宇宙最初の星はどう生まれ、どう観測するのか 島袋隼士氏が語る宇宙暗黒時代と21cm線

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概要

ビッグバンの後、宇宙には星も銀河も存在しない時代が続いた。この「宇宙暗黒時代」から最初の星が生まれるまでに何が起き、それを人類はどう観測しようとしているのか。雲南大学中国西南天文研究所の准教授で、宇宙暗黒時代から宇宙再電離期の21cm線を理論的に研究する天文学者の島袋隼士氏が、ダークマター、ファーストスター、宇宙再電離、21cm線観測の現状と将来計画までを順に解説した。島袋氏の立場は、21cm線こそ「宇宙の隠された空白の歴史」を読み解く強力な道具だというものである。

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星も銀河もない「宇宙暗黒時代」

島袋氏によれば、宇宙は高温・高密度・高圧のビッグバンから始まったと考えられており、その後膨張していく過程で星や銀河が存在しない時代が続いた。光を放つ天体がなく真っ暗なこの時代を宇宙暗黒時代と呼ぶ。この時代にあったのは、ビッグバンで作られた水素やヘリウム、そして暗黒物質(ダークマター)だと考えられている。

島袋氏はこの中で最も重要なのは水素だと述べる。ダークマターも宇宙の構造形成には非常に重要だが、電磁波で観測するという観点では水素が今後有力な道具になるからだ。

星や銀河が存在しないことは、見方を変えれば利点でもあると島袋氏は言う。星や銀河の影響を考慮する必要がないため、宇宙の構造や進化といった純粋な宇宙論的性質を探る場になる。たとえばダークマターや、宇宙の始まりに起きたと考えられているインフレーションに関する情報を調べられると期待されている。もし人間がこの時代に存在したとしても、目で見える可視光を出す天体がないため、真っ暗な宇宙を見ることになるだろうと島袋氏は話した。

ダークマターの正体と、島袋氏がアクシオンを推す理由

最初の星や銀河がどう作られたかを考える上で重要な役割を果たすのがダークマターである。ダークマターは電磁波を出さないため光では見えないが、重力的な性質は持っている。

島袋氏は、その存在が示されるきっかけとして銀河の回転速度の測定を挙げた。ニュートンの重力理論からは、銀河の中心から離れるほど回転速度は遅くなると予想されていた。ところが実際に観測すると、外側でも回転速度はほとんど落ちなかった。これを説明するには、星や銀河などの見えている物質以外に未知の物質が必要になる。こうしてダークマターの存在が示されるようになった。

正体はまだ分かっていないが、いくつかの仮説がある。素粒子物理学から予言される超対称性粒子やアクシオン、そして宇宙初期に存在していたとされる非常に小さな原始ブラックホールなどである。島袋氏は個人的にはアクシオンを推しているという。ただし特に大きな理由があるわけではなく、自身がアクシオンに関する論文をいくつか書いたことがあるため思い入れがある、という説明だった。

ダークマターハローは星と銀河の「ゆりかご」

未知の粒子であるダークマターが集まると、ダークマターハローと呼ばれる構造ができる。島袋氏はこれを星や銀河の「ゆりかご」と表現し、その中で宇宙最初の星や銀河が作られると考えられていると説明する。

ダークマターハローは一種の「重力の井戸」であり、そこに水素やヘリウムなどのガスが集まってくる。ガスは自分の重力で圧縮されて小さくなり、最終的にファーストスターの形成につながる。

ここで島袋氏は用語を整理した。ファーストスターとは特定の1つの星を指すのではなく、水素とヘリウムを材料として作られた星の総称である。専門家の間では「ファーストスター」よりも「ポピュレーションIII(種族III)」、略して「ポップ3」と呼ぶほうが一般的だという。

種族I・II・IIIを分けるのは重元素の量

なぜ「3」なのか。種族I(ポップ1)、種族II(ポップ2)の星も存在し、その違いは重元素の量にある。天文学では水素とヘリウム以外の元素をまとめて重元素と呼ぶ大雑把な分類をする。太陽のように重元素を大量に含む星が種族I、水素とヘリウムしか含まず重元素を含まない星が種族IIIである。種族IIはその中間で、太陽に比べると重元素は圧倒的に少ないが、種族IIIよりは多く含んでいる。

冷えにくいガスから生まれるファーストスターは重くなる

重元素が重要なのは、星の作られ方に大きく関わるからだと島袋氏は説明する。星はガスが自分の重力で潰れ、ある程度潰れたところで内部で核融合反応が起きて自ら輝くようになることで生まれる。しかしガスは簡単には潰れない。ガスには圧力があり、それが重力に逆らって押し返すからだ。

圧力はガスの温度が高いほど大きくなるので、潰れるためにはガスを冷やす必要がある。そこで効くのが重元素である。重元素は冷却剤の役割を果たし、ガスからエネルギーを抜いて温度を下げる。重元素が多いほど冷えやすく、星を作りやすくなる。

ところがファーストスターの材料には重元素が含まれていない。ガスが冷えにくく、圧力の強い状態が続くため、それに打ち勝って潰れるにはガス自体がある程度重くなければならない。この論理から、ファーストスターの質量はある程度大きくなると予想されている。

ただし島袋氏は、理論的なシミュレーション研究によれば、条件次第では比較的軽いファーストスターも作られうることが示唆されていると付け加えた。この議論はまだ収束しておらず、軽いものから重いものまで様々な質量のファーストスターが作られた可能性がある。

寿命の短さと、軽いファーストスターが生き残っている可能性

重い星ほど寿命は短くなる傾向がある。島袋氏によれば、太陽の寿命は約100億年と考えられているが、ファーストスターは太陽の10倍から100倍の質量になる可能性があり、寿命は数千万年から100万年単位になると予想されている。そのため、現在の宇宙までファーストスターが残っている可能性は低いと考えられている。

一方で、もし軽いファーストスターが生まれていて、爆発などを起こさずに生き残っているなら、観測できるチャンスはあるかもしれないと島袋氏は言う。その場合、星からの信号を解析し、水素とヘリウム以外の重元素を含まないことを確かめるのが大前提であり、最も重要な確認項目になる。ほかにもチェック項目はあるという。

ファーストスターは「一人っ子」か、連星か

ファーストスターが単独で生まれたのか、兄弟姉妹とともに生まれたのかも、尽きない関心を集める問いだと島袋氏は語る。太陽の周りには今のところ太陽のような星がないため一人っ子として生まれたと考えられているが、星形成の理論では連星として生まれるのはごく普通のことだとされている。

ファーストスターについても連星として誕生した可能性が示唆されている。ただしこれもシミュレーションによる考え方であり、単独で生まれるという結果も連星で生まれるという結果もあるため、誰もが納得する結論はまだ得られていない。現在も議論が活発な分野だという。

島袋氏自身は、連星として生まれたほうが面白いと考えている。互いに回り合うファーストスターが爆発して死に、ブラックホールになれば、そのブラックホール同士が回り合うことで重力波が生じる。重力波は時空を伝わる重力の波で、ファーストスター由来の連星ブラックホールからの重力波が生じれば観測できる可能性もある。そうしたことが起きていたら面白い、というのが島袋氏の見方である。

ファーストスターが変えた宇宙:宇宙再電離

ファーストスターの誕生で宇宙の様子は一変した。島袋氏は、最も大きな変化はまず宇宙に光が灯ったことだと述べる。

さらに、自ら輝くファーストスターは紫外線を放射し、周囲の水素の状態を変える。ファーストスターが死んだ後には新しい星が作られ、それらを含む第1世代の銀河(ファーストギャラクシー)が生まれる。こうした初期の銀河から出る紫外線によって、宇宙に存在する中性水素ガスが電離する。これが宇宙再電離と呼ばれる現象で、島袋氏は非常に多くの謎を含んだイベントだと説明する。

「再」とつく理由はこうだ。ビッグバン直後は高温のため陽子と電子がばらばらに運動していた。その後宇宙が冷えると両者が結びついて中性水素ができた。宇宙再電離では再び陽子と電子が離れ離れになるため、「再」電離と呼ばれる。

再電離を引き起こしたのはファーストスターや初代銀河だというのが一般的な見方だが、クエーサーと呼ばれる天体も寄与したのではないかという考えもある。さらにエキゾチックな話として、暗黒物質が再電離に寄与したというシナリオを考える研究者もいるという。

21cm線とは何か

星や銀河がない宇宙暗黒時代は、それらを直接観測することができない。しかし宇宙には水素が大量に存在するため、水素からの信号を観測すれば暗黒時代も観測できると考えられている。その信号が21cm線であり、島袋氏は宇宙暗黒時代を観測できる唯一の信号として期待されていると述べる。

中性水素は陽子と電子でできており、両者はスピンという物理量を持つ。島袋氏はこれを矢印に例える。陽子と電子のスピンが平行のときはエネルギーがわずかに高く、反平行のときはわずかに低い。自然界はエネルギーの低い状態を好むので、高い状態から低い状態に移ろうとし、その際に余ったエネルギーを捨てる。この捨てられるエネルギーが波長21cmの電磁波であり、名前の由来は単純にその波長だという。

ただし宇宙はビッグバン以降ずっと膨張しているため、放射された21cm線の波長は伸びていく。どの時代に放射されたかによって伸び方が変わり、宇宙再電離期や宇宙の夜明けの時代の21cm線は、現在観測すると数メートルほどになっていると考えられている。

なぜまだ観測されていないのか:前景放射と電波干渉計

21cm線は宇宙再電離期、宇宙の夜明け、宇宙暗黒時代のどの時代にも存在すると考えられているが、現時点ではこれらの時代の21cm線は観測されていない。島袋氏は、天の川銀河内の中性水素からの21cm線はすでに観測されており、観測されていないのは過去の宇宙からのものだと注意を促した。

最大の困難として挙げられたのが前景放射である。島袋氏は、車を運転していて太陽が逆光になり、その裏にある信号が眩しくて見えない状況に例えた。天の川銀河はシンクロトロン放射で非常に明るく輝いており、21cm線の信号はその明るい前景の裏にある。まずこの明るい光を除去し、その中から21cm線を見つけ出さなければならない。

21cm線は電波なので、観測には電波望遠鏡が必要になる。電波望遠鏡には、家庭で衛星放送を受信するアンテナのようなタイプと、クリスマスツリーのような形をしたダイポールアンテナを多数並べ、それらを合成して1つのアンテナのように扱う電波干渉計というタイプがある。

現在21cm線の観測を目的に運用されている望遠鏡として、島袋氏はオーストラリアのMWA、オランダのLOFAR、インドのuGMRT、南アフリカのHERAを挙げた。日本には21cm線観測用の望遠鏡はない。電波干渉計の場合は大量のアンテナが必要で費用がかかり、電波的に静かな場所に作らなければならないため、一国で進めるのは難しく、国際計画になることもあるという。

揺らぎとグローバルシグナル、そしてEDGESの「検出」

21cm線の観測は2種類の信号を目指している。1つは信号の揺らぎで、空間の場所ごとに21cm線の強さが違うことを捉えようとするもので、電波干渉計で試みられている。もう1つはグローバルシグナルで、信号の平均的な強さを調べるもので、パラボラアンテナのような形の比較的シンプルなアンテナで試みられている。

2018年、EDGESというグループがグローバルシグナルを検出したかもしれないという論文を発表した。当時パリ天文台で研究していた島袋氏は、非常にエキサイティングな論文かもしれないと興奮しながら読み進めた。しかし読んでいくうちに「おかしい」と感じた。報告された信号が理論的な予測よりもずっと強かったからだ。既存の標準的な物理学や天体物理学の理論では説明できない信号が検出されたことになり、島袋氏を含む多くの研究者が困惑したという。

一方、インド主導のSARAS 3もグローバルシグナルの検出を目指して観測を続けていたが、信号は検出されず、EDGESの結果を裏付けることはできなかった。この状態は現在も続いており、検出したと主張するEDGESと、検出できなかったとするSARAS 3の結果が並存していて、第三者による検証が待たれているのが現状だと島袋氏は説明した。

島袋氏個人としては、EDGESの結果が本当なら標準理論で説明できないのでものすごく面白い、としつつも、観測誤差の評価などに間違いがあったと考えるほうが、保守的ではあるが現実的ではないかと考えている。

SKA:約13万台のアンテナによる国際プロジェクト

電波干渉計は多数のアンテナを使う大掛かりな観測になる。将来計画のSKAは、約13万台のアンテナで21cm線の信号を検出しようとする巨大な望遠鏡で、一国では賄えないため、ヨーロッパを中心に各国が資金を出し合って建設が進められている。SKAには観測する周波数の違いによってSKA-LowとSKA-Midがあり、21cm線観測に使われるのはオーストラリアに設置されるSKA-Lowだという。

島袋氏はSKAの日本グループで科学検討班の班長を務めている。SKAの目標は21cm線だけではなく、宇宙の磁場がどのように生まれたか、ダークマターやダークエネルギーの性質、さらには地球外生命からの信号の検出まで多岐にわたる。日本グループは、それぞれの目標に関心を持つ研究者が集まってチームを作るかたちで活動している。

完全に完成するのは2030年代と考えられているが、完成を待たずにアンテナを増やしながら段階的に観測し、得られるデータを検証していく。最初の検証は2027年頃に行われる見込みで、島袋氏は視聴者が見ている2026年の翌年には初期観測が始まる予定だと話した。完成すれば、MWA、LOFAR、HERA、uGMRTといった現在の装置を大きく上回る性能を持ち、21cm線観測において最強の望遠鏡になると期待されている。

地球外文明の電波を捉えたら

SKAの目標の1つである地球外生命の信号検出について、島袋氏は次のように説明した。地球人と同じく、発達した文明なら電波で通信しているのではないかと予想し、その電波をSKAで捉えられるかもしれないと考える。楽観的な見積もりだと断ったうえで、地球から数光年から数十光年程度の比較的近い場所に地球外生命がいて、航空機に使うようなレーダーを使っていれば、その程度の信号ならSKAで観測できるかもしれないという論文も出ているという。

もし島袋氏自身がそうした電波を捉えたらどうするか。まずは疑い、地球外生命を必要としない説明がありうるかを考えると島袋氏は答えた。多くの研究者と議論し、本当に地球外生命からの電波だと分かったとしても、いきなり公表すると混乱を招くかもしれないので慎重に対応するだろうという。

SKAによる重力波検出

SKAは重力波の観測にも使えると提案されている。島袋氏によれば、重力波には様々な周波数・波長があり、SKAを使った検出方法は従来の重力波観測とは異なる周波数帯に貢献できる。普通のサイズのブラックホール同士が回り合う場合のほか、銀河のような大きな天体が合体する場合や、銀河中心の超巨大ブラックホール同士が衝突する場合にも重力波が出ると考えられている。メカニズムによって重力波の周波数が異なるため、様々な周波数の重力波を検出することが、異なる物理メカニズムを調べる上で重要になるという。

次の舞台は月の裏側

SKAにも弱点がある。地球上で観測することだ。地球上では多くの人が電波を使って生活しており、その人工電波が21cm線観測の邪魔になる。さらに地球には電離層があり、宇宙から来る21cm線を弾いてしまう。

これらを避けるため、地球を出て観測するという選択肢があり、その第一候補が月の裏側だと島袋氏は言う。人工電波は非常に強く、スマートフォンの電波でさえ月まで届くが、月の裏側には地球からの電波が届かない。加えて月には大気がないため電離層もない。電波的に非常に静かな環境で、21cm線の観測に適している。

月の裏側に電波望遠鏡を作る計画は、アメリカやインドなど複数の国が提案している。中国は月周回軌道に衛星を送り、月の周りに望遠鏡を配置して観測する計画を考えており、2028年から2029年頃の打ち上げを予定しているため、今後数年のうちに実施されるだろうという。日本でもJAXAを中心にツクヨミ計画が進められている。

2030年代以降の電波天文学と、残された課題

今後の見通しとして島袋氏は、SKAの建設がすでに動き出しているので数年以内に完成して観測が始まり、2030年代はSKAによる電波天文学が大きく盛り上がるのは間違いないと述べた。21cm線に限らず電波天文学全体が大きく発展するので、若い学生がこの分野に参入すれば天文学の流れが大きく変わる時代に研究できるだろうという。さらに2040年代、2050年代には月面での電波天文学が次の目標となり、再び大きな転換点を迎えると島袋氏は個人的に考えている。

一方で、21cm線の観測は一筋縄ではいかない。SKAや月面望遠鏡のような強力な装置に加えて、信号を解析する技術など人間の知恵と工夫が試される場でもある。島袋氏は、自身の研究者生活のうちに21cm線の観測を実際に行い、得られた知見を世の中に還元できたら非常にエキサイティングだと語った。宇宙暗黒時代の21cm線はまだ誰も捉えておらず、EDGESの結果の真偽も第三者の検証を待っている段階にある。