宇宙の始まりから量子重力まで:理論物理学者・野村泰紀が語る宇宙論の最前線
VAIENCE バイエンスカリフォルニア大学バークレー校の理論物理学者・野村泰紀が、VAIENCEの番組で宇宙の成り立ちと現代物理学の未解決問題を語った。話題はビッグバンとインフレーション、銀河を生んだ揺らぎ、ダークマターとダークエネルギー、「出来すぎた宇宙」とマルチバース、相対性理論と量子力学の統合、超弦理論、ブラックホールの情報問題、ホログラフィー原理と多岐にわたる。
一貫しているのは、確立した知見と、まだ途中の理論を区別する姿勢である。野村はマルチバースを「かなり有力」と考える一方で、熱いビッグバンほど確かではないと認める。量子重力についても、ホログラフィーという鍵らしきものは見えているが「まだ途中」だと話す。本稿では番組のナレーションによる解説と野村自身の発言を区別しながら、議論の流れを追う。
宇宙に始まりがあるという発見
野村はまず、宇宙が誕生したということ自体が20世紀初頭の大発見だったと振り返る。理論と観測が絡み合って宇宙の真理を解き明かした好例だという。
アインシュタインは重力の理論である一般相対性理論を作った。この方程式は宇宙全体に当てはめて解ける形をしていたが、解いてみると、止まったままの静的な宇宙は答えに含まれていなかった。宇宙の空間全体は膨張するか収縮するかしかない。アインシュタイン自身はこれを信じられず、方程式の方を変えようとしたこともあった。ところが観測によって、あらゆる銀河が私たちから遠ざかっていることが分かってしまう。
時間を逆にたどれば、昔の宇宙は密度が非常に高く、したがって温度も高かったことになる。方程式はすでにあるので、どこまで遡れば温度が極端に大きくなるかを計算できる。その結果、約138億年前に宇宙は非常に高温の状態にあり、そこから冷えてきたことが分かった。宇宙は無限の過去から存在していたのではなく、約138億年前に始まったというわけだ。
ナレーションはこの高温・高密度の状態こそがビッグバンと呼ばれてきたものだと補足する。人類は宇宙誕生から約38万年後の光を電波として観測しており、これが宇宙マイクロ波背景放射である。それより前の宇宙は密度が高すぎて光がまっすぐ進めないため、光で直接見られる宇宙には限界がある。
インフレーションと「ビッグバン」という言葉の二重の意味
かつては高温・高密度のビッグバンこそが宇宙の始まりだと考えられていた。しかし野村によれば、最近の研究ではその前に、温度がほぼゼロの冷たい時期があったと考えられている。その期間は1秒の小数点以下に0が20〜30個並ぶほど短い。そのごく短い間に宇宙は猛烈に膨張し、たとえば原子核ほどのサイズが、いま見えている約138億光年の全宇宙ほどの大きさにまで広がった。この急膨張をインフレーションと呼ぶ。
ナレーションの説明では、インフレーションが終わると急膨張を起こしていたエネルギーが熱に変わり、素粒子が生まれて宇宙は一気に熱くなった。
ここで野村は、本によって「ビッグバンはインフレーションの後」とも「前」とも書かれている理由を説明する。これは説が違うのではない。ビッグバンという言葉を「インフレーション後に宇宙が熱くなった状態」の意味で使えば、ビッグバンはインフレーションの後になる。「宇宙の本当の始まり」の意味で使えば、インフレーションはビッグバンの後に起きたことになる。ビッグバンという言葉が、誤解を生みやすい二重の意味を持つようになったのだという。
10万分の1の揺らぎから銀河が生まれた
では、ほとんど均一だった宇宙から、どうやって銀河や星が生まれたのか。野村はまず、今の宇宙と初期宇宙の違いを強調する。今の宇宙では、銀河があるところに物質が集中し、ないところにはほとんど何もない。星は非常に高密度で、星と星の間はほぼ空っぽだ。ところが38万歳の頃の宇宙にはそんな構造がなく、「のっぺらとした」スープのように、どこもほぼ同じ密度だった。わずかに10万分の1だけ濃いところと薄いところがあったにすぎない。
野村はこの均一さがどれほど極端かを、撮影している部屋の空気で説明する。部屋の空気でさえ、上の方は少し暖かく下は少し冷たいので、密度は均一ではない。すぐに0.1%程度はずれてしまう。それに比べて初期宇宙は、とてつもない精度で均一だった。
それでも、わずかに密度の高いところは周囲より少し重力が強い。そのため物質をどんどん引き寄せ、薄いところからは物質が吸い取られていく。こうして小さな差が成長していった。
問題は、その10万分の1の揺らぎがどこから来たかだ。野村によれば、インフレーション理論が正しいとすると、空間が猛烈に膨張したときに量子力学によって生じる揺らぎが種になる。野村たちはこの理論はおそらく正しいと考えている。その揺らぎと、38万年後の宇宙に実際に見えている揺らぎのパターンは、統計的な性質が「完全に一致している」と野村は言う。銀河の種となった揺らぎは、インフレーション期に量子力学の効果で作られた。それが銀河になり、星になり、おそらく生命につながった、というストーリーになっているという。
ダークマター:存在は疑われていないが正体が分からない
ナレーションは、現在の宇宙の構造を作ったのは目に見える物質だけではないと続ける。宇宙にどれだけ質量があるかは、銀河や銀河団の動きから分かる。重力は周囲の天体の運動に影響を与えるので、光で見えなくても質量の存在は分かるのだ。ところが星やガスなど既知の物質だけでは、銀河の動きも宇宙の大規模構造も説明できない。初期の揺らぎから今の銀河や銀河団ができるまでをシミュレーションしても、普通の物質だけでは現在の宇宙と一致しない。ダークマターを加えて初めて、今の構造をうまく再現できる。
野村は、ダークマターの証拠は「山ほど」あると言う。存在自体を疑っている物理学者や天文学者はほぼいないが、細かい正体は分からない。物質のうちおよそ6分の5が未知のダークマターで、6分の1が素粒子の標準模型に含まれる普通の物質だということは、ほぼ分かっているという。
ダークエネルギー:宇宙の7割を占める「よく分からないエネルギー」
ここまでの話はすべて「物質」についてだった。野村によれば、物質ではないのに宇宙全体に満ちているエネルギーがあり、それが宇宙の全エネルギーの約7割を占める。ダークマターも電子もニュートリノも含め、物質は全部合わせても3割程度のエネルギー密度しかない。このことは20世紀の終わり、1998年頃にほぼ確立した。エネルギーではあるが物質ですらない、よく分からないものという意味で、ダークエネルギーと呼ばれている。
ナレーションは、発見の手がかりが宇宙膨張だったと説明する。宇宙にあるのが物質だけなら、互いに引き合う重力がブレーキになり、膨張は少しずつ遅くなるはずだった。ところが観測では、膨張は減速どころか加速していた。
野村は候補の一つとして真空のエネルギーを挙げ、「空間のエネルギー」と言った方が分かりやすいと話す。鉛筆も、眼鏡も、自分自身も、あらゆる物質を取り去っても空間は残る。その空間自体がエネルギーを持てるのだという。このエネルギーは正にも負にもなりうる。どちらを正と呼ぶかは人間の取り決めにすぎないが、今の取り決めでいう正の場合は斥力のように働いて空間を広げ、負の場合は収縮させる。そうしたものが存在しうることは分かっており、おそらくそれが見つかったのだろう、と野村は述べる。
出来すぎた宇宙とマルチバース
番組は次に、そもそもなぜこの宇宙には銀河や星や生命が存在できるのかという問いに進む。野村は、宇宙は複数あるとするマルチバースの理論を「かなり有力」だと考えている。そう考えないと理解できない現象が結構あるからだ。簡単に言えば、それは「宇宙が出来すぎている」ということだという。
私たちの宇宙には決まったルールがある。電子があり、その質量は特定の値をとる。地球でもアンドロメダでも同じ式が使えるので、現地に行かなくても届いた光を解析すれば何が起きているか分かる。ところが、そのルール自体が「むちゃくちゃよくできている」。電子の質量がその値でなければならない理由は、理論上どこにもない。実験で測った値を使えば計算できる、という理論にすぎないのだ。電子が存在すること自体も、理論的には必然ではない。電子があり、原子核があり、それが陽子と中性子からでき、さらにクォークからできている。この構造を少し変えるだけで、星や森や湖や人間どころか銀河すらない、何もない宇宙になってしまう。「神様を持ち出さなきゃ理解できんだろう」というほどうまくできている、と野村は言う。
しかし宇宙がたくさんの種類あれば、これは不思議ではなくなる。神を持ち出さずに科学で理解できるようになるのだ。野村はこれを地球にたとえる。地球は太陽からの距離が絶妙で、少しずれれば液体の水は蒸発するか、遠ければ液体メタンの世界になるだろう。一見すると奇跡的だ。だが実際には、惑星のほとんどは灼熱か極寒である。銀河系の中だけでも、恒星からさまざまな距離にある惑星が無数にあり、他の銀河も含めれば何兆とある。それだけあれば、たまたま条件のよい場所もできる。高等生命はそういう場所にしか生まれないので、そこで周りを見れば奇跡的に見える。野村は、宇宙全体も同じように考えるしかない構造になっていると見る。観測でさまざまな量を測るほど、理由の分からない、しかも都合がよすぎる値が次々に見つかっているからだ。
野村は理論面の裏付けにも触れる。マルチバースとは全く違う動機で1980年代に作られていた超弦理論などを見直すと、たくさんの種類の宇宙が存在することが自動的に含まれていた。後になって分かったこの事実を、野村は「非常に示唆的」だと評する。
さらに野村は、歴史上同じことが何度も起きてきたと言う。コペルニクス、ケプラー、ニュートンの時代には、太陽系がほぼ宇宙のすべてだと思われており、他の星は壁紙のように見なされていた。ところが太陽系は、銀河の中にたくさんある系の一つにすぎなかった。20世紀初めには、その銀河がまだ「宇宙」と呼ばれていた。人間はそのつど、自分が到達したところがすべてだと思ってきた。その繰り返しなので、マルチバースは不自然ではなく、理論からも観測からも「どの方向から考えてもそっちの方が自然だろう」と野村は述べる。
ただし野村は留保も付ける。科学である以上、最終的にはどれだけ証拠が積み上がるかが問題になる。マルチバースは、宇宙がかつて熱かったというビッグバン理論ほど確かではない。
野村泰紀が物理学者になるまで
野村は研究の道に進んだきっかけも語った。高校3年生のとき、物理の先生が面白い人で、受験には出ない相対性理論や量子力学の集中講義を夏に開いてくれた。そこで「こういう世界があるのか」と感じたという。ただ振り返ると、中学生の頃からすでに科学の一般書シリーズであるブルーバックスを読んでいた記憶があり、関心はもっと早くから芽生えていたようだ。物理学者になるかは別として、この分野を勉強したいと思い、東京大学の物理学科に進んだ。
大学院時代には、研究者としての基準を変える出会いがあった。アメリカから来たポスドク研究員が熊本の研究会に向かう途中で東京に1〜2日滞在することになった。誰か案内してあげなよと言われても学生の誰も手を挙げなかったので、野村が連れ回すことになった。東京タワーにも登ったが、相手は景色を見て時折反応しながらも、ずっと物理の話をしていた。その知識の量も深さも全く違い、「シャワー」のように言葉が降ってきたという。野村が話題を出すと、相手は答えを返すだけでなく、それが別の問題とつながっていること、ある特殊な場合にすぎないことまで次々と指摘した。こちらが軽く投げた話題が「100倍ぐらいにされて」打ち返されてくる感覚だったと野村は振り返る。
大学時代は少し「ちゃらんぽらん」だったが、大学院では集中して取り組んでいたつもりだった。それでも、こういう人ばかりの世界に放り込まれたら生き残れないと危機感を抱き、さらに猛勉強したという。その人物は30歳前後でハーバードの准教授になるような特殊な例だった。しかし野村は、それしかサンプルを知らなかったので、全員があのレベルだと思い込んだ。実際に海外に出てみると、あんな「化け物みたいな」人はほとんどいなかった。それでも、この思い込みが結果的にキャリアの大きなプラスになったと野村は語る。
ニュートン力学を超えた二つの革命:相対性理論
宇宙を調べるには物理法則が欠かせない。野村によれば、20世紀にはニュートン力学が不完全だと分かり、二つの方向に拡張された。だからこそ宇宙全体を扱う宇宙論が可能になった。その一つが相対性理論である。
発端は光の速度だった。マクスウェルの方程式を使うと、電磁波の速さが計算できてしまう。およそ1秒間に地球を7周半、秒速3億メートルである。野村は、これがニュートン力学では「起こってはいかんこと」だったと説明する。
車が時速50キロで走っていると言っても、地球は自転していて、それより速い。公転はさらに速く、太陽系自体も銀河の中心の周りを回っている。では「本当のスピード」は何か。ニュートン力学の土台であるガリレイの相対性原理では、本当のスピードという概念はなく、何に対しての速さかしか意味がない。時速50キロとは、地表に対して1時間に50キロ動くということだ。ところが電磁波の速さは、誰から見たかという情報を入れずに方程式から値が出てしまう。アインシュタインは、方程式が光の速さはこれだと言っているのだから、誰から見てもその速さなのだと考えた。
ナレーションはこう補足する。光速が誰から見ても同じであるためには、時間が絶対ではなくなる必要があり、速く動くものほど時間の進みは遅くなる。これが1905年の特殊相対性理論である。野村によれば、電車に乗っているだけでも時間の進み方は遅れている。ただ光速に比べて遅すぎるので意識しないだけで、その小さな効果を無視するとニュートン力学に一致する。特殊相対性理論はニュートン力学を含む理論なのだ。
ただし特殊相対性理論は、等速で動いている場合にしか使えなかった。次にアインシュタインは、加速していることと重力があることは同じだと気づく。車が加速すると体がぐっと押し付けられるのは、重力が横向きに働いているようなものだ。普通の人は似ていると思うだけだが、「ああいうレベルの天才」は同じものなのではないかと考える、と野村は言う。無重力空間に浮いている箱をロープで宇宙船に引っ張らせて加速すると、中のリンゴも人間も片側の壁に押し付けられる。中から見ると、これは重力がある状態と区別がつかない。
こうしてできたのが一般相対性理論である。これは加速のない場合も扱えるので、特殊相対性理論を完全に含んでいる。それでも特殊相対性理論が使われ続けるのは、一般相対性理論の数学が「ごつい」からだ。重力や加速が関係ないなら、わざわざ持ち出す必要はない。ナレーションは、一般相対性理論によって重力が時空の歪みとして理解され、宇宙膨張やブラックホールを物理法則で扱えるようになったとまとめる。
もう一つの革命:量子力学と、統合されない二つの理論
ニュートン力学のもう一つの不完全さは、ミクロの世界に現れた。ナレーションの説明によれば、ニュートン力学と電磁気学だけで考えると、原子核の周りの電子はエネルギーを失って中心に落ち、原子は一瞬で壊れるはずだった。現実に原子が安定していることを説明するには、新しいルールが必要だった。状態が飛び飛びの値をとること、複数の可能性が重なり合い干渉し合うこと。これが量子力学である。
問題は二つの理論の関係だ。野村は、普通に使われている量子力学には重力が入っておらず、一般相対性理論には量子効果が入っていないと指摘する。両者は別の理論である。しかし現実の世界は量子力学で動いていて、同時に重力もある。気に入らないからといって切り捨てることはできないのに、両方を含む理論がない。
それでも宇宙論ができるのは、両方が同時に重要になる場面がほとんどないからだ。理由は、重力が「ゴミのように弱い」からだと野村は言う。しかしブラックホールの中心や、時間と空間が始まった最初の瞬間のような極端な場所では、物質がぎゅっと集中して重力が重要になり、同時にサイズが小さいので量子力学も決定的になる。自然界にルールがあるなら、量子と重力を両方含み、重力が弱いところでは量子力学に、量子効果が小さいところでは一般相対性理論に帰着する統一理論があるはずだ。
特殊相対性理論と量子力学を合わせた理論は、すでに場の量子論として完成している。素粒子は非常に高速で動くので、これがなければ素粒子物理はできない。素粒子を扱うときは重力を無視してよいからだ。しかし重力を入れるには、一般相対性理論まで含む量子論が必要になり、それが完全な形ではできていない。これが量子重力の問題である。
超弦理論:無限大を消すために紐が現れる
野村によれば、量子と重力を一緒にしようとすると、うまくいく方法が「1個すら見つからない」。普通に組み合わせると数学の段階で矛盾し、3+5が8にならず「8+変なゴミ」になるような、計算すらできない理論になってしまう。ところが非常に特殊なことをしたときだけ、このゴミがすべてゼロになる。素粒子を拡大していくと点ではなく紐であり、その紐が9つの数字で1点が決まる9次元空間を動いている、と考えた場合だ。これが超弦理論で、量子重力の候補の一つになっている。
野村は、なぜ紐が出てくるのかを散乱の例で説明する。普段は重力が弱すぎて問題にならない。しかし粒子を非常に高いエネルギーでぶつけると、エネルギーは重力の源にもなるので、重力の効果が無視できなくなる。すると散乱の確率がどんどん大きくなり、無限大に発散してしまう。確率が「無限パーセント」では意味がなく、理論が破綻している。
重力は、量子力学では重力子(グラビトン)の交換と見なせる。それだけでは無限大が出るが、特定の質量を持つ別の粒子Aもあると考えると、無限大は消せる。ただし別のゴミが出る。そこでもう少し重い粒子Bを入れるとそのゴミも消えるが、また別のゴミが出る。こうして特定の質量の粒子を次々に加えていくと、最終的に無限大を完全に消し、1+1が2、3+5が8になる理論が作れる。
野村はここでギターの弦を例に出す。弦を弾くと、山が1つ、2つ、3つと、特定の振動モードが連なる。飛び飛びのエネルギーがあるということは、E=mc²から、特定の質量を持つたくさんの粒子があると見なせる。重力と量子力学を合わせるために入れなければならなかった粒子の並びは、よく調べると弦の振動パターンと完全に一致していた。だから自然界の根本は点ではなく紐なのではないか、と考えるのだ。
超弦理論が「まだ終わっていない」理由
超弦理論には重力が入っており、無限大もなく、完全に量子力学的な理論である。それなら「もう終わっとるやん」と思うかもしれないが、そうではないと野村は言う。超弦理論が使える状況は限られているからだ。
野村はこれを特殊相対性理論にたとえる。特殊相対性理論は、等速で動いている状況では矛盾のない完全に正しい理論だが、加速すると使えない。今の超弦理論も同じで、限られた状況では量子力学と重力が統合されているが、そこを離れると使えない。そして使えない状況に、ちょうど私たちの宇宙が当てはまってしまう。
例として野村はブラックホールの蒸発を挙げる。ブラックホールが蒸発すると、出てくる粒子は1個や2個ではなく、1億個、100億個にもなる。今の超弦理論の扱い方ではこうした状況を扱えない。そのため、より適用範囲の広い定式化が必要だというのが研究者の認識だ。その手がかりになるのがブラックホールだという。
ブラックホールのエントロピーとホーキング放射
ブラックホールは、非常に多くの質量が集まったり密度が極端に高くなったりして、核融合などでは重力による収縮を止められなくなり、物質が一点に潰れていったものだ。事象の地平面の内側に入ると光さえ出られず、外からは何の情報も取れない。だから真っ暗で「ブラックホール」と呼ばれる。
ここでエントロピーの話になる。ナレーションは、エントロピーをある状態がどれだけ多くの可能性を持つかを表す量として説明する。水に落としたインクが広がるように、自然界ではエントロピーが増える方向に物事が進む。
野村によれば、ブラックホールが奇妙なのは、地球のような表面があるわけではない点だ。光が出られない境界を人間が引いているだけで、そこは「つるっと」した空間にすぎない。空間はいろいろなパターンをとりようがないので、古典的な一般相対性理論で考えると、ブラックホールにはエントロピーがないように見える。するとエントロピーを持つ物体をブラックホールに落とせば、宇宙全体のエントロピーが減ってしまうことになる。
これに対してヤコブ・ベッケンシュタインが大胆な提案をした。すでに知られていたブラックホールの性質として、地平面の面積がAとBの二つのブラックホールを合体させると、できたブラックホールの面積Cは必ずA+Bより大きくなる。面積は一方的に増え、減ることはない。この性質はエントロピーと同じだ。そこでベッケンシュタインは、ブラックホールは地平面の面積に比例するエントロピーを持つと主張した。エントロピーを持つピンク色の水をブラックホールに落とすと、ブラックホールは少し大きくなる。そのとき増える面積分のエントロピーは、落とした水のエントロピーより必ず大きいことが証明できる。つまり全体としてエントロピーは増えている。ベッケンシュタインは、ブラックホールも量子力学、相対性理論、統計力学という三本柱からは逃れていないと主張したのだ。
これに噛みついたのがスティーブン・ホーキングだった。エントロピーがあるなら温度があるはずで、温度があるなら、熱した鉄が光るように必ず何かを放射するはずだ。ブラックホールは一方的に吸い込むだけの物体なので、熱力学の第2法則以前に破綻している、というのがホーキングの反論だった。ホーキングは、量子力学を完全に統一した理論はないものの、一般相対性理論に量子力学を「パッチワーク」のように組み込む計算が非常にうまい人だった。野村によれば、ホーキングはベッケンシュタインのアイデアが間違っていることを示そうとして計算した。ところが、ブラックホールがわずかに放射して蒸発することを見つけてしまった。これがホーキング放射である。その放射から求めた温度は、ベッケンシュタインが提唱したエントロピーにぴったり対応していた。
ブラックホール情報問題
しかし、そこで新たな問題が起きた。ベテルギウスを潰してブラックホールにしたとする。同じ重さで模様などが違う別の星を潰しても、ブラックホールになれば表面には重さの情報しか残らないので、同じブラックホールになる。するとホーキング放射も全く同じになり、元がどんな星だったかという情報は完全に消えてしまう。
野村は、情報なんていつも消えているではないか、という疑問を先回りして取り上げる。日記を燃やせば中身は誰にも分からない。しかし物理学がいう情報はそういう意味ではない。日記と雑誌を燃やして見かけが同じになっても、原理的には分子の位置や速度、つまり量子力学的な状態をすべて厳密に知っていれば、方程式を逆に解くことができる。そうすれば一方は日記に、もう一方は雑誌に戻る。原理的に情報は消えない、というのがそれまでの物理学だった。
ところがホーキングの計算が正しければ、違う状態から出発したのに、最終状態が厳密に同じになる。時間発展が1対1ではなくなるのだ。そうなると過去を再構成できず、物理学から予言可能性が奪われる。エントロピーや温度よりも「もっとわけわからない問題」であり、これが1970年代頃にホーキングが物理学者たちに突きつけたブラックホール情報問題だと野村は説明する。
野村によれば、この問題は最近、ホーキングが提起した元々の問題は存在しないという方向でほぼ決着しつつある。そこで役割を果たしたのがホログラフィー原理だという。
ホログラフィー原理:3次元の情報は2次元に収まる
ブラックホールのエントロピーが面積に比例するというのは、よく考えるとおかしい、と野村は言う。普通、エントロピーは体積に比例する。体積を2倍にすれば2倍、10倍にすれば10倍になる。一辺の長さを10倍にすれば体積は1000倍になるので、最大エントロピーも1000倍になるはずだ。面積なら2乗でしか増えないので100倍にしかならない。
しかもブラックホールは、その領域がとりうる最大のエントロピーの状態のはずだ。椅子や机を潰してブラックホールにすることはできても、ブラックホールが勝手に椅子や机やベテルギウスに戻ることはない。エントロピーが増えていった最終状態がブラックホールなのだ。その最大値が体積ではなく面積分しかない。これが非常に不思議なことだと野村は言う。
ここから、3次元空間(超弦理論の小さな次元を含めれば9次元)に入る情報量は2次元分しかないのだから、2次元の理論として書き直せるはずだ、という提案が生まれる。これがホログラフィー原理の基本的な考え方である。ナレーションは、平面上の情報から立体像が浮かび上がるホログラムにたとえている。
野村は、この議論で重力が決定的な役割を果たすことを強調する。重力がなければブラックホールはできず、物をいくらでも詰め込める。重力があるからこそ、3次元の情報量が2次元分に制限される。そして2次元側に重力があれば、さらに1次元下げられてしまい、最後はゼロ次元までいってしまう。だから正確には、n次元の重力理論は、自由度の点でn−1次元の重力を含まない理論と同じはずだということになる。重力を含まない理論で定式化できれば、量子重力の問題はそもそも生じない。重力がないのだから、と野村は言う。
マルダセナの発見と、超弦理論とホログラフィーの関係
この考えは面白いと思われていたが、「言うてるだけ感」があった。ところが1997年、フアン・マルダセナが具体例を見つけた。遠くに境界がある反ド・ジッター空間という空間を考える。その空間の量子重力は、重力を含まない1次元下の特定の理論、共形場理論と対応していることを発見したのだ。いわゆるAdS/CFT対応である。私たちの宇宙には直接使えないが、n次元の重力理論がn−1次元の重力のない理論と等しい価値で書けるという具体例が実際に見つかった。
マルダセナはこれを超弦理論を調べる中で見つけた。そのため野村は、「重力理論は超弦理論なのか、ホログラフィーなのか」という問いの立て方を正す。超弦理論は理論の名前であり、ホログラフィーは性質の名前だ。超弦理論はホログラフィックな理論であり、両者は矛盾しない。
ただし超弦理論は使える場面が限られている。一方でホログラフィーの性質は、超弦理論が使えない私たちの宇宙のブラックホールにもあるように見える。だから性質の方がより一般的だと考えられる。そこで今は、ホログラフィーを満たし、超弦理論そのものではなくそれを含むような理論を完成させる方向で研究が進んでいる、と野村は説明する。
マルダセナの例にも適用限界がある。重力側の空間に「これ以上はない」という壁のような境界が必要なのだ。しかし私たちの宇宙には、おそらく境界がない。だから理論はまだ完成していない。
ナレーションは情報問題との関係をこうまとめる。ブラックホールを含む重力の世界が境界上の別の理論として書き直せるなら、その理論の中で情報は失われない。情報は消えたのではなく、完全な理論で見えていなかっただけなのかもしれない。ただしこの対応が示されているのは境界を持つ特殊な空間の場合で、私たちの宇宙にそのまま当てはまるわけではない。
量子重力の完成に向けて何が必要か
量子重力を完成させるには何が必要か。野村はまず、何をすればよいか完全に分かっているならやるだけだが、それ自体が分かっていないと断る。そのうえで、少なくとも境界の存在を消す必要があると言う。AdS/CFTは、境界があることに強く依存した定式化になっているからだ。私たちの宇宙には境界がなさそうなので、境界がない場合にホログラフィーを満たすような対応関係を見つけなければならない。
それが超弦理論から分かるかもしれないが、今のところ、境界のない場合にマルダセナのように超弦理論からホログラフィーをきれいに取り出す定式化はできていない。ただしヒントは多いと野村は言う。超弦理論はある種の正しい側面を捉えており、調べていくと何をすればよいかが見えてくることがよくある。そこにヒントがあると考える研究者もいれば、超弦理論を本質的に超えなければだめだと考える研究者もいる。
多くの研究者が鍵になると考えているのはホログラフィーという性質だ。しかし野村は、完成してみたら違う言葉で語られる理論だったということもありうると付け加え、「まだ途中」だと結ぶ。
人はなぜ宇宙に惹かれるのか
最後に、人はなぜ宇宙に惹かれるのかと問われ、野村はこう答えた。子どもの頃には誰もが、宇宙はどうなっているのか、なぜ自分はここにいるのか、宇宙はどう生まれたのかという疑問を持っていた。忙しくて忘れているだけで、その疑問がみんなの心の中にあるからだろう、と。
太陽系は銀河の中のちっぽけな存在で、その銀河も無数の銀河の中の点のようなものだ。宇宙さえ、たくさんある宇宙の一つかもしれない。そう考えれば地球や自分の悩みなどどうでもよくなるのではないか。この問いに野村は「ならないです」と答える。地球は宇宙にとってあってもなくてもよい、吹けば飛ぶような存在だ。だからこそ壊れやすく、自分たちが大事にしなければあっという間に壊せてしまう。人生も同じで、人間は吹けば飛ぶような存在だからこそ、大事にして生きていく。宇宙研究によって自分たちのちっぽけさが分かるからこそ、それが愛おしくなる。そういう意味で、宇宙研究は自分のものの考え方に多少影響を与えているかもしれない、と野村は語った。
番組は、いつか宇宙のすべてを知る日は来るのかという問いを残して終わる。野村の話の中でも、ダークマターの正体、ダークエネルギーの性質、マルチバースの証拠、境界のない宇宙で成り立つホログラフィックな量子重力理論は、いずれもまだ答えが出ていない課題として示されていた。
今回のバイエンスは宇宙最前線。
ありえねえと。そのパターンの統計的性質は完全に一致してるんですよ。
この宇宙はいかにして誕生したのでしょうか?
一瞬でその0.00…がつく1秒ぐらいの間に。ダークマターの証拠なんかもう山ほどあるので。宇宙のルールが少し違うだけで星も生命も存在できなかったかもしれない。
僕はこのマルチバースっていう理論はかなり有力だと思います。もう神様を持ち出さないと理解できんだろうっていうぐらいうまくできてるんです。電子の質量はこの値にならなきゃいけないなんて理由どこにもないので。これもなんかわけわかんない値だよねというのが。じゃあ本当のスピードは何か。実は本当のスピードなんていう概念はないと。ブラックホールの中心では何が起きているのか。それは不思議なんです。おかしいんです。1個すら見つからないんですよ。
全部厳密に今の状態を完全に知っていれば。その量子重力を完成させようと思えば。
今回は理論物理学者・野村泰紀をゲストに、皆様を宇宙の謎を巡る旅にご案内しましょう。
この宇宙はいつ、いかにして始まったのか。人類はその始まりをビッグバンと呼んできました。しかし、現代宇宙論では皆様がイメージする熱いビッグバンが本当の最初の瞬間だったとは限らないと考えられていることをご存知でしょうか?
宇宙の誕生って言うんですけど、宇宙が大体誕生したんだということ自体が20世紀の最初の頃の大発見だったんですよね。で、それは理論と観測が両方絡み合って宇宙の真理を解き明かしたっていうのもすごいいい例になっていて、アインシュタインが自分の重力理論を作った時に、それ一般相対性理論って言うんですけど、その方程式を解いて宇宙全体に当てはめて解くってことができる形の方程式になってたんで、それをやってみると、宇宙がそのまま止まっている、静止している、静的である宇宙っていうのは答えとして入ってなかったんですよ。だから膨張してるか、宇宙全体が、空間が、もしくは収縮してるかしかないという。で、アインシュタインはそれを信じることができなくて方程式の方を変えようとしたりしたんですよね。で、ところが観測で実際に広がっているのが見えてしまいます。すなわちありとあらゆる銀河が僕らから遠ざかっていってるということは、時間を逆戻ししてやれば、昔は宇宙はどんどんどんどん密度がものすごく高く、なおかつ密度が高いとやっぱり必然的に温度も高くなるので、すごいギラギラでピカピカの宇宙の時期があったと。で、方程式はもうあるので、それを遡っていって、どのぐらいで温度が無限というか大きくなっていってしまうかっていうのが解けるわけです。で、そうするとどうも僕らの今から138億年ぐらい前に宇宙はそういうものすごい高温の状態があって、そこから冷えてきたんだってことが分かるようになります。で、そのようにして、宇宙は実は無限に続いていたわけではなくて、138億年ぐらい前に始まったんだってことが分かるようになりました。
銀河が遠ざかっているなら、時間を逆に辿ると宇宙は過去にどんどん小さく、熱く、高密度の状態だったことになります。その高温高密度の宇宙こそ、あなたたちがビッグバンと呼んできたものです。そしてこのビッグバン宇宙論は観測によっても支えられており、現在人類は宇宙が生まれてからおよそ38万年後の光を電波として観測することに成功しています。これは宇宙マイクロ波背景放射と呼ばれ、かつて宇宙全体が熱く輝いていたことを示す証拠です。ただし、それより前の宇宙は密度が高すぎて光がまっすぐ進むことができません。つまり光で直接見ることができる宇宙には限界があるのです。そして現代宇宙論では話はここで終わりません。かつてはこの高温高密度のビッグバンこそが宇宙の始まりだと考えられていました。
しかし最近はより調べていくと、どうもこういう高温高密度になった時期より前に、宇宙は実は温度が0というか、逆に冷たい時期があって、その時期っていうのは僕らの感覚からすると一瞬なんですけど、0.00…で0が20とか30つく1秒ぐらいの間、冷たい時期にものすごく宇宙が膨張して、例えばその一瞬の間に原子核のサイズが、僕らが今見えてる全宇宙、ほぼ138億光年ですけど、一瞬でその0.00…で0がつく1秒ぐらいの間に広がっていくようなフェーズ、そういう状態の宇宙があったという風に考えられていて、そういう急膨張をインフレーションと呼びます。
そしてインフレーションが終わると、急膨張を引き起こしていたエネルギーが熱へと変換されます。その瞬間素粒子が生まれ、宇宙は一気に熱くなっていきました。この熱くなった宇宙をビッグバンと呼ぶのであれば、ビッグバンはインフレーションの後に起きたことになります。
ということが分かってきたので、ビッグバンというのをこの熱い状態のことを意味する言葉として使うと、インフレーションの後にビッグバンが起こったことになります。だけどビッグバンというのを僕らの宇宙の本当の始まりという意味で使うと、もちろんインフレーションは僕らの宇宙が始まった後に起こりますから。だからビッグバンがインフレーションの前か後かっていうのは、いろんな本とかを読むと後って言ってる人もいれば前って言ってる人もいると思うんですけど、それは説が違うんじゃなくて、ビッグバンっていう言葉をこの僕らの宇宙が始まった瞬間のことを言ってるのか、インフレーションが終わって熱くなった瞬間のことをビッグバンって言ってるのかで、誤解を生むような二重の意味を持つようになっちゃったんですけど。
インフレーションによる急膨張が起こり、その後宇宙は高温高密度のビッグバンへと移っていった。これが現代宇宙論で考えられている宇宙誕生の大きな流れなのです。ではその宇宙はどのようにして現在のような姿になったのでしょうか?なぜ何もない空間に銀河が生まれ、星が生まれ、やがて皆様のような生命が存在する宇宙になったのか。その鍵はインフレーション時代に生まれたほんのわずかな揺らぎにあります。
量子力学の世界では何もないように見える空間でさえ、完全に静止しているわけではありません。そこにはごく小さな揺らぎが存在します。宇宙のごく初期にもほとんど均一な空間の中にわずかなムラがありました。そのムラは極めて小さなものでしたが、後に銀河や星、そして現在の宇宙の大きな構造につながっていきます。では、そんな小さな揺らぎがなぜ現在の宇宙の大きな構造へと繋がったのでしょうか?その鍵になるのがインフレーションです。
今の宇宙っていうのは銀河があるところには物がたくさん集まってるし、銀河がないところにはほとんど物がない。もちろん星はすごく密度が高くて、星と星の間にはほとんど何もないっていう構造なんですけど、初期の宇宙、もう38万歳の頃ですら宇宙ってそんな構造はなくて、のっぺらとして、スープみたいにほとんどどこも密度が一緒で、1/10万だけ濃いところと1/10万だけ薄いところがあった世界なんですよね。これすごいことで、今この部屋がある空気で撮ってますけど、この部屋の空気の密度ですら1/10万の精度で一様ではないです。上の方がおそらくちょっと熱いし、下の方がちょっと低いし、温度が。ということは密度も違って、それでもあっという間に0.1%ずれてしまうんで、1/10万の精度でのっぺらしてたっていうのはすごい精度でのっぺらしてるんですよ。で、その1/10万のすごい小さなゆらぎが、揺らいでるってことは密度が高いところと薄いところがあるんで、高いところは周りよりちょっと重力が強いから、それがどんどん物を引きつけて、薄いところはどんどんどんどん吸い取られていって。で、じゃあその1/10万の揺らぎはどっから出たんだって言うと、実はインフレーションの理論が正しければ、おそらく正しいと僕ら思ってるわけですけど、その空間がクレイジーに0.…1秒で膨張した時の量子力学による揺らぎと、その38万歳の時に実際に見えてる1/10万の揺らぎのパターン、そのパターンの統計的性質は完全に一致してるんですよ。だから後に銀河になったような密度のちょっとした1/10万の揺らぎって、おそらく宇宙が誕生して0.0…と0が何十もつくようなインフレーションの時期に量子力学の効果で作られたものが種になって、銀河ができて、星ができて、生命は多分できているというストーリーにはなっています。
つまり現在の宇宙にある銀河や星は最初から存在していたわけではありません。宇宙の始まりにあったのはほとんど均一な空間に刻まれたわずかなムラでした。その小さな差が重力によって成長し、やがて銀河を生み、星を生み、そしてあなたたちのような生命へと繋がっていったのです。しかしここでさらに大きな謎が現れます。それは現在の宇宙の構造を作ったのは人間が目で見ることのできる物質だけではないということです。そこには光では見ることのできない未知の物質が深く関わっていると考えられています。それがダークマターです。
知られている物質だけをカウントしていって、宇宙で数えていっても、どうも宇宙にある全質量に全然足りないんです。
宇宙にどれだけの質量があるのかは銀河や銀河団の動きを調べることでわかります。物質は重力によって周りの天体の動きに影響を与えるためです。つまり例え光では見えなくても、そこに重力の影響があれば何かしらの質量が存在していることが分かるのです。しかし、星やガスなど人類が知っている普通の物質だけでは、銀河の動きや宇宙の大規模構造を説明するには全く足りません。さらに初期のわずかなムラから現在の銀河や銀河団ができるまでをシミュレーションしても、普通の物質だけでは現在の宇宙と一致しません。しかしそこにダークマターを加えた時、初めて現在の宇宙の構造をうまく再現できるのです。
ダークマターの証拠なんかもう山ほどあるので、もう存在自体を疑ってるいわゆる物理学者、天文学者はほぼいない。だけどその細かい正体が分からないと。
そして現在の宇宙に残された謎はダークマターだけではありません。宇宙全体の膨張そのものにもまだ正体の分からないものが潜んでいます。それがダークエネルギーです。
それでいわゆる物質っていうのは、ほぼ5/6ぐらいがそのまだ未知のダークマターと呼ばれる物質で、1/6ぐらいが素粒子の標準模型の物質だということはもうほぼ分かってます。で、そのダークマターの細かい正体は、言ったように分かりません。いずれにしても今話してるのは全部物質です。で、ところがそうじゃない、全体に満ち満ちてるエネルギーっていうのが、どうも宇宙の全エネルギーの7割だっていうことが分かります。で、こういう物質、それはダークマターであっても何でもいいんですよ。素粒子の標準模型じゃなくて良くて、電子でもニュートリノでもダークマターだろうが、物質っていうのは実は3割分のエネルギー密度でしかないっていうのが、それはもう本当に最近、20世紀の本当に最後、1998年ぐらいにほぼ確立するんですけど、実はエネルギー密度で満ち満ちてます。なのでそれはエネルギーではあるんだけど、物質、すなわちマターですらないので、よくわからんエネルギーっていう意味でダークエネルギーと呼んでます。
ではなぜ正体不明のエネルギーが存在すると分かったのでしょうか?その手がかりになったのが宇宙の膨張です。宇宙は今も広がり続けています。より正確に言えば、銀河と銀河の間の空間が少しずつ広がっています。しかし宇宙にあるものが物質だけなら、この膨張は少しずつ遅くなっていくはずでした。なぜなら物質同士には重力が働き、重力は互いに引き合う力であるため、宇宙の膨張にブレーキをかける方向に働くからです。ところが観測によって、宇宙の膨張は減速するどころか加速していることがわかりました。これは普通の物質やダークマターだけでは説明できません。そこで考えられたのが、宇宙を押し広げるように働く未知のエネルギーの存在。それがダークエネルギーなのです。
で、その候補の1つは人間は知っていて、真空のエネルギーと呼ばれるのがあるんですけど、それも専門用語なので、分かりやすいのは多分空間のエネルギーって言った方が良くて。だからいわゆる物質を取り去っていった時、鉛筆を取り去ります。僕自身も取り去ります。メガネも取り去ります。やってった時も空間は残るので、それ自体がエネルギーを持てるんですよ。で、そのエネルギーは、僕らの取り決めでは正と負を取れて、人間がどっち側を正って言ってるだけで、それ意味がないんで、どっちが正っていうのは意味がないんですけど、僕らが取り決めてる正の方だと実は斥力っぽく働くんですよ。空間をわーんと広げて、負の場合は逆に収縮させるように働く。そういうものが存在できるということはあるので、おそらくそれが見つかったことになってんだろうということです。
さて、ここまで宇宙誕生から現在の宇宙の構造まで見てきました。しかしここでさらに根本的な疑問が生まれます。そもそもなぜこの宇宙には銀河が生まれ、星が生まれ、生命が存在できるのでしょうか?宇宙のルールが少しでも違っていれば、星は生まれず、原子も安定せず、あなたたちのような生命も存在できなかったかもしれません。しかし、それを支える考えが、宇宙は複数あるとするマルチバース理論です。
僕はこのマルチバースっていう理論はかなり有力だと思っていて、それはそうじゃないと理解できない現象が結構あるんですね。その現象、簡単に言うと僕らの宇宙ができすぎてるっていうことなんですよね。原子っていうのがありまして、電子っていうのがあって、電子っていうのの重さがこういう重さでしてっていうので、僕らの宇宙はルールが決まっていて、だから地球上でもアンドロメダでも全く同じような式が使えて、だからアンドロメダに実際行かなくても、そっから出てくる光を解析すればどういうプロセスが起こってるかとかは分かるんですけど、そのルール自体がむちゃくちゃよくできてるんですよ。で、ちょっとルールを変えてしまうと、理論的には変えてもいいはずなんです。別に電子の質量はこの質量にならなきゃいけないなんて理由どこにもないんで、それは実験で測ってみて、その値を使えば何が起こるかが計算できるっていう理論なんですけど、じゃあなんでこんな値になってるかとか、じゃあなんで電子なんてもんがそもそもあるのかっていうのは、理論的には別になくても良かったはずなので。でもなんかそれがうまく電子があって、重さがこうなって、原子核ってものがあって、しかもそれは中性子と陽子っていうものからできてるんですけど、さらにそれはクォークからできてるんですけど、で、そういう風になってるのをちょっと変えてしまうと、何もない宇宙になる。星や森や湖や人間どころか、もう銀河すらないみたいな、何もない宇宙になっちゃうんですよ。だからむちゃくちゃうまく作られてるように見えるんですよね。で、それはもう神様を持ち出さなきゃ理解できんだろっていうぐらいうまくできてるんですよ。
で、ところがたくさんの種類の宇宙があれば、それって全然不思議じゃなくなるわけです。科学の力で理解できる。すなわち神様を持ち出さなくても良くなるんです。で、それは地球がすごくうまくできてるのと同じだから。地球は太陽からの距離がものすごいぴったりうまくいってるし、そうじゃなければ液体の水なんかあるはずないし、ちょっと小さかっただけで全部蒸発しちゃって。なんでこんな豊かな湖ができて森ができるのか。普通に考えたらもう灼熱の星か、遠かったら全部液体メタンとか、わけわかんなくなるだろうと。なんでこんなすごいんだと思うけど、僕ら答え知ってて、実際ほとんどのところは灼熱か極寒なんで。で、銀河系の中だけでもいろんな距離、恒星からの距離なんかいろんな距離がある惑星がそこら中にあるし、何千億、他の銀河も入れればもう何兆、数兆とあるんで、そんだけありゃたまにはすごいいいとこに行くでしょうと。そういういいとこに行ったところにしか高等生命体なんか生まれないんだから。で、その人たちが周り見たらむちゃくちゃ奇跡的なんですよ。で、こんなとこに行く理由もないのになんて言ってると。
同じようにしてしか理解できないような構造に宇宙全体がなってるのが、どんどんどんどん観測的にいろんな量を測ると、これもなんかわけわかんない値だよねというのが、しかも都合が良すぎる値だよねってのがどんどん分かってくるので、それを神様持ち出さずに理解しようとすると、やはりたくさんの宇宙がなきゃいけないんだというぐらいにしか理解できなくて。で、それを元に、80年代に僕らが作っていた、全然マルチバースとは違う理由で考えられていた、こうじゃなきゃいけないっていう超弦理論とかいろんな理論があるんですけど、それを見直してみると、その理論の中にはたくさんの種類の宇宙がなきゃいけないってのが自動的に入っていたってのが、後になって今みたいなのが分かってみて見直すと分かって。入ってるので非常に示唆的というか、どういう方向から見てみても、どうもやっぱりそうなんだと。で、それって人間の歴史で何度も起こってることで、例えば天動説から地動説に行って太陽系が分かり出してきた頃、コペルニクス、ケプラー、ニュートンの時代でも、あれがほぼ宇宙だと思ってたわけです。太陽系と同じようなもんが山ほどあるとはまさか思わずに、太陽系っていうのが宇宙で、他の星は壁紙みたいに思ってますからね。で、ところがこいつってたくさんあるうちの1個だったんですよ。で、それは銀河の中にたくさんの惑星があって、で、その銀河を実は20世紀の初めはまだ宇宙と呼んでます。っていう風に人間はその都度自分が到達したところが全てだと思うわけです。で、それの繰り返しなので、おそらくマルチバースもそういう意味では全然不自然でも何でもないので、しかも理論的にもそうなってるように見えるし、観測的にもそう考えないとほぼ理解できないようなぴったりな宇宙になってるから、もうどの方向から考えてもそっちの方が自然だろうなと思います。
ただ科学なので、最終的にはどの程度の証拠が積み上がっていくかっていうのがあって、それは僕らの宇宙が熱かったですよっていうビッグバン理論ほど確かではもちろんないです。
知れば知るほど謎に満ちている宇宙。それではなぜ野村泰紀は宇宙を研究する道へ進んだのでしょうか?
僕は高校の時に出会った先生が物理の先生だったんですけど、非常に話も面白くて、受験に全然出ないような相対性理論とか量子力学とかを夏の間に集中講義しますみたいなのをやってくれて、そこでこういう世界があるんかと思って。普通に興味を持ったと思ってたんですけど、それも実際そうなんですけど、思い起こすとやっぱりどうも中学の時も、いわゆる講談社ブルーバックスっていう、科学の一般書の分野で歴史のあるシリーズなんですけど、それを読んだりしてた記憶がやっぱりあるので、元々興味は中学生ぐらいの頃からもうそっちの方にも行ってたみたいですね。それでその高校3年生の時の出会いで、物理学者になるかは別として、こういう方向を勉強していきたいっていうのはあったんで、それのためにはどうすればいいかっていうことで、母校である東京大学に入って、物理学科に進んで、という風に進んでいきましたね。
東京大学を経て同大学院へ進んだ野村泰紀。そこで彼は研究者としての基準を大きく変える衝撃的な出会いを経験したと言います。それはアメリカから来たポスドク研究員のため、東京の町を案内している時のことでした。
富士の麓でやる研究会に来たんだけど、東京に1日か2日寄ってから行くっていうことで、なんかその間に東京でも見せてあげなよ、学生の誰かがやりなよっていう感じだったんですけど、誰も手をあげないんで、僕がその彼を連れ回したんですね。連れ回したって言って東京タワーとかも登ったんですけど、僕初めて連れ回して東京タワーとか登ってるけど、ずっと話してんですよ。で、見てはいます。たまにおおとかもちろん言ってますけど。で、その知識量とそのレベル、深さとかがもう全然違ったんです。もうシャワーです。知識と言葉と、早いですしね。で、向こうが一方的に喋ってるよりも、こっちが出した話題に、これこういうこと考えてこうなってって言ったら、あ、それ多分こういうことだって答えを与えるのもそうだし、えってことは多分これも繋がってるし、これもそうだし、あ、それってこの特殊な場合に過ぎないと思うしって、ぶわーって返ってくるんで、こっちがポンと上げたのが100倍ぐらいにされてポンポン打たれる感じですね。
僕も大学時代ちょっとちゃらんぽらんでやってたとこあるんですけど、大学院に入ってからは相当集中してやってたつもりだったんだけども、これはやばいなと思って。このまま行くと、全員これみたいなのの中に放り込まれたらちょっと生き残れんかもしれんというんで、ものすごいさらに集中して、もうありとあらゆることは知ってる人間になるんだということで、もうすごい勉強することになったんですけど。しかし結果的にはその彼、30前後でハーバードの正教授になるっていう特殊サンプルだったんだけど、僕それしか知らないんで、それが全員だと思って、結果的にはそれがすごいキャリアにプラスになりました。あんだけ刺激的なこの海の中に放り込まれたらもうやばいなと思って行ったら、全然違う海で、ほとんどいなかったですけど、あんな化け物みたいなやつは。っていう出会いがあったりもして、いろんな面でラッキーだったところがいっぱいありますね。
宇宙はただ眺めるだけでは理解できません。どれほど遠くの銀河を観測しても、どれほど昔の光を捉えても、そこに意味を与えるためには自然界を支配するルールを知らなければならないためです。そしてそのルールこそが物理法則です。
今まで見てきたような宇宙を調べる時に、僕らは物理の法則を使って調べるんですけど、それも実は20世紀にすごい革命的な発展がありました。で、その革命的な発展があったから、いわゆる宇宙論、宇宙全体を扱うようなことができるようになってきたわけですけど、それはニュートンの力学から2つの大きな方向で拡張というか、ニュートンの理論が不完全だったってことが分かります。1つは相対性理論という方向で、で、これはやっぱり衝撃でした。
ニュートン力学は日常の世界や太陽系の運動を驚くほど正確に説明していました。しかし、より深く調べていくと決定的な問題が現れます。その鍵になったのが光の速度でした。
電磁波のスピードが計算できちゃうんですよ。マクスウェルの方程式を使うと。それが大体1秒間に地球7周半ぐらいなんですけど、それは不思議なんですよ。ニュートンの理論では結構ありえないというか、起こってはいかんことなんです。で、それはなぜかと言うと、そのスピードが計算できるってもうおかしいわけです。例えば僕ら車が時速50kmって言ってるけど、それ本当に時速50kmですかと。地球は自転してるわけです。もっと速いスピードです。時速何百km、何千kmだ。車は本当は時速何千kmぐらいで動いてます。じゃ、それが車のスピードですかと言うと、いや、でも地球は自転だけじゃなくて公転もしてるわけです。太陽の周りを。それの方が速いですよ。時速何万とかです。車は本当はすげえスピードで動いてるんですよ。でもじゃあそれが車のスピードですかって言うと、太陽系自体が銀河の中心を回ってます。もっと速いです。じゃあ本当のスピードは何か。実は本当のスピードなんていう概念はないと言ってるわけです。何に対してということしか意味がないんだと。だから車が時速50kmって言ってる時には、地表に対して1時間経つと50kmずれるんだという風に、速度っていうのは相対概念しかないというのが、ニュートン力学の元になるガリレイの原理の基本的な考え方なんです。
ところがこの電磁波のスピードは方程式から計算できちゃうんですよ。値が出ちゃうんです。秒速、1秒で3億mです。なので光のスピードは出ちゃうんですよ。誰から見たっていう情報を入れずにですよ。これ何の速度なんだ?アインシュタインが言ったのは、方程式が光のスピードはこれだと言ってんだから、誰から見てもそのスピードなんだと。
これは人類の常識からするととても奇妙な考えです。普通速度とは何に対してどれくらい動いているかという相対的なものです。しかしアインシュタインは光の速度だけは誰から見ても同じであると考えました。しかしそれを成立させるためには、時間そのものが絶対ではなくなる必要がありました。速く動くものほど時間の進み方は遅くなる。人類が当たり前だと思っている時間は、誰にとっても同じように流れているわけではなかったのです。これが1905年にアインシュタインが発表した特殊相対性理論です。
だから本当は電車に乗ってるだけでも時間の進み方は遅れてるわけです。ただ光のスピードに比べてもう遅いので、僕らはそれを意識しないで済んでいただけで、そういう効果をあまりにも小さいんで全部無視していくと、ニュートン力学に完全に一致する理論になってるので、ニュートン力学を含む相対性理論を作ります。それが特殊相対性理論です。ただそれは等速でお互いに動いてる時しか使えない理論だったんですよ。で、それを特殊相対性理論って言いますけど、でも本当は加速したり色々することができるわけですよね。で、次にアインシュタインが気づいたのは、物が加速してるっていうのは実は重力があるっていうのと同じことだってことに気づきます。似てるってのは分かるんですけど。なぜなら車が加速するとぐって押し付けられるじゃないですか。あれって重力が横に働いてるようなもんですよね。で、普通それを見ると似てるなと思うんですけど、ああいうレベルの天才は、ってことは同じなんじゃね、というわけです。例えば無重量空間に箱が浮いていて、自分もりんごも普通にぽよぽよと彷徨ってますよね。じゃ、その箱を紐で、宇宙船かスペースシャトルかなんかで引っ張っていったら、グーって加速していくとグっと押し付けられるので、片方の壁にリンゴも人間も打ち付けられますよね。その現象って中から見てたら重力が存在するのと区別が一切つかないんです。それはいろんな性質を見ると、ってことは同じもんだという風に結論して、そういう理論を作ります。で、そうするとすなわち重力が入ってるので加速も入ります。扱います。で、その理論が一般相対性理論と呼ばれてるやつで、その理論は加速も扱えるだけであって、加速してなくてもいいので、一般相対性理論は特殊相対性理論を完全に含んでます。だから別の理論ではないです。一般相対性理論を使えば特殊相対性理論は自動的にその一部に入ってるので、特殊相対性理論を別に使う必要ないです。なのになぜ特殊相対性理論が残ってるかと言うと、やっぱり一般相対性理論は数学が結構ごついです。なので加速とか重力を扱う必要のない場合に、わざわざこんなごっついもの持ってこなくても、こいつでええやんけっていうことで特殊相対性理論を使うんです。
相対性理論が明らかにしたのは、時間と空間が絶対的なものではないということでした。光の速度が誰から見ても同じものとして考えると、速く動くものほど時間の進み方は遅くなる。そしてアインシュタインはさらにこの考えを重力へと広げます。重力とは単に物体を引っ張る力ではなく、時間と空間そのものの歪みである。これによって人類は宇宙全体の膨張やブラックホールを物理法則で扱えるようになりました。しかし、ニュートン力学が不完全だったのは重力や時空の問題だけではありません。もう1つ全く別の方向から人類の常識を覆す理論が生まれます。それが量子力学です。量子力学が必要になった理由の1つは原子の存在そのものにありました。ニュートン力学と電磁気学だけで考えると、原子核の周りにある電子はエネルギーを失い、中心へ落ちてしまうはずでした。つまり原子は一瞬で壊れてしまうはずだったのです。しかし現実には原子は安定して存在しています。そこにはニュートン力学では説明できないミクロな世界の新しいルールがありました。その1つが、物事が滑らかに変化するのではなく飛び飛びの状態を取るという性質です。そしてもう1つが、複数の可能性が重なり合うという性質です。電子のような粒子は人間が想像する小さな玉のようにただ1つの道を通るわけではありません。条件によっては複数の可能性が重なり合い、それらが互いに干渉した結果として現れます。これが量子力学が明らかにしたミクロな世界の姿でした。こうして20世紀の物理学は、重力と時空を説明する一般相対性理論と、原子や素粒子の世界を説明する量子力学という2つの巨大な理論にたどり着きました。しかしこの2つの理論の間には、まだ埋められていない大きな溝がありました。
実は普通に僕らが使ってる量子力学に重力は入ってないです。で、一般相対性理論に量子の効果って入ってないんですよ。別の理論なんです。だけど僕らの世界は量子力学で動いてるんですよ。なおかつ重力あるんですよ。もう観測結果で、気に入らねえから切ろうってできないんですよ。あるんだから。なのに両方が入った理論ないんですよ。で、それでなんで物理学者がそれでも宇宙論なんかやってるじゃねえかって、できるかと言うと、実は両方が同時に重要になってくる場面ってほとんどないんです。で、それはどうしてかというと、重力がゴミのように弱いからです。しかし後で言うブラックホールの中心とか、時間空間が始まる本当の最初の瞬間とか、そういう変なエキゾチックな意味不明なところを話そうとすると、物が例えばぎゅっと集中したら重力も重要なのに、同時にブラックホールみたいにぐっと縮まっちゃったような小さなところは量子力学も決定的になるので、そういう量子と重力を両方含み、なおかつ重力があまり重要でないところでは普通の量子論に落ち、量子効果が重要でないところでは一般相対性理論に落ちるような統一したものがあるはずなんですよ。物理学というものが正しければ、すなわち自然界にルールというものがあるならば、それが本当の正しいルールのはずなんです。で、ところがこの相対性理論と量子力学を一緒にしたものを作ろうというと、実は特殊相対性理論の部分までは一緒になってます。それは場の量子論っていうやつで、それがないとできないの当たり前で、素粒子をやる時はものすごいスピードで動いてるので、ものすごいスピードで使えないような量子論だったら何の役にも立たないので、それはできていて、その場の量子論っていうのを使ってやってます。ところが素粒子の話してる時には重力は入れなくていいわけですよ。重力を入れるようになったら、今度は特殊の部分だけじゃなく、一般相対性理論の部分も含んだ量子版を作らなきゃいけなくて、それができていない。完全な形ではできてない。っていうのが今問題になっている量子重力の問題です。
一般相対性理論と量子力学を1つの理論として統合する。それは現代物理学に残された最重要課題の1つです。では、なぜこの2つを合わせることはこれほどまでに難しいのでしょうか?
この量子と重力を一緒にするっていうのは全然違うで、1個すら見つからないんですよ。いくら頑張っても、普通に一緒にしようとすると数学の時点で矛盾してしまうんです。1+1が2にならずに2+5みたいな、3+5が8じゃなくて8+なんか変なゴミみたいな。で、それは数学としてやっぱり成り立たないですよ。計算すらできないんで。で、そういう理論になっちゃうんだけど、すごい特殊なことをした時だけ、どうもこのゴミが全部ゼロになる。で、それは素粒子もちっちゃいところをどんどん拡大していくと点じゃなくて紐状のもので、その紐状のものが3次元空間じゃなくて9次元空間の方をフラフラしてる。すなわちどういう空間かというと、9個数字を指定してやっと1点が定まるような空間をフラフラしてってやった時だけ、このゴミがぶわーっと0になるんです。で、それが超弦理論とか弦理論と呼ばれてる理論で、量子重力の候補の1つになっています。
では超弦理論とはどのような理論なのでしょうか?その最大の特徴は、自然界の最も根本的なものを点ではなく紐として考えることにあります。
重力と量子力学を一緒にしようとすると、普通の状況ではあまり問題ないんです。ところがやっぱり極限の状況になると。
普段の世界では重力の影響はあまりにも弱いため、原子や素粒子の世界ではほとんど無視することができます。しかし粒子同士を極めて高いエネルギーでぶつけるような状況では話が変わります。エネルギーは重力の源にもなるため、エネルギーが高くなるほどミクロな世界でも重力の効果が無視できなくなっていくのです。
どんどんどんどん速くぶつけたらどうなるかって言うと、この散乱の例えば確率とかがどんどんでかくなっていって発散、無限になってしまいます。散乱する確率はいくつですか?無限パーセントですと。意味ないわけで、理論が破綻していってるわけです。
ところがそういう時に、重力っていうのは量子力学で見ると、その対応する粒子のグラビトン、重力子って言うんですけど、その交換と見なせるんですが、それだと無限が出てきてしまうんだけど、重力だけじゃなくて、また別の特定の質量を持ったものもあると思うと、その無限の部分を消せるんですよね。でも消せるんだけど、また変なゴミが出ます。で、その粒子Aだけじゃなくて、また粒子B、もうちょい重い別の特定の粒子Bがあると思うと、そのゴミも消せるんですよね。でもまた別のCっていうゴミが出るんで、また別の粒子を入れると消せてってやって、ある特定の質量を持つのをどんどんどんどん入れていくと、完全にその無限大を消して、1+1は2、3+5は8という理論が作れるんです。で、ところがじゃあその特定のものをいっぱい入れるっていうのは何に対応するかって言うと、例えばギターの弦を考えると、ギターの弦ってビーンって弾くとなって、もうちょい端を弾くと山が2つあって、3つの山があってっていう風に、モードって言うんですけど、特定の振動の状況の連なりになります。っていうことは、特定の振動の状況、特定の飛び飛びのエネルギーがあるってことは、E=mc²だから、特定の重さを持ったたくさんの粒子があると見なせる。で、さっき言った重力と量子力学を一緒にしようとすると、もう無限個の特定の粒子を入れていかなきゃいけないんですけど、それっていうのがよく調べてみると、その弦の振動パターンと完全に一致すると。
つまり重力を量子力学に入れようとすると、計算の中に無限大が現れてしまいます。本来粒子がぶつかった後の結果は確率として計算できなければなりません。しかしその確率が無限大になってしまえば、物理的には意味を持ちません。そこでその無限大を消そうとすると、新しい粒子を次々に加える必要が出てきます。そして不思議なことに、その粒子の並び方は1本の弦が持つ振動パターンと一致していました。ギターの弦が振動の仕方によって違う音を出すように、極めて小さな紐も振動の仕方によって違う粒子として現れる。そのため超弦理論では、自然界の根本は点ではなく紐なのではないかと考えるのです。
で、それで弦理論を調べると、実際重力が入っているし、実際無限大はないし、完全に量子力学の理論で、もう終わっとるやんと思うかもしれないんですが、完全に終わってない理由の1つは、超弦理論が使える状況が限られてるんですね。だから特殊相対性理論みたいなもんなんです。実際特殊相対性理論っていうのは、等速で運動してる時は使えるけど、加速しちゃうと単に使えないんですよ。別に矛盾はしてないです。等速の時は完全に正しい理論なんだけど、使える状況は限られてる。今の超弦理論ってそういう感じになっちゃってて、限られたその状況下では実際に量子力学と一般相対性理論、すなわち重力が一緒になってるんだけど、その状況下を離れちゃうと使えないような理論になっちゃってて、その状況下以外の使えないところがちょうど僕らの宇宙になっちゃったりするんです。だからまだ終わってないんですが。
例えばブラックホールなんか作ったりすると、ブラックホールはポロポロ蒸発するんですけど、その蒸発した後の粒子って1個や2個じゃなくて、1億個、100億個って出てくるわけです。そうすると今の超弦理論の取り扱いでは取り扱えなくなってしまうので、そういう状況は単に理論が取り扱えないという状況になってるので、そういうところにも当てはめられる、なんか超弦理論よりもう少し適用性の広い定式化が必要であるという認識になって、で、その時にどうやってその理論を攻めていけばいいかって言うと、1つ実は可能性というかヒントがあって、その大きなヒントになってるのがブラックホールという物体です。
で、ブラックホールという天体というか物体ですけど、それは何かと言うと、非常に多くの質量が集まると、ぎゅっと重力で潰れるのを、普通は核融合反応とかで止めるわけです。で、星のようになるんだけども、それが止めきれないほどすごい質量が集まったり、止めきれないほどすごく密度が高くなったりすると、ひたすら1点に物質が潰れていってしまいます。
そしてその内側に一度入ってしまうと、この宇宙で最大の速度である光でさえ抜け出すことはできません。この境界のことを事象の地平面と呼びます。
ということはその内側からはどんな情報ももう取れないんですよ。その領域から外に行けないので。だから外から見ると真っ暗。何の情報も取れないってことでブラックホールという名前がつきます。で、この物体がなぜヒントを与えるかというと、非常に長いストーリーになってしまうんですけど、エントロピーという概念があります。
エントロピーとは簡単に言えば、ある状態がどれだけ多くの可能性を持っているかを表す量です。水に落としたインクが広がっていくように、自然界では物事はより起こりやすい状態へと進んでいきます。1箇所にまとまったインクより、水全体に散らばったインクの方が圧倒的にありうる状態が多い。このように自然界ではエントロピーが増大する方向に物事が進んでいきます。
ところがブラックホールの変なのは、地球と違ってここに表面があるわけじゃないんですよ。単にこの境界を超えて光は出れませんよという境界を人間が勝手に引いてるだけなので、本当に空間なんです。そこはつるっと。で、そのブラックホールは単に空間なんだから、空間はいろんなパターンを取りようはないです。
普通の物体であれば、中にある分子の並び方や速度の分布など取りうる状態が無数にあります。そのためエントロピーを持つと考えることができます。しかしブラックホールは外から見ると非常に単純です。表面に模様があるわけでも、中の状態を観測できるわけでもありません。そのため古典的な一般相対性理論だけで考えると、ブラックホールにはエントロピーがないように見えます。
ところがここで大きな問題が起こります。エントロピーを持った物体をブラックホールに落とすと、その物体は外から見えなくなります。もしブラックホール自身がエントロピーを持たないなら、宇宙全体のエントロピーが減ってしまうことになるのです。しかし自然界ではエントロピーは減らないと考えられています。ではブラックホールに落ちたエントロピーはどこへ行ったのでしょうか?
この問題に対して1人の物理学者が大胆な仮説を立てます。それがヤコブ・ベッケンシュタインです。彼はブラックホールに飲み込まれたエントロピーが消えたのではなく、ブラックホール自身に刻まれているのではないかと考えました。そこで注目したのが、ブラックホールの境界である事象の地平面の面積でした。
彼が注目したのは、それ以前に知られてるブラックホールの性質っていうのがあって、ブラックホールが2つあったとします。で、その事象の地平面の表面積が例えばAだったとします。で、もう1つのブラックホールの事象の地平面の表面積がBだったとします。その表面積がAのブラックホールと表面積がBのブラックホールを合体させれば、確かに1つの大きなブラックホールになる。で、その表面積がCだとします。そうするとCって必ずAとBの足し算より大きいというのは知られてる。だから、ブラックホールの表面積って必ず、合体させたりなんかやると一方的に増えるんです。減ることないんですよ。
この性質ってエントロピーと同じなんですよ。だからベッケンシュタインが言ったのは、ブラックホールはエントロピーを持っていて、それは表面積に比例するんだと。
地平面、ホライズンの面積とするとどうなるか、しかも彼は計算します。で、どうなるかっていうと、ブラックホールがあって、ピンク色の水を落としたとします。ピンク色の水はエントロピーを持ってます。で、そうしてブラックホールに落として、ブラックホールはピンク色の水を吸収するんで、ちょっと大きくなります。すなわち面積がちょっと増えます。で、その面積が増える量っていうのは、元々のピンク色の水を落としたそれより表面積の増えの方が絶対に大きいということが証明できます。すなわち全体のシステムとしてはエントロピーは増えてます。ブラックホールがそれだけのエントロピーを持ってるとすれば。
ということで、実は統計力学、ブラックホールって物体も、自然界の基本的なルールである量子力学、相対性理論プラス統計力学を逃れてはいないんだと。その3本柱は3本柱で大丈夫なんだという主張をします。
で、それに噛みついたのがホーキングです。ありえねえと。エントロピーがあると乱雑さがあるので、ガチャガチャガチャガチャできるはずで、てことは必ず温度ってものがあるはずで、で温度っていうのがあれば必ず放射をするんですよね。鉄を熱したりして温度があれば、光が放射して鉄は輝きますね。絶対放射するはず。何かを出すはず。ところがブラックホールって一方的に吸い込む物体だよね。エントロピーが増える法則、熱力学第2法則って言うんですけど、そんなもんの話をする以前に破綻してるじゃねえかということで。
でも本当かということで、一応念のために、量子力学の効果を完全に統一した理論はないんだけど、一般相対性理論にうまく量子力学をパッチワークの形で入れ込んで、スティーブン・ホーキングという人はそういう計算というかのが非常にうまい人だったんですよね。で、それをやってブラックホールを調べてみて、ベッケンシュタインのアイデアがクソであるということを示そうと思って計算したら、ブラックホールがちょぼちょぼ放射して蒸発するっていうのを見つけたんです。で、それがホーキング放射と言われてる。で、そうするとどれだけの放射をしていくか、すなわちどれだけの温度をブラックホールが持ってるかっていうことは計算できて、その温度がベッケンシュタインが提唱したエントロピーにばっちり対応する値だった。だからやっぱりブラックホールというのは、統計力学とか熱力学の枠を超えてないんですよね。
しかし厄介なことが起こります。ベテルギウスをぶっつぶしてブラックホールにしたとしますよね。また別の巨大な星、同じ重さの星があったとして、でも星ってもちろん別の模様があったりできますから、重さは同じでも別の星を潰してブラックホールになったりすると、ブラックホールになっちゃうと重さしか表面に何もないですから、重さが同じだから同じブラックホールになっちゃうんですよ。ってことは最終的なそのホーキング放射も全く同じになっちゃうんですよ。てことは、最初どういう星だったかの情報は完全に消えちゃうんですよ。
いや、だからどうしたって思うかもしれないですけど、情報なんかいつも消しとるやんけと。日記とかの内容を隠したければ、別に燃やせば確かに日記がどうだったかなんか誰もわかんないよねと。そういう意味ではもちろんわかんないんだけど、今の話っていうのはそういうことじゃなくて、普通そういう場合でも、例えば日記を燃やします。別の雑誌を燃やします。確かに同じように見えます。ところが原理的には、全ての情報を知っていれば、だから分子の位置、速度、まあそれの量子力学的に対応するその量を全部厳密に、今の状態を完全に知っていれば、それをインプットにしてやって方程式を逆にしてやれば、フルフルフルとある場合には日記になるし、ちょっと違った場合にはフルフルフルと雑誌になるし、原理的には情報は消えてないというのが今までの物理学です。
ところがホーキングの計算が正しかったら、最終状態が原理的に全く同じ、厳密に同じだと言ってるわけです。でも違う状態から出発したのに、すなわち時間を発展させていくと、時間が進んだりすると、違うものが1つの同じものに対応してしまう。時間発展が1対1じゃないって言い方するんですけど、だと言ってるので、そうだとしたらもう予言できないです。エントロピーはいいと、温度もいいと、だけど情報が消えてしまうという、物理学から予言可能性を奪ってしまうというもっと訳のわからない問題が出てきます、というのがブラックホールの情報問題っていう、70年代ぐらいに我々物理学者が突きつけられた、スティーブン・ホーキングに突きつけられた問題です。
ところがそれも最近は、もうほぼそのホーキングが言ったその元々の問題はないんだということで決着しつつあります。で、そこが面白くて、そこに役割を果たすのが実はホログラフィーという原理なんですけど、それは何かと言うと、
ブラックホールに落ちた情報は本当に消えてしまうのか。この問題を考える中で、物理学者たちはある奇妙な事実に注目しました。ブラックホールの情報量は中の体積ではなく、事象の地平面の面積に比例するというものです。この一見おかしな性質がホログラフィー原理へとつながっていきます。
今エントロピー、乱雑さの量なんですけど、乱雑さの量っていうのが表面積に比例すると言ってました。で、表面積に比例するっておかしいんですよ。どう考えても。
普通に考えれば、情報量やエントロピーは体積に比例するはずです。箱が大きくなれば、その中に入れられる粒子の位置や並び方も増えるためです。つまり中身のパターンは空間の広さに応じて増えていくように思います。そのため通常はエントロピーは体積に比例すると考えられています。
しかしブラックホールでは、それが体積ではなく事象の地平面の面積に比例しているように見えるのです。
だからもちろん2倍の体積を持ってくればエントロピーは2倍になれます。3倍持ってきたら3倍になれます。で、10倍の体積持ってきたら10倍になります。ということは普通エントロピーは体積に比例するんです。で、実際そういう風に思われます。1辺を10倍にしたら10の3乗の1000倍の体積になるわけだから、最大エントロピーは1000倍になるはずなんですよ。で、面積だったら3乗じゃなくて2乗にしかスケールしないので、100倍にしかならないんですよ。
で、ブラックホールっていうのはエントロピーが1番高い状態のはずです。なぜなら椅子や机を潰してブラックホールにすることができても、ブラックホールは勝手に椅子や机になったり、ベテルギウスに戻ったりすることはないからです。すなわちエントロピーは増えていくので、その最終状態がブラックホールなんだから、ブラックホールっていうのはその領域が取りうる最大のエントロピーを持ってるはずで、その最大のエントロピーが体積じゃなくて面積分しかないって言ってるんですよ。それがすごい不思議なんですよね。
っていうことは、実は僕らは3次元空間、まあ小さい次元も入れれば9次元空間なわけですけど、超弦理論の。その3次元の空間に入る情報量としては2次元分しかないんだから、2次元の理論として書き直せるはずだっていう提案が、これがホログラフィー原理の基本的な考え方です。
人類は空間を3次元の広がりとして感じています。しかしその中に入る情報量の上限は、体積ではなく境界の面積で決まっているのではないか。その場合、3次元空間の中で起きていることは、より低い次元の境界に書かれた情報として表せるのかもしれない。まるで立体的に見える映像が平面上の情報から浮かび上がるホログラムのように。この発想が量子重力理論を考える上で大きな手がかりになっています。
3次元の重力を含む理論っていうのは、2次元の重力を含まない理論と同じだけの自由度しかない。で、なんで重力って言うかと言うと、今の議論にはブラックホールが決定的だからです。重力がなければブラックホールはないんで、重力があるからこそ。物をどんどん詰めていこうとしても、重力がなければ詰めれますから。重力があったような3次元分というのは2次元分の重力がない理論の自由度で、だってそこに重力があったら、また今度1個下げて1次元にできちゃいますから、どんなものも0までいけちゃうので。そのn次元の重力理論というのは、自由度的にはn-1次元の重力を含まない理論と同じはずなんだから、重力を含まない理論で定式化しておけば、量子重力の問題ってなんかないんです。だって重力ないんだから。
重力を含む世界を、重力を含まない別の理論として書き直せる可能性がある。量子力学と重力を直接1つにしようとすると、理論は非常に難しくなります。しかし重力を含む高次元の世界が、重力を含まない低次元の理論と対応しているなら、重力の問題を別の角度から扱えるかもしれません。ホログラフィー原理が注目された理由はそこにあるのです。
で、それは面白いなと思われてたけど、まあ言うてるだけ感がやっぱりあったわけですよ。ところがさっきも言ったファン・マルダセナという人が、1997年にその具体例を見つけてしまいます。反ド・ジッター空間って言うんですけど、遠くに境界があるような空間がある場合を考えましょう。だから僕らの宇宙に直接使えないんだけど、そういう場合の重力で、しかも量子が入ってる量子重力は、実は重力が入ってない1次元下のある特定の理論、共形場の理論、コンフォーマル・フィールド・セオリーっていうんですけど、とあって、こういうマッピングになってますということを発見してしまうんですよ。だから実際n次元の重力理論っていうのは、どうもn-1次元の重力がない理論と等価で、等しい価値で書けるんだという具体例を見つけてしまうんですよね。
で、それを彼はどうやって見つけたかって言うと、超弦理論を調べて見つけました。だからみんなよくいろんなところで、量子重力理論は超弦理論なのかホログラフィーなのかと言ってますけど、超弦理論はホログラフィーの性質を持ってます。だって実際、具体例は超弦理論を調べることで見つかったんだから。超弦理論っていうのは理論の名前で、ホログラフィーっていうのは性質の名前なので、だから超弦理論はホログラフィックな理論です、当然。だから全然矛盾する概念でもなくて。だけど超弦理論は使える場面が限られてることも知られてます。でもこのホログラフィーの性質っていうのは、超弦理論が使えないような僕らの宇宙のブラックホールとかにもある性質に見えるから、だからその性質の方が多分一般的で、っていう意味で、ホログラフィーを満たす、超弦理論そのものではなく、それを含むような理論を完成させようというのが今行われてる方向で。で、その具体例はマルダセナのAdS/CFTがあるじゃないかって言うけど、やっぱりまだ適用限界があるんですよ。それは重力側に境界がないといけない。要するに壁みたいな、空間自体にそのこれ以上ないという境界がなきゃいけないんですけど、僕らの宇宙はおそらく境界ないんですよ。だからやっぱりまだ完成してないんです。
それではブラックホールの情報問題とホログラフィー原理はどのような関係があるのでしょうか?ホーキングの計算では、ブラックホールに落ちた情報は消えてしまうように見えました。しかしホログラフィー原理はその見方を変えます。ブラックホールを含む重力の世界を境界にある別の理論として書き直せるなら、その理論の中で情報は失われません。つまり情報が消えたのではなく、まだ完全な理論で見えていなかっただけなのかもしれないのです。しかしこの対応が示されているのは、境界を持つ特殊な空間の場合です。私たちの宇宙にそのまま当てはめられるわけではありません。それでは量子重力理論を完成させるには何が必要なのでしょうか?
その量子重力を完成させようと思えば、まあ完全にやることが分かっていたらやればいいだけで、それも分からないんだけど、少なくともこの境界の存在をまず消さないと。境界があるということに非常に依存した定式化になっちゃってるんです、このAdS/CFTっていうやつは。でもどうも僕らの宇宙に境界なんかないし、境界がない場合にホログラフィーを満たすような性質を持ったマップなり何なりかを見つけないといけなくて。で、それは超弦理論を見て分かるかもしれないし、でも今んとこ超弦理論を見てマルダセナみたいに綺麗にその抽出して、ホログラフィーを明らかにするような形の定式化が境界のない場合ではできてないので。でもヒントはいっぱいあります。やっぱり超弦理論ってある種の正しい側面は捉えていて、超弦理論を色々見ていくと、あ、何をやればいいんだみたいなのが、それを見ることで分かる時が結構あって、まあ多分そこにヒントがあるんじゃないかと思ってる人もいるし、やっぱそれをちょっと超えないと、本質的に超えないとダメなんだと思ってる人もいるし。ただおそらく鍵になるのはこのホログラフィーという性質であろうと多くの人が考えてる。でも完成してみたら違ったってこともありうるんで、まだ途中ですよね。
私たちはここまで、宇宙に残された数々の謎を追いかけてきました。宇宙はどのように生まれたのか、そしてどこに向かっているのか。しかしその問いは科学者だけのものではありません。誰もが1度は夜空を見上げ、同じような疑問を抱いたことがあるはずです。人はなぜ宇宙に惹かれるのか。
やっぱりそれは、僕らが小さい時に、みんな忙しくて忘れてるけど、宇宙ってどうなってるんだろうと、なんで僕はいるんだろうかとか、宇宙はどう生まれたかとか、そういう疑問がやっぱり皆の心の中にあるからだと思うんですよね。
僕らってちっぽけです。太陽系なんか銀河の中のちっぽけな存在で、銀河だってたくさんの銀河の中の点みたいな銀河で、その宇宙さえもしかしたらたくさんある宇宙の1つかもしれないって言ってる。そう考えると、こんなちっぽけな地球やら悩みなんてもうなくなって、どうでも良くなるんじゃないですか。ならないです。逆にそういうちっぽけなものだってことが分かるんで。例えば地球なんて別に宇宙にとってあってもなくてもどうでもいいわけですよ。もう吹けば飛ぶようなゴミみたいなもんですよ。だからこそすごく壊れやすいもんなんですよ。
だから僕らが大事にしないと、あっという間に地球なんか壊せてしまうんです。人生とかも同じで、人間なんて、まあ偉そうに言ってあれですが、人間なんてそんな吹けば飛ぶような存在なんだから、僕らが生きていく時にはそこを大事にして生きていくんだっていうのを。そういう意味では、宇宙研究とかをしてしょぼいことが分かるからこそ、そこが愛おしくなる、みたいなところはありますけど。まあそういういろんな意味で、宇宙研究は、そうですね、自分のものへの考え方には多少影響を与えているかもしれないですね。
いつの日か宇宙の全てを知れる日は来るのでしょうか?人類はこれからも、宇宙に残された謎の解明に向けて歩みを進めます。
今回のバイエンスはここまで。宇宙のロマンと共に、おやすみなさい。またお会いしましょう。
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