塩分0%から30%まで生きる微生物、口のないチューブワーム、油の湖のタイタン:長沼毅が語る極限環境の生命

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概要

極限環境生物学者の長沼毅は、深海、南極、宇宙へと関心を広げてきた研究者である。この回では、自身の深海調査の体験を交えながら、地球の常識外れの生物を紹介し、地球外生命の可能性や生命の起源、さらに「生命とは何か」という問いへと話を進めた。長沼の立場は一貫して、生命は想像以上に幅広い環境に適応しうるというものだ。そのうえで、文明の普遍性については慎重な見方を示している。

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大西洋の海底火山で出会った「地球最強」候補

長沼が「もしかしたら地球で最強の生き物かもしれない」と話すのは、ハロモナス・バリアビリスという微生物である。1912年に沈没したタイタニック号の船体を少しずつ分解している微生物として、ハロモナス・ティタニカエが知られている。バリアビリスはその仲間にあたる。

長沼がこの微生物に出会ったのは、大西洋中央の海底火山だった。大西洋の中央には、アフリカと南アメリカ、ヨーロッパと北アメリカを引き裂くように延びる巨大な割れ目があり、今も海底が左右に広がり続けている。その境界に沿って海底火山が並んでいる。長沼は有人潜水調査船「しんかい6500」でその一つに潜り、300℃の熱水の採取に成功した。

本来の狙いは、熱水に含まれる火山ガス成分の硫黄を餌にする微生物だった。ところが、培養に必要な硫黄を持ってくるのを忘れていた。そこで長沼は発想を変えた。海底火山では、塩分の非常に高い水と、真水に近い水が交互に出てくることがある。それなら大きな塩分変動に適応した微生物がいるはずだと考え、船にあった食卓塩を培養液に入れた。すると微生物が生えてきた。その微生物を今度は真水に移しても、やはり増えた。遺伝子を調べると、ハロモナス・バリアビリスだった。

この微生物の特徴は、耐えられる塩分濃度の幅の広さにある。通常の海水の塩分濃度はおよそ3%だが、ハロモナス・バリアビリスは0%に近い環境から、30%近い飽和塩水まで生きられるという。

海底火山と南極をつないだ「塩分変動」

長沼が本当に驚いたのは、その先だった。ハロモナス・バリアビリスは世界中で見つかっているが、長沼が大西洋の海底火山で採ったものに遺伝的に最も近い株は、南極から採取されたものだった。長沼は「意味がわからない」と思い、実際に南極へ行って探した。すると、やはりいた。

番組の解説によれば、海底火山と南極には激しい塩分変動という共通点がある。南極には、かつて海水を取り込んだ土地や湖がある。乾燥によって水分が失われると塩分は極端に濃くなり、夏には雪や氷が溶けて真水が流れ込む。長沼はその後、塩分変動のある場所を地球上のあちこちで探した。そして、どこにでもハロモナス・バリアビリスはいたと語る。この微生物は、生命がどれほど幅広い環境に適応できるかを示す例として紹介された。

122℃、1万気圧、そして石油の中

続いて長沼は、極限環境に耐える生物をさらに挙げた。

一つ目は超高温である。インド洋の深海熱水噴出孔の周辺で見つかった、メタンを作る古細菌メタノピュルス・カンドレリ116株だ。海洋研究開発機構(JAMSTEC)の研究チームが深海に近い高圧環境で培養し、122℃でも増殖できることを確認した。深海では強い水圧のため、100℃を超えても水が沸騰しない。

二つ目は超高圧で、長沼が挙げたのは意外にも普通の大腸菌だった。ある研究チームが、大腸菌に圧力をかけながら、より強いものを選抜する実験を行った。その結果、水深に換算して10万mを超える圧力に耐える株が出てきたという。地球で最も深い場所でも水深約1万m、約1000気圧である。水深10万mなら1万気圧に相当する。地球の生物圏はそこまで広がっていないのに、なぜそのような能力を獲得できたのか。長沼はこれを「意味わからん」と表現した。

三つ目は、油の中で生きる生物である。アメリカ・カリフォルニアの天然の油の池に生息する「石油バエ」は、幼虫期を石油の中で過ごす。幼虫は表面近くを泳ぎながら、油に落ちて動けなくなった昆虫などを食べている。石油そのものを栄養にしているわけではない。体内には、石油のような環境に耐える微生物が住んでいると考えられている。長沼は、この生物は地球生物の中でもかなり例外的であり、地球外生命を考えるうえで重要なモデル生物になるのではないかと述べた。この話は、後半のタイタンの議論につながっていく。

光のない深海の生態系とチューブワーム

地球の生態系の多くは、植物が太陽光を受けて有機物を作ることで成り立っている。光の届かない深海では光合成ができない。そのため深海生物は、表層から沈んでくる「マリンスノー」を主な食料源にしている。

ところが1977年、ガラパゴス諸島沖で海底火山を調査していた研究者が、熱水の湧く場所に奇妙な生物が大量に生えているのを見つけた。チューブワームである。白い管から赤い器官をのぞかせた姿は植物のようだが、れっきとした動物だ。しかも成長すると口も消化管も失う。

チューブワームは、熱水噴出孔から出る硫化水素を体内に取り込み、共生する細菌に渡す。細菌はその化学エネルギーで有機物を作り、チューブワームはそれを栄養にして生きている。長沼は、これは植物の光合成によく似ていると説明した。違うのは、エネルギー源が光ではなく火山ガスだという一点だけである。太陽光に依存せず、地球内部から湧き上がる火山ガスに依存する生態系は、それまで誰も考えたことがなかった。長沼はこれを「革命的な発見」と呼んだ。

長沼自身が深海生物学を志したきっかけも、このチューブワームだった。高校生のときにその存在を知り、「これが追い求めていた生き物だ」と思ったという。実際に何度も解剖した経験もある。白く硬い管の中から、ミミズのような細長い体を引き出す。先端の赤い部分はエラで、その下に筋肉があり、さらに下には大した構造のない、開くとぐじゅぐじゅした組織がある。その組織を詳しく見ると、細胞の中に微生物が入っている。これが、火山ガスをエネルギー源に有機物を作る微生物である。

チューブワームの寿命と、熱水に落ちるエビ

チューブワームは時に3mにもなる。その寿命について長沼は「よくわからない」と前置きしたうえで、ある研究を紹介した。海底火山の噴火直後にはチューブワームの死骸が漂っていた場所で、1年後に殻がどれだけ伸びたかを測った研究がある。その成長速度から計算すると、ある大きさになるまでに200年かかるというデータがあった。200歳は普通に超えるのではないかと言われているという。

長沼は、元気のないチューブワームのエラがカニに切られ、食べられている様子を見たことがある。元気なら素早く引っ込むはずだという。死後の体内まで入り込める動物はあまりいないだろうから、あとは発酵のような過程で分解されるのではないか、と長沼は推測している。

大西洋の中央では、別の光景も目にした。熱水の湧く煙突状の構造物に、リミカリスというエビが無数に群がっていた。このエビは、人間でいえば後頭部の方に目が移り、赤外線カメラのようになっている。エビは微生物を求めて集まってくるが、中にはうっかり熱水に突っ込み、その瞬間に茹で上がって死んで落ちるものがいる。下にはエビの死骸が山になり、そこにカニが来て食べている。長沼は、かなりシュールな光景の中に生態系ができていると感じたと振り返った。

新人研修中に始まった深海調査

長沼が深海に潜った回数は14回である。1回目は1989年4月、28歳になってすぐの頃だった。現在の海洋研究開発機構が「海洋科学技術センター」という名前だった時代に、長沼は4月1日に入所した。新人研修を受けている最中に「そんなのどうでもいいから来い」と呼ばれ、わけのわからないまま潜ることになったという。乗ったのは「しんかい2000」である。現在の「しんかい6500」と同じく乗員は3人で、海中での調査時間はおよそ8時間。船内にトイレはない。

特に印象に残っている場所として、長沼は伊豆・小笠原の海底火山列にある一つの海底火山を挙げた。中央の火口の底に降りると、あちこちで熱水が噴き出していた。それ以上に驚いたのは潮の流れの強さだった。台風のように物が転がっていく様子を見て、深海はいつも同じ静かな世界だという自分の世界観が崩れた。深海では時々、あるいは場所ごとに、今この瞬間にも変なことが起きているのかもしれない。そう思わせる瞬間だったという。

危険な経験もあった。潜水船は前方をソナーや覗き窓で確認できるが、真下は見えない。しんかい2000も6500も、水中に止まって作業するのには向いていないため、いったん着底する。その真下で熱水が噴いていれば危険である。実際に、母船に引き上げた後で船体の下を見ると、焦げていたことがあった。それ以来、覗き窓の外側にもう一枚防護用のものを付けたり、船体の前・中・後ろに温度センサーを付けたりするようになったという。

それでも長沼は、深海は静かな世界だと思っている。宇宙と深海の両方に行った宇宙飛行士の毛利さんと話したとき、毛利さんは宇宙の暗闇と深海の暗闇は違うと話していた。宇宙の暗黒は本当に何もない「無」を感じさせるが、深海の暗黒は何かがいっぱいあると感じさせる、という。

生命誕生の3条件と、エンケラドス・エウロパ

話は地球外へ移る。長沼は、生命が誕生するための大事な要素として三つを挙げた。安定的に供給されるエネルギー、生命体を作る材料、そして液体の水である。かつての地球の深海にあった熱水噴出孔、つまり海底火山はこの3条件を満たしていた。太陽系には、同じ条件がそろう可能性のある天体がある。

長沼の「一押し」は、木星ではエウロパ、土星ではエンケラドスである。エンケラドスは綿密な調査が進んでいる。表面の氷の割れ目から、氷の下の海の水が噴き出しているのが観察されており、探査機がその噴出物に突っ込んで現場で分析した。成分の99%は水だったが、残り1%に一酸化炭素、二酸化炭素、メタンが含まれていた。長沼によれば、二酸化炭素とメタンが共存するのは考えにくい。共存しているなら何らかの反応系があるはずで、それは生命に関わっていると思わせる。さらに有機物も見つかっている。有機物は生命を作る材料か、その破片である。そのため長沼は、エンケラドスの可能性はかなり高いと考えている。

エウロパも可能性はあるが、まだそこまで調査が進んでいない。2024年10月に探査機エウロパ・クリッパーが打ち上げられ、2030年の到着を目指して移動中である。

熱源があれば可能性は広がる:ケレスと冥王星

長沼は、エンケラドスの小ささにも注目する。直径はわずか500kmほどで、東京から大阪までくらいの大きさしかない。それなのに、なぜか内部に火山活動の熱がある。理由はいまだによくわかっていないが、さまざまな説がある。そうした説をほかの天体に当てはめると、あの天体にも熱源があってよいのではないか、という議論が次々に出てくる。

例として長沼は、小惑星(準惑星)のケレスを挙げた。内部に熱源があり、氷の一部が溶けて液体の水になり、小規模な熱水活動があるかもしれないと言われている。その証拠の一つとして、液体の水がなければできない炭酸塩鉱物が、ケレスの表面でかなり見つかっている。

太陽系の果てにある冥王星の表面には、大きなハート型の地形がある。冥王星全体はデコボコしているのに、ハート型の部分だけが平らだ。これは何らかの熱源によって表面の氷がいったん溶けて平らになり、再び凍ったためだと言われている。長沼は、熱さえあれば可能性はいくらでも論じられると考えている。

タイタンの油の湖と「オイルバイオロジー」

長沼が「むちゃくちゃ面白い」と話すのが、土星の衛星タイタンである。最も面白い点は、地表に液体の湖がたくさんあることだ。タイタンの地表はマイナス200℃に近いか、それ以下で、液体の水は存在しない。湖を作っているのは、最も単純な油である液体のメタンやエタンだ。私たちの世界ではガスだが、低温では液体になる。

長沼によれば、人類は水の生物学(ウォーターバイオロジー)には詳しいが、油の中の生物学(オイルバイオロジー)はよくわかっていない。そこで、地球の石油バエのように油の中で生きる生物をきっかけに、タイタンでありうるオイルバイオロジーを考えようという議論があるという。

問題は極性である。水分子は酸素側がわずかにマイナス、水素側がわずかにプラスに偏っている。そのためさまざまな物質を溶かし、生命に必要な化学反応を進める優れた環境になる。一方、液体のメタンやエタンはほとんど極性を持たないため、生命の誕生は難しいのではないかと考えられる。

しかし長沼は、タイタンの低温でも液体でいられ、かつ極性を持つ分子があると指摘する。リンの化合物であるホスフィンで、木星や土星の大気にも見つかっている。油の湖の中にホスフィンがあれば、そこに水っぽい世界ができ、私たちの知る生物学に近いものがありうるかもしれない。

長沼はさらに、細胞の構造にも踏み込んだ。私たちの細胞は、周りも中も水っぽい「ウォーター・イン・ウォーター」の状態にあるため、油である細胞膜で内と外を仕切っている。タイタンの場合は「ウォーター・イン・オイル」になるので、油で仕切る必要がない。油の中のホスフィンの粒子の中で反応が進めば、それだけで細胞のようになるかもしれない。その場合、細胞は地球の生物より単純な構造になりうる、と長沼は考えている。番組は、これが現段階では「もしも」の話であることを添えている。

宇宙飛行士試験の準決勝敗退と、火星への片道切符

宇宙に行きたいかと問われた長沼は、行けるなら行ってみたいと答えた。長沼は宇宙飛行士の選抜試験を受けたことがあり、準決勝で敗退した。宇宙飛行士として行くことは諦めたが、今後出てくるであろう宇宙旅行には期待している。

特に関心があるのは火星である。長沼は、深海でも南極でも同じだが、人間を送ることは簡単で、生きて帰すことが大変だと指摘する。しかも、行く前と同じ状態で帰すことが重要で、それが難しい。これが火星への人類進出のネックになると長沼は考えている。一方で、片道でよいのではないか、行った人にはそのまま火星に住んでもらおうという話もある。長沼は、年齢的に自分が声をかけられるかもしれないと思っており、もし言われたら行くつもりだと語った。

生命の起源:海底火山の地下とパンスペルミア

生命がどこで生まれたかについて、長沼は海底火山のような場所がよいと考えている。そこが現在の生命につながる発生の場だという立場である。番組の解説によれば、生命が誕生したとされる約40億年前の地球には大きな隕石が何度も衝突しており、地表で生まれた生命はそのたびに消し去られた可能性がある。海底のさらに地下なら衝突の影響を受けにくく、長沼はそこに現在の生命の起源があったのではないかと考えている。

もう一つの考え方として、長沼はパンスペルミア仮説を紹介した。生命そのもの、あるいは生命の材料が隕石などとともに地球外から運ばれてきたという説である。長沼が面白いと感じるのは、材料物質だけが運ばれ、地球上で組み立てられたという考え方も含まれる点だ。

これに関して、長沼は最近の発見を挙げた。探査機「はやぶさ2」が小惑星リュウグウから持ち帰ったサンプルを分析した結果、核酸塩基が全種類見つかったという。核酸塩基はDNAやRNAに情報を書き込む文字のような分子で、アデニン、グアニン、シトシン、チミン、ウラシルの5つがある。アメリカも小惑星ベンヌからサンプルリターンを行い、そこからもA・G・C・T・Uの5種類がすべて見つかっている。ベンヌは500mほどの小さな天体であり、そうした天体がかつて地球に来たこともあるだろう。長沼はここから、少なくとも材料物質が宇宙から運ばれたという説はありうると考えている。

地球外生命はありうるが、文明は稀かもしれない

地球外生命について、長沼は「あり得る」と明言する。生命の起源はかなり宇宙に普遍的なものだと考えており、地球外で生命が発生しても、遺伝情報はDNAやRNAに担わせるだろうと見ている。だからこそ、小惑星からRNAの材料物質が見つかったことを「すごい」と評価している。

太陽系内で有望なのは火星とエウロパだという。エウロパ・クリッパーは2030年に到着し、2031年から観測を始める。これが最も早いタイミングだろうと長沼は見ている。火星については今後の計画次第だが、それより早く、あるいは前後して生命発見があるかもしれないと期待している。ただし長沼自身は、火星の表面には生命はいないと考えている。それでも、表面をくまなく探せば、ちょっとした物陰にいるかもしれないとも付け加えた。

文明については、また別の要素が入るので「よくわからない」としたうえで、自分は文明がほしい派なので太陽系外惑星に求めると話した。地球に似た惑星はすでにいくつか見つかっており、そこでは地球と似た環境の変化をたどり、地球の生物と似た進化の歴史をたどる場合もありうる。一方で長沼は、地球の生物進化には偶然としか思えない出来事がいくつもあると指摘する。陸上生物が生まれ、四足動物が陸に上がり、その一部が木に登り、木から降りて人間になった。長沼はこれを必然ではなく、かなり偶然の結果だと考えており、ホモ・サピエンスの誕生自体が奇跡のように思えるという。そのため文明までは普遍的ではないかもしれず、この宇宙で地球だけかもしれない。ほかにあっても一つか二つではないか、という気もするという。

エントロピーに逆らう生命は宇宙の「あだ花」か

最後に長沼は、「生命とは何か」という問いに物理学の視点から答えた。長沼が宇宙で最も強い法則と考えるのは、エントロピー増大の原理である。垂らしたインクは広がるが、元には戻らない。ところが生命は形を成し、その形が次の世代の形を作り、どんどん増えていく。これはエントロピーに逆行しているように見える。

長沼によれば、部分的にエントロピーが小さくなっても、全体として増大していればよいという理論があり、生命はおそらくそれにあたる。そう考えると、生命がいた方が宇宙全体のエントロピーはかえって早く増大しているのではないか、と長沼は言う。宇宙は何もない状態に早くたどり着きたいがために、局所的に生命を使ってエントロピーをいじっているのではないか。宇宙にとって生命は「あだ花」のようなものかもしれない。長沼はそういう気もしないではないと述べた。

ただし長沼は、あだ花であってもかまわないと言う。生命が局所的にエントロピーに逆らい、形を成し、伝わり、増えていくこと自体を、長沼は美しいと考えている。そして、想像を超える発見が次々に出てきている以上、今日自分が話したことも覆るかもしれないと付け加えた。地球外文明は多くないだろうと言ったが、いくらでもあるという証拠が得られるかもしれない。エウロパの観測は2031年からだが、それより早く、宇宙から電波のメッセージが届くかもしれない。それは明日かもしれない。だから物事を決まったものとして考えず、まだまだいろいろな可能性があると思っておいてよい。長沼はそう語って話を締めくくった。