ブラックホールとは何か:誕生、事象の地平面、特異点、観測史、そして蒸発まで
VAIENCE バイエンスブラックホールは「宇宙に開いた穴」のように思われがちだが、動画はまずそのイメージを否定する。遠くから見れば他の天体と変わらないが、近づきすぎると光でさえ二度と脱出できない。この動画は、ブラックホールがどのように生まれ、その内部で何が起きていると考えられているのか、人類がどこまでそれを観測してきたのか、そして最後にどうなると予測されているのかを順に解説している。
恒星の崩壊から生まれる
動画によれば、ブラックホールは巨大な恒星が寿命を迎え、自らの重力に耐えきれず崩壊することがきっかけで生まれると考えられている。恒星は生涯のほとんどにおいて、核融合による外向きの圧力と重力による内向きの圧力が釣り合うことで形を保っている。しかしこの均衡は永遠には続かない。
太陽のおよそ8倍以上の質量をもつ恒星では、核融合の燃料が尽きると、このきわどいバランスが破滅的に崩れる。鉄でできた中心部のコアが重力で圧縮され、その直後に衝撃波が外層を吹き飛ばす。これが超新星爆発で、動画はこれを宇宙で最もエネルギーの高い爆発の一つと説明する。爆発後に残ったコアが重力に耐えきれず際限なく潰れると、ブラックホールになることがある。
ただし、恒星の質量などの条件が揃わなかった場合には、ほとんどが中性子で構成された中性子星が残る。そして、この中性子星同士が衝突することによってもブラックホールが誕生することがあるという。
恒星の崩壊以外の起源として、動画はビッグバンから1秒以内に物質の密度が極端に高い領域ができ、それが直接ブラックホールになったという説も紹介している。こうしたものは原始ブラックホールと呼ばれるが、現状ではまだ一つも発見されていない。
「穴」ではなく、小さな領域に質量が詰め込まれた天体
動画は、ブラックホールは実際には質量がごく小さな領域に押し込まれた天体であり、「穴」という表現からは程遠いと述べる。
その性質を説明する鍵として持ち出されるのが脱出速度である。宇宙のあらゆる物体には、その重力を振り切るために最低限必要な速度がある。地球では秒速およそ11km、太陽では秒速およそ600kmだ。これがブラックホールでは、光の速度である秒速およそ30万kmを超える。宇宙で光の速度を超えるものは存在しないため、ブラックホールに近づきすぎたものは二度と戻れない。光をはじめとする電磁波も例外ではないため、ブラックホールを直接観測することは非常に困難だと動画は説明する。
現在発見されているブラックホールは、太陽の数倍から100倍程度の質量をもつ恒星ブラックホールと、太陽の数十万倍以上の質量をもつ超大質量ブラックホールに分けられる。その中間の質量をもつ中間質量ブラックホールは、現時点で確実には発見されておらず、天文学に残る謎の一つだという。
事象の地平面とシュワルツシルト半径
事象の地平面とは、光や物質が二度と脱出できなくなる境界のことである。その内側に落ちたものは、光であっても外側に戻ってこない。動画は、一般相対性理論によれば事象の地平面の内側は未来永劫観測できない、と説明する。
回転していないブラックホールを想定すれば、事象の地平面の大きさは厳密に計算できる。その半径がシュワルツシルト半径で、天体の質量に比例する。太陽の場合はおよそ3kmになる。動画はこれを東京に置き換え、太陽と同じ質量のブラックホールがあれば、東京駅を中心に東京タワーや東京ドーム、両国国技館あたりまでの範囲に、太陽の質量である約2×10の27乗トンが集まっていることになる、と例えている。
一方で、事象の地平面は天体の「表面」とは異なる。ブラックホールそのものを表すものでもなく、そこに壁があるわけではないと考えられている。動画は、仮に人が事象の地平面を跨いだとしても、特に何も感じない可能性が高いと述べている。
近づいたら何が起きるか:スパゲッティ化
ブラックホールは何でも飲み込むイメージをもたれがちだが、動画によれば、近づきすぎなければ他の天体と同じように扱える。例として、太陽をまったく同じ質量のブラックホールに置き換えても、地球をはじめとする惑星の軌道は一切影響を受けないという。
では近づきすぎた場合はどうか。その体験はブラックホールの質量によって大きく異なる。比較的質量の小さい恒星ブラックホールの場合、事象の地平面に到達するはるか前に悲惨な最期を迎える。足から近づいたとすると、足と頭にかかる重力の差がどんどん大きくなり、最終的には体を引き裂くほどになる。
動画が示す数値では、太陽質量の5倍という一般的なブラックホールの場合、中心から20km、事象の地平面から5kmほどの距離では、わずか1mmの差でも重力の差が地球の重力の1万7000倍に達する。体は言葉では表せないほど細かく引き伸ばされ、一直線になってブラックホールへ消えていく。この現象は「スパゲッティ化」と呼ばれ、ブラックホールに近づきすぎたあらゆる物体が経験するものだという。
これに対し、超大質量ブラックホールでは、事象の地平面にいても距離の差による重力の差はごくわずかである。この場合は事象の地平面を何事もなく通過し、ブラックホールの内部に入ることになる。ただしそれ以降は決して脱出できず、外部に向けて情報を送ることも理論的に不可能になる。あとは中心にあるとされる特異点へ向かって進むのみだと動画は説明する。
一般相対性理論が予測する内部
現在の物理学で重力の理論として広く受け入れられているのは、アインシュタインの一般相対性理論である。観測が決して叶わない事象の地平面の内側について、この理論はどのような予測を立てるのか。
動画によれば、事象の地平面の内部では、一般相対性理論の記述上、時空の性質が外部と大きく変わると考えられている。これはよく「時間と空間の役割が入れ替わる」と表現されるが、動画はより正確には、ブラックホールの中心へ向かう方向が、外部における時間の進行のように避けられないものになる、ということだと説明する。私たちが時間の流れを止めたり逆らったりできないのと同じように、事象の地平面の内側では中心へ向かうことを避けられない。どのように運動しても最終的には特異点に至る、と一般相対性理論は予測している。
特異点の正体は分かっていない
では中心には何があるのか。動画は、現在の物理学ではその答えは全く分からないと言っても過言ではない、と率直に述べる。一般相対性理論によればそこには特異点があり、計算上その密度は無限大になる。しかし多くの科学者は、これはブラックホールの中心付近が一般相対性理論の適用範囲を超えているだけであり、一般相対性理論に代わる重力の理論が必要だと考えている。
観測も理論もない状態で特異点の様子を予測するのは困難を極めるが、動画は近年盛んに研究されている新たな理論をいくつか紹介している。
その一つがループ量子重力理論である。この理論によれば、時間と空間にはそれ以上分割できない最小単位が存在する。そうすると、特異点の密度が無限大になるという計算結果を避けることができる。さらにこの理論に基づいて、特異点の先にも時空は続いておりホワイトホールにつながっている、と考える物理学者もいる。その場合、ブラックホールに落ちた物質は細かく潰されたのち、宇宙の別の場所、あるいはひょっとすると全く別の宇宙に吐き出されることになる。動画は、このような観測結果が見つかったことはないと断ったうえで、ループ量子重力理論は一般相対性理論に代わる重力理論として期待されていると述べている。
また、特異点どころか事象の地平面についても一般相対性理論では不十分だとする説がいくつかある。その一つが弦理論におけるファズボール仮説だ。弦理論では、宇宙のあらゆるものはごく小さな弦(ひも)の振動によってもたらされていると考える。ブラックホールを絡まった弦の集合とみなせば、特異点の問題を解消できるという。とはいえ、観測がほぼ不可能である以上、人類が特異点の謎を解き明かすのはまだまだ先のことだろう、と動画は見ている。
理論上の存在から観測対象へ:はくちょう座X-1
ブラックホールは長らく理論上の存在にすぎなかった。一般相対性理論の発表から間もなく、光さえ脱出できない天体が計算上は存在しうることは分かっていたが、それが実在するかどうかは全く未知の段階が続いた。
転機として動画が挙げるのは、1964年にはくちょう座付近で強烈なX線を放つ天体が観測されたことである。さらに1971年、その付近の恒星が揺れているように見えることが分かった。つまりその恒星は、光をはじめとする電磁波では全く観測できない「何か」の周りを回っていたのである。恒星の質量と公転周期から割り出された見えない天体の質量は、理論上の中性子星の限界を超えていた。太陽の数十倍の質量をもち、観測できず、中性子星でもない天体――現在ではこれがブラックホールであることは確実視されている。
2019年、ブラックホールの撮影
さらに2019年、人類は姿形が分からないはずのブラックホールの撮影に成功した。撮影したのはイベント・ホライズン・テレスコープで、地球上の複数の電波望遠鏡を一つの望遠鏡として扱うことで非常に高い解像度を実現している。
最初に撮影されたのは、約5400万光年離れた銀河M87の中心にある超大質量ブラックホールである。質量は太陽のおよそ65億倍、シュワルツシルト半径は180億kmにもなる。画像には中心の真っ黒な領域の周りを超高温に加熱されたガスが周回する様子が映っており、動画はこれを「全てが理論通り」と評している。当初は存在すら疑問視されていたが、現在ではブラックホールの存在を疑う天文学者はほとんどいない、と動画は述べる。
静かすぎるブラックホール:Gaia BH1
観測されたブラックホールの中から、動画は特徴的な例をいくつか紹介する。
Gaia BH1は、確認されている中で地球に最も近いブラックホールとして知られている。距離はおよそ1560光年、質量は太陽の9〜10倍。太陽とほぼ同じ質量の恒星と連星をなし、太陽と地球の距離とほぼ同じ間隔の軌道でひっそりと互いを公転している。
天文学者が注目しているのは、このブラックホールがあまりにも静かに存在していることだ。周囲の物質を活発に飲み込んでおらず、降着円盤も形成していないため、X線などの強い電磁波をほとんど放っていない。発見した研究者の言葉として動画が紹介するのは、太陽の位置にこのブラックホールを置き、地球の位置に太陽を置けばこの連星ができあがる、という説明である。
本来なら、ブラックホールになる前の超新星爆発の影響で、このように整った静かな連星が残るのは難しいと考えられる。しかし現実に存在している。動画はここから、人類にはブラックホールの誕生や進化についてまだ分かっていないことが多いのかもしれない、と述べている。
JWSTが見た初期宇宙の超大質量ブラックホール
もう一つの例は、2022年に観測を開始したジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)が捉えた遠い過去の銀河である。光の速度は有限なので、遠くの銀河を観測するほど、より過去の姿を見ていることになる。JWSTが観測した銀河の中には、宇宙誕生から7億年程度しか経っていないものもある。そしてその時点ですでに、銀河の中心に不釣り合いなほど大きな超大質量ブラックホールが存在していた。
動画によれば、この結果が明らかになる前は、初期宇宙では超大質量ブラックホールと銀河が一緒に成長したと考えられていた。しかしJWSTの観測によって、この仮説は大きな修正を迫られている。初期宇宙では超大質量ブラックホールの成長が著しく速かったのか、それとも恒星ブラックホールから成長したのではなく、最初から大きな質量をもって誕生したのか。動画はこの二つの可能性を問いとして示し、宇宙がどのように現在の姿を形作ったのかを考えるうえで、ブラックホールが果たす役割は大きいとしている。
ブラックホールの最期:ホーキングの蒸発説
一般相対性理論は、ブラックホールに飲み込まれたものは永遠に外に出られないと予測する。しかし動画によれば、ブラックホールそのものも永遠ではなく、やがて蒸発すると考えられている。スティーブン・ホーキングが提唱した説では、ブラックホールは少しずつ電磁波を放ってエネルギーを失い、最終的には消えてしまう。
ただしその過程は極めて遅い。動画が示す予測では、恒星ブラックホールが蒸発するには10の67乗年(およそ1000不可思議年)、超大質量ブラックホールでは2×10の100乗年かかる。現在の宇宙の年齢がおよそ10の10乗年であることと比べれば、気が遠くなるほどの時間をかけてブラックホールは宇宙から消えていくことになる。
現在主流の宇宙論では、ブラックホールが蒸発するはるか前に、宇宙から恒星がなくなると考えられている。星形成でガスが消費されることや、超新星爆発などでガスが加熱されることで、新たな恒星が生まれにくくなるためだ。そのときの宇宙は、今よりずっと暗く寂しく、あまりにも広大すぎる場所になっているだろうと動画は描く。
恒星なき宇宙で残る希望
恒星がなくなった宇宙で、生命にとって最後の希望はブラックホールかもしれない、と動画は述べる。生命にはエネルギーが必要だが、ブラックホールの近くに物体を投げ込み、その一部を切り離して脱出させることで、ブラックホールからエネルギーを取り出すことが理論上可能だと分かっているという。
動画は、遠い子孫が宇宙最後の生命としてブラックホールの周りでひっそりと暮らしているのかもしれない、と想像を示す。そしてそのブラックホールさえ蒸発してしまう遠い未来には、宇宙にはもう何も残されていないに等しいだろう、という見通しで締めくくっている。
ブラックホール。宇宙に開いた穴のように思われがちですが、実際にはそうではありません。遠くから見れば他の天体と変わらない。しかし一度近づきすぎれば光でさえ2度と脱出することができません。その中心で何が起きているのか、人類はどこまでたどり着いているのでしょうか?
ブラックホールの誕生は巨大な恒星が寿命を迎えた時に自らの重力に耐え切れず崩壊することがきっかけだと考えられています。恒星はその一生のほとんどにおいて核融合による外向きの圧力と重力による内向きの圧力が釣り合い星の形を保っています。しかしそれは永遠ではありません。太陽よりおよそ8倍以上質量が大きい恒星では核融合の燃料が尽きるとこの際どいバランスが破滅的に崩れることとなります。
鉄でできた中心部のコアが重力によって圧縮された直後、衝撃波により外層を吹き飛ばします。超新星爆発。この宇宙で最もエネルギーの高い爆発の1つです。そして超新星爆発の後に残ったコアは重力に耐え切れず際限なく潰れブラックホールになることがあります。
恒星の質量など条件が揃わなかった場合はほとんどが中性子で構成された中性子星が残ります。この中性子星同士が衝突することでもブラックホールが誕生することがあります。
他にはビッグバンの1秒以内に物質の密度が極端に高い領域ができ、それが直接ブラックホールになったという説も存在します。このようなブラックホールは原始ブラックホールと呼びますが、まだ1つも発見されていないというのが現状です。
ブラックホールとは宇宙にぽっかりと開いた穴のように思う人がいるかもしれません。しかし実際にはブラックホールは質量がほんの小さな領域に押し込まれた天体であり、穴という表現とは程遠いものとなります。
この宇宙に存在する全ての物体はその物体の重力を振り切るのに最低限必要な速度、脱出速度を持ちます。地球の場合は秒速およそ11km、太陽では秒速およそ600km。それがブラックホールの場合では光の速度であるおよそ30万kmを超えます。そしてこの宇宙において光の速度を超えるものは存在しません。そのためブラックホールに近づきすぎたあらゆるものは2度と戻ることはありません。それは光をはじめとした電磁波でさえも例外ではないためブラックホールを直接観測することは非常に困難です。
現在発見されているブラックホールは太陽の数倍から100倍程度の質量を持つ恒星ブラックホールと太陽の数十万倍以上の質量を持つ超大質量ブラックホールに分けられます。その間の質量を持つ中間質量ブラックホールの存在は現在確実には発見されておらず天文学に残る謎の1つとなっています。
事象の地平面とは光や物質が2度と脱出できなくなる境界のことです。ということは事象の地平面の内側に落ちたものはそれが光であろうと決して外側に戻ってくることはありません。それはつまり一般相対性理論によると事象の地平面の内側は未来永劫観測することが不可能ということになります。
仮に回転していないブラックホールを想定した場合、事象の地平面の大きさを厳密に計算することが可能です。その半径はシュワルツシルト半径と呼ばれ、天体の質量に比例します。太陽の場合、シュワルツシルト半径はおよそ3km。もし太陽と同じ質量を持つブラックホールがあった場合、東京駅を中心として、東京タワーや東京ドーム、国技館などまでのエリアの中に太陽の質量2×10の27乗、つまり2000𥝱トンが集まっているということになります。
一方で事象の地平面は天体における表面とは異なります。事象の地平面はブラックホールそのものを表すものでもなく、そこに何かの壁があるわけではないと考えられています。もしあなたが事象の地平面を跨いだとしても、特に何も感じない可能性が高いでしょう。
もしあなたがブラックホールに近づいた場合、何が起きるのでしょうか?ブラックホールはあらゆるものを飲み込むイメージがあるかもしれませんが、実はブラックホールは近づき過ぎさえしなければ他の天体と同じように扱うことができます。例えば仮に太陽を全く同じ質量のブラックホールに置き換えた場合、地球をはじめとする惑星の軌道は全く影響を受けません。
それでは、ブラックホールに近づきすぎた場合はどうでしょうか?これについてはあなたの体験はブラックホールの質量によって大きく異なります。
仮に質量の低い恒星ブラックホールだった場合、事象の地平面に到達するはるか前にあなたは悲惨な最期を迎えることでしょう。仮に足から先にブラックホールに近づいた場合、あなたの足と頭の重力の差がどんどん大きくなり、ついには引き裂いてしまうほどになります。
太陽質量の5倍という一般的なブラックホールの場合、その中心から20km、事象の地平面から5kmほどの距離になると、わずか1mmの差でも重力の差は地球の重力のなんと1万7000倍。粉々などという言葉では言い表せないほど細かく、あなたの体は一直線になってブラックホールへと消えていきます。スパゲッティ化と呼ばれるこの現象はブラックホールに近づきすぎたあらゆる物体が経験するものとなります。一方で超大質量ブラックホールの事象の地平面にいても距離の差による重力の差はごくわずか。
事象の地平面を何事もなく通過したあなたはついにブラックホールの内部に足を踏み入れることとなります。これ以降あなたは決してブラックホールから脱出することもなく、あなたから外部に向けて情報を送ることは理論的に不可能です。そのままブラックホールの中心に存在するとされる特異点に向けて移動するのみ。
現在の物理学において重力に関する理論として広く受け入れられているのはアインシュタインの一般相対性理論。中身の観測が決して叶うことのない事象の地平面の内部に対して一般相対性理論からどのような予測を立てることができるのでしょうか?
まず事象の地平面の内部においては一般相対性理論の記述上、外部とは時空の性質が大きく変化すると考えられています。よく時間と空間の役割が入れ替わると表現されますが、より正確にはブラックホール中心へ向かう方向が外部における時間の進行のように避けられないものになるということです。通常あなたたちは時間の流れを止めたり逆らったりすることはできませんが、事象の地平面の内側ではそれと同じように中心へ向かうことを避けることができません。どのように運動しても最終的には特異点へ至ると一般相対性理論は予測しています。
さて、避けられない未来であるブラックホールの中心。そこには何があるのでしょうか?現在の物理学においてはその答えは全く分からないと言っても過言ではありません。一般相対性理論によるとそこには特異点と呼ばれるものが存在し、計算上特異点の密度は無限大となります。一方、多くの科学者はこれはブラックホールの中心付近では一般相対性理論の範囲を超えているだけであり、一般相対性理論に代わる重力に関する理論が必要だと考えています。
当然観測も理論もない状態で特異点の様子を予測するのは困難を極めます。しかしそれでも近年では新たな理論が盛んに研究されています。例えばループ量子重力理論が有名です。この理論によると時間と空間にはこれ以上分割することのできない最小単位が存在するとのこと。すると特異点の密度が無限大という計算結果を避けることが可能です。
さらにこの理論においては特異点の先においても時空は続いておりホワイトホールにつながっていると考える物理学者も存在します。つまりブラックホールに落ちた物質は細かく潰された後、宇宙における時空の異なる場所やひょっとすると全く別の宇宙に吐き出されるということです。もちろんこのような観測結果が発見されたことはありませんが、ループ量子重力理論は一般相対性理論に代わる重力の理論として期待されています。
他には特異点どころか事象の地平面についても一般相対性理論では不足しているという説がいくつか存在します。その1つが超弦理論におけるファズボールと呼ばれる仮説です。超弦理論ではこの宇宙のあらゆるものはごくごく小さな紐の振動によってもたらされています。ブラックホールは絡まった紐の集合だと考えれば特異点の問題が解消できるとのこと。しかし、やはり観測することがほぼ不可能とあっては、人類が特異点の謎を解き明かすのは、まだまだ先のことでしょう。
とはいえ、ブラックホールは長らく理論上の存在に過ぎませんでした。一般相対性理論が発表されて間もなく計算上は光さえも脱出できないような天体が存在することが分かってはいました。しかしそれが現実に存在するかどうかは全く未知の段階が続いたのです。
時は流れて1964年、白鳥座の付近で強烈なX線を放つ天体が観測されました。さらに1971年、その恒星が揺れているように見えることが分かりました。つまり光をはじめとする電磁波では全く観測できない何かの周りを回っていることが明らかとなったのです。その恒星の質量と公転周期から割り出された見えない天体の質量は理論上中性子星の限界を超えていました。観測することのできない太陽の数十倍の質量を持つ中性子星ではない天体。現在ではこの天体がブラックホールであることは確実視されています。
さらに時代が進み2019年。今度は人類は姿形が全く分からないはずのブラックホールの撮影に成功したのです。撮影したのはイベントホライズンテレスコープ。地球上にある複数の電波望遠鏡を1つの望遠鏡として扱うことで非常に高い解像度を可能にしています。最初に撮影されたブラックホールはおよそ5400万光年離れた銀河M87の中心に位置する太陽のおよそ65億倍の質量を誇る超大質量ブラックホール。シュワルツシルト半径は180億kmにもなります。中心に存在する真っ黒な点の周りに超高温に加熱されたガスが周回している様子が映し出されており全てが理論通りです。初めは存在すら疑問視されていましたが、現在においてはブラックホールの存在を疑う天文学者はほとんどいません。
ブラックホールはこの広大な宇宙の中で多く存在し、実際に観測されたものも多数あります。その中でも特徴的なものをいくつか紹介しましょう。
Gaia BH1は確認された中で地球から最も近いブラックホールとして知られています。距離はおよそ1560光年で質量は太陽の9倍から10倍。太陽とほぼ変わらない質量を持つ恒星と連星となっており、太陽と地球の距離とほぼ同じ距離を隔てた軌道でひっそりと互いを公転しています。
天文学者たちが注目しているのはこのブラックホールがあまりにも静かに存在していることです。というのもこのブラックホールは周囲の物質を活発に飲み込んでおらず降着円盤も形成していないためX線などの強い電磁波をほとんど放っていません。発見した研究者の言葉を借りるなら太陽の位置にこのブラックホールを置き、地球の位置に太陽を置くとこの連星が出来上がるとのこと。本来であればブラックホールになる前の超新星爆発の影響によってこのように整った静かな連星が残るのは難しいと考えられます。しかし現実にそれは存在しているのです。人類はまだまだブラックホールの誕生や進化について分かっていないことが多いのかもしれません。
他にも2022年に観測を開始したジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡、通称JWSTが撮影した遠い過去の銀河の例があります。光の速度は有限であるため銀河を観測するほどより過去の姿を観測していることになります。JWSTが観測した銀河の中には宇宙の誕生から7億年程度しか経過していないものもあります。そしてこの時点でその銀河の中心には不釣り合いなほど大きな超大質量ブラックホールが存在していたのです。
この観測結果が明らかになる前までは初期の宇宙において超大質量ブラックホールと銀河は一緒に成長していったと考えられていました。しかしJWSTの観測によりそのような仮説は大きな修正を迫られるようになっています。初期の宇宙において超大質量ブラックホールの成長が著しく早かったのか。それともこのような超大質量ブラックホールは恒星ブラックホールから成長したのではなく、最初から質量が大きいブラックホールとして誕生したのか。この宇宙がどのようにして現在の宇宙を形成していったのかという問いにおいてブラックホールが果たす役割は大きいのです。
ブラックホールに飲み込まれたものは永遠に外に出ることはない。一般相対性理論はそう予測していることは先にお伝えした通りです。しかし現実にはブラックホールそのものも永遠ではなくやがて蒸発してしまうと考えられています。物理学者のスティーブン・ホーキング氏が提唱した説によると、ブラックホールは少しずつ電磁波を放つため、少しずつエネルギーを失い、やがてはなくなるとのこと。
とはいえ、そのプロセスは極めて遅いものです。恒星ブラックホールがこの方法で蒸発するのには10の67乗年、つまりおよそ1000不可思議年、超大質量ブラックホールに至っては2×10の100乗年かかると予測されています。現在の宇宙の年齢がおよそ10の10乗年ということを考えると気が遠くなるほど長い時間をかけてブラックホールが宇宙から消えていくことがわかります。
現在主流の宇宙論においてはブラックホールが蒸発するはるか前に宇宙から恒星がなくなることでしょう。星形成によってガスが消費されることや超新星爆発などによってガスが加熱されることで新たな恒星が生まれにくくなるためです。その時の宇宙は今よりもずっと暗く寂しく、そしてあまりにも広大すぎる場所と化していることでしょう。
恒星がなくなった宇宙において生命の最後の希望はブラックホールかもしれません。生命にはエネルギーが必要です。ブラックホールはその近くに物体を投げ込み、その一部を切り離して脱出することでエネルギーを取り出すことが理論上可能ということが分かっています。あなたの遠い子孫はこの宇宙最後の生命としてブラックホールの周りでひっそりと暮らしているのかもしれません。そのブラックホールでさえも蒸発してしまう遠い未来においてはもう宇宙には何も残されていないに等しいでしょう。
今回のバイエンスはここまで。またお会いしましょう。
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