宇宙最初の星はどう生まれ、どう観測するのか 島袋隼士氏が語る宇宙暗黒時代と21cm線
VAIENCE バイエンスビッグバンの後、宇宙には星も銀河も存在しない時代が続いた。この「宇宙暗黒時代」から最初の星が生まれるまでに何が起き、それを人類はどう観測しようとしているのか。雲南大学中国西南天文研究所の准教授で、宇宙暗黒時代から宇宙再電離期の21cm線を理論的に研究する天文学者の島袋隼士氏が、ダークマター、ファーストスター、宇宙再電離、21cm線観測の現状と将来計画までを順に解説した。島袋氏の立場は、21cm線こそ「宇宙の隠された空白の歴史」を読み解く強力な道具だというものである。
星も銀河もない「宇宙暗黒時代」
島袋氏によれば、宇宙は高温・高密度・高圧のビッグバンから始まったと考えられており、その後膨張していく過程で星や銀河が存在しない時代が続いた。光を放つ天体がなく真っ暗なこの時代を宇宙暗黒時代と呼ぶ。この時代にあったのは、ビッグバンで作られた水素やヘリウム、そして暗黒物質(ダークマター)だと考えられている。
島袋氏はこの中で最も重要なのは水素だと述べる。ダークマターも宇宙の構造形成には非常に重要だが、電磁波で観測するという観点では水素が今後有力な道具になるからだ。
星や銀河が存在しないことは、見方を変えれば利点でもあると島袋氏は言う。星や銀河の影響を考慮する必要がないため、宇宙の構造や進化といった純粋な宇宙論的性質を探る場になる。たとえばダークマターや、宇宙の始まりに起きたと考えられているインフレーションに関する情報を調べられると期待されている。もし人間がこの時代に存在したとしても、目で見える可視光を出す天体がないため、真っ暗な宇宙を見ることになるだろうと島袋氏は話した。
ダークマターの正体と、島袋氏がアクシオンを推す理由
最初の星や銀河がどう作られたかを考える上で重要な役割を果たすのがダークマターである。ダークマターは電磁波を出さないため光では見えないが、重力的な性質は持っている。
島袋氏は、その存在が示されるきっかけとして銀河の回転速度の測定を挙げた。ニュートンの重力理論からは、銀河の中心から離れるほど回転速度は遅くなると予想されていた。ところが実際に観測すると、外側でも回転速度はほとんど落ちなかった。これを説明するには、星や銀河などの見えている物質以外に未知の物質が必要になる。こうしてダークマターの存在が示されるようになった。
正体はまだ分かっていないが、いくつかの仮説がある。素粒子物理学から予言される超対称性粒子やアクシオン、そして宇宙初期に存在していたとされる非常に小さな原始ブラックホールなどである。島袋氏は個人的にはアクシオンを推しているという。ただし特に大きな理由があるわけではなく、自身がアクシオンに関する論文をいくつか書いたことがあるため思い入れがある、という説明だった。
ダークマターハローは星と銀河の「ゆりかご」
未知の粒子であるダークマターが集まると、ダークマターハローと呼ばれる構造ができる。島袋氏はこれを星や銀河の「ゆりかご」と表現し、その中で宇宙最初の星や銀河が作られると考えられていると説明する。
ダークマターハローは一種の「重力の井戸」であり、そこに水素やヘリウムなどのガスが集まってくる。ガスは自分の重力で圧縮されて小さくなり、最終的にファーストスターの形成につながる。
ここで島袋氏は用語を整理した。ファーストスターとは特定の1つの星を指すのではなく、水素とヘリウムを材料として作られた星の総称である。専門家の間では「ファーストスター」よりも「ポピュレーションIII(種族III)」、略して「ポップ3」と呼ぶほうが一般的だという。
種族I・II・IIIを分けるのは重元素の量
なぜ「3」なのか。種族I(ポップ1)、種族II(ポップ2)の星も存在し、その違いは重元素の量にある。天文学では水素とヘリウム以外の元素をまとめて重元素と呼ぶ大雑把な分類をする。太陽のように重元素を大量に含む星が種族I、水素とヘリウムしか含まず重元素を含まない星が種族IIIである。種族IIはその中間で、太陽に比べると重元素は圧倒的に少ないが、種族IIIよりは多く含んでいる。
冷えにくいガスから生まれるファーストスターは重くなる
重元素が重要なのは、星の作られ方に大きく関わるからだと島袋氏は説明する。星はガスが自分の重力で潰れ、ある程度潰れたところで内部で核融合反応が起きて自ら輝くようになることで生まれる。しかしガスは簡単には潰れない。ガスには圧力があり、それが重力に逆らって押し返すからだ。
圧力はガスの温度が高いほど大きくなるので、潰れるためにはガスを冷やす必要がある。そこで効くのが重元素である。重元素は冷却剤の役割を果たし、ガスからエネルギーを抜いて温度を下げる。重元素が多いほど冷えやすく、星を作りやすくなる。
ところがファーストスターの材料には重元素が含まれていない。ガスが冷えにくく、圧力の強い状態が続くため、それに打ち勝って潰れるにはガス自体がある程度重くなければならない。この論理から、ファーストスターの質量はある程度大きくなると予想されている。
ただし島袋氏は、理論的なシミュレーション研究によれば、条件次第では比較的軽いファーストスターも作られうることが示唆されていると付け加えた。この議論はまだ収束しておらず、軽いものから重いものまで様々な質量のファーストスターが作られた可能性がある。
寿命の短さと、軽いファーストスターが生き残っている可能性
重い星ほど寿命は短くなる傾向がある。島袋氏によれば、太陽の寿命は約100億年と考えられているが、ファーストスターは太陽の10倍から100倍の質量になる可能性があり、寿命は数千万年から100万年単位になると予想されている。そのため、現在の宇宙までファーストスターが残っている可能性は低いと考えられている。
一方で、もし軽いファーストスターが生まれていて、爆発などを起こさずに生き残っているなら、観測できるチャンスはあるかもしれないと島袋氏は言う。その場合、星からの信号を解析し、水素とヘリウム以外の重元素を含まないことを確かめるのが大前提であり、最も重要な確認項目になる。ほかにもチェック項目はあるという。
ファーストスターは「一人っ子」か、連星か
ファーストスターが単独で生まれたのか、兄弟姉妹とともに生まれたのかも、尽きない関心を集める問いだと島袋氏は語る。太陽の周りには今のところ太陽のような星がないため一人っ子として生まれたと考えられているが、星形成の理論では連星として生まれるのはごく普通のことだとされている。
ファーストスターについても連星として誕生した可能性が示唆されている。ただしこれもシミュレーションによる考え方であり、単独で生まれるという結果も連星で生まれるという結果もあるため、誰もが納得する結論はまだ得られていない。現在も議論が活発な分野だという。
島袋氏自身は、連星として生まれたほうが面白いと考えている。互いに回り合うファーストスターが爆発して死に、ブラックホールになれば、そのブラックホール同士が回り合うことで重力波が生じる。重力波は時空を伝わる重力の波で、ファーストスター由来の連星ブラックホールからの重力波が生じれば観測できる可能性もある。そうしたことが起きていたら面白い、というのが島袋氏の見方である。
ファーストスターが変えた宇宙:宇宙再電離
ファーストスターの誕生で宇宙の様子は一変した。島袋氏は、最も大きな変化はまず宇宙に光が灯ったことだと述べる。
さらに、自ら輝くファーストスターは紫外線を放射し、周囲の水素の状態を変える。ファーストスターが死んだ後には新しい星が作られ、それらを含む第1世代の銀河(ファーストギャラクシー)が生まれる。こうした初期の銀河から出る紫外線によって、宇宙に存在する中性水素ガスが電離する。これが宇宙再電離と呼ばれる現象で、島袋氏は非常に多くの謎を含んだイベントだと説明する。
「再」とつく理由はこうだ。ビッグバン直後は高温のため陽子と電子がばらばらに運動していた。その後宇宙が冷えると両者が結びついて中性水素ができた。宇宙再電離では再び陽子と電子が離れ離れになるため、「再」電離と呼ばれる。
再電離を引き起こしたのはファーストスターや初代銀河だというのが一般的な見方だが、クエーサーと呼ばれる天体も寄与したのではないかという考えもある。さらにエキゾチックな話として、暗黒物質が再電離に寄与したというシナリオを考える研究者もいるという。
21cm線とは何か
星や銀河がない宇宙暗黒時代は、それらを直接観測することができない。しかし宇宙には水素が大量に存在するため、水素からの信号を観測すれば暗黒時代も観測できると考えられている。その信号が21cm線であり、島袋氏は宇宙暗黒時代を観測できる唯一の信号として期待されていると述べる。
中性水素は陽子と電子でできており、両者はスピンという物理量を持つ。島袋氏はこれを矢印に例える。陽子と電子のスピンが平行のときはエネルギーがわずかに高く、反平行のときはわずかに低い。自然界はエネルギーの低い状態を好むので、高い状態から低い状態に移ろうとし、その際に余ったエネルギーを捨てる。この捨てられるエネルギーが波長21cmの電磁波であり、名前の由来は単純にその波長だという。
ただし宇宙はビッグバン以降ずっと膨張しているため、放射された21cm線の波長は伸びていく。どの時代に放射されたかによって伸び方が変わり、宇宙再電離期や宇宙の夜明けの時代の21cm線は、現在観測すると数メートルほどになっていると考えられている。
なぜまだ観測されていないのか:前景放射と電波干渉計
21cm線は宇宙再電離期、宇宙の夜明け、宇宙暗黒時代のどの時代にも存在すると考えられているが、現時点ではこれらの時代の21cm線は観測されていない。島袋氏は、天の川銀河内の中性水素からの21cm線はすでに観測されており、観測されていないのは過去の宇宙からのものだと注意を促した。
最大の困難として挙げられたのが前景放射である。島袋氏は、車を運転していて太陽が逆光になり、その裏にある信号が眩しくて見えない状況に例えた。天の川銀河はシンクロトロン放射で非常に明るく輝いており、21cm線の信号はその明るい前景の裏にある。まずこの明るい光を除去し、その中から21cm線を見つけ出さなければならない。
21cm線は電波なので、観測には電波望遠鏡が必要になる。電波望遠鏡には、家庭で衛星放送を受信するアンテナのようなタイプと、クリスマスツリーのような形をしたダイポールアンテナを多数並べ、それらを合成して1つのアンテナのように扱う電波干渉計というタイプがある。
現在21cm線の観測を目的に運用されている望遠鏡として、島袋氏はオーストラリアのMWA、オランダのLOFAR、インドのuGMRT、南アフリカのHERAを挙げた。日本には21cm線観測用の望遠鏡はない。電波干渉計の場合は大量のアンテナが必要で費用がかかり、電波的に静かな場所に作らなければならないため、一国で進めるのは難しく、国際計画になることもあるという。
揺らぎとグローバルシグナル、そしてEDGESの「検出」
21cm線の観測は2種類の信号を目指している。1つは信号の揺らぎで、空間の場所ごとに21cm線の強さが違うことを捉えようとするもので、電波干渉計で試みられている。もう1つはグローバルシグナルで、信号の平均的な強さを調べるもので、パラボラアンテナのような形の比較的シンプルなアンテナで試みられている。
2018年、EDGESというグループがグローバルシグナルを検出したかもしれないという論文を発表した。当時パリ天文台で研究していた島袋氏は、非常にエキサイティングな論文かもしれないと興奮しながら読み進めた。しかし読んでいくうちに「おかしい」と感じた。報告された信号が理論的な予測よりもずっと強かったからだ。既存の標準的な物理学や天体物理学の理論では説明できない信号が検出されたことになり、島袋氏を含む多くの研究者が困惑したという。
一方、インド主導のSARAS 3もグローバルシグナルの検出を目指して観測を続けていたが、信号は検出されず、EDGESの結果を裏付けることはできなかった。この状態は現在も続いており、検出したと主張するEDGESと、検出できなかったとするSARAS 3の結果が並存していて、第三者による検証が待たれているのが現状だと島袋氏は説明した。
島袋氏個人としては、EDGESの結果が本当なら標準理論で説明できないのでものすごく面白い、としつつも、観測誤差の評価などに間違いがあったと考えるほうが、保守的ではあるが現実的ではないかと考えている。
SKA:約13万台のアンテナによる国際プロジェクト
電波干渉計は多数のアンテナを使う大掛かりな観測になる。将来計画のSKAは、約13万台のアンテナで21cm線の信号を検出しようとする巨大な望遠鏡で、一国では賄えないため、ヨーロッパを中心に各国が資金を出し合って建設が進められている。SKAには観測する周波数の違いによってSKA-LowとSKA-Midがあり、21cm線観測に使われるのはオーストラリアに設置されるSKA-Lowだという。
島袋氏はSKAの日本グループで科学検討班の班長を務めている。SKAの目標は21cm線だけではなく、宇宙の磁場がどのように生まれたか、ダークマターやダークエネルギーの性質、さらには地球外生命からの信号の検出まで多岐にわたる。日本グループは、それぞれの目標に関心を持つ研究者が集まってチームを作るかたちで活動している。
完全に完成するのは2030年代と考えられているが、完成を待たずにアンテナを増やしながら段階的に観測し、得られるデータを検証していく。最初の検証は2027年頃に行われる見込みで、島袋氏は視聴者が見ている2026年の翌年には初期観測が始まる予定だと話した。完成すれば、MWA、LOFAR、HERA、uGMRTといった現在の装置を大きく上回る性能を持ち、21cm線観測において最強の望遠鏡になると期待されている。
地球外文明の電波を捉えたら
SKAの目標の1つである地球外生命の信号検出について、島袋氏は次のように説明した。地球人と同じく、発達した文明なら電波で通信しているのではないかと予想し、その電波をSKAで捉えられるかもしれないと考える。楽観的な見積もりだと断ったうえで、地球から数光年から数十光年程度の比較的近い場所に地球外生命がいて、航空機に使うようなレーダーを使っていれば、その程度の信号ならSKAで観測できるかもしれないという論文も出ているという。
もし島袋氏自身がそうした電波を捉えたらどうするか。まずは疑い、地球外生命を必要としない説明がありうるかを考えると島袋氏は答えた。多くの研究者と議論し、本当に地球外生命からの電波だと分かったとしても、いきなり公表すると混乱を招くかもしれないので慎重に対応するだろうという。
SKAによる重力波検出
SKAは重力波の観測にも使えると提案されている。島袋氏によれば、重力波には様々な周波数・波長があり、SKAを使った検出方法は従来の重力波観測とは異なる周波数帯に貢献できる。普通のサイズのブラックホール同士が回り合う場合のほか、銀河のような大きな天体が合体する場合や、銀河中心の超巨大ブラックホール同士が衝突する場合にも重力波が出ると考えられている。メカニズムによって重力波の周波数が異なるため、様々な周波数の重力波を検出することが、異なる物理メカニズムを調べる上で重要になるという。
次の舞台は月の裏側
SKAにも弱点がある。地球上で観測することだ。地球上では多くの人が電波を使って生活しており、その人工電波が21cm線観測の邪魔になる。さらに地球には電離層があり、宇宙から来る21cm線を弾いてしまう。
これらを避けるため、地球を出て観測するという選択肢があり、その第一候補が月の裏側だと島袋氏は言う。人工電波は非常に強く、スマートフォンの電波でさえ月まで届くが、月の裏側には地球からの電波が届かない。加えて月には大気がないため電離層もない。電波的に非常に静かな環境で、21cm線の観測に適している。
月の裏側に電波望遠鏡を作る計画は、アメリカやインドなど複数の国が提案している。中国は月周回軌道に衛星を送り、月の周りに望遠鏡を配置して観測する計画を考えており、2028年から2029年頃の打ち上げを予定しているため、今後数年のうちに実施されるだろうという。日本でもJAXAを中心にツクヨミ計画が進められている。
2030年代以降の電波天文学と、残された課題
今後の見通しとして島袋氏は、SKAの建設がすでに動き出しているので数年以内に完成して観測が始まり、2030年代はSKAによる電波天文学が大きく盛り上がるのは間違いないと述べた。21cm線に限らず電波天文学全体が大きく発展するので、若い学生がこの分野に参入すれば天文学の流れが大きく変わる時代に研究できるだろうという。さらに2040年代、2050年代には月面での電波天文学が次の目標となり、再び大きな転換点を迎えると島袋氏は個人的に考えている。
一方で、21cm線の観測は一筋縄ではいかない。SKAや月面望遠鏡のような強力な装置に加えて、信号を解析する技術など人間の知恵と工夫が試される場でもある。島袋氏は、自身の研究者生活のうちに21cm線の観測を実際に行い、得られた知見を世の中に還元できたら非常にエキサイティングだと語った。宇宙暗黒時代の21cm線はまだ誰も捉えておらず、EDGESの結果の真偽も第三者の検証を待っている段階にある。
宇宙の暗黒時代というのはですね、星や銀河が存在していませんでした。でもこれは逆に言うと、この未知の粒子であるダークマターが集まってくるとダークマターハローと呼ばれる構造を作ります。
ファーストスターが生まれたことによって宇宙の様子が一変します。約13万のアンテナを配置して、地球外生命からの信号の検出などもですね、目標に掲げておりまして、彼らも電波を発してるはずなので、その電波をSKAを使って、もし仮に、仮に私が地球外生命からの電波をですね、キャッチしたら、じゃあ地球上を出てどこで観測するのかというと、それはですね、月の裏側が第1候補として挙げられます。もし人間がですね、この宇宙暗黒時代に存在しているとすると、
今回のバイエンスは新シリーズ「バイエンストーク」。バイエンストークは科学者や冒険家などをゲストにお招きし、その専門分野にまつわる好奇心を刺激するお話を伺うシリーズです。第1回目のゲストは中国雲南大学で准教授を務める天文学者の島袋隼士先生。星や銀河もまだ存在しなかった宇宙暗黒時代から宇宙で星が誕生するまでを理論的に研究されています。宇宙の始まりに近い時代。そこでは一体何が起きていたのでしょうか?バイエンストーク、始まり始まり。
宇宙はビッグバンと呼ばれる高温で高密度、そして高圧な状態から始まったという風に考えられてます。この後宇宙はですね、どんどん大きくなって広がっていくわけなんですけど、その後のビッグバンの宇宙ではですね、星や銀河の存在しなかった時代が続きます。このように星や銀河が存在しないことで宇宙が真っ暗な状態。この時代のことを宇宙暗黒時代という風に呼びます。
宇宙暗黒時代には星や銀河などは存在しなかったわけなんですが、水素やヘリウム、これらはですね、ビッグバンの時に作られたものなんですが、水素やヘリウムに加えて暗黒物質、ダークマターなどがですね、存在していたという風に考えられてます。これらの中で1番重要なものは水素という風に考えられます。もちろんダークマターもですね、宇宙の構造形成において非常に重要なんですが、電磁波で観測するという点を考えればですね、水素が非常に今後有用なツールになってくると考えられてます。
宇宙の暗黒時代というのはですね、星や銀河が存在していませんでした。でもこれは逆に言うと、純粋な宇宙論的な性質、すなわち宇宙の構造であったりとか、宇宙の進化、そういったものをですね、探る重要な場になると考えられてます。星や銀河などを考慮する必要がないからこそ、例えばダークマター、暗黒物質であったり、宇宙の始まりに起きたと考えられてるインフレーション、こういった情報を調べることができるという風に考えられてます。
もし人間がですね、この宇宙暗黒時代に存在しているとすると、我々人間のですね、目はですね、可視光しか見ることができないわけなんですが、宇宙暗黒時代にはですね、星や銀河などが存在してないので、そういった我々人間の目で見ることができるような可視光というのが存在してません。なので非常に真っ暗な宇宙を見ることになると思います。
宇宙暗黒時代からですね、宇宙のその夜明けにかけてですね、重要な点はですね、いかにして宇宙最初の星や銀河などを作るのかという点なんですが、ここで重要な役割を果たすのがダークマターです。
ダークマターはですね、電磁波を出さないので、我々は光で見ることができないわけなんですけど、重力的な性質は持ってるという、ちょっと不思議な物質となってます。最初の発見はどうだったかって言うと、銀河の回転の速度を測ったんですね。銀河の回転の速度って、銀河の中心から離れていくと遅くなっていくというのがニュートンの重力理論で示唆されてました。ですが実際に観測してみると、銀河の回転速度が外側に行っても全然遅くならないということが分かりました。これを説明するためには何らかの未知の物質、星や銀河などの見えてるもの以外にも未知の物質が存在しないといけないということで、ダークマターの存在が示されるようになりました。
じゃあこのダークマターの正体は何なのかというのを考えると、実はですね、これ分かっていません。ただですね、いくつかダークマターの正体のシナリオ、仮説はですね、あります。その中でもですね、超対称性粒子と呼ばれる素粒子物理学から予言される粒子であったりとか、アクシオンと呼ばれる、これもですね、素粒子物理学のところから予言される粒子。さらにですね、原始ブラックホールと呼ばれる非常にちっちゃなブラックホール。宇宙の初期に存在していたとされてる非常にちっちゃなブラックホール。これらもですね、ダークマター、暗黒物質の仮説として考えられてます。
私自身は、この超対称性粒子であったり、アクシオンであったり、原始ブラックホールなどのダークマターのシナリオ色々あるわけなんですが、個人的にはですね、アクシオンの方をですね、推しております。それはなぜかと言うと、特に大きな理由があるというわけではないんですが、このアクシオンに関する論文をですね、私自身いくつか書いたことがありますので、なので他の超対称性粒子や原始ブラックホールと比べると、ややですね、アクシオンの方にですね、思い入れがあるという感じですね。
ダークマターは未知の粒子だという風に考えられてるんですけど、この未知の粒子であるダークマターが集まってくるとダークマターハローと呼ばれる構造を作ります。このダークマターハローというのはですね、ある意味星や銀河のゆりかごと言っても良くてですね、このダークマターハローの中で宇宙最初の星、ファーストスターであったりとか、銀河が作られるという風に考えられています。
ダークマター粒子が集まってきて、ダークマターハローというものを作りました。このダークマターハローはですね、ある意味重力の井戸だと思ってください。その井戸にですね、いろんな物質、水素やヘリウムなどの物質、ガスがですね、集まっていきます。この水素やヘリウムなどのガスはですね、自分の重力でぎゅっと圧縮され、ちっちゃくなっていって、最終的にはですね、星、ファーストスターの形成へと繋がっていきます。
ファーストスターというのはですね、ある特別な1つの星を指すわけではなくて、水素やヘリウム、水素とヘリウムですね、これらを材料として作られた星。これらのことを総称してファーストスターと呼んだりしますが、より天文学者が使ってる用語としてはですね、ファーストスターというよりかはポピュレーション3、日本語で言うと種族3、略してポップ3のようなですね、表現をすることの方が専門家の間では一般的となってます。
ファーストスターがですね、ポップ3、ポピュレーション3、種族3の星という名前で呼ばれるのが天文学者の間で一般的であると言いましたが、見てる方にとってはですね、なぜいきなり3なのか、1や2ではなく3なのかという風に思った方もいらっしゃると思いますが、種族1や種族2、ポピュレーション1、ポピュレーション2、ポップ1、ポップ2の星っていうのもあります。じゃあ、これらポップ1、ポップ2の星とポップ3の違いは何かと言うと、それは重元素の量です。
元素の量というのは、天文学の世界ではですね、水素、ヘリウム、それ以外のものは重元素という非常に大雑把な括り方をするわけなんですが、ポピュレーション1の星、これは例えば太陽とかですね。これは重元素、すなわち水素やヘリウムよりも重い元素が大量に含まれている。そういった星のことを種族1、ポピュレーション1の星と呼んだりします。一方でポピュレーション3の星というのはですね、水素とヘリウムしか含まれてなくて、重元素が含まれていないわけです。そういったものをポップ3、種族3の星と言います。ではこのポップ1とポップ3の間のポップ2、種族2の星っていうのは、太陽とかに比べると重元素の量は圧倒的に少ないけど、ポピュレーション3と比べると水素やヘリウム以外のものも含んでるという点で、ポップ2というのはその間にあるような星を指しています。
この重元素というのはですね、何が重要かと言いますと、星を作る時のプロセスに大きく関わってきます。というのも星を作るというのはどういうことかって言うと、まず水素、ヘリウム、あるいはですね、何でもいいんですけど、ガスがあります。このガスが自分の重力で潰れていって、ある程度潰れていくとガスの中で核融合反応が起きて、星が出てきて自分で輝くことができる。これがですね、一般的な星の作り方なわけです。
ただこのガスが潰れて星になると簡単に言いましたけど、簡単に潰れるわけではありません。というのもガスは自分の重さ、すなわち自分の重力で潰れていくわけなんですけど、ガスはですね、自分の圧力も持ってるわけですね。圧力っていうのはこの重力に抗えます。ガスが重力で潰れていきたい。でもガス自身の圧力でこの重力に抗って押し返そうとする。なのでなかなかガスが潰れて星を作るっていうのができないわけです。
そうするとガスが自分の重力で潰れるためにはどうするかと言うと、圧力に打ち勝つ必要があるわけです。じゃあ、圧力に打ち勝つためにはどうしたらいいかって言うと、この圧力っていうのはガスの温度が高いほど大きくなって、重力によって潰れるのを妨げるわけです。なので、じゃあガスの温度を冷やせばいいじゃないとなるわけなんですが、そこで効いてくるのが重元素です。重元素は冷却剤の役を果たしまして、ガスからエネルギーを抜いてガスの温度を冷やすという役割を果たします。なので重元素が多いほど冷えやすくなるため、より星が作りやすくなる。そういう意味で重元素というのは星を作る時の冷却剤としての役割を果たすので、非常に重要な役割を担ってます。
種族3の星はですね、水素とヘリウムで作られてるという風に説明をしましたが、とすると、ガスを冷やすための重元素が含まれてないということにお気づきかと思います。なので実は種族3、ポピュレーション3、あるいはファーストスターと呼ばれる星はですね、なかなかガスを冷やすことができないわけです。ガスを冷やすことができないので、ずっとですね、圧力が強い状態を保ってるわけです。なので、その強い圧力に打ち勝ってガスが潰れる必要があるので、そのためにはですね、ガスがある程度重くないと潰れることができないわけです。
なので冷えることができないからこそ、ある程度の重さでガスを潰さないといけない。その結果ポピュレーション3、ファーストスターが作られるわけなので、ファーストスターの質量というのはですね、ある程度大きなものになるだろうという風に予想されています。ガスが冷えることができないからこそ強い重力が必要だ。強い重力のためにはある程度の重さがないといけないということで、ファーストスターはある程度重くなるだろうというロジックです。
ファーストスターはですね、重くなるだろうという風な予想がですね、されてる一方で、条件次第によってはもしかしたらある程度軽いファーストスターも作られるかもしれないというのがですね、理論的なシミュレーション研究によって示唆されてます。なので、重いファーストスターが作られるだろう。その一方で軽いファーストスターももしかしたら作られるかもしれないというような議論は続いてるんですけど、ただですね、まだこの議論が収束してるわけではなくて、軽い星から重いファーストスターまで、いろんな質量でのファーストスターが作られる可能性はあります。
ファーストスターは重くなりがちだという説明をしましたが、この天文学的な知識、物理学の知識を使うと、重い星というのは寿命が短くなる傾向にあります。例えば太陽なんですけど、太陽というのはですね、大体100億年ぐらいの寿命を持ってるという風に考えられてます。一方でファーストスターというのは太陽の重さと比べると10倍とか100倍とかになる可能性があります。そうするとその分寿命が短くなるわけなので、もちろん100億年よりも寿命が短くなって、数千万年とか100万年の単位の寿命になるだろうという風な予想がされてます。
ファーストスターがそれほど寿命が短いということは、なかなか現在の宇宙までファーストスターが残ってるという可能性は難しいだろうなという風に考えられてるわけなんですけど、ただですね、軽い質量のファーストスターがもし生まれてたとしたら、それはですね、まだ死ぬことなく現在の宇宙に残ってる可能性もあるかもしれません。もしですね、軽い質量のファーストスターがあって、それがですね、まだ爆発とかを起こさずに生き残ってることがあるのであれば、それはですね、もしかしたら観測するチャンスはあるかもしれません。
まずファーストスターの特徴として、大前提として水素やヘリウムで作られていて、その他の元素を含んでないという特徴があるので、他の重い元素などを含んでない星なのかというのをですね、この星からの信号を解析することによって確定しなければなりません。その他にもですね、色々チェック要項はあるんですけど、基本的に大前提として、水素やヘリウム以外の重い元素、重元素を含んでないっていうのが1番重要となってきます。
ファーストスターはですね、単体で生まれたのか、あるいは他の星たちと一緒に生まれたのか、すなわち兄弟姉妹がいるのかというのはですね、非常に興味の尽きない疑問であります。例えば太陽はですね、今んところ周りに太陽のような星が存在してないので、これは一人っ子として生まれたという風に考えられてるんですけど、実はですね、星の作り方、星形成の理論によりますと、一人っ子ではなくて兄弟姉妹が出てくる、いわゆる連星と呼ばれる生まれ方をするというのは全く普通に考えられてることです。なのでファーストスターももしかしたら一人ではなくて、兄弟姉妹と共に連星として誕生したかもしれないというのもですね、示唆されてます。
ただこちらもですね、シミュレーションによる考え方ですので、今んところファーストスターが単独で生まれてきたというシミュレーションもあれば、兄弟姉妹、すなわち連星として生まれてきたっていう結果もあるので、どの結論が正しいのかということに関しては未だに、みんなが納得する、一致するような回答を得られてるわけではありませんが、これは今のところ、すごい議論が活発に行われてる分野でもあります。
私はですね、ファーストスターが一人ではなくて兄弟姉妹、その後連星として生まれてきた方が面白いのじゃないかなと思ってます。これはなぜかと言うと、連星としてファーストスターが生まれると、ファーストスターがですね、複数お互いにぐるぐる回ってるというような状況になるわけなんですけど、もしこのぐるぐるお互いに回ってるファーストスターがですね、爆発したり、あるいは爆発して死んでその後ブラックホールになったりすると、このファーストスター由来のブラックホールがお互いにぐるぐる回ることによって重力波が生成されるわけですね。
重力波というのは宇宙空間、時空を伝わる重力の波なんですけど、もしこのファーストスター由来のブラックホールからの重力波、連星による重力波がですね、生じると、それは観測できる可能性もあるので非常に興味深いと思います。なのでそういう意味で、ファーストスターが連星として生まれてきて、その後連星のブラックホールを作って重力波を生み出す。そういうことがですね、起きたら面白いなという風に思ってます。
ファーストスターが生まれたことによって宇宙の様子が一変します。暗黒時代にはファーストスターのような明るい天体がなかったので真っ暗だったわけなんですが、ファーストスターの誕生によって宇宙にですね、光が灯ったので明るくなりました。それがまず1点、1番大きなことということができるでしょう。
ファーストスターができると、そのファーストスターというのはですね、自分で光り輝いてる星なので、紫外線光子を放射します。この紫外線光子がですね、ファーストスターの周りの水素の状態を変えたりであったりとか、あるいはファーストスターなどがですね、死んだ後、また新しい星が作られるわけなんですけど、それらの星を含んだファーストギャラクシー、第1世代の銀河などが作られるわけなんですが、その銀河がですね、銀河の周りのガスの状態を変化させるということが起きるだろうという風に考えられてます。
ファーストスターないしは、このファーストスターの後に作られる第2世代の星などで構成されてる銀河、初期の銀河ですね。この銀河から出てくる紫外線光子によって、宇宙に存在している中性水素ガスの状態がイオン化、電離するということが起きます。これが宇宙再電離と呼ばれる現象で、非常に多くの謎を含んだイベントとなってます。
ビッグバンの時というのは最初、宇宙が高温だったので陽子と電子がバラバラに運動してたわけですね。その後宇宙が冷えたので陽子と電子がくっついて水素、中性水素を作るわけなんですが、宇宙再電離の時ですね、再び陽子と電子が離れ離れになるので、また電離状態、ビッグバンの時に続いて陽子と電子が離れ離れになったということで、再電離の「再」、再びっていう文字がつくという風に言われてます。
ファーストスターないしはファーストギャラクシー、初代銀河が水素の再電離を引き起こしたというのが一般的な見方ではあるんですけど、一方でですね、この銀河だけではなくてクエーサーと呼ばれる天体なども再電離に貢献したのではないか、寄与したのではないかという風に考えられてますし、ちょっとエキゾチックな話だと、暗黒物質ももしかしたら再電離に寄与したのではないかという風なシナリオを考えてる人もいます。
宇宙暗黒時代は星や銀河のような明るい天体が存在してないので、星や銀河を直接観測するということはできないわけですね。しかし宇宙にはですね、星や銀河が存在してなくても水素がたくさん存在しているので、この水素から出てくる信号を観測することによって、星や銀河の存在しない宇宙暗黒時代も観測できるという風に考えられてます。では水素から出てくるどういう信号に注目するかと言いますと、21cm線と呼ばれる特殊な電波がありまして、これがですね、唯一宇宙暗黒時代を観測することのできる信号だという風に期待されてます。
私にとって21cm線というのは、宇宙のですね、隠された空白の歴史を紐解く強力な道具という風に考えております。21cm線というのは中性水素から放射される電波なわけなんですけど、中性水素は陽子と電子で構成されてます。陽子と電子っていうのはですね、ちょっと難しいんですけど、スピンと呼ばれる物理量を持ってます。これはですね、平行の矢印と反平行の矢印という風に考えてもらうといいんですけど、陽子と電子のこのスピンの状態が平行状態の時はちょっとだけエネルギーが高いんです。ですが、この陽子と電子のスピンの状態が反平行になるとエネルギーがちょっとだけ低くなります。
自然界というのはですね、エネルギーの低い状態の方を好むので、高い状態の水素から低い状態の水素に変わりたい、変化したいわけですね。じゃあこの時、高い状態と低い状態にはエネルギーの差があるわけなんですけど、高いところから低いところに変わると、その余分なエネルギーは捨てないといけないわけです。この時に捨てられる余分なエネルギーが波長21cmを持ってる電磁波なので、これを21cm線という風に呼びます。21cm線という名前はですね、非常にネーミングの由来は単純で、この出てくる電磁波の波長が21cmなので、単純に長さが21cmだから21cm線という風に呼ぶという名前の由来です。
この21cm線が現在のですね、我々に届くわけなんですけど、ただここでちょっと注意が必要で、宇宙というのはですね、ずっと膨張し続けてます。ビッグバン以降ずっと膨張してます。なので水素から21cm線が出る時の波長は21cmなんですけど、宇宙の膨張によってこの波長がどんどん伸びていくので、21cm線が放射された時代がいつなのかによって波長の伸び方が変わってくるという特徴があります。例えば宇宙再電離であったりとか、宇宙の夜明け時代の21cm線っていうのは、今観測するとそれは長さが21cmではなくて、この宇宙の膨張に伴う波長の伸び具合によって数mぐらいにはなってるという風に考えられてます。
宇宙再電離、宇宙の夜明け、宇宙の暗黒時代、どの時代でも21cm線は存在するだろうという風に考えられてるんですけど、ただ残念なことに現時点ではこの時代の21cm線っていうのは観測されてません。ただ注意が必要で、例えば我々の天の川銀河の中にある水素、中性水素からの21cm線はすでに観測されてるわけなんですけど、この宇宙の暗黒時代、宇宙再電離といった過去の宇宙の21cm線は現時点では観測されてません。
過去の21cm線を観測するというのはですね、今んところまだできてないんですけど、これには色々理由がありまして、この過去の宇宙の21cm線を観測するのはですね、非常に困難だと言われてます。いくつか理由があるんですけど、まず大きな理由としては前景放射というのがあります。例えばですね、皆さんが自動車を運転してるっていう状況を想像して欲しいんですけど、この時ですね、太陽の逆光がありますと。その逆光の裏側に信号がありますとなった時に、なかなかその信号を見ることができませんよね。太陽が眩しすぎてその後ろにある信号を見ることができない。
21cm線観測でも同じような困難が伴います。というのも我々の天の川銀河はですね、自分の明るさ、シンクロトロン放射と呼ばれるんですけど、天の川銀河の中心がものすごく明るく輝いてるわけですね。なので、そのものすごく明るく輝いている前景と呼ばれるものの裏側に21cm線の信号があるので、まずはこの明るい光をですね、除去して、その中から21cm線の信号を見つけ出さないといけないというところで、非常に難しい困難があります。
21cm線はですね、いわゆる電波と呼ばれる波長なので、我々がですね、銀河を観測する時のようなでっかい望遠鏡とはちょっと違った観測方法が必要です。電波望遠鏡と呼ばれる望遠鏡が21cm線の観測では必要です。電波望遠鏡というのはですね、2種類のタイプがあるんですが、例えばですね、ご家庭で衛星放送とかを受信する時にアンテナを使ってると思うんですけど、あれも電波を受信するための望遠鏡としてあります。一方で、あれとはちょっと違ってですね、ダイポールアンテナと呼ばれる、ちょっとなんかクリスマスツリーみたいな形をしてるようなアンテナがあるわけなんですけど、それをたくさん用意して、そのたくさん用意したアンテナを合成して、あたかも1つのアンテナとして取り扱う。それによって21cm線を観測する。これは電波干渉計と呼ばれる方法なんですけど、こういった方法でも21cm線観測が試みられてます。
現在21cm線を観測するための望遠鏡として、例えばオーストラリアに配置されているMWAであったりとか、オランダに配置されてるLOFAR、あるいはですね、インドに設置されてるuGMRTと呼ばれるものや、あるいはですね、南アフリカの方に設置されてるHERAという望遠鏡があるわけなんですが、これらはですね、どれも21cm線の観測を目的として現在運用が進んでるところです。
日本には21cm線を観測するための望遠鏡はなくてですね、そもそも21cm線を観測しようと思うとですね、この電波干渉計とかの場合だと非常にたくさんのアンテナを用意しなければならないので、かなりお金が必要になりますし、電波的に静かなところに作らないといけないっていうのもあるので、なかなかですね、一国で進めていくっていうのは難しくて、国際計画とかになったりする場合もあります。
21cm線の観測なんですけど、実は2種類の信号の観測を目指してます。1つ目が21cm線の信号の揺らぎ。これ何かと言うと、空間的な場所によって21cm線の信号の強さが違っているので、その違い、空間の場所場所での21cm線の信号の違いというものを観測しようというのが1つ目の目標です。これは電波干渉計を使って観測しようという風に試みられてます。一方で、もう1つ21cm線の信号として重要なものとしてグローバルシグナルというのがあります。これはですね、21cm線信号の平均的な強さを調べるというものです。なのでこれはですね、電波干渉計とはまた違ってですね、ご家庭にあるようなパラボラアンテナみたいな形のアンテナで信号の強さを調べようという試みがなされております。
2018年にこのグローバルシグナルを観測したかもしれないという論文が出ました。EDGESというグループがこのグローバルシグナルを検出したかもしれないという論文を2018年に出したわけなんですけど、その当時私はですね、フランスのパリ天文台というところで研究をしてたんですけど、この論文が出た時ですね、非常にエキサイティングな論文かもしれないと興奮しながら論文を読み進めました。ただですね、論文を読み進めているとですね、あれ、おかしいなと思ったわけなんですが、それどういうことかって言うと、21cm線のグローバルシグナルはこういうシグナルになりますよっていうのが理論的には予測されてるわけなんですけど、その予測よりもですね、もっと強いシグナルがですね、このEDGESの結果によって報告されたわけです。
なのでこれつまりどういうことかって言うと、既存の標準的な物理学の理論であったりとか、既存の標準的な天体物理学の理論では説明することのできない21cm線のグローバルシグナルが検出されたということで、これにはですね、私を含め多くのですね、研究者の人々がですね、困惑したというのがその当時の様子でした。
このようにですね、多くの困惑を招いたEDGESの結果なわけなんですけど、EDGESとは別にですね、SARAS 3と呼ばれる望遠鏡もですね、グローバルシグナルの検出を目指して観測を続けてました。このSARAS 3というのはですね、インドが主導してる計画なわけなんですけど、この観測ではですね、21cm線のグローバルシグナルは検出できなかったわけです。なので、このEDGESの結果をですね、検証することはできなかったわけです。この状態はですね、現在まで続いておりまして、現在は21cm線グローバルシグナルを検出したと主張するEDGESの結果、さらにはですね、いや検出できなかったとするSARAS 3の結果がありまして、どっちなんだということで、第三者による検証が待ち望まれてるというのが現時点での状況です。
私個人としては、このEDGESの結果に関しましては、もしこの結果が本当だとするとものすごく面白いです。というのも標準的な物理学、標準的な天体物理学では説明できないからです。しかしそれよりはですね、むしろ観測のですね、誤差の評価とか、そういうところが間違ってたという風に考えるのが、保守的ではあるんですけど、現実的なのではないかなという風に考えております。
このグローバルシグナルのような比較的シンプルなアンテナとは違って、電波干渉計と呼ばれるのはですね、たくさんのアンテナを準備して観測をしなければいけません。なので非常に大型、大掛かりのですね、規模の観測になりますし、例えば将来的に計画されてるSKAというこの電波干渉計、電波望遠鏡だと、約13万台のですね、アンテナを使って21cm線の信号を検出しようという風な試みとなっております。SKAはですね、このように大型プロジェクトとなっておりますので、非常にお金がかかります。なのでこれはですね、もう1カ国だけでできるものではなくて、いろんな国、特にヨーロッパの国々が中心となってですね、各国がお金を出し合ってこの望遠鏡を建設するという流れで建設プロジェクトが進んでおります。
SKAという望遠鏡がありまして、これは国際プロジェクトなわけなんですけど、21cm線の観測のために約13万のアンテナを配置して観測をするという非常に巨大な望遠鏡です。SKAにはですね、SKA-Lowと呼ばれるものとSKA-Midと呼ばれるものがありまして、これはですね、観測する周波数、観測する波長の違いなわけなんですけど、21cm線の観測に使われるのはSKA-Lowと呼ばれる方の観測です。これはオーストラリアの方に望遠鏡を設置して21cm線の観測に迫るという、非常に大きなですね、巨大な国際的なプロジェクトとなっております。
私はですね、現在SKAの日本グループの科学検討班の班長を務めております。その前にですね、SKAの日本のグループの活動について紹介したいんですけど、SKAというのはですね、この21cm線の観測だけをするものではありません。他にもですね、色々な科学的な目標があります。例えば宇宙に存在している磁場、それがどのようにして誕生したのかという話であったり、ダークマターやダークエネルギーの性質などにも迫ることができます。さらにですね、面白いところだと地球外生命からの信号の検出などもですね、目標に掲げておりまして、このようにSKAというのはですね、非常に多岐に渡るサイエンスの目標があります。なのでそのいろんな目標に向けてですね、各グループ、各興味のある人たちが集まってですね、チームを作ると、それがSKAの日本グループの活動となっております。
SKAはですね、フルに完全完成するのは2030年代になるという風に考えられてるんですけど、ただですね、このSKAっていうのは全部が完成するのを待って観測を開始するというわけではなくてですね、どんどんアンテナの数を増やしていって拡張していってるので、徐々にですね、ここまでできた段階で観測をしてみて、どういうデータが得られるのかというのをですね、チェックしたり検証したりするわけです。この最初のですね、検証が2027年ぐらいには行われるという風に考えられてるので、もうすでにですね、この動画を見てる皆さんは2026年だと思うんですけど、もう来年にはですね、2027年には観測、初期観測が始まっていく予定です。
SKAはですね、現状の21cm線の観測望遠鏡、装置、例えばMWA、LOFAR、HERA、uGMRTなどとかありますが、これらをですね、大きく上回る性能を持っているので、完成すればですね、21cm線の観測においては最強の望遠鏡となることが期待されてます。
SKAのサイエンスの目標として、地球外生命の信号をキャッチするという目標があるんですけど、これも1つ目標として掲げてるんですけど、これはですね、どういうことをやろうかと言いますと、例えば文明が発達していれば、その文明の人々は電波を使って交信とかしてるのではないだろうかという風にまず予想するわけですね。我々地球人がそうなわけなので。なのでもし地球外の発達した文明が存在してるとするならば、彼らも電波を発してるはずなので、その電波をSKAを使って捉えることができるかもしれないというのがですね、1つ面白い科学の目標として掲げられてます。
ちょっと楽観的な評価にはなるんですけど、例えばですね、比較的近くの、比較的近くっていうのは大体地球から数光年あるいは数十光年ぐらい、比較的近くなんですけど、この距離もそういうところにもし地球外生命が存在しているとするならば、もし彼ら彼女らがですね、航空機に使うようなレーダーを使っていれば、それぐらいの信号だったらもしかしたらSKAで観測することができるかもしれないという、ちょっと楽観的な評価であるんですけど、見積もりであるんですけど、そういった論文もですね、出ております。
そうですね。もし仮に、仮に私がその地球外生命からの電波をですね、キャッチしたら、まずはやっぱり疑いますね。これ本当にそうなのと、地球外生命からの電波なのと。地球外生命を必要としないようなシナリオ、仮説でもしかしたら説明できるかもしれないので、まずはそこをやっぱり最初に考えると思いますね。その中で、いろんな研究者と議論して、これが本当に地球外生命からの電波だということがですね、分かったのであれば、それはやっぱりちょっといきなり表に出すと、文明のですね、混乱を招いてしまうかもしれませんので、そこは慎重に対応していくのかなと。もし私が検出したらそういう風に対応します。
重力波って、その重い物質とかがですね、動くと時空に歪みが起きるのが重力波なわけなんですけど、この重力波の影響をSKAを使って観測するっていうことも提案されてますね。これは、重力波っていろんな波長、周波数のものがあるわけなんですけど、このSKAを使った検出方法っていうのは、従来の重力波の観測とはまた違った周波数、違った波長帯の重力波の検出に貢献できるというので、それは異なる物理のメカニズムによって生じる重力波の性質を調べることができるという点で期待されてます。
例えば、ちっちゃな、普通のサイズのブラックホールがお互いにぐるぐる回って重力波が出るというのもあるわけなんですけど、逆にですね、でっかい銀河のようなものがですね、合体する時にも重力波が出ると考えられてますし、さらに銀河の中心にあるような超巨大質量ブラックホール、これらがぶつかる時とかにも重力波が出るという風に考えられてます。なのでこのようにいろんな物理のメカニズムがあるわけなんですけど、その物理のメカニズムによって出てくる重力波の波長、重力波の周波数っていうのは異なるので、いろんな波長、いろんな周波数の重力波を検出することが重要となります。
SKAというのはですね、21cm線の観測において最強な望遠鏡になるという風に言ったんですけど、ただですね、ちょっと弱点もあります。それは何かと言うと、地球上で観測するということです。というのも我々は地球上でですね、多くの人々が電波を使って生活してるわけです。なので21cm線を観測しようと思った時に、やはりこの地球上の人々の電波、人工電波がですね、邪魔になるわけです。なので、この地球上での人工電波の影響を軽減したい。あるいはですね、地球上には電離層と呼ばれる場所があるわけですね。ここは宇宙からやってくる21cm線を弾いてしまうところではあります。なので、こういった電離層の影響であったりとか、地球上の人々が使っている電波、こういうものを避けるために、我々は地球上を出るという選択肢もあるわけです。
じゃあ、地球上を出てどこで観測するのかというと、それはですね、月の裏側が第1候補として挙げられてます。月の裏側はですね、地球からの電波が届かない。人工電波っていうのは非常に強いんですね。電波の部類の中でも、スマホ1つ取っても、そこから出てくる電波っていうのは月にだって届くような信号なので。加えて月には大気がないので電離層も存在しない。なのでそういった影響も和らげることができる。そういう意味ではですね、月っていうのは非常に電波的には静かな環境であるので、21cm線の観測により適した環境となっております。
月の裏側に電波望遠鏡を作るプロジェクトっていうのはいくつかの国が提案しておりまして、例えばアメリカであったりとか、インドであったりとか、さらにですね、中国は月の周回軌道、月の周りの軌道にですね、衛星を飛ばすというプロジェクトを考えております。日本でもですね、ツクヨミ計画というのがJAXAを中心としてプロジェクトが進行しています。中国ではですね、この月の軌道の方に衛星を飛ばすプロジェクトが考えられてるんですけど、これはですね、2028年、2029年あたりにこの衛星をですね、打ち上げて、月の周りに望遠鏡を配置して観測をしようという風に考えているので、これから数年の間にですね、やるだろうという風に言われてます。
今後数年の観測がどうなっていくのかっていうのを考えると、やはりですね、SKAがですね、もうすでに建設が動き始めてるので、この数年以内に建設が完了して観測を始めるだろう。なので、2030年代はですね、SKAを使った電波天文学というのが大きく盛り上がる。これはもう間違いないと思います。21cm線に限らずなんですけど、他の電波天文学がですね、SKAの登場によって大きく発展するのはこれ間違いないと思います。なので、特にですね、今の若い学生さんとかはですね、この辺の分野に参入してくると、天文学のですね、流れが大きく変わるような時代に研究することができると思います。
さらにですね、2040年代、2050年代に目を向けると、そこはですね、おそらく次は月面での電波天文学っていうのが目標とされると思うので、そこでもですね、また大きな転換点を迎えると思います。なので、この2030年代以降はですね、電波天文学から目を離せない状況になってくるのではない
かなという風に個人的には考えております。21cm線の観測はなかなか困難なことが多いので、一筋縄ではいかないんですけど、今後もですね、こういった強力な望遠鏡、SKAだったりとか、月面での望遠鏡に加えて、さらにですね、信号を解析するための技術であったりとか、そういう人間のですね、知恵や工夫のところが非常に試される場でもあるので、私がですね、研究者生活をやってる間に21cm線の観測を実際に行うことができて、その得られた知見をですね、世の中に還元することができたら非常にエキサイティングで面白いなという風に思っております。
謎に包まれた宇宙暗黒時代。そしてその時代を紐解く鍵となる21cm線。人類がその謎に迫る日はもうすぐそこまで来ているのかもしれません。
今回のバイエンスはここまで。またお会いしましょう。
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