セメントの「化学式由来のCO2」をどう回収するか:Litherm Technologiesの電化キルンと産業パートナー戦略

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概要

FoundXの番組「FoundX Review Startup IdeaCast」は、海外スタートアップの事業アイデアをAIで分析し、起業を考える人向けに紹介している。今回取り上げたのは、ドイツのクライメットテック企業Litherm Technologies(リサームテクノロジーズ)だ。番組は冒頭で、AIを使って情報を整理しているため一部が古かったり誤っていたりする可能性があると断っている。本記事の数値や経緯も、番組内で報告・推測された内容として読んでほしい。

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解説役がこの会社を選んだ理由は二つある。一つは、同社が対象とするセメント産業が世界のCO2排出量の約8%を占め、市場として大きいこと。もう一つは、シード期から顧客候補を巻き込み、実証用の敷地と原料の供給を受けている進め方が巧みだと考えたことである。

会社の概要:完全電化と蒸気流動層による石灰・セメント製造

Litherm Technologiesは2019年に創業し、ドイツを拠点とする。完全電化と蒸気による流動化の技術を使って、石灰とセメントの製造を脱炭素化することを目指している。2026年3月には650万ユーロのシード調達を実施した。

目指すのは、CO2排出ゼロの石灰・セメント製造プロセスである。番組が強調した前提は、石灰やセメントの製造で出るCO2の約6割が燃料ではなく原料に由来する点だ。石灰石(CaCO3)を分解すると、化学式どおりCaO(生石灰)とCO2が生じる。そのため燃料を100%再生可能エネルギーに置き換えても、排出の60%は残る。

これに外部環境の変化が加わる。解説役は、EU ETS(EUの排出量取引制度)の価格と、2026年から適用される炭素国境調整メカニズム(CBAM)によって、規制の圧力が強まっていると説明した。聞き手の馬田氏が「炭酸カルシウムを原料とする限り化学式からは逃れられない」と応じると、解説役は、競合には原料そのものを変える会社もあると補足した。そのうえで、炭酸カルシウムを使い続けるならCO2の発生は避けられないため、出さないようにするのではなく回収しやすくする方向を選んだ会社だと位置づけた。

課題:既存のキルンでは排ガスが「汚れて」いる

ターゲット顧客は世界の石灰・セメントメーカーである。石灰はセメント以外にも鉄鋼や水処理など用途が広い。解説役によれば、石灰は市場参入の段階で必要性を証明しやすいことも、対象に含めている理由のようだ。

既存のCCUS(炭素回収・有効利用・貯留)には弱点がある。従来のキルンの排ガスには窒素や未燃成分などが混ざっており、そこからCO2だけを分離・回収するには追加の設備が多く必要になる。エネルギーとコストもかさむ。一般的なセメントキルンの排ガスのCO2濃度は15〜30%程度で、これを90%以上に濃縮するのが難しいという。

後付けのコストについて、解説役は調べた範囲の数字を挙げた。設計研究ベースではトン当たり50〜100程度で、実案件では回収設備だけで数十億円から百数十億円規模になる。輸送や貯留まで含めると負担はさらに重くなるとされる。そこでLitherm Technologiesは、最初から混じりけのない純粋なCO2をいかに取り出すか、という課題に取り組んだ。

原料を置き換えるアプローチについても、この段階で触れられた。代表例はBrimstoneで、最終的に作るものが既存の石灰・セメントとは変わる。そのため建築基準や供給網の変更が必要になり、普及に長い時間がかかると見込まれている。

解決策:「薪に火」から「IHで加熱」へ

同社の解決策は、完全電化の流動層反応器と、蒸気による流動化の組み合わせである。解説役は、従来のキルンを「薪に火をつけ、薪自身が燃えて熱を出す」イメージにたとえた。これに対してLitherm Technologiesのリアクターは、「フライパンをIHで加熱し、その上の材料が変化する」ような仕組みだという。

メリットは二つある。一つ目は、燃焼を伴わないため燃料由来の排ガスが出ず、窒素酸化物を含む排ガスも発生しないこと。二つ目は、流動化の媒体に蒸気を使うため、排出ガスを冷やすだけで水とCO2に分けられることだ。解説役自身もここは調べて理解したと述べ、リアクター内の様子を「お湯がボコボコ沸く」状態にたとえた。細かい粒子にした石灰石を蒸気でボコボコと流動させて反応させると、出てくる気体は水蒸気と、石灰石から出たCO2だけになる。これを冷やせば水蒸気は水に戻り、CO2が取り出せる。

馬田氏は、大量の蒸気をつくる水とエネルギーのコストを質問した。解説役によれば、同社は凝縮時に得られる温かい水を蒸気づくりに再利用するクローズドループ設計をとり、熱エネルギーの消費をなるべく抑えているという。

ラボから商用規模に広げる際の技術的な壁も尋ねられた。解説役は、ちょうど今より大きな規模で試している段階だろうとしたうえで、推測を述べた。リアクターが大きくなったとき、流動する粒子がどう動くかといった点がハードルになるのではないか、という見立てである。

市場:年間約30億トンの排出と、規制が生む需要

市場規模は金額ではなく排出量で示された。石灰・セメント産業全体で年間約30億トンのCO2を排出している。この市場の需要は消費者の嗜好ではなく、企業が事業を存続できるかどうかという規制対応によって生まれる。初期ターゲットは、ETSのような環境規制が世界に先行しているEU市場だ。

馬田氏は、規制の緩和や後退がリスクになるのではないかと問うた。解説役は、それが最大のリスクだと認めた。ただし同社は欧州の脱炭素の流れを不可逆だと見ており、遅れることはあってもなくなる可能性は低いと見込んでいるようだ、と紹介した。

ビジネスモデル:プラントを持たないアセットライト型

現段階の同社は、自社でプラントを建設・保有しないアセットライトなバリューチェーンをとっている。自社は特許とコア設計に特化し、実際の建設はパートナー企業が担う。収益源として見込んでいるのは、特許技術のライセンス供与とコンポーネントの販売である。

馬田氏は、やることを意外とコンパクトに絞っていると感想を述べた。解説役は、これは今後変わるかもしれないとしつつ、見通しを語った。業界標準のプラットフォームになれれば、世界中のプラントからライセンス収益を得るモデルにもなりうる。保守運用で稼ぐ可能性についても「あるかもしれない」と応じたが、どこまで見込んでいるかは現時点の情報からは見えづらいとした。

EPC(設計・調達・建設)企業の巻き込み方も話題になった。馬田氏は、日本で大型のスタートアップを立ち上げようとする人がEPCとの関係で困りがちだと指摘した。解説役によれば、同社のケースでは、脱炭素化で既存キルンの建設が減っていく中、次世代の脱炭素プラントを新しい案件パイプラインとして得られることがEPC側の誘因になると見込まれている。これを受けて馬田氏は、自身の推測を付け加えた。日本のEPC企業は海外に市場を求めて出ていくほど強いからこそ新しいものに手を出しにくく、EU側はむしろ弱いから新しい案件に飛びつくのかもしれない、というものだ。

戦略:顧客候補から敷地・原料・資本を得る

番組が「産業パートナー連動型のディープテック実装」と呼んだのが、同社の戦略の核心である。インフラを自社単独で構築するリスクを避け、顧客候補を含むエコシステムから、工場の敷地、既存の原料供給ライン、資本を外部調達している。自社で内製化するのは、特許と、リアクターの熱・流体設計のノウハウだけだ。長期的には、燃焼式キルンを過去のものにし、電化とプロセス一体型のCO2回収を新しい業界標準にすることを狙っている。

馬田氏はここを高く評価した。日本の同種のスタートアップがバリューチェーンを自ら伸ばす理由の一つは、顧客がなかなか使ってくれないことにあると馬田氏は考えている。すでに乗ってくれる顧客がいるなら自分たちで伸ばす必要はない、という判断は合理的だと述べた。解説役は、こうした関係がどういう経緯で生まれたかまでは確認できなかったと断った。そのうえで、場所を提供した会社から投資も受けているようだと紹介した。

重要な経営リソースは何かという問いに、解説役はまず知財を挙げた。加えて、CEOにはプラント設計に関わる業界経験があるようだと述べ、相手企業のCEOと渡り合えるビジネス面のスキルも求められるのではないかとした。

ロードマップ:ラボ、パイロット、商用化

ロードマップは典型的なディープテック型である。フェーズ1(2019〜2023年)はラボでの検証で、プロセス開発、特許取得、技術原理の証明に取り組んだ。現在のフェーズ2では、前述の拠点でパイロットプラントの建設と試運転を始めている。フェーズ3では、これを拡張して商用化を進める。

パイロットで検証すべき点について、解説役は効率に加えて、ラボとの違いとして耐久性と安定性を挙げた。長期間止まらずに連続稼働できるかどうかである。フェーズ3ではデモプラントの建設が必要になり、数十億から数百億円規模の資金を要すると見られる。この段階から大きな資本を巻き込むことが求められるという。

競合比較:最終製品は変えず、工程を作り直す

解説役がポジショニングで面白いと述べたのは、最終製品を変えずにプロセスを新しく作り直す点である。競合は次のように整理された。

  • 既存設備に後付けで回収を行う企業(番組内では「ライラク」と呼ばれた。説明欄の競合リストではCalix)
  • 電化はするが、プラズマなど別の技術を使うSaltX
  • 新素材を出すSublimeとBrimstone

Litherm Technologiesの参入障壁(モート)は、特許と業界大手との実証関係にあると解説役は見る。

馬田氏は、Breakthrough EnergyがBrimstoneも支援している点に触れた。解説役は、両社とも同じ大きな市場と排出削減ポテンシャルに取り組んでいるため評価されていると述べた。一方で勝ち筋が違うため、両方を支援しているのだろうと推測した。Litherm Technologiesは石灰石をそのまま使い、熱の与え方と蒸気の使い方を変える。これにより燃焼由来のCO2と汚れた排ガスをなくし、石灰石由来のCO2を副産物として取り出しやすくする。反応自体は変えない。これに対してBrimstoneは、炭素を含まないケイ酸カルシウム岩を原料にしており、材料から作り直すタイプである。

馬田氏は、建設領域は排出が多いので、どの「山の登り方」でもゼロにできればよいというポートフォリオ的な賭け方だろうと述べた。解説役も、長期的にはBrimstoneかもしれないが、置き換えやすさではLitherm Technologiesと考えられているのかもしれない、と応じた。

Sublimeとの違いについても説明があった。製品をがらりと置き換えるアプローチは認証などが必要で、市場浸透に時間がかかると考えられている。Litherm Technologiesは生産物が変わらないため、規格や安全性の壁をすぐに越えられる。さらにSublimeとBrimstoneがセメント代替に特化しているのに対し、同社は石灰という他の領域も扱っている。既存産業の枠組みを壊さないので、既存の石灰・セメントメーカーをパートナーとして巻き込みやすい。

馬田氏は、中期と長期でそれぞれ最適な解が違うという話だと受け止めた。そのうえで、電化するなら電力をどうするかという問題も出てくると指摘した。解説役は、再エネでなんとかするという程度の見立てかもしれないと答えた。SaltXとの技術的な違いについては、蒸気で石灰石を「沸かす」方式とCO2の分離しやすさがLitherm Technologiesの特徴で、SaltXはプラズマで加熱する点が異なる、と説明した。ただし詳しくは調べられていないと断っている。

参入戦略:MVPとBreakthrough Energy Fellowship

初期ターゲットは、脱炭素の意思はあるが、燃料転換だけでは限界を迎える石灰メーカーだ。MVPはプラントではない。解説役は、電化した蒸気流動によってCO2を高純度で分離できることを示したラボ実証がこれに当たると見る。

顧客獲得では、Breakthrough Energy Fellowshipにドイツ企業として初めて採択されたことをテコにした。資金、実証環境、産業パートナーを同時に囲い込んだという。なぜこの支援が効くのかと馬田氏が問うと、解説役は理由を二つ挙げた。厳格な技術デューデリジェンスを通過したことが「お墨付き」になること。そして保守的な重厚長大企業の背中を押しやすいことである。

既存ワークフローへの適合性は、具体的には物理的なつながりを指す。原料が同じなので、既存の採掘・粉砕ラインからそのまま石灰石を受け取れる。出口も同じなので、既存の貯蔵・出荷に製品を渡せる。

起業プロセス:特許を先行させ、現場に統合する

初期チームは、技術・研究系のメンバーと事業化を担うマネジメント系のメンバーで構成されている。CEOのフェリックス・ネレス氏は研究者ではない。世界的なメーカー(音声では「クセラ」)で脱炭素・排出削減のプロジェクトマネージャーを務め、その前はバイオマスや廃棄物のガス化プラントといった重厚長大なクリーンテック設備の事業開発をしていたという。ほかに共同創業者が2人いるが、解説役は技術系のバックグラウンドだろうと推測するにとどめた。大学発かどうかは公開情報からは明確でない。ただし、技術系創業者が温めてきた着想がベースではないか、と解説役は見ている。

創業期の同社は、プロダクトづくりより特許による保護を優先し、先に参入障壁を築いた。2020年以降はハードウェアのスケールアップとパートナー開拓に移り、2024年にプラント建設用の敷地と原料の供給を受けた。解説役は、ラボでの物理仮説の検証、知財による防御、現場への統合の三つが連動している点を評価した。中でも現場への統合が最も大きく、稼働中の石灰プラントの敷地内に実証地と原料供給ラインを確保できたことが大きな転換点になったという。

最初の実証先をどう口説いたかの詳細は分かっていない。解説役は、ビジョン、ラボでの実証、フェローシップ採択が効いたのだろうと推測した。開発コストについては、高温・高圧を扱う部品と安全性を担保する設計に多くかかったのではないかとした。実験も何度も繰り返せるものではなさそうなので、パイロット建設まで5年かかったのだろうと述べている。

資金調達:出資者が敷地と原料も提供する

2026年3月のシードラウンドは約650万ユーロ(番組内では10億円以上と表現)である。投資家の構成に特徴がある。Breakthrough Energyのような気候系の出資者、ドイツで実績の多いベンチャーキャピタルに加えて、石灰・石灰石を中心とした素材を扱う老舗の産業企業も出資している。さらに、出資者であるSigmaRocのドイツ子会社がパイロットプラント用の敷地と原料の供給を担っている。

業界大手がシード段階から出資した理由について、解説役は二点を挙げた。従来プロセスを変えずに済む技術に早くアクセスできること。将来のライセンス交渉を有利に進められることである。馬田氏は、スタートアップ側にとってM&Aによるエグジットの道も開けるかもしれないと付け加えた。解説役は同意し、出資しているセメント・石灰のメジャーやプラントエンジニアリング大手が買い手候補として見えてくるだろうと述べた。

日本で起業するなら:AIが考えた3つの案

番組はAIが考えた日本での起業アプローチを3案紹介した。

  • 案A:既存のセメント大手とジョイントベンチャーを組み、その敷地内で実証して設備投資のリスクを分散する。
  • 案B:鉄鋼やファインケミカルなど、高品質で脱炭素プレミアムがつきやすい特定用途向けの小型プラントから始める。
  • 案C:アセットライトに徹し、既存のEPC企業と組んで自社はリアクターの設計IPとライセンスに特化する。

日本のセメント業界の状況について、解説役は、欧州ほど強烈な規制圧力がないので動きは慎重になるだろうとした。一方でグローバルなサプライチェーンからの脱炭素要請もあるため、徐々に始まっていくのではないかと見ている。馬田氏は、日本は電力コストが高く電化は難しそうだと指摘した。解説役もこれを認め、まずは九州のように再エネの出力制御が起きている地域や、今後多く起きそうな地域から始めることになるだろうと答えた。

番組が引き出した教訓

解説役がまとめた学びは三つだ。第一に、後処理ではなく工程そのものを問い直すこと。排ガスを後から処理するのではなく、プロセス自体を再設計して最初から問題を防ぎ、複雑な問題をシンプルに解くという視点である。第二に、最初の顧客候補を実証パートナー兼資本提供者に変え、単なる販売先ではなくエコシステム全体をシード段階から巻き込むこと。第三に、特許だけでなく物理的な実証の実績を組み合わせることで、より強い参入障壁になること。実践できるアクションとしては、自分の業界で仕方なく払っている不可避なコストや排出を探し、アウトプットの製品は変えずにプロセスだけを変えられないかを考える思考実験を勧めた。

馬田氏の感想は三点だった。当たり前のことを当たり前にやっているが、それが難しいからこそすごい。顧客候補がいればバリューチェーンを短くでき、いなければ長くせざるをえないので、顧客や状況に応じて自社の取るべき位置を決めることが勉強になった。そして、Litherm TechnologiesだけでなくSublimeやBrimstoneも含め、難しい領域の脱炭素にはどれが当たるか分からない以上、技術のポートフォリオを持って取り組む必要がある。どれかが当たれば非常に大きくなるので、その「どれか」をきちんと作っていかなければならない、と語った。解説役も、似た問題に対して複数のアプローチが取れるようにしていきたいと応じて、番組を締めた。