Iceotopeに学ぶ「熱の壁」の攻略法:冷却技術を既存のバリューチェーンに乗せる

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概要

FoundXの「Startup IdeaCast」は、海外のスタートアップをAIで調べて分析し、起業を考える人向けに紹介する番組である。今回取り上げたのは、AIデータセンターの冷却技術を手がける英国発のスタートアップ、Iceotopeだ。番組冒頭では、情報の整理にAIを使っているため一部に古い情報や誤りが含まれる可能性がある、という断りが入っている。

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解説役がこの会社を選んだのは、これまで番組で「AIが伸びればデータセンターが増え、その周辺のビジネスも伸びる」という構図の事例をいくつも扱ってきたなかで、データセンターの「熱」の話はあまりしていなかったからだという。議論の中心にあるのは、Iceotopeが冷却液そのものではなく、設計と知財、パートナーとのエコシステムで勝負しようとしている点である。

1ラック120kWという発熱

Iceotopeは、Precision Liquid Cooling(精密液体冷却)と呼ぶ方式で、サーバーを特殊な液体で冷やす技術の設計と知財を提供している。掲げているビジョンは、あらゆる計算機から熱の制約を取り除き、冷却にかかる無駄をゼロにすることだ。

背景として解説役が挙げたのは、AIインフラの発熱量である。NVIDIAのスーパーチップなどを積んだAI向けのラックでは、1ラックあたりの発熱量が120kWを超えるという。これは一般家庭の電力消費のおよそ45カ月分に相当する、と解説役は紹介した。従来の一般的なデータセンターのラックは平均10kW未満だったため、単純計算で10倍以上の熱が出ることになり、ファンで空気を送る空冷では厳しくなっている。

ただし、すべてのデータセンターが液冷に移るわけではない、と解説役は補足する。一般的なサーバーならファンで十分に冷やせる。熱の問題が深刻なのは、AIやHPC(ハイパフォーマンスコンピューティング)のように密度の高いラックであり、そこで液冷を含めた検討が進んでいるという整理だ。

Iceotopeのもう一つの特徴として解説役が強調したのは、冷却技術をつくるだけでなく、既存データセンターにある縦置きの標準ラックにそのまま収まる構造をつくっている点である。

既存の3つの冷却方式とその限界

ターゲット顧客は、高密度のAIやHPCを運用するデータセンター事業者とハイパースケーラーである。番組では、既存の冷却手段を3つに分けて、それぞれの課題を説明した。

1つ目は空冷だ。冷却ファン単体でシステム電力の約5〜10%を消費しているという。施設の外で水を使って冷却するため水の使用量も多く、環境負荷が高い。さらに騒音やほこりが出るので、エッジ環境や工場のような場所には空冷サーバーを置きにくい。

2つ目はタンク型の液浸冷却で、サーバーごとプールに沈める方式である。こちらは床にかかる荷重が大きくなりすぎ、建物ごと改修が必要になる場合がある。運用やメンテナンスのときには、クレーンでサーバーを上から引き上げなければならない。解説役は、運用フローそのものを根本から壊してしまった事例もあったと紹介した。

聞き手が「運用負荷が高いとは、現場で具体的に何が起きているのか」と尋ねると、解説役は次のように答えた。故障時にはサーバーを液体から引き上げ、液が垂れないようにしながら作業しなければならない。冷却液そのものが高価なので、その管理も必要になる。保守担当者を、こうした作業ができるよう改めて教育する必要もある。

3つ目は、コールドプレートを使う直接液冷である。CPUやGPUのように熱を多く出す部品に金属板を密着させ、その内部に冷却液を流す。ただしこの方式で冷えるのは特定のチップだけで、メモリや電源などほかの部品には引き続きファンが必要になる場合がある。そのため、この方式にも限界があるという。

解決策:サーバーごとに「ウェットスーツ」を着せる

Iceotopeの精密液体冷却は、サーバー単位で筐体を密閉し、内部で少量の液体を精密に循環させる方式である。解説役は、タンク型が「プールに沈める」方式だとすれば、Iceotopeはサーバーごとにウェットスーツや水の羽織りものを着せるようなものだと例えた。

番組で紹介された効果は次のとおりだ。ファンをなくすことで、施設の総電力を理論上約30%削減できるとされる。クローズドループ設計のため、水の消費量は最大96%削減できると見込まれている。標準的な縦型ラックに収まるので既存の設備を大きく変えずに導入でき、稼働中の抜き差し(ホットスワップ)による保守もできるという。これは実機の試験で実証されている、と解説役は説明した。

聞き手は、チップにだけ水冷プレートを貼る方式と何が違うのかを確認した。解説役によれば、プレート方式ではメモリや電源の熱が残るため、結局ファンが必要になる。これに対してIceotopeは基板全体を液体で冷やすので、ファンを完全に取り除ける。

液漏れのリスクについて聞かれると、解説役は、Iceotopeは電気を通さない絶縁液を使っているため、漏れても水のようにショートすることはないと説明した。また、サーバー単位で密閉しているので、トラブルが起きても影響範囲をそのサーバーに限定でき、被害を小さく抑えられると考えているという。

市場:AI、ESG、エッジの3つのドライバー

番組で紹介された予測では、データセンター冷却市場全体は2030年に400億〜450億ドル規模に成長し、そのうち液冷は150億〜200億ドル規模になる見込みだという。

成長のドライバーとして挙げられたのは3点である。1点目は、AIチップの進化に伴う発熱密度の上昇。2点目は、カーボンニュートラルや水消費削減をめぐる国際的なESG規制の強化。3点目はエッジへの拡張で、通信基地局や工場など、使う場所の近くでコンピューティングを行うとサーバーを過酷な環境に置くことになり、そこで液冷が求められるという見立てだ。

エッジ需要について聞き手が掘り下げると、解説役は、5Gやその先の6G、自動運転、工場のDXやスマート化などでデータが発生する場所の近くでAIの推論を行う必要が出てくると説明した。そうした場所には大きな空調設備や騒音の出る設備を置けないため、密閉型の液冷が求められるようになる、と予測されているという。

ビジネスモデル:製造を持たないアセットライト戦略

Iceotopeは自社でハードウェアを製造していない。知財と設計に特化してスケールするアセットライトな戦略をとり、量産や製造はサーバーメーカーなどのOEMパートナーに任せ、保守も外部パートナーを活用している。固定費を抑えながら高い利益率を確保し、スケールしやすくしている、と解説役は説明した。

聞き手がこのモデルの弱点を尋ねると、解説役は2つのリスクを挙げた。1つは技術をOEM側に内製化されるリスク。もう1つは、OEMパートナーの中で自社技術の販売優先度をどこまで上げられるかに依存してしまうリスクである。その対策としてIceotopeは特許を多く取得しており、出願中のものも含めると200件以上になるという。

では、内製化のリスクがあるなかで、OEMメーカーにとってIceotopeの技術を使うメリットは何か。解説役によれば、OEMはAIサーバーを売りたいが、ファン冷却では顧客のデータセンターの熱処理が追いつかず売れない、という状況を抱えている。Iceotopeの技術を組み込めば、自社サーバーを既存施設に売れるようになる。これがOEM側にとっての価値だという。

エコシステムの構成:OEM、Schneider Electric、Avnet

Iceotopeの戦略は、全体として知財を軸にしたエコシステムの構築である。役割分担は次のように説明された。

サーバー製造と半導体については、HPやDellなどのパートナーを活用している。Iceotopeが担うのは、サーバーを液冷化するための精密な密閉シャーシや内部の流路の設計で、量産、在庫管理、物流はパートナーが行う。これにより顧客は、知らない新しい会社のサーバーを買うのではなく、使い慣れた標準的なサーバーを液冷構成で買えるようになる。

設備やインフラについては、Schneider Electricがラックや CDU(冷却液分配ユニット)を提供している。Iceotopeの液冷サーバーをデータセンター施設側とシームレスに連携させるため、インフラのレベルで統合しているという。

インテグレーション、保守、サポートにはAvnetを活用し、技術統合のサービスとサプライチェーン管理を担ってもらっている。聞き手が保守をAvnetに任せる仕組みを尋ねると、解説役は、Avnetがグローバルにサプライチェーンを持ち技術者を派遣する機能を備えているため、Iceotope単独では難しい世界中での24時間365日の保守が可能になっていると説明した。

一見するとコアに見える冷却液についても、特定の1社に依存するリスクを避けるため、他社の冷却液を検証・認定して使えるようにしており、現在は複数メーカーの冷却液を認定しているという。

さらに10年後、20年後の理想像として、単に冷やすだけでなく排熱を回収して暖房や給湯に回す循環型の仕組みも実現しようと考えている、と紹介された。

ロードマップ:大学での実証から大手との共同検証へ

データセンター市場では信頼性が非常に重視されるため、Iceotopeは最初から大企業に売ることはできなかったという。

フェーズ1では、大学などの小規模で高密度な環境で技術実証を行い、電力使用効率の改善を確認した。フェーズ2ではHPやIntelなどの大手と共同検証を行った。現在はフェーズ3にあたり、複数の冷却液メーカーの認定プログラムを拡大したり、製品をグローバルに展開したりしようとしている。解説役は、かなり王道のマイルストーンを積んでいると評した。

聞き手は、大学は痛みが存在するうえに、それほど厳しい稼働保証が求められない環境だったと整理したうえで、Metaとの共同検証の内容を尋ねた。解説役によれば、72ドライブのような高密度ストレージ環境で液冷ができるかを検証し、CPUなどの計算機だけでなくストレージにも技術を応用できることを示したという。

競争優位:既存ラックへの適合と200件超の知財

既存技術との比較では、Iceotopeの方式は空冷とタンク型液浸の「いいとこ取り」、あるいは中間をとったものと位置づけられた。熱効率が高く、既存のラックでそのまま運用でき、保守も容易で、施設の大規模な改修もいらない、というのが解説役の整理である。

参入障壁(モート)として挙げられたのは、200件以上の知財と、特定の冷却液に依存しないエコシステムである。特許の中身について聞かれると、解説役は、密閉する筐体の構造、流路の設計、熱交換器の仕組みから、ラック側の構成まで、ハードウェアのアーキテクチャ全体に幅広く張り巡らされていると説明した。

参入戦略:研究室の騒音と熱というニッチな痛み

最初から巨大なクラウド事業者を狙うのは難しい。そこでIceotopeが初期ターゲットに選んだのは、大学の研究室に置かれたサーバー群だった。ファンの騒音と熱が大変だという、局所的ではあるが確かな痛みがある場所である。巨大なタンクを使わないブレード型のモジュールをMVPとして、そこからPMFに至ったという。

研究室のサーバーの騒音がどれほど深刻なのか想像しにくい、と聞き手が補足を求めると、解説役は、サーバーのファンは掃除機よりうるさく、研究者が働く部屋の隣で24時間鳴り続けるのはかなり気が散る環境だったため、解決してほしいというニーズがあったと説明した。

ハイパースケーラーへの導入状況については、Metaなどとの共同研究によって技術検証は進んでいる。ただ、解説役が調べた範囲では、全社で一括して量産導入するという段階にはまだ至っていないようだという。

創業の経緯:空気を動かすことへの疑問

創業の起点は2005年で、創業者はPeter Hopton氏である。Hopton氏は、電力が計算そのものではなく、空気を動かすファンに使われていることに物理的な矛盾を感じた。そこから、空気より熱伝導率の高い液体を使えば熱を効率よく逃がせるのではないかと発想したという。

初期チームはITやソフトウェアのエンジニアだけではなく、大学の機械工学の研究者などとも連携して立ち上がった。熱力学や流体力学の専門知見を統合し、流体解析と熱設計の研究に特化したスタートアップとして始まったという。

熱と流体の専門家が必要だった理由について、解説役は、単に液体に沈めるだけでは局所的に熱暴走が起きるからだと説明した。チップに液体を適切に当てて熱を逃がすには流体解析が欠かせず、それが競争力にもつながっているという。

周辺情報として、Hopton氏は創業後の2019年に瀕死のスキー事故に遭い、それまでの仕事人間から、ほかの起業家を支援する方向へと大きく変わったと紹介された。現在はIceotopeに加えて、ほかのテック系創業者のサポートも行っているという。聞き手が「創業者は今は経営トップではないのか」と確認すると、解説役は、CEOは別のプロ経営者に引き継がれ、組織も再編されている状況のようだと答えた。

学び:全部自社で作ろうとして壁に当たる

初期のIceotopeは、ハードウェアを全部自社でやろうとしていたという。サーバーを液体に沈めればよいという発想から始まり、ハードウェアもすべて自社で作るつもりだった。しかしエンタープライズ市場では、OEMのお墨付きとグローバルな保守体制が欠かせず、その壁に当たった。そこで冷却設計に特化し、パートナー企業と組むエコシステムモデルにピボットしたという。

OEM認証の壁がなぜ厳しいのかと聞かれると、解説役は次のように説明した。サーバーは設計が少し変わるだけで熱暴走が起きたり、保証の対象外になったりする。そのため、メーカーが公式に「この冷却装置に組み込んでも動作を保証する」と認めない限り、顧客は買いにくい。

資金調達:少ない資本で拡大できる理由

資金調達は複数回行っており、2014年に1,000万ドル、2022年に3,000万ドルを調達したと紹介された。2026年にも調達しており(字幕上の金額表記は「26」)、現在はシリーズBの段階にある。VCからの調達に加えて、EUの研究プロジェクトなどを通じてグラントを活用し、検証の機会や公的資金も得ているという。

聞き手が「調達額が意外と大きくない」と指摘すると、解説役は、自社で巨大な工場やデータセンターを建てたりハードウェアを作ったりしない道を選んだため、少ない資本でスケールでき、その分金額が小さくなっているのではないかと述べた。

日本で起業するなら

番組では、日本で同様のアイデアを事業化するならどうするかをAIに考えさせ、3つのアプローチを挙げた。1つ目はビル内に置く都市型マイクロデータセンター、2つ目は工場などの過酷な環境に置くエッジコンピューティング、3つ目は排熱を活用するサーキュラーモデルである。

このうち都市型マイクロデータセンターは、日本の事情と相性がよいのではないかという。日本は狭い土地が多く、静かで省スペースであってほしいというニーズが強い。ビル内に静音で高密度なAI推論基盤を構築する用途が想定されている。戦略としては、冷却液をつくって勝負するのではなく、国内の設備会社と組み、設計、設置、保守、故障対応をセットにしたパッケージをつくることが重要になるだろう、という整理だった。

聞き手が、日本ではすでに複数の会社が液浸冷却の実証実験を行っているが、どう差別化すればよいかと尋ねた。解説役は、大手が取り組んでいるのは大規模データセンター向けのプール型液浸だと説明した。そのうえでスタートアップとしては、大手が狙わない、あるいは採算が合わないような設置制約の厳しい環境から入れば可能性があるかもしれない、という程度の見立てを示した。

まとめと感想:誰のバリューチェーンに乗せるか

解説役は最後に、今回の事例から次の点を挙げた。熱という物理的な限界をビジネスの機会に変えている発想が面白いこと。尖った単体の最高技術ではなく、既存インフラに適合し、パートナーが売りやすい仕組みをつくっていること。省エネのような環境面の価値を、経済的な価値に翻訳して伝えていること。そして、新技術を開発するときには、それを既存の誰のバリューチェーンに載せるかを製品自体に組み込んで考えると、ビジネスにつながりやすいのかもしれない、と結んだ。

聞き手は、垂直統合とは別の、バリューチェーンにうまく乗っていく進め方として参考になりそうだと感想を述べた。解説役もこれに応じて、全部を自社でやるのではなく外部パートナーを活用し、その結果としてグローバルに広がっていくこと自体がモートにつながっていると指摘した。そうした仕組みを作れれば事業を広げやすいのではないか、というのが番組の締めくくりである。