日米・米中首脳会談と東アジア情勢の深層――トランプ外交の力学と台湾・レアアースを巡る攻防

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概要

国連総会に合わせて開催された日米首脳会談、そしてそれに続く米中首脳会談を巡り、神田外語大学の興梠一郎教授と経済アナリストのジョセフ・クラフト氏が、対中政策、台湾海峡を巡る緊張、レアアース供給網、米国内政の行方について多角的な議論を展開した。トランプ大統領の政治的思惑と米政府・議会の基本方針との乖離、そして日本が取るべき外交姿勢について語られた分析を整理する。

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首脳会談の表と裏:日米韓共同声明に見る対中・台湾方針の実際

首脳同士の直接会談と、その前段でまとめられた閣僚レベルの合意文書との間には、明確な温度差や役割分担が存在する。興梠氏は、トランプ大統領と日本の首相による首脳会談そのもの以上に、その直前に発表された日米韓外相レベルの共同声明の内容こそが肝要であると指摘する。

首脳レベルのやり取りでは、直後に控える米中首脳会談への配慮もあり、トランプ大統領の発言は一定程度抑えられたトーンになる傾向がある。しかし、ルビオ国務長官らが主導した日米韓共同声明には、台湾問題に関して「両岸問題の平和的解決を促し、あらゆる一方的な現状変更の試みに反対する」「適切な国際機関への台湾の意味ある参加を支持する」といった踏み込んだ文言が明記された。台湾が国際機関へ参加することは中国側が最も嫌う点であり、首脳会談の華やかな演出とは別に、米国政府・議会が共有する対中牽制の基本方針がこの文書に色濃く反映されていると興梠氏は分析する。

クラフト氏は、首脳会談そのものは全体で約35分、通訳を介した実質的な協議時間は20分から25分程度であり、双方の発言時間を分ければ各10分から15分程度にとどまる点に注意を促す。日本の外務省発表に多数の議題が並んでいても、短時間で詳細な深掘りができたとは考えにくく、首脳間で重要項目を提示し、具体的なフォローは外務大臣や経済産業大臣などの閣僚会談に委ねられたとの見立てを示した。また会談での首相の振る舞いについて、通訳のペースを仕切り直したり、記者団を退出させて機密性の高い議論へ移る主導権を握るなど、堂々とした態度で臨んでいた点を評価した。

加えてクラフト氏は、米政府内でルビオ長官が提起している国際刑事裁判所(ICC)への強い反発にも言及した。米国側には、米軍兵士の訴追や国内移民の強制送還を巡る動きが自国の死活問題につながるとの警戒感がある。日米首脳間では「率直なやり取り」にとどまり具体的な合意には至っていないものの、ICCが本来対象とすべき重大犯罪の枠組みを超えて米国内政に介入しないよう対話を促すなど、日本側が仲介や打開策を模索する余地が残されていると指摘した。


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トランプ外交の行動原理:「勝ち馬主義」と対中姿勢の揺らぎ

トランプ大統領が日本の首相を「歴史に名を残す偉大な首相の一人になる」などと高く評価した背景について、クラフト氏はトランプ氏特有の「勝ち馬主義」によるものだと解説する。トランプ氏は支持率が高く強固な政権基盤を持つリーダーを尊敬し、基盤の脆弱な相手には一方的な要求を突きつけたり無視したりする傾向が強い。国内で高い支持を維持している相手とは真剣に対話し、耳を傾ける姿勢をとるため、首脳個人としての関係構築において日本側は有利な地歩を占めているという。

一方で、大統領個人の取引(ディール)重視の姿勢と、米国の国家戦略との間には深刻な齟齬が潜んでいる。トランプ氏は過去に台湾を「対中交渉のカード」と見なすような不用意な発言を行っており、台湾防衛へのコミットメントを疑わせる波紋を広げた経緯がある。1982年にレーガン政権が提示した「6つの保証」では、台湾への武器売却について中国と事前協議を行わないことが定められており、台湾問題を対中交渉の具にしてはならないという原則が存在する。

しかし、トランプ大統領自身がそうした外交原則を十分に把握しているとは限らず、目先の取引のために譲歩しかねない危うさがある。議会が承認済みの140億ドル規模に上る台湾向け武器売却計画に対しても、超党派の上院議員が早期売却を促す書簡を送っているにもかかわらず、大統領側が明言を避ける姿勢を続ければ、それ自体が中国に対する取引カード化してしまうと興梠氏とクラフト氏は懸念を示した。

さらに、中国の習近平国家主席の訪米に際し、トランプ大統領が空港まで自ら出迎えたことについて、両氏はその政治的影響を分析した。トランプ氏側には中間選挙を前に農産物やボーイング社製航空機の購入を取り付けたいという思惑があるものの、最高指導者が自ら空港に出向く対応は、中国側に「米国の焦りと弱さ」を露呈したと受け取られかねない。中国国内向けには自国のリーダーの権威を誇示する絶好の宣伝材料を与えてしまったと評価された。


26:59

台湾統一に向けたシナリオ:武力侵攻にとどまらない多角的手法

台湾海峡の情勢を巡り、クラフト氏はトランプ政権の任期中(2028年末まで)に中国が台湾統一に向けた明確な行動を起こす可能性を排除できないと指摘する。バイデン前大統領が台湾防衛への軍事介入を明言したのに対し、トランプ大統領はそのような明言を避けている。また現在、米海軍の空母が中東情勢への対応等でアジア地域に展開しておらず、米韓軍事演習の規模縮小など、中国側から見て軍事的な間隙が生じているように映る要素が重なっている。

統一に向けた手法について、興梠氏は大規模な地上戦やミサイル攻撃による全面衝突だけが選択肢ではないと論じる。現実的な脅威として挙げられるのが「兵糧攻め(海上封鎖)」である。

  • エネルギーの脆弱性:台湾の天然ガスや石油の備蓄日数は約14日分程度と極めて短く、海上輸送路を1か月封鎖されるだけで島内の電力供給や経済活動は麻痺状態に陥る。
  • 物流とインフラの遮断:主要港湾(基隆や高雄など)の封鎖に加え、通信を担う海底ケーブルの切断など、すでに軍事演習を通じて実演・検証されている封鎖手法が存在する。

中国の戦略は伝統的な兵法に基づく「文攻武嚇(言論や外交による攻撃と、武力による威嚇)」の組み合わせである。軍事演習によって封鎖能力を誇示して威嚇しつつ、外交面ではトランプ氏から台湾を軽視するような言動を引き出し、台湾内部の世論を「米国は助けに来ないのではないか」「抵抗しても無駄ではないか」という方向へ誘導する世論戦・心理戦が展開されている。

さらに興梠氏は、国共内戦は法的に終結していない未完の戦争であるという認識が中国側に根強く、「どれほどの犠牲を払っても統一を果たす」という執念の強さを米側が見誤ってはならないと警告する。万一、台湾で親中派勢力が影響力を強め、経済的・人的交流が深まる中で内部からの浸透が進めば、流血を伴わずに統治下に組み込まれるシナリオすらあり得る。トランプ政権が「正義や民主主義」ではなく「自国の損得(TSMCをはじめとする半導体供給網の防衛など)」のみで動く以上、台湾問題が軽視されるリスクを日本側は常に念頭に置く必要がある。


37:10

レアアースを巡る主導権争いと西側諸国の供給網再構築

米中対立における最大の急所の一つが、中国が圧倒的なシェアを握るレアアース(希土類)の供給網である。中国は日本向けのイットリウムなどの輸出規制を強めており、半導体製造に必要な在庫が逼迫する懸念が出ている。中国側は、米国向け製品を製造する日本企業には一定のデータ開示を条件に輸出を認める一方、日本国内向けにしか使わない企業への供給を止めるなど、極めて巧妙な選別と圧力を加えている。

クラフト氏は、米中間の関税枠組みの延長について、米国が融和的になったのではなく、中国にレアアースという急所を握られているために強硬策に出られない実態があると指摘する。レアアースや永久磁石の供給が完全に断たれれば、米国の防衛産業や自動車産業は深刻な稼働停止に追い込まれるためである。さらに、中国側はレアアースを使用する製品の用途や輸出先データの提出を企業に求めており、軍事転用や特定国への流通を厳格に管理・把握する力を強めている。

これに対抗するため、日米はオーストラリアやフランスなどの有志国を巻き込み、重要鉱物の供給網強靱化に向けた行動計画を進めている。レアアースの課題は単なる採掘だけでなく、環境負荷の高い「製錬・加工プロセス」の技術と施設を中国が独占してきた点にある。興梠氏は、かつて米国が環境汚染やコスト競争を理由に撤退した経緯を振り返り、西側諸国で製錬インフラを再建するためには、政府による「最低価格保証制度」などの公的支援によって民間投資を支える仕組みが不可欠であると説く。

代替技術の開発やリサイクル、供給網の多国間連携が進めば、中国が持つ「レアアースの独占」というカードの価値はやがて薄れていく。そのため、クラフト氏は、自らの優位性が失われる前の数年(2028年前後まで)に中国が動く動機になり得ると分析し、経済安全保障上の時間軸を見極める重要性を訴えた。


11月米中間選挙の逆風とトランプ政権の「レガシー外交」

米国内政に目を向けると、11月に控える中間選挙においてトランプ政権は極めて厳しい立場に置かれている。クラフト氏によれば、トランプ大統領の国連演説での発言――「自分は出馬しておらず、共和党を手伝っているだけだ」という趣旨の弁明――は、すでに中間選挙での敗北を織り込み、責任回避を図るポーズにほかならない。

米国民の不満の根底にあるのは激しいインフレとエネルギー危機である。

  • ディーゼル燃料の危機:全米平均価格が高騰し、物流、農業、医療、軍事など経済基盤全体を直撃している。輸出停止措置が報じられるほど事態は切迫している。
  • 支持率の低迷:直近の世論調査では、生活費対策への支持率は10%台に沈み、大統領の職務支持率も30%台前半に低迷、議会選挙での支持意向でも民主党が共和党を大きくリードしている。

中間選挙で下院、あるいは上下両院を民主党に奪回された場合、政権幹部や関連企業に対する議会の調査・弾劾手続きが本格化し、内政は停滞を余儀なくされる。トランプ大統領は予算権限を議会に握られて内政での主導権を失うため、大統領権限で動かせる「外交」に活路を見出そうとする公算が大きい。

その結果として懸念されるのが、大統領自身の「個人的レガシー作り」を優先した予測不能な外交である。国連演説で触れられたキューバ体制の転覆模索や、金正恩氏との再会談など、歴史的成果を誇示するための行動に走る可能性がある。もし習近平国家主席が「北朝鮮との会談設定」や「大規模な通商購入」をトランプ氏のレガシーとして持ちかけ、その見返りに台湾問題での譲歩を迫った場合、トランプ氏が自らの名声のためにそれに応じる危険性をクラフト氏は指摘した。


1:04:01

日本外交の指針:同盟強化と「国力」に裏打ちされた毅然たる姿勢

米中関係が流動化し、トランプ政権の行動が読みにくくなる中で、日本が取るべき戦略について両氏は具体的な提言を行った。

米中首脳の接近やパフォーマンスに動揺し、日本が慌てて中国に対して融和的な態度を取ったり、頭越し外交を恐れて下手に低姿勢に出ることは最も避けるべき悪手である。興梠氏とクラフト氏は以下の原則を共有する。

  1. 安易な融和姿勢の戒め:中国は米中関係が緊密なときは日本を軽視し、米中関係が悪化しているときに限って日本へ接近してくる傾向がある。日本側から頭を下げて会談を懇願しても、相手に足元を見られるだけで外交的利益は得られない。
  2. 演出・プロパガンダへの警戒:中国外交は「相手を待たせる」「下を向いた瞬間の写真を撮る」「わざと小声で話して頭を下げさせる」など、映像やイメージを通じた心理戦を緻密に仕掛けてくる。国内政治家や若手議員の安易な訪中が、相手の国内向け宣伝や分断工作に利用されないよう、日本国内で対中・対台湾政策の足並みを統一する必要がある。
  3. トランプ大統領への直接対話:トランプ氏に対しては、強固な政権基盤と高い支持率を示し続けることが最大の抑止力となる。安倍政権期のように、頻繁な電話外交を通じて個人的な懐に入り込み、米国の国益と直結する形で東アジアの安全保障の重要性を説き続ける努力が欠かせない。
  4. 多国間連携と自前の国力:インドやオーストラリアなど、基本的な価値を共有するミドルパワー諸国を結集し、力による現状変更に反対する勢力のリーダーシップを日本が発揮していくべきである。

最終的には、他国への依存や外交的駆け引きだけでなく、日本自身の経済力、軍事力、技術力といった総合的な「国力」を高めることこそが、激変する国際秩序の中で主権と国益を守り抜く唯一の基盤であるという認識で議論は締めくくられた。