塩分0%から30%まで生きる微生物、口のないチューブワーム、油の湖のタイタン:長沼毅が語る極限環境の生命
VAIENCE バイエンス極限環境生物学者の長沼毅は、深海、南極、宇宙へと関心を広げてきた研究者である。この回では、自身の深海調査の体験を交えながら、地球の常識外れの生物を紹介し、地球外生命の可能性や生命の起源、さらに「生命とは何か」という問いへと話を進めた。長沼の立場は一貫して、生命は想像以上に幅広い環境に適応しうるというものだ。そのうえで、文明の普遍性については慎重な見方を示している。
大西洋の海底火山で出会った「地球最強」候補
長沼が「もしかしたら地球で最強の生き物かもしれない」と話すのは、ハロモナス・バリアビリスという微生物である。1912年に沈没したタイタニック号の船体を少しずつ分解している微生物として、ハロモナス・ティタニカエが知られている。バリアビリスはその仲間にあたる。
長沼がこの微生物に出会ったのは、大西洋中央の海底火山だった。大西洋の中央には、アフリカと南アメリカ、ヨーロッパと北アメリカを引き裂くように延びる巨大な割れ目があり、今も海底が左右に広がり続けている。その境界に沿って海底火山が並んでいる。長沼は有人潜水調査船「しんかい6500」でその一つに潜り、300℃の熱水の採取に成功した。
本来の狙いは、熱水に含まれる火山ガス成分の硫黄を餌にする微生物だった。ところが、培養に必要な硫黄を持ってくるのを忘れていた。そこで長沼は発想を変えた。海底火山では、塩分の非常に高い水と、真水に近い水が交互に出てくることがある。それなら大きな塩分変動に適応した微生物がいるはずだと考え、船にあった食卓塩を培養液に入れた。すると微生物が生えてきた。その微生物を今度は真水に移しても、やはり増えた。遺伝子を調べると、ハロモナス・バリアビリスだった。
この微生物の特徴は、耐えられる塩分濃度の幅の広さにある。通常の海水の塩分濃度はおよそ3%だが、ハロモナス・バリアビリスは0%に近い環境から、30%近い飽和塩水まで生きられるという。
海底火山と南極をつないだ「塩分変動」
長沼が本当に驚いたのは、その先だった。ハロモナス・バリアビリスは世界中で見つかっているが、長沼が大西洋の海底火山で採ったものに遺伝的に最も近い株は、南極から採取されたものだった。長沼は「意味がわからない」と思い、実際に南極へ行って探した。すると、やはりいた。
番組の解説によれば、海底火山と南極には激しい塩分変動という共通点がある。南極には、かつて海水を取り込んだ土地や湖がある。乾燥によって水分が失われると塩分は極端に濃くなり、夏には雪や氷が溶けて真水が流れ込む。長沼はその後、塩分変動のある場所を地球上のあちこちで探した。そして、どこにでもハロモナス・バリアビリスはいたと語る。この微生物は、生命がどれほど幅広い環境に適応できるかを示す例として紹介された。
122℃、1万気圧、そして石油の中
続いて長沼は、極限環境に耐える生物をさらに挙げた。
一つ目は超高温である。インド洋の深海熱水噴出孔の周辺で見つかった、メタンを作る古細菌メタノピュルス・カンドレリ116株だ。海洋研究開発機構(JAMSTEC)の研究チームが深海に近い高圧環境で培養し、122℃でも増殖できることを確認した。深海では強い水圧のため、100℃を超えても水が沸騰しない。
二つ目は超高圧で、長沼が挙げたのは意外にも普通の大腸菌だった。ある研究チームが、大腸菌に圧力をかけながら、より強いものを選抜する実験を行った。その結果、水深に換算して10万mを超える圧力に耐える株が出てきたという。地球で最も深い場所でも水深約1万m、約1000気圧である。水深10万mなら1万気圧に相当する。地球の生物圏はそこまで広がっていないのに、なぜそのような能力を獲得できたのか。長沼はこれを「意味わからん」と表現した。
三つ目は、油の中で生きる生物である。アメリカ・カリフォルニアの天然の油の池に生息する「石油バエ」は、幼虫期を石油の中で過ごす。幼虫は表面近くを泳ぎながら、油に落ちて動けなくなった昆虫などを食べている。石油そのものを栄養にしているわけではない。体内には、石油のような環境に耐える微生物が住んでいると考えられている。長沼は、この生物は地球生物の中でもかなり例外的であり、地球外生命を考えるうえで重要なモデル生物になるのではないかと述べた。この話は、後半のタイタンの議論につながっていく。
光のない深海の生態系とチューブワーム
地球の生態系の多くは、植物が太陽光を受けて有機物を作ることで成り立っている。光の届かない深海では光合成ができない。そのため深海生物は、表層から沈んでくる「マリンスノー」を主な食料源にしている。
ところが1977年、ガラパゴス諸島沖で海底火山を調査していた研究者が、熱水の湧く場所に奇妙な生物が大量に生えているのを見つけた。チューブワームである。白い管から赤い器官をのぞかせた姿は植物のようだが、れっきとした動物だ。しかも成長すると口も消化管も失う。
チューブワームは、熱水噴出孔から出る硫化水素を体内に取り込み、共生する細菌に渡す。細菌はその化学エネルギーで有機物を作り、チューブワームはそれを栄養にして生きている。長沼は、これは植物の光合成によく似ていると説明した。違うのは、エネルギー源が光ではなく火山ガスだという一点だけである。太陽光に依存せず、地球内部から湧き上がる火山ガスに依存する生態系は、それまで誰も考えたことがなかった。長沼はこれを「革命的な発見」と呼んだ。
長沼自身が深海生物学を志したきっかけも、このチューブワームだった。高校生のときにその存在を知り、「これが追い求めていた生き物だ」と思ったという。実際に何度も解剖した経験もある。白く硬い管の中から、ミミズのような細長い体を引き出す。先端の赤い部分はエラで、その下に筋肉があり、さらに下には大した構造のない、開くとぐじゅぐじゅした組織がある。その組織を詳しく見ると、細胞の中に微生物が入っている。これが、火山ガスをエネルギー源に有機物を作る微生物である。
チューブワームの寿命と、熱水に落ちるエビ
チューブワームは時に3mにもなる。その寿命について長沼は「よくわからない」と前置きしたうえで、ある研究を紹介した。海底火山の噴火直後にはチューブワームの死骸が漂っていた場所で、1年後に殻がどれだけ伸びたかを測った研究がある。その成長速度から計算すると、ある大きさになるまでに200年かかるというデータがあった。200歳は普通に超えるのではないかと言われているという。
長沼は、元気のないチューブワームのエラがカニに切られ、食べられている様子を見たことがある。元気なら素早く引っ込むはずだという。死後の体内まで入り込める動物はあまりいないだろうから、あとは発酵のような過程で分解されるのではないか、と長沼は推測している。
大西洋の中央では、別の光景も目にした。熱水の湧く煙突状の構造物に、リミカリスというエビが無数に群がっていた。このエビは、人間でいえば後頭部の方に目が移り、赤外線カメラのようになっている。エビは微生物を求めて集まってくるが、中にはうっかり熱水に突っ込み、その瞬間に茹で上がって死んで落ちるものがいる。下にはエビの死骸が山になり、そこにカニが来て食べている。長沼は、かなりシュールな光景の中に生態系ができていると感じたと振り返った。
新人研修中に始まった深海調査
長沼が深海に潜った回数は14回である。1回目は1989年4月、28歳になってすぐの頃だった。現在の海洋研究開発機構が「海洋科学技術センター」という名前だった時代に、長沼は4月1日に入所した。新人研修を受けている最中に「そんなのどうでもいいから来い」と呼ばれ、わけのわからないまま潜ることになったという。乗ったのは「しんかい2000」である。現在の「しんかい6500」と同じく乗員は3人で、海中での調査時間はおよそ8時間。船内にトイレはない。
特に印象に残っている場所として、長沼は伊豆・小笠原の海底火山列にある一つの海底火山を挙げた。中央の火口の底に降りると、あちこちで熱水が噴き出していた。それ以上に驚いたのは潮の流れの強さだった。台風のように物が転がっていく様子を見て、深海はいつも同じ静かな世界だという自分の世界観が崩れた。深海では時々、あるいは場所ごとに、今この瞬間にも変なことが起きているのかもしれない。そう思わせる瞬間だったという。
危険な経験もあった。潜水船は前方をソナーや覗き窓で確認できるが、真下は見えない。しんかい2000も6500も、水中に止まって作業するのには向いていないため、いったん着底する。その真下で熱水が噴いていれば危険である。実際に、母船に引き上げた後で船体の下を見ると、焦げていたことがあった。それ以来、覗き窓の外側にもう一枚防護用のものを付けたり、船体の前・中・後ろに温度センサーを付けたりするようになったという。
それでも長沼は、深海は静かな世界だと思っている。宇宙と深海の両方に行った宇宙飛行士の毛利さんと話したとき、毛利さんは宇宙の暗闇と深海の暗闇は違うと話していた。宇宙の暗黒は本当に何もない「無」を感じさせるが、深海の暗黒は何かがいっぱいあると感じさせる、という。
生命誕生の3条件と、エンケラドス・エウロパ
話は地球外へ移る。長沼は、生命が誕生するための大事な要素として三つを挙げた。安定的に供給されるエネルギー、生命体を作る材料、そして液体の水である。かつての地球の深海にあった熱水噴出孔、つまり海底火山はこの3条件を満たしていた。太陽系には、同じ条件がそろう可能性のある天体がある。
長沼の「一押し」は、木星ではエウロパ、土星ではエンケラドスである。エンケラドスは綿密な調査が進んでいる。表面の氷の割れ目から、氷の下の海の水が噴き出しているのが観察されており、探査機がその噴出物に突っ込んで現場で分析した。成分の99%は水だったが、残り1%に一酸化炭素、二酸化炭素、メタンが含まれていた。長沼によれば、二酸化炭素とメタンが共存するのは考えにくい。共存しているなら何らかの反応系があるはずで、それは生命に関わっていると思わせる。さらに有機物も見つかっている。有機物は生命を作る材料か、その破片である。そのため長沼は、エンケラドスの可能性はかなり高いと考えている。
エウロパも可能性はあるが、まだそこまで調査が進んでいない。2024年10月に探査機エウロパ・クリッパーが打ち上げられ、2030年の到着を目指して移動中である。
熱源があれば可能性は広がる:ケレスと冥王星
長沼は、エンケラドスの小ささにも注目する。直径はわずか500kmほどで、東京から大阪までくらいの大きさしかない。それなのに、なぜか内部に火山活動の熱がある。理由はいまだによくわかっていないが、さまざまな説がある。そうした説をほかの天体に当てはめると、あの天体にも熱源があってよいのではないか、という議論が次々に出てくる。
例として長沼は、小惑星(準惑星)のケレスを挙げた。内部に熱源があり、氷の一部が溶けて液体の水になり、小規模な熱水活動があるかもしれないと言われている。その証拠の一つとして、液体の水がなければできない炭酸塩鉱物が、ケレスの表面でかなり見つかっている。
太陽系の果てにある冥王星の表面には、大きなハート型の地形がある。冥王星全体はデコボコしているのに、ハート型の部分だけが平らだ。これは何らかの熱源によって表面の氷がいったん溶けて平らになり、再び凍ったためだと言われている。長沼は、熱さえあれば可能性はいくらでも論じられると考えている。
タイタンの油の湖と「オイルバイオロジー」
長沼が「むちゃくちゃ面白い」と話すのが、土星の衛星タイタンである。最も面白い点は、地表に液体の湖がたくさんあることだ。タイタンの地表はマイナス200℃に近いか、それ以下で、液体の水は存在しない。湖を作っているのは、最も単純な油である液体のメタンやエタンだ。私たちの世界ではガスだが、低温では液体になる。
長沼によれば、人類は水の生物学(ウォーターバイオロジー)には詳しいが、油の中の生物学(オイルバイオロジー)はよくわかっていない。そこで、地球の石油バエのように油の中で生きる生物をきっかけに、タイタンでありうるオイルバイオロジーを考えようという議論があるという。
問題は極性である。水分子は酸素側がわずかにマイナス、水素側がわずかにプラスに偏っている。そのためさまざまな物質を溶かし、生命に必要な化学反応を進める優れた環境になる。一方、液体のメタンやエタンはほとんど極性を持たないため、生命の誕生は難しいのではないかと考えられる。
しかし長沼は、タイタンの低温でも液体でいられ、かつ極性を持つ分子があると指摘する。リンの化合物であるホスフィンで、木星や土星の大気にも見つかっている。油の湖の中にホスフィンがあれば、そこに水っぽい世界ができ、私たちの知る生物学に近いものがありうるかもしれない。
長沼はさらに、細胞の構造にも踏み込んだ。私たちの細胞は、周りも中も水っぽい「ウォーター・イン・ウォーター」の状態にあるため、油である細胞膜で内と外を仕切っている。タイタンの場合は「ウォーター・イン・オイル」になるので、油で仕切る必要がない。油の中のホスフィンの粒子の中で反応が進めば、それだけで細胞のようになるかもしれない。その場合、細胞は地球の生物より単純な構造になりうる、と長沼は考えている。番組は、これが現段階では「もしも」の話であることを添えている。
宇宙飛行士試験の準決勝敗退と、火星への片道切符
宇宙に行きたいかと問われた長沼は、行けるなら行ってみたいと答えた。長沼は宇宙飛行士の選抜試験を受けたことがあり、準決勝で敗退した。宇宙飛行士として行くことは諦めたが、今後出てくるであろう宇宙旅行には期待している。
特に関心があるのは火星である。長沼は、深海でも南極でも同じだが、人間を送ることは簡単で、生きて帰すことが大変だと指摘する。しかも、行く前と同じ状態で帰すことが重要で、それが難しい。これが火星への人類進出のネックになると長沼は考えている。一方で、片道でよいのではないか、行った人にはそのまま火星に住んでもらおうという話もある。長沼は、年齢的に自分が声をかけられるかもしれないと思っており、もし言われたら行くつもりだと語った。
生命の起源:海底火山の地下とパンスペルミア
生命がどこで生まれたかについて、長沼は海底火山のような場所がよいと考えている。そこが現在の生命につながる発生の場だという立場である。番組の解説によれば、生命が誕生したとされる約40億年前の地球には大きな隕石が何度も衝突しており、地表で生まれた生命はそのたびに消し去られた可能性がある。海底のさらに地下なら衝突の影響を受けにくく、長沼はそこに現在の生命の起源があったのではないかと考えている。
もう一つの考え方として、長沼はパンスペルミア仮説を紹介した。生命そのもの、あるいは生命の材料が隕石などとともに地球外から運ばれてきたという説である。長沼が面白いと感じるのは、材料物質だけが運ばれ、地球上で組み立てられたという考え方も含まれる点だ。
これに関して、長沼は最近の発見を挙げた。探査機「はやぶさ2」が小惑星リュウグウから持ち帰ったサンプルを分析した結果、核酸塩基が全種類見つかったという。核酸塩基はDNAやRNAに情報を書き込む文字のような分子で、アデニン、グアニン、シトシン、チミン、ウラシルの5つがある。アメリカも小惑星ベンヌからサンプルリターンを行い、そこからもA・G・C・T・Uの5種類がすべて見つかっている。ベンヌは500mほどの小さな天体であり、そうした天体がかつて地球に来たこともあるだろう。長沼はここから、少なくとも材料物質が宇宙から運ばれたという説はありうると考えている。
地球外生命はありうるが、文明は稀かもしれない
地球外生命について、長沼は「あり得る」と明言する。生命の起源はかなり宇宙に普遍的なものだと考えており、地球外で生命が発生しても、遺伝情報はDNAやRNAに担わせるだろうと見ている。だからこそ、小惑星からRNAの材料物質が見つかったことを「すごい」と評価している。
太陽系内で有望なのは火星とエウロパだという。エウロパ・クリッパーは2030年に到着し、2031年から観測を始める。これが最も早いタイミングだろうと長沼は見ている。火星については今後の計画次第だが、それより早く、あるいは前後して生命発見があるかもしれないと期待している。ただし長沼自身は、火星の表面には生命はいないと考えている。それでも、表面をくまなく探せば、ちょっとした物陰にいるかもしれないとも付け加えた。
文明については、また別の要素が入るので「よくわからない」としたうえで、自分は文明がほしい派なので太陽系外惑星に求めると話した。地球に似た惑星はすでにいくつか見つかっており、そこでは地球と似た環境の変化をたどり、地球の生物と似た進化の歴史をたどる場合もありうる。一方で長沼は、地球の生物進化には偶然としか思えない出来事がいくつもあると指摘する。陸上生物が生まれ、四足動物が陸に上がり、その一部が木に登り、木から降りて人間になった。長沼はこれを必然ではなく、かなり偶然の結果だと考えており、ホモ・サピエンスの誕生自体が奇跡のように思えるという。そのため文明までは普遍的ではないかもしれず、この宇宙で地球だけかもしれない。ほかにあっても一つか二つではないか、という気もするという。
エントロピーに逆らう生命は宇宙の「あだ花」か
最後に長沼は、「生命とは何か」という問いに物理学の視点から答えた。長沼が宇宙で最も強い法則と考えるのは、エントロピー増大の原理である。垂らしたインクは広がるが、元には戻らない。ところが生命は形を成し、その形が次の世代の形を作り、どんどん増えていく。これはエントロピーに逆行しているように見える。
長沼によれば、部分的にエントロピーが小さくなっても、全体として増大していればよいという理論があり、生命はおそらくそれにあたる。そう考えると、生命がいた方が宇宙全体のエントロピーはかえって早く増大しているのではないか、と長沼は言う。宇宙は何もない状態に早くたどり着きたいがために、局所的に生命を使ってエントロピーをいじっているのではないか。宇宙にとって生命は「あだ花」のようなものかもしれない。長沼はそういう気もしないではないと述べた。
ただし長沼は、あだ花であってもかまわないと言う。生命が局所的にエントロピーに逆らい、形を成し、伝わり、増えていくこと自体を、長沼は美しいと考えている。そして、想像を超える発見が次々に出てきている以上、今日自分が話したことも覆るかもしれないと付け加えた。地球外文明は多くないだろうと言ったが、いくらでもあるという証拠が得られるかもしれない。エウロパの観測は2031年からだが、それより早く、宇宙から電波のメッセージが届くかもしれない。それは明日かもしれない。だから物事を決まったものとして考えず、まだまだいろいろな可能性があると思っておいてよい。長沼はそう語って話を締めくくった。
僕がこれに出会ったのは大西洋の海底火山なんですよ。
今回のバイエンストークは極限環境生物。太陽の光が全く届かない地球の深海や、
ガラパゴス諸島の沖の海底で妙な生物がむちゃくちゃいっぱい生えてることが発見された。海底から熱水が湧いてくるところにエビが群がってた。あるものはうっかり熱水に突っ込んじゃう。その瞬間に茹でエビになって死んで落ちるんですよ。
そして石油の中で生きる生物まで。
深海は14回。吹いてる熱水の真上をうっかり通っちゃった時。宇宙飛行士の毛利さんと話したことがあって、宇宙の暗黒と深海の暗黒は違うねと。
そして極限の舞台は地球外へ。地球外生命、僕はあり得ると思ってます。有機物も見つかってんですよ。有機物って言ったら生命を作る材料か、あるいはその破片なんですね。冥王星の表面にね、ハート型の地形があるんですよ。あの、僕にとっての生命っていうのは
今回は科学界のインディ・ジョーンズ、長沼毅をゲストに皆様を極限世界へお連れしましょう。
1912年に沈没した豪華客船タイタニック。その船体は今も深海に横たわっていますが、実はある微生物によって少しずつ分解されていることをご存知でしょうか?その微生物がハロモナス・ティタニカエ。そして長沼毅が特に注目しているのが、同じハロモナスの仲間であるハロモナス・バリアビリス。これがね、僕的にはもしかしたら地球で最強の生き物かもしれないと思っています。
僕がこれに出会ったのは大西洋の海底火山なんですよ。
長沼毅がその微生物と出会ったのは大西洋の海底火山でした。大西洋の中央には地球の内部活動によって生まれた巨大な裂け目があります。アフリカと南アメリカ、ヨーロッパと北アメリカを引き裂くように伸びるその場所では、今も海底が左右に広がり続けています。そしてその境界に沿って並んでいるのが海底火山の列です。長沼毅氏は有人潜水調査船しんかい6500に乗り、その海底火山の1つへと向かいました。
そこで貴重なね、吹き上がってくる温度300°の熱い水、熱水をサンプリングすることに成功しました。その熱水中には何か生き物がいるんだろうか、探しましたよ。うん。ところがね、僕の探してたのは熱水に含まれる火山ガスの成分、硫黄を餌とする微生物。探しに行ったつもりだったが、なんと肝心のね、培養するための硫黄を持ってくるのを忘れてしまったんですね。あれ?と思って。で、そこでしょうがない、ちょっと考え方変えようと。海底火山はね、ある理由でむちゃくちゃ塩分の高い水とむちゃくちゃ塩分の低い水、言っちゃえば真水が交互に出てくる時もあるんですよ。もう幅広い塩分変動にもさらされてるんだから、それに適応した微生物を探そうと思って、船にあったテーブルソルト、食卓塩をもらってきて、それを培養液に入れて培養したら、なんと生えてくるんですね。
で、そんな塩をいっぱい入れて生えてきた微生物を、今度は真水に移し替えて生やす。生えてくるんですね。お、これはすごいぞ。取れたな。なんか取れたな。で、遺伝子を調べたらハロモナス・バリアビリス。
ハロモナス・バリアビリスのすごさは、耐えられる塩分濃度の幅にあります。通常の海水の塩分濃度はおよそ3%。一方、この微生物は塩分0%に近い環境から塩分30%近い飽和塩水まで生きることができると言います。
そして、ここまではいいんですよ。で、ハロモナス・バリアビリスも世界中で見つかってるんですけども、僕が大西洋の海底火山で見つけたものと遺伝子的に1番近いとこにいたものは、なんと南極から取れたもんなんですよ。これは意味わからんと思って南極に行くわけですよ。で、南極に行ってハロモナス・バリアビリスを探すぞと思って行って取ったら、いや、やっぱりいるんですね。
海底火山と南極。一見全く違う環境に見えますが、両者には共通点があります。それが激しい塩分変動です。南極にはかつて海水を取り込んで溜まった土地や湖があります。乾燥した環境では水分が失われ、塩分は極端に濃くなります。一方で夏には雪や氷が溶け、真水が流れ込む。つまり南極にも、海底火山と同じように塩分が大きく揺れ動く環境が存在していたのです。
その後はもう、そういった塩分変動がある場所を探して、地球上あちこちハロモナス・バリアビリスを求めていくわけですよ。そうするといるんですね。どこにでも。
タイタニックを分解する細菌の仲間。真水から飽和塩水まで耐え、海底火山にも南極にも存在する微生物。ハロモナス・バリアビリスは、生命がどれほど幅広い環境に適応できるのかを示す存在でした。では地球には他にどんな常識外れの生命が存在するのでしょうか?
先ほど紹介したハロモナス・バリアビリスのように、極限環境に適応した生命は地球上にまだまだ存在します。ということで、ここからは長沼毅が厳選した4つの極限環境生物を見ていきましょう。まずは超高温の世界に耐える生物。
ま、122°のものはいます。これはあのインド洋にある海底火山から発見されたものと聞いてます。あの、日本人のグループが発見しました。ま、JAMSTECですね。今で言うと海洋研究開発機構、JAMSTECの研究者らが発見したものです。
その名はメタノパイラス・カンドレリ116株。インド洋の深海熱水噴出孔の周辺から見つかった、メタンを作る古細菌です。JAMSTECの研究チームはこの微生物を深海に近い高圧環境で培養し、122°でも増殖できることを確認しました。100°を超えれば多くの生命は生きられません。しかし深海では強い水圧によって水は沸騰せず、あなたたちの常識を超えた生命の世界が広がっているのです。お次は超高圧に耐える生物。
大腸菌ですよ。変なことがあってですね。ある研究者のチームがいて、普通の大腸菌に圧力をかけながら、より強いものを選抜していくっていう実験をやったんですね。で、どこまで耐えられるんだろうねってやっていったら、なんと水深で言ったら10万メートル超え。地球の1番深いとこだって1万メートルですよ。水深1万メートルで1000気圧ですから、10万メートルで1万気圧ですからね。で、10万メートル超えの圧力にも耐えられるものが、普通の大腸菌から選抜されて出てきましたって。これもいや、もうね、意味わからんです。
地球の生物圏はそこまで広がっていないにも関わらず、一体なぜそのような能力を獲得したのでしょうか。そして奇妙な生物はまだまだ存在します。超高温、超高圧、真空、放射線、様々な極限環境に耐える生物を見てきましたが、なんとこんな変わった生物も存在するという。
油の中でも生きる生物ですね。
それがこちら。石油バエと呼ばれるこのハエは、幼虫の時期をなんと石油の中で過ごします。生息しているのはアメリカ・カリフォルニアにある天然の油の池。普通の昆虫にとって石油は有害な環境ですが、石油バエの幼虫はその表面近くを泳ぎながら生活します。ただし石油そのものを栄養にしているわけではありません。油の中に落ちて動けなくなった昆虫などを食べ、さらに体内には石油のような環境に耐える微生物が住んでいると考えられています。
これ本当にね、地球生物の中ではかなり例外的なんで、今後ね、例えば地球外生命のことを考える上では1つの重要なモデル生物になるんじゃないかと思ってます。
深海ってありますよね。深い海、深海。暗黒とかね、暗闇の世界って言われてますけども、まさにその通りです。で、地球のね、生態系の多くは太陽の光を受けて植物が生産者として有機物を生産する。これは陸上もそうだし、海の浅い場所もそうですよね。そうなんだけども、深海は光がないので、光合成によって有機物の生産をするものはいません。で、どうやって生きていくかって言うと、その海の表層、そういったとこからね、こぼれてくるものが下に沈んでくる。これです。すごくぐちゃぐちゃして気持ち悪い感じしますけども、名前は美しいですよ。マリンスノーっていうの。海の中をまるで雪が降るかのごとくね。このマリンスノーが深海生物たちの貴重な食料源です。がね、これがすごいことに、1977年だったかな。ガラパゴス諸島の沖の海底で、全く別の目的で海底火山の調査をしていたんですよ。ま、首尾よく海底火山を発見しました。そこまでは良かったんですが、そこに奇妙な生物がむっちゃくちゃいっぱい生えてることが発見された。
研究者たちが目にしたその奇妙な生物。そう、チューブワームです。海底から伸びる白い管。その先端から赤い器官を覗かせる姿はまるで植物のようにも見えますが、チューブワームは歴とした動物です。しかも驚くべきことに、この生物は成長すると口も胃腸も失ってしまいます。普通に考えれば、食べることができない生物は生きていけません。ではなぜチューブワームは太陽の光も届かない深海で生きることができるのでしょうか?その秘密は体の中に住む細菌にあります。熱水噴出孔からは硫化水素を含む熱水が吹き出しています。チューブワームはそれを体内に取り込み、共生する細菌に渡します。すると細菌は硫化水素の化学エネルギーを使って、チューブワームの栄養となる有機物を作り出すのです。つまりチューブワームは自分で食べるのではなく、体内の細菌に食料を作ってもらうことで生きています。
言ってみればね、植物が太陽の光をエネルギー源にして、自ら栄養と自分の体を作る光合成をやってますよね。それとね、すごい似てるんですよ。でも違うのは1点だけ。光じゃなくって火山ガスのエネルギーなんです。この太陽の光に依存しない、地球の内部から湧き上がってくる火山ガスに依存する生態系なんて誰も考えたことなかった。これは革命的な発見でしたね。
僕が深海生物学を志したのは、まさにチューブワームなんですよ。チューブワームの存在を高校生の時に知って、うわ、これすごいなって思って、で、これが僕の追い求めていた生き物だと思って、それを調べたいと思って深海生物学に入ったんですからね。それはもう何度も見ました。
チューブワームは外側が白くて硬い殻で、その中にミミズのような細長い軟体が入っていて、それをちゅるっとこう引き出す。で、引き出すと、先っちょの方には赤っぽい部分、これエラですけども、その下に筋肉があるけども、その下になんかよくわかんないのがある。大した構造もない。大した構造もないところの中は、開いてみるとぐじゅぐじゅです。で、ぐじゅぐじゅの部分を、一応組織なんだけども、そのぐじゅぐじゅの組織を取ってきてよく見ると、たくさんのチューブワームの細胞からなってる。そのたくさんのチューブワームの細胞をさらによく見てみると、細胞の中に微生物が入ってる。この微生物が火山ガスをエネルギー源にして有機物を作ってる微生物です。
そして時に3mの大きさになることもあるチューブワーム。一体その寿命はどのくらいあるのでしょうか?
これがね、よくわかんないんですけども、ある時海底火山が噴火しちゃって、その直後に行ったらもうチューブワームの死体が漂ってる状態のところに、1年後に行ったらもうチューブワームがこんだけ大きくなってるとか。で、チューブワームの殻が1年間でこんだけ伸びるっていうことを測った研究があるのね。その研究によると、1年間でこんぐらい伸びるってことは、こんぐらい伸びるのに200年かかるっていうデータもあったですね。ま、200年は普通に行くんじゃないかって言われてます。
えっとね、僕が見た範囲では、チューブワームの先っちょにね、赤いエラが出てんですけども、チューブワームも元気がない時があんのかな。カニが来てですね、ハサミでね、チョキってやってんですよ。で、もし元気が良かったらヒュッと引っ込むはずなんだけども、たまたまそのチューブワームは元気なかったのかな。もうカニに切られまくり、食われまくり。だからそこはいいんですけども、仮にチューブワームが死んだ後の中の部分は、そこまで入り込める動物ってちょっとないと思うんで、あとは発酵するのかなと思ってます。
そして他にも奇妙な生物を目撃したと言います。
あれは大西洋の真ん中ですね。海底から熱水が湧いてくるところにエビが群がってる。リミカリスって言って、目が後ろの、人間で言うと後頭部の方に行っちゃって、赤外線カメラになっちゃった変わったリミカリスってエビがいてですね、熱水が湧いてるとこにはちょうど煙突状の構造があるんだけども、そのエビがもう無数に群がってる。あそこに行ったら微生物がいるってことでね、エビが寄ってくんだけども、あるものはうっかり熱水に突っ込んじゃう。多くのものは煙突状の構造の表面にへばりついてんだけども、あるものは熱水に突っ込んで、その瞬間に茹でエビになって死んで落ちるんですよ。エビの死体が山となってんだね。で、そのエビの死体のとこにカニが来て、それをむしゃむしゃ食ってるっていうんで、おお、ここに生態系ができてるなと思って。まあ結構シュールな光景なんだけど、これはすごいと思ったことあります。
深海は14回。1回目は1989年の4月ですね。28歳になってすぐの頃。僕、今の海洋研究開発機構JAMSTECがまだ海洋科学技術センターっていう名前の頃に入りまして、4月の1日に入所して新人研修を受けている最中に、そんなんどうでもいいから来いって言われて行ったのが最初でした。新人研修だったのに急に来いって言われて、わけのわかんないまんま行かされたってのが正直なとこで。
当時長沼毅が乗ったのは有人潜水調査船しんかい2000。現在運用されているしんかい6500と同じく乗員は3人。母船から海面へ下ろされ、海中での調査時間はおよそ8時間。狭い船内で深海の調査を行います。もちろん船内にトイレはありません。そして数々の深海探査の中でも、長沼毅が強く記憶している場所があると言います。
日本の伊豆・小笠原諸島の海底にね、やっぱり海底火山列があるんですよ。で、その中の水曜海山に潜ったわけで、本当に見事な海底火山ですよ。で、真ん中に火口があって、火口の中に降りていく潜水船が、火口の底についたらあっちこっちで熱水が吹いてる。すごい光景なんだけども、驚いたのは潮の流れがすごい。まるで台風が吹いてるかのようにいろんなものが転がっていくから、僕の知ってる世界観が崩れて、深海ってそんなにいつも同じではない。時々変なことが起きる。あるいは場所場所で変なことが今この瞬間でも起きているのかなっていうことを思わせる瞬間でした。
さらに、吹いてる熱水の真上をうっかり通っちゃった時ですね。基本的に前方はよくソナーっていうね、音波の、音のレーダーっぽいのがソナーって言いますけども、それを見てみたり覗き窓から見ながら行くんですけども、真下は分かんないんですよ。どうなってるかは。で、熱水噴出孔の調査をしに行って、とりあえず、しんかい2000にしろ6500にしろ、水中にとまって作業をするには向いてないから、一旦着底って言って着地しますわ。で、着地した下にもし吹いてるものがあったら、これはやばいねっていう。で、実際に後で母船の上に引き上げられて、下から見たらなんか焦げてるよねっていうのがありました。だからそれからは、覗き窓の外にもう1個こう防護用のものをつけてみたり、あるいはもう船体の前とか真ん中とか後ろに温度センサーをつけるようになりました。
あ、僕はもう深海はサイレントだと思ってます。あとは宇宙飛行士の毛利さんと話したことがあって、毛利さんは宇宙と深海両方行ったことがあるんですけども、毛利さん曰く、宇宙の暗黒、暗闇と深海の暗黒は違うねとおっしゃってた。やはり宇宙の暗黒ってのは本当に何もない無を感じるけども、深海の暗黒は無じゃなくって、なんか何かがいっぱいあるっていうことを感じるって言ってました。
地球に存在する様々な極限環境生物を見てきましたが、それでは地球の外、他の天体には生命は存在しないのでしょうか?長沼毅はある天体に注目していると言います。
生命がどこで誕生するかなんですけども、どこで誕生するにしても大事なことは、1つはエネルギーですね。エネルギーが安定的に供給されないと、それは生命を支えられませんと。あと生命体を作り上げる材料。あとはやっぱり水だと思います。ただ、液体の水がいいですね。
そう。生命が誕生するには大きく3つの条件があると考えられています。それは生命活動を維持させるエネルギー源の存在、生命の材料となる有機物の存在、そして生命を誕生させる場となる液体の存在です。この三条件が揃っていたのがかつての地球の深海にあった熱水噴出孔、つまりは海底火山だったわけですが、地球以外にこの三条件が揃う星が、なんとあなたたち人類の住まう太陽系内に存在しているのです。
木星で言えばイチ押しはエウロパ、それから土星で言えばイチ押しはエンケラドス。エンケラドスの方は非常に綿密な調査がなされましたし、実際にね、表面の氷の一部に割れ目があって、その割れ目から氷の下の海の水っていうのかな、それがプシュって吹き出てるのが観察されてて、さらにそこに突っ込んで噴出してるものをサンプリングして現場で分析しちゃってんですよ。そうすると99%はH2O、水なんだけども、残りの1%の中に一酸化炭素、二酸化炭素、メタンが入ってる。二酸化炭素とメタンが共存することはちょっと考えにくいです。それが共存するってことは、なんか反応系があるに違いない。その反応系ってものは生命に関わってんのって思わせるし、何よりもそれ以外にも有機物も見つかってんですよ。有機物って言ったら生命を作る材料か、あるいはその破片なんですね。ということで、有機物ってなっちゃったら、これはかなり可能性高いなと思います。一方のエウロパの方も可能性あるんだけども、まだそこまでの調査は進んでないのですが、2024年10月にエウロパ・クリッパーというエウロパ専用の探査機が打ち上がりましたですね。2030年の到着を目指して、今エウロパ目がけて移動中です。
可能性で言えば、例えばエンケラドスですね、土星のエンケラドスなんて直径が500kmしかないんですよ。本当にちっちゃい星。だって東京・大阪みたいなもんですよ。で、そんなちっちゃい星なのに、なぜか内部に火山活動の熱がある。どうしてだろう?これも未だによく分かってないんですけども、実は。ただ、いろんな人がいろんなこと言ってます。いろんな理屈はありますわ、確かに。だから、いろんな理屈をいろんな天体に当てはめれば、こんな天体にもあっていいんじゃない?熱源があっていいんじゃないとか、あの天体にも熱源があっていいんじゃないって出てくる。例えば小惑星セレス、あるいはケレスっていう小惑星があって、そこだってもしかしたら内部に熱源があって、小規模ながらそれが持っている氷の一部が溶けて液体の水になってるかもしれない。で、小規模ながらちょっとした熱水活動になってるかもしれないなんてことは、小惑星ケレスには言われてます。その1つの証拠に、小惑星ケレスの表面に炭酸塩っていう鉱物があって、それはそもそも液体の水がなければできない鉱物なんだけども、それが結構発見されてんだね。だからケレスいいんじゃないとか、あるいはもう遠くの、太陽系の遠くの果てにある冥王星、あれだって意外と内部に熱があるんじゃないかっていう。冥王星の表面にね、謎の大きなハート型の地形があるんですよ。冥王星全体は妙にデコボコしてるんですけども、そのハート型だけ平らなんですね。これはなんかの熱源のせいで表面の氷が一旦溶けて水になって、平らになってもう1回凍ったからだと言われてる。へえ、冥王星にも熱源があったのかって話になってる。その後もあそこにもここにもってことで、もう熱さえあれば可能性はいくらでも論じられるなと思ってます。
そして他にも生命誕生の三条件に当てはまる星が存在します。それが以前バイエンススーツを着て落下したことのある土星の衛星タイタンです。しかしタイタンは、エウロパやエンケラドスとは大きく異なる問題を抱えていると言います。
土星の衛星タイタン、いいですね。むっちゃくちゃ面白いです。で、いろんな面白い点があるんだけども、一番面白いのはやはりタイタンの地表面に液体の湖がいっぱいあることが分かった。で、この液体の湖、タイタンの地表の温度ってむちゃくちゃ低いですね。マイナス200°に近いのかな。もっと低いのかな。そんな低い温度だから液体の水は存在しません。で、そこにあるのは液体の油。油って言ってもね、油の中でも1番単純な油、メタンとかエタンで。普通メタン、エタンっていうのは我々の世界ではガスなんですけども、低い温度だと液体になっちゃうのね。だから液体のメタンとか液体のエタンがその湖を作ってることは分かりました。ただそれ油なんで、ちょっと僕たち、水の生物、ウォーターバイオロジーは僕たち詳しいけども、オイルバイオロジーはよく分かってないのですね。ただ、やはり地球で発見された石油のような油の中で生きる生き物をきっかけにしながら、タイタンでもあり得るオイルバイオロジーを考えようじゃないかってことが言われてます。タイタンの表面で、水と油がこんなに違うっていう理由の1つに、極性っていう分子の特性があんのね。
ここで極性について簡単に紹介しておきましょう。極性とは分子の中で電気的な偏りがあることです。例えば水分子は酸素側が少しマイナスに、水素側が少しプラスに偏っています。この偏りがあるため、水は他の物質とくっつきやすく、様々な物質を溶かすことができます。つまり水は生命に必要な化学反応を進めるための非常に優秀な環境なのです。一方タイタンに存在するのは液体のメタンやエタンであり、それらはほとんど極性を持ちません。それでは生命誕生は難しいのではないかと。しかし話はここで終わりません。
タイタンの表面のような低い温度でも、液体でありながら、かつ極性を持てる分子ってあるのって言うと、あるんですね。例えばリンの化合物でホスフィンってやつが。で、ホスフィンっていうのは例えば木星や土星の大気にも発見されてるんで、ホスフィンはその温度では液体でいられて極性があるから水の代わりになる。油の中にホスフィンがあったら、そこで水っぽいワールドを作るんじゃないのって思う。そしたら、もしかしたら僕たちが知ってるようなバイオロジーがあり得るかもしれません。要するに油の湖の中にホスフィンのような水っぽい粒子があると、その中で反応が進んだら、それがもうそれだけで細胞のようになっちゃうかもしんない。
あの、僕たちの細胞ってものは、細胞膜ってもので外界と内界を仕切ってますよね。これは周りが水っぽい世界で中も水っぽいから、ウォーターインウォーターだから、その仕切りとして油っぽいもので仕切る。細胞膜って実は油なんですよ。ただこれ、タイタンの場合はもうウォーターインオイルなんで、もはや油で仕切る必要ないから、ちょっと細胞としてはより単純になり得るかなと思います。
水が豊富な星に住みながら、その大部分が水で構成されているあなたたち人類は、細胞膜という脂質、いわゆる油のような膜で内側と外側を分けることで、その体を成り立たせています。しかし、油の天体であるタイタンでホスフィンでできた生物が存在するのであれば、水と油のように混ざり合うことはないため、もしかすると人類が想像する細胞膜とは異なる、より単純な構造の生命が存在しているかもしれない。現段階ではもしもの話ではありますが、とても夢のある話でしょう。
宇宙はね、もし行けるんだったら行ってみたいですね。僕自身、宇宙飛行士の選抜試験を受けたことありますからね。で、残念ながら準決勝で敗退したので、宇宙に行くこと自体は、宇宙飛行士として行くこと自体は諦めましたが、宇宙旅行ってものもね、これから出てくるでしょうしね。そういったところで宇宙に行きたいと思ってるし、あとやっぱり火星ですね。火星の人類進出において、これ深海でも南極でも何でもそうなんですけども、1番めんどくさいのは、人間を送るのは簡単なんですよ。人間を生きて返すのが大変なのね。しかも行く前と行った後で同じ状態で返すのがとても大事で、でもそれはとても大変なんですよ。だからそれは火星の人類進出の結構ネックになると思ってます。一方で、一方通行でいいんじゃないっていう話もある。行ったっきり、火星でもうそこで住んでいただこうと。それだったら、もしかしたら僕、年齢的にも長沼さんどうですかって言われんじゃないかと思ってましたね。もしそう言われたら、これ行こうと思ってます。
長沼先生、バイエンススーツで火星行ってらっしゃい。
地球であれどこであれですね、生命の起源についてはやはり海底火山的なところがいいかなと思ってます。僕はそこが今の生命に至る、生命の発生の場だと思ってる。
深海の熱水噴出孔。そこには生命を支える3つの条件が揃っていました。さらに生命が誕生したと考えられるおよそ40億年前の地球は、現在よりもはるかに過酷な環境でした。大きな隕石が何度も衝突し、地表で生まれた生命はその度に消し去られていた可能性があります。しかし海底のさらに地下であれば、地表の衝突の影響を受けにくい。長沼毅はそこに現在の生命へとつながる起源があったのではないかと考えています。一方で、生命の起源にはもう1つ大胆な考え方があります。生命そのもの、あるいは生命の材料が、隕石のようなものと共に地球の外から運ばれてきたのではないかというものです。
それがパンスペルミア仮説って言います。で、またパンスペルミア仮説が面白いのは、生命体そのものを運んできたっていうのもあるけど、生命の材料、材料物質をとにかく地球に運んできて、で、地球の上で組み立てられたっていう考え方もあるんですね。で、この材料物質に関して言うと、最近ね、面白い発見があってですね、はやぶさ2ってあったじゃないですか、探査機。通称はやぶさツーね。あの、はやぶさ2が行ってサンプルリターンしてきた小惑星はリュウグウって言いますよね。で、リュウグウのサンプルがリターンされて、それをね、詳細に分析した結果っていうのがあってね、いろんな物質が見つかってきましたが、1番最近話題になったのは、核酸塩基が全て見つかったという話ですね。
核酸塩基とは、DNAやRNAに情報を書き込むための文字のような分子です。代表的なものは5つ。アデニン、グアニン、シトシン、チミン、ウラシル。DNAではアデニン、グアニン、シトシン、チミンが使われ、RNAではチミンの代わりにウラシルが使われます。つまりこの5つは、地球生命が遺伝情報を保存し、伝えるために欠かせない基本パーツなのです。そして近年、この5種全てが小惑星リュウグウから持ち帰られたサンプルの中から検出されました。
そしてこれまた別に、アメリカもね、同じような小惑星サンプルリターンをやってまして、アメリカの場合はベンヌっていう小惑星を対象としましたが、ベンヌからもA、G、C、T、U、核酸塩基が全部見つかってます。ということで、お、意外と生命を作る材料ってあるんだな。ベンヌなんか500mぐらいで、そんなものがかつて地球に来たこともちろんあるでしょうから、それだったらパンスペルミア仮説、少なくとも材料物質が宇宙から運ばれてきたっていう説はあるんじゃないのって僕は思ってます。
生命の材料がありふれているかもしれない宇宙。それでは地球以外にも生命は存在するのか。長沼毅はどのような考えを持っているのでしょうか?
地球外生命っていうのは、言っちゃえば僕はあり得ると思ってます。だから、簡単に言っちゃえば地球でも火星でもいいんだけども、生命の起源ってものを考えると、かなり宇宙普遍的かなと思うし、あるいはこの宇宙において地球外であっても、もし生命体が発生すれば、遺伝情報ってものはDNA、RNAに担わせるだろうなと、その役割は。と思いますから、RNAの材料物質が小惑星で発見された。これはすごいと思ってますしね。そういった普遍的なところが見えてきてるんで、太陽系内に関して言っちゃえば、火星が1番有望。あとエウロパ・クリッパー、有望なんで。エウロパ・クリッパーは2030年に到達して2031年から観測開始ですので、その辺が1番早いタイミングかなと思います。火星は、今後どういう計画が進むかわかんないけども、火星ももっと早くか、あるいはエウロパ・クリッパーと前後して、火星生命がいたという発見があるかもしれません。その辺は期待してます。火星は、僕は火星の表面にはいないと思ってますが、それは僕の考えであって、表面だってくまなく探査すれば、ちょっとした物陰にいるかもしれませんしね。
じゃあ文明はどうかって言うと、ちょっとまたこれは全然別のファクターが入ってくるんでよく分かりません。僕どっちかと言うと文明欲しい派なんで、そうすると太陽系外惑星の方に求めますね。地球っぽい惑星ってものが太陽系の外にもいくつか見つかってます。で、地球っぽい惑星であれば、地球と同じような環境変遷、環境進化を遂げてるであろうから、そしたら地球の生物と同じような進化の歴史をたどれた場合もあるかなと思いますが、一方で地球の生物進化の歴史を見ると、いくつかこう、本当にこれ偶然だよねっていうものもあり得るんで、ホモ・サピエンスの誕生自体が僕は奇跡のように思えてるんで。だから、生命が発生して、そのうち陸上生命が発生して、四足動物が陸上に出てきて、そのうち一部が木に登って、木から降りて、で、人間になりましたって、これはもう必然じゃない、かなり偶然の結果と思ってます。それを考えちゃうと、文明までは普遍的じゃないかもしんない。もうこの宇宙で地球唯一かもしれない。他にあっても1つか2つかなっていう気がしないでもない。
あの、僕にとっての生命ってのは、もうちょっと物理学的に考えててですね、エントロピーっていう概念がありますね。
日本語では乱雑さを意味するエントロピーですが、整理整頓された部屋がだんだん乱雑になっていくのも、水に落としたインクがだんだん広がっていくのも、熱いコーヒーが冷めていくのも、全てはこのエントロピー増大の原理によるものだと考えられています。
この宇宙を貫く最強の法則はエントロピー増大の原理。垂らしたインクは広がるけども、決して元に戻ることはない。それが宇宙を貫く最強の原理なんですが、それに反してるのが生命なんですね。生命はこの形をなしてるじゃないですか。この形をなすこと自体がエントロピーに逆行してるし、その形をなすものがまた次の世代の形を作っていく。それがどんどんどんどん増えていく。こんなものは宇宙のエントロピーに逆行してんですよ。
宇宙はなぜこの生命というエントロピーの逆行を許しているのか。
でもね、生命ってものも、部分的には逆行はあり得ます。部分的な逆行はあり得るんですけども、それは必ず全体で見たら、やはりエントロピーは増大してる方向。ただその中で、部分的にはエントロピーはちっちゃくなってもよろしいですよっていう理論があります。だから生命は多分それなんだろうなと僕は思ってる。一方で、そうすると生命がいた方が、宇宙全体としてはエントロピーがさっさか増大してんのっていう。宇宙ってエントロピーをさっさか増大させて、あとはエントロピー的には何もない無常っていうか、無をも思わせるような空間にいち早くたどり着きたいがために、局所的に生命を使ってエントロピーをいじくってんじゃないのと。宇宙にとって生命ってものは、まああだ花みたいなもの。最終的にはより早く何もない状態になりたがってんのっていう気がしないではない。
これはエントロピー論的に考えた上での話で、あだ花であってもいいんですよ。生命はそういった局所的にエントロピーに反して、ちゃんと形をなして、こう伝わっていくし増えていくし、そのこと自体は僕は美しいと思ってるんで。我々の想像を絶することが次から次へと発見されてきてんですね。で、そういった意味では、これから何が出てくるかわかんないので、僕が今日言ったことの中でも、例えば地球外の文明はあんまり多くないんじゃないかなんて言いましたけども、やはりいや、そんなことはないと、地球外文明なんかいくらでもあるよっていう証拠が得られるかもしれない。特に今僕が期待してんのは、地球外生命が発見されるのはいつ頃ですかっていうので、エウロパが2031年とか色々言いましたけども、それよりも早く、意外と宇宙から電波のメッセージが来ちゃったりして、それがもしかしたら明日来るかもしんないです。僕らの考えをひっくり返すようなことがどんどん発生してるんで、これはちょっとね、あんまり物事が決まったかのように考えなくていいかな。まだまだいろんな可能性が存在できると思っておいていいと思います。
生命とは何か?その深遠なる問いの解明に向けて、今日も人類はその探求を続けています。
今回のバイエンスはここまで。またお会いしましょう。火星から。
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