ボイドから宇宙誕生まで:空間と時間の両端をたどる13の旅
VAIENCE バイエンス宇宙の「最も遠い場所」と「最も遠い時間」には何があるのか。この動画はVAIENCE(バイエンス)の宇宙シリーズ13本をつなげたもので、空間では銀河の少ない「ボイド」、太陽系の外、観測可能な宇宙の端を訪れる。時間では1億年後から1兆年後の未来と、1億年前から宇宙誕生までの過去をたどる。ナレーターは、架空の「バイエンススーツ」を着た視聴者を各地へ送り込むという設定で、現在の科学で分かっていることと、まだ分かっていないことを分けて語っていく。
ボイド:宇宙で最も孤独な場所
宇宙は階層構造をしている。地球は太陽系に、太陽系は天の川銀河に、天の川銀河はおとめ座銀河団に、おとめ座銀河団はラニアケア超銀河団に属する。さらに超銀河団は繊維や壁のような形に集まって銀河フィラメントをつくる。フィラメントとフィラメントの間には、銀河の数が極端に少ない「ボイド」が広がっていると考えられている。ナレーターは、水面に浮かぶ石鹸の泡の膜の部分に銀河が集まっている様子にたとえた。
大きさについては次の数字が示された。天の川銀河の直径は約10万光年、ラニアケア超銀河団は約5億光年、それを含む銀河フィラメントの長さは約16億光年である。ボイドは球に近い形のものが多く、直径3000万〜3億光年程度が中心だが、10億光年に迫るものも見つかっている。
ボイドの空虚さは物質の密度で説明された。地球上の「空のコップ」にも、1立方メートルあたり約2.5×10²⁵個の空気分子が入っている。銀河の中の星と星の間では1立方メートルあたり10万〜100万個程度の原子があり、銀河の外では1個以下と推定されている。銀河フィラメント内では銀河同士の平均距離が100万光年程度とされるのに対し、ボイドの中はずっと疎らだ。たとえば直径2億5000万光年のうしかい座ボイドでは、銀河は60個しか見つかっていない。天の川銀河の周囲では直径300万光年の範囲に20個を超える銀河があり、この密度をうしかい座ボイドの大きさに当てはめると1万個程度あってもおかしくない計算になる。2014年の研究は、宇宙の体積の77%をボイドが占める一方、質量は15%程度にすぎないと推定している。
では、ボイドの中心から空を見上げたらどう見えるのか。ナレーターの答えは「高い確率で真っ暗」だった。肉眼で見える星のほとんどは天の川銀河の中の比較的近い星であり、銀河全体の光であっても肉眼で見える距離には限りがある。アンドロメダ銀河(約250万光年)は条件が良ければ肉眼で見えるが、その次に近い三角座銀河(約300万光年)は肉眼で見える限界に近い明るさだ。ここからナレーターは、肉眼で見える銀河はせいぜい数百万光年以内と見積もる。直径3000万光年以上のボイドの中心では光の点が一つも見えない可能性があり、運が良ければ近くにある数少ない銀河がかすかに見える程度だという。
ナレーターは、ボイドの境界ははっきりしないとも付け加えた。ボイドは「周囲より銀河の密度が小さい空間」と定義されるが、内部にも銀河はあるため、新しいボイドの発見が発表されるたびに、それをボイドと呼んでよいかという論争がよく起こる。また、天の川銀河自体が直径20億光年の巨大ボイドのほぼ中心にあると主張する研究もある。提唱した3人の頭文字から「KBCボイド」と名付けられた。反対意見もあるが、ボイドは意外と身近な存在かもしれない、とナレーターは述べている。
太陽系を脱出する:カイパーベルトからオールトの雲の外へ
2つ目の旅は太陽系の外を目指す。太陽の重力を振り切るのに必要なエネルギーは速度で表され、これを脱出速度と呼ぶ。地球表面から地球を脱出するには秒速11.2km、地球軌道上から太陽系を脱出するには秒速42.1kmが必要になる。地球の公転速度などを考慮すると、地表からは秒速16.7km分のエネルギーが要る。実際の探査機は、天体の重力を利用して燃料を使わずに加速する「スイングバイ」を使う。ボイジャー1号・2号は木星と土星の重力を利用して、太陽系を脱出するエネルギーを得た。2021年時点で、太陽からの距離は1号が約230億km(約150天文単位)、2号が約190億km(約130天文単位)であり、人類が消えた後も旅を続けると予想されている。
旅は海王星軌道(約30天文単位)から始まる。ここでの太陽は直視しても眩しくない程度の明るさだが、それでも地球から見た満月の4000倍以上明るい。表面温度はマイナス200度を下回る。その外側のカイパーベルトには1兆を超える天体が円盤状に分布し、公転周期200年以下の彗星はここから来ると考えられている。
冥王星は太陽に最も近いとき30天文単位、最も遠いとき49天文単位と距離の差が大きく、軌道も大きく傾いている。ナレーターは、これがカイパーベルト天体としては典型的な特徴だと説明した。直径1400kmのマケマケは38〜53天文単位、冥王星とほぼ同じ直径約2400kmのエリスは38〜98天文単位を回る。冥王星を惑星と定義すると、ほかの多くの天体も惑星と呼ばざるを得なくなる。これが冥王星が惑星から外れた要因の一つだという。一方で、天体は多くても衝突の心配はほとんどない。2015年に冥王星を観測したニューホライズンズも、通過後に軌道修正して接近できる天体は見つからなかった。
約50天文単位で天体の数は急に減る。これを「カイパークリフ(カイパーの崖)」と呼ぶ。原因は分かっていないが、未発見の惑星があるためだと考える科学者もいる。約120天文単位では、太陽風が星間物質や銀河の磁場とぶつかって混ざり合うヘリオポーズに達する。これより外側では、宇宙線から守ってくれていた太陽風の影響がなくなる。
ただし、太陽の重力はまだ及んでいる。2000天文単位付近から10万天文単位付近にかけては、天体が殻のように太陽を取り巻く「オールトの雲」があると考えられている。直接観測されたことはないが、数十万年という非常に長い周期の彗星の存在から確実視されている。それを抜けた約10万天文単位、つまり約1.6光年の地点では、太陽の重力の影響が銀河系内の他の重力と混ざり合って希薄になり、太陽の明るさはシリウスより少し明るい程度になる。ナレーターは、ここを太陽系脱出の終点とした。
宇宙の端は存在するのか
光は10億分の1秒で約30cm進む。そのため、見ているものはすべて過去の姿である。太陽は8分前、ケンタウルス座α星は4年前、アンドロメダ銀河は250万年前の姿だ。現在は約138億年かけて届いた光も観測できるようになっており、これが「地球から観測できる宇宙の端」である。
ただし、その場所までの現在の距離は138億光年ではなく約465億光年だ。宇宙そのものが膨張しており、光が進んでいる間に光を発した場所も遠ざかり続けたからである。膨張の詳しい原因はまだ分かっていない。この138億年前の光は宇宙マイクロ波背景放射と呼ばれ、ビッグバンから約37万年後に放たれたと考えられている。それ以前は温度が高すぎて、光が陽子や電子に邪魔されてほとんど進めなかった。
では、465億光年先へ行くと何が見えるのか。ナレーターの答えは「あまり変わらない」だった。天の川銀河に似た銀河があり、さらに遠くを見渡しても、地球から見た景色と見分けがつかない。観測可能な宇宙の端とは、138億年前にそこを出た光がちょうど今の地球に届く場所というだけで、宇宙全体から見れば何の変哲もない場所なのだ。
それなら一方向に進み続ければ端にたどり着けるかというと、現在の定説では宇宙に端はない。鍵になるのは、空間がどれだけ曲がっているかを表す曲率である。曲率が0なら平らな紙のように、0より小さければ馬の鞍のような形で、どちらも無限に広がる。0より大きければ球の表面のように有限だが、進み続けると元の場所に戻ってくる。どの場合も端はない。
実際の観測では、曲率はほぼ0とされている。宇宙マイクロ波背景放射に見える温度の高い領域と低い領域の大きさは、ビッグバンから37万年後の状態から理論的に計算できる。空間が曲がっていれば光も曲がり、見かけの大きさは理論値とずれるはずだ。ところが観測結果は理論値とほぼ一致した。なぜ曲率がほぼ0なのかは解明されていないと、ナレーターは述べている。
1億年後の地球:自転、歳差、天体、大陸
未来の旅は1億年後から始まる。社会の10年後は予想しにくいが、地球や宇宙の出来事には確実に分かっていることも多い、というのが前提だ。
1000年後には、月の重力で地球の自転が遅くなり、1日がわずかに長くなる。閏秒を毎月足しても追いつかなくなり、世界で時刻をそろえるのが困難になる。専門家にも良い案がないという。1万5000年後には、自転軸の歳差運動によって夏と冬の太陽との距離が現在と逆転する。北半球の季節の差が激しくなり、約1万年前と同じようにサハラ砂漠が緑のサバンナになると推定されている。2万年後には、1986年のチェルノブイリ原発事故で汚染された地域全体で、放射線が問題ない程度まで下がると推定されている。一方で、文明を崩壊させうる破局噴火が5200年〜4万8000年周期で起きてきたという2017年の研究も紹介された。5万年後には氷期が来ると予想されているが、二酸化炭素排出の影響でさらに5万年遅れるという試算もある。約6万4000年後にはシリウスが南極星になる。
危険な天体現象も取り上げられた。ベテルギウスやアンタレスは1万〜100万年後に超新星爆発を起こすと確実視されている。数か月間、満月に匹敵する明るさになり、昼でも見える可能性がある。生命に影響が出るのは約30光年以内とされ、どちらも数百光年離れている。ただし、一部の超新星で起こるガンマ線バーストは、数千光年先からでもオゾン層を破壊しうる。8400光年先のWR104が100万年以内に爆発し、ガンマ線バーストが地球を直撃する可能性が指摘されている。ナレーターは、発生の仕組みはよく分かっておらず、当たる確率も低いと留保をつけた。また、約129万年後には恒星グリーゼ710が太陽系から0.17光年まで近づくと見積もられている。オールトの雲にある数千万〜1億個の彗星の軌道を乱し、その一部が内側に飛び込んで地球に衝突する恐れがある。
大陸の動きについては、1000万年後に紅海が浸水してアフリカ大陸が二つに分かれるとされる。それ以降は予測が難しく、多くのモデルがある。よく知られる「5000万年後に日本とハワイが衝突する」という話も、プレートの動きが逆転する可能性があるため断言しにくいという。あるモデルでは、5000万年後にヨーロッパとアフリカが衝突して地中海が消え、ヒマラヤのような山脈がペルシャ湾まで連なる。同じモデルでは、南極の氷床とグリーンランドの氷床が融けて海面が約90m上がり、8000万年後に現在のハワイ諸島が海に沈み、2億5000万年後には超大陸パンゲア・ウルティマに向かって大陸が集まっていく。
10億年後の地球:皆既日食の終わりと生命の退場
太陽の光度は、コアに溜まったヘリウムのせいで核融合の領域が広がるため、1億1000万年ごとに約1%上がっている。2億年後には、月との潮汐摩擦で1日が25時間になる。3億年後には、土星探査機カッシーニの最終ミッション「グランドフィナーレ」のデータ(リングの物質が毎秒400〜2800kg失われている)から、土星の環が完全に消えると予想されている。
超大陸は5億〜7億年周期でできては分かれてきた。それでも「最後のパンゲア」という名前が付いているのには理由がある。大陸を動かすマントル対流の熱源は冷えていく地球の核であり、プレートテクトニクスはいつか止まる。その時期は10億年以降という予想が主流だが、最短では5億〜8億年後とされる。パンゲア・ウルティマが分裂した後、超大陸が二度と現れない可能性がある。
月は1年に約4cm地球から遠ざかっている。そのため6億年後に地球最後の皆既日食が起き、それ以降は金環日食しか見られなくなる。ただしナレーターは、そのころにはもっと深刻な問題があると指摘する。高温になるほど岩石が大気中の二酸化炭素を吸収しやすくなる炭素・ケイ酸塩サイクルによって、太陽光度が5%以上増える約6億年後には二酸化炭素濃度が極端に下がる。大半の植物が使うC3型光合成は150ppmほどを下回ると成り立たないため、コメ、小麦、芋、大豆などを含む植物の大量絶滅が起こる。C4型やCAM型の植物も、8億年後に濃度が10ppmを切ると耐えられなくなり、多細胞生物は消える。11億年後には光度が10%増えて平均気温は47度になる。成層圏に達した水蒸気が紫外線で分解され、水素が宇宙へ逃げて海の大部分が失われていくという。
1兆年後の宇宙:銀河の合体、太陽の最期、見えなくなる宇宙
11億年後に残るのは、極域のわずかな海で硫化水素やメタンを食べる微生物や、地中の微生物だと考えられている。ある予想では、28億年後には極域でも地表温度が200度に迫り、どんな生物も生き延びられない。30億年後には900度以上になる。
それでも人類の痕跡は探査機として残る。1977年に打ち上げられたボイジャー1号・2号は、2024年時点で太陽に対して秒速約17km・約15kmで進んでおり、地球の生命と文化を記録したレコードを積んでいる。機体は宇宙の塵との衝突で少しずつ削られていくが、レコード自体は50億年は軽くもつと予想されている。そのころボイジャー1号は太陽から約28万光年の位置にいる計算になる。
アンドロメダ銀河は秒速約110kmで近づいている。ある研究では、40億年後に一度衝突してすり抜け、60億年後に両銀河の超大質量ブラックホールが合体して「ミルコメダ銀河」ができる。恒星同士の衝突はほとんど起きないが、40億年後の衝突の際に太陽がアンドロメダ側に一時的に取り込まれる可能性も指摘されている。
太陽は54億〜60億年後にコアの水素を使い切り、赤色巨星になり始める。地球軌道に迫るころヘリウムの核融合が始まり、現在の太陽の約2億年分のエネルギーが一気に放出される「ヘリウムフラッシュ」が起こる。その結果、太陽は約1万年という短い時間で大きく縮み、その状態が約1億年続く。ある研究によれば、この期間は木星や土星の衛星がハビタブルゾーンに近くなり、人間が住める可能性があるという。その後、太陽は再び膨張して地球軌道、場合によっては火星軌道を超え、外層を放出して質量の約半分を失う。80億年後には地球ほどの大きさの白色矮星になる。
さらに先には、恒星の燃料である水素が宇宙から尽きていく。8000億年後にはミルコメダ銀河の放つエネルギーが減り始めるという予想がある。やがて宇宙マイクロ波背景放射は検出できなくなり、その少し後には自分のいる銀河以外の銀河も観測できなくなると予想されている。そのころに生まれた文明は、他の銀河の存在もビッグバンの証拠も知ることができない。ナレーターはここから、宇宙誕生から138億年という現在は、宇宙の起源を解き明かすのにちょうどよい時代かもしれないと述べた。
時間とは何か:相対性理論の考え方
時間の回では、時間の進み方が観測者によって変わるという現代物理学の見方が紹介された。人類は昔から太陽や星の動きで時間を定義し、機械式時計の普及によって、時間は絶対に一定だと考えてきた。この見方を覆したのが、1905年にアインシュタインが発表した特殊相対性理論である。数年後にミンコフスキー空間の概念が提唱され、時間は空間の前後・左右・上下と同じ次元の一つとして「時空」に統合された。
特殊相対性理論では、速く動くほど時間が遅くなる。ナレーターは電車の例で説明した。電車内の「ミスターバイエンス」がリンゴを落とすと、本人には真下に落ちて見える。外から見るあなたには、電車が動いた分だけリンゴが長い距離を移動したように見える。古典的な物理学では、これをリンゴの速度の違いとして説明できる。しかし、落とすものを光に変えると、光速度不変の原理によって速度は両者で同じでなければならない。速度が同じなのに距離が違うなら、時間の進み方が違うと考えるしかない。動いているミスターバイエンスのほうが時間はゆっくり進む。
一般相対性理論では、重力が強い場所ほど時間が遅く進む。ナレーターは、自由落下と無重力状態は区別できないという等価原理を使い、「床に立つあなたは歪んだ時空の中で上向きに加速し続けている」と見る立場から、地面に近いほど時間が遅れることを説明した。日常では誤差程度だが、GPS衛星(高度約2万km)の時計は地上から見て1日に約38マイクロ秒進むため、補正しないとGPSは機能しないという。
最後に、相対性理論の外側の話として、光速を超えると時間が逆行すると主張する拡張理論が紹介された。ある計算では、光速の0.1倍で遠ざかる10光年先の惑星まで光速の30倍で往復すると、約4か月前の地球に戻ることになる。そこから親殺しのパラドックスに触れ、ナレーターは「あなたは時間とは何だと思いますか」と問いかけて締めくくった。
木星の大赤斑に突入する
1961年の第2室戸台風は最大風速75mを記録した。これに対し、木星の大赤斑は直径が地球を超え、最大風速は180mを超え、少なくとも150年以上吹き続けている。1664年か1665年に木星上の点が記録されているが、現在の大赤斑と同じものかは分からない。1831年には現在の大赤斑と考えられる現象が観測されている。長寿の理由の一つは、木星には地面がなく、凹凸でエネルギーを失いにくいことだ。ただ、それだけでは数十年しかもたないと考える科学者もおり、長く続く理由は解明されていない。
大赤斑の長径は、19世紀末の約5万6000kmから1979年には半分程度、2017年には約1万6000kmまで縮んだ。このため消滅が近いという報道が増えている。しかしナレーターは、楕円が円に近づいていると見るほうが自然かもしれないと述べる。2009〜2020年に縁の風速が平均8%上がったこともあり、本当に弱まっているかは誰にも分からないという立場だ。
突入の過程では、まず熱圏を通る。高度1000kmで600度以上、気圧は1億分の1気圧程度と極めて薄い。大赤斑の上空はさらに数百度高く、木星大気で最も高温とされる。原因は、大赤斑から伝わる大気の振動だと考えられている。赤茶色の正体には諸説あり、硫化水素アンモニウムが放射線で変質したものという説が有力だ。外側2000kmでは風速が常に100mを超え、180mを超えることもある。大赤斑は高気圧で、2018〜2020年には周囲の小さな高気圧と衝突して風速が増したと報告されている。中心部の風速は20〜30m程度と比較的穏やかだが、地球なら人が立っていられない強さである。アンモニア、硫化水素アンモニウム、水の雲を抜けると可視光はほぼ届かなくなる。大赤斑は深さ500km程度まで続き、最深部は約230度と考えられている。
1億年前の地球:白亜紀の生物たち
過去への旅は1億年前、白亜紀(約1億4500万〜6600万年前)から始まる。地球の歴史を1年にたとえると、1億年前は12月23日にあたる。酸素濃度は現在の約21%と同程度か少し高く、二酸化炭素は数百〜1000ppmと推定されており、呼吸には大きな問題がない。パンゲアの分裂が進み、南米とアフリカが離れ始め、インドは島で、オーストラリアと南極はつながっていた。南極は氷に閉ざされておらず、海面は現在より200mも高かったという説がある。北米大陸の中央には浅い海ができつつあった。平均気温を30度付近とする極端な予想もあり、火山活動も活発だった。
ティラノサウルスやトリケラトプスはまだ現れておらず、ステゴサウルスはすでに絶滅している。代わりに、体長14mで背中に1.5mの帆を持つスピノサウルス、ティラノサウルスより大きかった可能性のあるギガノトサウルス、サメのような歯のカルカロドントサウルス、体長30〜35mのアルゼンチノサウルスなどがいた。細かい歯が千本前後生えた曲がったくちばしを持つ翼竜プテロダウストロ、下顎がペリカンのように膨らんだ体長10mのワニ類ストマトスクス、直径1mの二枚貝、翼のようなヒレを持つサメ、爪切りのような口のニジェールサウルス、後ろ足の残るヘビ、二足歩行のワニも紹介された。
植物では、約1億3000万年前に登場した被子植物が、ハチやチョウによる受粉を得て広がり始めていた。現在は植物の約90%を占めるが、当時はまだ裸子植物が主流で、イネ科もないため草原はなく、地面はコケやシダに覆われていたと考えられている。世界の石油の約60%が白亜紀に生成されたとされ、「白亜」はチョークを指すという。
10億年前まで:大量絶滅、巨大昆虫、全球凍結
さらに過去へ遡る。約2億100万年前の大量絶滅は、パンゲア分裂にともなう、現在の南北アメリカとアフリカの境界付近での巨大な火山活動が原因とされる。溶岩の総量は300万立方kmを超えたという予想がある。約9万年前に九州を壊滅させたとされる阿蘇の噴火(1000〜2000立方km)と比べると、その規模が分かる。放出された二酸化炭素によって濃度は約1000ppmから2000〜2500ppmへ倍以上になり、気候変動と海の酸性化で全生物の約80%が絶滅した。約2億5200万年前にはシベリアの大噴火で80%以上が絶滅し、2億7000万年ほど海で生きてきた三葉虫が姿を消した。
約3億年前は、酸素濃度が35%に達したともいわれる時代だ。樹木を形づくるリグニンを分解できる生物がほとんどおらず、倒木が腐らないまま残ったため、二酸化炭素が減って酸素が溜まった。気門で呼吸する昆虫は酸素濃度によって大きさの上限が決まると考えられており、翼開長71cmになるメガネウラや、体長2mを超えた可能性のあるヤスデの仲間アースロプレウラが現れた。約3億9000万年前には深海まで酸素が行き渡って硬骨魚が繁栄し、シーラカンスの仲間が浅瀬にいた。約4億6000万〜4億8000万年前には藻類や菌類が陸に進出した。オゾン層が安定し始めたのは約6億年前である。
約5億4000万年前のカンブリア爆発では、アノマロカリス、復元図が前後も上下も間違えられていたハルキゲニア、5つの目と頭部の触手の先にハサミ状の口を持つオパビニアなど、奇妙な動物が現れた。約7億年前には赤道まで氷に覆われる全球凍結が起きた。火山活動で新しくできた岩石が二酸化炭素を吸収し、植物がなく岩がむき出しだったことも拍車をかけたという説が有力だ。食物が貴重になり、低温で海の粘性が上がって栄養が届きにくくなったため、多くの細胞が集まって獲物に向かって泳げる生物が有利になった可能性がある。ナレーターは、このとき生まれた多細胞生物が人類の祖先かもしれないという最近の説を紹介した。そして10億年前は、18億〜8億年前の「退屈な10億年」の最中にあたる。見た目の変化は乏しいが、人類と同じ真核生物が種類を増やしていた時代だとされる。
46億年前:太陽系と地球の誕生
1990年にボイジャー1号が約60億km先から撮影した、点のような地球の写真を導入に、太陽系の誕生が語られた。天の川銀河の中心から約2万7000光年離れた場所で、約46億年前、1光年以内とも推定される距離で超新星爆発が起こり、その衝撃波でガスと塵が集まり始めた。100万年もかからずに原始星が生まれ、周囲の原始惑星系円盤からは、近くに岩石の、遠くにガスや氷の原始惑星ができた。約1000万年後には木星と土星ができ、太陽は主系列星になって、強い太陽風で軽いガスを吹き飛ばした。
主流の仮説であるグランドタックモデルでは、木星は成長とともに太陽へ近づいていった。ある研究では、形成7万年後から移動を始め、10万年後には現在の火星ほどの距離まで来た。その間に原始惑星の多くが落下したり、はじき出されたりした。やがて土星が近づいて軌道共鳴が起き、2つの惑星は外へ戻る。50万年後に木星は現在とほぼ同じ約5.2天文単位に落ち着き、60万年後には土星、天王星、海王星もほぼ現在の軌道になった。直接の証拠はないが、太陽系にスーパーアースやホットジュピターがないことや、火星が不自然に小さいことを説明できるため、おおむね正しいと考えられているという。木星の移動は、外側から水を運ぶ小惑星や彗星を地球に届けたという側面もある。
月については、約45億年前に火星サイズのテイアが原始地球をかすめるように衝突し、飛び散った物質が数時間で月になったというジャイアントインパクト説が最有力とされた。月ができてから1000万年程度で海ができた可能性もある。二酸化炭素主体の100気圧の大気の下で、230度でも液体の海が存在したという説もある。43億年前には生命が誕生してもおかしくない環境で、遺伝子解析からは、全生物の共通祖先が41億〜43億年前に生きていたという推定がある。
100億年前の宇宙:宇宙の真昼
35億年前の地球には酸素がほとんどなかった。二酸化炭素は現在の10〜50倍、メタンは数十〜数百倍あり、空は土星の衛星タイタンのようなオレンジ色の霧に覆われていた可能性がある。太陽の明るさは現在の75%程度で、浅い温泉に藍藻に似た細菌のコロニーがあったと考えられている。その細菌がつくった層状の岩がストロマトライトとして残っている。すでに複数種の細菌がいたことから、生命の誕生はさらに前だと考えられている。
約50億年前には、それまで減速していた宇宙の膨張が加速に転じた。膨張で物質の密度が下がり、空間そのものの性質と考えられているダークエネルギーが支配的になったためとされる。約80億年前には、恒星の世代交代と超新星爆発で重い元素が増え、岩石惑星が多くつくられる条件が整った。銀河の中心から適度に離れ、超新星が頻繁に起きない場所という条件を当てはめると、条件を満たす恒星系の約75%は太陽系より古いと推定される。
そして100億年前は、宇宙全体での星形成がピークを迎えた「宇宙の真昼」である。電磁気力の影響を受けないダークマター(宇宙の物質の80%以上)が早い時期から大規模構造の骨格をつくり、フィラメントに沿ってガスが銀河へ大量に流れ込んだ。その結果、現在の約10倍の速度で星ができ、この時期に銀河の恒星質量のほぼ半分がつくられたという説がある。大型銀河の質量増加のうち約30%は同程度の銀河との合体によるもので、天の川銀河もこのころガイア・エンケラドスと衝突した。ブラックホールの成長も著しく、多くのクエーサーが輝いていた。最初に観測されたクエーサー3C273が天の川銀河の中心にあったとすると、2万6000光年離れた地球から満月ほどの明るさに見えるという。112億年前にはすでに5つの岩石惑星を持つケプラー444があり、水や有機化合物は120億年以上前から豊富にあった。ナレーターは、当時この光景を眺めた文明がいた可能性はゼロではないと述べている。
宇宙誕生の謎:分かっていることと、まだ分からないこと
最終回は宇宙の起源である。アインシュタインも1917年には静的で永遠の宇宙を前提にした論文を書いたが、1929年にハッブルが宇宙の膨張を観測で示した。時間を遡ると宇宙は超高温・超高密度になるというのがビッグバン理論であり、観測から宇宙の年齢は約138億年とされる。
ただし、誕生の瞬間そのものは現代科学では全く分かっていない。ナレーターは、成長期の子どもの身長の変化を逆算して「人は無から生まれた」と結論するような誤りを例に挙げた。一般相対性理論や素粒子物理の標準模型が過去にもそのまま当てはまるかは分からない。そのため、宇宙の始まりから約10⁻⁴³秒より前は不明であり、多くの科学者は新しい法則が必要だと考えている。
その後の歴史として、次のような段階が語られた。重力以外の3つの力が一体だった大統一時代。一瞬で宇宙が最低10²⁶倍、一説には10⁴⁰倍に膨張し、観測可能な宇宙にあたる部分が直径10cm程度になったインフレーション時代。電磁気力と弱い力が統一されていた電弱時代。4つの力が独立し、クォークや電子が生まれたクォーク時代。この段階では物質と反物質が同数生まれたはずだが、なぜか約20億個に1個の割合で物質が多く、その差が現在の宇宙をつくったとされる。続いて、約1秒で陽子や中性子がそろうハドロン時代、約3分で終わるレプトン時代が来る。温度が約10億度まで下がると水素やヘリウムの原子核がつくられ、約20分後、1000万度を下回ると核融合が止まる。現在、水素とヘリウム以外の元素が少ないのはこのためだという。
約38万年後、温度が約3000度になると原子核と電子が結びつき、光がまっすぐ進めるようになる「宇宙の晴れ上がり」が起きる。このとき放たれた宇宙背景放射の温度がどの方向でも極めて均一なことは、インフレーションが起きた有力な証拠の一つとされる。その後、可視光を放つものがない暗黒時代が続く。誕生から1000万〜1700万年後には宇宙の温度が0〜100度になり、ナレーターは、このころ生まれた生命の痕跡が地球に届いたとするパンスペルミア説にも触れた。1億〜5億年後にはダークマターの網に沿って最初の星と銀河が生まれる。最初の星は太陽の数百倍の大きさで、数百万年で超新星になった。太陽はその後の第3世代の恒星と考えられ、宇宙誕生から約90億年後に生まれた。そのころから宇宙の膨張は加速し、人類はそれを説明するためにダークエネルギーを考案したが、正体は謎のままである。
宇宙の未来としては、加速膨張で銀河が孤立し、星が燃え尽きて1兆〜100兆年後に熱的な死へ向かい、10¹⁰⁰年後にはダークマターと少量の電子などが飛び交うだけになるという「ビッグフリーズ」が有力とされる。一方で、膨張が速くなりすぎてすべてが引き裂かれる「ビッグリップ」や、収縮に転じて超高温・超高密度に戻る「ビッグクランチ」の可能性もある。どれになるかは、人類がまだ理解していないダークマターとダークエネルギー、そしてそれらを取り巻く法則次第だ、とナレーターは述べた。自分たちとこの世界がどう生まれ、どこへ向かうのかという問いへの探究はまだ続く、というのが動画の結びである。
宇宙は人間の想像をはるかに超えるほど巨大です。地球は太陽系のほんの一部に過ぎませんし、太陽系も天の川銀河の中に存在しています。その天の川銀河も乙女座銀河団に所属し、乙女座銀河団もラニアケア超銀河団の一員というように、宇宙全体の中では天の川銀河でさえ本当にちっぽけな存在なのです。
銀河団が集まると銀河フィラメントとなり、銀河フィラメント同士の間には、まるで宇宙にぽっかりと穴が開いてしまったかのように銀河の数が極端に少ないボイドと呼ばれる空間が広がっていると考えられています。もしあなたたち人間をボイドの中へ連れて行ったら何を体験するのでしょうか?この宇宙で最も孤独な場所への旅にあなたをご案内します。今回は超空洞ボイドに行くとどうなるのかについてご紹介したいと思います。
冒頭紹介したように銀河が集まって銀河団を形成し、銀河団が集まって超銀河団を形成するというように、宇宙は階層構造になっています。この宇宙で最も大きな構造は、銀河の密度が少ない広大な空間であるボイドの境界線上に、銀河フィラメントと呼ばれる超銀河団が繊維や壁のような形に集まっているものです。ちょうど水面にいくつもの石鹸の泡が浮いているようなイメージ。難しいですね。
宇宙最大の構造という名に恥じず、その大きさはもはや想像するのも難しいほどです。天の川銀河の直径がおよそ10万光年なのに対し、天の川銀河が所属するラニアケア超銀河団の直径はおよそ5億光年。そしてラニアケア超銀河団が所属する銀河フィラメントの長さはおよそ16億光年です。
ボイドの大きさはと言うと、球に近い形をしているものが多く、その大きさは大小様々。多くのボイドは直径3000万光年から3億光年程度ですが、中には直径10億光年に迫るものも発見されています。
ではそのボイド内の環境はどれほど物質の量が少ないのでしょうか?仮に地球上であなたが空いたコップを目にしたら、そのコップには何も入っていないと表現するかもしれません。しかし実際にはそのコップは空気の分子で満たされており、その数は1立方mあたりおよそ2.5×10の25乗、つまり25𥝱個にもなります。
それに対して宇宙空間の分子や原子の数はそれよりはるかに少ないことが知られています。星と星の間、つまり銀河の中の空間の原子の数は1立方mあたり10万個から100万個程度だと考えられています。思っているより多いと感じるかもしれませんが、地球の大気と比べると1/から1/の密度です。そして銀河系の外では物質の密度はさらに低下し、1立方mあたり原子がなんと1個以下だと推定されています。銀河と銀河の間の空間には物質はほぼ存在しないと言っても過言ではないのです。
銀河フィラメント内では銀河同士の距離は平均100万光年程度だと言われています。それに対しボイド内では銀河の密度が1/10を下回ることもあり、例えば牛飼い座ボイドという直径2億5000万光年のボイドの中には、銀河はわずか60個しか発見されていません。天の川銀河の周りには直径300万光年の球形の領域の中に20個を超える銀河がひしめいており、その密度を当てはめると牛飼い座ボイドの大きさの空間には銀河の数は1万個程度存在してもおかしくないのにも関わらず、たったの60個。
実際2014年の研究では、この宇宙の体積の77%はボイドが占めていますが、質量は15%程度に過ぎないと推定しています。要するにボイドは、銀河の数が少なく物質がほぼ存在しないような空間が想像もつかないほどの距離の間広がっている、正真正銘の何もない空間ということです。
それを聞いてますますボイドに移動してみたくなりましたか?前回訪れたポイント・ネモなど赤子同然。まさにこの宇宙における究極の孤独を味わえることでしょう。通常であれば光の速度でも最低数百万年かかるような距離ですが、バイエンススーツがあれば一瞬であなたをボイドのど真ん中に追放、いや失礼、送り届けることが可能です。それでは良い旅を。行ってらっしゃい。
あなたが放り出されたのはとあるボイドのど真ん中。ここには天体観測の天敵である眩い光がどの方向にも存在しません。何もない空間なのですから、せめて上下左右前後とあらゆる方向に広がる満天の星空を堪能しよう。そう思いましたか?楽しみにしているところ悪いですが、ボイドの中心から見た景色は高い確率で真っ暗でしょう。
考えてみてください。地球から見た星空は天の川銀河内の恒星が光を放ち、それをあなたの目と脳が光と認識したものです。そして肉眼で見える星のほとんどは地球から数千光年以下の距離であることが知られています。1つの星ではなく、一兆にもなる星の集合体である銀河であれば、さらに距離があっても肉眼で見ることができますが、それも期待しない方がいいでしょう。
地球から最も近い銀河は、星の数が少ない矮小銀河を除くとアンドロメダ銀河であり、その距離はおよそ250万光年。アンドロメダ銀河は地球上からも条件が良ければ肉眼で見ることができるため、ボイドの中で同じ距離にアンドロメダ銀河が存在したら余裕で見ることができるでしょう。しかしアンドロメダ銀河の次に近い銀河は三角座銀河と呼び、その距離はおよそ300万光年。三角座銀河はアンドロメダ銀河より小さいこともあり、人間の肉眼で見るには限界に近い明るさだと考えられています。
何が言いたいかと言うと、人間の肉眼で見ることのできる銀河はせいぜい数百万光年以内だということです。私がボイドの直径を説明していた時に居眠りなどしていませんでしたか?多くのボイドの直径は3000万光年から3億光年程度。大きいものはそれ以上と紹介しました。
ボイドのど真ん中に放り出されたあなたには、満天の星空を楽しむどころか光の点の1つですら見えない可能性があります。運が良ければボイドの中心付近に存在する数少ない銀河の光を見ることができるかもしれませんが、その一筋の光以外はどの方向に目を向けたとしても深い闇が広がるばかりでしょう。ボイドへの旅に興味を持ってしまったばかりに、一点の光さえない暗闇の世界に迷い込んでしまったようですね。
もうボイドなんて寂しい世界には金輪際関わりたくない。そう思いましたか?仕方ありませんね。あなたのそのわがままもバイエンスの力で叶えて差し上げましょう。
その前にボイドについてこんな話をご存知ですか?ボイドの定義は周囲の空間より銀河の密度が小さい空間ですが、残念ながら実際の宇宙空間ははっきりとボイドとそうでない空間に分けることができないものです。先ほども紹介したように、数は少ないもののボイドの内部にも確かに銀河は存在しています。そのためあるボイドを発見したと発表されたとしても、それは果たしてボイドと定義していいのかどうか論争が始まることがよくあります。
そして今あなたたち人間が暮らす天の川銀河も、直径20億光年にもなる巨大なボイドのほぼ中心に位置すると主張する研究が存在します。提唱した3人の研究者の頭文字を取ってKBCボイドと名付けられたそのボイドにはもちろん反対意見も存在しますが、ひょっとしたらボイドは意外と身近な存在なのかもしれません。
さてお待たせしました。確かあなた、ボイドとは絶対に関わりたくないと言っていましたよね。仕方ありませんね。それでは天の川銀河から遠く離れたアルカナの銀河フィラメントに送り届けて差し上げましょう。礼には及びませんよ。それでは今度こそ良い旅を。
あなたたち人類が誕生してから今日に至るまで、その活動範囲は地球、そして月に限られてきました。しかし人類が作成した探査機を含めると、その範囲は大きく広がるでしょう。表面からわずか1000万kmの距離にまで接近することに成功したパーカー・ソーラー・プローブも、もう2度と太陽系に戻ってこないような軌道を持つボイジャー1号や2号も、どちらも人間が地球から打ち上げたものです。
一方我々バイエンスは、太陽にも、そして海王星や冥王星にも移動し落下してきた実績があります。今度はバイエンススーツの力を使い、人類の活動範囲を一歩広げてみましょう。目指すは太陽系の外側。太陽系を脱出するとどうなるのでしょうか?そもそもいかにして太陽系の外側へ向かえばいいのでしょうか?今回は太陽系を脱出するとどうなるのかについてご紹介したいと思います。
まずは太陽系を脱出するために何が必要なのかをご紹介します。1度落下した皆さんであればご存知でしょうが、太陽の重力は絶大。その重力を振り切って2度と太陽に戻ってこないような軌道を描くことができれば、太陽系を脱出できるということになります。ある天体に対してその重力を振り切るために必要なエネルギーを速度という形で表現することが多く、それを脱出速度と呼びます。
脱出速度は天体の質量の1/2乗に比例、天体の重心からの距離の1/2乗に反比例し、例えば地球表面から地球を脱出するためには秒速11.2kmが必要。それに対し、太陽系を脱出するためには地球軌道上から秒速42.1kmが必要になります。そして地球自体の公転の速度、地表から地球を脱出するために必要なエネルギーを考慮すると、太陽系を脱出するためには地球表面から秒速16.7km分のエネルギーが必要です。
人類は地球を脱出するのでさえ相当な苦労を重ねてきていますが、そこからさらに太陽系を脱出するために、人類はスイングバイという手法を用いています。スイングバイとは天体の重力を利用して軌道を変更する技術です。燃料を使うことなしに、まるでハンマー投げのようにビヨーンと加速したりすることができるのです。例えば太陽系を脱出する軌道にあるボイジャー1号と2号の場合、木星と土星の強大な重力を利用し加速することで、太陽系を脱出するためのエネルギーを得ることができました。
40年以上前に打ち上げられたボイジャーですが、2021年現在、太陽からの距離は1号がおよそ230億km、2号がおよそ190億kmです。また太陽系内の距離は、太陽と地球の平均距離を1として天文単位と表現されることが多いです。1天文単位はおよそ1億5000万km。つまり太陽からの距離はボイジャー1号がおよそ150天文単位、2号がおよそ130天文単位ということになります。その距離は今後も伸び続け、人類そして地球が消滅したとしても、宇宙空間を漂う人類からのボトルメールのように、ボイジャーはその旅を続けることが予想されています。
さて、ボイジャーの後を追って太陽系からの脱出を試みましょう。バイエンススーツを着用して海王星軌道。太陽からおよそ30天文単位の距離から太陽系の外を目指すこととします。
暗いよ。怖いよ。帰りたいよ。
暗いのは慣れてるでしょ。ちなみにこの距離から見る太陽の明るさは地球表面から見る太陽の1/00ほど。まだ地球から見た満月より4000倍以上明るいことになります。ですがこの辺りは極寒と呼ぶにもおこがましいほど寒く暗いのは間違いない。
海王星の表面気温はマイナス200°を下回り、さらに宇宙空間には太陽光を散乱させる大気がないため、周囲は真っ暗闇。一点だけ直視しても眩しくない程度に光る太陽を除いて。とはいえ、まだ旅は始まったばかり。甘えたことを言うのはやめましょう。海王星は太陽系の惑星の中で最も外側に位置する天体であることに間違いありませんが、私たちの目指す太陽系の端はまだ先です。暗く寒く、そして孤独な旅があなたを待っています。楽しみですね。
海王星の軌道を過ぎるとすぐにカイパーベルトと呼ばれる領域に侵入します。ここでは一兆を超える数の天体が太陽を取り囲む円盤のように存在しています。太陽から遠く離れたカイパーベルトではほとんどの天体が岩石や氷からできており、200年以下という比較的短い周期で太陽を公転している彗星はこの領域から発生すると考えられています。
かつては惑星に分類されていた冥王星もカイパーベルトの住人です。惑星に分類されていた当時から、冥王星は他の惑星と比べて軌道が特殊であるということが知られていました。最も太陽に近い時には30天文単位で海王星よりも太陽に近い位置にいます。しかし太陽から最も遠い時は49天文単位と、太陽に最も近い場所と遠い場所で1.5倍以上距離の差があります。さらに公転軌道も他の惑星と比べて大きく傾いています。
実のところこれらはカイパーベルトの天体として典型的な特徴です。例えば直径1400kmのマケマケは太陽からの距離が38天文単位から53天文単位ですし、直径がおよそ2400kmと冥王星とほぼ変わらない大きさと見積もられているエリスも、太陽からの距離が38天文単位から98天文単位という公転軌道を持ちます。冥王星を惑星と定義してしまうと、他の多くの天体も惑星に定義せざるを得なくなるというのが、冥王星が惑星でなくなった要因の1つなのです。
さてカイパーベルトに住む1兆を超える住人のうちいくつかをご紹介しましたが、残念なことにそれらがあなたと衝突する可能性は低いでしょう。実際2015年に冥王星を観測したニュー・ホライズンズも、冥王星通過後に軌道を修正することで接近できるような天体はありませんでした。宇宙空間はあまりにも広大すぎるのです。
太陽からの距離が50天文単位に到達すると天体の量が急激に減少します。まるで物質の濃度が崖のように低下する様子から、カイパーの崖を意味するカイパークリフと呼ばれています。なぜこのような現象が発生しているのかは未だ明らかとなっていませんが、一部の科学者はこれが未発見の惑星、すなわち太陽系第9惑星が存在しているためではないかと考えています。新たな惑星を発見することができれば、真っ先に落ちることを皆さんにお約束します。
どんどん暗くなっていく太陽を背中に、120天文単位まで到達したようです。この辺りで周囲の様子が変化することに気づく方もいるでしょう。太陽は常に電離した粒子である太陽風を放出していますが、その太陽風が星間物質や銀河系の磁場と衝突して完全に混ざり合う領域があるのです。それをヘリオポーズと呼び、太陽の活動周期や移動する向きによって大きくずれが生じるものの、太陽からおよそ120天文単位の位置であると考えられています。
気をつけてください。ここからは今までよりも危険が伴う場所となります。ヘリオポーズより内側では、太陽風が宇宙空間を飛び交う放射線である宇宙線からある程度守ってくれていました。しかし、太陽のゆりかごを脱出してしまったあなたには守ってくれるものは何もないのです。とは言っても現在ボイジャー1号、2号も同じようにヘリオポーズの外側を航行しておりますし、何よりバイエンススーツがあれば宇宙線など無に等しいものです。気にすることはありません。
そんなことより、難しい用語が頻発してよくわからんの、と思っていませんか?あら、そうでもないですか?
太陽風の影響もほぼなくなった。今もう太陽系の外に来たのではないかとお考えでしょう。ある意味ではそうかもしれません。しかし、太陽の重力の影響はまだ残っており、2000天文単位付近から10万天文単位付近にかけて、オールトの雲と呼ばれる、太陽を取り巻く殻のように天体がひしめく領域が存在します。直接観察されたことはない理論上の存在ですが、数十万年という非常に長い周期の彗星が存在することなど、その存在は確実視されています。
オールトの雲を抜けると太陽の重力が銀河系内の他の重力の影響と混ざり合い、もはや太陽の重力の影響さえも希薄になります。太陽からおよそ10万天文単位、つまりおよそ1.6光年。この距離の太陽の明るさは、地球から見た最も明るい恒星であるシリウスより少し明るい程度。
あなたの旅はここで終わります。見渡す限りの満天の星空が永遠とも思えるほど続く。それが太陽系を脱出したあなたへのご褒美です。孤独で寂しい星空鑑賞を愛せるのであれば案外悪くない環境だと思いませんか。ですよね。では先に帰ります。待って。帰りたい。
光の速さはおよそ秒速30万km。10億分の1秒あたりおよそ30cm進む計算になり、これは30cm離れた物体を見た際、10億分の1秒前の姿を見ていることになります。同じように太陽なら8分前、太陽系から最も近い場所にある恒星のプロキシマ・ケンタウリでは4年前。最も近い銀河であるアンドロメダ銀河の場合は250万年前の姿を人類は目にしています。
現在では科学力の進歩により、およそ138億年間宇宙空間を進み続けた光も観測することができるようになりました。この光こそ現在地球で観測できる宇宙の端っこということになります。宇宙の端っこに何があるのか気になりませんか?そこに行ってみると何が起きるのでしょうか?そして宇宙の端のさらに先の光景はどうなっているのでしょうか?今回は宇宙の端に行くとどうなるのかについてご紹介したいと思います。
宇宙の年齢はおよそ138億年。そのため先ほど紹介した宇宙の端は地球からおよそ138億光年離れていると考えるかもしれません。しかし実際には宇宙の端はおよそ465億光年離れています。計算が合わない理由は宇宙自体が膨張しているためです。詳しい原因は未だに分かっていませんが、宇宙全体は風船が膨らむように大きくなっているため、重力の影響が及ばない遠い距離にある物体は全て遠ざかっているのです。間に存在する空間が大きくなるため、距離が離れていれば離れているほど、より速く遠ざかっているように見えます。
光が138億年にわたる宇宙旅行をしている間、光を発した場所も遠ざかり続けているため、138億年前に光を発した天体は現在では地球からおよそ465億光年離れているのです。この138億年前の光は宇宙マイクロ波背景放射と呼び、ビッグバンからおよそ37万年後に発生した光であると考えられています。
それ以前の宇宙では温度が高すぎて、光が陽子や電子などに邪魔されるため、光はわずかな距離しか進めなかったという時代がありました。ビッグバンからおよそ37万年後には宇宙の温度がおよそ摂氏3000度を下回り、電子と原子核が結合して原子を形成するようになったため、光が自由に進めるようになりました。そしてその時の光こそが、今人類が観測している宇宙の端なのです。
さてこの宇宙の端っこに今行ってみると何が起こるのでしょうか?バイエンススーツがあれば465億光年の移動など瞬時に可能でしょう。皆さんの想像を絶する世界が広がっているのでしょうか。ワクワクしますね。
おっと、無事移動できたようです。お、あまり変わり映えしませんね。皆さんの住む天の川銀河と同様ではないものの、似たような銀河が存在します。もしかするとその中にも地球に似たような惑星があるかもしれません。地球と逆方向にできる限り遠くまで見渡してみても、地球から見た風景と見分けがつかないほどよく似ています。最後に見えるのは、地球から見た宇宙マイクロ波背景放射とほぼ同じ138億年前の光です。
これは一体どういうことなのか?実は地球から観測することのできる宇宙というのは、宇宙全体から見るとほんの一部なのです。地球から見た宇宙の端は、138億年前のその場所で発生した光がちょうど今の地球に届くような場所であるというだけのこと。宇宙全体にとっては何も特別でない、何の変哲もない場所です。残念ながらあなたたちは宇宙を少しです。
仕方がありません。それでは1方向に進み続けて宇宙の端に到達することを目指しています。こうすれば時間はかかるかもしれませんが、いずれは宇宙の端にたどり着けるはずです。早速出発しましょう。地球から465億光年離れた場所から地球と反対方向に向かって進むことにします。
宇宙の端までの距離はどのくらいなのでしょうか?広い宇宙のことなので、1兆光年や1京光年もあると予想するかもしれません。しかし宇宙は人間の想像をはるかに超えた領域。なんといくら一方向に進んでも宇宙の端には永遠に到達しないのです。
現在では宇宙にはそもそも端など存在しないというのが定説となっています。これには時空の曲率、すなわち空間そのものがどの程度曲がっているかが密接に関係しています。アルベルト・アインシュタインの相対性理論によると、重力とは物体を引き寄せる力ではなく、空間を曲げる能力であるとのこと。例えば地球が太陽の周りを回っているのは、太陽によって曲げられた空間中をまっすぐに進んだ結果、回っているように見えるのです。これは物体だけではなく光にも当てはまります。
もし宇宙の曲率が0以下であれば、宇宙は無限大に広がっていると考えられます。人間であるあなた方がイメージしやすいよう2次元に例えると、曲率が0の場合は空間は1枚の紙のように平たく、それが無限大に広がっています。曲率が0より小さい場合、空間は馬の鞍型のような形をしており、それも無限大に広がっていきます。一方、曲率が0より大きいと、宇宙全体はまるで球の表面のようになっていると考えられます。この場合は宇宙の大きさ自体は有限であるものの、一方向に進み続けるとやがて元の場所に戻ってくるというものです。
残念ながらいずれの場合でも、宇宙に端っこなど存在しないということになります。曲率が0以下なら宇宙の端を目指しても永遠にたどり着きませんし、曲率がゼロより大きいなら進み続けてもやがては元の場所に戻ってきてしまいます。
焦って出発したのが仇となったようです。地球から随分と離れてしまいました。宇宙の曲率が0以下であれば引き返すしかありませんが、ここまで来たら曲率が0より大きい可能性にかけて、進み続けて地球に戻るという方法に切り替えた方がいいかもしれません。どの程度進めば地球に戻ることができるのでしょうか?
残念でした。現在では宇宙の曲率はほとんどゼロであるということが分かっています。先ほど紹介した宇宙マイクロ波背景放射の画像を見てみると、赤い部分が温度の高い場所、青い部分が温度の低い場所になります。ビッグバンから37万年後の宇宙の状況から、この温度が高い部分と低い部分の領域の大きさは理論的に計算可能であるため、地球から見てどの程度の大きさに見えるかも計算ができます。
もしこの宇宙に曲率があり、空間が曲がっているとすると、光も曲がるため、温度が高い場所と低い場所の大きさは実際と違った大きさに見えるはずでしょう。しかし、地球から観測できる領域の大きさと理論的な領域の大きさを照らし合わせると、ほぼ一致するという結果が得られています。つまり宇宙全体の曲率はほとんど0ということになるのです。なぜこうなっているのかは未だ解明されていませんが、そういう宇宙にあなた方が暮らしているのだけは確かなことです。
大人しく引き返しましょう。悔しいですが、いくら進んでも宇宙の端っこには到達できないのです。え、地球の方向を忘れてしまった?あちゃー、私はお先に帰りますよ。
1億年前。それは恐竜が地球上に広く生息し、哺乳類はその影に怯えながら生きていた時代でした。それに対し現生人類であるホモ・サピエンスが誕生したのがおよそ30万年前。100年でさえ気の遠くなるように長い時間だと感じるあなたたち人類にとっては、その3000倍の30万年はもちろん、そのさらに300倍の1億年など想像することさえ難しいでしょう。
過去1億年を振り返ると、恐竜の隆盛と小惑星の衝突による滅亡、ヒマラヤ山脈の誕生、そして人類の誕生と様々な出来事が発生しました。それではこれからの1億年には何が待っているのでしょうか?残念ながら100年程度しか生きることのできないあなたたち人類はその答えを知ることはできません。そんな皆様のためにバイエンスが遠い未来の世界を特別にお見せしましょう。1億年先に至るまでに地球、そして宇宙で何が起きるのでしょうか?今回は1億年後の地球はどのような世界なのかについてご紹介したいと思います。
6年どころか10年先の世の中でさえ予想するのが難しいことは皆さんも想像はつくでしょう。現代における科学技術や社会情勢はまさに刻一刻と進展するためです。しかし特に地球や宇宙の出来事については確実に分かっていることも多くあります。
例えば今から1000年後、世代交代が30回ほど起こった人類にとって頭を悩ませる問題が噴出します。これは月の重力の影響で地球の自転が遅くなることで、1日がおよそ1/秒長くなってしまうのです。その程度であれば大したことないと思うかもしれませんが、うるう秒を毎月足しても追いつかないという事態に陥り、時差がある中で世界で時刻の統一を図るのが困難になるでしょう。この問題に対しては専門家でもなかなかいいアイデアが出せずにいるようです。
1万5000年後。この頃になると、今からおよそ1万年前がそうだったように、サハラ砂漠がサバンナになると推定されています。地球の自転軸は傾いており、それにより季節が発生することは知っている人も多いでしょう。しかし回した駒のように自転軸もゆっくりと移動しており、今からおよそ1万5000年後にちょうど反対になります。それだけであれば気候への影響は大きくありませんが、実はこれにより夏と冬で太陽と地球の距離が現在とは真反対になります。
現在では北半球が夏の時、太陽と地球の距離は最も遠く、冬の時は最も近くなっていますが、1万5000年後にはこれが逆転します。これはすなわち北半球の夏と冬の差が今より激しくなるということ。影響を受けるのはサハラ砂漠だけではなく世界全体でしょう。
2万年後、ここまで時間が経過してようやく人類の負の遺産の1つが解消されます。1986年のチェルノブイリ原発事故により放射能で汚染された原発周辺。現代でも多くの場所で人が住むことができないほどですが、この頃になりようやくチェルノブイリ全域で放射線が問題ない程度にまで落ち着くと推定されています。
とはいえこの辺りから、そもそも人類の生存が怪しくなってくるという予想もあります。過去の記録から推測すると、文明を崩壊させる可能性があるほどの大規模な火山、破局噴火は5200年から4万8000年の周期で発生しているという研究結果が2017年に発表されました。人類が農耕を発明して以来、幸いなことにそのような破局噴火は発生していませんが、それが仮初めの平和に過ぎないということは歴史が証明しています。
5万年後には地球に氷河期が到来すると予想されています。地球の自転軸が傾いているのは先ほど紹介した通りですが、その自転軸自体も周期的に変化しており、公転軌道と自転軸の傾きの影響が合わさることにより、北極と南極の氷が溶けにくくなります。それにより5万年後には地表の多くを氷河が覆うようになると考えられています。一方、現在人類にとって大きな問題となっている二酸化炭素排出量の影響で、氷河期の到来がさらに5万年遅れるという試算もあるようです。
そしてこの頃になると夜空にも変化が現れます。太陽系に対して他の恒星は常に動いているように見えます。それは人間の一生のうちでは気づくことができないほどですが、数万年以上経過した上に地球の自転軸も変化するとなると、星空の様子は大きく変わっているでしょう。例えば現在全天で最も明るい恒星であるシリウスですが、およそ6万4000年後には南極星、すなわち地球上どこから見ても南の方角にある星として振る舞うようになります。
それだけでは地球にほとんど影響がないと思いましたか?それは失礼。それではこれから起こることを楽しみにしていてください。退屈などさせませんよ。
まず変化するのは夜空だけではありません。正確な予測は困難ですが、1万年後から100万年後の間にオリオン座のベテルギウスやサソリ座のアンタレスといった星が超新星爆発を起こすことが確実視されています。その時には数ヶ月もの間満月に匹敵するほど明るくなる可能性があり、昼でもその光を見ることができるとのこと。世紀の天体ショーを目撃できる人類は非常に幸運だと言わざるを得ませんが、超新星爆発は宇宙でも有数のエネルギーを誇る危険な現象です。
将来の地球の生命は超新星爆発でダメージを受ける可能性はないのでしょうか?一般的な超新星爆発では、およそ30光年以内の距離では生命に影響が出る可能性があると推定されています。それに対しベテルギウスやアンタレスまでの距離はどちらも数百光年。他の超新星爆発の候補も30光年以内にはありません。
これで一安心と思ったあなた、油断するのはまだ早い。一部の超新星爆発では、ガンマ線バーストという強烈な放射線を狭い範囲に放出する現象が発生することがあります。このエネルギーは凄まじく、もし数千光年先のガンマ線バーストが地球に直撃した場合、オゾン層が破壊され地表に紫外線が多く降り注ぐようになり、地球の生命が大打撃を受ける可能性があります。
8400光年先にWR104という恒星が存在します。遠すぎて肉眼では見えないこの星ですが、この星も100万年以内に超新星爆発を起こすと考えられています。そしてこの超新星爆発の際ガンマ線バーストが発生し、地球に直撃する可能性が指摘されています。ガンマ線バーストの発生原理はまだよく分かっていない上に、地球に当たる可能性は低いのが実情ですが、もしかするとある日突然地表が大量の紫外線に襲われるようになるかもしれません。
また超新星爆発以外にも注意すべきことがあります。現在太陽系からおよそ62光年離れた小さな恒星グリーゼ710。なんとおよそ129万年後にグリーゼ710は太陽系に最接近し、その時の距離は0.17光年であると見積もられています。その時のグリーゼ710は全天で最も明るい恒星となり、時には木星に匹敵するほどの明るさを誇るようになります。
そしてこの近すぎる距離が地球の生命にとって悲劇を生む可能性があります。太陽系の惑星の軌道のはるか外、オールトの雲と呼ばれている領域では、太陽から1光年程度の距離まで合計数千万個から1億個ほどの彗星が太陽の周りを周回していると考えられています。それらの彗星がグリーゼ710の接近により大きく軌道を乱されたとしたらどうなるでしょうか。多くは太陽系外へと弾き飛ばされますが、実は内惑星の方へと飛ばされるものも多数発生します。そのため100数十万年後には地球に多くの彗星が衝突し、生命が危機に瀕する可能性があるのです。
とはいえ宇宙や生命の状況をよそに、地球の地殻変動の営みは続いていきます。地殻変動の原動力は、地中奥深くで絶えず対流するマントルの運動によるもの。例えば1000万年後、アフリカの東側が割れ、紅海の水が間に浸水することにより、アフリカ大陸が2つに分断されることとなります。しかし実はこれ以降の地殻変動の様子は予測が難しく、多くのモデルが存在します。例えば5000万年後には日本とハワイが衝突するという話を聞いたことがあるかもしれませんが、途中でプレートの移動方向が逆転する場合も考えられ、確かなことは言いにくいようです。
あるモデルをもとに予測すると、5000万年後にはヨーロッパとアフリカ大陸が衝突。地中海は消滅し、現在のヒマラヤ山脈のような巨大な山脈が現在のペルシャ湾の位置まで形成されます。北米のカリフォルニアがアリューシャン海溝付近で沈み始め、オーストラリアはインドネシアに衝突。また南極大陸が北側に移動することにより、場所によっては2km以上も厚みがある氷床が全て解け、グリーンランドの氷床の融解と合わせて世界の海水面が90mほど上昇すると推定されています。
このモデルにおいては、8000万年後には現在のハワイ諸島が全て海に沈み消滅。代わりに新たなハワイ諸島が生まれており、1億年後には南北アメリカとアフリカが再び接近を始めるとのこと。その後は2億5000万年後に、パンゲア・ウルティマ大陸という地球のほぼ全ての大陸が1つになった超大陸に向けて、大陸が集合していくと推定されています。
1億年にわたる旅いかがでしたか?あなたの旅はここで終わりですが、宇宙船地球号の旅はまだまだ終わりません。地球はおよそ50億年後、赤色巨星と化した太陽に飲み込まれるまで旅を続けることでしょう。地球上の生命も28億年後まで生き延びることができると推定する研究もあります。人間にとっては想像もできないほどの長い時間である1億年ですが、地球や生命の歴史を考えるとほんの一瞬の出来事です。地球の大きさ、そして人間のちっぽけさを感じながら、元の時代へと帰還することにしましょう。
2024年4月8日、北米で皆既日食が観測されました。数分の間、辺りが夜のように暗くなり、多くの人々が世紀の天体ショーを目撃しました。しかし、近い将来この皆既日食を2度と見ることができなくなると聞くとどうでしょうか?10億年後、地球からは皆既日食を見ることはできません。地球は今とは全く異なる姿に変貌を遂げているのです。
宇宙、地球、そして地球の生命。それらは10億年の間どのような進化を遂げるのでしょうか?1億年後の地球のさらに未来のお話。今回は10億年後の地球はどのような世界なのかについてご紹介したいと思います。
前回の旅では1億年後の地球がどのようになっているかを紹介しました。今回は1億年以降の出来事を中心に紹介していきます。
1億1000万年後、太陽の光度が現在より1%増加することになります。太陽はそのコアに存在する水素の核融合によりエネルギーを得ていますが、そのためには莫大な圧力が必要です。そのため、いかに太陽のような巨大な存在であれ、その中心部でしか核融合反応を起こすことができません。しかしこのままでは核融合の燃えカスであるヘリウムがコアに溜まっていき、核の燃料が少なくなっていきます。すると重力により太陽の中心部付近により高い圧力がかかるようになり、結果として以前より広い領域で核融合が発生するようになります。
これにより太陽はほんの少しずつ光度を高めており、そのペースが現在では1億1000万年につきおよそ1%なのです。1%であれば地球の環境に大きな影響はないと考えるかもしれません。実際これ自体は生命にとって致命的ということはないでしょう。この時点であればですが。
2億年後、地球上の1日が25時間になります。現在は月が地球を回る周期よりも地球の自転周期の方が短いため、地球のある地点から見ると月を追い越すような形になります。一方で月の重力は地球上の物体、例えば海にも作用し、月に近い位置にある場所に海水が集まります。これが潮の満ち引きの原理です。
一方、大量の海水が月に引っ張られることにより、より速く回る地球との間に摩擦力が発生し、これが地球の自転を遅くするような働きを持ちます。そのため月が存在する限り地球の自転速度は少しずつ遅くなっており、反対に月は少しずつ地球から離れていきます。もしこの時に人類が地球上で生活していたとしたら、1日にできることが少しだけ増えると聞くと少し得なような気もします。
2億5000万年後、地球の大陸が再び1つとなり超大陸を形成している可能性があります。以前のバイエンスでも紹介したように地殻変動は予想が難しく、様々なモデルが存在します。その中の1つとして、2億5000万年後にパンゲア・ウルティマ大陸と呼ばれる超大陸が出現するというものがあります。
ある予想では超大陸はこの方をしておりは巨大な湖としてその名残りを残すまでとなっています。現在のインド洋に相当する部分が内海となっており、その入り口部分は現在の南米大陸、南極大陸とインドネシア。気になる日本は、太平洋に面していることは変わりませんが、現在のロシア、韓国、中国、フィリピン、パプアニューギニアなどと陸続きになっていると考えられています。
3億年後、太陽系を代表する光景が姿を消す可能性があります。それは土星のリングです。土星のリングは1枚の板のように見えるかもしれませんが、その正体は無数の小さな氷の塊が土星を周回しているものです。しかしリングを構成する物質は少しずつ土星に降り注ぎ、リングは徐々に小さくなっています。土星探査機カッシーニの最後のミッション、グランドフィナーレのデータによると、その量は毎秒400kgから2800kg。このペースでリングの物質が失われていくと、3億年後にリングが完全に消失すると予想されています。土星のリングを目撃できている人類は非常に運がいいのかもしれません。
4億年から5億年後、超大陸が形成されてから1億5000万年から2億5000万年が経過しました。この頃になると陸地は現在のようにいくつかの大陸に分かれて存在するようになります。地球の大陸は5億年から7億年周期で超大陸を形成し離れていくというサイクルを繰り返しており、この時期では大陸が離れていると予想されています。
現在よりおよそ3億年前に形成されたとされる超大陸パンゲア大陸。そのおよそ5億5000万年後に形成されるパンゲア・ウルティマ大陸ですが、その意味は最後のパンゲア。超大陸が形成される5億年から7億年のサイクルが存在するのにそのような名前になっているのには訳があります。実は超大陸を形成するのに必要なプレートテクトニクスはいつか停止すると考えられています。
大陸を動かすほどの原動力は、地球の奥深く、マントルの対流により発生していると考えられています。そのマントルの対流は、太陽の表面の温度にも匹敵する地球の核よりもたらされています。しかし地球の核は徐々に冷えていく最中であり、無限にエネルギーを供給できるわけではありません。そのため、やがてはマントルの対流が大陸を動かすほどの強さではなくなり、プレートテクトニクスが完全に停止します。その時期は近年においては10億年以降という予想が主流ではあるものの、最短では現在より5億年から8億年と予想されています。そのためパンゲア・ウルティマ大陸がバラバラになったまま、2度と超大陸が出現しない可能性があるのです。
6億年後、この頃に地球は最後の皆既日食を経験することとなります。先ほど
紹介したように月の重力により潮の満ち引きが発生し、海と地球との摩擦により地球の自転が遅くなります。その一方で月を追い越そうとする海も重力により月を前に引っ張る働きを持ちます。そのため月も毎年少しずつ地球から離れていき、そのペースは1年でおよそ4cm。
日食は月が太陽と地球の間に入る時に発生します。現代の地球は太陽が月の後ろに完全に隠れるようになる皆既日食と、完全には隠れず外周部のみが見える金環日食。その両方を体験できる貴重な惑星です。しかし6億年後には月が遠ざかりすぎてしまうため、地球ではそれ以降金環日食しか発生しないのです。世紀の天体ショーは今のうちに楽しんでいくといいでしょう。
とはいえこの頃で人類が地球に暮らしていたならば、日食よりもはるかに大きい問題に直面します。それは太陽が放出するエネルギーが大きくなりすぎて、ついには生態系に大きな影響を及ぼすようになるのです。
昨今人類共通の問題として取り上げられている地球温暖化。原因としてよく挙げられるのが二酸化炭素などの温室効果ガスの放出ですが、それは大気中の温室効果ガスが増えることにより、太陽のエネルギーが逃げることなく地球を温めてしまうという仕組みがあります。それだけではなく、温度が上昇すると太陽の光を反射しやすい氷も減少するため、さらに温暖化が加速するという、温室効果ガスの放出により温暖化が進み、それがさらなる温暖化をもたらすといった具合に温暖化が加速し、やがては止められなくなってしまうことが心配されています。
しかしこのように少しの変化が増幅されて温暖化が止まらないという状況になるのであれば、過去の地球で温暖化の進行に歯止めがかからないような状態になぜなったことがないのか疑問に思うことはありませんか?
それには複数の答えが存在しますが、大きな要因の1つは温度が上昇するほど地球を構成する岩石が大気中の二酸化炭素を吸収しやすくなるためです。炭素-ケイ酸塩サイクルと呼ばれるこの仕組みは、大気中の二酸化炭素を大地に戻す働きを持ちます。そのため太陽の光度が5%以上増加しているおよそ6億年後には、大気中の二酸化炭素濃度が極端に少なくなることが予想されています。
ここで問題となるのが、光合成により大気中の二酸化炭素からエネルギーを得ている植物です。現在光合成には3つの方式が存在し、そのうちC3型光合成と呼ばれている方式は大半の植物が採用しています。しかしC3型光合成は大気中の二酸化炭素濃度が最低でも150ppmほどないと成り立ちません。そのため温度上昇に弱いこともあって、植物の大量絶滅が発生するでしょう。その中には米、小麦、芋、大豆、綿など人類にとって極めて重要な植物も含まれています。
残ったC4型光合成とCAM型光合成を利用する植物も、上昇し続ける温度と二酸化炭素濃度の低下により、8億年後に二酸化炭素濃度が10ppmを切るようになることで、ついには耐えられなくなるでしょう。そうなると生態系の崩壊は目前です。植物が絶滅すると共に食料がなくなる動物も絶滅し、地球上から多細胞生物が消えてなくなります。残された単細胞生物にとっても残された時間はさほど多くはありません。
11億年後には太陽の光度は現在より10%増加するようになり、地球の平均気温は47°。大気中の水蒸気の多くは成層圏に到達するようになり、そこで太陽の紫外線を受けて分解されます。その結果軽い水素は宇宙空間へと流出し、二度と地球に戻ることはありません。そうなると地球の海の大部分が失われるようになるのにさほど時間はかからないでしょう。
このように太陽が地球を飲み込むのはまだまだ先ですが、そのはるか前に生命にとっては辛い時代が待っています。栄華を極めたかのように見える現代の人類ではありますが、驕れる者は久しからず、その天下はうたかたの夢のように崩れ去る運命なのかもしれません。
人類の歴史はせいぜい数百万年なのに対し、太陽系の歴史は46億年、宇宙の歴史は138億年。1人の人間の寿命が100年程度と考えると、どれも途方もないほど長い時間が経過していると言えるでしょう。しかしこれでも宇宙の歴史は始まったばかり。これから先数百億年どころか永遠に続くという予想もあるほどです。
以前のバイエンスで紹介した10億年後の未来。その時点の地球は太陽が放出するエネルギーの増加により、今とは全く似ても似つかない世界と化しています。今回のバイエンスではさらに未来、例えば1兆年後に皆さんをお連れしましょう。その時の太陽系や天の川銀河、宇宙はどのように変わっているのでしょうか?人類の痕跡はどこかに残っているのでしょうか?今回は1兆年後の宇宙では何が起きているのかについてご紹介したいと思います。
現在では多種多様な生物に溢れている地球。しかし、現在より11億年後には人間を含む多細胞生物は全て絶滅しているでしょう。太陽は水素の核融合によりエネルギーを得ていますが、その燃えカスであるヘリウムが徐々にコアに溜まり、重力の影響でコア付近の圧力が上昇。これにより、より広い範囲で核融合が行われることになるため、太陽の光度は年々少しずつ増加しており、地球もその影響を受け、11億年後の地球の平均気温は47°に到達すると予想されています。
この時点で地球上で生き残っている生物は、北極や南極にわずかに残る海の中で地球内部から吹き上がる硫化水素やメタンなどを食料に細々と暮らす微生物や、地中深くに生息し化学反応によりエネルギーを得るような微生物だと考えられます。
しかし彼らに残された時間もそう長くはありません。太陽の光度はさらに増加を続けるのです。海の蒸発が進むことにより、地球の大気圧が上昇。これにより緯度によって大きな差があった気温もゆっくりと差がなくなっていきます。ある予想では28億年後には北極や南極でも地表の温度が200°に迫るほどとなり、ここまでになるとさすがにいかなる生物も生き延びることはできないと考えられています。それ以降は水蒸気による暴走温室効果により地球の温度は急上昇。30億年後には地表の温度は900°以上にもなると考えられています。
もし地球に人類の痕跡が残っていたならば、この時点で全て消失してしまうことでしょう。しかし仮にあなたたちが地球と運命を共にしたとしても、人類が生まれた証はこの宇宙にしっかりと残っています。そうです。人類の科学技術の結晶でもあるいくつかの探査機のことです。
その中で最も有名なもの。それは1977年に地球から旅立ったボイジャー1号と2号でしょう。2024年現在、ボイジャー1号は太陽に対して秒速およそ17km、ボイジャー2号は秒速およそ15kmという凄まじい速度で宇宙空間を移動していますが、その2つの探査機には地球の生命や文化を伝えるレコードが搭載されています。なぜならその長い旅路の果てに、万が一知能を持つ宇宙人と遭遇することがあった時、人類と地球の存在を伝えるためです。
2つのボイジャーはすでに太陽系を脱出したと考えられているため、もちろん地獄絵図と化した地球とは無縁です。しかし決して永遠ではありません。彼らが旅をしている宇宙空間にはごく稀に細かいチリが存在します。そのチリと秒速数km以上もの速度で衝突を繰り返すため、少しずつボイジャーの機体は削られていきます。わずか1/1000mmのチリでさえ機体に細かなクレーターを作ると考えられています。
一方で機体はともかく、レコード自体は50億年は軽く持つだろうと予想されています。仮に現在と同じ速度でボイジャーが進み続けた場合、その時点でボイジャー1号と太陽の距離はおよそ28万光年。天の川銀河を1周してもおかしくないほどの長旅がボイジャーとそのレコードに待っているのです。
とはいえボイジャーをはじめとする太陽系外に飛び出した探査機がどこにいるのか予想することはほぼ不可能でしょう。というのも現在より数十億年かけて、あなたたちが暮らす天の川銀河を一変させる出来事が起きるためです。それは近隣のアンドロメダ銀河との衝突、そして合体です。
現在およそ250万光年離れているアンドロメダ銀河ですが、秒速およそ110kmで近づいてきていると予想されています。そしてどのようにして衝突するのかについてはいくつかの計算結果がありますが、ある研究では今から40億年後に1度衝突。互いにすり抜けるように離れた後、同じようなことを繰り返し、最終的には今から60億年後に天の川銀河とアンドロメダ銀河のコアにある超大質量ブラックホールが融合すると予想されています。そのため数十億年後の未来には、全く新しい1つの銀河、ミルコメダ銀河が誕生すると考えられています。
現在ではアンドロメダ銀河は肉眼でもなんとか見える程度です。しかしもし数十億年後に死の惑星と化した地球から夜空を見上げた場合、衝突直前には視界をほぼ埋め尽くすほどの大きさでアンドロメダ銀河の渦巻きを見ることができるでしょう。衝突後は2つの銀河が衝突した影響によりあちこちで新たな恒星が生まれ、夜空は星雲や星で明るく輝くこととなります。
巨大な銀河同士が衝突するとなると、その銀河に含まれる恒星も衝突するのではないかと心配するかもしれません。しかし存在する密度は人間の感覚では信じられないほど低いため、その可能性は非常に低いです。ただし、先ほど紹介した研究においては、40億年後の衝突の際、太陽がアンドロメダ銀河の一部に取り込まれ、一時的に天の川銀河から離れる可能性が指摘されています。そのため地球は太陽と共に天の川銀河にしばしの別れを告げているかもしれません。
天の川銀河が変貌を遂げる中、太陽もまた数十億年かけて変化していきます。研究によって正確な時期は異なりますが、現在から54億から60億年後、太陽のコアにある水素が完全に尽きることとなります。そこからは太陽は主系列星と呼ばれる段階から赤色巨星へと進化を開始します。この状態では燃えカスのヘリウムのコアの周りに水素が核融合している層が存在し、この核融合をきっかけとして太陽が急速に膨張を開始するのです。
この後起きることはバイエンスの視聴者であれば聞いたことがあるでしょう。太陽が膨張することにより、太陽から近い順に水星が太陽に飲み込まれていきます。ここで太陽の直径が地球軌道にまで到達すると思いきや、実際にはそれまでにはもう一悶着あるようです。
太陽の直径が金星軌道を超え、地球軌道に迫らんとする時、太陽のコアが再び核融合を始めるのです。今度の燃料はヘリウム。この現象はヘリウムフラッシュと呼ばれており、現在の太陽のおよそ2億年分のエネルギーが瞬間的に放出されるとのこと。しかしそれによりコアが急膨張し、コア周囲の水素の核融合が停止します。そのため数十億年かけて膨張していった太陽が、およそ1万年という極めて短い時間で1/程度にまで小さくなってしまいます。そしてこの状態は1億年ほど続くと考えられています。
この段階においても地球に液体の水が残るほど温度が下がることはないと予想されていますが、他の惑星や衛星にとっては生命が最後に一花咲かせるチャンスとなる可能性があります。例えばある研究によれば、この1億年間は木星や土星の衛星が液体の水が存在できる範囲、ハビタブルゾーンに非常に近くなるため、この期間においては人間がそれらの地表で生活できる可能性が指摘されています。ただそれ以前の急激に膨張する太陽には対応できないため、数億年間宇宙空間に避難する覚悟が必要となります。
1億年間の束の間の休憩。しかしそれもいずれは終わりを告げることとなります。ヘリウムの核融合は炭素を生み、それがコアに溜まっていきます。やがてはコアの燃料が尽きるため、太陽は再度赤色巨星となり急速に膨張します。この時には現在の地球軌道、場合によっては火星軌道を超えるほどになると予想されています。
太陽ほどの質量の恒星では炭素を核融合することができません。そのためヘリウムで起きたように炭素フラッシュは発生しません。この段階になると太陽の外側部分が重力を振り切り、大量のガスが全方向に放出されるようになります。これにより太陽のおよそ半分の質量が失われ、最後に残ったのは先ほどまで核融合していたコア。80億年後には、かつて太陽だったものは地球ほどの大きさに太陽の半分弱の質量が詰まっている白色矮星と化します。あなたたち人間がよく知る太陽系は寂しく終わりを告げることとなります。
そして多くの科学者は、融合したミルコメダ銀河もまたゆっくりと死に向かうと考えています。多くの恒星の燃料となる水素はこの宇宙で新たに作られることはないため、いずれは全宇宙からなくなってしまうと考えられています。例えば8000億年後には、ミルコメダ銀河が放出するエネルギーが減少し始めるという予想があります。その頃にはミルコメダ銀河を含む数十個の銀河の集まり、局所銀河群が重力により全て融合している可能性があるのにも関わらずです。
年後にはビッグバンの名残である宇宙マイクロ波背景放射が検出できなくなってしまうほど宇宙が膨張すると考えられています。その少し後には、宇宙の膨張によりあなたがいる銀河以外の銀河の観測が物理的に不可能になってしまうと予想されています。つまりもしこの頃に文明が発生したとしたら、他の銀河の存在や宇宙の誕生であるビッグバンの証拠を見つけることが不可能になるということです。
1兆年にも渡る旅はいかがでしたでしょうか?1兆年という年月は、生命の死、太陽の死、そして宇宙の実質的な死をも可能にするほどの時間ということになります。そう考えると、宇宙の誕生から138億年という時代を生きるあなたたち人類は、宇宙の誕生の謎を解き明かすにはちょうどいい時代に生まれたと言えるかもしれません。
1日24時間、1年365日、地球上に暮らす全ての人間に平等に同じ時間が流れる。そのような当たり前の世界の中、人々は必死にもがき生きていることでしょう。しかし物理学において状況はまるで異なります。実は現代の物理学では、時間の進み方は観測者によって変わることが明らかとなっています。極端な話、ある人にとって24時間が経過した時、別の人にとっては1時間しか経過していないということも物理的にありうるということです。
この奇妙な現象はアルベルト・アインシュタインが提唱した相対性理論から導き出すことができます。人間の感覚とはかけ離れた相対性理論における時間の正体。時間とは一体何なのでしょうか?今回は時間とは何かについてご紹介したいと思います。
有史以前より人類は自然現象の規則性をもとに時間を定義してきました。1日とは太陽が昇ってから最も高い位置に着いた時から次に同じことが起きるまでの時間。1年とは正午における太陽の高さや星座の位置が同じになるまでの時間。一方後の時代には、自然現象よりも高い精度で時間を測定することのできる機械式の時計などの発明品が普及しました。このことからも分かる通り、人類は長い間、時間の進み方は絶対に一定であるという考えを持っていました。
その固定観念を大きく覆すのに貢献したのが、1905年にアインシュタインが発表した、後に特殊相対性理論と呼ばれることになる理論です。これ以前にも時間の進み方が観測者によって違うと提唱した科学者はいたのですが、光の速度の不変性と、空間と時間に対する考え方を根本的に変えたという意味で、アインシュタインのこの論文は非常に意味があるものでした。
特殊相対性理論の範囲における時間の定義は、数年後にミンコフスキー空間という概念が提唱されたことにより完成を見ています。これによると時間とは空間における前後、左右、上下と同じく次元の1つ。人類はこれまで空間と時間を全く別のものとして扱ってきましたが、実はその2つは時空という形で統合できる。相対性理論から導き出される予測が明確に否定されたことはまだないため、現在においても時間と空間を時空に統合するという考え方は間違っていないと考えられています。
一方、時空の概念は特殊相対性理論における時間と空間を数学的に取り扱うために作り出されたものです。時間だけに目を向けると、特殊相対性理論においてはあなたたち人類の常識では考えられないことが起こります。それは速く動けば動くほど時間の流れが遅くなるということです。これは光の速度が観測者によらず一定という前提を受け入れると、自然と導き出すことが可能です。
例として、走っている電車の中にいるミスターバイエンスと、それを外から観察するあなたの2つのケースを考えてみましょう。ミスターバイエンスはりんごを持っており、それをあるタイミングで落とすと、りんごは電車の床に衝突することになります。あなたとミスターバイエンスはそれぞれ何を目撃するのでしょうか?
特殊相対性理論以前の物理学においてはこう考えます。ミスターバイエンスにとってりんごはまっすぐ下に落ちたように見えます。これは当たり前でしょう。しかし外で見ているあなたにとっては、りんごが落ちるまでの間に電車が横向きに移動しています。つまりりんごの移動距離はあなたから見た方が長くなることになるでしょう。距離は時間と速度をかけることで計算できるため、距離が変化したということは、時間もしくは速度が両者で異なるということになります。りんごが落ちるまでの時間は両者で一致するはずです。そのためりんごの速度が変化したということになります。この場合、あなたにとってりんごは横向きにも移動している分、りんごは斜め方向にミスターバイエンスが観測した速度よりも速く落下することで説明できます。
それでは今度はりんごを落とすのではなく、下向きに光を放ってみたらどうなるでしょうか。りんごと同じく、ミスターバイエンスにとっては光は真下に向かい床のある一点に当たります。しかしあなたにとってはレーザーが撃たれてから床に当たるまでの間に電車が横向きに移動しているため、光の移動距離はあなたから見た方が長いということになります。ここまではりんごと同じです。
しかし、特殊相対性理論においては光の速さは観測者によらず一定という前提に立っています。いきなりどういうことだと不思議に思うかもしれませんが、この宇宙ではいかなる視点から見ても光の速度は一定になるというルールのもと成り立っているためであり、それ以上でもそれ以下でもありません。これを光速度不変の原理と言います。
すなわちあなたにとってもミスターバイエンスにとっても光の速さは同じ秒速およそ30万kmとなると、両者の間で光が移動した距離が食い違ってしまいます。距離は速度かける時間。そしてこの場合では速度が同じなのにも関わらず距離が異なる。そのため両者にとって時間の進み方そのものが違うと考えざるを得ません。今回の場合、ミスターバイエンスから見た方が光の移動距離が短いため、移動しているミスターバイエンスの方があなたと比べて時間がゆっくり進むことになります。これが特殊相対性理論において速く移動した方が時間の進み方がゆっくりとなる理由なのです。
もちろん光の速度は今回例に出した電車よりも圧倒的に速いため、あなたたちの日常生活においてはこの効果は誤差程度。普通に生きていて時間の流れが大きく乱れることはないでしょう。
そして話はまだ続きます。アインシュタインは後により発展させた一般相対性理論を発表しています。一般ということはより広く当てはまるという意味。反対に特殊相対性理論の特殊は、ある特殊なケースにのみ当てはまるという意味です。その特殊なケースとは時空が歪んでいない時です。一般相対性理論においては、重力は時空の歪みを引き起こす能力のことであり、その結果として重力が強い場所ほど時間は遅く進むことが知られています。
これに関しては、速く移動するほど時間がゆっくり進むことと、以前のバイエンスでも紹介した等価原理が正しいという前提に立てば理解することができます。等価原理とは、重力により自由落下してふわふわしている状態と完全な無重力状態は完全に同一であり、いかなる方法によっても区別することができないというものです。
このような状況を考えてみましょう。何を思ったかミスターバイエンスは交し自由落下を開始します。反対にあなたは下で時計を持ちながら待ち構えているとしましょう。自由落下を開始したミスターバイエンスは完全に無重力状態と同じです。一方、建物の床に立っているあなたはどうでしょうか?以前のバイエンスでも紹介した通り、重力は力ではなく時空の歪みのこと。一般相対性理論の考え方においては、あなたは歪んだ時空の中、床によって上向きに加速し続けているということになります。つまりこの状況において移動しているのは、落下しているミスターバイエンスではなくあなたの方。ミスターバイエンスがあなたと同じ位置まで落ちた時、移動しているあなたの時計がミスターバイエンスと比較してゆっくり進むのは先ほど紹介した通りです。
それではあなたが2階にいる場合と1階にいる場合の違いを考えてみましょう。空気抵抗の影響を無視すれば、あなたから見るとミスターバイエンスの速度は2階にいる時より1階にいる時の方が大きいはずです。しかし先ほど紹介した通り、本来移動しているのはあなたの方。移動速度が大きいほど時間の流れがゆっくりになるため、2階より1階の方、つまり地球により近く重力がより強いほど時間の流れがゆっくりになるのです。
移動速度による時間の進み方の違いと同じく、地球程度の重力であればほとんどの場合でこの影響は無視できるほど小さいです。しかし極めて高い精度で時間を測定する必要がある場合、一般相対性理論に基づいた補正が必要となります。代表的な例に人工衛星が挙げられます。
人工衛星が地球を周回する場合、地球から近く落下しないように地表に対して速く移動する必要があります。そのため移動速度の観点では、地球に近いほど人工衛星の時計は地表と比べてゆっくりと進みます。さらに重力の強さという意味でも、地球に近ければ近いほど人工衛星の時計がゆっくりと進みます。反対に地球から離れれば離れるほど人工衛星の時計はより速く進むということになります。例えばGPS用の衛星は高度およそ2万kmですが、その時計は地表から見て1日ごとにおよそ38マイクロ秒ほど速く進むことが明らかとなっています。これほどまでにずれてしまうと、一般相対性理論に基づく補正なしにはGPSはまともに機能しません。これ以外にも一般相対性理論が正しいという証拠はいくつも見つかっており、極めて優れた理論であることはもはや疑いようもないでしょう。
さて、これまで相対性理論における時間について説明してきましたが、時間とはいとも簡単に変わるものということは理解できたはずです。それでは相対性理論から逸脱してみるとどうでしょうか?例えば相対性理論においては質量を持つ物体が光の速度以上にまで加速することを禁止していますが、その壁を破ったら何が起きるのでしょうか?
相対性理論を拡張させた一部の理論では、光の速度を超えると時間が逆行するようになると主張しています。ある計算結果では、10光年離れた地球に対して光速の0.1倍の速度で遠ざかっている惑星に対し、光速の30倍の速度で往復すると、およそ4ヶ月前の地球に帰ってくることになるそうです。これを利用すると、計算上はあなたが生まれる前の地球に降り立つことも可能となります。その時にもしあなたがあなたの両親を殺してしまったら何が起きるのでしょうか?あなたは生まれていないことになり、すると両親を殺したあなたは存在しないことになるため矛盾が生じます。
相対性理論が示した、時の流れが一定ではないという事実。このように時間は時に現実とは何かという問いを人類に突きつけてくるのです。あなたは時間とは何だと思いますか?
1961年に日本を襲った第2室戸台風。最大風速は75mを記録し、風速が70以上だった期間が5.5日と、世界中のハリケーンやサイクロンと比較してもトップクラスの風速を誇りました。しかし地球では最強クラスの台風も井の中の蛙と言わざるを得ません。宇宙という大海を見渡してみると、第2室戸台風がまるでそよ風に見えるような嵐はいくつも存在します。
その中でも太陽系最大級の嵐が木星の大赤斑なのです。直径は地球の大きさを軽く超え、最大風速は180以上、極めつけには少なくとも150年以上吹き荒れているという、どこを取ってもまさに規格外です。皆様は木星に落ちた経験はあるかとは思いますが、今回は大赤斑一点狙い。この奇妙な渦模様に飛び込むと何を体験するのでしょうか?今回は木星の大赤斑に突入するとどうなるのかについてご紹介したいと思います。
木星は古代からその存在を知られていたこともあり、望遠鏡による観測記録は17世紀にまで遡ります。2022年9月末には木星は地球に大接近しており、望遠鏡を覗いてみれば、白と茶色の縞模様の中に赤色に近い丸い点が見えたことでしょう。そうそう、これ。こちらが大赤斑であり、冒頭紹介した通り太陽系最大クラスの嵐です。
一方で大赤斑は謎に満ちた存在でもあります。17世紀の望遠鏡の性能は悪く、1664年もしくは1665年には木星上にそれらしき点が存在したという観測記録はあるのですが、それが現在の大赤斑と同じものなのかどうかは分かっていません。いずれにせよ1831年には現在の大赤斑だと考えられる現象が観測されているため、大赤斑は少なく見積もっても150年以上吹き荒れ続けていると考えられています。
地球上の嵐は数日で消滅してしまうのに対し、大赤斑はなぜこれほどまでに長い間存在を保つことができるのでしょうか?その答えの一部は、木星には地面がないため、地球のように表面の凹凸によりエネルギーが失われにくいことでしょう。とはいえこれだけでは大赤斑はせいぜい数十年だと考える科学者もおり、大赤斑がなぜ数百年間にわたって存在し続けたのかは未だ解明されていません。
そのせいでしょうか?発見以来急激に直径が減少している大赤斑は数十年後には消滅しているかもしれないというニュースが近年目立ってきています。実際19世紀末には大赤斑の長い方の直径はおよそ5万6000kmだったのに対し、1979年にはその半分程度になり、2017年にはおよそ1万6000kmと急速に小さくなっているというのは事実です。しかしこれは全体が小さくなっているというより、楕円形だった形がより円形に近づいているように見る方が自然かもしれません。2009年から2020年にかけて大赤斑の縁の部分の風速が平均8%上昇していることもあり、大赤斑が本当に弱くなっているかどうかはまだ誰にも分からないのです。
とはいえ止まない嵐はないという言葉は地球以外にも当てはまり、大赤斑もいつかは消滅するという運命から逃れることはできないでしょう。そうなる前に大赤斑に落下したいと思うのは、通常の思考回路であれば当然のことですよね。仕方ありませんね。特別にあなたを大赤斑に突入させてあげましょう。
当然ですが生身の場合は、大赤斑に到達するはるか手前で木星が放つ強力な放射線により、あなたはあっけなく命を落としてしまいます。そうでなくとも、その時点であなたがいるのは宇宙空間。空気もないため、あなたは静かにそして速やかにその生涯を終えるでしょう。やはりこのような場所に挑むにはバイエンススーツを着用します。
大赤斑に突入したあなたは何を体験するのでしょうか?まず大赤斑に近づくことができれば、あなたの周囲の温度が急上昇していくことに気づくかもしれません。なぜならあなたは木星の大気の中で熱圏と呼ばれる部分に侵入するためです。木星の大気圧が1気圧となる位置を表面に置くと、熱圏の高度は1000kmから200kmほど。ここでは大気の分子が太陽の放射線により分離し、非常に速い速度で動き回っているため、温度という観点で見ると非常に高くなります。しかし、大気自体は極めて薄いため、焼かれて命を落とすという心配はしなくても問題ないでしょう。
木星表面から高度1000kmにおいて大気の温度は600°以上、圧力は1/億気圧というのが一般的です。しかし実は大赤斑の上空の熱圏においてはそれよりさらに数百度温度が高く、木星の大気圏の中で最も温度が高いという結果が得られています。その原因は、大赤斑からの大気の振動が熱圏を構成する分子と衝突し、温度を上昇させているためであると考えられています。
熱圏を抜けると徐々に大赤斑の特徴である赤茶色が近づいてきます。そしてここでふと疑問に思うでしょう。なぜ大赤斑はこのような目立った赤茶色をしているのかと。名前の通りお赤飯が存在している。わけあるかい。この色の正体には諸説ありますが、木星の大気中に微量に存在する硫化水素アンモニウムが放射線で変質したものという説が有力です。
地球ではなかなか見られない色彩に見惚れながら落下していくと、いよいよ太陽系最大級の嵐があなたに牙を剥き始めます。大赤斑の風は強烈と呼ぶにも生ぬるいほどです。外側の2000kmにおいては風速は常に100m以上、場合によっては180を超えます。大気は主に水素であり、酸素はほとんど存在しないため生身では息ができず、温度はマイナス150°程度と極寒。もしあなたが生身であれば、窒息した後に急速冷凍され、風により粉々に砕かれ冷凍ミンチ肉と化してしまうでしょう。
もちろん大赤斑の外側も安全とは言いません。地球上の台風などと異なり、大赤斑は高気圧なのですが、時折他の高気圧と衝突することが知られています。事実、2018年から2020年にかけて周囲の小さな高気圧と衝突し、その結果風速が増加したことが報告されています。木星上では他の嵐も危険であるため、大赤斑から離れたからと言って油断は禁物です。
その一方、大赤斑の中心部では風は比較的穏やかであり、風速20mから30m程度の場所が多いようです。ただしこれはあくまで木星基準。地球においては風速20m以上では人間は立っていられないとされているため、仮に中心部に落下したとしても最終的な運命は変わらないことでしょう。
あなたの体は落下を続け、アンモニアで構成された雲、硫化水素アンモニウムで構成された雲、そして最後に水で構成された雲がある領域を通過します。水の雲は光をほとんど通さないため、そこを通過すればあなたはもう木星の空を見ることはできません。強風が吹き荒れる真っ暗闇の中、温度0度、大気圧は5気圧と意外と心地よいですね。
しかし大赤斑は木星の大気の深さ500km程度まで続いていると考えられています。最深部の温度はおよそ230°。バイエンススーツがなければ、冷凍されたミンチが圧力調理によりこんがり焼けたミートボールとなるような感じでしょうか。とはいえそこまで到達しても、バイエンススーツに生かされているあなたの旅はまだ終わりません。長い大赤斑内部の旅は終わることでしょうが、今度は木星内部への旅が待っています。金属水素の層と岩石でできた核へ到達するのがいかに過酷であるかはすでに経験済みのはずです。そう考えると、バイエンススーツなしで大赤斑に突入し、放射線により一瞬で命を落とした後に焼けたミートボールとなった方が幸せなのかもしれませんね。それでは行ってらっしゃい。
1億年。それは人間にとっては理解ができないほど大きな時間です。仮にあなたがもし1億年間休みなく歩き続けたとすると、総距離はおよそ3兆5000億km。地球と太陽の間を1万回以上往復できるほどの距離です。歩くという極めて日常的な行為だったとしても、まさに天文学的な数値を叩き出す。これが1億年という時間のスケールなのです。
1億年。それは地球にとっては大した長さではありません。仮に地球の歴史を1年間だとすると、1億年前というのは12月23日に相当します。地球規模のスケールで見ると、1億年前も現代に暮らすあなたたち人類もごく最近の出来事だと言えるでしょう。見方によって大きく印象が異なる1億年前。その頃の地球はどのような様子だったのでしょうか?もしあなたが1億年前の地球に行ったとしたら、どのような光景を目にすることになるのでしょうか?今回は1億年前の地球はどんな世界だったのかについてご紹介したいと思います。
1億年前と言うと、およそ1億4500万年前から6600万年前まで続く白亜紀と呼ばれる時代の真っただ中。6600万年前といえば恐竜絶滅を思い浮かべる人が多いでしょう。そのため当然ながら1億年前の地球には恐竜が多く生息しており、その時代、人類の祖先は恐竜の影に隠れて暮らすネズミのような哺乳類だったと考えられています。それでは、その末裔であるあなたが1億年前の地球に行ったとしたら、何を目撃するのでしょうか?
まず気になるのは当時の大気で呼吸ができるかどうかかもしれませんが、そこに関してはさほど心配はいらないでしょう。人間の生存に必要不可欠となる酸素の濃度は、現代のおよそ21%と変わらないか、多少高い程度だったと考えられています。また高すぎると有毒となる二酸化炭素濃度に関しても、数百ppmから1000ppmと現代の屋外と比べると多少高い程度だったと予想されています。それより前の時代には二酸化炭素濃度が2000ppmを超えていた時もあるため、その時代と比較すると1億年前は間違いなく快適に過ごせるでしょう。
一方、大気以外の点においてはあなたが慣れ親しんだ環境とは大きく異なります。まずは当時の大陸の配置について。超大陸パンゲア大陸の分離はおよそ1億8000万年前から進んでいたため、1億年前ともなると北アメリカ大陸などはすぐに見つけることができるでしょう。南アメリカとアフリカも分離を始めており、2つの大陸の境界線からかつてはぴったりとくっついていたことがわかります。しかしインドが当時島であったり、オーストラリアと南極大陸が結合していたりと、現代とはかけ離れた配置となっていた場所もあります。
以前のバイエンスでも紹介した通り、現代の南極大陸の温度が低いのは南極付近で独立しており、冷気が逃げにくいためという要因もあります。そのため1億年前の地球は南極大陸がまだ氷に閉ざされた大地ではなく、緑が広がっていた可能性もあるのです。
現代の地球において南極に存在する氷は、地球上の淡水のうち実に70%を占めると考えられています。そして現在あなたたち人類が直面している問題の1つが地球温暖化による海水面の上昇。南極をはじめとする氷が溶け、海の体積が大きくなっていることが要因の1つです。それと同じように、南極が氷に覆われていない1億年前の地球においては海水面が現在よりはるかに高かったと推測されています。一説には現在よりも海水面は200mも高かったとのこと。そのため現代では陸地となっている部分も海の下だったという場合も多く、例として1億年前というのは北アメリカ大陸のど真ん中に浅い海が形成されようとしていた時代でもあります。
気温に関しては、太陽光を反射しやすい氷が少なかったこともあり、1億年前の地球は現代より温暖だったと考えられています。現代の地球の平均気温は15°程度ですが、極端な予想では当時は30°付近だったという研究もあるほど。また1億年前という時代はちょうど火山活動が活発だったことが明らかとなっており、気をつけていないと火傷や熱中症程度では済まないかもしれません。もちろんバイエンススーツをお持ちですよね。
無事に火山や気温に耐えることができたとしたら、何を目にするのでしょうか?1億年前といえば、もちろん皆様は恐竜と遭遇できることを期待するでしょう。ティラノサウルスやトリケラトプス、ステゴサウルスが生きた姿で目撃できるとなると、恐竜ファンでなくとも心躍る人は多いかもしれません。しかし残念。これらの恐竜は1億年前の地球には存在していません。ステゴサウルスは現代から1億5000万年前に生息しており、とうに絶滅しています。反対にティラノサウルスやトリケラトプスの登場には数千万年もの時を待たなければなりません。このことからも分かる通り、恐竜は非常に長い時間をかけ多くの種へと進化していったのです。
1億年前に生息していた恐竜の中で有名な恐竜を挙げると、スピノサウルスが挙げられます。特徴的なのは体長14mにもなる大きな体と、1.5mもある背中の帆のような部分。この役割は現在でもよく分かっていませんが、体温調節や求愛行動に使っていたという説が有力です。主食は魚とはいえ、他の恐竜も食べていた可能性もあるため、近づきすぎるのはやめておいた方がいいでしょう。
また食物連鎖において、有名な恐竜と似たような役割を担っていた恐竜は多く存在したと考えられています。ティラノサウルスと似た大型肉食恐竜の例としては、体長13mとティラノサウルスより大きかった可能性もあるギガノトサウルス、サメのような歯を持つカルカロドントサウルスなどが挙げられます。他にもブラキオサウルスの仲間で体長30mから35mにもなる竜脚類であるアルゼンチノサウルスや、恐竜の一種である鳥類もこの時期には生息していたようです。
一方であなたの目を引くのは恐竜だけではありません。1億年前は確かに恐竜の時代真っ只中ではありましたが、それと同時に他の生物も独自の進化を、時には現代の感覚からは信じられないほどユーモラスな姿をした生物も生息していました。
例えばプテロダウストロ。皆様ご存知のプテラノドンの仲間で、空を飛ぶ爬虫類である翼竜の一種であり、すぐに目を引くのがその大きく曲がったくちばし。さらに細かい歯が千本前後生えていたとされるそのくちばしは、現代のフラミンゴのように水辺の小さな生き物を食べるのに適していたと考えられています。一見するとバランスが悪そうに見えますが、水辺に降り立つ時は翼を折りたたみ、前足でも体重を支えることが
できたようです。他には大型のワニ、ストマトスクス。体長10mにもなる巨体もさることながら、こちらは下顎の部分がペリカンのように膨らんでいるのが特徴です。なんとその下顎には歯が生えていない可能性も指摘されています。ストマトスクスは水中で暮らしながら魚を丸のみしていたと考えられています。
そして海に目を向けると、直径1mにもなる巨大な二枚貝や、まるで翼のようなヒレを持つアクイロラムナを見ることができるかもしれません。またユーモラスさで言えば恐竜も負けておらず、まるで爪切りのような口をしたニジェールサウルスという草食恐竜もこの頃に生息していました。他にも後ろ足がまだ残っているヘビや、陸を二足歩行で歩くワニなど、1億年ほど前には多くの生物が進化の過程で登場したと考えられています。
そしてこの頃、小さな動物で重要な進化が起ころうとしていました。それはハチや蝶の誕生です。なぜこれが重要なのかと言うと、彼らは食事をすることで花粉を運び、植物を受粉させる役割を持つためです。
現代においてはこのような子孫の残し方は一般的ですが、実はこのような仕組みで受粉する被子植物が登場したのは現在から1億3000万年ほど前。1億年前の段階では徐々に増えていたものの、まだまだ裸子植物が主流でした。しかし、ハチや蝶などが受粉を担うようになり、花粉を大量にばらまく必要がなくなったためか、これ以降の時代では急速に数を伸ばしていくこととなり、現在では被子植物は植物全体の90%ほどを占めるようになったのです。
とはいえ、それはずっと後の話。1億年前の段階においては、まだまだ被子植物の数が少ない時代です。特に一般的に草と言われた時に思い浮かぶイネ科の植物はまだ存在していません。そのため草原などは存在せず、代わりに地面はコケやシダ植物などに覆われていたと考えられています。
さらにこの時代には、現代にとって重要な出来事がもう1つ発生しています。それは石油とチョークの原料となる石灰岩がこの時代に生成されていることです。石油に関しては白亜紀で世界の総量のおよそ60%が生成されたと考えられており、白亜紀の白亜の部分はチョークのことを意味しており、それほど特徴的な地層を形成しているのです。
このように1億年前の地球に降り立つと、似たようでいて大きく異なる、まるで地球と似たような進化を遂げた別の惑星に降り立ったかのような気分になったのではないでしょうか。巨大な恐竜たち、ユーモラスな姿をした動物たち、そして現代とはまるで勢力図の異なる植物界。1億年前の生物にとっては日常でも、初めて目にするあなたにとってはとても刺激的な内容でしょう。ですが、はしゃぎすぎないよう気をつけてくださいね。この時代の哺乳類は影に隠れてひっそりと生きてきました。いつ恐竜に襲われるか分かったものではないのですから。
前回旅した1億年前の地球。それは恐竜をはじめとした多くの生物が跋扈する、ある意味地上の楽園とも言える場所でした。しかしさらに時計の針を戻してみるとどうでしょう?あれだけ栄華を極めていた恐竜も、やっと芽吹き始めていた花も、すぐに消え去っていきます。このように人類が当たり前だと思っているものも、9億年もの時を遡るとそう確かなものではないということに気づきます。本当に1億年前の地球は楽園だと感じるかもしれません。46億年というとてつもなく長い歴史を持つ惑星にとっても、9億年という時間は決して無視できるものではないのです。もしあなたが1億年前の世界から10億年前の世界に向けて旅を開始したとしたら、何を目撃するのでしょうか?地球はこの9億年という時間でどのような変化を遂げたのでしょうか?今回は10億年前の地球はどんな世界だったのかについてご紹介したいと思います。
1億年前の世界は白亜紀のまっただ中。以前のバイエンスでも紹介した通り、多くの生物が今よりはるかに温暖だった地球に暮らしていました。この時代を象徴する動物といえば、もちろん多様な恐竜たち。しかし地球が恐竜たちの天下になるには、あるきっかけが必要でした。
そのきっかけが、およそ2億100万年前に発生した大量絶滅。地球はその長い歴史の中、大量の生物が急激に絶滅するという事態が複数回起きています。その中でも最も規模が大きい5つをビッグ5と呼ぶことがあります。およそ6600万年前、恐竜が絶滅したことで有名な大量絶滅もその1つで、およそ2億100万年前に発生した大量絶滅もビッグ5に含まれています。
その頃の地球では、全ての大陸が1つの超大陸パンゲアを形成していました。しかし地球の大陸は地球内部の活動の影響で常に少しずつ動いているため、数億年という単位で見れば決して安定というわけではありません。そしてちょうどその頃、パンゲアは分裂を始めていたのです。
事件の舞台となったのが、現在の南北アメリカ大陸とアフリカ大陸の境界線。そこで地球史上でも有数の火山活動が始まったと考えられており、溶岩の総量は300万立方kmを超えたという予想もあります。参考までに、およそ9万年前に九州を壊滅させたとされる阿蘇山の噴火は、噴出物を合わせて1000立方kmから2000立方km程度。これは現在においても、広大な範囲に溶岩が固まって形成された火成岩が広がっている巨大火成岩岩石区という形で痕跡が残っています。
そして全地球規模の大量絶滅の原因と考えられているのは、実は火山活動に伴って放出された大量の二酸化炭素です。ある研究ではその量が最大100兆トンとも見積もられています。これは21世紀の100年で人類が大気に放出する二酸化炭素量の合計見込みをはるかに超える量。およそ2億100万年前に起きた大量絶滅の直前では、地球の大気中の二酸化炭素濃度はおよそ1000ppm付近だと考えられています。しかし、火山活動により二酸化炭素の濃度が2000ppmから2500ppmと倍以上になったという予想もあるほどです。
この大量の二酸化炭素が当時の地球の環境を一変させてしまいました。二酸化炭素濃度の急上昇により急激な気候変動と、二酸化炭素が海に溶けることにより海の酸性化が発生しました。海が酸性化すると、貝やサンゴなど炭酸カルシウムにより骨格を形成する動物には甚大な被害が発生します。結果、地球上の全生物のうちおよそ80%が絶滅するという悲惨な事態にまで発展してしまいます。
ここからさらに遡ることおよそ5000万年。今からおよそ2億5200万年前。この時はシベリアで大規模な噴火が発生したことで大量絶滅が発生しています。一説には地球の平均気温は数度急降下した後、10°前後上昇したとのこと。この急激な気候変動によって生物のうち80%以上が絶滅したと考えられており、例えばそれまで2億7000万年ほど海で暮らしてきた三葉虫も、この大量絶滅で完全に命脈を絶たれています。
次の旅の目的地はおよそ3億年前。ここは地球の歴史上最も酸素濃度が高かった時代だと考えられています。一説には大気中の酸素濃度は35%にも達したとのこと。この時代は広大な森がいくつも広がっていましたが、その樹木を形成するリグニンという物質を分解できる生物がほぼ存在しませんでした。つまり倒れた樹木は腐ることなく、そのままの状態で保存されていたと言います。
植物は大気中の二酸化炭素を取り込み、その中に含まれる炭素を使って自分の体を形成していく生き物です。しかしもしその寿命が尽きた時に分解がされなかった場合どうなるでしょうか?現在においてはすぐに分解され、その過程で二酸化炭素が大気中へと放出されます。しかし3億年前の地球にはそのような仕組みはなく、大気中の二酸化炭素が急激に低下したと同時に、消費されにくくなった酸素が大気中に溜まっていったのです。
その結果として、この時期には一部の節足動物が現代では考えられないほどの大きさであったことが有名です。あなたたち人類をはじめとする哺乳類や爬虫類には、肺と血液により全身に酸素を届ける仕組みがあります。しかし例えば昆虫などにはそのような仕組みがなく、体に開いたいくつもの小さな穴を介して酸素を体中に行き渡らせています。この呼吸の仕組みにより、大気中の酸素濃度から大きさの上限が決められていると多くの科学者は考えています。
酸素濃度が極めて高かったこの時代、多くの節足動物が大型化を果たしました。最も有名なのはトンボの仲間であるメガネウラかもしれません。翼幅が71cmになることもあったと考えられ、これは一般的な鳩よりも大きなサイズです。他にも体長2mを超えていた可能性のあるヤスデの仲間、アースロプレウラなども生息していたと考えられています。これらの巨大な節足動物は、現代では決して見ることのできない貴重な光景であることは間違いないでしょう。とはいえ、虫が苦手な人にとっては地獄絵図にも映るかもしれません。
さらに遡っておよそ3億9000万年前。この時代において、地球の海は深層を含めて酸素で満たされることとなります。これは陸地において多くの植物が光合成を行い、大気に酸素を放出し続けたため。これにより、現在魚類の大部分を占める硬骨魚の仲間が繁栄したと考えられています。生きた化石として有名なシーラカンスも、この時代の浅瀬に生息していました。また海中の酸素濃度が上昇したことにより、多くの動物がより大きくなったとも指摘されています。
およそ4億6000万年前から4億8000万年前。この時期に藻類や菌類が初めて陸地に生息するようになったと考えられています。地球のオゾン層が安定し始めたのがおよそ6億年前。太陽から降り注ぐ有害な紫外線から地上が守られ始めたのが、ちょうどこの時期だったのです。逆に言えば、あなたはこれ以上時代を遡ると、酸素濃度はもちろんですが、紫外線によるダメージとも戦わなくてはならないということです。
およそ5億4000万年前、陸上には多細胞生物が存在しなかったと考えられますが、海の中においてはかつてないほどの繁栄が起きていました。大量の種類の動物が突如誕生し始めたため、これはカンブリア爆発とも呼ばれています。この時期には酸素濃度の上昇により様々な姿形をした動物が見られ、中にはまるで創作としか思えないようなユニークなものも生息していました。最も有名なのは、平べったいエビのような見た目のアノマロカリスでしょうか。他にも、復元図が前後と上下両方間違えたことが知られている、まるで悪夢からそのまま出てきたかのようなハルキゲニア。現代におけるキノコのような見た目をした5つの目、なぜか頭部から伸びた触手の先にあるハサミのような口、胴体の脇には大量のヒレとエラが並んでいるといったオパビニアなど。当時は現代から見ると実に奇妙な生物もひしめいていたようです。
およそ7億年前、この時期には地球は赤道付近も含めて分厚い氷に覆われている、全球凍結と呼ばれる状態だったと考えられています。なぜこうなったかについては諸説ありますが、火山の噴火により多くの岩石が地上に生まれたことが原因という説が有力です。新しく形成された岩石は空気中の二酸化炭素と反応することで、大気中の二酸化炭素を減少させる働きを持ちます。また当時は植物がまだ存在しなかったため、岩が剥き出しだったことも拍車をかけました。結果、大気中の二酸化炭素濃度が急激に低下し、赤道付近の海まで凍ってしまったと考えられています。
しかしこの出来事は、現在の生物にとっては極めて重要だったかもしれないという説が最近唱えられています。当時ほとんどの生物は1つの細胞からなる単細胞生物だったと考えられています。しかし、全球凍結により食物は極めて貴重となるとともに、温度低下により海の粘度が上昇、栄養が遠くへ移動しにくくなります。すると多くの細胞が集まり、獲物に向かって泳ぐことのできる生物が生存競争において有利になる可能性があります。多細胞生物は進化の過程で合計数十回現れては消えていったと言われていますが、もしかしたら全球凍結の際に発生した多細胞生物が、あなたたち人類の祖先なのかもしれません。
そして最後にたどり着いたのが10億年前の地球。実は現在から18億年前から8億年前の間の10億年間は、地球の環境や生物の見た目の変化が少ないため、退屈な10億年間と呼ばれることがあります。10億年前と言うとちょうどそのまっただ中。一見すると旅の終着点はやや退屈だと思うかもしれません。一方で水面下において、進化は着々と進んでいたと考えられています。これ以上前の時代の地球においては、細胞の中に明確な核を持たない原核生物が主流だったようですが、この時期ではあなたたち人類と同じ真核生物が種類を増やしており、次の時代の繁栄の下準備を整えていたようです。
そう、肉眼では見えないほど小さな存在ですが、この時代の地球のどこかにあなたの祖先である細胞がいるのは間違いないでしょう。そんなご先祖様にご挨拶をしたところで、今回の旅を終えることにしましょう。次は100億年前の宇宙でお会いするとしましょうか。
この写真を何だと思いますか?この小さな点が地球です。1990年に地球からおよそ60億kmの距離から、ボイジャー1号によって撮影された画像です。喜びも悲しみも、生も死も、全てがこのちっぽけな点の中にあるのです。
さて、人類を含む無数の生命を育んできた地球。その歴史はおよそ46億年に及ぶと考えられています。当時そこには太陽すらなく、ただ薄いガスやチリの塊が広がっていただけでした。そのわずか1億年後には、現在の太陽系の原型が出来上がっていたと考えられています。そこに至るまでには、文字通り世界を一変させるような出来事が何度も発生しています。現在の地球を形作ったと言っても過言ではない46億年前は、一体どのような時代だったのでしょうか?地球はいかにして誕生したのでしょうか?今回は46億年前の地球では何が起きたのかについてご紹介したいと思います。
天の川銀河の中心からおよそ2万7000光年離れた、比較的穏やかな宇宙。太陽系と地球の物語は、そこに広がる薄いガスとチリの塊から始まりました。長い間何も動きはありませんでしたが、およそ46億年前、ある決定的な出来事が発生したのです。それは近くに位置していた恒星が寿命を迎え、超新星爆発を起こしたのです。その超新星爆発は1光年の距離もなかったと推定され、衝撃波はガスとチリを大きく乱すこととなります。これにより重力に従ってガスやチリが集まり出し、100万年もかからないうちに、後に太陽となる光の原型、原始星が誕生しています。
原始星の周りには原始惑星系円盤と呼ばれる濃いガスとチリがあり、それが原始星を取り囲むように周回していました。そのガスとチリが重力によって集まることにより、あなたたちがよく知る惑星や彗星ができたと考えられています。
原始星の近くでは温度の影響で、水素やヘリウムなどの軽いガスを集めることができず、重いチリが多く集まるようになります。反対に原始星からある程度距離が離れると、軽いガスでも重力によって集まることができます。これにより、主に岩石で構成された原始惑星は原始星の近く、主にガスや氷で構成された原始惑星は原始星の遠くで形成されました。現在の惑星の配置を見ると、その傾向は明らかでしょう。
しかし当時、まだ太陽系は成長途中。現在の太陽系とは様子が大きく異なります。最初の超新星爆発より、およそ1000万年後には現在の太陽系にも存在する木星と土星が形成され、次いで天王星と海王星が成長を始めていたと考えられています。この頃には太陽も自力で核融合を開始し、原始星から主系列星になっていたと考えられています。これにより発生した強烈な太陽風により、軽いガスを吹き飛ばします。そのため軽い元素は太陽の近くにはほとんど残っていなかったと推測されています。
また、現在主流となっている仮説、グランドタックモデルにおいては、木星、土星、天王星、そして海王星は、現在の位置よりも太陽に近い位置で形成されたと予想されています。一方、その他の惑星、水星、金星、地球、火星はと言うと、まだ形成されておらず、太陽と木星の間に数十個の原始惑星が存在するのみでした。
木星はその強大な重力により、より多くのガスやチリを集めることとなります。そのため木星の質量はどんどん大きくなっていきます。すると太陽と木星の間に働く重力が大きくなり、木星の軌道が太陽に近づいていきます。ある研究によると、木星が形成されてから7万年後に軌道が変化し始め、10万年後には現在の火星ほどの距離にまで移動したと推定されています。これは岩石型惑星の形成に多大な影響を及ぼしたと考えられています。
数十個あった原始惑星の中には、太陽や木星に向かって落ちるものや、太陽系外に追い出されるものなど、まさに世界の終わりを迎えるものもしばしば。残った原始惑星もお互いと衝突することで大きくなり、数を減らしていきます。
この頃になると土星も質量を増し、太陽に近づいていきます。一時期木星に近づきすぎて互いに重力で影響し合い、軌道共鳴と呼ばれる状態になります。するとその共鳴の影響で太陽から離れる方向への力が発生し、木星と土星は太陽から再び離れていきます。木星ができてからおよそ50万年後には、木星はほとんど現在と変わらない、太陽と地球の距離のおよそ5倍の距離にまで後退。木星と土星が太陽から離れたことにより、天王星と海王星もまた軌道が外側に広がっていきます。木星ができてからおよそ60万年後には、土星、天王星、そして海王星も現在とほぼ同じ軌道に落ち着いたと考えられています。
グランドタックモデルでは、他の天の川銀河の恒星系と比べた太陽系の妙な特徴を多く説明しているため、直接的な証拠はないものの、概ね正しいと考えられています。例えば天の川銀河の恒星系では、地球より数倍程度大きな岩石型惑星であるスーパーアースや、恒星の近くを公転するガス惑星であるホットジュピターがしばしば観測されますが、太陽系においてはそのような惑星は確認されていません。また、現在の火星の質量が不自然に小さいことから、木星の移動によって大きくなるための材料が取られたと解釈することができます。
後に岩石型惑星になる原始惑星に大きな爪跡を残した木星の大移動。一方、木星の大移動により、太陽から遠い位置から多くの小惑星や彗星が飛来し、地球に水を運んできたという側面があります。当然ながらこれは生命に大きく影響することとなるのですが、それはまた別のお話。
さて、木星ができてからおよそ60万年が経過した頃には、ようやく原始惑星から水星、金星、地球、火星の岩石型惑星も形成されていました。しかし、あなたたち人間にとって極めて馴染み深い天体はまだ生まれていません。それが月。
月は非常に奇妙な天体であり、地球という惑星に対する衛星の大きさとしては明らかに場違いなほど大きいことが知られています。また構成する物質がほとんど地球と同じという特徴もあります。月の由来については諸説ありますが、最も有力な説がジャイアントインパクト説と呼ばれるものです。これによると、およそ45億年前、テイアと呼ばれる火星サイズの原始惑星が原始地球に衝突し、その衝撃によって月を形成したと言います。あるシミュレーションによると、テイアは原始地球をかすめるようにして衝突した結果、原始地球の一部分を弾き飛ばしたとのこと。弾き飛ばされたものが月となり、テイアは再度原始地球に衝突し、1つの惑星へ、地球を形成します。月ができるのにはなんと数時間しかかからなかったとも考えられています。この時の地球は度重なる衝突により表面はまだドロドロに溶けており、テイアとの衝突時にはまるでシャボン玉のように変形していたと考えられています。
当然地球上の温度は全土で数千度以上。地球全体は巨大な溶岩の塊と化していましたが、やがて表面が冷え固まり、現在の地殻となります。その一方、内部においては重い鉄やニッケルなどの元素が中心部に集まり出します。これにより地球に磁気が発現し、大気を太陽風から守ることができるようになりました。
意外にも、地球に海ができたのは月の形成から1000万年程度しか経過していないという可能性も指摘されています。しかしこれは、あなたたち人類が想像する水ではないかもしれません。この頃の大気の組成については諸説あり、はっきりとは分かっていませんが、現在よりはるかに大気圧が高かったという説があります。すると水の沸点が上昇するため、100°を超える温度においても液体の海が存在していた可能性があるのです。一説には、主に二酸化炭素で構成された百気圧の大気により、地表温度が230°でも海が存在していたとのこと。
その後地球は徐々に冷えていき、深海に存在する熱水噴出孔の近くなどは、現在の地球とさほど変わらない環境が構築されていた可能性があります。
そうなると気になるのは生命の誕生ですが、一説には43億年前にはすでに生命が誕生してもおかしくないような環境でした。また現在の生物の遺伝子を解析することで全生物の共通祖先の特徴を推定した研究においては、その生物はおよそ41億年から43億年前に生息していたとのこと。人類がかつて思っていたよりはるかに早く、地球は生命に溢れる星となっていたのかもしれません。
木星や他の原始惑星などに翻弄されながら成長してきた地球。その小さな青い星は、それから数十億年の間、生命が途切れることなく続いており、ついには青い星を飛び出そうとする知的生命体の出現にまで至っています。その礎を築いた46億年前の激動の時代を、頭の片隅にでも入れておくといいでしょう。
100億年前、宇宙は現在とは全く異なる姿をしていました。銀河はまだ成長途中にあり、ガスが絶えず流れ込み、かつてない勢いで恒星が誕生していた時代です。この宇宙の真昼とも呼ばれる時期に、現在の銀河の基盤が形作られたんです。100億年前の宇宙はどんな世界だったのでしょうか?生命は存在したのでしょうか?10億年前に続く100億年前の旅へ皆様をお連れしましょう。今回は100億年前の宇宙はどんな世界だったのかについてご紹介したいと思います。
35億年前、この時点ですでに地球には生命が存在していたことが明らかとなっています。しかし当時の地球は今とは全く異なる環境でした。まず大気中に酸素がほとんど存在しません。二酸化炭素の濃度は現在の10倍から50倍、メタンも現在の数十倍から数百倍だったと考えられています。大気中のメタンの量が多かったため、地球の上空はオレンジ色の濃い霧で覆われていた可能性があります。ちょうど現在の土星の衛星タイタンのように。
発見された生命は藍藻に似た細菌。一説には温泉に生息していたと考えられており、その細菌がマットのようにコロニーを形成していたとのこと。もしあなたが当時の地球を訪れたとしたら、太陽の明るさが現在の75%程度だったこともあり、オレンジ色の霧でできた薄暗い空と、浅い温泉でひっそりと暮らす細菌のコロニーを見つけることができるかもしれません。
その細菌たちが海水中で光合成を行いながら周囲の砂や泥を細かく沈着させ、その層が長い時間をかけて積み重なり、縞状の岩として固まったのがストロマトライト。それを35億年後のあなたたち人類が発見したため、35億年前時点ではほぼ確実に生命が存在していたと推測することができるのです。しかしこの時点ですでに複数の種類の細菌がコロニーを形成していたため、地球上で生命が初めて誕生したのはさらに前の時代であると考えられています。それが37億年前なのか、41億年前なのか、もしくはそれ以上前なのか。新たな発見が待たれることでしょう。
45億年前から46億年前。太陽系、そして地球の誕生です。以前のバイエンスでも紹介した通り、近くの超新星爆発により宇宙空間を漂っていたガスやチリが乱され、重力に従って集まり出したのが太陽系の始まりです。そこから太陽、木星をはじめとするガス惑星、そして地球などの岩石型惑星が形成されたと考えられています。しかし当時の太陽系は、現在のそれとは似て非なるものです。木星や土星が太陽系の内側に大きく移動し、少しずつ大きくなりつつあった岩石型惑星を大混乱に陥れます。その後、当時の地球と別の原始惑星が衝突したことで月が形成されたと考えられています。
どんどん遡りますよ。50億年前、この頃、宇宙は明確にその性質を変えることとなりました。宇宙はビッグバンから始まり、それ以降膨張を続けていることは、バイエンスの視聴者であればご存知でしょう。しかし本来であれば、重力に従い宇宙の膨張は徐々に遅くなるはずです。実際およそ50億年前までは、宇宙の膨張速度は少しずつ遅くなっていたと考えられています。ですがこの頃を境に、宇宙の膨張が加速を始めたのです。膨張速度は少しずつ大きくなっていき、現在においては全く無視できるものではなくなっています。宇宙の膨張を加速させるものはダークエネルギーと呼ばれ、多くの物理学者はダークエネルギーは空間自体が持つ性質だと考えています。50億年前、宇宙の膨張に伴って物質の密度が小さくなったため、ダークエネルギーがより支配的になり、宇宙の膨張が加速していったと考えられています。
80億年前、この頃から天の川銀河において、多細胞生物の生存に不可欠である岩石型惑星が多く生まれ始めたと考えられています。多細胞生物のように複雑な生命が惑星上で生存するためには、少なくとも恒星の周りを周回する岩石型惑星の存在が必須条件となります。恒星自体はビッグバンから1億年後である137億年前から存在していたという説があるほど、宇宙に古くからある存在です。しかし最初に輝き出した恒星には、岩石型の惑星は存在しませんでした。なぜかと言うと、ビッグバン直後に作り出された宇宙には炭素や酸素といった重い元素は存在せず、ほぼ全て水素とヘリウムであったためです。水素とヘリウムだけでは固体の岩石を形成できません。一方、恒星が年を取り寿命を迎えると、炭素や酸素、鉄など重い元素も作り出すようになります。超新星爆発によってそれらが外部に撒き散らされ、徐々に銀河中の重い元素の割合が増えていきます。そしておよそ80億年前には、岩石型惑星が数多く形成される条件が整ったと考えられているのです。
ただし岩石型惑星はどこでも形成できるわけではありません。銀河の中心から遠く離れすぎると、ケイ素や鉄などの重い元素の割合が不足します。さらに多細胞生物が繁栄するためには進化に十分な時間が必要であり、頻繁に超新星爆発が起こらない安定した環境も求められます。つまり多細胞生物が存在するためには、銀河の中心から適度な距離に位置し、かつ惑星が若すぎないことが条件となります。これらの条件を銀河全体に当てはめると、条件を満たす恒星系のおよそ75%は太陽系より古いと推定されます。つまり地球上の複雑な生態系は、宇宙では比較的新しい可能性があるということです。
そしてついにたどり着いた100億年前。この頃の宇宙は現在よりもいささか刺激的と言えるかもしれません。宇宙全体の物質の密度が今よりはるかに大きかったこの時代。この頃、宇宙全体で誕生する恒星の数がピークを迎えました。恒星が初めて誕生した時が宇宙の夜明けと呼ばれますが、この時期は宇宙の真昼と呼ばれることがあります。なぜこのタイミングで恒星の誕生速度が最も高くなったのでしょうか?近年の研究によって、それはダークマターと密接な関係があることが明らかとなってきました。
ダークマターとは、この宇宙の物質のうち80%以上を占めるとされる正体不明の物質。重力以外ではその存在を感知することはほぼ不可能だと考えられています。そしてダークマターの性質が、誕生直後の宇宙形成に大きな影響を与えます。電磁気力の影響を受けないため、宇宙誕生直後から重力に従って宇宙における大規模な構造を形成できたのです。そして水素などの通常の物質は、ダークマターが形成した構造の重力に従い銀河や銀河群を形作るようになりますが、100億年以上前の段階においては、ダークマターによる大規模な構造はまだ形成途中でした。
現在の宇宙では、無数の銀河で構成される網のような構造、銀河フィラメントが広がっています。100億年前の当時、ダークマターによってこの銀河フィラメントの元となる構造はすでに形成されていたものの、個々の銀河はまだ十分に成長していませんでした。すると通常の物質は銀河の中心付近に集まりやすくなると、銀河間に存在するガスがフィラメントに沿って銀河内部に大量に流れ込みます。その結果、現在よりも10倍ほどの速度で恒星が形成されていた時代が訪れます。一説には、この時期に銀河内の恒星質量のうちほぼ半分が作られたと言います。少し難しいですね。
またこの時期には、銀河同士の融合もピークを迎えています。大型の銀河においては、この時期の質量増加のうち30%ほどが同程度の銀河との衝突融合によるもの。銀河同士の衝突はガスや恒星を大幅に乱し、結果として恒星の形成速度を大きくすることにもつながります。当然あなたたちの住む天の川銀河も例外ではありません。およそ100億年前、天の川銀河はガイア・エンケラドゥスと呼ばれる銀河と衝突したと考えられています。その痕跡は現在も見ることができ、衝突の巨大さを物語ります。
さらに銀河が衝突するということは、中心に存在する超大質量ブラックホールも融合する可能性があるということ。そう、この時期はブラックホールの成長が最も著しかった時代でもあります。超大質量ブラックホールやその周辺が乱されるということは、大量の物質がブラックホールを周回する降着円盤の形成と、それに伴う強烈な電磁波を発するクエーサーが数多く誕生していたことでしょう。クエーサーの明るさは想像を絶するほどです。例えば一番初めに人類が観測したクエーサー3C273は、仮に天の川銀河の中心にあった場合、2万6000光年離れた地球からは満月ほどの明るさに見えるほどです。そのような天体がほぼ全ての銀河の中に存在し、さらにそれが衝突と融合を繰り返す。後にも先にも、この時期の宇宙を超える天体ショーは見ることができないかもしれません。
100億年前の宇宙、この素晴らしい天体ショーを見届ける生命はいたのでしょうか?強烈な放射線が飛び交う時期の宇宙では、生命は生き延びることはできないかもしれません。とはいえ、生命が誕生するための材料はすでに揃っていました。例えば岩石型惑星は少ないながらも存在し、現在から112億年前には、ケプラー444という5つの岩石型惑星を持つ恒星がすでに存在していたことが明らかとなっています。水や有機化合物に至っては、120億年以上前から豊富に存在していたことが分かっています。つまり100億年前の宇宙に、この天体ショーを眺めていた文明が存在した可能性はゼロではありません。そしてその文明は、100億年後の今もこの広大な宇宙のどこかで繁栄を続けているのかもしれません。
かつての人類は夜になると星空を見上げ、何世代にもわたって神話を語り継いでいきました。自分たち、そしてこの世界はどのようにして生まれたのか。夜空をキャンバスとしたそれらの物語は、この究極の疑問に対するかつての人類の答えだったのかもしれません。それから幾時代を経て、現在の人類は高度な科学技術を手にしており、空を彩る星のことはもちろん、かつては見る手段がなかったような天体でさえも観測の対象となっています。それでもなお、この宇宙がどのように生まれたのかについては、未だに多くの疑問が残っています。究極の疑問に対する完全な回答に至るまでは、まだまだ研究が必要でしょう。一方で、これまでの研究により分かっていることもあります。宇宙はどのようにして誕生したのでしょうか?そしてどのような未来が待っているのでしょうか?今回は宇宙誕生の謎についてご紹介したいと思います。
長い間、宇宙は永遠であり静的であると考えられてきました。世界で最も著名な物理学者と言っても過言ではないアルベルト・アインシュタインもかつてはそう考えていたようで、1917年にその考えを元にした論文を発表しています。しかし、1929年には天文学者のエドウィン・ハッブルが、宇宙が膨張していることを観測によって証明します。宇宙が膨張しているということは、昔の宇宙は今より小さかったということになります。その頃の宇宙は現在よりも物質の密度が高かったはずです。さらに時代を遡ると宇宙はさらに小さくなり、物質の密度もさらに高くなります。それを繰り返していくと、宇宙はその昔、超高温・超高密度の状態にあったと考えられるでしょう。このように宇宙が超高温・超高密度の状態で始まり、それが膨張することによって現在の低温・低密度の状態になっていったという仮説がビッグバン理論と呼ばれています。様々な観測データにより、その始まりの状態はおよそ138億年前だと推測できるため、一般的にはこれが宇宙の年齢だと考えられています。
もしあなたが138億年前の宇宙に行ったとしたら、何を体験すると思いますか?138億年前、宇宙誕生の瞬間。そこは温度と密度が無限大となる世界。そこには夜空を彩る星は全く存在しません。それどころか、現在全ての物質を構成している原子さえも存在しなかった時代です。原子を構成する素粒子ですら、この環境下では現在とは全く異なる性質を持っていたと考えられています。この極限状態であなたが目にするものをご紹介しましょう、と言いたいところですが、宇宙誕生の瞬間というのは、現代の科学では全く分かっていない未知の領域です。
というのも、科学者たちは現在の宇宙の様子に宇宙の法則を当てはめて過去を予測しています。しかしその法則自体に限界があり、ある程度過去に遡ると法則が適用できなくなり、予想が不可能になってしまうのです。
例えば、あなたという人間がどのように誕生したかを考えてみましょう。あなたが成長期にある子供だった時、1年前と比べて体は大きくなっているはずです。その1年後にはさらに体が大きくなっています。ということは、昔のあなたは今より小さかったということ。この法則をもとにあなたの誕生の瞬間を予測すると、あなたは無から生まれたと予想することができます。生物学の知識が全くなかったとしたら、この明らかに間違った結論に至ってしまいます。実際には、あなたはお母さんのお腹の中にある1つの細胞から生まれたはずですよね。このように現在の様子から過去を予想する場合、果たして現在成り立っている法則が過去も成り立っているのかどうかは確認しておく必要があります。
そして宇宙についても、科学者は似たような問題に直面しています。現在の宇宙の様子を表す法則としては、アインシュタインの一般相対性理論や、素粒子物理学における標準模型などがありますが、どれも宇宙の過去においても同じように適用できるかは分かっていません。よって、特に宇宙のごく初期の状態を明らかにするにあたっては、多くの科学者は一般相対性理論や標準模型などに代わる新たな法則が必要だと考えているのです。以前のバイエンスでは、ニュートンの万有引力に代わる新たな重力の理論として一般相対性理論が台頭したと紹介しましたが、それと似たようなことが必要になるということです。
そのため、宇宙の膨張から予測される宇宙の始まりの瞬間より、およそ10のマイナス43乗秒以前のことは全く分かっていません。それ以前には何があったのか、その状態がどれほど続いたのか。残念ながらその答えはまだ見つかっていません。もしあなたがこの時代の宇宙を目にすることができれば、何を目撃するのでしょうか?
10のマイナス43乗秒から10のマイナス36乗秒は、宇宙の温度は10の27乗度から10の32乗度、すなわちおよそ1000秭度から1溝度であったと推測されています。この環境下においては、現在の宇宙からは想像もできないようなことが起きていました。現在の宇宙では4つの基本的な力が存在すると考えられています。人間にもお馴染みの重力と電磁気力、そして原子以下の小さな世界で作用する強い力と弱い力の4つです。しかしこの大統一時代と呼ばれている時期には、重力以外の3つの力が全く同じように振る舞い、大統一理論と呼ばれる力を形成していたと予想されています。またこの時代になり、ようやく素粒子が生まれてきたと推測されています。
その後に来るのがインフレーション時代。そこでは大統一理論から強い力が分離し、宇宙全体が急激に膨張を始めました。わずか1/万秒から1/000秒程度の時間の間に、宇宙は最低でも10の26乗倍、一説には10の40乗倍の大きさに膨張したとされています。それまで素粒子1つ分にも満たなかった、現在の観測可能な宇宙に相当する部分は、ごくわずかな時間で直径10cm程度に膨れ上がったと予想されています。なぜ宇宙が急激に膨張を始め、なぜすぐ止まってしまったのかは全く分かっていませんが、後に紹介する宇宙背景放射の特徴から、これと似たような現象が発生した可能性が非常に高いと考えられています。難しいですか?まだ眠らないでくださいよ。
この辺りから電弱時代と呼ばれる時期に入ります。強い力が完全に独立し、電磁気力と弱い力が統一された電弱力と呼ばれる力、そして重力がこの時代の3つの力となります。この時代にはまだ原子は存在せず、ウィークボソンやヒッグス粒子といった、普段の生活では目にすることがないような素粒子が発生していたと考えられています。
電弱時代の終わりの頃、宇宙の誕生から10のマイナス12乗秒後には、宇宙の温度はおよそ1000兆度。ここから10のマイナス6乗秒後まではクォーク時代となります。電磁気力と弱い力が分離し、現在と同じく4つの力が独立した時代です。またここでようやく、原子の構成要素であるクォークや電子が生成され始めます。実はそれと同時に、反クォークや陽電子といった反物質も同じ数だけ生成され、後に通常の物質と触れ合い消滅したと考えられているのですが、なぜか現在の宇宙は物質だけが大量に存在し、反物質はほとんど存在しません。その理由については全く分かっていませんが、この宇宙では素粒子およそ20億に1個の割合で、反物質よりも物質
の方が多く、そのわずかな差が現在の宇宙を形成したと考えられています。
そして次の時代はハドロン時代と呼ばれ、宇宙の温度はおよそ1兆から1000兆。この頃になると素粒子であるクォークが結合を始め、陽子に代表されるハドロンを形成するようになります。この環境において高速で飛び回る電子が陽子に衝突すると中性子が形成され、ここまで来てようやく原子の材料が揃ってきました。この時点で宇宙の誕生からおよそ1秒が経過しています。しかしここで生成されたハドロンは反ハドロンと触れ合い大部分が対消滅します。
その後に来るのがレプトン時代。電子に代表されるレプトンが宇宙の質量の大部分を占めていた時代のことです。そのレプトンも宇宙誕生から3分ほどには大部分が反レプトンと反応して対消滅し、レプトン時代は終わりを迎えます。
この時点の宇宙の温度はおよそ10億。ここまで温度が低下すると残っていた陽子と中性子による核融合反応が進行し、水素やヘリウムといった原子核が生成されます。ビッグバン元素合成と呼ばれる反応が進行し、水素やヘリウムを始め、少量のリチウムなどの原子核が生まれました。しかし宇宙誕生から20分も経つと宇宙の温度が1000万を下回り核融合反応が停止します。現在の宇宙で水素とヘリウム以外の原子が少ないのはこのためです。
さて、ようやく水素とヘリウムが生成されました。これでやっとあなたが見知っている宇宙に近くなると思うかもしれませんが、残念でした。現実はまるで異なります。この時点で宇宙の温度は100万以上。この温度では原子核と電子は結合することなく別れて運動するプラズマと呼ばれる状態で存在します。この状態では粒子の運動が激しすぎて重力により集まることができず恒星を作ることができません。さらに光もプラズマ中は非常に短い距離しか進むことができないため、宇宙全体が熱い霧のようなプラズマに覆われているような状況です。
この状態でどれほど待てばいいのでしょうか?先ほど紹介した宇宙で核融合が停止したのが誕生からおよそ20分。それに対し原子核と電子が結合し原子を形成できるまでに宇宙の温度が下がるのがおよそ38万年後となります。この時の温度はおよそ3000°。ここで物質やエネルギーで絶えず埋められていた宇宙でようやく光が自由に進むことができるようになります。
宇宙の晴れ上がりと呼ばれるこの時に先ほど紹介した宇宙背景放射が放出されました。今までプラズマに阻まれほとんど進むことができなかった光がこの瞬間から邪魔されることなく宇宙の彼方へと飛んでいき、たまたま地球という星に到達した時に観測されたのが宇宙背景放射というわけです。この宇宙背景放射は全方向にわたって温度の差が非常に少なく、これはインフレーション時代において宇宙が急激に膨張し、観測可能な宇宙の範囲を均一にしたためだと考えられており、インフレーションが発生したという有力な証拠の1つとなっています。
しかし宇宙の晴れ上がりにより宇宙に光が満ちたわけではありません。今はまだ原子ができただけで重力により恒星を形成する前の段階。また宇宙背景放射となった光は数百万年も経てば可視領域から外れます。可視領域の光を発する存在が全くないため、この時期を宇宙の暗黒時代とも呼びます。
とはいえ、暗闇の中にも一筋の光は存在するもの。宇宙の温度は徐々に低下し、宇宙の誕生からおよそ1000万年から1700万年の間は宇宙の温度は0°から100°。つまり気圧さえあれば液体の水が存在できるような温度です。もしこの時期に宇宙のどこかで生命の息吹が誕生していたとしたら、そして何十億年後、塵や小惑星に混じって地球という星にその痕跡が到達していたとしたら、パンスペルミア説と呼ばれるこの仮説は地球の生命がどこから来たのかという究極の疑問に対する答えになるかもしれません。
最初の恒星や銀河が形成され始めるのが宇宙誕生からおよそ1億年から5億年。以前のバイエンスでも紹介したダークマターがこの時代の宇宙の構造に大きく関わってきます。ダークマターとは現在ではまだ解明されていませんが、光の影響をほぼ受けない質量を持つ物質だとする説が有力です。質量を持つということは重力により集まる傾向があるということ。まるで蜘蛛の巣のように宇宙全体に広がったダークマターの重力により通常の物質がそこに集まり、やがては銀河を形成していったと考えられています。
恒星については最初は宇宙の温度が現在より高い上にほとんど水素とヘリウムしか存在しないため最初の恒星は太陽の数百倍もの大きさがあったと考えられています。そのような巨大な星は数百万年もすれば燃料を使い果たし、超新星爆発を起こしたと考えられています。この第1世代の恒星のおかげで水素とヘリウム以外の原子が宇宙に多く供給されるようになりました。
第1世代の恒星が残した物質を元に誕生したのが第2世代の恒星たち。第2世代の恒星たちもまだ水素とヘリウム以外の含有量は低く生命には適していないと考えられています。太陽は第3世代の恒星だと考えられ、生命にとって必須である炭素や酸素などの原子を多く含むことが特徴です。太陽は薄いガスや塵の塊に過ぎなかったものが近くの超新星爆発の衝撃波によりガスが乱されやがて重力によって集まったのが始まりだと考えられています。
太陽が誕生したのは宇宙誕生からおよそ90億年後。その辺りまでは宇宙の膨張は減速する傾向がありました。宇宙に存在する物質やダークマターの重力の影響によるものです。しかしこの頃から宇宙の膨張が逆に加速するようになり、それは現在まで続いています。なぜ宇宙の膨張が加速するようになったのか、人類はまだ答えを持っていませんが、これを説明するために空間自体が持つ圧力、ダークエネルギーを考案しました。現時点ではその正体については謎のままですが、ダークエネルギーはこの宇宙で起こっている現象をよく説明できるため、多くの科学者の支持を集めています。
ダークエネルギーが支配的となった現在の宇宙。この宇宙はどこに向かうのでしょうか?現在有力視されているのがビッグフリーズと呼ばれるものです。それはダークエネルギーにより宇宙が加速膨張を続け全ての銀河が孤立しやがて星は燃えつき、温度も物質密度も極限まで低下して宇宙は熱的な死に向かうというもの。そうなるのは宇宙誕生から1兆年から100兆年後になると予想されています。この時期になると宇宙は徐々に光を失っていき、恒星のなれの果てである黒色矮星やブラックホールが存在するのみになります。その黒色矮星やブラックホールでさえも途方もない時間をかけて蒸発し、10の100乗年後にはダークマターと少量の電子などが飛び交う宇宙になっているという説があります。
もしくは以前のバイエンスでも紹介した宇宙の膨張が早くなりすぎて物質が全て引き裂かれるビッグリップや逆に風船が弾けるように収縮に転じビッグバンのように超高温超高密度の状態に戻っていくビッグクランチなどといった可能性もあります。全てはまだ人類が理解していないダークマター、ダークエネルギー、そしてそれらを取り巻く宇宙の法則次第。あなたたち、そしてこの世界はどのようにして生まれたのか、そしてどこに向かっているのか。人類の探求はまだまだ続くようです。
今回のバイエンスはここまで。あれ?寝ちゃった。宇宙のロマンにおやすみなさい。
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