松本大氏が語る日本株の伸びしろ 経営者の世代交代、金利上昇、2500兆円の個人資産

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概要

マネックスグループ創業者で会長の松本大氏が、フリーアナウンサーの大橋ひろこ氏の聞き手で、日本経済と日本株の今後について語った対談の後編である。松本氏は東京証券取引所に助言する有識者会議「市場区分の見直しに関するフォローアップ会議」に初期から参加しており、現在もメンバーを務めている。大橋氏は、この会議の要請が経営者の意識を変え、株価上昇につながったと見ている。これに対して松本氏は、日本企業が変わった本当の理由は経営者の世代交代にあると述べた。そのうえで、日本株には資本配分と事業再編の面でまだ大きな伸びしろがあり、金利上昇も日本株にとってはむしろ悪くない、という立場を示した。

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「鉄下駄を履いて走ってきた」日本経済

松本氏は以前から、日本企業はPBR1倍割れを放置したまま「鉄下駄を履いて走ってきた」と指摘してきた。対談ではこの表現を、経営の三大リソースである「物・金・人」を使って説明した。

松本氏によれば、日本はこの3つのどれも最適に配分してこなかった。資本は社内に貯め込みすぎた。生産設備については、日本の上場企業数がアメリカの倍ほどあり、設備が細かく分かれて多くの会社に分散している。規模が大きい方が強いはずなのに、無駄が多い状態だという。人材では年功序列を続けてきた。松本氏は地区優勝したドジャースを例に挙げ、年功序列でメンバーを組んだら絶対に勝てないと話した。

それでも日本は長くGDP世界2位を保ち、今も4位前後にいる。松本氏はこれを、鉄下駄を履いたまま五輪に出て銅メダルを取っているような状態だと表現した。鉄下駄を脱ぐとは、資本を適切に配分し、生産設備を集約し、人材については能力主義を取り戻すことである。設備の集約では、得意な事業を得意な会社に集める「ベストオーナー」の考え方を挙げた。松本氏は、市場も会社も何も変わらなくても、リソース配分を改善するだけで日本はまだ速く走れると主張してきたという。そして日本企業が実際に変わり、株価も上がってきたのは、この5年ほど、特にコロナ禍のころからだと振り返った。

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まだ「めくり」の段階、世界が資本を奪い合う中で日本には資本がある

大橋氏は、「資本コストや株価を意識した経営」という東証の要請によって、自社株買いや設備投資など経営者の行動は変わったと述べ、まだ改革の余地はあるのかと尋ねた。松本氏は「まだめくり」だと答えた。

松本氏の見方では、世界的に見ると日本企業はまだ資本が余っており、その使い道を分かっていない。一方で世界では金利が上がり、AIに巨額の投資が必要になっている。お金はあっても資本が足りず、資本の奪い合いになっている。その中で資本を持っている日本企業は、それを使えば世界の競争で勝てる可能性があると松本氏は考えている。

事業再編の余地を説明するために、松本氏はバイクメーカーを例に挙げた。実際にそうした再編を考えているわけではなく、分かりやすいので使う例だと前置きしたうえでの話である。世界のどの国でも、バイクメーカーは1国あたり0.2〜1社程度しかない。アメリカはハーレーダビッドソン1社だ。ところが日本には、ヤマハ、スズキ、カワサキ、ホンダの4社がある。同じような例はほかにもいくらでもあり、上場している同業企業が20数社ある分野もあるという。松本氏は、これは厚みがあるとも言えるが、国同士で戦うにはもったいないと述べた。

銀行ではメガバンクが生まれた。アメリカでもシティ、バンク・オブ・アメリカ、JPモルガン・チェースの3行に集約されている。松本氏によれば、アメリカでは金融以外のセクターでも集約が進んでいる。そうしなければ、現在のような巨額投資に耐えられないからだ。日本はまだバラバラのまま頑張っている、というのが松本氏の認識である。

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事業ポートフォリオ再編への税優遇

具体的な政策の動きとして、松本氏は約1か月前に経済産業省が発表した、事業ポートフォリオ再編に伴う税優遇を挙げた。

想定されているのは、企業同士の統合ではなく、事業単位の交換である。A社がやっている事業のうちB社の方が得意なものはB社に売り、B社の事業でA社が得意なものはA社に売る。ところが今は株価が上がっているため、売却する事業の値段が高くなり、多額の税金がかかってしまう。そこで、事業をよりよいオーナーへ移すことがA社にもB社にも社会にも国にも有益だという理由から、高市政権が税優遇を行うという。

松本氏によれば、かつてドイツでも似た改革が行われた。また、松本氏が寄付して設立された東京大学の研究センターも、今年の春に同様の提言を出していたという。松本氏は、資本の使い方と事業再編の両面で、日本企業は「チャンスの塊」であり、投資家から見てもチャンスがごろごろしていると語った。

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アクティビストファンドの現場で感じる変化

松本氏のグループはアクティビストファンドを運営している。運用はマネックス・アセットマネジメントが担い、松本氏はカタリスト投資顧問として助言する立場にある。設立は2019年か2020年ごろだという。

松本氏によれば、当時と比べると、投資先企業が「話を聞きましょう」という姿勢を見せることがはるかに増えた。かつての日本企業はアクティビストに対して壁があり、話を聞いてもらえない雰囲気があった。この変化の最大の要因として、松本氏は経営者の世代交代を挙げた。

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成功体験の世代が会社から去った

松本氏は世代交代を「すごく重要なコンセプト」だとして、少し長く説明した。

敗戦で焼け野原になった日本は、わずか20数年で世界第2位の経済大国になった。その後も1989年まで株価は上がり続けた。この時代を経験した経営者、官僚、メディアには「超ウルトラ」な成功体験があり、自分たちのやり方が奇跡を生んだと考えた。バブル崩壊後にアメリカの経済学者などが日本は変わるべきだと言い始めても、「ジャパン・アズ・ナンバーワン」だった自分たちの考えが一番正しいとして、外の声をあまり聞かなかったという。

松本氏は1987年に働き始めた。株価のピークは1989年だが、社会のピークはおそらく1987年ごろで、松本氏が働き始めてから日本は衰退していった。松本氏の世代やそれより若い世代は、アメリカによりよい経営手法があるなら学んでまねればいいと自然に考えていた。しかし先輩世代は、これまでの自社のやり方にこだわった。

およそ10年前から、松本氏の世代にCEOのポストが移り始めた。それでも、成功体験を持つ先輩たちは相談役やアドバイザーとして会社に残り、毎日出社してCEOと同じフロアにいた。そのため、なかなか会社を変えられなかったと松本氏は言う。

状況が変わったのは2020〜2021年のコロナ禍だった。リスクがあるからと、先輩たちは会社に来なくなった。その間に秘書も入れ替わった。コロナが終わっても、先輩たちは戻ってこなかったという。松本氏によれば、そこで初めて、松本氏の世代やそれより若い経営者が、受け継がれてきた成功体験に基づくやり方から離れ、自分で考えた経営をするようになった。社外取締役や株主、エンゲージメントファンドやアクティビストの話を聞くようになったのも、コロナが終わるころからだという。

このため松本氏は、日本企業はコーポレートガバナンス・コードや東証の改革によって変わったのではないと明言した。世代交代で変わる臨界点に来ていたところに、たまたまフォローアップ会議の提言や要請が出た。それが触媒(カタリスト)となって一気に変化が進んだ、というのが松本氏の解釈である。

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金利上昇で資本コストは10%が当たり前に

収録当日、日本銀行は0.25%の利上げを決め、政策金利は1.25%になった。今後1.75%や2%まで上がるとの見方もある。大橋氏の問いに対し、松本氏は金利が上がる分だけ資本コストも上がるはずだと述べた。

伊藤レポートの時代には、ROEは8%以上が必要だと言われた。しかし当時は金利がなく、マイナス金利でもあった。金利がつけば、少なくともその分は資本コストが上がって当然である。松本氏は、これからは資本コスト10%程度が当たり前になると見ている。そうなると、今ある資本をどこに振り向けるかが非常に重要になる。

松本氏はここで、外部の目の役割を強調した。経営者は良い悪いではなく、自分の得意分野や、歴史的に続けてきた事業に注意が向きがちである。得意分野をもっと伸ばすべきではないか、この事業は別の会社に譲った方がお互いのためではないか、といった点には外の人の方が気づきやすいという。日本は資本が余っているからチャンスだと言っても、それは資本をきちんと使えばという条件付きである。使わなければ資本は寝ているだけだ。だからこそエンゲージメントの価値が高まっている、と松本氏は述べた。

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エンゲージメントの進め方

松本氏はファンドでの対話の進め方も説明した。最初はすべて経営者から教わる姿勢で臨む。自分たちから見て不得意と思える事業をまだ続けているなら、何か理由があるはずなので教えてほしいと尋ねる。それを理解しようとしたうえで、外から見るとこう見えるという気づきを伝える。経営者が「なるほど、そうかもしれない」と受け止めれば、少しの刺激で考え方が大きく変わり、生産性が大きく上がることもある。ただし、それはうまくいけばの話だという。

ファンドが経営者と話せる回数には限りがあり、毎月話すのは難しい。そこで、同じような気づきを継続的に与えられる社外取締役を置いてはどうかと提案し、その候補者を推薦することもあるという。

松本氏は、会社を変えるのは自分たちではなく経営者・経営陣であり、自分たちが会社を変えるというおこがましいことは考えていないと述べた。役割は刺激や気づきを与え、時には少し後押しすることだという。人は居心地が良くなると現状のままでいいと考えがちだ。松本氏はこれを勉強にたとえた。先生も定期テストもなしに自分のペースを守って大学受験まで勉強し続けるのは普通は無理で、外からの目が入ることは重要だという。

19:43

個人投資家は「経営者を見よ」

個人投資家は何を見極めればよいのかという問いに、松本氏は経営者だと答えた。高度成長期や人口増加期のように軒並み右肩上がりの時代であれば、どれだけ良い顧客や商流、商品を持っているかで会社の良し悪しが決まった。しかし人口が減る今の時代には、どこに資本を使い、どんな変化を起こすかという新しいアクションが重要であり、それを起こすのは経営者だという。

経営者の見方として、松本氏はIRでの話しぶりや、統合報告書ににじみ出る経営陣の考え方を挙げた。さらに、日本の株主総会は個人株主が大勢参加して多くの質問が出る、世界的にも珍しい場だと指摘した。究極的には総会に行き、手を挙げて質問してみるのも面白いと勧めた。

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日銀の利上げは日本株にとって悪くない

続いて話題は日銀の利上げに移った。利上げのペースが速まり、最終的な到達点(ターミナルレート)は2%程度との見方もある。このスピードで株式市場は大丈夫かという問いに、松本氏は、今日もこの数日も株価は上がっており、そんなに弱くないと答えた。

松本氏はその理由として、日本企業の財務構造を挙げた。アメリカやヨーロッパの企業は多額の借り入れをして投資や配当、自社株買いに回している。日本企業はまだお金が余っており、ネットで見ると負債をほとんど持っていない。そのため金利が上がっても利払いはそれほど増えず、損益計算書が急に悪化して利益が減るわけではないという。アメリカでは金利が上がれば株価が下がると教科書に書かれており、実際に2022年には株価が大きく下がった。しかし日本では単純にそうは言えないと松本氏は述べた。

さらに松本氏は日銀の説明に注目した。企業物価は7%ほど上がっているのに消費者物価は上がっておらず、そろそろ価格転嫁が進むはずだという説明である。これは企業の販売価格が上がることを意味し、企業収益に直接プラスになると松本氏は解釈した。一方で、資本コストが上がれば投資家が求めるリターンも高くなるため、資本をどう振り向けるかがさらに重要になる。

松本氏は、良い循環が始まりつつあるから金利を上げるのであり、今の日本で金利が上がるのは悪いことではないと述べた。企業業績はそれほど悪くならず、少し円高になることにも良い面がある。そのため日本株は世界の中で唯一比較的良いと考えているという。

25:13

2500兆円の個人資産と「資産配分が重要な時代」

大橋氏は、松本氏が2023年に著書『2000兆円の使い方』(資本市場立国論)を出したことに触れた。当時2000兆円だった個人金融資産は、今週の日銀の統計では2500兆円に増えている。

松本氏は、個人資産は増えているものの政府の借金も増えており、将来の税負担は大きくなるので一概には喜べないと述べた。インフレの影響もあるという。

松本氏によれば、デフレ期には投資をしてもしなくてもほとんど差が出なかった。円が強く、株や不動産は値下がりしたため、金利がなくても預金しておくのが一番得だった。インフレ期になると、どんな投資をするかで大きな差が出る。今後の2500兆円も全員が同じように豊かになって増えるのではなく、人によってまったく違う増え方をするだろうと松本氏は見ている。企業にとって資本配分が重要になったように、個人にとっても資産配分が重要な時代が、バブル期以来およそ40年ぶりに来ていると松本氏は述べた。

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10年国債3%か、配当4%の大型株か

金利がつく時代の選択肢として、大橋氏は注目が高まる国債について、債券トレーダー出身の松本氏に尋ねた。松本氏は、クーポン3%の10年国債は、それほど勉強しなくても安心して持て、10年後に元本が戻ってくるので「まあまあ悪くはない」と評価した。

一方で、経営がしっかりした大企業で配当利回りが4%ほどある株もある。松本氏は、世代交代によって日本の優良上場企業の経営は以前より本当に良くなっていると強調した。世界情勢に合わせてダイナミックに経営すれば配当が出続け、リスクはあるものの株価が上がる可能性も十分にあるという。3%のクーポンだけを受け取る国債と、配当利回りに加えて企業経営の改善にも賭けられる株を比べると、松本氏は後者の方が勝るのではないかと述べた。

松本氏自身は専門家として、もっとリスクの高い会社にも投資している。そのうえで個人投資家には、日本を代表する大企業で配当がきちんと出ており、経営者も競争を経て選ばれている会社なら「まあまあ安心」で、十分に選択肢になると話した。

29:53

海外マネーはまだ日本に来る

日経平均を7万円まで押し上げた背景には、日本の経営者の変化を評価した海外投資家の資金がある。高市改造内閣が発足して成長戦略も打ち出される中、グローバルな機関投資家はまだ日本に来るのかと大橋氏は尋ねた。松本氏の答えは「イエス」だった。

松本氏はその理由を地域ごとに説明した。ヨーロッパには戦争があり、フォルクスワーゲンのような名門企業が10万人規模の人員削減を口にしている。中東についても、トランプ氏がサウジアラビアの核武装を容認しようとしているといった話があり、不安やリスクが大きい。そのため、ヨーロッパに資金が大きく流れるとは考えにくい。アメリカにはAI開発があるが、金利が上がっており、教科書的には不安もある。巨額の資金をアメリカ一本足に置くわけにはいかない。中国は投資対象として有望かもしれず、トランプ氏と習近平氏の会談にも注目しているという。ただし、規制がすぐ入るため、流動性を伴う安心できる資本市場とは言えない。

結局、巨額の資金を流動性を保って普通に投資できる場所は、アメリカ、ヨーロッパ、日本に限られる。アメリカ一本に絞れない以上、日本が選ばれると松本氏は見ている。加えて、日本株は金利上昇局面でも必ずしも下がらず、エンゲージメント次第で日本企業が勝てるチャンスもある。こうした理由から、世界の資金はまだ日本に注目していると松本氏は述べた。

32:19

日経平均10万円、そして10年で2倍の見通し

日経平均は2026年に7万円に達し、ペースが速すぎるとの声もある。中長期の見通しについて、松本氏は、10万円まで行くのかとよく聞かれるが、それは「まあまあすぐ」だと思うと答えた。

松本氏によれば、日経平均はこの3年ほど年率20%前後で上昇してきた。今後は金利が上がる一方で経営の質も大きく向上しており、年率7%程度で上がる可能性は十分あると見ている。年率7%なら10年で2倍になり、日経平均は13万〜14万円になる計算だ。松本氏は、エンゲージメント運用などをきちんと行うアクティブファンドの方がインデックスより良いと考えているが、インデックスでも10年かければ2倍になるだろうと述べた。

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個別株選びこそ個人投資家の醍醐味

どの株やセクターを買えばよいかについて、大橋氏は、セクターよりも変わる余地のある企業に注目するのが面白いのではないかと問いかけた。松本氏はこれに同意し、個人投資家の本当の醍醐味は自分で個別株を選ぶことだと述べた。

選ぶきっかけは、この経営者は面白いと感じることでもいいし、自分が買っている化粧品のような身近な製品でもいい。松本氏は、生活の中で接していれば、良くなった変化だけでなく「この人最近ダメ」「この製品最近ダメ」という変化にも気づけるので、乗り換えることもできると話した。

一方で、経営者との対話の価値が高まっている今は、エンゲージメントを行うファンドにも妙味がある。本当に長期で考えるなら、コストの低いインデックスファンドを持ちっぱなしにするのもありで、緩やかなインフレが続けば必ず上がってくると松本氏は述べた。そのうえで、好きな経営者、好きな製品、あるいは「まあまあの配当でちゃんとした経営者がいる超大企業」など、日本株には探せば「いくらでも宝の山」があると語り、対談を締めくくった。