Nominalはなぜハードウェアテストから「ハードウェア時代のGitHub」を目指すのか

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概要

FoundXの馬田氏と富田氏が、海外スタートアップをAIで分析して紹介する「FoundX Review Startup IdeaCast」で、米国のNominalを取り上げた。Nominalは「ソフトウェア・デファインドなハードウェア時代のGitHubになる」というビジョンを掲げ、設立から数年で評価額10億ドルに到達したと紹介されている。馬田氏がこの企業を選んだ理由は二つある。一つはLux Capitalなどの投資家が関わっている点、もう一つはハードウェアテストという狭い領域から参入しており、その戦略が参考になると考えた点である。

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番組の冒頭で、AIを使って情報を整理しているため一部に古い情報や誤りが含まれる可能性があり、事実関係は各自で確認してほしい、という断りが入っている。以下の数値や評価も、番組内で紹介されたものとして読む必要がある。

物理データの検証が、AIとソフトウェアのボトルネックになる

馬田氏はNominalを、ソフトウェア・デファインドなハードウェアのための統合テスト・運用基盤を提供する企業だと説明する。前提にあるのは、優れたAIであっても現実世界の物理データで検証しなければ機能しない、という考え方である。防衛、航空宇宙、エネルギーのようにミッションクリティカルな領域でAIやソフトウェアを使おうとすると、検証のプロセスがボトルネックになる。Nominalは、物理が関わるAI・ソフトウェア・インフラのこの部分に入り込もうとしている、というのが馬田氏の見立てである。

課題:ツールの断片化と、5〜6時間かかる試験後レビュー

Nominalが対象にするのは、毎秒数百万件規模のテレメトリ、動画、ログを生成するハードウェアである。最初の顧客は、防衛、航空宇宙、エネルギーといったミッションクリティカルなハードウェアのテストエンジニアだ。こうしたエンジニアは現状、Excel、MATLAB、各種スクリプトなど多数のツールを使い、膨大なデータを手作業で処理しているという。

番組が最も強いペインとして挙げたのは、試験後のレビューに5〜6時間かかることだ。その間は待機が発生して意思決定が遅れる。試験の再現は手作業やスクリプト頼みになり、データ共有も限られ、組織は分断される。物理システムの世界では、シミュレーション、プロトタイプ、製造、運用もばらばらになりやすく、ソフトウェアのように一元的なDevOpsが成立していない。出資者のSequoiaはこの状況を「ハードウェア版のモダンスタックがない」と定義しているという。

馬田氏は、問題の本質はデータ量の多さより、ツールの断片化にあると捉えた方がよいと述べる。投資家のGeneral Catalystは、Excel、メール、Bashスクリプト、Pythonの継ぎはぎが起きている点を問題視している。また報道では、汎用ツールか内製かという二択になっていて、どちらもうまく機能していないと指摘されているという。

富田氏が、なぜレビューにそれほど時間がかかるのかと尋ねた。馬田氏によると、数千のセンサーから出る時系列データや動画がそれぞれ別のソースから届き、それを手作業で突き合わせ、しかもローカル環境で処理しているため、後処理に時間がかかる。既存ツールはサイロ化していて、特定の解析や制御には強い。一方で、クラウドネイティブなコラボレーションや全社横断のデータ共有には対応していない。ExcelやMATLABもそれぞれ得意分野はあるが、互いにつながっていない。ソフトウェア・デファインドなハードウェアが増えたことで、この突き合わせにかかる時間はさらに膨らんでいる、と馬田氏は説明した。

馬田氏は課題の構造を層に分けて整理している。まず試験・計測ソフト、つまりデータ取得・解析・レポートの層がある。その先に、ヒューマン・イン・ザ・ループの試験自動化、物理システム向けのオブザーバビリティがあり、さらに製造から運用までをつなぐ層がある。Nominalはこれら複数の層を横断してつなぐデータ基盤を作ろうとしている、というのが馬田氏の見方である。

解決策:クラウドのNominal Coreとエッジ側のNominal Connect

Nominalは最初に「Scout」という別の製品を提供していた(後述)。現在の主力は、クラウド側のNominal Coreとエッジ側のNominal Connectの二つである。

Nominal Coreは、テレメトリ、ログ、動画、シミュレーション結果、文書を一つのコラボレーティブなワークスペースに集め、解析、レポート作成、運用監視を行うツールだ。いわゆるシングルソース・オブ・トゥルースを提供する位置づけで、検索、可視化、分析をノーコードで行える機能を備えているという。

Nominal Connectは現場側の基盤である。機器をリアルタイムに読み書きし、Pythonベースの試験アプリをローカルで実行できる。ハードウェアとリアルタイムに接続できる点が特徴だという。CoreとConnectを組み合わせることで、R&Dから運用まで同じ検証ロジックを再利用できる。これが大きな強みとされている。

導入事例として、Shield AIではデータレビュー時間が5〜6時間から30分になり、約80%削減されたと紹介された。ハーマスという企業の事例では、データ確認から意思決定までの時間が短縮されたという。馬田氏が技術的な要点として挙げたのは、単にデータを集めるだけでなく、異種のデータを同じ時間軸に揃え、検索可能にし、構成や試験条件と結びつける後段の処理まで担っている点だ。

バリューチェーンに沿って言えば、センサーから動画やログを取得し、試験の実行、ヒューマン・イン・ザ・ループや制御を行い、データを取り込んで整理・検索し、解析・レポート・意思決定を経て、製造品質や運用監視へつなげる。この一連の流れをCoreとConnectの上で行うのがNominalの目指す姿であり、一部はすでに実現しているのだろう、と馬田氏は述べた。

企業へのインパクトとセキュリティ

富田氏の質問に対し、馬田氏は、大規模な一連のテストには1日数百万かかることもあり、期間を半分にできれば企業によっては数億円規模のコスト削減になると言われている、と答えた。

データをクラウドに上げることのセキュリティについても質問が出た。馬田氏は、そこがむしろ一つのモートになっていると述べる。Nominalは防衛の基準に対応しており、オンプレミスやエアギャップ環境での利用を前提に設計されている。基準を満たせるツールはそれほど多くない。エッジ側にConnectを用意する利点として、閉鎖環境や兵器の試験環境でハードウェアと低遅延で接続できること、テストの自動化や製造ラインの検証をリアルタイムに行えることが挙げられた。試験装置の近くでソフトを動かせば通信が不安定でも対処しやすく、時刻付きのデータやテレメトリは後から送れるようになっている、と馬田氏は説明した。

市場:防衛・航空宇宙から産業用システム全体へ

最初に獲得を狙う市場は、防衛と航空宇宙のミッションクリティカルな試験市場である。そこからヒューマン・イン・ザ・ループ試験やテスト自動化ソフトウェアの市場に広げ、最終的には産業用システム全体の運用・検証市場を狙う、と馬田氏は説明する。後者について、2030年に645億ドルから1,214億ドルという推計が紹介された。馬田氏は最初「現状の645億ドルが2030年に1,214億ドルに」と言い、後で両方とも2030年時点の推計値だと訂正している。

富田氏が推計の幅の大きさについて尋ねると、馬田氏は、Nominalがカバーする領域がまだ定まっていないためだろうと答えた。製造ラインの検証や運用監視までライフサイクル全体をカバーするなら、既存の市場分類にきれいに収まらず、市場が大きくなる可能性がある。そのためTAMの幅が広くなっているのではないか、という見方である。

直近の成長ドライバーとして、馬田氏は三つを挙げた。一つ目は、物理システムがコードやソフトウェアで制御・更新されるソフトウェア・デファインドなハードウェアの拡大である。二つ目はフィジカルAIの増加で、自律型ロボティクスや自動運転など現実世界と相互作用するAIモデルが増えれば、検証テストの需要が伸びるという。三つ目は国防の強化と、米国が掲げる再工業化に伴う投資の拡大である。SBIRやSTTRといった政府の補助金が民間技術に資金を投じていることも、Nominalにとって追い風になるという分析だった。

最初の市場を航空・防衛に絞った理由について、馬田氏は、検証のペインが大きく短期的な必要性が高いこと、失敗のコストが高いこと、そして創業チームに海軍、Anduril、Palantir出身者がいて課題の深さを知っていたことを挙げている。

ビジネスモデル:ランド&エキスパンドでシステム・オブ・レコードを狙う

ビジネスモデルは、SaaSを起点に拡張していく典型的なランド&エキスパンドだと馬田氏は説明する。まずテストの効率化をウェッジとして一部のテスト環境に入り込む。そこでシステム・オブ・レコード(SoR)の地位を取ってロックインを築き、他のプログラムに横展開し、最終的には製造や現場運用にまで広げていく。

初期セットアップには投資が必要で、最初は赤字になる可能性もある。ただしCoreとConnectはエンタープライズSaaSに近い形になっていくため、利用者の比率が30〜50%程度まで広がれば、非常に高いLTVとARRの向上につながると考えられている、と紹介された。

公式の技術ブログによれば、最初期のNominalは、CSVのテレメトリを読み込んで時系列で表示し、任意の時間帯にズームしてそのビューをリンクで共有できる、という最小限のクラウドビューアだったという。その後にライブ配信やマルチモーダル統合が加わった。今あるペインから入るやり方の表れだと馬田氏は述べる。

テスト部門から入る理由について、馬田氏は、そこが初めて物理世界と触れる場所であること、そしてデータレビュー時間の短縮でROIがはっきり示せることを挙げた。

Palantir型のリテンションとFDE的な導入支援

高いリテンションを実現できる理由を問われた馬田氏は、Nominal自身がPalantir的な高いリテンションを掲げていることに触れた。共通点は、機密性の高いデータ基盤を持つことで組織の中核に入り込めること、そして複数の部門やプログラムで共有されることで他に代えようのないインフラになることだという。

初期に赤字が出る要因は導入時のセットアップ投資だが、馬田氏はここで、Palantirのようにフォワード・デプロイド・エンジニア(FDE)が顧客に深く入り込んで導入を支援しているのかもしれない、と推測している。それが強いロックインにつながり、後のSaaS課金で回収するモデルなのではないか、という見立てである。

特定ハードウェアに特化しない水平データ基盤とM&A

Nominalは直近のペインを解決してから範囲を広げ、特定のハードウェアに特化せず、共通のデータ基盤、つまりシステム・オブ・レコードで水平統合することを狙っているという。あらゆる物理インフラを貫くインフラを作るのが最終的な狙いだ。自社開発を軸にしつつ、データ取得や構造化技術のM&Aも活用し、欧州などへの展開も考えているとされる。

レイヤーで見ると、上位にAIやアプリケーション層、下位にハードウェア制御やセンサー層があり、Nominalはその真ん中をSoRとして押さえに行く。10〜20年後の理想像は、現代のハードウェア企業が向こう50年間稼働するためのオペレーティングシステムを作ることだという。最終的には、AIエージェントを活用して1人のエンジニアが50のハードウェアを同時に検証・管理できる世界を目指しているとも紹介された。

富田氏がM&Aを使う理由を尋ねると、馬田氏は、詳しい戦略はまだ公表されていないとしたうえで、多様なハードウェアに対応しようとすると、データ取得や構造化の「ラスト10%」の細かな統合負荷が大きくなるため、要素技術やチームを買収してプラットフォームを強化する、と言われていると答えた。

「1人で50台」が実現可能かという質問に対しては、馬田氏は慎重に答えている。現在の単位が1人1台なのかは分からないとしつつ、すでに80%削減できている、つまり効率が5倍程度になっていることを踏まえれば可能なのかもしれない、という。今ハードウェアエンジニアはデータ整理に追われている。データ基盤が整い、AIエージェントが異常検知やレポート作成を自動化できれば、人間は意思決定に集中でき、生産性が上がって1人で50台を管理できるようになる。これがNominalの見立てだろう、というのが馬田氏の解釈である。

馬田氏はさらに、これまでのIdeaCastでは垂直統合型のソリューションを多く紹介してきたが、Nominalは水平型だという点も面白いと付け加えた。既存プレイヤーや自社開発ツールは特定のハードウェアや制御に特化した垂直統合になりがちだが、Nominalはそれらを横断する水平基盤を作ろうとしている。

ロードマップ:3つのフェーズ

ロードマップは3段階で説明された。フェーズ1は試験後レビューの高速化でPMFを築く段階である。テストはペインが最も大きくROIが明確なので、強固な基盤を作る起点として最適だったとされる。フェーズ2は横展開と自動化で、CoreとConnectを連携させて複数のプログラムに広げ、自動テスト処理を進める。フェーズ3はさらに拡張し、フリート管理、テストから製造ラインへの展開、現場運用への進出を通じて、ライフサイクル全体の監視基盤へ進化する。ミクロな課題解決から、全社のシステム・オブ・レコードへ段階的に広げていく計画である。

現在の位置について馬田氏は、フェーズ2の自動化・横展開に入りつつあるようだと答えた。CoreとConnectはすでにWebページもあり稼働しており、多くの顧客でR&Dから量産や運用への横展開が進んでいるという。フェーズ3の製造ライン監視については、R&Dテストで構築した検証ロジック、つまりルールや閾値を、製造時の品質検査や運用時の監視ルールとしてそのまま再利用できる設計になっているため、テスト環境から応用できるとされている、と馬田氏は説明した。

Scoutというウェッジと、デュアルユースの意味

Nominalの最初の製品Scoutは、テストランの同期、プロット、条件チェックを数クリックで行うツールだった。そこから入り、本丸であるシェアード・データレイヤー、すなわちシステム・オブ・レコードを取りに行くのがNominalの戦略だと馬田氏は整理する。Coreで履歴、分析、共有基盤を作り、Connectで現場の実行や制御、製造試験を押さえる。試験後レビューのSaaSにとどまらず、試験そのものの実行層にまで降りていく点がよい戦略だと馬田氏は評価した。

デュアルユース性のある防衛・航空から入ったことも戦略上大きいという。日本で真似できるかは分からないとしつつ、要求水準の高い領域を先に取り、その学びをエネルギーや製造業に広げようとしていると馬田氏は説明した。米国で防衛に資金がついている流れもある。仮にその流れが止まっても、ミッションクリティカルなエネルギーや製造に展開できると示せることは、投資家の観点からも強いという見方である。これが成功すれば、Nominalはハードウェアのデータサプライチェーンを近代化する企業になる。AIの活用順序としては、まず構造化データやトレーサビリティを押さえ、その上にAIの価値を載せる形になるのだろう、と馬田氏は述べた。

モートと競合:最大の敵は内製ツールとExcel

ポジショニングについて、馬田氏は二つの軸で整理した。局所最適か全体最適か、そしてハードウェア制御特化かデータコラボレーション基盤か、である。Nominalはクラウドでモダンな全体最適と、データコラボレーション基盤を取りに行っている。従来のレガシーツールはハードウェア制御に特化した局所最適にとどまっており、競合としてはShiftというツールがNominalに近い位置にあるという。

ただし馬田氏は、間接的な最大の敵はSaaSでよくあるように内製ツールと現場のExcelだと指摘する。SpaceXのようなトップ企業は内製ツールを作って使っているし、中小企業はExcelを使った既存のワークフローを持っている。これをどう置き換えるかが実際の競争だという。

差別化要素としては次のものが挙げられた。防衛・エアギャップ環境に対応するセキュアな環境対応。テレメトリや動画などを完全に時刻同期し、マルチモーダルに扱えること。PythonファーストのテストAutomationとエッジ実行能力。ミッションクリティカルな実績に裏付けられた防衛グレードの信頼。R&Dから運用まで一貫した検証ロジックを再利用できるインフラであること。

内製ツールに勝てる理由を問われた馬田氏は、SpaceXのように資金力のある企業は内製でき、それが競争優位にもなるが、多くの企業にはそのリソースがないと答えた。Nominalは内製以上のモダンな基盤をSaaSとして提供できる。SpaceXやTeslaには内部ツールがあるだろうが、今後フィジカルAIの分野に新規参入する多くの企業は同じものを作れないだろう。その層を取りに行くのがNominalの狙いだろう、と馬田氏は見ている。エアギャップ環境については、外部ネットワークから物理的に隔離された環境で試験が行われることが多く、防衛や重要インフラのテストでは必須のセキュリティ要件になる。クラウドSaaSでありながらそれに対応できるものは現状少ない、と馬田氏は補足した。

競合ごとに異なる「入り方」

競合の違いは、どのレイヤーを主戦場にするかで分かれる、と馬田氏は説明する。Siemensは解析や試験実行のレイヤー、dSPACEはヒューマン・イン・ザ・ループ、Shiftはオブザーバビリティ、Levelは制御やテストに取り組んでいる。これに対してNominalはデータレイヤーとエッジオートメーションを取りに行っている。また、デプロイ要件は一般の製造やエネルギーから入るか防衛から入るかで変わるため、入り方によってどんなモートを作ろうとしているのかも変わってくるという。ShiftもオンプレミスやプライベートクラウドGの対応を打ち出しており、各社がどこから入ろうとしているのかを見るのが面白い、と馬田氏は述べた。

Nominalの二製品に当てはめると、Core側から入ろうとしているのがShift、Connect側から入ろうとしているのがLevel、両方を一緒に進めているのがNominalという構図になる。Applied Intuitionは車両の自律化に特化しているため、防衛のようなシリアスなハードウェアにはなかなか入ってこられないのではないか、という見方もあるという。どこから入り、どこへ広げようとしているかが各社で違うのが興味深い点だった、と馬田氏は語った。

参入戦略の詳細:ミクロのペインでPMFを立証する

Nominalは、複雑なハードウェア制御は最終的な目標として後回しにし、まずCSVのテレメトリをブラウザで即座に時系列表示し、リンクで共有する機能から始めた。初期ターゲットは急成長中の防衛・航空宇宙企業のテスト評価エンジニアに絞った。解決したミクロな課題は、フライト後に5〜6時間かかっていたCSVと動画の手作業での突き合わせである。これを30分程度にまで短縮したことで圧倒的なROIを示し、PMFを立証した、と馬田氏は説明する。創業者のドメイン知識を活かし、どこがペインポイントで、そこから入ればどう拡大できるかを考えながらMVPを作ったのだろう、という評価である。

最初にハードウェア制御まで手がけなかった理由について、馬田氏は、制御は導入のハードルが高くリスクも大きいため、安全でペインが最も顕在化している試験後のデータレビューに絞ったと考えられている、と答えた。

シンプルな製品が受け入れられた理由については、ハードウェアのテレメトリはペタバイト級に達し、毎秒メガバイトからギガバイト単位のデータが生まれることを挙げた。それを同じ時間軸に揃え、チーム全員がブラウザ上で同時に見られる仕組みは画期的だったという。ローカルで処理しようとすると相当な時間がかかる。実は大変な部分を見つけて解決したことが大きかった、と馬田氏は述べた。創業チームが防衛・航空宇宙業界の出身で顧客のペインを熟知していたため、ドメイン知識を活かしてトップダウンで導入を進めたとも言われているという。

創業チーム:海軍・Anduril・Palantir・Lockheed Martin

馬田氏は創業チームを、ファウンダー・マーケット・フィットが成立しているチームだと評する。CEOのキャメロン氏は海軍とAndurilの出身で、この領域のドメイン知識を強く持つ。ジェイソン氏はPalantir出身、ブライス氏はLockheed Martin出身である。キャメロン氏とブライス氏はハーバード・ビジネス・スクールで出会っており、ビジネス側とハードウェアの現場側の両方を知っている。

キャメロン氏はMIT卒業後に海軍で8年間勤務し、その後Andurilに移った。さらに先ほど競合として挙がったApplied Intuitionに近い場所や、Lux Capitalにも在籍していたという。工学系の出身で、軍の現場を知り、スタートアップにも投資家側にも通じた人物がCEOとして中核にいる点を、馬田氏は非常に強いと評価した。ジェイソン氏はVercelなどにも在籍し、クラウド基盤、データ基盤、ソフトウェアアーキテクチャの経験があり、ソフトウェア側をよく知っている。

富田氏が、事業の着想はCEO自身の経験から来ているのかと尋ねると、馬田氏は、そうらしいと答えた。現場でExcelや自作スクリプトを使ってデータ整理に苦労した自身の課題を抽象化し、業界全体のインフラとして解決しようとしたのが出発点だと言われているという。

Palantir出身者の強みについて、馬田氏は二つを挙げた。一つは、機密性の高い大規模データの扱い方やデータ基盤のアーキテクチャ設計といった技術的な知見である。もう一つは、FDEのようなエンタープライズへの導入支援、つまりGo-to-Marketのノウハウだ。Nominalもそうしたやり方を取ろうとしているのだろう、と馬田氏は推測する。そのうえで、これは日本ではなかなか真似できないと述べた。ソフトウェアの開発力やハードウェアの知識だけでなく、ミッションクリティカルな現場の言葉を理解し、顧客と対等に話せることが強みになっている、という見方である。

学びとピボット:"Physics gets a vote"

Nominalの最大の学びとして紹介されたのが "Physics gets a vote"、物理現象には逆らえない、という言葉である。AI時代であっても仮想環境のシミュレーションだけでは不十分で、物理世界からのリアルなフィードバックデータとモデルを継続的に突き合わせる基盤が欠かせない。これが彼らの本質的な気づきだという。

初期のNominalはクラウド上の分析、つまりCore側のSaaSに特化していた。しかし現場からテストそのものを制御したいという強い要望を受け、エッジ側の実行環境であるConnectの開発を大きく加速させた。これを馬田氏はピボットに近いものと表現している。その結果、顧客企業内でROIと口コミによって広がり、誰もが使うインフラになっていった。シリーズBからわずか10か月で次のラウンドに到達する急成長を遂げたと言われている。

Connectが必要になった理由について、馬田氏は、クラウドでの事後分析だけでなく、テスト現場でリアルタイムに機器を制御し、異常があれば即座に止めるような仕組みがなければ、検証を高速化できなかったからだと説明した。口コミで広がった点については、レビュー時間が数時間から数十分に短縮されるという結果が明白で、ペインも大きかったため、協力会社や他のプログラムのチームにNominalが紹介され、自然にユーザーが増えたという。10倍の改善をきちんと実現すれば口コミになるのだと感じる話だ、と馬田氏は述べた。

資金調達と成長指標

資金調達は、シードで750万ドル、シリーズAで2,000万ドル、Sequoia主導のシリーズBで7,500万ドル、Founders Fund主導のシリーズB-2で8,000万ドルと紹介された。トップVCが主導していることから、市場の期待の高さがうかがえると馬田氏は述べる。売上は約7倍になり、導入組織数は60以上、従業員は135名で、今後220名体制に拡大する予定だという。世界のトップ5の防衛受注企業のうち4社がすでに導入しており、標準インフラに近づいているとされる。今後はSBIRやSTTRを通じた政府補助も得ながら、デュアルユース戦略を効率的に進める考えだという。

シリーズBからB-2までの期間が短い理由を問われた馬田氏は、Founders Fundから追加投資のプリエンプティブなオファーがあったと答えた。会社側が求めていなくても投資家側から申し出があり、それをきっかけに調達を前倒ししたという。それだけ成長の勢いが強かったということだろう、と馬田氏は述べた。

今後の課題:防衛から非防衛へ広がるか

一方で馬田氏は課題も指摘した。防衛・航空で築いた基盤を、エネルギーや製造にも同じ形で提供できるかは難しいかもしれない。本当に同じ基盤で扱えるならTAMはどんどん大きくなるが、実際には要求が細かく分かれやすく変わりやすいため、そこは割り引いて見る必要があるかもしれないという。また、米国では防衛はペインが強く予算もつきやすいが、非防衛の顧客では調達の仕組み、データ共有、ブランドの受け止め方が異なる。それを受け入れてもらえるか、本当に広がっていくかが今後の課題になりうる、と馬田氏は述べた。とはいえ、直近のトラクションが大きいことは間違いない、とも付け加えている。

日本市場への応用と、日本発で勝つ道

日本での応用はAIに考えさせた結果として、3つの案が紹介された。

  • 案A:自動車・モビリティ特化。 日本の大きな市場だが、レガシーの壁が厚く内製しているところもあるため、既存の垂直統合モデルをどう崩すかが課題になる。
  • 案B:ロボティクス。 市場性は未知数だが大きいかもしれない。Nominalが手薄なアジアの製造業の量産ラインや現場の保全に特化する戦略がありうる。
  • 案C:宇宙・エネルギー。 日本では防衛が難しい面があるため、宇宙やエネルギーを狙う案。成長中だが局所的な市場で、単価が高く失敗コストも大きい。機密性が高く導入コストもかかるため、どこまで入れるかは難しい。

日本発でNominalに勝つ可能性を問われると、馬田氏は次のように答えた。米国は防衛や宇宙に予算がつき、そこから入る戦い方ができる。日本はそうではなく、強みである製造業の現場にまず特化して入り、そこから広げて独自のシステム・オブ・レコードを築き、運用に拡張していく。マザーマーケットの強みを活かすのが勝ち筋の一つではないか、という考えである。

まとめ:ミクロのペイン、ドメイン知識、データの一貫性

馬田氏はNominalの事例から得られる実践的な示唆を3つにまとめた。

一つ目は、ミクロのペインから始めることである。壮大なビジョンを持っていても、まず足元の強烈なペインから始める。Nominalの場合、それはレビュー作業の時間短縮だった。そのうえで、そこから大きなマーケットへ広げていく道筋を描けているかが重要だという。

二つ目は、ドメイン知識を武器にすることである。顧客と同じ言葉で話せる組織を作ることが、初期の信頼獲得につながる。

三つ目は、データの一貫性がAIを活かすという点である。データが十分に構造化されていない場所にAIを入れても、入れること自体はできるがうまく活かせない。だからこそフィジカルAIの時代には、物理データの蓄積、構造化、再利用の仕組みこそが真のモートになるのではないか、と馬田氏は述べた。アクションプランとしては、分断されたデータフローやフィジカル系の課題を探し、そこからどう大きくできるかを考え、最終的にインフラを作るところまで速いスピードで進めることを勧めている。

感想として富田氏は、ハードウェアのテストは一見思いつきにくい領域だが、そこが大きなネックになっていることが面白く、それが創業者の前職での経験から生まれている点が素晴らしいと語った。馬田氏は、前職の経験を活かし、基盤的な産業から海外に出ていくスタートアップを増やしたいという観点で一つの事例になると述べた。そして、壮大なビジョンと、CSVの扱いのような細かいミクロのペインの両方を持ち、そこから入って最終的に大きなビジョンにつなげていく考え方は学びの多い事例だった、と締めくくった。