機能がついていると言っていたが、この程度の重力なら俺のジャンプ力だけで切り抜けられそうだ。よし、行くぞ。ん。
そうだ。木星にいたドクターにも連絡してみよう。聞こえねえな。ちょうど木星の衛星イオに落ちる予定があった。ついでにドクターの様子も見てみるか。
明けの明星と宵の明星。どちらも太陽系の第2惑星である金星の別名であり、それぞれ日の出前と日の入りに明るく光る星のことを指します。最も明るい時期には太陽と月についで全天で3番目に明るい天体となり、古来より人間は親しみを持って空に現れる明るい点を見上げてきました。
そしてそんな金星は地球の双子だと言われることがあります。確かに直径や質量、内部構成などは似ていますが、共通点はそれくらい。ご存知の通り金星はとてもあなたたち人間の住める環境ではありません。では、そんな人間が金星表面を目指し落下してみると何が起きるのでしょうか?生命を発見する可能性はあるのでしょうか?今回は金星に落ちるとどうなるのかについてご紹介したいと思います。
以前より人類の関心を集めてきた金星ですが、太陽系の構造が明らかになると同時に、地球のすぐ内側の軌道で太陽の周りを公転する惑星で、地球と似たような大きさであることが分かってきました。しかし、厚い雲のベールに覆われた金星の地表については謎のままという状態が続き、1950年代には金星は地球の熱帯のような環境であると予想する科学者もいたようです。
もちろん彼らの予想は大外れ。金星の環境は当時の科学者の想定をはるかに超えるほど過酷であり、人間はおろか、着陸させた探査機を満足に作動させることさえ難しいほどでした。2022年現在、金星の地表で最も長く活動した探査機は旧ソ連のベネラ13号であり、その記録はわずか127分。仮に現代の技術を総動員したとしても、金星の環境に耐えることのできる探査機の開発は困難を極めます。
そのような話を聞くと武者震いが止まらないのではないでしょうか。とはいえ、太陽や地球のコアに落下を経験済みなのであれば、金星の地表程度の環境など余裕を通り過ぎて退屈すぎるほどですよね。もったいぶらずにさっさと行ってらっしゃい。
最近なんかしんどいんだよな。共感してくれる人いる?ああ、とりあえず行ってきます。
落下を開始するあなたの前に現れるのは、直径1万2000kmの真っ白な球体。多くの人間は金星と聞くと黄色やオレンジ色を連想することが多いようですが、実は金星は可視域では白く見えるのです。よく見る黄色の金星の画像は、レーダーによる観測データを示したものか、紫外線で観測した画像を人工的に着色しているもののどちらか。あなたたち人間の目で得ることのできる情報など、全体のほんの一部に過ぎないのです。
白い惑星に近づいていくと、金星の分厚い大気の中に突入します。地表からの高度150kmの段階では温度は0°。意外と心地よいかと思いきや、圧力は1/億気圧。つまり気圧はないも同然。仮にバイエンススーツを解除した場合、あなたは酸欠により15秒以内に気を失い、3分以内に静かな死を迎えるでしょう。
その領域では落下するごとに温度が低下し、高度90km時点でマイナス100°になります。この時の圧力は1/気圧程度。地球の上空と環境が似ていると思うかもしれませんが、金星の大気の大部分は二酸化炭素。この影響により落下すればするほど地球との共通点が薄れていきます。
そこから20km程度、高度70km付近まで落下すると霧のような雲が見えてくるでしょう。この雲は地球のように水ではなく、なんと75%以上が硫酸で構成されていると考えられ、雲の下から宇宙を観測することを非常に困難にしています。最後になるかもしれないのですから、今のうちに太陽の姿を目に焼きつけた方がいいかもしれません。もちろん風速100mを超える暴風にあなたが耐えることができたらの話です。
とはいえ、太陽系内の他の場所と比べると、この付近の環境は生命にとって優しいものであることが指摘されています。高度60kmの時点では温度が0°、圧力は1/1気圧程度となり、そこから高度45km程度まで温度は100°を上回ることはなく、圧力も高くて1気圧を少し超える程度。一見問題になるように思える硫酸の雲ですが、逆に言えば微量の水が存在するということの裏返しです。
何を隠そう、金星の上空50km付近は、人類が地球を離れて宇宙に移住する時の有力な候補先の1つなのです。分厚い雲の影響で紫外線や宇宙線などの放射線の影響を受けにくいことや、硫酸や二酸化炭素から酸素や水を作り出せることなどから、この付近に巨大な気球のようなコロニーを浮かべるという構想が存在します。実際に移住することを考える場合、いくつかの側面では火星をも圧倒するほどの好条件であるため、将来は金星人が誕生しているかもしれません。
さらに言うと、すでに生命が存在している可能性はないのか。2020年には、生命活動以外では大気に大量に存在することはないと考えられたホスフィンという物質に由来するシグナルが金星の大気で発見され、地球外生命体の証拠ではないかと騒がれました。残念ながら現在ではその研究チームの解析方法が間違っており、実際はホスフィンではなく二酸化硫黄だという見方が主流になってきていますが、金星上空の環境は科学者をもざわつかせるほど生命に適した環境であることは間違いありません。
高さ50km付近に紫外線を吸収する正体不明な何かが存在することからも、金星の生命の探索はまだしばらく期待できそうです。一方で、生命活動のためにはいくら何でも水が足りなさすぎるという研究や、高温かつ強酸性という両方の環境に耐える微生物は地球上では見つかっていないことから、生命の存在を疑問視する声があるのも事実。
そして何よりあなたはただ落下して通り過ぎるだけの存在であるため、微生物にとって適した環境かどうかなどどうでもいいのです。空気抵抗の大きい姿勢を取らずに、さっさと地表まで落ちなさい。
おっとお待ちかね。ここから先は金星の恐ろしい環境があなたに牙を剥くことになります。40km付近で雲の下層を抜け出すと、硫酸の雨が降る層に突入します。温度は100°を超え、圧力も見る見る上昇。しかしこの硫酸の雨も高さ30km付近で蒸発し、地表に届くことはありません。あなたは上昇する温度と圧力を孤独に感じながら地表に降り立ちます。
温度460°、圧力90気圧。大気の96.5%が二酸化炭素で3.5%が窒素。あなたたち人間はこれがどれほど過酷な環境かは想像すらできないでしょう。鉛や亜鉛など地球では固体で存在する物質もドロドロに溶けてしまい、地表付近から蒸発した硫化鉛や硫黄の化合物が、温度の低い山頂付近にまるで雪のように降り積もります。
地表付近の風は強くても風速2m程度ですが、大気自体が水の6.5%程度の比重を持つため、人間は風上に向かって歩くことができないかもしれません。そして大気が熱いため物体に熱を伝えやすく、仮にバイエンススーツを解除したら、わずか数秒でこんがり焼けました状態になることでしょう。太陽系随一とも言われる過酷な環境は伊達ではありません。
金星の1日の長さは117日。地球上の時間で2ヶ月ほど続く昼でも分厚い雲に覆われて太陽が顔を出すことはなく、太陽との距離は金星の方が近いのにも関わらず、明るさは地球の曇りの日程度。長い夜でも気温は2度も下がらないと考えられ、あなたは薄暗い灼熱地獄の後に真っ暗な灼熱地獄を経験することになります。
なぜ地球が水と生命に溢れた惑星になり、金星が死の惑星と化してしまったかについては、金星には磁場が存在しないため太陽風から水を守ることができなかったという説や、単純に太陽からのエネルギーを多く受けたため、温室効果のある水蒸気が大気中に放出されすぎたという説など、様々な仮説が存在します。いずれにせよ暴走する温暖化により、金星の地表付近は生命など存在できないような環境に変わってしまったと考えられています。
一方地球では、数十億年スパンで進行中の太陽の光度の上昇によって気温が上昇し、10数億年後には今の金星と同じような環境になっていると考えられています。そこまで待たなくても、現在とある二足歩行の猿の一種が考えなしに大気中の二酸化炭素濃度を上昇させているおかげで、より金星化が早まるかも。金星がどのようにして今の姿に変貌したのかを知ることで、最悪の事態を回避できる可能性があります。
そこのあなた、人類の未来のために協力していただけませんか?金星にプレートテクトニクスは存在しませんが、3億年から5億年前に突然地表が全て塗り替えられたような大事件が起きたそうです。プレートテクトニクスの消失が磁場の消失も招いたという説もあり、金星と生命の歴史を紐解く重要な手がかりになる可能性があります。次の大事件が発生するまで金星表面で待機し、地表が塗り替えられる様を調査してください。次はいつかって?5000万年から5億年後という推定があります。地球人の役に立つためなら、このくらいの辛抱余裕ですよね。
たまったもんじゃねえ。逃げるが勝ち。ああ、疲れた。年のせいか。あれ?スーツの調子が悪いぞ。ええ。
水星。太陽に最も近い軌道を公転しているこの小さな惑星は、おそらく一番存在感のない惑星であることは間違いないでしょう。特に面白みがなさそうな灰色の表面。天体に落下する際に落下者を最も苦しめる大気が存在しない。しまいには小天体の彗星と間違えられることもあるほど。
小さく哀れでひっそりとしたこの星に、本日はスポットライトを当ててあげましょう。地球人の皆様に少しでもこの水星について知っていただくチャンス。生贄となるのはもちろん彼。水星に落ちると人間はどうなるのでしょうか?水星は見た目通りのつまらない星なのでしょうか?今回は水星に落ちるとどうなるのかについてご紹介したいと思います。
冥王星が惑星の定義から外れた今、水星は太陽系で最も小さな惑星です。その半径は2400kmと地球のおよそ38%であり、半径およそ2600kmの木星の衛星ガニメデや土星の衛星タイタンよりも小さいことが明らかとなっています。その一方で、平均密度が1立方センチメートルあたり5.4gと惑星の中では地球についで2位であるため、水星よりも大きなガニメデやタイタンと比較して質量は2倍以上あります。
また2022年現在、水星を訪れた探査機は、1974年に最初のフライバイを行ったマリナー10号、2011年に水星の公転軌道に入ったメッセンジャー、そして2021年にフライバイを行い、2025年には水星の公転軌道に入る予定のベピコロンボの3機のみ。これは水星よりも火星や木星の方が優先順位が高いと考えられているからかと思いきや、実は単純に水星に到達する難易度が高いためです。
当然ですが、地球から水星に到達するためには太陽に近づかなければいけません。しかし太陽に近づくと重力の影響で速度が上昇してしまい、小さな水星に到着する頃には速すぎて通り過ぎることしかできないのです。これを防ぐためには、天体の強大な重力を利用して探査機の速度を変化させるスイングバイを利用せざるを得ないため、地球と水星は距離が近いのにも関わらず、ミッションを進めるには時間がかかるのです。
実際ベピコロンボの場合は、地球スイングバイを1回、金星スイングバイを2回、そして水星スイングバイを6回繰り返して、打ち上げから7年でようやく水星の公転軌道に入る予定となっています。とはいえ我々バイエンスは、地球人の苦労を尻目に水星に到達することが可能です。途中で投げ出したくなるような複雑な軌道計算も、針の穴を通すような絶妙な軌道調整ともおさばです。惑星に限らずどこかに落下したいと思うことがあれば、是非この特別なスーツをお買い求めください。
こんなつまらない惑星、ちゃっちゃと終わらすぜ。残業代しっかり出してくれよ。
さてお待ちかねの落下開始です。灰色の球体である水星に向かって落ちていきましょう。水星に近づいていくと、地球の月と同じようにクレーターで覆われていることが確認できます。水星には大気がほぼ存在しないため、数十億年前のクレーターも風化せずほぼそのまま残っていることもあります。この星は大気が存在しないため、落下中は大変お見苦しい時間となってしまうことをここで謝罪いたします。
また仮に水星表面に探査機を設置する場合は、この段階でロケットを逆噴射して落下速度を抑える必要があります。しかし視聴者を楽しませる必要があります。実験台の彼にはそのまま水星の重力に引かれて、減速なしでそのまま水星表面に衝突させます。これで許してください。バイエンススーツさえあればこの程度全く問題ないはず。
ち、減速はしないのか?
水星表面に到着したようです。大気圧は地球の200兆分の1以下と、ほぼ存在しないと言っていいでしょう。温度についてはあなたがどこに落下したかによって大きく異なります。仮に水星が太陽に最も近い時の、太陽が最も高くなる時間に赤道付近に落下したならば、表面温度は427°にも達します。人間にとっては非常に高い温度ですが、意外にも金星の平均気温である464°には及びません。これは大気がほぼ存在しないことから、熱が宇宙空間に逃げてしまうためです。
その影響は夜になると身に染みて感じることでしょう。水星の夜には打って変わって平均温度はマイナス160°を下回ることが分かっており、水星は太陽系で最も表面の温度差が激しい惑星でもあります。水星の夜は88日間続くため、長い間暗闇に閉ざされた大地は熱を放出しきってしまうのです。当然夜空は真っ暗で、大気もないため星の瞬きもないでしょう。しかし運が良ければ金星と地球が眩しく輝き、その光によりほんの少しの影ができるほどになるかもしれません。
長く暗い夜が明けると灼熱地獄が待っているかと思いきや、実は必ずしもそうとは限らないようです。確かに最高温度は427°ではありますが、それは赤道直下で、しかも水星が公転軌道上最も太陽に近くなる時においてのみ。水星は全惑星の中で軌道が最も円形から遠く、最も太陽に近い時の太陽との距離は4600万kmですが、最も遠い時には7000万kmと1.5倍の差があります。そのため太陽から受け取るエネルギーも2.25倍の差があり、最も太陽から遠い時の最高温度は赤道直下でも280°程度だと考えられています。
さらに緯度によっても温度は大きな影響を受けます。地球の自転軸は公転軸に対して23°傾いており、これが地球に四季が存在する主な要因となっていますが、水星の傾きは0.03°。そのため水星の北極と南極は常にほんのわずかしか太陽からエネルギーを受け取ることができません。この影響により、太陽から最も近い惑星であるのにも関わらず、水星の北極や南極では最高温度が-16°と、太陽に最も近いにも関わらず地球の最低気温よりも低い可能性があります。
また水星の地形は複雑であり、クレーターだけではなく、大地に巨大なひびが入ったような地形や、まるで地球のカルデラのようにくぼんだ地形も存在します。これにより北極と南極付近には数十億年の間全く太陽光を浴びていない箇所も存在し、そこにはなんと氷が存在することが明らかになっています。その量なんと最大1兆トン。これは琵琶湖の水の量を軽く超えます。
水が存在するのはいいが、結局極端に暑いか極端に寒いかの2択しかないじゃないかと思いましたか。安心してください。実は水星の地下を1m程度掘るだけで温度は劇的に安定するようになります。中緯度地域の地下では、人間の活動にとって最適な22°付近を保っていると主張する研究が存在します。水星の重力も地球の38%と、小さな惑星にも関わらず重力は火星とほぼ同程度。そう考えると水星の環境も悪くないように感じてきませんか?
そう思ったのはあなただけではないようで、実は水星にあなたたち人間のためのコロニーを作る構想が存在します。大量に存在する氷は溶かして農業用の水にする他にも、水素と酸素に分解して燃料やコロニー内の空気へ利用することができます。太陽からの距離が近いため太陽光エネルギーも利用できるでしょう。また水星表面には過去の小惑星の衝突により、金や白金、コバルト、ニッケルなどの資源が表面付近に眠っている可能性があり、地球より小さな重力を利用してそれらを太陽系内に輸出することも考えられます。このように水星の地下は金星の上空と同じく、一部の条件では火星をも上回る太陽系内屈指の人気物件と言えるかもしれません。
お気に召していただけたようで何よりです。そういえばあなた、先ほど水星への落下と聞いてつまらないと言っていましたよね。仕方ありませんね。水星は他の人に譲りましょう。あなたにはもっと刺激的な物件がお似合いじゃないですか。さて、次はどこに突き落としましょうか。いや、失礼。どの物件をご紹介いたしましょうか?
砂上の楼閣という言葉をご存知でしょうか?いかに見かけが立派な建物であったとしても、砂の上に建てられていたら風や雨などで容易に倒壊してしまいます。一見到底壊れなさそうに見えるものでも、その基礎が不安定な場合があるものの例えです。これは地球の環境にも当てはまると聞くとどうでしょうか?破局噴火や小惑星の衝突、核戦争の勃発など、実は人間が享受している地球の環境は瞬く間に一変する可能性があります。
環境変化に対して脆弱な人類は、このリスクに対してどのような対策が打てるでしょう?それに対する答えの1つが、地球以外で人間が暮らす場所を確保しておくというものです。スペースコロニーという単語を聞いたことがあるかもしれませんが、それは文字通り宇宙に人間が移住するための施設のことです。もし人類がスペースコロニーを作ったとしたら、どのような施設になるのでしょうか?人類はどう変わっていくのでしょうか?今回はスペースコロニーを建設するとどうなるのかについてご紹介したいと思います。
冒頭で紹介した通り、スペースコロニーとは宇宙空間において長期間暮らすことのできる施設のことを言います。日本語ではスペースコロニーという単語が一般的ではありますが、英語圏においてはコロニーという単語が帝国主義や植民地を連想させるためか、この表現は敬遠されがちで、スペースセトルメントやスペースシティなどの表現を推奨している専門家もいます。
地球にもしものことがあった時、地球以外で人類が生き延びることができるようにする。それだけであれば、以前のバイエンスでも紹介した月や火星に基地を作るという方法でも達成可能です。しかし宇宙空間に作るメリットはいくつか存在します。例えば惑星や衛星は自転しているため必ず夜が存在します。夜の間は太陽光発電の利用が難しいため、エネルギー不足に悩まされることになります。特に月の場合は2週間ほど夜が続くため、文字通り始となるでしょう。その点宇宙空間であれば四六時中太陽光が降り注ぐため、ほとんど心配はいりません。
またスペースコロニーからの移動が楽という点も見逃せません。惑星や衛星の場合、脱出するためにロケットが必須になるなど、エネルギー源や搭載スペースが大きな課題となります。スペースコロニーの場合は惑星や衛星よりはるかに質量が小さいため、重力の影響はほとんど無視できる場合が多いです。スペースコロニーと地球が交流を持つ時に、その差は重要となってくるでしょう。
しかし逆にこの微小重力が、スペースコロニーの設計に制限を加えることになります。人類を含めた地球上の生物は地球の重力を前提として設計されており、微小重力環境下では様々な不都合が生じます。例えば国際宇宙ステーションにて長期間過ごした宇宙飛行士は、日々専用のトレーニングを積んでいるのにも関わらず骨密度や筋肉量の低下が著しく、地球に降り立ってすぐには歩けないほどです。そのためスペースコロニーの構想案では、遠心力により重力を再現するものがほとんどです。
その歴史は古く、1929年にはバナールという直径500mの球の中身をくり抜いたような形のスペースコロニーが提唱されています。人々はその球の内側に暮らし、この球が毎分1.9回転すれば、赤道上では地球の重力と同じ下向きの力が生じることになります。もちろん赤道から離れるにつれて重力が斜め向きにかかっていくことになりますが、球の場合は空気を内部に留めることが容易であることや、放射線を遮るための防御壁が少なくなるなどの利点があるようです。
円筒型の構造も提案されており、代表的なものはオニールシリンダーと呼ばれています。これは直径8km、最大全長32kmであり、1分間におよそ0.5
回転し、重力を再現します。円筒型は居住空間に対し必要な物資の量が少なく済むことが利点です。
またドーナツ型のスペースコロニーも提案されており、代表的なものはスタンフォード・トーラスと呼ばれています。トーラスでは直径1.8kmのドーナツ型の構造を1分間に1回転させ重力を再現するとしています。こちらは必要な物資は多いものの、宇宙船とのドッキングなど回転していない部分を設けるのが容易というメリットがあります。
このように古くからスペースコロニーの構想は提案されてきました。しかしご存知の通り未だにスペースコロニーと呼べるものは作られていません。国際宇宙ステーションが最も近いですが、そこに移住する人間はおらず、物資もほぼ全て地球から調達しています。現在の人類の科学力では遠い夢ではありますが、もしスペースコロニーが建設されたらそれはどのような手法となるのでしょうか?
現状スペースコロニーを建設するにあたって最も大きな障害となるのが建設するための物資の調達です。スペースコロニーを建設するためにはまず資材を宇宙空間に送る必要がありますが、ロケットを用いて地球から全て打ち上げるのは非現実的です。地球の重力を振り切るためには大量の燃料が必要となるため、地球から完全に脱出したとは言い難い高度2000km以下の低軌道でさえ1回の打ち上げで送ることのできる物資はせいぜい140tまで。国際宇宙ステーションは太陽光パネルを除くと全長およそ100mしかありませんが、重量は400tを超え稼働まで10年もの歳月がかかっています。
そのためスペースコロニーを建設する前に月や小惑星に基地を設置し、そこから物資を送るという方法が考案されています。地球と比較すると重力が少なく大気もないため物資を宇宙空間にまで送るのは格段に楽になります。また小惑星は金属などの資源を多く含むものもあり、月の表面には氷が存在することが明らかとなっているため、建設用の資材も人間が暮らしていくための品も手に入ることとなります。
スペースコロニーでの生活はどのような様子になると思いますか?最初のうちは難しいかもしれませんが、水や食料を地球から輸送しなくともやっていけるような仕組みが必須となります。そのためコロニー内は居住区と食料を生産する区域に分けられ、さらに全ての物質を内部でリサイクルし、循環させるようなシステムが構築されるでしょう。特に水は飲料水や農業用水だけではなく、宇宙空間を飛び交う放射線に対する防壁としても有用です。
またコロニーの位置を惑星や衛星から十分離れた場所に設置すれば、常に太陽光パネルで発電できるようにすることも可能です。そのためコロニーには外壁の内側に水の壁が設置され、太陽光パネルから得たエネルギーにより照明や循環システムが維持されることとなります。これによりコロニー内の気候を完全に制御できるため台風や地震などに悩むことがなくなるという利点があります。
時には地球からの観光客を受け入れることもあるかもしれません。彼らにはコロニーならではのアトラクションを楽しんでもらうことが可能です。例えば微小重力環境のプールで泳ぐことなどはいかがでしょうか?コロニーは遠心力により地球の重力を再現しているため、意図的に回転しない場所を作ればそこは微小重力空間。地球上では味わうことができない新感覚アトラクションとして売り出すことができるでしょう。
観光以外でも微小重力は科学技術において重要な意味を持ちます。地球の重力下では不可能な建造物はもちろんですが、微小重力はタンパク質の結晶を大きく成長させるのにも適しています。タンパク質の構造を突き止めることは現代のバイオテクノロジーにおいて重要な役割を果たしますが、微小重力環境下で成長させたタンパク質の結晶は欠陥が少なく1つ1つの結晶が大きいために分析しやすいという利点があります。
残念ながら以前のバイエンスでも紹介した火星への移住と同じく、やがてスペースコロニーに住む人は地球に住む人間とは別の存在として自身を認識することとなるでしょう。それは人類の歴史で植民地とした地域が独立を遂げたのと同じ理屈です。しかしこれは人類が超長期的に存続するためには必要なステップであると言えます。
全人類がエネルギー源としている太陽の寿命は50億年。もし人類がそれ以降生き延びることを望むのであれば、現実的にはスペースコロニーのような施設の中で暮らしながら何世代にもわたってゆっくりと他の恒星を目指すこととなります。地球という砂上の楼閣に囚われてばかりいるといつかそれは崩れ落ち、後には塵が残るのみ。悲しいことですが、いつか人類は宇宙船地球号に別れを告げ、無限の宇宙へと旅立つ必要があるのです。
光の速さはおよそ秒速30万km。1ナノ秒あたりおよそ30cm進む計算になり、これは30cm離れた物体を見た際、1ナノ秒前の姿を見ていることになります。同じように太陽なら8分前。太陽系から最も近い場所にある恒星のプロキシマ・ケンタウリでは4年前。最も近い銀河であるアンドロメダ銀河の場合は250万年前の姿を人類は目にしています。現在では科学力の進歩によりおよそ138億年間宇宙空間を進み続けた光も観測することができるようになりました。この光こそ現在地球で観測できる宇宙の端っこということになります。
宇宙の端っこに何があるのか気になりませんか?そこに行ってみると何が起きるのでしょうか?そして宇宙の端のさらに先の光景はどうなっているのでしょうか?今回は宇宙の端に行くとどうなるのかについてご紹介したいと思います。
宇宙の年齢はおよそ138億年。そのため先ほど紹介した宇宙の端は地球からおよそ138億光年離れていると考えるかもしれません。しかし実際には宇宙の端はおよそ465億光年離れています。計算が合わない理由は宇宙自体が膨張しているためです。詳しい原因は未だに分かっていませんが、宇宙全体は風船が膨らむように大きくなっているため、重力の影響が及ばない遠い距離にある物体は全て遠ざかっているのです。間に存在する空間が大きくなるため、距離が離れていれば離れているほどより速く遠ざかっているように見えます。
光が138億年にわたる宇宙旅行をしている間、光を発した場所も遠ざかり続けているため、138億年前に光を発した天体は現在では地球からおよそ465億光年離れているのです。この138億年前の光は宇宙マイクロ波背景放射と呼び、ビッグバンからおよそ37万年後に発生した光であると考えられています。それ以前の宇宙では温度が高すぎて光が陽子や電子などに邪魔されるため、光はわずかな距離しか進めなかったという時代がありました。ビッグバンからおよそ37万年後には宇宙の温度がおよそ摂氏を下回り、電子と原子核が結合して原子を形成するようになったため光が自由に進めるようになりました。そしてその時の光こそが今人類が観測している宇宙の端なのです。
さてこの宇宙の端っこに今行ってみると何が起こるのでしょうか?バイエンススーツがあれば465億光年の移動など瞬時に可能でしょう。皆さんの想像を絶する世界が広がっているのでしょうか。ワクワクしますね。
おっと、無事移動できたようです。おや、あまり変わり映えがしませんね。皆さんの住む天の川銀河と同様ではないものの似たような銀河が存在します。もしかするとその中にも地球に似たような惑星があるかもしれません。地球と逆方向にできる限り遠くまで見渡してみても地球から見た風景と見分けがつかないほどよく似ています。最後に見えるのは地球から見た宇宙マイクロ波背景放射とほぼ同じ138億年前の光です。
これは一体どういうことなのか?実は地球から観測することのできる宇宙というのは宇宙全体から見るとほんの一部なのです。地球から見た宇宙の端は138億年前のその場所で発生した光がちょうど今の地球に届くような場所であるというだけのこと。宇宙全体にとっては何も特別でない、何の変哲もない場所です。残念ながらあなたたちは宇宙を少し侮っていたようです。
仕方がありません。それでは1方向に進み続けて宇宙の端に到達することを目指しています。こうすれば時間はかかるかもしれませんが、いずれは宇宙の端にたどり着けるはずです。早速出発しましょう。地球から465億光年離れた場所から地球と反対方向に向かって進むことにします。宇宙の端までの距離はどのくらいなのでしょうか?広い宇宙のことなので1兆光年や1京光年もあると予想するかもしれません。しかし宇宙は人間の想像をはるかに超えた領域。なんといくら1方向に進んでも宇宙の端には永遠に到達しないのです。
現在では宇宙にはそもそも端など存在しないというのが定説となっています。これには時空の曲率、すなわち空間そのものがどの程度曲がっているかが密接に関係しています。アルベルト・アインシュタインの相対性理論によると、重力とは物体を引き寄せる力ではなく、空間を曲げる能力であるとのこと。例えば地球が太陽の周りを回っているのは、太陽によって曲げられた空間中をまっすぐに進んだ結果回っているように見えるのです。これは物体だけではなく光にも当てはまります。
もし宇宙の曲率が0以下であれば、宇宙は無限大に広がっていると考えられます。人間であるあなた方がイメージしやすいよう2次元に例えると、曲率が0の場合は空間は1枚の紙のように平たく、それが無限大に広がっています。曲率が0より小さい場合、空間は馬の鞍のような形をしており、それも無限大に広がっていきます。一方、曲率が0より大きいと宇宙全体はまるで球の表面のようになっていると考えられます。この場合は宇宙の大きさ自体は有限であるものの、一方向に進み続けるとやがて元の場所に戻ってくるというものです。
残念ながらいずれの場合でも宇宙に端っこなど存在しないということになります。曲率が0以下なら宇宙の端を目指しても永遠にたどり着きませんし、曲率が0より大きいなら進み続けてもやがては元の場所に戻ってきてしまいます。焦って出発したのが仇となったようです。地球から随分と離れてしまいました。宇宙の曲率が0以下であれば引き返すしかありませんが、ここまで来たら曲率が0より大きい可能性にかけて進み続けて地球に戻るという方法に切り替えた方がいいかもしれません。どの程度進めば地球に戻ることができるのでしょうか?
残念でした。現在では宇宙の曲率はほとんどゼロであるということが分かっています。先ほど紹介した宇宙マイクロ波背景放射の画像を見てみると、赤い部分が温度の高い場所、青い部分が温度の低い場所になります。ビッグバンから37万年後の宇宙の状況から、この温度が高い部分と低い部分の領域の大きさは理論的に計算可能であるため、地球から見てどの程度の大きさに見えるかも計算ができます。もしこの宇宙に曲率があり、空間が曲がっているとすると光も曲がるため、温度が高い場所と低い場所の大きさは実際と違った大きさに見えるはずでしょう。しかし地球から観測できる領域の大きさと理論的な領域の大きさを照らし合わせるとほぼ一致するという結果が得られています。つまり宇宙全体の曲率はほとんど0ということになるのです。
なぜこうなっているのかは未だ解明されていませんが、そういう宇宙にあなた方が暮らしているのだけは確かなことです。大人しく引き返しましょう。悔しいですが、いくら進んでも宇宙の端っこには到達できないのです。え、地球の方向を忘れてしまった?あちゃ、私はお先に帰りますよ。
宇宙は人間の想像をはるかに超えるほど巨大です。地球は太陽系のほんの一部に過ぎませんし、太陽系も天の川銀河の中に存在しています。その天の川銀河もおとめ座銀河団に所属し、おとめ座銀河団もラニアケア超銀河団の一員というように、宇宙全体の中では天の川銀河でさえ本当にちっぽけな存在なのです。超銀河団が集まると銀河フィラメントとなり、銀河フィラメント同士の間にはまるで宇宙にぽっかりと穴が開いてしまったかのように銀河の数が極端に少ないボイドと呼ばれる空間が広がっていると考えられています。
もしあなたたち人間をボイドの中へ連れて行ったら何を体験するのでしょうか?この宇宙で最も孤独な場所への旅にあなたをご案内します。今回は超空洞ボイドに行くとどうなるのかについてご紹介したいと思います。
冒頭紹介したように銀河が集まって銀河団を形成し、銀河団が集まって超銀河団を形成するというように宇宙は階層構造になっています。この宇宙で最も大きな構造は、銀河の密度が少ない広大な空間であるボイドの境界線上に、銀河フィラメントと呼ばれる超銀河団が繊維や壁のような形に集まっているものです。ちょうど水面にいくつもの石鹸の泡が浮いているようなイメージ。難しいですね。宇宙最大の構造という名に恥じず、その大きさはもはや想像するのも難しいほどです。天の川銀河の直径がおよそ10万光年なのに対し、天の川銀河が所属するラニアケア超銀河団の直径はおよそ5億光年。そしてラニアケア超銀河団が所属する銀河フィラメントの長さはおよそ16億光年です。
ボイドの大きさはというと、球に近い形をしているものが多くその大きさは大小様々。多くのボイドは直径3000万光年から3億光年程度ですが、中には直径10億光年に迫るものも発見されています。
ではそのボイド内の環境はどれほど物質の量が少ないのでしょうか?仮に地球上であなたが空いたコップを目にしたら、そのコップには何も入っていないと表現するかもしれません。しかし実際にはそのコップは空気の分子で満たされており、その数は1立方mあたりおよそ2.5×10の25乗、つまり25個にもなります。それに対して宇宙空間の分子や原子の数はそれよりはるかに少ないことが知られています。星と星との間、つまり銀河の中の空間の原子の数は1立方mあたり10万個から100万個程度だと考えられています。思っているより多いと感じるかもしれませんが、地球の大気と比べるとから系の密度です。そして銀河系の外では物質の密度はさらに低下し、1立方mあたり原子がなんと1個以下だと推定されています。銀河と銀河の間の空間には物質はほぼ存在しないと言っても過言ではないのです。
銀河フィラメント内では銀河同士の距離は平均100万光年程度だと言われています。それに対しボイド内では銀河の密度が1/1を下回ることもあり、例えばうしかい座ボイドという直径2億5000万光年のボイドの中には銀河はわずか60個しか発見されていません。天の川銀河の周りには直径300万光年の球形の領域の中に20個を超える銀河がひしめいており、その密度を当てはめるとうしかい座ボイドの大きさの空間には銀河の数は1万個程度存在してもおかしくないのにも関わらず、たったの60個。実際2014年の研究では、この宇宙の体積の77%はボイドが占めていますが質量は15%程度に過ぎないと推定しています。要するにボイドは、銀河の数が少なく物質がほぼ存在しないような空間が想像もつかないほどの距離の間広がっている、正真正銘の何もない空間ということです。
それを聞いてますますボイドに移動してみたくなりましたか?前回訪れたポイント・ネモなど赤子同然。まさにこの宇宙における究極の孤独を味わえることでしょう。通常であれば光の速度でも最低数百万年かかるような距離ですが、バイエンススーツがあれば一瞬であなたをボイドのど真ん中に追放、いや失礼、送り届けることが可能です。それでは良い旅を。行ってらっしゃい。
あなたが放り出されたのはとあるボイドのど真ん中。ここには天体観測の天敵であるまばゆい光がどの方向にも存在しません。何もない空間なのですから、せめて上下左右前後とあらゆる方向に広がる満天の星空を堪能しよう。そう思いましたか?楽しみにしているところ悪いですが、ボイドの中心から見た景色は高い確率で真っ暗でしょう。
考えてみてください。地球から見た星空は天の川銀河内の星が光を放ち、それをあなたの目と脳が光と認識したものです。そして肉眼で見える星のほとんどは地球から数千光年以下の距離であることが知られています。1つの星ではなく、1兆にもなる星の集合体である銀河であれば、さらに距離があっても肉眼で見ることができますが、それも期待しない方がいいでしょう。地球から最も近い銀河は、星の数が少ない矮小銀河を除くとアンドロメダ銀河であり、その距離はおよそ250万光年。アンドロメダ銀河は地球上からも条件が良ければ肉眼で見ることができるため、ボイドの中で同じ距離にアンドロメダ銀河が存在したら余裕で見ることができるでしょう。しかしアンドロメダ銀河の次に近い銀河は三角座銀河と呼び、その距離はおよそ300万光年。三角座銀河はアンドロメダ銀河より小さいこともあり、人間の肉眼で見るには限界に近い明るさだと考えられています。何が言いたいかと言うと、人間の肉眼で見ることのできる銀河はせいぜい数百万光年以内だということです。
私がボイドの直径を説明していた時に居眠りなどしていませんでしたか?多くのボイドの直径は3000万光年から3億光年程度。大きいものはそれ以上と紹介しました。ああ、ボイドのど真ん中に放り出されたあなたには、満天の星空を楽しむどころか光の点の1つですら見えない可能性があります。運が良ければボイドの中心付近に存在する数少ない銀河の光を見ることができるかもしれませんが、その一筋の光以外はどの方向に目を向けたとしても深い闇が広がるばかりでしょう。
ボイドへの旅に興味を持ってしまったばかりに、一点の光さえない暗闇の世界に迷い込んでしまったようですね。もうボイドなんて寂しい世界には金輪際関わりたくない。そう思いましたか?仕方ありませんね。あなたのそのわがままもバイエンスの力で叶えて差し上げましょう。
その前にボイドについてこんな話をご存知ですか?ボイドの定義は周囲の空間より銀河の密度が小さい空間ですが、残念ながら実際の宇宙空間ははっきりとボイドとそうでない空間に分けることができないものです。先ほども紹介したように、数は少ないもののボイドの内部にも確かに銀河は存在しています。そのためあるボイドを発見したと発表されたとしても、それは果たしてボイドと定義していいのかどうか論争が始まることがよくあります。
そして今あなたたち人間が暮らす天の川銀河も、直径20億光年にもなる巨大なボイドのほぼ中心に位置すると主張する研究が存在します。提唱した3人の研究者の頭文字を取ってKBCボイドと名付けられたそのボイドにはもちろん反対意見も存在しますが、ひょっとしたらボイドは意外と身近な存在なのかもしれません。
さてお待たせしました。確かあなた、ボイドとは絶対に関わりたくないと言っていましたよね。仕方ありませんね。それでは天の川銀河から遠く離れた遥か彼方の銀河フィラメントに送り届けて差し上げましょう。礼には及びませんよ。それでは今度こそ良い旅を。
日本から見て地球の裏側。すなわち地球上で最も遠い地点はブラジルと言われています。日本からブラジルに行くには飛行機を使うことが最も早くたどり着く手段ですが、どのルートを通るにしても24時間以上かかってしまいます。最新技術を用いたとしても、日本とブラジルのおよその距離である2万kmの道のりを超えるのは容易ではありません。
しかし冷静になって考えてみると、日本とブラジルの直線距離は2万kmより短いはずです。わざわざ遠回りしないといけないのは、人類が地球と呼ぶ直径1万3000kmの星屑が間に挟まっているだけのこと。その星屑に日本とブラジルを結ぶ穴を通せば距離も短縮でき、さらに重力を味方につけ移動することができるかもしれません。これが実現できればとても夢のある話でしょう。今回は日本からブラジルまで穴を掘ってその中に飛び込むとどうなるのかについてご紹介したいと思います。
早速真下に向けて穴を掘っていきましょう。地殻、マントル、外核、内核を掘り進め、地球の中心に到達する頃にはおよそ6400km掘り進めています。中心に到達すると、今度は逆の順番に同じく6400km掘り進めましょう。このトンネル工事の設計書がしっかりしているならば、海ではなく陸地に到達するはずです。
本来であれば地球の内部は人間からすると地獄のような環境であり、地球の中心温度は摂氏5200度、圧力は360万気圧にも到達すると考えられています。そのような環境の中、穴を掘り進め、さらに穴を潰さずに維持するという開通工事を可能にするバイエンスの技術力は非常に優れたものに違いないですよね。ね。
無事に日本からブラジルに向かって長さ1万3000kmほどの穴が開通できたようです。地球の重力により加速することができるため燃料も必要ないかもしれません。中では地球内部の熱にさらされますが、バイエンススーツの力をもってすればそれは些細な問題です。穴の壁面にぶつからないようにまっすぐ飛び込むことさえ意識すれば、ブラジルまでたどり着けるに違いないでしょう。それでは飛び込んでみましょう。
狙い通り最初は何もしなくともブラジルに向けてどんどん加速していきます。地球の重力に引っ張られ、穴に落ちていき、このままブラジルに到達するかと思いきや、東側の壁がどんどん迫っているのに気がつくでしょう。落ちているあなたにはどうすることもできず、やがて時速100kmあるいはそれ以上の速度で、まるで焼け石でできたおろし金のような壁面にすりつけられてしまいます。バイエンススーツを着用していなければちょっと痛そうです。
一体何が起きたのでしょうか?確かに壁面にぶつからないためにまっすぐに落ちたはずと思うかもしれません。この現象はコリオリの力によるものです。地球上の全ての物体は地球の自転軸の周りを同じ時間で回っており、例えば東京都ではおよそ時速1350kmで東向きに進んでいることになります。しかし、地球の内部は回転する半径が小さいため、一周する距離が短く、地表より自転による速度は遅くなります。穴に落ち始めた時点で東向きの速度は地表と同じだけついているため、地球の内部に侵入するに伴い見かけ上、横向きに移動させるような力が発生するのです。
思わぬ問題が発生しましたね。これを解決するためにはそう、自転軸自体を変えてしまえば良いのです。地球の自転軸を調整して日本とブラジルを結んだ線に変更してしまえば、コリオリの力を気にせずブラジルに到達できるはずです。地球の自転軸を変えることにより起こる天変地異は、ブラジルに早く到達するという目的と比べれば小さすぎる代償でしょう。
さて、再び穴に飛び込むことにします。同じように穴の壁面にぶつからないようにまっすぐ飛び込みブラジルを目指しましょう。コリオリの力の影響を考慮しなくても良くなったため、壁にぶつかる心配はありません。このままどんどん加速していきますと行きたいところですが、加速が徐々に弱くなっていき、やがて速度が一定になってしまいます。その速度は穴の中の気圧が地表と同じであると仮定するとおよそ時速200km。これは空気抵抗が速度の2乗に比例することにより、地球の重力がいくら下に引っ張っていても空気抵抗が大きすぎてそれ以上加速できなくなるためです。仮に道中をずっと時速200kmで進めたとしても、1万3000kmを進むには60時間以上かかってしまいます。そのためブラジルへのんびりとした旅を楽しむ必要があります。何も起きなければ丸3日ほどでブラジルに到達できるはず。道中で暇を潰す方法を考えましょう。
とはいえお楽しみのところ残念ですが、このままではブラジルに到達できません。地球の半径の半分ほど進んだ後、地球の重力が徐々に弱くなっていきます。重力は物体の質量に比例しますが、穴に落ちたら落ちた分だけより多くの質量が自分の頭上にあることになります。つまり自分にかかっている下向きの重力は弱くなっていくのです。地球の中心に到達した時点では全方向から働く重力が互いに打ち消し合い、完全な無重力となります。そこから先に進むと今度は逆向きの重力が働くようになります。時速100kmそこそこでは到底地球の反対側までたどり着くことはできず、やがて運動は止まり、再び地球の中心に向かって落ちてしまいます。そこからまるで減衰する振り子のように地球の中心を何度か往復した後、地獄のような環境である地球中心で止まり、あなたの旅、そして人生が終わります。地球の中心にある無重力を体験できるというのは興味深いですが、それが永遠に続くとなると話が変わってきます。
それでは穴の中の空気を全て抜いて空気抵抗をなくしてしまいましょう。頼みました、ミスターバイエンス。同じように穴の中に飛び込み加速を開始します。加速を阻む空気抵抗もないためどんどん加速していき、地球の中心に到達する頃には時速3万5000kmにもなっています。地球の中心を通りすぎると徐々に減速していき、ブラジルの地表に到達する際にちょうど速度0。なんと静止します。かかる時間は地球の内部の密度の変化を考慮するとおよそ38分。つまりはタイミングを掴むことができれば、日本からブラジルまでたった38分で燃料なしに移動することができるというわけです。
ブラジル側の穴の縁はちゃんと掴んでくださいね。掴まないとまた日本に向けて出発してしまいますよ。まあ38分後に日本に帰り、さらにまた38分かけてブラジルに戻ってくればいいだけですが、ブラジルまで簡単に行くことができるというのは興味深かったのではないでしょうか。
では他の国、例えば日本からオーストラリアやアメリカに向けて穴を掘り、その中に飛び込んでみたらどうなるのでしょうか?無事に向こう側にたどり着けるのでしょうか?この場合は重力が斜めからかかることになるため、穴の壁面を転がるように移動することになります。意外かもしれませんが、仮に摩擦がなかった場合、所要時間はどの場所でもおよそ40分になります。距離が短いほど所要時間は短くなりますが、重力の向きがより真下に近くなるため加速が小さく、その2つの影響がちょうど打ち消し合い、地球上のどの2点を結んだ穴に飛び込んでも所要時間はほとんど変わらないと考えられます。
10時間以上かかることも珍しくない飛行機での所要時間を考えると大きなメリットがあります。燃料もほとんど必要ありません。必要なことは以下の4点だけです。初めに地球に穴を開ける。次に地球の自転軸がその穴になるように調整する。そして穴の中を真空にする。最後に地球内部の熱と圧力に耐えられるスーツを開発する。こんな簡単なことなのになぜ地球人は行動に移していないのでしょうか?私が先に開通してビジネスにしてしまいましょうかね。では。
太陽からおよそ14億km離れた宇宙空間にその天体は存在します。地球のおよそ9倍の大きさを持つ巨大なガス惑星、土星です。有史以前より空を彩る惑星の1つとして親しまれてきた土星ですが、現代においては美しいリング、環を持つその優雅な姿が有名なのは言うまでもないでしょう。しかしリングは土星の特権というわけではありません。土星ほど目立つものではありませんが、木星、天王星、海王星は全てリングを持っていますし、準惑星のハウメアもリングを持つことが確認されています。火星に至っては過去に何度もリングを持っていた時期があると考える科学者も多く、リングを持つ天体というのは比較的ありふれた存在なのかもしれません。
そう考えると地球にリングがないのは少し寂しく感じませんか?もし地球が土星並の立派なリングを持っていたとしたら何が起きるのでしょうか?今回は地球に土星のような輪があるとどうなるのかについてご紹介したいと思います。
そもそも土星の輪はどのようにして形成されたのでしょうか?実はこの部分は現在においてもよく分かっていません。土星のリングの起源については、40億年以上前に土星の誕生と共に形成されたという説と、1億5000万年前以内の比較的新しい時代に形成されたという説の2種類が存在し、どちらの説も決定打に欠けているというのが現状です。いずれにせよ土星のリングが形成された背景には、その美しい見た目とは裏腹に文字通り1つの世界が破壊されるほどの悲劇があったと考えられています。というのも土星のリングは、かつて小さな天体が土星に近づきすぎた結果、土星の強大な重力によって引き裂かれ粉々に砕かれた成れの果てという説が有力となっています。このような出来事は現在より初期の太陽系においてはるかに起きる可能性が高かったため、土星の形成当初、40億年以上前にリングが形成されたと主張する根拠の1つです。
一方でリングの成分をよく調べてみると、ほとんどが細かい水の氷でできておりその表面は塵などの汚れが少ないことが明らかになっています。もし本当に数十億年前にリングが形成されていたのであれば、時間が経つにつれてリングを構成する氷のかけらに塵が付着し、現在で観測されるほど光を反射しないはず。この考えを元にすると土星のリングは土星誕生から存在していたとは考えにくく、極端な例ではおよそ1500万年前に形成されたと予想する研究例さえあるほどです。
それでは、土星のリングの未来はどうなるのでしょうか?望遠鏡で見たリングはまるで1つの構造体のように見えますが、実際のリングの正体は最大でも10m程度の細かい氷の粒の集合体です。そしてリングを構成する氷の粒は微小隕石や太陽風に常にさらされています。微小隕石との衝突はリングを構成する氷の粒の軌道を乱すことはもちろんのこと。太陽風も粒をイオン化させることにより土星の強力な磁場に粒が囚われるようになるため、どちらもリングから物質を絶えず奪っていく働きを持ちます。そのペースは1秒あたり400kgから3000kgほど。そのため多くの科学者は土星のリングはいずれ消えてなくなってしまうと考えており、予想に幅はあるもののおよそ3億年後には土星の輪は過去のものとなってしまう可能性があります。あの美しいリングが永久に失われてしまうことを考えるとバイエンスとしても悲しい限りです。
しかし冒頭で紹介したようにリングは土星だけが持つものではありませんし、他の天体がリングを持っていたとしてもなんら不思議はありません。もし地球が土星のようなリングを持っていたならどのような世界になるのでしょうか。
まずは土星のリングをそのまま地球に持ってきた場合のことを考えてみましょう。土星の輪は実は複数の部分から構成されており、Aリング、Bリングなどといった名前がつけられています。一般的には土星のリングのうちA、B、Cリングを合わせてメインリングと呼ぶことがあり、実際目立つのはその3つではあるのですが、その内側、そして外側にも薄いリングが存在するため、土星のリングは見た目よりも巨大な構造物と言えます。土星の半径がおよそ6万kmなのに対し、最も内側のDリングの内径はおよそ6万7000km。外側にあるEリングの外径はおよそ48万kmとなっています。
いざその巨大な構造体をそのまま地球に持ってきた場合、残念ながら2つの理由によりリングはすぐに消滅してしまうでしょう。まずは温度の問題。地球は土星と比べて太陽との距離が近いため、宇宙空間において水の氷は存在できずガスとなってしまうのです。ある物質が固体として存在できる境界線を雪線と呼び、水の場合は太陽と地球の距離の3倍ほど、火星と木星の間にあります。そのため仮に土星のリングをそのまま持ってきたとしても、水の氷で構成されたリングはすぐに揮発してなくなってしまうのです。
またリングの大きさも問題となります。地球の半径がおよそ6400kmなのに対し、最も内側のリングでもおよそ6万7000km。ここで土星のリングは小さな天体が近づきすぎた結果、引き裂かれて誕生したことを思い出してください。これは逆に言えば、リングが細かい粒の状態のままを保っていられるのは、土星の重力により天体が引き裂かれてしまうほど近い位置にリングが存在するということです。本来であればリングを構成する粒が重力で集まるはずであるのにも関わらず、そのような結果にならないのはこのためです。一方地球は土星と比較してはるかに重力が弱いため、土星と同じ大きさのリングを持っていた場合、リングの物質は重力により集まり、やがて衛星を形成すると考えられます。
というのもこの現象は地球の歴史上少なくとも1回は発生していると考えられています。数十億年前、地球に火星ほどの大きさの天体が衝突し、一時期地球にもリングができたと考えられます。しかしそのリングはやがて重力により集まり衛星を形成し、その衛星こそが現在の月なのです。
これらのことから、もし地球がリングを持つとすれば揮発しにくい岩石で構成されており、さらに土星のものよりはるかに小さなものになると予想できます。リングの物質が地球の大気圏を通過するような軌道の場合、急激に速度を失い地球に落下することも考えると、地球のリングの内径は最大でおよそ1万km、外径は最大で1万8000km程度というのが現実的でしょう。またリングの外側になるほど地球だけではなく月の重力の影響も受けるため、特にリングの外側部分はリングの濃さが地球からの距離に伴い周期的に変化するような構造となるでしょう。
さて、このようなリングを地球が持っていた場合、あなたたち人間を含む地球に住む生命に対し、どのような影響があるのでしょうか?リングも太陽光を反射するため、ほとんどの地域で昼夜問わず空に浮かぶ大きなリングを見ることができるでしょう。そのため地球は夜が真っ暗闇になることは決してないという惑星になります。もし現在の地球にこのようなリングがあった場合、月の満ち欠けにより産卵時期を決めるサンゴや、星空の明るさを使って方角を知るフンコロガシなどの生物にとっては一大事ではありますが、もし初めから地球にリングがあった場合、そのような生態を持つ生物はそもそも生まれてこないということも考えられます。
あなたたち人間の文明にとってはどうでしょうか?現代の地球にそのままリングができた場合には、人類にとって天体観測と宇宙開発が大きな打撃を受けることが予想されます。先ほど紹介したように夜が真っ暗闇になることはありません。そのため夜が暗いことが要求される地上からの天体観測にとっては非常に不都合。遠く離れた天体を観測するためには、人類は宇宙に望遠鏡を打ち上げることを余儀なくされるでしょう。とはいえ、宇宙に望遠鏡を送り込むのも難易度が上昇してしまいます。リングを構成する物質は地球の周りを秒速数kmで飛び回っているのです。そのような細かい岩石が打ち上げ途中のロケットに衝突したらどうなるか想像するのは難しくないでしょう。幸いなことにリングは主に赤道上空に存在することになるため、避けること自体は可能ですが、人類の宇宙開発に制限がかかることは間違いないでしょう。
一方、地上から見たリングは素晴らしいという他ありません。太陽、月、そしてリング。常に3つの天体に見守られることになる人類は、宇宙がより身近な存在に感じるようになる可能性はあります。これが宇宙開発の難易度の上昇と釣り合うかというと微妙なところではありますが、他の生物への悪影響も含めると、巨大なリングは土星の特権というままにしておいた方がいいのかもしれませんね。
想像してみてください。あなたが足を踏み入れるその一歩先には未知の世界が広がっています。遠くの地平線まで続く草食恐竜の群れが静かに草をはみ、空には巨大な翼を広げた翼竜が優雅に舞っている。そう、恐竜が繁栄していた時代、ジュラ紀の大地です。地球、この壮大なる舞台は46億年の歳月をかけて無数の生命のドラマを生み出してきました。今あなたたちが足を踏みしめるこの大地には、かつて存在し、今はもういない生命体たちのエコーが響いています。残念ながら彼らの多くは過酷な自然界の中で生き抜くことができず、そのロマンある姿では現在は存在していません。
誰もが子供の頃に夢に描く恐竜と共存する世界。科学の進歩によりクローン技術で彼らを復活させる試みも語られてきました。しかしその先にあるよりダイレクトな体験、タイムスリップはどうでしょうか?幸いなことに私たちはバイエンススーツを所有しています。ジュラ紀とはどのような世界なのでしょうか?生き延びることはできるのでしょうか?今回はジュラ紀にタイムスリップするとどうなるのかについてご紹介したいと思います。レッツラゴー。
地球の歴史46億年と比較すると、人類の文明の歴史はせいぜい1万年前後とあまりにも短いものです。そのためそれ以前の地球の歴史を語る時には、人類は歴史を地質時代と呼ばれる仕切りで区切っています。今回紹介するジュラ紀も地質時代の1つであり、参考までに現代は第四紀と呼ばれています。ジュラ紀はおよそ2億年前から1億4500万年前のことを指し、スイスとフランスにまたがるジュラ山脈でこの時代の地層が見つかったことから名前がつけられました。直前の三畳紀との境界は大量絶滅により定義され、直後の白亜紀との境界はまだはっきりとした定義は見つかっていませんが、やはり大量絶滅があったとも考えられています。
ジュラ紀といえば映画の名前にもなっている通り恐竜の時代という印象が強いでしょう。その認識は間違ってはおらず、三畳紀の後の大量絶滅の結果、他の大型の爬虫類と取って代わるように繁栄し、様々な種に分岐していきました。実際ジュラ紀に生息していた恐竜の中には有名なものも多い上に、さらに鳥類もジュラ紀で初めて登場したと考えられています。このようにジュラ紀にタイムスリップすることができれば、まるで映画のワンシーンのような光景が見えるかもしれません。
また恐竜の詳しい生態や成り立ちなど、現在でも分かっていないことも多く、人類の長年の疑問を解決できるでしょう。早速タイムスリップしなさい。
わしの計算によるとだな、ミスター、ここは1億年以上前のジュラ紀だ。
あなたが最初に心配することは、恐竜の代表格であるティラノサウルスに襲われることかもしれません。確かにティラノサウルスは全長14m、体重7tにも到達する可能性のある史上最大級の肉食恐竜であり、食物連鎖の頂点に君臨していたのは事実です。仮に人間が襲われたらひとたまりもないでしょう。ですが残念無念、また来年。ティラノサウルスが生息していたのは白亜紀のおよそ6800万年前。ジュラ紀の終わりが1億4500万年前ということを考えると、ティラノサウルスが出現するはるか前の時代に降り立ってしまったようです。むしろティラノサウルスを基準にすると、現代より遠い時代に来てしまいました。そのため少なくともティラノサウルスに襲われるという心配はないでしょう。
とはいえ大型の肉食恐竜自体は存在したため、注意は必要です。比較的有名な恐竜としては、全長10mにもなるアロサウルスは時速55kmで走ることができるという予想もあり、ティラノサウルスより一回り小さいとはいえ、人間にとっては十分脅威です。ジュラ紀に着いて早々、見つからないことを祈りましょう。
そして運良く大型の肉食恐竜に見つからずに済んだ場合、あなたはまるで映画の世界のような光景を見ることができるかもしれません。ジュラ紀では長い首を持ち、全長20mを超えるブラキオサウルスや、背中の板と尻尾の巨大なスパイクが特徴的なステゴサウルスなどが有名です。また恐竜ではありませんが、空には翼竜、海にはプレシオサウルスなども生息していたため、古生物のファンにとってはたまらないでしょうが、あなたは環境を忠実に再現した島を訪れた観光客ではなく、あくまで片道切符です。生きる術を考えなくてはなりません。
肉食恐竜は別にして、そもそもジュラ紀の環境であなたたち人間は生きていられるのでしょうか?ジュラ紀の環境はまだ完全には解明されてはいませんが、全体として現代より温暖であったと考えられています。その当時、地球の陸地はパンゲアという巨大な大陸が分裂を始め、現在馴染みのある大陸に分かれている最中だったのですが、今の時代で高緯度地域に見られる分厚い氷の板、氷床はほとんどなかったと考えられています。平均気温としても現代より5°から10°高かったと予想されるため、寒すぎて耐えられないという可能性は低いでしょう。
一方で二酸化炭素の濃度が現代より高かったと考えられています。ジュラ紀中にも大きな変動がありますし、そもそも予想するのが難しいのですが、現代のおよそ400ppmに対し、1000から2000ppm程度だったという試算が存在します。普段の生活で意識することは少ないですが、二酸化炭素にも毒性があり、一部の研究では1000ppm程度でさえ人間の知的活動が低下し、めまいや頭痛を引き起こす可能性があるとのこと。この程度の濃度の二酸化炭素の影響はまだはっきりとした結論が出ていませんが、体調の影響で恐竜との生活を楽しむどころではない可能性も考えられます。ですが、幸か不幸か、少なくとも呼吸に関しては致命的ではありません。
ということで、お次はジュラ紀で長い間生活するために食料を調達といきましょう。なんとジュラ紀においては、とある生物がほぼ存在しなかったことで知られています。その生物は本格的な登場以降、全世界に広がり勢力を広げ、他の生命を時に絶滅に追いやり、地上の環境を一変させてしまったことで有名です。もちろんその生物とは被子植物。冗談はさておき、現代の人間の食料の大部分は被子植物が担っています。米、麦、トウモロコシ、じゃがいもなどの主食はもちろん、果物や大部分の野菜も被子植物です。そのため食料調達に難儀することになるでしょう。
被子植物はジュラ紀において繁栄していた裸子植物やシダ類と比較して光合成の効率が良く、種子に多くのエネルギーを与える余裕があります。そのためジュラ紀では被子植物の代わりに裸子植物やシダ類を栽培して生活するというのは困難と予想されます。現代において被子植物以外の植物性の食材というと、松の実や銀杏、ワラビやゼンマイなど、それだけでお腹を満たすことは難しいと言わざるを得ないでしょう。
そのため他の動物を狩ることで食料を得る必要があります。ネズミのような小型の哺乳類、昆虫、小型の恐竜などであれば、あなたたち人間でもなんとか捕まえることができるはずです。強制的な低炭水化物ダイエットといえば聞こえはいいかもしれませんが、実態は有史以前の狩猟民族に戻っただけとも言えます。おや、もう心が折れましたか?ダメですよ。あなたにはジュラ紀の詳細な調査をしてもらう必要があります。長期滞在は必要不可欠です。恐竜に怯えながらのサバイバル生活、楽しんで。
1億年前、それは恐竜が地球上に広く生息し、哺乳類はその影に怯えながら生きていた時代でした。それに対し、現生人類であるホモサピエンスが誕生したのがおよそ30万年前。100年でさえ気の遠くなるように長い時間だと感じるあなたたち人類にとっては、その3000倍の30万年はもちろん、そのさらに300倍の1億年など想像することさえ難しいでしょう。過去1億年を振り返ると、恐竜の隆盛と小惑星の衝突による滅亡、ヒマラヤ山脈の誕生、そして人類の誕生と、様々な出来事が発生しました。
それでは、これからの1億年には何が待っているのでしょうか?残念ながら100年程度しか生きることのできないあなたたち人類は、その答えを知ることはできません。そんな皆様のために、バイエンスが遠い未来の世界を特別にお見せしましょう。1億年先に至るまでに、地球、そして宇宙で何が起きるのでしょうか?今回は1億年後の地球はどのような世界なのかについてご紹介したいと思います。
1億年どころか10年先の世の中でさえ予想するのが難しいことは、皆さんも想像はつくでしょう。現代における科学技術や社会情勢はまさに刻一刻と進展するためです。しかし、特に地球や宇宙の出来事については確実に分かっていることも多くあります。例えば今から年後、世代交代が30回ほど起こった人類にとって頭を悩ませる問題が噴出します。それは月の重力の影響で地球の自転が遅くなることで、1日がおよそ1/秒長くなってしまうのです。その程度であれば大したことないと思うかもしれませんが、うるう秒を毎月足しても追いつかないという事態に陥り、時差がある中で世界で時刻の統一を図るのが困難になるでしょう。この問題に対しては専門家でもなかなかいいアイデアが出せずにいるようです。
1万5000年後、この頃になると、今からおよそ1万年前がそうだったように、サハラ砂漠がサバンナになると推定されています。地球の自転軸は傾いており、それにより季節が発生することは知っている人も多いでしょう。しかし回したコマのように自転軸もゆっくりと移動しており、今からおよそ1万5000年後にちょうど反対になります。それだけであれば気候への影響は大きくありませんが、実はこれにより夏と冬で太陽と地球の距離が現在とは真反対になります。現在では北半球が夏の時、太陽と地球の距離は最も遠く、冬の時は最も近くなっていますが、1万5000年後にはこれが逆転します。これはすなわち北半球の夏と冬の差が今より激しくなるということ。影響を受けるのはサハラ砂漠だけではなく世界全体でしょう。
2万年後、ここまで時間が経過してようやく人類の負の遺産の1つが解消されます。1986年のチェルノブイリ原発事故により放射能で汚染された原発周辺。現代でも多くの場所で人が住むことができないほどですが、この頃になりようやくチェルノブイリ全域で放射線が問題ない程度にまで落ち着くと推定されています。とはいえ、この辺りからそもそも人類の生存が怪しくなってくるという予想もあります。過去の記録から推測すると、文明を崩壊させる可能性があるほどの大規模な火山の破局噴火は5200年から4万8000年の周期で発生しているという研究結果が2017年に発表されました。人類が農耕を発明して以来、幸いなことにそのような破局噴火は発生していませんが、それが仮初めの平和に過ぎないということは歴史が証明しています。
5万年後には地球に氷河期が到来すると予想されています。地球の自転軸が傾いているのは先ほど紹介した通りですが、その自転軸自体も周期的に変化しており、公転軌道と自転軸の傾きの影響が合わさることにより、北極と南極の氷が溶けにくくなります。それにより5万年後には地表の多くを氷が覆うようになると考えられています。一方、現在人類にとって大きな問題となっている二酸化炭素排出量の影響で、氷河期の到来がさらに5万年遅れるという試算もあるようです。
そしてこの頃になると夜空にも変化が現れます。太陽系に対して他の恒星は常に動いているように見えます。それは人間の一生のうちでは気づくことができないほどですが、数万年以上経過した上に地球の自転軸も変化するとなると、星空の様子は大きく変わっているでしょう。例えば現在全天で最も明るい恒星であるシリウスですが、およそ6万4000年後には南極星、すなわち地球上どこから見ても南の方角にある星として振る舞うようになります。
それだけでは地球にほとんど影響がないと思いましたか?それは失礼。それではこれから起こることを楽しみにしていてください。退屈などさせませんよ。まず変化するのは夜空だけではありません。正確な予測は困難ですが、1万年後から100万年後の間に、オリオン座のベテルギウスやさそり座のアンタレスといった星が超新星爆発を起こすことが確実視されています。その時には数ヶ月もの間、満月に匹敵するほど明るくなる可能性があり、昼でもその光を見ることができるとのこと。世紀の天体ショーを目撃できる人類は非常に幸運だと言わざるを得ませんが、超新星爆発は宇宙でも有数のエネルギーを誇る危険な現象です。
将来の地球の生命は超新星爆発でダメージを受ける可能性はないのでしょうか?一般的な超新星爆発では、およそ30光年以内の距離では生命に影響が出る可能性があると推定されています。それに対し、ベテルギウスやアンタレスまでの距離はどちらも数百光年。他の超新星爆発の候補も30光年以内にはありません。これでひと安心と思ったあなた、油断するのはまだ早い。一部の超新星爆発ではガンマ線バーストという強烈な放射線を狭い範囲に放出する現象が発生することがあります。このエネルギーは凄まじく、もし数千光年先のガンマ線バーストが地球に直撃した場合、オゾン層が破壊され、地表に紫外線が多く降り注ぐようになり、地球の生命が大打撃を受ける可能性があります。
8400光年先にWR104という恒星が存在します。遠すぎて肉眼では見えないこの星ですが、この星も100万年以内に超新星爆発を起こすと考えられています。そしてこの超新星爆発の際、ガンマ線バーストが発生し、地球に直撃する可能性が指摘されています。ガンマ線バーストの発生原理はまだよく分かっていない上に、地球に当たる可能性は低いのが実情ですが、もしかするとある日突然、地表が大量の紫外線に襲われるようになるかもしれません。
また超新星爆発以外にも注意すべきことがあります。現在太陽系からおよそ62光年離れた小さな恒星、グリーゼ710。なんとおよそ129万年後にグリーゼ710は太陽系に最接近し、その時の距離は0.17光年であると見積もられています。その時のグリーゼ710は全天で最も明るい恒星となり、時には木星に匹敵するほどの明るさを誇るようになります。そしてこの近すぎる距離が地球の生命にとって悲劇を生む可能性があります。
太陽系の軌道のはるか外、オールトの雲と呼ばれている領域では、太陽から1光年程度の距離まで、合計数千万個から1億個ほどの彗星が太陽の周りを周回していると考えられています。それらの彗星がグリーゼ710の接近により大きく軌道を乱されたとしたらどうなるでしょうか。多くは太陽系外へと弾き飛ばされますが、実は内惑星の方へと飛ばされるものも多数発生します。そのため100数十万年後には地球に多くの彗星が衝突し、生命が危機に瀕する可能性があるのです。
とはいえ、宇宙や生命の状況をよそに地球の地殻変動の営みは続いていきます。地殻変動の原動力は地中奥深くで絶えず対流するマントルの運動によるもの。例えば1000万年後、アフリカの東側が割れ、海の水が間に浸水することにより、アフリカ大陸が2つに分断されることとなります。しかし実はこれ以降の地殻変動の様子は予測が難しく、多くのモデルが存在します。例えば5000万年後には日本とハワイが衝突するという話を聞いたことがあるかもしれませんが、途中でプレートの移動方向が逆転する場合も考えられ、確かなことは言いにくいようです。
あるモデルを元に予測すると、5000万年後にはヨーロッパとアフリカ大陸が衝突。地中海は消滅し、現在のヒマラヤ山脈のような巨大な山脈が現在のペルシャ湾の位置まで形成されます。北米のカリフォルニアがアリューシャン海溝付近で沈み始め、オーストラリアはインドネシアに衝突。また南極大陸が北側に移動することにより、場所によっては2km以上も厚みがある氷床が全て解け、グリーンランドの氷床の融解と合わせて、世界の海水面が90mほど上昇すると推定されています。そのモデルにおいては、8000万年後には現在のハワイ諸島が全て海に沈み消滅。代わりに新たなハワイ諸島が生まれており、1億年後には南北アメリカとアフリカが再び接近を始めるとのこと。その後は2億5000万年後にパンゲア・ウルティマ大陸という、地球のほぼ全ての大陸が1つになった超大陸に向けて大陸が集合していくと推定されています。
1億年に渡る旅、いかがでしたか?あなたの旅はここで終わりですが、宇宙船地球号の旅はまだまだ終わりません。地球はおよそ50億年後、赤色巨星と化した太陽に飲み込まれるまで旅を続けることでしょう。地球上の生命も28億年後まで生き延びることができると推定する研究もあります。人間にとっては想像もできないほどの長い時間である1億年ですが、地球や生命の歴史を考えるとほんの一瞬の出来事です。地球の大きさ、そして人間のちっぽけさを感じながら、元の時代へと帰還することにしましょう。
1つの時代の終焉、そして新時代に移行するプロセスは、一般的には緩やかにゆっくりと進行します。移り変わりが激しい現代社会に暮らす人間であればともかく、この地球の歴史上、時代の境界線は明確ではないことがほとんどです。しかしその数少ない例外が、およそ6600万年前に存在するK-Pg境界。これは地球の歴史で中生代と新生代を分ける境界線です。ここでは1億5000万年以上栄華を極めた恐竜を含む、地球上の全生命のおよそ75%が絶滅したと考えられています。
多くの科学者は、その日地球に小惑星が落下し、それが大量絶滅の一因だったと考えています。いわば恐竜絶滅の日、地球の歴史を動かしたその運命の日には何が起きたのでしょうか?地球の長い歴史の中でも稀に見る大事件。あなたにその地獄を体験させてあげましょう。今回は恐竜絶滅の日には何が起きたのかについてご紹介したいと思います。
6600万年前の地球は現在よりも大気中の二酸化炭素濃度が高く、平均気温は5°から10°程度高かったようです。そのため恐竜は南極大陸を含めた全ての大陸に進出しており、繁栄の度合いが伺えます。この時期に生息していたその他の有名な動物といえば、翼竜、アンモナイト、ワニなど。後に人間へと進化する哺乳類も、かつては恐竜の影に隠れていたと考えられていましたが、近年においては実は様々な種類に進化していたという説も存在します。
そんなある日、現在のメキシコのユカタン半島沖に小惑星が衝突したと考えられています。それは世界中の地層を見れば明らかで、イリジウムという元素が多量に含まれています。イリジウムという元素に聞き馴染みはないかもしれませんが、それは地球の地表ではほとんど存在しないためです。イリジウムは重いため、地球が形成された際に下に沈んでしまったと考えられています。一方、小惑星には比較的多くのイリジウムが含まれています。巨大な小惑星が地球に衝突した場合、その年代に相当する地層に大量のイリジウムが残されるため、科学者たちはそれを手がかりに小惑星が衝突した日のことを細かく知ることが可能です。
例えば当時のチョウザメは季節によって成長速度が異なっていたため、骨の断面には年輪のような模様が観測されることが分かっています。ちょうど小惑星が衝突した地層から発掘されたチョウザメの化石を解析することで、この小惑星は北半球の春に衝突したということが分かっています。しかし全てのことが明らかとなっているわけではありません。例えば小惑星の大きさの予想は10kmから数十kmと大きな開きがあります。必然的に衝突の総エネルギーもTNT換算で数千万メガトンから1億メガトンと、正確な数値は分かっていません。しかし例えば広島を壊滅させた原爆は0.015メガトン。人類最大の核爆弾であるツァーリ・ボンバでさえ50メガトンということを考えると、この小惑星は文字通り桁違いの破壊力を持っていたことだけは間違いないでしょう。人類が経験したことのないほどの大爆発。一体その運命の日はどのような様子だったのでしょうか?
バイエンススーツを装着して実際に体感しに行くことにしましょう。小惑星が衝突した瞬間、太陽より数倍も明るい火球が出現します。火球の温度は数千度にも達し、周囲の生物を一瞬で焼き払ってしまいます。仮に衝突場所から1800km離れていたとしても気温は100°を超えたと予想されており、現在の中央アメリカは死の地帯と化してしまったと考えられています。
落下場所が海であったため、想像を絶する量の水が押しのけられました。その結果発生するのは巨大な津波です。津波はたとえ低いものであったとしても危険を伴うもの。しかしこの小惑星の衝突により発生した津波は、なんと最大1500mとも予想されています。これほどまでに大きな津波となると、内陸部にも甚大な被害を及ぼします。一説には海岸線から100km以上離れた場所にも津波が押し寄せ、全てを飲み込んでいったと予想されています。その津波は世界中に広がっていき、太平洋沿岸でも10mを超えたという試算もあるほどです。
火球と津波の被害が落ち着いた後も地獄は続きます。小惑星の衝突により一部宇宙空間にまで巻き上げられた大量の土砂。そのうち大きいものが再び地上に降ってきます。これは火球のように落下地点から近い場所のみのものではなく、全世界で空から細かい石が降ってきたと予想されています。ただただ石が降ってくるという生易しいものではありません。宇宙空間から落下してくるそれは、地球の大気を圧縮しながら大気圏に突入するため、膨大な量の熱を発生します。一説にはその総エネルギー量はTNT換算で2000万メガトン。これは地球全土に対し、6km四方に1個ずつ1メガトンの核爆弾を爆発させるのと同じエネルギーです。これにより地球全土で気温が急上昇。一部の地域では植物が自然発火してしまうほどだったと考えられています。特に小惑星の落下地点の近くにある北アメリカ、そして放出された土砂が集まりやすい地球の反対側、オーストラリアやインドでは大規模な山火事が発生したと考えられています。
これだけではまだ生き延びた恐竜もいたでしょうし、時間が経てば恐竜が復活する可能性もあったでしょう。しかしこの小惑星は最悪の位置に最悪の形で落下してしまったのです。まず現在海の底に存在するクレーターの部分の地面の密度から、小惑星は45°から60°という浅い角度で衝突した可能性が高いと考えられています。この角度では海底面を構成する岩盤をより多く大気中に放出することが分かっています。さらに落下した場所は浅い海であり、その海底には石膏という鉱物が多く含まれていました。石膏とは主に硫酸カルシウムで構成されています。すなわち小惑星の衝突により硫黄を多く含む土砂や塵が大量に大気中に巻き上げられたということになります。
硫黄は大気中の酸素と反応して二酸化硫黄となり、それがさらに成層圏で紫外線や水と反応して黒い雲へと変化します。また多発的に発生した山火事も大気にすすなどの黒い粉末を大量に排出します。これらの影響により、地上へ届く太陽光が大幅に減少してしまったと考えられています。一説には1000億tもの硫黄が大気中に放出され、世界の気温が20°以上低下。異常気象は30年ほど続いたとのこと。寒さだけではなく、太陽光が断たれたということは光合成も止まるため、全世界で食料危機が発生しました。特に植物が枯れることによる食料危機は、半年も続けば一気に食物連鎖が崩壊することがシミュレーションで分かっています。試算によっては数年ほど太陽光が地表まで届かなかったとされるため、これは既存の生態系を完全に破壊するには十分な出来事でしょう。
このような状況で、なぜ恐竜が絶滅し、他の動物が生き残ったのでしょうか?この問いに関しては、人類ははっきりとした答えをまだ出せていません。恐竜は体が大きい上に、他の爬虫類と違い食べ物を多く必要とする温血動物であったという説。また変わったところでは、恐竜は卵を産むため大人と子供でサイズが大きく異なることが原因として挙げられることもあります。同じ種でも大人と子供で生態系の中で異なる役割を果たすようになったため、環境の変化に弱くなったとのこと。逆に哺乳類や、恐竜の一種でもある鳥類はなぜ生き残ったのでしょうか?これにも様々な説がありますが、食料として植物の種を活用できたためという説や、生物の亡骸が大量発生したことにより菌類が大繁殖し、免疫力が比較的強い哺乳類が生き延びやすかったなどの説が存在します。
このようにほとんどの科学者は、この日に小惑星が落下したことは間違いないと考えていますが、それが恐竜含めて大量絶滅にどう絡んでいるかについては未だに議論が続いているようです。一方で恐竜が絶滅したことに対して明らかなこともあります。アメリカのSF作家ラリー・ニーヴン氏の言葉を借りると、恐竜が絶滅したのは彼らが宇宙開発を進めていなかったからだと。10kmほどの小惑星が衝突する確率は100年あたり1万分の1という試算があり、決して0ではない上に、いつかは必ず衝突してしまうでしょう。さらに現在の人間の科学力では、10kmの小惑星を観測できたとしても、それを地球と衝突しないようにする技術はありません。人類が恐竜と異なり絶滅を回避したいのであれば、宇宙開発、そしてバイエンススーツの購入にも力を入れるべきでしょう。さもなければ、かつて体験したことのないほどの火球、津波、火事、食料危機にさらされることになるかもしれませんので。
日本で最も標高が高い場所、富士山の山頂には飲み物の自動販売機があることはご存知でしょう。そこのペットボトルは1本500円と、標高だけではなく値段も日本一です。なぜそのような価格になるかと言うと、飲み物を富士山頂まで輸送するコストがかかっているためです。それでは同じように水を宇宙に送ることを考えてみましょう。当然現状では必要な輸送コストは富士山頂の比ではありません。しかしそのコストを大幅に下げる構想が存在すると聞いたらどうでしょうか。その構想こそが宇宙エレベーターです。宇宙エレベーターが建設されたら人類の生活はどう変わるのでしょうか?その構造はどのようなものなのでしょうか?今回は宇宙エレベーターが完成するとどうなるのかについてご紹介したいと思います。
宇宙エレベーターとは、惑星の表面と宇宙を結ぶケーブルと、そのケーブルに沿って人や荷物を上下することのできる装置のことです。その構造は非常にシンプルで、海上から真上に伸びるケーブル、そのケーブルに沿って海上と静止軌道上にある2つの基地、静止軌道上よりさらに上につけられた重り、そして地上と基地を往復する輸送用のかごの5つの構造からなる非常にシンプルなものです。なぜこのような構造が存在できるかと言うと、地球の重力と地球の自転による遠心力が釣り合っているからです。そのため文字通り宇宙にまで伸びるケーブルを伝って上昇することができ、宇宙に行くために必要なコストを大幅に低減することが可能だと考えられています。現在のロケットとは違い、宇宙へ行く時に消費してなくなってしまうものはなく、さらに宇宙から地上に戻すのも比較的容易。構造もシンプルといいことずくめなのです。
ではなぜ人類は宇宙エレベーターの構築に取りかかっていないのでしょうか?一見素晴らしい発明に見える宇宙エレベーターですが、残念ながら実現までには課題が山積みです。まず問題にされることが多いのはケーブル。必要とされる強度と軽さを考えると、高強度材料として知られる鋼鉄やアラミド繊維などでは話にならないほどです。現状最も可能性があるのはカーボンナノチューブと呼ばれる物質ですが、それで万事解決というわけではありません。カーボンナノチューブとは炭素原子同士が結合し、筒のような構造を形成していますが、確かに理論的な強度と重量だけを見れば、カーボンナノチューブは宇宙エレベーターに必要な要件を満たしています。
しかし、現状カーボンナノチューブを作成する方法は原子を1つ1つ繋げていくしか方法がなく、2022年現在作成されたもので最も長いものはせいぜい数十cm。静止軌道までは地上からおよそ3万6000kmあるので、最低でも合計でその長さのケーブルを強度を保ったまま伸ばす必要があります。またその数万kmにもなるカーボンナノチューブの中で原子1つ分でも欠陥があると強度は70%に低下してしまうというデータもあり、現実的に得られる強度としては理論上の数値の30%程度だと主張する研究も存在します。加えて宇宙エレベーターのケーブルは地上から数万kmにわたって伸びているため、地上では雨風や雷、上空では流星物質や放射線などに常にさらされます。また必要となる強度ギリギリで設計しているようでは、それこそ風が吹いただけでもケーブルはちぎれてしまうため、現実的には必要強度の数倍程度は耐えるように設計したいところです。それら全てを考慮した上でカーボンナノチューブの強度が足りるかどうかは全くの未知数です。
そしてもちろん課題があるのはケーブルだけではありません。海上の基地が台風や津波の被害にあったらどうするのか。ケーブルを伸ばしている最中において静止軌道上の基地をどう安定させるのか。ケーブルを短くするためには重りはなるべく静止軌道から近い位置に設置したいですが、静止軌道から1万kmでも1万t以上の重りが必要となる計算で、その質量をどこから調達するのか。輸送用のかごの動力を太陽光で賄うとすると、最低でも数百m四方の太陽光パネルが必要となる。そもそも2010年代から民間企業が宇宙開発に参戦してきたことによってロケットの打ち上げのコストが大幅に下がりつつあり、宇宙エレベーターの優位性が薄れてきているなど、少し検討するだけでも頭が痛くなる問題ばかりです。
とはいえ、否定するだけであれば誰でもできますし、否定ばかりでは科学技術は発展などしないでしょう。もし人類がそれらの課題全てを乗り越え、宇宙エレベーターを完成させたら何が起きるのでしょうか?まず人や物質を宇宙にまで輸送するコストは大幅に低下する可能性があります。現状では宇宙旅行は大富豪に限られていますが、一般人にも手が届く範囲になるかもしれません。宇宙旅行を体験することにより、生命を育んできた地球の偉大さと人類の科学技術の進歩を間近で感じることができ、多くの人間の科学に対する見方が変わるかもしれないのです。
影響は人間の心理面だけではありません。宇宙に材料を低コストで送ることができれば、重力が弱い環境でのみ作成できる物質の製造や宇宙ステーションの建造なども比較的容易に行うことができるでしょう。また振動に弱い精密機器は宇宙エレベーターで宇宙に輸送するのが最適です。実際、以前のバイエンスでも紹介したジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡は、ロケットの打ち上げ時に想定される振動に対する試験にかなりの時間とコストをかけています。
また宇宙エレベーターをきっかけとして、人類が地球を離れ太陽系全域に勢力を広げる可能性も考えられています。現状のロケットではその重量のほとんどが燃料であるのにも関わらず、太陽系内の他の惑星に到達するのは大変な苦労を伴います。しかし宇宙エレベーターでは、静止軌道上の基地はすでに地球表面からおよそ3万6000km離れた大気の存在しない宇宙空間であり、さらに地球の自転によりすでに秒速3km程度にまで加速しているということになります。一部の研究では、静止軌道上の基地からさらにケーブルを伸ばすことで速度を稼ぎ、一発で木星や火星に到達するという構想も登場しています。その研究では火星への到達時間を短縮でき、さらに2つの惑星の公転軌道の違いから来る発射時期の制限がなくなると主張しています。そうなれば、火星へ毎日人や荷物を輸送することも不可能ではなくなり、人類が火星の基地を建設し、維持することができるようになるかもしれません。
さらに地球で宇宙エレベーターが完成したということは、他の惑星でも宇宙エレベーターを建設できるということになります。火星や月などは地球と比べて重力が弱いため、現在の技術でも宇宙エレベーターの建設は可能とする説も存在します。これにより人類は必要な資源を太陽系から集めることができ、エネルギー問題も大幅に軽減されるでしょう。人類は太陽系全体のエネルギーを利用することのできる文明へと進化するかもしれません。
宇宙エレベーターの完成は、蒸気機関やインターネットの発明などと同じく、人類の歴史を一変させる可能性を持つ出来事と言われることもあります。100年前、世界中の人々が瞬時につながり、インターネット上で考えを共有できるようになるなど、誰が予想したでしょうか?このように新しい技術は、当時では全く予想もできない素晴らしい結果を招くことがあります。もし人類が宇宙エレベーターを完成させることができれば、現在では予想すらできない、まるでSF映画のような世界への道が切り開かれるかもしれませんね。
人類の宇宙開発に残る大成功を収めたアポロ11号の有人月面着陸。その一方、月面に降り立った2人の宇宙飛行士が無事に戻ってくる保証はなかったようです。事実、アメリカ政府は月面で取り返しのつかない事態に陥った時に備え、大統領が読み上げるスピーチの原稿を用意していました。このように宇宙開発は今も昔も危険極まりないものです。そのため今後宇宙開発が進むにつれて、宇宙で命を落としてしまう人が出てくることは間違いないでしょう。もし宇宙で人間が死んでしまったら何が起きるのでしょうか?死体の処理方法は存在するのでしょうか?今回は宇宙で死ぬとどうなるのかについてご紹介したいと思います。
自らの死を承知の上でロケットに搭乗し、言うことの聞かない機体を必死で操作しながら命を落としていったウラジーミル・コマロフ。希望に満ち溢れた打ち上げの最中、おそらく何が起きたのかを理解する前に気を失い、そのまま死を迎えたチャレンジャー号の乗組員たち。バイエンスでは今まで宇宙開発にまつわる凄惨な事故を紹介してきましたが、厳密なことを言うと、これらの事故は地球の大気圏内で発生しているため、宇宙で人間が死んでいるわけではありません。2022年現在、一般的に宇宙空間と呼ばれる上空100km以上で人間が命を落とした事例は、1971年のソユーズ11号の乗組員3名のみ。宇宙から帰還する際に装置の誤作動により、上空168kmで機内が外気にさらされ、乗組員全員が窒息死してしまったという事故でした。
とはいえ、これ以外にも宇宙空間で命を落としてもおかしくないほどの危険にさらされた人間は多数存在します。例えば1965年のボスホート2号においては、史上初の宇宙遊泳が行われていました。しかし内部が空気で満たされた宇宙服が膨張することを計算に入れていなかったのか、なんと帰還用の狭いハッチに入ることができないという問題が発生。幸いなことに宇宙飛行士が機転を利かせて宇宙服の空気を少し外に出すことで無事に帰還することができましたが、その行動自体も含めて一歩間違えば大惨事になっていたことは容易に想像できるでしょう。また以前のバイエンスで紹介した宇宙ステーションのミールでも、機内の火災や人工衛星との衝突など、危ない橋を渡ったことは1度や2度ではありませんでした。近年ではそのようなことはないと思いきや、2013年には船外活動中に宇宙服のヘルメット部分に大量の水が溜まった結果、飛行士が呼吸困難に陥ってしまったというトラブルが発生しています。
もしミッション中に宇宙飛行士が亡くなってしまったらどう対応すれば良いのでしょうか?なんとNASAとしては、そのような事態に対するマニュアルは存在しないというのが公式な立場です。しかしこれは何も考えていないというわけではなく、国際宇宙ステーションに行く際のトレーニングの一環として、乗組員が命を落とした時のシミュレーションは行われています。シミュレーションの冒頭では乗組員の誰かが死んだという一報が流れたことから始まり、乗組員はすぐさま対処にあたります。取り急ぎ遺体をどうするのか。遺体を地球に帰還させる手段は何があるのか。そうこうしているうちに主催者側から新たな情報が提供されます。何者かが国際宇宙ステーションで事故が起きたようだとSNSに投稿し、メディアの人間がコンタクトを取ってきていると。誰が記者の対応をするのか。公式発表はいつどのようにして行うのか。家族にはどのように連絡するのかなどなど、矢継ぎ早に変化する状況に対し、関係者全員は慌ただしく対応するというもの。一見不謹慎なトレーニングですが、学びが多く関係者には好評なようです。
このように地球上で人間が死んだとしても関係者は大忙しなのに対し、宇宙においてはそれに輪をかけて大変ですが、民間の宇宙旅行や他の惑星へのミッションなど、人類の宇宙開発が進むにつれ、宇宙空間で命を落とす人間は必ず発生してしまうものでしょう。もしあなたが宇宙で亡くなったら何が起きるのでしょうか?当然ながらそれは亡くなった状況に大きく左右されます。例えば先ほど紹介したシミュレーションのように国際宇宙ステーション上で命を落とした場合では、あなたの遺体の周辺は地球と同じように空気が存在し、温度も地球上とさほど変わらないでしょう。よって地球上と同じように、あなたの遺体は腐っていくことになります。
これは地球においては自然の摂理として割り切る他ありませんが、国際宇宙ステーションのような狭い空間においては非常に危険な事態です。腐っていく死体は病原菌の温床となり、他の乗組員の健康被害が懸念されます。さらに遺体の匂いは強烈なため、すでにショックを受けている乗組員たちの精神的な健康をも脅かすことが予想されます。そのため現実的には遺体を宇宙服のように密閉できる袋に入れ、生活空間ではなく貨物用のスペースに置き、帰りのロケットを待つことになる可能性が高いでしょう。地球にいる家族も遺体の帰還を望むでしょうし、宇宙空間に捨てるという選択は後々スペースデブリを増やすことにつながるため、緊急時以外ではありえません。
では一方で、宇宙ステーションの保護から離れ、宇宙空間で命を落とした場合はどうなるのでしょうか?例えば何を思ったか、宇宙服もなしに宇宙に飛び出してしまった場合。現在の宇宙の温度は-270°とされており、寒いと呼ぶのもおこがましい環境に身を投じた結果、あなたは窒息し、その後はすぐに全身が凍りつくと思うかもしれません。ですが、遺体が凍りつくのは実は少し時間がかかります。地球上においては気温0度でもかなり着込まないと、あっという間に人体から熱は奪われてしまいますが、宇宙空間はマイナス270度です。多くの人がさらに早く熱が奪われると思うかもしれませんが、宇宙には熱を伝える空気が存在しないため、地球上とは話が異なるのです。
熱が周囲に伝わる方法としては放射、伝導、対流がありますが、周囲に物質が存在しない場合、そのうち伝導と対流は発生しません。そのため今回は体温を奪う方法は放射のみ。熱の放射速度は絶対温度の4乗に比例することが分かっており、ある試算では人体の体温が0度を下回るのは18時間程度かかるとのこと。一方で液体状態の水は宇宙空間では安定して存在できないため、あなたの遺体はやがて冷凍されたミイラのように保存されることになります。遺体は何かに衝突しない限り、宇宙空間を半永久的に漂い続けると予想されます。
最後に遠い未来に目を向けてみましょう。例えば太陽系外に向けて進む宇宙船の船内で1人犠牲者が出てしまった場合を考えてみます。犠牲者とは言いましたが、他の恒星系へのミッションは短く見積もって数十年かかります。単純に寿命で亡くなる人間がいたとしても不思議ではありません。国際宇宙ステーションの時とは違い、遺体を地球に送り返すのは現実的ではないのですが、一方で他の乗組員への健康上の影響は同じです。その場合、遺体はどう処理するのが正解なのでしょうか?実はこの問いにはまだ誰も答えを持っていません。遺体処理の技術面はともかく、法律的にも倫理的にも解決すべき問題は山積みです。そしてこの問題を解決しない限り、人類が太陽系外へ勢力を広げることはできないでしょう。そういう意味でも、人類はまだ宇宙規模の文明とは言えないのかもしれません。
バイエンスでは今まで様々な天体に落下してきました。ガス惑星の木星や硫酸の雨が
降る金星など天体に落下することでバイエンスも成長を遂げてきました。そして気づけば残された太陽系惑星もあと1つ。そのフィナーレを飾るのが火星です。
人類の火星探査は他の惑星に比較するとそれなりに進んでおり、探査機が実際に撮影した画像も多数。中には岩石が火星人に見えるような写真が撮影されることもあり、度々話題となっているでしょう。その写真の火星人は残念ながらリアルではありませんが、本当に火星人はいないのでしょうか?
地球と様々な点で似ている火星。そこに生命が存在するかどうかを確かめるためにはやはり現地に調査する他ないでしょう。バイエンスの現地調査とはもちろん落下を意味します。火星はどのような環境なのでしょうか?今回は火星に落ちるとどうなるのかについてご紹介したいと思います。
現在の火星の環境は生命にとって過酷極まりないものです。大気圧は地球の1%以下。気温は最高20°で最低-150°、平均では-60°程度です。そのような環境である火星表面では純粋な液体の水は到底存在できず、もし存在するとしても大量の塩が溶けた塩水がわずかにそして短時間溜まっているだけです。さらに大気の薄さに加えて磁気が存在しないため、火星には放射線が容赦なく降り注ぎ、地球上のいかなる生物でも長期間は耐えられないと考えられています。
一方で火星はずっとこのような状態だったわけではありません。数十億年前は現在より温暖で磁場も大気もあったため、火星表面の大部分を海が覆っていたようです。最も有力な説では火星は質量が小さいことで核が冷えるのが早く、それにより磁場が消滅した結果太陽風により大気が少しずつ宇宙空間に逃げていき海の維持も不可能になったとされています。海が消滅したのはおよそ30億年前だというのが通説でしたが2021年には20億年前だと主張する研究が発表されたように火星の過去についてはまだまだ謎が多いようです。
そんな火星ですが以前のバイエンスでもご紹介したようになんと地球を除くと太陽系で生命が存在する可能性が高い天体の1つでもあります。さらに発射のタイミングを調整すれば、現在の技術でも1年以内で到達できることもあり、火星への有人探査も計画されています。
その中でも有名な例を挙げると2030年までに月に再び人間を送り込み、火星の有人探査への足がかりにするというNASAの計画や月を経由することなく火星を直接目指すというスペースXの計画でしょう。残念ながらSpaceXは以前バイエンスで紹介した際には2026年を目標としていましたが、2022年5月時点では2029年を目標としているため、やはり火星への有人探査はハードルが高いというのは間違いないようです。
NASAそしてスペースXどちらも素晴らしい組織ですが、さらに上を行くのがそうバイエンス。お馴染みのスーツを着た彼を今回も送り込みます。おや、どうしました?ここに来て駄々をこねる気ですか?落ちるか死ぬかどちらかお選びください。逃げちゃだめだ。逃げちゃだめだ。逃げちゃだめだ。逃げちゃだめだ。逃げちゃだめだ。いや、逃げる。ひで綾波
惑星への落下を開始すると主に二酸化炭素で構成された火星の大気の中を落ちることになります。地表での火星の大気圧は平均636パスカルと地球表面の0.6%程度。当然火星上空においても大気は薄く例えば標高11kmにおいての大気圧はおよそ230パスカルと同じ高度の地球の大気圧の1/100程度です。ここまで大気圧が低いと人間にとってはほとんど真空と変わらずバイエンススーツがなければすぐに気を失い地表に到達する頃には間違いなく死んでいることでしょう。
そしてこの薄い大気こそが人類の火星探索を阻む要因の1つです。火星へのミッションは歴史的に見ても成功率が低くおよそ半数は失敗に終わっていると言われています。そしてその多くは着陸の段階でのトラブルが失敗の要因となっています。というのも火星の大気はパラシュートのみで減速できるほどの厚みはないものの、大気の圧縮熱が問題になるほどの厚みはある、実に中途半端な大気圧をしているのです。
実際2018年に打ち上げられた探査機のインサイトでは着陸の際の熱シールドは1500°を超えても耐えられるように設計されています。それでいて着陸の直前にはロケットを逆噴射しなければならず、1回の不具合がミッション全体の失敗につながる宇宙開発においてはかなり不利な条件です。
成功率を上げるため人類は知恵を絞ってきました。2004年に火星に到達したスピリットでは探査機本体は24個ものエアバッグに囲まれたような形状で地上に落下し、衝撃を和らげるなどの工夫を施していました。ちなみに当然ですが、あなたにはそんな贅沢なものはありません。1500°を超える灼熱地獄を味わいながら火星においての終端速度、時速およそ1000kmで地面へと衝突してください。先ほど逃げたのですから、万が一死んでも結果オーライでしょう。スーツに守られているためそのようなことはないとは思いますが。
さて、無事に火星表面に到達しました。あたりに火星人は見えますか?見えるわけないでしょう。火星表面の過酷な環境は地球上のいかなる生物でも長くは耐えられないと考えられているため、火星人どころか単細胞生物でも存在する可能性は低いのです。
しかし以前のバイエンスでも紹介した通り火星の風景は場所によっては地球のものと見間違うほどです。大きく違うのは空の色。季節や砂嵐の状況などにもよりますが、普段の空は酸化鉄を多く含んだ塵により薄い黄土色をしており、夕焼けの時には太陽の周辺のみです。ちょうど地球の空の色合いと逆になっています。生命が存在しない表面で1人寂しく迎える夕焼けはいかがですか?夕焼けの空に明るく輝く生命に溢れる地球に帰りたくなりませんでしたか?
とはいえ、実は火星に生命がいないと断じるのはまだ早いです。確かに火星表面の環境では生命が存在できないと考えられていますが、地下に潜ればどうでしょうか?水星に落下した時に紹介した通り、地下は地表と比べて温度が安定していますし、火星表面にかつて存在した海の一部は鉱物と結合した状態で地中に埋まっているという説が存在します。また地中深さ1mから100mには大量の氷が存在することやかつては地下水のネットワークが惑星全体に広がっていたことも明らかになっています。現在でも火星の南極の氷の下には液体の水でできた湖が存在することが分かっており、さらに火星の大気中の少ない酸素でも酸素を代謝に使用する好気性菌が生存できると推定した研究が発表されています。
ここまで状況証拠が揃っていると、むしろ火星の地下には生命がないはずないのではとさえ思います。せっかくだから穴掘って生き物探しでもしてみっか。
言い忘れていましたが、火星の土は0.5%以上の過塩素酸塩が含まれています。なぜそれが問題なのかと言うと、過塩素酸イオンの毒性は非常に高く、例えばアメリカのカリフォルニア州では飲料水中の濃度を1Lあたり6マイクログラム以下に制限しています。つまり火星の土は飲料水の基準値の数万倍以上の過塩素酸イオンを含んでいることになるため、人間はもちろん多くの生物にとっても火星で生活するのは非常に難しいのです。
話を最後まで聞かずに掘り始めてしまいましたか。それは残念。体が過塩素酸塩まみれの上に火星に生息する未知の細菌が付着している可能性もあるとなると地球に住む人々はあなたが帰還するのを許してはくれないでしょう。地球に帰れないとなるとあなたの落下の旅はまだまだ続きそうですね。太陽系の惑星は制覇したことですし、次はどこに落ちたいですか?次回フカフカのベッドに飛び込んだもの、お楽しみに。
1億年は人間にとっては理解ができないほど大きな時間です。仮にあなたがもし1億年間休みなく歩き続けたとすると総距離はおよそ3兆7000億km。地球と太陽の間を1万回以上往復できるほどの距離です。歩くという極めて日常的な行為だったとしても、まさに天文学的な数値を叩き出す。これが1億年という時間のスケールなのです。
1億年、それは地球にとっては大した長さではありません。仮に地球の歴史を1年間だとすると1億年前というのは12月23日に相当します。地球規模のスケールで見ると1億年前も現代に暮らすあなたたち人類もごく最近の出来事だと言えるでしょう。
見方によって大きく印象が異なる1億年前。その頃の地球はどのような様子だったのでしょうか?もしあなたが1億年前の地球に行ったとしたら、どのような光景を目にすることになるのでしょうか?今回は1億年前の地球はどんな世界だったのかについてご紹介したいと思います。
1億年前と言うと、およそ1億4500万年前から6600万年前まで続く白亜紀と呼ばれる時代のまっただ中。6600万年前といえば恐竜絶滅を思い浮かべる人が多いでしょう。そのため当然ながら1億年前の地球には恐竜が多く生息しておりその時代人類の祖先は恐竜の影に隠れて暮らすネズミのような哺乳類だったと考えられています。それでは、その末裔であるあなたが1億年前の地球に行ったとしたら、何を目撃するのでしょうか?
まず気になるのは当時の大気で呼吸ができるかどうかかもしれませんが、そこに関してはさほど心配はいらないでしょう。人間の生存に必要不可欠となる酸素の濃度は現代のおよそ21%と変わらないか、多少高い程度だったと考えられています。また高すぎると有毒となる二酸化炭素濃度に関しても数百ppmから1000ppmと現代の屋外と比べると多少高い程度だったと予想されています。それより前の時代には二酸化炭素濃度が2000ppmを超えていた時もあるためその時代と比較すると1億年前は間違いなく快適に過ごせるでしょう。
一方、大気以外の点においてはあなたが慣れ親しんだ環境とは大きく異なります。まずは当時の大陸の配置について超大陸パンゲア大陸の分離はおよそ1億8000万年前から進んでいたため1億年前ともなると北アメリカ大陸などはすぐに見つけることができるでしょう。南アメリカとアフリカも分離を始めており、2つの大陸の境界線からかつてはぴったりとくっついていたことがわかります。しかしインドが当時島であったりオーストラリアと南極大陸が結合していたりと、現代とはかけ離れた配置となっていた場所もあります。
以前のバイエンスでも紹介した通り現代の南極大陸の温度が低いのは南極付近で独立しており、冷気が逃げにくいためという要因もあります。そのため1億年前の地球は南極大陸がまだ氷に閉ざされた大地ではなく緑が広がっていた可能性もあるのです。
現代の地球において南極に存在する氷は地球上の淡水のうち実に70%を占めると考えられています。そして現在あなたたち人類が直面している問題の1つが地球温暖化による海水面の上昇。南極をはじめとする氷が溶け、海の体積が大きくなっていることが要因の1つです。それと同じように南極が氷に覆われていない1億年前の地球においては海水面が現在よりはるかに高かったと推測されています。一説には現在よりも海水面は200mも高かったとのこと。そのため現代では陸地となっている部分も海の下だったという場合も多く、例として1億年前というのは北アメリカ大陸のど真ん中に浅い海が形成されようとしていた時代でもあります。
気温に関しては太陽光を反射しやすい氷が少なかったこともあり1億年前の地球は現代より温暖だったと考えられています。現代の地球の平均気温は15°程度ですが、極端な予想では当時は30°付近だったという研究もあるほど。また1億年前という時代はちょうど火山活動が活発だったことが明らかとなっており、気をつけていないと火傷や熱中症程度では済まないかもしれません。もちろんバイエンススーツをお持ちですよね。
無事に火山や気温に耐えることができたとしたら何を目にするのでしょうか?1億年前といえばもちろん皆様は恐竜と遭遇できることを期待するでしょう。ティラノサウルスやトリケラトプス、ステゴサウルスが生きた姿で目撃できるとなると恐竜ファンでなくとも心躍る人は多いかもしれません。しかし残念。これらの恐竜は1億年前の地球には存在していません。ステゴサウルスは現代から1億5000万年前に生息しており、とうに絶滅しています。反対にティラノサウルスやトリケラトプスの登場には数千万年もの時を待たなければなりません。このことからも分かる通り恐竜は非常に長い時間をかけ多くの種へと進化していったのです。
1億年前に生息していた恐竜の中で有名な恐竜を挙げるとスピノサウルスが挙げられます。特徴的なのは体長14mにもなる大きな体と1.5mもある背中の帆のような部分。この役割は現在でもよく分かっていませんが体温調節や求愛行動に使っていたという説が有力です。主食は魚とはいえ他の恐竜も食べていた可能性もあるため近づきすぎるのはやめておいた方がいいでしょう。
また食物連鎖において有名な恐竜と似たような役割を担っていた恐竜は多く存在したと考えられています。ティラノサウルスと似た大型肉食恐竜の例としては体長13mとティラノサウルスより大きかった可能性もあるギガノトサウルス、サメのような歯を持つカルカロドントサウルスなどが挙げられます。他にもブラキオサウルスの仲間で体長30mから35mにもなる竜脚類であるアルゼンチノサウルスや恐竜の一種である鳥類もこの時期には生息していたようです。
一方であなたの目を引くのは恐竜だけではありません。1億年前は確かに恐竜の時代の真っ只中ではありましたが、それと同時に他の生物も独自の進化を遂げ、時には現代の感覚からは信じられないほどユーモラスな姿をした生物も生息していました。
例えばプテロダウストロ。皆様ご存知のプテラノドンの仲間で空を飛ぶ爬虫類である翼竜の一種であり、すぐに目を引くのがその大きく曲がったくちばし。さらに細かい歯が千本前後生えていたとされるそのくちばしは現代のフラミンゴのように水辺の小さな生き物を食べるのに適していたと考えられています。一見するとバランスが悪そうに見えますが、水辺に降り立つ時は翼を折りたたみ、前足でも体重を支えることができたようです。
他には大型のワニ、ストマトスクス。体長10mにもなる巨体もさることながら、こちらは下顎の部分がペリカンのように膨らんでいるのが特徴です。なんとその下顎には歯が生えていない可能性も指摘されています。ストマトスクスは水中で暮らしながら魚を丸呑みしていたと考えられています。
そして海に目を向けると直径1mにもなる巨大な二枚貝やまるで翼のようなヒレを持つアクイロラムナを見ることができるかもしれません。またユーモラスさで言えば恐竜も負けておらずまるで爪切りのような口をしたニジェールサウルスという草食恐竜もこの頃に生息していました。他にも後ろ足がまだ残っている蛇や陸を二足歩行で歩くワニなど1億年ほど前には多くの生物が進化の過程で登場したと考えられています。
そしてこの頃小さな動物で重要な進化が起ころうとしていました。それは蜂や蝶の誕生です。なぜこれが重要なのかと言うと、彼らは食事をすることで花粉を運び、植物を受粉させる役割を持つためです。現代においてはこのような子孫の残し方は一般的ですが、実はこのような仕組みで受粉する被子植物が登場したのは現在から1億3000万年ほど前。1億年前の段階では徐々に増えていたものの、まだまだ松に代表される裸子植物が主流でした。しかし、蜂や蝶などが受粉を担うようになり、花粉を大量にばらまく必要がなくなったためか、これ以降の時代では急速に数を伸ばしていくこととなり、現在では被子植物は植物全体の90%ほどを占めるようになったのです。
とはいえ、それはずっと後の話。1億年前の段階においては、まだまだ被子植物の数が少ない時代です。特に一般的に草と言われた時に思い浮かぶイネ科の植物はまだ存在していません。そのため草原などは存在せず、代わりに地面はコケやシダ植物などに覆われていたと考えられています。
さらにこの時代には現代にとって重要な出来事がもう1つ発生しています。それは石油とチョークの原料となる石灰岩がこの時代に生成されていることです。石油に関しては白亜紀で世界の総量のおよそ60%が生成されたと考えられており、白亜紀の白亜の部分はチョークのことを意味しており、それほど特徴的な地層を形成しているのです。
このように1億年前の地球に降り立つと似たようでいて大きく異なる、まるで地球と似たような進化を遂げた別の惑星に降り立ったかのような気分になったのではないでしょうか。巨大な恐竜たち、ユーモラスな姿をした動物たち、そして現代とはまるで勢力図の異なる植物界。1億年前の生物にとっては日常でも初めて目にするあなたにとってはとても刺激的な内容でしょう。ですがはしゃぎすぎないよう気をつけてくださいね。この時代の哺乳類は影に隠れてひっそりと生きてきました。いつ恐竜に襲われるか分かったものではないのですから。
青い惑星に暮らすあなたたち人類はお隣の惑星のことをこう呼びます。赤い惑星と。火星の大部分は赤茶色の砂で覆われており、地球にはありふれている大気も液体の水も存在しない死んだ星となっています。しかし、過去においてもそうだったのでしょうか。人類が誕生するはるか前の時代である1億年前、もしくはそれ以上前の時代でも火星は赤い惑星だったのでしょうか?そしてなぜ現在の姿になってしまったのでしょうか?今回は1億年前の火星はどのような姿だったのかについてご紹介したいと思います。
火星は太陽系の惑星の中で環境が地球に最も近いとされています。しかしそれでも生身の人間にとってはすぐに命を落としてしまうほど過酷な環境です。大気圧は地球の1%以下であり、大気成分のほとんどは二酸化炭素、温度は-13°から20°、表面に降り注ぐ放射線はほぼ全ての生物が長期間耐えることができないと考えられています。このように現在の火星は少なくともその表面においては死んだ惑星だと言えるでしょう。
それでは過去に遡ってみるとどうでしょうか?1億年前、地球では巨大な恐竜が跋扈していた時代の火星を訪れてみるとあなたは何を目にするのでしょうか?バイエンススーツをお忘れなく。
1億年前の火星に降り立ったあなた。しかし残念ながらあなたが目撃するのは現在とあまり変わらない赤い惑星でしょう。1億年前の地球では今よりも広い面積に海が広がっているのに対し火星には海と呼べるものは存在しません。とはいえ現在とは多少様子が異なるものはいくつかあります。例えば高さ20kmを優に超える太陽系最大の火山であるオリンポス山。現在においては特に火山活動はしていないと考えられていますが、1億年前の段階ではまだ小規模な活動が続いていたと考えられています。
また火星の表面には液体の水は長期間存在できませんが、極めて塩分濃度の高い水であれば短期間存在する可能性があります。火星の土壌には複数種類の過塩素酸塩が広く含まれており、その中でも過塩素酸カルシウムは特に強く水の凝固点を下げ、濃度によってはおよそ-75°でも凍らない状態を作ることが分かっています。さらに現在の火星表面において液体の水が存在したかのような形跡を見つけることができ、それが短期間存在する塩分を大量に含んだ水である可能性が指摘されています。現在の火星において本当にそのような現象が発生しているのかどうかはまだ結論が出ていないというのが実情です。
しかし1億年前においてはどうでしょうか?ある研究においては火星から飛来した隕石を調査した結果1億7000万年前以降に液体の水によって変化した鉱物が見つかったと報告しています。そのため1億年前の火星にてまるで砂漠で見える蜃気楼のように儚い程度の量の液体の水を目撃することができるかもしれません。とはいえ、残念ながら惑星全体の様子としては現在とさほど変化は見られませんが、
ちょっと待った。バイエンスの視聴者であれば、かつて火星には大規模な海が存在したという話を聞いたことくらいはあるでしょう。もしさらに時代を遡ったとしたら、あなたはどのような光景を目にすることになるのでしょうか?再度バイエンススーツをご使用ください。
20億年から30億年前、ここまで過去に戻ったとしても、火星はまだまだ死の惑星です。大気圧は現在とほぼ変わらないため、液体の水は長期間表面に存在できません。当然かつて存在したとされる巨大な海は見る影もありません。しかし意外なことにこの時代において時折大規模な洪水が発生していたことが明らかとなっています。液体の水は表面に存在するのではなく、地下の奥深くに大量に眠っていたと考えられており、その水を閉じ込めていた表層が火山活動によって大幅に乱されたのです。少量であればともかく大量の水は一瞬で蒸発することはありません。その結果短期間ではありますが火星表面を洪水が襲うことになったというのです。
洪水の規模は現在の火星の姿からは想像できないほど激しいものです。地球のアマゾン川の流量は1秒あたり最大およそ30万立方メートル。それに対し火星においては1秒あたり最大10億立方メートル。アマゾン川の3000倍以上もの流量を誇る洪水が発生したと考えられています。もしあなたが運悪くそれに巻き込まれてしまったら液体の水が存在しないはずの惑星において溺れるという極めて貴重な体験ができるかもしれません。
37億年から43億年前。お待たせしました。ここまで遡ると現在の火星の姿とは全く異なる光景を目にすることとなります。この頃の火星は北半球をほぼすっぽり覆うような形で巨大な海が存在していたと考えられています。最も深い場所では水深1.6km以上、金星や地球と共に太陽系において青い惑星が3つ存在していた可能性があるというわけです。この時代の火星は地球と似たような環境であった可能性があります。ある研究では40億年前の火星は少なくとも0.5気圧以上の大気を保有していたと主張しています。二酸化炭素などによる温室効果があれば、太陽から離れた火星においても液体の水、そして生命を宿していた可能性があります。
しかし火星が地球とは違う運命をたどることは最初から決定付けられていたことです。全ての惑星は太陽から放たれる太陽風に常にさらされています。太陽風は高速で飛来する電気を帯びた陽子や電子でできています。そして火星の上空にてそれらの粒子が大気を構成する分子と衝突するとその分のエネルギーが大気の分子に伝わり火星の重力を振り切って宇宙空間に逃げてしまいます。この現象が数億年もの間続いた結果、火星の大気が徐々に薄くなっていき、ついには表面で液体の水を安定して保てなくなるほど気圧が低くなってしまいました。
すると海の水は蒸発し氷も直接水蒸気へと変わるようになり、大気中に大量の水蒸気が含まれるようになります。水蒸気に紫外線が当たるとその構成原子である酸素と水素に分かれることがありますが火星の重力では水素をつなぎ止めることができず、やはり宇宙空間に漏れ出してしまいます。そうなるともう2度と水が火星に戻ることはありません。残った酸素は火星の土壌に含まれる鉄と反応し、あの赤茶色の錆を形成します。青い惑星から赤い惑星への変遷はおよそ39億年から30億年前にかけて少しずつ進んでいったと考えられています。
一方地球では海が失われることはありませんでした。なぜなら地球には磁場が存在するためです。磁場によって太陽風の軌道が曲がり、大気が失われることを防いでいるのです。火星にもかつては磁場が存在しました。しかし、およそ39億年前には完全に停止してしまったと考えられています。
惑星に磁場が存在するための条件は実ははっきりと分かっているわけではありません。しかし多くの科学者はこう考えています。磁場が存在するには惑星のコアが液体の金属で形成されておりさらにそのコアの内側と外側の部分において温度差による対流が必要であると。地球のコアは内核が固体、外核が液体で構成されています。内核は中心部から外側へ向かって成長しており、外核の液体金属が冷えて内側から固体化していきます。この時軽い成分が外核へ押し出されることで浮力が生じ、激しい対流が起こります。この対流によって電流が生まれ、地球の磁場が維持されていると考えられています。
一方、火星においてはいくつかの不幸が重なっています。まず地球と比べて小さいということ。直径は地球のおよそ半分、質量はおよそ1/10。小さい物体は大きな物体と比較して冷めやすいため、火星のコアは早期に冷えてしまい、対流を起こしにくくなっています。さらに火星のコアの周りには軽元素などで構成された薄い液体の層が存在することが分かっています。その層がまるで毛布のようにコアを覆っていることでコアの外側と内側の温度差が低くなったと考えられています。それにより火星の磁場は形成からわずか数億年ほどで停止してしまい、現在の赤い惑星が出来上がったと考えられています。
かつての火星には確かに広大な海が存在しました。そこには地球と同じように生命の息吹が芽生えていた可能性も大いにあるでしょう。しかしそれは天文学的にはほんの一瞬の幻。火星は磁場を失い、それに伴い大気と水の両方を失うことになりました。そして地球も数十億年先には膨張する太陽によって水が失われ、火星と同じく死の惑星へ変化すると考えられています。宇宙の時間軸においては青い惑星も赤い惑星も決して永遠ではないということでしょう。なるべく早いうちに地球から脱出できることを願っています。
核融合により莫大なエネルギーを得て光り輝く太陽をはじめとする恒星。ほとんどが中性子で構成されており強烈な放射線を放つ中性子星。しかしやはり最も恐ろしい天体は光さえも脱出することができない重力を持つブラックホールでしょう。ブラックホールに近づきすぎたら最後どんなに速く移動したとしてもあなたは逃れることはできません。そんな恐ろしい天体ブラックホールに落下してみたら何を見ることができるのか気になりませんか?現代科学をもってしても未解明な部分が多いブラックホール。あなたにはその理解を助けるための人柱になってもらいましょう。今回はブラックホールに落ちるとどうなるのかについてご紹介したいと思います。
元々ブラックホールはアインシュタインの一般相対性理論から導き出される理論上の存在でしかありませんでした。一般相対性理論においては物質の存在によりその周囲の時空が歪みその歪みこそが重力だとしています。もし途方もない質量が1箇所に集まった場合それによる時空の歪みは仮に光速で動いたとしても脱出できなくなります。光を含む電磁波が脱出できないということは、ブラックホールを直接観測する手段は現代の人類の科学技術をもってしても存在しません。そのため一時はブラックホールは現実には存在しない天体とさえ考えられていました。
しかし現在では人類は見えない何かに近づきすぎた結果バラバラになった天体や見えない天体同士が衝突した結果発生した重力波などブラックホール以外では考えられないような現象を観測しておりブラックホールの存在は確実視されています。
このように極めて特異な天体であるブラックホール。それは宇宙の掃除機のように何でも吸い込むような印象を持っているかもしれません。しかし、ブラックホールは近づきすぎさえしなければ他の天体と同じです。例えば仮に太陽を同じ質量のブラックホールに置き換えた場合、地球をはじめとする惑星は何事もなかったかのようにブラックホールの周りを公転し続けるでしょう。とはいえ、これはあくまでブラックホールから十分な距離を取っていた場合の話。これからあなたが体験するのはブラックホールへの落下です。光さえも逃げ出せぬ究極の闇へのダイブにおいてあなたは何を体験するのでしょうか?バイエンススーツをご準備ください。
現在観測されているブラックホールには太陽の質量の数倍から数十倍程度の恒星ブラックホールと数十万倍以上の超大質量ブラックホールの2種類が存在します。あなたならどちらを選びますか?おっと、超大質量ブラックホールを選んだあなたの好奇心は最後の最後に報われるかもしれません。というのも、恒星ブラックホールのような小さなブラックホールの場合、あなたはブラックホールにたどり着く前に命を落としてしまいます。
質量が太陽の5倍の一般的なブラックホールを考えてみましょう。そのブラックホールが回転していない場合、ブラックホールの表面と言える事象の地平面の半径はおよそ15km。東京23区がすっぽり入る程度の空間内に太陽の5倍の質量が詰まっている。そう聞くとブラックホールのスケールの大きさが理解できるでしょう。当然その莫大な質量による重力はあなたたち人間などいとも簡単に破壊します。ブラックホールから100万km離れた地点でその重力は地球表面のおよそ70倍。このような加速度に長く耐えることのできる人間は存在しません。そのためブラックホールに近づくためにはかなり遠くからロケットを逆噴射しながら近づく必要があります。もしくはバイエンススーツのような特殊なアイテムが必要でしょう。とはいえこれ自体は超大質量ブラックホールでも同じです。
ブラックホールの何がまずいかと言うと、ブラックホールに落ちるはるか前にあなたの頭と足にかかる重力の差が大きすぎてあなたの体を引き裂いてしまうのです。いえ、あなたの体だけではありません。ブラックホールに近づくにつれ、ほんのわずかな距離の差でも重力の差が膨大となり、全ての物質は原子にまで分解され、ブラックホールに吸い込まれていきます。
あなたの身長が170cmで太陽の5倍のブラックホールに頭からまっすぐダイブする場合、100万kmの距離では頭と足の重力の差は無視できるほど小さいです。しかしより距離が近くなるとどうでしょうか?頭が足より引っ張られるため、あなたの体が自然と伸びていきます。想像してみてください。あなたの背骨が重力により引き延ばされていく様を。ブラックホールからの距離が2800kmにもなると頭と足の重力の差は地球表面の10倍を超えるようになります。この辺りが人間の生存限界だと言われており、あなたの人生はここで終わりを迎えるでしょう。
さらにブラックホールに近づき、中心から20km、事象の地平面から5kmほどになると、わずか1mmの差でも重力の差は地球表面のおよそ1万7000倍。粉々という言葉では言い表せないほど細かく刻まれたあなたの遺体は一直線に連なってブラックホールへと消えていきます。これはスパゲッティ化現象と呼ばれていますが、なぜこういう名前なのかは説明の必要はありませんよね。
それでは超大質量ブラックホールに落下する場合はどうでしょうか?天の川銀河の中心に存在する太陽の430万倍の質量を持ついて座A*の場合、事象の地平面は中心からおよそ1200万km。その時の頭と足の重力の差は地球表面の0.01%程度。そのため残念ですがブラックホールに到達するまではスパゲッティ化を心配する必要はありません。
もしいて座A*に落下した場合、あなたは何を体験するのか。まずあなたが目撃するのは黒い球体を周回する青い円盤。そしてなぜか球体の上下にも似たような円盤が見えるでしょう。これは降着円盤と呼ばれブラックホールを周回する物質で構成されています。このような巨大なブラックホールを周回しているためその速度は光速に迫るほど速く粉々になった物質が衝突することで摩擦が発生しその温度は数千度を超えることがあります。その状態では物質は主に紫外線や可視光線の青色の光を放出するようになります。また球体の上下に見える円盤は実はブラックホールの裏側にあります。ブラックホールの強烈な重力により裏側の円盤が放った光がねじ曲げられた結果あなたの目に届いているのです。
降着円盤の中を進んでいくとあなたは遠く離れた人間と比べて時間がゆっくりと進むようになります。一般相対性理論により重力が強い場所では時間の進みが遅いことが分かっています。ブラックホールは文字通り時空を歪めているのです。
降着円盤を構成する物質はある距離までブラックホールに近づくと急激に少なくなります。この場所を最小安定円軌道と呼びいて座A*が回転していなかった場合は中心から3600万km。これ以上ブラックホールに近づくと物質はブラックホールの周りに安定な円軌道を描くことができません。そのため最小安定円軌道より内側に入った物質はブラックホールに飲み込まれるか他の物質に衝突して弾き出されるかしかありません。
このさらに内側に光子球と呼ばれる領域が存在します。これは光にとっての最小安定円軌道と呼ぶことができます。理論上は光子球に到達した時に左右を見渡すと、あなたの後頭部から出た光がブラックホールを1周してあなたの目に入るため、あなたの目にはあなたの後頭部が映るはずです。
さて、いよいよブラックホール本体、事象の地平面が近づいてきました。この近辺ではブラックホールの重力により時間の進み方が極めて遅くなります。もしあなたがほぼ光速で移動できたとしても、ブラックホールからはほんのわずかしか離れることはできません。したがってこの領域に留まっている間は外部の時間は急激に進み未来へのタイムトラベルが可能になります。まあ事象の地平面付近に留まっていられるだけの推進力があるのであればわざわざブラックホールの近くに行かなくてもタイムトラベルは可能ですがね。
逆に外部から見るとあなたの落下は極めてゆっくりに見えるでしょう。重力の影響であなたの姿はより赤く暗くなっていき、事象の地平面に到達した瞬間に静止したように見えます。そこからは徐々に暗くなっていき、ついに永遠にその姿を見ることはなくなります。
あなたが到達した事象の地平面。これ以降は現代の物理学では未知の領域です。実は回転しているブラックホールの場合、事象の地平面ではファイアウォールと呼ばれる高エネルギーの領域が存在し、あなたを跡形もなく消し去ってしまうという説がありますが、そうでないことを祈りつつ、事象の地平面のさらに奥に進んでいきましょう。バイエンススーツがあれば問題ないはずです。
事象の地平面内側の世界。一般相対性理論の数式によるとそこでは時間と空間の役割が逆になるとのこと。すなわち時間の流れに抗うことができないのと同じようにブラックホールの中心にある特異点に向かうのは避けられないということです。むしろ脱出しようと空間を移動すると逆に特異点に向かうのを早めてしまうようです。
さあ、ついにブラックホールの中心、特異点に到達しました。ここがどのような様子なのかは現代物理学では答えを持っていません。計算上特異点は無限の密度を持ちますが、多くの科学者はこれはあくまで計算の産物であり、実際には一般相対性理論に代わる別の理論により正しい姿を理解することができると考えています。先端を行く科学者でも全く理解ができないことをあなたは目の当たりにしています。その幸運を少しだけ味わうといいでしょう。ええ、本当に少しだけ。
超大質量ブラックホールの特異点に近づいたあなたはその様子を外部に伝える術もなくすぐにスパゲッティ化により分解されブラックホールと1つになります。長旅をお疲れ様でした。今回のバイエンスはここまで。さようなら。
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