ドラマ『ダウンタイム』の鴻池紗良はなぜ失明したのか:美容外科医が読み解く顎下脂肪吸引と中顔面脂肪注入

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概要

Netflixの美容整形ドラマ『ダウンタイム』には、Kōkiが演じる鴻池紗良という人物が登場する。大富豪である鴻池家の娘で、両目が見えない状態で美容クリニックに通っている。本動画では、話者である美容外科医(高須クリニックの高須幹弥医師)が、この人物の症例を解説している。取り上げるのは、紗良が失明した原因とされる手術で医学的に何が起きうるのか、盲目の人が美容整形を受けることはあるのか、主人公の医師がイップスになった設定をどう見るか、の3点である。

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最初の登場:見えないまま鼻の手術を受ける

紗良が最初に登場するのは、東山美容クリニックを訪れる場面である。話者は、紗良はおそらく全盲、つまり両目がまったく見えない状態だろうと見ている。紗良は東山りん先生に「自分の顔に飽きちゃった。鼻の形を変えたい」と伝え、鼻尖形成手術を受けることになる。

話者は、手術中に描かれたデザインから術式を推測している。鼻先の大鼻翼軟骨が横に広がっている部分を形成し、鼻先を細く整える手術だったのだろうという。術後はギプスで固定していた。

手術の場面の演出にも話者は触れている。紗良は薬で眠らされており、話者はおそらく静脈麻酔の状態だと推測する。そこに「ひきた先生」と思われる医師が入ってきて手術をし、出ていく。紗良は東山先生に手術を頼んだが、実際に執刀したのはこの医師だろう、というのが話者の読みである。この医師はドラマでいうシャドウドクターだ。「ダークサイド」と呼ばれ、顔も名前も出さない。麻酔で眠っている患者に代わりに手術を行い、患者には院長が手術したと伝えられる。話者は、その役割を担う以上、手術の腕はそれなりに良いのだろうと述べている。

東山先生のイップスと、紗良の失明

東山先生が自分で執刀しないのは、イップスになってしまったからだ。話者はイップスを、大事な場面で手が震えてしまう状態だと説明する。医師や看護師にもときどきいるという。採血や点滴の針を入れるたびに手が震えてしまう看護師がいるが、話者の推測では、過去に失敗して強く叱られた経験がトラウマになっているのだろう。プロゴルファーがパットのたびに手が震えて入らなくなる例も挙げ、外科医にもときどきいると話している。

ドラマでは、イップスのきっかけは紗良の手術だった。東山先生が全身麻酔で紗良の手術をした際、紗良は両目を失明した。そのトラウマから、紗良の手術や全身麻酔下の手術をしようとすると当時の状況が浮かび、手が震えてしまう。話者はそう解釈している。

失明の原因となったのは、全身麻酔下で行った顎下の脂肪吸引と、中顔面への脂肪注入である。話者は、吸引した脂肪をそのまま注入に使ったのだろうと推測する。顔は上顔面・中顔面・下顔面に分けられ、中顔面はその真ん中の部分を指す。中顔面が痩せてくぼんでいると、老けた印象や元気のない印象を与える。そこを脂肪注入や、より多くの場合はヒアルロン酸で膨らませると、ハリが出てバランスが整い、かわいくなったり美人・イケメンになったりすることがあるという。中顔面が陥没した顔は「ディッシュフェイス」と呼ばれ、同様の効果が期待できると話者は説明する。紗良は全身麻酔中にこの脂肪注入を受け、麻酔から覚めたときに両目が見えないことに気づいた。

家族に隠された医療事故という設定

紗良の祖父は大富豪で、東山美容クリニックのパトロンだった。紗良と東山先生は幼なじみで、もともと仲が良かった。紗良は失明の本当の原因を家族に隠しており、家族は若年性緑内障で失明したと理解している。美容整形を繰り返していたこと自体も、家族には内緒だったらしい。

東山先生の側から見ると、事故が明るみに出てニュースやネット記事になるのは困るし、鴻池家に知られれば揉めることにもなる。そこで東山先生は口封じをしたい。一方の紗良は、一生面倒を見てもらうことを約束させ、無料で整形を受け続けて特別扱いされている。話者は二人の関係をこのように読み解き、「微妙な関係」と表現している。ただし、ドラマの中でそこまで詳しく語られているわけではなく、あくまで自分の解釈だと断っている。ネット上には本当は見えているのではないかといった意見があることにも触れている。

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注入で失明が起きるメカニズム

話者によると、目の周りに脂肪やヒアルロン酸を注入して失明したという報告は、非常に低い確率ながら、それなりにある。手技に問題があるケースもあるという。ただし、両目を同時に失明したという報告は話者が知る限りなく、知っている報告はすべて片目の失明だった。片目でさえ極めてまれなので、両目同時は確率的にはほぼ起こりえない。それでも絶対に起きないとは言えない、というのが話者の立場である。

仕組みについて、話者は次のように説明する。注入の際、誤って針先が動脈の中に入り、そのまま動脈内に注入してしまうことがある。このとき強い圧力で一気に押し込むと、注入物は血流に逆らって逆行性に流れる。やがて眼動脈に達し、そこから網膜中心動脈などへ入って細い血管を閉塞させる。話者自身は、細かい粒が一気に流れ込み、網膜の細い血管に次々と詰まって塞栓を起こすようなイメージを持っているという。網膜の血流がなくなれば失明に至る。

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鋭針と鈍針:話者が鋭針を選ぶ理由

話者によれば、高須クリニックでは50年以上の歴史の中で、ヒアルロン酸注入や脂肪注入をのべ何十万件と行ってきたが、失明は幸い一例も起きていない。その背景にある予防策として、話者は自身のやり方を説明している。

注入に使う針には、先が丸い鈍針(カニューレ)と、先が尖った鋭針がある。話者は注入には鋭針を使う。鈍針を好む医師も世の中に多く、高須クリニック内にも鈍針を使う医師はいて、それぞれの好みだという。

話者が挙げる根拠は、各種の報告を見ると失明は鈍針のときに多いという印象である。一般には、鈍針なら血管を貫かないので動脈内に注入することはないと考える人が多いだろう。しかし実際はそうではないらしい、と話者は言う。鈍針を刺すときは、まず鋭い針で小さな穴を開け、そこから鈍針を入れる。そのため理論上は、鈍針が動脈の中にそのまま入り込む、いわばカニュレーションの状態が起こりうる。鈍針自体が動脈を貫くのか、最初に穴を開けたときに動脈も一緒に貫いてそこへ鈍針が入るのかははっきり分からない、と話者は留保をつけている。鋭針でも皮膚が壊死したという報告はあるが、失明に関しては鈍針の報告が多い印象だという。

確率だけ考えれば、鋭針のほうが動脈を刺しそうに思える。それでも失明のような重い合併症で鈍針の報告が多い理由を、話者は次のように推測する。鈍針は先が尖っていないので、動脈の中にすっと入って留まってしまうことがある。その状態で勢いよく注入すると、注入物がすべて動脈内に入り、圧力が強ければほぼ全量が逆行して眼動脈、さらに網膜中心動脈まで達する。そのため大量の塞栓が起きて失明する、というメカニズムではないか。一方、鋭針は針先が多少動くので、注入物が全部動脈内に入るのではなく、わずかに入る程度で済む。したがって大量に眼動脈まで逆流することは考えにくい。話者はこれを自分の考えとして述べ、同じ意見の医師も多いと付け加えている。

解剖・注入速度・皮膚の色

針の選択に加えて、話者は次のような注意を払っているという。

一つ目は、解剖学的に動脈を刺さない場所と層を選ぶことだ。たとえば鼻の場合、解剖学的な変異(アノマリー)を除けば正中線上には動脈がないことが多いので、なるべく正中線上から刺す。層については、鼻なら骨膜の上には血管がないだろうと考え、動脈の走る層より深いところに感覚で注入する。それでも皮膚の薄い人では動脈に入るリスクが絶対にないわけではない、と話者は認めている。

二つ目は、ゆっくり注入することだ。鼻、目の周り、額、眉間などは失明の可能性が報告されている部位であり、ゆっくり注入すればそのぶん眼動脈まで逆流する可能性は低くなると話者は考えている。

三つ目は、皮膚の色を見ながら注入することだ。動脈に入って塞栓が起きると、その領域の血流が一気になくなって白くなることがあるからである。

起きてしまった場合の対応

注入物が眼動脈から網膜中心動脈に達した場合、症状は突然出るという。塞栓が起きた瞬間に目がピカッと光ったような状態になったという報告もある。急激な視力低下や視野欠損が起きたときは、ヒアルロン酸を溶かすヒアルロニダーゼを注入したり、プロスタグランジンを点滴してできるだけ血管を広げたりする。場合によっては眼科の専門医に依頼する。話者はこれを通常の流れとして挙げつつ、それでも回復しなかったという報告もあり、非常に恐ろしい合併症だと述べている。

話者自身は細心の注意を払っており、失明させたことはなく、死亡事故などの重い合併症事故を起こしたこともないという。そのうえで紗良のケースについては、運が悪かったのだろうし、手技的な問題もあったのかもしれない、と見ている。

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目が見えない人が美容整形を受けるのか

視聴者の多くは、目が見えなければ自分の顔も見えないのに、なぜ鼻の整形をするのかと疑問に思うだろう。話者によると、盲目の患者が美容整形を受けに来ることは実際にかなりあり、話者自身の患者にも何人かいるという。多いのは、もともと見えていたが後から病気で見えなくなった人である。

施術内容は、埋没法や切開法による二重まぶたの手術、ヒアルロン酸やプロテーゼ、自家組織を使った隆鼻、輪郭の整形、美肌治療などだ。受ける理由について、話者は、自分の顔を手で触ることでなんとなく顔のイメージがつかめるようだと説明する。一重なので二重にしてかわいくなりたい、という希望が多いという。

また、結婚していて夫と一緒に来院するケースが多いそうだ。夫はたいてい「今の顔でいい」と言うが、患者本人がどうしても二重にしたい、鼻を高くしたいと望み、優しい夫が「君がそんなにやりたいならいいよ」と賛成する、という流れが多いという。話者が手術をすると、患者はとても喜び、「すごくきれいになりました」「大満足です」と言ってくれる。鏡で自分の顔は見られないはずだが、手で触ってある程度分かることに加え、夫が「かわいくなった」「素敵だよ」と声をかけることが大きいと話者は見ている。実際に夫も喜んでいるケースが多く、満足する患者が多いのが現実だという。紗良も、こうした流れの一例として描かれていると話者は捉えている。

「本当は見えている」説への見解

ネット上では、紗良は本当は目が見えているのではないか、手術ではなく本当に若年性緑内障で失明したのではないか、東山先生を騙しているのではないか、麻酔の影響で見えなくなったのではないか、など様々な説が出ている。眼科医の中にもそうした意見を述べる人が多いという。これに対して話者は、ストーリー上はっきりしていないので分からない、と答えている。

根拠としてよく挙がるのは、紗良がテレビを見て笑っている場面や、食事中に箸で上手に食べ物をつまんでいる場面である。話者は、全盲でもこうしたことはケースバイケースでありうるので、これだけで見えていると判断するのは違うのではないかと述べる。完全に見えないのではなく、うっすら見えている可能性もなくはないが、それも分からない、という立場だ。

また、若年性緑内障であれば眼科で検査すれば普通に分かる。そのため、本人は眼科を受診して手術による塞栓が原因だと知っていながら、家族には緑内障だと説明している可能性もある、と話者は付け加える。いずれにせよ、ストーリー上は医療事故であり、紗良は事故を家族に黙る代償として東山先生に一生面倒を見るよう求めている。話者はこの設定を信じると述べている。

最終回:額の外傷を美容クリニックで処置する場面

最終回では、額の皮膚がぱっくり裂けた紗良が東山美容クリニックに運び込まれる。東山先生は、ここは美容クリニックで救急病院ではなく、レントゲンもないから救急病院に行ってほしいと言う。しかし紗良は嫌だと拒み、結局東山先生が処置することになる。

話者は、通常の外傷なら美容クリニックではなく救急対応している病院に行くのが普通だと説明する。必要に応じてレントゲンや頭部CTを撮り、骨や脳に問題がないかを確認する。問題があればそちらを処置し、表面の軟部組織や皮膚だけの損傷ならその処置をする、という流れだ。

実際には、診察して骨に影響がなく、意識もはっきりしていて脳や骨の損傷がなければ、そのまま洗浄して縫合してもよいという。それでも現在は、必要ないと思ってもレントゲンやCTを撮ることが多いと話者は言う。理由は訴訟リスクである。万一の際に検査をしていたという記録があれば、訴えられてもきちんと対処していたと認められる。脳や骨に問題がなくても、縫った傷跡が汚いといった理由で訴えられることは絶対ないとは言い切れない。そのため医療機関は訴訟を恐れて過剰なまでに検査をする傾向がある、と話者は述べる。日本の病院は海外と比べてCTが非常に多く、「せっかくだから撮りましょう」となりやすい。検査で問題がなくても、患者はきちんと調べてくれたと喜ぶ一方で、その費用は請求される。話者はこれを現実として紹介している。

処置の本来の流れとしては、洗浄して骨に異常がなければ細いナイロン糸で丁寧に縫合し、6か月以上たって修正が必要なら瘢痕形成を行う。ドラマではメスを使って「手術」すると言っていたので、汚い挫滅部分をメスで切除して縁を整えるデブリードマンを行い、丁寧に縫合したのだろう、と話者は推測している。

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イップスの設定と、外科医のメンタルについて

最後に話者は、東山先生のイップスという設定を論評している。この設定があるからこそ、シャドウドクターの存在や、それを隠すために別の医師(字幕では沼田先生)に手術させる展開が成り立つので、物語上は東山先生がイップスでなければならない。しかし、紗良の手術が原因でイップスになったというのは外科医としてはメンタルが弱く、外科医に向いていないと自分は思ってしまう、と話者は率直に述べている。

その根拠として、話者は美容外科とほかの診療科のリスクを比較する。美容外科は訴訟や事故が多いイメージがあるかもしれないが、基本的に健康な人を手術するため、術後の大きな合併症や死亡事故は比較的少ない。心臓外科、脳外科、腹部外科、産婦人科、麻酔科、救急などのほうがはるかにリスクが高く、死亡事故や後遺症の残る合併症が起きる確率は圧倒的に多い、と話者は言う。

話者は以前、多くの病院を転々としていた。その経験から、大きな病院の外科医や麻酔科医の中には、真面目に働いていてもたくさんの訴訟を抱えている医師が大勢いたと振り返る。全力を尽くして間違ったことをしていなくても、一定の確率で事故は起き、患者や遺族が訴えることがある。訴訟の動機は、怒りをどこかにぶつけたい、訴えればお金が取れるかもしれないと誰かが入れ知恵する、本当に医療ミスがあった、などケースごとに様々だという。それでもそうした医師たちは、自分が手術や麻酔をしなければ病院が回らず、多くの命を救っているので、訴訟を抱えながら毎日手術を続け、手が震えることもない。

そうした医師と比べれば、東山先生はメンタルが弱いと思ってしまう、というのが話者の感想である。ただし話者は、医療事故として失明させられた患者は本当にかわいそうであり、紗良もかわいそうだ、と繰り返して解説を締めくくっている。