銅精錬を常温近くの液式プロセスに置き換える、Still Brightの参入戦略とスケールアップの課題

YouTubeで開く ↗
概要

FoundXの番組「FoundX Review Startup IdeaCast」は、海外スタートアップのアイデアをAIで整理・分析し、起業を考える人の参考になる論点を二人のスタッフが話し合う番組である。冒頭で、AIを使って情報を整理しているため一部が古かったり誤っていたりする可能性があると断っている。今回取り上げたのは、米ニュージャージー州を拠点に銅の抽出・精錬技術を開発するStill Brightだ。説明役のスタッフは選定理由として、銅は普段あまり意識されないが需要が伸びており、その供給側に問題がある点を挙げる。Still Brightは精錬のプロセスやモデルそのものを変えようとしており、その点を大きな取り組みとして評価したという。

17分で読めます

高温の乾式精錬ではなく、液体と電気分解で銅を取り出す

従来の銅精錬は、約1200℃の熱で鉱石を処理する乾式精錬が中心である。Still Brightは代わりに、同社が「RACER」と呼ぶ湿式のプロセスを開発している。常温・常圧に近い液体で鉱石を処理し、その後の電気分解で銅を取り出す仕組みだ。

同社は目標として、銅の抽出を安全かつ効率的にすること、そして重要鉱物が豊かに得られる世界をつくることを掲げている。そのための考え方が「フルバリューマイニング」である。鉱石には銅以外に金、プラチナ族、ニッケル、コバルト、モリブデンなどが含まれている。これらを同時に回収し、原料1単位あたりの価値を最大化するという発想だ。従来は廃棄の対象になったり、精錬所に持ち込むとペナルティを課されたりしていた原料を、「お荷物」から収益源に変えられると同社は訴えている。

背景として、EVやAIインフラの発展により、2040年までに銅需要が約40%伸びるという見通しが紹介された。一方、既存の乾式精錬には環境汚染の問題があり、許認可に数十年かかる場合もある。これが供給のボトルネックになっているという整理である。銅の供給不足がいつ表面化するかという質問に対し、説明役は、既存の採掘プロジェクトだけでは需要に追いつかないとの見方を紹介した。不足はすでに表面化しつつあり、今後10〜20年で不足幅がさらに広がると予測されているという。

顧客が抱える3つの課題

同社の資料をもとに、説明役は顧客の痛みを3点に整理した。

1点目は「ダーティ精鉱」である。アンチモンなど、精錬所に持ち込むとペナルティの対象になる不純物を多く含む銅精鉱を指す。既存の精錬所では減額されたり、受け入れを断られたりする可能性がある。

2点目は、米国内の精錬能力の不足と海外依存である。Still Brightの資料では、米国は未精錬の精鉱を年間約30億ドル相当輸出しているとされる(発言中では「3億ドル」とも言い直しており、数字ははっきりしない)。同社はこれを課題として打ち出している。

3点目は、ヒープリーチングという従来手法の限界である。ヒープリーチングは、採掘した鉱石を砕いて山状に積み上げ、上から酸を散布し、隙間を通る液で金属を溶かし出す方法だ。低品位の酸化鉱には有効だが、硫化鉱では固まったり表面に膜ができたりして溶けにくくなり、処理に時間がかかるという。

初期ターゲットはポリメタリック鉱床と不純物の多い精鉱

同社が顧客として想定しているのは、ポリメタリック鉱床を持つ鉱山会社と、不純物の多い精鉱を抱える事業者である。ポリメタリック鉱床とは、単一の金属ではなく複数の有用金属が一緒に含まれる鉱床のことで、銅とモリブデン、銅と金が同時に取れるものなどを指す。つまり同社は良質な鉱石の市場全体を狙うのではない。既存の手段でうまく処理できていない原料に絞っている。

聞き手は、それではターゲットがかなり限られるのではないかと質問した。説明役は、この初期市場の正確なSAMやSOMは、調べた範囲では数字が出ておらず、小さい可能性も十分にあると認めた。そのうえで、採れる鉱石の品位が下がり、処理が難しい原料が増えていけば、既存手段で困っている層は広がる可能性があるとの見方を示した。

RACERの仕組みと、同社の主張する性能

RACERはバナジウム系の試薬を使う。常温・常圧の液体に鉱石を入れると数分程度で反応が起き、その後の電気分解で銅や他の金属を取り出す。プロセスはクローズドループになっており、有毒な排出を防げるとされる。同社によれば、短時間で銅の90〜99%を抽出でき、ヒープリーチングで問題になる不動態化も避けられる。さらにRACERをモジュール化してソリューションとして提供することで、CAPEXを70〜90%削減できると同社は主張している。

現状は、コロンビア大学の特許技術を基盤に年産2トン規模のパイロット試験を行っている段階である。抽出効率と試薬の再利用性を確認したとされる。

聞き手は「夢のような技術」に聞こえるとして、常温常圧に近い条件で本当に高い抽出効率が出るのかと尋ねた。説明役は、現時点ではあくまで同社の主張だと答えている。鉱石の組成が変わった場合、前処理の条件が異なる場合、連続稼働させた場合にそれぞれ結果が変わりうる。規模を大きくしても同じ回収率が出るかは、これから検証が必要だという。

安全性や副生成物のリスクについては、プロセスの各所にセンサーなどの計測手段を入れ、有害物質が外に出ていないかを把握する必要があると説明役は述べた。これも今後の検証事項であり、実データの計測と第三者評価が求められる段階だという。

CAPEXを大きく削減できる理由は、同社の説明によれば次のとおりである。乾式精錬に必要な大型の溶鉱炉や、そこから出る排ガスの処理設備が要らなくなる。そしてRACERを組み込んだコンパクトなモジュールで工程が完結する。

市場:EV・再エネ・AIが押し上げる銅需要

大きな枠で見た対象市場は、世界の精錬銅市場である。2040年までに需要が40%増え、年間3400万トン規模になるとの予測が紹介された。需要を押し上げる要因は3つ挙げられた。1つ目はクリーンエネルギーへの移行で、再エネ設備は従来の電源より多くの銅を必要とする。2つ目はEVで、ガソリン車の約3倍の銅を使うとされる。3つ目はAIインフラで、データセンターの電力設備、冷却、配線・配電を通じて銅需要が増える。

一方、初期市場であるダーティ精鉱やポリメタリック鉱床の規模は、公開資料からは分からないと説明役は繰り返した。言えるのは、品位低下や処理困難な原料に悩む顧客が存在するだろうという程度だという。聞き手は、切実なニーズを持つ初期顧客はいそうだと受け止めつつ、銅価格が下がった場合にこの市場規模が成り立つのかという不安を口にした。説明役もその可能性は十分あると認めた。そのうえで同社の主張として、金やモリブデンなど別の金属も提供できること、持ち込み時に払っていたペナルティを避けられること、環境リスクを下げられることを挙げ、これらを組み合わせて事業を成り立たせようとしているのだろうと述べた。

ビジネスモデルとユニットエコノミクス

同社のモデルは、従来は無価値かマイナスの価値だった鉱山廃棄物、ダーティ精鉱、低品位・処理困難な原料を投入し、銅、金、ニッケル、プラチナなどを取り出すというものだ。顧客にとってのコストを原料に変える構図である。収益化の方法としては、モジュール設備の販売、ライセンス提供、処理のサービス提供が挙がっている。説明役は、どれにするかはまだ決まっておらず、探りながら進めている段階ではないかと見ている。

収益性の改善要因としては、CAPEXが小さくなることと、従来は廃棄・放置されていた副産物を回収できることが挙げられた。ただしユニットエコノミクスは前提条件に大きく左右されると説明役は言う。鉱石にどの金属がどれだけ含まれるか、変動の大きい金やプラチナの価格、電力コスト、試薬の消耗ペース、後処理などである。

聞き手は、モジュールを買う顧客側で運用の負荷が増えるのではないかとも尋ねた。説明役は、その可能性はあると認めた。一方で同社の説明では、モジュール型でオンサイトに設置できるため鉱石の長距離輸送が減り、クローズドループなので廃棄物管理の手間も減るとされている。

集中型精錬から分散型・オンサイト処理へ

既存の精錬業は、大量の精鉱を大型の精錬所に集めて高温処理する、規模の大きなモデルである。そこには輸送負荷、有害物質の排出、許認可の長さに加え、精錬拠点がアジアに集中している地政学リスクがあると説明役は整理した。Still Brightは分散型で、鉱山の現場に近い場所で処理する。鉱山ごとの組成や処理量に合わせて設備を最適化し、輸送コストと地政学リスクを減らせるという。同社の理想像は、資源国が環境破壊を伴わずに国内で銅の精錬を完結させ、エネルギー安全保障と経済的な独立を確立することだとされる。

聞き手は、既存の精錬所と正面から戦わず、そこで受け入れられない原料から入る点が戦略の要だと確認した。説明役も、少なくとも最初の入り方はそうだと答えている。分散設備ではメンテナンスが大変ではないかという質問には、次のように説明した。初期はStill Brightのチームが運用を支援し、将来的にはパートナー企業との連携や遠隔監視を取り入れ、サービスとして提供する形が想定されている。

経済安全保障との関係については、同社の事業が米国内サプライチェーンの強化やエネルギー安全保障に直結するため、すでにDOE(米エネルギー省)から補助金を獲得しており、それが後押しになっていると説明役は見ている。

ロードマップ:2トンのパイロットから500トンのデモプラントへ

ロードマップは3段階である。フェーズ1は現在で、年産2トンのパイロット試験を通じてラボレベルでPMFと技術を検証している。ダーティ精鉱を対象に、抽出効率、クローズドループ、連続稼働がどこまでできるかという基本を確かめる段階だ。フェーズ2は2027〜2028年で、年産500トンのデモプラントを実際の鉱山現場で運用する。連続稼働と副産物回収を含め、ユニットエコノミクスが狙いどおりになるかを証明する。フェーズ3では年産1万トンの商用システムを構築し、複数の鉱山へのモジュール展開やグローバル市場への進出を狙う。説明役は、小さく始めて段階的に拡大する、ディープテックによくある進め方だとまとめた。

パイロットからデモへ移る際の最大のリスクについて、説明役は次のように答えた。フェーズ1で得られているのはラボ環境での成功にすぎない。フェーズ2では過酷な鉱山環境で連続稼働させ、そのうえでユニットエコノミクスを狙いどおりに安定させる必要がある。壁になるのはオペレーションとエンジニアリングだという。

差別化要素と競合

同社の差別化要素は主に技術面で、5点が挙げられた。常温・常圧での稼働、数分単位の高速処理、不動態化の回避、クローズドループによる有害排出ゼロ、金やプラチナなどの副産物回収である。AIによる競合比較では、環境負荷の低さと処理速度を軸にとり、Still Brightをどちらも優れる位置に置いた。ただし説明役は、この軸の取り方はあまり良いものではなかったと留保している。

競合として、チリを拠点とする銅抽出スタートアップ(発言では「セイボ」)が挙がった。従来技術では処理が難しい硫化銅を扱うが、環境負荷はStill Brightのほうが低いとAIは整理したという。クローズドループという点ではPH7 Technologiesも近いが、同社は銅に限らず、プラチナやイリジウムなど重要金属全般の回収を目指している点でやや立ち位置が異なる。聞き手がジェッティなど他社との違いを尋ねると、説明役は次のように答えた。競合は既存設備へのアドオンや統合を狙っているのに対し、Still Brightはプロセスそのものを置き換えるシステムを丸ごと提供する点が異なる。

競争優位(moat)については、技術や特許だけでなく、鉱石ごとの処理レシピ、実規模で動かしたときのデータ、試薬の再生方法などのノウハウが一つずつ積み上がって強くなる性質のものだと説明役は述べた。特許の基盤はコロンビア大学にあり、CTOが同大学に所属していることからスピンアウトの形をとっているという。

既存プレイヤーが嫌がる領域から入る

参入戦略を改めて整理すると、初期ターゲットは不純物を多く含むダーティ精鉱や鉱山廃棄物を抱える事業者である。彼らは既存の精錬所で高額なペナルティを取られ、処理を断られ、輸送コストも高いという痛みを抱えている。MVPは「環境に良い抽出技術」という打ち出しではない。既存手段では処理できない原料から銅と副産物を確実に取り出すパイロットモジュールだという。既存の精錬所が得意とする良質な原料ではなく、既存プレイヤーが嫌がる、あるいは対応しにくい領域に入ることが工夫の要点だと説明役は評価した。

PMFはまだ確認途中だとしたうえで、検証済みの点も紹介された。HAXなどのアクセラレーターを通じて業界ネットワークを活用して試験を行い、ラボレベルで銅の回収率90%超を確認したという。

オンサイト稼働に許認可は必要かという質問には、必要になると説明役は答えた。ただしクローズドループで乾式精錬より環境負荷が低いため、規制当局や地域の承認を得やすいという強みにつながるとされている。鉱山会社をどう説得するかについては、説明役は自身の考えとして2つの方法を挙げた。1つは、顧客が実際に使っている原料のサンプルで試験し、回収率、取り出せる副産物の種類、その金額を示すこと。もう1つは、既存工程に影響を与えない小規模な導入から始めることである。

電池研究から生まれた技術と起業の経緯

起点はコロンビア大学での研究である。CTOのジョン・バードナー氏(字幕の表記による)はバナジウムフロー電池を研究しており、それを銅の抽出に応用したのがRACERの技術的背景だという。2022年に大学発のディープテック企業としてスピンアウトした。技術側にはコロンビア大学の研究者らが加わり、科学的な厚みがある。ビジネス側には、VCでの経験やスタートアップ支援の経験を持つCEOがおり、外部への説明力でチームを補っているという。説明役は、科学・技術側だけでなくビジネス経験者がいる点をバランスの良さとして挙げた。同社はいきなり商業化したのではなく、HAXやActivateなどの支援プログラムを使って、研究から事業化へ少しずつ進めてきたという。

なぜ電池の研究から銅の抽出技術が生まれたのかという問いには、説明役も自分も気になっていると答えた。フロー電池で使うバナジウム系の試薬の電気化学反応が銅の還元抽出にも応用できると着想したようだが、きっかけは分からないという。逆側の反応を使っているのではないか、というのが説明役の推測である。

学び:環境に良いだけではコモディティ産業は動かない

同社の学びとして説明役が紹介したのは、当初の仮説の修正である。「コストが既存と同じで環境に良ければ市場は動く」と考えがちだが、コモディティ産業ではコストが同等であることは当然の前提であり、導入の理由にはなりにくい。顧客を動かすには、既存より明確に経済性が良くなる理由が必要になる。Still Brightの場合は、副産物の回収、ペナルティ回避、CAPEX削減、環境リスクの低減を重ね合わせて顧客への価値にしているという。

直面している困難は、ラボから実際の現場へスケールする際に扱う原料が増え、それを連続処理できるかというオペレーションの壁である。説明役は、これは同社固有というよりハードテック全般に共通する話だとし、この壁を越えられるかが今後のマイルストーンになると述べた。同社はそのためにDOEやVCから資金を得ている。聞き手が、スケールアップの設計には早い段階から多くの人を巻き込む必要があるのかと尋ねると、説明役は次のように答えた。工場や大規模設備を設計するプロセスエンジニア、現場の運用や保守に詳しい人材、許認可をどう取るのが最善かという制度面の視点を、初期から入れることが重要になる。

資金調達と組織体制

資金面では、VC資金に加え補助金やグラントも得ており、合計で約2080万ドル規模とされる(字幕では「20.8ドル規模」)。2025年7月には1870万ドルのシードラウンドを実施しており、ディープテックとしてはかなり大型のシードだと説明役は評価している。Breakthrough Energy Venturesのような気候変動系の投資家も参加している。気候変動と供給安全保障という2つのストーリーを活用できるようになったこと、希薄化を伴わない補助金も得ていることも紹介された。

従業員は12〜15人ほどで、年産2トンのパイロットから年産500トンのデモプラントへ移行するステージにあるという。聞き手がまだ小さな組織だと指摘すると、説明役は実際のプラントを運用するならこの人数では済まないと認めた。そのうえで現状について、自前で巨大な工場を持つのではなく、モジュール設計と特許技術の開発に特化し、試験もパートナーと共同で行う体制をとっているため少人数なのだろうと述べた。

日本で起業するなら:都市鉱山とリサイクル

日本で似たアイデアを事業化する場合についてはAIに考えさせたとして、その提案が紹介された。日本は一次鉱山が少ないため、Still Brightのように鉱山現場に入るのではなく、二次資源、リサイクル、既存の精錬ラインへの組み込みが現実的だという。案は3つある。

  • 案A:都市鉱山に特化し、電子機器の廃棄物やスクラップ、使用済み電子部品から銅、金、銀、プラチナを回収する。
  • 案B:既存ラインへの後付けで、精錬残渣、スラグ、廃液など既存工程で価値化できていない部分から金属を取り出す。
  • 案C:鉱山や工場の排水に含まれる有用金属を選択的に回収する。

AIは、自前で設備を建てるのではなく、国内の精錬業者やリサイクル企業と組み、既存ラインへの組み込みを図るべきだとしている。説明役はこれを現実的な提案だと受け止めた。聞き手が日本の都市鉱山の規模を尋ねると、説明役は一般に言われていることとして、日本の都市鉱山はかなり大きいとされると答えた。参入の難しさは別としても、市場としては大きい可能性がある。既存の回収インフラに乗せることで、金、レアメタル、プラチナなどを追加で取り出せる可能性はあるという。

まとめ:Must-haveな価値をどう作るか

最後に説明役は3点をまとめた。第一に、コストが同等であることは参加条件にすぎず、既存産業を覆すには新たな収益源のような圧倒的な付加価値が必須になる。第二に、科学的な実証と現場での運用は別物であり、ラボで反応が成立しても現場で安定して動くかは別問題なので、初期から運用を見据えた設計が必要になる。第三に、環境価値を単なるPRで終わらせず、許認可のスピードや地域の合意といった優位性に転換する必要がある。視聴者への問いかけとしては、自分の事業アイデアが「あれば良いもの(nice-to-have)」なのか、痛みを取り除く「特効薬(painkiller)」なのかを見極め、顧客がどんなインセンティブを持つかを整理し直すことを勧めた。

聞き手は感想として、参入の仕方はまさにペインキラー型だと評価した。一方で、その後のスケールアップは難しそうで、そこをどう進めるかを見ておきたいと述べた。説明役もスケールアップはこれからの課題だとして追いかけたいと応じた。同社はいずれ既存の領域にも広げようと考えているはずだとし、次にどこから入っていくのかを今後も見ていきたいと話して回を締めくくった。