「グリーンだから」ではなく「安いから」勝つ:Hertha Metalsの製鉄プロセス刷新とニッチ参入戦略

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概要

FoundXのIdeaCastは、海外スタートアップのアイデアをAIで分析し、起業を考える人向けに紹介する番組である。冒頭で、AIで情報を整理しているため一部の情報が古かったり誤っていたりする可能性があると断っている。今回取り上げたのは、米国テキサス州ヒューストンを拠点に製鉄プロセスの見直しに取り組むディープテック・スタートアップ、Hertha Metals(ハーサ・メタルズ)である。

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解説役がこの会社を選んだ理由は、鉄という「大根より安い」とも言われる世界最大級のコモディティ市場で、環境価値だけを掲げるのではなく、圧倒的なコストと安全保障にアジェンダを移し、プラグマティックな戦略でスケールしようとしている点にある。これまでの鉄鋼系スタートアップとは違い、多くの起業家の参考になると解説役は考えている。以下、聞き手との質疑を交えながら進んだ議論を整理する。

Flex-HERS:高炉と転炉を単一の反応炉に統合する

Hertha Metalsが開発しているのは、従来の高炉と転炉の役割を、電気アークを用いた単一の反応炉で置き換える「Flex-HERS」という手法である。反応温度は2500℃以上とエネルギー密度が高く、変換効率は95%以上だという。解説役の説明では、この95%とは、投入したエネルギーや還元剤(今回は天然ガスや水素)のうち、鉄鉱石の還元や溶解に寄与する熱・化学的な効率を指す。過酷かつ高効率な環境を制御する技術によって、既存の多段階プロセスを一工程にまとめようとしている。

解説役は、この会社を「グリーンスチール一般」の企業としてではなく、低炭素な一次製鉄技術と、高純度鉄の国内供給を担う会社として捉えてほしいと述べた。厳密に言えば鉄鋼市場そのものというより、鉄鉱石から鉄や鋼を作る上流工程の脱炭素化、つまり製鉄プロセスの転換を狙っているという整理である。

なぜ今か:脱炭素圧力、関税、安価な天然ガス

「なぜ今か」について、解説役はいくつかの要因を挙げた。まず、鉄鋼セクターは世界の人為起源の温室効果ガス排出の7〜10%を占める大きな排出源であり、1850年代頃から続く石炭依存の製鉄プロセスからの脱却が急務とされ、多くのスタートアップが立ち上がっている。

次に地政学的な変化がある。解説役によると、米国の鉄鋼輸入依存度は完成品で18〜30%程度あり、これを国内に戻すためにセクション232に基づく関税が25%から50%へ強化されるなど、オンショアリングへの政治的圧力がかかっている。

さらに米国は天然ガスの産地でもある。Hertha Metalsは豊富で安価な天然ガスを使い、石炭よりもクリーンな形で鉄を作ろうとしている。最終的にはクリーンな水素に移行したいが、クリーン水素はまだ高コストなので、その普及を待たずに今すぐ経済性を出せる現実的なアプローチを取っている、と解説役は説明した。

技術面の「なぜ今か」もあるという。供給側ではシェールガス革命による安価な天然ガスの普及、もう一つは高温プラズマアークの制御技術が成熟し、高温下でのアーク制御がやりやすくなってきたことだ。

政策依存と天然ガス利用への疑問

聞き手はここで二つの疑問を投げかけた。一つは、関税のような政策に依存しすぎると、それが覆ったときに危ういのではないかという点である。解説役は、政策の追い風はいずれ逆風に変わるかもしれないリスクがあることを認めたうえで、Hertha Metalsの強みはそもそも既存法より20〜25%安いという純粋なコスト競争力にあり、政策なしでも自立できるモデルを目指していると答えた。

もう一つは、天然ガスを使うことが環境対策と矛盾しないかという疑問である。解説役によると、同社は設備を変更せずに水素へ移行できるデュアルフューエル設計を採っているとしている。まず天然ガスで動かし、同じ設備のまま水素に移っていく。天然ガス利用は移行期の現実解という位置づけだという。

既存プロセスが抱える課題

続いて解説役は、同社が解こうとしている課題を整理した。既存の高炉は巨額の設備投資を必要とし、老朽化した設備の更新時期が迫っているが、CO2排出の観点から新設は難しいと言われている。

代表的なクリーン製鉄の方法にも制約がある。鉄(Fe)の含有量が67%以上の高品位ペレットが必須だが、これは世界の供給の2割程度しかないとされ、原料制約から調達コストが急増している。つまり低品位の鉱石が使えない。聞き手がその理由を尋ねると、解説役は「そこまで詳しくはない」と前置きしたうえで、固体のまま還元を行う仕組みのため不純物(スラグ)を分離しにくく、後工程の電炉の負荷が大きくなるためだと説明した。

一方で需要側には強い痛みがある。防衛やEVに不可欠なNdFeB(ネオジム)レアアース磁石は重量の約70%が高純度の鉄だが、米国はその90%以上を中国などからの輸入に頼っている。国内で調達できないことが国防上の強烈なペインになっている、と解説役は述べた。クリーンな製鉄に移行しようとすると高くつき、豊富にある低品位鉱石は現行技術では使えず、需要が高まる高純度鉄は海外依存である。こうした複数のペインが重なっているのが現状だという。

なお、既存の高炉メーカーの対応について聞き手が尋ねると、解説役は日本でも試みられているように既存の高炉に水素を吹き込んで排出を減らす取り組みがあるが、根本的な解決ではないとの見方を示した。

単一工程化による「ネガティブ・グリーンプレミアム」

従来の製鉄は、鉄鉱石の粉を焼き固め、石炭を蒸し焼きにしてコークスを作り、それらを高炉に投入して銑鉄を作り、転炉で炭素などの不純物を除いて鋼にする、という多段階のプロセスを経る。Flex-HERSはこれを単一モジュールに統合し、還元と溶解を一工程にまとめたうえで、低品位の鉱石でも天然ガスや電力を使って直接同時処理できる技術だという。

解説役が紹介した同社の主張は次のとおりである。コストは従来法比で20〜25%削減でき、グリーンプレミアムが上乗せされるのではなくむしろマイナスになる「ネガティブ・グリーンプレミアム」を実現する。エネルギー消費は30%削減、CO2排出は天然ガス利用時に約50%減、水素利用時には約98%削減が可能だとしている。原料面では、低品位鉱石、粉鉱石、ミルスケールのような廃酸化物まで、あらゆるグレードの原料をそのまま投入できる柔軟性を持つという。

そしてテキサスの拠点で、1日あたり1トンの連続稼働パイロットの実証に成功しており、机上の空論ではないと解説役は強調した。

聞き手がコスト低減の要因を尋ねると、解説役はコークス製造や鉱石のペレット化といった高コストな前工程を省略できることと、安価な低品位鉱石を使えることの二点を挙げた。「ネガティブ・グリーンプレミアムは本当に計算上成り立つのか」という問いには、前工程の省略によるコスト削減と安価な原料を使える技術的優位を組み合わせれば理論上は可能だとされている、と答えている。

1日1トンは業界にとってどの程度の意味を持つか

聞き手は、1日1トンという規模が鉄鋼業界で十分と言えるのかを尋ねた。解説役によると、同社が鉄鋼業界の幹部にヒアリングした結果、連続で1日1トンの安定稼働が次のフェーズに進むための最低限の信頼の基準とされていたという。

技術的な難所としては、スラグ内での大量のガス流の制御、耐火物の寿命確保、高温下での流体力学や材料工学的な制御が挙げられ、同社はそこをアーク制御でうまく処理している点がポイントだという。ただ解説役は、この部分がボトルネックになる可能性は高く、電気アーク炉のように電力で鉄を溶かす方式と比べると、そこが制約になるかもしれないと自身の見方も添えた。

市場規模:高純度鉄から一次製鉄、世界市場へ

市場について、解説役はSAM・SOM・TAMの枠組みで整理した。初期市場(SOM)として狙うのは、米国のレアアース磁石向け高純度鉄市場である。供給不安が強く、安全保障上多少高くても買ってもらえるため、ここを起点にする。SAMは米国の一次製鉄・低炭素鋼市場で、スクラップだけでは賄えない高級な一次鉄の需要を狙う。TAMは年間約18.5億トンと言われる世界の鉄鋼市場全体だという。

成長ドライバーは三つある。一つ目は規制で、セクション232による関税強化と国内回帰、そして将来クリーン水素を使う際には水素生産税額控除「45V」の恩恵を受けられる可能性がある。二つ目は需要の変化で、データセンター、EV、防衛などで高級鋼や磁石の需要が増えている。三つ目は技術の成熟で、再生可能エネルギー電力の増加と米国の天然ガスの価格競争力がある。これが「なぜ米国から始めるのか」の答えにもなっていると解説役は述べた。

聞き手は、これだけの技術なら最初から世界の鉄鋼市場を狙えるのではないかと質問した。解説役の答えは、汎用の鉄鋼は重さあたりで大根より安いと言われるほどなので、初期の小規模プラントでは価格競争に勝てず、まず価値の高いニッチ市場で実績を作る戦略だろうというものだった。世界展開も検討はしているだろうが、現在は天然ガスが安く政策支援も手厚い米国市場に完全にフォーカスしているようだという。

ビジネスモデルとドロップイン型モジュール

収益構造について、解説役はインプットとアウトプットに分けて説明した。インプット側では、安価な低品位鉱石と安い天然ガスの組み合わせで変動費を圧縮し、前工程を不要にすることで設備投資も削減する。アウトプット側では、磁石メーカーに高純度鉄をプレミアム価格で販売する。環境配慮型でありながら、中国製よりも安く提供できるかもしれない点が大きいという。

初期は自社プラントで高純度鉄をプレミアム価格で販売し、バリューチェーンを長く取ってフルスタックに近い形で事業を行う。実現可能性を実証した後は、自分たちの強みの部分にバリューチェーンを短くし、スケールは既存メーカーとのジョイントベンチャーなどで確保していくモデルではないか、と解説役は見立てている。

特徴的なのが「ドロップイン」のモジュール設計である。従来のグリーンフィールド型の新設では、製鉄所は一つの街ほどの規模になり、数千億円単位の投資が必要になる。Hertha Metalsは、老朽化した高炉と転炉の部分だけをFlex-HERSモジュールに置き換え、下流の精錬・鋳造・圧延設備は既存メーカーの埋没資産をジョイントベンチャー方式で活用する計画だという。既存プレイヤーを敵に回すのではなく、その資産を生かしてパートナーに変えるゴー・トゥ・マーケット戦略であり、最初から巨大な製鉄所をフルスクラッチで建設せずに済むため、スケールアップの「死の谷」のリスクを回避できるのではないかと解説役は述べた。将来的には、米国全土の老朽化した高炉をモジュールに置き換え、天然ガスから水素へ移行させていくことが最終的なゴールになるだろうという。

聞き手は、既存メーカーが本当にそうした置き換えに応じるのかを尋ねた。解説役は、高炉の寿命が来て改修時期を迎え、環境規制も迫っているタイミングであれば、巨額の改修費をかけるより低設備投資の代替案として検討されうるのではないかと答えた。物理的な接続については、Flex-HERSが下流に渡すのは成分調整済みの溶鋼や高純度鉄なので、既存の鋳造ラインへスムーズに受け渡せるとされている、と説明した。

リスク:水素経済性と天然ガス価格

解説役は、このモデルにはリスクもあると述べた。水素コストが高止まりすれば水素への切り替えが進まない。逆に安価なクリーン水素が普及すれば、純粋な水素DRI(直接還元鉄)の魅力も高まり、バランスが崩れる可能性がある。また、天然ガスの価格が高騰する場合もありうる。これについては長期供給契約などで軽減できるかもしれないが、インプット側のリスクは多少残るだろうと解説役は見ている。

ロードマップ:1トン/日から1万トン/年、50万トン/年へ

ロードマップとして、フェーズ1では1日1トンのパイロット連続稼働を完了し、スラグ制御などのデータも取得した。フェーズ2では年間1万トン級のプラントを建設し、レアアース磁石向け高純度鉄の商用供給を2026〜2027年頃に始めるとされる。2030年に向けては年間50万トン程度のマイクロミルを展開し、既存メーカーとの提携で本格的な鉄鋼生産に進む。いきなりコモディティで戦わず、高単価で供給不安の強いニッチで初期収益と信用を築く定石を踏んでいる、と解説役は評した。

聞き手は、1日1トンから年間1万トンへのジャンプの大きさを指摘し、技術面・資金面の難しさを尋ねた。資金について解説役は、同社がこれまでに約1,740万ドル(約25億円)を調達しており、今後はシリーズAや政府(DOE)の補助金を組み合わせて建設していく想定だと説明した。技術的には、1万倍のスケールアップであり、高温プロセスのスケールアップは歴史的に見ても鬼門だとされる。ただ同社はモジュールを並べて並列化することを特徴としているため、未知の巨大炉を一つ作るよりリスクを低減できると想定しているようだという。

競合:Stegra、Boston Metal、スクラップ電炉との違い

競合として解説役がまず挙げたのは、旧H2 Green SteelのStegraである。水素と高品位ペレットを使う水素DRIで大型の製鉄所を新設する方式だが、原料制約と巨額の設備投資が弱点だという。Boston Metalは溶融酸化物電解(MOE)による全電化の方式で、原料の柔軟性はあるが電力依存度が高く、基本的に新設が前提になる。電気が安ければ成立するが高いと難しく、解説役は最近のBoston Metalのページを見ると鉄以外の物質にも手を広げている印象があると述べた。既存大手のNucorなどスクラップ電炉系は強みがある一方、一次鉄源の確保が難しく、供給が不安定という課題がある。

これらに対しHertha Metalsは、単一工程であること、低品位鉱石や粉鉱石でもよいこと、ガスと水素のデュアル燃料に対応していること、低設備投資のドロップイン型であることを組み合わせている。個々の要素より総合的な事業設計に差別化があり、特に設備投資の低さが最大の堀(モート)になっていると解説役は見ている。ネガティブ・グリーンプレミアムも加わり、Boston Metal、Electra、Stegraなどとは違う攻め方をしているという。

聞き手が知財面のモートを尋ねると、解説役は特許はまだあまり出ておらず出願中の段階であり、真の武器は特許よりも、パイロットでの実稼働データとスラグ制御のノウハウにあると言われていると答えた。

さらに聞き手が「比較だけ聞くと全部強いように聞こえるが、弱点はないのか」と問うと、解説役は技術リスクを挙げた。溶融層での単一工程は誰も達成したことのないプロセスであり、耐火物の寿命や連続稼働時の安定性(アップタイム)を商用スケールで証明できるかはまだリスクとして残っているという。

参入戦略:MVPは「ラボデータ」ではなく連続稼働

参入戦略について、解説役は改めて「ウェッジ戦略」として整理した。コモディティをいきなり狙わず、痛みが深く小さな市場、つまり高純度鉄を必要とするNdFeB磁石向けを狙い撃ちする。磁石の重量の70%が高純度鉄であり、米国はこれを自国で生産できず他国に依存しているため、国防やEV産業のアキレス腱になっている。

解説役が重視したのは、MVPの設定の仕方である。ラボデータではなく、1日1トンの実際の連続稼働パイロットをMVPに据えた。重厚長大産業の顧客は、論文があっても本当に連続で動くのかを信じてくれないので、その実績作りをまずMVPとしたという。そのうえで、磁石メーカーが求める厳格な不純物基準であるFe 99.97%以上をクリアし、試験提供を通じてオフテイク(長期取引)契約を獲得した、と解説役は説明した。今後は高級鋼、特殊鋼、最終的に汎用コモディティへと広げる構想だという。

聞き手が、メーカーから何が評価されたのかを尋ねると、解説役は、低品位鉱石から高純度の鉄を安定して分離・抽出できたこと、そして炉が壊れずに連続稼働できたことが評価されたと答えた。ただし現状について問われた際には、複数の米国の磁石メーカーに試験サンプルを提供して評価を受けている段階で、契約に向けた協議をしていると聞いている、とも説明しており、契約の進捗については説明に幅が残っている。

創業者:水素スタートアップからのピボット

創業者はローレン氏で、MITで材料科学や機械工学を研究し、アルミニウムの活用や水素生産の研究を経て、水素のスタートアップを立ち上げCEOを務めた。若くしてPhDを取得した人物だという。その経験の中で、クリーン水素を作っても使う人がいない、出口となる重厚長大産業のプロセスが変わらなければコストが合わない、ということに気づいた。そこで水素を売るのではなく、需要側である鉄鋼のプロセスを作るべきだと考えを変えたという。

聞き手がこのピボットのきっかけを尋ねると、解説役は、水素スタートアップのCEO時代に「作った水素を誰が買ってくれるのか」を徹底的にヒアリングして回った結果、鉄鋼業界に行き着き、こちらの課題のほうが大きいと感じたのだろうと推測した。

創業者は鉄鋼の伝統的な業界出身ではない。そのため、NucorやU.S. Steelなどからレガシー鉄鋼の人材を採用しつつ、Blue OriginやAirbusのような先端航空宇宙産業の出身者も雇い、異分野融合のチームを作っているという。伝統産業の知見と、スタートアップ的な急速なスケールアップの手法を、学ぶことが好きなCEOが融合させている、と解説役は見ている。

聞き手が、専門外の人が鉄鋼の専門家をどう採用できたのかと疑問を示すと、解説役は、実際に動くパイロットプラントが証拠となり、資金調達だけでなく採用にもつながったのではないかと推測した。パイロットに至るまでの初期の経緯はもう少し調べる必要があるとしつつ、補助金を取っていたようなので、それをうまく使ったのではないかという。

初期仮説の修正と12カ月でのパイロット

初期仮説の変遷について、解説役は二段階のピボットを説明した。当初は、水素還元でグリーンスチールを作れば、市場はプレミアムがあっても買ってくれるはずだと考えていた。しかし技術経済性分析(テクノエコノミック・アナリシス)を行った結果、既存法より安くなければ絶対にスケールしないと感じ、現在の安価な天然ガスでもまず動くデュアルフューエル設計のFlex-HERSへ転換したという。聞き手が「鉄にピボットし、さらに水素から天然ガスへもピボットしたのか」と確認すると、解説役は、元々は水素だけでやることを念頭に開発していたが、顧客と市場の状況を見てガスにも対応できる設計にしたようだと答えた。

また、拠点の開設から約12カ月以内に、研究室レベルのアイデアを1日1トンの連続稼働パイロットまで持っていったという。解説役はこの資本効率とスピードが次の資金調達につながったと見ている。スピードの要因として、ヒューストン地域は石油・ガスの優秀なエンジニアやサプライチェーンが密集しており、人や協力者を集めやすい立地を選んだことが一因ではないかと述べた。

資金調達とスケールアップの壁

資金面では、Khosla VenturesやBreakthrough Energy Fellowsから資金を受けている。気候変動やディープテックに強いVCが入っていることで、信用を補完できているのではないかと解説役は述べた。KPIとしては1日1トンの連続稼働を完了し、技術リスクの多くを払拭したとされる。ハードテックやクライメートテックへの投資が冷え込む中でも、「エコだから」ではなく「安い低品位鉱石が使えるから儲かる」という経済合理性を示したことで投資家を説得できたのではないか、と言われているという。DOEのプロジェクト支援も活用し、株式の希薄化を抑えながら次の段階へ進もうとしている。

聞き手は、累計約1,740万ドルで年間1万トンのプラント建設に足りるのかを尋ねた。解説役は、1万トン規模の建設には数十億円から100億円規模が必要と推測でき、シリーズAやシリーズBの調達、あるいはプロジェクトファイナンスが必要になるだろうと答えた。Stegraなどと比べて資金規模が小さいのではという問いには、Stegraや(それに近い形で)Boston Metalは大規模プラントを一気に作る資本集約型であるのに対し、Hertha Metalsはモジュール化と既存設備の活用による低設備投資で勝負しており、最終的にはどちらが早いか、どちらが安いかの勝負になるだろうとの見方を示した。

日本で同じ領域に挑むなら

番組では、日本で同じ領域で起業する場合についてAIが提案した案も紹介された。前提として、日本は資源が乏しく、既存設備は重要でありながら老朽化しており、自動車向けなど品質要求が高いという特性がある。

AIの提案は三つである。一つ目は、自動車やモーター産業向けに高品質な特殊鋼や高純度鉄に特化するニッチプロバイダーで、日本の厳しい品質基準や認証をクリアすることを後発の優位性にする案。二つ目は、自社で製鉄所を持たず、老朽化した国内高炉メーカーに対して、既存インフラを生かしたまま還元・溶解プロセスだけを更新する設備や技術を提供するアライアンス特化型のレトロフィット案。三つ目は、操業を制御するソフトウェアやスラグ制御、原料のばらつきを安定化させるAIモデルを開発し、Hertha Metalsのような新興ハードウェア企業にライセンス提供する案である。解説役自身は、これらは少し小さいという感想を漏らしている。

聞き手が米国との最大の環境の違いを尋ねると、解説役は、まず安価な天然ガスがないことを挙げた。加えて、日本の鉄鋼メーカーは本当に優秀であるがゆえに、既存メーカーの系列やサプライチェーンの壁が厚く、新しいメーカーと組むことで安定性が損なわれるリスクを嫌い、大手がなかなか調達しないということがあるかもしれないと述べた。

学び:経済合理性、ドロップイン、ニッチからのレバレッジ

最後に解説役は、この事例からの学びを三つにまとめた。一つ目は、環境価値はもちろんありつつも、最終的には圧倒的に安くなる、原料制約を解消できるという経済合理性のストーリーを作っていること。最初は多少のグリーンプレミアムが乗るかもしれないが、最後は安さで勝てるという筋立てである。二つ目は、レガシーインフラをグリーンフィールドで作り直すのではなく、既存資産や埋没資産にモジュールをドロップインして設備投資を抑え、既存企業をパートナーにするやり方。三つ目は、いきなり巨大市場を狙わず、供給網リスクや安全保障という別のアジェンダがある強烈なペインを持つニッチ市場(磁石向け鉄)で着実に実績を積み、そこからレバレッジをかけていく参入の仕方である。

特に解説役が強調したのはMVPの考え方である。狙う業界の既存大手に、新技術に対して譲れない最低条件、たとえば稼働時間や品質のブレ幅をヒアリングし、そのスペックに向けてMVPを作る。MVPとは機能の少なさではなく、顧客にとって「ミニマムでバイアブル」なものは何かを把握することであり、そこで実証して信頼を得て次につなげる。これはディープテック全般で使える発想だと解説役は述べた。

聞き手は感想として、水素から鉄へ、さらに水素から天然ガスへという二度のピボットがどうやってできたのかが気になったこと、そして「安さこそが価値だ」という判断は言われてみればそうでもなかなか踏み切れないと感じたことを挙げ、どちらも現実を直視する現実主義を貫いている点が特徴だと述べた。解説役はこれに、技術経済性分析で最終的に安くなることを示すような理想主義、知らない領域でも勉強すればなんとかなるという楽観主義も混ざったスタートアップだと応じ、こうしたスタートアップが日本でも出てきてほしいと語った。聞き手が「なかなか楽観的になれない」と返すと、解説役も自分も含めて考えなければいけないかもしれないと述べ、番組を締めくくった。