LNGポンプから半導体接合へ:日機装「3Dシンター」が狙うパワー半導体とAI半導体

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概要

ものづくり太郎チャンネルが、2026年の半導体オブザイヤーで優秀賞を受賞した日機装を訪ね、同社の岡田康弘氏に受賞技術「3Dシンター」について聞いた回である。日機装は工業用ポンプで知られ、半導体企業という印象は薄い。この回では、同社がどのような経緯で半導体の接合装置にたどり着いたのか、その技術がEVやAI半導体でどう使われうるのかが語られた。ものづくり太郎は、中国との装置産業の競争や日本企業の採用の遅れについても、強い口調で自分の見方を述べている。

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AI需要で注目されるLNGポンプ

日機装の売上は現在2000億円ほどだという。主力は工業用ポンプで、なかでも液化天然ガス(LNG)用のポンプは世界で3社しか作れず、日機装はその1社だと岡田氏は説明する。売上も株価も好調だという。

ものづくり太郎は、その背景をAIの電力需要から説明する。ガスタービンを作れるのはGE、シーメンス、三菱重工など限られた企業で、受注は5年先まで埋まり、シーメンスの受注残は26兆円に達していると紹介した。電力が足りずデータセンターを動かせないという話が出始めており、GPUの調達よりもデータセンター向けのインフラ構築がボトルネックになりつつある、NVIDIAの在庫も積み上がっている、と同氏は述べる。

電力消費の規模についても、ものづくり太郎はいくつかの数字を挙げた。Geminiに1回質問して推論結果が返ってくるまでに、iPhoneの充電の4割ほどの電力を使うという。NVIDIAのGTCに参加した際には受注残が160兆円あると聞き、そのうちAmazon、Google、OpenAI、Microsoftなど大手4社で100兆〜150兆円ほどを占めると説明した。同氏の計算では、100兆円分は2025年のAI半導体サーバーラック「Grace Blackwell」でおよそ11万ラック、電力にして約1200万世帯分に当たる。そこから、AIだけで4000万〜5000万世帯分の電力需要が生まれているとものづくり太郎は見積もる。ガスタービンを増産しても追いつかず、その燃料となる天然ガスを送るポンプの需要も高まり、日機装の株価が上がっている、という説明である。

極低温ポンプの難しさ

LNGはごく低温で、金属は低温になると強度が落ちる。岡田氏によれば、日機装はアルミ材をうまく加工して巨大なポンプを作り、さらに冷却した状態での特殊な検査も行う必要がある。これができる企業が少ないことが評価につながっているという。

ものづくり太郎は、素人目線でも難しさがわかると補足した。鉄は温度が1℃上がると1mあたり11〜13ミクロンほど伸びる。LNGの温度と常温の差は200℃ほどあるため、同氏の説明では1mあたり1cm程度縮む。その寸法変化を見込んでポンプを組み、動かさなければならない。さらに、漏れれば大爆発につながるため封止技術が必要で、岡田氏も「シールが大事」と応じた。ベアリングをどうするかといったノウハウもあり、普通のポンプメーカーでは作れないというのが二人の説明である。

医療と航空宇宙の事業

日機装はポンプ以外にも事業を持つ。日本で初めて人工心臓を作ったのは日機装であり、透析装置では国内シェア1位だという。航空宇宙分野では、飛行機の着陸時にタイヤのブレーキだけでは止まりきれないため、吸い込んだ空気を前方に戻して減速する逆噴射の部品「カスケード」を手がけており、グローバルシェアは90数%だと岡田氏は話した。

MLCCを支える温水ラミネーター

半導体との関係について、岡田氏は「地道に電子デバイスに貢献してきた会社」だと説明する。その一例が、積層セラミックコンデンサ(MLCC)の製造に使う温水ラミネーターだ。MLCCはiPhoneにも大量に搭載され、村田製作所、TDK、太陽誘電などが主要メーカーである。

MLCCは1ミクロン以下の薄いシートを重ね合わせ、最後に熱圧着して作る。この熱圧着工程で、ほとんどの顧客が日機装の温水ラミネーターを使っていると岡田氏は言う。装置は圧力容器の中に温水を入れ、その温水に圧力をかける。パスカルの原理により、シートには均一な温度と均一な圧力がかかる。圧力が大きいため、一度に多くの数を処理できるという。

かけられる圧力は200MPaで、ものづくり太郎は深海、マリアナ海溝並みの圧力だとたとえた。温水を使うのは、セラミックシート中のバインダーを柔らかくし、均一に変形させるためだ。この水圧をかける装置はNHKの番組でも紹介されたことがあり、かつては職人が板金で作った球体を水圧にかけて、どの深さまで耐えられるかを試した歴史もあるとものづくり太郎は紹介した。

温水から300℃のゲルへ

ただし温水ラミネーターには制約があった。水を使うため温度は90℃が上限で、ワークを湯に入れる前にビニールでパックする必要がある。そこで日機装は、乾式にしてパックを不要にし、水の代わりに特殊な弾性体(ゲル)を使って300℃まで加熱できる装置を開発した。圧力は20MPaに下がるが、それでも1cm角に200kg、力士1.5人分ほどの荷重がかかる計算になる。この装置の用途がパワー半導体の接合で、2026年の受賞対象となった「3Dシンター」である。

従来のメタルプレス方式では、基板上のチップの高さが揃っていないため、プレスの先端が接触する高い部分にしか圧力がかからない。3Dシンターはゲルでチップの周囲まで包み込み、全体に圧力をかける。ものづくり太郎は、プールに入ると水圧が体全体にかかって腹筋が浮き出て見えるのと同じだと説明した。MLCCで培った均一加圧の技術をパワー半導体の接合に応用し、より均一で高品質な接合ができる、というのが岡田氏の説明である。

はんだでは足りない理由と焼結材の歴史

なぜ新しい接合技術が必要なのか。半導体チップの接合は従来、はんだが主流だった。印刷機ではんだを塗り、チップを載せ、リフロー炉で220℃ほどに加熱して溶かし、冷やして固める。シリコンのパワー半導体ならこれで十分だった。しかしSiCは動作温度が高く、高温で使うほど性能を引き出せる。その温度でははんだが溶けてしまうため、焼結材(シンタリング材料)という新しい接合材が必要になる。

岡田氏によれば、焼結材は大阪大学の菅沼先生が日本で開発し、技術を高めてきたものだ。当初は200MPaを超える高い圧力が必要だったが、より低い圧力で接合できる方向へ研究が進んだ。ただし商品化を主導したのは主にヨーロッパで、インフィニオン系の半導体メーカーやそれに関連する材料メーカーが、鉛フリーの接合材として開発を進めた。当時は用途があまりなく、普及しなかったという。

状況が変わったのは約10年前、テスラがパワー半導体をEVに採用してからだと岡田氏は話す。これを機に焼結材は盛んに使われるようになり、中国メーカーも同様の方式に続いた。ものづくり太郎は、熊本のコンソーシアムの会合で菅沼先生に会い、焼結材の話を聞いたことを思い出したと語っている。

日本勢については、はんだ接合の歴史が長く、そちらに比重があったため本格採用が遅れたと岡田氏は説明した。採用は始まっているが、勢いは海外のほうが正直あるという。

ものづくり太郎が語る日本の遅れと中国の工場

この話を受けて、ものづくり太郎は日本の製造業への危機感を強い言葉で語った。以下は同氏個人の意見として述べられたものである。

同氏によれば、日本で開発された技術を日本企業が採用しないうちにテスラが採用し、それを見た中国勢が続き、日本勢は5年ほど遅れて追いかけている。エンジニアリングとは技術を実現して産業化することなのに、日本ではその目的を見失っている、というのが同氏の見方だ。中国に装置を売ればコピーされるという懸念はあるが、経済合理性で動く以上、日機装が売らなければ他社が同じような装置を売るだけであり、イノベーションを続けるしかないとも述べた。

中国の工場を見て「絶対に勝てない」と思った、とものづくり太郎は言う。中国の工場は装置が新しく、減価償却を恐れずに設備を入れ、生産性で勝とうとしている。一方、日本では20〜30年使った工作機械で職人の技によって精度を出し、「今日は機械の機嫌が悪い」といった話をしている。装置が新しければ精度もサイクルタイムも出せ、新しい加工にも対応できる。最後に品質検査で合否を判定し、不良品も改善とともに減っていく。同行した日本の製造業者も、サイクルタイムが倍ほど違うと感じて勝てないと話していたという。

ただし同氏は、パワー半導体は人が乗る車に使われるため、電力供給が突然止まるような事故につながってはならないという留保も付けた。そのうえで、新しい技術が既存品より良いものを作れるなら、現場の技術者は採用すべきだと理解しているはずであり、接待や忖度で採否を決めるのはエンジニアリングの判断ではない、と批判した。

空隙を減らす3次元加圧と真空引き

技術の詳細に戻り、岡田氏は焼結材の性質を説明した。焼結材はナノサイズの細かい粒子でできている。そのままでは粒子が凝集してしまい、小さな粒子としての効果を発揮できないため、溶剤を混ぜて凝集を防いでいる。ところが、そのまま焼結すると溶剤が抜けた跡が空隙になり、接合層がスカスカになってしまう。

これを防ぐため、圧力をかけながら焼結するのが日機装の技術である。3Dシンターは3次元的に押すことができるため、チップ周辺のフィレット部分にも圧力がかかる。さらに真空引きをしながら溶剤や異物を取り除き、圧着する。結果として空隙率が下がり、接合面積が大きくなるため、電気抵抗が下がり、熱伝導率も耐熱性も良くなる。スカスカの接合層はサイクル試験で弱くなりやすいが、そうした問題も起きにくくなり、品質を担保できるという。

岡田氏は、以前はこうした装置がなかったためはんだとリフローによる接合が多かったが、今は新しい材料も装置もあると述べた。まだ知名度は低いので、こういう装置があることを認識してほしいと話している。

モジュールとヒートシンクの接合へ

日機装はシンタリング技術の用途を広げようとしている。チップ単体の接合に加え、パッケージ化されたパワーモジュールをアルミ製のヒートシンクに接合する用途も開発中だ。ヒートシンクの裏側にはフィンがあり、水を流して熱を奪う構造になっている。

課題は、モジュールの端子が邪魔になり、ゲルで3次元的に押すと端子にぶつかってしまうことだった。日機装は弾性体に新しい金型を組み合わせ、端子を潰さずに圧力をかける技術を開発しており、今年から始める予定だという。まだ採用実績はなく、岡田氏は近い将来の採用を期待していると話した。

EV市場をめぐる議論

需要について岡田氏がEV市場の変化に触れると、ものづくり太郎はEVをめぐる論調が極端すぎると話した。国や使い方、電力需給によって答えは違い、グローバルに冷静に見るべきだという立場だ。

同氏によれば、日本はインフラが整っておらず費用対効果も出にくいが、ガソリンが1リットル250円程度なら経済性が出る場合もある。先日訪れた欧州では1リットル400円ほどで、カーボンニュートラルのために燃料への課税が増え、採掘コストも上がっていく。戦争などの例外を除けば、長期的にはEVに合理性がある地域が出てくる、と同氏は見る。トヨタもハイブリッドの好調に安住せず、EVにも取り組む必要を冷静に理解している、という評価だった。

EUの「2035年にEV100%」という目標について、ものづくり太郎は達成は難しそうだが、50%前後はEVかPHVになるだろうと予測する。その分パワー半導体の需要が生まれ、インフィニオンなど欧州勢はそれを見越して必要なタイミングで投資している、と述べた。岡田氏は、中国市場ではEVがまだ活発であり、最重要市場として営業活動に力を入れていると話した。

AI半導体への展開①:インターポーザーのビア充填

日機装がいま注力しているのがAI半導体だ。岡田氏は3つの取り組みを紹介した。

1つ目はインターポーザーである。ものづくり太郎の補足によれば、専用ASICとしてすべてを作るのではなく、メモリーやロジックなど異なるチップを中間基板(インターポーザー)でつなぎ、1つの半導体のように扱う流れがある。インターポーザーは配線が非常に細かく、ビア(微細な穴)も小さい。現在はスパッタで下地を作ったうえでめっきを成長させ、ビアを銅で埋めようとしているが、1日から2日かかることもあるという。

日機装は、これを焼結材で埋める取り組みを他社と進めている。金属で押すだけでは細い穴に押し込みきれず、基板が割れてしまう。3Dシンターの加圧方式なら埋め込みも密度向上もできるという。処理時間は1時間もかからないと話されたが、材料とのマッチングの問題があり、まだ完成しておらず、さまざまな材料を試している段階である。取引先については「言えない」とのことだった。

AI半導体への展開②:データセンター向けパワーモジュール

2つ目は、AIインフラ向けのパワーモジュールだ。パワーモジュールはこれまでEVで使われてきたが、データセンターでは100Aから1000Aといった大電流を流すモジュールが大量に必要になる。はんだではなく焼結材で接合しようという動きが欧州を中心に進んでおり、日機装はそこにキャッチアップしているところだと岡田氏は話した。

ものづくり太郎は、放っておけば欧州勢に取られてしまうので、データセンター向けパワーモジュールを作る日本企業は今すぐPoC(概念実証)に取りかかるべきだと促した。

AI半導体への展開③:チップ冷却の熱界面材料

3つ目はチップそのものの冷却である。ものづくり太郎は、NVIDIAのVera RubinではHBMメモリーが16層になり、GPUからの発熱も大きく、発熱は大問題になっていると述べた。

岡田氏は、TSMCが考えているパッケージを例に説明した。上部は水冷だが、チップと水冷部の間はサーマルインターフェースマテリアル(TIM)という液状のゲルでつないでいる。一般的な液状TIMの熱伝導率は2〜17程度なのに対し、シンター材は140〜300だという。他にも課題はあるものの熱伝導率では圧倒的に優れており、この部分にシンター材を使う話がいくつか出ていて、現在さまざまに挑戦しているところだと話した。

コンソーシアムと協業へ

ものづくり太郎は、インターポーザー、AIインフラ用パワーモジュール、チップ冷却という3つの取り組みを挙げ、日本だけでなくグローバルの半導体オブザイヤーになるかもしれないと評した。

岡田氏によれば、これまでは日機装単独で取り組んできたが、今後はコンソーシアムやアカデミアとの連携、海外展示会への出展など、協業を積極的に進めていくという。車載メーカーからの問い合わせも歓迎すると話した。インターポーザーやTIMへの応用は材料との適合を含めてまだ試行段階にあり、モジュール接合も採用はこれからである。LNGポンプで培った技術を持つ企業が、パワー半導体とAI半導体の接合工程でどこまで採用を広げられるかは、今後の開発と顧客との検証にかかっている。