医療ミスを防ぐ一番の心がけは「人を信用しない」こと:高須幹弥氏が語るケアレスミス対策

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概要

高須クリニックの高須幹弥氏が、自身が医療ミスを起こさないために心がけていることを語った。対象は主に医師、看護師、医療事務などの医療従事者だが、ほかの仕事をしている人にも参考になればという。同氏の結論ははっきりしている。医療ミスを防ぐうえで最も大事なのは「人を信用しない」ことであり、最終的な責任は医師である自分が負うという覚悟で、自分自身が最後のチェックをすることだという。

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ニュースになる医療ミスの典型

高須氏はまず、最近特にニュースになりやすい医療ミスの例を挙げる。脳外科の手術で脳腫瘍を取るはずが別の部位や神経を取り除いてしまい、後遺症が残った例。腎臓の腫瘍で片方の腎臓を摘出する手術で、誤って反対側を摘出してしまった例。肺の手術で、切除すべきでない側の肺を切除してしまった例。こうした左右の取り違えは昔から結構あるという。

患者の取り違えも古くからある問題だ。手術室で別の患者が本来受けるべきでない手術を受けてしまった、別の患者の薬を投与されてしまった、といったケースである。これについては、現在ではほとんどの病院で入院中の患者がネームバンドを着け、看護師などが毎回名前を確認するようになり、取り違えはかなり減ったと同氏は述べる。

薬の間違いも昔から多い。薬の種類、量、単位を誤るミスで、特にmLとmgの取り違えは大きな間違いにつながる。そのため、薬の量を伝えるときは必ず単位まで言わなければならない。それなのに、医師でも看護師でも「10ミリお願いします」「5ミリお願いします」のように、ミリリットルなのかミリグラムなのかを言わない人が今もいる。高須氏はこうした医療従事者を「三流」だと考えており、日頃から単位を正しく言う癖をつけるべきだと強調する。「そんな細かいことを言われても」と受け流す人がいるから医療ミスはなくならない、というのが同氏の見方である。

輸血の間違いもある。違う血液型の血液製剤を投与して強い反応が出て大変なことになる、というものだ。高須氏は、これらはすべて注意不足から生じる「ケアレスミス」であり、絶対にあってはならないと位置づける。

ケアレスミスと合併症は別物

一方で同氏は、人間である以上、ケアレスミスは一定の確率で起きてしまうとも言う。おっちょこちょいな人もいれば、発達や知的な特性からミスが多くなる人もいる。几帳面でしっかりした人でも、ひどく疲れているときや忙しいときにはミスをする。ケアレスミスがゼロの人は基本的にいない、というのが同氏の前提である。

これと区別すべきものとして、高須氏は合併症を挙げる。手術後の感染、出血による血腫、傷が開くことなどだ。糖尿病の人など傷の治りが悪い人ではどうしても起こりやすい。人工関節などの人工物を入れる手術では、どれだけ滅菌管理を徹底しても多少の雑菌は入りうるし、患者の免疫力が落ちていることもある。感染は、どんな名医でも確率は低いものの一定の割合で起きる。臓器移植での拒絶反応や、血管吻合部からの漏れで再手術・再吻合が必要になることも合併症にあたる。

合併症には、手術技術の未熟さが原因になるものもある。例として同氏は、背骨の手術でドリルで骨を削る際に神経を巻き込み、後遺症が残るケースを挙げる。技術不足、不器用さ、勉強不足で起きることもあるので、日頃から解剖を勉強し、手術のトレーニングをすべきだという。適性がないなら外科をやめる、臨床から離れて基礎医学に進むという選択もありだと同氏は述べる。

ただし、この日の主題は合併症ではなくケアレスミスのほうだ。

最も大事なのは「人を信用しない」こと

ケアレスミスをどう防いでいるのか。高須氏は、気分を害する人も多いかもしれないと前置きしたうえで、「人を信用しないこと」が一番大事だと言う。手術や治療は周囲の医療スタッフの力がなければできない。しかし、人間である以上誰でもケアレスミスをする。だから人を信用しない。

その裏側にあるのが、医師である自分が最終責任を負うという考え方だ。看護師、助手の医師、医療事務などが何かを間違え、それが原因で医療ミスが起きたとしても、最終的には担当医・執刀医である自分が全責任を負う。この強い覚悟を持って、誰も信用せず、最後は自分でチェックする。これが最も大事だと同氏は考えている。

腎臓摘出の例:言われたままに手術しない

高須氏は具体的な場面を想定して説明する。美容外科以外でも、救急の現場などで手術が次々に入り、多くの手術をこなさなければならない非常に忙しい状況がある。そこで助手や看護師、事務が「次の手術です。この患者さんは左の腎臓の摘出です」と伝え、執刀医が言われるままに左の腎臓を摘出したとする。後で見たら病変は右側で、健康な腎臓を摘出してしまっていた。「誰だ、左と言ったのは」と責めても、取り返しはつかない。

だから、手術の直前にはどれだけ忙しくても、カルテをしっかり調べ、CTやMRIのデータを見て、この患者は左腎の摘出だと自分で確認してから「今から左腎摘出術を行います」と始めるべきだという。誰かが左右を取り違えて伝えたとしても、最後の責任は担当医にある。人に言われたままにやることがよくない、というのが同氏の主張である。

美容外科での例:眼瞼下垂、ヒアルロン酸、ボトックス

同じことは美容外科でもよく起こると高須氏は言う。「次の患者さんは左の眼瞼下垂の手術です」と言われ、患者と直接確認しないまま左側を手術し、後から反対側だったと気づく、ということがありうる。美容整形は局所麻酔の手術が多く、全身麻酔や静脈麻酔の場合でも、麻酔がかかる前に患者と直接「今日は予定通りこちら側の眼瞼下垂の手術をします」「このデザインでやります」と確認し、カルテもチェックすれば、ミスは起こらない。ところが看護師や助手、事務の間違いをそのまま実行すると、ミスが起きてしまう。

手術以外の施術でも同様だ。「ほうれい線にヒアルロン酸2本です」と言われてその通りに打ったら、実はこめかみだった。「目尻のボトックスです」と言われて打ったら、本当はヒアルロン酸の予定だった。看護師が準備した薬そのものが間違っていることもある。だから最終的には医師が患者と一緒に「ここにヒアルロン酸を何本、ここは何をやりましょう」と確認し、準備された薬が違っていれば「これは違うよ」と指摘する。そうすれば、その場で正すことができる。

トリプルチェックで確率を下げる

そのうえで高須氏は、医療行為では基本的にトリプルチェックをすべきだと考えている。同氏のクリニックの流れでは、まず医師がカウンセリングを行い、その後、医療事務が書類の確認、同意書の記入、会計などの事務手続きを進める。医療事務がその内容を看護師に伝え、看護師が薬や手術の準備をし、最後に医師が施術する。医療事務、看護師、医師の3カ所で、それぞれが厳重にチェックする仕組みである。

同氏はこれを確率で説明する。仮に普通の人間が10分の1の確率でケアレスミスをするとすれば、1人だけのチェックでは10分の1の確率でミスが起きる。ダブルチェックなら10分の1×10分の1で100分の1、トリプルチェックなら1000分の1まで減らせる。きちんとトリプルチェックをすれば、現実にはそれ以上にゼロに近づけられるという。逆に医師が最終チェックをしなければ、1000分の1ではなく100分の1程度に戻ってしまう。

最後の医師が間違えることもありうるが、その前段階の看護師や医療事務が間違えないようにすれば、全体としてのミスの確率はやはり下がる。だから最低でも3段階のチェックが必要だ、というのが同氏の考えである。

職場にはさまざまな人がいる

高須氏によれば、医療は本来、しっかり者で几帳面な人がやるべき仕事である。しかし実際には、どの病院にもいろいろな人が働いている。医師にも看護師にも医療事務にも、知的なグレーゾーンの人、ADHD傾向や発達の傾向がある人、非常におっちょこちょいでミスが多い人、仕事がまだおぼつかない新人もいる。大きな病院になるほど、どこでミスが起こるか分からなくなる。

非常にいい加減な人もいる。同氏は「うちではいないけれど」と断ったうえで、美容外科の例を挙げる。乳房縮小術(バストリダクション)と乳房吊り上げ術(マストペクシー)の違いが分からず、マストペクシーの予定なのに軽々しく「リダクションです」と伝える。医師が言われたままにリダクションを行い、後から実はマストペクシーだったと分かる。こうしたミスはよそのクリニックで結構聞く話だという。

フェイスリフトにも、小さなミニリフト、中間のミディアムリフト、後ろまでしっかり切るフルフェイスリフトといった段階がある。本来は間違いなく伝えなければならないのに、「フェイスリフトの方です」とだけ言ったり、ミディアムリフトなのに「ミニリフトです」と伝えたりすることがある。そこで医師が「この人は違う、この手術だ。次から間違えないように」と正し、患者とも確認すれば問題はない。しかし医師もいい加減で、いい加減な看護師の言う通りにやれば、違う手術や違う注射をしてしまう。

誰でもミスをするし、いい加減な人も紛れているし、人のせいにする人や非常に図太い人もいるかもしれない。だからこそ、前段階でのダブルチェックに加えて医師が最終チェックを行い、人を信用しないことが本当に一番大事だと同氏は繰り返す。

「信用していない」とは口に出さない

ただし高須氏は、この考え方を職場で口に出すことは勧めない。「あなたの言うことは信用していない」「最後は自分でチェックする」とあまりに言いすぎると、今の世の中ではパワハラやモラハラと言われかねない。「私たちのことを信用してくれないんですか」と反発されることもある。心がけとしては誰も信用せず、最後は自分で責任を取るべきだが、それは口にせず内に持っておくほうがよい、というのが同氏の助言である。

それでもチェックしきれない部分

どれだけ他人を信用せずに最終チェックを心がけても、医師が確認しきれない部分はあると高須氏は認める。たとえば薬の中身だ。医師の指示で看護師が薬を調製する場合、点滴の中身や、ボトックスを眉間、額、エラなど部位ごとの量に合わせて生理食塩水で溶かして準備したものが、本当に指示通りの量で正しく溶けているかは医師には分からない。局所麻酔にしても、本当に局所麻酔薬なのか、実は消毒液なのではないか、というところまでは確かめられない。バイアルや容器ごと準備されるヒアルロン酸のようなものなら判別できるが、溶かして準備する薬は中身までチェックできない。

こうした部分は看護師同士のダブルチェックに頼るしかなく、医師は正しい量の正しい薬が入っていると信じて使うしかない。それでも、準備された薬が間違っているかもしれないということを頭の片隅に置いておくくらいのほうが本当はいい、と同氏は言う。

忙しさと流れ作業がミスを招く

医療ミスが起こりやすい状況として、高須氏はおっちょこちょいな人がいる場合に加えて、忙しいとき、そして流れ作業になってしまうときを挙げる。同じ手術や同じような治療ばかりを行うクリニックや病院、診療科では、流れ作業になりやすい。

同氏は、同じ製品を作る仕事なら流れ作業でよいと考えている。車をラインで作る、弁当やケーキを作るといった仕事では、ベルトコンベア式のほうが効率的で合理的で、利益も出せる。それはそれで素晴らしい仕事だという。しかし医療は人間を扱う。同じ薬を使っても反応は人によって違い、同じ手術でも元の体が違うため、まったく同じ手術をするわけではない。

それでも「はい次、はい次」という流れになると、いつも通りにやればいい、さっきの人と同じことをすればいい、という感覚になる。実際には患者ごとにやり方やデザインが違うことがあるのに、そこを見落としてしまう。だから流れ作業になりそうなときでも、患者一人ひとりについて確認し、相当に神経を使わなければならない。常に人を疑っていると疲れるが、医療とはそういうものなので仕方がない、と同氏は述べる。

新人もベテランもミスをする

最後に高須氏は、経験とミスの関係に触れる。不慣れな人は最初のうちにミスを起こす。やがて慣れてくるが、慣れたら慣れたで流れ作業になり、「いつも通りやればいい」と注意力が落ち、いい加減になってミスが起こる。つまり、初心者も、慣れたベテランもミスを起こす。医師でも看護師でも医療事務でも、新人でもベテランでも、誰もがミスをしうることを常に頭に入れておかなければならない。

もちろん、人によってミスを起こす確率には差がある。しっかりした人もいれば、うっかりしていていい加減な人もいる。だから「この人は雑だな」「おっちょこちょいだな」と感じる相手については、特に注意深く見なければならない。これが自分の考えだとして、高須氏は話を締めくくった。