鉄と油の変圧器を半導体とソフトウェアで置き換える:Heron PowerのAIインフラ戦略

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概要

FoundXの番組「FoundX Review Startup IdeaCast」は、海外スタートアップのアイデアをAIで調べ、2人の対話で紹介している。番組冒頭では、AIを使って情報を整理しているため古い情報や誤りが含まれうるので、事実を重視する場合は各自で確認してほしい、という注意が述べられている。今回取り上げたのは、元テスラのドリュー・バグリノ氏が創業したHeron Powerである。

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この回の問いは、AIブームの足元で何がボトルネックになっているのか、そしてそれをどう解こうとしているのかである。解説役の見立てでは、AIの制約は計算資源から電力や水といった物理インフラへ移りつつある。その中でも特に地味で古い機器とされる変圧器に大きな機会がある、というのが番組の出発点だ。

なぜ変圧器なのか

解説役がHeron Powerを選んだ理由は二つある。一つは、AIの電力需要が伸びる中で変圧器が不足していること。もう一つは、変圧器を作るスタートアップがHeron Powerともう1社、最近立て続けに資金調達をしたことだ。解説役は、こうした見落とされがちなボトルネックと、その解き方を知ることが、アイデアを考える人のヒントになると考えている。

Heron Powerが扱うのは、AIデータセンターの建設が進む中で電力を供給し、変圧してつなぐ部分の詰まりである。米国では電力網(グリッド)の老朽化が進み、更新の需要も生まれている。解説役は、変圧器を「最も地味でレガシー」な領域と表現し、そこにこそ未開拓の機会がある点に注目した企業だと紹介した。

番組が挙げた数字では、変圧器の納期は最大24カ月、価格は最大80%上昇している。この状況を解消しなければ、データセンターをいくら建てようとしても電力をつなげない。これに対しHeron Powerは、ソリッドステートトランスフォーマー(SST)と呼ばれる電力変換器を作り、電圧の変換やAC/DC変換を担わせようとしている。

公開情報をもとに整理すると、Heron Powerは送電網全体を一気に置き換える会社ではない。まず中電圧の電力変換のレイヤーを、半導体、制御、ソフトウェアで設計し直す企業である。製品は二つある。再生可能エネルギーと蓄電向けの「Heron Link for Solar + Storage」と、AIデータセンター向けの「Heron Link for Data Centers」だ。

一時的な不足ではないという見方

聞き手は、変圧器の不足は一時的な問題ではないのかと尋ねた。解説役によれば、AIの電力需要の伸びが直接の原因ではあるが、それだけではない。米国では1970年代ごろ、人口の増加に合わせて電力インフラが大量に作られた。解説役は日本も同様だとしている。それらが老朽化し、今ちょうど更新時期を迎えている。そのため、不足は長期的な課題になると言われているという。

Heron Powerのアプローチは、このレガシーな構成を現代的なものに置き換えることだ。変圧器を半導体化すれば、製造のボトルネックや電磁鋼板の制約を避けられる。同時に、双方向の電力制御もできるようになる。

1世紀前の設計が抱える問題

解説役は、既存の変圧器が抱える問題を順に説明した。

一つ目は設計の古さである。従来の変圧器は約1世紀前の基本設計から変わっていない。鉄心、銅線、油、電磁鋼板で構成され、ソフトウェアで制御することはできず、受動的にしか働かない。そのため、双方向に電力が流れる現代のグリッドには不十分になってきている。聞き手は、変圧器に油が入っていることを知らなかったと驚いた。解説役によれば、油はメンテナンスの手間、火災リスク、環境面のリスクにつながる。さらに、何より機器が巨大で重くなる。

二つ目は供給制約だ。調達のリードタイムは、2019年には3〜6カ月程度だった。それが2023年には12〜30カ月に延びたという。解説役はWood Mackenzieの調査にも触れ、電力用変圧器(パワートランスフォーマー)で30%、配電用変圧器(ディストリビューショントランスフォーマー)で10%の供給不足になるとされていると紹介した。

三つ目は、データセンターに固有の設置スペースの問題である。変圧設備がGPUを置ける場所を奪っており、事業者はその場所にGPUを置きたいと考えている。

四つ目は系統の不安定化だ。AIの電力負荷は大きく変動し、再エネの発電量も変動する。一方向にしか電力を送れない変圧器では、電圧が不安定になってしまう。

では、なぜ100年近く変わらなくてよかったものが、今変わらなければならないのか。解説役の説明では、以前は電力需要が安定しており、需要に合わせてグリッドを増やせば済んだ。再エネの変動に合わせる必要もなく、一方向の送電で十分だった。ところが、需要側ではAIという大きく変動する負荷が現れ、供給側では再エネによって変動が激しくなった。この二つが重なり、従来の前提が崩れたという。

Heron Linkは何を変えるのか

解決策の中心が、半導体ベースの変換器「Heron Link」である。解説役は、従来の構成を単純化して説明した。これまでは中電圧変圧器、MSB、UPS、RPP、PSUと、何段階もの変換を経て電力がラックに届いていた。変換のたびにロスが生じ、設備全体の設置面積(フットプリント)も大きくなる。Heron Linkは、これを1台にまとめる。そのうえで、NVIDIAが標準として求めている800Vの直流(800V DC)に変換して出力する。

番組で紹介された数値は次の三つである。フットプリントは70%削減できる。ラックまでの変換効率は98.5%を超える。NVIDIAの800V DC標準に完全に準拠する。さらに解説役は、設立直後にもかかわらず40GWを超える規模の基本合意書(LOI)を獲得していることを挙げ、顧客側の需要は確認できているのではないかと述べた。

解説役はこの技術を、単に効率を上げるものとは捉えていない。電力変換、短時間のバックアップ、制御、保守を一つの箱に集めるものだと解釈している。その結果、故障時の挙動が保守しやすくなり、ソフトウェア更新で安全性を担保したり、最新の標準に適合させたりできるようになる。使われる半導体について、解説役はワイドバンドギャップ半導体、おそらくSiC(炭化ケイ素)かGaN(窒化ガリウム)だろうと推測した。これはあくまで推測として語られている。

聞き手は、98.5%という効率が従来品と比べてどれほどの意味を持つのかを尋ねた。解説役は、従来品の効率がいくつなのかは把握できていないと正直に答えている。そのうえで、GW級の施設では数%の改善が中規模都市一つ分の電力削減に相当するとも言われている、という情報を紹介した。

800V DC準拠の意味については、AIラックの標準に合わせることで直接の変換や接続が可能になり、変換ロスや設備を減らせることがメリットだと説明した。空いたスペースの使い道を問われると、解説役は笑いながら「GPUを置くんでしょうね」と答えた。面積あたりの収益性が上がるので、データセンターにとっては大きな利点だという。

その他の特徴として、解説役は三点を挙げた。半導体でAC-DC-ACやAC-ACの変換を行うこと。データセンター向け製品では、瞬間的な停電や系統の切り替え時に電力をつなぎ止める30秒のライドスルー機能を公表していること。グリッドフォーミングに対応できる制御(Grid-forming ready controls)を備えていること。

市場規模と40GWという目標

市場について、解説役は次のように整理した。TAMはAIインフラ市場と大規模再エネ市場で、将来的には様々なグリッドにつながりうる。SAMは、米国の総電力消費の6.7〜12%を占めると言われるAI電力需要に定める。SOMは、年間40GWの初期製造目標で、グローバル需要の10〜15%に相当する部分を取りに行く。

成長の柱はAI、EVと再エネ、グリッド老朽化の三つである。ただし、まずはAIを取りに行くというのが解説役の読みだ。柱が複数あるため、不況にも強いディフェンシブな面と成長性を長期的に両立できる市場だという点が、高く評価されている理由ではないかという。

年間40GWの製造は現実的なのか、と聞き手は尋ねた。解説役はチームを根拠に挙げた。CEOはテスラに18年ほど(本人は「18年とかだったかな」と言っている)在籍し、ギガファクトリーの立ち上げを経験した人物である。そのチームも連れてきている。さらに1億4000万ドルのシリーズBを調達し、工場建設に充てている。こうした点から、量産ができる前提で組まれたチームだろうと見ている。

グローバル展開については、データセンターが建つところに変圧器の需要が生まれ、各国に政策的な追い風もあるので可能性はあるとした。ただ、まずは米国中心のAIデータセンター需要に集中する戦略だろうという。AIバブルが落ち着いた場合のリスクについては、残る二つの柱、つまり再エネと米国グリッドの更新需要がそれぞれ巨大なので、組み合わせることでリスクヘッジが効いていると解説役は答えた。

ハードウェア販売と長期保守を束ねるビジネスモデル

ビジネスモデルは、ハードウェアの売り切りではない。Heron Linkの販売に加えて、保守と予測分析のサービス「Heron Care」を継続収益(リカーリング)として提供している。データセンター向けは10年、太陽光向けは20年の長期契約を結び、装置販売と長期サービスを組み合わせてLTV(顧客生涯価値)を最大化する。解説役によれば、Heron PowerのウェブサイトでもHeron Careは前面に出ており、データセンター向けとソーラー・ストレージ向けにそれぞれ10年保証、20年保証を掲げている。SaaS単体でもハードウェア単体でもなく、ハードと保守を束ねたインフラとして提供するモデルだという。

モジュール式のアーキテクチャも特徴だ。故障時の部品交換がしやすく、導入後に容量を増やすことも容易だとされる。顧客にとっては、後から増設も交換もできる点が評価されているのではないか、と解説役は述べた。

聞き手は、スタートアップが10年、20年の長期保証を掲げるのは難しいのではないかと指摘した。解説役は、それはこれから証明していくことになるだろうと認めた。そのうえで二つの工夫を挙げた。モジュール単位で冗長性を確保できること。そして、ソフトウェアで常時予測分析を行い、大規模なダウンタイムを防ごうとしていることである。解約リスクについては、あるにはあるとしつつも否定的だった。保守運用はインフラの中核であり、Heron Linkはソフトウェアのアップデートや保守と密接に統合されている。そのため、一度導入されればスイッチングコストはかなり高くなるだろうと見ている。

3段階の参入戦略と自社製造へのこだわり

解説役は、AIが整理した内容として3段階の戦略を紹介した。第一段階はコンポーネントの再発明、第二段階は統合プラットフォームの構築、第三段階はグリッド全体のオーケストレーションである。

第一段階では、米国内に40GW規模の自社工場を建て、海外に依存する電磁鋼板のサプライチェーンから抜け出す。パワーエレクトロニクスのコア設計とソフトウェアは完全に内製化する。これは経済安全保障の文脈にも乗る動きだという。10年後、20年後には、データセンターや発電施設が単なる電力の消費者や生産者ではなくなる世界を目指している。そこではHeron Powerがそれらをソフトウェアで動的に制御するハブとして働き、不安定な再エネのバランスを取りながら自律的に電力網を形成する。データセンターに置かれたHeronの機器がマイクログリッドのハブとなり、電力網を支える未来を描いているという。

聞き手は、短期的に自社製造を選ぶのは思い切った判断だと感じた。解説役はその理由を三つ推測した。一つ目は、米国には国内生産の製品しか使わない業界が一部あり、それに合わせていること。二つ目は、既存の変圧器は逼迫したレガシーなサプライチェーンで作られており、そこに依存すると既存メーカーと同じ納期遅延に陥ること。三つ目は、ハードとソフトを密に統合するには、自社で作ってソフトウェアも自社で書くことが不可欠だという判断である。

長期的なグリッドオーケストレーションで誰が顧客になるのかについては、電力会社からの対価、つまりアンシラリーサービスの報酬になるだろうと解説役は見ている。データセンター事業者が周波数調整などで電力網の安定化に貢献し、電力会社から収入を得る形だ。それに向けて、リアルタイムの電圧・周波数制御、グリッドフォーミング制御、複数モジュールの最適稼働、予知保全などを可能にするソフトウェアを今から作っておくことが強みになるという。

ロードマップ:AIデータセンターから再エネへ

ロードマップの最初の標的はAIデータセンターである。需要が急増しており、高い単価を払える顧客がいる。そのため、時間的な価値が最も高い顧客に絞る。解説役は「Why now」として三つを挙げた。AI需要の急増、変圧器不足、そしてNVIDIA主導の800V DCアーキテクチャの立ち上がりである。既存設備の全面更新よりも、早く通電させたい(Time to Power)新設案件に焦点を当て、早期にLOIを取っているという。2027年から本格量産の予定で、シリーズBの1億4000万ドルで米国内での生産とサプライチェーンの安定化を進める。最終段階のフェーズ3では、大規模な太陽光・蓄電市場へ本格的に展開し、系統インフラの一部になっていく。聞き手はこれを「美しい」ビジネスの姿だと評した。

量産開始前に競合にシェアを奪われる可能性について、解説役はリスクがあると認めた。Heron Powerの調達の1〜2週間前に、似た事業を狙うDG Matrixが大きな資金調達をしており、一部で先行しているからだ。一方で、顧客パイプラインをすでに確保していることと、NVIDIAのアーキテクチャに完全準拠していることがHeron Powerの強みだとした。

太陽光・蓄電市場では何が違うのかも議論された。解説役によれば、こちらはAI向けよりコストに厳しく、均等化発電原価(LCOE)の低減が強く求められる。そのため、まず高く買ってくれるAI向け市場で量産効果を出してコストを下げ、それから再エネ市場を面で取りに行く戦略だろうと見ている。

競合環境:大手とスタートアップが入り乱れる市場

AIが出した競合分析として、解説役はポジショニングマップを紹介した。縦軸は次世代かレガシー製造か、横軸はパッシブかアクティブ(ソフトウェアデファインド)かである。Heron Powerは次世代かつソフトウェアデファインドでアクティブな領域を狙っている。差別化要素として挙げられたのは次の点だ。ワイドバンドギャップ半導体による高密度化。グリッドフォーミング制御による電圧・周波数の動的な安定化。鉄や油に依存しない国内製造による納期短縮。過去10年で80GWの導入実績を持つ元テスラ中心のチーム。NVIDIA 800V DCへのネイティブ対応。これらによって、シーメンスなどの重電メーカーとは違う位置に立つという。

一方で、DG MatrixやAmperesandのようにSSTを開発してデータセンターや電力インフラを狙うスタートアップは直接の競合になる。既存大手も動き始めており、解説役は日立がNVIDIAの800V DCアーキテクチャに対応する動きを見せている例を挙げた。新興勢と動き出した大手が競い合う市場になっているという。

大手が同じような製品を出してきたらどうなるのか。解説役は、大手はレガシー変圧器の大きな売上と保守サービスを抱えており、新製品がそれを食い合う(カニバリゼーション)ため、抜本的な転換は難しいと言われていると答えた。いわゆる「イノベーターのジレンマ」だという。

新興勢の中での違いについては、DG Matrixは複数電源の複雑な制御に寄っている。これに対しHeron Powerは、大容量の標準プラットフォームで圧倒的なスケールを取るAI向けに寄せている、と解説役は説明した。資金調達の比較も紹介された。DG Matrixは2月に6000万ドル、Heron Powerはほぼ同日に1億4000万ドル、Amperesandは前年11月に8000万ドルを調達している。Heron PowerにはAndreessen Horowitzが入っており、有名な投資家が入っているのはHeron Powerのほうだという印象を解説役は持った。同時期に調達しているということは、投資家のもとで比べられて選ばれた結果ではないか、とも推測している。ただし、どこが勝つかはまだわからないとした。なお、解説役はAmperesandについてはEVやマイクログリッド寄りの攻め方だとも述べている。

実績のないインフラ製品で顧客をどう説得するか

聞き手は、インフラ製品は長期的に使えることを示さなければならないが、それはこれからだと指摘し、どう顧客を説得するのかを尋ねた。解説役の答えは、革新的なアーリーアダプターと組んで実績を作り、一緒に信頼性を築いていくことだった。入り口として、導入スピードとスペース削減の価値が最も効く領域で勝つ。そこで実績と事例を作り、長期的な信頼につなげていく。

具体的には、AIのハイパースケーラーから入る。GPUの高密度化で電力要件が変わり、既存のAC受電設備の仕様が合わず、変換ロスや構築遅延が起きている領域を狙う。MVPは5MW級ブロックのHeron Linkと「Super BBU」を統合したパッケージで、単位モジュールで変換と30秒間のバックアップが完結する、導入しやすい設計だという。これを使って大規模開発者やNVIDIAエコシステムのパートナーと直接取引し、すでに40GW相当のLOIを得ている。解説役は、設立からわずかな期間での成果として評価した。

30秒のバックアップの意味も説明された。データセンターには非常用のディーゼル発電機があるが、起動までに数十秒かかる。その間をつなぐ(ライドスルーする)ことが重要で、それをUPSなしで解決できる点が革新的だという。30秒あればある程度いけると踏んでいるようだ、と解説役は話した。

LOIがどれだけ実際の売上になるかについては、データはまだ出ていないと解説役は認めた。ただ、変圧器が手に入らずデータセンターが稼働できないことは海外シンクタンクの記事などでも盛んに言われており、致命的な問題である。そのため、きちんと供給できれば転換率は高いのではないかと見ている。

チーム:テスラの経験を持つパワーエレクトロニクス集団

創業者のドリュー・バグリノ氏は、テスラに18年在籍し、パワートレインとエネルギー部門のシニアVPを務めた。Model SからPowerwallまで手がけ、業界の拡大をずっと見てきた人物である。テスラを退社した後、2024年にHeron Powerを創業した。チームには、過去10年で80GW以上の電力変換器を世に出した、世界に数百人しかいないとされるパワーエレクトロニクスの専門家が集まっている。ハードウェア、高周波制御、ソフトウェア統合の各領域で、スケールアップの苦労を経験してきた人たちだという。

なぜテスラの中でやらなかったのか、と聞き手は尋ねた。解説役の見方では、テスラの主軸はEVや家庭用蓄電である。Heron Powerが狙う中電圧のグリッドインフラそのものの転換は、テスラの事業とは大きく違う。AIデータセンターという大きな需要にも、テスラでは対応しにくい。こうした背景から独立したのではないかという。ほかのメンバーには、太陽光事業の経験者、長時間蓄電池の開発者、核融合炉の開発者などがいる。いずれも、パワーエレクトロニクスがボトルネックになって苦労した経験を持つ人たちだという。

テスラ時代の教訓と「ムーアの法則に乗せる」発想

解説役によれば、チームはテスラ時代、特にModel 3やPowerwallの立ち上げ時に、深刻なバッテリーセル不足やリソース不足を経験した。既存のサプライチェーンに依存する怖さを痛感したという。変圧器では、電磁鋼板のようなレガシー素材の供給不足が構造化している。そのため、そうした素材を設計段階から完全に排除し、まったく新しいアプローチを取る必要がある。これが過去の経験から得た学びだったという。

解説役は、重厚長大なインフラ機器を、発展の速い半導体とソフトウェアの領域に引き込んだことを大きなパラダイムシフトだと捉えている。半導体とソフトの領域に持ち込めば、ムーアの法則に乗せて18〜24カ月ごとに次世代機を設計し続けるサイクルが始まる。聞き手がその意味を確認すると、解説役は次のように説明した。半導体は1年半ほどごとに性能が上がる。それに合わせてソフトウェアの更新やチップの世代交代を行えば、性能を高めていける。鉄や物理的な構造に頼っていた従来の機器ではできなかったことだという。聞き手はこれを「テスラ的な発想」と評した。

聞き手は、電磁鋼板を使わなくても別の部品がボトルネックになるのではないかと問うた。解説役はそのリスクを認めた。SiCやGaNなどのワイドバンドギャップ半導体が不足する可能性はある。ただ、この分野はEV業界が牽引し、パワー半導体全体の需要も高まっているため、量産投資が進んでいる。調達リスクは比較的低いと想定されているのだろう、と解説役は述べた。

資金調達:2回のラウンドとロールアップビークル

資金調達の経緯は次の通りである。2025年5月にシリーズAで3800万ドル、2026年2月にシリーズBで1億4000万ドルを調達し、量産体制を整えている。シリーズBには、Andreessen HorowitzのAmerican Dynamismファンドや、Breakthrough Energy Ventures、Capricornなどが参加し、トップVCが並ぶ布陣になった。

調達上の工夫として、解説役はロールアップビークル(RUV)を使ったファイナンスを挙げた。多数のエンジェル投資家を一つのキャップテーブルにまとめ、戦略的なネットワークと意思決定の速さを両立させたという。仕組みとしては、特定目的のためのSPV(特別目的事業体)を作り、そこにエンジェルや業界の有識者などの少額投資家を集める。スタートアップ側からは1人の投資家として見え、扱えるので、管理コストを下げられる。また、創業2年ほどで従業員は70名近くに達し、工場が稼働する前から顧客を獲得している。解説役は、条件が揃っていて、あとは資金を入れればいいという状態になっているのではないかと見ている。

シリーズBの主な用途は、米国内での高度に自動化された製造工場の建設だという。電力は国の重要インフラなので、a16zのAmerican Dynamismファンドは経済安全保障上のテーマとして投資したのだろう、と解説役は推測した。

日本でやるなら

日本への応用について、解説役は米国のモデルをそのまま持ち込むのは難しいかもしれないとしつつ、一部は可能だと考えている。

一つ目は、AIが示したアプローチとして、再エネの系統接続枠の不足をSSTの電圧調整で解決するものだ。二つ目は、地方に分散していく可能性のあるAIデータセンター向けに、高圧の変電設備を小型化し、リードタイムを大幅に縮めるパッケージを作ることである。解説役はさらに市場の構図にも触れた。日本の重電メーカーは信頼性が高い一方で動きが遅く、海外需要に製品を振り向けるなら国内に空白が生まれる。そこに新しいメーカーが入る余地があるかもしれない。ソフトウェアデファインドの部分には、日本の新しいスタートアップが入る余地があるかもしれない、とも述べた。

聞き手は、日本では認証のハードルが高いのではないかと尋ねた。解説役はかなり高いだろうと答えた。電気設備技術基準などの要件は厳しく、新技術で系統連系の許可を得るには、長期の審査や実証が必要になる。それでも、規制を変えていかなければ日本は遅れていくので、取り組むべきだと考えている。

結論:納期の長い部品をバイパスできないか

最後に解説役は、この事例から得られる示唆を整理した。華やかなAIというメガトレンドの足元には、レガシーな物理的ボトルネックがある。特に鉄、油、電磁鋼板といった既存の材料には構造的な供給不足がある。そこに対して、半導体やソフトウェアという別次元の技術でゲームのルールを変えに行ける可能性がある。加えて、圧倒的なチームを作ること自体が参入障壁(モート)になりうる。

解説役は、自社の業界で納期が異常に長い部品を特定し、それをソフトウェアや新しい技術でバイパスできないかを考えることを勧めた。そうすれば、他の領域でもHeron Powerのようなアプローチが取れるかもしれないし、日本で同様の事業を作ることもできるかもしれないという。Heron Powerは、巨大な鉄の塊だった電力インフラを、半導体とソフトウェアでアップグレード可能なスマートデバイスに置き換え、その先に動的で自律分散型のグリッドとそのオーケストレーションを描いている。解説役は、そうした大きな未来を描き、それに見合う大きな調達をしたスタートアップだと評して番組を締めくくった。ただし、長期保証の実証、LOIの売上への転換、競合との勝敗は、番組の中でもまだ答えの出ていない問いとして残されている。