電力・部品・許認可の「摩擦」を解くスタートアップ戦略:GridCare、Westmag、Nebexに共通する構造

YouTubeで開く ↗
概要

FoundX Review Startup IdeaCastの今回の回では、個別のスタートアップを紹介するいつもの形式ではなく、複数の企業に共通する一つのアプローチを横断的に分析している。取り上げたのは、AIが「摩擦解消型インフラストラクチャー戦略」と名付けた考え方だ。進行役の富田氏が質問し、もう一人のFoundXの話し手が解説する形で進む。番組冒頭では、AIを使って情報を整理しているため一部に古い情報や誤りが含まれる可能性があり、事実確認は各自で行ってほしいと断っている。

26分で読めます

中心となる問いは、AIやロボットの性能が上がっても、電力、部品、許認可、契約といった物理的・制度的な制約が導入を止めているなら、どこに事業機会があるのかというものだ。話し手は、最終製品を作る企業だけでなく、製品が製造・接続・契約・運用されるまでの摩擦を取り除く「見えないインフラ」の企業にも大きな機会があるという立場をとる。

摩擦解消型インフラ戦略とは何か

話し手の説明によれば、この戦略は製品そのものではなく、製品が製造され、契約され、運用されるまでの制約に介入するものである。垂直統合の事例も扱うが、全工程を自社で抱えることは目的ではない。顧客が成果を得るのを止めているボトルネックを選び、その工程について自社が責任を持つ。今回は特に物理的な制約を中心に扱う。

対象となる摩擦として、電力容量、部品供給、許認可、施工、金融、政府調達、決済などが挙げられた。スライドには迷路の図が示されており、話し手はこれを「迷路を解く」のではなく、顧客が目的地に到達できる新しい経路をつくる、迷路を壊すようなものだと表現している。摩擦を解くという発想自体は他のビジネスと変わらないが、物理の領域であること、そして解決方法を反復可能なインフラにできるかどうかが、このアプローチの特徴だという。

このテーマを選んだ理由について、話し手は「難しそうだから試しにこれから始めよう」と冗談めかしつつ、最近の課題として重要度が高まっていると述べる。需要が明確なのに供給が逼迫している市場では、製品機能よりも導入までの時間や確実性に価値が生まれる。これまで番組で紹介したWestmagやGridCareがこの例に当たる。

AIに整理させた構造は、環境変化、未解決の問題、戦略上の着眼点、作用のメカニズム、事例による検証、自己拡張という流れである。話し手はここで、市場の成長そのものではなく、成長によって不足し始めた資源や能力を見ることがポイントだと解釈している。AI需要の増加は環境変化であり、電力接続や部品不足は新たに生じた未解決問題だ。そのうえで時間、費用、確実性のどこがうまくいっていないのかを見て改善する。AI時代に最も価値ある企業は、ドローンやデータセンターといった最終製品を作る企業ではなく、物理的・契約的なボトルネックを解消する見えないインフラになるかもしれない、というのが全体の結論として示された。

垂直統合との違いと関連事例

富田氏は、垂直統合との違いはパーツに集中するか全体をやるかだけなのかと尋ねた。話し手は、垂直統合はあくまで手段の一つであって目的ではないと答える。顧客の成果を止めている工程が複数あれば、垂直統合で解くパターンもある。ただ今回は主に一つのボトルネック、特に物理的な部分を解く企業を想定している。物理の周辺には取引市場やデータ基盤もあるため、物理だけに限った話ではないとも補足した。

これまで番組で扱っていない例として、Crusoeが挙がった。AI需要の増加で電力と建設が問題になったとき、同社は電力からクラウドまでを垂直統合し、AI向けのクラウド環境を提供している。話し手は、Crusoeはどちらかといえば垂直統合寄りの例だと位置づける。もう一つはLoft Orbitalで、衛星を一社ごとに作るのではなく共通の基盤に載せる。衛星バス、打ち上げ調整、運用、地上系を共通化し、顧客が自社のセンサーやミッションに集中できるようにするインフラを提供している。

ビットの世界とアトムの世界

このアプローチがわかりやすく当てはまるのが、ソフトウェアの世界と物理の世界がぶつかる場面だと話し手は言う。ソフトウェアは複製しやすく、限界費用がほぼゼロで、スケーリングの障壁が極めて低いとされる。一方でアトムの世界には、電力、労働力、部品といった物理的な制約がある。

話し手は、2030年までに米国のデータセンター電力需要が倍増するといった見通しや、IEAも世界のデータセンター電力需要の増加を示していることに触れ、需要と供給のギャップが出やすい領域だと述べた。問題は発電能力だけではない。送電、変圧器、冷却、用地、規制もボトルネックになる。フィジカルAIについても、知能のモデルを作るだけでは足りず、モーター、減速機、センサー、電池、組み立てがボトルネックになりうる。さらに規制や安全認証も共通の制約として入ってくる、という見方が紹介された。

既存企業の増産で足りるのではないか

電力や部品が不足するなら既存企業が増産すればよいのではないか、という富田氏の問いに対し、話し手は既存企業が最適な場合も多いだろうと個人的見解を述べている。実際、国内の大手メーカー(字幕では三菱の名が挙がる)がかなりの受注を抱えているという話も聞いているという。

ただ、既存企業の製品規格が、変動する需要や新しい大きな需要に合わない場合もある。例として、AI向けの800Vのような新しい仕様が挙げられた。そうした新しい需要に対して大きく供給を立ち上げることは、スタートアップが成立させうる領域だという。逆に既存企業が簡単に対応できるなら、スタートアップでやる必要はないとも明言している。

ここで以前紹介したBase Powerにも触れた。電力不足に対し、同社は家庭用蓄電池を自社の設備として所有し、系統運用にも使う。大きな用地を取得せず、家庭内のスペースを使わせてもらい、それを組み合わせてグリッドの安定化に使う。富田氏は、電力会社との契約や設備工事も自分たちでやっていたと補足した。

イノベーションを阻む3つの物理的ボトルネック

話し手は、よく見られるボトルネックを3つに整理した。

1つ目はエネルギー供給の限界である。単純な発電量ではなく、送電容量、変電設備、接続審査が問題になっている。 2つ目はサプライチェーンの脆弱性である。ネオジム磁石やモーターの供給は約90%を中国に依存しており、地政学リスクが大きい。ここからWestmagのようなスタートアップが出てきた。 3つ目は主権国家との複雑な取引である。宇宙領域では巨額の政府調達が絡まざるを得ず、コンプライアンス、決済、資金繰りに摩擦がある。Nebexはこれを決済・契約のプラットフォームのような形で扱っている。

すべてのケースで3つが同時に起きるわけではなく、最も支配的な制約を特定して解くことが大事だと話し手はいう。富田氏は、3つは別々というより重なっている場合も多いのではないかと問うた。話し手はそれを認め、工場を建てても電力がなければ動かない、部品を作れても政府の支払いが遅れれば納品できない、といった例を挙げた。それでも最初の事業設計では、顧客の成果への影響が最も大きい一つのボトルネックを選ぶほうがよいという。同時に解けばできることは増えるが、資本と組織の負担が大きくなるからだ。

どんな不足を狙うべきか

不足を見つければよいという話ではない、という富田氏の指摘に対し、話し手は見極めのポイントを挙げた。まず、供給不足の期間が設備投資の回収期間より長いかどうか。次に、顧客が実際に予算を持ち、長期契約や容量予約をする意思があるかどうか。既存企業が短期間で対応できる場合、スタートアップの優位性は小さい。

加えて、米国は資本が集まりやすいが日本はそうではないことを踏まえると、相対的に少ない資本で物理的ボトルネックを解消できるなら、スタートアップとして狙いやすいとも述べた。

その例がLineVisionだ。送電線に非接触のセンサーを設置し、気象や導体の状態に基づいてその時点で安全に流せる電力量を算出し、動的な線路定格を運用に組み込む。固定的な容量評価ではなく「もっと流せる」ことを示す点でGridCareに近い。ただし、GridCareが系統全体や大口の接続を扱うのに対し、LineVisionは送電線単位で測定する。話し手は、LiDARを使っているようなのでコストは高いかもしれないが、比較的ましな差し込み方だと評している。規制の領域では、建設許可を扱うPermitFlowのように、手続きそのものが供給制約になっているならソフトウェアで解決する道もあると述べた。

銅線とコンクリートだけでは間に合わない

発電所、送電線、変電所、工場の新設には、計画、許認可、資材調達、建設、検査がどうしても必要になる。一方で、AIの計算需要や防衛需要は数か月単位で増える可能性がある。対応策として、既存容量の再評価、需要抑制、蓄電池、オンサイト電源、立地の変更、条件付き接続などが提案されることがあるという。

話し手は、ソフトウェアが有効なのは物理法則を変えるからではなく、保守的な計画値と実際の運用可能範囲の差を明らかにし、計画以上に流せることを示せるからだと説明する。7〜10年かかるインフラ整備に対し、GridCareのように計算によって「もっとできる」と示すこと、あるいは許認可について、これまで専門家や弁護士による調整が入っていた部分をAIで速めることも考えられるという。

富田氏は、その期間だけを埋める事業では長期的な事業になりづらいのではないかと問う。話し手は、需要が一時的な不足なのか長く続くのかを考えなければならないと答えた。そのうえで、立地、審査、運用、契約のデータが継続的に更新され、次の案件に再利用されて価値になるなら、短期需要を通じた学習が意味を持つ。さらに構築後の設備利用率、保守、増設判断といった運用まで入り込めれば、継続的な価値を生める。

関連例として、オーストラリアのNearaが挙がった。既存設備をどこまで使えるかを物理モデルで計算し直し、3次元モデルから容量、耐性、保守優先度を解析する。また「ベーシズ」という企業(字幕上の表記)は、系統接続、許認可、土地情報を統合し、設備建設前の立地選定やデューデリジェンスを支援しているという。話し手は、Lux Capitalが定期的に出している投資仮説のレポートで、新設設備への関心に比べて既存資産の保守や予防的な設備が過小評価されているという仮説を示し、その後その領域に投資していることにも触れ、実際にスタートアップが数百億円規模を調達しているのを見ていると述べた。

顧客成果に必要な範囲だけを垂直統合する

ボトルネックを解くとき、どの工程を垂直統合し、どの部分を業界共通のものとして水平展開するかを考える必要がある。話し手が強調するのは、製品を既存企業に販売しても、その企業が導入や運用を変えなければ成果が出ない場合があるという点だ。

その例として、富田氏とのやり取りの中で地熱探査のZanskarが思い出された。最初はソフトウェアを提供していたが、それを使って掘ってもらえなかったため、自分たちで掘ることにしたという話である。こうした場合、スタートアップ自身が顧客との契約、運用、製造、場合によっては掘削まで持つフルスタックに近い形が選択肢になる。

垂直統合の範囲は技術的に可能な範囲ではなく、顧客成果に必要な範囲で決める、というのが話し手の整理だ。清掃、輸送、汎用品など差別化につながらない工程まで持つ必要はない。一方、内製することで学習できるなら自分たちでやってもよい。最初の顧客に個別対応が必要でも、それを繰り返す中で共通の判断や契約を抽出し、水平展開できる。ドローンやAIモデルといった最終製品を作るのではなく、それらを動かす製造、電力、取引所のような中間レイヤーを統合し、業界全体に提供する。話し手はそれをエコシステムの「血管」や「筋肉」のようなものと表現し、業界標準のプラットフォームにしていくパターンだと説明した。

どこまで自社で持ち、受託企業化をどう避けるか

全部を統合すると重くなるが、どこまで統合すればよいかという問いに、話し手は判断基準を挙げた。自社で成果を保証できる範囲か、自社のほうが速くできる範囲か。外注したときの失敗頻度やそれによる損失が大きいなら自社でやってみる価値がある。内製化で学習できるなら知見を社内に蓄積する意味がある。

富田氏はさらに、最初の顧客への個別対応を続けるうちに、共通基盤になる前に受託企業になってしまう可能性があるのではないかと尋ねた。話し手はその可能性を認め、だからこそどの案件を取るかが重要だと答える。次にも使える知見が得られるか。案件の中で繰り返される判断を記録し、共通の入力と出力を定義して使えるようにしているか。2件目、3件目で学習が生き、導入期間や必要な人員が減っているか。減らないのであれば、プラットフォームとして水平展開するより専門会社として経済性を再設計する可能性もある。スタートアップらしくはなくなるかもしれないが、そうした事業転換もありうるという。

ボトルネック解消から需要集中、自動化、スケールへ

AIの整理では、このアプローチは次のようなループを描く。物理的・契約的な摩擦を解くことで、供給を渇望しているOEMや政府の需要を集中的に獲得する。獲得したスケールが次のプロセスの自動化を支え、自動化で限界費用が下がり、他社が追いつけない業界標準になっていく。

話し手は、最初の需要集中は長期的な独占ではなく一時的な供給上の優位である可能性が高いと注意する。だからこそ、その優位があるうちに、どの工程が繰り返され、どこでコストを下げられるかを見極め、実行と改善を重ねて差を広げる必要がある。

需要が集まることと自動化の間に何があるのかという問いには、学習できるかどうかだと答えた。物理的なものなら学習曲線が本当に下がるかがポイントになる。同じ工程が十分な頻度で繰り返されるか、製品仕様がある程度一定か、共通部品・共通契約・共通の審査項目を用意して当てはめられるか。需要が集まるだけでなく、それをどこまで学習に生かせるかが問われる。

例として、倉庫や輸送を案件ごとに手配するのではなく共通ネットワークに束ね、倉庫、輸送、受注管理、配送をソフトウェアと運用で統合してブランド向けに一つの物流サービスとして提供するStordが挙がった。またZiplineは、ドローンを売るのではなく自ら配送サービスを行っており、配送回数が増えるほど運行データ、保守、規制対応の能力を蓄積し、他社が真似できない能力になっていく例として紹介された。

摩擦の性質に応じた3つのアプローチ

話し手は、入り方を3つに整理した。

1つ目はデータと最適化である。稼働率が低い既存インフラ、たとえば送電網に対し、AIで膨大なシナリオを解析し、柔軟な制御によって容量を可視化する。GridCareがこれに当たる。設備はあるが能力を発揮しきれていない、判断が保守的、運用が固定化されているといった場合に、解析精度を上げて運用の変更や契約の変更につなげる。

2つ目は金融と契約である。Nebexのように、巨額で複雑な政府や主権国家との取引において取引レイヤーを作り、標準化や資金供給を統合する。一部では自ら事前払いをするようなこともあったと話し手は記憶している。買い手も売り手も予算はあるが、信用、審査、資金の時期が一致しないときに、そこを自社が埋める。

3つ目は物理的な製造である。地政学リスクやハードウェア部品によるリスクを踏まえ、自動化によってコストが下がることを前提に、米国内での垂直統合や量産で供給能力を構築する。Westmagのように、部品そのものが不足し、既存の供給者が増産できない部分を提供する。

富田氏は、自分なら資本負担が小さそうなデータと最適化から入りそうだが、それでよいのかと尋ねた。話し手は、ありえなくはないとしつつ、顧客や電力会社が運用を変えなければ成果が出ないという問題を指摘する。ダッシュボードを作っても誰も使わなければ成果は生まれない。データ最適化で入るなら、解析結果を契約、制御、施工までつなげる権限や力を持つ必要があり、レポートだけでは人は変わらない。その意味で、統合や営業が非常に重いアプローチになる可能性があるという。

物理系の例としては、Hadrianが挙がった。話し手の記憶では最近2,000億円規模を調達しており、米国で不足している供給能力に対し、工場をサービス化する形で、ほぼ自動化した工場を建て、製造ソフトウェアや品質管理を統合して航空宇宙・防衛部品を製造している。また、Andreessen Horowitzが今年2月ごろに出した、スタートアップ向けの工場の経済性に関する記事にも触れた。製造方法と生産能力が競争優位になる企業では、原価、歩留まり、学習曲線、設備容量、資本構成が事業の中心になるという内容で、話し手は「懐かしのソフトウェアではない物理の話」が出てきていると感想を述べている。

代表事例:GridCareと電力接続待ちの短縮

改めて代表例として紹介されたのがGridCareである。AIデータセンターは、土地を先に押さえる「ランドファースト」から、電力を先に確保する「パワーファースト」へと変わっており、電力接続に数年待つ状況で立ち往生している。一方で、米国の送電網は平均30%しか稼働していないとも言われていたという。

GridCareは物理ベースのAIで膨大な数のシナリオをシミュレーションし、稼働率の余力を可視化した。そのうえで、ピーク時の需要抑制や蓄電池の活用を条件とする柔軟な接続を電力会社に提案した。その結果、数年かかる接続プロセスを数か月に短縮し、数百MWの容量を解放したと言われている、と話し手は紹介する。立地条件や系統条件を解析し、従来の基準では利用できないとされていた容量を見つけて解放したアプローチだ。

富田氏は、これはAI企業と呼ぶべきか、電力契約の会社と呼ぶべきかと問う。話し手は、コア技術である解析だけを見れば電力会社向けソフトウェアのAI企業に近いと答えた。しかし顧客が欲しいのは電力容量であり、そこまで提供するには立地選定、接続提案、運用や監視まで必要になる。そのため競争優位はAIだけではなく、系統データ、電力会社との運用経験、契約形式の組み合わせになっていくだろうという見立てだ。ただし公開情報からはどこまで実際に行っているかは見えにくく、わからないとも留保している。

比較対象として挙がったのがTerabase Energyである。既存容量で足りない場合は、建設そのものを速めるパターンもある。Terabaseは太陽光発電の設計、現場データ、ロボットによる施工、進捗管理を一つのプラットフォームに統合し、新しい発電設備の建設を反復可能にしようとしている。話し手は、既存系統の余力を使うGridCareが短期的な容量を増やし、新設の工期と人員を削減するTerabaseが長期供給を担うという、補完関係のような見方もできるかもしれないと述べた。

GridCare、Westmag、Nebexに共通する構造

番組でこれまで紹介してきた3社は、エネルギー、ロボティクス、宇宙経済と業界が異なる。GridCareは系統状態のデータと柔軟接続の運用を制御点とし、物理制約の可視化で介入した。Westmagはモーター設計、ステーター加工、組み立て、供給網を制御点とし、製造インフラの垂直統合で入った。Nebexは政府の宇宙契約における複雑な資金や決済に対し、供給者の審査、取引資金、法的な所有、決済順序を制御点として、承認や決済の中間レイヤーを作った。業界は違っても、データや統合プロセス(物理的なものも含む)を所有し、摩擦を一気になくそうとしている点が共通していると話し手は整理する。

どこまでが共通で他社にも適用できるのかという問いに対し、話し手は、この3社がいずれも最終製品を作っていない点を挙げた。テスラは垂直統合して車という最終製品まで売るが、GridCareはエネルギーを、Nebexは衛星を売るわけではない。Westmagは製品に近いものの、フィジカルAIを売るのではなく部品を売る。ただし単一の部品を供給するのではなく、重要な部品を提供できるようになるまでのいくつもの摩擦を統合的に解消している。

近い例として、設計から3Dプリント、組み立てまでを一つの生産システムに統合し、ロボットによる組み立てまで手がけるDivergent Technologiesも紹介された。Westmagがモーターという共通部品に集中するのに対し、Divergentは生産方式そのものを共通化して複数産業に提供しようとしている。データと実工程を自社で持つ点は共通でも、何を提供するかは異なるという。さらにVCのConstruct Capitalが、産業の自動化を「Sense(データ取得)」「Think(判断)」「Act(実行)」の3段階として捉え、分断されたデータと制御の統合を重要な機会としていることにも触れた。

成立する条件、機能しない条件、Katerraの教訓

機能する条件として、話し手はまず需要が供給を圧倒的に上回っている状況を挙げる。防衛やAI基盤のように顧客のスイッチングコストが極めて高い市場も機能しやすい。需要の切迫度は、前払い、容量予約、長期契約で測るとよいかもしれないという。

機能しない条件としては、対象市場の製品規格がまったく標準化されていない場合、既存の大企業がデータやプロセスを容易に模倣できる場合が挙がった。失敗の兆候は、顧客が自社をインフラとしてではなく、一時的なコンサルティング会社や代替品として捉えている場合だという。複雑性については、単なる面倒くささではなく、既存企業が模倣しにくい工程や認証があるかが問われる。スイッチングコストの面では、データ移行、再認証、業務停止などが伴うと高くなる。

複雑で競争が少ない市場ならスタートアップに有利なのではないか、という富田氏の問いに、話し手はデメリットも挙げた。複雑性が少数の顧客に固有のものであれば、競争が少なくてもスケールしない。許認可に時間がかかりすぎると、スタートアップの資金が先に尽きる。事故や保証による損失が1件あたり大きい場合は、保険や資金力が必要になり、スタートアップに向かない可能性がある。

失敗例として挙がったのがKaterraだ。建設系の垂直統合スタートアップで、話し手の記憶では20億ドルを超える資金を調達していた。設計、資材調達、工場生産、建設まで広く統合して建設の工業化を目指し、複数の地域、複数の製品、複数企業の買収を並行して進めたが、2021年に破産手続きに入った。話し手は、垂直統合だけが原因ではなく急速な拡張も問題だったと考えられ、COVID-19の影響もあっただろうとしたうえで、広げすぎることにリスクがあるのは間違いないと述べた。

工場を建てる前のMVP

工場が必要と聞くとMVPも工場だと考えがちだが、AIのまとめではそうではないとされている。最初に検証すべき仮説は、顧客はこの特定の摩擦が解けるなら、未完成の製品でも巨額の契約を結ぶのか、というものだ。完璧なソフトウェアや巨大な工場を最初から作らず、少数の大口顧客と手作業で確実な契約を結び、本当に買ってもらえるのか、それを自動化できるのかを見極める。手作業で進めつつ、将来メガディールにつながるかを見ることも大事だという。

具体的には、候補地の一覧ではなく「一定期間内に接続可能なサイトの確保」という成果を手作業でも提供し、買ってもらえるかを見る。製造なら巨大工場を建てる前に外部設備や小規模なラインで顧客の仕様を生産してみる。Nebexのような取引市場なら、最初は創業者が主導して申請や接続を行う。案件ごとに学びを積み重ねて次につなげることが、最初の実行単位になりうるという。

大きな契約が取れないとダメなのかという問いに、話し手はできれば大きいほうがよいが、適切な初期契約の規模は市場によって変わるので、規模を過度に重視しなくてよいと答えた。重要なのは、実証に付き合う程度の支払いではなく、前払いがあるか、本当に需要があるか、予算から対価が出るかを確かめることだ。

例として最近のMonumentalが挙がった。最終的には建設の自動化を目指しているが、最初はレンガ積みロボットから入り、サブコントラクターとして施工の成果を売っていったと言われている。未完成の製品であっても、ロボットではなく成果を欲しがる顧客に入り込み、そこから広げていく。話し手はこれを、Y Combinatorのかつての「スケールしないことをしよう」を、より大きな市場でやる話かもしれないと評した。

手作業の問題解決から業界の共通基盤へ

進み方としては、まず創業者が手作業で(場合によってはロボットと組み合わせて)個別の問題を解決する。第2段階でプロセスを蓄積・標準化し、より安く速くできるようにする。最後に業界のプラットフォームになる。話し手はこれを一般的な進み方とし、学習曲線を回せるかが鍵だと言う。自動化率だけでなく、導入期間、担当者1人あたりの案件数、再作業率が減っているかを成果として測るべきだという。また、この3段階は直線的に進むとは限らず、新しい地域や新しい商品に進めば再び手作業に戻ることを繰り返すのかもしれないと述べた。

どの段階でソフトウェアに移行すべきかという問いには、一概には言えないとしつつ、同じ判断を複数回行っている、入力と結果を定義できる、といった状態なら自動化しやすいかもしれないと答えた。最も時間がかかる、エラーが多い、頻度が高い工程を自動化するとインパクトが大きい。ソフトウェア化した後も、人間による確認を残して結果を比較しておくことが大事だという。

物流自動化のOutriderも例に挙がった。もともとは公道での自動運転を考えていたようだが、まず物流ヤードという限定環境から始め、工場や倉庫の敷地内でトレーラーの移動、連結、検査を自動化し、その後に公道へ広げていくという広げ方である。AIの分野でも似た話として、Bessemer Venture Partnersが2026年1月に出した「Building Vertical AI」に言及した。技術起点ではなく明確で反復可能なワークフローから始め、価値を示した後に中核業務へ拡張する。曖昧で標準化されていない業務はすぐには自動化せず、人間の判断を残す。話し手は、これを物理版として考えるとよいのではないかと述べた。

モートの作り方:プロセス、データ、ネットワーク

事業が強くなり続けるための堀(モート)として、3つが挙げられた。1つ目はプロセスの習熟で、現場で学習を蓄積し後発企業が追いつけないようにする。2つ目はデータで、膨大なシミュレーションと実際の運用データが結合することで、精度の高い独占的な予測モデルになる可能性がある。3つ目はネットワーク効果で、供給者、需要者、資金供給の手段が一つのシステムに集まることで流動性が高まり、スイッチングコストが上がる。これを最初から考えておくことが大事だという。

モートができているかは顧客の継続率だけでなく、見積もり精度、導入期間、歩留まりといった、より先行指標的なものでも見られると話し手は言う。

プロセスやデータを人ではなく組織に根付かせるにはどうするかという問いには、重要な判断や判断のログを個人の経験に残すのではなく、システム、設備設定、検査基準など再利用可能なものに移すことだと答えた。特に複数工程の統合データは1人の従業員では再現しにくいので、どうまとめるかが問われる。ただし、一部の技術の秘密情報や契約、アクセス管理だけでは完全なモートにはならず、継続的な改善が必要だとも述べた。

例として、見積もり、品質、工程選定を共通化するスタートアップ(字幕では社名が聞き取りにくい)や、先に触れたStordが挙がった。Stordは拠点数を持つだけでなく、在庫配置や配送判断が改善しているかを見ていくことでモートが作られていくのだろうという。Bessemerの続編記事でも、モデル単体より複雑なワークフローへの統合や、測定の難しさ、複数のデータ形式がモートになるという議論があり、話し手はAIで言われていることが物理でも使えるかもしれないとまとめた。

結論:どんな企業に向く戦略か

最後のスライドで話し手は、フィジカルAIの時代に勝つ企業は最終製品を作る企業だけではなく、製品が製造・接続・契約・運用されるための共通条件を作る企業にも大きな機会がある、とまとめた。ただし最初からすべてをやる必要はなく、成果を大きく左右する一点を見つけて摩擦を減らすことが大事だという。品質以外にも、支払い、供給の追加、時間など重要な要素がある。実行するほど改善する工程、その改善を保持するデータや契約をどう作るかを考えるべきであり、「採用しない判断」も重要だと強調した。提携、ライセンス、販売代理店で同じ成果が得られるなら、そのほうがリスクを抑えられる。摩擦とは嫌われている業務を自分たちで引き受けることであり、それを解いた後に自社に何が残るかを見ながら、見えないインフラを敷いていくことを勧めた。

どんな企業・環境に向くかという最後の問いに対し、話し手は、共通の供給制約で導入が止まっている領域があり、その制約を解く工程を自社で管理でき、顧客が時間短縮、容量、確実性に支払う意思を持っている状況を挙げた。案件を重ねるほど判断、コスト、品質が改善するか、資本や責任を引き受けても十分な価値を獲得できるかも判断軸になるという。

富田氏は、情報量が多く整理しきれていないとしつつ、供給が追いついていない領域について、なぜ追いついていないのかを一つずつ分析していくことなら自分にもできそうだと感じたと話した。同時に、何が圧倒的に不足しているかを見極めるには業界理解が必要で、起業しようとする業界へのヒアリングや勉強は必須だと改めて思ったという。話し手は、ボトルネックさえ見つかればその後は従来型のMVPの手法も使えるので、初めての起業家でも取り組めるかもしれないと応じ、解消すべき摩擦と、それを解くことで学習が進むかという観点で各業界の課題を見てほしいと締めくくった。