住宅を「住む人の手」に戻すには マンション価格の見通しと空室税を含む7つの処方箋

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概要

前編では、住宅に人が住まなくなる「非居住化」を議論した。後編では、住まいを買いたくても価格が高すぎて買えないという声を受けて、次の3点を扱う。マンション価格はこれからどうなるのか。国が価格を下げるべきなのか。住宅を住む人に取り戻すには何が必要か。

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出演は、住まいサーフィン主宰の沖有人さんと、明治大学教授の野澤千絵さん。進行はフリーアナウンサーの西岡孝洋さんが務めた。野澤さんは著書で「日本への7つの処方箋」を提案しており、後半はその提言を一つずつ検討している。両者に共通する立場は、目標を価格の引き下げに置かず、住む人がいる住宅の数を増やすことに置くべきだというものだ。

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同じマンション内の取引で見ると、価格はほぼ横ばい

西岡さんはまず沖さんに、「踊り場」と言われるマンション価格の今後を尋ねた。

沖さんは、レインズの成約データを毎月調べて市況を把握しているという。単純に平均すると単価が下がって見える場所もかなりある。ただ、平均値は物件構成の違いに左右される。そこで沖さんは「リピートセールスモデル」を使う。たとえば8月に成約したマンションAの単価を、同じマンションの1年前の取引単価と比べる手法だ。同じ建物の中で比べるので立地の補正が要らず、データが正確に出るという。階数の違いはあるが、サンプルが増えれば均されると沖さんは説明した。

この方法で見ると、価格は1年前比で104%ほどで、ほぼ横ばいか少し上がっている状態だという。取引のうち約54%は値上がりし、約46%は値下がりしている。

それまで価格が上がった要因として、沖さんは二つを挙げた。一つは転売だ。もう一つは中国系の移民で、日本に移住してくるので家を買う。地下銀行で資金を持ち込んで現金で買う人たちがいて、この資金はなかなか止められない。沖さんによれば、この二つの買い手が抜けたことで今の踊り場が生じた。買い手が減っても価格はあまり下がらないが、取引件数はかなり減る。今後については、価格が横ばいのまま取引数が少ない状態で推移するというのが沖さんの見立てだ。あわせて、金利上昇の面で、実需層が借りられるローンの額はこれから減っていく方向だという指摘も出た。

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規制で価格を下げることに野澤さんは反対

国に価格を下げてほしいという声について、野澤さんは反対の立場を示した。住宅価格は需要と供給で決まるので、規制をしてまで下げるべきではないという。

野澤さんが優先するのは、住む人がいる住宅の数を増やすことだ。住宅という箱を増やすのではない。その結果、あるエリアやあるマンションはさらに上がり、別のところは下がるかもしれない。そうした需給のバランスに規制で介入するのは違うと考えている。ただし住宅は基本的に住むためのものなので、住みたい人が住める住宅を増やす政策はもう少しやってもよい、というのが野澤さんの考えだ。

海外の例として、野澤さんはバンクーバーを挙げた。バンクーバーでは高層のコンドミニアムを新たに建てにくい。高い建物を建てようとすると周辺住民が強く反対する、いわゆるNIMBYの事情があり、日本のように容積率を緩和してタワーマンションを次々に建てることが難しい。そこで既存のストックのうち、6カ月以上住んでいない物件に空室税をかけ、住むための住宅に戻している。バルセロナも同様の政策をとっている。世界の都市で空室税の導入が広がっており、対象エリアは最初は絞り、徐々に広げていくという。

バンクーバーの税率は当初1%で、現在は3%に上がった。野澤さんによれば、当初の空き部屋・空き家は68%減った。その68%は賃貸か売却に回ったことになり、住みたい人向けの住宅が増えたという意味になる。野澤さんは、既存ストックで供給を増やす手段はそれくらいしかないほど難しく、バンクーバーはそれに取り組んでいると述べた。

空室税で価格は下がるのか

西岡さんは、価格高騰で日本と比較されてきたバンクーバー、シドニー、韓国を挙げ、政策の効果がどの程度出るのかを聞いた。

野澤さんは、バンクーバーの担当者から「住宅価格を下げるなんて天才にしかできない」と言われたと紹介した。移民政策や金利など多くの要素が絡むので、空室税を入れたから価格が下がるという単純な話ではない。逆に言えば、価格が下がらないので不動産業界への影響もそれほど大きくない。それでも住みたい人の住宅の数は増えている、と野澤さんは強調した。

日本では今後、高齢者の持ち家で相続が次々に発生し、大量のストックが市場に出てくる。そこで住まない買い手が「立地がいい、安い」と買ってしまえば意味がない。価格が下がれば下がったで別の人たちが買い、住みたい人が住めない状態が続く。だから価格を論点にしないほうがよい、というのが野澤さんの考えだ。バンクーバーやバルセロナの政策担当者も口をそろえて「住宅を住む人のための住宅に戻す、増やす」と言っていたという。都市政策としても、住む人が多い街のほうが空洞化しないという話になっているそうだ。

「下がったら買う」は本当か

西岡さんは、20年以上マンションを買ったり買おうとしたりしてきた経験から疑問を示した。安くても誰も買わない時代が長く続いた。沖さんがかつて「マンションを買いなさい」という趣旨の本を出したのも、皆が買っていなかったからだ。その時代を知る立場からすると、「下がったら買う」という言葉には疑問がある。実際に下がれば、金利が高い、値下がりする資産だといった理由で結局買わない。だから価格が下がることが正義だとは思わない、と西岡さんは述べた。

沖さんも「全くそう思わない」と同意した。下がったら買うと言って実際に買った人を見たことがないという。バンクーバー、シドニー、シンガポールなどの政策の効果は、価格の上げ幅を止め、一定のレンジに収めた点にあったと沖さんは見る。

野澤さんは、バンクーバーでは今、価格が安定的に少しだけ下がっていると補足した。ただしそれは空室税だけの効果とは言えず、移民政策の強化や金利なども影響しているという。約10年間空室税を続けて空き部屋が68%減り、住宅価格と家賃が少し下がって安定している。野澤さんは、大幅な右肩上がりを抑える効果はあるのではないかと見ている。

一度上がると下がらない。だから早く手を打つべきだと沖さんは言う

沖さんは、バンクーバーの経緯をこう整理した。移民政策で中国系の人々が多く流入し、マンション価格が3倍になった。カナダ国民が住めなくなって反対運動が起き、政治が動いて税制が変わった。価格上昇が止まり、外国人が保有しても得にならなくなったので売り手が増え、調整局面に入った。

ただし元の水準には戻らないと沖さんは言う。自宅は多くの人にとって一つしかない。1億円が3億円になれば、所有者は自分の家を3億円だと思う。2億円で売る人はほとんどいない。3億円から少し下げて売ることはあっても、そこから大きく下がることはない。一度上がると下がりにくいのが不動産の特徴なので、上がりきる前に手を打つ必要がある。沖さんは、日本は今回その対応が遅れたと考えている。だからこそ金融機関に厳しい発言をし、「なぜ金融は動かないのか」とさまざまな場で書いてきたという。

空室税も、やるなら早くやりたいと沖さんは言う。京都で予定されている税率を見たが「生ぬるい」、あれでは全く効かないと述べた。2030年からというのも悠長すぎるという。オーバーツーリズムで京都に行く気もなくなっており、このままでは京都自体が価値を失うかもしれない、とも語った。野澤さんは、バンクーバーも最初は小さく始めて、モニタリングしながら進めてきたので、政策側はそうせざるを得ないのではないかと応じた。

税率は何%なら効くのか

沖さんは、税率の水準を特定空き家の例で説明した。周辺住民が迷惑だと訴えて特定空き家に指定されると、所有者の固定資産税は6倍になる。しかし固定資産税は、評価額に対しては1.4%でも、実際の市場価格に対しては実質0.3%程度しかかかっていない。6倍にしても1.8%にしかならず、これでは効かないと沖さんは言う。

沖さんがベンチマークとするのはバンクーバーの3%だ。東京の不動産の表面利回りは3%を切るほどなので、投資の感覚からすると3%はかなり高い。相続した住宅を空き家のまま放置すれば、毎年3%ずつ資産が目減りしていく。早めに手放す動機になり、住宅が市場に出てくるのを促せる、というのが沖さんの考えだ。

西岡さんはここまでの議論を受け、価格を下げることと、住みたい人が住める住宅が増えることは同じではないと整理した。ここから野澤さんの「7つの処方箋」の検討に移った。

処方箋1 非居住化対策の重点地域を指定する

野澤さんによれば、日本の郊外や地方には、空いていても売れる見込みがない地域が多い。だから一律ではなく、住宅価格の高騰が著しいエリアを、データ分析に基づいて重点地域に指定すべきだという。具体的には、住民票と固定資産税の課税情報を突き合わせ、どのエリアでどれだけの住戸に住民票がないかを把握する。

例として野澤さんは神戸市を挙げた。都心エリアでは5戸に1戸に住民票がないのに対し、他のエリアは4%程度だという。特定のエリアだけで非居住化が進んでいることがデータで分かる。こうした分析を国土交通省や東京都、都道府県がもっとやるべきだと野澤さんは述べた。

沖さんは、登記簿は無料で使え、住民票は自治体が持っているので、データベースを突き合わせるだけでできると応じた。空き家でも、投機目的で持たれる場所と、持っていても価値が落ち続けて売る相手もいない場所とでは実情が全く違う。重点地域は必ず指定しなければならず、それはほぼ都市部になるという。都市部こそ投機の対象になっているので、都市部に課税することには大賛成だと沖さんは述べた。なぜ課税するのかと問われたときに、理由をすべてデータで説明できることが大事だとも付け加えた。

処方箋2 住む人が優先される住宅税制への再編

野澤さんが例に挙げたのは、居住用財産の譲渡所得の3000万円特別控除だ。西岡さんによれば1975年からで、50年以上3000万円のまま変わっていない。野澤さんの案は、住宅価格の上昇に合わせて控除を例えば4500万円に引き上げる代わりに、住民票を移す人に売ることを適用条件にするというものだ。

ただし、買主が結局住民票を移さなかった場合に売主が不利益を被る。そこで契約時には控除を適用せず、買主が住民票を移した段階で戻すといった仕組みが必要になる。野澤さん自身、ややこしくて「難しい」と言う人が多いことは重々承知していると認めた。

沖さんは、買主側に証明まで求めると買主にインセンティブがないので難しいとしつつ、趣旨は理解できると述べた。マイホームへの優遇が過剰なのかもしれない、とも話した。3000万円控除は、明治時代から先祖代々持っていた土地を売る場合に、売却額の全部が譲渡益とされると厳しいという事情から設けられたのではないか、というのが沖さんの推測だ。相続した不動産で取得時期や取得費が分からないと、売却額の5%が取得費とみなされるルールになる。今のように短期で価格が上がることを想定した制度ではないのでは、と沖さんは見る。

そのうえで沖さんは、譲渡所得の控除をいじるより、空室のまま短期で転売した場合に課税したいと述べた。登記簿を見れば分かるので、そのデータを国税に送り、空室のまま譲渡した利益に追徴課税する。自分が住んでいたと証明できるものがあれば出してもらい、なければ空室の物件を転売しただけとみなす。それは国として悪だという意思を示すべきだ、というのが沖さんの主張だ。全額没収でもよいが、例えば50%といった高い税率をかければ抑止に働く、と沖さんは述べた。空室税の一環として譲渡益に追徴したいという。

処方箋3 短期転売への課税強化 個人だけを対象にしても効かない

西岡さんは、短期転売の譲渡所得への課税強化が国で議論されているという報道を紹介した。個人の譲渡所得税は、保有5年以内がおよそ4割、5年超がおよそ2割とされる。これを5年以内、あるいは1年以内の場合に8割へ引き上げるのではないか、国土交通省が提案したという報道もある、という内容だ。

野澤さんは、報道されている5年などの区分は個人の話だと指摘した。登記簿を見ると短期転売の多くは法人によるものなので、法人への課税強化が重要だという。そこを入れなければ、皆が法人を作るか、売らずに空室のまま置いておくことになりかねない。

西岡さんは、今法人で取引する人が多いのは、融資が出やすく、保有期間による長短の区別がなく、好きなときに法人税率で売れるからだろうと述べた。個人への課税強化では、一部に富裕層もいるにせよ、主に実需の人に負担がかかるのではないか。これが住みたい人に住宅を渡すための政策として重要なのか疑問だ、と西岡さんは言う。沖さんも「全く思えない」と同意した。

沖さんは、自分の提案は法人か個人かを問わないと説明した。空室のまま転売したなら短期転売であり、投機的な行為に課税するという意思を示す制度だからだという。

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処方箋4 空室税の導入を検討する

野澤さんは、日本も空室税を入れるべき時期に来ていると考えている。世界の大都市の多くがすでに導入しているからだ。住みたい人が住めないのに空室のまま置いておくことは、住むための住宅を増やすことにつながらない。

ただし野澤さんは、空室にしておくこと自体が悪いとは考えていない。事情はさまざまあるからだ。問題にしているのは応分の負担である。空室の所有者は固定資産税は払っているが、住民税は払っていない。それでも、たまに来てゴミ収集などの行政サービスは受けている。その負担を払うなら空室でもよい。払いたくなければ賃貸に出すか売ってほしい、という考え方だ。

制度設計で野澤さんが強調したのは免除要件だ。バンクーバーでは、がん治療のために都心の大病院に通い、ときどき泊まりに来るだけの人など、空室にせざるを得ない事情を持つ人がいる。何かアドバイスはあるかと尋ねたところ、さまざまな人の事情を丁寧に聞いて課税免除の要件を設計することが肝だと言われたという。税金を取ること自体が目的ではない。ヒアリングを重ね、どの事情なら免税でどの場合は課税かを整えるべきだという助言だった。

西岡さんは、空室は実際に住んでいる住民にとって良いことが何もないと述べた。タワーマンションの住民にとっても、どんな目的であれ誰かが住んでくれることが一番だという。

沖さんは税率3%を支持した。そのうえで、セカンドハウスにあたる使い方には、その半分の1.5%を「贅沢税」として課してもよいと提案した。例えば地方の会社経営者が月に1回東京に来るが、ホテルが取れないので自分の部屋が欲しい、というケースがある。それをすべて禁じるのは行き過ぎだが、たまにしか来ない使い方は資産家の贅沢だという意味合いで1.5%を取ってよい、というのが沖さんの考えだ。そうすればホテルにしようかと行動を変える人も出る。すでに非居住の割合が30%、60%に達している物件があり、これからの取引を止めるだけでは足りない。沖さんは、既存の空室に手を打つ手段として導入はやむを得ないと述べた。

税収の使い道から、ふるさと納税と相続税の話へ

西岡さんは、海外では空室税の税収をアフォーダブル住宅の整備などに使っているとして、使い道を尋ねた。

沖さんはここで、住民税が入らないという野澤さんの指摘に関連して、ふるさと納税を批判した。住んでいる場所とは別の自治体に住民税を移し、そこにインセンティブまで付ける制度は、他国を調べてもあまりないという。都市部に集まる税を再分配するためだとしても、返礼品がいくらで手に入るかというインセンティブで人が動くのは本末転倒であり、空室より悪だと沖さんは述べた。

財産権の観点では、沖さんは相続税にも疑問を持っている。経営者として法人税を払い、そこから得た所得に所得税を払い、最後にもう一度相続税を取られる。これは財産権の侵害ではないかと考えていたところ、昭和30年代にそれを争った人がいて、最高裁で「社会の公平のために相続税を取るのは国として是認される」という判断が出ていたという。沖さんは、何を目的に税を取るのかを明確にしなければ、ふるさと納税も相続税もおかしいと述べた。既存の税を当たり前として受け入れるのではなく、間違っているなら直すべきであり、社会を快適にするためなら新しい空室税も必要かもしれない、と語った。

野澤さんは、各市町村が空室税を取る場合、税収の使い道はそれぞれの地域の課題解決に充てることになるだろうと応じた。

処方箋5 新築の固定資産税優遇は住む人に限る

西岡さんは、既に持っている人より、これから初めて買う人にインセンティブを与えるべきだと前置きしたうえで、新築の固定資産税優遇について尋ねた。

野澤さんによれば、13億円の新築マンションでも、固定資産税は5年または7年の間半額になる。住まないのにこの優遇を受けられるのはおかしい、と野澤さんは言う。優遇自体はあってもよいが、住む人に限り、住まない法人や非居住の個人、外国の人まで優遇する必要はない。この優遇で市町村の税収は年間1300億円ほど減っているという。

野澤さんのもとには、この問題で市町村の担当者が相談に来たという。再開発で原価が高くなったタワーマンションを、住まない人が多く買っている。市町村は再開発に補助金を出しているが、固定資産税が上がり住民税も入るからよいと説明されてきた。実際には、税収を最も多く取れるはずの時期に固定資産税が半額になり、住民税も入らない。見込みどおりにならないことに市町村側は不満を持っているという。

沖さんはこれに賛成し、新築に限らず中古でも、新たに買う人は優遇してよいと述べた。日本は持ち家政策をとっており、高齢になったとき持ち家でなければ年金で生活できない。どこかで買うインセンティブを与えておきたい。新築の供給が減っている今は、中古を買った場合でも最初の5年は固定資産税を優遇し、その代わり住民票を移すことを前提にする。沖さんは、これは市町村だからこそやれる施策だと述べた。

一方で沖さんは、効果には疑問を示した。固定資産税が半額になっていること自体を知らずに買う人が、おそらく95%ぐらいいるという。5年後に何の通知もなく税額が上がり、評価額は変わっていないのになぜ2倍になったのかという苦情が税務担当に殺到して、担当者が疲弊している。だから最初からやめたほうがよい制度だと沖さんは述べた。

ファイナンシャルプランナーでもある西岡さんは、3000万円控除も含め、国は住宅を買わせるためにさまざまな施策を行ってきたと述べた。それが行き渡りすぎて、届かなくてよい人にまで届いている点は問題だという。野澤さんも、かつては7割、8割が住む人でローンを組んで買うのが普通だったから成り立っていた制度であり、状況が大きく変わった今は見直しが必要だと述べた。

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処方箋6 新築マンション販売の適正化 誰にいくらで売ったかを報告させる

西岡さんは、この数年の新築マンションの価格は、資材や人件費の上昇だけでは説明できないように感じてきたと述べ、沖さんに適正化は可能かを尋ねた。

沖さんは、事業者側は当然望まないだろうとしたうえで、野澤さんの提案に触れた。管理計画を報告する際に、販売後の所有者を報告させるというものだ。沖さんは、これくらいは義務化できると述べた。さらに売買契約があるのだから、いくらで売ったかも報告させたいと付け加えた。事業者は絶対に嫌がるだろうという。モデルルームでは「今から価格表を出すのでメモしてください」と言われることがあり、配布すらしたくないほど、事業者は価格をブラックボックスにしておきたい人たちだと沖さんは語った。沖さんの目的は、誰にいくらで売ったのかという実態の把握にある。

野澤さんは、公開するのではなく行政に提出するだけでも、記録が残るので不動産会社は売り方を一度考えるはずだと述べた。性善説で甘いと言われるかもしれないが、行政側の目的は実態の把握だという。買ったマンションの住戸がほとんど非居住者だったら、管理組合はどうなるのか、理事の順番が何度も回ってくるのではないかと、購入者はショックを受ける。マンション管理を適正に保つうえで、どれだけ住む人に売ったかは重要なデータだと野澤さんは考えている。西岡さんも、人があまり住んでいないマンションは正直怖く、内廊下で人に会うと驚くと実感を語った。

処方箋7 外国の所有者への対応

最後の提言は外国人所有者への対応だ。野澤さんによれば、日本はGATSに入っているため、外国人だからという理由で差別的な扱いをすることには縛りがあり、難しい面がある。

そこで野澤さんが挙げたのは、管理組合とは何か、区分所有法上の議決権とは何か、管理規約、総会、定足数といった内容を、重要事項説明の段階で理解してもらうことの義務化だ。マンション法の研究者とこの案を議論したところ、それは日本人も分かっていないのだから、日本人も外国人も全員に義務付けるべきだという話になったという。実際に理解するかどうかは分からないが、やれることはある、と野澤さんは述べた。

西岡さんは、カナダやシンガポールはGATSの枠組みに入っていないのかと問うた。沖さんはこれに直接答える形ではなく、各国の課税の例を挙げた。バンクーバーでは外国人の取得に20%程度の税をかけ、空室税も現在は6%程度取っている、というのが沖さんの説明だ。シンガポールも印紙税の形で、外国人が取得すると、沖さんの記憶では60%程度とかなりの税を取っている。そうしなければ自国民が買えない価格に上がっていくからで、大義があるという。住宅は住む人のためにあり、住む人がいない住宅は国として是認できないという意味で、懲罰的に税率を上げるのはやむを得ない、と沖さんは述べた。これに対して、その場合は日本人か外国人かを問わない形にせざるを得ないという見方も示された。

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本丸は戸建ての空き家 「空き家があるなら使えばいい」は簡単ではない

締めくくりの感想で、野澤さんは、実務を長く続けてきた沖さんが自分の提案に賛同するとは思っておらず、学者だから分かっていないと叱られるのではないかと緊張していたと明かした。金融についてもさらに勉強したいと述べた。

沖さんは、マンションに加えて戸建ての空き家も大問題だと指摘した。相続した戸建ての8割以上はマーケットに出てこない。そのまま特定空き家になるか、放置されるケースが多い。それが土地の供給を細らせ、土地価格が上がる要因にもなっているという。財産権といっても100%認められるものではないので、相続した戸建てを放置せず市場に出すための「アメとムチ」が必要だと沖さんは述べた。ムチは空室税だ。アメとしては、解体費用の補助や、売却益への軽減税率など、今売れば得だという期間限定の措置を挙げた。土地が市場に出なければ住宅供給は増えず、価格もこなれない。マンションの空室だけでなく、戸建てについても同じ視野で考える時期に来ていると沖さんは述べた。

野澤さんは、長年空き家を研究して本も出してきた立場から、議員や専門家が「空き家があるのだから使えばいい」と言うのが許せないと語った。それほど簡単な話ではないという。沖さんによれば、空き家は平均で築50年ほどで、そのままでは使えない。野澤さんは、親の残置物が多く、片付けるだけで精一杯だという事情も挙げた。

市場に出しても価値を生むとは限らない例として、野澤さんは東京都のアフォーダブル住宅を挙げた。築50年ほどの戸建てをリフォームして供給しているが不人気で、家賃を2割下げても入居者が決まらないという。住宅供給にはニーズとのマッチングが欠かせず、その視点が今の議論には大きく欠けているのではないか、と野澤さんは述べた。

西岡さんは、マンション価格がなぜこうなったのかという議論はこれまで数多くあったが、ここまで全体をつなげて説明し、対策まで提言できたのは初めてではないかと述べ、対談を終えた。