DX支援ではなく「事業者」になる:成果を直接提供するフルスタック型スタートアップの設計

YouTubeで開く ↗
概要

FoundXのポッドキャスト「FoundX Review Startup IdeaCast」は、海外を中心としたスタートアップの事例をAIで分析し、戦略や事業の組み立て方を紹介している。今回取り上げたのは、ツールや機器を売るのではなく、スタートアップ自身が完成した成果を提供する「フルスタック事業者モデル」である。番組は冒頭で、AIを使って情報を整理しているため古い情報や誤りを含む可能性があること、個別企業の評価や投資判断を目的としたものではないことを断っている。

20分で読めます

解説役の話者は、このアプローチを「DX支援ではなく新しい事業者になる」戦略と位置づけた。すべての領域で成り立つわけではなく、どの工程を自社で握るかという線引きが成否を分ける、というのが全体を通した立場である。聞き手の富田氏が質問を挟みながら議論が進んだ。

なぜ今「成果の提供者」なのか

話者は、このテーマを取り上げた理由を二つ挙げた。一つは、AIなどによってスタートアップが担えるバリューチェーンが伸び、場合によっては自分たちが新しい事業者になる可能性が出てきたことである。もう一つは、SaaSや機器販売全般が「顧客側に、それを自社に統合する能力がある」ことを暗黙の前提にしている点だ。顧客にその能力がない領域では、スタートアップが全部を引き受けることで顧客の導入負担を減らし、大きな事業を作れるのではないかと話者は考える。その代わり、スタートアップは品質、リスク、資金、規制上の責任を引き受けることになる。話者はこれを、アップサイドを大きくする一つの手法としてありうるものと位置づけた。

従来のツール提供モデルでは、スタートアップの責任はツールや機能を納品した時点で終わり、顧客が成果を出せるかどうかは既存企業の導入能力に大きく左右されていた。新しいモデルでは、テクノロジーを顧客に販売するのではなく、自社内部の生産手段として使い、最終成果を直接顧客に届ける。

ただし話者は、このモデルが成り立つ場面は限られるとも述べた。自分たちが担う以上、導入期間を短縮できるか、品質を安定させられるか、調整コストを削減できるか、失敗率を下げられるかが問われる。設備投資も大きくなり、投資の回収も重くなる。こうした不利をどう扱うかがポイントだという。

成果連動の料金にするだけでは足りない理由

富田氏は、成果を提供するだけなら成果連動型の料金体系にすればよいのではないかと質問した。話者の答えは、成果を左右する工程を外部に残したまま成果保証だけを行うと、制御できないリスクを負うことになる、というものだった。成果連動型の価格が有効なのは、成果が測定でき、その原因を特定できる場合や、主要な工程を直接管理できる場合が中心であり、料金設計とは別に「どの工程を持てば成果のばらつきを減らせるか」を考える必要があると話者は述べた。

この文脈で紹介されたのがHadrianである。従来なら工場にソフトウェアを売るところを、Hadrianは製造能力そのものを提供し、製造会社として部品を納品している。AIは工場内部の生産手段として使い、顧客には「Factory as a Service」のような形で製造能力を提供している、と話者は説明した。

このアプローチが効く4つの構造問題

話者は、次のような問題構造がある領域でこのアプローチが重要になると整理した。

第一は、工程と責任主体の分断である。設計、調達、施工などがそれぞれ別の会社に分かれ、全体を最適化する責任者がいない場合、全体を引き受けることで早く、確実に成果を届けられる可能性がある。第二は導入能力の不足で、新しい技術を買っても、顧客側に業務変更や現場教育をやり切る能力がなければ、ツールや機器の提供だけではうまくいかない。第三はデータと学習の断絶である。実行を外部に任せると、現場の例外処理や失敗の要因が外注先にとどまり、成功や失敗の条件が製品開発に戻ってこない。第四はインセンティブの不一致で、各社が人月や作業量で収益を得ている場合、工程削減や失敗の予防はかえって自社の売上減少につながり、最終成果への経済的責任が弱くなる。

成果を提供する側に立てば、遅延や再作業、品質不良はそのまま自社の損失になるため、改善への経済的な動機が強くなる。こうした構造がある場合に、フルスタックに近い形で成果を納品することが経済的にも成り立ち、問題を解決できるかもしれない、というのが話者の説明である。

富田氏が「工程ごとに分断された産業は多いが、それだけで統合すればよいわけではないのか」と尋ねると、話者は分断による摩擦の大きさが重要だと答えた。標準的なインターフェースがあったり、元請けが十分に調整できていたりすれば、摩擦はすでに解消されており参入余地は小さい。分断による損失が大きく、顧客がその解消に支払う意思があり、スタートアップが改善できる場合に機会があるかもしれない、と話者は述べた。

導入支援で十分なケースとの違い:Promise RoboticsとCulture Biosciences

導入能力の不足を補うなら、導入支援サービスで足りるのではないか。富田氏のこの問いに対し、話者はそういうケースもあると認めた。一回の業務変更やコンサルティングで済み、その後は顧客が自力で運用できるなら、導入支援で十分である。しかし現場の条件が継続的に変わったり、毎回の設計、配置、品質判断が成果を左右したりするなら、運用を継続的に担うことの価値が高まる。スタートアップ側も、まず導入支援として入り、自社が介入し続けなければ成果が維持できないかを確かめてから、継続的に成果を納品するアプローチを検討するのも一つの手だと話者は述べた。

例として挙がったのが、カナダの住宅建設自動化企業Promise Roboticsである。顧客がロボットを買っても運用できないという問題に対し、同社はロボットやソフトウェアの販売にとどまらず、住宅メーカー向けに短期間で生産工場を立ち上げ、自動化のライフサイクル全体を提供している。市販のロボットを使いながら、ロボットの計画、工場運用、工程設計を自社システムで統合しているという。以前の回で紹介したMonumentalが完成した壁を納品する形だったのに対し、Promise Roboticsは顧客の生産拠点を「キーを回せばすぐ稼働する」状態で立ち上げる形で、北米でFactory as a Service型の展開を進めていると話者は説明した。

バイオ製造分野では、Culture Biosciencesが挙げられた。バイオリアクターを販売するのではなく、クラウド接続されたラボで顧客のバイオ実験を実行し、リアルタイムでデータを提供する。設備、実験運用、データ取得は同社が担い、顧客はプロトコルと目的を指定するだけでよい。

話者はさらに、あるベンチャーキャピタルが2026年4月に公開した文書にも触れた。従来のSaaSは仕事をツールとして支援してきたが、バーティカルAIは業務そのものを実行し、その実行結果から継続的に学習する、という趣旨の内容だという。

成立条件と、特に重視すべき3点

話者は、このアプローチが成り立ちやすい条件と成り立ちにくい条件を、いくつかの観点で整理した。

  • 顧客の要求:技術ではなく完成した成果に喜んで対価を払う顧客なら向く。ソフトウェアや機器の機能、カスタマイズ性を重視する顧客なら向かない。
  • 顧客側の能力:顧客に導入、統合、運用の能力がない業界では向く。システム統合や運用の能力がある顧客は、ツールさえ手に入ればよいので向かない。
  • 価値の源泉:外部パートナーのばらつきや調整コストが課題になっている領域は向く。技術性能やスペックの優位性だけで勝負が決まる領域は向かない。
  • プロセスの特性:案件間の共通部分が大きく、業務を標準化・ソフトウェア化できるなら可能性がある。案件ごとの個別性が極めて高く、知識を再利用できない場合は成立しにくい。
  • 資本と規制:設備、保険、規制上の責任を自社から切り離す手段があれば成り立ちうる。巨額の固定資産や法的な自己資本負担を全額抱える必要があるなら向かない。

加えて、条件が揃っていても価格をうまく設計できるかどうかで結果は変わると話者は付け加えた。

どれを優先すべきかという富田氏の質問には、顧客が成果に対して本当に対価を払うか、主要な工程を自社でどこまで制御できるか、そして一品ものにならない反復可能性があるか、の3点を挙げた。資本や規制の負担も考えるべきだが、資金調達などで何らかの迂回手段がありうる。一方、顧客の要求と主要工程のマネジメントの可否は大きな分かれ道になる、というのが話者の見方である。

成果の定義と契約:Virta Healthの例

成果の定義はどの段階で、どこまで決めておくべきか。話者はこれを難しい問題だと認めたうえで、測定の難しさと契約の難しさがあると述べた。成功の基準、ベースライン、測定期間、顧客側に求める協力などを事前に定義し、成果を納品できたかどうかが見えるようにしておくことが大事だという。完全な最終成果を測れない場合は、完成状態や検収可能な中間成果を決めておく。外部要因が大きいほど、固定料金と成果連動を組み合わせた方が安全だと話者は考える。

例として紹介されたのがVirta Healthである。遠隔医療、栄養指導、継続的モニタリングを統合し、雇用主や保険者向けに患者ごとの成果に連動する「100%リスク型」の価格を提供している。アプリの提供にとどまらず、医師、コーチ、モニタリング、治療プロトコルを一体で提供しており、顧客が求めているのはアプリの利用ではなく血糖指標や投薬の削減といった測定可能な成果だ、という考え方で事業を進めていると話者は説明した。資金調達はシリーズEあたりまで進んでいるのではないか、と話者は述べている。

自社で持つ工程と外部化する工程

設計の中心として話者が強調したのは、全工程を所有するのではなく、最終成果を左右するところを握ることである。具体的には三つを挙げた。一つ目は成果の契約で、何をもって成功・完成・検収とするか、価格と保証をどうするかという決定権を持つこと。二つ目は業務設計とデータで、見積もり、設計、範囲のルール、判断基準を自社システムに集約すること。三つ目は実行の制御で、成果を直接左右する重要な作業は自社で実行するか、少なくとも即座に指示・監視できる状態にしておくこと。

一方、資本や規制対応の能力は一部を外部主体に頼る場合もあり、一般的な労働のうち学習価値が低いものや地域性の強いものは提携先に委ねることもありうる。この境界は時期によって変わると話者は述べた。初期は学習のために広く自社で実行し、標準化できた工程から外部化していく。外部化する前には、その工程のデータを取得して学習しておくことが大事だという。いったんバリューチェーンを長く伸ばし、徐々に利益の源泉となる部分へ短くしていくのはよくあるパターンだと話者は見ている。

富田氏が「どこから外部化していけばよいのか」と尋ねると、話者は学習価値が低い工程、地域性が高い工程、競争的な供給市場がある工程を挙げた。一般的な搬送、汎用的な施工、汎用的な設備、金融資産などは外部から調達できる可能性がある。逆に、顧客接点、見積もり、設計、品質判断は最後まで自社で持ち続けるのが一つのパターンだという。

事例として、エネルギー・アズ・ア・サービス領域のRedaptiveが紹介された。企業のエネルギー設備の更新について、調査、資金、施工の調整、測定、保守を一つのサービスとして提供している。特定メーカーに依存せず設備を選び、スマートメーターによる測定・検証と長期サービス契約を自社で管理しているという。以前紹介したJetsonが住宅単位でヒートポンプを導入していたのに対し、Redaptiveは企業の複数拠点を長期契約で束ねている点が違う、と話者は整理した。

サイバー保険のCoalitionも挙げられた。継続的なリスク評価やセキュリティツールなどを保険と統合して提供しており、顧客はツールを導入することで保険料を下げられる。以前紹介したCorgiがフルスタック型の保険会社だったのに対し、Coalitionは既存の保険引受キャパシティとの提携を活用して成長してきた、と話者は対比した。

関連する資料として、NFXが2025年に出した文書も紹介された。技術だけでなく、価格、サービス、金融、成果連動といった複数の事業モデルを組み合わせて、価値の創出と獲得を設計する必要があるという内容で、AI時代にはビジネスモデルの設計が重要だと論じているという。

データを使った学習ループ

なぜこのアプローチが成果につながるのか。話者は、AIが整理した内容として、データを使った因果ループを示した。まず、成果を約束する契約を結び、ワンストップで提供することで市場の調整コストをなくして受注する。すると、実際の作業時間、例外処理、エラーの原因、部材コストの時系列データなどの運用データが手に入る。これを自社のソフトウェアで次の案件の見積もり、設計、配員、自動化に活かす。その結果、手戻り、待ち時間、品質のばらつきが減り、案件あたりの原価低下やリードタイム短縮によって粗利が拡大する。そうなると競争力のある価格でオファーでき、さらに成果の契約が取れる。このループを回すことで、新しい案件ほど見積もり誤差、作業時間、例外率が下がっていく、というのが話者の説明である。

富田氏は、データを集めるだけでよいわけではないだろうと指摘した。話者も同意し、データが大量に集まっても誤差や原価は自然には下がらないと述べた。必要なのは、データを原因ごとに分類し、次の見積もりや標準作業に反映する組織とシステムである。見積もり誤差、手戻り、例外をレビューし、標準仕様を固め、変更をどう扱うかを考え続ける必要がある。もし改善が見られなければ、取っているデータが不適切か、そもそも学習サイクルが回らない領域かもしれないと考えるべきだという。

例として挙がったのがSaildroneである。無人の水上艇を設計・製造・運航しているが、機体を販売するのではなく、海洋観測の結果、測量、監視データをフルマネージドで提供している。運用データが自社に直接蓄積され、それが次の案件につながる構造になっており、APIなどで一体的に管理しているという。

3つの実装パターンとそれぞれの重さ

話者は、実装のパターンを三つに整理した。

一つ目は完成作業の請負型である。以前の回で紹介したTerafirmaやMonumentalが代表例で、建設や土木で見られる。現場データ、自社のオペレーター、ロボットや機材を自社で持ち、完成した壁や土木工事そのものを売る。その結果を使って次の案件をやりやすくしていく。

二つ目は導入一体型で、JetsonやFormicなどが挙げられた。住宅設備や工場のロボットについて、顧客接点、見積もり、設計、導入施工、遠隔監視までを一体で担い、機器導入に伴う許認可、補助金、施工の分断を一手に引き受けて摩擦を減らしている。

三つ目は規制事業者型で、Corgiなどの保険領域の企業が挙がった。UI/UXで顧客接点を取り、その後の引き受け業務、価格設定、商品設計、データを統合している。規制はどうしても複雑になるため、そこを統合してスムーズにしている、と話者は説明した。

これらの類型は排他的ではなく、同じ会社が市場や成長段階に応じて組み合わせることもあるという。また話者は、前回扱った成果契約の話と違い、完成物の納品に限らずバリューチェーンを伸ばして垂直統合する場面にも使える考え方だと補足した。

どれが最もスタートアップ向きかという問いに、話者は「難しい」と答えた。資本をどこまで負担するかと、標準化の可能性の組み合わせで決まるという。導入一体型は比較的始めやすいが、下手をするとコンサルティングや顧客ごとの個別対応にとどまる危険がある。完成作業の請負型はデータを直接得られる一方、事故、施工、人員管理を抱えるため重い。規制事業者型は価格決定力を高めうるが、法的責任や資本構造の設計が難しい。したがって優劣はなく、条件次第だというのが話者の結論である。

宇宙分野の例としてLoft Orbitalも紹介された。顧客は衛星を持たずにミッションの実行を買う。同社は標準的な衛星を調達し、顧客のペイロード統合、統合試験、打ち上げ、運用を担い、宇宙ミッションをサービスとして提供している。話者はまた、a16zが2023年に出した「アメリカン・ダイナミズム」に関するフルスタック・スタートアップの記事にも触れた。政府関連、物理、産業など、既存企業に技術を売りにくい領域では、スタートアップが完全なフルスタックで製品やサービスを構築して市場に入る余地がある、という内容だという。

実行手順:手作業の検証から標準化・拡大へ

実際に取り組む場合の手順として、話者は三つのフェーズを示した。

フェーズ1では、有料案件の中で、顧客が本当に成果に対価を払うのか、誰が払うのか、何をもって検収・成功とするのかを確認する。コンシェルジュMVPのように手作業で成果を完成させ、顧客が本当に支払うのはどこか、ボトルネックはどこかを確かめる。

フェーズ2では、見積もり、設計、配員など成果を左右する工程のうち、成果への影響が大きく共通性の高いものからシステム化し、納期、品質、原価が実際に改善するかを確認する。

フェーズ3では、SOP、ルール、教育、パートナー認定を整え、中央で案件処理能力を増やして拡大していく。

判断の指標として話者が挙げたのは、新しい顧客ほど粗利が上がり、手戻りと人間の介入が減っているかどうかである。改善しないなら、単なる受託会社になってしまう可能性があるため注意が必要だという。

個別受託に固定化しないためのMVP設計:Machina Labs

富田氏は、コンシェルジュ型MVPで顧客に最適化することを繰り返すと、結局単なる受託会社になってしまうのではないかと懸念を示した。話者は難しいと認めつつ、ポイントを挙げた。顧客の要望をすべて受けるのではなく、「これなら可能になるのではないか」という成果の仮説を持ち、それを定義したうえで、顧客の業務のうち「この部分をやる」と狭く固定することである。個別の要望ではなく、あくまで自社の仮説に基づいて、この成果を取りたい、この成果を自動化できるか確認したいのでここだけをやる、という形にする。顧客からそれ以外の要望があれば、有料オプションにする、断る、あるいは自社の標準に取り込むかを判断する。また、引き受ける手作業が学習のためのものなのか、個別の受託のためのものなのかを意識することが大事だと話者は述べた。

ここで紹介されたのが、米国で金属製造を行うMachina Labsである。作業とロボットの判断を工場に蓄積し、製造事業者へ移行したスタートアップだという。「RoboCraftsman」という技術を販売する一方、自ら知能化された工場を建設・運営し、デジタル設計から金属部品の生産までを提供している。成形から溶接、組み立てまでを一つの生産システムとして統合し、部品や構造物を納品している。話者によれば、シリーズCで1.24億ドルを調達している。

スケールする事業構造とKaterraの失敗

大きな事業にしていくには、スケール時の事業構造と競争優位の源泉を把握しておく必要があると話者は述べた。自社に集約すべきものとしては、商品や成果の定義、標準仕様といった「顧客に何を納品するか」の設計がある。さらに、見積もりから設計、品質管理までを共通ルールにし、案件ごとの判断を記録しながら見積もりモデルと業務用ソフトウェアを改善していくことが挙げられた。

一方、一般施工、緊急対応、地域固有の許認可などは共通化が難しいため、地域のパートナーに任せることになる。ただし外部化しても、写真、センサーデータ、手戻りの理由などは自社で把握しておく。パートナーの評価も価格だけでなく、実際に検収に通ったか、納期を守ったかといった基準で行う必要があるという。

これがうまくいかなかった例として話者が挙げたのが、建設系スタートアップのKaterraである。垂直統合でスコープを広く拡張した結果、固定費が大きくなり、組織の複雑性も増し、学習速度が上がらなかった。多額の資金を調達したが失敗した、と話者は説明した。自社がどこまで学習でき、その学習成果をどこまで押さえられるかが、大きな事業にしていく際のポイントだという。

富田氏は、境界の決定は項目ごとに決めるというより、条件に応じてどちらに寄せるかを判断するものだろうと述べ、何に着目すればよいかを尋ねた。話者が最も重視したのは、その工程が成果にどれだけ影響するかである。加えて、案件間で共通する部分か、自社で制御できるか、失敗時の損失がどれくらいか、を挙げた。成果への影響と共通性が高いものは、なるべく中央に残し、自社で制御できるようにしておくべきだという。

例として紹介されたのが、建物の電化を進めるBlocPowerである。建物の診断、補助金を含む資金調達、機器の選定、施工管理、運用を一つに束ね、顧客が個々の事業者と調整しなくても電化や省エネ改修を進められる形を作っている。自社でソフトウェアを作り、改善しながら改修の支援全般を担い、そこで学んだことを展開していったと話者は説明した。

このアプローチから学べること

最後に話者は、学べる点を整理した。第一に、フルスタックといっても所有すべきなのは全工程ではない。成果、データ、品質、価格に強く影響する工程に絞って制御点を押さえ、学習できるデータ環境を作り、成果を確実に出せるようにすることが大事だという。

第二に、創業初期は完成形ではなく学習の手段として手作業を行うこと。手作業から共通の判断や例外を見つけ、段階的にシステムに置き換えていく。AIによって担える工程が長くなっているので、どこまで伸ばすかを考えながら学習を進めるのがよいと話者は述べた。

第三に、売上規模だけでなく、改善できているかを指標として追うこと。案件数が増えても、同じだけの人手や例外が発生しているなら、それはスケールではなく受託事業が肥大化しているにすぎない。次の顧客で自社のソフトウェアやロボットがよりうまく機能し、原価率が下がり粗利率が上がっている状態を作れているかどうかを見るべきで、それを作れていれば最大の競争優位になるだろう、と話者は述べた。

そのうえで話者は、「既存企業にツールを販売するだけで、顧客は望む成果を自力で達成できるか」という問いの答えがノーであれば、そこに自分たちが事業者として置き換わる機会があるかもしれない、という観点でこのアプローチを見るとよいとまとめた。

富田氏は、垂直統合や成果の提供は「全部自分でやる」ように聞こえがちだが、実際には制御できて成果に直結する部分を持ち、それ以外はパートナーを活用するという線引きが重要なのだと感想を述べた。学習ループを回しながら握るべきところを握る設計は難しいだろう、とも付け加えた。

これに対し話者は、あえて期限を設けるのも一つの方法かもしれないと応じた。仮説を持ち、「この時点でこの指標を満たしていなければ受託企業になってしまう」と判断できるように、たとえば何件の案件を受けて2年後までにここまで改善しておく、といったハードルを自分たちで用意しておく。受託型も一つの行き方ではあるが、スタートアップとしてスケールするならそうした基準が必要ではないか、と話者は今回のまとめを見て考えたと述べて、議論を締めくくった。